説明

分析システム

【課題】移動相における微生物の繁殖を抑制して、作業量及びコストを低減することができる分析システムを提供する。
【解決手段】移動相を貯留した容器を収納すると共に、前記移動相を冷蔵する冷蔵部と、前記移動相と共に試料が導入され、前記試料に含まれる成分を高速液体クロマトグラフィーを利用して分析する分析部と、前記冷蔵部から供給される前記移動相を昇温して前記分析部に供給する昇温部とを有することを特徴とする分析システムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速液体クロマトグラフィーを利用して、試料に含まれる成分を分析する分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、試料に含まれる成分を分析する分析方法として、高速液体クロマトグラフィーが主流となっている。例えば、ビールなどを製造する工場では、貯酒タンク、濾過溜タンクなどのタンクを洗浄するタンクCIP工程において、洗浄したタンク内の残水のヨウ素を分析(即ち、ヨウ素濃度を測定)する際に、高速液体クロマトグラフィーが利用されている。
【0003】
高速液体クロマトグラフィーとは、クロマトグラフィーの一種であり、機械的に高圧をかけた溶媒(液体)によって試料をカラムに流し込み、かかる試料に含まれる成分を分離して検出(分析)する技術である。試料に含まれる成分の分離は、カラム内を移動している溶媒(移動相)の物質とカラム内の粒子(分離相又は固定相)の表面との相互作用の違いによってなされる。上述したヨウ素の分析では、高速液体クロマトグラフィーの移動相として、イオンクロマト用濃縮溶離液 ICNY−5及びエチレンジアミンを使用している。
【0004】
なお、本出願人は、本発明に関連する先行技術を認識していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、高速液体クロマトグラフィーにおいては、移動相を常温で使用しなければならないため、かかる移動相を常温で管理(保管)していた。従って、移動相に微生物が繁殖しやすく、移動相を頻繁に交換しなければならなかった。また、微生物が繁殖した移動相を用いた場合、カラムやフィルター部品(ガードフィルターなど)などに目詰まりを発生させてしまうため、カラムやフィルター部品も頻繁に交換する必要があった。
【0006】
このように、高速液体クロマトグラフィーを利用した従来の分析は、移動相、カラム及びフィルター部品などの交換頻度が高く、作業量及びコストの増加を招いていた。
【0007】
そこで、本発明は、移動相における微生物の繁殖を抑制して、作業量及びコストを低減することができる分析システムを提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としての分析システムは、移動相を貯留した容器を収納すると共に、前記移動相を冷蔵する冷蔵部と、前記移動相と共に試料が導入され、前記試料に含まれる成分を高速液体クロマトグラフィーを利用して分析する分析部と、前記冷蔵部から供給される前記移動相を昇温して前記分析部に供給する昇温部とを有することを特徴とする。かかる分析システムによれば、冷蔵部によって移動相における微生物の繁殖を抑制すると共に、かかる移動相の温度を昇温部で常温に戻してから分析部に供給することができる。前記容器と前記昇温部とを接続すると共に、前記移動相の流路を形成するラインを更に有し、前記冷蔵部は、前記ラインを前記昇温部に通すための開口を有することが好ましい。前記冷蔵部は、前記移動相の温度が10℃以下の温度を維持するように、前記移動相を冷蔵することが好ましい。前記昇温部は、前記移動相の温度が常温になるように、前記移動相を昇温することが好ましい。
【0009】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施例によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、移動相における微生物の繁殖を抑制して、作業量及びコストを低減することができる分析システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
図1は、本発明の一側面としての分析システム1の構成を示す概略図である。分析システム1は、高速液体クロマトグラフィーを利用して、試料に含まれる成分を分析する分析システムである。分析システム1は、例えば、貯酒タンクや濾過溜タンクなどのタンクの洗浄後において、タンク内の残水のヨウ素を分析する分析システムとして好適である。分析システム1は、図1に示すように、冷蔵部10と、ライン部20と、昇温部30と、分析部40とを有する。
【0013】
冷蔵部10は、図2に示すように、移動相を貯留した容器600を略密封した状態で収納すると共に、容器600に貯留された移動相を冷蔵する。換言すれば、冷蔵部10は、容器600に貯留された移動相を冷却しながら(低温で)管理(保管)することによって、移動相における微生物の繁殖を抑制する機能を有する。具体的には、冷蔵部10は、容器600に貯留された移動相の温度が10℃以下の温度、好ましくは、6℃以下の温度を維持するように、移動相を冷却する。これにより、容器600に貯留された移動相における微生物の繁殖をより効果的に抑制することができる。従って、微生物の繁殖に起因する移動相の交換の頻度が低減し、作業量及びコストを低減することができる。ここで、図2は、冷蔵部10の内部構成の一例を示す概略図である。
【0014】
冷蔵部10は、例えば、一般的に市販されている冷蔵庫を利用することができるが、図2に示すように、冷蔵部10(冷蔵庫)の内部と冷蔵部10の外部とを連通する開口102を有する。開口102は、後述するライン部20を昇温部30に通すための機能を実現するために、ライン部20の径と同程度又はライン部20の径よりも大きな径を有する。但し、開口102とライン部20との間にはゴム栓104が埋め込まれており、移動相を貯留した容器600を収納する収納空間は略密封した状態に維持されている。なお、ゴム栓104は、他のシール部材に置換してもよい。また、冷蔵部10には、図示しない重量計測部が備えられており、容器600に貯留された移動相が一定量以下になったこと(即ち、容器600に移動相の補充が必要になったこと)を検知し、オペレータに知らせることができる。
【0015】
ライン部20は、冷蔵部10に収納された容器600と分析部40とを接続する(即ち、容器600に貯留された移動相を分析部40に引き渡す)機能を有する。ライン部20は、容器600と昇温部30とを接続して容器600に貯留された移動相の流路を形成する第1のライン202と、昇温部30と分析部40とを接続して昇温部30からの移動相の流路を形成する第2のライン204とを含む。第1のライン202及び第2のライン204は、移動相に対して耐性を有し、且つ、熱伝導性の高い材料で構成されることが好ましい。第1のライン202及び第2のライン204は、本実施形態では、フッ素樹脂で構成されている。なお、第1のライン202と第2のライン204とは、一体的に(即ち、1つのラインとして)構成されていてもよい。
【0016】
昇温部30は、冷蔵部10(即ち、冷蔵部10に収納された容器600)から供給される移動相を昇温して分析部40に供給する。換言すれば、昇温部30は、冷蔵部10によって冷却された移動相を加熱することによって、分析部40に供給される移動相の温度を使用する際の温度に戻す機能を有する。具体的には、昇温部30は、移動相の温度が常温になるように、移動相を昇温する。これにより、移動相を低温で保管していても、かかる移動相を分析部40で使用する際に、移動相の温度を直ちに常温にすることができるため、移動相の温度が常温に戻るまでの待機時間が不要となる。
【0017】
昇温部30は、例えば、所定の温度(室温)に制御された液体を貯留した恒温水槽やヒーターなどで構成される。昇温部30は、容器600からライン部20(第1のライン202)を介して供給される移動相を一時的に貯留容器に貯留して移動相を昇温してもよいし、第1のライン202及び/又は第2のライン204を加熱して第1のライン202及び/又は第2のライン204を流れている移動相を昇温してもよい。例えば、昇温部30が恒温水槽である場合、第1のライン202及び/又は第2のライン204を、恒温水槽に貯留された液体に浸すことによって、移動相を昇温する。なお、第1のライン202及び第2のライン202が熱伝導性の低い材料で構成されている場合、恒温水槽に貯留された液体に浸されている第1のライン202及び/又は第2のライン204の長さ(距離)は長いことが好ましく、例えば、螺旋(スパイラル)状にして液体に浸すとよい。
【0018】
分析部40は、昇温部30から供給される移動相と共に試料(例えば、洗浄後のタンク内の残水)が導入され、かかる試料に含まれる成分(例えば、ヨウ素)を高速液体クロマトグラフィーを利用して分析する機能を有する。具体的には、分析部40は、移動相を介して試料をカラムに導入し、かかる試料に含まれる成分を分離して時系列的に検出する。分析部40は、例えば、可視光や紫外光を用いて、カラムで分離された試料が通過することで発生する光学的変化又は化学的変化を検出する。また、分析部40は、物質の質量を測定することができる質量分析計を用いてもよい。このように、分析部40は、当業界で周知の高速液体クロマトグラフィーを利用した成分分析装置の構成を適用するため、ここでの詳しい構造及び動作の説明は省略する。
【0019】
但し、分析部40には、上述したように、微生物の繁殖が抑制された移動相が供給されるため、カラムやカラムの寿命を伸ばすためのガードフィルター(例えば、多孔質ガラスフィルター)などにおける目詰まりの発生が低減する。従って、微生物による目詰まりに起因するカラムやフィルター部品の交換の頻度が低減し、作業量及びコストを低減することができる。
【0020】
分析システム1において、まず、冷蔵部10において低温で保管されていた移動相が、第1のライン202を介して、容器600から昇温部30に供給される。この際、移動相は低温で保管されていたため、微生物の繁殖が抑制されている。従って、移動相の交換の頻度が低減される。
【0021】
昇温部30に供給された移動相は、昇温部30によって昇温されて常温に戻る。常温に戻った移動相は、第2のライン204を介して、分析部40に供給される。この際、冷蔵部10から低温の移動相が供給されても、昇温部30によって移動相が昇温されるため、移動相の温度が常温に戻るまでの待機時間を待たずに分析部40に移動相を供給することができる。
【0022】
分析部40に供給された移動相は、試料と混合されてカラムに導入される。分析部40では、カラムで分離された試料に含まれる成分を検出(分析)する。この際、分析部40には、微生物の繁殖が抑制された移動相が供給されているため、カラムやフィルター部材などにおける目詰まりの発生が低減されている。従って、カラムやフィルター部品の交換の頻度が低減される。
【0023】
なお、本発明者が分析システム1を実際に用いて実験した結果、移動相の交換頻度が週3回(従来)から週1回(本発明)、カラムの交換頻度が年3回(従来)から年1回(本発明)、ガードフィルターの交換頻度が年24回(従来)から年2回(本発明)となった。
【0024】
このように、分析システム1によれば、移動相における微生物の繁殖を抑制して、移動相、カラム、フィルター部材の交換頻度を低減させ、作業量及びコストを低減することができる。
【0025】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一側面としての分析システムの構成を示す概略図である。
【図2】図1に示す分析システムの冷蔵部の内部構成の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0027】
1 分析システム
10 冷蔵部
102 開口
104 ゴム栓
20 ライン部
202 第1のライン
204 第2のライン
30 昇温部
40 分析部
600 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動相を貯留した容器を収納すると共に、前記移動相を冷蔵する冷蔵部と、
前記移動相と共に試料が導入され、前記試料に含まれる成分を高速液体クロマトグラフィーを利用して分析する分析部と、
前記冷蔵部から供給される前記移動相を昇温して前記分析部に供給する昇温部とを有することを特徴とする分析システム。
【請求項2】
前記容器と前記昇温部とを接続すると共に、前記移動相の流路を形成するラインを更に有し、
前記冷蔵部は、前記ラインを前記昇温部に通すための開口を有することを特徴とする請求項1記載の分析システム。
【請求項3】
前記冷蔵部は、前記移動相の温度が10℃以下の温度を維持するように、前記移動相を冷蔵することを特徴とする請求項1記載の分析システム。
【請求項4】
前記昇温部は、前記移動相の温度が常温になるように、前記移動相を昇温することを特徴とする請求項1記載の分析システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate