説明

分析用デバイスとこれを使用する分析装置および分析方法

【課題】試料中の固体成分を正確に規定量だけ取り出して分析工程へ移送できる分析用デバイスを提供することを目的とする。
【解決手段】試料液を溶液成分と固体成分とに遠心力を用いて分離する分離キャビティ18と、分離された固体成分の一部が移送されこれを保持する計量流路23と、計量流路23と分離キャビティ18との間に設けられ分離キャビティ18の試料液を移送する連結流路21に連結される溢流流路22と、分離キャビティ18内の分離された溶液成分(血漿)を一時的に保持するように分離キャビティ18の内部に形成された毛細管キャビティ19とを備え、分離キャビティ18に残留する血漿成分57aを毛細管キャビティ19によってトラップする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物などから採取した液体の分析に使用する分析用デバイスと、これを使用する分析装置および分析方法に関するものであり、より詳細には、分析用デバイス内で分離された液体の固体成分の採取方法に関し、具体的には血液中の血球成分を採取する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生物などから採取した液体を分析する方法として、液体流路を形成した分析用デバイスを用いて分析する方法が知られている。分析用デバイスは、回転装置を使って流体の制御をすることが可能であり、遠心力を利用して溶液の計量、固体成分の分離、分離された流体の移送分配、溶液と試薬の混合等を行うことができるため、種々の生物化学的な分析を行うことが可能である。
【0003】
遠心力を利用して溶液を移送する特許文献1に記載の分析用デバイス501は、図24(a)に示すように、分離室70に保持された血液を分析用デバイス501の回転によって遠心分離した後、分離室70の下側から連結流路71と溢流流路72を介して計量流路73に連結されており、血球成分を毛細管移送している。遠心分離によって連結流路71内に残留する血漿成分を溢流流路12にトラップさせた後に血球成分だけを計量流路73に移送して規定量の血球成分を採取することができる。溢流流路72にトラップされた血漿成分は溢流室74に回収される。
【特許文献1】特開2007−78676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来の構成では、図24(b)に示した拡大図のように、溢流流路72の開口面積をw3、計量流路73の開口面積をw4とした場合に、 w3 > w4に設定することで開口面積の大きい溢流流路72の方に血漿成分を優先的に移送させてトラップさせて血球成分を計量流路73に移送して規定量の血球成分を採取しようとしている。
【0005】
しかしながら、分離室70において遠心分離されて保持されている血漿成分の粘度と血球成分の粘度とでは、血漿成分の方が血球成分よりも粘度が低く、前記遠心分離後の連結流路71内への移送のされ易さの点では、血漿成分が血球成分よりも移送され易い。
【0006】
そのため、分離室70に残留した血漿成分が分離室70の下側から連結流路71へ流入してしまうのが現状であって、血漿の混入を完全に抑制することができず、希釈倍率のばらつき要因となっている。
【0007】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、血漿成分と血球成分の粘度の違いにかかわらず、試料中の血球成分を正確に規定量だけ取り出して分析工程へ移送できる分析用デバイスと、これを使用する分析装置および分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1記載の分析用デバイスは、遠心力によって試料液を測定スポットに向かって移送するマイクロチャネル構造を有し、前記測定スポットにおける反応物の読み取りに使用される分析用デバイスであって、前記試料液を溶液成分と固体成分とに前記遠心力を用いて分離する分離キャビティと、前記分離キャビティにて分離された前記固体成分の一部が移送されこれを保持する計量流路と、前記計量流路と前記分離キャビティとの間に設けられ前記分離キャビティの試料液を移送する連結流路に連結される溢流流路と、前記分離キャビティ内の分離された溶液成分を一時的に保持するように前記分離キャビティの内部に形成された毛細管キャビティとを備えたことを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項2記載の分析用デバイスは、請求項1において、前記連結流路の最外周位置に連通し前記分離キャビティに保持される試料液の液面よりも内周位置で屈曲するサイフォン構造を有する連結流路と、前記連結流路の最外周位置よりも外周に位置し前記連結流路を介して分離キャビティと連通する溢流キャビティとを備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3記載の分析用デバイスは、請求項1において、前記毛細管キャビティが、前記分離キャビティ内のどちらか一方の側面に形成されていることを特徴とする。
本発明の請求項4記載の分析用デバイスは、請求項1において、前記毛細管キャビティの一端が、前記分離キャビティ内に保持される試料液に浸かるように前記試料液の液面より外周位置まで形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項5記載の分析装置は、試料液を採取した請求項1に記載の分析用デバイスがセットされる分析装置であって、前記分析用デバイスを軸心周りに回転させる回転駆動手段と、前記回転駆動手段によって移送された溶液に基づく前記分析用デバイス内の反応物にアクセスして分析する分析手段とを備え、前記回転駆動手段の回転と停止によって、試料液を溶液成分と固体成分に分離し固体成分の一部を採取できるよう構成したことを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項6記載の分析方法は、請求項1に記載の分析用デバイスを用いた分析方法であって、軸心を有するロータに前記分析用デバイスをセットし、前記ロータを回転させて前記分析用デバイスに点着された試料液を前記分離キャビティに移送して遠心分離し、前記ロータを停止させて遠心分離された後の試料液の溶液成分を前記分離キャビティの内部に形成された毛細管キャビティに保持するとともに、前記分離キャビティから連結通路へ流れた前記試料液の溶液成分と固体成分のうちの溶液成分を連結通路に連通した溢流流路で取り除き、固体成分を計量流路に移送するステップと、前記ロータを回転させて、前記計量流路内の固体成分と希釈溶液を混合するステップと、前記ロータを回転させて読み取り位置に前記測定スポットが介在するタイミングに前記測定スポットの反応物にアクセスするステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の分析用デバイスとこれを使用する分析装置および分析方法によれば、分離キャビティから計量流路へ正確に規定量の固体成分を移送することができ、分析用デバイスの測定精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の分析用デバイスとこれを使用する分析装置および分析方法の実施の形態を図1〜図23に基づいて説明する。
図1は本発明の実施の形態における分析用デバイス1を分析装置のロータ103の上にセットした状態を示し、図2は分析用デバイス1の前記ロータ103と接触している面を上側にして分解した状態を示している。
【0015】
分析用デバイス1は、試料液飛散防止用の保護キャップ2と、微細な凹凸形状を表面に有するマイクロチャネル構造が形成されたベース基板3と、ベース基板3の表面を覆うカバー基板4と、希釈液を保持している希釈ユニット5と、ベース基板3の上面に形成されている数個の凹部のうちの一つの凹部50にセットされた希釈ユニット5内の希釈液を排出する開封ボタン6とを合わせた5つの部品で構成されている。
【0016】
ベース基板3とカバー基板4は、希釈ユニット5などを内部にセットした状態で接合され、この接合された状態のものに保護キャップ2が取り付けられている。また、開封ボタン6は、カバー基板4に形成された開封孔7の位置を中心に接合される。
【0017】
ベース基板3の上面に形成されている数個の凹部の開口をカバー基板4で覆うことによって、後述の複数の収容エリア(後述の測定スポットと同じ)とその収容エリアの間を接続する流路などが形成されている(図2を参照)。収容エリアのうちの必要なものには各種の分析に必要な試薬が予め担持されている。
【0018】
この分析用デバイス1は、注入口11から試料液、例えば血液などの溶液を採取することができ、保護キャップ2を閉めて分析装置の前記ロータ103にセットすることで、試料液の成分分析を行うことができる。102はロータ103の回転中の軸心を示している。
【0019】
分析用デバイス1は、注入口11から内部に取り込んだ試料液を、注入口11よりも内周にある前記軸心102を中心に分析用デバイス1を回転させて発生する遠心力と、分析用デバイス1内に設けられた毛細管流路の毛細管力を用いて、分析用デバイス1の内部で溶液を移送していくよう構成されており、保護キャップ2は注入口11の付近に付着した試料液が、分析中に遠心力によって外部へ飛散するのを防止するために取り付けられている。
【0020】
本発明の分析用デバイス1を構成する部品の材料としては、材料コストが安価で量産性に優れる樹脂材料が望ましい。前記分析装置は、分析用デバイス1を透過した光を測定する光学的測定方法によって試料液の分析を行うため、ベース基板3およびカバー基板4の材料としては、PC、PMMA、AS、MSなどの透明性が高い樹脂が望ましい。
【0021】
また、希釈ユニット5の材料としては、希釈ユニット5内部に希釈液を長期間封入しておく必要があるため、PP、PEなどの水分透過率の低い結晶性樹脂が望ましい。開封ボタン6については、希釈ユニット5の開封時に変形させて用いるため、弾性率の高いPPなどの結晶性樹脂が望ましい。保護キャップ2の材料としては、成形性のよい材料であれば特に問題がなく、PP、PEなどの安価な樹脂が望ましい。
【0022】
ベース基板3とカバー基板4との接合は、前記収容エリアに担持された試薬の反応活性に影響を与えにくい方法が望ましく、接合時に反応性のガスや溶剤が出にくい超音波溶着やレーザー溶着などが望ましい。
【0023】
また、ベース基板3とカバー基板4との接合によって両基板3,4の間の微小な隙間による毛細管力によって溶液を移送させる部分には、毛細管力を高めるための親水処理がなされている。具体的には、親水性ポリマーや界面活性剤などを用いた親水処理が行われている。ここで、親水性とは水との接触角が90度未満のことをいい、より好ましくは接触角40度未満である。
【0024】
図3〜図6は分析用デバイス1がセットされる分析装置を示す。
図3において、分析用デバイス1は、分析装置100の前記軸心102を中心に回転するロータ103の上に、ベース基板3とカバー基板4のうちのカバー基板4の側を下にして装着され、蓋101を閉じた状態で分析が行われる。
【0025】
図4と図5に示すように、この分析装置100は、ロータ103を回転させるための回転駆動手段107と、分析用デバイス1内の溶液を光学的に測定する光学測定手段109と、ロータ103の回転速度や回転方向、および光学測定手段の測定タイミングなどを制御する制御手段108と、光学測定手段109によって得られた信号を処理し測定結果を演算する演算部110と、演算部110で得られた結果を表示する表示部111とで構成される。
【0026】
回転駆動手段107は、ロータ103を介して分析用デバイス1を軸心102の回りに任意の方向に所定の回転速度で回転させるだけではなく、所定の停止位置で軸心102を中心に所定の振幅範囲、周期で左右に往復運動をさせて分析用デバイス1を揺動させることができるように構成されている。ここでは回転駆動手段107としてモータ104を使用してロータ103を軸心102の回りに回転させている。軸心102は、この軸心102上の所定位置を中心に傾斜角度θ°だけ傾斜して回転自在に取り付けられている。
【0027】
なお、ここでは分析用デバイス1の回転動作と揺動動作を1つの回転駆動手段107で行う構成としているが、回転駆動手段107の負荷を軽減させるために、揺動動作用の駆動手段を別に設けてもかまわない。具体的には、ロータ103の上にセットした分析用デバイス1に対して、前記モータ104とは別に用意したバイブレーションモータなどの加震手段を、直接または間接的に接触させることによって分析用デバイス1を揺動させて分析用デバイス1内の溶液に慣性力を付与する。
【0028】
光学測定手段109には、分析用デバイス1の測定部にレーザー光を照射するレーザー光源105と、レーザー光源105から照射されたレーザー光のうち、分析用デバイス1を通過した透過光の光量を検出するフォトディテクタ106とを備えている。ロータ103が透光性に劣る材料または透光性でない材料の場合には、ロータ103の分析用デバイス1の装着位置には、孔51,52が穿設されている。
【0029】
ここではレーザー光源105は出射光の波長を切り換え可能なものを使用し、フォトディテクタ106はレーザー光源105の出射光の何れの波長の光も検出できるものを使用している。
【0030】
なお、レーザー光源105とフォトディテクタ106は、測定に必要な波長の種類に応じた複数対だけ設けることもできる。
また、分析装置100には、分析用デバイス1内の希釈ユニット5を自動で開封する開封手段、具体的には、ロータ103にセットされた分析用デバイス1の開封ボタン6を操作できるように、ロータ103に上下運動ができるアームを設け、開封ボタン6を前記アームによって押し上げる機構を設けてもかまわない。
【0031】
ロータ103は、図5に示すように傾斜した軸心102に取り付けられて水平線に対して傾斜角度θ°だけ傾斜しており、分析用デバイス1の回転停止位置に応じて、分析用デバイス1内の溶液にかかる重力の方向を制御できる。
【0032】
具体的には、図6(a)に示す位置(真上を0°(360°)として表現した場合に180°付近の位置)で分析用デバイス1を停止させた場合は、分析用デバイス1の下側53が正面から見て下側に向くため、分析用デバイス1内の溶液は外周方向(下側53)に向かって重力を受ける。
【0033】
また、図6(b)に示す60°付近の位置で分析用デバイス1を停止させた場合は、分析用デバイス1の左上側54が正面から見て下側に向くため、分析用デバイス1内の溶液は左上方向に向かって重力を受ける。同様に、図6(c)に示す300°付近の位置では、分析用デバイス1の右上側55が正面から見て下側に向くため、分析用デバイス1内の溶液は右上方向に向かって重力を受ける。
【0034】
このように、軸心102に傾斜を設け、任意の位置に分析用デバイス1を停止させることで、分析用デバイス1内の溶液を所定の方向に移送させるための駆動力の1つとして利用できる。
【0035】
分析用デバイス1内の溶液にかかる重力の大きさは、軸心102の傾斜角度θを調整することで設定することができ、移送する液量と、分析用デバイス1内の壁面に付着する力との関係に応じて設定することが望ましい。
【0036】
傾斜角度θは、10°〜45°の範囲が望ましく、傾斜角度θが10°より小さいと溶液にかかる重力が小さすぎて移送に必要な駆動力が得られないおそれがあり、傾斜角度θが45°より大きくなると軸心102への負荷が増大したり、遠心力で移送させた溶液が自重で勝手に動いて制御できなくなるおそれがある。
【0037】
この実施の形態の分析装置100では、傾斜角度θを10°〜45°の範囲の任意の角度に固定しており、回転駆動手段107であるモータ104や、レーザー光源105、フォトディテクタ106も傾斜を持つ軸心102と平行に取り付けられているが、傾斜角度θを任意の角度に調整でき、モータ104や、レーザー光源105、フォトディテクタ106も追従して角度が変更される構成にすることで、分析用デバイス1の仕様や、分析用デバイス1内の移送プロセスに応じて、最適な傾斜角度を設定することができる。ここで、傾斜角度θを任意の角度に調整できる構成の場合は、傾斜角度θの範囲は0°〜45°が望ましく、重力の影響を受けたくない場合には傾斜角度を0°、すなわちロータ103を水平にして回転させることができる。
【0038】
図7〜図13は分析用デバイス1の詳細を示している。
図7は分析用デバイス1の希釈ユニット開封部を示す。
図7(a)は開封ボタン6の取り付け位置を示す平面図、図7(b)は図7(a)のA−A断面図を示す。
【0039】
希釈ユニット5の開封および排出は、図7(b)に示すようにカバー基板4に接合された開封ボタン6の中心部を下方向から押し上げることで、ピン8が希釈ユニット5の表面に貼られているアルミシール10を突き破り、希釈ユニット5が開封される。さらに、希釈ユニット5が開封された状態で分析用デバイス1を回転させると、希釈ユニット5内の希釈液は、開封孔7と排出孔9の間に形成された空間(ベース基板3とカバー基板4の間に形成された排出溝、およびカバー基板4と開封ボタン6の間に形成された空間)を経由して第2の保持部としての保持キャビティ14に排出される。
【0040】
図8(a)は分析用デバイス1の注入口周辺の拡大斜視図、図8(b)はその正面図である。図9は図2に示したベース基板3の前記カバー基板4との接合面の平面図を示す。
分析用デバイス1は、注入口11に試料液を付着させることで、試料液を内部に形成された毛細管キャビティ17の毛細管力によって吸引させることができるため、指先などから血液を直接採取することができる。ここで、注入口11は、分析用デバイス1本体の一側面より軸心102の方向に突出した形状をしているため、注入口11以外の場所に指などが接触して血液が付着し、分析時に付着した血液が外部に飛散するのを防ぐという効果を有している。
【0041】
また、毛細管キャビティ17の側面に、厚み方向の断面寸法が毛細管キャビティ17よりも大きく、大気と連通しているキャビティ12,13を設けている。キャビティ12,13を設けることで、毛細管キャビティ17内を流れる試料液は、側面部が先行して流れる毛管流ではなく、中央部が先行して流れる毛管流となって充填されるため、複数回に分けて充填させる場合でも、毛細管キャビティ17に保持されている試料液と後から採取した試料液の中央部同士が先に接触するように流れて行き、毛細管キャビティ17内の空気を側面のキャビティ12,13に排出しながら充填されていく。そのため、注入口11に付着させる試料液の量が採取途中で不足したり、採取の途中に注入口11から指先などが離れてしまったりした場合でも、毛細管キャビティ17内への採取が完了するまで何度でも採取することができる。ここでは、毛細管キャビティ17の厚み方向の断面寸法を50〜300μm、キャビティ12,13の厚み方向の断面寸法を1000〜3000μmで構成しているが、毛細管キャビティ17は毛細管力で試料液を採取できる寸法、キャビティ12,13は毛細管力で試料液が移送されない寸法であれば特に制限はない。
【0042】
なお、図10に示すAA−AA,B−B,C−C,D−D,E−Eの各位置の断面の拡大図を図11の(a)〜(e)に示す。20a,20b1,20b2,20c,20d,20e,20f,20g,20h,20iは空気孔である。また、親水処理が施されている位置を図12にハッチングで示す。
【0043】
次に、本発明の実施の形態1における分析用デバイスのマイクロチャネル構成、および溶液の移送プロセスについて詳細に説明する。
図13は分析用デバイス1の構造をブロック図で表示したもので、分析用デバイス1の内部には、試料液を採取する試料液採取部150と、試料液を希釈する希釈液を保持する希釈液保持部151と、試料液採取部150から移送される試料液を保持し、溶液成分と固体成分とに遠心分離した後、所定量の固体成分を含む試料液を採取する分離部152と、希釈液保持部151から移送される希釈液を計量する希釈液計量部153と、分離部152から移送される試料液と希釈液計量部153から移送される希釈液を保持し、内部で混合した後、分析に必要な量に希釈溶液を計量する混合部154と、混合部154から移送される希釈溶液を分析試薬と反応させて測定する測定部155が形成されている。
【0044】
試料液採取部150は、図9に示すように試料液を採取する注入口11と、注入口11を通じて試料液を毛細管力で採取し規定量だけ保持する毛細管キャビティ17と、試料液採取時に毛細管キャビティ17内の空気を排出するキャビティ12,13とで構成されている。
【0045】
希釈液保持部151は、図9に示すように希釈ユニット5内に希釈液が保持されており、図7で説明した開封動作によって希釈液が展開される。
分離部152は、試料液採取部150の下手側で図9に示すように、キャビティ12を介して毛細管キャビティ17と連通するように形成されて毛細管キャビティ17から遠心力によって移送される試料液を保持して遠心力によって試料液を溶液成分と固体成分とに分離する分離キャビティ18と、分離キャビティ18と希釈液計量部153との間に形成されて分離キャビティ18で分離された固体成分の一部が移送されて保持する第1の保持部としての計量流路23と、計量流路23と分離キャビティ18とを連結して分離キャビティ18内の試料液を移送する連結流路21と、分離キャビティ18と希釈液計量部153との間に形成されて連結流路21内で分離された試料液の溶液成分を優先的に保持して固体成分だけを計量流路23に移送させる溢流流路22と、分離された分離キャビティ18内の溶液成分が計量流路23に移送されるのを抑制するよう分離キャビティ18内に形成された毛細管キャビティ19と、分離キャビティ18を境に計量流路23と反対側に形成されて分離キャビティ18や連結流路21、溢流流路22内の分析に必要ない試料液を排出する連結流路24と、連結流路24経由で移送される不必要な試料液を保持する溢流キャビティ25,26とで構成される。
【0046】
ここで、連結流路21、溢流流路22、計量流路23、連結流路24、毛細管キャビティ19、溢流キャビティ26の厚み方向の断面寸法を50〜300μmで構成しているが、毛細管力で試料液を移送できる寸法であれば特に制限はない。また、分離キャビティ18、溢流キャビティ25の厚み方向の断面寸法を1000〜3000μmで構成しているが、必要な試料液の量に応じて調整可能である。
【0047】
希釈液計量部153は、図9に示すように、希釈液保持部151の下手側に形成されて希釈ユニット5から遠心力によって移送される希釈液を規定量だけ保持する保持キャビティ14と、保持キャビティ14と分離部152との間に形成されて保持キャビティ14で計量された希釈液を前記混合部154へ移送する連結流路15と、保持キャビティ14を境に連結流路15と反対側に形成されて保持キャビティ14へ移送される希釈液が所定量を越えた際に保持キャビティ14外へ溢流させるための溢流流路16と、保持キャビティ14で保持される液面高さを規定して溢流流路16を経由して希釈液が溢流される溢流キャビティ27と、溢流された希釈液を保持して光学測定手段109のリファレンス測定に使用される測定スポット29と、測定スポット29内に保持された希釈液が逆流して別のエリアに流出するのを防ぐための毛細管部28とで構成される。
【0048】
ここで、連結流路15、溢流流路16、毛細管部28の厚み方向の断面寸法を50〜300μmで構成しているが、毛細管力が働く寸法であれば特に制限はない。また、保持キャビティ14、溢流キャビティ27、測定スポット29の厚み方向の断面寸法を1000〜3000μmで構成しているが、必要な試料液の量や吸光度を測定する条件(光路長、測定波長等)に応じて調整可能である。
【0049】
混合部154は、図9に示すように、分離部152と希釈液計量部153の下手側で計量流路23および連結流路15と連通するように形成されて計量流路23から移送される試料液と保持キャビティ14から移送される希釈液を保持して内部で混合する第3の保持部としての操作キャビティ30と、混合中に希釈溶液が操作キャビティ30内に設けられた空気孔20cから流出するのを防止するように形成されたリブ31と、操作キャビティ30に保持される希釈溶液の軸心102方向に対する液面高さよりも内側に形成されて混合されて操作キャビティ30から移送される希釈溶液を保持する第4の保持部としての保持キャビティ32と、保持キャビティ32の下手側に形成されて保持キャビティ32から遠心力によって移送される希釈溶液を規定量だけ保持する保持キャビティ35と、保持キャビティ32と溢流キャビティ27との間に形成されて保持キャビティ32へ移送される希釈溶液が溢流キャビティ27へ流出するのを抑制する毛細管部33と、保持キャビティ32と保持キャビティ35との間に形成されて保持キャビティ32へ移送される希釈溶液が保持キャビティ35へ流出するのを抑制する連結流路34と、保持キャビティ35と保持キャビティ35の下手側に位置する測定部155との間に形成されて保持キャビティ35で計量された希釈溶液を測定部155へ移送する連結流路37と、保持キャビティ35と溢流キャビティ27との間に形成されて保持キャビティ35へ移送される希釈溶液が所定量を越えた際に保持キャビティ35外へ溢流させるための溢流流路36とで構成される。
【0050】
ここで、毛細管部33、連結流路34、溢流流路36、連結流路37の厚み方向の断面寸法を50〜300μmで構成しているが、毛細管力が働く寸法であれば特に制限はない。また、保持キャビティ32、保持キャビティ35の厚み方向の断面寸法を1000〜3000μmで構成しているが、必要な希釈溶液の量に応じて調整可能である。
【0051】
測定部155は、図9に示すように、混合部154の下手側で連結流路37を介して保持キャビティ35と連通するように形成されて内部に担持されている試薬と保持キャビティ35から連結流路37を介して移送される希釈溶液を反応させて保持し第1の測定を行うための測定スポット38と、測定スポット43から見て操作キャビティであるこの測定スポット38に保持される第1反応液の軸心102方向に対する液面高さよりも内側に形成されて、第1反応液の測定後に測定スポット38内の第1反応液を採取する受容キャビティとしての毛細管キャビティ39と、測定スポット38と毛細管キャビティ39との間に形成されて測定スポット38に戻る第1反応液の量を安定させるための毛細管キャビティ40と、毛細管キャビティ39の下手側に形成されて毛細管キャビティ39に採取された第1反応液が測定スポット43へ流出するのを抑制する連結流路41と、毛細管キャビティ39と毛細管キャビティ40との連結部に位置し、遠心力によって毛細管キャビティ39内の第1反応液を破断させて所定量の希釈溶液を測定スポット38に戻すリブ42と、毛細管キャビティ39の下手側で連結流路41を介して毛細管キャビティ39と連通するように形成されて内部に担持されている試薬と毛細管キャビティ39から連結流路41を介して移送される第1反応液を反応させて保持し第2の測定を行うための測定スポット43と、測定スポット46から見て操作キャビティであるこの測定スポット43に保持される第2反応液の軸心102方向に対する液面高さよりも内側に形成されて、第2反応液の測定後に測定スポット43内の第2反応液を採取する受容キャビティとしての毛細管キャビティ44と、測定スポット43と毛細管キャビティ44との間に形成されて測定スポット43に戻る第2反応液の量を安定させるための第3の連結部としての毛細管キャビティ64と、毛細管キャビティ44の下手側に形成されて毛細管キャビティ44に採取された第2反応液62が測定スポット46へ流出するのを抑制する連結流路45と、毛細管キャビティ44の下手側で連結流路45を介して毛細管キャビティ44と連通するように形成されて内部に担持されている試薬と毛細管キャビティ44から連結流路45を介して移送される第2反応液を反応させて保持し第3の測定を行うための測定スポット46とで構成される。
【0052】
ここで、毛細管キャビティ39、毛細管キャビティ40、連結流路41、毛細管キャビティ44、連結流路45の厚み方向の断面寸法を50〜500μmで構成しているが、毛細管力が働く寸法であれば特に制限はない。また、測定スポット38、測定スポット43、測定スポット46の厚み方向の断面寸法を1000〜3000μmで構成しているが、必要な希釈溶液の量や吸光度を測定する条件(光路長、測定波長、サンプル溶液の反応濃度、試薬の種類等)に応じて調整可能である。
【0053】
次に、分析用デバイス1の試料液分析工程について、血液中の血球内に含まれるヘモグロビンおよびHbA1cの濃度測定を例として、詳細に説明する。
なお、図14〜図22はロータ103にセットされた分析用デバイス1をロータ103の表面側から見た状態で図示されており、軸心102に対して回転方向C1が図1における左回転、軸心102に対して回転方向C2が図1における右回転を示している。
【0054】
図14は、本発明の実施の形態1における分析用デバイスの注入過程および分離/計量過程を示す。
− 工程1 −
図14(a)において、試料液である血液は、穿刺された指先などから分析用デバイス1の注入口11を介して毛細管キャビティ17の毛細管力によって、毛細管キャビティ17内が充填されるまで採取される。ここでは、毛細管キャビティ17の隙と対向面積によって決まる体積によって試料液、例えば約10μLの血液を計量できる構成としているが、分析に必要な量に応じて毛細管キャビティ17の形状寸法を規定し、採取できる容量を調整してもかまわない。
【0055】
必要量の血液を採取した分析用デバイス1は、分析装置100のロータ103上に装着され、希釈ユニット5の開封手段によって開封動作が行われる。
− 工程2,工程3 −
希釈ユニット5の開封が終了した後、ロータ103を回転(C2で示す右回転・3000rpm)させることで毛細管キャビティ17の内の血液と希釈液は、図14(b)に示すように分離キャビティ18へ移送され、希釈ユニット5内の希釈液は保持キャビティ14へ移送される。ここで、血液を希釈して血球中の測定成分を取り出す際に、個人差を有するヘマトクリット値(血液中に含まれる血球成分の比率)の影響による希釈のばらつきを低減させるために、分離キャビティ18へ移送された血液を遠心力によって血漿成分と血球成分とに分離し、外周部の高ヘマトクリット血液を採取して希釈することで、希釈のばらつきを低減している。
【0056】
また、この回転中に保持キャビティ14に移送されて規定量を越えた希釈液は、溢流流路16と、溢流キャビティ27と、毛細管部28を介して測定スポット29内に流れ込んで保持される。
【0057】
図15は、毛細管キャビティ19を有している分離キャビティ18における前記遠心分離動作と、計量流路23を介して操作キャビティ30への移送フローを示している。
この実施の形態の毛細管キャビティ19は、分離キャビティ18内の左側の側面に接して形成されているが、分離キャビティ18内の右側の側面に接して形成しても同様である。毛細管キャビティ19の一端は、図15(a)に示すように分離キャビティ18内に保持される試料液に浸かるように試料液57の液面より外周位置まで形成されている。
【0058】
また、連結流路24は、連結流路21の最外周位置に連通し分離キャビティ18に保持される試料液の液面よりも内周位置で屈曲するサイフォン構造を有している。溢流キャビティ26は、連結流路21の最外周位置よりも外周に位置し連結流路24を介して分離キャビティ18と連通している。
【0059】
図15(a)に示すように分離キャビティ18の底部に溜まった血液57は、遠心力によって図15(b)に示すように血漿成分57aと血球成分57bとに分離される。回転が停止して遠心力が無くなると、図15(c)に示すように、分離キャビティ18における血漿成分57aは毛細管キャビティ19に毛細管移送され、連結流路21の血漿成分57aと血球成分57bは、大気に連通した空気孔20aを有するキャビティ58に接続されている溢流流路22に向かって毛細管移送される。連結流路24の血漿成分57aと血球成分57bは大気に連通した空気孔20dを有する溢流キャビティ26に向かって毛細管移送される。ここで、計量流路23の端部は、血球成分57bが到達している位置で連結流路21に接続されており、図15(d)に示すように、連結流路21から必要量の血球成分57bだけが計量流路23の毛細管力によって移送される。
【0060】
この実施の形態では分離キャビティ18に毛細管キャビティ19が形成されているため、分離キャビティ18に残っている血漿成分57aの殆どを毛細管キャビティ19で保持することができ、計量流路23に必要量の血球成分57bだけを毛細管移送するのに役立っている。具体的には、図16(a)に示すように分離キャビティ18に毛細管キャビティ19を形成しない比較例の場合には、血漿成分57aが分離キャビティ18の底部に溜まっており、計量流路23の毛細管力によって毛細管移送されると、図16(b)に示すように分離キャビティ18の底部に溜まっていた血漿成分57aが、連結流路21から計量流路23に向かって混入して、必要量の血球成分57bを得ることができないことからも、毛細管キャビティ19の有効性が分かる。
【0061】
更に、分離キャビティ18と計量流路23との間に設けられた、溢流流路22と連結流路21の分岐部を詳しく説明する。
図23(a)(b)は溢流流路22と連結流路21との分岐部の拡大図とその要部の断面図を示す。図23(b)は図23(a)におけるF−F断面図を示す。連結流路21の厚み方向の断面寸法:g1を0.2mmの場合、計量流路23へ血漿成分ができるだけ混じり込まないように、溢流流路22の厚み方向の断面寸法g2は、g1よりも小さく、例えば半分の0.1mmに形成するとともに、溢流流路22の溢流流路22での流れ方向と交差する方向の幅w2が、連結流路21の連結流路21での流れ方向と交差する方向の幅w1よりも広く形成されている。
【0062】
このように、溢流流路22の厚み方向の断面寸法g2を連結流路21の厚み方向の断面寸法g1の半分にすることで、溢流流路22に発生する毛細管力が連結流路21の毛細管力よりも大きくなるため、連結流路21と溢流流路22との分岐部において、血漿成分は優先的に溢流流路22内に移送される。さらに、溢流流路22の溢流流路22での流れ方向と交差する方向の幅w2を、連結流路21の連結流路21での流れ方向と交差する方向の幅w1よりも広くすることで、溢流流路22に発生する毛細管力が連結流路21の毛細管力よりも大きくなるため、連結流路21内の血漿成分を確実に溢流流路22へ移送することができる。ここで、断面寸法g2が断面寸法g1の半分以上の場合は、流路の表面状態の違いなどによって、溢流流路22と連結流路21の毛細管力が近くなって血漿成分の一部が計量流路23に流入する恐れがあるため、溢流流路22の厚み方向の断面寸法g2は、連結流路21の厚み方向の断面寸法g1の半分以下が望ましい。
【0063】
また、連結流路24は連結流路21の最外周位置に連通しているため、計量流路23に保持された血球成分57bを遠心力によって操作キャビティ30に移送する際に、溢流流路22、分離キャビティ18、毛細管キャビティ19、連結流路21、連結流路24内に保持された前記測定に必要のない試料液を全て溢流キャビティ26に排出することができ、残留する試料液の後追いによる操作キャビティ30への流入を防ぐことができる。
【0064】
このように分離キャビティ18に毛細管キャビティ19を形成して、分離キャビティ18に残留する血漿成分57aを毛細管キャビティ19によってトラップすることで、遠心分離後に計量流路23に混入する血漿成分を無くすることができ、かつ、連結流路21に混入している血漿成分57aは溢流流路22によって毛細管力で吸い上げて除去することができるため、計量流路23に血球成分57bが正確に規定量だけが保持されて後工程で操作キャビティ30に流れ込み、操作キャビティ30には連結流路15を介して保持キャビティ14から正確に規定量の希釈液が流れ込む。つまり、保持キャビティ14へ移送された希釈液は、保持される液面高さが溢流流路16と溢流キャビティ27の連結位置を超えると、溢流流路16を経由して溢流キャビティ27へ排出されるため、保持キャビティ14内に規定量だけ保持される。ここで、連結流路15は、溢流流路16と溢流キャビティ27の連結位置より半径方向の内方に配置される曲管を備えたサイフォン形状であるため、分析用デバイス1の回転中に希釈液を保持キャビティ14内で保持することができる。
【0065】
また、保持キャビティ14と溢流キャビティ27を連結する溢流流路16が毛細管であるため、分析用デバイス1の減速および停止時に慣性力や表面張力によって保持キャビティ14から溢流キャビティ27へ希釈液が流出することを毛細管力によって防ぐことができ、希釈液の計量を精度よく行うことができる。
【0066】
− 工程4 −
ロータ103の前記回転(C2で示す右回転・3000rpm)を停止させて静止した後に、図17(a)からロータ103を回転(C2で示す右回転・2000rpm)させることによって、計量流路23で保持されていた必要量の血球成分57bと保持キャビティ14の希釈液が操作キャビティ30に流れ込んで混合されて希釈され、余分な血球成分57bは図17(b)に示すように溢流キャビティ26に保持される。そして光学測定手段109は、分析用デバイス1の測定スポット29の希釈液が、レーザー光源105とフォトディテクタ106の間に介在するタイミングで読み取りを行うリファレンス測定を実施する。このときには、レーザー光源105の波長を535nmと625nmに切り換えてリファレンス測定している。
【0067】
− 工程5 −
次に、分析用デバイス1を図18(a)に示す60°付近の位置にして、±1mm程度の揺動を分析用デバイス1に与えるようにモータ104を1000rpmの周波数で制御して希釈液を攪拌する。
【0068】
− 工程6 −
その後に、分析用デバイス1を図18(b)に示す180°付近の位置にして、±1mm程度の揺動を分析用デバイス1に与えるようにモータ104を1000rpmの周波数で制御して希釈液を攪拌する。
【0069】
ここで、操作キャビティ30と保持キャビティ32の間は連結部59で連通されており、攪拌時におけるこの連結部59の位置が、遠心力を発生させる回転の軸心102について操作キャビティ30に保持された希釈溶液の液面よりも内周側に位置させたため、攪拌混合中の希釈液が保持キャビティ32へ流出することがない。
【0070】
− 工程7 −
次に、分析用デバイス1を図19(a)に示す300°付近の位置にして、±1mm程度の揺動を分析用デバイス1に与えるようにモータ104を1000rpmの周波数で制御して、操作キャビティ30の希釈後の血球成分57b(希釈溶液)を、連結部59を介して保持キャビティ32に揺動移送する。
【0071】
ここで、操作キャビティ30に保持された希釈溶液は、分析用デバイス1を図19(a)に示す300°付近の位置に移動させても、操作キャビティ30の壁面に働く表面張力によって保持されており(表面張力が希釈溶液に働く重力よりも大きいため)、分析用デバイス1を揺動させて希釈溶液に慣性力を与えることで、操作キャビティ30の壁面に働く表面張力を打ち破り、希釈溶液に働く慣性力と重力によって希釈溶液を保持キャビティ32に移送可能としている。
【0072】
− 工程8 −
次に、分析用デバイス1をロータ103を回転(C2で示す右回転・2000rpm)させることによって、図19(b)に示すように保持キャビティ32から連結流路34を介して保持キャビティ35に規定量の希釈溶液が移送される。保持キャビティ35へ移送される希釈溶液が所定量を越えた分は溢流流路36を介して溢流キャビティ27へ溢流し、保持キャビティ35には規定量の希釈溶液60だけが保持される。
【0073】
− 工程9,工程10 −
ロータ103の前記回転(C2で示す右回転・2000rpm)を停止させて静止することによって、図20(a)に示すように保持キャビティ35の希釈溶液が連結流路37に呼び水され、さらに図20(a)からロータ103を回転(C1で示す左回転・2000rpm)させることによって、保持キャビティ35に保持された規定量の希釈溶液が、連結流路37を介して測定スポット38に移送され、測定スポット38に予め担持されている変性試薬を溶解する。
【0074】
− 工程11 −
その後、図20(b)に示す180°付近の位置において、±1mm程度の揺動を分析用デバイス1に与えるようにモータ104を1000rpmの周波数で制御して、分析用デバイス1の測定スポット38の第1反応液61を攪拌する。
【0075】
ここで、測定スポット38と測定スポット43の側との間は、毛細管キャビティ40と毛細管キャビティ39を介して連通されている。ここで毛細管キャビティ40が第2の連結部として作用しており、攪拌時におけるこの毛細管キャビティ40の位置が、遠心力を発生させる回転の軸心102について測定スポット38に保持された希釈溶液の液面よりも内周側に位置させたため、攪拌混合中の希釈溶液が測定スポット43の側の毛細管キャビティ39へ流出することがない。
【0076】
− 工程12,工程13 −
次に、分析用デバイス1を静止させて第1反応液61を変性反応させた後に、ロータ103を回転(C1で示す左回転・1500rpm)させて第1測定を実施する。
【0077】
第1測定は、レーザー光源105の波長を535nmに切り換えた発光状態において、分析用デバイス1の測定スポット38の変性反応させた第1反応液61を、レーザー光源105とフォトディテクタ106の間に介在するタイミングで読み取りを行う。演算部110は、第1測定によって得られた測定値を、予め測定スポット29をレーザー光源105の波長を535nmにして読み取った基準値に基づいて処理して数値化した変性ヘモグロビン濃度を表示部111に表示する。
【0078】
ここで、“変性”とは、たんぱく質の構造内から特異的な箇所を構造外へ出す(露出させる)ことをいい、後述する抗原抗体反応は、そのたんぱく質の構造内から露出された部位である“変性された部位”と特異的に反応するラテックス試薬によって行われる。
【0079】
− 工程14 −
次に、分析用デバイス1を図21(a)に示す60°付近の位置にして、±1mm程度の揺動を分析用デバイス1に与えるようにモータ104を1500rpmの周波数で制御することによって、測定スポット38に保持された第1反応液61が毛細管キャビティ39に毛細管移送されて、毛細管キャビティ39には規定量の第1反応液61が保持される。
【0080】
− 工程15 −
次に、ロータ103を回転(C1で示す左回転・2000rpm)させることによって、毛細管キャビティ39から連結流路41を介して測定スポット43に第1反応液61が流入し、測定スポット43に予め担持されているラテックス試薬を溶解する。
【0081】
− 工程16 −
その後、図21(b)に示す180°付近の位置において、±1mm程度の揺動を分析用デバイス1に与えるようにモータ104を1000rpmの周波数で制御して、分析用デバイス1の測定スポット43の第2反応液62を攪拌する。
【0082】
ここで、測定スポット43と測定スポット46の側との間は毛細管キャビティ44を介して連通されており、測定スポット43と毛細管キャビティ44とを接続する毛細管キャビティ64の攪拌時における位置を、遠心力を発生させる回転の軸心102について測定スポット43に保持された希釈溶液の液面よりも内周側に位置させたため、攪拌混合中の希釈溶液が測定スポット46の側の毛細管キャビティ44へ流出することがない。
【0083】
− 工程17,工程18 −
次に、分析用デバイス1を静止させて第2反応液62を抗原抗体反応させた後に、ロータ103を回転(C1で示す左回転・1500rpm)させて第2測定を実施する。
【0084】
第2測定は、レーザー光源105の波長を625nmに切り換えた発光状態において、分析用デバイス1の測定スポット43の抗原抗体反応した第2反応液62が、レーザー光源105とフォトディテクタ106の間に介在するタイミングで読み取りを行う。
【0085】
− 工程19 −
次に、分析用デバイス1を図22(a)に示す60°付近の位置にして、±1mm程度の揺動を分析用デバイス1に与えるようにモータ104を1500rpmの周波数で制御して第2反応液62を毛細管キャビティ44に毛細管移送する。
【0086】
− 工程20 −
その後、ロータ103を回転(C1で示す左回転・2000rpm)させることによって、毛細管キャビティ44に保持された規定量の第2反応液62が、連結流路45を介して測定スポット46に流入し、測定スポット46に担持されている凝集試薬を溶解する。
【0087】
− 工程21 −
その後、図22(b)に示す180°付近の位置において、±1mm程度の揺動を分析用デバイス1に与えるようにモータ104を1000rpmの周波数で制御して、分析用デバイス1の測定スポット46の第3反応液63を攪拌する。
【0088】
− 工程22,工程23 −
次に、分析用デバイス1を静止させて第3反応液63を凝集反応させた後に、ロータ103を回転(C1で示す左回転・1500rpm)させて第3測定を実施する。
【0089】
第3測定は、レーザー光源105の波長を625nmに切り換えた発光状態において、分析用デバイス1の測定スポット46の凝集反応した第3反応液63が、レーザー光源105とフォトディテクタ106の間に介在するタイミングで読み取りを行う。演算部110は、第2測定と第3測定によって得られた測定値を、測定スポット29をレーザー光源105の波長を625nmにして予め読み取ってある基準値に基づいて処理して数値化したHbA1c濃度と、前記変性ヘモグロビン濃度を基に算出されるHbA1c%値を表示部111に表示する。
【0090】
なお、操作キャビティ30と保持キャビティ32の部分では、保持キャビティ32が受容キャビティである。
また、測定スポット38と毛細管キャビティ39の部分では、測定スポット38が操作キャビティであり、毛細管キャビティ39が受容キャビティである。
【0091】
また、測定スポット43と毛細管キャビティ44の部分では、測定スポット43が操作キャビティであり、毛細管キャビティ44が受容キャビティである。
上記の実施の形態では、分析用デバイス1の測定スポット38,43,46における反応物を読み取るアクセス手段は、測定スポット38,43,46における反応物としての反応液に光学的にアクセスして読み取りを実行したが、測定スポット38,43,46の少なくとも何れかの測定スポットの反応物に静電結合または電磁結合して非接触に電気的にアクセスして読み取ったり、測定スポット38,43,46の少なくとも何れかの測定スポットに電極を設けておき、この電極を介して測定スポットの反応物に電気的にアクセスして読み取ったりすることもできる。前記反応物とは、液体であっても、固体であっても、ゼリー状やゲル状などの半固形物であっても同様である。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、分離キャビティから計量流路へ正確に規定量の固体成分を移送することができるため、分析精度を向上させることができ、生物などから採取した液体の成分分析に使用する分析用デバイスの移送制御手段として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の実施の形態において分析用デバイスを分析装置にセットした状態の要部斜視図
【図2】同実施の形態の分析用デバイスの分解斜視図
【図3】同実施の形態の分析装置の外観図
【図4】同実施の形態の分析装置の構成図
【図5】同実施の形態の分析装置の断面図
【図6】同実施の形態における分析用デバイスの回転停止位置を示す図
【図7】同実施の形態における分析用デバイスの希釈ユニット開封部の平面図と断面図
【図8】同実施の形態における分析用デバイスの注入口周辺の拡大斜視図とその正面図
【図9】同実施の形態における分析用デバイスのマイクロチャネル構成を示す平面図
【図10】同実施の形態における分析用デバイスの断面位置を示す平面図
【図11】同実施の形態における分析用デバイスの各部の断面図
【図12】同実施の形態における分析用デバイスの親水処理位置を示す平面図
【図13】同実施の形態における分析用デバイスの構成図
【図14】同実施の形態における分析用デバイスの注入過程および分離/計量過程の説明図
【図15】同実施の形態における毛細管キャビティ19を有した分離キャビティ18ならびに溢流流路22と連結流路21の分岐部の作用説明図
【図16】毛細管キャビティ19を有していない比較例の分離キャビティ18の作用説明図
【図17】同実施の形態における分析用デバイスの計量過程および混合過程の説明図
【図18】同実施の形態における分析用デバイスの混合過程の説明図
【図19】同実施の形態における分析用デバイスの希釈溶液移送過程および計量過程の説明図
【図20】同実施の形態における分析用デバイスの移送過程および試薬反応/測定過程の説明図
【図21】同実施の形態における分析用デバイスの移送過程および試薬反応/測定過程の説明図
【図22】同実施の形態における分析用デバイスの移送過程および試薬反応/測定過程の説明図
【図23】同実施の形態における分析用デバイスの溢流流路22と連結流路21との分岐部の拡大図とその要部の断面図
【図24】特許文献1の分析用デバイスの要部の平面図とその拡大図
【符号の説明】
【0094】
1 分析用デバイス
2 保護キャップ
3 ベース基板
4 カバー基板
5 希釈ユニット
6 開封ボタン
7 開封孔
8 ピン
9 排出孔
10 アルミシール
11 注入口
12,13 キャビティ
14 保持キャビティ(第2の保持部)
15 連結流路
16 溢流流路
17 毛細管キャビティ
18 分離キャビティ
19 毛細管キャビティ
20a,20b1,20b2,20c〜20i 空気孔
21,24 連結流路
22 溢流流路
23 計量流路(第1の保持部)
g1 連結流路21の厚み方向の断面寸法
g2 溢流流路22の厚み方向の断面寸法
w1 連結流路21の流れ方向と交差する方向の幅
w2 溢流流路22の流れ方向と交差する方向の幅
25,26,27 溢流キャビティ
28 毛細管部
29 測定スポット
30 操作キャビティ(第3の保持部)
31 リブ
32 保持キャビティ(第4の保持部,受容キャビティ)
33 毛細管部
34 連結流路
35 保持キャビティ
36 溢流流路
37 連結流路
38 測定スポット(操作キャビティ)
39 毛細管キャビティ(受容キャビティ)
40 毛細管キャビティ(第2の連結部)
41 連結流路(連結部)
42 リブ
43 測定スポット(操作キャビティ)
44 毛細管キャビティ(受容キャビティ)
45 連結流路
46 測定スポット
56 親水処理位置
57 血液
57a 血漿成分
57b 血球成分
58 キャビティ
59 連結部
61 第1反応液
62 第2反応液
63 第3反応液
64 毛細管キャビティ(第3の連結部)
100 分析装置
101 蓋
102 軸心
103 ロータ
104 モータ
105 レーザー光源
106 フォトディテクタ
107 回転駆動手段
108 制御手段
109 光学測定手段
110 演算部
111 表示部
150 試料液採取部
151 希釈液保持部
152 分離部
153 希釈液計量部
154 混合部
155 測定部
C1 左回転
C2 右回転
θ 傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心力によって試料液を測定スポットに向かって移送するマイクロチャネル構造を有し、前記測定スポットにおける反応物の読み取りに使用される分析用デバイスであって、
前記試料液を溶液成分と固体成分とに前記遠心力を用いて分離する分離キャビティと、
前記分離キャビティにて分離された前記固体成分の一部が移送されこれを保持する計量流路と、
前記計量流路と前記分離キャビティとの間に設けられ前記分離キャビティの試料液を移送する連結流路に連結される溢流流路と、
前記分離キャビティ内の分離された溶液成分を一時的に保持するように前記分離キャビティの内部に形成された毛細管キャビティと
を備えた分析用デバイス。
【請求項2】
前記連結流路の最外周位置に連通し前記分離キャビティに保持される試料液の液面よりも内周位置で屈曲するサイフォン構造を有する連結流路と、
前記連結流路の最外周位置よりも外周に位置し前記連結流路を介して分離キャビティと連通する溢流キャビティと
を備えた請求項1に記載の分析用デバイス。
【請求項3】
前記毛細管キャビティが、前記分離キャビティ内のどちらか一方の側面に形成されている
請求項1に記載の分析用デバイス。
【請求項4】
前記毛細管キャビティの一端が、前記分離キャビティ内に保持される試料液に浸かるように前記試料液の液面より外周位置まで形成されている
請求項1に記載の分析用デバイス。
【請求項5】
試料液を採取した請求項1に記載の分析用デバイスがセットされる分析装置であって、
前記分析用デバイスを軸心周りに回転させる回転駆動手段と、
前記回転駆動手段によって移送された溶液に基づく前記分析用デバイス内の反応物にアクセスして分析する分析手段とを備え、
前記回転駆動手段の回転と停止によって試料液を溶液成分と固体成分に分離し固体成分の一部を採取できるよう構成した
分析装置。
【請求項6】
請求項1に記載の分析用デバイスを用いた分析方法であって、
軸心を有するロータに前記分析用デバイスをセットし、前記ロータを回転させて前記分析用デバイスに点着された試料液を前記分離キャビティに移送して遠心分離し、前記ロータを停止させて遠心分離された後の試料液の溶液成分を前記分離キャビティの内部に形成された毛細管キャビティに保持するとともに、前記分離キャビティから連結通路へ流れた前記試料液の溶液成分と固体成分のうちの溶液成分を連結通路に連通した溢流流路で取り除き、固体成分を計量流路に移送するステップと、
前記ロータを回転させて前記計量流路内の固体成分と希釈溶液を混合するステップと、
前記ロータを回転させて読み取り位置に前記測定スポットが介在するタイミングに前記測定スポットの反応物にアクセスするステップと
を有する分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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