説明

分析用媒体

【課題】回転可能な構造を有し、内部に試料溶液が通る流路が設けられた分析用媒体であって、流路を通る試料溶液の蒸発を防ぎつつ、送液をスムーズに行うことができる分析用媒体を提供する。
【解決手段】分析用媒体10は、基板上に、試料注入口20と、この試料注入口20に連通する供給用液溜め部22と、この供給用液溜め部22よりも前記媒体の外周側に位置する受容用液溜め部23と、前記供給用液溜め部22と前記受容用液溜め部23とに連通する流路17とが設けられ、前記流路17と外部とを連通する接続口15,16がシーリングフィルム18,19で封止された状態で、分析用媒体10を回転させてその遠心力によって前記供給用液溜め部22から前記流路17を通して前記受容用液溜め部23に試料が流れるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転可能な構造を有し、内部に試料溶液が通過可能な流路が設けられた分析用媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料の分析の各工程は、独立した装置でのオペレーションが必要で、手間がかかった。また各工程はバッチ処理であることが多く、試料数の増大に比例して作業時間も増加していた。
【0003】
近年、試料分析の各工程の手間を省き、作業時間を短縮するための技術として、マイクロ統合分析システム(Micro Total Analysis System:以下、「μTAS」と略称する。)あるいはラボチップ(Lab-on-a-chip:以下「LOC」と略称する。)と呼ばれるデバイスが登場してきた。これらの技術は、これまで人手で行っていた各オペレーションやオペレーション間の試料の移動など分析に関わる一連の工程を1つの基板上で再現しようとするものである。具体的には、基板に細い流路を形成し、流路の分岐や合流、弁などによる送液制御や、混合、加熱、冷却などによる反応制御、分光学的あるいは電気的作用を応用した検出などが1つの基板上に形成されているデバイスである。
【0004】
μTASデバイスにおける問題の1つに、試料溶液を送液するため駆動力の問題がある。すなわち、小型化に限界のある送液用ポンプ等を用いずに送液することが望まれている。
【0005】
このような課題について、下記特許文献1には、回転する分析用ディスクに形成された流路内で、温度の異なる領域を交互に通過するように反応液を送液することによってポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase chain reaction:以下、「PCR」と略称する。)を進行させる分析用ディスクが開示されている。また、下記特許文献2には、PCRに適した微量分析を行うための微量システムプラットホームが開示されている。
【0006】
これらの従来技術においては、それらディスクやプラットホームに形成された微細な流路に溶液を注入し、回転により生じる遠心力をもって流路内に注入された試料溶液を送液する構成が採用されている。また、核酸を分析する反応を進行させるため、流路内に注入された試料溶液は所定の温度に加熱される。
【特許文献1】特開2005−295877号公報
【特許文献2】特表2003−502656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載の分析用ディスクでは、流路の末端に空気孔や注入口を有するため、送液に伴って溶液の最後尾側へ空気が流入し、先頭側からの空気の排出が行われるので、流路内での空気の圧縮や膨脹が起こらず送液がスムーズである。しかしながら、流路内の液体や蒸気の噴出を防ぐことができなかった。
【0008】
また、上記特許文献2に記載の微量分析を行うための方法および装置においては、流路の終端は空気孔および空気のみを通過し液体を通過させないほどの細い空気流路を有していることによって、溶液を送液する際の空気の排出を可能にしながら、液体の噴出を防ぐことを可能にしている。しかしながら、この技術においても依然として、蒸気の噴出は防ぐことができなかった。従って、流路内の水分は、加熱等により気化して空気孔や注入口から出ていくため、試料は時間と共に濃度変化し、最終的には乾燥に至るおそれがあった。
【0009】
したがって、本発明の目的は、μTASデバイスとして利用できる分析用媒体であって、流路を通る試料溶液の蒸発を防ぎつつ、送液をスムーズに行うことができる分析用媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の第1の分析用媒体は、回転可能な媒体に、試料注入口と、この試料注入口に連通する供給用液溜め部と、受容用液溜め部と、前記供給用液溜め部と前記受容用液溜め部とに連通する流路とが設けられ、回転による遠心力によって前記供給用液溜め部から前記流路を通して前記受容用液溜め部に試料が流れるように構成された分析用媒体において、
前記媒体は、基板を主体にして構成されており、前記基板には、前記流路と、前記流路の一方の端部に連通する第1接続口と、前記流路の他方の端部に連通する第2接続口とが形成されており、
前記基板表面には、前記第1接続口を封止する第1シーリングフィルムと、前記第2接続口を封止する第2シーリングフィルムとが貼着されており、
前記第1シーリングフィルムと前記基板表面との間には、前記第1接続口に連通する袋状の空間からなる前記供給用液溜め部が形成され、前記第2シーリングフィルムと前記基板表面との間には、前記第2接続口に連通する袋状の空間からなる前記受容用液溜め部が形成されており、
前記第1シーリングフィルムには、前記試料注入口と、前記試料注入口と前記供給用液溜め部とに連通する試料連通部が形成され、前記第1シーリングフィルムは、前記試料注入口を通して前記供給用液溜め部に試料を充填した後に、前記試料連通部を封止可能とされていることを特徴とする。
【0011】
上記第1の分析用媒体によれば、第1シーリングフィルムの試料注入口から試料を注入すると、試料は第1接続口に連通する袋状の空間からなる供給用液溜め部に充填される。試料を注入した後、第1シーリングフィルムの試料注入口と供給用液溜め部とに連通する試料連通部を封止すると、供給用液溜め部と、受容用液溜め部と、それらに連通する流路とで構成される試料通路が密閉又は閉塞された状態になる。
【0012】
この状態で、分析用媒体を回転させて、試料に遠心力を作用させると、試料は、分析用媒体の供給用液溜め部から、前記流路を通って、受容用液溜め部に流れる。このとき、供給用液溜め部は、減圧状態になり袋状の空間を形成する第1シーリングフィルムが基板表面に近づくように萎み、容積が減少する。一方、受容用液溜め部は、増圧状態になり袋状の空間を形成する第2シーリングフィルムが基板表面から離れるように膨らみ、容積が増加する。このような作用により、供給用液溜め部から受容用液溜め部に流路を通じて試料を流動させることができる。
【0013】
そして、試料が流路を通る際に、例えばその試料が加熱されても、第1シーリングフィルムと第2シーリングフィルムとで試料通路が密閉又は閉塞されているので、試料中の溶液等が蒸発して外気に放出されることがなく、試料濃度等が変化することを防止できる。試料通路の密閉度は、分析の精度に応じて適宜設計すればよく、シーリングフィルム等の貼着でも目的を果たすことができる。
【0014】
上記第1の分析用媒体においては、前記受容用液溜め部は、前記供給用液溜め部に対して前記媒体の外周側に位置するように形成され、前記第2接続口は、前記第1接続口に対して前記媒体の外周側に位置するように形成されていることが好ましい。これによれば、試料にかかる遠心力が、試料が供給側から受容側に移行するにつれ試料供給側と試料受容側で平衡状態に達してしまい、そのことにより流れが止まってしまうのを防ぐことができる。
【0015】
上記第1の分析用媒体においては、前記媒体は、第1基板部材と第2基板部材を接合して構成された基板を主体にして構成されており、前記第1基板部材と前記第2基板部材との間に前記流路が形成されていることが好ましい。これによれば、少なくとも1の基板部材に彫刻状の溝を成型し、他の基板部材を張り合わせるように接合するなどして、容易に基板に流路を形成することができる。
【0016】
上記第1の分析用媒体においては、前記媒体は、基板部材とシーリング部材を接合して構成された基板を主体にして構成されており、前記基板部材と前記シーリング部材との間に前記流路が形成されていることが好ましい。これによれば、少なくとも1の基板部材に彫刻状の溝を成型し、シーリング部材を張り合わせるように接合するなどして、容易に基板に流路を形成することができる。
【0017】
第1の分析用媒体においては、前記第1シーリングフィルムは、前記試料連通部において、前記第1シーリングフィルムを前記基板に溶着又は接着させることによって封止可能とされていることが好ましい。これによれば、試料注入口から試料を注入した後、試料注入口と供給用液溜め部とを連通させる流路の部分を基板に溶着又は接着することにより封止し、試料通路を容易かつ確実に密閉又は閉塞された状態にすることができる。
【0018】
また、本発明の第2の分析用媒体は、回転可能な媒体に、試料注入口と、この試料注入口に連通する供給用液溜め部と、受容用液溜め部と、前記供給用液溜め部と前記受容用液溜め部とに連通する流路とが設けられ、回転による遠心力によって前記供給用液溜め部から前記流路を通して前記受容用液溜め部に試料が流れるように構成された分析用媒体において、
前記媒体は、基板を主体にして構成されており、前記基板には、前記供給用液溜め部と、前記受容用液溜め部と、前記流路と、前記供給用液溜め部に連通する第1接続口と、前記受容用液溜め部に連通する第2接続口とが形成されており、
前記基板表面には、前記第1接続口及び前記第2接続口を封止する1枚のシーリングフィルムが貼着されており、
前記シーリングフィルムと前記基板表面との間には、前記第1接続口と前記2接続口とを連通させる連通空隙が形成されており、
前記シーリングフィルムには、前記試料注入口と、前記試料注入口と前記第1接続口とに連通する試料連通部が形成され、前記シーリングフィルムは、前記試料注入口を通して前記供給用液溜め部に試料を充填した後に、前記試料連通部を封止可能とされていることを特徴とする。
【0019】
上記第2の分析用媒体によれば、シーリングフィルムの試料注入口から試料を注入すると、試料は第1接続口を通って供給用液溜め部に充填される。試料を注入した後、試料注入口と第1接続口とに連通する試料連通部を封止すると、供給用液溜め部と、受容用液溜め部と、それらに連通する流路とで構成される試料通路が密閉又は閉塞された状態になる。
【0020】
この状態で、分析用媒体を回転させて、試料に遠心力を作用させると、試料は、分析用媒体の供給用液溜め部から、前記流路を通って、受容用液溜め部に流れる。このとき、供給用液溜め部では試料の流出によって圧力減少となり、受容用液溜め部では試料の流入によって圧力増加となるが、受容用液溜め部に封入されていた空気等が、第2接続口から、連通空隙に受容される。更に第1接続口を通って、供給用液溜め部に流入するので、試料を比較的容易に流動させることができる。
【0021】
そして、流路を通る際に、例えば試料が加熱されてもシーリングフィルムによって試料通路が密閉又は閉塞されているので、試料中の溶液等が蒸発して外気に放出されることがなく、試料濃度等が変化することを防止できる。
【0022】
上記第2の分析用媒体においては、前記受容用液溜め部は、前記供給用液溜め部に対して前記媒体の外周側に位置するように形成され、前記第2接続口は、前記第1接続口に対して前記媒体の外周側に位置するように形成されていることが好ましい。これによれば、試料にかかる遠心力が、試料が供給側から受容側に移行するにつれ試料供給側と試料受容側で平衡状態に達してしまい、そのことにより流れが止まってしまうのを防ぐことができる。
【0023】
上記第2の分析用媒体においては、前記媒体は、第1基板部材と第2基板部材を接合して構成された基板を主体にして構成されており、前記第1基板部材と前記第2基板部材との間に前記流路が形成されていることが好ましい。これによれば、少なくとも1の基板部材に彫刻状の溝を成型し、他の基板部材を張り合わせるように接合するなどして、容易に基板に流路を形成することができる。
【0024】
上記第1の分析用媒体においては、前記媒体は、基板部材とシーリング部材を接合して構成された基板を主体にして構成されており、前記基板部材と前記シーリング部材との間に前記流路が形成されていることが好ましい。これによれば、少なくとも1の基板部材に彫刻状の溝を成型し、シーリング部材を張り合わせるように接合するなどして、容易に基板に流路を形成することができる。
【0025】
上記第2の分析用媒体においては、前記シーリングフィルムは、前記試料連通部において、前記シーリングフィルムを前記基板に溶着又は接着させることによって封止可能とされていることが好ましい。これによれば、試料注入口から試料を注入した後、試料注入口と連通空隙になる部分とを連通させる流路の部分を基板に溶着又は接着させることにより封止し、試料通路を容易かつ確実に密閉又は閉塞された状態にすることができる。
【0026】
本発明の分析用媒体においては、前記供給用液溜め部と前記受容用液溜め部とを連結する流路は、前記媒体の半径方向に沿って、外方及び内方に交互に折り返しながら、全体として周方向に向かうジグザグ部を有しており、試料の分析の際に、前記ジグザグ部の内周側と外周側とが異なる温度領域に配置されるものであることが好ましい。これによれば、試料は、流路のジグザグ部を通るときに、温度の高い領域と低い領域とを交互に通過することになるので、例えばPCR法によって、試料中に存在する特定のDNAを選択的に増幅させて検出する分析方法などに好適に利用することができる。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように、本発明の分析用媒体によれば、供給用液溜め部と、受容用液溜め部と、それらに連通する流路とで構成される試料通路を外気と遮断した閉塞状態で、試料を供給用液溜め部から流路を介して受容用液溜め部に流すことができ、試料を封入した状態で流路内を流動させて分析することが可能となる。このため、流路を通るときに試料を加熱する必要がある場合でも、試料中の溶液等が蒸発して外気に放出されることがなく、試料濃度等が変化することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
まず、図1〜6を参照して、本発明の分析用媒体の第1実施形態を説明する。
【0029】
図1に示すように、この分析用媒体10は、ほぼ同径の丸い円板からなる第1基板部材11と、第2基板部材12とを接合して構成されている。第1基板部材11、第2基板部材12の材質としては、特に限定されないが、例えばアクリル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどの熱可塑性樹脂が好ましく使用される。試料の分析を光検出手段で行う場合、第1基板部材11、第2基板部材12のうち、少なくとも一方は光透過性の材質であることが好ましく、他方には金属蒸着膜などの反射層が設けられていてもよい。
【0030】
第1基板部材11、第2基板部材12のそれぞれの中心には、回転軸が挿通される支持孔13,14が形成されている。また、第1基板部材11には、貫通孔からなる、第1接続口15と第2接続口16とが形成されている。第1接続口15は、第2接続口16よりも内周側、すなわち支持孔13に近接した位置に配置されている。
【0031】
第2基板部材12の内面(図1の上面)には、線状の溝からなる流路17が形成されている。流路17は、前記第1基板部材11の第1接続口15に対応する位置まで伸びる一方の端部17aと、前記第1基板部材11の第2接続口16に対応する位置まで伸びる他方の端部17bと、上記それぞれの端部17a、17bの間にあって、半径方向に沿って、外方及び内方に交互に折り返しながら、全体として周方向に向かうジグザグ部17cとを有している。
【0032】
図1,2に示すように、第1基板部材11の表面(図1の上面)には、第1接続口15を覆う第1シーリングフィルム18と、第2接続口16を覆う第2シーリングフィルム19とが、貼着される。図1には、貼着する前の状態が、図2には、貼着された状態が、描かれている。第1シーリングフィルム18及び第2シーリングフィルム19のドット状のハッチングが付された部分Aは、接着、溶着等の手段で、第1基板部材11に貼着する又はされた部分を表している。また、第1シーリングフィルム18の点線からなる小円Bは、第1接続口15に整合する部分を表し、第2シーリングフィルム19の点線からなる小円Cは、第2接続口16に整合する部分を表している。
【0033】
更に、第1シーリングフィルム18の点線からなる大円Dの内側は、第1基板部材11との間に、第1接続口15を囲む袋状の空間からなる供給用液溜め部22を形成する部分をなしている。その断面の構造が図3に示される。また、第2シーリングフィルム19の点線からなる大円Eの内側は、第1基板部材11との間に、第2接続口16を囲む袋状の空間からなる受容用液溜め部23を形成する部分をなしている。その断面の構造が図4に示される。
【0034】
第1シーリングフィルム18には、試料注入口20が形成されており、この試料注入口20は、第1基板部材11に貼着されない細い線状部分で形成された試料連通部21を介して、前記供給用液溜め部22に連通している。その結果、図3に示すように、試料注入口20は、試料連通部21を介して、供給用液溜め部22に連通し、供給用液溜め部22は、第1接続口15を介して、流路17の一方の端部17aに連通している。
【0035】
また、図4に示すように、第2シーリングフィルム19の内側は、第2接続口16を囲む袋状の空間からなる受容用液溜め部23をなし、この受容用液溜め部23は、第2接続口16を介して、流路17の他方の端部17bに連通している。
【0036】
なお、第1シーリングフィルム18と第2シーリングフィルム19とが連結された1枚のシーリングフィルムで構成されていてもよい。
【0037】
シーリングフィルムは、低融点材料のポリプロピレン、ポリエチレン、又はそれらと高融点材料のナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)とのラミネートフィルムなどを用いることが好ましい。また、ラミネートフィルムにされたナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)の表面には、アルミナ、シリカなどの透明向き酸化物が蒸着されたものを使用することが好ましい。
【0038】
こうして、試料注入口20、試料連通部21、供給用液溜め部22、第1接続口15、流路17、第2接続口16、受容用液溜め部23からなる、1つの試料の通路が構成されている。この通路において、供給用液溜め部22は、受容用液溜め部23よりも内周側に位置しており、両液溜め部22,23の間に、ジグザグ部17cを有する流路17が配置された形状をなしている。
【0039】
そして、図5に示すように、分析用媒体10には、上記のような試料の通路が、周方向に沿って複数、この実施形態の場合は8つ並んで形成されており、同時に8つの試料の分析が行えるようになっている。
【0040】
図6に示すように、この実施形態の場合、各試料通路における流路17のジグザグ部17cは、その内周側イが90〜99℃に設定される高温領域となり、外周側ロが50〜80℃に設定される低温領域となるように構成されている。上記各温度領域は、分析用媒体10が設置されるターンテーブル又はそれに対向する部分に、例えば電熱線、ペルチェ素子、ランプヒーター等からなる加熱手段を有する温度制御手段を設けることによって形成することができる。
【0041】
図7には上記流路17のジグザグ部17cの他の態様を示す。この態様では各試料通路における流路17のジグザグ部17cは、分析用媒体10の半径方向に沿って周方向の左右に交互に折り返しながら、全体として内周側から外周側に向うように配される。この場合、上記各温度領域は、分析用媒体10が設置されるターンテーブルに、上記温度制御手段を設けることによって、周方向の右側と左側とで温度設定を異なるように形成することができる。
【0042】
上記構成によれば、流路17を通過する試料が、高温領域イと、低温領域ロとを繰り返し通過することになるので、PCRによって増幅されたDNAを検出する分析装置などに好適に用いることができる。
【0043】
次に、上記構成からなる分析用媒体10の使用方法について説明する。
【0044】
まず、分析用の試料を、図示しない注射器を用いて試料注入口20から所定量注入する。この場合、注射器の吐出口には、試料注入口20の周囲に密接する弾性リングを設けておき、試料がこぼれることなく、試料注入口20を通して第1シーリングフィルム18の内周に注入されるようにする。
【0045】
試料として、例えばPCRを行う場合には、PCR法により増幅される特定のDNAを分析するための試薬を含む溶液が使用される。具体的には、増幅目的となる鋳型DNA、至適温度が高温であることを特徴とし鋳型に相補的なDNAを合成する酵素である熱抵抗性DNAポリメラーゼ、鋳型DNA上に選択される2ヶ所の特定配列の各々に二重鎖形成能を有する2種類のプライマーDNA、及びDNAポリメラーゼの基質となるヌクレオチドを含む溶液が使用される。
【0046】
また、リアルタイムPCRを行う場合には、核酸を含む分析用試料として更に、二重鎖DNAとの結合によって蛍光強度が増大する色素(蛍光色素)や、色素・クエンチャーが近傍に配置されDNAの伸長反応によって色素・クエンチャーの解離が起こるよう設計された核酸プローブやドナー色素とアクセプター色素がそれぞれ付加された二種類の核酸プローブが隣接する領域にハイブリダイゼーションすることによって色素間で蛍光共鳴エネルギー移動現象を起こすように設計された核酸プローブを含めることができる。核酸を含む分析用試料に混合される蛍光色素や核酸プローブには特に制限はなく、用途に合わせて選択することができる。例えば、蛍光色素としては、SYBR Green I(Molecular Probes社製)が好ましく例示できる。また、核酸プローブとしては、任意の配列を有するTaqManプローブ(Roche社製)、Hybridization Probes(Roche社製)等が好ましく例示できる。定量の目的となる鋳型DNAの由来や塩基配列には特に制限はなく、ヒトの血液、尿、唾液、精液、乳汁などから採取されたものでもよく、また、ヒト以外の生物由来のものであってもよい。
【0047】
試料注入口20から注入された試料は、試料連通部21を通って供給用液溜め部22に充填される。所定量の試料を注入したら、図1〜3に示されるヒータHによって、試料連通部21の部分で第1シーリングフィルム18を第1基板部材11に熱溶着して、試料連通部21を閉塞する。なお、シーリングフィルムと基板との接合は、接着、熱圧着等の方法でも行うことができる。その結果、供給用液溜め部22、流路17、及び受容用液溜め部23に通じる試料の通路が、外気と遮断された状態となる。
【0048】
そして、分析用媒体30を図示しない回転テーブルに載せ、図示しない温度制御手段によって、前記実施形態と同様に、流路17のジグザグ部17cの内周側イを高温領域とし、外周側ロを低温領域とする(図6参照)。
【0049】
この状態で、図示しない回転テーブルを回転させて、分析用媒体10を所定の速度で回転させると、供給用液溜め部22に充填された試料が、遠心力の作用で、第1接続口15から流路17の一方の端部17aを通り、ジグザグ部17cを通り、更に他方の端部17bを通って、第2接続口16から受容用液溜め部23に流入するように流れる。このとき、供給用液溜め部22では、図3に示す第1シーリングフィルム18が第1基板部材11に近づくように萎んで容積が減少し、受容用液溜め部23では、図4に示す第2シーリングフィルム19が第1基板部材11から離れるように膨らんで容積が増大するので、試料の流動が可能となる。
【0050】
そして、試料が流路17のジグザグ部17cを通るときに、高温領域イと、低温領域ロとを繰り返し通過することにより、試料は、それらの領域に応じた温度環境に曝されることとなる。したがって、例えば、PCRを行う場合には、高温領域イが、流路内を移動する試料をDNAの解離温度以上に加熱できるように形成され、低温領域ロが、流路内を移動する試料をDNAの解離温度以下に制御できるように形成される。そして、各設定温度の領域の面積あるいは流路長の比が、試料が通過する時間の比が高温領域:低温領域で1:2〜1:3となるように形成される。更に、回転速度を調節することで、その遠心力による送液の流速を、1つの温度サイクルを10秒〜1分かけて通過するように制御することができる。このようにして、PCRのための所望の温度サイクルを付与することができる。このとき、試料の通路は、第1シーリングフィルム18及び第2シーリングフィルム19によって封止され、外気と遮断するように密閉又は閉塞されているので、試料が流路17のジグザグ部17cを通るときに加熱されても、蒸気となって外部に流出することがなく、試料の濃度等が変化することがない。
【0051】
なお、上記実施形態においては、流路17が第2基板部材12の接合側表面に溝状をなして形成されているが、流路17を第1基板部材11の接合側裏面に溝状をなして形成してもよい。
【0052】
図8には、上記分析用媒体10の他の態様を示す。この態様では、流路17が、基板部材11aの裏面(図8の下面)に溝状をなして形成されている。そして、基板部材11aに形成された第1接続口15、第2接続口16、及び流路17の全体をシーリング部材12aで裏面側から被い、流路17の通路を確保した状態で密閉するように貼着する。
【0053】
そして、基板部材11aの表面(図8の上面)には、第1接続口15を覆う第1シーリングフィルム18と、第2接続口16を覆う第2シーリングフィルム19とが、貼着される。第1シーリングフィルム18及び第2シーリングフィルム19のドット状のハッチングが付された部分Aは、接着、溶着等の手段で、第1基板部材11に貼着する又はされた部分を表している。また、第1シーリングフィルム18の点線からなる小円Bは、第1接続口15に整合する部分を表し、第2シーリングフィルム19の点線からなる小円Cは、第2接続口16に整合する部分を表している。
【0054】
更に、第1シーリングフィルム18の点線からなる大円Dの内側は、基板部材11aとの間に、第1接続口15を囲む袋状の空間からなる供給用液溜め部22を形成する部分をなしている。図9にはその断面の構造が、図3におけるIII−III矢示線に沿った断面図と同じ配置での断面図に示される。また、第2シーリングフィルム19の点線からなる大円Eの内側は、基板部材11aとの間に、第2接続口16を囲む袋状の空間からなる受容用液溜め部23を形成する部分をなしている。図10にはその断面の構造が、図4におけるIV−IV矢示線に沿った断面図と同じ配置での断面図に示される。
【0055】
上記構成により、2つの基板部材を接合することなく1枚の基板部材で、本件発明の分析用媒体10を構成することができる。
【0056】
上記シーリングフ部材の材質に特に制限はないが、試料の通路が外気と遮断された状態を形成するためには、上記シーリングフィルムと同様の材質が好ましい。
【0057】
なお、上記基板部材に形成される上記流路を形成するための溝は、上述した彫刻状の溝に相当する部分を除く部分に基板と同種の合成樹脂等で印刷することにより形成することもできる。あるいは、パイプ状に樹脂で成型した別体のものを、基板部材に貼着することで、上記基板部材に形成される上記流路を構成してもよい。
【0058】
次に、図11〜17を参照して、本発明の分析用媒体の第2実施形態を説明する。なお、前記実施形態と実質的に同一部分には、同符号を付して説明する。
【0059】
図11に示すように、この分析用媒体30は、前記実施形態と同様に、第1基板部材11と第2基板部材12とを接合して構成されており、それぞれの基板部材11,12には、支持孔13,14が形成されている。
【0060】
第2基板部材12には、供給用液溜め部22と、受容用液溜め部23と、これらに連通する流路17とが、それぞれ溝状をなして形成されている。流路17は、一方の端部17aが供給用液溜め部22に連通し、他方の端部17bが受容用液溜め部23に連通し、中間部がジグザグ部17cをなしている。
【0061】
更に、供給用液溜め部22からは供給路31が伸びており、受容用液溜め部23からは返送路32が伸びていて、供給路31の端部が外周側、返送路32の端部が内周側に位置して、それぞれの端部が近接して配置されている。
【0062】
第1基板部材11には、供給路31の端部に対応する位置に第1接続口15が形成され、返送路32の端部に対応する位置に第2接続口16が形成されている。
【0063】
そして、図12を併せて参照すると、第1基板部材11表面には、上記第1接続口15と、第2接続口16とを覆うように、1枚のシーリングフィルム33が貼着されている。シーリングフィルム33において、図11,12中のドット状のハッチングが付された部分Aは、接着、溶着等の手段で、第1基板部材11に貼着された部分を表し、また、点線からなる小円Bは、第1接続口15に整合する部分を表し、点線からなる小円Cは、第2接続口16に整合する部分を表している。また、シーリングフィルム33には、試料注入口20が形成されている。
【0064】
シーリングフィルム33の内部は、第1接続口15、第2接続口16及び試料注入口20に連通しており、試料注入口20から第1接続口15へ試料を流す供給流路をなすと共に、試料が流路に送液されるにつれて流路内から押し出される空気等を受容する、連通空隙を構成している。したがって、第2接続口16から押し出された空気は連通空隙に受容され、更にその連通空隙に連通する第1接続口15に返送される。
【0065】
すなわち、図13に示すように、試料注入口20は、シーリングフィルム33の内部を通って第1接続口15に連通しており、試料注入口20から注入された試料は、シーリングフィルム33の内部を通り、更に第1接続口15を通って、供給路31に流入し、供給用液溜め部22に流れ込むようになっている。なお、試料注入口20は、第2接続口16にも連通しているが、試料注入口20と第2接続口16との間に隔壁状に伸びる貼着部分Aaによって、第2接続口16には試料が流れ込みにくくされている。この試料注入口20の位置は、図11中に示されるヒータHに対して略平行にずらした位置に適宜変更してもよく、あるいは、その位置より小円Bに近い位置に適宜変更してもよい。
【0066】
また、図14に示すように、受容用液溜め部23から押出された空気等は、返送路32を通り、第2接続口16からシーリングフィルム33の内部空間の連通空隙に流入する。更にはこの内部空間の連通空隙を通って、第1接続口15に入り、更に供給路31を通って、供給用液溜め部22に返送されるようになっている。
【0067】
次に、上記構成からなる分析用媒体30の使用方法について説明する。
【0068】
まず、分析用の試料を、図示しない注射器を用いて試料注入口20から所定量注入する。試料注入口20から注入された試料は、前述したように、シーリングフィルム33の内部空間を通って、第1接続口15から供給路31に流入し、供給用液溜め部22に流れ込む。試料を注入したら、例えばヒータHによって、試料注入口20と、第1接続口15及び第2接続口16との間で、シーリングフィルム33を第1基板部材11に熱溶着させ、第1接続口15及び第2接続口16をシーリングフィルム33で封止する。このとき、シーリングフィルム33の内部には、第1接続口15と第2接続口16を連通させる連通空隙34が形成される(図12,14参照)。なお、シーリングフィルムの基板との接合は、接着、熱圧着等の方法でも行うことができる。
【0069】
そして、分析用媒体30を図示しない回転テーブルに載せ、図示しない温度制御手段によって、前記実施形態と同様に、流路17のジグザグ部17cの内周側イを高温領域とし、外周側ロを低温領域とする(図6参照)。
【0070】
この状態で、図示しない回転テーブルを回転させ、分析用媒体30を回転させることにより、遠心力の作用により、供給用液溜め部22に貯留された試料が、外径方向に移動し、流路17を通って、受容用液溜め部23に流れ込む。このとき、受容用液溜め部23内に元々充填されていた空気等は、流路17から流れ込む試料によって押し出され、返送路32を通り、第2接続口16を通り、連通空隙34に受容される。更に第1接続口15に流れ込み、供給路31を通って、供給用液溜め部22に返送される。これによって、試料が流路17内を流動することが可能となる。
【0071】
そして、試料が流路17のジグザグ部17cを通るときに、高温領域イと、低温領域ロとを繰り返し通過することにより、前記と同様に、例えば、PCRを行う場合には、PCRのための所望の温度サイクルを付与することができる。このとき、試料の通路は、シーリングフィルム33によって封止され、外気と遮断するように密閉又は閉塞されているので、試料が流路17のジグザグ部17cを通るときに加熱されても、蒸気となって外部に流出することがなく、試料の濃度等が変化することがない。
【0072】
なお、上記実施形態においては、供給用液溜め部22、流路17、受容用液溜め部23が、第2基板部材12の接合側表面に溝状をなして形成されているが、これらを第1基板部材11の接合側表面に溝状をなして形成してもよい。
【0073】
図15には、上記分析用媒体30の他の態様を示す。この態様では、流路17が、基板部材11aの裏面(図15の下面)に溝状をなして形成されている。そして、基板部材11aに形成された第1接続口15、第2接続口16、及び流路17の全体をシーリング部材12aで裏面側から被い、流路17の通路を確保した状態で密閉するように貼着する。
【0074】
そして、基板部材11a表面には、上記第1接続口15と、第2接続口16とを覆うように、1枚のシーリングフィルム33が貼着されている。シーリングフィルム33において、図11,12中のドット状のハッチングが付された部分Aは、接着、溶着等の手段で、基板部材11aに貼着された部分を表し、また、点線からなる小円Bは、第1接続口15に整合する部分を表し、点線からなる小円Cは、第2接続口16に整合する部分を表している。また、シーリングフィルム33には、試料注入口20が形成されている。
【0075】
シーリングフィルム33の内部は、第1接続口15、第2接続口16及び試料注入口20に連通しており、試料注入口20から第1接続口15へ試料を流す供給流路をなすと共に、試料が流路に送液されるにつれて流路内から押し出される空気等を受容する、連通空隙を構成している。したがって、第2接続口16から押し出された空気は連通空隙に受容され、更にその連通空隙に連通する第1接続口15に返送される。
【0076】
図16には図3におけるIII−III矢示線に沿った断面図と同じ配置での断面図を示す。この図16に示すように、基板部材11aにシーリング部材12aを裏面側から貼着することで、試料注入口20は、シーリングフィルム33の内部を通って第1接続口15に連通しており、試料注入口20から注入された試料は、シーリングフィルム33の内部を通り、更に第1接続口15を通って、供給路31に流入し、供給用液溜め部22に流れ込むような構成とされている。
【0077】
また、図17には図4におけるIV−IV矢示線に沿った断面図と同じ配置での断面図を示す。この図17に示すように、基板部材11aにシーリング部材12aを裏面側から貼着することで、受容用液溜め部23から押出された空気等は、返送路32を通り、第2接続口16からシーリングフィルム33の内部空間の連通空隙に流入するような構成とされている。更にはこの内部空間の連通空隙を通って、第1接続口15に入り、更に供給路31を通って、供給用液溜め部22に返送されるようになっている。
【0078】
上記構成により、2つの基板部材を接合することなく1枚の基板部材で、本件発明の分析用媒体30を構成することができる。
【0079】
なお、上述した分析用媒体10と同様、上記シーリングフ部材の材質に特に制限はないが、試料の通路が外気と遮断された状態を形成するためには、上記シーリングフィルムと同様の材質が好ましい。また、上記基板部材に形成される上記流路を形成するための溝は、上述した彫刻状の溝に相当する部分を除く部分に基板と同種の合成樹脂等で印刷することにより形成することもできる。あるいは、パイプ状に樹脂で成型した別体のものを、基板部材に貼着することで、上記基板部材に形成される上記流路を構成してもよい。
【0080】
試料を分析するための検出手段としては、一般的な吸光光度計、蛍光光度計と同様の光学系による光検出手段を用いることができる。これによれば、媒体内の試料を回収することなく試料を分析することが可能である。例えば、蛍光色素 SYBR green を用いてPCRを行う場合を例にあげると、前記蛍光色素は、PCRにより合成される二本鎖DNAに挿入(インターカレート)して蛍光を生じるようになるので、一般的な蛍光励起・検出手段を用いてその蛍光強度を測定して、PCRにより合成される二本鎖DNAの生成量を検出することができる。なお、流路の複数点での測定を可能にするためには、媒体を移動させて該測定点を検出手段の位置に整合する位置に移動させてもよく、光検出手段のほうを移動させてもよく、または、それらの両方の方法を組み合わせて採用することもできる。
【0081】
光学系による光検出手段の光源としては、キセノンランプやハロゲンランプ、および半導体レーザーが例示できる。また光学系の受光器としては光電子増倍管やCCD、フォトダイオードなどが例示できる。分光手段は、プリズムやフィルター、グレーティング、スリット、ビームスプリッタ、レンズ、ミラー等で構成されている。吸光度の測定は、測定点に光を通過させても良いし、反射させても良い。蛍光の検出は任意の効率よい場所に受光器を配せば良い。濁度の測定は基本的に吸光度の測定と同じである。
【実施例】
【0082】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、これらの実施例において製造されたディスク状の分析用媒体は本発明の一例であって、本発明はこれに限定されるものではない。
【0083】
<製造例1>
図1〜5に図示される構造の分析用媒体を下記の条件で製造した。
【0084】
第1基板部材11として、第1接続口15及び第2接続口16とされる直径3mmφの孔を有するポリカーボネート基板で、外径120mmφ、内径15mmφ、厚さ500μmのものを射出成型で成型した。なお、両接続口とされる直径3mmφの孔は、後述するように成形される第2基板部材12上の流路の両末端部17a,17bに整合する位置に成型した。
【0085】
第2基板部材12として、流路17とされる溝を有するポリカーボネート基板で、外径120mmφ、内径15mmφ、厚さ500μmのものを射出成型で成型した。流路17の形状としては、幅200μm、高さ30μmの流路が長さ10mmで折り返し、10往復して合計200mmの長さを有する形状の流路とし、流路と流路の間の壁は幅200μmとした。そして、その流路17のジグザグ部を、ディスク状の媒体の中心から40mmから50mmの範囲に位置するように配し、周方向に沿って8つ並べて成型した。
【0086】
第1シーリングフィルム18として、試料注入口20となる直径2mmφの孔を有する変性ポリプロピレン/シリカ/ポリカーボネート(30μm/1μm/100μm)のラミネートフィルムを、15mm×15mmの大きさで打ち抜き成型した。なお、ラミネートフィルムの変性ポリプロピレンが基板と接着するためのシーラントとなる。
【0087】
第2シーリングフィルム19として、変性ポリプロピレン/シリカ/ポリカーボネート(30μm/1μm/100μm)のラミネートフィルムを、15mm×15mmの大きさで打ち抜き成型した。
【0088】
図1に示される配置となるように、成型した両基板を均等に加圧しながら加熱して圧着した。圧力は106Pa、温度は130℃とし、1分間加熱加圧した。更に第2の基板の上から、各シーリングフィルム18,19を、150℃でヒートシールにより貼着部の形状(図1,2,5中、ドット状のハッチングが付された部分A)に沿って貼着した。このとき、第1シーリングフィルム18の非接着部が10mmφの供給用液溜部22を形成するとともに、試料注入口20までの試料連通部21を形成するにように貼着した。また、第2シーリングフィルム19の非接着部が10mmφの受容用液溜部23を形成するように貼着した。
【0089】
<実施例1>
製造例1で製造した分析用媒体を用いて以下の試験を行った。
【0090】
試料注入口20からOリングを介してマイクロシリンジで純水約10μLを注入して供給用液溜部22に溜めた後、試料注入口20と供給用液溜部22とのほぼ中間の位置で、試料連通部21を焼きごて(図中、Hで示す。)で熱封止した。このようにして分析用媒体上の8つの流路全てに純水を注入し、熱封止した。この分析用媒体を、図18に示すように、モータ43により回転する回転テーブル42と、この回転テーブル42上に配置されたランプ41からなる加熱手段とを有する分析用媒体加熱回転装置に設置して、分析用媒体を95℃に加熱して10分静置した後、下記表1に示すような所定の回転数、時間で回転させた。所定時間経過後、分析用媒体の回転を止め、送液された純水の先端の位置を、供給用液溜部22の出口から純水先端までの距離として、計測した。また、注入した純水の減少量について調べるために、純水注入後の媒体全体の質量を測定した後、回転速度1000rpmで40秒間回転させ、分析用媒体の回転を止め、95℃で分析用媒体を保持して30分静置した後、分析用媒体を回転加熱装置から外し、常温まで放冷した後、分析用媒体全体の質量を再度測定した。それらの結果を下記表1,2に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

【0093】
表1に明らかなように、回転による遠心力によって、製造例1で製造した分析用媒体の流路に純水を送液することができた。また、回転速度を1000、1250、1500rpmと変化させると、その回転速度に応じた送液の速さで純水が送液された。更に、表2に明らかなように、分析用媒体全体の質量の減少は微小であり分析用媒体を一定時間95℃に加熱しても流路から水や蒸気が漏洩しないことが明らかとなった。
【0094】
<製造例2>
図11〜14に図示される構造の分析用媒体を下記の条件で製造した。
【0095】
第1基板部材11として、第1接続口15及び第2接続口16とされる直径3mmφの孔を有するポリカーボネート基板で、外径120mmφ、内径15mmφ、厚さ500μmのものを射出成型で成型した。なお、両接続口とされる直径3mmφの孔は、後述するように成形される第2基板部材12上の供給路31,返送路32に整合する位置に成型した。
【0096】
第2基板部材12として、流路17、供給用液溜部22、受容用液溜部23、供給路31、及び返送路32とされる深さ30μmの溝を有するポリカーボネート基板で、外径120mmφ、内径15mmφ、厚さ500μmのものを射出成型で成型した。流路17の形状としては、幅200μm、高さ30μmの流路が長さ10mmで折り返し、10往復して合計200mmの長さを有する形状の流路とし、流路と流路の間の壁は幅200μmとした。そして、その流路17のジグザグ部を、ディスク状の媒体の中心から40mmから50mmの範囲に位置するように配し、周方向に沿って8つ並べて成型した。
【0097】
シーリングフィルム33として、試料注入口20となる直径2mmφの孔を有する変性ポリプロピレン/シリカ/ポリカーボネート(30μm/1μm/100μm)のラミネートフィルムを、15mm×15mmの大きさで打ち抜き成型した。なお、ラミネートフィルムの変性ポリプロピレンが基板と接着するためのシーラントになる。
【0098】
図11に示される配置となるように、成型した両基板を均等に加圧しながら加熱して圧着した。圧力は106Pa、温度は130℃とし、1分間加熱加圧した。更に第2の基板12の上から、シーリングフィルム33を、150℃でヒートシールにより貼着部の形状(図11,12中、ドット状のハッチングが付された部分A)に沿って貼着し、シーリングフィルム33に覆われた内部空間を形成させるとともに、試料注入口20と第2接続口16との間に隔壁状に伸びる貼着部分Aaを形成するように貼着した。
【0099】
<実施例2>
製造例2で製造した分析用媒体を用いて以下の試験を行った。
【0100】
試料注入口20からOリングを介してマイクロシリンジで純水約10μLを注入してシーリングフィルム33に覆われた内部空間の左側(図12に図示する側面の方向から見て左側)に溜めた後、空気を同様にマイクロシリンジで注入して、純水を第1接続口15側へ送った。このとき、試料注入口20と第2接続口16との間に隔壁状に伸びる貼着部分Aaが形成されているので、純水が第2接続口16側へ送られることはなかった。貼着部分Aaの隔壁状に伸びる部分であって、シーリングフィルム33の左右ほぼ中間を焼きごてで熱封止し、シーリングフィルム33に覆われた内部空間を、図12に図示する側面の方向から見て左右両側に分断した。このようにして分析用媒体上の8つの流路全てに純水を注入し、熱封止した。
【0101】
上記のようにして純水を注入し熱封止した分析用媒体について、実施例1と同様の試験を行った。分析用媒体の回転による送液を調べる試験においては、温度条件として、実施例1と同様にして95℃で行う場合とともに、上記分析用媒体回転加熱装置(図18に模式的に示す。)の加熱手段を作動させないで、25℃の温度条件でも行った。それらの結果を下記表3〜5に示す。
【0102】
【表3】

【0103】
【表4】

【0104】
【表5】

【0105】
表3に明らかなように、回転による遠心力によって、製造例2で製造した分析用媒体の流路に純水を送液することができた。また、回転速度を1000、1250、1500rpmと変化させると、その回転速度に応じた送液の速さで純水が送液された。
【0106】
また、表3に明らかなように、25℃の温度条件でも行った場合にも、回転による遠心力によって、製造例2で製造した分析用媒体の流路に純水を送液することができた。なお、この場合、送液の速さは95℃の温度条件でも行った場合よりも遅くなった。この送液の速さの低下は、温度条件を95℃から25℃にすることによって、分析用媒体に注入した純水の粘性が増大したこと等に起因することが考えられた。
【0107】
更に、表5に明らかなように、分析用媒体全体の質量の減少は微小であり分析用媒体を一定時間95℃に加熱しても流路から水や蒸気が漏洩しないことが明らかとなった。
【0108】
<比較例1>
製造例2で製造した分析用媒体を用いて以下の試験を行った。
【0109】
すなわち、製造例2で製造した分析用媒体に純水を注入した後、シーリングフィルム33を熱封止しない以外は、実施例2と同様にして試験を行った。それらの結果を下記表6,7に示す。
【0110】
【表6】

【0111】
【表7】

【0112】
その結果、表6に示すように、25℃の温度条件でも行った場合には、実施例2において25℃の温度条件で行った場合と同様にして送液することができた。しかしながら、95℃の温度条件で行った場合には、回転前に95℃で10分静置した段階で分析用媒体に注入した純水は蒸発により減少してしまい、純水の送液を測定することができなかった。更に、表7に明らかなように、温度条件で少なくとも30分間95℃の条件下に曝されると、注入した全ての純水が消失していた。
【0113】
<比較例2>
製造例2で製造した分析用媒体のうち、シーリングフィルム33を貼り付けていないものを用いて、以下の試験を行った。
【0114】
すなわち、第1接続口15からOリングを介してマイクロシリンジで供給用液溜部22がほぼ満されるまで純水を約2.5μL注入した。その後、両接続口15,16をエポキシ樹脂で埋め固めて封止した。これを、上記分析用媒体回転加熱装置(図18に模式的に示す。)に設置し、加熱手段を作動させないで、25℃で、下記表8に示すような所定の回転数、時間で回転させた。所定時間経過後、分析用媒体の回転を止め、送液された純水の先端の位置を、供給用液溜部22の出口から純水先端までの距離として、計測した。また、注入した純水の減少量について調べるために、純水注入後の媒体全体の質量を測定した後、回転速度1000rpmで40秒間回転させ、分析用媒体の回転を止め、95℃で分析用媒体を保持して30分静置した後、分析用媒体を回転加熱装置から外し、常温まで放冷した後、分析用媒体全体の質量を再度測定した。それらの結果を下記表8,9に示す。
【0115】
【表8】

【0116】
【表9】

【0117】
その結果、両接続口15,16がエポキシ樹脂で封止されているので、表9に示すように、分析用媒体に注入した純水の減少は少なかったが、表8に示すように、分析用媒体に注入した純水を遠心力により送液することができなかった。
【0118】
以上の結果から、分析用媒体の開放口を封止しないと、試料中の溶液等が蒸発して試料濃度等が変化してしまうことが明らかとなった。また、開放口をエポキシ樹脂などで封止すると、試料が分析用媒体内の流路を移動するのに伴って移動する空気を受容する余地がないため、分析用媒体に注入した試料を遠心力により送液することができないことが明らかとなった。これに対して、製造例1,2で製造した分析用媒体を用いて、分析用媒体の開放口を封止しつつ、試料が流路を移動するのに伴って移動する空気を受容する余地を設けることにより、分析用媒体の回転による遠心力によって、試料をスムーズに送液できることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】本発明の分析用媒体の第1の実施形態を示す分解斜視図である。
【図2】同分析用媒体の1つの試料の通路全体を示す部分拡大平面図である。
【図3】図2のIII−III矢示線に沿った断面図である。
【図4】図2のIV−IV矢示線に沿った断面図である。
【図5】同分析用媒体の全体を示す平面図である。
【図6】同分析用媒体の流路のジグザグ部を示す部分拡大図である。
【図7】流路のジグザグ部の他の態様を有する同分析用媒体の全体を示す平面図である。
【図8】本発明の分析用媒体の第2の実施形態を示す分解斜視図である。
【図9】図3におけるIII−III矢示線に沿った断面図と同じ配置での断面図である。
【図10】図4におけるIV−IV矢示線に沿った断面図と同じ配置での断面図である。
【図11】本発明の分析用媒体の第3の実施形態を示す分解斜視図である。
【図12】同分析用媒体の1つの試料の通路全体を示す部分拡大平面図である。
【図13】図12のIX−IX矢示線に沿った断面図である。
【図14】図12のX−X矢示線に沿った断面図である。
【図15】本発明の分析用媒体の第4の実施形態を示す分解斜視図である。
【図16】図3におけるIII−III矢示線に沿った断面図と同じ配置での断面図である。
【図17】図4におけるIV−IV矢示線に沿った断面図と同じ配置での断面図である。
【図18】実施例における分析用媒体の回転・加熱方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0120】
10,30 分析用媒体
11 第1基板部材
11a 基板部材
12 第2基板部材
12a シーリング部材
13,14 支持孔
15 第1接続口
16 第2接続口
17 流路
17a,17b 端部
17c ジグザグ部
18 第1シーリングフィルム
19 第2シーリングフィルム
20 試料注入口
21 連通路
22 供給用液溜め部
23 受容用液溜め部
31 供給路
32 返送路
33 シーリングフィルム
34 連通空隙
40 分析用媒体回転加熱装置
41 加熱手段
42 分析用媒体支持回転台
43 モーター
A,Aa 貼着部分
H ヒータ
イ 高温領域
ロ 低温領域
ハ 電磁波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な媒体に、試料注入口と、この試料注入口に連通する供給用液溜め部と、受容用液溜め部と、前記供給用液溜め部と前記受容用液溜め部とに連通する流路とが設けられ、回転による遠心力によって前記供給用液溜め部から前記流路を通して前記受容用液溜め部に試料が流れるように構成された分析用媒体において、
前記媒体は、基板を主体にして構成されており、前記基板には、前記流路と、前記流路の一方の端部に連通する第1接続口と、前記流路の他方の端部に連通する第2接続口とが形成されており、
前記基板表面には、前記第1接続口を封止する第1シーリングフィルムと、前記第2接続口を封止する第2シーリングフィルムとが貼着されており、
前記第1シーリングフィルムと前記基板表面との間には、前記第1接続口に連通する袋状の空間からなる前記供給用液溜め部が形成され、前記第2シーリングフィルムと前記基板表面との間には、前記第2接続口に連通する袋状の空間からなる前記受容用液溜め部が形成されており、
前記第1シーリングフィルムには、前記試料注入口と、前記試料注入口と前記供給用液溜め部とに連通する試料連通部が形成され、前記第1シーリングフィルムは、前記試料注入口を通して前記供給用液溜め部に試料を充填した後に、前記試料連通部を封止可能とされていることを特徴とする分析用媒体。
【請求項2】
前記受容用液溜め部は、前記供給用液溜め部に対して前記媒体の外周側に位置するように形成され、前記第2接続口は、前記第1接続口に対して前記媒体の外周側に位置するように形成されている、請求項1記載の分析用媒体。
【請求項3】
前記媒体は、第1基板部材と第2基板部材を接合して構成された基板を主体にして構成されており、前記第1基板部材と前記第2基板部材との間に前記流路が形成されている請求項1又は2記載の分析用媒体。
【請求項4】
前記媒体は、基板部材とシーリング部材を接合して構成された基板を主体にして構成されており、前記基板部材と前記シーリング部材との間に前記流路が形成されている請求項1又は2記載の分析用媒体。
【請求項5】
前記第1シーリングフィルムは、前記試料連通部において、前記第1シーリングフィルムを前記基板に溶着又は接着させることによって封止可能とされている請求項1〜4のいずれか1つに記載の分析用媒体。
【請求項6】
回転可能な媒体に、試料注入口と、この試料注入口に連通する供給用液溜め部と、受容用液溜め部と、前記供給用液溜め部と前記受容用液溜め部とに連通する流路とが設けられ、回転による遠心力によって前記供給用液溜め部から前記流路を通して前記受容用液溜め部に試料が流れるように構成された分析用媒体において、
前記媒体は、基板を主体にして構成されており、前記基板には、前記供給用液溜め部と、前記受容用液溜め部と、前記流路と、前記供給用液溜め部に連通する第1接続口と、前記受容用液溜め部に連通する第2接続口とが形成されており、
前記基板表面には、前記第1接続口及び前記第2接続口を封止する1枚のシーリングフィルムが貼着されており、
前記シーリングフィルムと前記基板表面との間には、前記第1接続口と前記2接続口とを連通させる連通空隙が形成されており、
前記シーリングフィルムには、前記試料注入口と、前記試料注入口と前記第1接続口とに連通する試料連通部が形成され、前記シーリングフィルムは、前記試料注入口を通して前記供給用液溜め部に試料を充填した後に、前記試料連通部を封止可能とされていることを特徴とする分析用媒体。
【請求項7】
前記受容用液溜め部は、前記供給用液溜め部に対して前記媒体の外周側に位置するように形成され、前記第2接続口は、前記第1接続口に対して前記媒体の外周側に位置するように形成されている、請求項6記載の分析用媒体。
【請求項8】
前記媒体は、第1基板部材と第2基板部材を接合して構成された基板を主体にして構成されており、前記第1基板部材と前記第2基板部材との間に、前記供給用液溜め部と、前記受容用液溜め部と、前記流路とが形成されている請求項6又は7記載の分析用媒体。
【請求項9】
前記媒体は、基板部材とシーリング部材を接合して構成された基板を主体にして構成されており、前記基板部材と前記シーリング部材との間に、前記供給用液溜め部と、前記受容用液溜め部と、前記流路とが形成されている請求項6又は7記載の分析用媒体。
【請求項10】
前記シーリングフィルムは、前記試料連通部において、前記シーリングフィルムを前記基板に溶着又は接着させることによって封止可能とされている請求項6〜9のいずれか1つに記載の分析用媒体。
【請求項11】
前記供給用液溜め部と前記受容用液溜め部とに連通する流路は、前記媒体の半径方向に沿って、外方及び内方に交互に折り返しながら、全体として周方向に向かうジグザグ部を有しており、試料の分析の際に、前記ジグザグ部の内周側と外周側とが異なる温度領域に配置されるものである請求項1〜10のいずれか1つに記載の分析用媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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