説明

分析的検出方法におけるサンプルマトリクス効果の補正のためのサンプル制御

分析的検出技術においてラベルを用いる場合、これらのサンプルマトリクス効果の補正を可能にするために、ラベルの検出に関するサンプルマトリクスの効果を決定するために適している方法及びシステムが記載される。本方法は特に使い捨ての分子診断カートリッジに用いるために有利である。本方法は、バックグラウンドサンプル及びバックグラウンドフリーサンプル中のラベルの検出間の相違を決定することにより、サンプルマトリクス効果を決定し、決定されたサンプルマトリクス効果によって、検査サンプル中の検体の検出及び/又は定量化を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラベルの検出に関するサンプルマトリクス効果の発生を決定するための方法であって、この又は類似のラベルの使用を必要とする分析的技術におけるこれらのサンプルマトリクス効果の補正を可能にする方法、及び当該方法に従って動作する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質、ペプチド、オリゴヌクレオチド、核酸、脂質、多糖類、ホルモン、神経伝達物質、メタボライトなどのような生体分子を定性的又は定量的に高感度かつ正確に検出することは、医療診断、病理学、毒性学、疫学、細菌戦争、環境試料採集、法医学及び多数の他の分野(例えば比較プロテオミクス及び遺伝子形質発現研究)における広範囲にわたる潜在的な用途にもかかわらず、捉えどころのない目標であると判明した。
【0003】
DNAの検出に関する特定の例は、例えば病原菌及びウィルスのような感染因子の検出や遺伝的及び後天的遺伝子病の診断などの医療診断、犯罪捜査の一部としての法医学検査、父親論争、全ゲノム配列決定などである。
【0004】
生物学的検体の精製されたサンプルの同定及び/又は定量化は、時には検体それ自体の生理化学的性質に基づいて実行されることができるが、精製されていないサンプル中の検体を同定及び/又は定量化することが可能なほとんどの検査法は、検体に対して強力な親和性及び好ましくは同様に高度な特異性を持っている既知の分子である「プローブ」を利用する。検体がタンパク質又はペプチドである場合、これらの分析はリガンド結合分析(例えばイムノアッセイ(immunoassay))と呼ばれる。DNAの検出は、一般的に標的DNAに対して特異的であるヌクレオチド配列のハイブリッド形成を利用する。
【0005】
これらのプローブベースの検出分析において、検体に特異的なプローブ(又は検体)は、追跡可能な物質によって直接又は間接的にラベルをつけられる。検体にプローブを介して結合される追跡可能な物質(以下「ラベル」と呼ぶ)の検出は、検査サンプル中の検体の量を表す。ラベルの検出は、採用されて使用されるラベルの性質に依存して、様々な異なる技術を使用して保証されることができる。
【0006】
1つのバイオ技術関連分析技術はラマン分光である。ラマン分光では、サンプル中の分子による光の非弾性散乱(ラマン散乱と呼ばれる)が検出される。結果として得られるラマンスペクトラムは、サンプル中の光吸収分子の化学組成及び構造に特徴的であり、一方、ラマン散乱の強度は、これらの分子の濃度に依存する。
【0007】
分子が粗い金属表面(例えば金、銀、銅及び特定の他の金属のナノ粒子)上に吸着されて発光スペクトルが最大1014倍まで数桁高められた観測は、非常に高感度な表面増強分光(例えば表面増強蛍光(SEF)及び表面増強(共鳴)ラマン分光(SE(R)RS))をもたらす。
【0008】
表面増強ラマン共鳴分光(SERRS)において、(適切に照射されるとSERRSスペクトラムを生成することが可能な)検体に取り付けられる「SERRS活性」物質又は色素が利用され、色素の共鳴周波数で機能する。
【0009】
表面増強分光の使用における重要なステップは、粗い金属表面の再現可能な生産、及びこの金属表面上への検出されるべきラベルの効率的な吸着/結合である。粗い金属表面がコロイド金属ナノ粒子からなる場合、それらが制御されて凝集するときに最良の信号増強が達成される。凝集していないコロイドは、安定した微小結晶懸濁を形成するために、例えばシトラートのような還元剤によって金属塩(例えば硝酸銀)を還元することによって用意される。そしてこのコロイド懸濁は使用直前に凝集される。理想的には、凝集したコロイドはサンプルの中でin situで形成され、沈殿を防ぐためにその後まもなくSE(R)RSスペクトラムが取得される。
【0010】
サンプル内での検出を必要とするラベルを利用するいかなる検出技術においても、サンプルマトリクス効果が分析の結果に影響する可能性があることが観察されている。サンプルマトリクス効果は、生物学的、鉱物学的又は環境学的サンプルのような複合媒体において特に厳しく、妨害物質の性質及び量は、しばしば未知であって容易には制御されないが、検出の別の態様に影響する可能性がある塩及び/又は他の成分の存在のために、(半)精製技術から取得されるサンプルにおいて重要である可能性もある。
【0011】
生物学的サンプルにおいて、サンプルマトリクス効果は、脂肪血症、ビリルビン血症、ヘモグロビン血症、溶血、脂質、タンパク質、ヘモグロビン、免疫グロビン(immunoglobin)、ホルモン、薬剤、抗原、アレルゲン、毒素、腫瘍マーカ、溶性細胞分子及び核酸のような、過剰な生体流体成分によって引き起こされる可能性がある。DNA抽出物において、サンプルマトリクス効果は、単にバルクDNAが存在することによって引き起こされる可能性がある。これらの成分は、測定信号を増加又は減少させる可能性があり、不正確な結果を引き起こす。サンプルマトリクス効果は、例えば蛍光又はルミネセンスの消失によって明らかにされることができる。
【0012】
サンプルマトリクスがコロイド上への検体又はラベルの吸着/結合及びコロイド凝集を妨害する可能性があるという点で、表面増強分光は更なる複雑さを示す。金属コロイドの凝集の程度が異なることで、信号が変わりやすくなる。コロイド凝集のこれらの変化は、サンプルのpHの違いによって、又は凝集物の沈澱に結びつく過凝集を引き起こすイオンの存在によって、引き起こされる可能性がある。サンプルマトリクス化合物も金属粒子上へ吸着することができ、それによって、その信号が増強されるべき分子とナノ粒子の表面を争う。例えば、中性又は生理学的なpHにおいて正に帯電する傾向がある多くのタンパク質は、粒子の正味の陰電荷に引き寄せられる。抗体は特にコロイド金粒子に強く吸着する傾向がある。サンプルマトリクス化合物は、ナノ粒子へのラベルの非特異吸着の原因となる可能性もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
検出に影響を及ぼす要因の補正は、分析化学の分野における一般的な問題である。従来技術において、サンプルマトリクス効果を除去するアプローチは、希釈、(例えば検体を固定表面に共有結合し、検体に影響を及ぼさずにバックグラウンドを洗浄することによる)サンプルマトリクスの除去、及び妨害の程度に対する標準的な後の補正の追加を含む。
【0014】
サンプルマトリクス効果を補正する方法が、サンプル中のサンプルマトリクス効果の直接検出に基づいて、SE(R)RS方法のために開発された。これらの方法は、検出されるべき分子(例えば検体又はラベル)に相当するが異なる信号を生成する分子の予め定められた量である内部標準の使用を必要とする。しかしながら、同じではない化合物に関して効果が測定され、したがって分光信号効率及びサンプルマトリクスの検出への干渉が異なる可能性があるという事実によって、これらの技術は制限される。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の目的は、分析技術におけるサンプルマトリクス効果を補正するための代わりの方法、及びその方法に従って動作するシステムを提供することである。本発明の利点は、サンプルマトリクス効果の決定を可能にするラベル制御によって、サンプル中のラベルの検出に関する負の効果が低減されることである。
【0016】
第1の態様において、本発明は、ラベルの検出に関するサンプルのサンプルマトリクス効果を決定するための方法を提供し、当該方法は、(a) サンプルマトリクス又はサンプル様マトリクスを含むバックグラウンドサンプルに、予め定められた量の同じラベル又は異なるラベルを接触させ、(b) サンプルマトリクス又はサンプル様マトリクス又はラベルの検出を妨害する可能性がある任意の他の化合物を含まないバックグラウンドフリーサンプルに、予め定められた量の同じラベル又は異なるラベルを接触させ、(c) バックグラウンドサンプル及びバックグラウンドフリーサンプル中の同じ又は異なるラベルを検出し、(d) バックグラウンドサンプル及びバックグラウンドフリーサンプル中の同じ又は異なるラベルの検出間の相違を決定し、それによってサンプルマトリクス効果を得る。好ましい実施の形態において、全ての前記予め定められた量は同じであり、それは、補正の実行をより容易にし、単純な相違のみが関与する。
【0017】
本発明の第2の態様は、サンプル中の検体の検出に関するサンプルマトリクス効果を決定するための方法を提供し、当該方法は、(a) 検体が検出されることになっている前記サンプルからの検査サンプル、サンプルマトリクス又はサンプル様マトリクスを含むバックグラウンドサンプル、及び、サンプルマトリクス又はサンプル様マトリクスを含まないバックグラウンドフリーサンプルを提供し、(b) ラベルを用いて検査サンプル中の検体を検出及び/又は定量化し、(c) 次のステップを含む方法、すなわち
-予め定められた量のラベル(同じ又は異なるラベルであることができる)にバックグラウンドサンプルを接触させ、
- 予め定められた量の同じ又は異なるラベルにバックグラウンドフリーサンプルを接触させて、それによって同じラベルがバックグラウンドサンプル及びバックグラウンドフリーサンプルの両方に追加され、
- バックグラウンドサンプル中及びバックグラウンドフリーサンプル中の同じ又は異なるラベルを検出し、
- バックグラウンドサンプル及びバックグラウンドフリーサンプル中の(同じ又は異なる)ラベルの検出間の相違を決定することによってサンプルマトリクス効果を決定する方法によってサンプルマトリクス効果を検出し、
(d) 上述のように決定されるサンプルマトリクス効果によってステップ(b)において得られた前記検査サンプル中の検体の検出及び/又は定量化を補正する。
【0018】
好ましい実施の形態において、全ての前記予め定められた量は同じであり、それは、補正の実行をより容易にし、単純な相違のみが関与する。
【0019】
一般的に、検査サンプル中の検体の検出は、検体と結合することが可能なラベルの検出によって実行され、補正は、サンプルマトリクス効果として得られる値によってこの結合されたラベルの検出値を補正することによって実行される。
【0020】
本発明のこの態様の一実施例によれば、バックグラウンドサンプルは、検体が検出されることになっているサンプルの画分である。さらに又は代わりに、バックグラウンドサンプルは、サンプルマトリクス又はサンプル様マトリクスを含む。
【0021】
一実施例において、本発明の方法によって検出されることが構想される検体は、核酸、タンパク質、炭水化物、脂質、化学物質、抗体、微生物及び真核細胞からなるグループから選択される。
【0022】
一実施例によれば、本発明の方法における検出ステップは、光学的検出方法を用いて実行される。具体的には、検出方法はSE(R)RSであり、サンプルマトリクス効果の決定並びに検体の検出及び定量化の両方に用いられるラベルはSE(R)RS活性ラベルである。一般的に、そのような方法は更なるステップを必要とし、それによって、それぞれのサンプルにおけるラベルの検出の前に、ラベルはSE(R)RS活性表面に接触する。特定の実施の形態によると、SE(R)RS活性表面は、銀若しくは金ナノ粒子のコロイド懸濁又はその凝集コロイドである。
【0023】
1つの実施の形態によれば、検体の検出及び/又は定量化を必要とする方法において、この検出及び/又は定量化は、ラベル付き検体特異プローブを使用して実行される。特定の実施の形態によれば、検体特異プローブは、結合感知ラベル、すなわちその検出信号が検体への結合の際に変化するラベルを備える。
【0024】
1つの実施の形態によれば、検出される検体はヌクレオチド配列であり、ヌクレオチドであるラベル付き検体特異プローブすなわち検体内の配列に対して相補的な配列を持つヌクレオチドが利用される。
【0025】
ラベル付き検体特異プローブを用いた検体の検出は、検体に結合したラベル付き検体特異プローブの直接検出に基づくことができ、又は検体の競合結合に基づくことができる。この後者の実施の形態の具体的な実施例によれば、検体の検出は、SE(R)RS活性表面と結合することが可能な検体特異プローブ及びラベル付き代用プローブを用いて実行され、それによって検体は、ラベル付き代用プローブと検体特異プローブへの結合を争う。
【0026】
本発明の更に別の態様は、サンプル中の検体若しくはラベルの検出に関するサンプルマトリクス効果を補正するための装置又はシステムを提供する。
【0027】
本発明は、ラベルの検出に関するサンプルのサンプルマトリクス効果を決定するためのシステムを提供し、当該システムは、
(a) サンプルマトリクス又はサンプル様マトリクスを含むバックグラウンドサンプルに、予め定められた量の前記ラベル又は異なるラベルを接触させるための手段、
(b) サンプルマトリクス又はサンプル様マトリクス又はラベルの検出を妨害する可能性がある任意の他の化合物を含まないバックグラウンドフリーサンプルに、予め定められた量の前記ラベル又は前記異なるラベルを接触させるための手段、
(c) 前記バックグラウンドサンプル及び前記バックグラウンドフリーサンプル中の前記ラベル又は前記異なるラベルを検出するための手段、並びに
(d) 前記サンプルマトリクス効果に対応する、前記バックグラウンドサンプル中及び前記バックグラウンドフリーサンプル中の前記ラベル又は前記異なるラベルの検出間の相違を決定するための手段を有する。
【0028】
本発明はまた、サンプル中の検体の検出に関するサンプルマトリクス効果を決定するためのシステムを提供し、当該システムは、
(a) 前記検体が検出されることになっている前記サンプルからの検査サンプル、サンプルマトリクス又はサンプル様マトリクスを含むバックグラウンドサンプル、及びサンプルマトリクス又はサンプル様マトリクスを含まないバックグラウンドフリーサンプルを提供するための手段、
(b) ラベルを用いて前記検査サンプル中の検体を検出及び/又は定量化するための手段、
(c) 予め定められた量の前記ラベル又は異なるラベルに前記バックグラウンドサンプルを接触させるための手段、
(d) 予め定められた量の前記ラベル又は前記異なるラベルに前記バックグラウンドフリーサンプルを接触させるための手段、
(e) 前記バックグラウンドサンプル中及び前記バックグラウンドフリーサンプル中の前記ラベル又は前記異なるラベルを検出するための手段、
(f) 前記バックグラウンドサンプル及び前記バックグラウンドフリーサンプル中の前記ラベル又は前記異なるラベルの検出間の相違を決定することによって前記サンプルマトリクス効果を決定するための手段、
(g) 前記サンプルマトリクス効果を決定するための手段に応答して前記検査サンプル中の前記検体の検出及び/又は定量化を補正するための手段、を有する。
【0029】
好ましい実施の形態において、全ての前記予め定められた量は同じであり、それは、補正の実行をより容易にし、単純な相違のみが関与する。
【0030】
本システムは、
- 検体を含む検査サンプル、バックグラウンドサンプル及びバックグラウンドフリーサンプルからなるグループから選択される一つ以上のサンプルの第1の供給源、一つ以上のラベルの第2の供給源並びにオプションとして添加剤の第3の供給源、
- 第1ないし第3の供給源のサンプル、ラベル及び添加剤をそれらが接触することができるように提供するための手段を有することができる。
【0031】
特定の実施の形態によれば、第1の供給源(101, 図3)は、検体を含む検査サンプル、バックグラウンドサンプル及びバックグラウンドフリーサンプルそれぞれのためのチャンバを有する。接触のための手段は、検体を含む検査サンプル、バックグラウンドサンプル及びバックグラウンドフリーサンプルを、それぞれ関連するラベルに接触させるためのチャンバを有することができる。
【0032】
さらに特定の実施の形態において、第2の供給源(102, 図3)は、検体特異ラベルのためのチャンバ及び少なくとも1つのラベルのためのチャンバを含む。
【0033】
本発明はまた、サンプル中の検体の検出に関するサンプルマトリクス効果を決定するためのシステムに用いられる使い捨てのカートリッジを提供し、当該カートリッジは、
- 検体を含む検査サンプル、バックグラウンドサンプル及びバックグラウンドフリーサンプルからなるグループから選択される一つ以上のサンプルの第1の供給源、一つ以上のラベルの第2の供給源、及びオプションとして添加剤の第3の供給源、
-予め定められた量の同じ又は異なるラベルにバックグラウンドサンプルを接触させ、予め定められた量の同じ又は異なるラベルにバックグラウンドフリーサンプルを接触させ、予め定められた量の同じ又は異なるラベルに検査サンプルを接触させるための手段、
- 検査サンプル、バックグラウンドサンプル及びバックグラウンドフリーサンプル中のその同じ又は異なるラベルの検出を可能にするウィンドウ、を有する。検査されるサンプルの供給源は、PCR反応チャンバであることができる。
【0034】
本発明の上記の及び他の特性、特徴及び利点は、本発明の原理を一例として説明する添付の図面と共に考慮することにより、以下の詳細な説明から明らかになる。この説明は、本発明の範囲を制限することなく、単に例として与えられる。本発明は以下に図面を参照して説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明は、特定の実施の形態に関して及び特定の図面を参照して説明されるが、本発明はそれらに制限されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。特許請求の範囲中のいかなる引用符号も範囲を制限するように解釈されてはならない。説明される図面は、単に概略であって非制限的である。図において、いくつかの要素のサイズは誇張される場合があり、説明の便宜上、縮尺通りに描かれていない場合がある。本願の明細書及び請求の範囲において「有する,含む」との用語が用いられる場合、それは他の要素又はステップを除外しない。単数形の名詞が用いられる場合、特に別途述べられない限り、その名詞が示すものが複数存在する場合を含む。
【0036】
さらに、明細書及び請求の範囲中の「第1」「第2」「第3」などの用語は、同様の要素を区別するために用いられ、必ずしも逐次的又は時間的な順序を表すものではない。そのように用いられる用語は、適切な状況の下で相互に交換可能であり、本明細書に記載される本発明の実施の形態は、本明細書に記載され又は説明されたもの以外の他の順序で動作することが可能であることが理解される。
【0037】
以下の用語又は定義は、単に発明の理解を助けるために提供される。これらの定義は、当業者によって理解されるよりも狭い範囲を持つように解釈されてはならない。
【0038】
本明細書において用いられる用語「検体」は、本発明の方法において検出され及び/又は定量化される物質を指す。
【0039】
本明細書に用いられる用語「ラベル」は、検出可能な信号を生成することが可能な分子又は材料を指す。明示されない限り、これは分子それ自体を指し、プローブに共有結合されない。ラベルは、検体に取り付けられるプローブに取り付けられることができ、又は、検体及び/若しくはプローブに結合する別のエンティティであることができる。本明細書において用いられる「検体特異プローブ」は、検出されるべき検体に特異的な構造又はシーケンスを有するプローブである。これは、検体に特異的に結合することが可能である化合物(「相補型標的プローブ」)、及び検体の特定の部分に少なくとも類似する化合物(「代用標的プローブ(surrogate target probe)」)の両方を含む。検体への相補型標的プローブの結合は、相補的ヌクレオチド配列、抗原/抗体相互作用、リガンド/受容体結合、酵素/基質相互作用などを含む(但しこれらに限られない)任意の種類の相互作用に基づくことができる。代用標的プローブは、例えば検体特異プローブへの競合的結合における代用標的プローブとの競合に基づいて検体が決定される競合測定法において用いられる。より詳しくは、代用標的プローブは、検体の検体特異プローブとの結合と比較して低い結合強度で検体特異プローブと結合する。
【0040】
本明細書において用いられる「(SE(R)RS活性)表面」は、SE(R)RS活性ラベルの信号を増強することが可能な材料を指す。
【0041】
本明細書に用いられる「捕獲プローブ」は、分子又は分子の錯体を基材に結合することが可能な分子を指す。検体特異捕獲プローブは、検体を基材に特異的に結合することが可能なプローブである。
【0042】
本願明細書に用いられる「基材」は、分子又は分子の錯体が直接又は捕獲プローブ経由で結合することができ、操作されることができる材料を指す。基材の典型的な例は、ミクロタイタープレート、ビーズ、チップなどを含むが、これに限定されるものではない。
【0043】
本明細書に用いられる用語「サンプル」は、マトリクス(「サンプルマトリクス」)及びその中に関係する検体を有する組成物に関する。
【0044】
用語「検査サンプル」は、マトリクス(「サンプルマトリクス」)及びその中に関係する検体を有し、検体の検出が実行されるサンプル又はその一部を意味すると理解される。
【0045】
用語「サンプルマトリクス」は、検査サンプル中に存在し、検体ではない化合物を意味すると理解される。
【0046】
用語「サンプル様マトリクス」は、サンプルマトリクスとほぼ同じ全体の組成及び/又は同じ生理化学的性質を持つマトリクスを意味すると理解される。
【0047】
用語「サンプルマトリクス効果」は、本発明の方法におけるラベル又は代用ラベルの検出に関するサンプルマトリクスの影響を意味すると理解され、したがって、検体の検出に影響する。
【0048】
用語「バックグラウンドサンプル」は、サンプルマトリクス効果を決定するために用いられる組成物を意味すると理解され、サンプルマトリクス又はサンプル様マトリクスのいずれかを有する。サンプル自体がサンプルマトリクス効果を決定するために用いられる場合、それは「オリジナルバックグラウンドサンプル」と呼ばれる。オリジナルバックグラウンドサンプルは検査サンプルと同じ組成物を持つので、それは検体も含む。あるいは、バックグラウンドサンプルは、検体を含まないサンプルマトリクス又はサンプル様マトリクスから成る組成物であり、そこにオプションとして検体が追加されている。
【0049】
用語「バックグラウンドフリーサンプル」は、サンプルマトリクス、サンプル様マトリクス、検体、又はラベルの検出を妨害する可能性があるいかなる他の化合物をも含まない組成物を意味すると理解される。サンプルマトリクスの特定の成分の影響が決定されるべき場合、バックグラウンドフリーサンプルは、これらの特定の成分を除いて、サンプルマトリクスに類似するマトリクスを含む組成物を指す。
【0050】
用語「サンプルマトリクス効果の補正」は、サンプルマトリクス効果の値に基づいて、検査サンプルの測定によって決定される値を(直接又は間接的に)調整することを意味すると理解される。
【0051】
第1の態様によれば、本発明は、検体特異プローブ及びラベルを用いたサンプル中の検体の検出及び/又は定量化のための分析技術を提供し、それによって、検出へのサンプルマトリクスの影響が決定され、検出に関するサンプルマトリクス効果の補正を可能にする。
【0052】
第1の実施の形態によれば、本発明の方法は、
(a) 検体が検出されることになっているサンプルからの検査サンプル、サンプルマトリクス又はサンプル様マトリクスを含むバックグラウンドサンプル及びサンプルマトリクス又はサンプル様マトリクスを含まないバックグラウンドフリーサンプルを準備し、
(b) 検査サンプル中の検体を検出及び/又は定量化し、
(c) 次のステップを含む方法、すなわち、
(i) 予め定められた量のラベルにバックグラウンドサンプルを接触させ、
(ii) 同じ予め定められた量のラベルにバックグラウンドフリーサンプルを接触させ、
(iii) バックグラウンドサンプル中及びバックグラウンドフリーサンプル中のラベルを検出し
(iv) バックグラウンドサンプル中及びバックグラウンドフリーサンプル中のラベルの検出間の相違を決定することによってサンプルマトリクス効果を決定する方法によってサンプルマトリクス効果を検出し、
(d) ステップ(b)の検査サンプル中の検体の検出及び/又は定量化を、(iv)において決定されたサンプルマトリクス効果によって補正する。
【0053】
オプションとして、ステップ(i)〜(iii)は、ラベルの2以上の異なる予め定められた量によって実行されることができる。
【0054】
特定の実施の形態によれば、サンプルマトリクス効果の検出に用いられるバックグラウンドサンプルはサンプルマトリクスを含み、より詳しくは、検体が検出されることになっているサンプルの画分であり、したがってその組成は検査サンプルの組成と同一である。この実施例によれば、この方法は、
(a) 検体を含むサンプルから検査サンプル及びバックグラウンドサンプルの両方を準備し、さらにバックグラウンドフリーサンプルを準備し、
(b) 検査サンプル中の検体を検出及び/又は定量化し、
(c) 次のステップを含む方法、すなわち、
(i) 予め定められた量のラベルにバックグラウンドサンプルを接触させ、
(ii) 同じ予め定められた量のラベルにバックグラウンドフリーサンプルを接触させ、
(iii) バックグラウンドサンプル中及びバックグラウンドフリーサンプル中のラベルを検出し、
(iv) バックグラウンドサンプル中及びバックグラウンドフリーサンプル中のラベルの検出間の相違を決定することによってサンプルマトリクス効果を決定する方法によってサンプルマトリクス効果を検出し、
(d) ステップ(b)の検査サンプル中の検体の検出及び/又は定量化を、(iv)において決定されたサンプルマトリクス効果によって補正する。
【0055】
オプションとして、ステップ(i)〜(iii)は、ラベルの2以上の異なる予め定められた量によって実行されることができる。
【0056】
第2態様によれば、本発明はラベルの検出に関するサンプルマトリクス効果を決定するための方法を提供し、当該方法は、
(a) サンプルマトリクス又はサンプル様マトリクスを含むバックグラウンドサンプルに、予め定められた量のラベル、代用ラベル又は異なるラベルを接触させ、
(b) サンプルマトリクス、サンプル様マトリクス又はラベルの検出を妨害する可能性がある他のいかなる化合物をも含まないバックグラウンドフリーサンプルに、同じ予め定められた量のラベル、代用ラベル又は異なるラベルを接触させ、
(c) バックグラウンドサンプル中及びバックグラウンドフリーサンプル中のラベル、代用ラベル又は異なるラベルを検出し、
(d) サンプルマトリクス効果に対応する、バックグラウンドサンプル中及びバックグラウンドフリーサンプル中のラベル、代用ラベル又は異なるラベルの検出間の相違を決定する。
【0057】
この方法は、特定のバックグラウンド中のラベルの検出に関するサンプルマトリクス効果の測度を提供し、それは同じマトリクスから成ると知られている又は考えられているサンプル中の検体の検出及び/又は定量化において取得される値の補正のために用いられることができる。
【0058】
オプションとして、ステップ(a)〜(d)は、ラベルの2以上の異なる予め定められた量によって実行されることができる。
【0059】
したがって、本発明は、バックグラウンドサンプル及びバックグラウンドフリーサンプルの両方の中のラベルを検出することによってサンプルマトリクス効果の発生が決定される方法及びツール、及び本発明の方法によるサンプルマトリクス効果を決定するためのシステムを提供する。これらのマトリクス効果は、サンプル中のこのラベルによる検体の検出を潜在的に妨害する。
【0060】
本発明は、サンプルマトリクスの成分がラベルの検出に影響する可能性があり、この影響が、サンプルマトリクス又はサンプル様マトリクスの存在下及びバックグラウンドフリーサンプル中のその同じラベルの検出若しくはそれと同様のラベルの検出を比較することによって決定されることができるとの観測に基づく。ラベルを利用する検出方法における本発明の方法によるラベル制御の導入は、サンプル中の検体のより正確かつ信頼性が高い検出及び/又は定量化を保証する。
【0061】
本発明の方法によって決定されるサンプルマトリクス効果の原因は変わりやすく、サンプルの性質に依存する。本発明による検体の検出が構想されるサンプルは、生体物質からのサンプル及びそのような生体物質から得られる又は抽出される組成物を含む。サンプルは、検出されるべき検体を含む任意の製剤であることができる。サンプルは、例えは、(血漿及び血小板断片を含む)血液、脊髄液、粘液、痰、唾液、精液、大便若しくは尿又はそれらの任意の一部のような、身体組織若しくは体液の全ての又は複数の成分を含むことができる(但しそれらに限られない)。例示的なサンプルは、全血、赤血球、白血球、軟膜、毛、爪及び表皮物質からの物質、頬側スワブ、咽頭スワブ、膣スワブ、尿道スワブ、頸部スワブ、咽頭スワブ、直腸スワブ、病巣スワブ、膿瘍スワブ、鼻咽頭スワブなどを含むスワブ(但しこれらにかぎられない)、リンパ性流体、羊水、脳脊髄液、腹膜しん出液、肋膜しん出液、嚢胞からの流体、滑液、硝子体液、房水、嚢流体、眼球洗浄液、眼球吸引液、血漿、血清、肺洗浄液、肺吸引液、体内の任意の組織の生検材料物質を含むことができる。任意の上記の例示的な生体サンプルから取得される溶解物、抽出物又は物質もサンプルとみなされることができることを当業者は認識する。移植された物質を含む培養細胞、一次細胞、二次細胞株など、及び任意の細胞、組織若しくは臓器から得られる溶解物、抽出物、上澄液又は物質も、本明細書で用いられる用語「生体サンプル」の意味の範囲内である。微生物及びウィルスを含むサンプルも、本発明の方法を用いた検体検出に関連して認識される。法医学設定から得られる物質も、用語「サンプル」の意図された意味の範囲内である。サンプルは、食材や飲料、水、土壌、砂などのような環境サンプルを含むこともできる。これらのリストは網羅的であることを意図しない。
【0062】
本発明の特定の実施例では、サンプルはその検出方法による検体の検出を容易にするために前処理される。たとえば、一般的に、サンプルの前処理は、検体(例えばDNAの抽出物、タンパク質など)と同じ全体的な性質を持つ化合物のみを含む半精製された画分をもたらす。サンプルの前処理に適した方法及びキットは、従来技術において利用可能である。
【0063】
本発明の特定の実施の形態によれば、検体は、ゲノムDNAの配列又は病原微生物からの核酸のような核酸である。一般的に、サンプル中のゲノムDNAを検出するために、dsDNAの変質を保証して、同時にサンプル中に存在するほとんどの酵素活性を機能させなくするために、サンプルは(例えば100℃まで)加熱される。追加的に又は代わりに、DNAは(部分的に)精製されることができる。様々な方法が、核酸をサンプルから単離するために利用可能である。例示的な核酸単離技術は以下を含む。(1) 有機物を抽出してその後例えばフェノール/クロロホルム有機試薬を用いてエタノール沈殿する(例えば、Ausbel et.al. 編(1995:2003年6月までの増刊を含む)の"Current Protocols in Molecular Biology," John Wiley & Sons, New York)。好ましくは、自動DNA抽出機(例えば、Applied Biosystems社(Foster City, Calif)から入手可能なModel 341DNA Extractor)を用いる。(2)固定相吸着方法(例えば、Boom他の米国特許第5234809号; Walsh他のBioTechniques 10(4):506-513(1991))。(3)塩によって誘発されたDNA沈澱方法(例えば、 Miller et.al., (1988) Nucl. Acids Res., 16(3): 9-10)。そのような沈澱方法は、一般的に「塩析」法と呼ばれる。市販のキットがそのような方法を促進するために用いられることができる(例えば、Genomic DNA Purification Kit及びTotal RNA Isolation System(共にPromega社(Madison, Wis.)から入手可能))。さらに、そのような方法は、例えばABI PRISMTM 6700 Automated Nucleic Acid Workstation(Applied Biosystems社, Foster City, Calif.)又はABI PRISMTM 6100 Nucleic Acid PrepStation、及び関連するプロトコル(例えばNucPrepTM Chemistry:Isolation of Genomic DNA from Animal and Plant Tissue, Applied Biosystems Protocol 4333959 Rev. A (2002)、Isolation of Total RNA from Cultured Cells, Applied Biosystems Protocol 4330254 Rev. A (2002)、及びABI PRISMTM Cell Lysis Control Kit, Applied Biosystems Protocol 4316607 Rev. C (2001))を用いて、自動化又は半自動化されている。
【0064】
上記の前処理方法は、例えば酵素消化作用、シアリング若しくは音波処理による断片化ステップ及び/又は例えばPCRによる酵素増幅ステップをさらに有することができる。具体的には、核酸の高感度な検出が構想される場合、標的DNAのPCR増幅が検体の検出前に実行されることができる。この文脈において、サンプルは、PCR生成物を含む抽出されたDNAから成る。
【0065】
一般にサンプル又はサンプルの半精製された画分中に存在し、サンプルマトリクス効果を引き起こす可能性がある化合物及び条件の典型的な例は、イオン、大きな又はバルクのタンパク質、バルクDNA、pHなどを含む(但しそれらに限られない)。しかしながら、サンプルマトリクス効果の原因となる要因が同定されることは本発明にとって重要ではない。
【0066】
本発明の方法は、原則として任意の分析的検出技術に適用されることができ、それによって、検体の検出が、サンプルマトリクスの存在下でラベルの検出に基づいて実行される。特に、ラベルの検出がサンプル中に存在する要因によって容易に影響を及ぼされる分析的検出方法にとって本発明は有用である。本発明の方法は特に、表面増強共鳴ラマンスペクトル法(SERRS)によるラベルの検出に基づく検出方法に適している。SERRSにおいて、SERRS活性物質又は色素であるラベルが利用され、それはその色素の共鳴周波数において照射すると、共鳴ラマンスペクトラムを生じる。このスペクトラムの検出感度は、粗い金属表面(例えば金、銀、銅及び特定の他の金属のナノ粒子)上へ色素を吸着することによってさらに増強される(SERRS)。SERRSにおける重要な要素は、この金属表面上への色素の効率的な吸着である。他の方法は、金属表面に直接又は間接的に色素を結合することを構想する。粗い金属表面がコロイド金属ナノ粒子から成る場合、コロイドナノ粒子が制御されて凝集するときに最良の信号増強が達成される。凝集作用剤は、酸(例えばHNO3又はアスコルビン酸)、ポリアミン(例えばスペルミン)及び無機イオン(例えばCl-, I-, Na+又はMg2+)を含む。したがって、サンプル中のそのような化合物の存在はコロイド凝集に影響を及ぼす可能性がある。凝集に加えて、サンプルマトリクスの成分はコロイド上への色素の吸着を妨害する可能性もあり、それによって測定されるSERRS信号に負の影響を及ぼす。
【0067】
本発明の方法は、検体の検出を伴う方法である。検出される検体の性質は本発明にとって重要でなく、任意の分子又は検出のための関心分子の凝集物であることができる。検体の網羅的ではないリストは、タンパク質、ポリペチド、ペプチド、アミノ酸、核酸、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、ヌクレオシド、炭水化物、多糖類、リポポリサッカリド、グリコプロテイン、リポタンパク質、核タンパク質、脂質、ホルモン、ステロイド、成長因子、サイトカイン、神経伝達物質、受容体、酵素、抗原、アレルゲン、抗体、代謝物質、コファクタ、栄養素、毒素、毒物、薬剤、細菌戦物質、生物学的危険物質、感染因子、プリオン、ビタミン、免疫グロブリン、アルブミン、ヘモグロビン、凝固因子、インターロイキン、インターフェロン、サイトカイン、腫瘍特異エピトープを含むペプチド及び任意の上記の物質に対する抗体を含む。検体は、ウィルス、バクテリア、微生物(例えばサルモネラ、ストレプトコッカス、レジオネラ菌、大腸菌、ジアルジア、クリプトスポリジウム 、リケッチア)、芽胞、カビ、酵母、藻類、アメーバ、渦鞭毛藻類、単細胞生物、病原又は細胞、並びに微生物の細胞表面分子、断片、部分、成分、生成物、小さい有機分子、核酸及びオリゴヌクレオチド、代謝物質のような、一つ以上の複雑な凝集物を含むことができる(但しそれらに限られない)。
【0068】
特定の実施の形態によれば、検体はDNA(例えば遺伝子、ウィルスDNA、細菌DNA、菌類DNA、哺乳類DNA、DNAフラグメント)である。検体は、RNA(例えばウィルスRNA、mRNA、rRNA)であることもできる。検体は、また、cDNA、オリゴヌクレオチド、又は合成DNA、RNA、PNA、合成オリゴヌクレオチド、修飾オリゴヌクレオチド若しくは他の核酸類似体であることができる。それは、単鎖及び二重鎖核酸から成ることができる。それは、検出の前に、制限酵素との温浸、核酸ポリメラーゼによる複製、断片化の発生を可能にするシアリング又は音波処理のような操作を受けることができる。
【0069】
上記のように、本発明は、ラベルの使用による検出を伴う検出方法のためのラベル制御を提供する。蛍光性、発色性又は化学発光性色素、放射性、金属及び/又は磁気ナノ粒子などのような異なる種類のラベル(但しそれらに限られない)が、本発明の文脈内で構想される。
【0070】
したがって、本発明の方法において実行される検出ステップは、用いられるラベルによって決定され、蛍光、比色法、吸収、反射、偏光、屈折、電気化学、化学発光、レイリー散乱及びラマン散乱、SE(R)RS、共鳴光散乱、グレーティング結合表面プラスモン共鳴、シンチレーション計数、磁気センサ、電気化学検出(例えばアノードストリッピング電圧測定)などを含む(但しそれらに限られない)。
【0071】
それぞれの検出方法に用いられる適切なラベルは非常に多く、従来技術において詳細に説明される。蛍光性ラベルは、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)、テトラメチルローダミン(TMR)のようなカルボキシフルオレセイン、カルボキシテトラメチルローダミン(TAMRA)、カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、sulforhodamine 101(Texas redTM)、アト色素(Sigma Aldrich社)、Fluorescent Red及びFluorescent Orange、フィコエリトリン、フィコシアニン及びCrypto-FluorTM色素などを含む(但しそれらに限られない)。最も一般的な放射性同位元素は、β放射体(例えば3H及び14C)並びにγ放出体(例えばヨウ素125(125I))を含む。定量的及び定性的分析に用いられる他の説明されたラベルは、デンドリマー、量子ドット、アップコンバーティング蛍光体及びナノ粒子を含む(但しそれらに限られない)。
【0072】
本発明の方法における検体の検出がSE(R)RSに基づく場合、ラベルは、SE(R)RS活性である物質、すなわち、適切に照射された場合にSERS又はSERRSスペクトラムを生成することが可能である物質であり、本明細書においてSE(R)RS活性ラベル又は色素とも呼ばれる。SE(R)RS活性ラベルの非制限的な例は、5-(及び6-)carboxy-4',5'-dichloro-2',7'-dimethoxy fluorescein、5-carboxy-2',4',5',7'-tetrachlorofluorescein及び5-carboxyfluoresceinのようなフルオレセイン色素、5-(及び6-)carboxy rhodamine、6-carboxytetramethyl rhodamine及び6-carboxyrhodamine Xのようなローダミン色素、メチル、ニトロシル、スルホニル及びアミノフタロシアニンのようなフタロシアニン、アゾ色素、アゾメチン、シアニン、及びメチル、ニトロ、スルファノ及びアミノ派生物のようなキサンチン、並びにスクシニルフルオレセインを含む。
【0073】
特定の実施の形態によれば、SE(R)RSラベルは、カルボキシローダミン、FAM又はTETである。カルボキシローダミンR6Gによってラベルが付けられたオリゴヌクレオチドの補正曲線は、1.05・10-12 Mの検出限界に達することが示され、それは希釈効果を考慮すると、検査サンプルボリューム中のラベル付きオリゴヌクレオチドの0.5フェムトモルの検出に対応する。同時に、(FAM及びTETと同様に)R6Gの補正グラフが、10-7 Mから10-11 Mまでの範囲にわたって線形であることが示された(LGC "Evaluation of the sensitivity of SERRS-based DNA detection", January 2004, LGC/Mfb/2004/02, http://www.mfbprog.org.uk/themes/theme_publications_item.asp?intThemeID=10&intPublicationID=865において入手可能)。
【0074】
ラベルの選択は、ラベルの共鳴周波数、検査サンプル中に存在する他の分子の共鳴周波数などのような要因によって影響される可能性がある。生体分子の検出に有用なSE(R)RS活性ラベルは、米国特許番号5306403、6002471及び6174677のような従来技術において説明される。
【0075】
本発明では、ラベル制御を用いたサンプルマトリクス効果の決定は、検査サンプル中の検体の検出から独立して(但しオプションとしてそれと同時に)実行される。特定の実施の形態によれば、サンプルマトリクス効果は、サンプル中の検体の検出に用いられるラベルと同じラベルを用いて決定される。しかしながら、代わりに、ラベル制御に用いられるラベルは、検体の検出に用いられるラベルと同じでないラベル(すなわち異なるラベル)であることが構想される。ラベルの検出に関するサンプルマトリクス効果の少なくとも一部は、ほとんどの場合、用いられるラベルの性質から独立していることが認識される。例えば、サンプルマトリクス効果がSE(R)RS検出において認識される場合、それは例えばSE(R)RS表面として用いられるコロイドの凝集の効果に起因し、これは用いられるSE(R)RS色素の性質から独立している同様の効果を持つことが予想される。特定の実施の形態によれば、サンプルマトリクス効果の決定に用いられる(検体検出において用いられるラベルと異なる)ラベルは、その特性において検体の検出に用いられるラベルに相当するラベル(類似のラベル)であることが構想される。
【0076】
上記のように、本発明によるラベル制御の提供は、特にラベルの検出がさまざまな要因によって影響を受けることが知られている方法に適している。本発明の特定の実施の形態によれば、ラベル制御の提供は、表面増強分光に基づく分析的検出方法に適用される。表面増強(共鳴)ラマン分光(SE(R)RS)のような表面増強分光による検出は、粗い金属表面上へ吸着された検体に対して観察されるラマン散乱の強力な増強に基づく。したがって、これは適切なSE(R)RS活性表面の存在下でのラベルの検出を必要とする。一般的に、この表面は貴金属(Au、Ag、Cu)表面又はアルカリ金属(Li、Na、K)表面である。金属表面は、例えばエッチングされた若しくは粗された金属表面、金属ゾル又は特定の実施の形態によれば金属コロイド粒子の凝集であり、後者はラマン散乱の108〜1014を超える増強をもたらす(Nie and Emory (1997), Science, 275, Kneipp (1999), Chem Rev, 99)。本発明の検出方法におけるSE(R)RS活性表面を構成する金属ナノ粒子は、金属ナノ粒子島状膜、金属皮膜ナノ粒子ベース基材、埋め込まれた金属ナノ粒子を有するポリマーフィルムなどで準備されることもできる。金属表面は、むきだしの金属であることができ、又は金属表面上の金属酸化物層から成ることができる。それは、その吸着能力を増加させるために、シトラート又は適切なポリマー(例えばポリリシン若しくはポリフェノール)のような有機被覆を含むことができる。
【0077】
本発明の特定の実施の形態によれば、SE(R)RS活性表面を構成する金属コロイド粒子は、US2005/0130163 A1において説明されるように制御されて凝集したナノ粒子又はコロイドナノ粒子である。ナノ粒子を用意するための他の方法が知られている(例えば米国特許第6054495、6127120及び6149868)。ナノ粒子は商業的な供給元から入手することができる(例えば、Nanoprobes Inc., Yaphank, N.Y.,Polysciences, Inc., Warrington, Pa.)。金属粒子は、それらがSE(R)RS効果を生じさせる限り任意のサイズでよい。一般的にそれらは、金属の種類によって、約4-50 nm、特に25-40nmの間の直径を持つ。
【0078】
SE(R)RS検出方法を利用する本発明の検出及び/又は定量化方法において、金属表面へのSE(R)RS活性ラベルの直接若しくは間接的な共有結合又は非共有結合又は吸着は、サンプル中の検体の存在及び/又は量を直接又は間接的に示すことが構想される。SE(R)RS活性表面への分子の結合の様々なオプション及びモードが公知技術において知られており、例えばUS6127120及びUS6972173において説明される。
【0079】
一般的に、SE(R)RS活性色素がヌクレオチドプローブを通して金属表面に結合される場合、金属SE(R)RS活性表面へのラベル付きプローブの吸着は、単量体の又は重合体のポリアミン、より詳しくは短鎖脂肪族化合物ポリアミン(例えばスペルミン)の追加によって保証される。したがって、一実施例によれば、本発明の方法は、検出に先立って、SE(R)RSによって検出される検査サンプルへポリアミンを追加する。ポリアミンは、SE(R)RSスペクトラムが取得される前に、検体及び/又はラベル及び/又はラベル付き検体特異プローブ及び/又はラベル付き代用標的プローブとのその相互作用を可能にする時に導入されなければならない。ポリアミンは、好ましくは短鎖脂肪族化合物ポリアミン(例えばスペルミン、スペルミジン、1,4-diaminopiperazine、diethylenetriamine、N-(2-aminoethyl)-1,3-propanediamine、triethylenetetramine及びtetraethylenepentamine)である。そのNH2グループを反複単位あたり4つ有するスペルミンは、特に本発明における使用に適している。ポリアミンは、その塩酸塩のような酸性塩の形で好ましくは導入される。それは、SE(R)RS活性表面がコロイドである場合(上記参照)に最も有用である。追加されるポリアミンの量は、好ましくは、ポリアミンによって表面を単一層で覆うために必要な量の100〜1000倍のオーダーである。過剰なポリアミンは表面上に被覆を形成し、それによって、最適なコロイド凝集及び検体及び/又はラベル及び/又は検体特異ラベルの吸着を保証する。
【0080】
ポリアミンの追加は、金属表面に結合するDNAの全体的な増加を保証する。あるいは又は追加として、プローブは、SE(R)RS活性表面上へのプローブの化学吸着を促進し又は容易にするために変更されることができる。これは、検体特異プローブの全体的な負電荷を少なくとも部分的に低減することによって保証されることができる。より詳しくは、検体特異プローブがヌクレオチドである場合、これは、US6127120に記載されるように、ルイス塩基(例えばアミノ基)を有する一つ以上の官能基を核酸又は核酸ユニットに組み込むことによって保証されることができる。
【0081】
更なる実施の形態によれば、SE(R)RS活性表面上への化学吸着を促進し又は容易にするために、官能基(例えばルイス塩基)がSE(R)RS活性ラベルに提供される。オプションとして、US2005/0130163に記載されるように、SE(R)RS活性ラベル又は色素及び金属粒子はポリマービーズ中に混入され、それはオプションとしてさらに、分離の際に重要である場合がある磁性をビーズに与える(下記参照)磁性粒子を含むことができる。
【0082】
本発明は、サンプルマトリクスが検体の検出を妨害する可能性がある検出方法のためのラベル制御を提供する。一般的に、そのような方法は、検体の検出及び/若しくは定量化を妨害する結合していないラベル及び/若しくはラベルをつけられた他の成分からの、ラベルをつけられた検体の分離を必要とせず、並びに/又は、検体をオリジナルサンプルマトリクスから分離する洗浄ステップを含まない方法を含む。本発明の一実施例によれば、検体の検出は、検体へのラベルの特異的な結合に基づいて保証され、それによって、ラベルの信号は検体への結合の際に変更される。これは例えば、標的配列に対して相補的であり、その2つの端の各々において色素及び失活剤(例えばDabcyl)によって二重にラベルをつけられた分子ビーコン(例えばプローブ)の供給によって、達成されることができる。その閉じた状態において、色素の信号は失活剤によって抑えられる。相補的配列が標的DNAにハイブリッドすると、ビーコンが開き、信号が検出されることができる。検体に特異的に結合し、それによって信号の変化を引き起こすことが可能なラベルの更なる例が、WO2005/019812においてSERRSのために提供される。その中で、その2つの端の各々において異なる色素によって二重にラベルをつけられたプローブであるSERRSビーコンが説明される。第2の色素は特に、適切な金属表面上へオリゴヌクレオチドプローブを固定することが可能であるように設計される。標的DNAがない場合、ビーコンは「閉じた状態」において金属表面に固定されて、両方の色素に対応するSERRSスペクトラムの検出をもたらす。相補的配列が標的DNAとハイブリッドする場合、ビーコンが開いて色素の一つが表面から取り除かれる。これはSERRS信号の変化を引き起こす。
【0083】
他の実施の形態によれば、蛍光色素分子のラベルが付いたヌクレオチドプローブが利用され、それによって、ラベルの蛍光の偏光は標的核酸に結合する際に増大する(Walker and Linn (1996), Clinical Chemistry, Vol 42, 1604-1608)。
【0084】
本発明のさらに他の実施の形態によれば、ラベル制御の提供は、検体の検出が、検体及びラベル付き代用標的プローブの検体特異プローブへの競合結合に基づいて保証され、後者はSE(R)RS表面に結合する競合SE(R)RS方法に適用可能である。ラベル付き代用プローブは、代用プローブに対する親和性よりも高い検体特異プローブの検体に対する親和性の結果として、検体特異プローブとのその結合から外される。そのような方法は、検体の逆の検出を保証し、より多くの検体が存在すると、より多くのラベル付き代用標的プローブが表面から外され、SE(R)RS信号の低下をもたらす。
【0085】
一般的に、本発明の方法の検体検出は、ラベル付き検体特異プローブを必要とし、それは相補的標的プローブ又は代用標的プローブであることができる。検体と特異的に結合するか又は(第2のプローブへの結合を)検体と競合することを意図するこれらのプローブは、検体に特異的に結合することが可能であるか又は検体の少なくとも(特異的な)一部に対応する化合物をラベルに連結することによって得られる。検体特異プローブの性質は、検出されるべき検体の性質によって決定される。最も一般的には、プローブは、抗原抗体結合、相補的ヌクレオチド配列、炭水化物-レクチン、相補的ペプチド配列、リガンド-受容体、助酵素-酵素、酵素阻害剤-酵素などのような(但しそれらに限られない)、検体との特異的な相互作用に基づいて開発される。
【0086】
本発明の特定の実施の形態によれば、重要な検体はヌクレオチドであり、本発明の方法は、ヌクレオチドプローブである少なくとも1つのラベル付き検体特異プローブの使用を必要とし、その配列は、関係する検体の少なくとも一部、特に検体固有の検体の配列と相補的であるか又は類似する。このヌクレオチドプローブは、検体の特異的な検出を可能にするためにラベルに結合される。
【0087】
ラベル付きヌクレオチドを調製してそれらを核酸に組み込むための方法は従来技術において説明される(例えば米国特許第4962037、5405747、6136543及び6210896)。
【0088】
本発明の特定の実施例では、SE(R)RS活性ラベルが用いられ、それは、直接的に又はリンカー化合物を介して、ヌクレオチドプローブに取り付ける。他の分子(例えばヌクレオチド又は核酸)と共有結合反応するように設計された反応基を含むSE(R)RS活性ラベルは市販されている(例えばMolecular Probe社、Eugene、Oreg.)。ヌクレオチド前駆物質に共有結合で取り付けられるSE(R)RS活性ラベルは、標準の商業的な供給元から購入することができる(例えば、Roche Molecular Biochemicals社, Indianapolis, Ind.; Promega社, Madison, Wis.; Ambion社, Austin, Tex.; Amersham Pharmacia Biotech, Piscataway, N.J.)。
【0089】
本発明の特定の実施の形態によれば、結合されたラベル付きプローブの検出は、サンプル内での、検体に結合されたラベル付き検体特異プローブからの結合していないラベル付き検体特異プローブの物理的分離を必要とする。結合していないラベル付きプローブと結合されたラベル付きプローブとの分離は、検体特異プローブにタグを提供することによって、又は物理的及び/若しくは化学的な力を受けることができるタグを有する第2の検体特異分離プローブを提供することによって、達成されることができる。そのようなタグの典型的な例は、(磁力を受けることができる)磁気ビーズ、(光ビームによって捕獲されて動かされることができる)ガラス若しくはポリスチレンビーズ(Smith et al. (1995), Science 271:795)、又は(動電学的な力を受けることができる)荷電群(Chou et al. (1999), PNAS 96:11)を含む。検体が検出に先立ってPCRを用いて増幅されるヌクレオチド配列である場合、タグはPCR生成物に組み込まれることができる。検体にタグを付けることで、結合していないラベル付き検体特異プローブを結合されたラベル付き検体特異プローブから分離することが可能になり、その個々の検出が可能になる。
【0090】
本発明の特定の態様は、検体(より詳しくは検査サンプル中の検体)の検出及び/又は定量化のための改善された方法に関する。本願明細書に説明される方法は一般に「検体」に関連するが、本発明の方法が異なる検体特異ラベルを使用していくつかの検体が同時に検出又は定量化される場合に適用されることができることが同時に構想される。特に、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)、テトラメチルローダミン(TMR)のようなカルボキシフルオレセイン、カルボキシテトラメチルローダミン(TAMRA)、カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、sulforhodamine 101(Texas redTM)、Atto色素(Sigma Aldrich)、Fluorescent Red及びFluorescent Orange、フィコエリトリン、フィコシアニン、Crypto-FluorTM色素、量子ドット、SE(R)RS活性色素並びにそれらの同位元素などの(但しそれらに限られない)異なる蛍光性ラベルのような(但しそれに限られない)、同じ検出方法を用いて区別して検出されることができる異なる検体特異プローブが利用される。それらのプローブの各々が異なる検体に対して特異的であることができるので、各々のラベル付き検体特異プローブに対して、検査サンプル中のその検出信号を測定することが可能である。さらに、各々のラベルの検出を潜在的に妨害するサンプルマトリクス効果に対する補正を可能にするために、(それぞれのラベルが追加された1つのバックグラウンドサンプル及び1つのバックグラウンドフリーサンプルに基づいて)1つのラベル制御において異なるラベルの各々に対してサンプルマトリクス効果を決定することが可能である。
【0091】
上記のように、本発明の方法は、表面増強(共鳴)ラマン分光すなわちSE(R)RSに基づく検出及び/又は定量化方法において特に興味深い。本願明細書において一般的にSE(R)RSが参照されるが、例えば、表面増強蛍光、通常の(ストークス又は反ストークス)ラマン散乱、共鳴ラマン散乱、コヒーレント(ストークス又は反ストークス)ラマン分光(CSRS又はCARS)、表面増強(共鳴)CARS、誘導ラマン散乱、反転ラマン分光、誘導利得ラマン分光、ハイパーラマン散乱、表面増強ハイパーラマン散乱、分子光学的レーザ検査(MOLE)又はラマンマイクロプローブ又はラマン顕微鏡検査又は共焦ラマンマイクロ分光分析、三次元若しくはスキャンラマン、ラマンサチュレーション分光法、時間分解ラマン共鳴、ラマンデカップリング分光又はUVラマン顕微鏡検査のような(但しそれらに限られない)他の種類の表面増強分光に基づく検出方法も構想されることが理解される。
【0092】
本発明の特定の実施例では、ラベルの共鳴周波数で動作することで感度が増加するので、本発明の検出方法はSERRSを必要とする。この場合には、ラマンスペクトラムを生成するために用いられる光源はコヒーレントな光源(例えばレーザ)であり、用いられているラベルの最大吸収周波数に実質的に調整される。この周波数は、SE(R)RS活性表面並びに検体及び/又は検体結合種とのラベルの関連性によって僅かにシフトする可能性があるが、当業者は、これに対応するために光源を適切に調整することが可能である。光源は、ラベルの吸収極大の近くの周波数に又はラベルの吸収スペクトラム中の第2のピークの周波数における若しくはその近くの周波数に調整されることができる。あるいは、SE(R)RSは、活性表面又は(凝集)コロイド上のプラスモン共鳴周波数で動作することを含むことができる。
【0093】
SE(R)RS検出に基づく本発明の方法において、一般的に、例えばラベルの吸収極大に対応する1つのピークが選択され、励起はそのピークの波長でのみ実行される。あるいは、例えば異なる検体が異なるSERRSラベルを用いて同時に検出されている場合、各々のラベルを同定するために「フィンガープリント」スペクトラム全体を検出することが必要である場合がある。一般に、多変量解析方法(例えば部分的最小二乗法回帰、主成分回帰など)が、フィンガープリントスペクトラム全体、複数のラマン帯域を有するスペクトル域を用いて又は1つの固有のラマン帯域を用いて、存在する各々のラベルの定性的及び/又は定量的な同定を実行するために用いられることができる。
【0094】
一般的に、SE(R)RSに基づく検出方法における検出ステップは、可視スペクトラムの周波数を持つレーザからの入射光を用いることにより実行される。選択される厳密な周波数は、ラベル、表面及び検体に依存する。概して、可視スペクトラムの緑又は赤の領域における周波数は、貴金属表面(例えば銀及び金)のより良い表面増強効果を生じさせる傾向がある。しかしながら、例えば紫外線又は近赤外線範囲の他の周波数が用いられる状況を構想することが可能である。適切な周波数と電力をもつ適切な光源の選択及び必要な場合には調整は、特に入手可能なSE(R)RS文献を参照して、おそらく当業者の能力の範囲内である。
【0095】
SE(R)RSベースの検出方法に用いられる励起源は、窒素レーザ、ヘリウムカドミウムレーザ、アルゴンイオンレーザ、クリプトンイオンレーザなどを含む(但しそれらに限られない)。複数のレーザは、共鳴ラマンスペクトル法にとって重要である励起線の幅広い選択を提供することができる。特定の実施の形態によれば、アルゴンイオンレーザが、514.5nmの励起波長でLabRam集積化機器(Jobin Yvon社)において用いられる。
【0096】
励起ビームは、帯域フィルタによってスペクトル的に純化されることができ、6倍対物レンズを用いて基材にフォーカスされることができる。対物レンズは、励起ビーム及び放射されたラマン信号のための直角ジオメトリを作成するためにホログラフィックビームスプリッタを用いることにより、サンプルの励起及びラマン信号の収集の両方に用いられることができる。ラマン信号の強度は、励起ビームからの強いバックグラウンドに対して測定されることを必要とする。バックグラウンドは主としてレイリー散乱光及び鏡面反射であり、高効率光学フィルタによって選択的に取り除かれることができる。例えば、ホログラフィックノッチフィルタがレイリー散乱放射を低減するために用いられることができる。
【0097】
表面増強ラマン放射信号は、ラマン検出器によって検出されることができる。ラマン分光において潜在的に利用される様々な検出ユニットが従来技術において知られており、任意の既知のラマン検出ユニットが用いられることができる。ラマン検出ユニットの例は、例えば米国特許番号6002471において開示される。赤増強増感電荷結合素子(RE-ICCD)を備える電荷結合デバイス(CCD)、シリコンフォトダイオード、又は単独で又は信号のカスケード増幅のために直列に配置される光電子増倍管のような、他の種類の検出器が、用いられることができる。光子計数電子装置が高感度な検出のために用いられることができる。検出器の選択は、主に特定の分析を実行するために必要とされる検出の感度に依存する。波長選択ミラー、散乱光検出のためのホログラフィック光学素子及びファイバ光導波路を含むいくつかの装置が、SE(R)RS信号を収集するために適している。
【0098】
SE(R)RSスペクトラムを取得し及び/又は分析するための装置は、コンピュータのような何らかの形のデータプロセッサを含むことができる。一旦SE(R)RS信号が適切な検出器によって取り込まれると、その周波数及び強度データは分析用のコンピュータに一般的に渡される。フィンガープリントラマンスペクトラムが検出されたラマン活性化合物の同定のために参照スペクトルと比較されるか、又は被測定周波数における信号の強さが検出されたラマン活性化合物の量を算出するために用いられる。
【0099】
本発明は、サンプルマトリクス効果の補正を可能にすることによってサンプル中の検体の検出及び/又は定量化を改善するための方法を提供する。これは、例えば検査サンプルに投与される同位元素で編集されたラベルのような内部標準を用いて、光学励起/収集変動の補正を保証する設備と共に検出方法に適用されることができることが当業者によって理解される。そのような内部標準の例は従来技術中に提供される(Zhang et al. (2005), Anal. Chem. 77(11): 3563-3569)。
【0100】
本発明は、検体のラベルベースの検出のための改善された方法を提供する。本発明の方法のアプリケーションに適応されるキット及び試薬が開発されることができることが予想される。
【0101】
更なる態様によれば、本発明は、本明細書において説明される方法が実行されることができるシステムを提供し、当該システムは、
(a) 検体が検出されることになっているサンプルからの検査サンプル、サンプルマトリクス又はサンプル様マトリクスを含むバックグラウンドサンプル、及びサンプルマトリクス又はサンプル様マトリクスを含まないバックグラウンドフリーサンプルを提供するための手段、
(b) 予め定められた量のラベルにサンプルを適切に接触させるための手段、
(c) (検査サンプル、バックグラウンドサンプル及びバックグラウンドフリーサンプル中の)ラベルを検出及び/又は定量化するための手段、
(d) バックグラウンドサンプル中及びバックグラウンドフリーサンプル中のラベルの検出間の相違を決定することによってサンプルマトリクス効果を決定し、それに応じて検査サンプル中のラベルの検出及び/又は定量化を補正するための手段、を有する。
【0102】
例えば、本発明は、病原検出のための、例えばMRSA検出、髄膜炎、HIV、鳥インフルエンザ、マラリアなどのための集積化装置を含む。
【0103】
図3は、本発明の実施の形態によるシステム100の概略表現である。システム100は、サンプル中の検体の存在を検出し、オプションとして定量化することに適しており、それによって、ラベルの検出に関するサンプルのサンプルマトリクス効果が決定される。それは、一つ以上のサンプルを提供するための供給源101を含み、それは一体として提供されることができ、又は、検体を含むと思われる検査サンプルの専用供給源105、サンプルマトリクス若しくはサンプル様マトリクスを含むバックグラウンドサンプルの供給源106、サンプルマトリクス若しくはサンプル様マトリクスを含まないバックグラウンドフリーサンプルの供給源107のような供給源として提供されることができる。加えて、システムは、ラベルを収容する供給源102を含むことができ、それは一つの供給源であるか、又は、検体特異ラベル(例えばラベル付き検体特異プローブ)の供給源108及びラベルの供給源109として別々に提供されることができる。オプションとして、装置は、検出に用いられる添加剤の少なくとも1つの更なる供給源110を含む。この装置は手段103をさらに含み、そこで検査サンプル及びバックグラウンドサンプルがそれぞれのラベルに接触して、検出のために提示される。オプションとして、この手段は1つの手段103として提供されることができ、又は、検査サンプル111、バックグラウンドサンプル112及びバックグラウンドフリーサンプル113の関連するラベルとの接触及び検出のための別々のチャンバとして提供されることができる。この装置は、
a) 供給源101(又は105)からの検体を含むサンプル及び供給源102(又は108)からの予め定められた量のラベルを、ラベルにサンプルを接触させるための手段103に、又はそこで検査サンプルが検体特異ラベルに接触する専用手段111に提供し、
b) 供給源101(又は106)からのバックグラウンドサンプル及び供給源102(又は109)からの予め定められた量のラベルを、それぞれのラベルにサンプルを接触させるための手段103に、又はそこでバックグラウンドサンプルが予め定められた量のラベルに接触する専用手段(112)に提供し、
c) 供給源101(又は107)からのバックグラウンドフリーサンプル及び供給源102(又は109)からの予め定められた量のラベルを、それぞれのラベルにサンプルを接触させるための手段103に、又はそこでバックグラウンドフリーサンプルが同じ予め定められた量のラベルに接触する専用手段113に提供する、
ための手段104をさらに含む。
【0104】
手段104は、サンプル及び/又は検体及び/又はバックグラウンド及び/又はバックグラウンドフリー物質の重量フィードを含むことができ、供給源105、106、107、108、109及び110から(又は供給源101及び102から)接触手段111、112及び113(又は103)への流体の供給を可能にするためのパイプ/管路及びバルブ(例えば選択可能かつ制御可能なバルブ)の配列も含むことができる。あるいは、流体は供給源105-110(又は101及び102)から接触手段111-113(又は103)までポンピングされることができる。
【0105】
特定の実施の形態によれば、バックグラウンドサンプルは、サンプルマトリクスから成り、より詳しくは検体が検出されることになっているサンプルの画分であり、したがってその組成は検査サンプルのそれと同一である。
【0106】
構成要素の上記の配置は、カートリッジ117(例えば分子診断に用いられる使い捨てのカートリッジ117)に位置することができる。
【0107】
少なくとも一部がカートリッジ117内であることができ又はオプションとしてカートリッジ117に対して外付けである制御及び分析回路115が、手段104の動作を制御するためにオプションとして提供されることができる。制御及び分析回路115は、カートリッジの表面上の適切な接点(例えば端子)によって手段104に接続されることができる。
【0108】
さらに、検体に結合されるラベルを検出し、そしてバックグラウンドサンプル中及びバックグラウンドフリーサンプル中の関連するラベルを検出するための手段114が提供される。手段114は、カートリッジ117に一体化されていることができて、又はカートリッジに対して外付けであることができ、検出手段114がサンプルなどを検出することができるように、ウィンドウがカートリッジ117に提供されることができる。手段114は、制御及び分析回路115の管理下であってもよい。検出手段114は、一つ以上又は任意の前述の検出方法を用いることが可能な検出器であることができる。検出の信号標本は、任意の上記した本発明の分析アルゴリズムを実行するように適応されていることができる制御及び分析回路115に供給されることができる。特に、制御及び分析回路115は、バックグラウンドフリーサンプル中のラベルの検出とバックグラウンドサンプル中のラベルの検出との間の相違を決定することによってサンプルマトリクス効果を決定し、決定されたサンプルマトリクス効果によって検査サンプル中のラベルの検出を補正してそれによって検査サンプル中の検体の検出及び/又は定量化を補正するように適応されることができる。結果は、任意の適切な表示手段116(例えば視覚的な表示装置、プロッタ、プリンタなど)に表示されることができる。制御及び分析回路115は、離れた位置に結果を伝送するために、ローカルエリア又は広域ネットワークに対する接続を持つことができる。制御及び分析回路115は、例えば専用ハードウェア又は適切にプログラムされたコンピュータ、マイクロコントローラ又はマイクロプロセッサのような埋込み型プロセサ、プログラム可能なゲートアレイ(例えばPAL、PLA又はFPGA)等の、任意の適切な態様で実現されることができる。
【0109】
本発明の特定の実施の形態によると、供給源105中のサンプルは、任意の前述の生体分子及び特にDNA分子の混合物のような生体分子を含む溶液であることができる。特に、生体分子はPCR反応から得られるDNAであることができる。この実施の形態は、溶菌ステーション及びPCR反応ステーション(特に多重化PCR反応ステーション)を含むことができる分子診断用使い捨てカートリッジのために特に有用である。そしてPCR反応ステーションの出力は供給源105を構成する。この場合には、供給源108中のラベルは、任意の適用された上記の検出方法に適したラベルが取り付けられた検体特異オリゴヌクレオチドプローブである。プローブのヌクレオチド配列は、検体とハイブリッドすることができるように選択され、例えば検体の配列に対して相補的である。第2の供給源108は、予め定められた量の、ヌクレオチドプローブに結合されておらずしたがって検体と結合することができない同じ又は異なるラベルを含むことができる。供給源106は、PCR緩衝液(例えばTaq PCR緩衝液、50mM KCl、10mMトリスHCl、1.5mM MgCl2、0.1 %ゼラチン)のようなバックグラウンドサンプルを含む。供給源107は、水又は乱されないラベルの検出に適した緩衝液のようなバックグラウンドフリーサンプルを含む。表面増強分光方法がラベルの検出に用いられる場合、更なる供給源110は、コロイド粒子又は金属表面でコーティングされたビーズのような適切な金属表面、特に凝集可能なコロイド粒子又は金属表面でコーティングされたビーズを含むことができる。第2の更なる供給源110は、スペルミンのような凝集剤を含むことができる。
【0110】
この特定の実施例において、供給源105〜110から試薬を適切に提供して接触させることで、PCR反応生成物及び予め定められた量のラベル付きオリゴヌクレオチドプローブを含むチャンバ111、PCR反応生成物及び予め定められた量のラベルを含むチャンバ112、水及び予め定められた量のラベルを含むチャンバ113をもたらすことができ、加えて、3つ全てのチャンバ111-113は、検出手段114による表面増強分光検出を可能にするための凝集コロイド粒子を含む。
【0111】
好ましい実施の形態、特定の構造及び構成並びに物質が本発明による装置として本明細書において論じられたが、形状及び細部における様々な変更又は修正が、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく行われることができることが理解されるべきである。
【実施例1】
【0112】
SERRS活性ラベルのSERRS検出に関する緩衝液組成の効果の決定。
【0113】
rhodamine6Gによってその5'末端にラベルをつけられた合成オリゴヌクレオチド(19bp、TGCTTCTACACAGTCTCCT)が、検出されるSERRS強度に関する緩衝液組成物の効果を調査するために用いられた。オリゴヌクレオチドは、2・10-9 Mの濃度でバックグラウンドフリーサンプル(すなわち水)中に溶解された。SERRS測定に関する緩衝液組成物の効果を調査するために、同じ量のオリゴヌクレオチドが、バックグラウンドサンプル(すなわち10mMのNaClを含む水)中に溶解された。SERRS測定のために、10μlの各々のサンプルが、10μlスペルミン四塩化物(新たに調製された100mM水溶液)と混合された。これらの溶液に、250μlの水及び250μlの銀ナノ粒子(Munro et al. (1995), Langmuir, 11:3712-3720によって説明されるように調製された)が追加された。混合後すぐに、SERRSスペクトルがLabRamシステム(Jobin Yvon社)を用いて、514.5nmにおける励起を提供するアルゴンレーザによって両方のサンプルから取得された。2つのスペクトルの比較は、SERRS強度における有意な相違を示した。これはおそらく凝集物の量の増加及び/又はNaClの追加による凝集物サイズの変化によって引き起こされた。
【実施例2】
【0114】
競合SERRSを用いたサンプル中の特定の遺伝子の検出及び定量化並びにサンプルマトリクス効果の補正。
【0115】
動物個体群(特にニワトリ)のインフルエンザAウィルスの特定の亜型によって引き起こされる病原性の高い鳥インフルエンザは、持続的な地球規模の人間公衆衛生リスクを起こす。鳥インフルエンザA亜型H5N1ウィルスによる直接的な人間の感染は、最近少なからぬ人間の死亡率の原因となっており、迅速かつ正確な診断の必要性を強調している。A型インフルエンザウィルスは、外部グリコプロテイン、ヘマグルチニン(HA)及びノイラミニダーゼ(NA)の抗原性の相違に基づいて亜型にされる。本発明は、ウィルス性核酸のRT-PCR及びSERRSを用いることにより、ウィルス亜型に対する新規で迅速かつ正確なアプローチを提供する。
【0116】
ウィルスRNAが臨床サンプルから抽出され、ウィルスRNAのcDNA相補型が、ウィルス逆転写酵素及びランダムプライマを用いて生成される(Wright et al. (1995), J. Clin. Microbiol., 33:1180-1184)。多重PCRは、インフルエンザウィルス亜型H5N1のHA及びNA遺伝子に特異的なプライマの2つのセットによって実行され("Recommended laboratory tests to identify avian influenza A virus in specimens from humans", WHO Geneva, June 2005)、それぞれ、219及び616bpのPCR生成物を生ずるように設計される。増幅された生成物は、競合SERRSによって後で検出される。したがって、2つの検体特異プローブはそれぞれ、HA及びNA遺伝子内の領域に対して相補的であるように設計され、銀ナノ粒子への付着のための表面捜索(surface-seeking)基プロパルギルアミンを持つ。SERRS色素HEX及びTETによってそれぞれラベルをつけられた2つの更なる合成オリゴヌクレオチド(いわゆる代用標的プローブ)は、1つの不整合(SNP)を除いて、それぞれHA及びNA特異プローブの一部と相補的であるように設計されている。
【0117】
2つのラベル溶液が調製される。第1のラベル溶液は、増幅されたH5N1ウィルスのHA及びNA遺伝子の検出のための、予め定められた量のHA及びNA特異プローブ並びに対応する代用標的プローブを含む。SNPの存在によって、HA及びNA特異プローブ並びにそれらの対応する代用標的プローブは、第1のラベル溶液中でゆるくアニール(anneal)される。全く同一に調製される第2のラベル溶液は、予め定められた量のSERRS色素HEX及びTETのみを含む。
【0118】
様々なサンプル中のHEX及びTETのSERRS測定のための基準点を決定するために、各々のラベル溶液の10μlが、10μlスペルミン四塩化物(新たに調製される100mM水溶液)と混合される。これらの溶液に、250μlの水及び250μlの銀ナノ粒子(Munro et al. (1995), Langmuir, 11:3712-3720によって説明されるように調製される)が追加される。混合後すぐに、SERRSスペクトルが、514.5nmにおける励起を提供するArgonレーザによるLabRamシステム(Jobin Yvon社)を用いて、調製された溶液から取得される。
【0119】
そしてPCR反応の出力は、検査サンプルとバックグラウンドサンプルを提供するために、2つの等しい部分に分割される。水がバックグラウンドフリーサンプルとして提供される。増幅されたH5N1ウィルスのHA及びNA遺伝子の検出のために、検査サンプルは、予め定められた量のHA及びNA特異プローブ、代用標的プローブ並びに凝集した銀コロイドを含む第1のラベル溶液に追加される。サンプルマトリクス効果の決定のために、バックグラウンド及びバックグラウンドフリーサンプルは各々、予め定められた量のSERRS色素及び凝集した銀コロイドを含む第2のラベル溶液に追加される。
【0120】
適切な温度における培養は、検査サンプル中の検体DNAが代用標的プローブとHA及びNA特異プローブに対するハイブリッド形成を争うことを可能にし、後者は凝集した銀コロイドに取り付く。代用標的プローブはHA及びNA特異プローブに対して完全に相補的というわけではないので、HA及びNA特異プローブに対する検体DNAのハイブリッド形成はより安定しており、代用標的プローブは金属表面から外され、HEX及びTET色素のSERRS強度の減少をもたらす。
【0121】
バックグラウンド及びバックグラウンドフリーサンプルも培養され、それらのSERRSスペクトルは、PCR緩衝液化合物、残留DNAなどによって引き起こされるサンプルマトリクス効果を定量化するために比較される。
【0122】
サンプルマトリクス効果の補正によって、増幅されたウィルスのHA及びNA遺伝子の正確な検出が競合SERRSを用いて達成される。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】検査サンプル中のDNAのSE(R)RS検出に適用される、バックグラウンドマトリクス中及びバックグラウンドフリーマトリクス中のラベルを検出することによるラベル制御の検出を含む、検査サンプル中の検体を検出する本発明の方法の実施の形態の概略図。
【図2】本発明の実施の形態による、バックグラウンドフリーサンプル中のSERRS活性ラベル(1)及びSERRS効果を増強するサンプルマトリクス中のSERRS活性ラベル(2)のSERRSスペクトル。これらの2つのスペクトルの比較は、おそらく検査サンプル中の検体検出を妨害するサンプルマトリクス効果に関する情報を与える。
【図3】本発明の実施の形態によるシステムの概略。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラベルの検出に関するサンプルのサンプルマトリクス効果を決定する方法であって、
(a)サンプルマトリクス及びサンプル様マトリクスを含むバックグラウンドサンプルに、予め定められた量の前記ラベル又は異なるラベルを接触させ、
(b)サンプルマトリクス、サンプル様マトリクス又は前記ラベルの検出を妨害する可能性がある任意の他の化合物を含まないバックグラウンドフリーサンプルに、予め定められた量の前記ラベル又は前記異なるラベルを接触させ、
(c)前記バックグラウンドサンプル及び前記バックグラウンドフリーサンプル中の前記ラベル又は前記異なるラベルを検出し、並びに
(d)前記サンプルマトリクス効果に対応する、前記バックグラウンドサンプル中及び前記バックグラウンドフリーサンプル中の前記ラベル又は前記異なるラベルの検出間の相違を決定する方法。
【請求項2】
サンプル中の検体の検出に関するサンプルマトリクス効果を決定する方法であって、
(a)前記検体が検出されることになっている前記サンプルからの検査サンプル、サンプルマトリクス又はサンプル様マトリクスを含むバックグラウンドサンプル、及びサンプルマトリクス又はサンプル様マトリクスを含まないバックグラウンドフリーサンプルを提供し、
(b)ラベルを用いて前記検査サンプル中の前記検体を検出及び/又は定量化し、
(c)次のステップを含む方法、すなわち、
(i)予め定められた量の前記ラベル又は異なるラベルに、前記バックグラウンドサンプルを接触させ、
(ii)予め定められた量の前記ラベル又は前記異なるラベルに、前記バックグラウンドフリーサンプルを接触させ、
(iii)前記バックグラウンドサンプル中及び前記バックグラウンドフリーサンプル中の前記ラベル又は前記異なるラベルを検出し、
(iv)前記バックグラウンドサンプル及び前記バックグラウンドフリーサンプル中の前記ラベル又は前記異なるラベルの検出間の相違を決定することにより、前記サンプルマトリクス効果を決定する、
方法によって前記サンプルマトリクス効果を検出し、
(d)ステップ(b)における前記検査サンプル中の前記検体の前記検出及び/又は定量化を、(iv)において決定された前記サンプルマトリクス効果によって補正する方法。
【請求項3】
前記バックグラウンドサンプルは前記検体が検出されることになっている前記サンプルの画分である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記バックグラウンドサンプルがサンプルマトリクス又はサンプル様マトリクスを有する請求項2に記載の方法。
【請求項5】
サンプルマトリクス効果の補正が、ラベルの2以上の予め定められた量を用いて実行される、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記検体が、核酸、タンパク質、炭水化物、脂質、化学物質、抗体、微生物及び真核細胞からなるグループから選択される、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(c)における検出又はステップ(b)及び(c)における検出がそれぞれ光学的検出方法を用いて実行される請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記光学的検出方法がSE(R)REであり、前記ラベル又は前記異なるラベルが、SE(R)RE活性ラベルである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
検出に先立って、SE(R)RS活性表面に前記ラベル又は前記異なるラベルを接触させる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記SE(R)RS活性表面が、銀若しくは金ナノ粒子のコロイド懸濁又はその凝集コロイドである請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記検体の前記検出がラベル付き検体特異プローブを用いて実行される請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記検体特異プローブが結合感知ラベルを備える請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記検体がヌクレオチド配列であり、前記ラベル付き検体特異プローブは前記検体内の配列と相補的な配列を持つヌクレオチド又はヌクレオチド類似体配列である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記検体の前記検出が、SE(R)RS活性表面に結合することが可能な検体特異プローブ及びラベル付き代用プローブを用いて実行され、それによって、前記検体は、前記検体特異プローブへの結合を前記ラベル付き代用プローブと争う、請求項2に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(b)における前記検体の前記検出及び/又は定量化は、ラベル付き検体特異プローブ又はラベル付き代用プローブの検出に基づき、前記補正ステップ(d)は、(iv)において決定される前記サンプルマトリクス効果で前記ラベル付き検体特異プローブ又はラベル付き代用プローブの前記検出を補正することによって実行される、請求項2から請求項14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
ラベルの検出に関するサンプルのサンプルマトリクス効果を決定するシステムであって、
(a)サンプルマトリクス及びサンプル様マトリクスを含むバックグラウンドサンプルに、予め定められた量の前記ラベル又は異なるラベルを接触させる手段、
(b)サンプルマトリクス、サンプル様マトリクス又は前記ラベルの検出を妨害する可能性がある任意の他の化合物を含まないバックグラウンドフリーサンプルに、予め定められた量の前記ラベル又は前記異なるラベルを接触させる手段、
(c)前記バックグラウンドサンプル及び前記バックグラウンドフリーサンプル中の前記ラベル又は前記異なるラベルを検出する手段、並びに
(d)前記サンプルマトリクス効果に対応する、前記バックグラウンドサンプル中及び前記バックグラウンドフリーサンプル中の前記ラベル又は前記異なるラベルの検出間の相違を決定する手段を有するシステム。
【請求項17】
サンプル中の検体の検出に関するサンプルマトリクス効果を決定するシステムであって、
(a)前記検体が検出されることになっている前記サンプルからの検査サンプル、サンプルマトリクス又はサンプル様マトリクスを含むバックグラウンドサンプル、及びサンプルマトリクス又はサンプル様マトリクスを含まないバックグラウンドフリーサンプルを提供する手段、
(b)ラベルを用いて前記検査サンプル中の前記検体を検出及び/又は定量化する手段、
(c)予め定められた量の前記ラベル又は異なるラベルに、前記バックグラウンドサンプルを接触させる手段、
(d)予め定められた量の前記ラベル又は前記異なるラベルに、前記バックグラウンドフリーサンプルを接触させる手段、
(e)前記バックグラウンドサンプル中及び前記バックグラウンドフリーサンプル中の前記ラベル又は前記異なるラベルを検出する手段、
(f)前記バックグラウンドサンプル及び前記バックグラウンドフリーサンプル中の前記ラベル又は前記異なるラベルの検出間の相違を決定することにより、前記サンプルマトリクス効果を決定する手段、
(g)前記サンプルマトリクス効果を決定する手段に応答して前記検査サンプル中の前記検体の前記検出及び/又は定量化を補正する手段、
を有するシステム。
【請求項18】
前記検体を含む前記検査サンプル、バックグラウンドサンプル及びバックグラウンドフリーサンプルからなるグループから選択される一つ以上のサンプルの第1の供給源、一つ以上のラベルの第2の供給源、並びにオプションとして添加剤の第3の供給源をさらに有する、請求項16に記載のシステム。
【請求項19】
第1の供給源が、前記検体を含む前記検査サンプル、バックグラウンドサンプル及びバックグラウンドフリーサンプルそれぞれのための専用チャンバを有する、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記検体を含む前記検査サンプル、前記バックグラウンドサンプル及び前記バックグラウンドフリーサンプルを前記ラベルに接触させるためのチャンバをさらに有する請求項16から請求項19のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項21】
前記一つ以上のラベルの第2の供給源が、検体特異ラベルのためのチャンバ及びラベルのためのチャンバを有する、請求項18から請求項20のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項22】
サンプル中の検体の検出に関するサンプルマトリクス効果を決定するシステムに用いられる使い捨てカートリッジであって、
前記検体を含む検査サンプル、バックグラウンドサンプル及びバックグラウンドフリーサンプルからなるグループから選択される一つ以上のサンプルの第1の供給源、
一つ以上のラベルの第2の供給源、オプションとして添加剤の第3の供給源、
予め定められた量の前記ラベル又は異なるラベルに前記バックグラウンドサンプルを接触させ、予め定められた量の前記ラベル又は異なるラベルに前記バックグラウンドフリーサンプルを接触させ、予め定められた量の前記ラベル又は異なるラベルに前記検査サンプルを接触させる手段、
前記検査サンプル中、前記バックグラウンドサンプル中及び前記バックグラウンドフリーサンプル中の、前記ラベル又は前記異なるラベルの検出を可能にするウィンドウ、
を有する使い捨てカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−537816(P2009−537816A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−510582(P2009−510582)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【国際出願番号】PCT/IB2007/051725
【国際公開番号】WO2007/135591
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】