説明

分析装置および分析方法

【課題】前処理の工程を含む分析に要する時間を短縮できる分析装置および分析方法を提供する。
【解決手段】分析装置100は、貯槽部10、注入ノズル20、シリンジ21、採取ノズル22、試料槽25、2つ以上の分離流路を有するマイクロチップ30、検出部、廃液槽58、制御部および電源部を備える。採取ノズル22は、試料K2となる検体K1を収容する試料容器23から検体K1を採取して、検体K1を試料槽25に移送する。分離流路は、試料K2に含まれる特定成分を分離する。注入ノズル20は、採取ノズル22から離隔されており、試料槽25から試料K2を分離流路に注入する。検出部は、分離流路で分離した特定成分を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析装置および分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に含まれる特定成分の濃度もしくは量を分析する分析方法には、試料から特定成分を分離する分離工程と、分離された特定成分を検出する検出工程とを有する方法がある。例えば、キャピラリー電気泳動法を用いる分析方法においては、断面積が比較的小さい分離流路に泳動液を充填し、さらに分離流路の一端寄りに試料を導入する。分離流路の両端に電圧を加えると、例えば、電気泳動により泳動液が正極側から負極側へと移動する電気浸透流が生じる。また、上記電圧が印加されることにより特定成分は、それぞれの電気泳動移動度に応じて移動しようとする。従って、特定成分は、電気浸透流の速度ベクトルと電気泳動による移動の速度ベクトルとを合成した速度ベクトルにしたがって移動する。この移動によって、特定成分が他の成分から分離される。この分離された特定成分を例えば光学的手法によって検出することにより、特定成分の量や濃度を分析することができる。
【0003】
特許文献1には、電気泳動分離の稼働率を上げるとともに、分離バッファ液や電気泳動条件を試料ごとに設定できるマイクロチップ処理方法及び装置が記載されている。その技術では、装置の分注部は共通に設けられて分離バッファ液と試料をマイクロチップの電気泳動流路に注入する。電気泳動流路の一端に注入された分離バッファ液は分離バッファ充填・排出部により電気泳動流路に充填される。電気泳動用高圧電源部は電気泳動流路のそれぞれに独立して泳動用電圧を印加する。1つの電気泳動流路への分離バッファ液充填及び試料注入が終了すると次の電気泳動流路への分離バッファ液充填及び試料注入に移行し、試料注入が終了した電気泳動流路では泳動電圧が印加されて電気泳動分離と蛍光測定部による検出動作が開始される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−214710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のマイクロチップ処理方法では、分析処理のための流路を複数備えて順次試料の測定を行い電気泳動分離の稼働率を上げている。しかしながら、分析のための溶液の充填または試料の導入を含む前処理の時間を考慮していないため、分析処理全体としては時間がかかっていた。
【0006】
また、分析・測定対象を血液検体とする場合において、血液検体は比較的粘性が高く、洗浄が長時間かかるおそれがあった。さらに、衛生面管理や安全性向上の問題より、血液検体の取り扱いには注意が必要であった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、前処理の工程を含む分析に要する時間を短縮できる分析装置および分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点に係る分析装置は、
検体用容器から検体を採取して、該検体が試料に加工される試料槽に、採取した該検体を移送する採取手段と、
前記試料を流入する2つ以上の流入手段と、
前記試料槽から前記試料を前記流入手段に注入する、前記採取手段から離隔された分注手段と、
前記流入手段に流入した前記試料に処理を施す処理手段と、
前記流入手段の前記試料に含まれる特定成分を検出する検出手段と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
好ましくは、前記採取手段および前記試料槽を洗浄する第1の洗浄手段と、
前記分注手段および前記流入手段を洗浄する第2の洗浄手段と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
好ましくは、前記第1の洗浄手段は、前記分注手段が前記試料を前記流入手段に注入する時間、前記処理手段で前記試料に処理を施す時間、および、前記検出手段で前記試料に含まれる特定成分を検出する時間、の少なくとも一部の時間に重複して、前記採取手段および前記試料槽を洗浄することを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記第2の洗浄手段は、前記採取手段が前記検体を前記試料槽に移送する時間および前記試料槽で前記検体を試料に加工する時間の少なくとも一部の時間に重複して、前記分注手段および前記流入手段を洗浄することを特徴とする。
【0012】
好ましくは、前記検体用容器は前記検体が漏れないように封じられており、前記採取手段は採取ノズルを含み、該採取ノズルは該検体用容器の一部を貫通して前記検体を採取することを特徴とする。
【0013】
好ましくは、前記検体用容器は真空採血管であって、前記採取ノズルは該真空採血管の封止部を貫通して前記検体を採取することを特徴とする。
【0014】
好ましくは、前記流入手段は、流路を有するマイクロチップであることを特徴とする。
【0015】
好ましくは、前記処理手段は、前記試料に含まれる特定成分を分離する分離手段を含み、
前記検出手段は、前記分離手段で分離した特定成分を検出することを特徴とする。
【0016】
好ましくは、前記流入手段は前記分離手段を含み、該分離手段は電気泳動を行うことを特徴とする。
【0017】
本発明の第2の観点に係る分析方法は、
試料に含まれる特定成分を分析する分析装置が行う分析方法であって、
検体を検体用容器から採取手段で採取する採取ステップと、
前記採取ステップで採取した検体を試料槽に移送し、該試料槽の中で該検体を処理し前記試料へと加工する加工ステップと、
前記試料槽から前記試料を、前記採取手段から離隔された分注手段で2つ以上の流入手段へ注入する注入ステップと、
前記注入ステップで前記流入手段へ注入された前記試料に処理を施す処理ステップと、
前記処理ステップで処理を施された前記試料に含まれる特定成分を検出する検出ステップと、
を備えることを特徴とする。
【0018】
好ましくは、前記採取手段および前記試料槽を洗浄する第1の洗浄ステップと、
前記分注手段および前記流入手段を洗浄する第2の洗浄ステップと、
を備えることを特徴とする。
【0019】
好ましくは、前記第1の洗浄ステップを行う時間と、前記注入ステップ、前記処理ステップおよび前記検出ステップを行う時間の少なくとも一部の時間が重なり合うことを特徴とする。
【0020】
好ましくは、前記第2の洗浄ステップを行う時間と、前記採取ステップおよび前記加工ステップを行う時間の少なくとも一部の時間が重なり合うことを特徴とする。
【0021】
好ましくは、前記流入手段は、前記試料に含まれる特定成分を分離する分離手段を含み、
前記処理ステップは、前記流入手段に注入された前記試料から、該試料に含まれる特定成分を前記分離手段で分離する分離ステップを含む、
ことを特徴とする。
【0022】
好ましくは、前記分離ステップは、電気泳動を用いて前記試料に含まれる特定成分を分離することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、前処理の工程を含む分析に要する時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態に係る分析装置の構成概略図である。
【図2】図1に係る分析装置の分離部本体の構成概略図である。
【図3】実施の形態に係る制御部の構成例を示すブロック図である。
【図4A】シリンジに検体を吸入する前の状態を示す図である。
【図4B】シリンジに検体を吸入した状態を示す図である。
【図4C】試料槽に検体を移送する状態を示す図である。
【図4D】試料槽で検体が試料に加工された状態を示す図である。
【図5】実施の形態に係る分析方法の工程の一例を示すフロー図である。
【図6】実施の形態に係る分析方法の処理時間の一例を示すタイミングチャートである。
【図7】従来の分析方法の一例を示すフロー図である。
【図8】従来の分析方法の処理時間の一例を示すタイミングチャートである。
【図9】従来の分析方法の変形例に係る処理時間の一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る分析装置の構成概略図である。一例として、分析装置100は、キャピラリー電気泳動法による分析を行う分析装置であって、分離流路が4つの場合を記載する。図2は、図1に係る分析装置の分離部本体の構成概略図である。本実施の形態においては、分析装置100は、キャピラリー電気泳動法を用いて生体から採取した血液などの検体の分析を行う場合を想定して説明する。
【0026】
分析装置100は、貯槽部10、注入ノズル(注入部)20、シリンジ21、採取ノズル22、試料槽25、マイクロチップ(分離部本体)30、検出部40、廃液槽58、制御部および電源部を備える。マイクロチップ30は、分離流路31、導入孔32、排出孔33、電極34、電極35および制御部70を備える。図1では、図が煩雑になるのを避け、理解を容易にするために、制御部70から各部への配線を省略している。なお、分離流路31a、31b、31c、31dを分離流路31、導入孔32a、32b、32c、32dを導入孔32、排出孔33a、33b、33c、33dを排出孔33、電極34a、34b、34c、34dを電極34、電極35a、35b、35c、35dを電極35、検出部40a、40b、40c、40dを検出部40、のようにそれぞれ総称して記載することがある。
【0027】
貯槽部10は、泳動液槽11、精製水槽12および洗浄液槽13を備える。泳動液槽11には、泳動液L1が溜められる。泳動液L1は、バッファとして機能する液体であり、例えば、100mMりんご酸−アルギニンバッファ(pH5.0)+1.5%コンドロイチン硫酸Cナトリウムである。精製水槽12には、精製水L2が溜められる。洗浄液槽13には、洗浄液L3が溜められる。泳動液槽11、精製水槽12および洗浄液槽13はそれぞれポンプ(図示せず)を備え、内部に溜められた液体を流路61、62、63に流出させる。貯槽部10のポンプの動作は制御部70によって、制御される。
【0028】
貯槽部10のポンプとして、例えばシリンジポンプを三方バルブ51または53に接続する構成も可能である。その場合、三方バルブ51または53を各槽とシリンジポンプを連通させて、シリンジポンプで吸入する。そして、今度は、三方バルブ51または53をシリンジポンプと流路64もしくは65または68と連通させて、シリンジポンプを排出動作させることによって、液体を流路64、65または68に送出することができる。
【0029】
流路61、62、63から流路64、65、66、68に各液体を流す経路を切り替えるために、三方バルブ51、52、53を備える。また、流路67、68、69から廃液槽58に流す流路を切り替えるために、三方バルブ54を備える。三方バルブ51、52、53、54の経路の切替は、制御部70によって制御される。
【0030】
本明細書に用いる検体は特定の物質に限定されず、水溶液の検体、生体検体、食品、菌などの培養液、植物などの抽出液などを用いることができる。本明細書における試料に含まれる分析対象物としては、例えば、タンパク質、生体内物質、血液中物質等が挙げられ、タンパク質の具体例としてはヘモグロビン、アルブミン、グロブリン、酵素等が挙げられる。ヘモグロビンとしては、糖化ヘモグロビン、変異ヘモグロビン、マイナーヘモグロビン、修飾ヘモグロビン等が挙げられ、より具体的には、ヘモグロビンA0(HbA0)、安定型ヘモグロビンA1c(HbA1c)、不安定型HbA1c、ヘモグロビンA2(HbA2)、ヘモグロビンS(Hb S、鎌状赤血球ヘモグロビン)、ヘモグロビン(Hb F、胎児ヘモグロビン)、ヘモグロビンM(HbM)、ヘモグロビンC(HbC)、メトヘモグロビン、カルバミル化ヘモグロビン、アセチル化ヘモグロビン等が挙げられる。酵素としては、例えば、アミラーゼ、アルカリホスファターゼ、γ−グルタミルトランスファラーゼ、リパーゼ、クレアチンキナーゼ、乳酸脱水素酵素、グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ、グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼがある。
【0031】
生体内物質及び血中物質等の具体例としては、ビリルビン、ホルモン、代謝物質、ヌクレオチド鎖、染色体、ペプチド鎖、糖鎖抗原、糖鎖、脂質、腫瘍マーカータンパク抗原等が挙げられる。ホルモンとしては、甲状腺刺激ホルモン、副腎皮質剌激ホルモン、絨毛性ゴナドトロピン、インスリン、グルカゴン、副腎髄質ホルモン、エストロゲン、プロゲステロン、アルドステロン、コルチゾール等があげられる。ヌクレオチド鎖としては、オリゴヌクレオチド鎖、ポリヌクレオチド鎖があげられ、ペプチド鎖としては、例えばC−ペプチド、アンジオテンシンI等などがあげられる。糖鎖抗原としては、例えばAFP、hCG、トランスフェリン、IgG、サイログロブリン、CA19−9、前立腺特異抗原、癌細胞が産生する特殊な糖鎖を有する腫瘍マーカー糖鎖抗原などが上げられる。それ以外にも、微生物に由来するタンパク質又はペプチド或いは糖鎖抗原、アレルギーの原因となる各種アレルゲン(例えばハウスダスト、ダニ、スギ・ヒノキ・ブタクサ等の花粉、エビ・カニ等の動物、卵白等の食物、真菌、昆虫、薬剤、化学物質等に由来するアレルゲン等)などがある。
【0032】
以下、分析装置100で分析を行うための特定成分を含むサンプルについて、検体K1と試料K2に分けて説明を行う。検体K1とは、例えば生体から収集した状態の検査対象であり、未処理の状態のサンプルを指す。試料K2とは、検体K1を所定の方法で加工処理、例えば、溶液で希釈したり他の物質と混合したり、などの加工処理、を行い、分析装置100を用いて測定・分析することが可能な状態のサンプルを指す。例えば、検体K1は全血である。試料K2は、例えば、全血である検体K1を、血球膜を破壊する溶血作用を発揮する溶血成分を含む溶液で所定の濃度に希釈したものであり、測定対象の特定成分はヘモグロビンの場合が挙げられる。
【0033】
シリンジ21は、採取ノズル22が繋げられる孔から、流体の吸入および排出を行う。採取ノズル22は、シリンジ21の吸入および排出の動作により、検体K1を吸入し、排出する部分である。
【0034】
採取ノズル22は、試料容器23の蓋24を貫通が可能なように先端が形成され、試料容器23の中にある検体K1を採取することができる。採取ノズル22は、試料容器23の蓋24を開封することなく、貫通して検体K1を採取することができる。
【0035】
採取ノズル22は、試料容器23(ここでは蓋24を指す)を貫通するために所定の強度を有しており、かつ、検体K1を吸入・吐出可能な形状であり、かつ、移送することができる形状である必要がある。採取ノズル22は、ステンレスなどの金属やセラミックス、プラスチックの材料で、細長い筒状の針の形状に形成されており、例えば、注射針などを用いることができる。採取ノズル22は、試料容器23を貫通しやすくするために、先端にテーパー角度が設けられたり、先端が斜めに切断されたりするなどして、鋭利な形状とされていることが好ましい。また、貫通時の摩擦を少なくするために、採取ノズル22は滑らかな表面性状であることが好ましい。
【0036】
試料容器23の蓋24は、予め、採取ノズル22での貫通処理が施しやすい状態に加工されていてもよい。蓋24は、例えば弾性ゴムなどの材料で、外力を付勢しない場合には内部の液体などが漏出しないように孔が閉じた状態を維持可能であって、針によって試料容器23の内部と外部とを通じる微小な孔が形成される。この微小な孔を採取ノズル22で穿通することで、試料容器23へ貫通する際にかかる付勢する力を小さくでき、採取ノズル22で試料容器23へ容易に貫通処理を施すことができる。
【0037】
採取ノズル22は、図示しない駆動機構に支持されている。この駆動機構により、採取ノズル22は、試料容器23への挿入および引き抜き、試料槽25への進入および退出が可能である。採取ノズル22の駆動動作とシリンジ21の吸入および排出の動作により、試料容器23から採取した検体K1を試料槽25へ移送することができる。シリンジ21の吸入および排出の動作と、採取ノズルの駆動は、制御部70によって制御される。
【0038】
試料槽25は、槽内において希溶液で希釈したり他の物質と混合したりなど所定の処理を施すことができ、検体K1を分析に適した状態、すなわち試料K2に加工する機能を有する。試料槽25は、貯槽部10と同様にポンプを備え、内部の試料K2を分注ノズル20を介して流路64、67に流出させる。あるいは、分注ノズル20に吸引ポンプを備え、試料K2を流路64、67に流出させる。試料槽25または分注ノズル20のポンプの動作は、制御部70によって制御される。試料部25のポンプとして、例えばシリンジポンプを三方バルブ51または54に接続する構成も可能である。その場合のシリンジポンプの作用は、貯槽部10の場合と同様である。
【0039】
マイクロチップ(分離部本体)30は、キャピラリー電気泳動法を用いた分析が行われる場である。マイクロチップ30は例えばシリカを材質として形成される。マイクロチップ30の材質は、アクリルなどであってもよい。以下、マイクロチップ(分離部本体)30の構成を説明する。
【0040】
図2は、図1に係る分析装置の分離部本体の構成概略図である。マイクロチップ30は、分離流路31a、31b、31c、31dを備える。各分離流路31a、31b、31c、31dの構成は同じであり、代表して分離流路31aについて説明する。
【0041】
分離流路31aは、マイクロチップ30に形成された微細な流路で、キャピラリー電気泳動法を用いた分析の分離などが行われる。分離流路31aの断面は、直径が25μmないし100μmの円形、または辺の長さが25μmないし100μmの矩形であることが好ましいが、キャピラリー電気泳動法を行うのに適した形状および寸法であればこれに限定されない。また、本実施の形態においては、分離流路31aの長さは、30mm程度であるが、これに限定されるものではない。
【0042】
分離流路31aは、導入孔32a、排出孔33a、電極34aおよび電極35aを備える。また、その分離流路31aに対応する検出部40aを備える。さらに、複数の分離流路から分析対象となる分離流路31aを選択するために、ピンチバルブ55a、56aを備える。ピンチバルブ55a、56aの開閉動作は、制御部70によって制御される。
【0043】
分離流路31a内に例えば泳動液L1などの溶液を充填する場合、まず、三方バルブ52の切り替えが行われ、流路66へ溶液が流入する。制御部70の指示により、分離流路31aへ繋がる流路のみを連通させるためにピンチバルブ55aが開放される。ピンチバルブ55aの開放と同時に、分離流路31aを挟んで対向する位置にあるピンチバルブ56aも、制御部70の指示により、同時に開放される。ピンチバルブ56aを開放することで分離流路31aは流路69と連通し、溶液は流路69を流れ、三方バルブ54を介して廃液槽58に繋がる。
【0044】
各分離流路31a、31b、31c、31dの間へかかる負荷が不均一となるのを抑制するために、分離流路31aは、ピンチバルブ56aと流路69との間にマニホールド57を設けることが好ましい。
【0045】
マイクロチップ30の各分離流路31a、31b、31c、31dは、制御部70により独立に制御される。制御部70は、分析対象となる分離流路31a、31b、31c、31dを選択する際は、対応するピンチバルブ55a、55b、55c、55dおよびピンチバルブ56a、56b、56c、56dを開放し、各分離流路31a、31b、31c、31dに対して試料K2を各導入孔32a、32b、32c、32dから導入し、各排出孔33a、33b、33c、33dから排出するように制御を行う。また、制御部70は、各電極34a、34b、34c、34dおよび各電極35a、35b、35c、35dへの電圧の印加、各分離流路31a、31b、31c、31dでの電気泳動による特性成分の分離、および各検出部40a、40b、40c、40dでの特定成分の濃度や量の検出の指示により制御する。
【0046】
図2では、各分離流路31a、31b、31c、31dに対応して各検出部40a、40b、40c、40dを備えた例を示している。検出部40a、40b、40c、40dは少なくとも1つあればよく、各分離流路31a、31b、31c、31dで分離した特性成分を検出できればよい。例えば、検出部40a、40bの2つを備え、検出部40aは分離流路31a、31bの検出、検出部40bは分離流路31c、31dの検出を行うなど、1つの検出部40で複数の分離流路31の検出を行うように設計してもよい。
【0047】
分離流路31には、導入孔32および排出孔33が形成されている。導入孔32は、分離流路31の一端に設けられており、注入ノズル20より試料K2が導入される部分である。また、本実施の形態においては、試料K2の他に、泳動液L1、精製水L2、および洗浄液L3の導入が可能である。排出孔33は、分離流路31の他端に設けられており、分離流路31に充填された試料K2、泳動液L1、精製水L2、および洗浄液L3などが排出される部分である。
【0048】
また、分離流路31には、その両端に電極34と電極35が設けられている。本実施の形態においては、電極34は、導入孔32に露出しており、電極35は、排出孔33に露出している。
【0049】
検出部40は、分離流路31において試料K2から分離された特定成分を分析するためのものである。検出部40は、分離流路31のうち、導入孔32よりも排出孔33に近い側の部分に設けられている。検出部40は、例えばそれぞれ光源および受光部を備える。光源からの光を試料K2に照射し、試料K2を透過した光を受光部によって受光することにより、試料K2の吸光度を測定する。そして、試料K2の吸光度から、特定成分を分析することができる。
【0050】
分析装置100の上述の各部の動作は、制御部70により制御される。一連の制御により、分析装置100による分析が行われる。制御部70は、例えばCPU、メモリ、入出力インターフェースなどによって構成される。
【0051】
分析装置100には、三方バルブ51、52、53、54が設けられている。三方バルブ51、52、53、54は、それぞれ3つの接続口を有しており、これらの接続口どうしの連通状態および遮断状態が、制御部70によって独立に制御される。
【0052】
泳動液槽11は、流路61を介して三方バルブ51に接続されている。精製水槽12および洗浄液槽13は、流路62、63を介して三方バルブ53に接続されている。試料槽25は、流路64を介して三方バルブ51に接続されており、また流路67を介して三方バルブ54に接続されている。三方バルブ51は、流路65を介して三方バルブ52に接続されている。三方バルブ53は、流路68を介して三方バルブ52、54に接続されている。
【0053】
三方バルブ52の下流側には、流路66を介して分離流路31が接続されている。三方バルブ52は、制御部70によって流路の切替が制御され、分離流路31への流入を許容したり遮断したりできる。分離流路31は、流路69を介して三方バルブ54に接続されている。三方バルブ54は、制御部70によって流路の切替が制御されており、分離流路31との連通状態および遮断状態が独立に制御される。三方バルブ54の下流側には、廃液槽58が繋げられている。廃液槽58は、使用済みの液体を貯蔵するためのものである。廃液槽58には、その内部の気体を吸引するポンプを備えてもよい。ポンプで廃液槽58の気体を吸引することによって、流路67または68、69の液体を廃液槽58に吸引することができる。
【0054】
電源部(図示せず)は、分離流路31においてキャピラリー電気泳動法による分析を行うための電圧を印加するためのものであり、正極である電極34および負極である電極35に接続されている。印加される電圧は、例えば、1.5kV程度であり、正極と負極は反対の極性を印加する機能を備えていてもよい。
【0055】
図3は、実施の形態に係る制御部の構成例を示すブロック図である。図3は、図1の制御部70の構成を示す。制御部70は、貯槽駆動制御部71、シリンジ制御部72、試料槽駆動制御部73、三方バルブ制御部74、ピンチバルブ制御部75、分離・検出制御部76、試料槽洗浄制御部77および流路洗浄制御部78を備える。
【0056】
貯槽駆動制御部71は、泳動液槽11、精製水槽12および洗浄液槽13のポンプを制御して、流路61、62、63に流す液体の流量を制御する。シリンジ制御部72は、シリンジ21の吸入および排出の動作と、採取ノズルの駆動を制御する。試料槽駆動制御部73は、試料槽のポンプを駆動して、試料槽から分注ノズルを経由して流路64または67に流れる液体の量を制御する。
【0057】
三方バルブ制御部74は、三方バルブ51、52、53、54を制御して、流路61〜69に流れる液体の経路を切り替える。ピンチバルブ制御部75は、ピンチバルブ55a〜55d、56a〜56dの開閉動作を個別に制御する。
【0058】
分離・検出制御部76は、泳動液槽11、精製水槽12、シリンジ21および採取ノズル22、試料槽25、三方バルブ51、52、ならびに、ピンチバルブ55a〜55dおよび56a〜56dを協調して動作させて、分離流路31に泳動液L1および試料K2を導入する。そして、電極34および電極35に電圧を印加し、検出部40を制御して、例えば、試料K2の特定成分の分析を行う。分離、検出制御部は、貯槽駆動制御部71、シリンジ制御部72、試料槽駆動制御部73、三方バルブ制御部74およびピンチバルブ制御部75を介して、泳動液槽11、精製水槽12、シリンジ21および採取ノズル22、試料槽25、三方バルブ51、52、ならびに、ピンチバルブ55a〜55dおよび56a〜56dを動作させる。
【0059】
試料槽洗浄制御部77は、貯槽部10、シリンジ21および採取ノズル22、試料槽25、ならびに、三方バルブ51、52、53、54を協調して動作させて、採取ノズル22および試料槽25の洗浄を行う。試料槽洗浄制御部77は、貯槽駆動制御部71、シリンジ制御部72、試料槽駆動制御部73、三方バルブ制御部74およびピンチバルブ制御部75を介して、貯槽部10、シリンジ21および採取ノズル22、試料槽25、ならびに、三方バルブ51、52、53、54を動作させる。
【0060】
流路洗浄制御部78は、貯槽部10、三方バルブ51、52、53、54、ならびに、ピンチバルブ55a〜55dおよび56a〜56dを協調して動作させて、流路66および分離流路31a〜31dの洗浄を行う。流路洗浄制御部78は、貯槽駆動制御部71、試料槽駆動制御部73、三方バルブ制御部74およびピンチバルブ制御部75を介して、貯槽部10、三方バルブ51、52、53、54、ならびに、ピンチバルブ55a〜55dおよび56a〜56dを動作させる。
【0061】
制御部70は、前述のとおりコンピュータとその上で動作するプログラムによって構成することができる。制御部70の各部は、論理回路によって構成することも可能である。以下、分析および洗浄の動作について説明する。
【0062】
図4Aないし図4Dは、図1に係る分析装置の試料を準備する工程を示す概略図である。まず、制御部70の指示により上述した駆動機構(図示略)によって採取ノズル22を蓋24に貫通させる(図4A参照)。そして、採取ノズル22の先端を検体K1に漬け、シリンジ21に吸入動作をさせる(図4B参照)。検体K1を吸入したのち、採取ノズル22を試料槽25に移動して、シリンジ21に排出動作をさせる。採取ノズル22を通してシリンジ21内に吸入した検体K1を、例えば泳動液L1が溜められた試料槽25へ向けて吐出させ、移送する(図4C参照)。その後、試料槽25内で、所定の希釈濃度に調整したり、充分に混合するなどして、試料K2を用意する(図4D)。試料K2を混合する、すなわち検体K1と泳動液L1との攪拌を促進するためには、シリンジ21に吸入動作と排出動作を繰り返し実行させることが好ましい。
【0063】
注入ノズル20は、試料K2を試料槽25から吸入し、分離流路31へ注入が可能である。注入ノズル20は、採取ノズル22から隔離されて別に備えられたものであり、分離流路31へ試料K2を注ぐことができれば、形状や材質について、特に問わない。
【0064】
注入ノズル20で試料K2を試料槽25から吸入し分離流路31へ注入するまでの箇所をまとめて分注手段という。分注手段は、流路64、65、66および注入ノズル20を含む。本実施の形態では、流路64、65おおび注入ノズル20は、試料槽25の洗浄にも使われる。狭義には、分注手段は流路66である。
【0065】
以下、図1ないし図5を用いて、分析装置100を用いる分析方法を説明する。図5は、実施の形態に係る分析方法の一例を示すフロー図である。分析方法の工程は、前処理工程S1と分析工程S2とに大別される。
【0066】
本実施の形態においては、例えば、検体K1は全血、試料K2は特定成分にヘモグロビンを含む全血を希釈した溶液とする。分析装置100で分析する対象の試料K2は、検体K1を泳動液L1で所定の濃度に希釈したものとする。泳動液L1は、血球膜を破壊する溶血作用を発揮する溶血成分を含んでおり、試料K2は、ヘモグロビン分析に適した状態となる。
【0067】
試料容器23は真空採血管を使用し、蓋24は真空採血管の開口部を封止するゴム栓などを指す。蓋24を貫通するためのシリンジ21の採取ノズル22は、ステンレス製の注射針などを用いる。
【0068】
前処理工程(ステップS1)は、前処理器具の洗浄工程(ステップS11)、充填工程(ステップS12)、分注工程(ステップS13)および分析器具の洗浄工程(ステップS10)からなる。前処理器具には、シリンジ21、採取ノズル22、試料槽25、分注ノズル20、および流路64、65が含まれる。分析器具には、分離流路31が含まれる。
【0069】
前処理工程(ステップS1)の、前処理器具の洗浄工程(ステップS11)、充填工程(ステップS12)および分注工程(ステップS13)は、連続した工程から構成される。前処理工程(ステップS1)の分析器具の洗浄工程(ステップS10)は、独立して構成されており、ステップS11ないしステップS13からなる連続した工程と、ステップS10の工程は、互いの工程に影響を与えない。そのため、ステップS11ないしステップS13と、ステップS10の工程は、実行する時間の少なくとも一部の時間が重なり合っていてもよく、ステップS11ないしステップS13と、ステップS10の工程を同時に実行することが可能となる。以下、詳細に説明する。
【0070】
分析器具の洗浄工程(ステップS10)は、分析工程(ステップS2)に先立ち、分離流路31の内部に残存する前回の分析に用いられた試料K2などを洗浄する工程である。まず、制御部70の流路洗浄制御部78からの指示によって、三方バルブ53が切り替えられ、精製水槽12および洗浄液槽13は流路68と連通する。また、三方バルブ52が切り替えられ、流路68と流路66が連通する。さらに、三方バルブ54が切り替えられ、流路68から廃液槽58へと連通する。この状態で、分離流路31内に精製水L2および洗浄液L3を充填し、廃液槽58へ排出することで、分離流路31内は洗浄される。なお、洗浄液L3で洗浄した後に精製水L2を流してもよく、充填し排出するという一連の流れを複数回行ってもよい。
【0071】
前処理器具の洗浄工程(ステップS11)は、前処理工程(ステップS1)の最初に行う工程で、分析装置100を連続して使用する場合において、前回使用した前処理器具の洗浄を行う工程である。まず、制御部70の試料槽洗浄制御部77からの指示によって、三方バルブ51を切り替えて流路64を閉じる。三方バルブ54を切り替えて流路67を廃液槽58に連通させる。そして、試料槽25に残っている試料K2を廃液槽58に排出する。次に、三方バルブ51、52、53を切り替えて、精製水槽12および/または洗浄液槽13を、流路68、65、64の経路で試料槽25に連通させる。試料槽25に精製水L2および/または洗浄液L3を充填する。そして、採取ノズル22を試料槽25の液体につけて、吸入排出を何度か行う。次にまた、試料槽25の液体を廃液槽58に排出する。このようにして、シリンジ21、採取ノズル22、試料槽25、分注ノズル20、流路64、65、67を洗浄する。精製水L2および/または洗浄液L3の充填、採取ノズル22の吸入排出および液体の排出を複数回行ってもよい。
【0072】
充填工程(ステップS12)は、分離流路31に電気泳動を実現するための泳動液L1を充填する工程である。制御部70からの指示によって三方バルブ51が切り替えられ、流路61と流路65とが連通し、流路64がこれらと遮断される。三方バルブ52も切り替えられ、流路65と流路66とが連通し、流路68がこれらと遮断される。三方バルブ54は切り替えにより、流路68から廃液槽58へと連通しておく。この状態で、流路31内に泳動液L1を充填しておく。
【0073】
分注工程(ステップS13)は、試料K2を導入孔32から分離流路31に分注する工程である。また、本実施の形態における分注工程(ステップS13)は、検体K1を試料K2に加工する工程、例えば検体K1を希釈し試料K2とし、分析に適した状態にする工程、を含んでいる。
【0074】
分注工程(ステップS13)の、検体K1を希釈し試料K2に加工して、分析に適した状態にする工程では、予め、三方バルブ51を切り替え、流路61と流路64とを連通させる。試料槽25に泳動液L1を導入し、検体K1を泳動液L1を用いて所定の濃度に希釈する。希釈するときは泳動液L1に限らず、精製水L2を用いてもよく、分析条件により異なる。また、試料槽25では、分析条件により、他の物質の混合や、充分な混合、その他の分析に適した状態にする工程が行われてもよい。
【0075】
分注工程(ステップS13)の、検体K1を希釈し試料K2に加工する工程は、まず、制御部70の指示により上述した駆動機構(図示略)によって採取ノズル22を蓋24に貫通させる(図4A参照)。そして、採取ノズル22の先端を検体K1に漬け、シリンジ21に吸入動作をさせる(図4B参照)。採取ノズル22を通してシリンジ21内に吸入した検体K1を、シリンジ21に排出動作をさせ、例えば泳動液L1が溜められた試料槽25へ向けて吐出させ、移送する(図4C参照)。その後、試料槽25内で、所定の希釈濃度に調整したり、充分に混合する(図4D)などして、試料K2を用意するという一連の工程を行う。試料K2を混合する、すなわち検体K1と泳動液L1との攪拌を促進するためには、シリンジ21に吸気動作と排気動作を繰り返し実行させることが好ましい。
【0076】
次いで、試料槽25において希釈された試料K2を注入ノズル20で吸引し、分離流路31の導入孔32に侵入させ、試料K2を分離流路31へ導入させる。以上より、前処理工程S1が完了し、分離流路31での分析が可能な状態となる。
【0077】
なお、本実施の形態では分注工程(ステップS13)に希釈工程が含まれているが、希釈が必要でない試料K2が分析対象である場合、すなわち検体K1をそのまま分析対象として用いる場合、希釈工程を経ることなく分注工程(ステップS13)を実施してもよい。また、検体K1を試料K2へ加工する際に、希釈以外の処理が必要な場合は、希釈工程ではなく、必要に応じて加工処理工程を行う。いずれの場合でも、採取ノズル22と分注ノズル20は離隔しており、検体K1の採取と試料K2の分注は並行して行うことができる。
【0078】
前処理工程(ステップS1)を終えると、分析工程(ステップS2)を実行する。分析工程(ステップS2)は、分離工程(ステップS21)および検出工程(ステップS22)からなる。
【0079】
分離工程(ステップS21)は、分離流路31に充填された泳動液L1において試料K2に含まれる特定成分を分離する工程である。制御部70の指示により、正極である電極34および負極である電極35に電源部から電圧を印加し、泳動液L1に電極34から電極35へと向かう電気浸透流を発生させる。このとき、特定成分には、固有の電気泳動移動度に応じて電極34から電極35に向かって移動が生じる。
【0080】
検出工程(ステップS22)は、分離された特定成分の量もしくは濃度などを検出する工程である。制御部70の指示により、検出部40は、分離流路31の特定の位置において、例えば光源から波長が415nmの光を照射し、その透過光を受光部によって受光する。分離流路31の特定の位置を特定成分が通過すると、受光部で受光する光(吸光度)が変化し、その変化より特定成分の濃度や量を検出することができる。この分析結果が例えば記憶部(図示せず)に記憶されるなどして、検出工程(ステップS22)を終える。以上の工程により、前処理工程(ステップS1)および分析工程(ステップS2)を終え、分析装置100を用いた分析が完了する。
【0081】
図6は、実施の形態に係る分析方法の処理時間の一例を示すタイミングチャートである。分析方法については、図5に示す実施の形態に係る分析方法を参照する。
【0082】
マイクロチップ30の各分離流路31a、31b、31c、31dで行う各処理について、分離流路31aで行う処理の時間をチャートA、分離流路31bで行う処理の時間をチャートB、分離流路31cで行う処理の時間をチャートC、分離流路31dで行う処理の時間をチャートD、でそれぞれ表す。いずれのチャートA、B、C、Dにおいても、同様の処理を行い、また、処理にかかる時間はほぼ等しいものとする。
【0083】
分離流路31が4つの場合について説明する。各分離流路31a、31b、31c、31dは独立に制御されているが、ピンチバルブ55から各分離流路31a、31b、31c、31dを介してピンチバルブ56までの間を除く流路61ないし流路69は共通である。
【0084】
そのため、各分離流路31a、31b、31c、31dを個別に使用する場合、例えば、試料槽25から分離流路31aに、他の分離流路31b、31c、31dとは異なる特定の分析試料を導入する場合などは同時に工程を行うことができず、各分離流路31a、31b、31c、31dでの処理時間が重なることがないように時間をずらして処理する必要がある。また、各分離流路31a、31b、31c、31dで用いる分析試料が混合するおそれがある場合、例えば、分離流路31a、31b、31c、31dで行う前処理器具の洗浄工程(ステップS11)の場合などについても、同時に処理はできず、処理時間が重なることがないように時間をずらして処理する必要がある。
【0085】
処理時間が重なることがないように時間をずらして処理する必要がない場合として、例えば、各分離流路31a、31b、31c、31dに同じ液体を充填する工程(ステップS12)の場合がある。ステップS12において、各分離流路31a、31b、31c、31dおよび流路61ないし流路69は、泳動液L1で充填される必要があり、かつ、泳動液L1は共通のものを用いているため、少なくとも一部の時間が重なるように処理することができ、場合によっては、同時に処理することも可能である。
【0086】
例えば、1つの分離流路31について、チャートAを例に挙げて説明する。全ての工程を連続して実行する場合は工程完了まで時間t4を要することが分かる。それに対して、ステップS11ないしステップS13の工程と並行してステップS10の工程を行うことで時間t3を要して完了し、時間t4よりもステップS10にかかる時間の分(時間t2と時間t1の差分)だけ工程完了までの時間が短くできることが分かる。
【0087】
上述の理由により、分離流路31aと分離流路31bの前処理工程(ステップS1)の少なくとも一部の時間が重なるように処理することができる。また、分離流路31bと分離流路31c、分離流路31cと分離流路31dのそれぞれについても同様に、前処理工程(ステップS1)の少なくとも一部の時間が重なるように処理することができる。
【0088】
さらに、分離流路31aと分離流路31bの分析工程(ステップS2)の少なくとも一部の時間が重なるように処理することができる。また、分離流路31bと分離流路31c、分離流路31cと分離流路31dのそれぞれについても同様に、分析工程(ステップS2)の少なくとも一部の時間が重なるように処理することができる。
【0089】
具体的に、分離流路31a(チャートA)と分離流路31b(チャートB)を連続して処理する場合について説明する。分離流路31aの前処理器具の洗浄工程(ステップS11)と分離流路31bの前処理器具の洗浄工程(ステップS11)は同時に処理することができないため、分離流路31aで前処理器具の洗浄工程(ステップS11)を終えるまで、分離流路31bは工程を開始できず待機状態に置かれる。分離流路31aで前処理器具の洗浄工程(ステップS11)を終えると、分離流路31bで前処理器具の洗浄工程(ステップS11)を開始する。それ以降の工程、すなわち前処理工程の一部(ステップS10、ステップS12およびステップS13)と分析工程(ステップS2)について、分離流路31aと分離流路31bの工程の処理時間が重なっていても処理することができる。
【0090】
結果として、分析装置100の複数の分離流路31で連続して処理を行う場合、少なくとも、前処理工程の一部、ここでは前処理器具の洗浄工程(ステップS11)の間の時間が重ならないように、分析することができる。
【0091】
各分離流路31a、31b、31c、31dについて、それぞれの分析処理にかかる時間を短縮でき、かつ、それぞれの分析処理にかかる時間の少なくとも一部の時間が重なるように処理することができるため、分析装置100での分析にかかる時間を大幅に短縮できる。
【0092】
図7は、従来の分析方法の一例を示すフロー図である。分析工程(ステップS2)は本実施の形態に係る分析装置100と同様であるが、前処理工程(ステップS3)は、前処理器具および分析器具の洗浄工程(ステップS31)、充填工程(ステップS32)、分注工程(ステップS33)の工程を含む。
【0093】
これは、本実施の形態に係る分析装置100の場合の、前処理器具の洗浄工程(ステップS11)の後に分析器具の洗浄工程(ステップS10)を行い、充填工程(ステップS12)と分注工程(ステップS13)を行う場合に等しく、従来の分析方法では、前処理工程(ステップS3)に、ステップS10ないしステップS13の合計時間を要することが分かる。前処理工程(ステップS3)にかかる時間は、図6のタイミングチャートの、時間t2と時間t1の差分および時間t2の和で示される。
【0094】
図8および図9は、従来の分析方法の処理時間の一例を示すタイミングチャートである。分析方法については、従来の分析方法の、図7に示す分析方法のフロー図を参照する。
【0095】
図8は、各分離流路31a、31b、31c、31dにおいて、分離流路31aの前処理工程(ステップS3)を終え、分析工程(ステップS2)を開始すると同時に、次の分離流路31bの前処理工程(ステップS3)を開始し、同様に順次処理を行う場合のタイミングチャートである。
【0096】
図7で説明したように、前処理工程(ステップS3)では、各工程が重複することなく順に行われるので、各分離流路31a、31b、31c、31dの前処理工程(ステップS3)にかかる時間そのものが本実施の形態より長い。また、各分離流路31a、31b、31c、31d間の処理にかかるまでの時間、すなわちそれぞれの各分離流路31a、31b、31c、31dの待機時間が長い。そのため、本実施の形態に係る分析装置100の場合と比較すると、全体での処理にかかる時間は非常に長くかかることが分かる。
【0097】
図9は、各分離流路31a、31b、31c、31dにおいて、分離流路31aの前処理工程(ステップS3)の一部を終え、分析工程(ステップS2)を開始する前に、次の分離流路31bの前処理工程(ステップS3)を開始し、同様に順次処理を行う場合のタイミングチャートである。
【0098】
各分離流路31a、31b、31c、31dにおいて、前処理工程の中で、少なくとも一部の時間を重ねて処理を行う点は、本実施の形態に係る分析装置100の場合に類似する。図9の工程では、前処理工程の一部、ここでは洗浄工程(ステップS31)の間の時間が重ならないように、分析することができる。図8の場合より、各分離流路31a、31b、31c、31dの待機時間が短くなる分だけ、全体での処理にかかる時間が短くなることが分かる。
【0099】
図6の本発明の実施の形態に係る分析方法と、図9の従来の分析方法の場合と比較すると、まず、各分離流路31a、31b、31c、31dで見たときに、それぞれの分離流路31における処理時間について、本発明の実施の形態に係る分析方法では、分析器具の洗浄工程(ステップS10)の分だけ処理時間が短くなっていることが分かる。
【0100】
また、図6の本発明の実施の形態に係る分析方法と、図9の従来の分析方法は、ともに、前処理工程の一部の時間が重ならないように分析することができる。しかし、次の分離流路31の工程を開始するまでの待機時間を比較すると、本発明の実施の形態に係る分析方法では前処理器具の洗浄工程(ステップS11)にかかる時間のみ待機する必要があるのに対して、図9の分析方法では前処理器具の洗浄工程と分析器具の洗浄工程を含む洗浄工程(ステップS31)にかかる時間を待機に要する。ステップS31にかかる時間は、分析器具の洗浄工程(ステップS10)にかかる時間と前処理器具の洗浄工程(ステップS11)にかかる時間の和であるため、図9の方法では待機時間が分析器具の洗浄工程(ステップS10)の分だけ多くかかる。本発明の実施の形態に係る分析方法では、分析器具の洗浄工程(ステップS10)の分だけ、次の分離流路31の工程を開始するまでの待機時間が短くて済む。
【0101】
結果として、本実施の形態に係る分析装置100を用いる場合、待機時間が短く、かつ、各分離流路31a、31b、31c、31dの処理時間(前処理工程から分析工程までの一連の流れに係る時間)が短く、より効率よく全体の処理が行われることが分かる。
【0102】
以上説明したように、本実施の形態に係る分析装置および分析方法によれば、前処理の工程と分析の工程の少なくとも一部の時間が重なり合うように処理し分析に要する時間を短縮できる。
【0103】
採取ノズルと注入ノズルを異なるノズルを用いて作業することで、試料を準備する処理を含む工程と、試料を分析する処理を含む工程と、の工程の少なくとも一部の時間が重なり合うように処理することができる。そのため、処理時間を重ねて、前処理工程から分析工程までの分析に要する全体の処理時間を短縮することができ、効率性が向上する。また、分析する際の分離流路を複数備えることで、並行に処理することができ、全体の処理時間が短縮される。
【0104】
その結果、各分離流路での処理時間の短縮に加えて、それぞれの分離流路における処理時間を重複させることができ、より効率よく分析することが可能となる。
【0105】
さらに、採取ノズルと注入ノズルを異なるノズルを備えるため、それぞれの機能に適した材質を選択することができる。例えば、採取ノズルは注射針のような、硬い素材であって先端が鋭利な形状で形成されていることが望ましく、また、注入ノズルは材質や形状は特に問わず、分離流路へ適切に試料を注入できればよい。
【0106】
採取ノズルは、試料容器を貫通させ、そのまま試料を採取することができるので、試料容器の蓋を開封する手間が省ける。また、試料が全血であり、試料容器が真空採血管の場合においては、人の手で直接シリンジによる真空採血管からの試料採取や真空採血管の開封作業を行うため、飛散や血液による感染リスクなどのおそれがあったが、全て分析装置で処理が可能となるので、安全性が向上する。さらに、必要量以外の試料は試料容器に残存したままなので、飛散することがなく、廃棄などの後処理が容易かつ安全に行うことができる。
【0107】
実施の形態において、マイクロチップに備える分離流路の数が4つの場合を説明したが、分離流路をさらに多数備えてもよい。また、測定対象となる試料の試料槽は1つ備えた場合を例に挙げているが、複数あってもよく、用いる試料の準備にかかる時間や、使用する器具の洗浄にかかる時間、分離および測定にかかる時間、および分離流路の数、などの様々な条件に合わせて、任意に設計することができる。
【0108】
実施の形態において、分析装置はキャピラリー電気泳動法による分析を行う分析装置を例に挙げて説明したが、上述した例に限定されるものではない。例えば、処理を行う流入手段(流入流路)において、試料に含まれる特定成分を分離するだけでなく、混合や抽出、また、化学反応や免疫反応などの処理を行ってもよい。特に、マイクロチップに備える微細流路での処理に適した様々な反応を伴う処理を施すことが好ましい。
【0109】
本実施の形態に係る分析装置および分析方法において、上述した例に限定されるものではない。本発明に係る分析装置および分析方法の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。例えば、流路の設計や貯槽部の数、各機能部を配置する位置、各機能の形状などがあり、これらは任意に設定可能である。
【0110】
分離流路の本数は、4本に限定されない。分離流路の構成は、いわゆるストレート型のものに限定されず、例えば、2つの流路が交差したクロスインジェクション型のものであってもよい。試料としては、全血に代表されるヘモグロビンを含むものに限定されず、例えばDNA、RNA(リボ核酸)またはタンパク質を含むものであってもよい。
【0111】
本発明における分析工程で行う分析は、キャピラリー電気泳動法を用いたものに限定されず、例えば、微量液体クロマトグラフィ法を用いたものであってもよい。この場合、分離工程では、カラムにおける分離、溶出、反応などが実施され、検出工程では、反応生成物の検出を行う。
【符号の説明】
【0112】
10 貯槽部
11 泳動液槽
12 精製水槽
13 洗浄液槽
20 注入ノズル(注入部)
21 シリンジ
22 採取ノズル
23 試料容器
24 蓋
25 試料槽
30 マイクロチップ(分離部本体)
31、31a、31b、31c、31d 分離流路
32、32a、32b、32c、32d 導入孔
33、33a、33b、33c、33d 排出孔
34、34a、34b、34c、34d 電極
35、35a、35b、35c、35d 電極
40、40a、40b、40c、40d 検出部
51、52、53、54 三方バルブ
55a、55b、55c、55d ピンチバルブ
56a、56b、56c、56d ピンチバルブ
57 マニホールド
58 廃液槽
61、62、63、64、65、
66、67、68、69 流路
70 制御部
71 貯槽駆動制御部
72 シリンジ制御部
73 試料槽駆動制御部
74 三方バルブ制御部
75 ピンチバルブ制御部
76 分離・検出制御部
77 試料槽洗浄制御部
78 流路洗浄制御部
100 分析装置
L1 泳動液
L2 精製水
L3 洗浄液
K1 検体
K2 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体用容器から検体を採取して、該検体が試料に加工される試料槽に、採取した該検体を移送する採取手段と、
前記試料を流入する2つ以上の流入手段と、
前記試料槽から前記試料を前記流入手段に注入する、前記採取手段から離隔された分注手段と、
前記流入手段に流入した前記試料に処理を施す処理手段と、
前記流入手段の前記試料に含まれる特定成分を検出する検出手段と、
を備えることを特徴とする分析装置。
【請求項2】
前記採取手段および前記試料槽を洗浄する第1の洗浄手段と、
前記分注手段および前記流入手段を洗浄する第2の洗浄手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記第1の洗浄手段は、前記分注手段が前記試料を前記流入手段に注入する時間、前記処理手段で前記試料に処理を施す時間、および、前記検出手段で前記試料に含まれる特定成分を検出する時間、の少なくとも一部の時間に重複して、前記採取手段および前記試料槽を洗浄することを特徴とする請求項2に記載の分析装置。
【請求項4】
前記第2の洗浄手段は、前記採取手段が前記検体を前記試料槽に移送する時間および前記試料槽で前記検体を試料に加工する時間の少なくとも一部の時間に重複して、前記分注手段および前記流入手段を洗浄することを特徴とする請求項2または3に記載の分析装置。
【請求項5】
前記検体用容器は前記検体が漏れないように封じられており、前記採取手段は採取ノズルを含み、該採取ノズルは該検体用容器の一部を貫通して前記検体を採取することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の分析装置。
【請求項6】
前記検体用容器は真空採血管であって、前記採取ノズルは該真空採血管の封止部を貫通して前記検体を採取することを特徴とする請求項5に記載の分析装置。
【請求項7】
前記流入手段は、流路を有するマイクロチップであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の分析装置。
【請求項8】
前記処理手段は、前記試料に含まれる特定成分を分離する分離手段を含み、
前記検出手段は、前記分離手段で分離した特定成分を検出することを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の分析装置。
【請求項9】
前記流入手段は前記分離手段を含み、該分離手段は電気泳動を行うことを特徴とする請求項8に記載の分析装置。
【請求項10】
試料に含まれる特定成分を分析する分析装置が行う分析方法であって、
検体を検体用容器から採取手段で採取する採取ステップと、
前記採取ステップで採取した検体を試料槽に移送し、該試料槽の中で該検体を処理し前記試料へと加工する加工ステップと、
前記試料槽から前記試料を、前記採取手段から離隔された分注手段で2つ以上の流入手段へ注入する注入ステップと、
前記注入ステップで前記流入手段へ注入された前記試料に処理を施す処理ステップと、
前記処理ステップで処理を施された前記試料に含まれる特定成分を検出する検出ステップと、
を備えることを特徴とする分析方法。
【請求項11】
前記採取手段および前記試料槽を洗浄する第1の洗浄ステップと、
前記分注手段および前記流入手段を洗浄する第2の洗浄ステップと、
を備えることを特徴とする請求項10に記載の分析方法。
【請求項12】
前記第1の洗浄ステップを行う時間と、前記注入ステップ、前記処理ステップおよび前記検出ステップを行う時間の少なくとも一部の時間が重なり合うことを特徴とする請求項11に記載の分析方法。
【請求項13】
前記第2の洗浄ステップを行う時間と、前記採取ステップおよび前記加工ステップを行う時間の少なくとも一部の時間が重なり合うことを特徴とする請求項11または12に記載の分析方法。
【請求項14】
前記流入手段は、前記試料に含まれる特定成分を分離する分離手段を含み、
前記処理ステップは、前記流入手段に注入された前記試料から、該試料に含まれる特定成分を前記分離手段で分離する分離ステップを含む、
ことを特徴とする請求項10ないし13のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項15】
前記分離ステップは、電気泳動を用いて前記試料に含まれる特定成分を分離することを特徴とする請求項14に記載の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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