説明

分析装置および分注機構の性能評価方法

【課題】分注機構の分注性能評価を自装置内で行う分析装置を提供する。
【解決手段】本発明の分析装置は、分注機構と、該分注機構によって分注された液体を撮像し、その容量を測定する撮像機構を備えた分析装置において、分注機構が複数回分注した目標容量の液体を撮像機構により撮像した撮像データから各分注の平均分注量を求め、この平均分注量から分注量が目標容量からどの程度ずれているかを求めるデータ処理機構を備えている。これにより、分析装置に必須ではない精密電子天秤や吸光度計を装置に搭載させることなく、蛍光色素溶液を装置に供するだけで分注機構の自動性能評価を装置内部で実施することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光検出機構を備えた分析装置に関する。特に、蛍光検出機構に加えて分注機構を備え、装置内部において分注機構の自動性能評価を行うことができる分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子検査や生化学検査分野では、核酸やタンパク質などの極微量試料を解析するために、蛍光を利用した定量分析を応用することが極めて多い。これは、蛍光強度が非常に高感度に検出可能であるためである。蛍光分析を行う代表的な分析装置として、リアルタイムPCR装置やDNAシーケンサなどがある。
【0003】
これらの分析装置の自動化をさらに進めるために、従来用手操作が必要であった前処理工程を自動装置化することが重要となってきている。具体的には、試料と試薬を混合する反応溶液調製工程や、生体試料から核酸やタンパク質を抽出する工程などがある。これらの工程を自動装置化するためには、1−200μL程度の小容量の試料や試薬を分注することができる分注機構が必須となる。また、試料や試薬の分注液容量は解析結果に大きく影響するため、分注機構の性能評価を行うことは極めて重要である。
【0004】
分注機構の分注性能は、AccuracyおよびPrecisionという2つの尺度で評価される。Accuracyとは、分注液容量が目標容量からどの程度ずれているかを表す尺度である。一方、Precisionとは、分注液容量がどの程度ばらついているかを表す尺度である。一般的に、分注機構のAccuracyおよびPrecisionは次式で定義される。なお、AccuracyおよびPrecisionに相当する日本語は分野によって異なるため、ここではAccuracyおよびPrecisionという単語を日本語訳せずにそのまま用いることにする。
Accuracy(%)=(μ−V0)/V0×100
ここで、μ=1/n・ΣVi i=1〜n
(n:分注回数、Vi:各回の分注液容量、μ:分注液容量の平均、V0:目標容量)
Precision(%)=σ/μ×100
ここで、σ=1/n−1・Σ(Vi−μ)2 i=1〜n
μ=1/n・ΣVi i=1〜n
(n:分注回数、Vi:各回の分注液容量、μ:分注液容量の平均、σ:分注液容量の標準偏差)
【0005】
したがって、分注機構の分注性能評価を行う場合、同一条件下で目標容量の液体をくり返して分注し、分注された液体の容量を測定する必要がある。
【0006】
微量液体の容量を測定するための公知技術として、重量法および吸光度法がある。
【0007】
重量法では、分注された液体の重量を測定し、得られた重量を液体の密度で割ることにより容量を求める。
【0008】
吸光度法では、分注する液体に吸光波長既知の色素を溶かし、容量と吸光度の検量線をあらかじめ作成しておく。次に、分注された液体を希釈してから吸光度を測定し、得られた吸光度から液体の容量が求める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−333259号公報
【特許文献2】特開2005−283123号公報
【特許文献3】特開2004−340624号公報
【特許文献4】特開平7−218397号公報
【特許文献5】特開平7−333231号公報
【特許文献6】特開2005−49267号公報
【特許文献7】特開2007−327779号公報
【特許文献8】特開2006−78477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
公知技術の重量法により分注機構の性能評価を装置内部で自動化するためには、重量測定のための精密電子天秤を搭載させなくてはならず、装置全体が複雑化しコストが増大してしまう。さらに、分注後に蒸発や吸湿により液体重量が増減した場合、求まる容量は真値とは異なってしまう。
【0011】
また、公知技術の吸光度法により分注機構の性能評価を装置内部で自動化するためには、吸光度測定のための吸光度計を搭載させなくてはならず、装置全体が複雑化しコストが増大してしまう。さらに、分注対象の液体中において色素が安定でない場合は、吸光度法では容量を測定することができない。
【0012】
一方、蛍光を利用して液体の容量測定を行う場合は上述のような問題は生じない。つまり、分析装置がもともと備える蛍光検出機構を利用するのであるから、精密電子天秤や吸光度計を搭載させる必要がない。また、分注された液体の蒸発や吸湿の問題は、オイルが重層された希釈液に液体を分注することにより回避可能である。さらに、分析装置の解析に利用される蛍光色素をそのまま容量測定にも利用すれば、色素の安定性は問題にならない。
【0013】
しかしながら、蛍光強度は蛍光分子の置かれる環境(溶液のpHや温度,溶媒の種類,共存塩など)に大きく影響されるうえ、経時的な減衰も起こる。また、蛍光光度計の光源強度や検出器感度に依存して蛍光強度は大きく変化するため、使用する装置によって蛍光強度の測定値は異なる。つまり、蛍光強度は相対値としてしか得られない。そのため、蛍光を利用する方法では、分注液容量のPrecision(どの程度ばらついているか)を求めることはできるが、分注液容量のAccuracy(目標容量からどの程度ずれているか)を求めることができないという問題があった。なお、上述した各種条件を常に一定にする、あるいは条件の差異を考慮して得られた蛍光強度の補正を行うといった対策も考えられるが、操作手順が煩雑になるため実際上極めて困難である。
【0014】
ところで、試薬容器内あるいは分注チップ内の液体をCCDカメラなどで撮像し、得られた画像から液容量を概算する技術が分析装置に利用されている。そこで、この技術により分注機構の性能評価が可能かどうかを検討したところ、分注液容量のAccuracy(目標容量からどの程度ずれているか)を求めることはできるが、Precision(どの程度ばらついているか)を求めることができないという問題が明らかになった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
少なくとも分注機構,蛍光検出機構,撮像機構とを備える分析装置であって、分注機構の性能評価を、分注された液体の容量を撮像機構で、もしくは撮像機構および蛍光検出機構の両方で測定することにより装置内部で自動化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明を実施することによって、分析装置に必須ではない精密電子天秤や吸光度計を搭載させて装置全体の複雑化やコスト増大を招くことなく、分注機構の性能評価を装置内部で自動化させることができる。また、最小限の試薬と消耗品を装置に供するだけで分注機構の自動性能評価を装置内部で実施するため、分注機構の性能評価を極めて低コストかつ簡便迅速に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の分析装置の全体構成を示す概観斜視図である。
【図2】実施例1および2の手順を示すフローチャートである。
【図3】分注のくり返し回数の決定における各ステップを示すフローチャートである。
【図4】実施例1の手順4における各ステップを示すフローチャートである。
【図5】実施例2の手順4における各ステップを示すフローチャートである。
【図6】実施例3および4の手順を示すフローチャートである。
【図7】実施例3の手順6における各ステップを示すフローチャートである。
【図8】実施例4の手順6における各ステップを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための最良の形態は、目標容量の液体を分注可能な分注機構1と、分注機構1によって分注される液体の容量を測定可能な撮像機構2と、蛍光色素溶液の蛍光強度を測定可能な蛍光検出機構3、および撮像機構2から得られる画像データと蛍光検出機構3から得られる蛍光強度データを処理可能なデータ処理機構4とを備える分析装置であって、分注機構1の性能評価をする際に、撮像機構2による画像データを利用する、あるいは撮像機構2による画像データと蛍光検出機構3による蛍光強度データの両方を利用することにより、他の測定装置を装置内部に搭載させることなく自動化させることを特徴とする。
【0019】
より具体的には、分注機構1により目標容量(V0)の液体を同一条件で複数回(k)くり返して分注し、撮像機構2から得られる画像データ(IMi)から、各回の分注液容量(Vi)を算出する。得られた各回の分注液容量(Vi)から、分注液容量の平均(μ)及びAccuracyを求める。次いで、分注機構1により目標容量(V0)の液体を同一条件で複数回(l)くり返して分注し、蛍光検出機構3から得られる蛍光強度データ(FIj)から、各回の分注液容量(Vj)を算出する。得られた各回の分注液容量(Vj)から、分注液容量の標準偏差(σ)及びPrecisionを求める。最後に、得られたAccuracyとPrecisionを分注機構1の性能評価結果とする。以上の過程は、次のように表される。
f(IMi)=Vi i=1〜k
μ=1/k・ΣVi i=1〜k
Accuracy(%)=(μ−V0)/V0×100
(k:分注のくり返し回数、IMi:各回の画像データ、Vi:各回の分注液容量、μ:分注液容量の平均、V0:目標容量)
g(FIj)=Vj j=1〜l
ν=1/l・ΣVj j=1〜l
σ=1/l−1・Σ(Vj−ν)2 j=1〜l
Precision(%)=σ/ν×100
(l:分注のくり返し回数、FIj:各回の蛍光強度データ、Vj:各回の分注液容量、ν:分注液容量の平均、σ:分注液容量の標準偏差)
【0020】
分注機構1の分注性能評価としてAccuracyとPrecisionの両方を求めることが好ましいが、分注性能評価としてAccuracyのみを求めてもよく、それによって本発明を限定するものではない。
【0021】
分注機構1により分注される液体は、分注機構1の分注性能評価としてAccuracyのみを求める場合には、分注機構1により分注可能な液体であればいかなる液体でもよいが、分注性能評価としてAccuracyとPrecisionの両方を求める場合では、分注機構1により分注可能で、かつ蛍光検出機構3により検出可能な蛍光色素溶液である必要がある。
【0022】
分注のくり返し回数(k,l)は多いほど好ましいが、本発明による分注機構1の分注性能評価として統計的に妥当な回数であればよく、その回数によって本発明を限定するものではない。
【0023】
撮像機構2による画像データ(IMi)の取得、および蛍光検出機構3による蛍光強度データ(FIj)の取得は、異なる分注においてそれぞれのデータを独立に取得してもよいし(i≠j)、1回の分注において両方のデータを続けて取得してもよく(i=j)、それによって本発明を限定するものではない。
【0024】
撮像機構2による分注液体の撮像は、分注機構1により吸引された液体が分注チップ内に保持された状態で行ってもよいし、分注チップ内から受入れ容器内に液体が吐出された後に行ってもよい。次いで、得られた画像データ(IMi)から分注液容量(Vi)を算出するが、このときの分注液容量の算出方法はいかなるものでもよく、その方法によって本発明を限定するものではない。
【0025】
蛍光検出機構3による蛍光強度測定は、分注機構1により吐出された蛍光色素溶液を一定容量の希釈液と混合した後に行うが、希釈液は受入れ容器にあらかじめ入れておいてもよいし、吐出後に加えるようにしても良い。次いで、得られた蛍光強度データ(FIj)から分注液容量(Vj)を算出する。このときに必要になる蛍光強度と分注液容量を相関づける検量線は、標準溶液の蛍光強度を蛍光検出機構3で測定することにより作成する。
【0026】
標準溶液は、一連の規定容量だけ上記蛍光色素溶液を含んだ溶液である。また、標準溶液は、蛍光検出機構の測定間差を補正するために、内部標準として利用可能な異なる蛍光色素を含んでいることが好ましい。さらに、標準溶液の蛍光強度測定により、蛍光検出機構の校正が可能となることが好ましい。なお、標準溶液の蛍光色素は、蛍光検出機構により検出可能であればいかなるものでもよく、その種類によって本発明を限定するものではない。
【0027】
なお、蛍光強度データ(FIj)から分注液容量(Vj)を算出しない場合は、検量線の作成は不要である。この場合は、複数回分注したときに得られる各回の蛍光強度データ(FIj)から、蛍光強度データの標準偏差(σFI)およびPrecisionを求め、得られたPrecisionをそのまま分注機構1の性能評価結果とする。このときの過程は、次のように表される。
ξ=1/l・ΣFIj j=1〜l
σFI=1/l−1・Σ(FIj−ξ)2 j=1〜l
Precision(%)=σFI/ξ×100
(l:分注回数、FIj:各回の蛍光強度データ、ξ:蛍光強度データの平均、σFI:蛍光強度データの標準偏差)
【0028】
本発明は、分注機構1と蛍光検出機構3とを備え、遺伝子検査などを行う自動分析装置において、分注機構1の性能評価を装置内部で自動化させる方法として、様々な検討を重ねた結果、創出に至ったものである。
【0029】
以下、図面を用いて本発明を実現する装置構成を詳細に説明するが、本発明は、分注機構1と撮像機構2と蛍光検出機構3とを備え、分注機構1の性能評価を装置内部で自動化できればよく、以下に記述する具体例に限定されない。
【0030】
本発明に必要とする最低限の機構と構成を図1に示す。図1に示すように、本発明は、分注機構1,撮像機構2,蛍光検出機構3,撮像機構2から得られる画像データと蛍光検出機構3から得られる蛍光強度データを処理するデータ処理機構4で構成され、好ましくは、これらに加えて、攪拌機構5、および容器運搬機構6で構成される。
【0031】
本発明における分注機構1とは、目標容量を分注可能なシリンジ部7と、シリンジ部7に取付け可能な分注チップ8から成る。分注チップ8は、分注チップラック9に多数保持される。なお、シリンジ部7および分注チップ8のサイズは目標容量の液体を分注できればよく、そのサイズが本発明を限定するものではない。シリンジ部7は、液体を吸引および吐出する機能を有していればよく、その形状や材質等が本発明を限定するものではない。分注チップは、その内部に液体を保持できればよく、その形状や材質等が本発明を限定するものではない。
【0032】
本発明における撮像機構2とは、画像を撮影するカメラ部10と、撮像用光源11から成る。
【0033】
本発明における蛍光検出機構3とは、受入れ容器保持部12と、励起光を照射する蛍光励起用光源13と、蛍光を検出する蛍光検出部14から成る。蛍光励起用光源と蛍光検出部は、使用する蛍光色素の蛍光強度を測定可能な組合せであればよい。好ましくは、多重分析可能な2種類以上の蛍光色素の蛍光強度を同時に測定できるとよい。
【0034】
本発明におけるデータ処理機構4とは、データ記憶機能を備える演算処理部15と、分注機構の性能評価結果を表示する表示モニタ16から成る。
【0035】
本発明における攪拌機構5とは、吐出された蛍光色素溶液17と希釈溶液20を混合することが可能であればいかなる構成でもよい。
【0036】
本発明における容器運搬機構6とは、受入れ容器21を攪拌機構5および蛍光検出機構3に運搬することが可能であればいかなる構成でもよい。なお、攪拌と蛍光検出を同一機構で実施する場合は、本機構は必須ではない。
【0037】
なお、分析装置によっては、分析方法に合った必要な機構が追加されることは自明であり、分析方法特有の機構の有無が本発明を限定するものではない。
【0038】
本発明における蛍光色素溶液17は、蛍光色素が適当な溶媒に溶解された溶液を意味し、定量解析に利用可能な蛍光色素の溶液であればいかなる溶液でもよい。
【0039】
液体を保持する蛍光色素溶液リザーバ容器18は、一定容量の液体を保持することができ、装置内のリザーバ容器ラック19などに適切に架設できる形状であればいかなる容器でもよい。
【0040】
本発明における希釈溶液20は、蛍光色素溶液と混合可能であり、蛍光色素を安定に保つことができる溶液であればいかなる溶液でもよい。
【0041】
本発明における受入れ容器21は、希釈液、および希釈された吐出液体を保持することができ、装置内の受入れ容器ラック22などに適切に架設できる形状であればいかなる容器でもよい。
【0042】
なお、本発明における「吸引」とは、ある液体を目標容量だけ、ある容器から分注チップ内に移動させ、分注チップ内に保持させることを意味する。
【0043】
本発明における「吐出」とは、分注チップ内に保持された液体の全部あるいは一部を、分注チップ内からある容器に移動させることを意味する。
【0044】
本発明における「分注」とは、ある液体を目標容量だけ、ある容器から別容器に移動させることを意味する。
【0045】
本発明における「撮像」とは、内部に液体を保持している分注チップ8あるいは容器を、CCDカメラなどで撮影することを意味する。
【0046】
本発明における「蛍光強度測定」とは、用いる蛍光色素に適切な励起波長を照射し、発生する蛍光を検出することを意味する。
【0047】
前述した機構および試薬を用いて、本発明により分注機構の分注性能評価を装置内部で自動化させる過程を以下詳細に記述するが、本発明による分注機構の自動性能評価は、その過程において撮像機構2から得られた画像データが分注液容量の算出に利用されればよく、以下に記述する実施形態に限定されない。
【実施例1】
【0048】
本実施例における分注機構1,撮像機構2の具体的構成の一例を表1に示す。また、本実施例における、試薬とその必要量,装置に架設する試薬容器および分注チップとそれらの必要数を表2に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
本実施例の手順を、図2のフローチャートに沿って以下詳細に説明する。
手順1.分注機構のAccuracyを求めるために、分注機構が目標容量の液体を分注するくり返し回数(k)を、オペレータが決定する(S210)。この手順の詳細は、図3のフローチャートに沿って下述する。
手順2.表2に示した必要量の試薬と、必要数の試薬容器および分注チップを、オペレータが装置に架設する(S220)。
手順3.オペレータが装置に対して、分注機構の分注性能評価(Accuracy)を依頼する(S230)。
手順4.分注機構の分注性能評価(Accuracy)が装置内部で自動的に行われる(S240)。この手順の詳細は、図4のフローチャートに沿って下述する。
手順5.オペレータが分注機構の分注性能評価結果(Accuracy)を確認する(S250)。
【0052】
上述した手順1(分注のくり返し回数(k)の決定)における各ステップを、図3のフローチャートに沿って以下詳細に説明する。分注のくり返し回数(k)は、分注機構1の分注性能評価として統計的に妥当な回数が既定値として設定されているが、オペレータの目的に合わせてオペレータが自由に決定することができる。
1−1.分注のくり返し回数(k)を既定値から変更するかどうかをオペレータが判断する(S310)。
2.既定値から変更しない場合、既定値が分注のくり返し回数(k)となる(S320)。
3.既定値から変更する場合、分注のくり返し回数のリストが表示される(S330)。
4.分注のくり返し回数(k)を回数リストから選択するかどうかをオペレータが判断する(S340)。
5.回数リストから選択する場合、表示された回数リストから、分注機構の評価目的に合致した1つをオペレータが選択する(S350)。例えば、基礎的評価が目的の場合は少ないくり返し回数を選択し、ファインチューニングが目的の場合は多いくり返し回数を選択する。
6.回数リストから選択された場合、選択された回数が分注のくり返し回数(k)となる(S360)。
7.回数リストから選択しない場合、分注機構の評価目的に合致した任意の回数をオペレータが入力する(S370)。
8.くり返し回数が入力された場合、入力値が分注のくり返し回数(k)となる(S380)。
【0053】
上述した手順4(分注機構の分注性能自動評価(Accuracy))における各ステップを、図4のフローチャートに沿って以下詳細に説明する。
4−1.表1に示す構成の分注機構1により、表2に示す分注液体を目標容量だけ、リザーバ容器から分注チップ内に吸引する(S410)。
2.表1に示す構成の撮像機構2により、分注チップ内に保持された液体を撮像し、画像データ(IMi)を取得する(S420)。
3.上記分注機構1により、分注チップ内の液体を元のリザーバ容器へ吐出する(S430)。
4.取得できた画像データ(IMi)の数をデータ処理機構4がカウントし(S440)、画像データ数がk個未満の場合はステップ4−1に戻る。目標容量の液体の分注をk回くり返し、k個の画像データを取得できた場合は次のステップに進む。なお、リザーバ容器および分注チップは、同一のものを毎回使用する。
5.上記データ処理機構4により、各回の画像データ(IMi)から各回の分注液容量(Vi)を算出される(S450)。このステップにより、k個の分注液容量データが得られる。なお、画像データから分注液容量データを算出する方法は次の通りである。
6.上記データ処理機構4により、得られたk個の分注液容量データから、分注液容量の平均(μ)が算出される。計算式は次の通りである(S460)。
μ=1/k・ΣVi i=1〜k
7.上記データ処理機構4により、得られた分注液容量の平均(μ)から、上記分注機構1の分注性能(Accuracy)が算出される。計算式は次の通りである(S470)。
Accuracy(%)=(μ−V0)/V0×100
8.上記分注機構1の分注性能の評価結果(Accuracy)が、上記データ処理機構4により表示される(S480)。
【0054】
ところで、分注機構の寿命試験において分注性能評価を実施する場合は、Precisionよりもむしろ、Accuracyが負荷時間に応じてどのように変化するかを評価する必要がある。そこで、以上に述べた手順にしたがい、目標容量が5μLのときの分注機構のAccuracyを評価した。なお、分注のくり返し回数(k)は60回とした。
【0055】
また、本実施形態による評価結果の妥当性を検証するために、分注液容量を公知の重量法により同時に測定し、重量法による分注性能評価結果を得た。
【0056】
本実施形態と重量法によるそれぞれの分注性能評価結果を表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
上記撮像機構2が取得した画像データから得られた分注液容量の平均とAccuracyは、重量法とほぼ同程度であった。この実験結果から、上記撮像機構2による画像データに基づいて分注液容量の平均が求まり、上記分注機構1のAccuracyを決定できることが証明された。
【0059】
以上のように、本実施形態によって、最小限の消耗品の使用だけで、上記分注機構1の分注性能(Accuracy)の評価を装置内部において自動で実施することができた。
【実施例2】
【0060】
本実施例における分注機構1,撮像機構2の具体的構成は実施例1と共通である(表1)。また、本実施例における、試薬とその必要量,装置に架設する試薬容器および分注チップとそれらの必要数を表3に示す。
【0061】
本実施例の手順は、手順4を除き、実施例1と共通である(図2)。
【0062】
本実施例の場合の手順4(分注機構の分注性能自動評価(Accuracy))における各ステップを、図5のフローチャートに沿って以下詳細に説明する。
1.表1に示す構成の分注機構1により、表4に示す分注液体を目標容量だけ、リザーバ容器から分注チップ内に吸引する(S510)。
【0063】
【表4】

2.上記分注機構1により、分注チップ内に保持された液体を空の受入れ容器へ吐出する(S520)。
3.表1に示す構成の撮像機構2により、受入れ容器内の液体を撮像し、画像データ(IMi)を取得する(S530)。
4.取得できた画像データ(IMi)の数をデータ処理機構4がカウントし(S540)、画像データ数がk個未満の場合はS510に戻る。目標容量の液体の分注をk回くり返し、k個の画像データを取得できた場合は次のステップ(S550)に進む。なお、リザーバ容器は同一のものを毎回使用し、受入れ容器および分注チップは毎回異なるものを使用する。
5.上記データ処理機構4により、各回の画像データ(IMi)から各回の分注液容量(Vi)を算出される。このステップにより、k個の分注液容量データが得られる(S550)。なお、画像データから分注液容量データを算出する方法は次の通りである。
6.上記データ処理機構4により、得られたk個の分注液容量データから、分注液容量の平均(μ)が算出される。計算式は次の通りである(S560)。
μ=1/k・ΣVi i=1〜k
7.上記データ処理機構4により、得られた分注液容量の平均(μ)から、上記分注機構1の分注性能(Accuracy)が算出される。計算式は次の通りである(S570)。
Accuracy(%)=(μ−V0)/V0×100
8.上記分注機構1の分注性能の評価結果(Accuracy)が、上記データ処理機構4により表示される(S580)。
【0064】
実施例1の場合と同様に、以上に述べた手順にしたがい、目標容量が5μLのときの分注機構のAccuracyを評価することを考える。
【0065】
本実施例においても、上記撮像機構2が取得した画像データに基づいて分注液容量の平均が求まり、上記分注機構1のAccuracyを決定できることは、実施例1における実験結果から容易に推測できる。
【0066】
したがって、本実施形態によって、上記分注機構1の分注性能(Accuracy)の評価を装置内部において自動で実施することができる。
【実施例3】
【0067】
本実施例における分注機構1,撮像機構2、および蛍光検出機構3の具体的構成の一例を表5に示す。また、本実施例における、試薬とその必要量,装置に架設する試薬容器および分注チップとそれらの必要数を表6に示す。
【0068】
【表5】

【0069】
【表6】

【0070】
本実施例の手順を、図6のフローチャートに沿って以下詳細に説明する。
手順1.分注機構のAccuracyを求めるために、分注機構が目標容量の蛍光色素溶液を分注するくり返し回数(k)を、オペレータが決定する(S610)。この手順の詳細は、実施例1の手順1と共通である(図3)。
手順2.分注機構のPrecisionを求めるために、分注機構が目標容量の蛍光色素溶液を分注するくり返し回数(l)を、オペレータが決定する(S620)。この手順の詳細は、実施例1の手順1と共通である(図3)。
手順3.表6に示した必要量の試薬と、必要数の試薬容器および分注チップを、オペレータが装置に架設する(S630)。
手順4.オペレータが装置に対して、分注機構の分注性能評価(AccuracyおよびPrecision)を依頼する(S640)。
手順5.分注機構の分注性能評価(Accuracy)が装置内部で自動的に行われる(S650)。この手順の詳細は、実施例1の手順4(図4)、あるいは実施例2の手順4(図5)と共通である。
手順6.分注機構の分注性能評価(Precision)が装置内部で自動的に行われる(S660)。この手順の詳細は、図7のフローチャートに沿って下述する。
手順7.オペレータが分注機構の分注性能評価結果(AccuracyおよびPrecision)を確認する(S670)。
【0071】
上述した手順4(分注機構の分注性能自動評価(Precision))における各ステップを、図7のフローチャートに沿って以下詳細に説明する。
1.表5に示す構成の分注機構1により、表6に示す蛍光色素溶液を目標容量だけ、リザーバ容器から分注チップ内に吸引する(S710)。
2.上記分注機構1により、分注チップ内に保持された蛍光色素溶液を、希釈液の入った受入れ容器へ吐出する(S720)。なお、希釈液の容量は、重量測定などによって、あらかじめ正確に決定しておく。
3.攪拌機構5により受入れ容器を攪拌し、蛍光色素溶液と希釈液を十分に混合される(S721)。
4.容器運搬機構6により、受入れ容器を表5に示す構成の蛍光検出機構3に移設される(S722)。
5.希釈された蛍光色素溶液の数をデータ処理機構4がカウントし(S730)、希釈された蛍光色素溶液の数がl個未満の場合はS710に戻る。目標容量の蛍光色素溶液の分注をl回くり返し、l個の希釈された蛍光色素溶液を調製できた場合はS730に進む。なお、リザーバ容器は同一のものを毎回使用し、受入れ容器および分注チップは毎回異なるものを使用する。
6.上記蛍光検出機構3により、希釈された蛍光色素溶液の蛍光強度が測定される。このステップにより、l個の蛍光強度データ(FIj)が得られる(S740)。
7.上記蛍光検出機構3により、表6に示す複数の標準溶液の蛍光強度(FAMおよびROX)が測定される(S750)。
8.上記データ処理機構4により、得られた標準溶液のFAM蛍光強度から、FAM蛍光強度と分注液容量の対応を規定する検量線が作成される(S751)。また、同時に得られた標準溶液のROX蛍光強度から、上記蛍光検出機構3の測定間差を算出し、l個の蛍光強度データ(FIj)の測定間差を補正した。
9.上記データ処理機構4により、得られた検量線に基づいて、各回の蛍光強度データ(FIj)から各回の分注液容量データ(Vj)を算出する(S752)。
10.上記データ処理機構4により、得られたl個の分注液容量データ(Vj)から、分注液容量の標準偏差(σ)が算出される。計算式は次の通りである(S760)。
ν=1/l・ΣVj j=1〜l
ここで、σ=1/l−1・Σ(Vj−ν)2 j=1〜l
11.上記データ処理機構4により、得られた注液容量の標準偏差(σ)から、上記分注機構1の分注性能(Precision)が算出される。計算式は次の通りである(S770)。
Precision(%)=σ/ν×100
12.上記分注機構1の分注性能の評価結果(Precision)が、上記データ処理機構4により表示される(S780)。
【0072】
以上に述べた手順にしたがい、目標容量が5μLのときの分注機構のAccuracyおよびPrecisionを評価した。なお、Accuracyを求めるための分注のくり返し回数(k)は60回、Precisionを求めるための分注のくり返し回数(l)は20回とした。
【0073】
また、本実施形態による評価結果の妥当性を検証するために、分注液容量を公知の重量法により同時に測定し、重量法による分注性能評価結果を得た。
【0074】
本実施形態と重量法によるそれぞれの分注性能評価結果を表7に示す。
【0075】
【表7】

【0076】
上記撮像機構2が取得した画像データから得られた分注液容量の平均とAccuracyは、重量法とほぼ同程度であった。また、上記蛍光検出機構3が測定した蛍光強度データから得られた分注液容量の標準偏差とPrecisionは、重量法とほぼ同程度であった。これらの実験結果から、上記撮像機構2による画像データに基づいて分注液容量の平均が求まり、上記分注機構1のAccuracyを決定できることと、上記蛍光検出機構3による蛍光強度データに基づいて分注液容量の標準偏差が求まり、上記分注機構1のPrecisionを決定できることの両方が証明された。
【0077】
以上のように、本実施形態によって、上記分注機構1の分注性能(AccuracyとPrecisionの両方)の評価を装置内部において自動で実施することができた。
【実施例4】
【0078】
本実施例における分注機構1,撮像機構2、および蛍光検出機構3の具体的構成は実施例3と共通である(表5)。また、本実施例における、試薬とその必要量,装置に架設する試薬容器および分注チップとそれらの必要数も実施例3と共通である(表6)。ただし、本実施例では、標準溶液を使用しない。
【0079】
本実施例の手順は、手順6を除き、実施例3と共通である(図6)。
【0080】
本実施例の場合の手順6(分注機構の分注性能自動評価(Precision))における各ステップを、図8のフローチャートに沿って以下詳細に説明する。
1〜6.実施例3の手順6におけるステップ1〜6と共通である。
7.上記データ処理機構4により、得られたl(エル)個の蛍光強度データ(FIj)から、蛍光強度データの標準偏差(σ)が算出される。計算式は次の通りである(S750)。
σFI=1/l−1・Σ(FIj−ξ)2 j=1〜l
ここで、ξ=1/l・ΣFIj j=1〜l
8.上記データ処理機構4により、得られた蛍光強度データの標準偏差(σ)から、上記分注機構1の分注性能(Precision)が算出される。計算式は次の通りである(S760)。
Precision(%)=σFI/ξ×100
9.上記分注機構1の分注性能の評価結果(Precision)が、上記データ処理機構4により表示される(S770)。
【0081】
以上に述べた手順にしたがい、目標容量が5μLのときの分注機構のAccuracyおよびPrecisionを評価した。なお、Accuracyを求めるための分注のくり返し回数(k)は60回、Precisionを求めるための分注のくり返し回数(l)は20回とした。
【0082】
本実施形態と重量法によるそれぞれの分注性能評価結果を表8に示す。
【0083】
【表8】

【0084】
以上のように、本実施形態によって、上記分注機構1の分注性能(AccuracyとPrecisionの両方)の評価を装置内部において自動で実施することができた。
【符号の説明】
【0085】
1 分注機構
2 撮像機構
3 蛍光検出機構
4 データ処理機構
5 攪拌機構
6 容器運搬機構
7 シリンジ部
8 分注チップ
9 分注チップラック
10 カメラ部
11 撮像用光源
12 受入れ容器保持部
13 蛍光励起用光源
14 蛍光検出部
15 演算処理部
16 分注機構性能評価結果の表示モニタ
17 蛍光色素溶液
18 蛍光色素溶液リザーバ容器
19 リザーバ容器ラック
20 希釈溶液
21 受入れ容器
22 受入れ容器ラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分注機構と、該分注機構によって分注された液体を撮像し、その容量を測定する撮像機構を備えた分析装置の分注機構の性能評価方法において、
分注機構が目標容量の液体を複数回分注し、撮像機構により撮像した撮像データから平均分注量を求め、この平均分注量から分注機構による分注量が目標容量からどの程度ずれているかを求めることを特徴とする、分注機構の性能評価方法。
【請求項2】
請求項1において、
撮像機構により撮像した後に、分注した液体を予め用意した容器に吐出することを特徴とする、分注機構の性能評価方法。
【請求項3】
請求項1において、
分注機構により分注した液体を撮像機構による撮像前に、一旦空の容器に吐出し、該容器を撮像機構により撮像することを特徴とする、分注機構の性能評価方法。
【請求項4】
請求項1において、
分注機構による分注量が目標容量からどの程度ずれているかは、次式により求めることを特徴とする、分注機構の性能評価方法。
(μ−V0)/V0×100
μ;平均分注量、V0;目標容量
【請求項5】
分注機構と、該分注機構によって分注された液体の蛍光検出する蛍光検出機構を備えた分析装置の分注機構の性能評価方法において、
分注機構が目標容量の蛍光色素溶液を複数回分注し、それぞれの蛍光強度データを求め、この蛍光強度データから標準偏差を算出し、この標準偏差から分注量がどの程度ばらついているかを求めることを特徴とする、分注機構の性能評価方法。
【請求項6】
請求項5において、
蛍光検出機構を用いて複数の標準溶液の蛍光強度を測定し、この測定結果を基に検量線を作成し、この検量線を用いて蛍光強度データから分注液容量データを算出し、この分注液容量データから標準偏差を算出することを特徴とする、分注機構の性能評価方法。
【請求項7】
請求項5において、
分注機構で分注した蛍光色素溶液を、希釈液の入った容器へ吐出し、この容器を蛍光検出機構へ移動させることを特徴とする、分注機構の性能評価方法。
【請求項8】
請求項5において、
分注量がどの程度ばらついているかは、次式により求めることを特徴とする、分注機構の性能評価方法。
σ/ν×100
σ;標準偏差、ν;平均分注量
【請求項9】
分注機構と、該分注機構によって分注された液体を撮像し、その容量を測定する撮像機構を備えた分析装置において、
分注機構が複数回分注した目標容量の液体を撮像機構により撮像した撮像データから各分注の平均分注量を求め、この平均分注量から分注量が目標容量からどの程度ずれているかを求めるデータ処理機構を備えたことを特徴とする、分析装置。
【請求項10】
分注機構と、該分注機構によって分注された液体の蛍光検出する蛍光検出機構を備えた分析装置を備えた分析装置において、
分注機構が複数回分注した目標容量の蛍光色素溶液それぞれの蛍光強度データを求め、この蛍光強度データから標準偏差を算出し、この標準偏差から分注量がどの程度ばらついているかを求めるデータ処理機構を備えたことを特徴とする、分析装置。
【請求項11】
請求項10において、
データ処理機構は、蛍光検出機構を用いて測定した複数の標準溶液の蛍光強度を基に検量線を作成し、この検量線を用いて蛍光強度データから分注液容量データを算出し、この分注液容量データから標準偏差を算出することを特徴とする、分析装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−58985(P2011−58985A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209928(P2009−209928)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】