説明

分注装置

【課題】ノズルの傾斜量に対応してノズルとウェルとの相対位置を自動的に調整することができる分注装置を提供する。
【解決手段】複数のノズル7から吐出した定量の試料をマイクロプレート3に形成されたウェル2に注入する分注ヘッド8と、複数のノズル7をウェル2に対して一律に傾斜させるノズル傾斜機構9と、ノズル7とウェル2との相対位置を変更する位置変更機構5、10と、非傾斜時におけるノズル7とウェル2との相対位置を規定する制御パラメータと、ノズルの傾斜量に対応したノズル7とウェル2との相対位置を規定する補正パラメータに基づいて位置変更機構5、10を制御する位置決め制御部、を備えた構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェルに適量の試料を吐出するノズルを備えた分注装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ノズルから適量の試料を間歇的に吐出し、マイクロプレートに形成された複数のウェルに分注する装置が知られている。この分注装置は、分注ヘッドの下方にマイクロプレートを配置し、分注ヘッドに鉛直下方に向けて整列して配置された複数のノズルから試料を吐出して鉛直下方にあるウェルに分注する構成のものが一般的である。ところで、このような構成の分注装置では、吐出された試料がウェル底に直接衝突するため、跳ね返りによってウェル外に漏出したり、ウェル内の空気が気泡となって試料内に巻き込まれたりする問題が発生しやすい。このような問題はウェルの高密度化に伴う小型化、特に開口面積が微小化するに伴って発生頻度が増大する傾向にある。また、検体となる細胞等がウェル底に培養されている場合には組織が破壊されたり底部から剥ぎ取られたりすることがある。
【0003】
このような問題を解決するため、従前の人手による分注作業ではスポイトやピペットをウェルに対して傾斜させ、吐出した試料を一旦ウェル壁に衝突させてから分注する方法が採用されていた。このように吐出方向をウェルに対して傾斜させる方法を採用した装置として、ウェルの洗浄液を吐出するノズルの軸線を予めウェルの法線に対して傾斜させた洗浄装置が知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−28206号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
試料の吐出方向をウェルに対して傾斜させた場合、ノズルとウェルの相対位置が適切な関係になっていないと吐出した試料をウェルに確実に分注することはできない。また、それぞれウェルの形状やサイズが異なる様々な種類のマイクロプレートに対応するため、ノズルの傾斜量は可変でなければならない。
【0005】
そこで本発明は、ノズルの傾斜量に対応してノズルとウェルとの相対位置を自動的に調整することができる分注装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の分注装置は、複数のノズルから吐出した定量の試料をマイクロプレートに形成されたウェルに注入する分注ヘッドと、複数のノズルをウェルに対して一律に傾斜させるノズル傾斜機構と、ノズルとウェルとの相対位置を変更する位置変更機構と、位置変更機構を制御してノズルとウェルとの相対位置を調整する制御部、を備えた分注装置であって、前記制御部が、非傾斜時におけるノズルとウェルとの相対位置を規定する制御パラメータを記憶する標準パラメータ記憶部と、ノズルの傾斜量に対応したノズルとウェルとの相対位置を規定する制御パラメータを出力する補正パラメータ出力部と、ノズルの非傾斜時においては標準パラメータに基づいて前記位置変更機構を制御し、ノズルの傾斜時においては標準パラメータと補正パラメータに基づいて前記位置変更機構を制御する位置決め制御部、を備えた。
【0007】
請求項2に記載の分注装置は、請求項1に記載の分注装置であって、前記補正パラメータに、ノズルとウェルとの水平方向の相対位置を規定する水平方向成分と、ノズルとウェルとの鉛直方向の相対位置を規定する鉛直方向成分を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、傾斜したノズルとウェルとの相対位置を自動的に調整することができるので、ウェルの形状やサイズが異なる様々な種類のマイクロプレートを扱う場合であっても傾斜したノズルから吐出された試料をウェルに確実に分注することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の実施の形態の分注装置の機構系の構成を示している。分注装置1は、様々な検査対象や試験対象となる試料を分注する複数のウェル2がXY方向にマトリックス状に配置されたマイクロプレート3を支持するテーブル4と、テーブル4をX方向(矢印a)に移動させるX軸移動機構5と、テーブル4をY方向(矢印b)に移動させるY軸移動機構6と、Y方向に列をなす複数のノズル7を備えた分注ヘッド8と、分注ヘッド8をY軸周り(矢印c)に回転させて複数のノズル7を一律に傾斜させるノズル傾斜機構9と、分注ヘッド8をZ方向(矢印d)に昇降させてウェル2に対するノズル7の高さを調整するノズル昇降機構10と、複数のノズル7に試料を供給する試料供給機構11、によって構成されている。
【0010】
X軸移動機構5とY軸移動機構6はノズル7とウェル2との水平方向における相対位置を変更し、ノズル昇降機構10はノズルとウェルとの鉛直方向のおける相対位置を変更する位置変更機構として機能する。ノズル傾斜機構9は複数のノズル7の軸線をウェル2の法線に対して一律に傾斜させることで、分注の際にノズル7から吐出される試料の吐出方向を調整し、ウェル2に衝突する箇所を変更することができる。
【0011】
図2は本発明の実施の形態の分注装置の制御系の構成を示している。制御部20は、上述のX軸移動機構5、Y軸移動機構6、ノズル傾斜機構9、ノズル昇降機構10にそれぞれ備えられた各モータと、試料供給機構11に備えられた分注ポンプの駆動制御によって分注装置1における分注動作を制御する。標準パラメータ記憶部21は非傾斜時におけるノズルとウェルとの相対位置を規定する制御パラメータを標準パラメータとして記憶している。補正パラメータ出力部22はノズルの傾斜量に対応したノズルとウェルとの相対位置を規定する制御パラメータを補正パラメータとして出力する。位置決め制御部23はX軸移動機構5、Y軸移動機構6、ノズル昇降機構10からなる位置変更機構の動作制御によってノズルとウェルとの相対位置を調整する制御を行う。ノズルの非傾斜時においては標準パラメータに基づいて位置変更機構を制御し、ノズルの傾斜時においては標準パラメータと補正パラメータに基づいて位置変更機構の動作制御を行う。ノズル情報記憶部24は補正パラメータを出力する際の基礎データとなるノズル情報を記憶している。
【0012】
標準パラメータは図3に示すようにマイクロプレートの種類に対応して予め設定されている。標準パラメータのうちノズルとウェルの水平方向における相対位置を規定するものとしてX軸パラメータとY軸パラメータ、X方向におけるウェルの配置ピッチがあり、鉛直方向における相対位置を規定するものとしてZ軸パラメータがある。図4において、X軸パラメータはX軸移動機構5に設定された原点x0とテーブル4に設定された基準点4aとのX方向における水平離間距離x1を規定し、Y軸パラメータはY軸移動機構(図示せず)に設定された原点(図示せず)とテーブル4に設定された基準点4aとのY方向における水平離間距離を規定したものである。また、Z軸パラメータはノズル昇降機構10に設定された原点z0と分注ヘッド8の回転中心8aのZ方向における水平離間距離z1を規定したものである。位置決め制御部23は3つの制御パラメータx1、y1、z1に基づいてX軸移動機構5、Y軸移動機構6、ノズル昇降機構10の各モータの駆動制御により、X方向において最も端の列にあるウェル2bと複数のノズル7の位置決めを行い、ウェル2bに分注を終えると、X方向におけるウェルの配置ピッチを規定する制御パラメータp1に基づいてX軸移動機構5のモータの駆動制御によってテーブル4を配置ピッチ
分だけ矢印e方向に移動させながら次列以降のウェルに順に分注を行う。
【0013】
マイクロプレート3はテーブル4に設けられたX軸位置決めピン4bによってウェル2b側が位置決めされているので、ウェル2bとテーブル4の基準点4aのX方向における位置関係はマイクロプレート3の種類に関係なく一定になり、様々な種類のマイクロプレート3を扱う際にも位置決めに支障がないようになっている。同様にテーブル4に設けられたY軸位置決めピン4cによってウェルと基準点4aのY方向における位置関係が一定になるようになっている。
【0014】
図5はノズルの傾斜時および非傾斜時におけるウェルとの相対位置関係を示している。実線で表した分注ヘッド8はノズル7が非傾斜時(傾斜角0)にあるときの状態を示している。破線で表した分注ヘッド8はノズル7が傾斜時(傾斜角R)にあるときの状態を示している。通常の分注作業ではノズル7は傾斜角0の姿勢でウェル2の底部に向けて直接試料の吐出を行うようになっているが、ノズル7を傾斜させることで一旦壁部に衝突した試料が壁部に沿って流れ落ちるように分注されるので、ウェル2内の空気が試料内に巻き込まれて気泡となって残留したり、検体となる細胞等がウェル2の底部に培養されている場合に組織が破壊されたり底部から剥ぎ取られたりするような問題を回避することができる。
【0015】
ノズル7は分注ヘッド8の回転中心8aを支点として傾斜するように構成されており、ノズル7の先端の吐出口7bは傾斜角に応じてX方向およびY方向に変位するので、標準パラメータのみに基づいた位置決め制御では傾斜したノズル7の先端の吐出口7bをウェル2に対して適切に位置決めすることができない。そのため補正パラメータ出力部22は、図6に示すようにノズル情報記憶部24に記憶されたノズル7の傾斜角R、分注ヘッド8の回転中心8aと吐出口7bとの離間距離(ノズル傾斜長)Lのノズル情報に基づいてノズルの傾斜量、すなわちノズル傾斜時の吐出口7bの変位量を算出し、補正パラメータとして出力する。ノズル7は分注ヘッド8のY軸周りの回転によってX−Z平面内で傾斜するので、吐出口7bはX方向に変位量Δx、Z方向に変位量Δzで変位し、Y方向には変位しない。従って、補正パラメータはX軸パラメータΔxとZ軸パラメータΔzのみとなる。
【0016】
なお、補正パラメータ出力部22はノズル情報記憶部24に記憶されたノズル情報以外にオフセット値25を参照した補正パラメータの出力が可能である。オフセット値25は、ノズル情報に基づいて算出された制御パラメータにX軸、Y軸、Z軸方向のオフセットを付加するものであり、ノズル7の長さや内径、試料の性状等の条件によって傾斜時の吐出状態に影響がある場合に影響を排除するために任意に設定することができる。
【0017】
図5において、ノズル7が傾斜角Rで傾斜している場合のノズル7とウェル2bの位置決めを行う場合、位置決め制御部23は標準パラメータと補正パラメータに基づいて位置変更機構の動作制御を行う。この動作制御において、マイクロプレート3を載置したテーブル4(基準点4a)は標準パラメータに補正パラメータを加えたx+Δxの位置に位置決めされ、分注ヘッド8(回転中心8a)は標準パラメータに補正パラメータを加えたz+Δzの位置に位置決めされる。これによりノズル7の吐出口7bは、ノズル7の傾斜時においてもウェル2に対し適切に位置決めされ、吐出した試料をウェル2に確実に分注することができる。次列以降のウェルについてはノズル7の傾斜角に関係なくウェルのX方向における配置ピッチ分だけテーブル4を移動させることで分注を行うことができる。
【0018】
ノズル7の傾斜角Rは任意の角度に設定することが可能であり、ノズル傾斜長Lが既知であるので、補正パラメータ出力部22は傾斜角Rに対応する補正パラメータを即時に出力することができる。従って、ウェルの形状やサイズが異なる様々な種類のマイクロプレ
ート3を扱う場合、ノズル7の傾斜角Rをノズル情報記憶部24に入力するだけで対応した補正パラメータが自動的に出力されるので、傾斜時のノズル7とウェル2が適切な位置関係を規定することができ、傾斜したノズル7から吐出された試料をウェル2に確実に分注することができる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明によれば、傾斜したノズルとウェルとの相対位置を自動的に調整することができるので、ウェルの形状やサイズが異なる様々な種類のマイクロプレートを扱う場合であっても傾斜したノズルから吐出された試料をウェルに確実に分注することができるという効果を奏し、特に微小なウェルや底部に細胞等を培養したウェルに分注する場合に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態の分注装置の機構系の構成図
【図2】本発明の実施の形態の分注装置の制御系の構成図
【図3】本発明の実施の形態の標準パラメータ表を示す図
【図4】本発明の実施の形態の分注装置におけるノズルとウェルの位置関係を示す図
【図5】本発明の実施の形態の分注装置における傾斜時および非傾斜時のノズルとウェルとの位置関係を示す図
【図6】本発明の実施の形態の補正パラメータを出力する方法を示すブロック図
【符号の説明】
【0021】
1 分注装置
2 ウェル
3 マイクロプレート
5 X軸移動機構
6 Y軸移動機構
7 ノズル
8 分注ヘッド
9 ノズル傾斜機構
10 ノズル昇降機構
20 制御部
21 標準パラメータ記憶部
22 補正パラメータ出力部
23 位置決め制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルから吐出した定量の試料をマイクロプレートに形成されたウェルに注入する分注ヘッドと、複数のノズルをウェルに対して一律に傾斜させるノズル傾斜機構と、ノズルとウェルとの相対位置を変更する位置変更機構と、位置変更機構を制御してノズルとウェルとの相対位置を調整する制御部、を備えた分注装置であって、
前記制御部が、非傾斜時におけるノズルとウェルとの相対位置を規定する制御パラメータを記憶する標準パラメータ記憶部と、ノズルの傾斜量に対応したノズルとウェルとの相対位置を規定する制御パラメータを出力する補正パラメータ出力部と、ノズルの非傾斜時においては標準パラメータに基づいて前記位置変更機構を制御し、ノズルの傾斜時においては標準パラメータと補正パラメータに基づいて前記位置変更機構を制御する位置決め制御部、を備えた分注装置。
【請求項2】
前記補正パラメータに、ノズルとウェルとの水平方向の相対位置を規定する水平方向成分と、ノズルとウェルとの鉛直方向の相対位置を規定する鉛直方向成分を含む請求項1に記載の分注装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate