説明

分繊用ポリエステルマルチフィラメント

【課題】鮮明性に優れ、しかも分繊、製編織が容易な紫外線吸収性を有する分繊用ポリエステルマルチフィラメントを提供する。
【解決手段】有機系紫外線吸収剤を0.1〜5.0重量%含有し、かつ無機系の紫外線吸収および/または反射剤を0〜0.5重量%含有するポリエステルからなるマルチフィラメントは、鮮明性に優れた紫外線吸収性を有する分繊用ポリエステルマルチフィラメントとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分繊用ポリエステルマルチフィラメントおよびそれを用いた繊維構造体に関する。更に詳しくは、有機系紫外線吸収剤を0.1〜5.0重量%含有し、無機系の紫外線吸収および/または反射剤を0.5重量%以下含有するポリエステルからなることを特徴とする鮮明性に優れた紫外線吸収性の分繊用ポリエステルマルチフィラメントならびに該分繊用ポリエステルマルチフィラメントおよび/または分繊後のモノフィラメントを含む繊維構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、強度、寸法安定性、イージーケアー性など多くの優れた特徴を備えていることから、ポリエステル繊維からなる織物・編物は、その優れた特性により衣料用から産業用と広い範囲で用いられている。
【0003】
他方、近年では、太陽光に含まれる紫外線の有害性が知られるようになり、紫外線から肌を守ることが望まれている。このため、紫外線を遮蔽する目的で、二酸化チタンなどの無機系紫外線吸収・反射剤をポリエステル繊維に含ませることが提案されている(例えば下記特許文献1、特許文献2参照)
【0004】
しかしながら、無機系の紫外線吸収・反射剤を多量に含むポリエステル繊維では、繊維の光沢がダル調となり染色しても鮮やかな発色性(鮮明性)が得られず、光沢感も乏しく用途的にも限られたものとなっていた。また、かかるポリエステル繊維を分繊や製編織すると、ポリエステル繊維中に含まれる無機系微粒子によりガイドや筬、ベルトなどが磨耗しやすく、設備の維持管理が煩雑になり生産性が低下するという問題もあった。
【0005】
【特許文献1】特開平5−148734号公報
【特許文献2】特開平6−2219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は鮮明性に優れ、しかも分繊やその後の製編織が容易な、紫外線吸収性を有する分繊用ポリエステルマルチフィラメントおよび分繊後のモノフィラメントで構成された繊維構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは課題を達成するために鋭意検討した結果、ポリエステル繊維に有機系の紫外線吸収剤を含ませ、かつ無機系の紫外線吸収、反射剤の含有量を少なくすることにより、鮮明性に優れ、しかも製編織が容易な紫外線吸収性ポリエステル繊維が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ね、本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして、本発明によれば、有機系紫外線吸収剤を0.1〜5.0重量%含有し、無機系の紫外線吸収および/または反射剤を0〜0.5重量%含有するポリエステルからなることを特徴とする鮮明性に優れた紫外線吸収性を有する分繊用ポリエステルマルチフィラメントが提供される。
【0009】
その際使用する有機系紫外線吸収剤は、ベンゾオキサジン系有機顔料が特に好ましい。また、該分繊用ポリエステルマルチフィラメントにおいて、無機系の紫外線吸収および/または反射剤を含有しないことが好ましい。さらに、分繊後のモノフィラメントの繊度が10〜30デシテックスの範囲内であることが好ましい。かかる単繊維または分繊後のモノフィラメント(単繊維)の断面形状としては、異形であることが好ましく、特に断面において2箇所以上のくびれ部を有する断面扁平度2〜6の扁平断面であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、鮮明性に優れ、しかも分繊・製編織が容易な紫外線吸収性を有する分繊用ポリエステルマルチフィラメントおよび該分繊用ポリエステルマルチフィラメントからの分繊後のモノフィラメントで構成された繊維構造体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明でいうポリエステルとは、エチレンテレフタレート単位、トリメチレンテレフタレート単位、ブチレンテレフタレート単位、エチレンナフタレート単位の少なくともいずれかを主たる繰返し単位とするポリエステルである。これらのポリエステルは、酸成分を基準として30モル%以下、好ましくは20モル%以下の割合で他の成分が共重合されていてもかまわない。好ましく用いられる共重合成分としては、例えば、酸成分として、フタル酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸などをあげることができ、また、グリコール成分として、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、2,2−ビス{4−(β−ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパンなどをあげることができる。
【0012】
本発明に用いるポリエステルの固有粘度は0.4〜1.5が好ましく、より好ましくは0.5〜1.0であり、この範囲で、強度、紡糸性などに優れた繊維を得ることができる。
本発明のポリエステルマルチフィラメントに含有する、有機系紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾオキサジン系紫外線吸収剤またはベンゾフェノン系紫外線吸収剤などが有効である。
【0013】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3’−tert−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3’,5’−ジ−tert−アミル−2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、5−トリフルオロメチル−2−(2−ヒドロキシ−3−(4−メトキシ−α−クミル)−5−tert−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。なかでも2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3’−tert−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールが好ましく、更に2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールが好ましい。
【0014】
トリアジン系の紫外線吸収剤としては、ヒドロキシフェニルトリアジン系、例えば「チヌビン400」(登録商標、チバスペシャルティーケミカル社製)が好ましい。
【0015】
また、ベンゾオキサジン系の紫外線吸収剤としては、2−メチル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−ブチル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−フェニル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−(1−または2−ナフチル)−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−(4−ビフェニル)−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2,2’−ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2,2’−m−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(4,4’−ジフェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(2,6または1,5−ナフタレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、1,3,5−トリス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン−2−イル)ベンゼンなどが挙げられるが、なかでも2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)が好ましい。
【0016】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンなどが挙げられ、なかでも2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノンが好ましい。
【0017】
これらの中でも、特開昭62−117744号公報に記載の如きベンゾオキサゾン系有機紫外線吸収剤が好適であり、とりわけ、2,2‘−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)は本発明において効果が顕著である。本発明では、これらの紫外線吸収剤を単独で用いても、二種以上併用してもよい。
【0018】
必要により少量併用される無機系の紫外線吸収としては、例えば、例えば、二酸化チタン(表面コートチタンを含む)、酸化亜鉛、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム、タルク、カオリン、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウムなどが挙げられる。また、無機系反射剤としては、例えば、モンモリロナイト、二酸化チタン、カオリン、酸化セリウムなどが挙げられる。
【0019】
本発明では、フィラメントを形成するポリエステル中の有機系紫外線吸収剤の含有量が0.1〜5.0重量%の範囲内であり、かつ、無機系の紫外線吸収および/または反射剤の含有量が0〜0.5重量%であることが必要である。有機系紫外線吸収剤の含有量が0.1重量未満では、紫外線の遮蔽効果が充分に奏されないという問題があり、逆に5.0重量%を超えると、鮮明性が低下する上、製糸性が不良となるので好ましくない。また、無機系の紫外線吸収剤や反射剤は必ずしも含有しなくてもよいが、これらを含む場合でも両者の含有量が合計で0.5重量%を超えないことが必要である。無機系の紫外線吸収剤および反射剤が0.5重量%を上廻ると、繊維の光沢がダル調となる上、ガイドや筬などが磨耗し易くなるという問題が生じるので好ましくない。
また、上記ポリエステルには、必要に応じ、他の各種添加剤、例えば、着色剤、熱安定剤などが含まれていても差し支えない。
【0020】
本発明の分繊用ポリエステルマルチフィラメントは、さらに、下記(1)〜(2)項を同時に満足することが必要である。
(1)複屈折:0.040〜0.070
(2)伸度(%):30〜70
【0021】
まず、複屈折については0.040〜0.070の範囲であることが重要であり、0.50〜0.65の範囲内がより好ましい。複屈折が0.040を下回ると充分な力学的特性を得ることが出来ず、マルチフィラメントを分繊してモノフィラメントにする工程や、モノフィラメントの織り編み工程で糸の張力が高くなる時に糸切れや毛羽が発生しやすくなる。一方、複屈折が0.070を上回るマルチフィラメント糸を得るには、紡糸工程で引き取り速度を5000m/分以上とする必要があり、巻き取り時のパッケージの崩れが発生し易く、そのため、パッケージからの解舒時の張力変動が大きくなり、分繊性が悪くなる。
【0022】
さらに、伸度が30〜70%であることが重要である。伸度が30%を下回ると紡糸工程での糸切れや分繊工程での糸切れが多くなり工程通過性が悪くなる。また、70%を上回ると分繊時に解舒張力を高くした際、解舒張力変動による糸長方向の斑が生じやすく、かつ分繊時の張力変動が大きくなり分繊工程での糸切れが多くなる。伸度は上記範囲の中でも40〜60%が好ましい。
【0023】
本発明の分繊用ポリエステルマルチフィラメントを分繊した後のモノフィラメントの繊度、すなわち単繊維の繊度は10〜30デシテックスであることが重要である。モノフィラメントの繊度がこの範囲よりも小さくなると分繊が難しくなり、逆に大きくなると巻取中にパッケージの型崩れや綾外れが発生して工程通過性が著しく悪くなる。該マルチフィラメントのフィラメント本数は、一般に、6〜12本が好ましい。
【0024】
本発明のマルチフィラメントにおける各フィラメント(単繊維)の断面形状は特に限定されるものではなく、円形、楕円形、三角形、扁平、3〜8の多葉形、中空など目的・用途に合わせて適宣選択すればよいが、フィラメントの断面形状が扁平であって、特に図2のように断面形状において2箇所以上のくびれ部を有する断面扁平度2〜6の扁平断面のものは、分繊性が良好となるため、特に効果的である。なお、ここで言う断面扁平度とは、フィラメントの横断面において、長辺の長さ(B)と短辺の長さ(C)との比(B/C)である。
【数1】

【0025】
本発明のポリエステルマルチフィラメントは、これを分繊してモノフィラメントとした後、常法により織物、編物、組物などの繊維構造体にすることができる。
上記の如き本発明に係る鮮明性に優れた紫外線吸収性の分繊用ポリエステルマルチフィラメントを工業的に製造するには、以下のような方法が好適に採用される。
【0026】
すなわち、有機系紫外線吸収剤を0.1〜5.0重量%含有し、無機系の紫外線吸収および/または反射剤を含まないか、もしくは0.5重量%以下含有する、ポリエステルを溶融し、紡糸口金(1)より吐出した溶融マルチフィラメントを、紡糸口金直下に設けた50〜200℃の雰囲気温度に保持した長さ50〜150mmの保温領域(10)を通過させて急激な冷却を抑制した後、この溶融マルチフィラメントを冷却風(11)にて急冷して固体フィラメントに変え、オイリングローラー(2)にてモノフィラメントの状態でオイリングを施した後に、糸分けガイド(3)を経て、その下流で集束し、1本のマルチフィラメントの状態にして40〜70℃に加熱した第1ゴデットローラー(4)およびそれに付随する第1セパレートローラー(5)に巻回して2000〜3500m/分の速度で引取る。そして、これを巻き取ることなく、引き続き110〜150℃に加熱した、第1ゴデットローラー(4)より速い周速で回転する第2ゴデットローラー(6)とそれに付随する第2セパレートローラー(7)とに巻回し、上記第1ゴデットローラー(4)と第2ゴデットローラー(6)との間で1.2〜2.0倍に延伸し、巻取機(8)で第2ゴデットローラーの周速よりも低速で巻き取って、マルチフィラメントパッケージ(9)を得る。巻き取りに際しては、延伸したマルチフィラメントを第2ゴデットローラー(6)の周速よりも低い速度で、若干の弛緩を与えながら巻き取ることが望ましく、この方法により本発明で必要な繊維物性を達成することができる。
【0027】
この際、ポリマーの吐出量を調整して所定の繊度となるようにすることが必要である。そして、紡糸口金より吐出した溶融マルチフィラメントは、紡糸口金直下に設けた50〜200℃の雰囲気温度に保持した長さ50〜150mmの保温領域(10)を通過させることで、ポリマーを急激に冷却することを防ぎ、微細な結晶や極度に配向した非結晶部分の生成を抑制して延伸工程で延伸されやすい非結晶構造を作ることができ、その結果、本発明で必要な繊維物性を達成できる。
【0028】
また、オイリングはオイリングローラー(2)にてモノフィラメントの状態で行うことが重要である。モノフィラメントの状態でオイリングを行うとオイリングローラーとフィラメントの摩擦によって発生するマルチフィラメントのマイグレーションが発生してしまい、分繊性が悪くなる。オイリングに使用する油剤は特に限定されず、通常の紡糸油剤でもよい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、各例中の特性値は次の方法で求めたものである。
【0030】
(1)固有粘度
ポリエステルチップを100℃、60分間でオルトクロロフェノールに溶解した希薄溶液を、35℃でウベローデ粘度計を用いて測定した値から求めた。
(2)複屈折率
糸の複屈折率は、光学顕微鏡とコンペンセーターを用いて、繊維の表面に観察される偏光のリターデーションから求めた。
(3)強度および伸度
JIS−L−1013に基づいて、定速伸長引張試験機であるオリエンテック(株)社製テンシロンを用いて、つかみ間隔20cm、引張速度20cm/分にて測定した。
(4)明度指数
明度指数Lとして、JIS−Z−8729(L*a*b*表示系およびL*u*v*表示系による物体色の表示方法)に示すL*a*b*表示系で表示した。L値が小さいほど紫外線吸収性が大きく良好であることを示す。
(5)分繊性の評価
分繊用ポリエステルマルチフィラメントを巻き取った10kg巻ドラム状パッケージを、単糸1本1本に糸切れなく分繊速度500m/分にて分繊できた分繊用マルチフィラメントの割合を満管率(%)で表し、80%以上を良好、70%以上80%未満を可、70%未満を不可とした。なお、分繊されたモノフィラメントの巻量は1kg巻とする。
(6)ヘルドの磨耗
織物を製織した後、ヘルドのメール部(経糸が通過する孔部)の磨耗の点から、3級=磨耗が確認できない、2級=磨耗が僅かにある、1級=磨耗がある、の3段階に評価した。
【0031】
[実施例1]
特開昭62−11744号公報に記載された方法で合成された2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)からなる有機系紫外線吸収剤を1.0重量%含み、二酸化チタンなどの無機系紫外線吸収剤および/または反射剤を含まない固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレートを、吐出孔径0.55mmの丸孔5ホールが同心円状に配列してある紡糸口金から、ポリマー吐出温度257℃とし、単一吐出孔での吐出量が7.1g/分となるように押し出して、モノフィラメントの状態でオイリングを行い、60℃に加熱した第1ローラーに8ターンさせ2500m/分で引き取りつつ第1ローラーの1.3倍の速度で120℃に加熱された第2ゴデットロールに6ターンさせ10本のマルチフィラメントの綾角θを8.5度にして巻き取った。得られたマルチフィラメントは、パッケージの巻姿が良好であり分繊性も良好な結果となった。この糸の物性を表1に示す。
【0032】
次いで、分繊したモノフィラメントについて常法により平組織織物を製織し、染料を使用せずに常法の仕上げ加工を施し、白色の織物を得た。得られた織物のL値は83で、染色した場合、鮮明性に優れたものであった。またヘルドの磨耗が3級(磨耗が確認できない)であった。
さらに、この織物を、別途、常法により分散染料で染色したところ、染斑は見られず均染性は良好であった。
【0033】
[比較例1]
実施例1において、ポリエチレンテレフタレート中に、2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)有機系紫外線吸収剤を1.0重量%含ませ、二酸化チタンを1.0重量%含ませること以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。このマルチフィラメントは、巻姿が良好であり分繊性は普通であったが、分繊後のモノフィラメントを用いて、実施例1と同様の方法で得られた織物のL値は90で、染色した場合、鮮明性が劣り、またヘルドの磨耗が2級(磨耗が僅かにある)であった。
【0034】
[比較例2]
実施例1において、ポリエチレンテレフタレート中に、2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)有機系紫外線吸収剤を含ませず、二酸化チタンを2.5重量%含ませること以外は実施例1と同様にした。このマルチフィラメントは、巻姿が良好であり分繊性は普通であった。しかし、分繊後のモノフィラメントを用いて、実施例1と同様の方法で得られた織物のL値は93で、染色した場合、鮮明性が劣り、またヘルドの磨耗が1級(磨耗がある)であった。
【0035】
[実施例2]
単繊維の断面形状が図2のように、2個のくびれ部を有する扁平度3.4のフィラメントに溶融紡糸する以外は、実施例1と同様にしてポリエステルマルチフィラメントを製造した。得られたマルチフィラメントはパッケージの巻姿が良好であり、分繊性はきわめて良好な結果(満管率90%以上)を得た。この糸の物性を表1に示す。
【0036】
次いで、分繊したモノフィラメントについて常法により平組織織物を製織し、染料を使用せずに常法の仕上げ加工を施し、白色の織物を得た。得られた織物のL値は83で、染色した場合、鮮明性に優れたものであった。また、ヘルドの磨耗が3級(磨耗が確認できない)であった。さらに、この織物を実施例1と同様に染色したところ染斑は見られず良好であった。
【0037】
[実施例3]
有機系紫外線吸収剤の2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)1.0重量%を含み、かつ、無機系紫外線吸収剤としての二酸化チタンを0.2重量%含む固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレートを使用する以外は、実施例1と同様にしてポリエステルマルチフィラメントを製造した。得られたマルチフィラメントはパッケージの巻姿が良好であり、分繊性もきわめて良好な結果(満管率90%以上)を得た。この糸の物性を表1に示す。
【0038】
次いで、分繊したモノフィラメントについて常法により平組織織物を製織し、染料を使用せずに常法の染色仕上げ加工を施し、白色の織物を得た。得られた織物のL値は83で、染色した場合、鮮明性に優れたものであった。またヘルドの磨耗が3級(磨耗が確認できない)であった。また、この織物を実施例1と同様に染色したところ染斑は見られず良好であった。
【0039】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明による分繊用ポリエステルマルチフィラメントは、分繊後のモノフィラメントとして織物、編物、組物などにすることができ、衣料用、インテリア用、産業用など各種の分野で広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明を実施する紡糸機の概略を示す模式図である。
【図2】本発明による分繊用マルチフィラメントのフィラメント断面形状の一例を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1:紡糸口金
2:オイリングローラー
3:糸分けガイド
4:第1ゴデットローラー
5:第1セパレートローラー
6:第2ゴデットローラー
7:第2セパレートローラー
8:巻取機
9:マルチフィラメントパッケージ
10:保温領域
11:冷却風

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機系紫外線吸収剤を0.1〜5.0重量%含有し、かつ無機系の紫外線吸収および/または反射剤を0〜0.5重量%含有するポリエステルからなることを特徴とする紫外線吸収性を有する分繊用ポリエステルマルチフィラメント。
【請求項2】
有機系紫外線吸収剤がベンゾオキサジン系有機紫外線吸収剤である請求項1に記載の紫外線吸収性を有する分繊用ポリエステルマルチフィラメント。
【請求項3】
単繊維当たりの繊度が10〜30デシテックスである請求項1または請求項2に記載の紫外線吸収性を有する分繊用ポリエステルマルチフィラメント。
【請求項4】
複屈折が0.040〜0.070であり、かつ伸度が30〜70%である請求項1〜請求項3のもいずれかに記載の分繊用ポリエステルマルチフィラメント。
【請求項5】
単繊維の断面形状が、断面において2箇所以上のくびれ部を有する断面扁平度2〜6の扁平断面である請求項1〜請求項4のいずれかに記載の紫外線吸収性を有する分繊用ポリエステルマルチフィラメント。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の紫外線吸収性を有する分繊用ポリエステルマルチフィラメントから分繊したモノフィラメントを含んでなる繊維構造体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−45245(P2008−45245A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−223200(P2006−223200)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】