説明

分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメント及びその製造法

【課題】分繊工程での工程通過性が良好で、仮撚り加工、分繊工程でのガイド疵や磨耗が少なく、黒色度(L値)に優れた分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントを提供する。
【解決手段】上記課題は、繊維構成ポリマーがポリマー繰り返し単位の少なくとも90モル%以上がトリメチレンテレフタレート単位であるポリエステルであって、該繊維中に着色顔料として黒色を発色する有機顔料と平均1次粒子径が10〜30nmの範囲にあるカーボンブラックとを繊維重量に対し合わせて0.5〜2.0重量%含有しており、かつ、上記カーボンブラックの繊維中の含有量が0.1〜0.6重量%であり、さらに伸度30〜70%、単糸繊度10〜50デシテックス、フィラメント数4〜20本、繊維の黒色度(L値)20以下の条件を同時に満足する分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントにより達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分繊用黒色原着ポリエステルフィラメント及びその製造法に関するものである。さらに詳しくは、着色顔料として、黒色を発色する有機顔料と平均1次粒子径が10〜30nmの範囲にあるカーボンブラックとを合わせて0.5〜2.0重量%含有しており、さらにはそのカーボンブラックの繊維中への含有量が0.1〜0.6重量%である分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメント、並びに、該分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントを効率よく製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
直接紡糸延伸法による分繊用ポリエステルマルチフィラメントの製造方法に関しては、例えば特開昭59−116405号公報(特許文献1)、特開昭59−125904号公報(特許文献2)、特開2006−169698号公報(特許文献3)などにみられるように従来からよく知られており、分繊されたモノフィラメントは、織物としてインナーカーテンなどのインテリア用途にも使われてきた。そのなかで、モノフィラメントのパーンの状態で染色を行った先染め黒着色ポリエステルモノフィラメントと染色されていないフィラメントとを交織した織物を染めて、深見のある色合いを表現するシャンブレー織物がある。現在、主にシャンブレー織物用の先染め黒着色ポリエステルモノフィラメントはアゾ系分散染料で黒く染められており、織物での染色時に黒着色ポリエステルモノフィラメントの色落ちや色移りなどが起きないようにされている。
【0003】
しかし、近年においては環境や製品の安全性への意識が強まりアゾ系分散染料についての見直しや、先染め工程によるコストアップの問題によりポリマーの段階で黒色に原液着色(以下、「原着」という)された分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントが求められるようになってきた。
【0004】
また、ポリトリメチレンテレフタレート繊維は特開昭52−8123号公報(特許文献4)や特開昭52−8124号公報(特許文献5)などにみられるように古くから知られており、伸長弾性回復率が優れ、ヤング率が低く易染性を持ち、化学的にも安定していることから、衣料用でのストレッチ素材として好適な繊維である以外にポリトリメチレンテレフタレートのソフト感を高級感として表現するシャンブレー織物のようなインテリア用途も求められてきている。
【0005】
そのような状況下で、カーボンブラックからなる無機系着色顔料で原着した分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントなどの展開を考えられたが、このマルチフィラメントは分繊前の仮撚り工程や分繊工程におけるスピンドルガイドや糸導ガイドの疵や磨耗を招くという問題、あるいは整経時の筬磨耗やスカム発生の問題などがあり商業的な展開は困難であった。また、着色顔料に分散染料が構成されている場合、分散染料の耐熱性の問題で紡糸工程において粘度低下が発生し工程通過性が悪化したり、織物での染色の際に着色顔料のなかの分散染料が色抜けしたり、色移りするという問題がある。
【0006】
【特許文献1】特開昭59−116405号公報
【特許文献2】特開昭59−125904号公報
【特許文献3】特開2006−169698号公報
【特許文献4】特開昭52−8123号公報
【特許文献5】特開昭52−8124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の如き従来技術を背景になされたものであり、その1つの目的は分繊工程での工程通過性が良好で、仮撚り加工、分繊工程でのガイド疵や磨耗が少なく、黒色度(L値)に優れた分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントを提供することにあり、他の目的は分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントを効率的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、従来の分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントにおける問題を解決すべく鋭意研究した結果、良好な品質の製品を安定して製造することが出来、その後の仮撚り加工、分繊加工での工程通過性及びガイド類の疵や磨耗の問題がなく、しかも黒色度(L値)に優れた分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントを得ることに成功し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち、上記目的を達成する本発明の分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントは、繊維を構成するポリマー成分の少なくとも90モル%以上がポリトリメチレンテレフタレート単位で構成され、繊維中に着色顔料として有機顔料と平均1次粒子径が10〜30nmの範囲にあるカーボンブラックとを合わせて0.5〜2.0重量%含有しており、さらにはそのカーボンブラックの繊維中への含有量が0.1〜0.6重量%であり、下記(1)〜(4)の条件を同時に満足することを特徴とするものである。
(1)伸度:30〜70%
(2)単糸繊度:10〜50デシテックス
(3)でありフィラメント数:4本以上20本以下
(4)繊維の黒色度(L値):20以下
【0010】
かかる本発明の分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントは、例えば、ポリマー繰り返し単位の少なくとも90モル%以上がトリメチレンテレフタレート単位であるポリエステルに、黒色を発色する有機顔料と平均1次粒子径が10〜30nmの範囲にあるカーボンブラックとを、繊維重量基準で、着色顔料の合計含有量が0.5〜2.0重量%となりかつ上記カーボンブラックの含有量が0.1〜0.6重量%となるように添加したポリマー組成物を、溶融紡糸し、口金直下に設けた50〜200℃の雰囲気温度に保持した長さ50〜150mmの保温領域を通過させて急激な冷却を抑制した後、この溶融マルチフィラメントを急冷固化させてマルチフィラメントに変え、オイリングローラーにてモノフィラメントの状態でオイリングを施した後に、集束してマルチフィラメントで40〜70℃に加熱した第一ローラーで500〜3000m/分で引き取り、巻き取ることなく該第一ローラーと110〜150℃に加熱した第二ローラーとの間で1.2〜2.0倍に延伸し、実質的に無撚で巻き取って、下記(1)〜(4)の物性を兼ね備えるマルチフィラメントとする方法によって製造される。
(1)伸度:30〜70%
(2)単糸繊度:10〜50デシテックス、
(3)マルチフィラメントを構成するフィラメント数:4〜20本
(4)繊維の黒色度(L値):20以下。
【発明の効果】
【0011】
本発明の分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントは、仮撚り加工、分繊加工での工程通過性が良好であり、仮撚りスピンドル及びガイド類の疵や磨耗の問題がなく、しかも、黒色度(L値)に優れた分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントとなる。また、本発明の方法によれば、かかる分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントを紡糸直接延伸法により良好な生産にて製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントを構成するポリエステルは、トリメチレンテレフタレート単位を主たる繰返し単位とするポリエステルである。すなわち、該ポリエステルは主としてテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体とエチレングリコールとから製造されるポリマーであるが、例えば該ポリエステルの酸成分を基準として10モル%以下の割合で他の成分が共重合されていてもかまわない。好ましく用いられる共重合成分としては、例えば、酸成分としては、フタル酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸などをあげることができ、また、グリコール成分としては、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、2,2−ビス{4−(β−ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパンなどをあげることができる。
【0013】
また、上記ポリエステルには、後述する特定の着色顔料のほかに、必要に応じ、例えば、酸化チタンなどの艶消剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、酸化防止剤、固相重合促進剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤などの添加剤を含んでいてもよく、特に、艶消剤として酸化チタンなどが好ましく添加される。本発明に用いるポリマーの固有粘度は0.4〜0.8dL/gが好ましく、より好ましくは0.5〜0.7dL/gであり、この範囲で、強度、紡糸性などに優れた繊維を得ることができる。
【0014】
本発明の分繊用黒色ポリエステルマルチフィラメントは、繊維を構成するポリマー成分の少なくとも90モル%以上がトリメチレンテレフタレート単位で構成されたポリエステルからなり、繊維中に着色顔料として(a)黒色を発色する有機顔料と(b)平均1次粒子径が10〜30nmの範囲にあるカーボンブラックを含み、これら(a)+(b)の合計量にして0.5〜2.0重量%の範囲で繊維中に含有していることが必要である。
上記着色顔料の合計含有量が0.5重量%未満では十分な黒色度(L値)を得られず、2.0重量%を超えると繊維の強度が低下し、分繊工程で断糸による工程通過性の低下が発生する。より好ましい着色顔料の合計含有量は0.8〜1.5重量%である。
【0015】
さらに、上記着色顔料のうち、カーボンブラックの繊維中の含有量が0.1〜0.6重量%であることが必要である。カーボンブラックの含有量が0.1重量%未満では十分な黒色度(L値)を得られず、0.6重量%以上では、仮撚り工程や分繊工程及び整経工程においてガイド類の疵や磨耗及びスカムの問題が発生し、商業的に安定生産を継続して行うのは難しい。この中でも、より好ましいカーボンブラックの含有率は0.2〜0.4重量%である。
【0016】
このカーボンブラックについてはその粒子径が重要であり、カーボンブラックの平均一次粒子径が10nm未満であると、現在知られてカーボンブラックでは二次凝集を阻止することが困難であり、紡糸、分繊工程での断糸が発生し易くなり工程通過性が低下する。平均一次粒子径が30nmを超えると、仮撚り工程や分繊工程及び整経工程においてガイド類の疵や磨耗及びスカムの問題が発生し、商業的に安定生産を継続して行うのは難しい。より好ましいカーボンブラックの平均一次粒径の範囲は、15〜20nmである。
一方、黒色を発色する有機顔料としては、繊維耐熱性、耐光性などを考慮してアニリンブラックや、キナクリドンクリムソンなどのキナクリドン類とフタログリーンとの混合物などを使用するのが好ましい。これらの有機顔料は2種以上併用することもできる。
【0017】
さらに、本発明では、分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントの物性が、下記(1)〜(4)の要件:
(1)伸度が30〜70%、好ましくは40〜60%、の範囲内にあること、
(2)単糸繊度が10〜50デシテックス、であること、好ましくは10〜40デシテックスであること、
(3)フィラメント(単糸)数が4本以上20本以下、好ましくは5〜10本であること、及び
(4)繊維の黒色度(L値)は20以下、好ましくは5〜15であること、
を同時に満足することが重要である。
【0018】
まず、伸度は、30〜70%であることが重要であり、伸度が30%を下回ると紡糸工程での糸切れや分繊工程での糸切れが多くなり工程通過性が悪くなる。また、70%を上回ると分繊時に解舒張力を高くした際、解舒張力変動による糸長方向の斑が生じやすく、さらに分繊時の張力変動が大きくなり分繊工程での糸切れが多くなる。伸度は40〜60%が好ましい。この伸度は、後述の第一ローラーの速度や、第一ローラーと第二ローラーの間での延伸倍率を適宜選択することにより、所望の値に調整することができる。
【0019】
本発明により製造される分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントの分繊後の単糸繊度(モノフィラメントの繊度)は、10〜50デシテックスであることが重要である。単糸繊度がこの範囲よりも小さくなると分繊が難しくなり、逆に大きくなると巻き取り中にパッケージの型崩れや綾外れが発生して工程通過性が著しく悪くなる。そして、マルチフィラメント糸の単糸数は、4〜20本であることが分繊性及び分繊工程での工程通過性を確保する観点から望まれる。
【0020】
本発明において、特に好ましいのは、伸度30〜40%、単糸繊度15〜30デシテックスでかつ単糸数5〜10本のマルチフィラメントである。
さらに、本発明に係る分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントの黒色度(L値)は20以下であることが重要であり、なかでも5〜15が好ましい。この黒色度(L値)が20を超えるとシャンブレー織物での深見のある色合いを表現することが困難となる。
本発明のポリエステルフィラメントの単糸断面形状は特に限定されるものではなく、円形、三角形、扁平、3〜8の多葉形、中空など用途目的に合わせて適宣選択すれば良い。
【0021】
以上の如き本発明の分繊用黒色原着ポリエステルフィラメントの製造方法は、特に限定されるものではないが、上記の有機顔料とカーボンブラックからなる着色顔料をポリトリメチレンテレフタレート系のポリステルチップと溶融状態でブレンドし、着色顔料が合計で10〜30重量%含有している状態のマスターチップを作製し、そのマスターチップを所定の着色顔料添加率になるようベースになるポリエステルチップにブレンドした状態で、図1に示すように、紡糸口金(1)より吐出した溶融マルチフィラメントを、紡糸口金直下に設けた50〜200℃の雰囲気温度に保持した長さ50〜150mmの保温領域(10)を通過させて急激な冷却を抑制する。その後、冷却風(11)により、この溶融マルチフィラメントを急冷して固体マルチフィラメントに変え、オイリングローラー(2)にてモノフィラメントの状態でオイリングを施した後、糸分けガイド(3)を経て、集束し、マルチフィラメントの状態にして70〜110℃に加熱した第1ゴデットローラー(4)とそれに付随する第1セパレートローラー(5)に巻回して500〜3000m/分にて引き取る。そして、これを巻き取ることなく、引き続きマルチフィラメントを110〜150℃に加熱した、上記第1ゴデットローラーと該ローラーより速い周速で回転する第2ゴデットローラー(6)とそれに付随する第2セパレートローラー(7)に巻回し、第1ゴデットローラー(4)と第2ゴデットローラー(6)との間で1.2〜2.0倍に延伸し、巻取機(8)にて第2ゴデットローラーの周速よりも低速で実質的に無撚のフィラメントパッケージ(9)として巻き取ることにより製造される。
【0022】
このように製造される分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントは、必要により、仮撚り工程で捲縮性能を付与された後、分繊工程でモノフィラメントに分繊されて捲縮糸として使用される。あるいは仮撚り加工を実施せずそのまま分繊されてフラットヤーンとして使用される。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の各特性値は次の方法で求めた。
【0024】
(ア)固有粘度
ポリエステル組成物チップを100℃、60分間でオルトクロロフェノールに溶解した希薄溶液を、35℃でウベローデ粘度計を用いて測定した値から求めた。
【0025】
(イ)カーボンブラックの一次平均粒径
島津製作所製 レーザ回折式粒度分布測定装置SALD−200V ERを使用して測定した。
【0026】
(ウ)強度・伸度
JIS−L−1013に基づいて定速伸長引張試験機であるオリエンテック(株)社製テンシロンを用いて、つかみ間隔20cm、引張速度20cm/分にて破断時の強度及び伸度を測定した。
【0027】
(エ)黒色度(L値)
24ゲージの筒編み地を4重折りとし、スガ試験機(株)社製SMカラーコンピュータSM−3を使用して明度(L値)を求めた。この数値が小さいほど濃色で深みのある黒色であることを意味する。この数値が十分小さく良好な黒色を示すものを合格○とし、それに達しないものを不合格×とした。
【0028】
(オ)分繊性
分繊用ポリエステルマルチフィラメントを巻き取った10kg巻ドラム状パッケージを、単糸1本1本に糸切れなく分繊速度600m/分にて分繊できた分繊用マルチフィラメントの割合を満管率(%)で表す。なお、分繊されたモノフィラメントの巻量は1kg巻とする。合否判定基準は80%以上を良好○、それ未満を不良×とした。
【0029】
(カ)仮撚りスピンドルガイド疵
分繊用ポリエステルマルチフィラメントを、仮撚り速度100m/分、延伸倍率1.2、撚り数2,040T/m、ヒーター温度145℃の条件で、1週間連続して仮撚り加工した後の仮撚りスピンドルガイド疵の発生状況を目視観察した。疵が全く見られなかったものを○、僅かでも見られたものを×とした。
【0030】
(キ)整経筬ガイド疵、磨耗
分繊用ポリエステルマルチフィラメントを、300m/分の速度で、1週間連続して整経筬を走行させた後の筬ガイド疵、磨耗の発生状況を目視観察した。疵や磨耗が全く見られなかったものを○、僅かでも見られたものを×とした。
【0031】
[実施例1]
顔料を含まない固有粘度0.96のポリトリメチレンテレフタレートチップ(ポリマーA)と、黒色を発色する有機着色顔料としてアニリンブラックを12重量%及び平均一次粒子径15nmのカーボンブラックを3重量%含有しているポリマーAと同じ固有粘度のポリトリメチレンテレフタレート(ポリマーB)とを、別々に130℃で5時間乾燥し、乾燥したポリマーA100重量部に対してポリマーBを10重量部チップブレンドした。
【0032】
ブレンドされたチップをエクストルーダーにて溶融し、吐出孔径1.0mmの孔5ホールが2列同心円状に配列されている紡糸口金から、ポリマー吐出温度260℃、単一吐出孔での吐出量が5.8g/分の条件で空気中に押し出し、モノフィラメントの状態でオイリングをおこない、80℃に加熱した第一ローラーで16ターンさせ800m/分で引き取りつつ第一ローラーの3.56倍の速度で140℃に加熱された第2ゴデットロールに9ターンさせ10本のマルチフィラメントの綾角θを8.5度で巻き取った。この糸の物性を表1に示す。得られたマルチフィラメントは黒色度(L値)も良好であり、分繊性も良好で、仮撚りスピンドルガイド疵や整経筬ガイド疵又は磨耗の問題も発生しなかった。
【0033】
[実施例2]
乾燥した上記ポリマーA100重量部に対して上記ポリマーBを8重量部チップブレンドした以外は実施例1と同様にして得られたマルチフィラメントであり、この糸の物性を表1に示す。得られたマルチフィラメントは黒色度(L値)も良好であり、分繊性も良好で、仮撚りスピンドルガイド疵や整経筬ガイド疵又は磨耗の問題も全く発生しなかった。
【0034】
[比較例1]
乾燥した上記ポリマーA100重量部に対して上記ポリマーBを3重量部チップブレンドした以外は実施例1と同様にしてポリエステルマルチフィラメントを製造し、実施例1と同様に評価を行った。この糸の物性を表1に示す。得られたマルチフィラメントは黒色度(L値)が不十分であり、シャンブレー織物での深みのある色合いを表現することが出来なかった。
【0035】
[比較例2]
乾燥した上記ポリマーA100重量部に対して上記ポリマーBを25重量部チップブレンドした以外は実施例1と同様にしてポリエステルマルチフィラメントを製造した。この糸の物性を表1に示す。得られたマルチフィラメントは黒色度(L値)は良好であったが、分繊性低下や、仮撚りスピンドルガイド疵や整経筬ガイド疵又は磨耗の問題も発生が発生し、著しく工程通過性が低下した。
【0036】
[比較例3]
着色顔料として有機顔料であるアニリンブラックを12重量%、平均一次粒子径35nmのカーボンブラックを3重量%含有した、Aと同じ固有粘度を有するポリトリメチレンテレフタレート(ポリマーC)を使用した以外は実施例1と同様にしてポリエステルマルチフィラメントを製造した。この糸の物性を表1に示す。得られたマルチフィラメントは黒色度(L値)は良好であったが、仮撚りスピンドルガイド疵や整経筬ガイド疵又は磨耗が若干見られ、長時間の生産においては工程通過性が低下する懸念を示した。
【0037】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明を実施する紡糸機の概略を示す模式図である。
【符号の説明】
【0039】
1:紡糸口金
2:オイリングローラー
3:糸分けガイド
4:第1ゴデットローラー
5:第1セパレートローラー
6:第2ゴデットローラー
7:第2セパレートローラー
8:巻取機
9:マルチフィラメントパッケージ
10:保温領域
11:冷却風

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維を構成するポリマーがポリマー繰り返し単位の少なくとも90モル%以上がトリメチレンテレフタレート単位であるポリエステルからなり、該繊維中に着色顔料として黒色を発色する有機顔料と平均1次粒子径が10〜30nmの範囲にあるカーボンブラックとを繊維重量に対して合わせて0.5〜2.0重量%含有しており、かつ、上記カーボンブラックの繊維中の含有量が0.1〜0.6重量%であり、さらに、下記(1)〜(4)の条件を同時に満足することを特徴とする分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメント。
(1)伸度:30〜70%
(2)単糸繊度:10〜50デシテックス
(3)フィラメント数:4本以上20本以下
(4)繊維の黒色度(L値):20以下
【請求項2】
黒色を発色する有機顔料がアニリンブラックであることを特徴とする請求項1記載の分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメント。
【請求項3】
ポリマー繰り返し単位の少なくとも90モル%以上がトリメチレンテレフタレート単位であるポリエステルに、黒色を発色する有機顔料と平均1次粒子径が10〜30nmの範囲にあるカーボンブラックとを、繊維重量に対して着色顔料の合計含有量が0.5〜2.0重量%となりかつ上記カーボンブラックの含有量が0.1〜0.6重量%となるように添加したポリエステル組成物を、溶融紡糸し、口金直下に設けた50〜270℃の雰囲気温度に保持した長さ50〜200mmの保温領域を通過させて急激な冷却を抑制した後、この溶融状態のマルチフィラメントを急冷固化させてマルチフィラメントに変え、オイリングローラーにてモノフィラメントの状態でオイリングを施した後に集束し、70〜110℃に加熱した第一ローラーで500〜3000m/分でマルチフィラメントとして引き取り、引き続き該第一ローラーと110〜150℃に加熱した第二ローラーとの間で1.2〜4.5倍に延伸し、実質的に無撚で巻き取って、下記(1)〜(4)の条件を同時に満足するマルチフィラメントを得ることを特徴とする分繊用黒色原着ポリエステルマルチフィラメントの製造方法。
(1)伸度:30〜70%
(2)単糸繊度:10〜50デシテックス
(3)フィラメント数:4本以上20本以下
(4)繊維の黒色度(L値):20以下

【図1】
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【公開番号】特開2008−127686(P2008−127686A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−310032(P2006−310032)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】