説明

分解処理装置及び方法

【課題】 菌床の使用可能期間を長期間化する。
【解決手段】 有機物からなる処理対象物Xを微生物によって分解処理する分解処理装置Sであって、上記処理対象物を低分子化あるいは/及び上記微生物によって分解が困難な物質の少なくとも一部を上記処理対象物Xから分離する前処理装置1を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物によって処理対象物を分解処理する分解処理装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、生ゴミ等の有機物からなる処理対象物を微生物によって分解処理する分解処理装置及び方法が知られている。このような分解処理装置においては、分解処理装置の菌床に処理対象物を供給し、菌床中に存在する微生物によって処理対象物を分解処理している。
【0003】
このように微生物によって処理対象物を分解処理することによって、従来行われていた焼却による処理対象物の処理と比較して大気中に放出する二酸化炭素量を相当量低減させることができるとともに、分解処理された処理対象物を肥料等として再利用することができるため資源を有効活用することができる。
【特許文献1】特開2002−113444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば、草木の根のような微生物による分解が困難な高分子有機物(以下、難分解性物質と称する)が混ざっている場合には、難分解性物質を完全に分解するのに相当の時間が必要となる。通常、分解処理装置は、連続的に発生する処理対象物に対応するべく、処理対象物を予め決められた所定時間(例えば、1日)内に分解処理する必要がある。このため、上述のような難分解性物質が処理対象物に混ざっている場合には、難分解性物質が完全に分解されずに、次の処理対象物が分解処理装置に供給される際に、分解処理装置内に残存した状態となる。
このような状態で、次々に処理対象物を分解処理装置に供給した場合には、分解処理装置内に残存する難分解性物質が次第に増量していき、菌床の体積が増量し次の処理対象物の投入可能量が減っていく。このため、菌床の取り替えを頻繁に行う必要が生じる。したがって、菌床の使用可能期間が短くなり、分解処理装置のランニングコストが増加するといった問題が生じることとなる。
また、処理対象物に粘着力を有する有機物が含まれている場合にも、菌床が粘着力を有する有機物に粘着し、処理対象物の分解効率が低下するため、菌床の取り替えを頻繁に行う必要が生じる。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、菌床の使用可能期間を長期間化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、分解処理装置に係る第1の手段として、有機物からなる処理対象物を微生物によって分解処理する分解処理装置であって、上記処理対象物を低分子化あるいは/及び上記微生物によって分解が困難な物質の少なくとも一部を上記処理対象物から分離する前処理装置を備えるという構成を採用する。
【0007】
分解処理装置に係る第2の手段として、上記第1の手段において、上記前処理装置は、上記処理対象物を蒸気分解する蒸気分解装置であるという構成を採用する。
【0008】
分解処理方法に係る第1の手段として、有機物からなる処理対象物を微生物によって分解処理する分解処理方法であって、上記処理対象物を低分子化あるいは/及び上記微生物によって分解が困難な物質の少なくとも一部を上記処理対象物から分離する前処理を行った後、上記処理対象物を微生物によって分解処理するという構成を採用する。
【0009】
分解処理方法に係る第2の手段として、上記第1の手段において、上記前処理は、上記処理対象物を蒸気分解する蒸気分解処理であるという構成を採用する。
【0010】
分解処理方法に係る第3の手段として、上記第2の手段において、上記蒸気分解処理された上記処理対象物から液相成分を分離するという構成を採用する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の分解処理装置及び方法によれば、処理対象物を低分子化あるいは/及び微生物によって分解が困難な物質の少なくとも一部を処理対象物から分離する前処理を行うため、前処理後の処理対象物を微生物によって分解処理した場合に、難分解性物質が分解されずに残存することを抑止することができ、菌床の体積が増加することを抑止することができる。また、処理対象物に粘着力を有する有機物が含まれている場合であっても、前処理を行うことによって、粘着力を低減させることが可能となる。したがって、本発明の分解処理装置及び方法によれば、菌床の使用可能期間を長期間化し、処理対象物の分解処理にかかるランニングコストを低減させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、分解処理装置及び方法本発明に係るの一実施形態について説明する。
【0013】
図1は、本実施形態の分解処理装置Sの概略構成を示したブロック図である。この図に示すように、分解処理装置Sは、圧力容器1(前処理装置,蒸気分解装置)と生ゴミ処理機2とを主な構成要素として備えている。
【0014】
圧力容器1は、処理対象物である生ゴミXを蒸気分解することによって、生ゴミXに含まれる有機物を低分子化して生ゴミX1とするとともに、生ゴミX1の固相成分X2から微生物によって分解が困難な物質の少なくとも一部を分離するものである。なお、圧力容器1によって生ゴミX1の固相成分X2は、例えばベルトコンベア等によって生ゴミ処理機2に移送される。なお、ここで言う生ゴミとは、一般家庭や飲食店によって廃棄される有機系廃棄物の他にも、畜産系有機廃棄物、林業系有機廃棄物、漁業系有機廃棄物等の種々の有機系廃棄物を総称するものである。
【0015】
圧力容器1としては、例えば、内径が1.5m、全長6mの内容積が10mのものを用いることができる。この圧力容器1には、圧力容器1の内部に蒸気Yを供給するための配管aが接続されており、例えば、既設の設備(例えば工場等)において生成された蒸気Yが配管aを介して圧力容器1内に供給される。なお配管aの途中部位には、圧力容器1の内部に供給される蒸気Yの量及び圧力を規定するための圧力調整弁3が配置されている。そして、圧力調整弁3は、例えば、蒸気Yの圧力が2.0MPaで圧力容器1に供給される蒸気量が1500kg/30分となるように蒸気Yの量及び圧力を規定する。
【0016】
生ゴミ処理機2は、生ゴミ処理機2の内部に菌床を有しており、圧力容器1において水蒸気分解された生ゴミX1の固体成分X2が供給されることによって、固体成分X2を菌床中に存在する微生物によって分解処理するものである。なお、生ゴミ処理機2には、生ゴミX1の固体成分X2の他に、難分解性物質が含まれおらず、かつ、粘着力を有さない鶏糞や籾殻等の有機系廃棄物を直接供給することもできるように構成されている。なお、難分解性物質としては、チコリの地下茎、ダリヤの地下茎、ヤマイモの地下茎、海草、海藻、紙、パルプ、蟹殻、カキ殻等の高分子系の有機物が挙げられる。また、粘着力を有する有機物としては、調理済みの米飯等が挙げられる。
【0017】
そして、生ゴミ処理機2は、供給された固体成分X2を所定時間(例えば、1日)かけて微生物によって分解処理し、その後、分解処理した生ゴミX4を外部に排出する。この分解処理された生ゴミX4は堆肥等として再利用することができる。
【0018】
なお、本実施形態の分解処理装置Sは、さらにIC(内部循環)リアクタ4や有用物質回収装置5等を備える構成を採用することができる。これらのICリアクタ4や有用物質回収装置5等は、蒸気分解された生ゴミX1の液相成分X3からエネルギーあるいは/及び有用物質を回収するための設備である。このようなICリアクタ4や有用物質回収装置5を備えることによって、生ゴミX1の液相成分X3を有効活用することができる。なお、ICリアクタ4は、有機質廃液を嫌気処理によってメタン発酵させ、曝気をせず、内部循環で発酵させるものであり、本実施形態においては、生ゴミX1の液相成分X3を利用してメタンガスを生成する。また、有用物質回収装置5は、曝気槽51及び沈殿槽52を備えており、曝気槽51において液相成分X3を活性化処理し、この活性化された液相成分X3に含まれる有用物質を沈殿槽51において沈殿させて回収するものである。
【0019】
なお、必要に応じて圧力容器1の後段に固液分離機(例えば遠心分離機等)を設置することが好ましい。このような固液分離機を設置することによって、蒸気分解された生ゴミX1を確実に固相成分X2と液相成分X3とに分離することができる。このように、生ゴミX1を固相成分X2と液相成分X3とに分離することによって、より効率的に液相成分X3を上述のように有効活用することができる。
【0020】
次に、このように構成された本実施形態の分解処理装置Sの動作(分解処理方法)について説明する。
【0021】
まず、難分解性物質や粘着力を有する有機物を含んだ生ゴミXが圧力容器1に投入されると、生ゴミXは、圧力容器1内において蒸気分解され、蒸気分解された生ゴミX1とされる。より詳細には、既設の設備から供給される蒸気Yが配管a及び圧力調節弁3を介して、圧力容器1内に供給され、この蒸気Yによって生ゴミXが蒸気分解される(前処理)。
そして、このように生ゴミXが蒸気分解されることによって、生ゴミXに含まれる難分解性物質が低分子化されるとともに、その一部が可溶化されて液相成分X3に流れ込む。本実施形態の分解処理装置Sにおいては、生ゴミ処理機2に供給される固相成分X2と液相成分X3とを分離するため、可溶化されて液相成分X3に流れ込んだ難分解性物質の一部は、固相成分X2から分離されることとなる。また、生ゴミXに含まれる粘着力を有する有機物は、生ゴミXが蒸気分解されることによって、低分子化され、その粘着力が低減する。
【0022】
蒸気分解された生ゴミX1は、固相成分X2と液相成分X3とに分離された後、固相成分X2が生ゴミ処理機2に供給される。そして、固相成分X2は、生ゴミ処理機2の菌床において微生物によって分解処理される。
ここで、固相成分X2に含まれる難分解性物質は、生ゴミXが蒸気分解されることによって、低分子化されている。また、生ゴミXに含まれた難分解性物質の一部は、液相成分X3に流れ出しているため、固相成分X2に含まれる難分解性物質の量が生ゴミXであった状態よりも低減されている。したがって、生ゴミ処理機2に難分解性物質が分解されずに残存することを抑止することができ、菌床の体積が増加することを抑止することができる。このため、菌床の使用可能期間を長期間化し、生ゴミXの分解処理にかかるランニングコストを低減させることが可能となる。
また、生ゴミXに含まれた粘着力を有する有機物も生ゴミXを蒸気分解することによって粘着力が低減されているため、固相成分X2に含まれる際には、その粘着力が低減されている。したがって、菌床の使用可能期間を長期間化し、生ゴミXの分解処理にかかるランニングコストを低減させることが可能となる。
【0023】
また、蒸気分解された生ゴミX1から分離された液相成分X3は、ICリアクタ4あるいは有用物質回収装置5に供給される。ICリアクタ4に供給された液相成分X3は、メタンガスの生成に利用される。また、有用物質回収装置5に供給された液相成分X3は、曝気槽51において活性化された後、沈殿槽52に供給される。そして、沈殿槽52において、液相成分X3に含まれる有用物質が回収される。
【0024】
(実施例)
次に、上記実施形態の分解処理装置及び方法の具体的な実施例について説明する。
本実施例においては、生ゴミXとして松のチップを用いた。松のチップは、その主成分であり、難分解性物質であるセルロースが同じく難分解性物質であるリグニンによって強固に結合した構成を有する物質であるため、そのまま、生ゴミ処理機2に投入した場合では、微生物による分解が困難な難分解性物質である。
【0025】
この松のチップを圧力容器1において、蒸気分解した。より詳細には、圧力が2.0MPaの蒸気Yを蒸気量1500kg/分で圧力容器1に供給し、この蒸気Yを用いて松のチップを30分間蒸気分解した。
そして、蒸気分解された松のチップを解析してみると、蒸気分解前の松のチップに含まれたリグニンの量が32.1%であったのに対し、蒸気分解後の松のチップに含まれたリグニンの量は28.3%であった。リグニン自体は低分子化されないため、約12%のリグニンが可溶化され液相成分X2に流れ出したことになる。したがって、難分解性物質を蒸気分解することによって、難分解性物質の一部を分離できることが確認された。
【0026】
また、蒸気分解によって固相成分X2に残存するセルロースも低分子化されている。このため、難分解性物質を蒸気分解し、その固相成分X2を生ゴミ処理機2に供給した場合には、そのまま難分解性物質を生ゴミ処理機2に供給した場合と比較して、より短時間で難分解性物質を微生物によって分解処理することができる。
【0027】
以上、図面を参照しながら本発明に係る分解処理装置及び方法の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0028】
例えば、上記実施形態においては、生ゴミXを低分子化する前処理として、蒸気分解処理を採用した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものでなく、生ゴミXを低分子化する前処理として、生ゴミXを加熱することによって低分子化する熱処理、生ゴミXを酵素を用いて低分子化する酵素処理、または、生ゴミXを水熱反応によって低分子化する水熱反応処理等を採用しても良い。
【0029】
また、上記実施形態においては、ICリアクタ4や有用物質回収装置5によって、蒸気分解された生ゴミX1の液相成分X3からエネルギーあるいは/及び有用物質を回収した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、液相成分X3をエタノール発酵生産、水素発酵生産等に利用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態である分解処理装置Sの概略構成を示したブロック図である。
【符号の説明】
【0031】
1……圧力容器(前処理装置,蒸気分解装置)
2……生ゴミ処理機
S……分解処理装置
X……生ゴミ(処理対象物)
X1……蒸気分解された生ゴミ
X2……固相成分
X3……液相成分



【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物からなる処理対象物を微生物によって分解処理する分解処理装置であって、
前記処理対象物を低分子化あるいは/及び前記微生物によって分解が困難な物質の少なくとも一部を前記処理対象物から分離する前処理装置を備えることを特徴とする分解処理装置。
【請求項2】
前記前処理装置は、前記処理対象物を蒸気分解する蒸気分解装置であることを特徴とする請求項1記載の分解処理装置。
【請求項3】
有機物からなる処理対象物を微生物によって分解処理する分解処理方法であって、
前記処理対象物を低分子化あるいは/及び前記微生物によって分解が困難な物質の少なくとも一部を前記処理対象物から分離する前処理を行った後、前記処理対象物を微生物によって分解処理することを特徴とする分解処理方法。
【請求項4】
前記前処理は、前記処理対象物を蒸気分解する蒸気分解処理であることを特徴とする請求項3記載の分解処理方法。
【請求項5】
前記蒸気分解処理された前記処理対象物から液相成分を分離することを特徴とする請求項4記載の分解処理方法。



【図1】
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【公開番号】特開2006−95416(P2006−95416A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−284210(P2004−284210)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【Fターム(参考)】