説明

分離膜デバイスおよびその製造方法

【課題】本発明によって、タンパク質吸着などの機能を有する微粒子が充填固定化されている分離膜を提供することができる。
【解決手段】リポソームなどの10nm〜10μmの微粒子を多孔質の分離膜に充填し、ポリマーゲルを用いて固定化させた分離膜デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子が導入された膜デバイスに関するものであり、人工腎臓などの体外循環治療用デバイス、液体・気体からの特定物質の吸着除去カラムとして使用することができる。
【背景技術】
【0002】
血液などの被処理液から特定の物質を吸着除去する方法は広く知られており、ポリメチルメタクリレートを用いてβ2−ミクログロブリンを除去する膜では、その膜細孔径を最適化することにより、治療に用いる方法が開示されている(特許文献1)。しかしながら、これらの方法では、単に膜自体が吸着できる吸着量に限定されていた。また、微粒子を用いて、特定の物質を除去する方法も知られており、たとえば、水不溶性担体に特定の化
合物を固定してなる吸着材を充填した吸着器ではサイトカイン類を吸着できることが開示さえている(特許文献2)。しかし、この方法においても、体積あたりの粒子の大きさを小さくすると被処理液を流す場合の圧力すなわち圧力抵抗が高くなってしまうという問題があった。また、この圧力損失を低くするために、キトサンゲルなどの大きな粒子の間に、リポソームなどの小さな粒子を充填する試みがなされたが、この方法ではゲルの隙間に入り込む量しか充填できず多くの量を充填することはできなかった(非特許文献1)。一方、中空糸分離膜を介して中空糸膜と容器の間の空間に粒子を流して吸着特性を生かす試みもなされているが、粒子が流出しないような特殊な回路を必要とした(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−109871号公報
【特許文献2】特再表2003−055545号公報
【特許文献3】特開平9−248334号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】吉本誠他:ケミカルエンジニアリング,47,761−765(2002)
【非特許文献2】Ariel Fernandez et.al Proc. Natl. Acad. Sci. ,100,6446-6451. (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、かかる従来技術の欠点を改良し、分離機能を有する膜に、吸着などの特定機能を付与したデバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を達成するため鋭意検討を進めた結果、下記の(1)〜(7)の構成によって達成される。
1.平均粒径が10nm〜10μmの微粒子が膜の多孔質膜の孔内部に導入されていることを特徴とする分離膜デバイス。
2.前記分離膜が細孔を有し、その細孔径(Dm)とDpがDp≧2×Dmの関係を満たすことを特徴とする前記1に記載の分離膜デバイス。
3.前記微粒子が疎水性ユニットと親水性ユニットからなる分子の集合体であることを特徴とする前記1または2に記載の分離膜デバイス。
4.前記微粒子が脂質2重膜からなることを特徴とする前記3に記載の分離膜デバイス。
5.前記微粒子が、ポリマーゲルによって内包された状態で膜表面に導入されていることを特徴とする前記1〜4のいずれかに記載の分離膜デバイス。
6.前記ポリマーゲルが、カチオン性ポリマーとアニオン性ポリマーからなることを特徴とする前記5に記載の分離膜デバイス。
7.前記分離膜が、中空糸型分離膜であることを特徴とする前記1〜6のいずれかに記載の分離膜デバイス。
8.平均粒径が10nm〜10μmの微粒子を膜内部に導入した後、ポリマーゲルを封入することによって前記微粒子を前記膜に固定化する分離膜デバイスの製造方法。
9.前記ポリマーゲルを膜内部に封入した後に、架橋させることにより前記ポリマーゲルを不溶化することを特徴とする前記8記載の分離膜デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって、単なる膜孔の大きさだけによる分離機能に加えて、吸着などの粒子が有する機能を複合化させることが可能となる。さらに、粒子の種類を変え、または組み合わせることにより、多彩な性能を有する製品を間単に創り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】デキストランふるい係数測定に用いる中空糸膜モジュールの概略構成図である。
【図2】微粒子を固定化する時に用いる回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における微粒子とは、平均粒径が10nm〜10μmのものである。その作製には様々な方法が知られている。例えば、科学的凝縮法が知られており、物質を溶媒に溶解後、水などの非溶媒中に注ぎ入れる方法が開示されている。また、ポリマー微粒子を界面活性剤の存在下で重合して得る乳化重合法なども良く知られている方法である。さらに、電気炉法、プラズマ法等の気相法またはフリーズドライ法、スプレードライ法等の液相法での調整も良く知られている。この微粒子の成分は単一であっても良いが、親水性のユニットと疎水性のユニットなどの異なる成分からなる粒子は親水性ユニット部分にて水に対して親和性を有すると共に、疎水性ユニット部分にて疎水性の物質を封入したり、疎水性のタンパク質などの疎水性物質を吸着させやすい機能を併せ持つことができるために好ましい。これらの微粒子は、粒子の表面(シェル)と内部(コア)が異なったポリマーで構成されたコア−シェル型ポリマー微粒子、リポソームに代表される脂質2重膜のような特殊な構造を有する微粒子などが良く知られている。とくに、リポソームは生体の細胞表面を形成する物質であり、ドラッグデリバリーシステム(DDS)などの薬剤の分野にて広く使用されており、さらに複数の物質を混合することにより、種々の機能を発現することが知られている。脂質2重膜は表面は親水性であり生体成分になじみやすく、細胞やタンパク質の過度な吸着を抑えることができるが、内部の疎水性成分に疎水性成分を取り込みやすいので、選択的な除去が可能な好ましい構造である。。
【0010】
微粒子の径は小さいほど体積あたりの表面積を多くすることができるため、小さい方が好ましく10μm以下であることが必要である。さらに、1μm以下であれば浄水器用途などで市販されている膜を使い、表面積の大きなデバイスを作成できるため好ましい。ただし、小さすぎる場合には膜に充填した状態でも細密に充填されすぎてタンパク質などの物質が間隙に流れなくなってしまったり、ポリマーゲルに固定化されにくく、溶出してしまう懸念があるために10nm以上であることが必要である。30nm以上の粒子は作りやすいのでより好ましい。
【0011】
次に本発明に係る微粒子のサイズ及びその分布について詳述する。ここでの平均粒径(Dp)は平均直径を意味する。このDpは光散乱法を用いて行うのが一般的であり、アルゴンやヘリウム−ネオンレーザーを分散液に照射し散乱光を測定することにより求めることができる。この時、粒子の分布が一山であればDpは体積基準の計算により求めることができる。もし、分布に複数のピークを有する多相性があったり、不均一である場合は適宜ピークを分割して体積基準の粒径を求める。
【0012】
次にリポソームについて述べる。リポソームについては、当業者が利用可能ないかなる方法で形成してもよい。形成法の例としては、Ann.Rev.Biophys.Bioeng.,9,467(1980)、“Liposomes”(M.J.Ostro編、MARCELL DEKKER、INC.)等に記載されている。具体例としては、超音波処理法、エタノール注入法、フレンチプレス法、エーテル注入法、コール酸法、カルシウム融合法、凍結融解法、逆相蒸発法等が挙げられるが、これに限られるものではない。リポソームの構造は特に限定されず、ユニラメラまたはマルチラメラ等のいずれの形態でもよい。また、リポソームの内部に適宜の化合物の1種または2種以上を配合することも可能である。
【0013】
リポソームの粒径の調整は、処方またはプロセス条件で行うことができる。例えば、上記の超臨界の圧力を大きくすると形成される微粒子の粒径は小さくなる。微粒子の粒子径の分布をより狭い範囲に揃えるには、作製される微粒子の懸濁液を一定サイズの孔径を有する濾過膜、好ましくはポリカーボネート膜等に強制的に透過させてもよい。この場合、濾過膜として0.01〜0.4μm、好ましくは0.05〜0.2μm、さらに好ましくは0.05〜0.2μmの孔径のフィルターを装着した静圧式押出し装置に通すことにより、微粒子がリポソームである場合はリポソーム多重層膜の脂質膜枚数を減らすとともに、中心粒径として100〜300nmの最適寸法を有する均一なリポソームを効率よく調製することができる。具体的には、各種の静圧式押出し装置、例えば「エクストルーダー」(商品名、日油リポソーム製)等を使用して、フィルターを強制的に透過させる。フィルターは、ポリカーボネート系、セルロース系等のタイプを適宜使用することができる。このような「押出し」操作工程を取り入れることにより、上記サイジングに加えて、微粒子分散液の交換、濾過滅菌も併せて可能になるという利点もある。
【0014】
本発明においては、これらの微粒子を、血液などの被処理流体中の物質を吸着して特定の物質を除去させたり、被処理流体中で起きる酸化、還元などの反応を加速もしくは抑制するために用いるものである。例えば、血液中で変性した疎水性のタンパク質に親和性を有する微粒子、感染症などの病気中に発生するインターロイキン−6などのサイトカインに親和性を有する微粒子を用いることにより、血液中から高効率にこれらの物質を除去し、治療を行うことができる。また、リポソームを用いてリポソームの有するタンパク質との相互作用を用いて、インシュリン等のタンパク質を選択的に吸着除去を行うことも期待でき、特に水素結合不安定性(ρ値)(非特許文献2記載)の低いタンパク質とリポソームの結合は強く、ρ値の低いタンパク質を選択的に除去することが期待できる。水素結合不安定性が低いタンパク質としては、インシュリン(ρ値4.2)やアミロイド性のIgライトチェーン(ρ値4.8)、β−ミクログロブリン(ρ値5.2)、Igライトチェーン(ρ値5.3)などがあげられ、ρ値が5.5より小さいものが吸着除去するタンパク質として好ましい。この他にも、リポソームに特定の物質を封入して徐放させるような使用方法もとることができる。
【0015】
本発明において、微粒子が膜の内部に導入されている状態とは、多孔質膜の多孔部分の内部に微粒子が存在している状態であり、微粒子の導入固定化は、使用している間に容易に脱離してしまわないように、膜内に化学的もしくは物理的に導入され、膜に保持されている状態であれば良く特には限定しないが、いくつかの方法を例示することができる。例えば、分離膜表面にカチオン性基もしくはアニオン性基を付与し、それと反応する官能基を有する微粒子を反応させて固定化する方法、粒子自体にカチオン性基もしくはアニオン性基を付与し、その官能基に反応する架橋性物質を用いて粒子群を架橋させて固定化する方法、粒子の周りをポリマーゲルで覆って閉じこめる方法などが考えられる。この時、膜の内部のみに存在している必要はなく、膜の内表面部分もしくは外表面部分に微粒子が付着もしくは結合されていてもかまわない。また、微粒子を導入する量としては、微粒子や膜の種類にもよるが、多孔質膜の空孔体積の5%以上が効果を発現するためにも好ましい。ただし、導入する量が多すぎる場合は、ポリマーを導入する工程でポリマーが膜内に入りにくくなったり、膜内部に導入した微粒子が流出してしまう恐れがあるために、60%未満であることが好ましい。
【0016】
上記ポリマーゲルで覆って閉じこめる方法としては、微粒子よりも小さい細孔径を有する分離膜を用いて、微粒子を有する懸濁液を一方の側から濾過をかけながら膜内に充填し、同時もしくは粒子充填後にポリマーゲルの材料も濾過をかけながら充填した後に架橋させて固定化させる方法が挙げられる。粒子を充填する順番は先にポリマーゲルを導入した場合には後に粒子が入りづらくなるため、先に微粒子を導入してから、ポリマーゲルを導入することが好ましい。この順番に導入することによれば、ポリマーゲルは導入しにくいが、ポリマーゲルによって粒子が覆われ、より安定した導入を行うことができる。平均粒径(Dp)は分離膜の細孔径(Dm)よりも大きいことが好ましい。Dpが大きいことにより、膜に粒子が捕捉されて導入効率を高くすることができる。さらに、DpがDmの2倍以上の場合には、捕捉される割合を高めることができるため好ましく、5倍以上の場合は実質的にほとんどの粒子を捕捉できるためにさらに好ましい。Dmは直径を示し、デキストランを用いてふるい係数をもとめ、このふるい係数が50%に相当するデキストラン分子量の大きさを微粒子径に換算して測定することができる。換算式は実施例にて後述するとおりである。
【0017】
上記方法における架橋の方法としては、γ線を照射して架橋させる方法、化学的な反応を用いて架橋させる方法があり、γ線を用いて架橋させる場合はポリマーゲルとしてポリピニルピロリドンやポリビニルアルコールなどのγ線によって架橋する物質を用いることができる。一方、化学的な反応を用いて架橋させる場合は、カチオン性のポリマーとアニオン性のポリマーを反応させてゲルを作成する方法などが挙げられる。
【0018】
本発明におけるカチオン性ポリマーは、その分子中にカチオン性基を有しているものであれば特に制限はない。そして、カチオン性ポリマーは、水に溶解または膨潤することが可能な程度の親水性を有し、水中でカチオン性基がプラスの電荷を帯びるという特性を有するものが好ましく使用される。カチオン性基としては、例えばアミノ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基等のモノアルキルアミノ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;イミノ基;グアニジノ基などが挙げられ、カチオン性ポリマーとしては、1分子中に2個以上のアミノ基を有するポリマーが好ましい。カチオン性ポリマーとしては、キトサン、部分脱アセチル化キチン、アミノ化セルロース等の塩基性多糖類;ポリリジン、ポリアルギニン、リジンとアルギニンの共重合体等の塩基性アミノ酸の単独重合体または共重合体;ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等の塩基性ビニルポリマー、およびこれらの塩類(塩酸塩、酢酸塩等)などのカチオン性ポリマー、ポリエチレンイミンなどのポリマーを挙げることができる。さらに、これらのカチオン性ポリマーを架橋することによって得られる架橋ポリマーを用いることもできる。カチオン性ポリマーを架橋する方法としては、公知の方法のいずれも用いることができる。カチオン性ポリマーがアミノ基を有する場合には、カチオン性ポリマーのアミノ基をジカルボン酸またはジカルボン酸無水物と縮合反応させることにより架橋する方法が好ましい。カチオン性ポリマーの分子量は特に制限されないが、分子の大きさが、膜の細孔径よりも小さい場合には、膜内に保持しやすくなることから、水中での大きさが、膜細孔径よりも小さいことが好ましい。この分子の大きさは、GPC−MALLS方などにより測定することができる。また、本発明では2種類以上のポリカチオン性ポリマーを用いることもできる。
【0019】
本発明におけるアニオン性ポリマーとしては、その分子中にアニオン性基を有しているものであればよい。アニオン性基としては、例えばカルボキシル基、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられ、アニオン性ポリマーとしては、分子中にカルボキシル基を有するポリマーが好ましく、酸性多糖類がより好ましい。酸性多糖類としては、アルギン酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デキストラン硫酸、ペクチン、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデキストラン、カルボキシメチルデンプン、カルボキシメチルキトサン、硫酸化セルロース、硫酸化デキストラン、カルボキシメチルセルロース酢酸エステル、カルボキシメチルデキストラン酢酸エステル、アルギン酸エチレングリコールエステル、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ヒアルロン酸エチレングリコールエステル、ヒアルロン酸プロピレングリコールエステル等が挙げられる。これらの中でもキサンタンガムなどの分岐型のポリマーは水中で膨潤しやすいので好ましい。また、カルボキシル基の量が多いと反応はしやすくなるが、高分子ゲルは収縮してしまうためにくり分子量200あたりのカルボキシル基量が1個未満であることが好ましい。アニオン性ポリマーの分子量は特に制限されないが、分子の大きさが、膜の細孔径よりも小さい場合には、膜内に保持しやすくなることから、水中での大きさが、膜細孔径よりも小さいことが好ましい。この分子の大きさは、GPC−MALLS法などにより測定することができる。
アニオン性ポリマーを架橋する方法としては、公知の方法のいずれも用いることができる。アニオン性ポリマーがカルボキシル基を有する場合には、アニオン性ポリマーのカルボキシル基をアミンと反応させることにより架橋する方法が好ましい。カルボキシル基を含有するポリマーを活性化する方法としては、公知の手法、例えば、水溶性カルボジイミドである1−(3−Dimethylaminopropyl)−3 ethylcarbodiimide(EDC)とN−Hydroxysuccinimide(NHS)により活性化する方法、EDC単独で活性化する方法、ウロニウム塩、ホスホニウム塩、又はトリアジン誘導体のいずれかの化合物を用いてカルボキシル基を活性化する方法、カルボジイミド誘導体又はその塩で活性化し、水酸基を有する含窒素ヘテロ芳香族化合物、電子吸引性基を有するフェノール誘導体又はチオール基を有する芳香族化合物のいずれかの化合物を用いてカルボキシル基を活性化する方法等を好ましく用いることができる。また、EDCを用いて反応させる場合、1−Hydroxy−1H−benzotriazole, monohydrate(HOBt)などを加えて反応効率を高めることも良い方法である。これらの手法で活性化されたカルボキシル基を含有するポリマーを、アミノ基と反応させることで、架橋ゲルを作製することができる。
【0020】
これらの微粒子を充填する操作およびポリマーを導入する操作は、分離膜を溶液に浸漬して行うことも可能であるが、分離膜をモジュールの形にしてから濾過をかけながら行うことにより、それぞれの物質を安定して導入することができるので、好ましい。
【0021】
次にここで用いられる分離膜について説明する。ここで用いる分離膜は特に限定されるものではなく、公知のものを使用することができる。特に、ポリスルホンを用いた分離膜は人工腎臓、浄水器などに広く使用されている。
【0022】
ポリスルホンの具体例としては、ユーデル(登録商標)ポリスルホンP−1700、P−3500(テイジンアモコ社製)、ウルトラソン(登録商標)S3010、S6010(BASF社製)、ビクトレックス(登録商標)(住友化学)、レーデル(登録商標)A(テイジンアモコ社製)、ウルトラソン(登録商標)E(BASF社製)等のポリスルホンが挙げられる。また、本発明で用いられるポリスルホンは上記式(1)および/または(2)で表される繰り返し単位のみからなるポリマーが好適ではあるが、本発明の効果を妨げない範囲で他のモノマーと共重合していても良い。他の共重合モノマーは10重量%以下であることが好ましい。
【0023】
分離膜とは特定の孔を有する多孔質体であり、物質を大きさによってふるい分けすることができる膜である。分離膜の形態としては、中空糸膜、平膜などが挙げられ特に限定されないが、中空糸膜であれば、被処理液に対して広い膜面積を設け易いために好ましい。
【0024】
これらの分離膜は公知の方法によって、ケースに収納され、液体を流すことができるようにノズルを設けてモジュールと呼ばれるデバイスに組み立てた後に使用する。人工腎臓や家庭用浄水器はその代表例である。
【0025】
中空糸膜の作成方法としては、溶液紡糸や溶融紡糸などが挙げられる。
【0026】
例えば、溶液紡糸で、多孔質中空糸膜を作成する方法としては、以下のような方法が挙げられる。ポリスルホンとポリビニルピロリドン(重量比率20:1〜1:5が好ましく、5:1〜1:1がより好ましい)をポリスルホンの良溶媒(N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジオキサンなどが好ましい)および貧溶媒の混合溶液に溶解させた製膜原液(濃度は、10〜50重量%が好ましく、15〜40重量%がより好ましい)を二重環状口金から吐出する際に内側に注入液を流し、乾式部を走行させた後、凝固浴へ導く。
【0027】
この際、乾式部の湿度が影響を与えるために、乾式部走行中に膜外表面からの水分補給をすることで、外表面近傍での相中空糸挙動を速め、多孔質膜の細孔径を拡大するが、相対湿度が高すぎると外表面での原液凝固が支配的になり、細孔径が小さくなる。細孔径をコントロールする一例である。相対湿度としては60〜90%が好適である。また、注入液組成としてはプロセス適性から原液に用いた溶媒を基本とする組成からなるものを用いることが好ましい。注入液濃度としては、例えばジメチルアセトアミドを用いたときは、80重量%以下、70重量%以下が好ましく、さらに60重量%以下の水溶液が好適に用いられる。
【0028】
このようにして得られた中空糸膜は、多孔質構造を有している。さらに、このような多孔質構造は、ポリスルホンとポリビニルピロリドンが相分離し、ポリビニルピロリドンが脱離して細孔となることで形成される。そのため、残存したポリビニルピロリドンは、多孔質体の表面を覆う形になる。
【0029】
なお、製膜後に中空糸膜を乾燥収縮させることで、細孔を小さくすることができる。細孔径をコントロールする一例である。
【0030】
内表面のポリビニルピロリドン量を多くするには、原液中のポリビニルピロリドン量を増やすことや、原液中のポリビニルピロリドンを高分子量タイプのものを用いることが挙げられる。重量平均分子量が5万以上のものが良い。また、注入液にポリビニルピロリドンを添加しても良い。
【0031】
内表面のポリビニルピロリドン量の測定は、XPS(X線光電子分光法)によって求めることができる。測定角としては90°で測った値を用いる。また、測定個所は3箇所の平均値を用いる。ポリビニルピロリドン由来の窒素量と、ポルスルホン由来の硫黄量の比から、ポリビニルピロリドン量を求めることができる。
【0032】
また、親水性ポリマーが高エネルギーによる架橋型のポリマーである場合、高エネルギー処理をすることは、架橋により、構造が固定化するので好ましい。ポリマー分子は運動ここで言うところの高エネルギーとは、加熱や放射線照射、例えばα線、β線、γ線、X線、紫外線、電子線などを指す。照射線量としては5kGy以上、好ましくは15kGy以上が、架橋が起きるために好適である。一方で、照射線量が高すぎると分解反応が優勢になるので、100kGy以下、好ましくは50kGy以下である。
【0033】
なお、中空糸膜をモジュール化する方法としては、特に限定されないが、一例を示すと次の通りである。まず、中空糸膜を必要な長さに切断し、必要本数を束ねた後、筒状ケースに入れる。その後両端に仮のキャップをし、中空糸膜両端部にポッティング剤を入れる。このとき遠心機でモジュールを回転させながらポッティング剤を入れる方法は、ポッティング剤が均一に充填されるために好ましい方法である。ポッティング剤が固化した後、中空糸膜の両端が開口するように両端部を切断し、中空糸膜モジュールを得る。
【0034】
なお、中空糸膜の膜厚としては、薄すぎると耐久性などに問題が生じ、厚すぎると熱交換効率の低下に繋がる。従って5〜500μm、好ましくは10〜100μm、さらには20〜50μmが好ましい。
【0035】
以下実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
以下実施例と比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
・測定方法
(1)リポソームの準備
POPC (1−Palmitoyl−2−oleoyl −sn−glycero−3−phosphocholine) リポソームを次の方法にて調整した。リン脂質をクロロホルム/メタノール(2:1)で可溶化し,溶剤を減圧留去の後,得られた脂質薄膜を少なくとも3時間,真空中で乾燥した.脂質薄膜はバッファー溶液ないし100mM カルセイン溶液によって水和し,多重層リポソーム(MLV:multilamellar vesicle)を調製した.MLV溶液に,凍結(−80℃)−融解(相転移温度以上)を5回繰り返し,100nmの孔径のポリカーボネートフィルタを用いて,粒径を調整した.
粒径Dpの測定は、調製したリポソーム試料を濾過処理した0.1 M Tris−HCl緩衝液で希釈して行った。リポソームの平均粒径ならびに粒径分布をアルゴンレーザー励起型のDLS−700 Ar System (大塚電子製)を用いて解析した.リポソームの多分散性を検証するために60〜120℃で散乱角を変化させた.全ての測定は25℃で行った.ピークが一つである単分散である事を確認して、体積基準の平均粒径を求めた。
(2)デキストランを用いた分離膜の細孔径(Dm)の測定
図1に細孔径の測定に用いた装置の概要図を示す。細孔径はデキストランを用いたふるい係数を微粒子径に換算して測定した。中空糸膜モジュール1のデキストラン溶液入り側(Bi)から後述するデキストラン溶液2を流速3×10−4/sで流し、デキストラン溶液濾過側(F)から1.2×10−5/sで濾液を取り出しながら、1時間の循環濾過を行った。一時間後、デキストラン溶液出側(Bo)から流れ出るデキストラン溶液の濃縮液とF側から流れ出る濾液を15分間採取した。また、このサンプリング開始5分後にデキストラン溶液の原液をBi側から5ml採取した。
これらのデキストラン溶液を東ソー社製GPC(HLC−8220GPC)装置で同社製TSK−GEL(G3000PWXL)カラムを使用し、FLOW RATE1.0ml、カラム温度40℃での条件で処理し、その結果得られた示差屈折率からデキストランの重量平均分子量を求めた。
なお、デキストラン溶液の原液は、FULKA社製、重量平均分子量〜1200〔No.31394〕、〜6000〔No.31388〕、15000〜20000〔No.31387〕、〜40000〔No.31389〕、〜60000〔31397〕、〜200000〔No.31398〕をそれぞれ0.5mg/mlになるように作成した。溶質全体では3.0mg/mlにした。
ふるい係数は以下の式で求めた。
デキストランふるい係数(%)=(2×C)×100/(CBi+CBo
ここで、C=濾液濃度、CBi=原液濃度、CBBo=濃縮液濃度とした。
細孔径(Dm)は、篩い係数が50%のデキストラン分子量を以下の式を用いて計算して算出した。
【0037】
Dm(nm)=0.04456×2×(デキストラン分子量)0.43821
(3)透水性試験
プラスチック管に中空糸膜を通して両端を接着剤で固定した有効長10cmのプラスチック管モジュールを作製(以下、ミニモジュール)し、中空糸膜の内側に水圧1.3×104Paをかけ、外側に流出してくる単位時間あたりの濾過量を測定した。透水性能は下記の式で算出した。
【0038】
透水性能(mL/hr/mmHg/m2)=QW/(T×P×A)
ここで、QWは濾過量(mL)、Tは処理時間(hr)、Pは圧力(mmHg)、Aは中空糸膜の内表面積(m)を意味する。
【0039】
(実施例1)
ポリスルホン(アモコ社 Udel−P3500)18重量部、ポリビニルピロリドン(インターナショナルスペシャルプロダクツ社;以下ISP社と略す)K30 3重量部、ポリビニルピロリドン(ISP社K90)6重量部をジメチルアセトアミド72部、水1部を加熱溶解し、製膜原液とした。
【0040】
この原液を温度50℃の紡糸口金部へ送り、環状スリット部の外径0.35mm、内径0.25mmの2重スリット管から芯液としてジメチルアセトアミド63重量部、水37重量部からなる溶液を吐出させ、中空糸膜を形成させた後、温度30℃、露点28℃である長さ350mmのドライゾーン雰囲気を経て、ジメチルアセトアミド20重量%、水80重量%からなる温度40℃の凝固浴を通過させ、水洗工程を得て中空糸膜を巻き取り束とした。中空糸膜の内径は200μmであった。またこの膜の篩い係数50%のデキストラン分画分子量は15000であり、Dmは6.2nmであった。
【0041】
上記中空糸膜100本からなるミニモジュールを作製した。5mmφのポリカーボネートケースを用意してこれに上記中空糸膜100本を充填して作製した。さらに、このモジュールを内径1mm、トータル長さ130cmのシリコン製チューブ回路に接続した。このときのトータルボリュームは3mlであった。送液ポンプにはアトー社製AC−2120ペリスタリックポンプを用いた。圧力計はろ液側に設置した。使用前には不純物を取り除くためにモジュールを洗浄して用いた。
【0042】
リポソームの固定化は以下の手順にて実施した。まず、回路全体に水を充填する。ついで、リザーバー10にカルセイン入り30mMのPOPCリポソームを2ml入れる。なお、ここで用いたリポソームのDpは30nmであった。2台のポンプスイッチを入れて、約20分間濾過循環する。この時リザーバーの液量は約1mlになるように水を補充しながらコントロールする。1.5mlの容器にキサンタンガム水溶液0.2mlと水を0.05ml加え、さらにEDC(同仁化学研究所)100mgとHOBt(同仁化学研究所)100mgを1.5mlの容器に入れ、エタノール1mlを加えて溶解したEDC/HOBt液0.05mlを加えて激しく混合する。中空糸の外側にこの液をポンプで吸い上げながら、注入する。次に20分間濾過循環し、ここでも、リザーバーの液量は約1mlにコントロールする。最後にポリエチレンイミン(和光純薬工業、分子量75万)水溶液0.1mlを中空糸外側から吸い上げてさらに30分間濾過循環し、リポソーム固定化中空糸膜デバイスを作製した。
【0043】
作製された中空糸膜デバイスを水で洗浄後、透水性を測定したところ2000mL/hr/mmHg/mであった。タンパク質レベルでの効果を確認するために,インシュリンとリゾチームを用いて吸着特性を確認した.水素結合安定性(ρ値)が6.0と高いリゾチームでの吸着率は40%であったが、ρ値が4.2と低いインシュリンにおいては,70%の吸着を示し、インシュリンをより選択的に吸着除去できることが確認できた。
【0044】
(比較例1)
実施例1と同様の中空糸膜モジュールを作成し、リポソームは固定化せずにタンパク質の吸着実験を実施したところ、リゾチームでの吸着率は40%であったが、ρ値の低いインシュリンにおいては40%の吸着しか示さなかった。
【符号の説明】
【0045】
1:ミニモジュール
2:デキストラン溶液
10 リザーバー
20 中空糸外側ポンプ
30 中空糸内側ポンプ
40 圧力計
50 廃棄ライン
Bi:デキストラン溶液入り側
Bo:デキストラン溶液出側
F:デキストラン溶液濾過側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が10nm〜10μmの微粒子が多孔質膜の孔内部に導入されていることを特徴とする分離膜デバイス。
【請求項2】
前記分離膜が細孔を有し、その細孔径(Dm)とDpがDp≧2×Dmの関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の分離膜デバイス。
【請求項3】
前記微粒子が疎水性ユニットと親水性ユニットからなる分子の集合体であることを特徴とする請求項1または2に記載の分離膜デバイス。
【請求項4】
前記微粒子が脂質2重膜からなることを特徴とする請求項3に記載の分離膜デバイス。
【請求項5】
前記微粒子が、ポリマーゲルによって内包された状態で膜表面に導入されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の分離膜デバイス。
【請求項6】
前記ポリマーゲルが、カチオン性ポリマーとアニオン性ポリマーからなることを特徴とする請求項5に記載の分離膜デバイス。
【請求項7】
前記分離膜が、中空糸型分離膜であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の分離膜デバイス。
【請求項8】
平均粒径が10nm〜10μmの微粒子を膜内部に導入した後、ポリマーゲルを封入することによって前記微粒子を前記膜に固定化する分離膜デバイスの製造方法。
【請求項9】
前記ポリマーゲルを膜内部に封入した後に、架橋させることにより前記ポリマーゲルを不溶化することを特徴とする請求項8記載の分離膜デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−240614(P2010−240614A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−94677(P2009−94677)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】