説明

分離膜ユニット及びこれを備えた分離膜エレメント

【課題】簡単な構成で分離活性層の損傷を防止することができる分離膜ユニット及びこれを備えた分離膜エレメントを提供する。
【解決手段】それぞれシート状の多孔質基材3における一方の表面に分離活性層4が形成され、前記分離活性層4が互いに対向するように重ね合せられた2枚の分離膜1を備え、前記2枚の分離膜1が、プリーツ状に複数回折り返されることにより、当該2枚の分離膜1の一側方及び他側方(図4Aにおける上方及び下方)に交互に折り返し部5が形成されている。このように、2枚の分離膜1が、分離活性層4が互いに対向するように重ね合せられているので、分離活性層4が露出することがなく、簡単な構成で分離活性層4の損傷を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濾過対象物を濾過することにより透過物を生成するための分離膜ユニット及びこれを備えた分離膜エレメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
排水や海水などの原水(濾過対象物)を逆浸透法などを用いて濾過する方法としては、全濾過方式及びクロスフロー濾過方式が一般的に知られている。全濾過方式は、供給される原水の全量を濾過する方式であり、例えば分離膜に対して直交方向に原水が供給されるようになっている。一方、クロスフロー濾過方式は、分離膜に対して平行方向に原水を供給し、その原水の一部を分離膜で濾過しつつ、必要に応じて原水を循環させることにより、分離膜の目詰まりを抑制しながら濾過を行うことができる方式である。
【0003】
クロスフロー濾過方式で原水を濾過する場合に使用可能な分離膜ユニットの一例として、下記特許文献1に開示されているように、一側方及び他側方に交互に折り返し部が形成されるようにプリーツ状に複数回折り返された分離膜を備える分離膜ユニットが知られている。この特許文献1に開示された構成では、1枚の分離膜がプリーツ状に複数回折り返され、折り返されることにより隣接する分離膜間に、流路を形成するための流路材(網状スペーサー)が配置されている。
【0004】
分離膜には、例えばシート状の多孔質基材における一方の表面に分離活性層(スキン層)が形成されており、この分離活性層側に原水を供給して分離活性層及び多孔質基材を通過させることにより、透過水を得ることができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭54−17378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように多孔質基材の一方の表面に分離活性層が形成された分離膜をプリーツ状に複数回折り返した場合には、折り返し部が形成されている一側方又は他側方のいずれかに分離活性層が露出することになるため、当該分離膜ユニットを取り扱う際に分離活性層を損傷するおそれがある。特許文献1では、プリーツ状に折り返された分離膜の外側が保護層(プラスチックフィルム)で覆われているため、分離活性層の損傷を防止することが可能ではあるが、このような保護層を設けることにより構成が複雑になり、製造コストが高くなるといった問題がある。
【0007】
また、上記のように多孔質基材の一方の表面にのみ分離活性層が形成された分離膜をプリーツ状に複数回折り返した場合には、分離膜ユニットが非対称な構造となる。この場合、偏流が起こりやすく、クロスフロー濾過方式による濾過を良好に行うことができないおそれがある。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、簡単な構成で分離活性層の損傷を防止することができる分離膜ユニット及びこれを備えた分離膜エレメントを提供することを目的とする。また、本発明は、クロスフロー濾過方式による濾過を良好に行うことができる分離膜ユニット及びこれを備えた分離膜エレメントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る分離膜ユニットは、濾過対象物を濾過することにより透過物を生成するための分離膜ユニットであって、それぞれシート状の多孔質基材における一方の表面に分離活性層が形成され、前記分離活性層が互いに対向するように重ね合せられた2枚の分離膜を備え、前記2枚の分離膜が、プリーツ状に複数回折り返されることにより、当該2枚の分離膜の一側方及び他側方に交互に折り返し部が形成されていることを特徴とする。
【0010】
このような構成によれば、それぞれシート状の多孔質基材における一方の表面に分離活性層が形成された2枚の分離膜が、分離活性層が互いに対向するように重ね合せられているので、折り返し部が形成されている一側方及び他側方などに分離活性層が露出することがない。したがって、簡単な構成で分離活性層の損傷を防止することができる。
【0011】
また、分離活性層が互いに対向するように重ね合せられた2枚の分離膜は対称な構造となり、当該2枚の分離膜がプリーツ状に複数回折り返された状態でも対称な構造となる。したがって、一方の表面に分離活性層が形成された1枚の分離膜がプリーツ状に複数回折り返された非対称な構造の場合と比較して、偏流が起こりにくく、クロスフロー濾過方式による濾過を良好に行うことができる。
【0012】
本発明に係る分離膜ユニットは、前記2枚の分離膜間には、供給される濾過対象物の流路としての供給側流路が形成されていることを特徴とする。
【0013】
このような構成によれば、2枚の分離膜間に形成された供給側流路内に濾過対象物を供給することにより、2枚の分離膜によって濾過対象物を濾過し、当該2枚の分離膜の外部に透過物を生成することができる。
【0014】
本発明に係る分離膜ユニットは、前記2枚の分離膜間に設けられ、前記供給側流路を形成するための供給側流路材を備えたことを特徴とする。
【0015】
このような構成によれば、2枚の分離膜間に設けられた供給側流路材によって供給側流路を確実に形成することができるので、折り返し部などにおいても良好に濾過対象物を濾過することができる。
【0016】
本発明に係る分離膜ユニットは、前記2枚の分離膜の一側方及び他側方には、それぞれ透過物の流路としての透過側流路が形成されていることを特徴とする。
【0017】
このような構成によれば、2枚の分離膜で濾過対象物が濾過されることにより生成された透過物を、当該2枚の分離膜の一側方及び他側方にそれぞれ形成された透過側流路を介して、効率よく搬送することができる。特に、対称な構造からなるように折り返された2枚の分離膜に対して、その一側方及び他側方に透過側流路を対称配置すれば、全体として対称な構造となるので、より安定して濾過を行うことができる。また、例えば円筒状の断面からなる外装材の内部に当該分離膜ユニットを収容する場合などには、2枚の分離膜の一側方及び他側方にそれぞれ形成された外装材の内周面との間の空きスペースに、透過側流路を設けることができるので、2枚の分離膜の設置スペースを最大限確保することができ、より効率よく濾過を行うことができる。
【0018】
本発明に係る分離膜ユニットは、前記分離活性層が、ポリアミド系樹脂を含むことが好ましい。
【0019】
本発明に係る分離膜エレメントは、前記分離膜ユニットと、前記分離膜ユニットの外側を覆う外装材とを備えたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る分離膜ユニットを構成する分離膜の積層態様の一例を示した分解断面図である。
【図2】分離膜ユニットの構成例を示した概略斜視図である。
【図3A】分離膜を折り返す際の態様を示した概略断面図である。
【図3B】分離膜を折り返す際の態様を示した概略断面図である。
【図3C】分離膜を折り返す際の態様を示した概略断面図である。
【図4A】分離膜エレメントの構成例を示した概略斜視図である。
【図4B】分離膜エレメントの構成例を示した概略斜視図である。
【図4C】分離膜エレメントの構成例を示した概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る分離膜ユニットを構成する分離膜1の積層態様の一例を示した分解断面図である。この例では、2枚の分離膜1の間にスペーサとしての流路材2が挟み込まれている。分離膜1は、限外濾過膜、ナノ濾過膜、逆浸透膜、透析膜などいずれでもよいが、原水の圧力と透過水の流量などの関係から、逆浸透膜又は限外濾過膜である場合に有効である。
【0022】
2枚の分離膜1は、互いに同一の構成からなり、それぞれシート状の多孔質基材3と、当該多孔質基材3の一方の表面に形成された分離活性層(スキン層)4とを有する。分離膜1は、多孔質基材3及び分離活性層4だけでなく、他の層をさらに含んでいてもよい。これらの2枚の分離膜1は、分離活性層4が互いに対向するように、流路材2を挟んで両側に重ね合せられる。これにより、各分離膜1の分離活性層4が対向する流路材2の表面に当接した状態で、2枚の分離膜1と流路材2とが積層される。
【0023】
多孔質基材3は、例えばポリスルホン、ポリエーテルスルホン、PVDF、ポリエチレン、ポリイミド、エポキシなどを用いて形成することができる。当該多孔質基材3は、上記材料に加え、例えば不織布、織布、編み物、ネットなどの補強材を用いて補強された構成であってもよい。多孔質基材3の厚さは20〜1000μm程度である。分離活性層4は、緻密で非多孔質の薄膜からなり、その形成材料は特に制限されず、例えば、酢酸セルロール、エチルセルロース、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアミド及びシリコンなどが挙げられる。流路材2は、例えば編み物、ネットなどを用いて形成することができる。
【0024】
本発明においては、多官能アミン成分と多官能酸ハロゲン成分とを重合してなるポリアミド系樹脂を含む分離活性層4であることが好ましい。
【0025】
多官能アミン成分とは、2以上の反応性アミノ基を有する多官能アミンであり、芳香族、脂肪族、及び脂環式の多官能アミンが挙げられる。
【0026】
芳香族多官能アミンとしては、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、N,N’−ジメチル−m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノアニソール、アミドール、キシリレンジアミン等が挙げられる。
【0027】
脂肪族多官能アミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリス(2−アミノエチル)アミン、n−フェニル−エチレンジアミン等が挙げられる。
【0028】
脂環式多官能アミンとしては、例えば、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、4−アミノメチルピペラジン等が挙げられる。
【0029】
これらの多官能アミンは1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。高塩阻止性能の分離活性層4を得るためには、芳香族多官能アミンを用いることが好ましい。
【0030】
多官能酸ハライド成分とは、反応性カルボニル基を2個以上有する多官能酸ハライドである。
【0031】
多官能酸ハライドとしては、芳香族、脂肪族、及び脂環式の多官能酸ハライドが挙げられる。
【0032】
芳香族多官能酸ハライドとしては、例えば、トリメシン酸トリクロライド、テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライド、ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、ベンゼントリスルホン酸トリクロライド、ベンゼンジスルホン酸ジクロライド、クロロスルホニルベンゼンジカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。
【0033】
脂肪族多官能酸ハライドとしては、例えば、プロパンジカルボン酸ジクロライド、ブタンジカルボン酸ジクロライド、ペンタンジカルボン酸ジクロライド、プロパントリカルボン酸トリクロライド、ブタントリカルボン酸トリクロライド、ペンタントリカルボン酸トリクロライド、グルタリルハライド、アジポイルハライド等が挙げられる。
【0034】
脂環式多官能酸ハライドとしては、例えば、シクロプロパントリカルボン酸トリクロライド、シクロブタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタントリカルボン酸トリクロライド、シクロペンタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロヘキサントリカルボン酸トリクロライド、テトラハイドロフランテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタンジカルボン酸ジクロライド、シクロブタンジカルボン酸ジクロライド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、テトラハイドロフランジカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。
【0035】
これら多官能酸ハライドは1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。高塩阻止性能の分離活性層4を得るためには、芳香族多官能酸ハライドを用いることが好ましい。また、多官能酸ハライド成分の少なくとも一部に3価以上の多官能酸ハライドを用いて、架橋構造を形成するのが好ましい。
【0036】
また、ポリアミド系樹脂を含む分離活性層4の性能を向上させるために、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などのポリマー、ソルビトール、グリセリンなどの多価アルコールなどを共重合させてもよい。
【0037】
ポリアミド系樹脂を含む分離活性層4を前記多孔質基材3の表面に形成する方法は特に制限されず、あらゆる公知の手法を用いることができる。例えば、界面縮合法、相分離法、薄膜塗布法などが挙げられる。界面縮合法とは、具体的に、多官能アミン成分を含有するアミン水溶液と、多官能酸ハライド成分を含有する有機溶液とを接触させて界面重合させることにより分離活性層4を形成し、該分離活性層4を多孔質基材3上に載置する方法や、多孔質基材3上での前記界面重合によりポリアミド系樹脂の分離活性層4を多孔質基材3上に直接形成する方法である。かかる界面縮合法の条件等の詳細は、特開昭58−24303号公報、特開平1−180208号公報等に記載されており、それらの公知技術を適宜採用することができる。
【0038】
本発明においては、多官能アミン成分を含むアミン水溶液からなる水溶液被覆層を多孔質基材3上に形成し、次いで多官能酸ハライド成分を含有する有機溶液と水溶液被覆層とを接触させて界面重合させることにより分離活性層4を形成する方法が好ましい。
【0039】
前記界面重合法において、アミン水溶液中の多官能アミン成分の濃度は特に制限されないが、0.1〜5重量%であることが好ましく、さらに好ましくは1〜4重量%である。多官能アミン成分の濃度が低すぎる場合には分離活性層4にピンホール等の欠陥が生じやすくなり、また塩阻止性能が低下する傾向にある。一方、多官能アミン成分の濃度が高すぎる場合には、膜厚が厚くなりすぎて透過抵抗が大きくなって透過流束が低下する傾向にある。
【0040】
前記有機溶液中の多官能酸ハライド成分の濃度は特に制限されないが、0.01〜5重量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.05〜3重量%である。多官能酸ハライド成分の濃度が低すぎる場合には、未反応多官能アミン成分が残留しやすくなったり、分離活性層4にピンホール等の欠陥が生じやすくなって塩阻止性能が低下する傾向にある。一方、多官能酸ハライド成分の濃度が高すぎる場合には、未反応多官能酸ハライド成分が残留しやすくなったり、膜厚が厚くなりすぎて透過抵抗が大きくなり、透過流束が低下する傾向にある。
【0041】
前記有機溶液に用いられる有機溶媒としては、水に対する溶解度が低く、多孔質基材3を劣化させず、多官能酸ハライド成分を溶解するものであれば特に限定されず、例えば、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、及びノナン等の飽和炭化水素、1,1,2−トリクロロトリフルオロエタン等のハロゲン置換炭化水素などを挙げることができる。好ましくは沸点が300℃以下、さらに好ましくは沸点が200℃以下の飽和炭化水素である。
【0042】
前記アミン水溶液や有機溶液には、製膜を容易にしたり、得られる複合半透膜の性能を向上させるための目的で各種の添加剤を加えることができる。前記添加剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、及びラウリル硫酸ナトリウム等の界面活性剤、重合により生成するハロゲン化水素を除去する水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、及びトリエチルアミン等の塩基性化合物、アシル化触媒、特開平8−224452号公報記載の溶解度パラメータが8〜14(cal/cm1/2の化合物などが挙げられる。
【0043】
多孔質基材3上に形成した分離活性層4の厚みは特に制限されないが、通常0.05〜2μm程度であり、好ましくは、0.1〜1μmである。
【0044】
本実施形態では、上記のようにして互いに重ね合わせられた2枚の分離膜1及び流路材2が、プリーツ状(蛇腹状)に複数回折り返された状態で使用されるようになっている。そのため、2枚の分離膜1及び流路材2は、いずれも可撓性を有していることが好ましく、3回以上繰り返して180°屈曲させても割れない耐性が好ましい。
【0045】
図2は、分離膜ユニット10の構成例を示した概略斜視図である。この分離膜ユニット10は、原水(濾過対象物)を濾過することにより透過水(透過物)を生成するためのものであり、図1に示した態様で互いに重ね合わせられた2枚の分離膜1及び流路材2が、図2に示すようにプリーツ状に複数回折り返されることにより、2枚の分離膜1の一側方及び他側方(図2における上方及び下方)に交互に折り返し部5が形成されている。
【0046】
このようにプリーツ状に複数回折り返された2枚の分離膜1及び流路材2は、折り返された部分が互いに隣接して一定の方向Aに積層された状態となる。各折り返し部5は、上記のような分離膜1及び流路材2の積層方向Aに対して直交する方向Bに延びており、隣接する折り返し部5同士が上記積層方向Aに並んでいる。
【0047】
この分離膜ユニット10には、分離膜1に対して平行な方向Bに沿って、排水や海水などの原水が供給されるクロスフロー濾過方式が採用されており、プリーツ状に複数回折り返された2枚の分離膜1及び流路材2における供給方向Bの上流側の一端から原水が供給される。供給された原水は、流路材2により2枚の分離膜1間に形成される原水の流路(供給側流路)を通って、2枚の分離膜1間に進入し、分離膜1に対して平行方向(供給方向B)に流れる過程で当該分離膜1によって濾過される。このとき流路材2は、供給側流路を形成するための供給側流路材として機能し、この供給側流路材によって供給側流路を確実に形成することができるので、折り返し部5などにおいても良好に原水を濾過することができる。
【0048】
プリーツ状に複数回折り返された2枚の分離膜1及び流路材2における積層方向A及び供給方向Bに直交する方向Cの両側(図2における上側及び下側)には、原水の流通方向である供給方向Bに対して平行に延びる集水管6が設けられている。これらの集水管6は、プリーツ状に複数回折り返された2枚の分離膜1及び流路材2に対して、折り返し部5が形成されている一側方及び他側方に設けられており、その内部に透過水の流路としての透過側流路7が形成されている。
【0049】
2枚の分離膜1間を供給方向Bに流れる原水が当該分離膜1で濾過されることによって生成された透過水は、2枚の分離膜1の外部、より具体的には図2における上側及び下側へと流れ出て、図示しない集水構造を介して集水管6内に集水される。このようにして集水された透過水は、集水管6内を通って分離膜ユニット10の外部へと導かれる。
【0050】
この例では、プリーツ状に複数回折り返された2枚の分離膜1及び流路材2と、その一側方及び他側方に設けられた集水管6との間に、それぞれ封止部8が形成されている。この封止部8は、2枚の分離膜1の間を通る原水と、当該2枚の分離膜1の外部に生成される透過水とを分離するためのものであり、透過水のみが封止部8を通って集水管6へと導かれる。上記集水機構は、当該封止部8に形成されていてもよいし、当該封止部8とは別に形成されていてもよい。
【0051】
本実施形態では、それぞれシート状の多孔質基材3における一方の表面に分離活性層4が形成された2枚の分離膜1が、分離活性層4が互いに対向するように重ね合せられているので、折り返し部5が形成されている一側方及び他側方(図2における上方及び下方)などに分離活性層4が露出することがない。したがって、簡単な構成で分離活性層4の損傷を防止することができる。
【0052】
また、分離活性層4が互いに対向するように重ね合せられた2枚の分離膜1は対称な構造となり、図2のように当該2枚の分離膜1がプリーツ状に複数回折り返された状態でも対称な構造となる。したがって、一方の表面に分離活性層4が形成された1枚の分離膜1がプリーツ状に複数回折り返された非対称な構造の場合と比較して、偏流が起こりにくく、クロスフロー濾過方式による濾過を良好に行うことができる。
【0053】
また、2枚の分離膜1で原水が濾過されることにより生成された透過水を、当該2枚の分離膜1の一側方及び他側方(図2における上方及び下方)にそれぞれ設けられた集水管6を介して、効率よく搬送することができる。特に、対称な構造からなるように折り返された2枚の分離膜1に対して、その一側方及び他側方に集水管6を対称配置すれば、全体として対称な構造となるので、より安定して濾過を行うことができる。
【0054】
図3A〜図3Cは、分離膜1を折り返す際の態様を示した概略断面図である。図3Aは、互いに重ね合わせられた2枚の分離膜1及び流路材2がプリーツ状に複数回折り返される途中の状態を示した例であり、折り返し部5が鋭角となるようにV字状に屈曲されている。図3Bは、図3Aと同様、互いに重ね合わせられた2枚の分離膜1及び流路材2がプリーツ状に複数回折り返される途中の状態を示した例であるが、折り返し部5がU字状に湾曲した形状となっている。
【0055】
上記実施形態では、2枚の分離膜1間に流路材2が挟み込まれた構成について説明したが、2枚の分離膜1間に原水の流路を確保することができれば、流路材2を省略することも可能である。例えば、図3Cに示す例のように、2枚の分離膜1における各分離活性層4を、平坦面ではなく凹凸を有する面とすれば、それらの分離活性層4が当接するように2枚の分離膜1を重ね合せた場合に、各分離活性層4の凸部同士が当接し、凹部間に原水の流路を形成することができる。上記凸部の形状としては、原水の流路を確保することができるような形状であれば、菱形、平行四辺形、楕円形、長円形、円形、正方形、三角形などの各種形状を採用することができる。この図3Cの例では、分離膜1の折り返し部5がV字状に屈曲されているが、このような形状に限らず、例えば折り返し部5がU字状に湾曲した形状などであってもよい。
【0056】
図3A〜図3Cは、分離膜1を折り返す際の態様の単なる一例を示したものであり、2枚の分離膜1が複数回折り返された形状であれば、他の各種形状を採用することができる。2枚の分離膜1を折り返す方法としては、例えば2枚の分離膜1を重ね合せた状態で折り返す方法と、各分離膜1を折り返した後に重ね合せる方法とがある。これらのいずれの方法においても、例えばギロチン刃などの部材を分離膜1に押し当てて、その押し当てた部分で分離膜1を折り返すことにより、上記部材に対応する形状の折り返し部5を形成することができる。その他にも、ピンチロール又はピンチバーを用いて分離膜1を折り返す方法なども考えられる。
【0057】
図4A〜図4Cは、分離膜エレメント100の構成例を示した概略斜視図である。分離膜ユニット10は、その外側を必要に応じて外装材9などで覆ったり、軸方向端部に端部材(図示せず)を設けた状態で使用することができる。この例では、円筒状の外装材9内に分離膜ユニット10が設けられることにより、分離膜エレメント100が構成されている。
【0058】
図4Aは、図2の分離膜ユニット10が外装材9内に設けられた分離膜エレメント100の一例を示している。プリーツ状に複数回折り返された2枚の分離膜1及び流路材2は、断面が矩形状となるため、その対角線の長さよりも若干大きい内径を有する外装材9を用いることが好ましい。
【0059】
この例では、プリーツ状に複数回折り返された2枚の分離膜1及び流路材2の一側方及び他側方(図4Aにおける上方及び下方)に、それぞれ封止部8が設けられることにより、これらの封止部8間に原水を流通させるための空間101が形成されるとともに、各封止部8と対向する外装材9の内周面との間に透過水を流通させるための空間102が形成されている。上記空間101及び空間102を水密に分離するためには、各封止部8の縁と外装材9の内周面とが密着していることが好ましく、そのために各封止部8の縁にシール部材が設けられていてもよい。
【0060】
図4B及び図4Cの例では、上記空間102が、透過側流路7を除いて封止部8により埋められており、そのために、封止部8の外周面は外装材9の内周面に対応する形状となっている。このような構成によれば、図4B及び図4Cに示すように、封止部8の内部に形成する孔の形状に応じて、任意の断面積からなる透過側流路7を形成することができる。
【0061】
図4A〜図4Cに例示されるように、円筒状の断面からなる外装材9の内部に分離膜ユニット10を収容する場合などには、2枚の分離膜1の一側方及び他側方(図4A〜図4Cにおける上方及び下方)にそれぞれ形成された外装材9の内周面との間の空きスペース(空間102)に、透過側流路7を設けることができるので、2枚の分離膜1の設置スペースを最大限確保することができ、より効率よく濾過を行うことができる。
【0062】
ただし、外装材9は、その断面が円形状のものに限らず、例えば矩形状などの他の形状のものであってもよいし、外装材9を省略することも可能である。外装材9を省略した場合であっても、本実施形態では、分離活性層4が互いに対向するように2枚の分離膜1が重ね合せられており、分離活性層4が露出することがないので、分離活性層4が損傷するおそれはない。
【0063】
以上の実施形態では、濾過対象物が原水である場合について説明したが、水ではなく油などの他の原液であってもよいし、気体などであってもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 分離膜
2 流路材
3 多孔質基材
4 分離活性層
5 折り返し部
6 集水管
7 透過側流路
8 封止部
9 外装材
10 分離膜ユニット
100 分離膜エレメント
101 空間
102 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濾過対象物を濾過することにより透過物を生成するための分離膜ユニットであって、
それぞれシート状の多孔質基材における一方の表面に分離活性層が形成され、前記分離活性層が互いに対向するように重ね合せられた2枚の分離膜を備え、
前記2枚の分離膜が、プリーツ状に複数回折り返されることにより、当該2枚の分離膜の一側方及び他側方に交互に折り返し部が形成されていることを特徴とする分離膜ユニット。
【請求項2】
前記2枚の分離膜間には、供給される濾過対象物の流路としての供給側流路が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の分離膜ユニット。
【請求項3】
前記2枚の分離膜間に設けられ、前記供給側流路を形成するための供給側流路材を備えたことを特徴とする請求項2に記載の分離膜ユニット。
【請求項4】
前記2枚の分離膜の一側方及び他側方には、それぞれ透過物の流路としての透過側流路が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の分離膜ユニット。
【請求項5】
前記分離活性層が、ポリアミド系樹脂を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の分離膜ユニット。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の分離膜ユニットと、
前記分離膜ユニットの外側を覆う外装材とを備えたことを特徴とする分離膜エレメント。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【公開番号】特開2011−101864(P2011−101864A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258334(P2009−258334)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】