説明

分離防止用器具およびセメント組成物施工用トラック

【課題】 SL材、グラウト材など、平均粒径が異なる少なくとも2つの成分が混合されたセメント組成物を移送または圧送する時にセメント組成物の組成が不均一になるのを防止する分離防止用器具を提供する。
【解決手段】 本発明の分離防止用器具は、上方に頂部を有する円錐面、楕円錐面または多角錐面、あるいは凸状の球面または楕円球面を含む分散板と、この分散板を支持する支持部材とを有し、セメント組成物が分散板の上方より供給され、下方へ落下するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にセメント系セルフレベリング材、グラウト材等の移送時または空気圧送時に使用される分離防止用器具に関する。また、本発明は、この分離防止用器具を備えたセメント組成物貯蔵用タンクおよびセメント組成物施工用トラックに関する。さらに、本発明は、セメント組成物の供給方法およびセメント組成物スラリーの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルフレベリング性を有するセメント組成物、すなわちセメント系セルフレベリング材(以下、SL材と言う。)の施工においては、現場練りの一つの方式として、粉体のSL材をSL材専用車の粉体輸送用タンク内に入れて施工現場に運び、そこでSL材専用車に備え付けられたミキサーにより水と混練してスラリーにし、施工している(特許文献1)。
【0003】
従来のセメント組成物施工用トラックの一例を図1に示す。図1(a)は側面図であり、(b)は背面図である。
【0004】
図1に示すセメント組成物施工用トラック400は、上部に供給口41が設けられたセメント組成物タンク44を有している。そして、セメント組成物施工用トラック400は、セメントと水との混練物(セメント組成物スラリー)を製造できるように、セメント混練装置(ミキサー)46と、タンク44からホッパー45を介し、セメント混練装置46に必要量のセメント組成物43を供給するためのスクリューフィーダー42を有する。さらに、セメント組成物施工用トラック400は、混練用の水を輸送、供給するために、水タンク47を備えており、タンク内の水は、水供給ポンプ48により、水供給パイプ49を通ってセメント混練装置46に供給される。
【0005】
図1に示すようなセメント組成物施工用トラック400は、排出口を閉じた状態で、供給口41からタンク44内にセメント組成物43が供給される。そして、所定量のセメント組成物をタンク44内に入れた後、供給口41を閉じて施工現場まで移動する。施工現場に到着後、必要時にタンク44下部の排出口を開け、そこからセメント組成物を取り出す。
【0006】
セメント組成物は次いで、スクリューフィーダー42により制御されて、セメント混練装置46に導入される。このセメント混練装置46には、ほぼ同時に混練用の水が、供給水量を調整しながら、水タンク47から供給される。セメント混練装置46でセメント組成物と水とを所定の割合で混合攪拌してセメント組成物スラリーを調製し、これを、スラリーポンプ51によって、セメント組成物スラリー・ストレージホッパー50から、スラリーホース52を通って外部に排出、施工箇所に供給し、施工を行っている。セメント組成物スラリー・ストレージホッパー50は、実際に用いるまで、そこでセメント組成物スラリーの撹拌を続けられるようになっていてもよい。
【特許文献1】特開平5−208412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
SL材の打設量が多い場合、SL材専用車で必要量のSL材を満たすことができないため、施工現場においてSL材専用車に粉体のSL材が補充される。現在は、フレコン(フレキシブルなセメント袋)詰めの粉体SL材をクレーン付トラックで現場に運び、フレコンからSL材専用車のタンクに補充されている。しかし、通常、フレコンからSL材を補充するには時間を要する。また、補充作業のために作業者がSL材専用車の上に登らなければならず、安全面で好ましくない。さらに、SL材補充時に粉塵が発生することがあり、環境面でも好ましくない。また、特にSL材をフレコンから落下させてSL材専用車のタンク内に供給する過程で、粒度差、比重差からセメント粉体と骨材とが分離する傾向があり、タンク内でのSL材の組成の均一性が失われることがある。
【0008】
また、空気圧送式の粉粒体運搬車(ジェットパック車)でSL材を施工現場に運び、これからSL材専用車に補充することが考えられるが、空気圧送によりSL材を補充した場合も、粒度差、比重差からセメント粉体と骨材とが分離してしまい、タンク内のSL材組成が不均一になることがあり、所望の組成のSL材を安定に取り出すことが困難である。さらに、ジェットパック車から送られる大量の圧縮空気がSL材専用車のタンクのSL粉体出口から吹き出し、粉塵が発生することもある。
【0009】
SL材に限らず、グラウト材など、平均粒径が異なる少なくとも2つの成分が混合されたセメント組成物を移送または圧送すると、各成分の分離が起こり、組成が不均一になることがある。そして、セメント組成物の組成が不均一になると、セメント組成物と水とを混練して調製したスラリーの流動性や硬化特性にばらつきが生じて、安定した品質の硬化体を得ることが難しくなる。特に、各成分の平均粒径の差が大きい場合、具体的には各成分の平均粒径の差が100μm以上ある場合、組成を均一に保って移送または圧送することは困難である。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、SL材、グラウト材など、平均粒径が異なる少なくとも2つの成分が混合されたセメント組成物を移送または圧送する時にセメント組成物の組成が不均一になるのを防止する分離防止用器具を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、SL材、グラウト材などを、組成の均一性を保ちながら、フレコンから補充することができるセメント組成物貯蔵用タンクおよびセメント組成物施工用トラックを提供することを目的とする。さらに、本発明は、SL材、グラウト材などを、組成の均一性を保ちながら、ジェットパック車から空気圧送により補充することができるセメント組成物貯蔵用タンクおよびセメント組成物施工用トラックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の事項に関する。
【0013】
1. 平均粒径が異なる少なくとも2つの成分が混合されたセメント組成物を移送または圧送する時に使用される分離防止用器具であって、
上方に頂部を有する円錐面、楕円錐面または多角錐面、あるいは凸状の球面または楕円球面を含む分散板と、この分散板を支持する支持部材とを有し、
セメント組成物が分散板の上方より供給され、下方へ落下するように構成されている分離防止用器具。
【0014】
2. 前記分散板が円錐面、楕円錐面または多角錐面を含むものである上記1に記載の分離防止用器具。
【0015】
3. 前記分散板の円錐面、楕円錐面または多角錐面の水平面からの傾斜角度が5〜30°の範囲内である上記2に記載の分離防止用器具。
【0016】
4. 前記分散板の円錐面の底面の直径、楕円錐面の底面の長径および短径、または多角錐面に外接する円の直径が20〜50cmの範囲内である上記2または3に記載の分離防止用器具。
【0017】
5. 前記分散板が直円錐面または直多角錐面を含むものである上記2〜4のいずれかに記載の分離防止用器具。
【0018】
6. 前記分散板が直円錐面を2ヶ所以上切断したものであり、形成された切断部が全て同一形状であり、かつ、連接して又は等間隔に形成されている上記5に記載の分離防止用器具。
【0019】
7. 前記分散板の外側に、前記分散板の円錐面、楕円錐面または多角錐面と中心軸が同じである円筒形の側壁を有する上記2〜6のいずれかに記載の分離防止用器具。
【0020】
8. 前記側壁の上部に切欠きが設けられている上記7に記載の分離防止用器具。
【0021】
9. 前記セメント組成物が、平均粒径が異なる少なくとも2つの成分を含み、
平均粒径が最も小さい成分の平均粒径が5〜100μmの範囲にあり、
平均粒径が最も大きい成分の平均粒径が100〜1500μmの範囲にある上記1〜8のいずれかに記載の分離防止用器具。
【0022】
10. 前記セメント組成物に含まれる成分の中で、真比重が最大のものと最小のものとの真比重の差が5g/cm以下である上記1〜9のいずれかに記載の分離防止用器具。
【0023】
11. 平均粒径が異なる少なくとも2つの成分が混合されたセメント組成物を貯蔵するタンクであって、
タンク上面にセメント組成物の供給口を、下部に排出口を有し、
セメント組成物の供給口に上記1〜10のいずれかに記載の分離防止用器具を備えるセメント組成物貯蔵用タンク。
【0024】
12. タンク上部に、フィルターを有する排気装置を備える上記11に記載のセメント組成物貯蔵用タンク。
【0025】
13. 一端がタンク上面の供給口に接続され、他端がセメント組成物の圧送時にセメント組成物の供給源に接続される圧送管をさらに有する上記11または12に記載のセメント組成物貯蔵用タンク。
【0026】
14. 上記11〜13のいずれかに記載のセメント組成物貯蔵用タンクを備えたセメント組成物施工用トラック。
【0027】
15. 上方からセメント組成物を落下させることにより、あるいはセメント組成物を圧送することにより、上記11に記載のセメント組成物貯蔵用タンクの供給口から、分離防止用器具を介して、タンク内にセメント組成物を供給する方法。
【0028】
16. 上記12に記載のセメント組成物貯蔵用タンクの上に、セメント組成物を充填したフレコンを吊り上げ、
フレコンの下部排出口からセメント組成物を落下させて、セメント組成物貯蔵用タンクの供給口からタンク内にセメント組成物を供給し、同時に、フィルターを備えた排気装置を通じてタンク内の空気を外部へ排出するセメント組成物の供給方法。
【0029】
17. セメント組成物を充填したジェットパック車の排出口と、上記13に記載のセメント組成物貯蔵用タンクの圧送管とを連結し、
ジェットパック車に搭載されたコンプレッサーにより、ジェットパック車のセメント組成物を、圧送管を通じて、セメント組成物貯蔵用タンク内に空気圧送し、同時に、フィルターを備えた排気装置を通じてタンク内の圧送空気を外部へ排出するセメント組成物の供給方法。
【0030】
18. 上記16または17に記載のセメント組成物の供給方法により、セメント組成物施工用トラックのタンク内にセメント組成物を供給し、
このセメント組成物と水とを、セメント組成物施工用トラックに搭載したミキサーで混練して、セメント組成物スラリーを調製し、
スラリーポンプによりセメント組成物スラリーを施工箇所へ供給して、施工するセメント組成物スラリーの施工方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、平均粒径が異なる少なくとも2つの成分が混合されたセメント組成物を組成を均一に保ちながら移送(セメント組成物の自然落下を利用した移送を単に移送と呼ぶ。)または圧送することができる。これは、移送または圧送されてきたセメント組成物を分散板に一度当てることにより、セメント組成物がタンク内に均一に供給され、タンク内で流動することがなく、材料の分離を回避でき、また、その勢いが和らぎ、セメント組成物が穏やかにタンク内に落ちることで、タンク内のセメント組成物が飛散して粒度の違いから各成分が分離するのが防止されるためと考えられる。
【0032】
また、本発明によれば、平均粒径が異なる少なくとも2つの成分が混合されたセメント組成物を、組成を均一に保ちながら、フレコンからの落下充填やジェットパック車からの空気圧送により、セメント組成物貯蔵用タンクあるいはセメント組成物施工用トラックに補充することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の分離防止用器具の一例を図面を参照して説明する。図2は本発明の分離防止用器具の平面図、図3はその断面図、図4はその斜視図である。
【0034】
本発明の分離防止用器具は、上方に頂部を有する円錐面、楕円錐面または多角錐面、あるいは凸状の球面または楕円球面を含む分散板を有していればよい。多角錐面としては、四角錐面以上の多角錐面が好ましく、八角錐面以上の多角錐面がより好ましい。また、正多角錐面であることが好ましい。
【0035】
分散板は円錐面または楕円錐面を含むことが好ましく、直円錐面であることがより好ましい。
【0036】
分散板の円錐面または楕円錐面の水平面からの傾斜角度は、好ましくは5〜30°である。分散板の円錐面または楕円錐面の水平面からの傾斜角度は5〜20°がより好ましく、5〜15°が特に好ましい。
【0037】
また、分散板が多角錐面である場合、この多角錐面の水平面からの傾斜角度が上記の範囲内であることが好ましい。分散板が球面または楕円球面である場合、この球面または楕円球面の頂点と周縁部とを結ぶ直線の水平面からの傾斜角度が上記の範囲内であることが好ましい。
【0038】
分散板の大きさは使用箇所に合わせて適宜決めることができるが、あまりに小さいと本発明の効果が得られなくなる。ジェットパック車による圧送に使用する場合、通常、分散板の円錐面の底面の直径、楕円錐面の底面の長径および短径、または多角錐面に外接する円の直径は20〜50cmとすればよい。
【0039】
図2〜図4に示す分離防止用器具の分散板11は、上方に頂部を有する直円錐面を、円錐の中心軸に平行な面で4ヶ所切断したものである。直円錐面を4ヶ所切断しているのは、使用時に分散板上にセメント組成物が滞留し、詰まってしまうのを防ぐためである。分散板上にセメント組成物が滞留することがなければ直円錐面を切断して小さくする必要はないが、切断する場合は図2〜図4に示すように、分散板の形状が対称的になるように、同一形状の切断部(円錐曲線)が連接して又は等間隔に形成されるように直円錐面を複数箇所、例えば2ヶ所以上、好ましくは4ヶ所切断することが好ましい。
【0040】
図2〜図4に示す分離防止用器具では、分散板11は支持部材12に支持され、支持部材12は側壁13に固定されている。
【0041】
側壁13は、分散板11の直円錐面と中心軸が同じであり、分散板の底部形状よりも大きいもので、例えば円錐の底面の半径よりも大きい半径を有する円筒形である。セメント組成物が分散板の上方より供給され、下方へ落下するように、分散板11と側壁13の間にはセメント組成物が通過可能な空隙が確保されている。側壁を設けることにより、セメント組成物が分散板に当たらずに飛散するのを防止することができるが、側壁はなくてもよい。
【0042】
側壁13の上部には、使用時に分散板上にセメント組成物が滞留しないように、同形の四つの切欠き14が等間隔に設けられている。この切欠きはなくてもよく、また、その個数、形状も特に限定されない。
【0043】
側壁13の下部13aは、分散板の底部16の水平面と比べて同じか、下方に設けることが好ましい。
【0044】
側壁13の外面には4つの固定部材15が取り付けられている。分離防止用器具は、使用時にはこの固定部材によってセメント組成物が供給されるタンクの供給口または圧送管の吐出口に固定される。
【0045】
図5は、分離防止用器具の使用時の様子を示す模式図である。分離防止用器具20は、セメント組成物が供給されるタンク21の上面に設けられた供給口22に溶接などによって取り付けられる。分離防止用器具20の側壁13は、供給口22に合わせて設計されている。セメント組成物は圧送管23を通って供給口22に圧送され、一度分散板11に当たり、その円錐形状に沿って分散し、さらに好ましくは側壁16の内面に当たり、タンク21内に落下する。このようにセメント組成物を好ましくは水平面からの傾斜角度が5〜30°である円錐面または楕円錐面を含む分散板、あるいは分散板と側壁に当てることにより、圧送時の組成の不均一化を防止し、タンク内のセメント組成物の組成を均一に保つことができる。フレコン等から落下させてタンク内にセメント組成物を供給する場合も同様に、セメント組成物を分散板、あるいは分散板と側壁に当てることにより、移送時の組成の不均一化を防止し、タンク内のセメント組成物の組成を均一に保つことができる。
【0046】
次に、本発明の分離防止用器具を備えたセメント組成物施工用トラックおよびセメント組成物の供給方法について、図面を参照しながら、説明する。図6Aは本発明のセメント組成物施工用トラックにフレコンからセメント組成物を補充する時の様子を示す図であり、図6Bはそれを後方より見た図である。図7Aは本発明のセメント組成物施工用トラックにジェットパック車からセメント組成物を補充する時の様子を示す図であり、図7Bはそれを後方より見た図である。
【0047】
本発明のセメント組成物施工用トラック40は、セメント組成物のタンク44の供給口41に本発明の分離防止用器具20が取り付けられており、タンク上面に排気装置30が設けられている以外は、図1に示す従来のセメント組成物施工用トラックと同様の構成を有する。
【0048】
本発明のセメント組成物施工用トラックは、セメント組成物が収容されるタンク、混練用の水を輸送、供給するための水タンク、セメント組成物と水とを混練するミキサー、セメント組成物スラリーのストレージホッパーおよびスラリーポンプを備える。施工現場において水を調達し、混練装置に供給するようにすることができれば、水タンクはなくてもよい。また、施工現場に備えられているスラリーポンプを使用できる場合は、スラリーポンプもなくてよい。
【0049】
また、図7A、図7Bに示すように、本発明のセメント組成物施工用トラックには、セメント組成物タンク上部の供給口に、セメント組成物の圧送時に他端がセメント組成物の供給源(ジェットパック車など)に接続される圧送管74を取り付けることもできる。
【0050】
本発明のセメント組成物施工用トラックは、セメント組成物タンクの上部に供給口が設けられており、この供給口に本発明の分離防止用器具が溶接などによって取り付けられている。そのため、平均粒径が異なる2つの成分が混合されたセメント組成物をフレコンやジェットパック車などから材料分離を起こすことなく、その組成を均一に保ちながら、施工用トラックのタンク内に補充、充填することができる。
【0051】
さらに、本発明のセメント組成物施工用トラックは、セメント組成物を空気圧送する時にセメント組成物と共に送られる空気をタンクからフィルターを通して排気する排気装置を有することが好ましい。タンクから排気される空気は、セメント組成物に含まれる微粉を含んでいる。セメント組成物取出し口とは別に設けた排気口から微粉を通過させないフィルターを通して排気することにより、粉塵の発生を防止することができる。排気装置は、空気圧送時に、タンク上部に設けられた排気口に連結されるものが好ましい。
【0052】
排気装置の一例を図8に示す。図中、排気される圧縮空気の流れを矢印で示している。
【0053】
排気装置30は、外筒31と、その内部に着脱可能に取り付けられるフィルター32と、フィルター32を通過した空気が排気される排気管33とを有する。排気装置30は、接続部材34を介して、タンクの排気口35に接続される。セメント組成物を空気圧送する時にセメント組成物と共に送られる圧縮空気は、タンクの排気口35から排気装置30の外筒31内に送られ、フィルター32を通過して含まれる微粉が除去された後、排気管33から排気される。
【0054】
図6Aおよび図6Bに示す、フレコンからセメント組成物を補充する形のセメント組成物施工用トラックも、上記のような排気装置を有することが好ましい。
【0055】
図6Aおよび図6Bに、本発明のセメント組成物施工用トラックにフレコンからセメント組成物を補充する時の様子を示す。
【0056】
本方法では、工場においてセメント、各種添加剤および骨材を均一に混合したセメント組成物43をフレコン60に充填して施工現場へ輸送する。そして、施工現場において、フレコン60から、セメント組成物施工用トラック40のタンク44にセメント組成物43を補充または充填する。
【0057】
セメント組成物施工用トラック40のタンク44にフレコン60からセメント組成物43を補充する場合には、まず、タンクのセメント組成物供給口41の上方にフレコン60をクレーン61で吊り上げる。そして、フレコン60の下部排出口からセメント組成物43を落下させて、供給口41からタンク44内にセメント組成物43を充填する。落下したセメント組成物43は、供給口41に取り付けられた本発明の分離防止用器具20の分散板にぶつかり、落下の勢いが弱められてタンク内部へ供給され、タンク内部ではセメント等の微粉体が流動化して骨材と材料分離を起こすことなく、均一さが保たれたまま充填される。
【0058】
図7Aおよび図7Bに、本発明のセメント組成物施工用トラックにジェットパック車からセメント組成物を補充する時の様子を示す。
【0059】
本方法では、工場においてセメント、各種添加剤および骨材を均一に混合したセメント組成物43をジェットパック車70のタンク71に充填して施工現場へ輸送する。そして、施工現場において、ジェットパック車70のタンク71から、セメント組成物施工用トラック40のタンク44にセメント組成物43を補充または充填する。
【0060】
セメント組成物施工用トラック40のタンク44にジェットパック車70でセメント組成物43を補充する場合には、まず、セメント組成物施工用トラック40の近傍にジェットパック車70を停止し、ジェットパック車の空気圧送管(フレキシブルホース)73と、セメント組成物施工用トラックのタンク44上部の供給口41に接続している鋼製パイプ(圧送管)74とを連結する。ジェットパック車の空気圧送管73は、ジェットパック車に備えられたセメント組成物供給用タンク71に連結している。そして、ジェットパック車70に取り付けられているコンプレッサー72を用いて、ジェットパック車のタンク71内のセメント組成物43を、空気と共に、セメント組成物施工用トラックのタンク44へと空気圧送する。空気圧送されたセメント組成物43は、供給口41に取り付けられた本発明の分離防止用器具20の分散板、あるいは分散板と側壁にぶつかり、圧送の勢いが弱められてタンク内部へ供給され、タンク内部ではセメント等の微粉体が流動化して骨材と材料分離を起こすことなく、均一さが保たれたまま充填される。
【0061】
セメント組成物施工用トラックのタンク44にセメント組成物と共に送り込まれた空気は、フィルターを備えた排気装置30を通じてタンク外に排気される。この時、空気中に含まれる微粒子は排気装置30内のフィルターに捕集される。
【0062】
このようにしてタンク44内に補充、充填されたセメント組成物は、図1に示す従来のセメント組成物施工用トラックと同様にして、スクリューフィーダー42で定量的にタンク44からセメント混練装置(ミキサー)46に抜き出され、セメント混練装置46にて、水タンク47から水供給ポンプ48により送られる所定割合の水と混練されてセメント組成物スラリーとなり、施工箇所に供給される。
【0063】
本発明の分離防止用器具20を用いることによって、上記のように平均粒径が異なる2つの成分が混合されたセメント組成物をフレコン60またはジェットパック車70から材料分離を起こすことなく、その組成を均一に保ちながら、セメント組成物施工用トラック40に補充することができる。その結果、セメント組成物の組成が均一に保たれるため、セメント組成物と水とを混練して調製するセメント組成物スラリーの流動性状や硬化性状などの品質を安定に保持することができる。
【0064】
さらに、大規模な施工現場においても材料切れによる施工作業の中断に見舞われることがなく、一定品質のセメント組成物スラリーを連続的に施工箇所へ供給することができる。
【0065】
また、セメント組成物施工用トラック40のタンク44に排気装置30を備えることにより、フレコン60からセメント組成物を落下させて、または、ジェットパック車70から空気圧送によってセメント組成物をセメント組成物施工用トラック40のタンク44に充填しても、粉塵の発生を防止することができる。
【0066】
本発明が適用されるセメント組成物としては、セルフレベリング材やグラウト材などが挙げられる。
【0067】
本発明が適用されるセメント組成物は、少なくとも2つの平均粒径の異なる成分を含む。平均粒径が小さい成分の平均粒径は5〜100μmが好ましく、8〜80μmがさらに好ましく、10〜50μmが特に好ましい。平均粒径が大きい成分の平均粒径は100〜1500μmが好ましく、110〜1200μmがさらに好ましく、120〜1000μmが特に好ましい。セメント組成物が平均粒径の異なる成分を3つ以上含む場合、平均粒径が最も小さい成分と平均粒径が最も大きい成分の平均粒径がそれぞれ上記の範囲内であることが好ましい。
【0068】
平均粒径が大きく異なる成分を混合した場合、混合後の組成物の粒度分布を測定すると、通常、その成分に基づく極大ピークが観察される。
【0069】
平均粒径が異なる少なくとも2つの成分が混合されたセメント組成物の粒度分布を図9および表1に示す。
【0070】
【表1】

セメント組成物の粒度分布は、セメント組成物をふるい目が150μmの篩を用いて、粒径が150μm未満の粒子と150μm以上の粒子に篩い分け、粒径が150μm未満の粒子については、セイシン企業社製SKレーザーマイクロンサイザーLMS−30を用いて粒度分布測定を行い、150μm以上の粒子については、ふるい目がより大きいものを使用して篩い分けを行って粒度分布を測定した。
【0071】
図9に示したセメント組成物では、約24μmと約210μmで極大になっている。約24μmで極大になっているものがセメント粉体を主体とする微粒子群であり、原料のセメント粉体を単独でSKレーザーマイクロンサイザーを用いて測定した平均粒径は22μmである。約210μmで極大になっているものが骨材を主体とする粗粒群であり、原料の骨材について単独でふるい試験を行って測定した平均粒径は228μmである。これらの平均粒径の差は206μmであり、本発明によれば、このようなセメント組成物も組成を均一に保って圧送することができる。
【0072】
また、本発明が適用されるセメント組成物は、含まれる成分がいずれも、最大粒径が5mm以下、より好ましくは4mm以下、特に好ましくは3mm以下のものであることが好ましい。最大粒径が5mmを超えると、セメント組成物中の粗大な粒子の分布状態を均一に保つことが難しくなる傾向がある。
【0073】
本発明が適用されるセメント組成物に含まれる成分中、真比重が最大のものと最小のものとで、その差が5g/cm以下、より好ましくは4g/cm以下、特に好ましくは3g/cm以下であることが好ましい。真比重の差が5g/cmを超えると、本発明の分離防止用器具を用いても、安定してセメント組成物の成分分離を防止することが難しくなることがある。
【0074】
図9に示したセメント組成物について、セイシン企業 MAT−7000で各成分の真比重を測定したところ、セメント粉体は3.2g/cmであり、骨材は2.6g/cmであった。その差は0.6g/cmであった。
【実施例】
【0075】
〔実施例1〕
図2〜図4に示した形状(分散板の直円錐面の水平面からの傾斜角度:10°、直円錐面の底面の直径:30cm、側壁の直径:40cm)の金属製の分離防止用器具を作製し、これをセメント組成物施工用トラック(SL材専用車)のタンクの上面に設けられたSL材供給口に溶接によって取り付けた。そして、粉体の図9に示すセメント組成物10tをジェットパック車からセメント組成物施工用トラックのタンクへと圧送した。図9に示すセメント組成物投入後に、タンク中央部の上部、中央部、下部と、後方部の上部、中央部、下部についてセメント粉体と骨材の割合を篩試験(150μm)により調べた。その結果を表2に示す。セメント粉体の割合の最大値と最小値の差は2.2%であった。
【0076】
【表2】

また、図9に示すセメント組成物10t投入後、タンクのSL材取出し口からセメント組成物を1tずつ9回抜き出し、それぞれについてセメント粉体と骨材の割合を篩試験(150μm)により調べた。その結果を表3に示す。セメント粉体の割合の最大値と最小値の差は1.8%であった。
【0077】
【表3】

〔比較例1〕
分離防止用器具をセメント組成物施工用トラックのタンクの上面に設けられたSL材供給口に取り付けずに、図9に示すセメント組成物10tをジェットパック車からセメント組成物施工用トラックのタンクへと圧送し、タンク中央部の上部、中央部、下部と、後方部の上部、中央部、下部についてセメント粉体と骨材の割合を篩試験(150μm)により調べた。その結果を表4に示す。セメント粉体の割合の最大値と最小値の差は7.2%であった。
【0078】
【表4】

本発明の分離防止用器具を使用した実施例1は、分離防止用器具を使用しなかった比較例1と比べて、圧送されたセメント組成物のセメント粉体と骨材の割合のタンク内でのばらつきが小さく、また、抜き出したセメント組成物のセメント粉体と骨材の割合のばらつきも小さかった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上のように、本発明によれば、SL材、グラウト材などの平均粒径が異なる少なくとも2つの成分が混合されたセメント組成物を、組成を均一に保ちながら、フレコンから移送またはジェットパック車などで圧送(空気圧送)することができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】従来のセメント組成物施工用トラックの一例を示す図である。
【図2】本発明の分離防止用器具の一例を示す平面図である。
【図3】本発明の分離防止用器具の一例を示す断面図である。
【図4】本発明の分離防止用器具の一例を示す斜視図である。
【図5】本発明の分離防止用器具の使用時の様子を示す模式図である。
【図6A】本発明のセメント組成物の供給方法の一例を示す図である。
【図6B】本発明のセメント組成物の供給方法の一例を示す図である。
【図7A】本発明のセメント組成物の供給方法の一例を示す図である。
【図7B】本発明のセメント組成物の供給方法の一例を示す図である。
【図8】本発明のセメント組成物施工用トラックの排気装置の一例を示す図である。
【図9】セメント組成物の粒度分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0081】
11 分散板
12 支持部材
13 側壁
13a 側壁下部
14 切欠き
15 固定部材
16 分散板底部
20 分離防止用器具
21 タンク
22 供給口
23 圧送管
30 排気装置
31 外筒
32 フィルター
33 排気管
34 接続部材
35 排気口
40 セメント組成物施工用トラック
41 セメント組成物供給口
42 スクリューフィーダー
43 セメント組成物
44 タンク
45 ホッパー
46 セメント混練装置(ミキサー)
47 水タンク
48 水供給ポンプ
49 水供給パイプ
50 セメント組成物スラリー・ストレージホッパー
51 スラリーポンプ
52 スラリーホース
60 フレコン
61 クレーン
70 ジェットパック車
71 セメント組成物供給用タンク
72 コンプレッサー
73 ジェットパック車の空気圧送管(フレキシブルホース)
74 圧送管
400 セメント組成物施工用トラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が異なる少なくとも2つの成分が混合されたセメント組成物を移送または圧送する時に使用される分離防止用器具であって、
上方に頂部を有する円錐面、楕円錐面または多角錐面、あるいは凸状の球面または楕円球面を含む分散板と、この分散板を支持する支持部材とを有し、
セメント組成物が分散板の上方より供給され、下方へ落下するように構成されている分離防止用器具。
【請求項2】
前記分散板が円錐面、楕円錐面または多角錐面を含むものである請求項1に記載の分離防止用器具。
【請求項3】
前記分散板の円錐面、楕円錐面または多角錐面の水平面からの傾斜角度が5〜30°の範囲内である請求項2に記載の分離防止用器具。
【請求項4】
前記分散板の円錐面の底面の直径、楕円錐面の底面の長径および短径、または多角錐面に外接する円の直径が20〜50cmの範囲内である請求項2または3に記載の分離防止用器具。
【請求項5】
前記分散板が直円錐面または直多角錐面を含むものである請求項2〜4のいずれかに記載の分離防止用器具。
【請求項6】
前記分散板が直円錐面を2ヶ所以上切断したものであり、形成された切断部が全て同一形状であり、かつ、連接して又は等間隔に形成されている請求項5に記載の分離防止用器具。
【請求項7】
前記分散板の外側に、前記分散板の円錐面、楕円錐面または多角錐面と中心軸が同じである円筒形の側壁を有する請求項2〜6のいずれかに記載の分離防止用器具。
【請求項8】
前記側壁の上部に切欠きが設けられている請求項7に記載の分離防止用器具。
【請求項9】
前記セメント組成物が、平均粒径が異なる少なくとも2つの成分を含み、
平均粒径が最も小さい成分の平均粒径が5〜100μmの範囲にあり、
平均粒径が最も大きい成分の平均粒径が100〜1500μmの範囲にある請求項1〜8のいずれかに記載の分離防止用器具。
【請求項10】
前記セメント組成物に含まれる成分の中で、真比重が最大のものと最小のものとの真比重の差が5g/cm以下である請求項1〜9のいずれかに記載の分離防止用器具。
【請求項11】
平均粒径が異なる少なくとも2つの成分が混合されたセメント組成物を貯蔵するタンクであって、
タンク上面にセメント組成物の供給口を、下部に排出口を有し、
セメント組成物の供給口に請求項1〜10のいずれかに記載の分離防止用器具を備えるセメント組成物貯蔵用タンク。
【請求項12】
タンク上部に、フィルターを有する排気装置を備える請求項11に記載のセメント組成物貯蔵用タンク。
【請求項13】
一端がタンク上面の供給口に接続され、他端がセメント組成物の圧送時にセメント組成物の供給源に接続される圧送管をさらに有する請求項11または12に記載のセメント組成物貯蔵用タンク。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれかに記載のセメント組成物貯蔵用タンクを備えたセメント組成物施工用トラック。
【請求項15】
上方からセメント組成物を落下させることにより、あるいはセメント組成物を圧送することにより、請求項11に記載のセメント組成物貯蔵用タンクの供給口から、分離防止用器具を介して、タンク内にセメント組成物を供給する方法。
【請求項16】
請求項12に記載のセメント組成物貯蔵用タンクの上に、セメント組成物を充填したフレコンを吊り上げ、
フレコンの下部排出口からセメント組成物を落下させて、セメント組成物貯蔵用タンクの供給口からタンク内にセメント組成物を供給し、同時に、フィルターを備えた排気装置を通じてタンク内の空気を外部へ排出するセメント組成物の供給方法。
【請求項17】
セメント組成物を充填したジェットパック車の排出口と、請求項13に記載のセメント組成物貯蔵用タンクの圧送管とを連結し、
ジェットパック車に搭載されたコンプレッサーにより、ジェットパック車のセメント組成物を、圧送管を通じて、セメント組成物貯蔵用タンク内に空気圧送し、同時に、フィルターを備えた排気装置を通じてタンク内の圧送空気を外部へ排出するセメント組成物の供給方法。
【請求項18】
請求項16または17に記載のセメント組成物の供給方法により、セメント組成物施工用トラックのタンク内にセメント組成物を供給し、
このセメント組成物と水とを、セメント組成物施工用トラックに搭載したミキサーで混練して、セメント組成物スラリーを調製し、
スラリーポンプによりセメント組成物スラリーを施工箇所へ供給して、施工するセメント組成物スラリーの施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−326352(P2007−326352A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161627(P2006−161627)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ジェットパック
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】