切削インサートおよび刃先交換式切削工具
【課題】インサート本体が長方形平板状をなしていても、主切刃に大きな切削負荷が作用したときの取付安定性を確保することができ、加工精度の劣化や振動、騒音の発生を防ぐことが可能な切削インサートおよび刃先交換式切削工具を提供する。
【解決手段】この切削インサートは、インサート本体1を有し、上記インサート本体1は、上記インサート本体の厚さ方向に対向する一対の主面2と、上記主面の幅方向に対向する一対の長側面3と、上記主面の長さ方向に対向する一対の短側面4とを有し、上記主面と上記長側面との交差稜線部に形成される主切刃5と、上記長側面と上記短側面との交差稜線部に形成され、上記主切刃に連なる副切刃6とを備え、上記副切刃の上記短側面4は、上記厚さ方向から見たときに、一対の当接面4Bが凹V字状に形成されている。
【解決手段】この切削インサートは、インサート本体1を有し、上記インサート本体1は、上記インサート本体の厚さ方向に対向する一対の主面2と、上記主面の幅方向に対向する一対の長側面3と、上記主面の長さ方向に対向する一対の短側面4とを有し、上記主面と上記長側面との交差稜線部に形成される主切刃5と、上記長側面と上記短側面との交差稜線部に形成され、上記主切刃に連なる副切刃6とを備え、上記副切刃の上記短側面4は、上記厚さ方向から見たときに、一対の当接面4Bが凹V字状に形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長板状のインサート本体の厚さ方向を向く面の周りに配置される側面がすくい面とされた、いわゆる縦刃式の切削インサート、およびこのような切削インサートを、軸線回りに回転される工具本体の先端部外周に形成されたインサート取付座に着脱可能に取り付けた刃先交換式切削工具に関するものである。
本願は、2011年01月18日に日本に出願された特願2011−007995号について優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
縦刃式の切削インサートとして、例えば特許文献1や特許文献2には、略長方形の形状を有する2つの端面と、インサート本体の厚さ方向を向いて略平行四辺形の形状を有する2つの側面と、2つの小さな側面とにより形成されて概略四角形板状をなし、ただし上記略平行四辺形の側面に対向して上記厚さ方向に見たときには、これらがなす平行四辺形がその鋭角角部と鈍角角部とを互い違いに位置させるようにしていて、これにより上記端面がインサートの内側に凹む凹V字状とされたものが提案されている。
【0003】
このような特許文献1、2に記載の切削インサートは、軸線回りに回転される工具本体の先端部外周に形成されたインサート取付座に、上記2つの端面のうちの1つをすくい面として工具回転方向の前方側に向け、上記略平行四辺形の2つの側面のうちの1つを外周逃げ面として工具外周側に向け、また上記2つの小さな側面のうちの1つを先端逃げ面として工具先端側に向けて着座させられ、上記略平行四辺形の側面の中央に開口するように貫設された取付孔にクランプネジが挿通されて工具本体にねじ込まれることにより、着脱可能に取り付けられる。
【0004】
そして、こうして取り付けられた切削インサートは、上記すくい面とされた端面と外周逃げ面とされた略平行四辺形の側面との交差稜線部に形成された主切刃と、同様にすくい面とされた端面と先端逃げ面とされた小さな側面との交差稜線部に形成された副切刃とにより、被削材に切削加工を施してゆく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2006−508810号公報(図1、図4、図7)
【特許文献2】特表2005−528230号公報(図1、図4、図8、図11、図14)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これら特許文献1、2に記載の切削インサートは、上述のようにインサート取付座に取り付けられた状態で、上記外周逃げ面とされた側面の反対側の側面がインサート取付座の工具外周側を向く底面に当接させられる。またすくい面とされた端面の反対側の端面は、インサート取付座の工具回転方向の前方側を向く壁面に当接させられる。先端逃げ面とされた小さな側面の反対側の小さな側面は、インサート取付座の工具先端側を向く壁面に当接させられて、上記インサート取付座に拘束される。
【0007】
このインサート取付座の工具先端側を向く壁面に当接させられる小さな側面は、反対側の先端逃げ面とされた小さな側面に逃げ角が与えられるのに伴い、工具回転方向の後方側に向かうに従い工具本体の後端側に向けて傾斜するように延びる。これに合わせてインサート取付座の工具先端側を向く壁面も同様に、工具回転方向の後方側に向かうに従い工具後端側に傾斜するため、主切刃に大きな切削負荷が作用して切削インサートが工具回転方向の後方側に強く押圧されると、この小さな側面はインサート取付座の工具先端側を向く壁面から離れてしまう。
【0008】
従って、特許文献1、2に記載の切削インサートおよび刃先交換式切削工具では、こうして大きな切削負荷が作用したときに切削インサートにがたつきが生じたりして取り付けが不安定となることが避けられず、加工精度の劣化を招いたり、振動および騒音が発生して円滑な切削加工を行うことが困難となったりするおそれがあった。そして、このような問題は、切り込み深さを大きくするために上記主切刃の切刃長が長くされて、すなわち上記厚さ方向に見たときにインサート本体が長板状をなしている切削インサートにおいて特に顕著となる。
【0009】
本発明は、このような背景の下になされたもので、インサート本体が長板状をなしていても、主切刃に大きな切削負荷が作用したときの取付安定性を確保することができ、加工精度の劣化および振動、騒音の発生を防ぐことが可能な切削インサート、および上記切削インサートを着脱可能に取り付けた刃先交換式切削工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の切削インサートは、長板状に形成されるインサート本体を有し、
上記インサート本体は、
長辺と短辺とを有し、上記インサート本体の厚さ方向に対向する一対の主面(長方形面)と、
上記主面の長辺が延びる長さ方向に沿って形成され、上記主面の短辺が延びる幅方向に対向する一対の長側面と、
上記主面の幅方向に沿って形成され、上記主面の長さ方向に対向する一対の短側面とを有し、
上記インサート本体は、上記インサート本体の上記厚さ方向に延びてこれら一対の前記主面の中心同士を結ぶ第一の中心線と、前記主面の上記幅方向に延びて一対の前記長側面の中心同士を結ぶ第二の中心線と、前記主面の上記長さ方向に延びて一対の前記短側面の中心同士を結ぶ第三の中心線とのそれぞれに関して、180°回転対称形状に形成され、
上記主面と上記長側面との交差稜線部には主切刃がそれぞれ形成され、これら主切刃は、上記長側面にすくい面を有するとともに、上記主面に第一逃げ面を有し、
上記短側面と上記長側面との交差稜線部には副切刃がそれぞれ形成され、これら副切刃は上記長側面にすくい面を有するとともに、上記短側面に第二逃げ面を有して、上記主切刃に連なっており、
上記副切刃の上記第二逃げ面が形成された上記短側面は、上記厚さ方向から見たときに、上記主面の短辺の中央部に向かうに従い互いに上記主面の内側に向かって延びる一対の当接面を備えて凹V字状に形成されている。
【0011】
また、本発明の刃先交換式切削工具は、軸線回りに工具回転方向に回転される工具本体を有し、
上記工具本体の先端部の外周にはインサート取付座が形成され、
上記インサート取付座は、上記工具本体の外周側を向く取付座底面と、
上記工具回転方向の前方側を向く取付座第1壁面と、
上記工具本体の先端側を向いて上記工具回転方向の後方側に向かうに従い上記工具本体の先端側に向かって傾斜する取付座第2壁面とを備え、
上記インサート取付座には、上記切削インサートが着脱可能に取り付けられており、上記インサート本体の上記一対の主面のうちの一方を上記工具本体の内周側に向けて上記取付座底面に当接させられ、
上記一対の長側面のうちの一方を上記工具回転方向の後方側に向けて上記取付座第1壁面に当接させられ、
上記一対の短側面のうちの一方を上記工具本体の後端側に向けて、上記一方の短側面の上記一対の当接面のうち、上記一方の長側面とは反対側に位置する一方の当接面を上記取付座第2壁面に当接させられている。
【0012】
本発明の切削インサートでは、上述のように副切刃の第二逃げ面が形成されるインサート本体の一対の短側面が、主切刃の第一逃げ面が形成される上記主面に対向する上記厚さ方向に見たときにそれぞれ一対の当接面を備えて凹V字状をなすようにされている。従って切削加工時には、上記短側面は、この副切刃の第二逃げ面として工具先端側に向けられた短側面とは反対側の工具後端側に向けられる。また、前記短側面の一方の当接面は、インサート取付座の工具回転方向の前方側を向く取付座第1壁面に当接した一方の長側面側とは反対側に位置される。よって、短側面における工具回転方向の前方側に位置する当接面は、工具回転方向の後方側に向かうに従い工具本体の先端側に向かって傾斜するように配置することができる。
【0013】
本発明の刃先交換式切削工具のように、インサート取付座に、この一方の当接面と同様に工具回転方向の後方側に向かうに従い上記工具本体の先端側に向かって傾斜する取付座第2壁面を形成する。この取付座第2壁面に上記一方の当接面を当接させるようにして切削インサートを取り付けることにより、この一方の当接面は、切削インサートが工具回転方向の後方側に押圧されると上記取付座第2壁面により強く押し付けられる。このため、工具回転方向の前方側に向けられてすくい面が形成された長側面と工具外周側に向けられて第一逃げ面(外周逃げ面)が形成された主面との交差稜線部の主切刃に大きな切削負荷が作用しても、切削インサートのインサート取付座への取付安定性が損なわれるのを防ぐことができる。
【0014】
従って、上記の切削インサートによれば、例えば、上記厚さ方向から見たときに上記厚さ方向に平行であり上記一対の短側面に接する互いに平行な一対の仮想平面間の距離と、上記厚さ方向から見たときに上記厚さ方向に平行であり上記一対の長側面に接する互いに平行な一対の仮想平面間の距離との比が、1.2〜2.5の範囲内とされている。すなわち、上記主面の長さ方向に形成される上記主切刃の切刃長が上記主面の短辺の長さに比べて長く、従って主切刃から作用する切削負荷が大きくなりがちな場合でも、インサート取付座への取付安定性を十分に確保して、加工精度の向上や切削加工時の振動、騒音の防止を図ることが可能となる。
【0015】
なお、上記厚さ方向から見たときに上記短側面がなす凹V字の挟角は、大きすぎると短側面が上記厚さ方向に見たときに平坦に近くなって、工具本体先端側に向けられて先端逃げ面とされる短側面に与えられる逃げ角によっては、上記一方の当接面を工具回転方向の後方側に向かうに従い工具本体先端側に向かって傾斜するように配置して同じ方向に傾斜した取付座第2壁面に当接させることが困難となるおそれが生じる。ただし、上記挟角が逆に小さすぎると、インサート本体の上記先端逃げ面とされる短側面とすくい面とされる長側面とがなす交差角、すなわち副切刃の刃物角が小さくなって欠損等を生じ易くなるので、上記短側面がなす凹V字の挟角は、140°〜175°の範囲内とされるのが望ましい。
【0016】
一方、特許文献1、2に記載された切削インサートのように、インサート本体を工具本体に取り付けるためのクランプネジが挿通される取付孔が略平行四辺形の側面の中央に開口するように1つ貫設されているだけであると、特にインサート本体の厚さ方向から見たときに、上記厚さ方向に平行であり上記一対の短側面に接する互いに平行な一対の仮想平面間の距離と、上記厚さ方向から見たときに、上記厚さ方向に平行であり上記一対の長側面に接する互いに平行な一対の仮想平面間の距離との比が上述のように大きい切削インサートでは、上述のような過大な切削負荷が作用したときに、この取付孔の中心線回りにインサート本体が回転するようにしてがたつきを生じるおそれがある。また、このようなインサート本体を、超硬合金等の原料粉末から圧粉体をプレス成形して焼結することにより製造する場合には、圧粉体における取付孔と長側面との間の肉厚と、取付孔と短側面との間の肉厚との差が著しく大きくなるため、焼結後のインサート本体において変形や寸法精度の低下が生じるおそれもある。
【0017】
本発明のインサート本体には、上記主面に開口して上記インサート本体を上記厚さ方向に貫通する一対のインサート取付孔が備えられ、上記一対のインサート取付孔が、上記主面の上記長さ方向に並んで形成されていることが望ましい。これにより、インサート本体をいずれか一方のインサート取付孔の中心線回りに回転させるような力が作用しても、他方のインサート取付孔に挿通されたクランプネジによってがたつきが生じるのを防ぐことができる。また、インサート本体を上述のような圧粉体を焼結して製造する場合でも、圧粉体におけるインサート取付孔と長側面および短側面との間のインサート本体の肉厚および、インサート取付孔同士の間の肉厚とに大きな差が生じるのを避けることができて、焼結後の変形や寸法精度低下を防ぐことができる。
【0018】
さらに、インサート本体の上記主面は、上記一対の長側面側の縁部が、上記主面よりも内側の部分に対して上記厚さ方向に突出するように形成される。このことにより、上記縁部と長側面との交差稜線部に形成される上記主切刃に欠損等が生じても、これを上記縁部の厚さ方向に突出した部分までに抑えて、例えば、上記インサート取付孔や反対側の長側面にまで欠損や亀裂が達することによりインサート寿命が潰えてしまうのを防ぐことができる。なお、このように主面の縁部を突出させた場合、インサート取付座の上記取付座底面には、これらの縁部の内側部分の主面を当接させるようにすればよい。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の切削インサートおよび刃先交換式切削工具によれば、インサート本体の主切刃の切刃長が長くて大きな切削負荷が作用したような場合でも、切削インサートのインサート取付座への取付安定性を十分に確保することができ、インサート本体のがたつき等を抑えて高い加工精度を得ることができ、振動や騒音の発生を防いで円滑な切削加工を促すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の切削インサートの一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示す切削インサートを、その主面に対向してインサート本体の厚さ方向からみた側面図である。
【図3】図1に示す切削インサートを、その長側面に対向する方向から見た正面図である。
【図4】図1に示す切削インサートを、その短側面に対向する方向から見た平面図である。
【図5】図2におけるAA断面図である。
【図6】図2におけるBB断面図である。
【図7】本発明の刃先交換式切削工具の一実施形態における工具本体を示す斜視図である。
【図8】図7に示す工具本体のインサート取付座を示す斜視図である。
【図9】図7に示す工具本体に図1〜図6に示した実施形態の切削インサートを取り付けた、本発明の刃先交換式切削工具の一実施形態を示す斜視図である。
【図10】図9に示す刃先交換式切削工具を、その工具本体先端側から見た底面図である。
【図11】図10における矢線C方向視の側面図である。
【図12】図10における矢線D方向視の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1〜図6は、本発明の切削インサートの一実施形態を示すものである。図7および図8は、この実施形態の切削インサートが取り付けられる本発明の刃先交換式切削工具の一実施形態における工具本体を示すものである。図9〜図12は、この工具本体に図1〜図6に示した実施形態の切削インサートを取り付けた、本発明の刃先交換式切削工具の一実施形態を示すものである。
【0022】
本実施形態の切削インサートは、そのインサート本体1が超硬合金等の硬質材料により形成されている。また図2に示すように、切削インサートは、長板状であり、一対の主面2と、一対の長側面3と、一対の短側面4とを備えている。一対の主面2は、このようなインサート本体1のインサート取付孔8が貫通する方向すなわち厚さ方向(図3、図5における左右方向。図4、図6における上下方向。)を向く。一対の長側面3は、この主面2の長辺(図2において上下方向に延びる辺)に連なる。一対の短側面4は、同主面2の短辺(図2において左右方向に延びる辺)に連なる。
【0023】
なお、インサート本体1は、上記インサート本体1の上記厚さ方向に延びてこれら一対の主面2の中心同士を結ぶ中心線Xと、主面2の幅方向に延びて一対の長側面3の中心同士を結ぶ中心線Yと、主面2の長さ方向に延びて一対の短側面4の中心同士を結ぶ中心線Zとのそれぞれに関して、180°回転対称形状に形成されている。なお、上記中心線Xは第一の中心線であり、上記中心線Yは第二の中心線であり、上記中心線Zは第三の中心線である。
【0024】
そして、これら4つの側面のうち、長側面3と上記主面2との交差稜線部、すなわち長側面3の長辺には、この長側面3にすくい面を有し、主面2に第一逃げ面を有する主切刃5がそれぞれ形成され、長側面3と短側面4との交差稜線部すなわち長側面3の短辺には、長側面3にすくい面を有し、短側面4に第二逃げ面を有する副切刃6がそれぞれ形成されている。
【0025】
このうち、主切刃5と、各々の主切刃5に対して長側面3に対向する方向から見たときに上記長側面3の周回り方向のうち一方の方向(本実施形態では図3において時計回り方向)側に隣接する副切刃6とは、この長側面3に対向する方向から見たときに略円弧状をなすコーナ刃7に接して連続させられている。従って、1つのインサート本体1には、それぞれ4組ずつの連続した主切刃5とコーナ刃7と副切刃6とが形成される。また、円弧状のコーナ刃7が形成される主面2と短側面4との交差稜線部は円筒面状に形成されている。
【0026】
上記のように組をなす主切刃5と副切刃6は、同じく長側面3に対向する方向から見て、主切刃5が略全長に亙って略直線状に延びているのに対し、副切刃6はコーナ刃7に連なる短い部分が主切刃5に略直交する方向に延びる一方、これに連なってコーナ刃7から離間する方向に延びる部分は僅かに鈍角に曲折して主切刃5に対しては直角よりも僅かに鋭角に交差する方向に延びている。これにより、この長側面3は図3に示すように上記コーナ刃7が形成された角部が鋭角角部とされた概略平行四辺形状に形成される。
【0027】
ただし、同じく長側面3に対向する方向から見たときに、副切刃6は、上記長側面3がなす上記平行四辺形の鈍角角部側では凹曲するように延びてこの鈍角端部に至るように形成されており、この鈍角角部側の副切刃6は、実質的に切削に使用されることはない。言い換えれば、本実施形態では、副切刃6のうち、長側面3に対向する方向から見たときにコーナ刃7に連なって主切刃5に対し略直交する方向に延びる上記短い部分と、この部分に連なって主切刃5に対し鋭角に交差する方向に延びる部分のコーナ刃7側の部分とが副切刃6として使用される。従って、短側面4のうち上記短い部分の副切刃6に連なる部分は、この副切刃6の第二逃げ面4Aとなる。
【0028】
また、上記のように組をなす主切刃5、コーナ刃7、および副切刃6は、そのすくい面とされる上記長側面3の上記中心線Y方向(図2および図4において左右方向)においては、コーナ刃7が最も突出し、主切刃5および副切刃6は、このコーナ刃7の両端から凸曲線を描きつつ上記中心線Y方向に凹むように形成されている。従って、長側面3は、上記コーナ刃7とは反対の上記鈍角角部が図2および図4に示すように上記中心線Y方向において最も凹むように形成される。なお、副切刃6の上記鈍角角部の部分は、図4に示すように短側面4に対向する方向から見たときにも、上記凸曲線を描く部分から凹曲するように延びてこの鈍角端部に至るように形成されている。
【0029】
また、1つのインサート本体1の一対の長側面3同士は、図3に示すようにいずれの長側面3に対向する方向から見たときにも、一方の長側面3のコーナ刃7が反対側の長側面3がなす上記平行四辺形の鈍角角部よりも上記中心線Z方向に突出するように、また両長側面3の主切刃5同士が僅かな角度をもって交差して、反対側の長側面3の鈍角角部に連なる主切刃5が一方の長側面3のコーナ刃7に連なる主切刃5よりも僅かに突出するように、上記中心線Y回りに互いに捩られたような位置に配置されている。
【0030】
さらに、この長側面3の内側には、上記長側面3に対向する方向から見て図3に示すように長側面3と略相似であり、長側面3より小さな平行四辺形状をなす第1当接面3Aが形成されている。この第1当接面3Aは、中心線Yに垂直な平坦面状とされている。その中心線Y方向の位置は、上記中心線Y方向に最も突出したコーナ刃7と最も凹んだ上記鈍角角部との間にあって、これらコーナ刃7と鈍角角部との中間よりも中心線Y方向に凹んだ位置とされている。
【0031】
また、主切刃5、コーナ刃7、および副切刃6から長側面3の内側に向けて、この第1当接面3Aにかけては、内側に向かうに従い中心線Y方向に凹むように傾斜して凹むポジランド面3Bと、このポジランド面3Bの内側から凹曲面状をなして第1当接面3Aに連なるブレーカ面3Cとが順に形成されている。少なくともこれらポジランド面3Bとブレーカ面3Cとにより、上記主切刃5、コーナ刃7、および副切刃6のすくい面が形成される。
【0032】
なお、このうちブレーカ面3Cは、図6に示すように、ポジランド面3Bの内周縁が第1当接面3Aよりも中心線Y方向に突出している部分では、ポジランド面3Bと同様に内側に向かうに従い中心線Y方向に凹むように凹曲させられる一方、ポジランド面3Bの内周縁が第1当接面3Aよりも中心線Y方向に凹んでいる部分では、内側に向かうに従い中心線Y方向に凹むように凹曲させられている。
【0033】
一方、上記一対の主面2は、それぞれその上記一対の長側面3側の縁部2Aが、主面2の内側の部分に対して上記厚さ方向に一段突出するように形成されている。ここで、これらの縁部2Aは、主切刃5から上記中心線Y方向に略等しい幅で上記厚さ方向に突出するように形成されており、その主切刃5に連なる突面が上記主切刃5の第一逃げ面2Bとされて、この主切刃5から上記中心線Y方向に離間するに従い漸次に凹むように逃げ角が与えられている。また、主面2のこれら縁部2Aの間の部分は、上記厚さ方向に垂直、すなわち中心線Xに直交する平坦面であり、当接側面2Cとされる。従って、当接側面2Cは、長側面3の第1当接面3Aに対しても直交する方向に形成される。
【0034】
さらに、インサート本体1には、上記インサート本体1を上記厚さ方向に貫通するインサート取付孔8が形成されて、この主面2の上記当接側面2C部分に開口させられている。ここで、本実施形態では図1、図2、および図5に示すように、同形同大の一対のインサート取付孔8が、主面2の長辺が延びる長手方向、すなわち上記中心線Z方向に並んで開口するように形成されている。
【0035】
これらのインサート取付孔8は、後述するようにクランプネジによってインサート本体1を工具本体に取り付けるためのものである。図5および図6に示すように、インサート取付孔8は、開口部8Aと、被当接部8Bと、貫通部8Cとを備えている。開口部8Aは、一対の主面2の両当接側面2Cから上記厚さ方向の内側に向けて順に、厚さ方向内側に向かうに従い極小さな一定のテーパで縮径する。被当接部8Bは、この開口部8Aよりも大きなテーパ、または当上記インサート取付孔8の中心線に沿った断面において凸曲線状をなすようにして厚さ方向内側に向かうに従い縮径する。貫通部8Cは、縮径したこの被当接部8Bから略一定内径で貫通する。このうち被当接部8Bに上記クランプネジの頭部が当接させられて押圧されることにより、インサート本体1が固定されるようになされている。
【0036】
さらに、副切刃6の第二逃げ面4Aが形成された上記短側面4は全体的に、図2に示すように上記厚さ方向から見たときに、この短側面4が形成される上記主面2の短辺の中央部に向かうに従い上記中心線Z方向に上記主面2の内側に凹む凹V字状に形成されている。そして、こうして凹V字状に形成された短側面4の上記一対の長側面3に連なるV字面には、これら長側面3に形成された副切刃6に連なる一対の上記第二逃げ面4Aと一対の第2当接面4Bとが、やはり上記主面2の短辺中央部側に向かうに従い互いに上記主面2の内側に向かって延びるようにそれぞれ形成され、このうち上記第2当接面が本実施形態における当接面とされている。
【0037】
ここで、このように凹V字状をなす短側面4の各V字面において、副切刃6のうちコーナ刃7に連続する上記短い部分に連なる第二逃げ面4Aは、この短い部分の幅のままで主面2の内側に延びる上記中心線Xに平行な平面状とされている。第2当接面4Bは、副切刃6と同様にコーナ刃7から離間する方向に向けてこの第二逃げ面4Aに対して僅かに鈍角に交差して、長側面3がなす上記平行四辺形の鈍角角部側まで延びる平面状に形成されており、その面積は第二逃げ面4Aよりも大きくされている。
【0038】
従って、第2当接面4Bは、上記第2当接面4Bが連なる副切刃6と対をなす主切刃5が形成された主面2の上記当接側面2Cに対しては、上記中心線Yに直交する断面において直角よりも僅かに鋭角に交差する方向に形成される。また、第2当接面4Bは、この第2当接面4Bが連なる副切刃6のすくい面とされる長側面3の第1当接面3Aに対しては、中心線Xに直交する断面において鋭角に交差する方向に形成される一方、これとは反対側の長側面3に形成された第1当接面3Aに対しては、同じく中心線Xに直交する断面において鈍角に交差する方向に形成される。
【0039】
なお、こうして上記厚さ方向から見たときに上記短側面4がなす凹V字の挟角θは140°〜175°の範囲内とされている。ただし、本実施形態では、この挟角θは、上記厚さ方向(中心線X方向)に見たときの1つの短側面4における両V字面の第二逃げ面4A同士の交差角となる。また、この短側面4がなす凹V字の谷底部分において、両V字面の第二逃げ面4Aと当接面4B同士は、凹曲面4Cによって滑らかに連ねられている。
【0040】
従って、このように主面2の短辺に沿った短側面4が凹V字状をなすことにより、本実施形態のインサート本体1の主面2は、厳密には長方形の短辺が凹んだ偏六角形状を呈することになる。また、本実施形態では、同じく主面2の長辺に沿った主切刃5もコーナ刃7側が上記中心線Y方向に突出していることから、より厳密には主面2は、この長辺も凹んだ偏八角形状を呈することになる。
【0041】
ここで、このようにより厳密には偏八角形をなす主面2の長辺と短辺との比は、図2に示すように上記厚さ方向から見たときに上記厚さ方向に平行であり一対の短側面4に接する互いに平行な一対の仮想平面S間の距離である長さLと、上記厚さ方向から見たときに上記厚さ方向に平行であり一対の長側面3に接する互いに平行な一対の仮想平面S’間の距離である長さMとがなす比L/Mとして、本実施形態では1.2〜2.5の範囲内とされている。
【0042】
このように構成された本実施形態の切削インサートは、図7に示すような刃先交換式切削工具(転削工具)の工具本体11の、図8に示すようなインサート取付座12に着座させられて、上記インサート取付孔8に挿通されたクランプネジ13がねじ込まれることにより上記工具本体11に着脱可能に取り付けられ、図9〜図12に示すような本実施形態の刃先交換式切削工具を構成する。
【0043】
ここで、本実施形態の工具本体11は、軸線Oを中心として先端部(図11および図12において下側部分)が一段拡径した軸線O方向に縦長の外形略円盤状をなし、後端部が工作機械の主軸に取り付けられて軸線O回りに工具回転方向Tの前方側に回転されつつ、上記軸線Oに垂直な方向に送り出されて、上記切削インサートにより被削材を切削する。そして、この工具本体11の先端部外周には周方向に間隔をあけて複数のチップポケット14が形成され、これらのチップポケット14の工具回転方向Tの後方側の壁面に、上記インサート取付座12がそれぞれ形成されている。
【0044】
各インサート取付座12には、図8に示すように、取付座底面12Aと、取付座第1壁面12Bと、取付座第2壁面12Cとが、いずれも平面状に形成されている。取付座底面12Aは、工具本体11の外周側を向く。取付座第1壁面12Bは、工具回転方向Tの前方側を向く。取付座第2壁面12Cは、工具本体11の先端側を向く。このうち取付座底面12Aには、クランプネジ13がねじ込まれる一対のクランプネジ孔12Dが軸線O方向に並ぶように形成されている。なお、これら取付座底面12A、取付座第1、第2壁面12B、12Cのそれぞれの間には、インサート本体1の主切刃5、副切刃6、コーナ刃7、および上記縁部2Aとの干渉を避けるための凹曲面(凹円筒面)状の逃げ部15が形成されている。
【0045】
また、取付座底面12Aと取付座第1壁面12Bとは互いに直交する方向に形成されている。これに対して、取付座第2壁面12Cは、取付座底面12Aに対しては、取付座第1壁面12Bに平行な平面に沿った断面において直角よりも僅かに鋭角に交差する方向に形成されている。その交差角は、インサート本体1において第2当接面4Bが連なる副切刃6と対をなす主切刃5が形成された主面2の当接側面2Cに対して上記当接側面2Cがなす鋭角の角度と等しくされている。
【0046】
さらに、取付座第2壁面12Cは、インサート取付座12の工具回転方向Tの前方側に形成されて、工具回転方向Tの後方側に向かうに従い工具本体11の先端側に向かって傾斜させられている。また、取付座第2壁面12Cは、取付座底面12Aに平行な平面に沿った断面において、取付座第1壁面12Bとは鈍角に交差する方向に形成されている。取付座第2壁面12Cと取付座第1壁面12Bとの交差角は、インサート本体1の第2当接面4が、上記第2当接面4Bが連なる副切刃6のすくい面とされる長側面3とは反対側の長側面3の第1当接面3Aに対して中心線Xに直交する断面においてなす鈍角の角度と等しくされている。
【0047】
このように形成されたインサート取付座12に、上記実施形態の切削インサートは、インサート本体1の一対の主面2のうち一方の主面2を工具本体11内周側に向けて、その当接側面2Cを上記取付座底面12Aに当接させ、一対の長側面3のうち一方の長側面3を工具回転方向Tの後方側に向けて、その第1当接面3Aを上記取付座第1壁面12Bに当接させ、さらに一対の短側面4のうち一方の短側面4を工具本体11後端側に向けて、この一方の短側面4の一対の第2当接面4Bのうち、取付座第1壁面12Bに第1当接面3Aが当接させられた上記一方の長側面3とは反対側に位置する一方の第2当接面4Bを上記取付座第2壁面12Cに当接させて、着座させられる。
【0048】
そして、こうして着座させられた切削インサートは、一対の上記インサート取付孔8に挿通された一対のクランプネジ13がそれぞれ上記一対のクランプネジ孔12Dにねじ込まれることにより、これらのクランプネジ13の頭部がインサート取付孔8の被当接部8Bに当接して、インサート本体1を工具本体11内周側と工具回転方向Tの後方側かつ工具本体11後端側とに押圧することにより、工具本体11に固定されて着脱可能に取り付けられる。なお、上記一方の短側面4の一対の第2当接面4Bのうち、取付座第1壁面12Bに第1当接面3Aが当接させられた上記一方の長側面3側に位置する他方の第2当接面4Bと、これに連なる第二逃げ面4Aとは、上記取付座第2壁面12Cと取付座第1壁面12Bとの間に形成された逃げ部15内に収容される。
【0049】
こうして取り付けられた切削インサートにおいては、工具回転方向Tの前方側に向けられてすくい面とされる他方の長側面3の工具本体11外周側に位置した主切刃5が切削に使用され、この主切刃5には図11に示すように正のアキシャルレーキ角が与えられる。また、この主切刃5とコーナ刃7を介して連なり組みをなして切削に使用される副切刃6は、そのコーナ刃7に連続して長側面3に対向する方向から見たときに上記主切刃5に直交する方向に延びる上記短い部分が、軸線Oに直交する平面上に位置させられる。
【0050】
なお、これら切削に使用される主切刃5や副切刃6とは反対側の、取付座第1壁面12Bに当接させられた上記一方の長側面3の主切刃5、副切刃6、コーナ刃7、あるいは鈍角角部は、切削に使用される主切刃5の第一逃げ面(外周逃げ面)2Bが形成されて工具本体11の外周側に向けられる他方の主面2および、同じく切削に使用される副切刃6の第二逃げ面(先端逃げ面)4Aが形成されて工具本体11先端側に向けられる他方の短側面4に、適当な逃げ角が与えられることにより、被削材とは干渉しないようになされている。
【0051】
このように、上記構成の切削インサートにおいては、工具本体11のインサート取付座12に取り付けられた状態において工具本体11の後端側に向けられる一方の短側面4が、主面2に対向する方向から見て凹V字状をなして一対の第2当接面(当接面)4Bを備えている。上記短側面4が全体的に延びる方向は上述のように工具本体11先端側に向けられる他方の短側面4に逃げ角を与えるために工具回転方向Tの後方側に向かうに従い工具本体11の後端側に向かう方向であっても、上記一対の第2当接面4Bのうち、インサート取付座12の取付座第1壁面12Bに当接した一方の長側面3とは反対側の工具回転方向Tの前方側に位置する一方の第2当接面4Bは、図11に示すように工具回転方向Tの後方側に向かうに従い工具本体11の先端側に向かって傾斜するように配置することができる。
【0052】
従って、こうして工具回転方向Tの後方側に向かうに従い工具本体11の先端側に向かって傾斜する一方の第2当接面4Bに当接するように、工具本体11のインサート取付座12においてこの一方の短側面4に当接する取付座第2壁面12Cも工具本体11の先端側に向かって傾斜するように形成する。このことにより、切削時に主切刃5に大きな切削負荷が作用してインサート本体1が工具回転方向Tの後方側に押圧されても、この一方の第2当接面4Bが取付座第2壁面12Cに押し付けられることになって、第1当接面3Aの取付座第1壁面12Bへの当接とともにインサート本体1を安定して保持することが可能となる。
【0053】
このため、上記構成の切削インサートおよび刃先交換式切削工具によれば、特に上記主切刃5の切刃長が長くて深切込み時に大きな切削負荷が作用する場合でも、切削インサートの取付安定性を十分に確保して切削加工時のインサート本体1のがたつきなどを防ぐことができる。これにより加工精度の向上を図り、振動や騒音の発生を防いで円滑な切削加工を行うことが可能となる。これは、例えば本実施形態のようにインサート本体1の厚さ方向から見たときに、上記厚さ方向に平行であり一対の短側面4に接する互いに平行な一対の仮想平面S間の距離である長さLと、上記厚さ方向から見たときに、上記厚さ方向に平行であり一対の長側面3に接する互いに平行な一対の仮想平面S’間の距離である長さMとの比L/Mが1.2〜2.5の範囲内と大きく、上記主面2の長辺上に形成される主切刃5に作用する切削負荷も大きい場合に、特に有効である。
【0054】
一方、刃先交換式切削工具の工具本体11側においても、このようにインサート取付座12の取付座第2壁面12Cを工具本体11の先端側に向かって傾斜するように形成することにより、図8や図11に示すようにこの取付座第2壁面12Cと、チップポケット14の工具回転方向Tの前方側を向く壁面のうち取付座第2壁面12Cに交差する部分14Aとの交差角αを、鈍角側に設定することができる。このため、これらの交差部分において欠け等が生じてインサート本体1の取付安定性が損なわれてしまうような事態が発生するのも防ぐことができ、一層円滑な切削加工を促すことが可能となる。
【0055】
なお、本実施形態では、凹V字状をなす短側面4のV字面のうち、副切刃6の主切刃5に直交する方向に延びる部分に連なる第二逃げ面4Aに対して上記第2当接面4Bの方が面積が大きくされており、これによってもインサート本体1の取付安定性の向上を図ることができる。
【0056】
加えて、上記一方の第2当接面4Bは、インサート取付座12の取付座底面12Aに当接する一方の当接側面2Cに対して、直角よりも僅かに鋭角に交差する方向に形成され、これに伴い取付座第1壁面12Bも取付座底面12Aに対して鋭角に交差する方向に形成されているので、副切刃6に作用する切削負荷によってインサート本体1が工具本体11後端側に押し付けられると、インサート本体1とインサート取付座12との間に、いわゆるクサビ効果が作用する。このため、本実施形態によれば、副切刃6に過大な切削負荷が作用した場合でも、インサート本体1の取付安定性を確保することができる。
【0057】
なお、本実施形態では上述のように凹V字状に形成された短側面4の挟角θが140°〜175°の範囲内とされているが、この挟角θが大きすぎると、短側面4が主面2に対向する方向から見て平坦に近くなり、インサート取付座12の取付座第2壁面12Cおよびこれに当接させられた一方の短側面4の上記一方の第2当接面4Bを、工具回転方向Tの後方側に向かうに従い工具本体11の先端側に向かって傾斜させることができなくなる。あるいは、傾斜させることはできても工具本体11の軸線Oに垂直な平面に対する傾斜角が緩やかとなり、上述の効果を確実に奏することができなくなるおそれが生じる。
【0058】
その一方で、この挟角θが小さすぎると、工具本体11の先端側に向けられて先端逃げ面とされるインサート本体1の他方の短側面4において工具回転方向Tの前方側に位置する第二逃げ面4Aと、工具回転方向Tの前方側に向けられてすくい面とされる他方の長側面3との交差角、すなわち副切刃6の刃物角が小さくなり、切刃強度が損なわれて欠損等を生じ易くなる。このため、上記挟角θは、本実施形態のように140°〜175°の範囲内に設定されるのが望ましい。
【0059】
また、本実施形態の切削インサートでは、そのインサート本体1に一対のインサート取付孔8が主面2の長辺が延びる方向(中心線Z方向)に並ぶように形成されており、これらのインサート取付孔8にそれぞれ挿通された一対のクランプネジ13がインサート取付座12の一対のクランプネジ孔12Dにねじ込まれることにより切削インサートが取り付けられる。よって、特許文献1、2に記載された切削インサートのように1つの取付孔に1本のクランプネジを挿通して取り付けるのに比べて、クランプ力自体が強いのは勿論、大きな切削負荷が作用したときでもインサート取付孔8回りにインサート本体1が回転するようにしてがたつきが生じるようなこともない。
【0060】
しかも、長板状のインサート本体1に対して、このように一対のインサート取付孔8を形成することにより、これらインサート取付孔8とインサート本体1の長短側面3、4との間隔やインサート取付孔8同士の間の肉厚に大きな差が生じるのを避けることができる。このため、このようなインサート本体1を、超硬合金のように原料粉末からプレス成形された圧粉体を焼結することにより製造する場合において、この圧粉体における肉厚の差が大きくなるのも防ぐことができ、かかる圧粉体の肉厚の差によって焼結後のインサート本体1の寸法精度や形状精度が損なわれたりするのも防止することができる。
【0061】
一方、本実施形態の切削インサートでは、インサート本体1の主面2の一対の長側面3側の縁部2Aが、これよりも内側の上記当接側面2Cに対して上記厚さ方向に突出するように形成されており、これら主面2と長側面3との交差稜線部に形成される主切刃5の第一逃げ面2Bはこの縁部2A上に形成される。このため、上述のような大きな切削負荷が主切刃5に作用して、万一この主切刃5に欠損が生じたりしても、このような欠損やこれに伴う亀裂等が、突出した上記縁部2Aを超えて広がるのを防ぐことができ、インサート取付孔8や反対側の長側面3にまで亀裂等が達してインサートが潰えてしまい、インサートの寿命が短くなることを避けることができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の切削インサートおよび刃先交換式切削工具によれば、インサート本体の主切刃の切刃長が長くて大きな切削負荷が作用したような場合でも、切削インサートのインサート取付座への取付安定性を十分に確保することができ、インサート本体のがたつき等を抑えて高い加工精度を得ることができ、振動や騒音の発生を防いで円滑な切削加工を促すことが可能となる。
【符号の説明】
【0063】
1 インサート本体
2 主面
2A 主面2の縁部
2B 第一逃げ面(外周逃げ面)
2C 当接側面
3 長側面
3A 第1当接面
4 短側面
4A 第二逃げ面(先端逃げ面)
4B 第2当接面(当接面)
5 主切刃
6 副切刃
7 コーナ刃
8 インサート取付孔
11 工具本体
12 インサート取付座
12A 取付座底面
12B 取付座第1壁面
12C 取付座第2壁面
12D クランプネジ孔
13 クランプネジ
L 一対の仮想平面S間の距離
M 一対の仮想平面S’間の距離
O 工具本体11の軸線
S インサート本体1の厚さ方向から見たときに上記厚さ方向に平行であり一対の短側面4に接する互いに平行な一対の仮想平面
S’ インサート本体1の厚さ方向から見たときに上記厚さ方向に平行であり一対の長側面3に接する互いに平行な一対の仮想平面
T 工具回転方向
θ 凹V字状をなす短側面4の挟角
【技術分野】
【0001】
本発明は、長板状のインサート本体の厚さ方向を向く面の周りに配置される側面がすくい面とされた、いわゆる縦刃式の切削インサート、およびこのような切削インサートを、軸線回りに回転される工具本体の先端部外周に形成されたインサート取付座に着脱可能に取り付けた刃先交換式切削工具に関するものである。
本願は、2011年01月18日に日本に出願された特願2011−007995号について優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
縦刃式の切削インサートとして、例えば特許文献1や特許文献2には、略長方形の形状を有する2つの端面と、インサート本体の厚さ方向を向いて略平行四辺形の形状を有する2つの側面と、2つの小さな側面とにより形成されて概略四角形板状をなし、ただし上記略平行四辺形の側面に対向して上記厚さ方向に見たときには、これらがなす平行四辺形がその鋭角角部と鈍角角部とを互い違いに位置させるようにしていて、これにより上記端面がインサートの内側に凹む凹V字状とされたものが提案されている。
【0003】
このような特許文献1、2に記載の切削インサートは、軸線回りに回転される工具本体の先端部外周に形成されたインサート取付座に、上記2つの端面のうちの1つをすくい面として工具回転方向の前方側に向け、上記略平行四辺形の2つの側面のうちの1つを外周逃げ面として工具外周側に向け、また上記2つの小さな側面のうちの1つを先端逃げ面として工具先端側に向けて着座させられ、上記略平行四辺形の側面の中央に開口するように貫設された取付孔にクランプネジが挿通されて工具本体にねじ込まれることにより、着脱可能に取り付けられる。
【0004】
そして、こうして取り付けられた切削インサートは、上記すくい面とされた端面と外周逃げ面とされた略平行四辺形の側面との交差稜線部に形成された主切刃と、同様にすくい面とされた端面と先端逃げ面とされた小さな側面との交差稜線部に形成された副切刃とにより、被削材に切削加工を施してゆく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2006−508810号公報(図1、図4、図7)
【特許文献2】特表2005−528230号公報(図1、図4、図8、図11、図14)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これら特許文献1、2に記載の切削インサートは、上述のようにインサート取付座に取り付けられた状態で、上記外周逃げ面とされた側面の反対側の側面がインサート取付座の工具外周側を向く底面に当接させられる。またすくい面とされた端面の反対側の端面は、インサート取付座の工具回転方向の前方側を向く壁面に当接させられる。先端逃げ面とされた小さな側面の反対側の小さな側面は、インサート取付座の工具先端側を向く壁面に当接させられて、上記インサート取付座に拘束される。
【0007】
このインサート取付座の工具先端側を向く壁面に当接させられる小さな側面は、反対側の先端逃げ面とされた小さな側面に逃げ角が与えられるのに伴い、工具回転方向の後方側に向かうに従い工具本体の後端側に向けて傾斜するように延びる。これに合わせてインサート取付座の工具先端側を向く壁面も同様に、工具回転方向の後方側に向かうに従い工具後端側に傾斜するため、主切刃に大きな切削負荷が作用して切削インサートが工具回転方向の後方側に強く押圧されると、この小さな側面はインサート取付座の工具先端側を向く壁面から離れてしまう。
【0008】
従って、特許文献1、2に記載の切削インサートおよび刃先交換式切削工具では、こうして大きな切削負荷が作用したときに切削インサートにがたつきが生じたりして取り付けが不安定となることが避けられず、加工精度の劣化を招いたり、振動および騒音が発生して円滑な切削加工を行うことが困難となったりするおそれがあった。そして、このような問題は、切り込み深さを大きくするために上記主切刃の切刃長が長くされて、すなわち上記厚さ方向に見たときにインサート本体が長板状をなしている切削インサートにおいて特に顕著となる。
【0009】
本発明は、このような背景の下になされたもので、インサート本体が長板状をなしていても、主切刃に大きな切削負荷が作用したときの取付安定性を確保することができ、加工精度の劣化および振動、騒音の発生を防ぐことが可能な切削インサート、および上記切削インサートを着脱可能に取り付けた刃先交換式切削工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の切削インサートは、長板状に形成されるインサート本体を有し、
上記インサート本体は、
長辺と短辺とを有し、上記インサート本体の厚さ方向に対向する一対の主面(長方形面)と、
上記主面の長辺が延びる長さ方向に沿って形成され、上記主面の短辺が延びる幅方向に対向する一対の長側面と、
上記主面の幅方向に沿って形成され、上記主面の長さ方向に対向する一対の短側面とを有し、
上記インサート本体は、上記インサート本体の上記厚さ方向に延びてこれら一対の前記主面の中心同士を結ぶ第一の中心線と、前記主面の上記幅方向に延びて一対の前記長側面の中心同士を結ぶ第二の中心線と、前記主面の上記長さ方向に延びて一対の前記短側面の中心同士を結ぶ第三の中心線とのそれぞれに関して、180°回転対称形状に形成され、
上記主面と上記長側面との交差稜線部には主切刃がそれぞれ形成され、これら主切刃は、上記長側面にすくい面を有するとともに、上記主面に第一逃げ面を有し、
上記短側面と上記長側面との交差稜線部には副切刃がそれぞれ形成され、これら副切刃は上記長側面にすくい面を有するとともに、上記短側面に第二逃げ面を有して、上記主切刃に連なっており、
上記副切刃の上記第二逃げ面が形成された上記短側面は、上記厚さ方向から見たときに、上記主面の短辺の中央部に向かうに従い互いに上記主面の内側に向かって延びる一対の当接面を備えて凹V字状に形成されている。
【0011】
また、本発明の刃先交換式切削工具は、軸線回りに工具回転方向に回転される工具本体を有し、
上記工具本体の先端部の外周にはインサート取付座が形成され、
上記インサート取付座は、上記工具本体の外周側を向く取付座底面と、
上記工具回転方向の前方側を向く取付座第1壁面と、
上記工具本体の先端側を向いて上記工具回転方向の後方側に向かうに従い上記工具本体の先端側に向かって傾斜する取付座第2壁面とを備え、
上記インサート取付座には、上記切削インサートが着脱可能に取り付けられており、上記インサート本体の上記一対の主面のうちの一方を上記工具本体の内周側に向けて上記取付座底面に当接させられ、
上記一対の長側面のうちの一方を上記工具回転方向の後方側に向けて上記取付座第1壁面に当接させられ、
上記一対の短側面のうちの一方を上記工具本体の後端側に向けて、上記一方の短側面の上記一対の当接面のうち、上記一方の長側面とは反対側に位置する一方の当接面を上記取付座第2壁面に当接させられている。
【0012】
本発明の切削インサートでは、上述のように副切刃の第二逃げ面が形成されるインサート本体の一対の短側面が、主切刃の第一逃げ面が形成される上記主面に対向する上記厚さ方向に見たときにそれぞれ一対の当接面を備えて凹V字状をなすようにされている。従って切削加工時には、上記短側面は、この副切刃の第二逃げ面として工具先端側に向けられた短側面とは反対側の工具後端側に向けられる。また、前記短側面の一方の当接面は、インサート取付座の工具回転方向の前方側を向く取付座第1壁面に当接した一方の長側面側とは反対側に位置される。よって、短側面における工具回転方向の前方側に位置する当接面は、工具回転方向の後方側に向かうに従い工具本体の先端側に向かって傾斜するように配置することができる。
【0013】
本発明の刃先交換式切削工具のように、インサート取付座に、この一方の当接面と同様に工具回転方向の後方側に向かうに従い上記工具本体の先端側に向かって傾斜する取付座第2壁面を形成する。この取付座第2壁面に上記一方の当接面を当接させるようにして切削インサートを取り付けることにより、この一方の当接面は、切削インサートが工具回転方向の後方側に押圧されると上記取付座第2壁面により強く押し付けられる。このため、工具回転方向の前方側に向けられてすくい面が形成された長側面と工具外周側に向けられて第一逃げ面(外周逃げ面)が形成された主面との交差稜線部の主切刃に大きな切削負荷が作用しても、切削インサートのインサート取付座への取付安定性が損なわれるのを防ぐことができる。
【0014】
従って、上記の切削インサートによれば、例えば、上記厚さ方向から見たときに上記厚さ方向に平行であり上記一対の短側面に接する互いに平行な一対の仮想平面間の距離と、上記厚さ方向から見たときに上記厚さ方向に平行であり上記一対の長側面に接する互いに平行な一対の仮想平面間の距離との比が、1.2〜2.5の範囲内とされている。すなわち、上記主面の長さ方向に形成される上記主切刃の切刃長が上記主面の短辺の長さに比べて長く、従って主切刃から作用する切削負荷が大きくなりがちな場合でも、インサート取付座への取付安定性を十分に確保して、加工精度の向上や切削加工時の振動、騒音の防止を図ることが可能となる。
【0015】
なお、上記厚さ方向から見たときに上記短側面がなす凹V字の挟角は、大きすぎると短側面が上記厚さ方向に見たときに平坦に近くなって、工具本体先端側に向けられて先端逃げ面とされる短側面に与えられる逃げ角によっては、上記一方の当接面を工具回転方向の後方側に向かうに従い工具本体先端側に向かって傾斜するように配置して同じ方向に傾斜した取付座第2壁面に当接させることが困難となるおそれが生じる。ただし、上記挟角が逆に小さすぎると、インサート本体の上記先端逃げ面とされる短側面とすくい面とされる長側面とがなす交差角、すなわち副切刃の刃物角が小さくなって欠損等を生じ易くなるので、上記短側面がなす凹V字の挟角は、140°〜175°の範囲内とされるのが望ましい。
【0016】
一方、特許文献1、2に記載された切削インサートのように、インサート本体を工具本体に取り付けるためのクランプネジが挿通される取付孔が略平行四辺形の側面の中央に開口するように1つ貫設されているだけであると、特にインサート本体の厚さ方向から見たときに、上記厚さ方向に平行であり上記一対の短側面に接する互いに平行な一対の仮想平面間の距離と、上記厚さ方向から見たときに、上記厚さ方向に平行であり上記一対の長側面に接する互いに平行な一対の仮想平面間の距離との比が上述のように大きい切削インサートでは、上述のような過大な切削負荷が作用したときに、この取付孔の中心線回りにインサート本体が回転するようにしてがたつきを生じるおそれがある。また、このようなインサート本体を、超硬合金等の原料粉末から圧粉体をプレス成形して焼結することにより製造する場合には、圧粉体における取付孔と長側面との間の肉厚と、取付孔と短側面との間の肉厚との差が著しく大きくなるため、焼結後のインサート本体において変形や寸法精度の低下が生じるおそれもある。
【0017】
本発明のインサート本体には、上記主面に開口して上記インサート本体を上記厚さ方向に貫通する一対のインサート取付孔が備えられ、上記一対のインサート取付孔が、上記主面の上記長さ方向に並んで形成されていることが望ましい。これにより、インサート本体をいずれか一方のインサート取付孔の中心線回りに回転させるような力が作用しても、他方のインサート取付孔に挿通されたクランプネジによってがたつきが生じるのを防ぐことができる。また、インサート本体を上述のような圧粉体を焼結して製造する場合でも、圧粉体におけるインサート取付孔と長側面および短側面との間のインサート本体の肉厚および、インサート取付孔同士の間の肉厚とに大きな差が生じるのを避けることができて、焼結後の変形や寸法精度低下を防ぐことができる。
【0018】
さらに、インサート本体の上記主面は、上記一対の長側面側の縁部が、上記主面よりも内側の部分に対して上記厚さ方向に突出するように形成される。このことにより、上記縁部と長側面との交差稜線部に形成される上記主切刃に欠損等が生じても、これを上記縁部の厚さ方向に突出した部分までに抑えて、例えば、上記インサート取付孔や反対側の長側面にまで欠損や亀裂が達することによりインサート寿命が潰えてしまうのを防ぐことができる。なお、このように主面の縁部を突出させた場合、インサート取付座の上記取付座底面には、これらの縁部の内側部分の主面を当接させるようにすればよい。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の切削インサートおよび刃先交換式切削工具によれば、インサート本体の主切刃の切刃長が長くて大きな切削負荷が作用したような場合でも、切削インサートのインサート取付座への取付安定性を十分に確保することができ、インサート本体のがたつき等を抑えて高い加工精度を得ることができ、振動や騒音の発生を防いで円滑な切削加工を促すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の切削インサートの一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示す切削インサートを、その主面に対向してインサート本体の厚さ方向からみた側面図である。
【図3】図1に示す切削インサートを、その長側面に対向する方向から見た正面図である。
【図4】図1に示す切削インサートを、その短側面に対向する方向から見た平面図である。
【図5】図2におけるAA断面図である。
【図6】図2におけるBB断面図である。
【図7】本発明の刃先交換式切削工具の一実施形態における工具本体を示す斜視図である。
【図8】図7に示す工具本体のインサート取付座を示す斜視図である。
【図9】図7に示す工具本体に図1〜図6に示した実施形態の切削インサートを取り付けた、本発明の刃先交換式切削工具の一実施形態を示す斜視図である。
【図10】図9に示す刃先交換式切削工具を、その工具本体先端側から見た底面図である。
【図11】図10における矢線C方向視の側面図である。
【図12】図10における矢線D方向視の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1〜図6は、本発明の切削インサートの一実施形態を示すものである。図7および図8は、この実施形態の切削インサートが取り付けられる本発明の刃先交換式切削工具の一実施形態における工具本体を示すものである。図9〜図12は、この工具本体に図1〜図6に示した実施形態の切削インサートを取り付けた、本発明の刃先交換式切削工具の一実施形態を示すものである。
【0022】
本実施形態の切削インサートは、そのインサート本体1が超硬合金等の硬質材料により形成されている。また図2に示すように、切削インサートは、長板状であり、一対の主面2と、一対の長側面3と、一対の短側面4とを備えている。一対の主面2は、このようなインサート本体1のインサート取付孔8が貫通する方向すなわち厚さ方向(図3、図5における左右方向。図4、図6における上下方向。)を向く。一対の長側面3は、この主面2の長辺(図2において上下方向に延びる辺)に連なる。一対の短側面4は、同主面2の短辺(図2において左右方向に延びる辺)に連なる。
【0023】
なお、インサート本体1は、上記インサート本体1の上記厚さ方向に延びてこれら一対の主面2の中心同士を結ぶ中心線Xと、主面2の幅方向に延びて一対の長側面3の中心同士を結ぶ中心線Yと、主面2の長さ方向に延びて一対の短側面4の中心同士を結ぶ中心線Zとのそれぞれに関して、180°回転対称形状に形成されている。なお、上記中心線Xは第一の中心線であり、上記中心線Yは第二の中心線であり、上記中心線Zは第三の中心線である。
【0024】
そして、これら4つの側面のうち、長側面3と上記主面2との交差稜線部、すなわち長側面3の長辺には、この長側面3にすくい面を有し、主面2に第一逃げ面を有する主切刃5がそれぞれ形成され、長側面3と短側面4との交差稜線部すなわち長側面3の短辺には、長側面3にすくい面を有し、短側面4に第二逃げ面を有する副切刃6がそれぞれ形成されている。
【0025】
このうち、主切刃5と、各々の主切刃5に対して長側面3に対向する方向から見たときに上記長側面3の周回り方向のうち一方の方向(本実施形態では図3において時計回り方向)側に隣接する副切刃6とは、この長側面3に対向する方向から見たときに略円弧状をなすコーナ刃7に接して連続させられている。従って、1つのインサート本体1には、それぞれ4組ずつの連続した主切刃5とコーナ刃7と副切刃6とが形成される。また、円弧状のコーナ刃7が形成される主面2と短側面4との交差稜線部は円筒面状に形成されている。
【0026】
上記のように組をなす主切刃5と副切刃6は、同じく長側面3に対向する方向から見て、主切刃5が略全長に亙って略直線状に延びているのに対し、副切刃6はコーナ刃7に連なる短い部分が主切刃5に略直交する方向に延びる一方、これに連なってコーナ刃7から離間する方向に延びる部分は僅かに鈍角に曲折して主切刃5に対しては直角よりも僅かに鋭角に交差する方向に延びている。これにより、この長側面3は図3に示すように上記コーナ刃7が形成された角部が鋭角角部とされた概略平行四辺形状に形成される。
【0027】
ただし、同じく長側面3に対向する方向から見たときに、副切刃6は、上記長側面3がなす上記平行四辺形の鈍角角部側では凹曲するように延びてこの鈍角端部に至るように形成されており、この鈍角角部側の副切刃6は、実質的に切削に使用されることはない。言い換えれば、本実施形態では、副切刃6のうち、長側面3に対向する方向から見たときにコーナ刃7に連なって主切刃5に対し略直交する方向に延びる上記短い部分と、この部分に連なって主切刃5に対し鋭角に交差する方向に延びる部分のコーナ刃7側の部分とが副切刃6として使用される。従って、短側面4のうち上記短い部分の副切刃6に連なる部分は、この副切刃6の第二逃げ面4Aとなる。
【0028】
また、上記のように組をなす主切刃5、コーナ刃7、および副切刃6は、そのすくい面とされる上記長側面3の上記中心線Y方向(図2および図4において左右方向)においては、コーナ刃7が最も突出し、主切刃5および副切刃6は、このコーナ刃7の両端から凸曲線を描きつつ上記中心線Y方向に凹むように形成されている。従って、長側面3は、上記コーナ刃7とは反対の上記鈍角角部が図2および図4に示すように上記中心線Y方向において最も凹むように形成される。なお、副切刃6の上記鈍角角部の部分は、図4に示すように短側面4に対向する方向から見たときにも、上記凸曲線を描く部分から凹曲するように延びてこの鈍角端部に至るように形成されている。
【0029】
また、1つのインサート本体1の一対の長側面3同士は、図3に示すようにいずれの長側面3に対向する方向から見たときにも、一方の長側面3のコーナ刃7が反対側の長側面3がなす上記平行四辺形の鈍角角部よりも上記中心線Z方向に突出するように、また両長側面3の主切刃5同士が僅かな角度をもって交差して、反対側の長側面3の鈍角角部に連なる主切刃5が一方の長側面3のコーナ刃7に連なる主切刃5よりも僅かに突出するように、上記中心線Y回りに互いに捩られたような位置に配置されている。
【0030】
さらに、この長側面3の内側には、上記長側面3に対向する方向から見て図3に示すように長側面3と略相似であり、長側面3より小さな平行四辺形状をなす第1当接面3Aが形成されている。この第1当接面3Aは、中心線Yに垂直な平坦面状とされている。その中心線Y方向の位置は、上記中心線Y方向に最も突出したコーナ刃7と最も凹んだ上記鈍角角部との間にあって、これらコーナ刃7と鈍角角部との中間よりも中心線Y方向に凹んだ位置とされている。
【0031】
また、主切刃5、コーナ刃7、および副切刃6から長側面3の内側に向けて、この第1当接面3Aにかけては、内側に向かうに従い中心線Y方向に凹むように傾斜して凹むポジランド面3Bと、このポジランド面3Bの内側から凹曲面状をなして第1当接面3Aに連なるブレーカ面3Cとが順に形成されている。少なくともこれらポジランド面3Bとブレーカ面3Cとにより、上記主切刃5、コーナ刃7、および副切刃6のすくい面が形成される。
【0032】
なお、このうちブレーカ面3Cは、図6に示すように、ポジランド面3Bの内周縁が第1当接面3Aよりも中心線Y方向に突出している部分では、ポジランド面3Bと同様に内側に向かうに従い中心線Y方向に凹むように凹曲させられる一方、ポジランド面3Bの内周縁が第1当接面3Aよりも中心線Y方向に凹んでいる部分では、内側に向かうに従い中心線Y方向に凹むように凹曲させられている。
【0033】
一方、上記一対の主面2は、それぞれその上記一対の長側面3側の縁部2Aが、主面2の内側の部分に対して上記厚さ方向に一段突出するように形成されている。ここで、これらの縁部2Aは、主切刃5から上記中心線Y方向に略等しい幅で上記厚さ方向に突出するように形成されており、その主切刃5に連なる突面が上記主切刃5の第一逃げ面2Bとされて、この主切刃5から上記中心線Y方向に離間するに従い漸次に凹むように逃げ角が与えられている。また、主面2のこれら縁部2Aの間の部分は、上記厚さ方向に垂直、すなわち中心線Xに直交する平坦面であり、当接側面2Cとされる。従って、当接側面2Cは、長側面3の第1当接面3Aに対しても直交する方向に形成される。
【0034】
さらに、インサート本体1には、上記インサート本体1を上記厚さ方向に貫通するインサート取付孔8が形成されて、この主面2の上記当接側面2C部分に開口させられている。ここで、本実施形態では図1、図2、および図5に示すように、同形同大の一対のインサート取付孔8が、主面2の長辺が延びる長手方向、すなわち上記中心線Z方向に並んで開口するように形成されている。
【0035】
これらのインサート取付孔8は、後述するようにクランプネジによってインサート本体1を工具本体に取り付けるためのものである。図5および図6に示すように、インサート取付孔8は、開口部8Aと、被当接部8Bと、貫通部8Cとを備えている。開口部8Aは、一対の主面2の両当接側面2Cから上記厚さ方向の内側に向けて順に、厚さ方向内側に向かうに従い極小さな一定のテーパで縮径する。被当接部8Bは、この開口部8Aよりも大きなテーパ、または当上記インサート取付孔8の中心線に沿った断面において凸曲線状をなすようにして厚さ方向内側に向かうに従い縮径する。貫通部8Cは、縮径したこの被当接部8Bから略一定内径で貫通する。このうち被当接部8Bに上記クランプネジの頭部が当接させられて押圧されることにより、インサート本体1が固定されるようになされている。
【0036】
さらに、副切刃6の第二逃げ面4Aが形成された上記短側面4は全体的に、図2に示すように上記厚さ方向から見たときに、この短側面4が形成される上記主面2の短辺の中央部に向かうに従い上記中心線Z方向に上記主面2の内側に凹む凹V字状に形成されている。そして、こうして凹V字状に形成された短側面4の上記一対の長側面3に連なるV字面には、これら長側面3に形成された副切刃6に連なる一対の上記第二逃げ面4Aと一対の第2当接面4Bとが、やはり上記主面2の短辺中央部側に向かうに従い互いに上記主面2の内側に向かって延びるようにそれぞれ形成され、このうち上記第2当接面が本実施形態における当接面とされている。
【0037】
ここで、このように凹V字状をなす短側面4の各V字面において、副切刃6のうちコーナ刃7に連続する上記短い部分に連なる第二逃げ面4Aは、この短い部分の幅のままで主面2の内側に延びる上記中心線Xに平行な平面状とされている。第2当接面4Bは、副切刃6と同様にコーナ刃7から離間する方向に向けてこの第二逃げ面4Aに対して僅かに鈍角に交差して、長側面3がなす上記平行四辺形の鈍角角部側まで延びる平面状に形成されており、その面積は第二逃げ面4Aよりも大きくされている。
【0038】
従って、第2当接面4Bは、上記第2当接面4Bが連なる副切刃6と対をなす主切刃5が形成された主面2の上記当接側面2Cに対しては、上記中心線Yに直交する断面において直角よりも僅かに鋭角に交差する方向に形成される。また、第2当接面4Bは、この第2当接面4Bが連なる副切刃6のすくい面とされる長側面3の第1当接面3Aに対しては、中心線Xに直交する断面において鋭角に交差する方向に形成される一方、これとは反対側の長側面3に形成された第1当接面3Aに対しては、同じく中心線Xに直交する断面において鈍角に交差する方向に形成される。
【0039】
なお、こうして上記厚さ方向から見たときに上記短側面4がなす凹V字の挟角θは140°〜175°の範囲内とされている。ただし、本実施形態では、この挟角θは、上記厚さ方向(中心線X方向)に見たときの1つの短側面4における両V字面の第二逃げ面4A同士の交差角となる。また、この短側面4がなす凹V字の谷底部分において、両V字面の第二逃げ面4Aと当接面4B同士は、凹曲面4Cによって滑らかに連ねられている。
【0040】
従って、このように主面2の短辺に沿った短側面4が凹V字状をなすことにより、本実施形態のインサート本体1の主面2は、厳密には長方形の短辺が凹んだ偏六角形状を呈することになる。また、本実施形態では、同じく主面2の長辺に沿った主切刃5もコーナ刃7側が上記中心線Y方向に突出していることから、より厳密には主面2は、この長辺も凹んだ偏八角形状を呈することになる。
【0041】
ここで、このようにより厳密には偏八角形をなす主面2の長辺と短辺との比は、図2に示すように上記厚さ方向から見たときに上記厚さ方向に平行であり一対の短側面4に接する互いに平行な一対の仮想平面S間の距離である長さLと、上記厚さ方向から見たときに上記厚さ方向に平行であり一対の長側面3に接する互いに平行な一対の仮想平面S’間の距離である長さMとがなす比L/Mとして、本実施形態では1.2〜2.5の範囲内とされている。
【0042】
このように構成された本実施形態の切削インサートは、図7に示すような刃先交換式切削工具(転削工具)の工具本体11の、図8に示すようなインサート取付座12に着座させられて、上記インサート取付孔8に挿通されたクランプネジ13がねじ込まれることにより上記工具本体11に着脱可能に取り付けられ、図9〜図12に示すような本実施形態の刃先交換式切削工具を構成する。
【0043】
ここで、本実施形態の工具本体11は、軸線Oを中心として先端部(図11および図12において下側部分)が一段拡径した軸線O方向に縦長の外形略円盤状をなし、後端部が工作機械の主軸に取り付けられて軸線O回りに工具回転方向Tの前方側に回転されつつ、上記軸線Oに垂直な方向に送り出されて、上記切削インサートにより被削材を切削する。そして、この工具本体11の先端部外周には周方向に間隔をあけて複数のチップポケット14が形成され、これらのチップポケット14の工具回転方向Tの後方側の壁面に、上記インサート取付座12がそれぞれ形成されている。
【0044】
各インサート取付座12には、図8に示すように、取付座底面12Aと、取付座第1壁面12Bと、取付座第2壁面12Cとが、いずれも平面状に形成されている。取付座底面12Aは、工具本体11の外周側を向く。取付座第1壁面12Bは、工具回転方向Tの前方側を向く。取付座第2壁面12Cは、工具本体11の先端側を向く。このうち取付座底面12Aには、クランプネジ13がねじ込まれる一対のクランプネジ孔12Dが軸線O方向に並ぶように形成されている。なお、これら取付座底面12A、取付座第1、第2壁面12B、12Cのそれぞれの間には、インサート本体1の主切刃5、副切刃6、コーナ刃7、および上記縁部2Aとの干渉を避けるための凹曲面(凹円筒面)状の逃げ部15が形成されている。
【0045】
また、取付座底面12Aと取付座第1壁面12Bとは互いに直交する方向に形成されている。これに対して、取付座第2壁面12Cは、取付座底面12Aに対しては、取付座第1壁面12Bに平行な平面に沿った断面において直角よりも僅かに鋭角に交差する方向に形成されている。その交差角は、インサート本体1において第2当接面4Bが連なる副切刃6と対をなす主切刃5が形成された主面2の当接側面2Cに対して上記当接側面2Cがなす鋭角の角度と等しくされている。
【0046】
さらに、取付座第2壁面12Cは、インサート取付座12の工具回転方向Tの前方側に形成されて、工具回転方向Tの後方側に向かうに従い工具本体11の先端側に向かって傾斜させられている。また、取付座第2壁面12Cは、取付座底面12Aに平行な平面に沿った断面において、取付座第1壁面12Bとは鈍角に交差する方向に形成されている。取付座第2壁面12Cと取付座第1壁面12Bとの交差角は、インサート本体1の第2当接面4が、上記第2当接面4Bが連なる副切刃6のすくい面とされる長側面3とは反対側の長側面3の第1当接面3Aに対して中心線Xに直交する断面においてなす鈍角の角度と等しくされている。
【0047】
このように形成されたインサート取付座12に、上記実施形態の切削インサートは、インサート本体1の一対の主面2のうち一方の主面2を工具本体11内周側に向けて、その当接側面2Cを上記取付座底面12Aに当接させ、一対の長側面3のうち一方の長側面3を工具回転方向Tの後方側に向けて、その第1当接面3Aを上記取付座第1壁面12Bに当接させ、さらに一対の短側面4のうち一方の短側面4を工具本体11後端側に向けて、この一方の短側面4の一対の第2当接面4Bのうち、取付座第1壁面12Bに第1当接面3Aが当接させられた上記一方の長側面3とは反対側に位置する一方の第2当接面4Bを上記取付座第2壁面12Cに当接させて、着座させられる。
【0048】
そして、こうして着座させられた切削インサートは、一対の上記インサート取付孔8に挿通された一対のクランプネジ13がそれぞれ上記一対のクランプネジ孔12Dにねじ込まれることにより、これらのクランプネジ13の頭部がインサート取付孔8の被当接部8Bに当接して、インサート本体1を工具本体11内周側と工具回転方向Tの後方側かつ工具本体11後端側とに押圧することにより、工具本体11に固定されて着脱可能に取り付けられる。なお、上記一方の短側面4の一対の第2当接面4Bのうち、取付座第1壁面12Bに第1当接面3Aが当接させられた上記一方の長側面3側に位置する他方の第2当接面4Bと、これに連なる第二逃げ面4Aとは、上記取付座第2壁面12Cと取付座第1壁面12Bとの間に形成された逃げ部15内に収容される。
【0049】
こうして取り付けられた切削インサートにおいては、工具回転方向Tの前方側に向けられてすくい面とされる他方の長側面3の工具本体11外周側に位置した主切刃5が切削に使用され、この主切刃5には図11に示すように正のアキシャルレーキ角が与えられる。また、この主切刃5とコーナ刃7を介して連なり組みをなして切削に使用される副切刃6は、そのコーナ刃7に連続して長側面3に対向する方向から見たときに上記主切刃5に直交する方向に延びる上記短い部分が、軸線Oに直交する平面上に位置させられる。
【0050】
なお、これら切削に使用される主切刃5や副切刃6とは反対側の、取付座第1壁面12Bに当接させられた上記一方の長側面3の主切刃5、副切刃6、コーナ刃7、あるいは鈍角角部は、切削に使用される主切刃5の第一逃げ面(外周逃げ面)2Bが形成されて工具本体11の外周側に向けられる他方の主面2および、同じく切削に使用される副切刃6の第二逃げ面(先端逃げ面)4Aが形成されて工具本体11先端側に向けられる他方の短側面4に、適当な逃げ角が与えられることにより、被削材とは干渉しないようになされている。
【0051】
このように、上記構成の切削インサートにおいては、工具本体11のインサート取付座12に取り付けられた状態において工具本体11の後端側に向けられる一方の短側面4が、主面2に対向する方向から見て凹V字状をなして一対の第2当接面(当接面)4Bを備えている。上記短側面4が全体的に延びる方向は上述のように工具本体11先端側に向けられる他方の短側面4に逃げ角を与えるために工具回転方向Tの後方側に向かうに従い工具本体11の後端側に向かう方向であっても、上記一対の第2当接面4Bのうち、インサート取付座12の取付座第1壁面12Bに当接した一方の長側面3とは反対側の工具回転方向Tの前方側に位置する一方の第2当接面4Bは、図11に示すように工具回転方向Tの後方側に向かうに従い工具本体11の先端側に向かって傾斜するように配置することができる。
【0052】
従って、こうして工具回転方向Tの後方側に向かうに従い工具本体11の先端側に向かって傾斜する一方の第2当接面4Bに当接するように、工具本体11のインサート取付座12においてこの一方の短側面4に当接する取付座第2壁面12Cも工具本体11の先端側に向かって傾斜するように形成する。このことにより、切削時に主切刃5に大きな切削負荷が作用してインサート本体1が工具回転方向Tの後方側に押圧されても、この一方の第2当接面4Bが取付座第2壁面12Cに押し付けられることになって、第1当接面3Aの取付座第1壁面12Bへの当接とともにインサート本体1を安定して保持することが可能となる。
【0053】
このため、上記構成の切削インサートおよび刃先交換式切削工具によれば、特に上記主切刃5の切刃長が長くて深切込み時に大きな切削負荷が作用する場合でも、切削インサートの取付安定性を十分に確保して切削加工時のインサート本体1のがたつきなどを防ぐことができる。これにより加工精度の向上を図り、振動や騒音の発生を防いで円滑な切削加工を行うことが可能となる。これは、例えば本実施形態のようにインサート本体1の厚さ方向から見たときに、上記厚さ方向に平行であり一対の短側面4に接する互いに平行な一対の仮想平面S間の距離である長さLと、上記厚さ方向から見たときに、上記厚さ方向に平行であり一対の長側面3に接する互いに平行な一対の仮想平面S’間の距離である長さMとの比L/Mが1.2〜2.5の範囲内と大きく、上記主面2の長辺上に形成される主切刃5に作用する切削負荷も大きい場合に、特に有効である。
【0054】
一方、刃先交換式切削工具の工具本体11側においても、このようにインサート取付座12の取付座第2壁面12Cを工具本体11の先端側に向かって傾斜するように形成することにより、図8や図11に示すようにこの取付座第2壁面12Cと、チップポケット14の工具回転方向Tの前方側を向く壁面のうち取付座第2壁面12Cに交差する部分14Aとの交差角αを、鈍角側に設定することができる。このため、これらの交差部分において欠け等が生じてインサート本体1の取付安定性が損なわれてしまうような事態が発生するのも防ぐことができ、一層円滑な切削加工を促すことが可能となる。
【0055】
なお、本実施形態では、凹V字状をなす短側面4のV字面のうち、副切刃6の主切刃5に直交する方向に延びる部分に連なる第二逃げ面4Aに対して上記第2当接面4Bの方が面積が大きくされており、これによってもインサート本体1の取付安定性の向上を図ることができる。
【0056】
加えて、上記一方の第2当接面4Bは、インサート取付座12の取付座底面12Aに当接する一方の当接側面2Cに対して、直角よりも僅かに鋭角に交差する方向に形成され、これに伴い取付座第1壁面12Bも取付座底面12Aに対して鋭角に交差する方向に形成されているので、副切刃6に作用する切削負荷によってインサート本体1が工具本体11後端側に押し付けられると、インサート本体1とインサート取付座12との間に、いわゆるクサビ効果が作用する。このため、本実施形態によれば、副切刃6に過大な切削負荷が作用した場合でも、インサート本体1の取付安定性を確保することができる。
【0057】
なお、本実施形態では上述のように凹V字状に形成された短側面4の挟角θが140°〜175°の範囲内とされているが、この挟角θが大きすぎると、短側面4が主面2に対向する方向から見て平坦に近くなり、インサート取付座12の取付座第2壁面12Cおよびこれに当接させられた一方の短側面4の上記一方の第2当接面4Bを、工具回転方向Tの後方側に向かうに従い工具本体11の先端側に向かって傾斜させることができなくなる。あるいは、傾斜させることはできても工具本体11の軸線Oに垂直な平面に対する傾斜角が緩やかとなり、上述の効果を確実に奏することができなくなるおそれが生じる。
【0058】
その一方で、この挟角θが小さすぎると、工具本体11の先端側に向けられて先端逃げ面とされるインサート本体1の他方の短側面4において工具回転方向Tの前方側に位置する第二逃げ面4Aと、工具回転方向Tの前方側に向けられてすくい面とされる他方の長側面3との交差角、すなわち副切刃6の刃物角が小さくなり、切刃強度が損なわれて欠損等を生じ易くなる。このため、上記挟角θは、本実施形態のように140°〜175°の範囲内に設定されるのが望ましい。
【0059】
また、本実施形態の切削インサートでは、そのインサート本体1に一対のインサート取付孔8が主面2の長辺が延びる方向(中心線Z方向)に並ぶように形成されており、これらのインサート取付孔8にそれぞれ挿通された一対のクランプネジ13がインサート取付座12の一対のクランプネジ孔12Dにねじ込まれることにより切削インサートが取り付けられる。よって、特許文献1、2に記載された切削インサートのように1つの取付孔に1本のクランプネジを挿通して取り付けるのに比べて、クランプ力自体が強いのは勿論、大きな切削負荷が作用したときでもインサート取付孔8回りにインサート本体1が回転するようにしてがたつきが生じるようなこともない。
【0060】
しかも、長板状のインサート本体1に対して、このように一対のインサート取付孔8を形成することにより、これらインサート取付孔8とインサート本体1の長短側面3、4との間隔やインサート取付孔8同士の間の肉厚に大きな差が生じるのを避けることができる。このため、このようなインサート本体1を、超硬合金のように原料粉末からプレス成形された圧粉体を焼結することにより製造する場合において、この圧粉体における肉厚の差が大きくなるのも防ぐことができ、かかる圧粉体の肉厚の差によって焼結後のインサート本体1の寸法精度や形状精度が損なわれたりするのも防止することができる。
【0061】
一方、本実施形態の切削インサートでは、インサート本体1の主面2の一対の長側面3側の縁部2Aが、これよりも内側の上記当接側面2Cに対して上記厚さ方向に突出するように形成されており、これら主面2と長側面3との交差稜線部に形成される主切刃5の第一逃げ面2Bはこの縁部2A上に形成される。このため、上述のような大きな切削負荷が主切刃5に作用して、万一この主切刃5に欠損が生じたりしても、このような欠損やこれに伴う亀裂等が、突出した上記縁部2Aを超えて広がるのを防ぐことができ、インサート取付孔8や反対側の長側面3にまで亀裂等が達してインサートが潰えてしまい、インサートの寿命が短くなることを避けることができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の切削インサートおよび刃先交換式切削工具によれば、インサート本体の主切刃の切刃長が長くて大きな切削負荷が作用したような場合でも、切削インサートのインサート取付座への取付安定性を十分に確保することができ、インサート本体のがたつき等を抑えて高い加工精度を得ることができ、振動や騒音の発生を防いで円滑な切削加工を促すことが可能となる。
【符号の説明】
【0063】
1 インサート本体
2 主面
2A 主面2の縁部
2B 第一逃げ面(外周逃げ面)
2C 当接側面
3 長側面
3A 第1当接面
4 短側面
4A 第二逃げ面(先端逃げ面)
4B 第2当接面(当接面)
5 主切刃
6 副切刃
7 コーナ刃
8 インサート取付孔
11 工具本体
12 インサート取付座
12A 取付座底面
12B 取付座第1壁面
12C 取付座第2壁面
12D クランプネジ孔
13 クランプネジ
L 一対の仮想平面S間の距離
M 一対の仮想平面S’間の距離
O 工具本体11の軸線
S インサート本体1の厚さ方向から見たときに上記厚さ方向に平行であり一対の短側面4に接する互いに平行な一対の仮想平面
S’ インサート本体1の厚さ方向から見たときに上記厚さ方向に平行であり一対の長側面3に接する互いに平行な一対の仮想平面
T 工具回転方向
θ 凹V字状をなす短側面4の挟角
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長板状を形成するインサート本体を有する切削インサートであって、
上記インサート本体は、
長辺と短辺とを有し、上記インサート本体の厚さ方向に対向する一対の主面と、
上記主面の長辺が延びる長さ方向に沿って形成され、上記主面の短辺が延びる幅方向に対向する一対の長側面と、
上記主面の幅方向に沿って形成され、上記主面の長さ方向に対向する一対の短側面とを有し、
上記インサート本体は、上記インサート本体の上記厚さ方向に延びてこれら一対の前記主面の中心同士を結ぶ第一の中心線と、前記主面の上記幅方向に延びて一対の前記長側面の中心同士を結ぶ第二の中心線と、前記主面の上記長さ方向に延びて一対の前記短側面の中心同士を結ぶ第三の中心線とのそれぞれに関して、180°回転対称形状に形成され、
上記主面と上記長側面との交差稜線部には主切刃がそれぞれ形成され、これら主切刃は、上記長側面にすくい面を有するとともに、上記主面に第一逃げ面を有し、
上記短側面と上記長側面との交差稜線部には副切刃がそれぞれ形成され、これら副切刃は上記長側面にすくい面を有するとともに、上記短側面に第二逃げ面を有して、上記主切刃に連なっており、
上記副切刃の上記第二逃げ面が形成された上記短側面は、上記厚さ方向から見たときに、上記主面の短辺の中央部に向かうに従い互いに上記主面の内側に向かって延びる一対の当接面を備えて凹V字状に形成されていることを特徴とする切削インサート。
【請求項2】
請求項1に記載の切削インサートであって、
上記厚さ方向から見たときに上記厚さ方向に平行であり上記一対の短側面に接する互いに平行な一対の仮想平面間の距離と、上記厚さ方向から見たときに上記厚さ方向に平行であり上記一対の長側面に接する互いに平行な一対の仮想平面間の距離との比が、1.2〜2.5の範囲内とされている切削インサート。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の切削インサートであって、
上記厚さ方向から見たときに上記短側面がなす凹V字の挟角が140°〜175°の範囲内とされている切削インサート。
【請求項4】
請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の切削インサートであって、
上記インサート本体には、上記主面に開口して上記インサート本体を上記厚さ方向に貫通する一対のインサート取付孔が備えられ、
上記一対のインサート取付孔が、上記主面の上記長さ方向に並んで形成されている切削インサート。
【請求項5】
請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の切削インサートであって、
上記主面は、上記一対の長側面側の縁部が、上記主面よりも内側の部分に対して上記厚さ方向に突出するように形成されている切削インサート。
【請求項6】
軸線回りに工具回転方向に回転される工具本体を有し、
上記工具本体の先端部の外周にはインサート取付座が形成され、
上記インサート取付座は、上記工具本体の外周側を向く取付座底面と、
上記工具回転方向の前方側を向く取付座第1壁面と、
上記工具本体の先端側を向いて上記工具回転方向の後方側に向かうに従い上記工具本体の先端側に向かって傾斜する取付座第2壁面とを備え、
上記インサート取付座には、請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載の切削インサートが着脱可能に取り付けられており、上記インサート本体の上記一対の主面のうちの一方を上記工具本体の内周側に向けて上記取付座底面に当接させられ、
上記一対の長側面のうちの一方を上記工具回転方向の後方側に向けて上記取付座第1壁面に当接させられ、
上記一対の短側面のうちの一方を上記工具本体の後端側に向けて、上記一方の短側面の上記一対の当接面のうち、上記一方の長側面とは反対側に位置する一方の当接面を上記取付座第2壁面に当接させられていることを特徴とする刃先交換式切削工具。
【請求項1】
長板状を形成するインサート本体を有する切削インサートであって、
上記インサート本体は、
長辺と短辺とを有し、上記インサート本体の厚さ方向に対向する一対の主面と、
上記主面の長辺が延びる長さ方向に沿って形成され、上記主面の短辺が延びる幅方向に対向する一対の長側面と、
上記主面の幅方向に沿って形成され、上記主面の長さ方向に対向する一対の短側面とを有し、
上記インサート本体は、上記インサート本体の上記厚さ方向に延びてこれら一対の前記主面の中心同士を結ぶ第一の中心線と、前記主面の上記幅方向に延びて一対の前記長側面の中心同士を結ぶ第二の中心線と、前記主面の上記長さ方向に延びて一対の前記短側面の中心同士を結ぶ第三の中心線とのそれぞれに関して、180°回転対称形状に形成され、
上記主面と上記長側面との交差稜線部には主切刃がそれぞれ形成され、これら主切刃は、上記長側面にすくい面を有するとともに、上記主面に第一逃げ面を有し、
上記短側面と上記長側面との交差稜線部には副切刃がそれぞれ形成され、これら副切刃は上記長側面にすくい面を有するとともに、上記短側面に第二逃げ面を有して、上記主切刃に連なっており、
上記副切刃の上記第二逃げ面が形成された上記短側面は、上記厚さ方向から見たときに、上記主面の短辺の中央部に向かうに従い互いに上記主面の内側に向かって延びる一対の当接面を備えて凹V字状に形成されていることを特徴とする切削インサート。
【請求項2】
請求項1に記載の切削インサートであって、
上記厚さ方向から見たときに上記厚さ方向に平行であり上記一対の短側面に接する互いに平行な一対の仮想平面間の距離と、上記厚さ方向から見たときに上記厚さ方向に平行であり上記一対の長側面に接する互いに平行な一対の仮想平面間の距離との比が、1.2〜2.5の範囲内とされている切削インサート。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の切削インサートであって、
上記厚さ方向から見たときに上記短側面がなす凹V字の挟角が140°〜175°の範囲内とされている切削インサート。
【請求項4】
請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の切削インサートであって、
上記インサート本体には、上記主面に開口して上記インサート本体を上記厚さ方向に貫通する一対のインサート取付孔が備えられ、
上記一対のインサート取付孔が、上記主面の上記長さ方向に並んで形成されている切削インサート。
【請求項5】
請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の切削インサートであって、
上記主面は、上記一対の長側面側の縁部が、上記主面よりも内側の部分に対して上記厚さ方向に突出するように形成されている切削インサート。
【請求項6】
軸線回りに工具回転方向に回転される工具本体を有し、
上記工具本体の先端部の外周にはインサート取付座が形成され、
上記インサート取付座は、上記工具本体の外周側を向く取付座底面と、
上記工具回転方向の前方側を向く取付座第1壁面と、
上記工具本体の先端側を向いて上記工具回転方向の後方側に向かうに従い上記工具本体の先端側に向かって傾斜する取付座第2壁面とを備え、
上記インサート取付座には、請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載の切削インサートが着脱可能に取り付けられており、上記インサート本体の上記一対の主面のうちの一方を上記工具本体の内周側に向けて上記取付座底面に当接させられ、
上記一対の長側面のうちの一方を上記工具回転方向の後方側に向けて上記取付座第1壁面に当接させられ、
上記一対の短側面のうちの一方を上記工具本体の後端側に向けて、上記一方の短側面の上記一対の当接面のうち、上記一方の長側面とは反対側に位置する一方の当接面を上記取付座第2壁面に当接させられていることを特徴とする刃先交換式切削工具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−161907(P2012−161907A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−8082(P2012−8082)
【出願日】平成24年1月18日(2012.1.18)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年1月18日(2012.1.18)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
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