切削インサートおよび刃先交換式切削工具
【課題】複数のワイパー刃を備えて1つのインサート本体で複数回のワイパー刃の使用が可能なワイパーインサートを提供する。
【解決手段】多角形平板状をなすインサート本体1の一対の多角形面2の周囲に配置される側面3A〜3Dのうち少なくとも1つの側面3Aの中央部に凹部5が形成されていて、この凹部5により分けられた1つの側面3Aの一対の側面部がそれぞれ逃げ面6とされるとともに、これらの逃げ面6に交差するインサート本体1の一対の他の側面3B、3Dにそれぞれすくい面7が形成され、各すくい面7と逃げ面6との交差稜線部に、他の側面3B、3Dに対向する側面視において一対の多角形面2の一方の側から他方の側に向かうに従い互い違いの向きに後退するように傾斜して延びる一対のワイパー刃8が形成されている。
【解決手段】多角形平板状をなすインサート本体1の一対の多角形面2の周囲に配置される側面3A〜3Dのうち少なくとも1つの側面3Aの中央部に凹部5が形成されていて、この凹部5により分けられた1つの側面3Aの一対の側面部がそれぞれ逃げ面6とされるとともに、これらの逃げ面6に交差するインサート本体1の一対の他の側面3B、3Dにそれぞれすくい面7が形成され、各すくい面7と逃げ面6との交差稜線部に、他の側面3B、3Dに対向する側面視において一対の多角形面2の一方の側から他方の側に向かうに従い互い違いの向きに後退するように傾斜して延びる一対のワイパー刃8が形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライスカッタ等の刃先交換式切削工具に取り付けられてワイパーインサートとして使用される切削インサート、および該切削インサートを着脱可能に取り付けた刃先交換式切削工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このようなワイパーインサートとして使用される切削インサート、および該切削インサートを取り付けたフライスカッタ等の刃先交換式切削工具としては、例えば特許文献1に記載されたようなものが知られている。このようなワイパーインサートは、刃先交換式切削工具の工具本体先端部外周に形成された複数のインサート取付座のうちの一部(通常は1つ)のインサート取付座に取り付けられて、そのワイパー刃(またはさらい刃)を、工具本体の回転軸線に垂直な平面に沿わせるとともに、他のインサート取付座に取り付けられた他の切削インサートの切刃よりも僅かに工具本体先端側に突出させるようにし、この他の切削インサートによって加工された加工面を平滑に仕上げるのに用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−192416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このようなワイパーインサートを取り付けた刃先交換式切削工具において、上記ワイパー刃による切削量は他の切削インサートの切刃と比べて僅かではあるが、それでも加工面を平滑に仕上げ加工するうちには、このワイパー刃に摩耗等が生じることは避けられない。それにも関わらず、特許文献1に記載されたワイパーインサートでは、上記ワイパー刃が1つしか形成されておらず、従ってこの1つのワイパー刃が摩耗したりするとワイパーインサートそのものを交換しなければならなくなって、非効率的かつ非経済的であった。
【0005】
本発明は、このような背景の下になされたもので、上述のようにワイパーインサートとして用いられる切削インサートにおいて、複数のワイパー刃を備えて1つのインサート本体で複数回のワイパー刃の使用が可能な切削インサート、および該切削インサートを着脱可能に取り付けた刃先交換式切削工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明の切削インサートは、刃先交換式切削工具の工具本体に形成された複数のインサート取付座のうち一部のインサート取付座に取り付けられてワイパーインサートとして使用される切削インサートであって、多角形平板状をなすインサート本体の一対の多角形面の周囲に配置される側面のうち少なくとも1つの側面の中央部に凹部が形成されていて、この凹部により分けられた上記1つの側面の一対の側面部がそれぞれ逃げ面とされるとともに、これらの逃げ面に交差する上記インサート本体の一対の他の側面にそれぞれすくい面が形成され、各すくい面と逃げ面との交差稜線部に、上記他の側面に対向する側面視において上記一対の多角形面の一方の側から他方の側に向かうに従い互い違いの向きに後退するように傾斜して延びる一対のワイパー刃が形成されていることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の刃先交換式切削工具は、軸線回りに回転される工具本体の先端部外周に形成された複数のインサート取付座のうち一部のインサート取付座に、上記構成の切削インサートが、上記1つの側面を工具先端側に向けるとともに上記一対の他の側面のうち1つの他の側面を工具回転方向に向けて、この1つの他の側面に形成された上記すくい面と上記逃げ面との交差稜線部に形成された上記ワイパー刃が上記軸線に垂直な平面に沿って延びるように取り付けられていることを特徴とする。
【0008】
上記構成の切削インサートでは、多角形平板状のインサート本体の少なくとも1つの側面に、その中央部の凹部によって分けられた一対の側面部がそれぞれ逃げ面として形成されていて、これらの逃げ面と、該逃げ面に交差するインサート本体の一対の他の側面に形成されたすくい面との交差稜線部にワイパー刃が形成されており、すなわちインサート本体の上記少なくとも1つの側面について一対のワイパー刃が形成されることになる。
【0009】
そして、これらのワイパー刃は、上記他の側面に対向する側面視において上記一対の多角形面の一方の側から他方の側に向かうに従い互い違いの向きに後退するように傾斜して延びており、従ってこれら一対のワイパー刃のうち一方が上述のように刃先交換式切削工具の工具本体の軸線に垂直な平面に沿って延びるように切削インサートを取り付けたときと、上記一対の他の側面を反転させるようにインサート本体を取り付け直して、一対のワイパー刃のうち他方が同様に工具本体の軸線に垂直な平面に沿って延びるようにしたときとで、工具本体に対するインサート本体の姿勢を同じとすることができる。
【0010】
このため、上記構成の切削インサートによれば、こうしてインサート本体を取り付け直すことにより、上記少なくとも1つの側面について一対のワイパー刃を上記軸線に垂直な平面に沿って延びるように配置することが可能であり、ワイパーインサートとして効率的かつ経済的な使用を図ることが可能となる。また、こうして一対のワイパー刃を互い違いの向きに傾斜させた場合には、これらのワイパー刃に連なる上記一対の側面部の逃げ面も同様に互い違いの向きに傾斜することになるが、これら一つの側面部の間には上記凹部が形成されているので、これらの逃げ面が干渉することもない。
【0011】
なお、上記ワイパー刃は、上記他の側面に対向する側面視において直線状をなしていてもよいが、このような直線状のワイパー刃を正確に工具本体の上記軸線に垂直な平面上に配置するにはインサート本体やインサート取付座を高精度に形成しなければならず、例えばワイパー刃が上記平面に対して傾いてインサート本体が取り付けられてしまうと、被削材の仕上げ面に送りマークが形成されてしまうおそれがある。
【0012】
そこで、上記ワイパー刃は、上記他の側面に対向する側面視において凸曲線状をなすようにされるのが望ましく、この凸曲線の曲率半径を大きくすることにより、被削材の仕上げ面は曲率半径の大きい凹曲線が連続するような断面形状となるため、ワイパーインサートの取り付け精度によって切刃に傾きが生じたりしても送りマークが仕上げ面に残されたりするのを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、1つのインサート本体の少なくとも1つの側面について一対ずつ形成されるワイパー刃を、インサート本体をインサート取付座に取り付け直すことで使用することが可能であり、1つのインサート本体で使用可能なワイパー刃の数を増やして効率的かつ経済的な切削加工を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の切削インサートの第1の実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示す実施形態をインサート本体の多角形面に対向する方向から見たときの平面図である。
【図3】図1に示す実施形態をインサート本体の少なくとも1の側面に対向する方向(図2における矢線A方向)から見たときの側面図である。
【図4】図1に示す実施形態をインサート本体の一対の他の側面の一方に対向する方向(図2における矢線B方向)から見たときの側面図である。
【図5】本発明の刃先交換式切削工具(フライスカッタ)を示す斜視図である。
【図6】図5に示す実施形態を工具本体の軸線方向先端側から見た底面図である。
【図7】図5に示す実施形態を図6における矢線A方向から見た側面図である。
【図8】図5に示す実施形態を図6における矢線B方向から見た側面図である。
【図9】図5に示す実施形態においてワイパーインサートが取り外された状態を示す斜視図である。
【図10】本発明の切削インサートの第2の実施形態を示す斜視図である。
【図11】図10に示す実施形態をインサート本体の多角形面に対向する方向から見たときの平面図である。
【図12】図10に示す実施形態をインサート本体の少なくとも1の側面に対向する方向(図11における矢線A方向)から見たときの側面図である。
【図13】図10に示す実施形態をインサート本体の一対の他の側面の一方に対向する方向(図11における矢線B方向)から見たときの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1ないし図4は、本発明の切削インサートの第1の実施形態を示すものであり、図5ないし図9はこの第1の実施形態の切削インサートをワイパーインサートとして取り付けた本発明の刃先交換式切削工具であるフライスカッタの一実施形態を示すものである。本実施形態の切削インサートは、そのインサート本体1が超硬合金等の硬質材料により多角形平板状、具体的には略長方形平板状に形成され、すなわち略長方形状をなす一対の多角形面2と、これらの多角形面2の周囲に配置される複数(4つ)の側面3A〜3Dとを備えている。
【0016】
ここで、上記一対の多角形面2は互いに平行、かつインサート本体1の厚さ方向(図3において上下方向、図4においては左右方向)には垂直な平面状とされ、その中央部にはインサート本体1を上記厚さ方向に貫通する取付孔4が開口させられている。また、側面3A〜3Dのうち本実施形態では3つの側面3B〜3Dは、上記一対の多角形面2に垂直に上記厚さ方向に延びるようにされて、この取付孔4からの最短距離が互いに等しくされており、隣接する側面3Bと側面3Cとの交差稜線部および側面3Cと側面3Dとの交差稜線部には面取りが施されている。
【0017】
一方、残りの1つの側面3Aには、上記多角形面2に対向する方向から見てその中央部に、インサート本体1の内側に凹むように凹部5が形成されており、この凹部5によって上記1つの側面3Aは側面3B側と側面3D側との一対の側面部に分けられている。ここで、この凹部5は本実施形態では上記多角形面2に対向する方向から見てインサート本体1の内側に向かうに従い側面3Aに沿った方向の幅が漸次小さくなる等脚台形状とされている。
【0018】
そして、この1つの側面3Aと、これに隣接する一対の他の側面3Bおよび側面3Dとの交差稜線部には、こうして分けられた側面3Aの一対の側面部をそれぞれ逃げ面6とするとともにこれら逃げ面6と交差する一対の他の側面3B、3Dの側面3A側の部分をすくい面7とするワイパー刃8が形成されている。すなわち、本実施形態では、上記1つの側面3Aの両端にワイパー刃8が形成されていて、1つのインサート本体1に一対のワイパー刃8が形成されることになる。
【0019】
ここで、これらのワイパー刃8のそれぞれすくい面7とされる側面3B、3Dの側面3A側の部分は、ワイパー刃8から離間するに従い、平面状をなしてインサート本体1の内側に後退するように傾斜し、次いで凹曲面状をなしてさらに後退した後にインサート本体1の外側に切れ上がって一対の他の側面3B、3Dの側面3C側の部分に連なるように形成されている。なお、この側面3B、3Dのすくい面7が形成されない側面3C側の部分は、該側面3Cとは直交する方向に延びる平面状とされている。
【0020】
一方、ワイパー刃8の逃げ面6とされる上記一対の側面部は、ワイパー刃8から離間して側面3A中央部の凹部5側に向かうに従いインサート本体1の内側に後退するように傾斜するとともに、上記厚さ方向において一対の多角形面2間でもインサート本体1の内側に向けて傾斜する傾斜面状とされている。ただし、この逃げ面8が一対の多角形面2間でなす傾斜面は、本実施形態では曲率半径の大きな凸円弧面等の凸曲面を描きつつインサート本体1の内側に傾斜するようにされている。また、上記厚さ方向に向けてインサート本体1の外側に突出することになる逃げ面6と多角形面2との交差稜線部には、面取り部9が形成されている。
【0021】
従って、このように一対の逃げ面6が上記厚さ方向に向けて傾斜する傾斜面状に形成されることにより、これらの逃げ面6と上記多角形面2に垂直とされた一対の他の側面3B、3Dのすくい面7との交差稜線部に形成される一対のワイパー刃8も、一対の多角形面2間でインサート本体1の内側に後退するように傾斜して延びることになる。そして、上記一対の逃げ面6が一対の多角形面2間で傾斜する向きは互い違いとなるようにされており、これに伴い一対のワイパー刃8が傾斜する向きも、図4に示すように一対の他の側面3B、3D(図4では側面3B)に対向する方向から見たときの側面視において、互い違いの向きとなるようにされている。
【0022】
すなわち、本実施形態では、図4に示すように一対の他の側面3B、3Dのうち側面3Bに対向する側面視においては、この側面3B側のすくい面7と逃げ面6との交差稜線部に形成されたワイパー刃8Aは、上記面取り部9を除いて一対の多角形面2のうち一方の多角形面2A側から他方の多角形面2B側に向かうに従いインサート本体1の内側に後退するように傾斜して延びている一方、反対の側面3D側のすくい面7と逃げ面6との交差稜線部に形成されたワイパー刃8Bは、やはり面取り部9を除いて一対の多角形面2のうち他方の多角形面2B側から一方の多角形面2A側に向かうに従いインサート本体1の内側に後退するように傾斜して延びている。
【0023】
なお、インサート本体1は、上記一対の他の側面3B、3Dの向きが逆になるように一対の多角形面2を反転したときに対称となる形状に形成されており、従って上述のように傾斜するワイパー刃8A、8Bの上記厚さ方向に対する傾斜角は互いに等しくされる。また、本実施形態では逃げ面6が上述のような凸曲面とされることにより、ワイパー刃8も曲率半径が例えば300mm程度の大きな凸円弧等の凸曲線を描きつつ、一対の多角形面2間でインサート本体1の内側に後退するように傾斜することになる。
【0024】
このような第1の実施形態の切削インサートが取り付けられる本発明の一実施形態の刃先交換式工具は、その工具本体11が、先端部(図6において下側部分)が基端部(図6において上側部分)に対して一段拡径した軸線Oを中心とする円盤状をなし、この基端部が工作機械の主軸に取り付けられて軸線O回りに工具回転方向Tに回転されつつ該軸線Oに垂直な方向に送り出されることにより、例えば鋳鉄等の被削材にフライス加工を施してゆく。
【0025】
工具本体11の先端部外周には、周方向に等間隔をあけて複数(本実施形態では12)のチップポケット12が形成されるとともに、これらのチップポケット12の工具回転方向T後方側に隣接して開口するようにインサート取付座13がそれぞれ形成されている。そして、これらのインサート取付座13のうち一部(本実施形態では1つ)のインサート取付座13を除いた残りの他のインサート取付座13には、専ら被削材に加工面を形成してゆく他の切削インサートが取り付けられ、上記一部のインサート取付座13に、こうして形成された被削材の加工面を仕上げる上記ワイパーインサートとされる第1の実施形態の切削インサートが取り付けられる。
【0026】
ここで、これらのインサート取付座13は、本実施形態ではいずれも同形同大とされたものであって、工具本体11を軸線O回りに所定角度ずつ回転させたときに一致するように回転対称に形成されており、工具本体11の外周側を向く平面状の底面13Aと、この底面13Aに対して垂直かつ互いにも垂直な平面状とされて、工具回転方向Tを向く壁面13Bおよび工具本体11の先端側を向く壁面13Cとを備えている。
【0027】
なお、底面13Aは工具本体11の後端側に向かうに従い内周側に向けて、壁面13Bは後端側に向かうに従い工具回転方向Tに向けて、壁面13Cは工具回転方向Tに向かうに従い先端側に向けて、それぞれ僅かに傾斜させられている。また、底面13Aには各切削インサートを固定するためのクランプネジ14がねじ込まれるネジ孔13Dが該底面13Aに垂直に形成されている。
【0028】
このうち、上記他のインサート取付座13に取り付けられる他の切削インサートは、例えば本発明の発明者等が特開2008−229744号公報において開示したものである。すなわち、この他の切削インサートは、そのインサート本体21が外形略正方形平板状をなして、2つの正方形面と4つの側面とを有し、これら2つの正方形面は、該正方形面に交差するインサート本体21の中心線回りに捩れるように配置されている。
【0029】
さらに、これら2つの正方形面の各辺稜部には、この辺稜部に連なる正方形面を逃げ面とするとともに上記側面にすくい面を有する主切刃22が、該辺稜部の一端部から他端部側に向けて延びるように形成され、また隣接する側面同士の交差稜線部には、一の上記辺稜部の一端部において上記主切刃22に連なる副切刃23が形成されている。従って、この他の切削インサートでは、1つのインサート本体21に8組の主切刃22および副切刃23が形成されて合計8回の切刃の使用が可能とされている。
【0030】
また、上記4つの側面には、その2つの正方形面側に、上記主切刃22に沿ってブレーカ溝24がそれぞれ形成されるとともに、これらのブレーカ溝24の間には突出部25が形成されている。この突出部25の突端面は、インサート本体21の厚さ方向に沿った平坦面とされて着座面とされ、また周方向には上記中心線方向から見て2つの正方形面の捩れ角を二等分する方向に延びている。
【0031】
このような他の切削インサートは、2つの正方形面のうち1つをインサート取付座13の底面13Aに密着させるとともに、周方向に隣接する2つの側面における突出部25の着座面をインサート取付座13の上記壁面13B、13Cに当接させて他のインサート取付座13に着座させられ、さらにインサート本体21を貫通するように2つの正方形面の中央に開口した取付孔26に上記クランプネジ14が挿通されて底面13Aの上記ネジ孔13Dにねじ込まれることにより、他のインサート取付座13に固定される。
【0032】
こうして他のインサート取付座13に取り付けられた他の切削インサートにおいては、工具本体11の外周側に向けられた正方形面の工具回転方向T側に位置する辺稜部に形成された主切刃22と、この主切刃22に工具本体11先端側で連なる副切刃23が切削に使用される。このとき、インサート取付座13の壁面13B、13Cが上述のように傾斜させられていることと2つの正方形面が捩られていることにより、他の辺稜部に形成された主切刃22とこれに連なる副切刃23は被削材と干渉することがない。
【0033】
そして、上記第1の実施形態の切削インサートにおけるインサート本体1の取付孔4から3つの側面3B〜3Dまでの互いに等しくされた最短距離、すなわち取付孔4と側面3Cとの間隔および側面3B、3Dのすくい面7が形成されていない部分との間隔は、この他の切削インサートの上記取付孔26と4つの側面の突出部25における上記突端面との間隔と等しくされている。
【0034】
従って、第1の実施形態の切削インサートも、一対の多角形面2のうち1つ(図5ないし図8では他方の多角形面2B)をインサート取付座13の底面13Aに密着させるとともに、側面3Cを壁面13Cに、側面3B、3Dのいずれか1つ(図5ないし図8では側面3D)を壁面13Bに当接させて上記一部のインサート取付座13に着座可能とされ、取付孔4に挿通されたクランプネジ14をネジ孔13Dにねじ込むことにより、この一部のインサート取付座13に固定される。
【0035】
こうして一部のインサート取付座13に取り付けられてワイパーインサートとされる第1の実施形態の切削インサートにおいては、壁面13Bに当接させられた側面3Dとは反対側の側面3Bが工具回転方向Tに向けられ、この側面3Bにすくい面7が形成されたワイパー刃8Aが加工面の仕上げに使用される。ここで、他のインサート取付座13に取り付けられた他の切削インサートと同様に、インサート取付座13の壁面13B、13Cが傾斜していることから、反対側の側面3Dにすくい面7が形成されたワイパー刃8Bはワイパー刃8Aに対して工具本体11の後端側に配置され、被削材の加工面と干渉することはない。
【0036】
さらに、このインサート取付座13の底面13Aが上述のように工具本体11の後端側に向かうに従い内周側に傾斜していることから、インサート本体1の一対の多角形面2も工具本体11の後端側に向かうに従い内周側に傾斜して配置されることになる。従って、図8に示すようにインサート本体1の側面3Bに対向する側面視において、工具本体11の外周側に向けられた一方の多角形面2A側から底面13Aに密着した他方の多角形面2B側に向かうに従いインサート本体1の内側に後退するように傾斜して延びる側面3B側のワイパー刃8Aは、インサート取付座13に取り付けられた状態では、工具本体11の軸線Oに垂直な平面に沿って配置されることになる。
【0037】
そして、このように加工面の仕上げに使用されるワイパー刃8Aが配置された工具本体11の軸線Oに垂直な平面は、上記他の切削インサートの切削に使用される副切刃23よりも僅かに工具本体11先端側に位置するようにされている。その一方で、他の切削インサートのインサート本体21は、その厚さがワイパーインサートとして使用される第1の実施形態の切削インサートのインサート本体1よりも僅かに厚くされていて、切削に使用される主切刃22および副切刃23はワイパー刃8Aよりも工具本体11の僅かに外周側に位置させられる。
【0038】
従って、上述のように工具本体11を軸線O回りに回転しつつ該軸線Oに垂直な方向に送り出してゆくと、まずこうして工具本体11の外周側に位置する他の切削インサートの主切刃22および副切刃23によって被削材の表面が切削されて加工面が形成され、次いでこれら主切刃22および副切刃23の僅かに内周側に位置する上記実施形態の切削インサートのワイパー刃8Aが、この加工面を工具本体11の軸線Oに垂直な上記平面に沿うように平滑に仕上げてゆく。
【0039】
そして、上記構成のワイパーインサートとされる切削インサートにおいては、インサート本体1の一対のワイパー刃8A、8Bが形成されていて、これらのワイパー刃8A、8Bが、該ワイパー刃8A、8Bのすくい面7が形成されたインサート本体1の他の側面3B、3Dに対向する側面視において、一対の多角形面2A、2Bの一方の側から他方の側に向かうに従い互い違いの向きに後退するように傾斜して延びるようにされている。
【0040】
このため、上述のように加工面を仕上げることによりワイパー刃8Aに摩耗等の損傷が生じたときには、これら他の側面3B、3Dを反転させるようにインサート本体1を一部のインサート取付座13に取り付け直すことにより、工具本体11に対するインサート本体1の姿勢を同じとして、反対側のワイパー刃8Bを加工面の仕上げに使用することができる。従って、上記構成の切削インサートによれば、1つのインサート本体1によって、その少なくとも1つの側面3Aと他の一対の側面3B、3Dとの交差稜線部に形成された一対のワイパー刃8A、8Bを使用することが可能であり、超硬合金等の硬質材料よりなる高価なインサート本体1を有効に利用して効率的かつ経済的な切削加工を行うことが可能となる。
【0041】
また、上述のようにワイパー刃8A、8Bを、すくい面7が形成された他の側面3B、3Dに対向する側面視において、一対の多角形面2A、2Bの一方の側から他方の側に向かうに従い互い違いの向きに後退するように傾斜させるには、これらのワイパー刃8A、8Bに連なってインサート本体1の上記少なくとも1つの側面3Aに形成される一対の逃げ面6も互い違いの向きに傾斜させなければならず、すなわちこれらの逃げ面6は捩れ面状に形成されることになる。
【0042】
しかるに、そのような一対の逃げ面6を、例えば砥石による研削加工によって仕上げて形成しようとすると、一方の逃げ面6を形成する際に砥石が他方の逃げ面6と干渉してしまうおそれがあるが、上記構成の切削インサートでは、これらの逃げ面6が、上記少なくとも1つの側面3Aの中央部に形成された凹部5により分けられた一対の側面部に形成されており、従ってこのような砥石の干渉を防いで確実かつ正確に逃げ面6を形成することが可能となる。
【0043】
さらに、上記構成の切削インサートは、すくい面7が、多角形平板状(本実施形態では略長方形平板状)とされたインサート本体1の寸法が小さい厚さ方向を向く多角形面2ではなく、その周囲の側面3B、3Dに形成された、いわゆる縦刃式の切削インサートであって、ワイパー刃8に作用する切削負荷をインサート本体1の寸法の大きい方向に受け止めることができるので、上述した鋳鉄のような被削材のフライス加工において過大な負荷が作用した場合でも、ワイパー刃8にチッピングや欠損が生じたりするのを防ぐことができる。
【0044】
さらにまた、本実施形態の切削インサートでは、すくい面7が形成されるインサート本体1の上記他の側面3B、3Dに対向する側面視においてワイパー刃8が曲率半径の大きな凸曲線状をなすように形成されており、従ってこのようなワイパー刃8によって仕上げされる被削材の加工面は、逆に曲率半径の大きな凹曲線が連続したような断面となる。しかるに、このワイパー刃8は、上記軸線Oに垂直な平面上に正確に配置されるなら直線状でもよいが、直線状のワイパー刃8が万一この平面に対して傾いて配置されると、ワイパー刃8の端部のエッジによって加工面に段差が生じて、いわゆる送りマークが形成されることになる。
【0045】
ところが、本実施形態のようにワイパー刃8が凸曲線状であると、この凸曲線に沿ってインサート本体1がたとえ多少傾いて取り付けられても、ワイパー刃8によって加工面に形成される凹曲線断面は傾きがない場合と略変わることがなく、そしてこの凹曲線も曲率半径が大きいものであるので、加工面に段差を生じることも無く、送りマークが形成されるのを防ぐことができる。従って、本実施形態によれば、加工面の仕上げ精度と品位の向上を図ることができる。
【0046】
さらにまた、この第1の実施形態の切削インサートは、ワイパー刃8の逃げ面6が形成される上記1つの側面3Aを除いたインサート本体1の3つの側面3B〜3Dが、上記一対の多角形面2に垂直に上記厚さ方向に延びるようにされて、このうち上記一対の他の側面3B、3Dのすくい面7が形成されていない部分は側面3Cと直交する方向に延びる平面状とされており、しかもこれら側面3B〜3Dは取付孔4からの最短距離が互いに等しくされて、この最短距離は、刃先交換式切削工具の工具本体11に取り付けられる上記他の切削インサートのインサート本体21における取付孔26と4つの側面の突出部25における上記突端面との間隔と等しくされている。
【0047】
すなわち、本実施形態では、これら3つの側面3B〜3Dがインサート本体1の厚さ方向に垂直な断面においてなす輪郭が、上記他の切削インサートの4つの側面のうち3つの突出部25における上記突端面がインサート本体21の厚さ方向に垂直な断面においてなす輪郭と一致するようにされており、この他の切削インサートはこれらの突端面のうち2つをインサート取付座13の壁面13B、13Cに当接させて取付孔26に挿通したクランプネジ14により固定されるので、ワイパーインサートとして使用される第1の実施形態の切削インサートも、この他の切削インサートが取り付けられる工具本体11のインサート取付座13にそのまま取付可能とされる。
【0048】
このため、刃先交換式切削工具の工具本体11においては、上述のように同形同大のインサート取付座13を複数形成すればよく、その製造を容易とすることができる。また、ワイパー刃8による加工面の仕上げを行わずに被削材を切削するときには、ワイパーインサートとされる上記実施形態の切削インサートに代えて他の切削インサートを取り付ければよく、汎用性の高い刃先交換式切削工具を提供することができる。
【0049】
ただし、上記第1の実施形態では、このように刃先交換式切削工具の工具本体11の他の切削インサートが取り付けられるインサート取付座13にワイパーインサートとして用いられる当該実施形態の切削インサートを取付可能としているが、インサート取付座は、インサート形状によって任意の形状とすることができるので、ワイパーインサートの形状に合わせて取付面形状を変更することが可能である。図10ないし図13は、このような場合の本発明の切削インサート(ワイパーインサート)の第2の実施形態を示すものであり、図1ないし図4に示した第1の実施形態と共通する部分には同一の符号を配して説明を簡略化する。
【0050】
すなわち、この第2の実施形態では、上記1つの側面3Aと反対側の第1の実施形態においてインサート本体1の厚さ方向に沿った平坦面とされた側面3Cにも凹部5が形成されて一対の側面部に分けられ、側面3Aと同様にこれら一対の側面部がそれぞれ逃げ面6とされるとともに、これらの逃げ面6に交差するインサート本体1の一対の他の側面3B、3Dにもそれぞれすくい面7が形成されて、この側面3C側の各すくい面7と逃げ面6との交差稜線部にも、図13に示すように他の側面3B(または側面3D)に対向する側面視において一対の多角形面2の一方の側から他方の側に向かうに従い互い違いの向きに後退するように傾斜して延びる一対のワイパー刃8が形成されている。
【0051】
ここで、この側面3C側に形成されたワイパー刃8が傾斜する向きは、図13に示すように他の側面3Bに対向する側面視において、上記1つの側面3A側のワイパー刃8とは反対に、側面3B側のワイパー刃8Cが、一対の多角形面2のうち他方の多角形面2B側から一方の多角形面2A側に向かうに従いインサート本体1の内側に後退して延びる向きとされ、側面3D側のワイパー刃8Dは逆に一方の多角形面2A側から他方の多角形面2B側に向けてインサート本体1内側に後退する向きとされている。
【0052】
そして、この第2の実施形態の切削インサートのインサート本体1は、第1の実施形態と同様に上記一対の他の側面3B、3Dの向きが逆になるように一対の多角形面2を反転したときに対称となる形状に形成されている上に、上記1の側面3Aと側面3Cの向きが逆になるように反転したときにも対称となる形状とされるとともに、インサート本体1を取付孔4の中心線回りに所定角度(本実施形態では180°)回転させたときにも対称となるようにされる。従って、このような第2の実施形態の切削インサートにおいては、こうしてインサート本体1を反転させたり回転させたりして、刃先交換式切削工具のインサート取付座に取り付け直すことにより、1つのインサート本体1で合計4回のワイパー刃8の使い回しが可能となり、一層効率的かつ経済的である。
【0053】
なお、この第2の実施形態では、上記側面3Cに凹部5が形成されて分けられた一対の側面部が逃げ面6とされ、これら逃げ面6は第1の実施形態と同様に捩れ面状に配置されるため、インサート取付座の工具本体先端側を向く壁面が平面状であると、この側面3Cを当接させることができない。そこで、このような第2の実施形態の切削インサートを取付けるには、インサート取付座の上記壁部に凹部5と当接する凸部を形成したり、逃げ面6の捩れ面に合わせたカッタの壁面を用意したりすることで、支障なくワイパーインサートを取り付けることが可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 インサート本体
2(2A、2B) インサート本体1の多角形面
3A〜3D インサート本体1の側面
4 取付孔
5 凹部
6 逃げ面
7 すくい面
8(8A〜8D) ワイパー刃
11 工具本体
13 インサート取付座
14 クランプネジ
21 他の切削インサートのインサート本体
22 他の切削インサートの主切刃
23 他の切削インサートの副切刃
25 他の切削インサートの突出部
26 他の切削インサートの取付孔
O 工具本体11の回転軸線
T 工具本体11の回転方向
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライスカッタ等の刃先交換式切削工具に取り付けられてワイパーインサートとして使用される切削インサート、および該切削インサートを着脱可能に取り付けた刃先交換式切削工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このようなワイパーインサートとして使用される切削インサート、および該切削インサートを取り付けたフライスカッタ等の刃先交換式切削工具としては、例えば特許文献1に記載されたようなものが知られている。このようなワイパーインサートは、刃先交換式切削工具の工具本体先端部外周に形成された複数のインサート取付座のうちの一部(通常は1つ)のインサート取付座に取り付けられて、そのワイパー刃(またはさらい刃)を、工具本体の回転軸線に垂直な平面に沿わせるとともに、他のインサート取付座に取り付けられた他の切削インサートの切刃よりも僅かに工具本体先端側に突出させるようにし、この他の切削インサートによって加工された加工面を平滑に仕上げるのに用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−192416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このようなワイパーインサートを取り付けた刃先交換式切削工具において、上記ワイパー刃による切削量は他の切削インサートの切刃と比べて僅かではあるが、それでも加工面を平滑に仕上げ加工するうちには、このワイパー刃に摩耗等が生じることは避けられない。それにも関わらず、特許文献1に記載されたワイパーインサートでは、上記ワイパー刃が1つしか形成されておらず、従ってこの1つのワイパー刃が摩耗したりするとワイパーインサートそのものを交換しなければならなくなって、非効率的かつ非経済的であった。
【0005】
本発明は、このような背景の下になされたもので、上述のようにワイパーインサートとして用いられる切削インサートにおいて、複数のワイパー刃を備えて1つのインサート本体で複数回のワイパー刃の使用が可能な切削インサート、および該切削インサートを着脱可能に取り付けた刃先交換式切削工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明の切削インサートは、刃先交換式切削工具の工具本体に形成された複数のインサート取付座のうち一部のインサート取付座に取り付けられてワイパーインサートとして使用される切削インサートであって、多角形平板状をなすインサート本体の一対の多角形面の周囲に配置される側面のうち少なくとも1つの側面の中央部に凹部が形成されていて、この凹部により分けられた上記1つの側面の一対の側面部がそれぞれ逃げ面とされるとともに、これらの逃げ面に交差する上記インサート本体の一対の他の側面にそれぞれすくい面が形成され、各すくい面と逃げ面との交差稜線部に、上記他の側面に対向する側面視において上記一対の多角形面の一方の側から他方の側に向かうに従い互い違いの向きに後退するように傾斜して延びる一対のワイパー刃が形成されていることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の刃先交換式切削工具は、軸線回りに回転される工具本体の先端部外周に形成された複数のインサート取付座のうち一部のインサート取付座に、上記構成の切削インサートが、上記1つの側面を工具先端側に向けるとともに上記一対の他の側面のうち1つの他の側面を工具回転方向に向けて、この1つの他の側面に形成された上記すくい面と上記逃げ面との交差稜線部に形成された上記ワイパー刃が上記軸線に垂直な平面に沿って延びるように取り付けられていることを特徴とする。
【0008】
上記構成の切削インサートでは、多角形平板状のインサート本体の少なくとも1つの側面に、その中央部の凹部によって分けられた一対の側面部がそれぞれ逃げ面として形成されていて、これらの逃げ面と、該逃げ面に交差するインサート本体の一対の他の側面に形成されたすくい面との交差稜線部にワイパー刃が形成されており、すなわちインサート本体の上記少なくとも1つの側面について一対のワイパー刃が形成されることになる。
【0009】
そして、これらのワイパー刃は、上記他の側面に対向する側面視において上記一対の多角形面の一方の側から他方の側に向かうに従い互い違いの向きに後退するように傾斜して延びており、従ってこれら一対のワイパー刃のうち一方が上述のように刃先交換式切削工具の工具本体の軸線に垂直な平面に沿って延びるように切削インサートを取り付けたときと、上記一対の他の側面を反転させるようにインサート本体を取り付け直して、一対のワイパー刃のうち他方が同様に工具本体の軸線に垂直な平面に沿って延びるようにしたときとで、工具本体に対するインサート本体の姿勢を同じとすることができる。
【0010】
このため、上記構成の切削インサートによれば、こうしてインサート本体を取り付け直すことにより、上記少なくとも1つの側面について一対のワイパー刃を上記軸線に垂直な平面に沿って延びるように配置することが可能であり、ワイパーインサートとして効率的かつ経済的な使用を図ることが可能となる。また、こうして一対のワイパー刃を互い違いの向きに傾斜させた場合には、これらのワイパー刃に連なる上記一対の側面部の逃げ面も同様に互い違いの向きに傾斜することになるが、これら一つの側面部の間には上記凹部が形成されているので、これらの逃げ面が干渉することもない。
【0011】
なお、上記ワイパー刃は、上記他の側面に対向する側面視において直線状をなしていてもよいが、このような直線状のワイパー刃を正確に工具本体の上記軸線に垂直な平面上に配置するにはインサート本体やインサート取付座を高精度に形成しなければならず、例えばワイパー刃が上記平面に対して傾いてインサート本体が取り付けられてしまうと、被削材の仕上げ面に送りマークが形成されてしまうおそれがある。
【0012】
そこで、上記ワイパー刃は、上記他の側面に対向する側面視において凸曲線状をなすようにされるのが望ましく、この凸曲線の曲率半径を大きくすることにより、被削材の仕上げ面は曲率半径の大きい凹曲線が連続するような断面形状となるため、ワイパーインサートの取り付け精度によって切刃に傾きが生じたりしても送りマークが仕上げ面に残されたりするのを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、1つのインサート本体の少なくとも1つの側面について一対ずつ形成されるワイパー刃を、インサート本体をインサート取付座に取り付け直すことで使用することが可能であり、1つのインサート本体で使用可能なワイパー刃の数を増やして効率的かつ経済的な切削加工を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の切削インサートの第1の実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示す実施形態をインサート本体の多角形面に対向する方向から見たときの平面図である。
【図3】図1に示す実施形態をインサート本体の少なくとも1の側面に対向する方向(図2における矢線A方向)から見たときの側面図である。
【図4】図1に示す実施形態をインサート本体の一対の他の側面の一方に対向する方向(図2における矢線B方向)から見たときの側面図である。
【図5】本発明の刃先交換式切削工具(フライスカッタ)を示す斜視図である。
【図6】図5に示す実施形態を工具本体の軸線方向先端側から見た底面図である。
【図7】図5に示す実施形態を図6における矢線A方向から見た側面図である。
【図8】図5に示す実施形態を図6における矢線B方向から見た側面図である。
【図9】図5に示す実施形態においてワイパーインサートが取り外された状態を示す斜視図である。
【図10】本発明の切削インサートの第2の実施形態を示す斜視図である。
【図11】図10に示す実施形態をインサート本体の多角形面に対向する方向から見たときの平面図である。
【図12】図10に示す実施形態をインサート本体の少なくとも1の側面に対向する方向(図11における矢線A方向)から見たときの側面図である。
【図13】図10に示す実施形態をインサート本体の一対の他の側面の一方に対向する方向(図11における矢線B方向)から見たときの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1ないし図4は、本発明の切削インサートの第1の実施形態を示すものであり、図5ないし図9はこの第1の実施形態の切削インサートをワイパーインサートとして取り付けた本発明の刃先交換式切削工具であるフライスカッタの一実施形態を示すものである。本実施形態の切削インサートは、そのインサート本体1が超硬合金等の硬質材料により多角形平板状、具体的には略長方形平板状に形成され、すなわち略長方形状をなす一対の多角形面2と、これらの多角形面2の周囲に配置される複数(4つ)の側面3A〜3Dとを備えている。
【0016】
ここで、上記一対の多角形面2は互いに平行、かつインサート本体1の厚さ方向(図3において上下方向、図4においては左右方向)には垂直な平面状とされ、その中央部にはインサート本体1を上記厚さ方向に貫通する取付孔4が開口させられている。また、側面3A〜3Dのうち本実施形態では3つの側面3B〜3Dは、上記一対の多角形面2に垂直に上記厚さ方向に延びるようにされて、この取付孔4からの最短距離が互いに等しくされており、隣接する側面3Bと側面3Cとの交差稜線部および側面3Cと側面3Dとの交差稜線部には面取りが施されている。
【0017】
一方、残りの1つの側面3Aには、上記多角形面2に対向する方向から見てその中央部に、インサート本体1の内側に凹むように凹部5が形成されており、この凹部5によって上記1つの側面3Aは側面3B側と側面3D側との一対の側面部に分けられている。ここで、この凹部5は本実施形態では上記多角形面2に対向する方向から見てインサート本体1の内側に向かうに従い側面3Aに沿った方向の幅が漸次小さくなる等脚台形状とされている。
【0018】
そして、この1つの側面3Aと、これに隣接する一対の他の側面3Bおよび側面3Dとの交差稜線部には、こうして分けられた側面3Aの一対の側面部をそれぞれ逃げ面6とするとともにこれら逃げ面6と交差する一対の他の側面3B、3Dの側面3A側の部分をすくい面7とするワイパー刃8が形成されている。すなわち、本実施形態では、上記1つの側面3Aの両端にワイパー刃8が形成されていて、1つのインサート本体1に一対のワイパー刃8が形成されることになる。
【0019】
ここで、これらのワイパー刃8のそれぞれすくい面7とされる側面3B、3Dの側面3A側の部分は、ワイパー刃8から離間するに従い、平面状をなしてインサート本体1の内側に後退するように傾斜し、次いで凹曲面状をなしてさらに後退した後にインサート本体1の外側に切れ上がって一対の他の側面3B、3Dの側面3C側の部分に連なるように形成されている。なお、この側面3B、3Dのすくい面7が形成されない側面3C側の部分は、該側面3Cとは直交する方向に延びる平面状とされている。
【0020】
一方、ワイパー刃8の逃げ面6とされる上記一対の側面部は、ワイパー刃8から離間して側面3A中央部の凹部5側に向かうに従いインサート本体1の内側に後退するように傾斜するとともに、上記厚さ方向において一対の多角形面2間でもインサート本体1の内側に向けて傾斜する傾斜面状とされている。ただし、この逃げ面8が一対の多角形面2間でなす傾斜面は、本実施形態では曲率半径の大きな凸円弧面等の凸曲面を描きつつインサート本体1の内側に傾斜するようにされている。また、上記厚さ方向に向けてインサート本体1の外側に突出することになる逃げ面6と多角形面2との交差稜線部には、面取り部9が形成されている。
【0021】
従って、このように一対の逃げ面6が上記厚さ方向に向けて傾斜する傾斜面状に形成されることにより、これらの逃げ面6と上記多角形面2に垂直とされた一対の他の側面3B、3Dのすくい面7との交差稜線部に形成される一対のワイパー刃8も、一対の多角形面2間でインサート本体1の内側に後退するように傾斜して延びることになる。そして、上記一対の逃げ面6が一対の多角形面2間で傾斜する向きは互い違いとなるようにされており、これに伴い一対のワイパー刃8が傾斜する向きも、図4に示すように一対の他の側面3B、3D(図4では側面3B)に対向する方向から見たときの側面視において、互い違いの向きとなるようにされている。
【0022】
すなわち、本実施形態では、図4に示すように一対の他の側面3B、3Dのうち側面3Bに対向する側面視においては、この側面3B側のすくい面7と逃げ面6との交差稜線部に形成されたワイパー刃8Aは、上記面取り部9を除いて一対の多角形面2のうち一方の多角形面2A側から他方の多角形面2B側に向かうに従いインサート本体1の内側に後退するように傾斜して延びている一方、反対の側面3D側のすくい面7と逃げ面6との交差稜線部に形成されたワイパー刃8Bは、やはり面取り部9を除いて一対の多角形面2のうち他方の多角形面2B側から一方の多角形面2A側に向かうに従いインサート本体1の内側に後退するように傾斜して延びている。
【0023】
なお、インサート本体1は、上記一対の他の側面3B、3Dの向きが逆になるように一対の多角形面2を反転したときに対称となる形状に形成されており、従って上述のように傾斜するワイパー刃8A、8Bの上記厚さ方向に対する傾斜角は互いに等しくされる。また、本実施形態では逃げ面6が上述のような凸曲面とされることにより、ワイパー刃8も曲率半径が例えば300mm程度の大きな凸円弧等の凸曲線を描きつつ、一対の多角形面2間でインサート本体1の内側に後退するように傾斜することになる。
【0024】
このような第1の実施形態の切削インサートが取り付けられる本発明の一実施形態の刃先交換式工具は、その工具本体11が、先端部(図6において下側部分)が基端部(図6において上側部分)に対して一段拡径した軸線Oを中心とする円盤状をなし、この基端部が工作機械の主軸に取り付けられて軸線O回りに工具回転方向Tに回転されつつ該軸線Oに垂直な方向に送り出されることにより、例えば鋳鉄等の被削材にフライス加工を施してゆく。
【0025】
工具本体11の先端部外周には、周方向に等間隔をあけて複数(本実施形態では12)のチップポケット12が形成されるとともに、これらのチップポケット12の工具回転方向T後方側に隣接して開口するようにインサート取付座13がそれぞれ形成されている。そして、これらのインサート取付座13のうち一部(本実施形態では1つ)のインサート取付座13を除いた残りの他のインサート取付座13には、専ら被削材に加工面を形成してゆく他の切削インサートが取り付けられ、上記一部のインサート取付座13に、こうして形成された被削材の加工面を仕上げる上記ワイパーインサートとされる第1の実施形態の切削インサートが取り付けられる。
【0026】
ここで、これらのインサート取付座13は、本実施形態ではいずれも同形同大とされたものであって、工具本体11を軸線O回りに所定角度ずつ回転させたときに一致するように回転対称に形成されており、工具本体11の外周側を向く平面状の底面13Aと、この底面13Aに対して垂直かつ互いにも垂直な平面状とされて、工具回転方向Tを向く壁面13Bおよび工具本体11の先端側を向く壁面13Cとを備えている。
【0027】
なお、底面13Aは工具本体11の後端側に向かうに従い内周側に向けて、壁面13Bは後端側に向かうに従い工具回転方向Tに向けて、壁面13Cは工具回転方向Tに向かうに従い先端側に向けて、それぞれ僅かに傾斜させられている。また、底面13Aには各切削インサートを固定するためのクランプネジ14がねじ込まれるネジ孔13Dが該底面13Aに垂直に形成されている。
【0028】
このうち、上記他のインサート取付座13に取り付けられる他の切削インサートは、例えば本発明の発明者等が特開2008−229744号公報において開示したものである。すなわち、この他の切削インサートは、そのインサート本体21が外形略正方形平板状をなして、2つの正方形面と4つの側面とを有し、これら2つの正方形面は、該正方形面に交差するインサート本体21の中心線回りに捩れるように配置されている。
【0029】
さらに、これら2つの正方形面の各辺稜部には、この辺稜部に連なる正方形面を逃げ面とするとともに上記側面にすくい面を有する主切刃22が、該辺稜部の一端部から他端部側に向けて延びるように形成され、また隣接する側面同士の交差稜線部には、一の上記辺稜部の一端部において上記主切刃22に連なる副切刃23が形成されている。従って、この他の切削インサートでは、1つのインサート本体21に8組の主切刃22および副切刃23が形成されて合計8回の切刃の使用が可能とされている。
【0030】
また、上記4つの側面には、その2つの正方形面側に、上記主切刃22に沿ってブレーカ溝24がそれぞれ形成されるとともに、これらのブレーカ溝24の間には突出部25が形成されている。この突出部25の突端面は、インサート本体21の厚さ方向に沿った平坦面とされて着座面とされ、また周方向には上記中心線方向から見て2つの正方形面の捩れ角を二等分する方向に延びている。
【0031】
このような他の切削インサートは、2つの正方形面のうち1つをインサート取付座13の底面13Aに密着させるとともに、周方向に隣接する2つの側面における突出部25の着座面をインサート取付座13の上記壁面13B、13Cに当接させて他のインサート取付座13に着座させられ、さらにインサート本体21を貫通するように2つの正方形面の中央に開口した取付孔26に上記クランプネジ14が挿通されて底面13Aの上記ネジ孔13Dにねじ込まれることにより、他のインサート取付座13に固定される。
【0032】
こうして他のインサート取付座13に取り付けられた他の切削インサートにおいては、工具本体11の外周側に向けられた正方形面の工具回転方向T側に位置する辺稜部に形成された主切刃22と、この主切刃22に工具本体11先端側で連なる副切刃23が切削に使用される。このとき、インサート取付座13の壁面13B、13Cが上述のように傾斜させられていることと2つの正方形面が捩られていることにより、他の辺稜部に形成された主切刃22とこれに連なる副切刃23は被削材と干渉することがない。
【0033】
そして、上記第1の実施形態の切削インサートにおけるインサート本体1の取付孔4から3つの側面3B〜3Dまでの互いに等しくされた最短距離、すなわち取付孔4と側面3Cとの間隔および側面3B、3Dのすくい面7が形成されていない部分との間隔は、この他の切削インサートの上記取付孔26と4つの側面の突出部25における上記突端面との間隔と等しくされている。
【0034】
従って、第1の実施形態の切削インサートも、一対の多角形面2のうち1つ(図5ないし図8では他方の多角形面2B)をインサート取付座13の底面13Aに密着させるとともに、側面3Cを壁面13Cに、側面3B、3Dのいずれか1つ(図5ないし図8では側面3D)を壁面13Bに当接させて上記一部のインサート取付座13に着座可能とされ、取付孔4に挿通されたクランプネジ14をネジ孔13Dにねじ込むことにより、この一部のインサート取付座13に固定される。
【0035】
こうして一部のインサート取付座13に取り付けられてワイパーインサートとされる第1の実施形態の切削インサートにおいては、壁面13Bに当接させられた側面3Dとは反対側の側面3Bが工具回転方向Tに向けられ、この側面3Bにすくい面7が形成されたワイパー刃8Aが加工面の仕上げに使用される。ここで、他のインサート取付座13に取り付けられた他の切削インサートと同様に、インサート取付座13の壁面13B、13Cが傾斜していることから、反対側の側面3Dにすくい面7が形成されたワイパー刃8Bはワイパー刃8Aに対して工具本体11の後端側に配置され、被削材の加工面と干渉することはない。
【0036】
さらに、このインサート取付座13の底面13Aが上述のように工具本体11の後端側に向かうに従い内周側に傾斜していることから、インサート本体1の一対の多角形面2も工具本体11の後端側に向かうに従い内周側に傾斜して配置されることになる。従って、図8に示すようにインサート本体1の側面3Bに対向する側面視において、工具本体11の外周側に向けられた一方の多角形面2A側から底面13Aに密着した他方の多角形面2B側に向かうに従いインサート本体1の内側に後退するように傾斜して延びる側面3B側のワイパー刃8Aは、インサート取付座13に取り付けられた状態では、工具本体11の軸線Oに垂直な平面に沿って配置されることになる。
【0037】
そして、このように加工面の仕上げに使用されるワイパー刃8Aが配置された工具本体11の軸線Oに垂直な平面は、上記他の切削インサートの切削に使用される副切刃23よりも僅かに工具本体11先端側に位置するようにされている。その一方で、他の切削インサートのインサート本体21は、その厚さがワイパーインサートとして使用される第1の実施形態の切削インサートのインサート本体1よりも僅かに厚くされていて、切削に使用される主切刃22および副切刃23はワイパー刃8Aよりも工具本体11の僅かに外周側に位置させられる。
【0038】
従って、上述のように工具本体11を軸線O回りに回転しつつ該軸線Oに垂直な方向に送り出してゆくと、まずこうして工具本体11の外周側に位置する他の切削インサートの主切刃22および副切刃23によって被削材の表面が切削されて加工面が形成され、次いでこれら主切刃22および副切刃23の僅かに内周側に位置する上記実施形態の切削インサートのワイパー刃8Aが、この加工面を工具本体11の軸線Oに垂直な上記平面に沿うように平滑に仕上げてゆく。
【0039】
そして、上記構成のワイパーインサートとされる切削インサートにおいては、インサート本体1の一対のワイパー刃8A、8Bが形成されていて、これらのワイパー刃8A、8Bが、該ワイパー刃8A、8Bのすくい面7が形成されたインサート本体1の他の側面3B、3Dに対向する側面視において、一対の多角形面2A、2Bの一方の側から他方の側に向かうに従い互い違いの向きに後退するように傾斜して延びるようにされている。
【0040】
このため、上述のように加工面を仕上げることによりワイパー刃8Aに摩耗等の損傷が生じたときには、これら他の側面3B、3Dを反転させるようにインサート本体1を一部のインサート取付座13に取り付け直すことにより、工具本体11に対するインサート本体1の姿勢を同じとして、反対側のワイパー刃8Bを加工面の仕上げに使用することができる。従って、上記構成の切削インサートによれば、1つのインサート本体1によって、その少なくとも1つの側面3Aと他の一対の側面3B、3Dとの交差稜線部に形成された一対のワイパー刃8A、8Bを使用することが可能であり、超硬合金等の硬質材料よりなる高価なインサート本体1を有効に利用して効率的かつ経済的な切削加工を行うことが可能となる。
【0041】
また、上述のようにワイパー刃8A、8Bを、すくい面7が形成された他の側面3B、3Dに対向する側面視において、一対の多角形面2A、2Bの一方の側から他方の側に向かうに従い互い違いの向きに後退するように傾斜させるには、これらのワイパー刃8A、8Bに連なってインサート本体1の上記少なくとも1つの側面3Aに形成される一対の逃げ面6も互い違いの向きに傾斜させなければならず、すなわちこれらの逃げ面6は捩れ面状に形成されることになる。
【0042】
しかるに、そのような一対の逃げ面6を、例えば砥石による研削加工によって仕上げて形成しようとすると、一方の逃げ面6を形成する際に砥石が他方の逃げ面6と干渉してしまうおそれがあるが、上記構成の切削インサートでは、これらの逃げ面6が、上記少なくとも1つの側面3Aの中央部に形成された凹部5により分けられた一対の側面部に形成されており、従ってこのような砥石の干渉を防いで確実かつ正確に逃げ面6を形成することが可能となる。
【0043】
さらに、上記構成の切削インサートは、すくい面7が、多角形平板状(本実施形態では略長方形平板状)とされたインサート本体1の寸法が小さい厚さ方向を向く多角形面2ではなく、その周囲の側面3B、3Dに形成された、いわゆる縦刃式の切削インサートであって、ワイパー刃8に作用する切削負荷をインサート本体1の寸法の大きい方向に受け止めることができるので、上述した鋳鉄のような被削材のフライス加工において過大な負荷が作用した場合でも、ワイパー刃8にチッピングや欠損が生じたりするのを防ぐことができる。
【0044】
さらにまた、本実施形態の切削インサートでは、すくい面7が形成されるインサート本体1の上記他の側面3B、3Dに対向する側面視においてワイパー刃8が曲率半径の大きな凸曲線状をなすように形成されており、従ってこのようなワイパー刃8によって仕上げされる被削材の加工面は、逆に曲率半径の大きな凹曲線が連続したような断面となる。しかるに、このワイパー刃8は、上記軸線Oに垂直な平面上に正確に配置されるなら直線状でもよいが、直線状のワイパー刃8が万一この平面に対して傾いて配置されると、ワイパー刃8の端部のエッジによって加工面に段差が生じて、いわゆる送りマークが形成されることになる。
【0045】
ところが、本実施形態のようにワイパー刃8が凸曲線状であると、この凸曲線に沿ってインサート本体1がたとえ多少傾いて取り付けられても、ワイパー刃8によって加工面に形成される凹曲線断面は傾きがない場合と略変わることがなく、そしてこの凹曲線も曲率半径が大きいものであるので、加工面に段差を生じることも無く、送りマークが形成されるのを防ぐことができる。従って、本実施形態によれば、加工面の仕上げ精度と品位の向上を図ることができる。
【0046】
さらにまた、この第1の実施形態の切削インサートは、ワイパー刃8の逃げ面6が形成される上記1つの側面3Aを除いたインサート本体1の3つの側面3B〜3Dが、上記一対の多角形面2に垂直に上記厚さ方向に延びるようにされて、このうち上記一対の他の側面3B、3Dのすくい面7が形成されていない部分は側面3Cと直交する方向に延びる平面状とされており、しかもこれら側面3B〜3Dは取付孔4からの最短距離が互いに等しくされて、この最短距離は、刃先交換式切削工具の工具本体11に取り付けられる上記他の切削インサートのインサート本体21における取付孔26と4つの側面の突出部25における上記突端面との間隔と等しくされている。
【0047】
すなわち、本実施形態では、これら3つの側面3B〜3Dがインサート本体1の厚さ方向に垂直な断面においてなす輪郭が、上記他の切削インサートの4つの側面のうち3つの突出部25における上記突端面がインサート本体21の厚さ方向に垂直な断面においてなす輪郭と一致するようにされており、この他の切削インサートはこれらの突端面のうち2つをインサート取付座13の壁面13B、13Cに当接させて取付孔26に挿通したクランプネジ14により固定されるので、ワイパーインサートとして使用される第1の実施形態の切削インサートも、この他の切削インサートが取り付けられる工具本体11のインサート取付座13にそのまま取付可能とされる。
【0048】
このため、刃先交換式切削工具の工具本体11においては、上述のように同形同大のインサート取付座13を複数形成すればよく、その製造を容易とすることができる。また、ワイパー刃8による加工面の仕上げを行わずに被削材を切削するときには、ワイパーインサートとされる上記実施形態の切削インサートに代えて他の切削インサートを取り付ければよく、汎用性の高い刃先交換式切削工具を提供することができる。
【0049】
ただし、上記第1の実施形態では、このように刃先交換式切削工具の工具本体11の他の切削インサートが取り付けられるインサート取付座13にワイパーインサートとして用いられる当該実施形態の切削インサートを取付可能としているが、インサート取付座は、インサート形状によって任意の形状とすることができるので、ワイパーインサートの形状に合わせて取付面形状を変更することが可能である。図10ないし図13は、このような場合の本発明の切削インサート(ワイパーインサート)の第2の実施形態を示すものであり、図1ないし図4に示した第1の実施形態と共通する部分には同一の符号を配して説明を簡略化する。
【0050】
すなわち、この第2の実施形態では、上記1つの側面3Aと反対側の第1の実施形態においてインサート本体1の厚さ方向に沿った平坦面とされた側面3Cにも凹部5が形成されて一対の側面部に分けられ、側面3Aと同様にこれら一対の側面部がそれぞれ逃げ面6とされるとともに、これらの逃げ面6に交差するインサート本体1の一対の他の側面3B、3Dにもそれぞれすくい面7が形成されて、この側面3C側の各すくい面7と逃げ面6との交差稜線部にも、図13に示すように他の側面3B(または側面3D)に対向する側面視において一対の多角形面2の一方の側から他方の側に向かうに従い互い違いの向きに後退するように傾斜して延びる一対のワイパー刃8が形成されている。
【0051】
ここで、この側面3C側に形成されたワイパー刃8が傾斜する向きは、図13に示すように他の側面3Bに対向する側面視において、上記1つの側面3A側のワイパー刃8とは反対に、側面3B側のワイパー刃8Cが、一対の多角形面2のうち他方の多角形面2B側から一方の多角形面2A側に向かうに従いインサート本体1の内側に後退して延びる向きとされ、側面3D側のワイパー刃8Dは逆に一方の多角形面2A側から他方の多角形面2B側に向けてインサート本体1内側に後退する向きとされている。
【0052】
そして、この第2の実施形態の切削インサートのインサート本体1は、第1の実施形態と同様に上記一対の他の側面3B、3Dの向きが逆になるように一対の多角形面2を反転したときに対称となる形状に形成されている上に、上記1の側面3Aと側面3Cの向きが逆になるように反転したときにも対称となる形状とされるとともに、インサート本体1を取付孔4の中心線回りに所定角度(本実施形態では180°)回転させたときにも対称となるようにされる。従って、このような第2の実施形態の切削インサートにおいては、こうしてインサート本体1を反転させたり回転させたりして、刃先交換式切削工具のインサート取付座に取り付け直すことにより、1つのインサート本体1で合計4回のワイパー刃8の使い回しが可能となり、一層効率的かつ経済的である。
【0053】
なお、この第2の実施形態では、上記側面3Cに凹部5が形成されて分けられた一対の側面部が逃げ面6とされ、これら逃げ面6は第1の実施形態と同様に捩れ面状に配置されるため、インサート取付座の工具本体先端側を向く壁面が平面状であると、この側面3Cを当接させることができない。そこで、このような第2の実施形態の切削インサートを取付けるには、インサート取付座の上記壁部に凹部5と当接する凸部を形成したり、逃げ面6の捩れ面に合わせたカッタの壁面を用意したりすることで、支障なくワイパーインサートを取り付けることが可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 インサート本体
2(2A、2B) インサート本体1の多角形面
3A〜3D インサート本体1の側面
4 取付孔
5 凹部
6 逃げ面
7 すくい面
8(8A〜8D) ワイパー刃
11 工具本体
13 インサート取付座
14 クランプネジ
21 他の切削インサートのインサート本体
22 他の切削インサートの主切刃
23 他の切削インサートの副切刃
25 他の切削インサートの突出部
26 他の切削インサートの取付孔
O 工具本体11の回転軸線
T 工具本体11の回転方向
【特許請求の範囲】
【請求項1】
刃先交換式切削工具の工具本体に形成された複数のインサート取付座のうち一部のインサート取付座に取り付けられてワイパーインサートとして使用される切削インサートであって、多角形平板状をなすインサート本体の一対の多角形面の周囲に配置される側面のうち少なくとも1つの側面の中央部に凹部が形成されていて、この凹部により分けられた上記1つの側面の一対の側面部がそれぞれ逃げ面とされるとともに、これらの逃げ面に交差する上記インサート本体の一対の他の側面にそれぞれすくい面が形成され、各すくい面と逃げ面との交差稜線部に、上記他の側面に対向する側面視において上記一対の多角形面の一方の側から他方の側に向かうに従い互い違いの向きに後退するように傾斜して延びる一対のワイパー刃が形成されていることを特徴とする切削インサート。
【請求項2】
上記ワイパー刃は、上記他の側面に対向する側面視において凸曲線状をなしていることを特徴とする請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
軸線回りに回転される工具本体の先端部外周に形成された複数のインサート取付座のうち一部のインサート取付座に、請求項1または請求項2に記載の切削インサートが、上記1つの側面を工具先端側に向けるとともに上記一対の他の側面のうち1つの他の側面を工具回転方向に向けて、この1つの他の側面に形成された上記すくい面と上記逃げ面との交差稜線部に形成された上記ワイパー刃が上記軸線に垂直な平面に沿って延びるように取り付けられていることを特徴とする刃先交換式切削工具。
【請求項1】
刃先交換式切削工具の工具本体に形成された複数のインサート取付座のうち一部のインサート取付座に取り付けられてワイパーインサートとして使用される切削インサートであって、多角形平板状をなすインサート本体の一対の多角形面の周囲に配置される側面のうち少なくとも1つの側面の中央部に凹部が形成されていて、この凹部により分けられた上記1つの側面の一対の側面部がそれぞれ逃げ面とされるとともに、これらの逃げ面に交差する上記インサート本体の一対の他の側面にそれぞれすくい面が形成され、各すくい面と逃げ面との交差稜線部に、上記他の側面に対向する側面視において上記一対の多角形面の一方の側から他方の側に向かうに従い互い違いの向きに後退するように傾斜して延びる一対のワイパー刃が形成されていることを特徴とする切削インサート。
【請求項2】
上記ワイパー刃は、上記他の側面に対向する側面視において凸曲線状をなしていることを特徴とする請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
軸線回りに回転される工具本体の先端部外周に形成された複数のインサート取付座のうち一部のインサート取付座に、請求項1または請求項2に記載の切削インサートが、上記1つの側面を工具先端側に向けるとともに上記一対の他の側面のうち1つの他の側面を工具回転方向に向けて、この1つの他の側面に形成された上記すくい面と上記逃げ面との交差稜線部に形成された上記ワイパー刃が上記軸線に垂直な平面に沿って延びるように取り付けられていることを特徴とする刃先交換式切削工具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−187650(P2012−187650A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51346(P2011−51346)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
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