説明

切削インサートおよび切削工具並びにそれを用いた切削方法

【課題】切刃の欠損を抑制することができる切削工具および切削方法を提供する。
【解決手段】第1上面と第1下面とを接続する第1側面と、第1上面と第1側面との交差部に位置する第1切刃と、第1側面に位置し且つ第1切刃を分断するように第1上面に至る第1溝部と、を有する第1切削インサート2Aと、第2上面と、第2側面と、第2上面と第2側面との交差部に位置する第2切刃と、第2上面のうち第2切刃側の端部に位置する切刃強化部と、を有する第2切削インサート2Bと、第1切削インサート2Aと第2切削インサート2Bとを装着するホルダ3とを備える切削工具1であって、第1切削インサート2A及び第2切削インサート2Bは、第1切刃及び第2切刃がホルダ3の外周側に位置し、第1下面と第2上面とが対向し、そして、切刃強化部と、第1溝部との回転軌道が一部重なるように、ホルダ3に装着される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属などの加工に用いられる切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、切刃を有する切削インサートを、ホルダに装着してなるスローアウェイ式の切削工具が使用されている。
【0003】
このような切削工具に使用される切削インサートとして、例えば、特許文献1には、上面と側面との交差部に位置する切刃と、この切刃を分断するよう側面に設けられた溝部と、を備える切削インサートが開示されている。溝部によって分断された分割切刃は、切削抵抗の低減に寄与する。
【0004】
他方、上記のような分割切刃を有する切削インサートを用いる場合、被削材には、溝部に対応する部分に削り残しが生じるため、ホルダ内に溝部の配置が異なる切削インサートを装着する必要がある。具体的には、ホルダに装着された一方の切削インサートの溝部の回転軌道上の位置に、他方の切削インサートの切刃が位置するように、2種類の切削インサートをホルダに取り付けることとなる。
【0005】
しかしながら、これらの切削インサートを装着した切削工具は、一方の切削インサートの溝部に対応する他方の切削インサートの切刃部分に大きな負荷がかかる。そのため、当該切刃部分が欠けやすい傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−225908号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、切刃の欠損を抑制することができる切削工具および切削方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の切削工具は、第1切削インサートと、第2切削インサートと、前記第1切削インサートと前記第2切削インサートとを装着するホルダと、を備える。第1切削インサートは、第1上面と第1下面とを接続する第1側面と、前記第1上面と前記第1側面との交差部に位置する第1切刃と、前記第1側面に位置し且つ前記第1切刃を分断するように前記第1上面に至る第1溝部と、を有する。他方、第2切削インサートは、第2上面と第2下面とを接続する第2側面と、前記第2上面と前記第2側面との交差部に位置する第2切刃と、前記第2上面のうち前記第2切刃側の端部に位置する切刃強化部と、を有する。そして、第1切削インサート及び第2切削インサートは、前記第1切刃及び前記第2切刃が前記ホルダの外周側に位置し、前記第1下面と前記第2上面とが対向し、そして、前記切刃強化部の回転軌道と、前記第1溝部の回転軌道とが一部重なるように、前記ホルダに装着される。
【0009】
本発明の切削インサートは、溝部型切削インサートとともにホルダに装着される、切削工具用の強化型切削インサートである。溝部型切削インサートは、第1上面と第1下面とを接続する第1側面と、前記第1上面と前記第1側面との交差部に位置する第1切刃と、前記第1側面に位置し且つ前記第1切刃を分断するように前記第1上面に至る第1溝部と
を有している。他方、強化型切削インサートは、第2上面と第2下面とを接続する第2側面と、前記第2上面と前記第2側面との交差部に位置する第2切刃と、前記第2上面のうち前記第2切刃側の端部に位置する切刃強化部とを有している。そして溝部型切削インサート及び強化型切削インサートは、前記第1切刃及び前記第2切刃が前記ホルダの外周側に位置し、前記第1下面と前記第2上面とが対向し、そして、前記切刃強化部と前記第1溝部とが前記ホルダの回転軌道の対応する位置に配されるようにして、前記ホルダに装着される。
【0010】
本発明の被削材の切削方法は、上記切削工具を回転させる工程と、被削材に前記切削工具を接触させる工程と、前記被削材と前記切削工具とを離隔する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の切削工具によれば、第2切削インサートの切刃のうち、第1切削インサートの溝部に対応する位置にある切刃部分の欠損を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態による切削工具1の全体斜視図である。
【図2】図1の切削工具に装着される切削インサート2Aの全体斜視図である。
【図3】図2のインサート2Aの(a)平面図、(b)側面図である。
【図4】図1の切削工具に装着される切削インサート2Bの全体斜視図である
【図5】図3のインサート2Bの(a)平面図、(b)側面図である。
【図6】(a)は、図1のX方向から見た切削工具1の側面図であり、図6(b)は、図1のY方向からみた切削工具1の側面図である。
【図7】切削工具1を用いた切削状態を説明する概略図であり、図6(a)および(b)の要部拡大図を、各々、並列して示す図である。
【図8】本発明の第2の実施形態による切削工具1’に装着される切削インサート2B’の(a)平面図、(b)(a)のB−B断面図、(c)(a)のC−C断面図である。
【図9】本発明の第3の実施形態による切削工具1”に装着される切削インサート2B”の(a)平面図、(b)(a)のB−B断面図、(c)(a)のC−C断面図である。
【図10】本発明の第4の実施形態による切削工具1”’に装着される切削インサート2B”’の(a)平面図、(b)(a)のB−B断面図、(c)(a)のC−C断面図である。
【図11】本発明の一実施形態による被削材の切削方法を説明する工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を用いて、詳細に説明する。
【0014】
<切削工具>
(第1の実施形態)
本実施形態の切削工具1は、図1に示すように、ホルダ3と、該ホルダ3に装着された切削インサート2(以下、インサート2と略す。)と、を備えている。
【0015】
ホルダ3は、軸線Sを中心とする略回転体形状をなす。そして、ホルダ3の先端側には、インサートポケット17が4つ設けられている。インサートポケット17は、インサート2が装着される部分であり、ホルダ3の外周面および先端面が開口されている。
【0016】
ホルダ3には、形状が異なる少なくとも2種類のインサート(インサート2A、2B)が装着されている。具体的には、ホルダ3には、インサート2Aおよびインサート2Bが、それぞれ、2つずつ装着されている。インサート2Aおよびインサート2Bは、ホルダ3の周方向において、交互に配置されている。
【0017】
本実施形態においては、インサート2は、固定ネジ16によって、インサートポケット17に装着されている。すなわち、後述するインサート2の貫通穴15に固定ネジ16を挿入し、該固定ネジ16の先端をインサートポケット17に形成されたネジ孔に螺合させることによって、インサート2がホルダ3に装着されている。
【0018】
インサート2は、さらにホルダ3に正のアキシャルレーキを有するように装着されている。このような構成により、切削時にかかる切削抵抗の低減を図ることができる。
【0019】
インサート2Aは、図2に示すように、上面11Aと、下面12Aと、上面11Aと下面12Aとを接続する側面13Aと、を備えている。そして、インサート2Aは、上面11Aと側面13Aとの交差部に設けられた切刃4Aを備えている。上面11Aは、図3(a)に示すように、4つのコーナー10Aを有する略正方形状であり、上面11Aの各辺に、切刃4Aが配置されている。すなわち、インサート2Aは、4つの切刃4Aを有する、いわゆる4コーナー仕様のインサートである。なお、インサート2Aは、上面11Aから下面12Aまで貫通する貫通穴15Aを有している。そして、4つの切刃4Aは、この貫通穴15Aの中心線に対して90度回転対称となるよう配置されている。
【0020】
さらに、インサート2Aは、側面13Aに設けられた溝部5Aを有している。溝部5Aは、図2および図3(b)に示すように、上面11Aに達し、切刃4Aを複数の小切刃41Aに分断するよう設けられている。また、溝部5Aは、図3(a)に示すように、上面視で、外方に開口する凹状をなすよう形成されている。
【0021】
本実施形態においては、切刃4Aは、溝部5Aによって、5つの小切刃41Aに分断されている。
【0022】
本実施形態においては、さらに、4つの溝部5Aのうち、中央側に位置する2つの溝部5Iは、側面13Aにおいて上面11A側端部から下面12A側端部に渡って設けられている。一方、コーナー10A側に位置する残りの2つの溝部5IIは、図3(b)に示すように、側面13Aにおいて下面12A側端部には達していない。このような溝部5IIがコーナー側に設けられることにより、インサート2Aのコーナー10A近傍における強度の低下が抑制される。
【0023】
また、本実施形態のインサート2Aは、正の逃げ角が付与されている。ここでいう逃げ角は、図3(b)に示すように、側面視において、下面12Aに略垂直な補助線に対する側面13の傾斜角度θをいう。本実施形態においては、逃げ角θは、切刃4に沿う領域において、一定である。
【0024】
次に本実施形態の切削工具1に装着されるインサート2Bについて、図4および図5を用いて説明する。
【0025】
インサート2Bは、上面11Bと、下面12Bと、上面11Bと下面12Bとを接続する側面13Bと、を備えている。そして、インサート2Bは、上面11Bと側面13Bとの交差部に設けられた切刃4Bと、上面11Bの中央から下面12Bの中央まで貫通する貫通穴15Bと、を備えている。図5(a)に示すように、インサート2Bにおいても、上面11Bは略四角形状をなし、上面11Bの各辺に、切刃4Bが配置されている。この4つの切刃4Bは、インサート2Aと同様、貫通穴15Bの中心線に対して90度回転対称となるよう配置されている。
【0026】
ここで、インサート2Bは、切刃4Bの近傍に切刃強化手段6を有している。この切刃
強化手段6は、インサート2Aの溝部5Bに対応する位置に設けられている。
【0027】
切刃強化手段6は、切刃4Bの欠損を抑制する目的で配置されている。切刃強化手段6は、具体的には、上面11B上に形成される、切刃4Bに略垂直な方向に延びる突部である。このような切刃強化手段6が切刃4Bの近傍に配置されることによって、切刃付近の厚みが増し、切刃4Bの欠損を抑制することができる。切刃4Bの欠損をより抑制する観点から、切刃強化手段6は、切刃4Bに連続して形成されることが好ましい。切刃強化手段6は、例えば、上面11Bに形成されるすくい面あるいはランド上に設けられる。
【0028】
切刃強化手段6はまた、図6(b)に示すように、溝部5Bによって分断された4つの小切刃41のうち、ホルダ3の先端側に位置する小切刃41aの近傍に配置されることが好ましい。すなわち切刃強化部6は、1以上の溝部5Bよりもホルダ3の先端側に位置している。このような構成により、最初に被削材に接触する小切刃41aの強度を保持することができる。
【0029】
さらに、本実施形態においては、インサート2Bは、切刃4に沿って設けられるランド7を有している。ランド7が配置される場合、切刃強化手段6はランド7に連続して配置されてもよい。図7に示すように、切刃強化手段6の切刃4に略垂直な方向における寸法をD6とし、ランド7の切刃4の略垂直な方向における寸法をD7としたとき、D6とD7とはD6>D7の関係を有している。このように、本実施形態においては、実質的な送り量がより大きい切刃強化手段6の寸法D6が、ランド7の寸法D7よりも大きくなっている。なお、D6は、図7に示すように、切刃4に垂直な方向における切刃強化手段6の寸法の最大値をいう。本実施形態においては、切刃4Bに略平行な方向(幅方向)における中央において寸法が最大となるため、この中央における値をD6とする。D7も、上記と同様、ランド7の寸法の最大値をいう。
【0030】
本実施形態においては、さらに、図7に示すように、インサート2Aにおいて、溝部5Aの切刃4A側での幅をW5とする。また、インサート2Bにおいて、切刃強化手段6の切刃4B側での幅をW6とする。このとき、W5とW6とは、略同一である。なお、本明細書において、幅とは、切刃に沿う方向における寸法をいう。
【0031】
このような構成により、切削抵抗の低減を図りつつ、切刃強度を向上させることができる。
【0032】
さらに、図7に示すように、切刃強化手段6の幅Wは、内方に向かうにつれて小さくなっている。具体的には、本実施形態においては、切刃強化手段6は、上面視において、略半円状である。このような構成により、切刃強化手段6自体の強度の向上を図ることができる。
【0033】
また、本実施形態においては、図5(b)に示すように、切刃強化手段6とランド7とは、下面12Bに対する傾斜角度が一定となるよう形成されている。すなわち、本実施形態においては、切刃強化手段6とランド7とは、同一面で構成されている。このような構成により、ランド7全体の強度の向上が図れる。
【0034】
なお、本実施形態においては、切刃強化手段6およびランド7の傾斜角度が一定になる形態を例示したが、これに限らない。切刃強化手段6およびランド7の傾斜角度が互いに異なっていてもよい(不図示)。例えば、切刃強化手段6の前記傾斜角度は、ランド7の前記傾斜角度よりも小さい場合であっても、上述した効果を奏すことができる。
【0035】
また、切刃強化手段6は、上面11Bの内方に向かうにつれて上方に隆起した形態であ
ってもよい。すなわち、上面11Bの内方に向かうにつれて下面12Bから遠ざかるよう傾斜する切刃強化手段6であっても良い。なお、このように隆起した形態の場合、切刃強化手段6としては、例えば、ランド7に対して上方に突出した略半球状のものが挙げられる。
【0036】
インサート2Bは、インサート2Aと同様に、切刃4Bを分断する溝部5Bを有している。切刃4Bは、3つの溝部5Bによって、4つの小切刃41Bに分断されている。このように、インサート2Bも溝部5Bを有することで、切削抵抗の低減を図ることができる。なお、本実施形態においては、側面視において、インサート2Aの溝部の回転軌道と、インサート2Bの溝部の回転軌道とが重ならないように配置される。
【0037】
また、図2および図4に示すように、インサート2Aおよびインサート2Bは、いずれも、小切刃41に対応して、上面11に設けられた突起部16を有している。これにより、小切刃41で生成された切屑が、突起部16によってカールされ、切屑がスムーズに排出される。なお、本実施形態においては、複数の小切刃41に対応する各突起部16は、いずれも略同一の形状をなす。突起部16の形態としては、例えば、切刃強化手段6をなす第1ランド71が設けられている小切刃41に対応する突起部16の形態が、他の小切刃に対応する突起部16と異なっていてもよい。
【0038】
上記切削工具1は、上述のように、インサート2Aおよび2Bは、ホルダ3に装着してなる。図6(a)は、図1のX方向から見た切削工具1の側面図であり、図6(b)は、図1のY方向からみた切削工具1の側面図である。ここでいうX方向とは、ホルダ3の軸線Sに略垂直な方向であって、インサート2Aの上面11A側から下面12A側へ向かう方向である。また、ここでいうY方向とは、ホルダ3の軸線Sに略垂直な方向であって、インサート2Bの上面11B側から下面側12Bへ向かう方向である。
【0039】
図6(a)および(b)に示すように、インサート2Aおよびインサート2Bは、いずれも、切刃4Aおよび切刃4Bがホルダ3の外周面から突出するようにホルダ3に配置される。このとき、切刃4Aおよび切刃4Bは、ホルダ3の軸線S方向に沿って配置されている。
【0040】
また、インサート2Aおよびインサート2Bは、インサート2Aの下面13Aと、インサート2Bの上面11Bとが対向するように配置されている。このような配置によって、インサート2Aに設けられた溝部5Aによって生じる被削材の加工表面の削り残し部分を、インサート2Bの切刃4Bによって切削することで、平滑な加工面を得ることができる。
【0041】
具体的には、インサート2Aは溝部5Aを有しているため、インサート2Aによって切削された被削材の加工表面において、溝部5Aに対応する部分は切削されずに残る。その結果、被削材の加工表面には、溝部5Aに対応する帯状の隆起部分が存在する。インサート2Bは、このような隆起部分をもつ加工表面を切削することになる。
【0042】
さらに、インサート2Aとインサート2Bとは、インサート2Aに設けられる溝部5Aの回転軌道と、インサート2Bに設けられる切刃強化手段6の回転軌道とが一部重なるように配置されている。このような構成によって、溝部5Aによって生じる加工表面の隆起部分が、インサート2Bに衝突する際に生じ得る切刃4Bの欠損を抑制することができる。溝部5Aの回転軌道および切刃強化手段6の回転軌道は、側面視においてホルダの軸線方向に幅を有する。具体的には、側面視においてこれらの回転軌道が一部重なっていればよい。あるいは一致していてもよい。
【0043】
図7に、インサート2Bの切刃4Bのうち、インサート2Aの溝部5Aに対応する位置にある切刃部分を、Aで示している。この切刃部分Aは、被削材の加工表面のうち、インサート2Aの溝部5Aに対応する帯状の隆起部分を切削する切刃部分である。この切刃部分Aの実質的な送り量は、他の切刃部分の実質的な送り量よりも大きい。具体的には、隆起部分を切削する切刃部分Aの送り量は、他の切刃部分の実質的な送り量と隆起部分が上方に隆起している寸法との合計量に相当する。そのため、隆起部分を切削する切刃部分Aには、他の切刃部分よりも大きな負荷がかかる。
【0044】
そこで、本実施形態においては、図7に示すように、より大きな負荷がかかる切刃部分Aの近傍に、切刃強化手段6を備えている。具体的には、切刃4Bの近傍で、インサート2Aの溝部5Aに対応する位置に(すなわち、装着されたインサート2Aの溝部の回転軌道上に)、切刃強化手段6を備えている。このような構成により、インサート2Bの切刃部分の強度を向上させることができる。その結果、該切刃部分Aが欠損することを抑制することができる。
【0045】
(第2の実施形態)
図8に示すインサート2B’は、上述した第1の実施形態による切削工具1に装着されるインサート2Bの別の実施形態である。
【0046】
なお、第1の実施形態におけるインサート2Bと同様の構成については、同様の符号を付して、説明を省略する。
【0047】
第2の実施形態におけるインサート2B’は、第1の実施形態におけるインサート2Bと切刃強化手段6の構成が異なる。具体的には、インサート2B’は、切刃4Bにホーニング処理が施されている。ホーニング処理とは、砥石などによって切刃4Bを研磨することによって切刃4Bの強度を向上させる処理である。
【0048】
インサート2B’の切刃4Bは、切刃強化手段6に対応する第1部分切刃4iと、該第1部分切刃4iの両側に位置する第2部分切刃4iiと、を有している。第1部分切刃4iは、切刃4Bのうち、ホルダ3の軸線S方向において、一方のインサート2Aの溝部5Aに対応する位置に設けられている。
【0049】
本実施形態においては、図8(b)および(c)に示すように、第1部分切刃4iのホーニング量は、第2部分切刃4iiのホーニング量よりも大きい。すなわち、第1部分切刃4iは、第2部分切刃4iiよりも多くホーニング処理が施されている。
【0050】
このような構成により、上述した切削時に大きな負荷がかかるインサート2B’の切刃部分に相当する第1部分切刃4iの強度を高めることができる。そのため、該切刃部分の欠損を抑制することができる。
【0051】
ここで、第1部分切刃4iのホーニング量A1は、図8(b)に示すように、断面視において、上面11Bの外方端部から側面13Bの上端までの距離のうち、下面12Bに略平行な距離をいう。第2切刃4iiのホーニング量A2も、図8(c)に示すように、ホーニング量A1と同様に算出することができる。
【0052】
(第3の実施形態)
図9に示すインサート2B”は、上述した第1の実施形態による切削工具1に装着されるインサート2Bの別の実施形態である。
【0053】
なお、第1の実施形態におけるインサート2Bと同様の構成については、同様の符号を
付して、説明を省略する。
【0054】
第3の実施形態におけるインサート2B”は、第1の実施形態におけるインサート2Bと切刃強化手段6の構成が異なる。
【0055】
具体的には、インサート2B”の上面11Bは、切刃4Bから上面11Bの中央に向かって延びるすくい面8を有している。ここで、本実施形態においては、切刃強化手段6をすくい面として使用することができる。
【0056】
本実施形態においては、図9(b)および(c)に示すように、切刃強化手段6のすくい角α6は、すくい面8のすくい角α8よりも小さい。
【0057】
このような構成により、インサート2B”の切刃4のうち、上述した切削時に大きな負荷がかかる切刃部分の強度を高めることができる。そのため、該切刃部分の欠損を抑制することができる。
【0058】
ここで、切刃強化手段6のすくい角α6は、図9(b)に示すように、切刃強化手段6の下面12に対する傾斜角度である。また、すくい面8のすくい角α8も、図9(c)に示すように、すくい角α6と同様に算出することができる。
【0059】
なお、本実施形態においては、図9(b)および(c)に示すように、切刃4の全周に沿ってランド7’が設けられている。
【0060】
(第4の実施形態)
図10に示すインサート2B’”は、上述した第1の実施形態による切削工具1に装着されるインサート2Bの別の実施形態である。
【0061】
なお、第1の実施形態におけるインサート2Bと同様の構成については、同様の符号を付して、説明を省略する。
【0062】
第4の実施形態におけるインサート2B’”は、第1の実施形態におけるインサート2Bと切刃強化手段6の構成が異なる。
【0063】
具体的には、インサート2B’”の側面13Bは、切刃4Bから下面12Bに向かって延びる逃げ面9を有している。
【0064】
そして、インサート2B’”の逃げ面9は、切刃強化手段6に対応する第1逃げ面91と、該第1逃げ面91の両側に位置する第2逃げ面92と、を有している。
【0065】
本実施形態においては、図10(b)および(c)に示すように、第1逃げ面91の逃げ角β91は、第2逃げ面92の逃げ角β92よりも小さい。
【0066】
このような構成により、インサート2B’”の切刃4Bのうち、上述した切削時に大きな負荷がかかる切刃部分の強度を高めることができる。そのため、該切刃部分の欠損を抑制することができる。
【0067】
ここで、第1逃げ面91の逃げ角β91は、図10(b)に示すように、第1逃げ面91の下面12Bに対する傾斜角度である。また、図10(c)に示すように、第2逃げ面92の逃げ角β92も、逃げ角β91と同様に算出することができる。
【0068】
なお、第3の実施形態のインサート2B”と同様に、本実施形態においても、図10(b)および(c)に示すように、切刃4の全周に沿ってランド7’が設けられている。
【0069】
以上、本発明の4つの実施形態に係る切削工具に装着されるインサートにおいては、上述のように上面11が略四角形状をなすインサートを例示したが、これに限らず、上面が菱形、三角形、など他の形状であっても構わない。なお、本実施形態のように複数の切刃を有することによって、加工コストの低減が図れるため望ましい。
【0070】
また、上述の実施形態のインサート2A、2Bにおいては、切刃4を分断する溝部5が、3つまたは4つ形成された形態を例示したが、切刃4を分断する溝部5の数は、1つでも複数でも構わない。
【0071】
さらに、上述した実施形態の切削工具においては、いずれも2種類のインサート2A、2Bがホルダ3に装着された形態を例示したが、これに限られない。ホルダ3に装着されるインサート2の種類は、2つ以上であればよく、3種類、4種類のインサート2がホルダ3に装着されていてもよい。
【0072】
なお、上述した実施形態においては、インサート2A、2Bは、ホルダ3のインサートポケット17に直接装着されているが、インサート2A、2Bをホルダ3のインサートポケット17にシート部材を介して装着されていた形態であってもよい。このような構成とすることで、インサート2の切刃4などの欠損が生じた場合、該切刃4の欠損部分に位置するホルダ3部分が欠損することを低減させることができる。したがって、ホルダ3の寿命を長くすることができる。
【0073】
なお、上述した実施形態においては、インサート2が、固定ネジ16によって、ホルダ3に装着された形態を例示したが、これに限らず、他のクランプ機構によって、インサート2がホルダ3に装着された形態であってもよい。
【0074】
また、上述した実施形態の切削工具では、正面フライスを例示したが、これに限らず、エンドミル、サイドカッター等の種々の転削工具に適用することができる。
【0075】
<切削方法>
最後に、図11(a)〜(d)を用いて、本発明の一実施形態による被削材の切削方法について、上記転削工具(切削工具1)を用いた場合を例示して説明する。
【0076】
本実施形態による被削材の切削方法は、以下の(a)〜(d)の工程を備える。(a)図11(a)に示すように、切削工具1をホルダ3の軸線Sを中心に矢印A方向に回転させる工程。
(b)図11(b)に示すように、切削工具1を矢印B方向に動かし、被削材100に切削工具1を近づける近接工程。
(c)図11(c)に示すように、インサート2の切刃4を被削材100の表面に接触させ、切削工具1を矢印C方向に動かし、被削材100の表面を切削する工程。
(d)図11(d)に示すように、切削工具1を矢印D方向に動かし、被削材100から切削工具1を離間させる工程。
【0077】
これにより、上述したように、優れた切刃強度を備え切屑排出性を備え、かつ、工具寿命の長い切削工具1を用いて被削材100を加工するため、加工効率および仕上げ面精度の向上が図れる。すなわち、切刃4の欠損を抑制することができる。その結果、加工精度の高い切削加工を、長期に渡って安定して行うことができる。
【0078】
なお、前記(a)の工程では、切削工具1および被削材100の少なくとも一方を回転させればよい。また、前記(b)の工程では、切削工具1と被削材100とは相対的に近づければよく、例えば被削材100を切削工具1に近づけてもよい。これと同様に、前記(d)の工程では、被削材100と切削工具1とは相対的に遠ざかればよく、例えば被削材100を切削工具1から遠ざけてもよい。切削加工を継続する場合には、切削工具1および/または被削材100を回転させた状態を保持して、被削材100の異なる箇所にインサート1の切刃4を接触させる工程を繰り返せばよい。使用している切刃が摩耗した際には、インサート2を貫通穴15の中心軸に対して90度回転させ、未使用の切刃を用いればよい。
【0079】
以上、本発明の実施形態を例示したが、本発明は実施の形態に限定されるものではなく、発明の目的を逸脱しない限り任意のものとすることができることはいうまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1上面と第1下面とを接続する第1側面と、前記第1上面と前記第1側面との交差部に位置する第1切刃と、前記第1側面に位置し且つ前記第1切刃を分断するように前記第1上面に至る第1溝部と、を有する第1切削インサートと、
第2上面と第2下面とを接続する第2側面と、前記第2上面と前記第2側面との交差部に位置する第2切刃と、前記第2上面のうち前記第2切刃側の端部に位置する切刃強化部と、を有する第2切削インサートと、
前記第1切削インサートと前記第2切削インサートとを装着するホルダと、を備える切削工具であって、
前記第1切削インサート及び前記第2切削インサートは、前記第1切刃及び前記第2切刃が前記ホルダの外周側に位置し、前記第1下面と前記第2上面とが対向し、そして、前記切刃強化部の回転軌道と、前記第1溝部の回転軌道とが一部重なるように、前記ホルダに装着される、切削工具。
【請求項2】
前記第2切削インサートは、前記第2側面に位置し且つ前記第2切刃を分断するように前記第2上面に至る1以上の第2溝部をさらに有し、
前記切刃強化部は、前記1以上の第2溝部よりも前記ホルダの先端側に位置する、請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記第2切削インサートは、前記第2上面に、前記第2切刃に沿って配置されるランドをさらに有し、
前記第2切刃に略垂直な方向において、前記切刃強化部の長さは前記ランドの長さより大きい、請求項1または2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記第2切刃に略平行な方向における前記切刃強化部の前記第2切刃側端部の長さは、前記第1切刃に略平行な方向における前記第1溝部の前記第1切刃側端部の長さと、略同一である、請求項1から3のいずれかに記載の切削工具。
【請求項5】
前記第2切刃に略平行な方向における前記切刃強化部の長さは、前記第2上面の内方に向かうにつれて小さくなる、請求項3または4に記載の切削工具。
【請求項6】
前記切刃強化部の前記第2下面に対する傾斜角度は、前記ランドの前記第2下面に対する傾斜角度よりも小さい、請求項3から5のいずれかに記載の切削工具。
【請求項7】
前記第2切削インサートは、前記第2上面に、前記第2切刃側から内方に向かって延びるすくい面をさらに有し、
前記すくい面のすくい角は、前記切刃強化部のすくい角より大きい、請求項1または2に記載の切削工具。
【請求項8】
溝部型切削インサートとともにホルダに装着される、切削工具用の強化型切削インサートであって、
前記溝部型切削インサートは、第1上面と第1下面とを接続する第1側面と、前記第1上面と前記第1側面との交差部に位置する第1切刃と、前記第1側面に位置し且つ前記第1切刃を分断するように前記第1上面に至る第1溝部とを有し、
前記強化型切削インサートは、第2上面と第2下面とを接続する第2側面と、前記第2上面と前記第2側面との交差部に位置する第2切刃と、前記第2上面のうち前記第2切刃側の端部に位置する切刃強化部とを有し、
前記溝部型切削インサート及び前記強化型切削インサートは、前記第1切刃及び前記第2切刃が前記ホルダの外周側に位置し、前記第1下面と前記第2上面とが対向し、そして
、前記切刃強化部と前記第1溝部とが前記ホルダの回転軌道の対応する位置に配されるようにして、前記ホルダに装着される、強化型切削インサート。
【請求項9】
前記第2側面に位置し且つ前記第2切刃を分断するように前記第2上面に至る第2溝部をさらに有し、
前記切刃強化部は、前記第2溝部よりも前記ホルダの先端側に位置する、請求項8に記載の強化型切削インサート。
【請求項10】
前記第2上面に、前記第2切刃に沿って配置されるランドをさらに有し、
前記第2切刃に略垂直な方向において、前記切刃強化部の長さは前記ランドの長さより大きい、請求項8または9に記載の強化型切削インサート。
【請求項11】
前記第2切刃に略平行な方向における前記切刃強化部の長さは、前記第2上面の内方に向かうにつれて小さくなる、請求項8乃至10のいずれかに記載の強化型切削インサート。
【請求項12】
請求項1乃至7のいずれかに記載の切削工具を回転させる工程と、
被削材に前記切削工具を接触させる工程と、
前記被削材と前記切削工具とを離隔する工程と、を備える被削材の切削方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−16225(P2011−16225A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213155(P2010−213155)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【分割の表示】特願2010−525143(P2010−525143)の分割
【原出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】