説明

切削インサート及び刃先交換式回転工具

【課題】工具寿命の延長が期待でき、製造コストを削減できる切削インサート及び刃先交換式回転工具を提供する。
【解決手段】すくい面12は、インサート本体の厚さ方向の外側を向く表裏面に一対形成されており、すくい面12の外周縁をなす各辺には、切れ刃14がそれぞれ配置され、切れ刃14は、辺の中央部に配置される主切れ刃18Aと、該辺の一端部に配置されるとともに、すくい面12に対向する向きから見て主切れ刃18Aの延在する方向に対し交差するように延びる副切れ刃18Bとを有し、副切れ刃18Bの主切れ刃18Aとは反対側には、厚さ方向に直交する断面が凹曲線状をなす繋ぎ部20が、副切れ刃18Bに隣接して配置されているとともにインサート本体の厚さ方向の全長に亘って形成されており、一方のすくい面12の各切れ刃14と他方のすくい面12の各切れ刃14とが、互いに表裏回転対称とされていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削インサート及び刃先交換式回転工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属材料(被削材)に平面加工を施す切削工具として、略円盤状をなし軸線回りに回転させられる工具本体と、該工具本体の先端外周部に装着される複数の切削インサートとを備えた正面フライス(刃先交換式回転工具)が知られている。切削インサートは、例えば四角形平板状をなし、超硬合金等の硬質材料からなるとともに、前記工具本体の先端外周部に配置された複数のインサート取付座に着脱自在に装着される。また、切削インサートは、工具本体の回転方向前方側を向くすくい面と、このすくい面に交差して連なる逃げ面と、これらすくい面及び逃げ面の交差稜線部に形成された切れ刃とを有している。
【0003】
切削加工の際には、工具本体をその軸線回りに高速回転させるとともに該軸線と交差する方向に送りを与えることにより、切削インサートの切れ刃のうち、工具本体の径方向外側に向けられた主切れ刃によって被削材に切り込んでいくとともに、工具本体の軸線方向先端側に向けられた副切れ刃によって被削材の加工面に平面加工を施していく。
【0004】
このような正面フライスにおいては、工具本体を前記軸線と交差する方向に比較的速い速度で送る(以下「高送り」と省略する)と、その分生産性を高めることができる。しかしながら、高硬度の難削材料等からなる被削材を切削加工するような場合には、高送りによって切削インサートに過大な負荷がかかり、切れ刃が早期に破損したり摩耗したりすることがある。この場合、切削インサートを頻繁に交換する必要が生じて、製造コストが嵩んでしまう。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1に記載のスローアウェイチップ(切削インサート)では、切削インサートの厚さ方向の表裏面にすくい面を一対設け、これらすくい面の外周縁に一対の切れ刃をそれぞれ形成している。このような構成により、1つの切削インサートで4つの切れ刃を使用することができる。
【0006】
また、非特許文献1に記載された難削材用の切削インサート(型式:P675形)は、すくい面が切削インサートの厚さ方向の片面にのみ設けられ、該すくい面における4つの切れ刃の主切れ刃、副切れ刃及びコーナー刃が、すべてポジティブの逃げ面(ポジ逃げ面)を備えている。そして、切削インサートのコーナー角が75°(すなわち切込み角が15°)に設定されているとともに切れ刃の単位長さ当たりの切削抵抗が低減されていて、高送りに使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭47−30087号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「ダイヤチタニット 切削工具」、三菱金属株式会社、1982年10月、p.191,199,200
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の切削インサートでは、1つの切削インサートで使用できる切れ刃数は表裏を使いながらも4つしかなく、加工コスト削減の為に、1つの切削インサートで使用できる切れ刃数の増加が求められていた。
【0010】
また、非特許文献1に記載の切削インサートでは、切れ刃の主切れ刃がポジ逃げ面を備えていることから切れ味は確保されているものの、主切れ刃がネガティブの逃げ面(ネガ逃げ面)を備える他の切削インサートに対比して、刃先強度が十分に確保されているとは言えなかった。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、工具寿命の延長が期待でき、製造コストを削減できる切削インサート及びこれを用いた刃先交換式回転工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち本発明は、多角形平板状をなすインサート本体に、多角形面からなるすくい面と、前記すくい面に交差して連なる逃げ面と、これらすくい面及び逃げ面の交差稜線部に形成された切れ刃とを備えた切削インサートであって、前記すくい面は、前記インサート本体の厚さ方向の外側を向く表裏面に一対形成されており、前記すくい面の外周縁をなす各辺には、前記切れ刃がそれぞれ配置され、前記切れ刃は、辺の中央部に配置される主切れ刃と、該辺の一端部に配置されるとともに、前記すくい面に対向する向きから見て前記主切れ刃の延在する方向に対し交差するように延びる副切れ刃とを有し、前記副切れ刃の前記主切れ刃とは反対側には、前記厚さ方向に直交する断面が凹曲線状をなす繋ぎ部が、該副切れ刃に隣接して配置されているとともに前記インサート本体の厚さ方向の全長に亘って形成されており、一方のすくい面の各切れ刃と他方のすくい面の各切れ刃とが、互いに表裏回転対称とされていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る切削インサートによれば、すくい面がインサート本体の表裏面に一対形成されており、これらすくい面の各辺に対応するように切れ刃がそれぞれ配置されているので、例えば、このインサート本体が四角形平板状である場合には、計8つの切れ刃が形成されることになる。従って、切削インサートの単位あたりの使用可能な切れ刃の数が増加するとともに、工具寿命の延長が期待できる。
【0014】
すなわち、この切削インサートは、一方のすくい面の各辺に設けられた切れ刃をそれぞれ使用できるだけでなく、他方のすくい面の各辺に設けられた切れ刃もそれぞれ使用可能とされている。詳しくは、一対のすくい面において、一方のすくい面の各切れ刃と他方のすくい面の各切れ刃とが、互いに表裏回転対称とされていることから、切れ刃が欠損や摩耗等により使用に適さなくなった際には、該切削インサートを表裏反転させて切削工具に装着しなおせば、装着前の切れ刃位置と同じ位置に新しい切れ刃を容易に配置できるようになっている。このような構成により、1つの切削インサートにおいて使用可能な切れ刃の数が飛躍的に増加して、切削加工の製造コストが削減される。
【0015】
さらに、副切れ刃に隣接して、断面凹曲線状の繋ぎ部がインサート本体の厚さ方向の全長に亘って形成されているので、切屑の排出性を高めつつ、副切れ刃の刃長を十分に確保できる。また、切れ刃が摩耗した際に、背分力が低減し難いことから、切削加工の精度が安定して確保される。また、このような繋ぎ部が形成されていることにより、前述した一方のすくい面の各切れ刃と他方のすくい面の各切れ刃とが互いに表裏回転対称とされている構成であっても、切削インサートの製造が比較的容易になるとともに、製品の品質が十分に確保される。
【0016】
また、本発明に係る切削インサートにおいて、前記すくい面の各辺に配置された切れ刃同士は、該すくい面の中心軸回りに互いに回転対称とされていることとしてもよい。
【0017】
本発明に係る切削インサートによれば、すくい面の各辺に配置された切れ刃同士が、すくい面の中心軸回りに互いに回転対称に形成されているので、切れ刃が欠損や摩耗等により使用に適さなくなった際に、該切削インサートを前記中心軸回りに回転させて、新しい切れ刃を同じ態様で使用することができる。また、このように切削インサートを切削工具に装着しなおした際に、装着前の切れ刃位置と同じ位置に新しい切れ刃を容易に配置でき、作業性がよい。
【0018】
また、本発明に係る切削インサートにおいて、前記逃げ面は、前記主切れ刃に連なる主逃げ面と、前記副切れ刃に連なる副逃げ面とを有し、前記副逃げ面は、前記副切れ刃からその反対側へ向かうに従い前記インサート本体の外面から後退するように傾斜して形成されていることとしてもよい。
【0019】
本発明に係る切削インサートによれば、副逃げ面は、副切れ刃から該副切れ刃とは反対側へ向かうに従いインサート本体の外面から後退するように傾斜して形成されて、所謂ポジ逃げ面とされているので、切屑の排出性が高められる。よって、切削加工で生じた切屑が被削材の加工面付近に留まって該加工面を傷付けてしまうようなことが防止され、加工面精度が十分に確保される。
【0020】
また、本発明に係る切削インサートにおいて、前記すくい面に対向する向きから見て、前記主切れ刃の延長線と前記副切れ刃とがなす切込み角が、5°〜25°の範囲内に設定されていることとしてもよい。
【0021】
本発明に係る切削インサートによれば、切込み角が5°〜25°の範囲内に設定されているので、この切削インサートを装着した切削工具で切削加工する際、切れ刃の単位長さ当たりの切削抵抗が低減されるとともに、背分力が十分に高められる。すなわち、切削加工において送り量、切り込み量が一定の場合には、切込み角が前述の範囲内のように比較的小さく設定されることにより、主切れ刃の被削材に対する接触長さが長くなるとともに切屑厚さが薄くなるので、切削力が主切れ刃に分散されて、切れ刃の単位長さ当たりの切削抵抗が確実に低減する。従って、切れ刃の刃先欠損等が防止され、工具寿命のさらなる延長が期待できる。
【0022】
詳しくは、切込み角が5°未満に設定された場合には、主切れ刃が被削材に切り込む高さが十分に確保できず切削加工に用いるのに実際的ではない。また、切込み角が25°を超えて設定された場合には、主切れ刃の被削材に対する接触長さが十分に確保されないことから、切れ刃の単位長さ当たりの切削抵抗が低減できず、背分力が小さくなって、切れ刃に過大な負荷が掛かり早期に欠損することがある。
【0023】
また、本発明に係る切削インサートにおいて、前記逃げ面に対向する向きから見て、前記主切れ刃は、前記厚さ方向の外側へ向けて突出する凸曲線状に形成されていることとしてもよい。
【0024】
本発明に係る切削インサートによれば、逃げ面に対向する向きから見て、主切れ刃が前記厚さ方向に突出する凸曲線状に形成されているので、主切れ刃が被削材に切れ込む際の刃先への衝撃を緩和でき、該主切れ刃の欠損が防止される。また、切屑の排出性が向上する。
【0025】
また、本発明に係る切削インサートにおいて、前記すくい面は、前記主切れ刃からその反対側へ向かうに従い前記インサート本体の外面から後退するように傾斜して形成され、その前記主切れ刃の両端部におけるすくい角が、該主切れ刃の中央部におけるすくい角よりも大きく設定されていることとしてもよい。
【0026】
本発明に係る切削インサートによれば、すくい面は、その主切れ刃の両端部におけるすくい角が、該主切れ刃の中央部におけるすくい角よりも大きく設定されているので、切屑の排出性が向上する。
【0027】
また、本発明に係る切削インサートにおいて、前記切れ刃は、前記主切れ刃及び前記副切れ刃を滑らかに繋ぐコーナー刃を備えることとしてもよい。
【0028】
本発明に係る切削インサートによれば、切れ刃が、主切れ刃及び副切れ刃を滑らかに繋ぐコーナー刃を備えているので、切れ刃の欠損がより確実に防止される。すなわち、主切れ刃と副切れ刃とは互いに交差するように延びているので、これら主切れ刃と副切れ刃とをそのまま単純に連結した場合には、角張った部位が形成されることになる。しかしながら、切れ刃においてこのように角張った部位は切削抵抗を受け欠損しやすいことから、本発明のように滑らかなコーナー刃を形成することにより、切れ刃の欠損が確実に防止される。
【0029】
また、本発明は、円盤状をなす工具本体の先端外周部に、切れ刃を有する切削インサートが着脱自在に複数装着され、前記工具本体をその軸線回りに回転させて、被削材を切削加工する刃先交換式回転工具であって、この切削インサートとして、前述の切削インサートを用いたことを特徴としている。
【0030】
本発明に係る刃先交換式回転工具によれば、精度の高い切削加工が安定して行えるとともに、切削加工の製造コストが削減される。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る切削インサート及び刃先交換式回転工具によれば、工具寿命の延長が期待でき、製造コストを削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係る刃先交換式回転工具を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る刃先交換式回転工具を示す側面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る刃先交換式回転工具を示す正面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る刃先交換式回転工具の切削インサートを示す斜視図である。
【図5】図4の切削インサートをすくい面に対向する向きから見た正面図である。
【図6】図4の切削インサートを逃げ面に対向する向きから見た側面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る切削インサートのすくい面の各辺に形成された切れ刃の1つを拡大して示す正面図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る切削インサートの変形例を示す斜視図である。
【図9】図8の切削インサートをすくい面に対向する向きから見た正面図である。
【図10】図8の切削インサートを逃げ面に対向する向きから見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1〜図3は、本発明の刃先交換式回転工具の一実施形態である刃先交換式フライス1を示すものであり、図4〜図7は、この刃先交換式フライス1に用いられる切削インサート10の一実施形態を示すものである。尚、この刃先交換式フライス1は、高送り加工に用いられる刃先交換式高送りフライスであり、切削インサート10は、高送り加工用切削インサートである。
【0034】
図1〜図3に示すように、刃先交換式フライス1は、その工具本体2が軸線Oを中心とした概略円盤状をなし、この工具本体2の径方向中央には、軸線Oに沿って延びる工具取付孔3が該工具本体2を貫通し形成されている。また、工具本体2の軸線O方向に沿う後端側の端面4には、工具取付孔3の開口縁部から径方向外側に向かって延びる一対のキー溝5、5が形成されている。工具本体2は、これらのキー溝5、5を工作機械(不図示)の主軸先端部に設けられたキーに嵌合させた上で、工具取付孔3に挿通されるボルトによって該主軸先端部に取り付けられ、軸線O回りに工具回転方向Tに回転させられて、被削材の切削加工に供されるようになっている。
【0035】
また、工具本体2の軸線O方向に沿う先端側の端部には、該工具本体2の外面が切り欠かれて先端側及び径方向外側に向けて開口するチップポケット6が周方向に間隔を開け複数形成されている。また、チップポケット6において、工具回転方向Tの後方側に配置されるとともに工具回転方向Tの前方側を向く壁面には、略正方形穴状に切り欠かれたインサート取付座7が形成されている。
【0036】
また、インサート取付座7の工具回転方向Tの前方側を向く底面には、雌ねじ孔7Aが穿設されており、切削インサート10の後述する貫通孔17にクランプネジ8を挿入するとともに雌ねじ孔7Aにねじ込むことで、切削インサート10がインサート取付座7に装着される。また、クランプネジ8を取り外すことで、切削インサート10はインサート取付座7から取り外せるようにされている。このように、切削インサート10は工具本体2の先端外周部のインサート取付座7に着脱自在とされている。
【0037】
切削インサート10は、超硬合金等の硬質材料からなり正方形平板状に形成されたインサート本体11に、正方形面からなるすくい面12と、すくい面12の周囲に複数配置されるとともに該すくい面12に交差して連なる略長方形状の逃げ面13と、これらすくい面12及び逃げ面13の交差稜線部に形成された複数の切れ刃14とを備えている。
【0038】
詳しくは、図4〜図6に示すように、切削インサート10は、インサート本体11の厚さ方向(図6における上下方向)の外側を向く表裏面がそれぞれ正方形面に形成されており、これらの正方形面が一対のすくい面12、12とされている。また、切れ刃14は、すくい面12の外周縁をなす各辺にそれぞれ配置されており、本実施形態の切削インサート10においては、計8つの切れ刃14が設けられている。また、切削インサート10を工具本体2に装着した状態では、図1〜図3に示すように、一対のすくい面12のうち一方のすくい面12Aが工具回転方向Tの前方側を向き、他方のすくい面12Bがインサート取付座7の前記底面に着座されている。
【0039】
また、すくい面12の中心軸C上には、インサート本体11を厚さ方向に貫通する貫通孔17が形成されている。貫通孔17には、前述したクランプネジ8が挿入される。また、貫通孔17の内周面は、厚さ方向の両端部における内径が最も大きくされ、これら両端部から厚さ方向の中央部に向かうに従い漸次滑らかに縮径する断面凸曲線状に形成されている。
【0040】
図7は、図5に示すすくい面12の外周縁をなす4つの辺のうち1つの辺に配置された切れ刃14を拡大して示す正面図である。この正面視において、切れ刃14は、辺の中央部に配置されて直線状に延びる主切れ刃18Aと、辺の一端部(図7における左端部)に配置されるとともに、主切れ刃18Aの延在する方向に対し交差するように延びる直線状の副切れ刃18Bと、これら主切れ刃18A及び副切れ刃18Bを滑らかに繋ぐ円弧状のコーナー刃18Cとを有している。
【0041】
また、この正面視において、主切れ刃18Aの延長線と副切れ刃18Bとがなす切込み角θは、5°〜25°の範囲内に設定されている。また、図2に示すように、この切削インサート10を工具本体2に装着した状態においては、副切れ刃18Bの延在する方向は軸線Oに直交する方向と平行に設定されているとともに、主切れ刃18Aの延在する方向が軸線Oに直交する方向に対して前記切込み角θをなしている。尚、本実施形態では、この切込み角θが15°に設定されている。このように、工具本体2に装着された切削インサート10の主切れ刃18Aは、該工具本体2の径方向内側から外側へ向かうに従い漸次工具本体2の先端側から後端側へ向かうように傾斜して配置される。
【0042】
また、すくい面12は、主切れ刃18Aからその反対側へ向かうに従い、インサート本体11の外面から後退するように傾斜して形成されている。また、図5に符号X、Y、Zで示すそれぞれの位置は、すくい面12において主切れ刃18Aの一端部、中央部、他端部に連なる部位をそれぞれ表している。そして、すくい面12は、その主切れ刃18Aの両端部X、Zにおけるすくい角が、該主切れ刃18Aの中央部Yにおけるすくい角よりも大きく設定されている。
【0043】
詳しくは、すくい面12のうち主切れ刃18Aの一端部Xに連なる部位における前記傾斜(すなわち主切れ刃18Aから厚さ方向に直交する向きに該主切れ刃18Aから離間する単位長さ当たりの厚さ方向への変位量)が、すくい面12の主切れ刃18Aの中央部Yに連なる部位における前記傾斜よりも大きく設定されている。また、すくい面12のうち主切れ刃18Aの他端部Zに連なる部位における前記傾斜が、すくい面12の前記中央部Yに連なる部位における前記傾斜よりも大きく設定されている。尚、本実施形態では、すくい面12の前記一端部Xにおけるすくい角と前記他端部Zにおけるすくい角とが、略同一に設定されている。
【0044】
また、すくい面12における周縁部には、切れ刃14の内側に連なるようにして略一定幅のランド15が該すくい面12の全周に亘り形成されている。ランド15は、切れ刃14からすくい面12の内側に向かうに従い漸次インサート本体11の外面から後退するように傾斜して形成されていて、所謂ポジランドとされている。また、すくい面12におけるランド15の内側には、該ランド15に連なり、ランド15の傾斜よりも大きく傾斜するブレーカ16が、該すくい面12の全周に亘り形成されている。
【0045】
また、すくい面12の各辺に配置された切れ刃14同士は、該すくい面12の中心軸C回りに互いに回転対称とされている。詳しくは、一方のすくい面12Aにおける一の切れ刃14は、中心軸C回りに90°回転させることで、その隣り合う他の切れ刃14の位置に重なり合うようにされている。すなわち、すくい面12Aにおける各切れ刃14は、4回対称(90度対称)に設定されている。また、他方のすくい面12Bにおける各切れ刃14も同様に、4回対称に設定されている。
【0046】
そして、一方のすくい面12Aの各切れ刃14と、他方のすくい面12Bの各切れ刃14とは、互いに表裏回転対称とされている。詳しくは、一対のすくい面12A、12B同士は、インサート本体11の1つの逃げ面13の面心を通るとともに中心軸Cを通る任意の仮想軸について、2回対称(180度対称)に設定されている。
【0047】
図6は、切削インサート10を逃げ面13に対向する向きから見た側面図である。この側面視において、主切れ刃18Aはそのコーナー刃18Cに隣接する一端部側から該コーナー刃18Cとは反対側の他端部側に向かうに従い漸次厚さ方向に後退するように滑らかな円弧状をなしており、全体として前記厚さ方向の外側へ向けて突出する凸曲線状に形成されている。
【0048】
また、逃げ面13は、主切れ刃18Aに連なる主逃げ面19Aと、副切れ刃18Bに連なる一対の副逃げ面19Bと、コーナー刃18Cに連なる一対のコーナー逃げ面19Cとを有している。逃げ面13は、その面心を通る軸回りに回転対称形とされており、詳しくは前記軸について2回対称に設定されている。
【0049】
主逃げ面19Aは、略平行四辺形状をなし、厚さ方向の両端で主切れ刃18A、18Aにそれぞれ交差して連なっている。また、主逃げ面19Aは、厚さ方向に平行に延びて形成されていて、すなわちその厚さ方向との間に形成される傾斜角が0°とされていて、所謂ネガ逃げ面とされている。
【0050】
また、副逃げ面19B、19Bは、略台形状をなし、主逃げ面19Aの厚さ方向に直交する方向の両側にそれぞれ配置されている。これらの副逃げ面19B、19Bは、厚さ方向に沿ういずれかの端部で副切れ刃18Bに交差して連なっており、この端部から厚さ方向に沿う反対側の端部へ向かうに従い、漸次その幅を拡げつつインサート本体11の外面から後退するように傾斜して形成されている。このように形成される副逃げ面19Bは、所謂ポジ逃げ面とされている。
【0051】
また、コーナー逃げ面19C、19Cは、略帯状をなし、側面視において厚さ方向に対し傾斜して延在しているとともに、その幅方向の両端で主逃げ面19Aと副逃げ面19B、19Bとをそれぞれ滑らかに繋ぐように形成されている。コーナー逃げ面19C、19Cは、その延在方向に直交する断面が凸曲線状をなし、逃げ面13における厚さ方向の全長に亘って形成されている。
【0052】
これらのコーナー逃げ面19C、19Cは、厚さ方向に沿ういずれかの端部でコーナー刃18Cに交差して連なっており、この端部とは厚さ方向に沿う反対側の端部においては、主切れ刃18Aの他端部に隣接し配置されている。
このように構成された逃げ面13は、切削インサート10を工具本体2に装着した状態においては、工具本体2の先端側を向くとともに、該工具本体2の径方向内側から外側へ向かうに従い漸次工具本体2の先端側から後端側へ向かうように傾斜して配置される。
【0053】
また、図7において、副切れ刃18Bの、主切れ刃18A及びコーナー刃18Cとは反対側には、厚さ方向に直交する断面が凹曲線状をなす繋ぎ部20が、該副切れ刃18Bに隣接して配置されているとともにインサート本体11の厚さ方向の全長に亘って形成されている。繋ぎ部20は、インサート本体11の各コーナーにおいて隣り合う副逃げ面19B、19B同士の間にそれぞれ配置されており、本実施形態では、計4つ設けられている。
【0054】
以上説明したように、本実施形態に係る切削インサート10によれば、すくい面12がインサート本体11の表裏面に一対形成されており、これらすくい面12の各辺に対応するように切れ刃14がそれぞれ配置されているので、切削インサート10の単位あたりの使用可能な切れ刃14の数が増加するとともに、工具寿命の延長が期待できる。本実施形態においては、1つの切削インサート10で計8つの切れ刃14が使用可能とされている。
【0055】
すなわち、この切削インサート10は、一方のすくい面12Aの各辺に設けられた4つの切れ刃14をそれぞれ使用できるだけでなく、他方のすくい面12Bの各辺に設けられた4つの切れ刃14もそれぞれ使用可能とされている。詳しくは、一対のすくい面12において、一方のすくい面12Aの各切れ刃14と他方のすくい面12Bの各切れ刃14とが、互いに表裏回転対称とされていることから、切れ刃14が欠損や摩耗等により使用に適さなくなった際には、該切削インサート10を表裏反転させて工具本体2のインサート取付座7に装着しなおせば、装着前の切れ刃位置と同じ位置に新しい切れ刃14を容易に配置できるようになっている。このような構成により、1つの切削インサート10において使用可能な切れ刃14の数が飛躍的に増加して、切削加工の製造コストが削減される。
【0056】
さらに、副切れ刃18Bに隣接して、断面凹曲線状の繋ぎ部20がインサート本体11の厚さ方向の全長に亘って形成されているので、切屑の排出性を高めつつ、副切れ刃18Bの刃長を十分に確保できる。また、切れ刃14が摩耗した際に、背分力が低減し難いことから、切削加工の精度が安定して確保される。また、このような繋ぎ部20が形成されていることにより、前述した一方のすくい面12Aの各切れ刃14と他方のすくい面12Bの各切れ刃14とが互いに表裏回転対称とされている構成であっても、切削インサート10の製造が比較的容易になるとともに、製品の品質が十分に確保される。
【0057】
詳しくは、繋ぎ部20が、前述した断面凹曲線状以外の例えば断面凸曲線状や断面直線状に形成された場合には、正面視における繋ぎ部20の端部が、主切れ刃18A側により近づくことになるので、その分副切れ刃18Bの刃長が短くなる。この場合、副切れ刃18Bの単位長さ当たりの切削抵抗が増大することになって、該副切れ刃18Bの刃先強度が低減することがある。また、繋ぎ部20と被削材の加工面との隙間が十分に確保できなくなって、副切れ刃18Bで切削した切屑が前記隙間を通り難くなり、切屑の排出性が低減して、加工面精度が確保できないことがある。
【0058】
また、すくい面12の各辺に配置された切れ刃14同士が、すくい面12の中心軸C回りに互いに回転対称に形成されているので、切れ刃14が欠損や摩耗等により使用に適さなくなった際に、該切削インサート10を中心軸C回りに回転させて、新しい切れ刃14を同じ態様で使用することができる。また、このように切削インサート10をインサート取付座7に装着しなおした際に、装着前の切れ刃位置と同じ位置に新しい切れ刃14を容易に配置でき、作業性がよい。
【0059】
また、逃げ面13の副逃げ面19Bは、副切れ刃18Bから該副切れ刃18Bとは反対側へ向かうに従いインサート本体11の外面から後退するように傾斜して形成されて、ポジ逃げ面とされているので、切屑の排出性が高められる。よって、切削加工で生じた切屑が被削材の加工面付近に留まって該加工面を傷付けてしまうようなことが防止され、加工面精度が十分に確保される。
【0060】
また、切込み角θが5°〜25°の範囲内に設定されているので、この切削インサート10を装着した刃先交換式フライス1で切削加工する際、切れ刃14の単位長さ当たりの切削抵抗が低減されるとともに、背分力が十分に高められる。すなわち、切削加工において送り量、切り込み量が一定の場合には、切込み角θが前述の範囲内のように比較的小さく設定されることにより、主切れ刃18Aの被削材に対する接触長さが長くなるとともに切屑厚さが薄くなるので、切削力が主切れ刃18Aに分散されて、切れ刃14の単位長さ当たりの切削抵抗が確実に低減する。従って、切れ刃14の刃先欠損等が防止され、工具寿命のさらなる延長が期待できる。
【0061】
詳しくは、切込み角θが5°未満に設定された場合には、主切れ刃18Aが被削材に切り込む高さが十分に確保できず、切削加工に用いるのに実際的ではない。また、切込み角θが25°を超えて設定された場合には、主切れ刃18Aの被削材に対する接触長さが十分に確保されないことから、切れ刃14の単位長さ当たりの切削抵抗が低減できず、背分力が小さくなって、切れ刃14に過大な負荷が掛かり早期に欠損することがある。
【0062】
また、逃げ面13に対向する向きから見て、主切れ刃18Aが前記厚さ方向に突出する凸曲線状に形成されているので、主切れ刃18Aが被削材に切れ込む際の刃先への衝撃を緩和でき、該主切れ刃18Aの欠損が防止される。また、切屑の排出性が向上する。
【0063】
また、すくい面12は、その主切れ刃18Aの両端部X、Zにおけるすくい角が、該主切れ刃18Aの中央部Yにおけるすくい角よりも大きく設定されているので、切屑の排出性がより向上する。
【0064】
また、切れ刃14が、主切れ刃18A及び副切れ刃18Bを滑らかに繋ぐコーナー刃18Cを備えているので、切れ刃14の欠損がより確実に防止される。すなわち、主切れ刃18Aと副切れ刃18Bとは互いに交差するように延びているので、これら主切れ刃18Aと副切れ刃18Bとをそのまま単純に連結した場合には、角張った部位が形成されることになる。しかしながら、切れ刃14においてこのように角張った部位は切削抵抗を受け欠損しやすいことから、本実施形態のように滑らかなコーナー刃18Cを形成することにより、切れ刃14の欠損が確実に防止される。
【0065】
そして、このような切削インサート10を用いた刃先交換式フライス1によれば、精度の高い切削加工が安定して行えるとともに、切削加工の製造コストが削減される。
【0066】
尚、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることができる。
例えば、本実施形態では、図7の正面視において主切れ刃18Aが直線状に延びていることとしたが、これに限定されるものではなく、この正面視において、主切れ刃18Aは緩やかな凸曲線状に形成されていてもよい。
【0067】
また、コーナー刃18Cは、主切れ刃18A及び副切れ刃18Bを滑らかに繋いで形成されていればよく、その形状は、本実施形態で説明した円弧状に限定されるものではない。また、切れ刃14にコーナー刃18Cが形成されていなくても構わない。
【0068】
また、逃げ面13の副逃げ面19Bは、副切れ刃18Bからその反対側へ向かって、段階的に傾斜が異なる複数の副逃げ面からなることとしてもよい。すなわち、例えば、副逃げ面19Bは、副切れ刃18Bに連なる第1副逃げ面と、この第1副逃げ面の副切れ刃18Bとは反対側に連なるとともに該第1副逃げ面よりも傾斜の大きい第2副逃げ面と、を有していることとしてもよい。
【0069】
また、すくい面12には、ランド15及びブレーカ16が形成されていることとしたが、これに限定されるものではない。
図8〜図10は、本実施形態の切削インサート10の変形例である切削インサート30を示しており、この切削インサート30においては、一対のすくい面12が、それぞれ厚さ方向に直交する平面に形成されている。この場合、図10の側面視に示すように、切れ刃14の主切れ刃18Aは、直線状に形成されている。また、図8〜図10に示すように、インサート本体12に取付け穴(本実施形態における貫通孔17)が形成されていないものであっても構わない。
【0070】
また、本実施形態では、切削インサート10のインサート本体11は、正方形平板状をなしていることとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、インサート本体11は、多角形平板状であれば、正方形平板状以外の矩形平板状や三角形平板状、五角形平板状、六角形平板状等であっても構わない。
【符号の説明】
【0071】
1 刃先交換式フライス(刃先交換式回転工具)
2 工具本体
10、30 切削インサート
11 インサート本体
12 すくい面
12A 一方のすくい面
12B 他方のすくい面
13 逃げ面
14 切れ刃
18A 主切れ刃
18B 副切れ刃
18C コーナー刃
19A 主逃げ面
19B 副逃げ面
20 繋ぎ部
C すくい面の中心軸
O 工具本体の軸線
T 工具回転方向
X すくい面において主切れ刃の一端部に連なる部位
Y すくい面において主切れ刃の中央部に連なる部位
Z すくい面において主切れ刃の他端部に連なる部位
θ 切込み角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多角形平板状をなすインサート本体に、多角形面からなるすくい面と、前記すくい面に交差して連なる逃げ面と、これらすくい面及び逃げ面の交差稜線部に形成された切れ刃とを備えた切削インサートであって、
前記すくい面は、前記インサート本体の厚さ方向の外側を向く表裏面に一対形成されており、
前記すくい面の外周縁をなす各辺には、前記切れ刃がそれぞれ配置され、
前記切れ刃は、辺の中央部に配置される主切れ刃と、該辺の一端部に配置されるとともに、前記すくい面に対向する向きから見て前記主切れ刃の延在する方向に対し交差するように延びる副切れ刃とを有し、
前記副切れ刃の前記主切れ刃とは反対側には、前記厚さ方向に直交する断面が凹曲線状をなす繋ぎ部が、該副切れ刃に隣接して配置されているとともに前記インサート本体の厚さ方向の全長に亘って形成されており、
一方のすくい面の各切れ刃と他方のすくい面の各切れ刃とが、互いに表裏回転対称とされていることを特徴とする切削インサート。
【請求項2】
請求項1に記載の切削インサートであって、
前記すくい面の各辺に配置された切れ刃同士は、該すくい面の中心軸回りに互いに回転対称とされていることを特徴とする切削インサート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の切削インサートであって、
前記逃げ面は、前記主切れ刃に連なる主逃げ面と、前記副切れ刃に連なる副逃げ面とを有し、
前記副逃げ面は、前記副切れ刃からその反対側へ向かうに従い前記インサート本体の外面から後退するように傾斜して形成されていることを特徴とする切削インサート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の切削インサートであって、
前記すくい面に対向する向きから見て、前記主切れ刃の延長線と前記副切れ刃とがなす切込み角が、5°〜25°の範囲内に設定されていることを特徴とする切削インサート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の切削インサートであって、
前記逃げ面に対向する向きから見て、前記主切れ刃は、前記厚さ方向の外側へ向けて突出する凸曲線状に形成されていることを特徴とする切削インサート。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の切削インサートであって、
前記すくい面は、前記主切れ刃からその反対側へ向かうに従い前記インサート本体の外面から後退するように傾斜して形成され、その前記主切れ刃の両端部におけるすくい角が、該主切れ刃の中央部におけるすくい角よりも大きく設定されていることを特徴とする切削インサート。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の切削インサートであって、
前記切れ刃は、前記主切れ刃及び前記副切れ刃を滑らかに繋ぐコーナー刃を備えることを特徴とする切削インサート。
【請求項8】
円盤状をなす工具本体の先端外周部に、切れ刃を有する切削インサートが着脱自在に複数装着され、前記工具本体をその軸線回りに回転させて、被削材を切削加工する刃先交換式回転工具であって、
前記切削インサートとして、請求項1〜7のいずれか一項に記載の切削インサートを用いたことを特徴とする刃先交換式回転工具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−6221(P2013−6221A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236599(P2009−236599)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】