説明

切削インサート及び転削工具

【課題】本発明は、切り屑除去加工のために構成され、被削材の正面フライス加工及び斜め送り加工のためにカッター本体に装着される切削インサート及び転削工具に関する。
【解決手段】正面フライス加工と斜め送り加工のための切削インサート(10)は、上方延長面を画定する上面(21)と、上方延長面と平行な下方延長面を画定する下面(22)と、切削インサートの周囲に延びるエッジ側面(30)と、を含む。中心軸(A)が上方延長面と下方延長面を垂直に通って延びている。上方切れ刃(23)は、中心軸に関して割出し角に対応する同一の長さを有する4つの上方切れ刃部分(24)を形成する。下方切れ刃(25)は、中心軸に関して割出し角に対応する同一の長さを有する4つの下方切れ刃部分(26)を形成する。各上方切れ刃部分は下方切れ刃部分のひとつに対して中心軸に関して角度的に変位し、変位角はゼロより大きく割出し角(α)より小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切り屑除去加工のために構成され、被削材の正面フライス加工及び斜め送り加工(ランピング)のためにカッター本体に装着される、請求項1の前提部分に記載の切削インサートに関する。このような切削インサートは、以下の特許文献1で開示されている。また、本発明は、カッター本体と複数の切削インサートを備える、請求項15に記載の転削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の切削インサートでは、切り屑形成構造を含む幾何形状部分は切削インサートの上面と下面に位置する。これは、例えば特許文献2に示されているような幾何形状部分が切削インサートの周縁部に位置している従来の切削インサートと異なっている。
【0003】
特許文献1は、正面フライス加工、溝フライス加工、プランジフライス加工、及び斜め送り加工などのフライス加工用に構成された切削インサートを開示している。公知の切削インサートは上方延長面を画定する上面と、上方延長面と平行な下方延長面を画定する下面を備える。中心軸は上方延長面及び下方延長面を通って直角方向に延びる。上方切れ刃は上面の周囲に延び、3つ以上の上方切れ刃部分を形成し、その各々は中心軸に対して割出し角に対応する長さ部分を有する。下方切れ刃は下面の周囲に延び、3つ以上の下方切れ刃部分を形成し、その各々は中心軸に対して割出し角に対応する長さ部分を有する。エッジ側側面は切削インサートの周囲に延びている。
【0004】
特許文献2の切削インサートは、刃先交換可能であって、上面を切り屑生成面として上方切れ刃部分の少なくともひとつによって又は下面を切り屑生成面として下方切れ刃部分の少なくともひとつによって切削することができる。上方切れ刃部分のそれぞれの長さは下方切れ刃部分のそれぞれの長さと等しい。
【0005】
さらに、特許文献2の切削インサートの上面は、切削インサートの仮想中央面内の中心軸に直角に延びる軸に関して、下面に対して捻れて又は回転して上面が下面の鏡像となっている。この形態によって、この切削インサートは一つの勝手用となる。
【0006】
標準的なネガティブの正方形切削インサートでは、カッター本体の切削インサートの位置を変えることなしに、インサートの逃げによって、高送り正面フライス加工と斜め送り加工とを切り替えることを可能にするようなカッター本体の切削インサートの軸方向及び径方向の一意的な位置を実現することができない。この問題は、逃げ角による逃げを有するポジティブなインサートとは同じでない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0303563号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2010/0129166号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上述のような問題を解決して、複雑なフライス加工ですべての切れ刃を効率的に使用することを可能にする刃先交換可能な切削インサートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は最初に規定したような切削インサートによって達成され、切削インサートは、各上方切れ刃部分が中心軸に関して下方切れ刃部分のひとつに対して角度的に変位しており、変位の角度がゼロより大きく割出し角より小さいということで特徴づけられる。
【0010】
中心軸の周囲及び中心軸に対して垂直な軸の周囲で回転することによって刃先交換可能なこのような切削インサートによって、上面と下面に関するすべての切れ刃部分が、正面フライス加工と斜め送り加工を含むいろいろな複雑なフライス加工で、特にある方向での正面フライス加工と反対方向での斜め送り加工を含む組合せ加工で、効率的に使用できる。このように本発明の解決手段は、互いに対して角度的にずれた、又は捻れた2つの切削インサートを、上面を形成する切削インサートと下面を形成する切削インサートの間に角度オフセットを設けて組み合わせることにある。この構成のおかげで、逃げが保証される、すなわち、上方切れ刃部分のひとつ以上が有効な切削位置にあって被削材と係合しているときに下方切れ刃部分のいずれか又は切削インサートの他のいずれかの部分が被削材と干渉することがないことが保証される。上方切れ刃部分と下方切れ刃部分の角度オフセットによって、下方切れ刃を上方切れ刃の加工部位から解放することが可能になっている。その結果、下方切れ刃部分は、機能しない位置にあって加工に使用されていないときには保護される。
【0011】
本発明のある実施形態では、エッジ側面は移行部分を含み、それが切削インサートの周囲に延びてエッジ側面を上方切れ刃に関連する上側部分と下方切れ刃に関連する下側部分とに分けている。2つの側面部分をリンクする移行部分はフィレットであってよい。移行部分は上側部分を下側部分から分離しており、したがってそれらは切削インサートの逃げと支持に関して互いに独立に構成できる。
【0012】
本発明の別の実施形態では、上側部分は上方切れ刃部分のそれぞれに関連した少なくとも2つの上方側面を含み、下側部分は下方切れ刃部分のそれぞれに関連した少なくとも2つの下方側面を含む。好適には、上方側面と下方側面の各々は、一つの刃先交換位置で逃げ面を形成するように、そして別の刃先交換位置で支持表面を形成し、カッター本体に装着されるときにカッター本体の支持表面と当接するように構成される。
【0013】
本発明の別の実施形態では、上側部分は上方延長面と鋭角を成し、下側部分は下方延長面と鋭角を成す。好適には、各上方側面は関連する上方切れ刃部分に関して上方延長面と鋭角を成し、各下方側面は関連する下方切れ刃部分に関して下方延長面と鋭角を成す。したがって、切削インサートはすべての上方切れ刃部分及び下方切れ刃部分に関してポジティブな切削幾何形状を有する。この鋭角は異なる側で同じであってよく、又は異なる側で異なってもよい。
【0014】
このように、この切削インサートは自然な逃げを有するポジティブなインサートの利点を2倍の数のネガティブな反転可能なインサートと組み合わせて、カッター本体における切削インサートの位置を変えることなく斜め送り加工と正面フライス加工を切り替えることができる。特に好適な解決手段は、2つのポジティブな切削インサートを互いに捻れた状態で、すなわちそれらの間に角度のずれ(オフセット)又は変位をもたせて組み立てるものである。
【0015】
本発明の別の実施形態では、移行部分は、上方及び下方延長面と平行な方向から見て波のような形状、又は波形、を有する。波のような形状は規則的でなくてもよい。波のような形状は進行波又は正弦波の形であり、側面がエッジ側面の幅の半分より大きく、逃げ面摩耗を生ずるようになっている。
【0016】
本発明の別の実施形態では、移行部分は切削インサートの周囲に延びる溝を含む。切削インサート全体の周囲のエッジ側面に延びる溝は、上側部分と下側部分を互いから完全に分離するものになる。
【0017】
本発明の別の実施形態では、変位角度はゼロより大きく割出し角の50%より小さく、好ましくはゼロより大きく割出し角の40%より小さく、さらに好ましくはゼロより大きく割出し角の30%より小さく、最も好ましくはゼロより大きく割出し角の20%より小さい。
【0018】
本発明の別の実施形態では、上方切れ刃部分と下方切れ刃部分は同一である。したがって、切削インサートの各切れ刃部分は切削インサートの他のすべての切れ刃部分と長さ及び形状に関して同じである。
【0019】
本発明の別の実施形態では、上方切れ刃は、上方切れ刃部分のひとつが主切れ刃を形成し隣接する上方切れ刃部分が一つの刃先交換位置で副切れ刃を形成し、下方切れ刃は、一つの刃先交換位置で下方切れ刃部分が主切れ刃を形成し、隣接する下方切れ刃部分が別の刃先交換位置で副切れ刃を形成する。例えば、主切れ刃は実質的に正面フライス加工を実行し、隣接する副切れ刃が斜め送り加工を行うことができる。
【0020】
本発明の別の実施形態では、上方切れ刃は3つの上方切れ刃部分を含み、下方切れ刃は3つの下方切れ刃部分を含む。しかし、上方切れ刃と下方切れ刃は4つ、5つ、又はそれ以上の上方切れ刃部分と下方切れ刃部分を含むこともできる。このように、本発明の切削インサートは、三角形、正方形、五角形、などのいろいろな幾何形状に適用できる。また、2つの上方切れ刃部分と2つの下方切れ刃部分だけを有する切削インサートも可能である。
【0021】
本発明の別の実施形態では、切削インサートは一つの勝手用である、すなわち、切削インサートは上面と下面で同じ幾何形状を呈し、上方切れ刃と下方切れ刃のどちらが有効な切削位置にあるかによらずカッター本体の同じ方向の回転で使用できる。
【0022】
本発明の別の実施形態では、切削インサートは被削材の正面フライス加工と斜め送り加工を切り替えて行うように構成される。
【0023】
この目的は、また、最初に規定されたような転削工具において、切削インサートがカッター本体に装着され、被削材の正面フライス加工と斜め送り加工を切り替えて行うことが可能に成るように構成することによって達成される。
【0024】
以下、本発明は好ましい実施形態についての以下の説明と、それに添付された図面を参照してさらに詳しく説明される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施形態に係わる複数の切削インサートを保持するカッター本体を有する転削工具の斜視図を示す。
【図2】図1のカッター本体の側面図を示す。
【図3】図1のカッター本体の正面図を示す。
【図4】第1の実施形態に係わる切削インサートの斜視図を示す。
【図5】図4の切削インサートの側面図を示す。
【図6】図4の切削インサートの正面図を示す。
【図7】本発明の第2の実施形態に係わる切削インサートの斜視図を示す。
【図8】図7の切削インサートの側面図を示す。
【図9】図7の切削インサートの正面図を示す。
【図10】本発明の第3の実施形態に係わる切削インサートの斜視図を示す。
【図11】図10の切削インサートの側面図を示す。
【図12】図10の切削インサートの正面図を示す。
【図13】本発明の第4の実施形態に係わる切削インサートの斜視図を示す。
【図14】図13の切削インサートの側面図を示す。
【図15】図13の切削インサートの正面図を示す。
【図16】本発明の第5の実施形態に係わる切削インサートの斜視図を示す。
【図17】図16の切削インサートの側面図を示す。
【図18】図16の切削インサートの正面図を示す。
【図19】被削材を加工しているときの図1の転削工具の斜視図を示す。
【図20】図19の工具と切断された被削材の図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、工作機械用のカッター本体1を示しており、正面フライス加工と斜め送り加工の切り替えという形で用いるように構成された転削工具の一部を成すものである。斜め送り加工のとき、転削工具は側方方向と前方方向に同時に送られる。この転削工具は被削材、特に鋼、アルミニウム、などの金属材料、の切り屑除去加工用に構成されている。
【0027】
カッター本体1は、工作機械(図示せず)又は工作機械に結合される中間工具要素(図示せず)に結合されるようになった背面結合面2を有する。カッター本体1はまた、背面2の反対側の前面3、及び背面2と前面3の間でカッター本体1の周囲に延びる周縁面4を有する。カッター本体1は、カッター本体1の長手方向中心軸でもある回転軸C1の周囲で回転方向R1に回転するように構成されている。回転軸C1は背面2と前面3を通って、好ましくは直角方向に、周縁面4と平行に延びる。
【0028】
この転削工具はカッター本体1に装着される複数の切削インサート10を含む。切削インサート10は交換可能である。切削インサート10はカッター本体1よりも硬い材料、すなわち硬質金属、超硬合金、セラミックなどから製造される。カッター本体1は鋼から製造できる。
【0029】
カッター本体1は、それぞれが切削インサートのひとつを収容するような形態の複数の凹み11を含む。図1から3までに示された実施形態では、転削工具は4つの切削インサート10と4つの凹み11を含む。転削工具は4つより少ない又は多い切削インサート10と凹み11を含むことができ、例えば、3つ、5つ、6つ、7つ、8つなどの切削インサート10と凹み11を含むことができることに注意しておきたい。
【0030】
各凹み11は、切削インサート10のためのインサート座12を含む。インサート座12は切削インサート10の支持部を成すように構成される。インサート座12の脇にひとつの切削インサート10が示されている図1に見られるように、インサート座12は、支持底面13,主側方支持面14及び副側方支持面15を含む。図1から3までに見られるように、インサート座12に装着されるとき、切削インサート10は周縁面4を超えて側方へ、そして前面3を超えて前方に延びる。カッター本体1に装着されるときに切削インサート10は回転軸C1の周囲の円形経路に沿って配置される。円形経路は回転軸C1に直交する平面内に延びる。
【0031】
図1から3までに示された実施形態では、切削インサート10は締結ねじ16によってそれぞれのインサート座12に固定され、図4から6までに見られるように、ねじは中心孔7を通って切削インサート10内で支持底面13の固定孔18に延びている。
【0032】
さらに、切削インサート10は、切削インサート10と結合する固定アーム19を有するクランプによっても固定される。
【0033】
図1から3までのカッター本体に装着される第1の実施形態は、図4から6までにさらに詳しく示されている。切削インサート10は、上方延長面Uを規定する上面21と、上方延長面Uと平行な下方延長面Lを規定する下面22を含む。中心軸Aが上方延長面Uと下方延長面Lに直交して延びている。中心孔17は上面21と下面22を通って中心孔17と平行に同心的に延びている。
【0034】
上方切れ刃23は上面21の周囲に延びて4つの上方切れ刃部分24を形成する。各上方切れ刃部分24は中心軸Aに関して割出し角α(中心軸Aに関して、隣接する刃先交換位置の間の回転角度)に対応する長さを有する。下方切れ刃25は下面22の周囲に延びて4つの下方切れ刃部分26を形成する。各下方切れ刃部分26も中心軸Aに関して割出し角αに対応する長さを有する。第1の実施形態のセグメント10は4つの上方切れ刃部分24と4つの下方切れ刃部分26を有し、全体として正方形の形を有し、この割出し角αは90゜である。切れ刃部分24,26の間の移行部は図6に明らかに見られるように丸められている。これは、各切れ刃部分24,26の対向する端をわずかに曲げることによって達成される。曲げられた端の他に、切れ刃部分24,26はまた、曲げられた端の間でわずかな凸の曲率を有する。
【0035】
上方切れ刃部分24のそれぞれの長さは他の上方切れ刃部分24のそれぞれの長さと等しい。下方切れ刃部分26のそれぞれの長さは他の下方切れ刃部分26のそれぞれの長さと等しい。さらに、上方切れ刃部分24のそれぞれの長さは下方切れ刃部分26のそれぞれの長さと等しい。言い換えると、示された実施形態では、すべての切れ刃部分24,26はその長さ及び切れ刃部分24,26の形に関して同一である。下面22は、中心軸Aに直交する仮想軸のまわりで180゜回転しているという意味で上面21の鏡像と見なすことができる。
【0036】
切削インサート10は、いろいろな刃先交換位置で刃先交換可能である。ある刃先交換位置では、上方切れ刃23が切削し、上面21が切り屑生成面又はすくい面を形成し下面22は支持表面を形成してインサート座12の支持底面13に載る。別の刃先交換位置では、下方切れ刃25が切削し、下面22が切り屑生成面又はすくい面を形成して上面21は支持表面を形成してインサート座12の支持底面13に載る。上面21及び下面22によって構成される切り屑生成面は、第1の実施形態において、特に図4で見られるように凹み、好適な切り屑を形成する。
【0037】
上方切れ刃23は、一つの刃先交換位置で、上方切れ刃部分24が主切れ刃を形成し、隣接する切れ刃部分24が副切れ刃を形成する。これは特に、被削材Wと結合している切削インサート10を示す図19と20に見られる。分かりやすくするために、切削深さは誇張されている。主切れ刃は、フライス切削工具が図20で右へ動かされているときに正面フライス加工を行う。転削工具が図20で左へ動かされているときに隣接する副切れ刃は斜め送り加工を行う。同様に、下方切れ刃25は、別の刃先交換位置で、下方切れ刃部分26のひとつが主切れ刃を形成し隣接する切れ刃部分26が副切れ刃を形成するように構成される。上述した凸の曲率は、切れ刃部分24,26が被削材Wの底面の正面フライス加工を適正に行い被削材Wの側面の側方フライス加工を適正に行うようにするのに好適である。
【0038】
エッジ側面30は切削インサート10の周囲に延びている。エッジ側面30は、切削インサート10の周囲に延びてエッジ側面30を上側部分31と下側部分32に分ける移行部分を含む。上側部分31は上方切れ刃23と関連する、すなわち、結びついている。下側部分32は下方切れ刃25と関連する、すなわち、結びついている。
【0039】
上側部分31は上方切れ刃部分24のそれぞれひとつと関連する4つの上方側面34を含む。下側部分32は下方切れ刃部分26のそれぞれひとつと関連する4つの下方側面36を含む。
【0040】
上方側面34と下方側面36の各々は、一つの刃先交換位置で逃げ面を形成し、別の刃先交換位置で支持表面を形成し、切削インサート10がインサート座12に装着されるとき、それがカッター本体1のひとつのインサート座12の主側方支持表面又は副支持表面に当接するように構成される。
【0041】
特に図5に見られるように、上側部分31は上方延長面Uと鋭角を成し、下側部分32は下方延長面Lと鋭角を成す。もっと詳しくいうと、各上方側面34は関連する上方切れ刃部分24に関して上方延長面Uと鋭角を成し、各下方側面36は関連する下方切れ刃部分26に関して下方延長面Lと鋭角を成す。その結果、切削インサート10はすべての上方切れ刃部分24とすべての下方切れ刃部分26に関してポジティブの幾何形状を有する。その鋭角は異なる側方表面で同じである、又は異なる側方表面で異なってもよい。
【0042】
図4と5に見られるように、移行部分は上方延長面Uと下方延長面Lと平行な方向から見て波のような形を有する。その峰のひとつと隣接する谷の間の距離がその峰と他方の隣接する谷の間の距離よりも短いという意味でこの波状の形は不規則である。移行部分は、第1の実施形態では、エッジ側面30全体にわたり移行区域40の長さにわたり一様な幅を有する移行区域40として構成される。移行区域40の幅は、第1の実施形態では、上側部分31と下側部分32の幅よりも著しく小さい。
【0043】
特に図6に見られるように、各上方切れ刃部分24は、下方切れ刃部分26のひとつに対して、中心軸Aに関して角度的に変位しており、その変位角βはゼロより大きく割出し角αより小さい、又は著しく小さい。特に、変位角βはゼロより大きく割出し角αの50%より小さい、好ましくはゼロより大きく割出し角αの40%より小さい、さらに好ましくはゼロより大きく割出し角αの30%より小さい、最も好ましくはゼロより大きく割出し角αの20%より小さい。
【0044】
変位角βは切れ刃部分24,26の数に依存する、又は切削インサート10の全体形状に依存する、すなわち切削インサート10が中心軸Aの方向で上から見て三角形、正方形、五角形など、であるかどうかに依存する。切れ刃部分24,26の数が多いほど変位角βの上限は小さくなる。
【0045】
したがって、上面21は、上述のように中心軸Aに直交するある仮想軸の周囲で下面22に対して180゜回転しているだけでなく、中心軸Aの周囲でも下面22に対して変位角βだけ回転している。このような構成により、上面21と下面の同一な形態のため、切削インサート10は一つの勝手用になる、すなわち、転削工具とカッター本体1は、異なる切削インサート10の刃先交換位置によらず常に同じ回転方向R1に回転する。
【0046】
図19と20は、第1の実施形態に係わる切削インサート10を含む転削工具が被削材Wに対して、ある方向での正面フライス加工と反対方向での斜め送り加工を含む機械加工を行っている状態を示す。切削インサート10の上面21は被削材Wと係合して上方切れ刃部分24のひとつが主切れ刃となってフライス切削工具が水平に動かされるときに被削材に作られた凹みの底面を削り、他方、転削工具で斜め送り加工するとき、すなわち側方及び下方に動かされるとき、隣接する上方切れ刃部分24が副切れ刃となって被削材の凹みの底面を加工するということが見られる。また、下方切れ刃25並びに切削インサート10の他のすべての部分は被削材と係合しないことが見られる。下面22が上面21に対して変位しているおかげで、下方切れ刃は被削材Wとの接触を免れる。
【0047】
切削インサート10の別の実施形態を次に説明する。開示されるすべての実施形態で、同じ又は同様の要素は同じ参照符号によって表されることに注意しておきたい。
【0048】
図7と9は、切削インサート10の第2の実施形態を示しており、これは、移行部分が切削インサート10の周囲に延びる溝41を含むという点で第1の実施形態と異なる。言い換えると、移行区域40は溝として構成される。また、第2の実施形態では、移行部分又は溝は移行区域の全長にわたって一様な幅を有する。第1の実施形態と異なり、溝は上方延長面U及び下方延長面Lと平行な方向から見て波状の形は著しく小さい。
【0049】
図10から12までは、切削インサート10の第3の実施形態を示しており、これは、切削インサート10が3つの上方切れ刃部分24と3つの下方切れ刃部分26しか有しないという点で第1及び第2の実施形態と異なり、したがって全体として三角形の形状を有し、割出し角αは120゜である。また、第3の実施形態では、移行区域40は不規則な波のような形を有する。
【0050】
図13から15までは、切削インサート10の第4の実施形態を示しており、これは、切削インサート10が5つの上方切れ刃部分24と5つの下方切れ刃部分26有するという点でそれ以前の実施形態と異なり、したがって全体として五角形の形状を有し、割出し角αは72゜である。移行区域40は不規則な波のような形を有する。
【0051】
図16から18までは、切削インサート10の第5の実施形態を示しており、これは、切削インサート10が平面状の上面21と平面状の下面22を有するという点で、第1及び第2の実施形態と異なる。さらに、第1及び第2の実施形態と異なり、切れ刃部分24,26はわずかに曲げられた端の間で真直である。さらに、第5の実施形態では、各上方側面34と上方延長面Uの間で関連する上方切れ刃部分24に関して成す鋭角、及び各下方側面36と下方延長面Lの間で関連する下方切れ刃部分24に関して成す鋭角が、異なる側の表面で異なる。
【0052】
本発明は開示された実施形態に限定されず、以下のクレームの範囲内で変更が可能である。例えば、切削インサート10に2つの上方切れ刃部分と2つの下方切れ刃部分しか設けないことも可能である。好ましくは、切れ刃部分はその場合凸に曲がっている。さらに、切削インサートは5つよりも多くの上方切れ刃部分と5つよりも多くの下方切れ刃部分を含むこともできる、例えば6つ、7つ、8つ以上の上方切れ刃部分と下方切れ刃部分を含むこともできる。
【符号の説明】
【0053】
1 カッター本体
2 背面
3 前面
4 周縁面
10 切削インサート
11 凹み
12 インサート座
13 支持底面
14 主側方支持面
15 副側方支持面
16 締結ねじ
17 中心孔
18 固定孔
21 上面
22 下面
23 上方切れ刃
24 上方切れ刃部分
25 下方切れ刃
26 下方切れ刃部分
30 エッジ側面
31 上側部分
32 下側部分
34 上方側面
36 下方側面
40 移行区域
41 溝
A 中心軸
1 回転軸
1 回転方向
W 被削材
α 割出し角
β 変位角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切り屑除去加工用に構成され、被削材(W)の正面フライス加工と斜め送り加工とを行うためにカッター本体(1)に装着される切削インサート(10)であって、
上方延長面(U)を規定する上面(21)と、
上方延長面(U)と平行な下方延長面(L)を規定する下面(22)と、
上方延長面(U)と下方延長面(L)を通って直角方向に延びている中心軸(A)と、
上面(21)の周囲に延び、それぞれ中心軸(A)に関して割出し角(α)に対応する長さを有する少なくとも2つの上方切れ刃部分(24)を形成する上方切れ刃(23)と、
下面(22)の周囲に延び、それぞれ中心軸(A)に関して割出し角(α)に対応する長さを有する少なくとも2つの下方切れ刃部分(26)を形成する下方切れ刃(25)と、
切削インサート(10)の周囲に延びるエッジ側面と、を含み、
切削インサート(10)は、上面(21)を切り屑生成面として上方切れ刃部分(24)の少なくともひとつによる又は下面(22)を切り屑生成面として下方切れ刃部分(26)の少なくともひとつによる切削を可能とするように、異なる刃先交換位置で刃先交換可能であり、上方切れ刃部分(24)の各々の長さは下方切れ刃部分(26)の各々の長さと等しい切削インサートにおいて、
個々の上方切れ刃部分(24)は、下方切れ刃部分(26)のひとつに対し、中心軸(A)に関して角度的に変位しており、変位角(β)はゼロより大きく割出し角(α)より小さいことを特徴とする切削インサート。
【請求項2】
エッジ側面(30)は移行部分を含み、該移行部分が切削インサート(10)の周囲に延びてエッジ側面(30)を上方切れ刃(23)と関連した上側部分(31)と下方切れ刃(25)と関連した下側部分(32)とに分けることを特徴とする請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
上側部分(31)は上方切れ刃部分(24)のひとつとそれぞれ関連した少なくとも2つの上方側面(34)を含み、下側部分(32)は下方切れ刃部分(26)のひとつとそれぞれ関連した少なくとも2つの下方側面(36)を含むことを特徴とする請求項2に記載の切削インサート。
【請求項4】
上方及び下方側面(34,36)の各々は、一つの刃先交換位置で逃げ面を形成し、別の刃先交換位置で支持表面を形成してカッター本体(1)に装着されたときにカッター本体(1)の支持表面(14,15)に当接することを特徴とする請求項3に記載の切削インサート。
【請求項5】
上側部分(31)は上方延長面(U)と鋭角を成し、下側部分(32)は下方延長面(L)と鋭角を成すことを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項6】
移行部分は上方及び下方延長面(U、L)と平行な方向から見て波のような形を有することを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項7】
移行部分は切削インサート(10)の周囲に延びる溝(41)を含むことを特徴とする請求項2〜6のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項8】
変位角(β)はゼロより大きく割出し角(α)の50%よりも小さいことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項9】
上方切れ刃部分(24)と下方切れ刃部分(26)が同一であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項10】
上方切れ刃(23)は、一つの刃先交換位置で上方切れ刃部分(24)が主切れ刃を形成し、隣接する上方切れ刃部分(24)が副切れ刃を形成し、
下方切れ刃(25)は、一つの刃先交換位置で下方切れ刃部分(26)が主切れ刃を形成し、隣接する下方切れ刃部分(26)が副切れ刃を形成することを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項11】
上方切れ刃(23)は3つの上方切れ刃部分(24)を含み、下方切れ刃(25)は3つの下方切れ刃部分(26)を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項12】
上方切れ刃(23)は4つの上方切れ刃部分(24)を含み、下方切れ刃(25)は4つの下方切れ刃部分(26)を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項13】
上方切れ刃(23)は5つの上方切れ刃部分(24)を含み、下方切れ刃(25)は5つの下方切れ刃部分(26)を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項14】
切削インサート(10)が一つの勝手用であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項15】
カッター本体(1)と請求項1〜14のいずれか一項に記載の切削インサート(10)を含む転削工具であって、
切削インサート(10)はカッター本体(1)に装着されて被削材(W)の正面フライス加工と斜め送り加工とを切り替えて行うことを特徴とする転削工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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