説明

切削加工刃物

【課題】 従来の開先加工に用いられる刃物は、切削加工時に大きな衝撃と振動を生じ、このために切刃チップの欠けや磨耗が激しく刃物寿命が著しく短かった。また騒音なども大きく作業環境の面でも改善が求められていた。
【解決手段】 円盤状の台金2a〜2kと、この台金2a〜2kの外周部に取りつけた多数の切刃チップ3によって多刃刃物1a〜1kを構成し、これら多刃刃物1a〜1kを多数枚重ね合わせることによって、上記切刃チップ3の切刃稜3aが描く切削周面が、全体として所要の加工周面形状をなすようにする。前記切刃チップ3における切刃稜3aの端部に、この端部に接続し、かつ切削加工に関与しない領域に突出する補強部6を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、H形鋼におけるフランジなどの開先加工を行なう切削加工刃物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高層ビル建築における鉄骨支口部の柱梁接合構造を図7によって説明する。図において、100は柱材を構成する角鋼管 101,102は角鋼管100の上下両端に設けたダイヤフラム 103は梁材を構成するH形鋼 104,105はH形鋼103におけるフランジ 106は両フランジ104,105を連結したウェブ 107,108はフランジ104,105の端面部に形成した開先部 109,110はウェブ106を切り欠いて形成したスカラップ部 111,112はフランジ104,105とダイヤフラム101,102の突き合わせ部に配設した裏当金である。
【0003】
上記の支口構成においては、フランジ104,105の開先部107,108とダイヤフラム101,102さらにはウェブ106と角鋼管100の垂直平面の突き合わせ部とを全周溶接して柱梁の接合を完成するものであり、この溶接工法は、溶接線の集中をスカラップ部109,110によって逃がすことからスカラップ工法と呼ばれている。
【0004】
なお上記の鉄骨支口部を工場で予め製作する場合のブラケット構造においては、フランジ104、105の開先部107、108が何れも外側に向く傾斜面となっているが、長尺のH形鋼を梁材として直接現場での溶接する場合においては、下向き姿勢の作業を確保する点から一方の開先部が内側を向く傾斜面となっているものもある。
【0005】
さらにまた近年では、先の地震災害の教訓からウェブにスカラップ部すなわち切欠きのないノンスカラップ工法を実施するファブリケータも多く見られる。このノンスカラップ工法における柱梁接合構造は図8に示す通りであって、ここにおいてもフランジの端部に開先部109を加工する必要がある。
【0006】
ところで、上記のH形鋼におけるフランジ104,105に開先加工を、ウェブ106にスカラップ加工を行なう機械装置として、本出願人の提案に係る発明が公知である。(例えば特許文献1参照)。上記の開先加工は、フランジの追込み加工後に行なわれるものであるが、これらの切削加工に供されるカッターとしては、例えば特許文献2および特許文献3に開示される発明が、スカラップ加工に供されるカッターとしては例えば特許文献4に開示される発明が公知である。
【0007】
上記のうち追込み加工カッターは、図9および図10のように、工具ボディ70の外周面に数個の三角チップ71を配設したものであり、切刃稜が描く切削周面の全体が円筒形状をなしている。また開先加工カッターは、図11および図12に示すように工具ボディ80の外周面に数個の三角チップ81を配設したものであり、切刃稜が描く切削周面の全体が截頭円錐形状をなしている。またスカラップ加工カッターは、図13および図14に示すように工具ボディ90の外周面に数個の四角チップ91と丸チップ92を配列したものであり、切刃稜が描く切削周面の全体がきのこの笠形をなしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−267210号
【特許文献2】特公平3−43010号
【特許文献3】特開平6−262421号
【特許文献4】特開平10−296523号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のように従来においては、所要の切削加工を特許文献1の機械装置に特許文献2〜特許文献4のカッターを取りつけて行なったものである。しかしながらこの切削加工は、切削断面積が大きい割りには高速送りを要求されており、数個の切刃チップがこれを賄うには負担が大きく、このために大きな衝撃と振動を生じて、切刃チップの欠損を招くことが間々見られた。また騒音なども激しく作業環境の面でも改善が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明に係る切削加工刃物は、円盤状の台金と、この台金の外周部に取りつけた多数の切刃チップによって多刃刃物を構成し、これら多刃刃物を多数枚重ね合わせることによって、上記切刃チップの切刃稜が描く切削周面が、全体として所要の加工周面形状をなすようにすると共に、前記切刃チップにおける切刃稜の端部に、この端部に接続し、かつ切削加工に関与しない領域に突出する補強部を設けたものである。
【0011】
また本発明の切削加工刃物における切刃チップは、これを締付ネジによって台金の側面部に取りつけ固定したものであり、さらにこの切刃チップは、隣り合う台金に設けた受座に支持されて回り止め措置を施されるようにしたものであることを特徴としている。
【0012】
また本発明の切削加工刃物における切刃チップは、少なくとも二つの切刃稜をもつ四辺形状ものであることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0013】
このように構成した課題解決手段によれば、従来に比較して遥かに多くの切刃チップを切削周面上に配設することができる。このため、また一刃当りの切削負荷を軽減し、衝撃や振動の少ない切削加工を行なうことができる。よって切刃チップの欠損や騒音の発生などの問題点を合理的に解決することができる。また切削能力の向上による高能率の切削加工を行なうことができるという優れた効果を発揮する。
【0014】
また補強部によって、切刃チップにおける切刃稜の先端の欠けさらには磨耗を防ぐことができる。このため、刃先寿命が大幅に延長し、長時間に亘って高精度の切削加工を持続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る切削加工刃物の一実施例を示す縦断側面図である。
【図2】同じく、正面図である。
【図3】刃先構成を拡大して示す縦断側面図である。
【図4】第1の多刃刃物の構成を示す正面図である。
【図5】第2の多刃刃物の構成を示す正面図である。
【図6】切刃チップの構成を示す斜視図である。
【図7】柱梁接合構造の説明図である。
【図8】ノンスカラップ工法での開先加工形状を示す説明図である。
【図9】従来の追込み加工カッターの構成を示す側面図である。
【図10】同じく、正面図である。
【図11】従来の開先加工カッターの構成を示す側面図である。
【図12】同じく、正面図である。
【図13】従来のスカラップ加工カッターの構成を示す側面図である。
【図14】同じく、正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る切削加工刃物の実施形態を開先加工用のものに適用して説明する。図において、1a〜1kは薄い円盤状の台金2a〜2kと、その外周に配設した多数の切刃チップ3からなる第1〜第11の多刃刃物 この多刃刃物1a〜1kは、多数枚(実施例では11枚)を重ね合わせた状態で一つの切削加工刃物Aを構成する。4は台金2a〜2kの中心に設けた取付用の丸穴(図2参照) 5は丸穴4に設けたキー溝である。
【0017】
上記の第1〜第11の多刃刃物1a〜1kは、次第に直径を小さくして配列されており、同一形状の切刃チップ3を使用してその切刃稜3aを傾斜状にすることで、全ての切刃稜3aが描く切削周面を、滑らかに連続した截頭円錐形状としている。上記の切刃チップ3は、図6のように全体として台形ブロック状をなしており、その四辺に切刃稜3aを形成する。なお、切刃チップ3を換向したときに使用できる切刃稜3aは二辺となる。
【0018】
6は切刃チップにおける切刃稜3aの一端部(隅角部)に接続し、かつ切削加工に関与しない領域に突出して設けた補強部 7は切刃チップ3の取付用穴である。また上記の切刃チップ3は、台金2a〜2kの側面に締付ネジ8によって取りつけ固定する。(図3参照)9は台金2a〜2kに設けた補強部6の逃し溝である。なお上記の補強部6は、2つの補強部を連続する形状のものでもよい。
【0019】
10は、台金2a〜2kの外周部に設けた凹陥状の受座(図5参照) この受座10には、隣り合う多刃刃物(第2の多刃刃物1bの場合には第1の多刃刃物1aの切刃チップ3、第3の多刃刃物1cの場合には第2の多刃刃物1bの切刃チップ3)の切刃チップ3を緊密に嵌合し、これを支持して回り止め措置する。11は受座11に連続して前側位置に設けた切屑ポケットである。
【0020】
次に、20は一端に止めフランジ21を、他端に締付ナット22を螺合した中空軸状のアダプタ軸 このアダプタ軸20には、取付用の丸穴4によって第1〜第11の多刃刃物1a〜1kを装着し、重ね合わせた状態で取りつけ固定する。このアダプタ軸20と多刃刃物1a〜1kとは、図示省略のキー部材によって回り止め措置されている。
【0021】
30は開先加工装置(図示省略)のスピンドル 31はスピンドル30の先端に設けたアダプタ軸20の取付部 32はワッシャー部材33を介してアダプタ軸20をスピンドル30固定する固定ネジである。上記のアダプタ軸20と各多刃刃物1a〜1kとはキー手段(図示省略)によって回り止め措置がされている。
【0022】
以上のように構成した切削加工刃物Aによって、例えばH形鋼のフランジに開先加工を行なうときには、このフランジに対して細かなピッチで配列した多数の切刃チップ3を作用することができる。このため、切刃チップ3の一刃当りの切削負荷を著しく軽減することができ、大きな振動や衝撃のない円滑かつ軽快な切削加工を行なうことができる。
【0023】
また本発明においては、切刃チップ3の切刃稜3aに補強部6を設けたので、切削加工中における端部の欠け、さらには磨耗がなく、刃物寿命が飛躍的に向上することができ、これによって耐久的に高精度の切削加工作業を行なうことができる。さらに、高速送りでの加工作業を行なうことができ、また騒音レベルが低減し、健全な作業環境を得ることができるようにもなった。
【0024】
なお上記の一実施例では、傾斜状であり、かつ直線的な切刃稜をもつ截頭円錐形状の開先加工刃物に本発明を適用したものであるが、平面状であり、かつ直線的な切刃稜をもつ円筒形状の追込み加工刃物、傾斜状であり、かつ曲線的な切刃稜をもつきのこの笠形状のスカラップ加工刃物においても設計変更の範囲で容易に適用することができるものである。
【0025】
また本発明の実施例では、この切削加工刃物をH形鋼の開先加工に適用して説明したものであるが、平板のレ形開先加工用あるいは角鋼管のレ形開先加工用として使用することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0026】
A 加工刃物
1a〜1k 多刃刃物
2a〜2k 台金
3 切刃チップ
3a 切刃稜
4 丸穴
6 補強部
8 締付ネジ
9 逃し部
20 アダプタ軸
30 スピンドル
































【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤状の台金と、この台金の外周部に取りつけた多数の切刃チップによって多刃刃物を構成し、これら多刃刃物を多数枚重ね合わせることによって、上記切刃チップの切刃稜が描く切削周面が、全体として所要の加工周面形状をなすようにすると共に、前記切刃チップにおける切刃稜の端部に、この端部に接続し、かつ切削加工に関与しない領域に突出する補強部を設けたことを特徴とする切削加工刃物。
【請求項2】
切刃チップは、締付ネジによって台金の側面部に取りつけ固定したものであり、さらにこの切刃チップは、隣り合う台金に設けた受座に支持されて回り止め措置を施されるようにしたものであることを特徴とする請求項1の切削加工刃物。
【請求項3】
切刃チップは、少なくとも二つの切刃稜をもつ四辺形状ものであることを特徴とする請求項2の切削加工刃物。





















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−106315(P2012−106315A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257475(P2010−257475)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000190725)シンクス株式会社 (33)
【Fターム(参考)】