説明

切削工具

【課題】切削インサートの損傷が少なく、かつ安定に固定される切削工具を提供すること。
【解決手段】切削インサート10と、インサートポケットを備えるホルダ20と、シート部材30と、第2貫通孔32に挿通し、第1ネジ固定穴21に固定されることによりシート部材を固定するとともに、頭部に第2ネジ固定穴を有する第1ネジ40と、第1貫通孔に挿通し、第2ネジ固定穴に固定されることにより切削インサートを固定する第2ネジ50と、を備え、シート部材の前記着座部31は、シート部材を第1ネジで固定する場合に、切削インサートの着座面14と一致することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スローアウェイ式の切削工具において、経済性の観点から、両面に切刃が形成されたネガティブ型の切削インサートが使用されている。このような切削インサートは、一方の面の切刃を用いる場合に、他方の面が着座面として使用されるため、他方の面の切刃がホルダと接触し、損傷する場合が生じる。したがって、このような不使用の切刃の損傷を低減するために、切削インサートとホルダとの間にシート部材が用いられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、シート部材を用いる切削工具が開示されている。特許文献1では、シート部材および切削インサートの固定を強化する目的で、ネジ本体にネジ穴を有する第1のネジでシート部材を固定しておき、次にその第1のネジ本体のネジ穴に第2のネジを螺合することによりスローアウェイチップを固定するダブルネジ構造が用いられている。
【0004】
しかし、このようなダブルネジ構造は、シート部材を第1のネジで締め付けて固定する際に、シート部材が第1のネジの螺合方向に回転する場合があり、切削インサートの着座面の凹凸とシート部材の上面の凹凸が互いにずれて十分に固定できない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−144904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、切削インサートの損傷が少なく、かつ安定に固定される切削工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の切削工具は、切削インサートと、ホルダと、シート部材と、第1ネジと、第2ネジと、を備える。切削インサートは、第1の面の縁部に位置する切刃と、前記第1の面とは反対側に位置する第2の面に位置する着座面と、前記第1の面と前記第2の面とを貫通する第1貫通孔と、を有する本体部を備える。ホルダは、切削インサートの前記第2の面の下方側に位置するとともに、第1ネジ固定穴が形成される装着面を有するインサートポケットを備える。シート部材は、前記着座面と前記装着面との間に配置され、上面に前記切削インサートの着座面に対応する着座部と、前記上面から下面に貫通する第2貫通孔を有する。第1ネジは、前記第2貫通孔に挿通し、前記第1ネジ固定穴に固定されることにより前記シート部材を固定するとともに、頭部に第2ネジ固定穴を有する。第2ネジは、前記第1貫通孔に挿通し、前記2ネジ固定穴に固定されることにより前記切削インサートを固定する。そしてシート部材の前記着座部は、前記シート部材を第1ネジで固定する場合に、前記切削インサートの着座面と一致することを特徴とする。
【0008】
ある実施態様においては、前記シート部材は、前記着座部に対して略相似形の外縁部を有し、前記着座部と前記外縁部とは、前記第2貫通孔の中心軸に対してずれて配置されていることを特徴とする。
【0009】
ある実施態様においては、前記着座部と前記外縁部とは、前記第2貫通孔の中心軸に対して1.0度〜2.0度ずれて配置されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の被削加工物の製造方法は、上記切削工具を回転させて被削材に近づける工程と、被削材の表面に前記切削工具の切刃を接触させて前記被削材を切削する工程と、前記被削材から前記切削工具を離間させる工程と、を包含する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の切削工具によれば、シート部材の前記着座部が、前記シート部材を第1ネジで固定する場合に、前記切削インサートの着座面と一致するように配置されている。すなわち、第1ネジで締め付ける場合にシート部材が第1ネジの螺合方向に回転することを考慮して予めシート部材の着座部をずらして配置している。そのため、ダブルネジ構造において、切削インサートの着座面の凹凸とシート部材の上面に形成される上記着座面に対応する凹凸が互いずれることがなく、切削インサートが安定に固定される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第一の実施形態の切削工具の斜視図である。
【図2】図1に示す切削工具のA−A線における断面図である。
【図3】図1に示すシート部材の斜視図である。
【図4】図3に示すシート部材の(a)平面図および(b)側面図である。
【図5】本発明の一実施形態による被削加工物の製造方法を説明する工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、 図1〜図4を用いて、本発明の一実施形態である切削工具1(以下、単にインサート1と略す)について説明する。
【0014】
本発明の一実施形態である切削工具1は、切削インサート10と、ホルダ20と、シート部材30と、第1ネジ40と、第2ネジ50と、を備える。なお、この切削工具1は、転削工具として用いられる。
【0015】
切削インサート10は、第1の面11と、第1の面11とは反対側に位置する第2の面12とを有する本体部を備えている。この本体部は、具体的には、略板状であり、上面視において、四角形以上、具体的には、四角形、五角形、六角形、八角形などの当業者が通常インサートに使用する形状であればよい。図1および2においては、長さが等しい5つの長辺を有する略五角形の形状が用いられている。
【0016】
この本体部において、第1の面11の縁部には切刃13が配置され、第2の面12には着座面14が形成され、そして第1の面11と第2の面12とを貫通するように、第1貫通孔15が形成されている。
【0017】
本体部は具体的には、図1および図2に示すように、側面が第1の面11および第2の面12に対して垂直に形成されている。すなわち第1の面11および第2の面12の両面をそれぞれすくい面として使用可能なネガティブ型のインサートである。したがって、インサート1は10コーナー仕様のインサートである。この場合、第2の面12と側面との交差稜線部においても切刃が形成されており、第2の面側の切刃を用いる場合、第2の面12をすくい面、第1の面11を着座面として使用することが可能である。なお、本発明のインサートにおいては、側面に逃げ角が付与された、いわゆるポジティブ型のインサートであってもよい。
【0018】
ホルダ20は、切削インサートの第2の面12の下方側に位置するとともに、第1ネジ固定穴21が形成される装着面22を有するインサートポケットを備えている。このインサートポケットは、ホルダ20の先端側外周部に位置するように設けられており、そして切削インサート10に形成された切刃13がホルダ20の先端部と外周部を向くように配置されている。切削工具10は、ホルダ20を回転させることによって切刃13により切削が行われる。
【0019】
本実施形態においては、インサートポケットは、さらに装着面22に対して略垂直に設けられる側壁を有しており、この側壁に切削インサートを当接することによって切削インサートの固定力を高めることができる。なお、切削インサート10を第2ネジで締め付けた際に側壁に確実に当接させる観点から、切削インサート10の第1貫通孔を、上記第1ネジ固定穴20に対して偏心するように設けられている。
【0020】
シート部材30は、着座面14と装着面22との間に配置され、上面に切削インサートの着座面14に対応する着座部31と、上面から下面に貫通する第2貫通孔32を有する。シート部材30は、例えば、切削インサート10がネガティブ型の切削インサートである場合に、使用しない切刃(使用する切刃とは反対側の面に位置する切刃)がホルダの装着面に直接当接されて損傷することを低減する目的で設けられる。したがって、例えば、使用しない切刃が位置するシート部材30の縁部は、側面視において、中央部に設けられる着座部に比べて低位に位置するように設けられている。
【0021】
また、シート部材30は、切削工具の切削を妨げない観点から、切削インサート10より小さくなるように形成されている。
【0022】
着座部31は、切削インサート10の着座面14に対応するように設けられている。本実施形態においては、切削インサート10の拘束力を高める点から、着座部31には切削インサート10の着座面14の凹凸に対応するような凹凸が形成されている。
【0023】
着座部31は、シート部材30を第1ネジ40で固定する場合に、切削インサート10の着座面14と一致する。このように、第1ネジ40でシート部材30を締め付けて固定する場合にシート部材30が第1ネジ40の螺合方向に回転する場合においても、ダブルネジ構造において、切削インサート10の着座面14の凹凸とシート部材30の上面に形成される着座面14に対応する凹凸が互いずれることがなく、切削インサート10が安定に固定される。本実施形態においては、シート部材30が、着座部31に対して略相似形の外縁部33を有し、着座部31と外縁部33とは、第2貫通孔32の中心軸に対してずれて配置しているため、上記効果を達成することが可能である。なお、本明細書において、着座部に略相似形の外縁部とは、外縁部の少なくとも複数の辺が、対応する着座部の縁部の複数の辺と相似の関係にあればよく、形状自体が相似でなくてもよい。本実施形態においては、外縁部33の3つの辺33a〜33cがそれぞれ、対応する着座部31の3つの辺31a〜31cのそれぞれと相似の関係にある。したがって、例えば、外縁部33aと着座部の辺31aは、一方端から他方端に向かうにつれてその距離が小さくなるように配置されているが、外縁部33bと着座部の辺31b、および外縁部33cと着座部の辺31cは、同じ位置関係を有している。なお、外縁部33dおよび33eは突出部を有しているが、例えば、外縁部33dおよび外縁部33eはそれぞれ、対応する着座部31の3つの辺31d〜31eのそれぞれと相似の関係にある。
【0024】
着座部31と外縁部33とは、具体的には、第2貫通孔32の中心軸に対して1.0度〜2.0度ずれて配置されている。本実施形態においては、1.5度程度ずれて配置されている。
【0025】
第2貫通孔32は、ホルダ20に形成される第1ネジ固定穴21の上方に位置し、着座部31を貫通するように略円筒形状に形成されている。この第2貫通孔32に第1ネジ40を挿通し、第1ネジ固定穴で固定することによってシート部材30が固定される。なお、本実施形態においては、第2貫通孔32は、第1ネジ固定穴21と同心円状となるように形成されている。
【0026】
第1ネジ40は、前記第2貫通孔に挿通し、前記第1ネジ固定穴に固定されることにより前記シート部材を固定するとともに、頭部に第2ネジ固定穴を有する。
【0027】
第2ネジ50は、前記第1貫通孔に挿通し、第1ネジの頭部に位置する2ネジ固定穴に固定されることにより前記切削インサートを固定する。
【0028】
本実施形態においては、このように第1ネジおよび第2ネジを有するいわゆるダブルネジ構造を有する。
【0029】
<被削加工物の製造方法>
本発明に係る被削加工物の製造方法は、上記切削工具(転削工具)を回転させて被削材に近づける工程と、被削材の表面に前記切削工具の切刃を接触させて前記被削材を切削する工程と、前記被削材から前記切削工具を離間させる工程と、を包含する。具体的な工程を以下に説明する。
【0030】
まず、ホルダ20にシート部材30と切削インサート10を装着する。
【0031】
次いで、図5(a)に示すように、ホルダ2の回転軸Sを中心に矢印A方向に回転させ、次いで、切削工具1を矢印B方向に動かし、切刃を被削材100に近づける。さらに、図5(b)に示すように、切削インサート10の切刃を被削材100の表面に接触させ、切削工具10を矢印C方向に動かし、被削材の表面を切削する。例えば、切削工具1は、被削材の表面を略平行に切削することが可能である。
【0032】
その後、図5(c)に示すように、切削工具1を矢印D方向に動かし、被削材から切削工具1を離間させる。切削加工を継続する場合には、切削工具1を回転させた状態を保持して、被削材の異なる箇所に切削工具の切刃14を接触させる工程を繰り返せばよい。
【0033】
なお、使用している切刃が摩耗した際には、切削インサート10を貫通穴の中心軸に対して回転させ、未使用の切刃を用いればよい。
【0034】
以上、本発明にかかるいくつかの実施形態について例示したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り任意のものとすることができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0035】
1 切削工具
10 切削インサート
11 第1の面
12 第2の面
13 切刃
14 着座面
15 第1貫通孔
20 ホルダ
21 第1ネジ固定穴
22 装着面
30 シート部材
31 着座部
32 第2貫通孔
33 外縁部
40 第1ネジ
50 第2ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面の縁部に位置する切刃と、前記第1の面とは反対側に位置する第2の面に位置する着座面と、前記第1の面と前記第2の面とを貫通する第1貫通孔と、を有する本体部を備える切削インサートと、
前記切削インサートの前記第2の面の下方側に位置するとともに、第1ネジ固定穴が形成される装着面を有するインサートポケットを備えるホルダと、
前記着座面と前記装着面との間に配置され、上面に前記切削インサートの着座面に対応する着座部と、前記上面から下面に貫通する第2貫通孔を有するシート部材と、
前記第2貫通孔に挿通し、前記第1ネジ固定穴に固定されることにより前記シート部材を固定するとともに、頭部に第2ネジ固定穴を有する第1ネジと、
前記第1貫通孔に挿通し、前記2ネジ固定穴に固定されることにより前記切削インサートを固定する第2ネジと、
を備え、
前記シート部材の前記着座部は、前記シート部材を第1ネジで固定する場合に、前記切削インサートの着座面と一致することを特徴とする、切削工具。
【請求項2】
前記シート部材は、前記着座部に対して略相似形の外縁部を有し、前記着座部と前記外縁部とは、前記第2貫通孔の中心軸に対してずれて配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記着座部と前記外縁部とは、前記第2貫通孔の中心軸に対して1.0度〜2.0度ずれて配置されていることを特徴とする、請求項2に記載の切削工具。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかの項に記載の切削工具を回転させて被削材に近づける工程と、
被削材の表面に前記切削工具の切刃を接触させて前記被削材を切削する工程と、
前記被削材から前記切削工具を離間させる工程と、
を包含する、被削加工物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−110673(P2011−110673A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270879(P2009−270879)
【出願日】平成21年11月28日(2009.11.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】