説明

切削液

【課題】切削性良好な水性の切削液を提供しようとする。また、鋳鉄の切削に使用した場合、切削面に残留する切削液が着色しない水性の切削液を提供しようとする。
【解決手段】飽和脂肪酸、飽和ジカルボン酸、不飽和脂肪酸、キレート剤、トリルトリアゾールまたはベンゾトリアゾール及び脂肪酸の金属塩を含む水溶液からなる切削液である。また、前記水溶液と、塩素化パラフィンとを含む混合液からなる切削液である。前記切削液においては、前記水溶液が、飽和脂肪酸0.1重量%〜5重量%、不飽和脂肪酸0.1重量%〜5重量%、飽和ジカルボン酸0.01重量%〜1重量%、キレート剤0.01重量%〜1重量%、トリルトリアゾールまたはベンゾトリアゾール5×10−3重量%〜1重量%、および脂肪酸の金属塩0.01重量%〜1重量%を含む水溶液であり得、前記混合液中に前記塩素化パラフィンが0.1重量%〜5重量%含まれ得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属加工用の切削液に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄、アルミニウム、各種合金をはじめとする金属の切削加工は、切削工具によって工作物からその不要部分を除去する加工作業の一つであって、工作物に所望の形状、寸法、あるいは表面を与える為に広く行われている。
【0003】
切削加工のいずれの場合にも、工作物と工具との間の接触面に大きな摩擦が起こり、その為に発生する熱によって、工具が焼けたり、工作物の仕上げ面が雑になったり、熱膨張による工作物および工具双方の形状、寸法の精度が低下するという問題が生じる。この問題に対処する為に、切削加工作業の際には、切削液あるいは潤滑剤が用いられている。
【0004】
切削液あるいは潤滑剤として、水不溶性切削油および水溶性切削油(例えば、特許文献1参照)が、広く一般的に用いられている。水不溶性切削油は、切削中に温度が上昇すると、発煙や発火の危険があり、切削温度の低い作業にしか用いることができないという欠点がある。一方、水溶性切削油は、鉱油などの油に、乳化剤として石鹸や硫酸エステル、結合剤として高級アルコールや脂肪酸エステルなどを加えたものがある。通常、原液を水で希釈して切削加工に用いるが、潤滑性に優れた切削油は冷却性が劣る問題点があった。
【0005】
さらに、水溶性の切削液は鋳鉄の切削に使用した場合、切削面に残留した切削液が茶色に着色して切削面が着色したように見えるという問題がある。
【特許文献1】特開平6−65589号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、主に金属の切削加工の際に用いられ、潤滑性および冷却性に優れ、工具の磨耗を防ぎ、工具寿命を延長し得る水性の切削液を提供することにある。
【0007】
さらに、本発明の目的は、鋳鉄の切削に使用した場合、切削面に残留した切削液が茶色に着色して切削面が着色したように見えるという問題が生じない水性の切削液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨とするところは、飽和脂肪酸、飽和ジカルボン酸、不飽和脂肪酸、キレート剤、トリルトリアゾールまたはベンゾトリアゾール及び脂肪酸の金属塩を含む水溶液からなる切削液であることにある。
【0009】
前記水溶液は、飽和脂肪酸0.1重量%〜5重量%、不飽和脂肪酸0.1重量%〜5重量%、飽和ジカルボン酸0.01重量%〜1重量%、キレート剤0.01重量%〜1重量%、トリルトリアゾールまたはベンゾトリアゾール5×10−3重量%〜1重量%、および脂肪酸の金属塩0.01重量%〜1重量%を含み得る。
【0010】
また、本発明の要旨とするところは、飽和脂肪酸、飽和ジカルボン酸、不飽和脂肪酸、キレート剤、トリルトリアゾールまたはベンゾトリアゾール及び脂肪酸の金属塩を含む水溶液と、
塩素化パラフィンと
を含む混合液からなる切削液であることにある。
【0011】
該水溶液は、飽和脂肪酸0.1重量%〜5重量%、不飽和脂肪酸0.1重量%〜5重量%、飽和ジカルボン酸0.01重量%〜1重量%、キレート剤0.01重量%〜1重量%、トリルトリアゾールまたはベンゾトリアゾール5×10−3重量%〜1重量%、および脂肪酸の金属塩0.01重量%〜1重量%を含む水溶液であり、前記混合液中に前記塩素化パラフィンが0.1重量%〜5重量%含まれ得る。
【0012】
前記不飽和脂肪酸は、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸からなる群より選択される少なくとも1つであり得る。
【0013】
前記飽和脂肪酸は、カプリル酸、カプロン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸からなる群より選択される少なくとも1つであり得る。
【0014】
前記飽和ジカルボン酸は、ドデカン二酸またはセバチン酸であり得る。
【0015】
前記キレート剤は、エチレンジアミン四酢酸の誘導体またはニトリロ三酢酸の誘導体であり得る。
【0016】
前記脂肪酸の金属塩は、脂肪酸のカリウム塩であり得る。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、鋳鉄の切削に使用した場合、光沢のある切削面が得られる水性の切削液が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の切削液は、飽和脂肪酸、飽和ジカルボン酸、不飽和脂肪酸、キレート剤、トリルトリアゾールまたはベンゾトリアゾール及び脂肪酸の金属塩を含む水溶液からなる切削液である。
【0019】
この水溶液は、通常の蒸留水、脱イオン水、水道水等に、少なくとも、飽和脂肪酸、飽和ジカルボン酸及びその塩、キレート剤、トリルトリアゾールまたはベンゾトリアゾール、および脂肪酸の金属塩を溶解させた水溶液である。
【0020】
さらに、本発明の切削液は、飽和脂肪酸、飽和ジカルボン酸、不飽和脂肪酸、キレート剤、トリルトリアゾールまたはベンゾトリアゾール及び脂肪酸の金属塩を含む水溶液と、塩素化パラフィンとを含む混合液からなる切削液である。塩素化パラフィンが含有されることにより、本発明の切削液は、鋳鉄の切削に使用された場合、液の着色により切削面が茶色に着色するという現象がなくなる。
【0021】
本発明の切削液は、さらに、アルカリ金属の炭酸塩を加えて調製することができる。
【0022】
本発明の切削液における不飽和脂肪酸は、特に限定されず、当業者に公知のいずれの不飽和脂肪酸でもあり得る。好ましくは、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸から選択される少なくとも1つである。
【0023】
本発明の切削液中の塩素化パラフィンの含有量は、特に限定されないが、0.1重量%〜5重量%、好ましくは、0.3重量%〜1重量%である。
【0024】
本発明の切削液の調製に用いられる飽和脂肪酸は、特に限定されず、当業者に公知のいずれの飽和脂肪酸でもあり得る。好ましくは、カプリル酸、カプロン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、およびステアリン酸からなる群より選択される少なくとも1つである。
【0025】
本発明の切削液の調製に用いられる飽和ジカルボン酸は、特に限定されず、当業者に公知のいずれの飽和ジカルボン酸でもあり得る。好ましくは、ドデカン二酸またはセバチン酸である。
【0026】
本発明の切削液の調製に用いられる脂肪酸の金属塩は、特に限定されず、当業者に公知のいずれの脂肪酸の金属塩であり得る。脂肪酸の金属塩は、切削液の調整段階で調整される液に投入されてもよいが、脂肪酸と金属の水酸化物を調整される液に投入することによりその液に含有させてもよい。
【0027】
本発明の切削液の調製に用いられるキレート剤は、特に限定されず、当業者に公知のいずれのキレート剤でもあり得る。このような防製剤には、例えば、エチレンジアミン四酢酸の誘導体またはニトリロ三酢酸などがある。好ましくは、エチレンジアミン四酢酸の四ナトリウム塩(EDTA−4Na4HO)等の錯体であり得る。
【0028】
本発明の切削液の調製に用いられる脂肪酸の金属塩は、特に限定されず、当業者に公知のいずれの脂肪酸金属塩でもあり得る。特に好ましくは、脂肪酸カリウム、脂肪酸ナトリウムなどである。
【0029】
本発明の切削液中の飽和脂肪酸、飽和ジカルボン酸、不飽和脂肪酸、キレート剤、トリルトリアゾールまたはベンゾトリアゾール及び脂肪酸の金属塩の含有量は、特に限定されないが、本発明の好ましい態様においては、本発明の切削液中の水溶液は、飽和脂肪酸が0.1重量%〜5重量%、好ましくは、0.3重量%〜1重量%、不飽和脂肪酸が0.1重量%〜5重量%、好ましくは、0.3重量%〜1重量%飽和ジカルボン酸が0.01重量%〜1重量%、好ましくは、0.03重量%〜0.1重量%、エチレンジアミン四酢酸の誘導体などのキレート剤が0.01重量%〜1重量%、好ましくは0.02重量%〜0.1重量%、トリルトリアゾールまたはベンゾトリアゾールが5×10−3重量%〜1重量%、好ましくは0.01重量%〜0.1重量%、および脂肪酸の金属塩が0.01重量%〜1重量%、好ましくは0.02重量%〜0.1重量%を含む水溶液である。
【0030】
本発明の切削液は従来の切削液の代替として様々な用途に用いることができるが、さらに防錆効果を高めるために、pH調整作用を有する水酸化物、あるいはメタ珪酸塩を加えることが好ましい。この場合に用いられる水酸化物は、特に限定されず、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなど、当業者に公知のいずれの水酸化物でもあり得る。また、メタ珪酸塩も特に限定されないが、メタ珪酸ナトリウムなど、当業者に公知の一般的な塩が用いられる。
【0031】
その他にも、本発明の切削液には、さらに安定剤等を適宜加えることができる。
【0032】
本発明の切削液は、鉄、銅、ステンレス、アルミニウムなど様々な金属に対して有効に作用し、金属切削の際に用いられる。
【0033】
本発明の切削液はまた、従来のクロムやアミンを含有する切削液に比べて毒性が低い。また、本発明の切削液は鋳鉄の切削に用いた場合、光沢のある切削面が得られる。
【0034】
本発明の切削液を用いた実施例を示すが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内で、当業者の知識に基づき種々なる改良、修正、変形を加えた態様で実施し得るものである。
【実施例1】
【0035】
本発明の切削液を調製した。蒸留水450リットルに、市販の水酸化カリウム(旭硝子株式会社製)25kg、カプリル酸(日本油脂株式会社製)45リットル、オレイン酸(花王株式会社製)9kg、EDTA−4Na・4HO(クレワットS2、帝国化学産業株式会社製)11kg、ドデカン二酸(岡村製油株式会社製)2kg、トリルトリアゾール(城北化学工業株式会社製)2kg、炭酸ナトリウム1kgを混合し切削液を調製した。
【実施例2】
【0036】
本発明の切削液を調製した。蒸留水450リットルに、市販の水酸化カリウム(旭硝子株式会社製)25kg、カプリル酸(日本油脂株式会社製)45リットル、オレイン酸(花王株式会社製)9kg、EDTA−4Na・4HO(クレワットS2、帝国化学産業株式会社製)11kg、ドデカン二酸(岡村製油株式会社製)2kg、トリルトリアゾール(城北化学工業株式会社製)2kg、炭酸ナトリウム1kg、塩素化パラフィン(純分45%)(東ソー株式会社製)3kgを混合し切削液を調製した。
【0037】
実施例1、2で得られた切削液を、それぞれ、卓上ボール盤のポンプにそれぞれ供給し、ドリルの回転数540rpm、1回転0.25mmの送り速度で、鋳鉄に深さ50mmの穴を開け、良好な切削性が得られた。実施例1の切削液を用いた場合は切削面に残留した切削液が茶色に着色し、切削面が茶色に着色したように見えた。実施例2の切削液を用いた場合は切削液の着色は生ぜず、切削面が着色したように見える現象は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飽和脂肪酸、飽和ジカルボン酸、不飽和脂肪酸、キレート剤、トリルトリアゾールまたはベンゾトリアゾール及び脂肪酸の金属塩を含む水溶液からなる切削液。
【請求項2】
前記水溶液が、飽和脂肪酸0.1重量%〜5重量%、不飽和脂肪酸0.1重量%〜5重量%、飽和ジカルボン酸0.01重量%〜1重量%、キレート剤0.01重量%〜1重量%、トリルトリアゾールまたはベンゾトリアゾール5×10−3重量%〜1重量%、および脂肪酸の金属塩0.01重量%〜1重量%を含む請求項1に記載の切削液。
【請求項3】
飽和脂肪酸、飽和ジカルボン酸、不飽和脂肪酸、キレート剤、トリルトリアゾールまたはベンゾトリアゾール及び脂肪酸の金属塩を含む水溶液と、
塩素化パラフィンと
を含む混合液からなる切削液。
【請求項4】
前記水溶液が、飽和脂肪酸0.1重量%〜5重量%、不飽和脂肪酸0.1重量%〜5重量%、飽和ジカルボン酸0.01重量%〜1重量%、キレート剤0.01重量%〜1重量%、トリルトリアゾールまたはベンゾトリアゾール5×10−3重量%〜1重量%、および脂肪酸の金属塩0.01重量%〜1重量%を含む水溶液であり、前記混合液中に前記塩素化パラフィンが0.1重量%〜5重量%含まれることを特徴とする請求項4に記載の切削液。
【請求項5】
前記不飽和脂肪酸がパルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸からなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の切削液。
【請求項6】
前記飽和脂肪酸がカプリル酸、カプロン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸からなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の切削液。
【請求項7】
前記飽和ジカルボン酸がドデカン二酸またはセバチン酸であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の切削液。
【請求項8】
前記キレート剤が、エチレンジアミン四酢酸の誘導体またはニトリロ三酢酸の誘導体であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の切削液。
【請求項9】
前記脂肪酸の金属塩が脂肪酸のカリウム塩であることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の切削液。

【公開番号】特開2007−186537(P2007−186537A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−3248(P2006−3248)
【出願日】平成18年1月11日(2006.1.11)
【出願人】(597150865)
【Fターム(参考)】