説明

切断可能なリンカーを有するアレイ

本発明は、分子(例えば、グリカン)が、切断可能なリンカーによりアレイに結合されている分子のアレイを提供する。また、本発明は、これらのアレイを使用するための方法、切断可能なリンカーを用いることによりこれらのアレイと結合している分子の構造要素、特に、試験サンプルとの結合に重要である構造要素を同定するための方法を提供する。さらに、本発明は、試験サンプル及び試験分子が、アレイ上の異なるグリカン及び本明細書で提供される方法及びアレイを用いて同定される有用なグリカンと結合することができるか否かを評価するための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2004年6月24日に出願した米国仮出願第60/582713号の出願日の利益を主張するものであり、その内容は、参照により本明細書に援用されるものとする。
【0002】
本明細書に記載されている発明は、国立衛生研究所により供与された助成金番号GM58439及びGM44154の下で、米国政府のサポートにより行われた。米国政府は、この発明において特定の権利を有する。
【0003】
本発明は、切断可能なリンカー及び切断可能なリンカーを有するアレイを作製するための方法に関する。また、本発明は、アレイ上の様々なタイプの分子と結合する物質を同定するための方法及びそれらの物質と結合するアレイ上の分子の構造要素を規定する方法に関する。本明細書で提供されるアレイ及び方法は、エピトープ同定、薬物発見用に、及び分析ツールとして使用することができる。例えば、本発明は、癌及び/又はウイルス感染を治療及び予防するための組成物中で使用することができる有用なグリカンを提供する。
【背景技術】
【0004】
通常、グリカンは、細胞とそれらの環境との間の第1の、場合によっては最も重要な境界面である。全生命系の重要な構成要素として、グリカンは、認識、接着、運動性及びシグナル伝達プロセスに関与している。なぜグリカンを研究すべきかには、(1)生命体におけるすべての細胞、及びウイルスは、多様なタイプのグリカンで被覆されている、(2)グリコシル化は、全生命体で生じる翻訳後又は翻訳時修飾の一形態である、及び(3)異常なグリコシル化は、ヒト病変の発生における初期の、恐らくは重要な時期の徴候であるという少なくとも3つの理由がある。Jun Hirabayashi, Oligosaccharide microarrays for glycomics; 2003, Trends in Biotechnology. 21(4): 141-143; Sen-Itiroh Hakomori, Tumor-associated carbohydrate antigens defining tumor malignancy: Basis for development of and-cancer vaccines(The Molecular Immunology of Complex Carbohydrates-2 (Albert M Wu, ed., Kluwer Academic/Plenum, 2001))。これらの細胞を同定するグリコシル化分子には、糖タンパク質及び糖脂質が含まれ、「レクチン」と呼ばれる様々なグリカン認識タンパク質により特異的に認識される。しかしながら、これらの相互作用の大きな複雑性、並びに明確なグリカンライブラリー及び分析法の欠如は、グライコミクスの発展における大きな障害とされてきた。
【0005】
ヌクレオチド及びタンパク質マイクロアレイの発展は、ゲノム、遺伝子発現及びプロテオーム研究に革命をもたらした。これらのアレイについての技術革新のペースは爆発的であったが、グリカンマイクロアレイの発展は比較的遅いものであった。この1つの理由は、化学的及び構造的に多様なグリカンの集団を確実に固定化することが困難であったことである。さらに、グリカンは、核酸及びタンパク質に対してごく普通に適用される多くの現在利用可能な分子技法(迅速な配列決定及びインビトロ合成など)による分析に容易にはなじまない。
【特許文献1】米国仮出願第60/582713号
【非特許文献1】Jun Hirabayashi, Oligosaccharide microarrays for glycomics; 2003, Trends in Biotechnology. 21(4): 141-143
【非特許文献2】Sen-Itiroh Hakomori, Tumor-associated carbohydrate antigens defining tumor malignancy: Basis for development of and-cancer vaccines(The Molecular Immunology of Complex Carbohydrates-2 (Albert M Wu, ed., Kluwer Academic/Plenum, 2001))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、グリカンと他のタイプの分子との間の相互作用についての構造的及び機能的意義を理解するための新たなツールが必要とされる。さらに、製薬会社及び研究機関は、抗体、受容体及び他の生体分子との結合に寄与するグリカンの構造要素の分析を容易にするアレイが含まれる様々なスクリーニング及び薬物発見用途のためのグリカンアレイから大きく恩恵を受けるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、様々な用途に使用することができる切断可能なリンカーを提供する。例えば、本発明の切断可能なリンカーを用い、分子を、固体表面又はアレイに結合することができる。切断可能なリンカーは、光切断可能、酵素切断可能又は化学切断可能なユニットである切断可能なユニットを有することができる。例えば、切断可能なリンカーは、ジスルフィド(化学切断可能)、ニトロベンゾ(光切断可能なユニット)、又はアミン、アミド若しくはエステル(酵素に感受性のある切断可能なユニット)などの切断可能なユニットを有することができる。
【0008】
また、本発明は、切断可能なリンカーを有するアレイ(又はマイクロアレイ)を提供する。さらに、本発明は、そのようなグリカンアレイ又はマイクロアレイを作製するための方法を提供する。他の実施形態において、本発明は、そのようなアレイを用い、様々なタイプのグリカンが他の分子を相手とする相互作用を同定及び分析するための方法を提供する。これらのグリカンアレイ及びスクリーニング方法は、どのタンパク質、受容体、抗体、核酸又は他の分子若しくは物質が、どのグリカンと結合するかを同定するのに有用である。したがって、本発明のグリカンライブラリー及びグリカンアレイは、受容体リガンドの特徴付け、細胞膜上及び細胞内成分内の炭水化物の同定、抗体エピトープ同定、酵素の特徴付け並びにファージディスプレーライブラリースクリーニングに使用することができる。一実施形態において、本発明は、グリカンが切断可能なリンカーによりアレイに結合しているグリカンのアレイを提供する。
【0009】
本発明のアレイ上で使用されるグリカンには、2個以上の糖ユニットが含まれる。本発明のグリカンには、直鎖及び分岐したオリゴ糖並びに天然に存在するグリカン及び合成グリカンが含まれる。本発明のグリカン中には、アロース、アルトロース、アラビノース、グルコース、ガラクトース、グロース、フコース、フルクトース、イドース、リキソース、マンノース、リボース、タロース、キシロース、ノイラミン酸又は他の糖ユニットが含まれる任意のタイプの糖ユニットが存在することができる。そのような糖ユニットは、様々な置換基を有することができる。例えば、糖ユニット上に通常存在する置換基の代わりに、又はそれらの他に存在することができる置換基には、アミノ、カルボキシ、チオール、アジド、N−アセチル、N−アセチルノイラミン酸、オキシ(=O)、シアル酸、サルフェート(−SO)、ホスフェート(−PO)、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、低級アシル、及び/又は低級アルカノイルアミノアルキルが含まれる。脂肪酸、脂質、アミノ酸、ペプチド及びタンパク質も、本発明のグリカンに結合することができる。
【0010】
別の実施形態において、本発明は、固体支持体及び固体支持体上の多数の画定されたグリカンプローブ位置が含まれるマイクロアレイを提供し、各グリカンプローブ位置によって固体支持体の領域が確定され、その領域には1つのタイプの類似したグリカン分子のコピーが複数結合しており、グリカンは、切断可能なリンカーによってマイクロアレイに結合している。これらのマイクロアレイは、例えば、約2〜100,000個の異なるグリカンプローブ位置、又は約2〜10,000個の異なるグリカンプローブ位置を有することができる。
【0011】
別の実施形態において、本発明は、ある試験分子又は試験物質が、本発明のアレイ又はマイクロアレイ上に存在するグリカンと結合することができるか否かを同定する方法を提供する。この方法は、アレイを試験分子又は試験物質と接触させ、試験分子又は試験物質が、ライブラリー中又はアレイ上のグリカンと結合するか否かを観察するものである。
【0012】
別の実施形態において、本発明は、ある試験分子又は試験物質がどのグリカンと結合することができるかを同定する方法を提供し、グリカンは、本発明のアレイ上に存在する。この方法は、アレイを試験分子又は試験物質と接触させ、試験分子又は試験物質がどのグリカンと結合することができるかを観察するものである。
【0013】
別の実施形態において、本発明は、一連の別々のグリカン調製物が含まれるグリカンのライブラリーを提供し、ライブラリーの各グリカン調製物中の実質的にすべてのグリカンは、本発明のアレイを作製するための固体支持体上にグリカンを結合するために使用することができるアジド結合基を有する。
【0014】
別の実施形態において、本発明は、アレイの固体支持体表面を、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、アミノ(−−NH)、チオール(−SH)、カルボキシル(COOH)、イソチオシアネート(−−NCS)、又はヒドロキシル(−−OH)などの反応性部分を有するトリアルコキシシランで誘導体化し、アレイ上に少なくとも1つの誘導体化されたグリカンプローブ位置を作製し、誘導体化されたプローブ位置を、式I又はIIのリンカー前駆体と接触させるものである本発明のアレイを製造する方法を提供し、
NH−(CH)n−S−S−(CH)n−NH−(C=O)−L
−NH−(C=S)−NH−(CH)n−S−S−(CH)n−NH−(C=O)−L II
式中、L及びLは、各々別々に脱離基であり、各nは、別々に、1〜10の整数である。誘導体化されたプローブ位置及びリンカー前駆体を、リンカー上のアミンとアレイの反応性部分との間で共有結合を形成するのに十分な時間と条件下でお互いに接触させ、それによって、少なくとも1つのリンカー−プローブ位置を作製する。例えば、式Iのリンカー前駆体が使用される場合、末端アミンは、アレイの反応性部分の1つと共有結合を形成する。式IIのリンカー前駆体が使用される場合、L脱離基が失われ、L基に隣接するアミンが、アレイの反応性部分の1つと共有結合を形成する。多くの実施形態において、リンカー前駆体は、アレイ上のすべてのプローブ位置に結合され、次いで、別々の異なるグリカン調製物が、アレイ上の別々の異なるプローブ位置に連結される。グリカン調製物をプローブ位置に結合するために、各グリカンが、結合部位、例えば、アジド結合部位を有するグリカンからなるグリカン調製物が使用される。したがって、リンカー前駆体の結合後、アレイ上のリンカー−プローブ位置を、グリカン上の連結部分とアレイに結合しているリンカー前駆体のカルボニルとの間の共有結合の形成に十分な条件下でグリカン調製物と接触させることができる。L脱離基は、この反応中に失われる。
【0015】
各グリカンプローブ位置におけるグリカンの密度は、誘導体化されたグリカンプローブ位置に塗布されるグリカン溶液の濃度を変えることにより調節することができる。
【0016】
本発明の別の態様は、切断可能なリンカーを介してアレイに結合している分子のライブラリーを含む分子のアレイであり、切断可能なリンカーは、以下の構造を有し、
X−Cv−Z
式中、
Cvは、切断部位であり、
Xは、固体表面、固体表面に結合しているスペーサー基又は固体表面にリンカーを結合するための反応性基を有するスペーサー基であり、
Zは、分子を結合するための反応性部分、分子を結合するための反応性部分を有するスペーサー基、分子を有するスペーサー基、又は連結部分を介してリンカーに結合している分子である。
【0017】
一部の実施形態において、リンカーは、式IVa又は式IVbのいずれかを含む光切断可能なリンカーである。
【0018】
【化1】

【0019】
他の実施形態において、リンカーは、以下の構造を有するジスルフィドリンカーである。
X−S−S−Z
【0020】
他の実施形態において、リンカーは、以下の構造を有するジスルフィドリンカーである。
【0021】
【化2】

【0022】
一部の実施形態において、固体表面は、ガラス表面又はプラスチック表面である。例えば、アレイの固体表面は、スライドガラス又はマイクロタイタープレートであってよい。
【0023】
一部の実施形態において、リンカーは、結合の還元により切断される。他の実施形態において、リンカーは、光により切断される。分子には、例えば、グリカン、核酸又はタンパク質が含まれてよい。一部の実施形態において、アレイには、固体支持体及び固体支持体上の多数の画定されたグリカンプローブ位置が含まれ、各グリカンプローブ位置によって固体支持体の領域が画定され、その領域には1つのタイプの類似したグリカン分子のコピーが複数結合している。一部の実施形態において、多数の画定されたグリカンプローブ位置は、約5〜200個のグリカンプローブ位置である。
【0024】
本発明の別の態様は、試験サンプル中のある分子が、本発明の分子のアレイと結合することができるか否かを試験する方法であって、(a)アレイを試験サンプルと接触させること、及び(b)試験サンプル中のある分子が、アレイに結合している分子と結合するか否かを観察することを含む方法である。
【0025】
本発明の別の態様は、どの分子構造が、試験サンプル中の生体分子と結合するかを判定する方法であって、本発明の分子のアレイを試験サンプルと接触させること、アレイを洗浄すること、及び切断可能なリンカーを切断して、アレイに結合している分子の分子構造の構造解析又は機能解析を可能にする方法である。例えば、生体分子は、抗体、受容体又はタンパク質複合体であってよい。
【0026】
本発明の別の態様は、試験サンプルにおいて乳癌を検出する方法であって、(a)試験サンプルを、グリカン250若しくは251(式中、Rは、水素、グリカン、リンカー又は固体支持体に結合しているリンカーである)、又はそれらの組合せを含むグリカンと接触させること、及び
【0027】
【化3】

【0028】
(b)試験サンプル中の抗体が、250又は251を含む分子と結合するか否かを判定することを含む方法である。
【0029】
本発明の別の態様は、被験体においてHIV感染を検出する方法であって、(a)被験体からの試験サンプルを、マンノース含有グリカンのアレイと接触させること、及び(b)試験サンプル中の抗体が、グリカンの第一(α1−3)腕上にManα1−2Manを含むグリカン若しくはグリカンの(α1−6)第三腕上にManα1−2Manを含むグリカン、又はそれらの組合せと結合するか否かを判定することを含む方法である。一部の実施形態において、抗体は、(α1−3)分岐からの第二腕を有するマンノース含有グリカンに対して親和性が低い。
【0030】
本発明の別の態様は、以下のグリカンのうちのいずれか1つ、又はそれらの組合せを含む単離されたグリカンであり、
【0031】
【化4】

式中、Rは、水素、グリカン、リンカーである。一部の実施形態において、リンカーは、固体支持体であるか、或いは固体支持体に結合しうる。
【0032】
本発明の別の態様は、グリカンの第一(α1−3)腕上にManα1−2Man、又はグリカンの(α1−6)第三腕上にManα1−2Manを含む単離されたグリカン、又はそれらの組合せである。一部の実施形態において、グリカンは、第二(α1−3)腕を有さない。
【0033】
本発明の別の態様は、以下のオリゴマンノースグリカンのうちのいずれか1つ、又はそれらの組合せを含む単離されたグリカンであり、
【0034】
【化5】

【0035】
式中、ダッシュ記号(−)は、別の糖部分との共有結合、gp20若しくはgp43ペプチドとの共有結合、水素との共有結合、リンカーとの共有結合又は固体支持体との共有結合である。オリゴマンノースグリカンが、医薬組成物及び疾患を治療する方法において使用される場合、ダッシュ記号(−)は、別の糖部分との共有結合、又は水素との共有結合若しくはリンカーとの共有結合であることが好ましい。リンカーは、抗ウイルス剤、抗菌剤又は抗癌剤に結合しうる。
【0036】
本発明の別の態様は、薬学的に許容できる担体を含み、且つ、以下のグリカンのうちのいずれか1つ、又はそれらの組合せを含むグリカンを有効量含む医薬組成物であり、
【0037】
【化6】

【0038】
式中、Rは、水素、グリカン又はリンカーである。一部の実施形態において、リンカーは、固体支持体であるか、或いは固体支持体に結合しうる。
【0039】
本発明の別の態様は、薬学的に許容できる担体を含み、且つ、グリカンの第一(α1−3)腕上にManα1−2Man、又はグリカンの(α1−6)第三腕上にManα1−2Man、又はそれらの組合せを含むグリカンを有効量含む医薬組成物である。一部の実施形態において、グリカンは、第二(α1−3)腕を有さない。
【0040】
本発明の別の態様は、薬学的に許容できる担体を含み、且つ、以下のオリゴマンノースグリカンのうちのいずれか1つ、又はそれらの組合せを含むグリカンを有効量含む医薬組成物であり、
【0041】
【化7】

【0042】
式中、ダッシュ記号(−)は、別の糖部分との共有結合、gp20若しくはgp43ペプチドとの共有結合、水素との共有結合、リンカーとの共有結合又は固体支持体との共有結合である。本発明の組成物には、他のマンノース含有グリカンが含まれていてもよい(例えば、図17に示す構造のいずれかを有するマンノース含有グリカンが含まれていてもよい)。オリゴマンノースグリカンが、医薬組成物及び疾患を治療する方法において使用される場合、ダッシュ記号(−)は、別の糖部分との共有結合、又は水素との共有結合若しくはリンカーとの共有結合であることが好ましい。リンカーは、抗ウイルス剤、抗菌剤又は抗癌剤に結合しうる。
【0043】
本発明の別の態様は、被験体において乳癌を治療又は予防する方法であって、薬学的に許容できる担体を含み、且つ、以下のグリカンのうちのいずれか1つ、又はそれらの組合せを含むグリカンを有効量含む医薬組成物を投与することを含む方法であり、
【0044】
【化8】

【0045】
式中、Rは、水素、グリカン又はリンカーである。一部の実施形態において、リンカーは、固体支持体であるか、或いは固体支持体に結合しうる。
【0046】
本発明の別の態様は、被験体においてHIV感染を治療又は予防するための方法であって、薬学的に許容できる担体を含み、且つ、グリカンの第一(α1−3)腕上にManα1−2Man、又はグリカンの(α1−6)第三腕上にManα1−2Man、又はそれらの組合せを含むグリカンを有効量含む医薬組成物を被験体に投与することを含む方法である。一部の実施形態において、グリカンは、第二(α1−3)腕を有さない。
【0047】
本発明の別の態様は、被験体においてHIV感染を治療又は予防するための方法であって、薬学的に許容できる担体を含み、且つ、以下のオリゴマンノースグリカンのうちのいずれか1つ、又はそれらの組合せを含むグリカンを有効量含む医薬組成物を被験体に投与することを含む方法であり、
【0048】
【化9】

【0049】
式中、ダッシュ記号(−)は、別の糖部分との共有結合、gp20若しくはgp43ペプチドとの共有結合、水素との共有結合、リンカーとの共有結合又は固体支持体との共有結合である。HIVを治療又は予防するのに使用される組成物には、他のマンノース含有グリカンが含まれていてもよい。オリゴマンノースグリカンが、医薬組成物及び疾患を治療する方法において使用される場合、ダッシュ記号(−)は、別の糖部分との共有結合、又は水素との共有結合若しくはリンカーとの共有結合であることが好ましい。リンカーは、抗ウイルス剤、抗菌剤又は抗癌剤に結合しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
本発明は、どのタイプのタンパク質、受容体、抗体、脂質、核酸、炭水化物並びに他の分子及び物質が、所与のグリカン構造と結合することができるかを同定するために使用することができるグリカンのライブラリー及びアレイを提供する。
【0051】
本発明のライブラリー、アレイ及び方法は、いくつかの利点を有する。本発明のアレイのある特定の利点は、アレイ上のグリカンが、切断可能なリンカーにより結合していることである。例えば、本発明の切断可能なリンカーは、グリカンと他の生物学的分子との間に通常生じるタイプの結合相互作用に対して安定であるジスルフィド結合を有することができる。しかしながら、切断可能なリンカーは、結合しているグリカンを有するリンカーを他の目的でさらに分析又は利用することができるように、当業者が選択した場合には切断することができる。
【0052】
また、本発明のアレイ及び方法は、極めて再現性のある結果を提供する。本発明のライブラリー及びアレイは、多数の且つ様々なグリカンを提供する。例えば、本発明のライブラリー及びアレイは、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも10個、又は少なくとも100個のグリカンを有する。一部の実施形態において、本発明のライブラリー及びアレイは、1アレイ当たり、約2〜約100,000、又は約2〜約10,000、又は約2〜約1,000個の異なるグリカンを有する。そのような多数のグリカンは、多数のグリカンタイプの同時アッセイを可能にする。本明細書に記載されているように、本発明のアレイを用い、様々なグリカン結合タンパク質をスクリーニングすることに成功した。そのような実験は、グリカンの分解はほとんど生じず、スクリーニングアッセイ中には少量のグリカン結合タンパク質しか消費されないことを立証している。したがって、本発明のアレイは、2つ以上のアッセイに使用することができる。本発明のアレイ及び方法は、高いSN比を提供する。本発明によって提供されるスクリーニング法が迅速且つ容易であるのは、それらが、1工程又は数工程を含むに過ぎないからである。通常、本発明のアッセイ手順中に、表面修飾及びブロッキング手順は一切必要とされない。本発明のアレイ上のグリカンの組成は、必要に応じて当業者が変えることができる。多くの異なる複合糖質を本発明のアレイ中に組み入れることができ、例えば、天然に存在するグリカン又は合成グリカン、糖タンパク質、糖ペプチド、糖脂質、細菌及び植物細胞壁グリカンなどが含まれる。本発明のアレイに様々なグリカンを結合するための固定化手順を容易に制御し、アレイ構築を容易にすることができる。
【0053】
定義
以下の略語を使用することができる。α−AGPは、α−酸性糖タンパク質を意味し、AF488は、AlexaFluour−488を意味し、CFGは、機能グライコミクスのためのコンソーシアム(Consortium for Functional Glycomics)を意味し、Con Aは、コンカナバリンAを意味し、CVNは、シアノビリン−Nを意味し、DC−SIGNは、樹状細胞特異的なICAM接着性非インテグリンを意味し、ECAは、エリスリナ・クリスタガリ(Erythrina cristagalli)を意味し、ELISAは、酵素結合免疫吸着アッセイを意味し、FITCは、フルオレセインイソチオシアネートを意味し、GBPは、グリカン結合タンパク質を意味し、HIVは、ヒト免疫不全ウイルスを意味し、HAは、インフルエンザヘマグルチニンを意味し、NHSは、N−ヒドロキシスクシンイミドを意味し、PBSは、リン酸塩緩衝食塩水を意味し、SDSは、ドデシル硫酸ナトリウムを意味し、SEMは、平均値の標準誤差を意味し、Siglecは、シアル酸免疫グロブリンスーパーファミリーレクチンを意味する。
【0054】
本明細書で使用する「画定されたグリカンプローブ位置」は、すべてが類似したグリカン構造を有するある密度のグリカン分子が結合している固体支持体の予め画定された領域である。本明細書において、用語「グリカン領域」、又は「選択された領域」、又は単に「領域」は、用語画定されたグリカンプローブ位置と同義的に使用される。画定されたグリカンプローブ位置は、任意の好都合な形状、例えば、円形、長方形、楕円形、楔形などを有することができる。一部の実施形態において、画定されたグリカンプローブ位置、したがって、各々の異なるグリカンタイプ又は異なる一群の構造的に関係があるグリカンが結合している面積は、約1cmより小さいか、或いは1mm未満、又は0.5mm未満である。一部の実施形態において、グリカンプローブ位置は、約10,000μm未満又は100μm未満の面積を有する。各々の画定されたグリカンプローブ位置内に結合しているグリカン分子は、実質的に同一である。さらに、各グリカンタイプの複数のコピーが各々の画定されたグリカンプローブ位置内に存在する。各々の画定されたグリカンプローブ位置内の各グリカンタイプのコピーの数は、数千から数百万であってよい。
【0055】
本明細書で使用するように、本発明のアレイは、各々が「1つのタイプのグリカン分子」を有する画定されたグリカンプローブ位置を有する。用いられる「1つのタイプのグリカン分子」は、一群の実質的に構造が一致しているグリカン分子又は一群の構造的に類似したグリカン分子であってよい。画定されたグリカンプローブ位置内のあらゆるグリカン分子が、同一の構造を有する必要はない。一部の実施形態において、単一の画定されたグリカンプローブ位置内のグリカンは、構造異性体であり、可変数の糖ユニットを有するか、或いは若干異なる様式で分岐している。しかしながら、一般的に、画定されたグリカンプローブ位置内のグリカンは、実質的に同じタイプの糖ユニットを有し、且つ/又はほぼ同じ比率の各タイプの糖ユニットを有する。画定されたグリカンプローブ位置内のグリカンの糖ユニット上の置換基のタイプも実質的に同じである。
【0056】
用語レクチンは、炭水化物と相互作用する、炭水化物と結合する、又は炭水化物と架橋する分子を指す。用語ガレクチンは、動物レクチンである。一般に、ガレクチンは、ガラクトース含有グリカンと結合する。
【0057】
本明細書で使用する「被験体」は、哺乳類又はトリである。そのような哺乳類及びトリには、家畜(domesticated animals)、家畜(farm animals)、実験で使用される動物、動物園動物などが含まれる。例えば、被験体は、イヌ、ネコ、サル(monkey)、ウマ、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ、サル(ape)又はヒト哺乳類であってよい。他の実施形態において、動物は、ニワトリ、アヒル、ガチョウ又はシチメンチョウなどのトリである。多くの実施形態において、被験体は、ヒトである。
【0058】
本明細書に記載されているグリカンの構造要素の一部は、省略形で言及される。使用される多くの略語を表1に示す。さらに、本発明のグリカンは、糖ユニット、表1に示す単糖即ちコア構造のいずれかを有することができる。
【0059】
【表1】

【0060】
本発明のグリカン中に存在する糖ユニット又は他の糖構造は、様々な方法で化学的に修飾することができる。本発明のグリカン中の糖ユニットが有することができる修飾及び置換のタイプの一部についての一覧表を、これらの修飾/置換の略語と一緒に以下の表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
糖ユニット間の結合は、アルファ(α)又はベータ(β)結合であり、糖環の平面に対して、アルファ結合は下に行き、ベータ結合は上に行くことを意味する。本明細書で時折使用される簡単な表記法において、文字「a」は、アルファ結合を示すために使用され、文字「b」は、ベータ結合を示すために使用される。
【0063】
切断可能なリンカー
本発明は、固体支持体又はアレイに結合させ、切断可能なリンカーを介して固体支持体又はアレイと結合している分子又は複合体の放出を可能にすることができる切断可能なリンカーを提供する。これらの切断可能なリンカーを用い、固体支持体及びアレイに様々な分子を結合することができる。例えば、切断可能なリンカーを用い、グリカン、核酸又はタンパク質などの分子を固体支持体又はアレイに結合することができる。一部の実施形態において、切断可能なリンカーを用い、グリカンを固体支持体又はアレイに結合する。
【0064】
一実施形態において、本発明は、切断可能なリンカーを提供し、ここで、切断可能なリンカーは、以下の構造を有し、
X−Cv−Z I
式中、
Cvは、切断部位であり、
Xは、固体表面、固体表面に結合しているスペーサー基又は固体表面にリンカーを結合するための反応性基を有するスペーサー基であり、
Zは、分子を結合するための反応性部分、分子を結合するための反応性部分を有するスペーサー基、分子を有するスペーサー基、又は連結部分を介して切断可能なリンカーに結合している分子である。
【0065】
別の実施形態において、本発明は、ジスルフィドリンカーを提供し、ここで、ジスルフィドリンカーは、以下の構造を有し、
X−S−S−Z II
式中、
Xは、固体表面、固体表面に結合しているスペーサー基又は固体表面にリンカーを結合するための反応性基を有するスペーサー基であり、
Zは、分子を結合するための反応性部分、分子を結合するための反応性部分を有するスペーサー基、分子を有するスペーサー基、又は連結部分を介してリンカーに結合している分子である。
【0066】
他の実施形態において、切断可能なリンカーは、以下の構造を有するジスルフィドリンカーであり、
【0067】
【化10】

【0068】
式中、
Xは、固体表面又は固体表面に結合しているスペーサー基であり、
Yは、脱離基又はトリアゾール部分を介してジスルフィドリンカーに結合しているグリカンである。
【0069】
別の実施形態において、本発明は、以下の構造IVaかIVbのどちらかを有する光切断可能なリンカーを提供し、
【0070】
【化11】

【0071】
式中、
Xは、固体表面又は固体表面に結合しているスペーサー基又は固体表面にリンカーを結合するための反応性基を有するスペーサー基であり、
Zは、分子を結合するための反応性部分、分子を結合するための反応性部分を有するスペーサー基、分子を有するスペーサー基、又は連結部分を介してリンカーに結合している分子である。
【0072】
式IVa及びIVbの光切断可能なリンカーに結合している分子は、レーザーからの光、例えば、レーザーからの紫外光を用い、結合している固体支持体から切断することができる。一部の実施形態において、レーザーは、約340〜400nm、又は約360nmの光を提供する。分子は、分子の機能的又は構造的特徴付けを容易にするため、リンカーの光切断により固体支持体から放出される。
【0073】
スペーサー分子又は基には、かなり安定な(例えば、実質的に化学的に不活性な)鎖又はポリマーが含まれる。例えば、スペーサー分子又は基は、アルキレン基であってよい。アルキレン基の一例は、−(CH)n−であり、ここで、nは、1〜10の整数である。
【0074】
適当な脱離基は、当技術分野においてよく知られており、例えば、−C≡CHなどのアルキン;クロライド、ブロマイド、及びアイオダイドなどのハライド;アリール−又はアルキルスルホニルオキシ、置換アリールスルホニルオキシ(例えば、トシルオキシ又はメシルオキシ);置換アルキルスルホニルオキシ(例えば、ハロアルキルスルホニルオキシ);フェノキシ又は置換フェノキシ;及びアシルオキシ基が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0075】
別の実施形態において、本発明は、アレイの固体支持体表面を、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、アミノ(−−NH)、イソチオシアネート(−−NCS)又はヒドロキシル(−−OH)などの反応性部分を有するトリアルコキシシランで誘導体化し、アレイ上に少なくとも1つの誘導体化されたグリカンプローブ位置を作製し、誘導体化されたプローブ位置を、式V又はVIのリンカー前駆体(式中、L及びLは、各々別々に脱離基であり、各nは、別々に、1〜10の整数である)と接触させるものである本発明のアレイを製造する方法を提供する。
NH−(CH)n−S−S−(CH)n−NH−(C=O)−L
−NH−(C=S)−NH−(CH)n−S−S−(CH)n−NH−(C=O)−L VI
【0076】
したがって、誘導体化されたプローブ位置及びリンカー前駆体を、リンカー上のアミンとアレイの反応性部分との間で共有結合を形成するのに十分な時間と条件下でお互いに接触させ、それによって、少なくとも1つのリンカー−プローブ位置を作製することができる。例えば、式Vのリンカー前駆体が使用される場合、末端アミンは、アレイの反応性部分の1つと共有結合を形成する。式VIのリンカー前駆体が使用される場合、L脱離基が失われ、L基に隣接するアミンが、アレイの反応性部分の1つと共有結合を形成する。多くの実施形態において、リンカー前駆体は、アレイ上のすべてのプローブ位置に結合され、次いで、別々の異なるグリカン調製物が、アレイ上の別々の異なるプローブ位置に連結される。グリカン調製物をプローブ位置に結合するため、各グリカンが、結合部位、例えば、アジド結合部位を有するグリカンからなるグリカン調製物が使用される。したがって、リンカー前駆体の結合後、アレイ上のリンカー−プローブ位置を、グリカン上の連結部分とアレイに結合しているリンカー前駆体のカルボニルとの間で共有結合を形成するのに十分な条件下でグリカン調製物と接触させることができる。L脱離基は、この反応中に失われる。
【0077】
そのような方法は、任意の好都合な固体支持体との使用に適合させることができる。
【0078】
本明細書で説明するように、リンカー1及び2を、固体支持体にアジド含有糖類を共有結合させるために合成した(図9〜11及び実施例7を参照)。チオイソシアナート(2)は、アミンがコーティングされた固体支持体及びアレイとの使用のためにアミン1から作製した。
【0079】
【化12】

【0080】
そのような切断可能なリンカーは、上記に記載されているように固体支持体又はアレイに結合することができる。一実施形態において、リンカー1を、塩基性条件下、NHSがコーティングされた表面に結合し、アルキン官能基付き表面を得た。リンカーの結合は、質量分析(MS)を介して検証した。
【0081】
リンカー1及び2のインキュベーション後、表面を、水で繰り返し洗浄した。リンカー1及び2のジチオスレイトール(DTT)との反応は、ジスルフィド結合を還元し、それに連結している任意の実体(例えば、グリカン)を放出するはずである。Lack et al. Helv. Chim. Acta 2002, 85, 495-501;Lindroos et al. Nucleic Acids. Res. 2001, 29, E69;Rogers et al. Anal. Biochem. 1999, 266, 23-30;Guillier et al. Chem. Rev. 2000, 100, 2091-2158を参照されたい。切断は、ソニックスプレーイオン化(SSI)及びエレクトロスプレーイオン化(ESI)MSにより直接モニターしたが、これらは、リンカーの存在を検証しただけでなくDTT処理による低いバックグラウンドを示した。
【0082】
次いで、アルキンで誘導体化された固体支持体上へのアジド含有グリカンの捕捉を、CuIの存在下、プローブ位置、即ち活性化アルキン脱離基を提示する官能基付き固体支持体表面をアジド含有糖と接触させることにより行った。図9〜11及び実施例7を参照されたい。次いで、この結合法の効率を、DTT又は光誘発性の切断を用いて経時的にモニターした。遊離した切断生成物を質量分析により直接分析し、生成物の構造の同一性を確認した。この結合戦略をマイクロモル以下の濃度を固体支持体表面に結合するために使用するのに成功し、多数のグリカンの共有結合に適用することに成功した。
【0083】
グリカン
本発明は、多数の異なるタイプの炭水化物及びオリゴ糖が含まれるグリカンの組成物及びライブラリーを提供する。一般に、ライブラリー内の別々のグリカンの主要な構造的属性及び組成は、同定されている。一部の実施形態において、ライブラリーは、グリカン、炭水化物及び/又はオリゴ糖の別々の実質的に純粋なプールからなっている。本発明のライブラリーは、結合している本発明の切断可能なリンカーを有することができる。
【0084】
本発明のグリカンには、直鎖及び分岐のオリゴ糖並びに天然に存在するグリカン及び合成グリカンが含まれる。例えば、グリカンは、糖アミノ酸、糖ペプチド、糖脂質、グリコアミノグリカン(GAG)、糖タンパク質、全細胞、細胞成分、複合糖質、グリコミメティック、糖リン脂質アンカー(GPI)、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)結合型複合糖質、細菌性リポ多糖及び内毒素であってよい。
【0085】
本発明のグリカンには、2つ以上の糖ユニットが含まれる。本発明のグリカン中には、例えば、アロース、アルトロース、アラビノース、グルコース、ガラクトース、グロース、フコース、フルクトース、イドース、リキソース、マンノース、リボース、タロース、キシロース、又は他の糖ユニットが含まれる任意のタイプの糖ユニットが存在することができる。本明細書に提供される表は、本発明のグリカンに使用することができる糖ユニットの他の例を列挙している。そのような糖ユニットは、様々な修飾及び置換を有することができる。本明細書において、企図されている修飾及び置換のタイプの一部の例を表で示す。例えば、糖ユニットは、ヒドロキシ(−OH)、カルボキシレート(−COO)、及びメチレンヒドロキシ(−CH−OH)置換基の代わりに様々な置換基を有することができる。したがって、低級アルキル部分は、本発明のグリカン中の糖ユニットのヒドロキシ(−OH)、カルボン酸(−COOH)及びメチレンヒドロキシ(−CH−OH)置換基由来のどの水素原子とも置き換わることができる。例えば、アミノアセチル(−NH−CO−CH)は、本発明のグリカン中の糖ユニットのヒドロキシ(−OH)、カルボン酸(−COOH)及びメチレンヒドロキシ(−CH−OH)置換基由来のどの水素原子とも置き換わることができる。N−アセチルノイラミン酸は、本発明のグリカン中の糖ユニットのヒドロキシ(−OH)、カルボン酸(−COOH)及びメチレンヒドロキシ(−CH−OH)置換基由来のどの水素原子とも置き換わることができる。シアル酸は、本発明のグリカン中の糖ユニットのヒドロキシ(−OH)、カルボン酸(−COOH)及びメチレンヒドロキシ(−CH−OH)置換基由来のどの水素原子とも置き換わることができる。アミノ又は低級アルキルアミノ基は、本発明のグリカン中の糖ユニットのヒドロキシ(−OH)、カルボン酸(−COOH)及びメチレンヒドロキシ(−CH−OH)置換基上のどのOH基とも置き換わることができる。サルフェート(−SO)又はホスフェート(−PO)は、本発明のグリカン中の糖ユニットのヒドロキシ(−OH)、カルボン酸(−COOH)及びメチレンヒドロキシ(−CH−OH)置換基上のどのOH基とも置き換わることができる。したがって、糖ユニット上に通常存在する置換基の代わりに、又はそれらの他に存在することがある置換基には、N−アセチル、N−アセチルノイラミン酸、オキシ(=O)、シアル酸、サルフェート(−SO)、ホスフェート(−PO)、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、低級アシル、及び/又は低級アルカノイルアミノアルキルが含まれる。
【0086】
他に記載のない限り、以下の定義を用いる。アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニルなどは、直鎖の基と分岐鎖の基の両方を意味するが、「プロピル」などの個々の基への言及は、直鎖の基のみを包含し、「イソプロピル」などの分岐鎖異性体は具体的に呼ばれる。ハロは、フルオロ、クロロ、ブロモ、又はヨードである。
【0087】
具体的に、低級アルキルは、(C−C)アルキルを指し、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、iso−ブチル、sec−ブチル、ペンチル、3−ペンチル、又はヘキシルであってよく、(C−C)シクロアルキルは、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、又はシクロヘキシルであってよく、(C−C)シクロアルキル(C−C)アルキルは、シクロプロピルメチル、シクロブチルメチル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、2−シクロプロピルエチル、2−シクロブチルエチル、2−シクロペンチルエチル、又は2−シクロヘキシルエチルであってよく、(C−C)アルコキシは、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、iso−ブトキシ、sec−ブトキシ、ペントキシ、3−ペントキシ、又はヘキシルオキシであってよい。
【0088】
当業者には当然のことながら、1つ又は複数のキラル中心を有する本発明のグリカンは、光学活性体及びラセミ体で存在し、光学活性体及びラセミ体で単離されることがある。一部の化合物は、多形性を示すことがある。当然のことながら、本発明は、本発明のグリカンのいかなるラセミ体、光学活性体、多形体、若しくは立体異性体、又はそれらの混合物も包含し、光学活性体を調製する方法(例えば、再結晶技法によるラセミ体の分割により、光学活性な出発材料からの合成により、キラル合成により、又はキラルな固定相を用いるクロマトグラフ分離により)は、当技術分野においてよく知られている。
【0089】
置換基及び範囲について以下に列挙する具体的且つ好ましい値は、例に過ぎず、それらは、他の定義されている値又は定義されている範囲内若しくは置換についての他の値を除外するものではない。
【0090】
本発明のライブラリーが特に有用であるのは、多様なグリカン構造を作製するのが困難であり、単一グリカンタイプの実質的に純粋な溶液を作製することが難しいからである。例えば、糖ユニットは、通常、いくつかのヒドロキシル(−OH)基を有するグリカン中に存在し、それらのヒドロキシル基の各々は、実質的に等しい化学反応性であるため、単一の選択されたヒドロキシル基の操作は困難である。1つのヒドロキシル基をブロックすること及び1つのヒドロキシル基を遊離させることは容易でなく、望ましい位置選択性及び立体選択性を得るための注意深く設計された一連の反応を必要とする。さらに、必要とされる操作数は、オリゴ糖の大きさとともに増加する。したがって、二糖の合成は、5〜12工程を必要とすることがあるが、典型的な四糖の合成には40もの化学的工程が関与することがある。したがって、以前は、オリゴ糖の化学合成は、精製の問題、低い収率及び高いコストを伴っていた。しかしながら、本発明は、多数の構造的に異なるグリカンのライブラリー及びアレイを提供することにより、これらの問題を解決した。
【0091】
本発明のグリカンは、様々な手順によって得られている。例えば、ガラクトースの誘導体とN−アセチルグルコサミンの間のグリコシル化によりN−アセチルラクトサミンを調製するために開発された化学的アプローチの一部は、Aly, M. R. E.; Ibrahim, E. -S. I.; El-Ashry, E.-S. H. E. and Schmidt, R. R., Carbohydr. Res. 1999, 316, 121-132;Ding, Y.; Fukuda, M. and Hindsgaul, O., Bioorg. Med. Chem. Lett. 1998, 8, 1903-1908;Kretzschmar, G. and Stahl, W., Tetrahedr. 1998, 54, 6341-6358に記載されている。これらの手順を用い、本発明のライブラリーのグリカンを製造することができるが、そのような化学合成に関わる複数の退屈な保護/脱保護工程があるため、これらの方法で得られる生成物の量は低く、例えば、ミリグラム量ということがある。
【0092】
グリカン合成中に通常必要とされる保護−脱保護工程を回避する1つの方法は、単糖間のカップリング反応のために、グリコシルトランスフェラーゼと呼ばれる位置選択的且つ立体選択的酵素を用いることにより、オリゴ糖を合成する自然の方法を模倣することである。これらの酵素は、グリコシル供与体(通常、糖ヌクレオチド)からグリコシル受容体への単糖の移動を高い効率で触媒する。大部分の酵素は、水溶液(pH6〜8)中室温で働き、多段階反応をワンポットでいくつかの酵素を組み合わせることを可能にしている。高い位置選択性、立体選択性及び触媒効率は、オリゴ糖及び複合糖質の実用的合成にとって酵素を特に有用たらしめている。Koeller, K. M. and Wong, C.-H., Nature 2001, 409, 232-240;Wymer, N. and Toone, E. J., Curr. Opin. Chem. Biol. 2000, 4, 110-119;Gijsen, H. J. M.; Qiao, L.; Fitz, W. and Wong, C.-H., Chem. Rev. 1996, 96, 443-473を参照されたい。
【0093】
哺乳類源及び細菌などの非哺乳類源からのグリコシルトランスフェラーゼの単離及びクローニングにおける最近の進歩は、様々なオリゴ糖の製造を容易にしている。DeAngelis, P. L., Glycobiol. 2002, 12, 9R-16R;Endo, T. and Koizumi, S., Curr. Opin. Struct. Biol. 2000, 10, 536-541;Johonson, K. F., Glycoconj. J. 1999, 16, 141-146。一般に、細菌のグリコシルトランスフェラーゼは、哺乳類のグリコシルトランスフェラーゼに比べ、供与体及び受容体特異性に関してより緩やかである。さらに、細菌の酵素は、酵素の過剰発現のために容易にスケールアップすることができる大腸菌(E. coli)などの細菌発現系で十分に発現される。細菌発現系は、哺乳類酵素の正確な折り畳み及び活性に必要とされる翻訳後修飾機構を欠くが、細菌源からの酵素は、この系に適合する。したがって、多くの実施形態において、哺乳類源からの酵素でなく、細菌酵素を、グリカンを作製するための合成ツールとして使用する。
【0094】
例えば、反復Galβ(1−4)GlcNAc−ユニットは、β4−ガラクトシルトランスフェラーゼ(β4GalT)とβ3−N−アセチルラクトサミニルトランスフェラーゼ(β3GlcNAcT)の協奏作用により酵素的に合成することができる。Fukuda, M., Biochim. Biophys. Acta. 1984, 780: 2, 119-150;Van den Eijnden, D. H.; Koenderman, A. H. L. and Schiphorst, W. E. C. M., J. Biol. Chem. 1988, 263, 12461-12471。発明者は、以前に、細菌の髄膜炎菌(N. meningitidis)酵素β4GalT−GalE及びβ3GlcNAcTをクローニングして特徴付け、様々なガラクトシドの調製用合成におけるそれらの有用性を立証している。Blixt, O.; Brown, J.; Schur, M.; Wakarchuk, W. and Paulson, J. C., J. Org. Chem. 2001, 66, 2442-2448;Blixt, O.; van Die, I.,; Norberg, T. and van den Eijnden, D. H., Glycobiol. 1999, 9, 1061-1071。β4GalT−GalEは、β4GalT及び安価なUDP−グルコースをUDP−ガラクトースへインサイツで変換するためのウリジン−5’−ジホスホ−ガラクトース−4’−エピメラーゼ(GalE)から構築された融合タンパク質であり、コスト効率の高い戦略を提供する。本発明のグリカン、ライブラリー及びアレイを作製するために使用される手順の他の例を実施例に示す。
【0095】
任意のグリカンを、本発明のリンカー、アレイ及び方法とともに使用することができるが、グリカンの一部の例を表3に示す。省略名並びに完全な名前を示す。
【0096】
【表3】







【0097】
表中で用いられる略語の多くは、本明細書又はウエブサイトlectinity.comで定義されている。glycominds.comのウエブサイトは、直線略語の多くを説明している。特に以下の略語を使用した。
Sp1=OCH2CH2NH2;
Sp2=Sp3=OCH2CH2CH2NH2;
A=Gal;AN=GalNAc;G=Glc;GN=GlcNAc;
F=フコース;NN;Neu5Ac(シアル酸);
NJ=Neu5Gc(N−グリコリルシアル酸);a=α;b=β;
Su=スルホ;T=Galβ3GalNAc(T−抗原);
Tn=GalNAc(Tn−抗原);KDN=5−OH−Sia
【0098】
本発明のグリカンは、それらに結合しているリンカー、標識、連結部分及び/又は他の部分を有することができる。これらのリンカー、標識、連結部分及び/又は他の部分を用い、グリカンを固体支持体に結合し、アッセイにおいて特定のグリカンを検出し、グリカンを精製するか、さもなければ操作することができる。例えば、本発明のグリカンは、結合しているアルキルアミン基、アミノ酸、ペプチド、又はタンパク質によって提供されるアミン部分を有することができる。一部の実施形態において、グリカンは、連結部分(アミン)として有用でありスペーサー又はリンカーとして働く−OCHCHNH(Sp1と呼ばれる)又は−OCHCHCHNH(Sp2又はSp3と呼ばれる)などのアルキルアミン部分を有する。
【0099】
アレイ
様々なグリカンの独特なライブラリーは、任意の利用可能な手順によりアレイ表面の固体支持体上の確定された領域に結合される。一般に、アレイは、グリカン分子のライブラリーを入手し、ライブラリー中のグリカンに連結部分を結合し、ライブラリーのグリカン上に存在する特定の連結部分と反応するように誘導体化された表面を有する固体支持体を入手し、連結部分と固体支持体の誘導体化された表面との間に共有結合を形成することによりグリカン分子を固体支持体に結合することにより製造される。
【0100】
誘導体化試薬は、例えば、(ポリ)トリフルオロクロロエチレン表面を有する基板を用いるか、より好ましくはシロキサン結合により(例えば、固体基板のようなガラス又は酸化ケイ素を用い)、炭素−炭素結合を介して固体基板に結合することができる。一実施形態において、基板の表面とのシロキサン結合は、トリクロロシリル又はトリアルコキシシリル基を有する誘導体化試薬の反応を介して形成される。
【0101】
例えば、一級アミノ基を含むように修飾されたグリカンライブラリーを用いることができる。例えば、本発明のグリカンは、結合しているアルキルアミン基、アミノ酸、ペプチド、又はタンパク質によって提供されるアミノ部分を有することができる。一部の実施形態において、グリカンは、一級アミノ基を提供する結合している−OCHCHNH(Sp1と呼ばれる)又はOCHCHCHNH(Sp2又はSp3と呼ばれる)などのアルキルアミン部分を有することができる。グリカン上の一級アミノ基は、固体支持体上のN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で誘導体化された表面と反応することができる。そのようなN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で誘導体化された固体支持体は、市販されている。例えば、NHSで活性化されたスライドガラスは、Accelr8 Technology Corporation, Denver, COから入手できる。すべての望ましいグリカンの結合後、スライドを、エタノールアミン緩衝液とともにさらにインキュベートし、固体支持体上の残りのNHS官能基を非活性化することができる。このアレイは、それ以上表面を修飾せずに使用することができる。通常、非特異的結合を防ぐためのブロッキング手順は一切必要とされない。図1は、グリカン分子のアレイを製造するためのそのような方法の概念図を示している。
【0102】
各タイプのグリカンは、画定されたグリカンプローブ位置において固体支持体上に接触又はプリントされる。様々なグリカンを画定されたグリカンプローブ位置に塗布するため、マイクロアレイ遺伝子プリンターを使用することができる。例えば、画定されたグリカンプローブ位置当たりグリカン溶液約0.1nL〜約10nL、又は約0.5nLを塗布することができる。様々な濃度のグリカン溶液を、固体支持体上に接触又はプリントすることができる。例えば、グリカン約0.1〜約1000μM又はグリカン約1.0〜約500μM又はグリカン約10〜約100μMのグリカン溶液を用いることができる。一般に、いくつか(例えば、3〜6個)の画定されたグリカンプローブ位置の複製に各濃度を塗布することが望ましい。そのような複製は、グリカンと試験分子の間の結合反応が本当の結合相互作用であるか否かを確認する内部対照を提供する。
【0103】
分析法
別の実施形態において、本発明は、試験サンプルがグリカンと結合することができるか否かを同定するために試験サンプルをスクリーニングするための方法を提供する。他の実施形態において、本発明は、どのグリカンが試験サンプル又は試験分子と結合することができるかを同定するための方法を提供する。本発明の切断可能なリンカーは、そのようなスクリーニング手順及び構造解析手順に特に適している。
【0104】
グリカンと結合する疑いのある分子を含有するいかなるサンプルも試験することができる。したがって、抗体、細菌タンパク質、細胞受容体、細胞型特異的抗原、酵素、核酸、ウイルスタンパク質などを、グリカンとの結合について試験することができる。さらに、これらの分子又は物質が結合するグリカンの具体的グリカンの構造的特徴又はタイプを同定することができる。
【0105】
試験される核酸には、DNA、mRNA、tRNA及びリボソームRNA並びに任意の種由来の構造RNAが含まれる。
【0106】
本発明の方法によって同定されるグリカンは、抗原、ワクチン、酵素阻害剤、受容体のリガンド、受容体の阻害剤、及びそれらが結合する分子のマーカーとしてが含まれる多数の目的にとっての有用性を有することができる。
【0107】
本明細書で説明するように、ウイルス、動物及びヒトレクチン並びにモノクローナル抗体調製物を、グリカンとの結合について試験することに成功し、レクチン又は抗体が結合する特定のグリカンを同定した。
【0108】
結合の検出は、直接的、例えば、試験分子に直接結合している標識の検出によるものであってよい。或いは、検出は、間接的、例えば、試験分子と結合することができる標識二次抗体又は他の標識分子を検出することによるものであってよい。結合している標識は、どのような利用可能な検出法を用いても観察することができる。例えば、アレイスキャナーを用い、アレイと結合している蛍光標識された分子を検出することができる。本明細書で説明されている実験では、Scan Array 5000(GSI Lumonics、Watertown、MA)共焦点スキャナーを使用した。そのようなアレイスキャナーからのデータは、当技術分野において利用できる方法により、例えば、ImaGene画像解析ソフトウェア(BioDiscovery Inc.、El Segundo、CA)を用いることにより解析することができる。
【0109】
本発明により同定された有用なグリカン
本発明は、本発明の切断可能なリンカー、アレイ及び方法の使用によって同定されたグリカンも企図している。これらのグリカンには、抗体によって認識される抗原性グリカンが含まれる。例えば、感染因子及び癌細胞上のグリカンエピトープを認識する多くの中和抗体は、それらの感染因子及び癌細胞の感染性及び/又は病原性を中和することができる。本発明のアレイ及び方法を用い、そのようなグリカンエピトープの構造を正確に規定することができる。既知の有益な特性を有する中和抗体と結合するため、これらのグリカンエピトープは、動物において免疫原としての役割を果たし、感染症及び癌が含まれる疾患を治療及び予防するのに有用な免疫原性組成物に製剤化することができる。
【0110】
また、本発明の有用なグリカンには、抗体、受容体、又は生体分子の複合体中の1つの生体分子との結合をブロックするのに有用な非抗原性グリカンが含まれる。
【0111】
例えば、細胞表面スフィンゴ糖脂質Globo Hは、一連の癌細胞系で高度に発現される抗原性炭水化物のファミリーのメンバーである。Kannagi et al.(1983) J. Biol. Chem. 258, 8934-8942;Zhang et al. (1997) Chem. Biol. 4, 97-104;Dube, D. H. & Bertozzi, C. R. (2005) Nature Rev. Drug Discov. 4, 477-488。Globo Hエピトープは、モノクローナル抗体MBr1の標的にされる。Menard, et al. (1983) Cancer Res. 43, 1295-1300;Canevari, et al. (1983) Cancer Res. 43, 1301-1305;Bremer, et al (1984) J. Biol. Chem. 259, 4773-4777。MBr1抗体との結合を担うエピトープは、本発明の切断可能なアレイ及び方法を用いて同定され且つ特徴付けられている。最大の親和性でモノクローナル抗体MBr1と結合することが分かったGlobo H抗原構造は、グリカン203a、203b、204a及び204bであった。したがって、以下のグリカンのうちのいずれか1つ、又はそれらの組合せは、本発明の有用なグリカンであり、
【0112】
【化13】

【0113】
式中、Rは、水素、グリカン又はリンカーである。一部の実施形態において、リンカーは、固体支持体であるか、或いは固体支持体に結合しうる。
【0114】
本発明の有用なグリカンの別の例は、抗HIV 2G12抗体と結合することができるマンノース含有グリカンである。本発明によれば、そのようなマンノース含有グリカンには、グリカンの第一(α1−3)腕上又はグリカンの(α1−6)第三腕上のManα1−2Man、又はそれらの組合せが含まれる。一部の実施形態において、マンノース含有グリカンは、(α1−3)鎖由来の第二腕を有さないことがある。他の実施形態において、マンノース含有グリカンは、(α1−3)鎖由来の第二腕を有することがある。一部の実施形態において、マンノース含有グリカンは、以下のオリゴマンノースグリカンのうちのいずれか1つ、又はそれらの組合せを有する。
【0115】
【化14】

【0116】
疾患を治療する方法
また、本発明は、疾患を治療及び予防するための免疫源として使用することができるグリカン組成物を提供する。即ち、例えば、本発明の組成物を用い、癌、細菌感染、ウイルス感染、炎症、移植拒絶、自己免疫疾患などの疾患を治療することができる。一部の実施形態において、本発明の組成物に含めるために選択されるグリカンは、抗原性であり、細菌種、ウイルス種、癌細胞タイプなどに対する免疫応答を引き起こすことができる。他の実施形態において、本発明の組成物に含めるために選択されるグリカンは、通常、抗原性である。しかしながら、一部の実施形態において、グリカンは、疾患の予後の一因となる抗体、受容体などと結合するか、或いはそれらの上の結合部位に対して競合することがある。したがって、例えば、非抗原性グリカンを投与し、ウイルスによる結合を妨げることができる。
【0117】
そのような組成物には、通常は疾患、感染又は免疫状態に伴う循環抗体により認識される1つ又は複数のグリカンが含まれる。例えば、乳癌を治療又は予防するため、通常は転移性乳癌のある被験体の循環抗体により認識されるグリカンを含有する組成物が調製される。したがって、乳癌を治療及び予防するための組成物に含めることができるグリカンの例には、本発明の切断可能なリンカー、アレイ及び方法によって同定される有用なグリカンが含まれる。
【0118】
一部の実施形態において、グリカンのタイプ及び量は、被験体における抗癌細胞免疫応答を引き起こすのに有効である。他の実施形態において、グリカンのタイプ及び量は、被験体における抗ウイルス免疫応答を引き起こすのに有効である。
【0119】
本発明の組成物は、被験体中、罹患器官中又は全身的に直接投与するか、或いは被験体又は続いて被験体に投与される細胞系に由来する細胞にエキソビボで投与するか、或いは被験体に由来する免疫細胞から亜集団を選択するためにインビトロで使用し、次いで、被験体に再投与することができる。この組成物は、アジュバント又はインターロイキン−2などの免疫刺激サイトカインと一緒に投与することができる。免疫刺激アジュバントの一例は、デトックスである。また、グリカンを、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)又はマンナンなどの適当な担体とコンジュゲートさせることができる(WO95/18145及びLongenecker et al (1993) Ann. NY Acad. Sci. 690, 276-291を参照)。グリカンは、被験体に、経口投与、筋肉内投与又は皮内投与又は皮下投与することができる。
【0120】
一部の実施形態において、本発明の組成物は、体液性応答を生み出す方法で投与される。したがって、1つ又は複数のグリカンを被験体とする抗体の産生は、免疫応答を得るのに成功したか否かの一尺度である。
【0121】
他の実施形態において、本発明の組成物は、細胞性免疫応答を生み出し、NK細胞又は細胞傷害性T細胞(CTL)による腫瘍細胞殺滅をもたらす方法で投与される。Tヘルパー細胞を活性化する投与の戦略は、特に有用である。上記に記載したように、体液性応答を刺激することも有用かもしれない。そのような応答を促進するため、特定のサイトカイン、例えば、インターロイキン−2、インターロイキン−12、インターロイキン−6、又はインターロイキン−10を同時投与することが有用かもしれない。
【0122】
免疫組成物を、注射の部位により、送達システムの使用により、又は被験体からのそのような細胞集団の選択的精製及びそのような抗原提示細胞への1つ又は複数のグリカンのエキソビボ投与により、特定の細胞集団、例えば、抗原提示細胞の標的とすることも有用かもしれない。例えば、樹状細胞を、Zhou et al (1995) Blood 86, 3295-3301;Roth et al (1996) Scand. J. Immunology 43, 646-651に記載されているように選別することができる。
【0123】
したがって、本発明の他の態様は、疾患のある被験体の循環抗体と結合している有効量のグリカンを含み疾患に対して有効なワクチンを提供する。
【0124】
用量、製剤及び投与経路
本発明の組成物は、疾患を治療又は予防するために投与される。一部の実施形態において、本発明の組成物は、組成物中のグリカンに対して免疫応答が得られるように投与される。一部の実施形態において、本発明の組成物は、癌、細菌感染、ウイルス感染、炎症、移植拒絶、自己免疫疾患などの疾患に伴う少なくとも1つの症状の軽減が得られるように投与される。
【0125】
望ましい1つ又は複数の効果を得るため、グリカン又はその組合せは、例えば、体重1kg当たり少なくとも約0.01mgから約500〜750mg、少なくとも約0.01mgから約300〜500mg、少なくとも約0.1mgから約100〜300mg又は少なくとも約1mgから約50〜100mgの単一用量又は分割用量として投与することができるが、他の用量も、有益な結果を提供することがある。投与される量は、どのタイプのグリカンが投与されるか、投与経路、疾患の進行若しくは疾患の進行の欠如、患者の体重、身体的状態、健康、年齢、予防又は治療を行うべきか否か、及びグリカンが化学的に修飾されるかどうかが含まれるがこれらに限定されない様々な要因に応じて変わるはずである。そのような要因は、当技術分野において利用できる動物モデル又は他の試験系を用いる臨床家によって容易に判定することができる。
【0126】
本発明による治療薬(グリカン)の投与は、例えば、レシピエントの生理学的状態、投与の目的が治療的か予防的か、及び当業者に知られている他の要因に応じて、単回投与、複数回投与で、連続的又は間欠的であってよい。グリカン又はそれらの組合せの投与は、予め選択された期間にわたって本質的に連続的であるか、或いは一連の間隔をおいた投与であってよい。局所投与と全身投与は共に企図されている。
【0127】
組成物を調製するため、グリカンを合成するか、さもなければ購入し、必要に応じて、又は所望のように精製する。次いで、これらの治療薬を、凍結乾燥又は安定化することができ、それらの濃度を適切な量に調整することができ、治療薬を、場合により他の作用物質と混ぜ合わせることができる。単位投与量中に含まれる所与のグリカン、結合性物質、抗体又はそれらの組合せの絶対重量は、広範囲にわたって変わることがある。例えば、少なくとも1種のグリカン、結合性物質、又は特定のグリカンに特異的な抗体約0.01g〜約2g、又は約0.1〜約500mgを投与することができる。或いは、単位用量は、約0.01gから約50gまで、約0.01gから約35gまで、約0.1gから約25gまで、約0.5gから約12gまで、約0.5gから約8gまで、約0.5gから約4gまで、又は約0.5gから約2gまで変わることがある。
【0128】
1つ又は複数のグリカン、結合性物質、抗体又はそれらの組合せの1日投与量は同様に変わることがある。そのような1日投与量は、例えば約0.1g/日から約50g/日まで、約0.1g/日から約25g/日まで、約0.1g/日から約12g/日まで、約0.5g/日から約8g/日まで、約0.5g/日から約4g/日まで、及び約0.5g/日から約2g/日まで変動することがある。
【0129】
したがって、本発明の治療薬を含む1つ又は複数の適当な単位剤形は、経口、非経口(皮下、静脈内、筋肉内及び腹腔内が含まれる)、直腸、皮膚、経皮、胸腔内、肺内及び鼻腔内(呼吸器)経路が含まれる様々な経路により投与することができる。また、治療薬は、持続放出のために製剤化することができる(例えば、マイクロカプセル化を用い、WO94/07529、及び米国特許第4,962,091号を参照)。適切な場合、製剤は、別々の単位剤形として好都合に提供され、製薬技術でよく知られているどのような方法によっても調製することができる。そのような方法には、治療薬を、液体担体、固体マトリクス、半固体担体、微粉化した固体担体又はそれらの組合せと混ぜ、次いで、必要ならば、生成物を望ましい送達システムに導入又は成形する工程が含まれる。
【0130】
本発明の治療薬が経口投与のために調製される場合、それらは、通常、薬学的に許容できる担体、希釈剤又は賦形剤と混ぜ合わされ、医薬製剤、又は単位剤形を形成する。経口投与の場合、治療剤は、粉末、顆粒製剤、溶液、懸濁液、エマルジョンとして存在するか、或いはチューインガムからの活性成分の摂取のために天然又は合成のポリマー又は樹脂中に存在することがある。また、治療薬は、ボーラス、砥剤又はペーストとして提供することができる。経口投与される本発明の治療薬も、持続放出のために製剤化することができる。例えば、治療薬を、コーティングし、マイクロカプセル化するか、さもなければ持続性送達装置内に置くことができる。そのような製剤中の全活性成分は、製剤の0.1〜99.9重量%を占める。
【0131】
「薬学的に許容できる」は、製剤の他の成分と適合し、そのレシピエントに対して有害でない担体、希釈剤、賦形剤、及び/又は塩を意味する。
【0132】
本発明の治療薬を含有する医薬製剤は、よく知られ且つ容易に入手できる成分を用い、当技術分野において知られている手順により調製することができる。例えば、治療薬を、一般的な賦形剤、希釈剤、又は担体と一緒に製剤化し、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、散剤、エアゾール剤などを形成することができる。そのような製剤に適している賦形剤、希釈剤、及び担体の例には、緩衝液、並びにデンプン、セルロース、糖、マンニトール、及びケイ酸誘導体などの充填剤及び増量剤が含まれる。また、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び他のセルロース誘導体、アルギン酸塩、ゼラチン、並びにポリビニル−ピロリドンなどの結合剤が含まれていてもよい。グリセロールなどの加湿剤、炭酸カルシウム及び重炭酸ナトリウムなどの崩壊剤が含まれていてもよい。また、パラフィンなどの溶解を遅延させるための物質が含まれていてもよい。また、四級アンモニウム化合物などの吸収加速剤が含まれていてもよい。セチルアルコール及びモノステアリン酸グリセロールなどの界面活性剤が含まれていてもよい。カオリン及びベントナイトなどの吸着性担体が添加されていることができる。また、タルク、ステアリン酸カルシウム及びマグネシウム、並びに固形ポリエチレングリコールなどの滑沢剤が含まれていてもよい。また、保存剤が添加されていることができる。また、本発明の組成物は、セルロース及び/又はセルロース誘導体などの粘稠剤を含有することができる。また、本発明の組成物は、キサンタン、グアー若しくは炭素ゴム又はアラビアゴムなどのゴム、或いは、ポリエチレングリコール、ベントン及びモンモリロナイトなどを含有することができる。
【0133】
例えば、本発明の治療薬を含有する錠剤又はカプレット剤には、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム及び炭酸マグネシウムなどの緩衝剤が含まれてよい。また、カプレット剤及び錠剤には、セルロース、アルファ化デンプン、二酸化ケイ素、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、微結晶性セルロース、デンプン、タルク、二酸化チタン、安息香酸、クエン酸、コーンスターチ、鉱油、ポリプロピレングリコール、リン酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛などの不活性成分が含まれてよい。本発明の少なくとも1つの治療薬を含有する硬質又は軟質ゼラチンカプセル剤は、ゼラチン、微結晶性セルロース、ラウリル硫酸ナトリウム、デンプン、タルク、及び二酸化チタンなど、並びにポリエチレングリコール(PEG)及び植物油などの液体ビヒクルなどの不活性成分を含有することができる。さらに、本発明の治療薬のうちの1つ又は複数を含有する腸溶コーティングのカプレット剤又は錠剤は、胃における崩壊に抵抗し、より中性の十二指腸のアルカリ環境に溶解するように設計される。
【0134】
また、本発明の治療薬は、好都合な経口投与のためのエリキシル剤又は液剤として、又は、例えば、筋肉内、皮下、腹腔内又は静脈内経路による非経口投与に適している液剤として製剤化することができる。また、本発明の治療薬の医薬製剤は、水性又は非水性の溶液又は分散液の形態、或いはエマルジョン又は懸濁液又は軟膏の形態をとることができる。
【0135】
したがって、治療薬を、非経口投与(例えば、注射、例えば、ボーラス注射又は連続注入による)のために製剤化し、アンプル、プレフィルドシリンジ、小容量注入容器又はマルチドーズ容器中の単位剤形として提供することができる。上記に述べたように、保存剤を加え、剤形の有効期間を維持するのを助けることができる。活性物質及び他の成分は、油状又は水性ビヒクル中で懸濁剤、液剤又は乳剤を形成し、懸濁剤、安定剤及び/又は分散剤などの製剤物質を含有することができる。或いは、治療薬及び他の成分は、使用前の適当なビヒクル、例えば、滅菌したパイロジェンフリーの水による構成のために、滅菌した固体の無菌分離又は溶液からの凍結乾燥により得られる粉末形態であってよい。
【0136】
これらの製剤は、当技術分野においてよく知られている薬学的に許容できる担体、ビヒクル及び補助剤を含有することができる。例えば、水の他に、アセトン、エタノール、イソプロピルアルコール、「Dowanol」という名で販売されている製品などのグリコールエーテル、ポリグリコール及びポリエチレングリコール、短鎖酸のC−Cアルキルエステル、乳酸エチル若しくは乳酸イソプロピル、「Miglyol」という名で販売されている製品などの脂肪酸トリグリセリド、ミリスチン酸イソプロピル、動物油、鉱油及び植物油並びにポリシロキサンなどの溶媒から選択され、生理学的視点から許容できる1種又は複数の溶媒を用いて液剤を調製することが可能である。
【0137】
必要ならば、抗酸化剤、界面活性剤、他の保存剤、被膜形成剤、角質溶解剤又は面皰溶解剤、香料、矯味剤及び着色剤から選択される補助剤を添加することが可能である。t−ブチルヒドロキノン、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン及びα−トコフェロール及びその誘導体などの抗酸化剤を添加することができる。
【0138】
さらに、治療薬は、持続放出剤形などのような製剤に適している。製剤は、例えば、血管系又は気道の特定の部分において、おそらく一定期間にわたって活性物質を放出するように構築することができる。コーティング、外皮、及び保護用マトリクスは、例えば、ポリラクチド−グリコール酸塩、リポソーム、マイクロエマルジョン、微小粒子、ナノ粒子、又はワックスなどのポリマー物質から製造することができる。これらのコーティング、外皮、及び保護用マトリクスは、留置装置、例えば、ステント、カテーテル、腹膜透析管、排液装置などをコーティングするのに有用である。
【0139】
局所投与の場合、治療薬を、当技術分野において知られているように、標的領域への直接塗布のために製剤化することができる。主に局所塗布のために調整される形態は、例えば、クリーム剤、ミルク剤、ゲル剤、分散液若しくはマイクロエマルジョン剤、多かれ少なかれ濃縮されたローション剤、含浸パッド剤、軟膏剤若しくはスティック剤、エアゾール製剤(例えば、スプレー剤又はフォーム剤)、石鹸、洗浄剤、ローション剤又は数個の石鹸の形態をとる。この目的のための他の従来の形態には、創傷包帯、コーティングされた絆創膏若しくは他のポリマー被覆剤、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、パスタ剤、ゼリー剤、スプレー剤及びエアゾール剤が含まれる。したがって、本発明の治療薬を、皮膚投与のためのパッチ又は絆創膏を介して送達することができる。或いは、治療薬を、ポリアクリレート又はアクリレート/酢酸ビニルコポリマーなどの粘着性ポリマーの一部として製剤化することができる。長期塗布の場合、皮膚の水和又は浸軟を最小限に抑えることができるように、微小孔性の且つ/又は通気性の良いバッキングラミネートを使用することが望ましいことがある。バッキング層は、望ましい保護及び支持機能を提供するいかなる適当な厚さであってもよい。通常、適当な厚さは、約10〜約200ミクロンであろう。
【0140】
軟膏剤及びクリーム剤は、例えば、適当な粘稠剤及び/又はゲル化剤を添加して水性又は油性基剤により製剤化することができる。ローション剤は、水性又は油性基剤により製剤化することができ、一般に、1種又は複数の乳化剤、安定剤、分散剤、懸濁化剤、粘稠剤、又は着色剤を含有する。活性成分は、例えば、米国特許第4,140,122号、第4,383,529号、又は第4,051,842号に開示されているように、イオントフォレーシスを介して送達することができる。局所製剤中に存在する本発明の治療薬の重量パーセントは、様々な要因によって異なるが、通常は、製剤の総重量の0.01%〜95%、通常は0.1〜85重量%である。
【0141】
点眼剤又は点鼻剤などの点滴剤は、1種又は複数の分散剤、可溶化剤又は懸濁化剤も含む水性又は非水性基剤中で1つ又は複数の治療薬により製剤化することができる。液状スプレー剤は、加圧パックから送達されるのが好都合である。点滴剤は、簡単なフタ付き点眼瓶を介して、又は液状内容物を1滴ずつ送達するようになされたプラスチック瓶を介して、特別に成形された閉口を介して送達することができる。
【0142】
さらに、治療薬を、口又は咽頭における局所投与のために製剤化することができる。例えば、活性成分を、味を付けた基剤、通常はスクロース及びアカシア又はトラガカントをさらに含むロゼンジ剤;ゼラチン及びグリセリン又はスクロース及びアカシアなどの不活性基剤中に組成物を含む香錠;及び適当な液状担体中に本発明の組成物を含む含漱剤として製剤化することができる。
【0143】
本発明の医薬製剤には、任意選択の成分として、薬学的に許容できる担体、希釈剤、可溶化剤又は乳化剤、及び当技術分野において利用できるタイプの塩が含まれてよい。そのような物質の例には、生理学的に緩衝された食塩溶液などの普通の食塩溶液及び水が含まれる。本発明の医薬製剤において有用な担体及び/又は希釈剤の具体的な非限定的例には、水及びリン酸塩緩衝食塩溶液pH7.0〜8.0などの生理学的に許容できる緩衝食塩溶液が含まれる。
【0144】
本発明の活性成分は、気道へも投与することができる。したがって、本発明は、本発明の方法において使用するためのエアゾール医薬製剤及び剤形を提供する。
【0145】
一般に、そのような剤形は、疾患の臨床症状を治療又は予防するのに有効な量の本発明の物質のうちの少なくとも1つを含む。本発明により企図されている疾患には、例えば、癌、細菌感染、ウイルス感染、炎症、移植拒絶、自己免疫疾患などが含まれる。疾患の1つ又は複数の症状のいかなる統計的に有意な減弱も、疾患の治療であると見なされる。
【0146】
或いは、吸入又は吹送による投与の場合、組成物は、乾燥粉末、例えば、治療薬とラクトース又はデンプンなどの適当な粉末基剤との粉末ミックスの形態をとることができる。粉末組成物は、例えば、カプセル剤若しくはカートリッジ剤、又は、例えば、吸入器、インサフレーター、又は定量吸入器を用いて粉末を投与することができるゼラチンパック剤若しくはブリスターパック剤中の単位剤形として提供することができる(例えば、Newman, S. P. (Aerosols and the Lung, Clarke, S. W. and Davia, D. eds., pp. 197-224, Butterworths, London, England, 1984)に開示されている加圧定量吸入器(MDI)及び乾燥粉末吸入器を参照)。
【0147】
また、本発明の治療薬は、エアゾール又は吸入形態で投与される場合、水溶液で投与することができる。したがって、他のエアゾール医薬製剤は、例えば、治療される適応症又は疾患に特異的な本発明の治療薬のうちの1種又は複数約0.1mg/ml〜約100mg/mlを含有する生理学的に許容できる緩衝食塩溶液を含むことができる。液体に溶解も懸濁もしない微粉化した固体治療薬の形態の乾燥エアゾールも、本発明の実施において有用である。本発明の治療薬は、散布剤として製剤化することができ、約1〜5μm、或いは2〜3μmの平均粒径を有する微粉化した粒子を含むことができる。微粉化した粒子は、当技術分野においてよく知られている技法を用いる粉砕及びスクリーン濾過により調製することができる。粒子は、粉末の形態であってよい所定量の微粉化した材料を吸入することにより投与することができる。当然のことながら、複数の用量単位の投与によって必要な有効量に到達することができるため、各剤形の個々のエアゾール投与量に含まれる活性な1種又は複数の成分の単位内容量は、それ自体で、特定の免疫応答、血管系の状態又は疾患を治療するのに有効な量を構成している必要はない。さらに、有効量は、個々に、又は一連の投与で、剤形中の投与量未満を用いて達成することができる。
【0148】
吸入による上(鼻)気道又は下気道への投与の場合、本発明の治療薬は、ネブライザー又は加圧パック又はエアゾールスプレーを送達する他の好都合な手段から好都合に送達される。加圧パックは、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素又は他の適当なガスなどの適当な噴射剤を含むことができる。加圧エアゾールの場合、用量単位は、一定量を送達するためのバルブを提供することにより決定される。ネブライザーには、米国特許第4,624,251号、第3,703,173号、第3,561,444号、及び第4,635,627号に記載されているネブライザーが含まれるが、これらに限定されるものではない。本明細書に開示されているタイプのエアゾール送達システムは、Fisons Corporation(Bedford、Mass.)、Schering Corp.(Kenilworth、NJ)及びAmerican Pharmoseal Co.(Valencia、CA)が含まれる多くの商業ソースから入手できる。鼻腔内投与の場合、治療薬を、点鼻剤、液状スプレーを介し、プラスチック瓶アトマイザー又は定量吸入器を介して投与することができる。典型的なアトマイザーは、Mistometer(Wintrop社製)及びMedihaler(Riker社製)である。
【0149】
さらに、活性成分を、記載されている状態であれ他の状態であれ、他の治療薬、例えば、鎮痛剤、抗炎症剤、抗ウイルス剤、抗癌剤などと組み合わせて使用することができる。
【0150】
キット
さらに、本発明は、疾患を検出、管理、予防又は治療するためのキット又は他の容器などのパッケージ化された医薬組成物に関する。本発明のキットは、癌、細菌感染、ウイルス感染、炎症、移植拒絶、自己免疫疾患などの疾患を検出、管理、予防又は治療するために設計することができる。一実施形態において、キット又は容器は、疾患を検出するためのグリカンのアレイ又はライブラリー及び疾患を検出するためのグリカンのアレイ又はライブラリーを使用するための説明書を有する。アレイには、疾患のある人の血清サンプル中に存在する抗体が結合する少なくとも1つのグリカンが含まれる。アレイには、本発明の切断可能なリンカーが含まれてよい。
【0151】
別の実施形態において、キット又は容器は、疾患を治療、予防又は管理するための治療有効量の医薬組成物及び疾患を管理するための医薬組成物を使用するための説明書を有する。医薬組成物には、疾患が管理、予防又は治療されるように、本発明のグリカンのうちの少なくとも1つが治療有効量で含まれる。
【0152】
また、本発明のキットは、本発明の組成物を投与するのに有用なツールを有する容器を含むことができる。そのようなツールには、注射器、綿棒、カテーテル、無菌溶液などが含まれる。
【0153】
以下の実施例は、本発明の特定の態様を説明するためであって、本発明を限定することを意図していない。
【実施例1】
【0154】
グリカンの酵素合成
発明者は、以前に、細菌の髄膜炎菌(N. meningitidis)酵素β4GalT−GalE及びβ3GlcNAcTをクローニングして特徴付けた。Blixt, O.; Brown, J.; Schur, M.; Wakarchuk, W. and Paulson, J. C., J. Org. Chem. 2001, 66, 2442-2448;Blixt, O.; van Die, I.,; Norberg, T. and van den Eijnden, D. H., Glycobiol. 1999, 9, 1061-1071。β4GalT−GalEは、β4GalT及び安価なUDP−グルコースをUDP−ガラクトースへインサイツで変換するためのウリジン−5’−ジホスホ−ガラクトース−4’−エピメラーゼ(GalE)から構築された融合タンパク質であり、コスト効率の高い戦略を提供する。
【0155】
両酵素、β4GalT−GalE及びβ3GlcNAcTは、大規模発酵槽(100L)中、大腸菌(E. coli)AD202において過剰発現させた。細菌を、2YT培地中で培養し、iso−プロピル−チオガラクトピラノシド(IPTG)で誘導すると、最終的に、細胞培地1L当たり8〜10gの細菌細胞ペーストを生産した。次いで、酵素を、ミクロフルイダイザーにより細胞から放出させ、塩化マンガン(10mM)及びTriton X(0.25%)を含有するトリス緩衝液(25mM、pH7.5)に可溶化させると、それぞれβ4GalT−GalE及びβ3GlcNAcTが細胞培養1L当たり約50U及び115Uの酵素活性に達した。
【0156】
β3GlcNAcTの特異性研究(表4)は、ラクトース(4)が良い受容体基質であること(100%)を示したが、この酵素は、N−アセチルラクトサミン(6)について約7〜8%の活性を示す。これらの二糖の構造を以下に示す。
【0157】
【化15】

【0158】
受容体の還元末端にアグリコンとして疎水性のパラ−ニトロフェニル環を付加すると、酵素の活性は10倍まで高まった(4を5と、及び6を7と比較せよ)。受容体糖に疎水性アグリコンを付加することによる酵素活性の増加は、それほどではないにせよ、β4GalTについても明らかにされている(12を13、14と比較せよ)。これらの酵素の緩やかな基質特異性は、それらを、ポリ−N−アセチルラクトサミンが含まれる様々な炭水化物構造の調製用の合成にとって極めて有用たらしめている。
【0159】
【表4】

【0160】
ポリ−N−アセチルラクトサミンは、シアリル化及び/又はフコシル化などの追加修飾のための骨格構造を提供するN−アセチルラクトサミン反復からなる独特な炭水化物構造である。これらの延長したオリゴ糖は、セレクチン又はガレクチンに対する特異的リガンドとして相互作用することにより様々な生物学的機能に関与していることが明らかにされている。Ujita, M.; McAuliffe, J.; Hidsgaul, O.; Sasaki, K.; Fukuda, M. N. and Fukuda, M., J. Biol. Chem. 1999, 274, 16717-16726;Appelmelk, B. J.; Shiberu, B,; Trinks, C.; Tapsi, N,; Zheng, P. Y.; Verboom, T.; Maaskant, J.; Hokke, C. H.; Schiphorst, W. E.C. M.; Blanchard, D.; SimoonsSmit, I. M.; vandenEijnden, D. H. and Vandenbroucke Grauls, C. M. J. E., Infect. Immun. 1998, 66, 70-76;Leppaenen, A.; Penttilae, L.; Renkonen, O.; McEver, R. P. and Cummings, R. D., J. Biol, Chem. 2002, 277, 39749-39759;Renkonen, O., Cell. Mol Life Sci. 2000, 57, 1423-1439;Baldus, S. E.; Zirbes, T. K.; Weingarten, M.; Fromm, S.; Glossmann, J.; Hanisch, F. G.; Monig, S. P.; Schroder, W.; Flucke, U.; Thiele, J.; Holscher, A. H. and Dienes, H. P., Tumor Biology, 2000, 21, 258-266;Cho, M. and Cummings, R. D., TIGG.. 1997, 9, 47-56, 171-178。
【0161】
表4における特異性データに基づき、ガラクトシド及びポリラクトサミンの酵素合成を複数グラム量で行うことができる。この方法は、様々なフコシルトランスフェラーゼ(FUT)を用いた。いくつかのフコシルトランスフェラーゼ(FUT)は、様々な研究室において基質特異性及び生物学的機能の面から特徴付けされている。Murray, B. W.; Takayama, S.; Schultz, J. and Wong, C. H., Biochem. 1996, 35, 11183-11195;Weston, B. W.; Nair, R. P.; Larsen, R. D. and Lowe, J. B., J. Biol. Chem. 1992, 267, 4152-4160;Kimura, H.; Shinya, N.; Nishihara, S.; Kaneko, M.; Irimura, T. and Narimatsu, H., Biochem. Biophys. Res. Comm. 1997, 237, 131-137;Chandrasekaran, E. V.; Jain, R. K.; Larsen, R. D.; Wlasichuk, K. and Matta, K. L., Biochem. 1996, 35, 8914-8924;Devries, T.; Vandeneijnden, D. H.; Schultz, J. and Oneill, R., FEBS Lett. 1993, 330, 243-248;Devries, T. and van den Eijnden, D. H., Biochem. 1994, 33, 9937-9944
【0162】
組換えFUTの大規模生産と組み合わせた利用可能な特異性データは、複数グラム量で様々な貴重なフコシドを合成することを可能にした。スキームIは、様々なFUT及びGDP−フコースを用いポリ−LacNAc骨格及び選択されたフコシル化構造を延長するために用いられる一般手順を示している。
【0163】
【化16】

【0164】
様々なフコシル化ラクトサミン誘導体の系統的なグラム規模の合成を、スキームI及び以下の組換えフコシルトランスフェラーゼ、FUT−II、FUT−III、FUT−IV、FUT−V、及びFUT−VIを用いて開始した。FUT−Vを除き、上記のフコシルトランスフェラーゼはすべて、昆虫細胞発現系で産生させ、GDP−セファロースアフィニティーカラムで精製するか、或いは粗製の酵素混合物としてTangential Flow Filtrator(TFF−MWCO 10k)中で濃縮した。FUT−Vは、Murray, B. W.; Takayama, S.; Schultz, J. and Wong, C. H., Biochem. 1996, 35, 11183-11195に記載されているように、クロカビ(A. niger)で発現させた。
【0165】
フコシル化ラクトサミン誘導体の製造の様々な段階についての収率は、LeX(2つの酵素工程)の場合は75〜90%、二量体のLacNAc構造(4つの酵素工程)の場合は45〜50%、三量体のlacNAc構造(6つの酵素工程)の場合は30〜35%であった。
【実施例2】
【0166】
シアル酸含有オリゴ糖の合成
シアル酸は、2−ケト−3−デオキシ−ノヌロソン酸に使用される総称である。この一連の単糖のうちで最も広く存在する誘導体は、N−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、N−グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)及び非アミノ化3−デオキシ−D−グリセロ−D−ガラクト−2−ノヌロソン酸(KDN)から誘導される誘導体である。シアル酸含有オリゴ糖は、様々な生物学的調節及び機能に関与している炭水化物の重要なカテゴリーである。シアル酸は、毒素/ウイルスの吸着、及び炭水化物結合タンパク質(CBP)との相互作用を介する多様な細胞コミュニケーションに関与していることが明らかにされている。それらの中で、セレクチン及びシグレック(シアル酸結合性免疫グロブリンスーパーファミリーレクチン)は、シアル酸相互作用を介して生物学的に機能する良く特徴付けられたCBPである。
【0167】
シアル酸を含有するオリゴ糖の合成は、簡単ではない。不幸にも、化学的アプローチは、共通していくつかの妨害要因を有する。例えば、一般に、シアル酸による立体選択的グリコシル化は、異性体生成物、その結果として、精製の問題及び低い収率をもたらす。また、その複雑な性質は、広範囲な保護基操作及び受容体基質と供与体基質双方の注意深い設計を必要とし、これらのビルディングブロックを調製するには相当量の努力が必要とされる。
【0168】
炭水化物構造をシアリル化するための迅速且つ効率的方法の場合、一般に好まれる方法は、シアリルトランスフェラーゼによる触媒を介するものである。Neu5Ac含有オリゴ糖を生成する酵素的シアリル化は、分析目的と調製目的の両方でシアリル化炭水化物を作製する方法である。Koeller, K. M. and Wong, C.-H., Nature 2001, 409, 232-240;Gilbert, M.; Bayer, R.; Cunningham, A.-M.; DeFrees, S.; Gao, Y.; Watson, D. C.; Young, N. M. and Wakarchuk, W. W., Nature Biotechnol. 1998, 16, 769-772;Ichikawa, Y.; Look, G. C. and Wong, C. H., Anal. Biochem. 1992, 202, 215-238。しかしながら、Neu5Gc又はKDN構造を有するオリゴ糖を調製するための効率的方法は、これらのシアロシド誘導体の乏しさのため、これまで同じ程度には探索されていない。
【0169】
様々なシアロシド誘導体を得るための簡単な方法は、もとはWong及び同僚により開発された方法の改変を用いて考案された。Crocker, P. R., Curr. Opin. Struct. Biol. 2002, 12, 609-615。この方法は、市販のNeu5Acアルドラーゼ、ST3−CMP−Neu5Acシンテターゼに加えて組換えシアリルトランスフェラーゼを用いた。Gilbert, M.; Bayer, R.; Cunningham, A.-M.; DeFrees, S.; Gao, Y.; Watson, D. C.; Young, N. M. and Wakarchuk, W. W., Nature Biotechnol. 1998, 16, 769-772。
【0170】
Neu5Ac−オリゴ糖を作製するための好ましい経路は、スキームIIに記載されているワンポット手順を使用することであった(B及びC)。
【0171】
【化17】

【0172】
手短に言うと、ST3−CMP−Neu5Acシンテターゼは、Neu5Ac1当量及びCTP1当量からの定量的なCMP−Neu5Acの形成を触媒した。膜濾過(MWカットオフ10k)による融合タンパク質の除去後、表5に記載されているように、選択されたガラクトシド及び組換えシアリルトランスフェラーゼを導入し、望ましいNeu5Ac−シアロシドを生成させた。
【0173】
【表5】

【0174】
この合成スキームは、通常はシアリル化生成物の70〜90%回収の収率で複数グラム量の生成物を生産した。
【0175】
Neu5Gc及びKDN誘導体を合成するため、ワンポット系には、経路B及びC(スキームII)の他に別の酵素反応が含まれるであろう。この態様において、マンノース誘導体、ピルベート(3当量)及び市販の微生物Neu5Acアルドラーゼ(Toyobo社製)を、ワンポット半サイクル中に導入した(スキームII、A)。表5における酵素は、Neu5Ac、KDN及び9−アジド−9デオキシ−Neu5Ac類縁体のいくつかのα(2−3)−、α(2−6)−又はα(2−8)結合シアル酸誘導体を有する様々なN−及びO−結合型オリゴ糖を許容できる収率(45〜90%)で作製することができた。O−結合型シアリル−オリゴ糖は、生物医学的共同体にとって別のクラスの望ましい化合物である。これらの構造は、様々な癌組織及びリンパ腫においてしばしば見出され、大腸癌、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、胃癌、及び肺腺癌が含まれる多くのタイプのヒト悪性疾患で高度に発現される。Dabelsteen, E., J. Pathol. 1996, 179, 358-369;Itzkowitz, S. H.; Yuan, M.; Montgomery, C. K.; Kjeldsen, T.; Takahashi, H. K. and Bigbee, W. L., Cancer Res. 1989, 49, 197-204。
【0176】
発明者は、以前に、ニワトリST6GalNAc−Iのクローニング、発現、及び特徴付け、並びにO−結合型シアロシド抗原、STn−、α(2−6)SiaT−、α(2−3)SiaT−及びジ−SiaT−抗原の調製用合成におけるその使用について報告している。Blixt, O.; Allin, K.; Pereira, L.; Datta, A. and Paulson, J. C., J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 5739-5746。手短に言うと、組換え酵素を、昆虫細胞において発現させ、CDP−セファロースアフィニティーカラムクロマトグラフィーにより精製し、細胞培養液1L当たり約10Uを生成した。酵素活性を一連の小さな受容体分子で評価すると(表6)、酵素活性の絶対的な要件は、GalNAc上のアノマー位置がスレオニンとα結合していることであると判明した。
【0177】
【表6】

【0178】
したがって、保護されたスレオニンで終わっているO−結合型シアロシドを、スキームIIIを用い、グラム規模の反応で合成することに成功した。これらの化合物を他の官能基に結合することを可能にするため、スレオニン上のN−アセチル保護基を、chST6GalNAc−Iによる酵素的延長前に、除去可能な9−フルオレニル(F−moc)誘導体で置換することができた。Blixt, O.; Collins, B. E.; Van Den Nieuwenhof, I. M.; Crocker, P. R. and Paulson, J. C., (2003 J. Biol. Chem. 15: 278)。表6を見るとわかるように、酵素は、この位置のかさばった基に対して敏感ではなかった(化合物6)。
【0179】
【化18】

【実施例3】
【0180】
ガングリオシドミミックの合成
ガングリオシドは、構造的に多様な一連のシアリル化分子を含む糖脂質である。ガングリオシドは、神経組織に結合して豊富にあり、成長因子、毒素及びウイルスの受容体として働き、ヒト黒色腫及び神経芽細胞腫細胞の接着を促進することが判明している。Kiso, M., Nippon Nogei Kagaku Kaishi. 2002, 76, 1158-1167;Gagnon, M. and Saragovi, H. U., Expert Opinion on Therapeutic Patents. 2002, 12, 1215-1223;Svennerholm, L., Adv. Gen. 2001, 44, 33-41;Schnaar, R. L., Carbohydr. Chem. Biol. 2000, 4, 1013-1027;Ravindranath, M. H.; Gonzales, A. M.; Nishimoto, K.; Tam, W.-Y.; Soh, D. and Morton, D. L., Ind. J. Exp. Biol. 2000, 38, 301-312;Rampersaud, A. A.; Oblinger, J. L.; Ponnappan, R. K.; Burry, R. W. and Yates, A. J., Biochem. Soc. Trans., 1999, 27, 415-422;Nohara, K., Seikagaku. 1999, 71, 337-341。
【0181】
これらのシアリル化ガングリオシド構造の重要性にもかかわらず、それらの効率的な調製のための方法は限定されている。糖脂質コア構造へのシアル酸の導入は、困難な作業であり、うまく考えられた合成戦略と合わせて複雑な操作を必要とすることが分かっている。
【0182】
最近、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)(OH4384)由来のいくつかのグリコシルトランスフェラーゼ遺伝子が、この病原性細菌により発現される様々なガングリオシド関連リポオリゴ糖(LOS)の産生に関与していることが同定されている。Gilbert, M.; Brisson, J.-R.; Karwaski, M.-F.; Michniewicz, J.; Cunningham, A.-M.; Wu, Y.; Young, N. M. and Wakarchuk, W. W., J. Biol. Chem. 2000, 275, 3896-3906。これらの遺伝子の中で、二機能性のα(2−3/8)シアリルトランスフェラーゼをコードするcst−IIは、それぞれ、Neu5Acα(2−3)及びα(2−8)のラクトース及びシアリルラクトースへの移動を触媒することが立証されている。β(1−4)−N−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(β4GalNAcT)をコードする別の遺伝子cgtAは、GalNAcβ(1−4)をNeu5Acα(2−3)ラクトース受容体に移動させ、GM2(Neu5Acα(2−3)[GalNAcβ(1−4)]Galβ(1−4)Glc−)エピトープを生成することが報告されている。
【0183】
2つのグリコシルトランスフェラーゼ遺伝子(cst−II及びcgtA)の遺伝子産物を大規模(100L大腸菌(E. coli)発酵)に過剰発現させることに成功し、様々なガングリオシドミミックの調製用合成で使用した。合成目的のため、これらの酵素の広範囲な特異性研究を、中性及びシアリル化構造を用いて行い、これらの酵素の合成的有用性をさらに明らかにした。
【0184】
GalNAc含有オリゴ糖のコスト効率の高い合成のため、高価なウリジン−5’−ジホスフェート−N−アセチルガラクトサミン(UDP−GalNAc)は、UDP−GalNAc−4’−エピメラーゼ(GalNAc−E)により、安価なUDP−GlcNAcからインサイツで製造した。GalNAc−Eは、ラット肝臓から大腸菌(E. coli)発現ベクター(pCWori)中にクローニングし、大腸菌(E. coli)AD202細胞で発現させた。手短に言うと、ラクトース誘導体は、α(2−8)−シアリルトランスフェラーゼ及び粗製のCMP−Neu5Acを用い、シアル酸反復で延長させた。この混合物からいくつかの生成物(GM3、GD3、GT3)が単離された。CDP−Neu5Acを2.5当量から4当量に増加させると、GT3の生成が優先し、微量のGD3が単離された。典型的な収率は、主要化合物40〜50%、微量化合物15〜20%である。単離された化合物を、GM2−シンテターゼ(CgtA)及びGalEの作用でさらに磨くと、定量的収率で対応するGM2、GD2、及びGT2構造が得られた(スキームIV)。
【0185】
【化19】

【0186】
したがって、ポリ−N−アセチルラクトサミン及びその対応するフコシル化及び/又はシアリル化化合物、N−及びO−結合型グリカンの様々なシアロシド誘導体、並びにガングリオシドミミック構造などの多様な一連のグリカンを作製するための方法が開発された。さらに、まれなシアル酸誘導体を製造する簡単な経路について記載した。この仕事は、複雑な炭水化物構造の化学酵素合成が、様々なグリコシルトランスフェラーゼの機能的ツールボックスを用いることにより容易且つ実用的なレベルに達することができることを示している。広範な構造的分類によりグリカン化合物のライブラリーを発展させるためには、これらの酵素の特異性についての詳細な情報が必要とされる。本発明は、そのような炭水化物のライブラリー及び炭水化物−タンパク質並びに炭水化物−炭水化物相互作用のハイスループット研究においてそのライブラリーを使用するための方法を提供する。
【実施例4】
【0187】
天然源からのグリカンの単離
本実施例は、ウシ膵臓リボヌクレアーゼBから特定のタイプのマンノース含有グリカンをどのようにして単離することができるかを説明する。
【0188】
ウシ膵臓リボヌクレアーゼBのプロナーゼ消化:ウシ膵臓リボヌクレアーゼB(Sigma社製Lot 060K7650)を緩衝液(0.1Mトリス+1mM MgCl+1mM CaCl pH8.0)に溶かし、プロナーゼ(Calbiochem社製Lot B 50874)を加え、プロナーゼ1部に対して糖タンパク質5部の重量比とした。それを、60℃にて3時間インキュベートした。消化されたサンプル中のマンノース含有グリカンを、緩衝液(0.1Mトリス、1mM MgCl、1mM CaCl、pH8.0)中の新たに調製したConAを用いてアフィニティー精製し、洗浄し、0.1Mメチル−a−D−マンノピラノシド(Calbiochem社製Lot B37526)200mlで溶出した。ConAで溶出したサンプルを、Carbograph固相抽出カラム(Alltech社製 1000mg、15ml)上で精製し、30%アセトニトリル+0.06%TFAで溶出した。これを乾燥し、水1mlで再構成した。質量分析は、MALDIにより行い、グリカン定量は、フェノール硫酸アッセイにより行った。
【0189】
プロナーゼで消化したリボヌクレアーゼbを、0.1MトリスpH8.0 5mlで希釈し、0.1Mトリス、1mM MgCl、1mM CaCl、pH8.0中のConAカラム15ml上にロードし、洗浄し、0.1Mメチル−a−D−マンノピラノシド50mlで溶出した。次いで、0.1%TFAを含有する80%アセトニトリルで溶出されるCarbograph固相抽出カラム(Alltech社製 1000mg、15ml)上で精製し、乾燥し、水2mlで再構成した。質量分析及びグリカン定量は、Voyager Elite MALDI-TOF(Perseptive BioSystems社製)を用い、ネガティブモードで行った。
【0190】
Dionex上の分画の分離:プロナーゼで消化したリボヌクレアーゼbを、PA−100カラムを使用するDIONEX上に注入し、以下のグラジエント、すわなち、溶液A=0.1M NaOH、B=0.1M NaOH中の0.5M NaOAc;3分の0%B、次いで、34分間の0%Bから6.7%Bまでの直線グラジエントで溶出した。個々のピーク分画を集め、0.1%TFAを含有する80%アセトニトリルで溶出することにより、Carbograph固相カラム(Alltech社製 150mg、4ml)上で精製した。それらを乾燥し、水で再構成した。最終的な質量分析及びグリカン定量を行った。
【実施例5】
【0191】
グリカンアレイの作製
本実施例では、−OCHCHNH(Sp1と呼ばれる)又は−OCHCHCHNH(Sp2又はSp3と呼ばれる)基を結合させたグリカンを用いてアレイを作製した。これらのSp1、Sp2及びSp3部分は、誘導体化された固体支持体に結合するための一級アミノ基を提供する。用いられる固体支持体は、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で誘導体化された表面を有し、Accelr8 Technology Corporation、Denver、COから入手した。すべての望ましいグリカンの結合後、スライドを、エタノールアミン緩衝液とともにインキュベートし、固体支持体上の残りのNHS官能基を非活性化した。このアレイは、それ以上表面を修飾せずに使用することができる。非特異的結合を防ぐためのブロッキング手順は一切必要とされない。
【0192】
各タイプのグリカンを、Scripps Instituteで入手できるマイクロアレイ遺伝子プリンターを用い、画定されたグリカンプローブ位置において固体支持体上にプリントした。画定されたグリカンプローブ位置当たりグリカン溶液約0.5nLを塗布した。様々な濃度のグリカン溶液を、固体支持体上にプリントした。10〜約100μMグリカンのグリカン溶液を用いることができる。各グリカン濃度の6個の複製を、画定されたグリカンプローブ位置上にプリントした。そのような複製は、グリカンと試験分子の間の結合反応が本当の結合相互作用であるか否かを確認する内部対照を提供する。この手順の概要を図1でさらに示す。
【実施例6】
【0193】
グリカンアレイの例示的結合研究及び最適化
グリカン構造の共有結合は、レクチンコンカナバリンAのマンノース含有グリカンとの結合の検出により検証した。即ち、マンノースオリゴ糖(Ma2Ma3[Ma2Ma6]Ma)を、4μM〜500μMの様々な濃度でプリントし、スライドを40%の湿度にて空気に暴露しながら6時間にわたり6つの異なる時点でプリントした。各濃度について8個の複製を使用した。ConA−FITC標識レクチンにより認識されないグリカンリガンドを陰性対照として使用した。図2は、60μMを超えるグリカン濃度が、最大のレクチン結合シグナルを提供したことを示している。
【0194】
他のレクチンを検出するための5つの異なる濃度(6〜100μM)でプリントされた32個の他のリガンドによる類似研究において同様のデータが得られた。いくつかのグリカン特異的植物レクチン、ヒトレクチン及びモノクローナル抗体を、本明細書に示す実施例に記載されている方法と類似した方法を用い、様々な濃度(2〜300μg/mL、50μL/スライド)で評価した。結合の検出は、結合タンパク質にコンジュゲートされている蛍光色素を介するか、或いは結合タンパク質と結合している標識二次抗体を介した。蛍光強度は、Scan Array 5000(GSI Lumonics、Watertown、MA)共焦点スキャナーを用いて観察し、データ解析は、ImaGene画像解析ソフトウェア(BioDiscovery Inc.、El Segundo、CA)を用いて行う。
【0195】
特に、以下の試験分子を、本発明のグリカンアレイとの結合について調べた。図3及び4は、蛍光標識された植物レクチンConA(図3)及びECA(図4)についての結果を示している。同様のデータが、SNA、LTA及びUEA−1について得られた(データ省略)。図5は、ヒトレクチンに結合しているFc部分を検出するために蛍光標識した二次抗体を用いるヒトレクチンヒトC型レクチン、Eセレクチン及びシグレック2、CD22のグリカンアレイとの結合の結果を示している。図6は、特定の蛍光標識された抗体が、選択されたグリカン、例えば、ヒト抗グリカンCD15抗体と特異的に結合することを説明している。図7は、インフルエンザウイルスのヘマグルチニンH1(1918)が、2つの後で添加された蛍光標識された二次抗体で検出されるように、選択されたグリカンと結合することを示している。
【0196】
また、これらの実験は、30〜50%の相対湿度における6時間までのプリント時間が、NHS表面の加水分解非活性化により引き起こされるレクチン結合シグナルを有意には低減しないことを裏付けており、これは、より長いプリント実行、したがってアレイの拡大にとって重要である可能性がある。
【0197】
強力且つ安定に共有結合しているライブラリーは、分析物のインキュベーション前後の広範な洗浄手順に暴露されても、スライドがインタクトであるようにした。また、結合しているレクチンを、溶液中で、又は表面に塗布された塩、酸、塩基若しくは洗浄剤溶液との組合せでリガンドを競合させることにより除去することができた。ConAレクチンは、ManαOMe(100mM)、HOAc(1M)、NaOH(0.3M)及びNaCl(1M)の順序で繰り返し取り除かれ、いかなるシグナルの減少もバックグラウンドシグナルの有意な増加もなく、6回まで同じスライドに再塗布された(データ省略)。
【実施例7】
【0198】
グリカンアレイ上の切断可能なリンカーの作製
本実施例は、アレイ上のグリカンのタイプの切断及び分析を可能にする切断可能なリンカーの合成について説明する。抗体又は別の結合性物質がグリカンアレイと結合する場合、1つ又は複数の結合グリカンの正確な構造は、アレイからのグリカンの切断及び構造解析により決定することができる。
【0199】
切断可能なリンカーは、以下に記載されるように調製した。試薬は、供給会社から入手し、さらに精製することなく使用した。すべてのガラス製品及び注射器は、使用前に、オーブン中で一夜乾燥し、陽圧のアルゴン中で冷却して保存した。ジクロロメタンは、CaHで乾燥した。無水メタノールは、Aldrich社から入手した。トリアゾールの形成に用いるメタノールは、使用前に脱ガスした。化合物は、シリカゲル上のフラッシュクロマトグラフィーにより精製した。TLCは、SiO 60F254(Merck社製)上で行い、UV、HSO及びKMnO試薬で検出した。H及び13CNMRスペクトルは、400及び500MHz(Bruker社製)で測定した。融点は補正しなかった。CovaLink−Nuncブランドのアミン官能基付きマイクロタイタープレートは、Nunc社から購入し、Amine−Trap NHSマイクロタイタープレートは、NoAb Biodiscoveries社から購入した。フルオレセイン標識のロツス・テトラゴノロブス(Lotus tetragonolobus)及びエリスリナ・クリスタガリ(Erythrina cristagalli)レクチンは、Vector Labs社から購入した。フルオレセイン結合のヤギ抗ヒトIgG抗体は、Jackson ImmunoResearch社から購入した。生物学的アッセイ用の残りの材料はすべて、Sigma社から購入した。吸光度及び蛍光測定にはPackard BioScience Company社製のFusion Universal Microplate Analyzerを利用し、SSI及びESI測定にはHitachi社製M-8000 Mass Spectrometerを使用した。
【0200】
ジスルフィドリンカー
プロピン酸[2−(2−アミノ−エチルジスルファニル)−エチル]−アミド、トリフルオロ酢酸塩
【0201】
【化20】

【0202】
攪拌したジシクロヘキシルカルボイミド(DCC)(3.8mmol)の無水ジクロロメタン(100mL)溶液に、アルゴン中、0℃にて、プロピン酸(3.2mmol)を加えた。10分後、無水ジクロロメタン50mLに溶かしたN−tert−ブチルオキシカルボニルシスタミン(Jacobson社製、1995#21)(3.2mmol)を滴加し、得られた混合物を、0℃にて1時間及び室温にて1時間攪拌した。次いで、混合物を濾過し、溶液を減圧下で蒸発させた。粗生成物を、溶出液としてAcOEt/n−ヘキサン(1:1)を用いるシリカゲル上のフラッシュクロマトグラフィーにより精製した。この化合物(1.64mmol)をジクロロメタン5mLに溶かし、0℃で冷却した。次いで、TFA(5mL)を加え、溶液を、0℃にて15分間攪拌した。蒸発後、痕跡のTFAを除去するため、粗生成物を水10mLに2回再溶解し、再度蒸発させた。さらに精製することなく、高純度のトリフルオロ酢酸塩としてアミンを得た。H NMR(CDOD)δ3.14(s,1H)、3.12(t,2H,J=6.60Hz)、2.86(t,2H,J=6.60Hz)、2.54(t,2H,J=6.60Hz)、2.43(t,2H,J=6.60Hz)。13C NMR(CDOD)δ154.87、77.91、76.21、39.63、39.27、37.56、35.21。HR−MALDI−FTMS:C13OS[M+H]の計算値、205.0464;実測値、205.0468。
【0203】
プロピン酸(2−{2−[3−(4−イソチオシアナト−フェニル)−チオウレイド]−エチルジスルファニル}−エチル)−アミド(2)
【0204】
【化21】

【0205】
1,4−フェニレンジイソチオシアネート(1.38mmol)を、2mLの無水DMF中にジイソプロピルエチルアミン(DIEA)(0.34mmol)と一緒に溶かした。この攪拌した溶液に、2mLの無水DMFに溶かしたプロピン酸[2−(2−アミノ−エチルジスルファニル)−エチル]−アミド、トリフルオロ酢酸塩(1)(0.34mmol)を30分かけて加えた。反応物を室温にてさらに30分間攪拌し、溶媒を、高真空中で留去した(浴温40℃未満)。粗生成物を、溶媒としてn−ヘキサン/AcOEt(1:1)を用いるAluminum Oxide 90(活性中性)上のカラムクロマトグラフィーにより直接精製した。分画を、30℃未満の温度で蒸発させた。イソチオシアネート誘導体2が45%の収率で得られた(60mg)。この化合物は、室温にて湿度に敏感且つ不安定であった。Drierite(登録商標)上、フリーザー(T°<−30℃)中で保存すること。H NMR(CDCl)δ8.76(s,1NH)、7.95(s,2NH)、7.43(d,2H,J=8.80Hz)、7.15(d,2H,J=8.80Hz)、3.92(q,2H,J=5.87Hz)、3.58(q,2H,J=6.60Hz)、2.96(t,2H,J=5.87Hz)、2.86(s,1H)、2.75(t,2H,J=6.97Hz)。13C NMR(CDCl)δ180.85、152.80、137.01、135.42、127.95、126.38、124.79、(CDClシグナルはアルキン炭素1個と重複)、74.43、42.77、38.98、37.75、36.15、31.44。HR−MALDI−FTMS:C1517OS[M+H]の計算値、397.0282;実測値、397.0282。
【0206】
アジド及びアミン含有グリカン
アジド又はアミンを含む糖類は、Fazio et al. Tetrahedron Lett. 45: 2689-92 (2004);Fazio et al., J. Am. Chem. Soc. 124: 14397-14402 (2002);Lee et al. Angew. Chem. Int. Ed. 43: 1000-1003 (2004);Burkhart et al. Angew. Chem. Int. Ed. 40: 1274-77 (2001)によって報告されているように合成した。用いた合成手順を以下に記載し、図8〜9に示す。
【0207】
【化22】

【0208】
化合物103の合成:図8に示すように、化合物101(1.5g、5.88mmol)を、アセトバニロン102(0.9g、5.41mmol)、炭酸カリウム(1.1g、7.96mmol)のDMF(20mL)溶液にアルゴン中室温にて加えた。反応混合物を75℃まで温め、12時間攪拌した。溶媒を減圧下で除去し、残渣を、カラムクロマトグラフィー(SiO2/ヘキサン:EA=3:1)により分離すると、1.30g(0.52mmol、96%)の化合物103が得られた。
【0209】
【化23】

【0210】
化合物104の合成:発煙硝酸(0.96mL)を、化合物3(0.78g、3.12mmol)の酢酸(9.60mL)溶液に加え、添加中は、反応混合物を氷水浴により冷却した。反応混合物を70℃にて18時間攪拌し、氷水中に注加した。黄色の沈殿を濾過し、カラムクロマトグラフィー(SiO/ヘキサン:EA=2:1)により精製すると、0.69g(2.34mmol、75%)の化合物104が得られた。
【0211】
【化24】

【0212】
化合物105の合成:水素化ホウ素ナトリウム(0.18g、4.90mmol)を、化合物104(1.2g、4.08mmol)のメタノール(15mL)溶液に加え、添加中は、反応混合物を氷水浴により冷却した。反応混合物を室温にて1時間攪拌した。溶媒を減圧下で除去し、残渣を、カラムクロマトグラフィー(SiO/ヘキサン:EA=2:1)により分離すると、1.18g(4.0mmol、98%)の化合物105が得られた。
【0213】
【化25】

【0214】
化合物108の合成:化合物105(68.5mg、0.23mmol)を乾燥アセトニトリル3.0mLに溶かした。この溶液に、炭酸N,N’−ジスクシンイミジル(90mg、0.45mmol)と、続いてトリエチルアミン(0.18mL)を加えた。室温にて5時間攪拌した後、溶媒を蒸発乾固させた。残渣を、0.1N NaHCO、水及びEAで連続して洗浄し、次いで、乾燥すると、粗製の化合物106が得られた。粗製の化合物106のDMF溶液に、アミノ結合マンノース化合物107(61.5mg、0.23mmol)と、続いてトリエチルアミン(0.18mL)を加えた。溶液を室温にて5時間攪拌し、溶媒を減圧下で除去し、残渣を、カラムクロマトグラフィー(SiO/CHCl/MeOH=1:3)により分離すると、97.2mg(0.16mmol、72%)の化合物108が得られた。
【0215】
【化26】

【0216】
化合物109の合成:356.2mg(1.2mmol)のアジド化合物5のテトラヒドロフラン(8.0mL)溶液を、トリメチルホスフィンの1Mトルエン溶液2.0mL(2.0mmol)で処理した。反応物を1時間攪拌し、次いで、水2.0mLを加え、攪拌を2時間続け、反応混合物を濃縮し、残渣を、カラムクロマトグラフィー(SiO2/CHCl3/MeOH=1:3)により精製すると、291.7mg(1.08mmol、90%)の化合物109が得られた。
【0217】
【化27】

【0218】
化合物111の合成:水素化ホウ素ナトリウム(1.4g、37.84mmol)を、化合物110(4.07g、24.35mmol)のメタノール(30mL)溶液に加え、添加中は、反応混合物を氷水浴により冷却した。反応混合物を室温にて1時間攪拌した。溶媒を減圧下で除去し、残渣を、MeOH中で再結晶すると、4.0g(23.62mmol、97%)の化合物111が得られた。
【0219】
【化28】

【0220】
化合物112の合成:化合物101(3.0g、11.76mmol)を、化合物111(1.8g、10.69mmol)、炭酸カリウム(2.2g、15.92mmol)のDMF(40mL)溶液にアルゴン中室温にて加えた。反応混合物を60℃まで温め、12時間攪拌した。溶媒を減圧下で除去し、残渣を、カラムクロマトグラフィー(SiO2/ヘキサン:EA=1:1)により分離すると、2.4g(9.56mmol、95%)の化合物112が得られた。
【0221】
【化29】

【0222】
化合物115の合成:化合物112(58.0mg、0.23mmol)を乾燥アセトニトリル3.0mLに溶かした。この溶液に、炭酸N,N’−ジスクシンイミジル(90.0mg、0.45mmol)と、続いてトリエチルアミン(0.18mL)を加えた。室温にて5時間攪拌した後、溶媒を蒸発乾固させた。残渣を、0.1N NaHCO3、水及びEAで連続して洗浄し、次いで、乾燥すると、粗製の化合物113が得られた。化合物106のDMF溶液に、アセチレン化合物114(32.2mg、0.23mmol)と、続いてトリエチルアミン(0.18mL)を加えた。溶液を室温にて5時間攪拌し、溶媒を減圧下で除去し、残渣を、カラムクロマトグラフィー(SiO/CHCl/MeOH=1:3)により分離すると、67.32mg(0.16mmol、70%)の化合物115が得られた。
【0223】
【化30】

【0224】
化合物116の合成:化合物112(58.0mg、0.23mmol)を乾燥アセトニトリル3.0mLに溶かした。この溶液に、炭酸N,N’−ジスクシンイミジル(90mg、0.45mmol)と、続いてトリエチルアミン(0.18mL)を加えた。室温にて5時間攪拌した後、溶媒を蒸発乾固させた。残渣を、0.1N NaHCO、水及びEAで連続して洗浄し、次いで、乾燥すると、粗製の化合物106が得られた。粗製の化合物106のDMF溶液に、アミノ結合マンノース化合物107(61.5mg、0.23mmol)と、続いてトリエチルアミン(0.18mL)を加えた。溶液を室温にて5時間攪拌し、溶媒を減圧下で除去し、残渣を、カラムクロマトグラフィー(SiO/CHCl/MeOH=1:3)により分離すると、102.6mg(0.17mmol、76%)の化合物116が得られた。
【0225】
【化31】

【0226】
化合物117の合成:70.5mg(0.12mmol)のアジド化合物116のテトラヒドロフラン(2.0mL)溶液を、トリメチルホスフィンの1Mトルエン溶液0.2mL(0.2mmol)で処理した。反応物を1時間攪拌し、次いで、水0.2mLを加え、攪拌を2時間続け、反応混合物を濃縮し、残渣を、カラムクロマトグラフィー(SiO/CHCl/MeOH/NHOH=1:3:0.3)により精製すると、60.6mg(1.08mmol、90%)の化合物117が得られた。
【0227】
アルキン含有リンカー前駆体の表面との共有結合
チオイソシアネート捕捉:アミンがコーティングされたマイクロタイタープレートを、各々、5%DIEA/DMSO(100μL)中のリンカー2の1mM溶液で室温にて8時間処理した。この時間後、溶液を取り除き、ウェルをMeOH(2×200μL)で洗浄した。この反応を図10に示す。
【0228】
アミン捕捉:NHSがコーティングされたマイクロタイタープレートを、リンカー1(1mg/mL 5%DIEA/MeOH;200μL)で4℃にて8時間処理した。この時間後、溶液を取り除き、ウェルをQH2O(3×200μL)で洗浄した。この反応を図10に示す。
【0229】
トリアゾール形成及び切断:ウェルに、5%DIEA/MeOH(200μL)中のアジド含有糖類及びCuI(触媒量)を順に加えた。プレートをカバーし、4℃にて12〜14時間振盪した。次いで、溶液を取り除き、プレートをQHO(3×200μL)で洗浄した。次いで、ジチオスレイトール(HO中50mM)をウェルに加え、プレートを、4℃にて24時間インキュベートした。次いで、プレートを、直接質量スペクトル解析にかけた。この反応を図11に示す。
【実施例8】
【0230】
切断可能なリンカーを有するアレイは、様々なスクリーニング反応に有用である
切断可能なリンカーを有するアレイを、上記の実施例に記載されているように合成し、どの分子が異なるグリカンと結合するかを決定するためのスクリーニングアッセイで使用することに成功した。
【0231】
スクリーニングアッセイ
ロツス・テトラゴノロブス(Lotus tetragonolobus)レクチン結合:QHOで洗浄した後、ウェルを、10mM HEPES緩衝液、pH7.5/0.1%ツイーン−20を含有する150mM NaCl緩衝液(緩衝液A;200μL)で4℃にて1時間にわたりブロックした。次いで、緩衝液を取り除き、フルオレセイン標識のロツス・テトラゴノロブス(Lotus tetragonolobus)レクチン(20μg/mL緩衝液A;200μL)を、暗所で4℃にて1時間にわたり、ウェル中でインキュベートした。次いで、ウェルを、QHOで5回(200μL)洗浄し、蛍光を、励起波長485nm及び発光波長535nmで測定した。
【0232】
エリスリナ・クリスタガリ(Erythrina cristagalli)レクチン結合:QHOで洗浄した後、ウェルを、10mM HEPES緩衝液、pH7.5/0.1%ツイーン−20を含有する150mM NaCl緩衝液(緩衝液A;200μL)で4℃にて1時間にわたりブロックした。次いで、緩衝液を取り除き、フルオレセイン標識のエリスリナ・クリスタガリ(E. cristagalli)(5μg/mL緩衝液A;200μL)を、暗所で4℃にて1時間にわたり、ウェル中でインキュベートした。次いで、ウェルを、QHOで5回(200μL)洗浄し、蛍光を、励起波長485nm及び発光波長535nmで測定した。
【0233】
結果
このディスプレー法の生物学的適用性を特徴付けるため、レクチン結合研究を行った。2つのレクチン(糖認識タンパク質)、即ちR−l−フコースを認識するロツス・テトラゴノロブス(Lotus tetragonolobus)レクチン(LTL)、及びガラクトースを認識するエリスリナ・クリスタガリ(Erythrina cristagalli)(EC)を用い、結合している炭水化物を研究した。両レクチンを、簡単な単糖フコース−O(CH−N及びガラクトース−O(CH−Nでアッセイすることに成功した。
【実施例9】
【0234】
乳癌抗原の同定及び特徴付け
本実施例は、乳癌患者の85%に存在する乳癌細胞と結合するモノクローナルMBr1抗体によって認識される抗原性エピトープの分析について説明する。
【0235】
Globo H類縁体201〜204を合成し、マイクロアレイプラットフォーム上に結合させた。
【0236】
【化32】

【0237】
2種の異なる固定化方法を用いて糖を分析するため、アミノ官能基付き誘導体(201〜204a)及び対応するアジド類縁体(201〜204b)を調製した。マイクロアレイ分析の他に、構造確認を提供するための分析的配列決定のために、蛍光タグ付きGlobo H誘導体を作製した。この方法は、生物学的リガンドの構造を決定するための従来のNMRをベースとした研究の補完物の役割を果たす。これらのマイクロアレイと配列決定ツールの組合せは、Globo Hの重要な炭水化物エピトープ及び対応するモノクローナル抗体結合パートナー、MBr1との相互作用の完全な特徴付けを可能にした。
【0238】
材料及び方法
一般。すべての化学物質は、購入してさらに精製することなく使用した。ジクロロメタン(CHCl)は、水素化カルシウム上で蒸留した。ジエチルエーテル(EtO)は、ナトリウム上で蒸留した。グリコシル化に使用したモレキュラーシーブ(MS、AW−300)は、使用前に粉砕して活性化させた。反応は、シリカゲル60F254プレート上の分析的TLCでモニターし、UV(254nm)下、及び/又は酸性モリブデン酸セリウムアンモニウムによる染色により可視化した。フラッシュカラムクロマトグラフィーは、シリカゲル(35〜75μm)又はLiChroprep RP18上で行った。H−NMRスペクトルは、Bruker社製DRX−500(500MHz)又はDRX−600(600MHZ)分光計で20℃にて記録した。化学シフト(ppm単位)は、重水素化クロロホルム中のテトラメチルシラン(δ=0ppm)か重水中のアセトン(δ=2.05ppm)のどちらかと比べて決定した。Hz単位の結合定数は、一次元スペクトルから測定した。13C Attached Proton Test(13C−APT)NMRスペクトルは、同じBruker社製NMR分光計(125又は150MHz)を用いることにより取得し、CDCl(δ=77ppm)で較正した。結合定数(J)は、Hzで報告する。分裂パターンは、以下の略語、即ち、s、一重線;brs、幅広い一重線;d、二重線;t、三重線;q、四重線;m、多重線を使用することにより記載する。H NMRスペクトルは、この順、即ち化学シフト、多重度、プロトン数、結合定数の順で報告する。
【0239】
保護されたGlobo H(208)のワンポット合成
Globo H(208)を以下の通り合成し、脱保護してグリカン204a及び204bを作製した。
【0240】
【化33】

【0241】
フコシル供与体205(118mg、1.2当量)、二糖ビルディングブロック206(200mg、1当量)、及びMSを、CHCl(7ml)中、室温にて1時間攪拌した。反応物を−50℃まで冷却し、NIS(49mg、1.2当量)と、続いてTfOH(1Mエーテル溶液、0.054ml、0.3当量)を加えた。混合物を−40〜−50℃にて2時間攪拌し、反応を、完了するまでTLCにより追跡した。三糖207(263mg、1.0当量)をCHCl(1.5ml)に溶かし、反応混合物に加えた。次いで、NIS(49mg、1.2当量)と、続いてTfOH(1Mエーテル溶液、0.015ml、0.16当量)を加えた。反応物を−30℃にて2時間攪拌し、次いで、CHClで希釈し、数滴のトリエチルアミンでクエンチした。次に、反応混合物を、飽和水性NaHCO及び飽和水性Naで洗浄し、次いで、NaSOで乾燥した。カラムクロマトグラフィー(1:1:0.1〜1:1:0.4 ヘキサン:CHCl:EtOAc)により精製すると、白色の泡として208(429mg、0.151mmole、83%)が得られた。H−NMR(500MHz,CDCl)d7.96(dt,4H,J=1.45,9.50Hz)、7.48〜7.37(m,6H)、7.36〜7.13(m,67H)、7.08〜6.97(m,8H)、6.09(d,1H,J=6.2Hz)、5.62(d,1H,J=2.6Hz)、5.53(d,1H,1=2.2Hz)、5.24(s,1H)、5.13〜5.06(m,5H)、5.00(d,1H,J=1.5Hz)、4.97〜4.90(m,2H)、4.88〜4.66(m,7H)、4.64〜4.55(m,4H)、4.54〜4.28(m,15H)、4.27〜4.22(m,3H)、4.19〜3.96(m,9H)、3.95〜3.54(m,13H)、3.51〜3.45(m,2H)、3.41〜3.22(m,10H)、3.14〜3.07(m,2H)、1.66〜1.57(m,2H)、1.52〜1.43(m,2H)、1.41〜1.30(m,2H)、0.78(d,3H,J=5.9Hz)。13C−APT NMR(125MHz,CDCl)d165.9、165.1、156.3、153.7、139.3、139.1、139.0、138.72、138.7、138.6、138.3、138.26、138.2、138.1、138.0、137.9、136.6、129.8、129.6、129.59、129.5、129.0、128.5、128.4、128.3、128.2、128.18、128.1、127.9、127.8、127.79、127.77、127.6、127.54、127.5、127.4、127.39、127.23、127.2、127.1、127.0、126.7、126.2、103.9、103.4、103.1、10.9、100.4、96.6、82.8、81.9、81.4、81.0、79.3、78.8、77.5、77.1、75.0、74.9、74.7、74.66、74.0、73.8、73.7、73.6、73.5、73.1、72.9、72.8、72.7、72.4、72.3、71.8、71.0、70.3、69.6、69.0、68.6、68.5、67.4、66.9、66.5、63.0、62.9、55.7、40.9、29.7、29.6、29.3、23.3、16.4。単位MS:C164171Cl35Na[M+Na]の計算値:2856 実測値:2856。
【0242】
保護された四糖(211)
保護された四糖(211)を以下の通り作製して脱保護し、グリカン203a及び203bを作製した。
【0243】
【化34】

【0244】
MSをマイクロ波により活性化し、高真空中で一夜火力乾燥した。無水CHCl中の供与体210(54mg、1.5当量)及び受容体209(13.7mg、1当量)にモレキュラーシーブを加え、反応物を室温にて1時間攪拌した。反応混合物を0℃まで冷却し、次いで、新たに合成したDMTST(6当量)を加えた。反応物を0℃にて2時間攪拌し、次いで、トリエチルアミンでクエンチした。反応混合物をCHClで希釈し、セライトパッドに通して濾過した。有機層を、飽和NaHCO及び食塩水で洗浄し、次いで、無水NaSOで乾燥した。溶媒を減圧下で除去し、残渣を、シリカゲル上のフラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:EtOAc=3:1〜1;1)により精製すると、生成物(36.3mg、76%)が得られた。H−NMR(500MHz,CDCl)δ8.08〜7.95(m,4H)、7.59〜6.95(m,51H)、5.58(d,1H,J=2.6Hz)、5.36(s,1H)、5.09(s,2H)、4.88〜4.70(m,6H)、4.60〜4.25(m,16H)、4.10〜3.87(m,9H)、3.83〜3.76(m,2H)、3.65(d,1H,J=11.75Hz)、3.61〜3.51(m,3H)、3.50〜3.38(m,3H)、3.36〜3.10(m,2H)、3.21〜3.13(m,2H)、1.60〜1.47(m,4H)、1.39〜1.31(m,2H)、0.89(s,3H)。13C−APT NMR(150MHz,CDCl)δ165.9、165.3、156.3、154.0、138.9、138.7、138.24、138.2、137.93、137.9、136.6、133.15、133.1、129.9、129.8、129.6、128.5、128.4、128.37、128.32、128.3、128.2、128.11、128.1、128.0、127.9、127.85、127.73、127.7、127.6、127.56、127.4、127.37、127.2、127.1、127.0717、127.0、126.7、126.3、126.2、123.8、101.7、100.6、97.9、96.6、95.7、82.8、78.9、77.5、77.4、74.9、74.7、74.6、74.1、74.0、73.6、73.4、73.0、72.9、72.86、72.8、72.4、72.2、71.6、70.4、69.0、68.4、67.9、67.3、66.5、63.2、62.6、55.7、40.9、29.7、29.6、28.8、23.3、16.4。HRMS:C110115Cl25Na[M+Na]の計算値:1991.6746、実測値:1991.6776。
【0245】
保護された三糖(212)
保護された三糖(212)を以下の通り作製して脱保護し、グリカン202a及び202bを作製した。
【0246】
【化35】

【0247】
MSをマイクロ波により活性化し、高真空中で一夜火力乾燥した。無水CHCl中の供与体210(109.6mg、1当量)及び受容体(20.6mg、1.2当量)にモレキュラーシーブを加え、反応物を室温にて1時間攪拌した。反応混合物を0℃まで冷却し、次いで、新たに合成したDMTST(6当量)を加えた。反応物を0℃にて2時間攪拌し、次いで、トリエチルアミンでクエンチした。反応混合物をCHClで希釈し、セライトパッドに通して濾過した。有機層を、飽和NaHCO及び食塩水で洗浄し、次いで、無水NaSOで乾燥した。溶媒を減圧下で除去し、残渣を、シリカゲル上のフラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:EtOAc=9:1〜2;1)により精製すると、生成物(89.8mg、76%)が得られた。H−NMR(600MHz,CDCl)δ8.08〜7.95(m,4H)、7.59〜7.01(m,41H)、5.58(d,1H,J=3.06Hz)、5.08(s,2H)、4.87〜4.72(m,5H)、4.64〜4.52(m,6H)、4.48〜4.32(m,9H)、4.13〜4.04(m,2H)、3.97〜3.89(m,2H)、3.87〜3.72(m,4H)、3.64〜3.58(m,1H)、3.57〜3.38(m,5H)、3.18〜3.09(m,2H)、1.61〜1.49(m,2H)、1.47〜1.39(m,2H)、1.35〜1.28(m,2H)、0.99(s,3H)。13C−APT NMR(125MHz,CDCl)δ166.0、165.2、156.3、154.1、139.0、138.7、138.6、138.3、138.1、137.9、136.6、133.1、133.0、129.96、129.8、129.7、129.5、128.4、128.38、128.2、128.14、128.1、128.07、128.0、127.9、127.8、127.7、127.68、127.6、127.4、127.3、127.2、127.1、126.7、102.8、101.0、96.7、83.1、79.1、77.6、76.6、74.6、74.3、74.1、73.7、73.5、72.9、72.86、72.6、72.2、71.8、70.1、69.8、68.7、67.2、66.5、63.0、55.4、40.9、29.6、29.5、29.0、23.0、16.4。HRMS:C9095Cl20Na[M+Na]の計算値:1651.5436 実測値:1651.5483。
【0248】
保護された二糖(214)
保護された四糖(214)を以下の通り作製して脱保護し、グリカン201a及び20bbを作製した。
【0249】
【化36】

【0250】
MSをマイクロ波により活性化し、高真空中で一夜火力乾燥した。1,4−ジオキサン:CHCl=1:2溶液6mL中の供与体205(471.5mg、1.2当量)及び受容体213(428.7mg、1当量)に、室温にてモレキュラーシーブを加え、次いで、反応物を1時間攪拌した。反応混合物を−40℃まで冷却し、次いで、NIS(1.2当量)及びTfOH(0.2当量)を加えた。反応物を2時間で−20℃まで温めた。反応物を、飽和重炭酸ナトリウム及びチオ硫酸ナトリウムでクエンチした。反応混合物をCHClで希釈し、セライトパッドに通して濾過した。有機層を、飽和NaHCO、チオ硫酸ナトリウム及び食塩水で洗浄し、次いで、無水NaSOで乾燥した。溶媒を減圧下で除去し、残渣を、シリカゲル上のフラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:EtOAc=4:1〜1;1)により精製すると、生成物(α異性体254.0mg、39%、β異性体126.1mg、20%)が得られた。α異性体:H−NMR(500MHz,CDCl)δ7.51〜6.95(m,35H)、5.68(d,1H,J=3.65Hz)、5.07(s,2H)、4.94(d,1H,J=11.35Hz)、4.86〜4.74(m,4H)、4.66〜4.37(m,9H)、4.21(dd,1H,J=9.55Hz,8.05Hz)、4.03(dd,1H,J=9.9Hz,3.65Hz)、3.98〜3.91(m,2H)、3.84(dt,1H,J=6.6Hz,8.8Hz)、3.72(dd,1H,J=9.9Hz,2.2Hz)、3.66(s,1H)、3.62〜3.54(m,3H)、3.39(dt,1H,J=6.6Hz,8.8Hz)、3.12(q,2H,J=6.6Hz)、1.61〜1.37(m,4H)、1.32〜1.22(m,2H)、1.11(d,3H,J=6.75Hz)。13C−APT NMR(125MHz,CDCl)δ156.3、138.9、138.7、138.3、138.2、137.8、136.5、128.4、128.4、128.3、128.2、128.1、128.0、127.9、127.87、127.8、127.7、127.5、127.3、127.29、127.2、127.17、126.2、102.0、97.1、84.3、79.5、77.9、75.6、74.6、74.3、73.5、73.2、72.9、72.5、72.2、71.9、71.2、69.2、68.8、66.5、66.1、40.9、29.7、29.3、23.2、16.5。HRMS:C6775NO12Na[M+Na]の計算値:1108.5181 実測値:1108.5171。
【0251】
Globo H(204a)、四糖(203a)、及び三糖(202a)の脱保護の一般手順
完全に保護されたオリゴ糖を酢酸に溶かす。ナノサイズの活性化されたZn粉末(Aldrich社製)を加え、反応物を1時間激しく攪拌した。反応物を濾過し、溶媒を除去した。次いで、粗製の残渣をピリジン及び無水酢酸に溶かし、触媒量のDMAPを加えた。一夜攪拌した後、反応物をメタノールでクエンチし、溶媒を除去した。残渣をCHClに溶かし、2%HCl、飽和水性NaHCO、及び食塩水で洗浄した。溶媒の除去後、粗製材料をメタノール(2ml)及びCHCl(2ml)に溶かした。次いで、NaOMe溶液を加え、反応物を2時間攪拌した。反応物をDOWEX 50WX2−200で中和し、濾過し、溶媒を除去した。次いで、材料を、メタノール中の5%ギ酸に溶かし、Pd黒を加えた。フラスコを水素で3回パージし、次いで、水素雰囲気中で一夜攪拌した。反応物をNHOHで中和し、セライトに通して濾過し、濃縮した。生成物を、カラムクロマトグラフィー(LiChroprep R18、水〜10%MeOH)により精製すると、白色の固体として生成物が得られた。
化合物204a:H−NMR(500MHz,DO)δ5.22(d,1H,J=4.04Hz)、4.87(d,1H,J=4.03Hz)、4.59(d,1H,J=7.71Hz)、4.52(d,1H,J=7.70Hz)、4.49(d,1H,J=7.70Hz)、4.46(d,1H,J=7.07Hz)、4.37(t,1H,J=6.4Hz)、4.24〜4.18(m,2H)、4.08(d,1H,J=1.83Hz)、4.01(d,1H,3.3Hz)、3.99〜3.53(m,33H)、3.28(t,1H,J=8.5Hz)、2.98(t,2H,J=7.52Hz)、2.02(s,3H)、1.71〜1.60(m,4H)、1.47〜1.40(m,2H)、1.19(d,3H,J=6.6Hz,)。13C−APT NMR(125MHz,DO)δ175.9、105.6、105.0、103.7、103.6、102.1、100.9、80.4、79.9、78.8、78.0、77.4、77.1、76.7、76.4、76.3、76.2、75.2、74.6、73.7、73.5、72.5、71.8、71.7、71.14、71.1、70.8、70.7、70.1、69.7、69.5、68.4、62.6、62.59、62.0、61.7、53.3、41.0、29.8、28.1、23.9、23.7、17.0 MALDI−FTMS C437630[M+Na]の計算値 1101.4555、実測値 1101.4525。
化合物203a:H−NMR(600MHz,DO)δ5.08(d,1H,J=3.96Hz)、4.73(d,1H,J=3.96Hz)、4.46(d,1H,J=7.44Hz)、4.39(d,1H,J=7.44Hz)、4.08(q,1H,J=6.54Hz)、4.03(d,1H,J=2.7Hz)、3.95(s,1H)、3.84〜3.72(m,5H)、3.70〜3.53(m,12H)、3.52〜3.46(m,3H)、3.39〜3.35(m,1H)、2.85(t,2H,J=7.5Hz)、1.89(s,3H)、1.58〜1.47(m,4H)、1.38〜1.28(m,2H)、1.06(d,3H,J=6.6Hz)。13C−APT NMR(150MHz,DO)δ175.02、104.6、102.7、99.9、99.1、79.3、77.0、76.8、75.7、75.3、74.2、72.5、72.2、71.0、70.2、69.7、69.1、68.7、68.4、68.3、67.4、61.8、61.6、52.3、40.0、28.7、27.1、23.0、22.9、16.0。HRMS:C315620Na[M+Na]の計算値:799.3318 実測値:799.3323
化合物202a:H−NMR(500MHz,DO)δ5.14(d,1H,J=4.05Hz)、4.51(d,1H,J=7.7Hz)、4.22(d,1H,J=8.1Hz)、4.13(q,1H,J=6.6Hz)、4.01(d,1H,J=2.6Hz)、3.90〜3.78(m,4H)、3.76〜3.59(m,8H)、3.58〜3.50(m,3H)、3.47〜3.41(m,1H)、2.89(t,2H,J=7.5Hz)、1.94(s,3H)、1.61〜1.52(m,2H)、1.51〜1.42(m,2H)、1.35〜1.22(m,2H)、1.11(d,3H,J=6.6Hz)。13C−APT NMR(125MHz,DO)δ174.3、103.4、102.8、99.8、77.4、76.6、75.7、75.5、74.2、72.5、70.7、70.2、69.8、69.2、68.7、67.5、61.7、61.6、52.1、40.0、28.8、27.0、22.9、22.8、15.9。HRMS:C254715[M+H]の計算値:615.2971 実測値:615.2976。
【0252】
二糖(201a)の脱保護の手順
完全に保護された二糖214 190mgを、メタノール中の5%ギ酸(3ml)に溶かし、Pd黒(150mg)を加えた。フラスコを水素で3回パージし、次いで、水素雰囲気中で一夜攪拌した。反応物をNHOHで中和し、セライトに通して濾過し、濃縮した。生成物を、カラムクロマトグラフィー(LiChroprep R18、水〜10%MeOH)により精製すると、白色の固体201a(42.3mg、59%)が得られた。H−NMR(500MHz,DO)δ5.12(d,1H,J=4.05Hz)、4.37(d,1H,J=8.05Hz)、4.20(q,1H,J=6.6Hz)、3.87〜3.77(m,2H)、3.76〜3.68(m,2H)、3.67〜3.52(m,6H)、3.46(dd,1H,J=8.1Hz,9.5Hz)、2.88(t,2H,J=7.7Hz)、1.62〜1.51(m,4H)、1.37〜1.28(m,2H)、1.09(d,3H,J=6.6Hz)。13C−APT NMR(125MHz,DO)δ102.2、100.1、77.5、74.4、72.5、70.7、70.2、69.6、69.0、67.5、61.6、40.0、29.1、27.2、22.9、16.1。HRMS:C1733NO10Na[M+Na]の計算値:434.1997 実測値:434.1988。
【0253】
ジアゾ転移反応の一般手順
アジ化ナトリウム(20当量)を最少量の水に溶かし、0℃まで冷却した。等容積のジクロロメタンを加え、激しく攪拌した溶液に無水トリフルオロメタンスルホン酸(10当量)をゆっくりと加えた。反応物を0℃にて2時間攪拌した。次いで、飽和重炭酸ナトリウムを加え、反応をクエンチした。混合物をジクロロメタンで2回抽出した。合わせた有機層を飽和重炭酸ナトリウムで1回洗浄し、その溶液を、さらに精製することなく次の反応に使用した。
【0254】
基質及び0.1当量のCuSOを、添加するアジ化トリフリル溶液の容積と同じ容積の水に溶かした。トリエチルアミン(3モル当量)を混合物に加えた。アジ化トリフリルの新たに調製したジクロロメタン溶液を、激しく攪拌しながら一度に加えた。メタノールを加え、水:メタノール:ジクロロメタンの望ましい3:10:3の比とした。溶液を一夜攪拌した。反応物を蒸発させて残渣とし、次いで、カラムクロマトグラフィーにより精製した。
化合物204b:H−NMR(600MHz,DO)δ5.09(d,1H,J=3.96Hz)、4.75(d,1H,J=3.96Hz)、4.48(d,1H,J=7.86Hz)、4.40(d,1H,J=7.44Hz)、4.37(d,1H,J=7.44Hz)、4.34(d,1H,J=8.28Hz)、4.26(t,1H,J=6.6Hz)、4.14〜4.07(m,2H)、3.97(br,s,1H)、3.89(d,1H,J=3.06Hz)、3.87〜3.74(m,7H)、3.73〜3.43(m,24H)、3.20(t,2H,J=6.96Hz)、3.16(t,2H,J=8.34Hz)、1.90(s,3H)、1.59〜1.45(m,4H)、1.36〜1.24(m,2H)、1.08(d,3H,J=6.6Hz)。13C−APT NMR(150MHz,DO)δ175.1、104.8、104.1、102.82、102.80、101.2、100.1、79.5、79.1、77.9、77.1、76.9、76.3、75.9、75.6、75.4、75.3、74.4、73.8、72.9、72.7、71.6、70.9、70.3、70.0、69.9、68.8、68.6、67.6、62.2、61.8、61.1、52.4、51.9、50.5、29.1、28.5、23.4、22.8、16.1。HRMS:C437430Na[M+Na]の計算値:1149.4280 実測値:1149.4215。
化合物203b:H−NMR(600MHz,DO)δ5.09(d,1H,J=3.5Hz)、4.74(d,1H,J=4.0Hz)、4.47(d,1H,J=7.4Hz)、4.40(d,1H,J=7.4Hz)、4.09(q,1H,J=6.54Hz)、4.05(d,1H,J=2.22Hz)、3.96(s,1H)、3.87〜3.73(m,5H)、3.71〜3.54(m,12H)、3.53〜3.47(m,3H)、3.41〜3.36(m,1H)、3.20(dt,2H,J=7.02Hz,6.12Hz)、1.90(s,3H)、1.58〜1.47(m,4H)、1.37〜1.28(m,2H)、1.08(d,3H,J=6.6Hz)。13C−APT NMR(150MHz,DO)δ175.1、104.6、102.7、100.0、99.1、79.4、77.1、76.8、75.8、75.3、74.2、72.9、72.5、71.1、70.20、70.19、69.8、69.2、68.6、68.3、67.5、61.8、61.7、52.4、51.7、28.8、28.5、23.4、22.9、16.0。HRMS:C315420Na[M+Na]の計算値:825.3223 実測値:825.3232。
化合物202b:H−NMR(600MHz,DO)δ5.10(d,1H J=3.48Hz)、4.47(d,1H,J=7.44Hz)、4.18(d,1H,J=7.86Hz)、4.10(q,1H,J=6.6Hz)、3.97(d,1H,J=1.74Hz)、3.87〜3.73(m,4H)、3.72〜3.55(m,8H)、3.54〜3.47(m,3H)、3.42〜3.37(m,1H)、3.23〜3.15(m,2H)、1.91(s,3H)、1.50〜1.39(m,4H)、1.28〜1.19(m,2H)、1.08(d,3H,J=6.6Hz)。13C−APT NMR(150MHz,DO)δ174.3、103.4、102.8、99.8、77.4、76.6、75.7、75.5、74.2、72.5、70.7、70.2、69.8、69.2、68.7、67.5、61.7、61.6、52.1、40.0、28.8、27.0、22.9、22.8、15.9。HRMS:C254415Na[M+Na]の計算値:663.2695 実測値:663.2689。
化合物201b:H−NMR(500MHz,DO)δ5.12(d,1H,J=3.65Hz)、4.35(d,1H,J=8.1Hz)、4.21(q,1H,J=6.6Hz)、3.82〜3.51(m,10H)、3.45(dd,1H,J=9.55Hz,8.05Hz)、3.20(t,2H,J=6.75Hz)、1.58〜1.45(m,4H)、1.35〜1.24(m,2H)、1.08(d,3H,J=6.6Hz)。13C−APTNMR(125MHz,DO)δ102.1、100.0、77.2、75.6、74.5、72.5、70.9、70.2、69.6、69.0、67.4、61.6、51.7、29.2、28.5、23.3、16.1。HRMS:C173110Na[M+Na]の計算値:460.1902 実測値:460.1899。
【0255】
201〜204aのGlobo H誘導体のマイクロアレイ分析:
NHSがコーティングされたスライドガラスに、各グリッド内に水平方向に置かれている10個の複製物と合わせて下から上へ5、10、20、30、40、50、60、80及び100μMの濃度で糖201〜204aのメタノール溶液をスポットした。この結合手順を図12に説明する。スライドをPBS緩衝液で1分間洗浄した。
【0256】
次に、マウス由来のMBr1抗Globo Hモノクローナル抗体(IgM)(Alexis Bichemicals社製)の70μg/mL溶液100μLを0.05%ツイーン20/PBS緩衝液中で作製した。この溶液を、糖のプリントされたグリッドの下に添加し、次いで、カバーグラスの装着により広げた。ガラス加湿チャンバー中のインキュベーションを、1時間振盪しながら行った。この後、スライドを、0.05%ツイーン20/PBS緩衝液で5回、PBS緩衝液で5回及び水で5回洗浄した。次に、FITCタグ付きヤギ抗マウス抗体(Cal Biochem社製)の70μg/mL溶液200μLを作製し、前のようにスライドに添加した。振盪しながら、加湿チャンバーインキュベーションをホイルの下で1時間行った。この後、スライドを、もう一度0.05%ツイーン20/PBS緩衝液で5回、PBS緩衝液で5回及び水で5回洗浄し、次いで、窒素で乾燥した。次いで、蛍光スキャンをスライド上で行った。得られた画像を、グリッド内のすべてのスポットの蛍光の場所を見つけて定量するためのプログラムImageneを用いて分析した。このデータを、糖をプリントするのに使用した溶液の濃度に対してプロットし、炭水化物−抗体結合曲線を得た。
【0257】
ジスルフィドリンカー固定化(タイプ217の):ジスルフィドリンカー215のBOCで保護された誘導体(3.9mg、13.5μmol)をジクロロメタン1mLに溶かし、トリフルオロ酢酸1mLを加えた。反応物を1時間攪拌し、次いで、ロータリー蒸発による溶媒除去を介して反応を停止させた。次いで、残りのトリフルオロ酢酸を、メタノール及びベンゼンと2回共沸させることにより除去した。脱保護されたリンカー(215)の1mM溶液を調製した。アジドで修飾された糖のサンプルを秤量し(201bの場合は1mg)、1当量の2つの出発材料が存在するように、リンカー溶液を各糖(210bの場合は2.29mL)に加えた。スパチュラ先端のヨウ化銅を加え、反応物を一夜攪拌した。翌日、メタノールを除去し、水を添加することにより1mM保存溶液を作製した。これらの溶液を固体表面上にスポットし、210〜204aと平行して分析した。この反応を図12に示す。
【0258】
結果
切断型のGlobo H類縁体201〜204を、マイクロアレイ分析を用いてMBr1との結合を評価することができるように、オリゴ糖合成のためのワンポットのプログラム可能なプロトコルを用いて調製した。これらの類縁体は、順に切り取られた糖を有する天然糖脂質の糖ドメインを含む。さらに、ペンタミン又はペンタジド(pentazide)リンカーを、NHSがコーティングされたグラススライドとの共有結合を介し、固定化のための還元末端に含めた。発明者は、以前にGlobo Hのワンポットのプログラム可能な合成を報告している。Burkhart et al. (2001) Angew. Chem. Int. Ed. 40, 1274-+。上記に記載されているように、この研究には新たな合成戦略を用いた。2つのワンポット反応を用いる代わりに、新規な[1+2+3]アプローチを用いる単一のワンポット反応で全六糖を構築した。最も困難なα1−4−ガラクトース−ガラクトース結合の形成は、ワンポット反応の収率を前方に改善した(以前の戦略の62%に対して83%)。三糖ビルディングブロックも、すべてのGloboファミリーオリゴ糖の合成において役立つ。
【0259】
四糖、三糖、及び二糖類縁体の合成は、完全なGlobo H六量体と同じビルディングブロックを使用した。三糖210のガラクトースビルディングブロック209又はリンカーN−Cbz−5−ヒドロキシルペンタミンとのカップリングは、上記に記載したように、それぞれ四糖211又は三糖212を与えた。ガラクトースビルディングブロック213及びフコースビルディングブロック205のカップリングは、上記に記載したような二糖214を与えた。Globo H六糖208、四糖211、及び三糖212の脱保護は、活性化Zn粒子及び酢酸を用いるTroc基の除去から始まった。その後に、無水酢酸及びピリジンによるアミン基のアセチル化が続く。ベンゾエート基は、メタノール中のナトリウムメトキシドで除去した。ベンジルエーテル、ベンジリデンアセタール及びN−Cbz基の最後の脱保護は、1気圧水素中で5%ギ酸/メタノール中のPd黒を用いて行った。これは、完全に脱保護されたGlobo H六糖204a、四糖203a及び三糖202aを与えた。上記に記載したようなメタノール中の5%ギ酸中のPd黒による処理を介する二糖214の脱保護は、化合物201bを与えた。ジアゾ転移反応(硫酸銅触媒と一緒のアジ化トリフリル)を用い、脱保護されたオリゴ糖、204a、203a、202a、201aのアミン基を、それぞれ対応するアジド糖204、203、202、201に変換した。
【0260】
それらの合成後、Globo H類縁体201〜204の抗体結合能力を、マイクロアレイプラットフォーム内で検討した。アミノ官能基付きGlobo H類縁体201〜204bを、NHSがコーティングされたスライドガラス上に直接固定化した。アジド類縁体201〜204bの場合、ジスルフィドリンカー戦略を表面結合について行った。201b(図12)などのアジドは、1,3−双極子環化付加反応と、続く217へ固定化するためのNHSマイクロプレート(216)上へのスポッティングを介し、ジスルフィドリンカー215と組み合わせた。抗体結合曲線作製を可能にするため、糖を一連の濃度でスポットした。アッセイは、最初にモノクローナルマウスIgM抗体MBr1で処理し、続いて、検出のために、フルオレセインタグ付き二次抗体、ヤギ抗マウスIgMと共にインキュベートするものであった。蛍光についてスライドをスキャンすると、図13に示すような画像が得られ、プリントされたオリゴ糖スポットとの抗体の結合を直接観察することができた。スライドは、上列の左から右へ201a〜204a及び下列には201b〜204bがプリントされたグリッド中の糖を含んでいた。初期の視覚分析は、より短いオリゴ糖が、プレート表面への抗体の弱い動員を示すことを示した。
【0261】
次いで、図13に示すような画像を、プログラムImageneを用いて処理すると、各スポットの蛍光を取り囲んで定量することができた。得られたデータを、スポットする間に各位置が受ける糖の濃度に対してプロットした。これにより、201a〜204aについて図14に示すような様々な炭水化物−抗体相互作用についての結合曲線が得られた。アミノで誘導体化されたオリゴ糖類縁体201a〜204aは、ジスルフィドリンカーを介して固定化されたアジド含有部分(201b〜204b)よりも高い抗体動員特性を与えた。これは、リンカー含有糖の不十分な溶解性、リンカー結合における完全な変換の欠如、又は、単に、より短いリンカーが結合により適していることに起因している可能性がある。アッセイ結果は、抗体結合が、通常、オリゴ糖構造の複雑性とともに増加することを示した。二糖Globo H誘導体201a及び201bは、表面への抗体の動員を生じなかった。三糖202a及び202bは、完全な天然六糖204a及び204bと競合する程ではないが、抗体と結合した。しかしながら、四糖203a及び203bは、完全な天然6量体と同様な表面への結合を示し、以下の四糖コア構造が、抗体と結合するのに有効であることを示した。
【0262】
【化37】

【0263】
式中、R1は、水素、グリカン又はリンカーである。一部の実施形態において、リンカーは、固体支持体であるか、或いは、固体支持体に結合しうる。
【0264】
Globo Hオリゴ糖エピトープのさらなる特徴付けにおいて、構造確認の目的で分析的配列決定を用いた。この目的で、蛍光タグを含むGlobo H誘導体を調製した。次いで、これを、エンドグリコシダーゼ(図15A)、α−フコシダーゼ(ウシ腎臓、Sigma社製)、b−1,3−ガラクトシダーゼ(大腸菌(E. coli)からの組換え体、Calbiochem社製)、b−N−アセチルグルコサミニダーゼ(肺炎連鎖球菌(Streptococcus pseuoniaeからの組換え体)、Prozyme社製)、及びb−N−アセチルヘキソサミニダーゼ(タチナタマメ由来、Prozyme社製)による様々な消化にかけた。次に、得られた消化物を蛍光検出によるHPLC分析にかけた(図15B)。消化から得られたグリカン断片は、予想通りであり、Globo H抗原の構造を裏付けた。
【0265】
したがって、この研究は、重要な生物学的プロセスに関与している天然リガンドに関する構造情報を得るためのこのアプローチの有効性を示している。
【0266】
また、これらの研究は、重要なスフィンゴ糖脂質Globo H上に見出されるオリゴ糖エピトープ及びそのMBr1抗体との相互作用に関する理解を拡大する。したがって、それらは、抗癌ワクチン開発の進展を支援するはずである。この探究の一態様には、患者において先天性免疫応答をもたらすため、多価表示のための骨格上にGlobo Hを提示することが必要であった。この目的には、製造のコスト及び効率が、それぞれ減少及び増加するように、免疫原の合成を容易にすることが有利である。
【0267】
単純化したGlobo H四糖203は、多価フォーマットで204と同様の結合親和性を示したが、この化合物の合成経路はより短い。結果として、この誘導体は、抗癌ワクチンの効率的開発及び診断法として前途有望である。癌療法の進歩は、疾患を理解及び治療するためのツールの集積を必要とするはずである。このことは、癌幹細胞の最近の報告並びにこの分野によって示された展望及び挑戦のため、より重要になっている。本明細書に示した配列決定及びマイクロアレイ技法は、分子レベルにおける癌発生に関するプロセスを迅速に特徴付けるための有効な方法を示している。
【実施例10】
【0268】
予備的研究は、2G12抗HIV抗体が、Man8グリカンと優先的に結合することを示す
この実施例は、2G12抗HIV抗体が結合するグリカンには、Man8グリカンが含まれることを示す予備的実験について説明する。2G12抗体は、(Man9GlcNAc2)と結合することが初めて観察された幅広い中和抗体である(Calarese et al. Science 2003, 300, 2065-2071を参照)。
【0269】
材料及び方法:
分析に使用する天然の高マンノース型N−グリカンは、Dionex上で、プロナーゼ処理したウシリボヌクレアーゼBから精製した。各調製物は、MALDI−MSにより決定されるような単一の分子量種であった。
【0270】
スライドガラス上にプリントされたグリカンアレイの構築:炭水化物構造のライブラリーは、上記に記載したような化学合成及び化学酵素合成、並びに天然源により入手した。この化合物ライブラリーは、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)反応性の一級アミノ基を含み、マイクロアレイ遺伝子プリンター(TSRI)を用いて市販のNHS−活性化ガラス表面(Accelr8 Technology Corporation、Denver、CO)上にプリントされた。
【0271】
各グリカンタイプを、様々な濃度(10〜100μM)でプリントし(約0.5nL/スポット)、各濃度は6個の複製とした。スライドを、エタノールアミン緩衝液と共にさらにインキュベートし、残ったNHS官能基を不活性化した。
【0272】
マイクロタイタープレート中の切断可能なリンカーグリカンアレイ:図11に示すような実施例7に記載した切断可能なトリアゾールリンカーを有するマイクロタイターウェル内に固定化されたグリカンを用い、さらに実験を行った。
【0273】
2G12結合:QHOで洗浄した後、ウェルを、10mM HEPES緩衝液、pH7.5/0.1%ツイーン−20を含有する150mM NaCl緩衝液(200μL)で4℃にて1時間にわたりブロックした。次いで、緩衝液を取り除き、2G12(17μg/mL PBS緩衝液;200μL)を、4℃にて1時間にわたり、ウェル中でインキュベートした。次いで、ウェルを、PBS緩衝液(3×;200μL)で洗浄し、フルオレセイン結合のヤギ抗ヒトIgG抗体(14μg/mL PBS緩衝液;200μL)を、暗所で4℃にて1時間にわたり、ウェル中でインキュベートした。次いで、ウェルを、PBS緩衝液(3×;200μL)で洗浄し、蛍光を、励起波長485nm及び発光波長535nmで測定した。
【0274】
結果:
2G12抗体は、グリカンアレイへの適用前に、二次ヒト抗IgG−FITC(2:1、20μg/mL)と予め複合体を形成させた(10分間)。2G12抗体とのインキュベーション後、アレイを、緩衝液及び水の中にスライドを浸漬することにより洗浄した。
【0275】
結合は、いくつかの合成マンノース含有オリゴ糖及び単離精製したMan−8 N−グリカンに対する初期の実験で観察された。2G12抗体が結合するグリカンは、以下のどのグリカン構造も有するか、或いはそれらの組合せであった
【0276】
【化38】

【0277】
式中、各黒丸(●)は、マンノース残基を示す。
【0278】
より小レベルの結合が、2G12抗体とMan−9−N−グリカンの間に観察された。表7に示すように、より簡単な合成グリカンが、Man8グリカンと同様に2G12と結合する。しかしながら、gp120の高マンノースグリカンとは違い、より簡単な化合物は、免疫原に対して抗体を生じる免疫応答を引き起こす可能性が高い。また、天然構造は、望ましくない免疫応答を生じる可能性が高くない。実際、酵母マンナンは、マンノースのポリマーであり、ヒトにおける強力な免疫原であり、酵母において組換え治療用糖タンパク質を生産する際の大きな障害になる。
【0279】
【表7】

【0280】
これらの結果は、8個のマンノース残基を有するグリカンが、2G12抗HIV中和抗体と結合する優れた抗原であることを示している。
【0281】
2G12抗HIV抗体が結合するマンノース含有グリカンのタイプを明らかにするため、切断可能なリンカーアレイを用いてさらに研究を行った。これらの切断可能なリンカー研究は、Manα1、2Manα1、2Manα1、3Man及び/又はManα1、2Manα1、3Manα1、2Manα1、6Manを含むグリカンが、2G12に対するマイクロモル親和性の最適なエピトープであることを立証した。一定量の2G12抗体と共に漸増量の標識されたManα1、2Manα1、3Manα1、2Manα1、6Manグリカンを用いる結合研究の結果を図16に示す。構造的に関連するマンノース含有グリカンの2G12抗体との結合についてのK値は、以下のように観察された。
Manα1、2Manα1、3Manα1、2Manα1、6Man:K=0.1μM。
Manα1、2Manα1、2Manα1、3Man:K=0.1μM。
Manα1、2Manα1、2Manα1、3(Manα1、2Man1、2Man1.6)Man:K=0.7μM。
Manα1、2Manα1、2Manα1、3(Manα1、2Man1、3(Manα1、2Manα1.2Manα1.6))Man:K=1.0μM。
【0282】
これらの研究は、グリカンManα1、2Manα1、2Manα1、3Man及びManα1、2Manα1、3Manα1、2Manα1、6Manを、2G12に対するマイクロモル親和性の最適なエピトープであると断定した。さらに、この結果は、本発明の糖アレイの有用性を示している。
【実施例11】
【0283】
2G12抗体の炭水化物特異性の分析
新規な抗原、オリゴマンノース7、8及び9(以下及び図17に示す)を合成し、これらのオリゴマンノースの(i)溶液相ELISAアッセイ(4)においてgp120との2G12の結合を阻害する能力及び(ii)マイクロタイタープレートをベースとしたアッセイ又はスライドガラスアッセイにおいて2G12と結合する能力を研究することにより探索した。
【0284】
【化39】

【0285】
さらに、これらの合成オリゴマンノースのうちの4個(4、5、7、及び8、図17)と結合しているFab 2G12の結晶構造を決定した。これらの生物化学的、生物物理学的、及び結晶学的結果は、Fab 2G12が、ManGlcNAcのD1腕とD3腕双方の末端Manα1−2Manを認識できることを示している。これらのデータは、2G12が、末端Manα1−2Manに対して極めて特異的であることを裏付けているが、オリゴマンノース部分の第三位との先に考えられたよりも幅広い結合範囲との関連において、これは、HIV−1ワクチンに寄与すると思われる炭水化物をベースとした免疫原の開発を促進する可能性がある。
【0286】
材料及び方法:
オリゴマンノース合成:すべての化学物質は、Aldrich社から購入し、さらに精製することなく使用した。ビルディングブロック10及び13は、Lee et al. (2004) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 43:1000-1003に記載されているように合成した。重要なチオグリコシドビルディングブロック(12、16及び19)、保護されたMan14、Man17及びMan20、保護されていないMan7、Man8及びMan9、残りの反応中間体11、15及び18の合成についての実験の詳細、並びに7〜9、11、12及び14〜25についてのすべての特徴付けデータを以下に記載するように示す。
【0287】
酵素結合免疫吸着アッセイ。マイクロタイタープレートウェル(平底、Costar型3690;Corning Inc.社製)を、50ng/ウェルのgp120JR−CSFで4℃にて一夜コーティングした。続くすべての工程は、室温にて行った。次いで、ウェルを、3%(mass/vol)BSAで1時間ブロックする前に、マイクロプレートウォッシャー(Skan Wash 400、Molecular Devices社製)を用いてPBS/0.05%(vol/vol)ツイーン20(Sigma社製)で4回洗浄した。次いで、1%(mass/vol)BSA/0.02%(vol/vol)ツイーン20/PBS(PBS−BT)で0.5μg/mL(25ng/ウェル)まで希釈したIgG 2G12を、2mMから開始して段階希釈したオリゴマンノースの存在下で、抗原がコーティングされたウェルに2時間で加えた。
【0288】
結合していない抗体を、上記に記載したように、4回洗浄することにより除去した。結合している2G12は、PBS−BTで1:1000に希釈したアルカリホスファターゼ結合ヤギ抗ヒトIgG F(ab’)抗体(Pierce社製)で検出した。1時間後、ウェルを4回洗浄し、結合している抗体を、p−ニトロフェノールホスフェート基質(Sigma社製)で可視化し、405nmでモニターした。
【0289】
炭水化物マイクロアレイ分析。96ウェルのNHSがコーティングされたマイクロタイタープレート(NoAb Biodiscoveries社製)を、5%ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)を含有するアミノ官能基付きジスルフィド及びアルキン含有リンカー(スキームV)の1mMメタノール溶液200μLで処理し、4℃にて一夜インキュベートした。次いで、マイクロタイタープレートを、メタノール2×200μL及び水2×200μLで洗浄した。次に、5%DIEA/メタノール中の0〜500μMの様々な濃度で、アジド官能基付きオリゴマンノース誘導体21〜25の溶液200μLを導入した。少量のヨウ化銅(I)を加え、内容物を4℃にて一夜反応させた。翌日、内容物を取り出し、プレートを、メタノール2×200μL及び水2×200μLで洗浄した。次いで、プレートを、HEPES緩衝液pH7.5中の0.1%ツイーン20溶液で4℃にて1時間ブロックし、次いで、HEPES緩衝液3×200μLで洗浄した。次に、0.1%ツイーン20/PBS緩衝液中の2G12抗体の1μg/mL溶液200μLを、4℃における1時間のインキュベーションのためにウェルに加え、PBS緩衝液2×200μLで洗浄した。この時点で、FITCタグ付きヤギ抗ヒトIgG抗体(PBS中10μg/mL、Cal Biochem社製)200μLを4℃にて1時間で加え、次いで、ウェルを、PBS緩衝液2×200μLで洗浄した。FITCタグ付き二次抗体の検出は、蛍光プレートリーダーを用い、水200μL中で行った。得られたデータは、オリゴマンノース−2G12結合等温線を与え、解離定数の決定にはスキャッチャードプロット解析を行った。Adams et al. (2004) Chem. Biol. 11:875-81。
【0290】
2G12の精製、結晶化、構造決定、及び解析。ヒトモノクローナル抗体2G12(IgG1、κ)は、チャイニーズハムスター卵巣細胞における組換え発現により産生させた。Fab断片は、パパインによる免疫グロブリンの消化と、続く、タンパク質A及びタンパク質Gカラム上の精製により作製し、次いで、約30mg/mlまで濃縮した。各複合体(Man、Man、Man、及びMan)については、固体糖リガンドを、飽和までFab溶液に加えた。結晶化のため、タンパク質+糖0.6μLを等容積のリザーバ溶液と混ぜた。すべての結晶は、1mLのリザーバ容積によるシッティングドロップ蒸気拡散法により成長させた。Fab 2G12+Man結晶は、27%PEG4000及び0.05M酢酸ナトリウムのリザーバ溶液で成長させ、Man共結晶は1.6M リン酸Na/リン酸K、pH6.8で、Man7共結晶は20%PEG4000及び0.2M酢酸ナトリウムで、Man8共結晶は20%PEG4000及び0.2Mイミダゾールリンゴ酸pH7.0で成長させた。すべての結晶は、25%グリセロールで凍結防止した。データは、Advanced Light Source(ALS)ビームライン8.2.2及びStanford Synchrotron Radiation Laboratory(SSRL)ビームライン9−2及び11−1で100Kにて集めた。すべてのデータを指数付けし、取り込み、−3.0σを超えるすべての観測結果を用い、HKL2000(25)でスケールした。
【0291】
構造は、Phaserのための出発モデルとしてFab 2G12の1.75Å構造(PDBコード:1OP3)を用い、分子置換により決定した。Li & Wang (2004) Org. Biomol. Chem. 2:483-88;Storoni e al. (2004) Acta Cryst. D60: 432-38。非対称単位のMatthews係数は、Fab 2G12+Man4データが単一Fab+糖複合体を含むことを示唆したが、他の複合体の非対称単位は、2つのFab+糖複合体からなっていた。モデル構築は、TOM/FRODO(Jones (1985) Methods Enzymol. 115: 157-71)を用いて行い、CNSバージョン1.1(Brunger et al. (1998) Acta Cryst. D54: 905-21)及びTLS精密化を用いるREFMAC(CCPA Acta Cryst. D50: 760-763)により、すべての測定データを用いて精密化した(F>0.0σで)。当初は、厳格な非結晶学的対称(NCS)拘束をかけたが、精密化中に徐々に解除した。精密化を通じてRfreeテストセット(5%)を維持した。データ収集及び精密化結果を表8に要約する。
【0292】
【表8】

【0293】
Manとの複合体におけるFab 2G12の回折データは、2.0Åの回折限界にもかかわらず極度の異方性が生じた。我々は、2.0Å(2.05〜2.00Åの最も高い分解能シェルにおいてI/σ>2.0及び88%の完全性)まで観察された測定データを報告するが、異方性回折は、2.75Åを著しく超え、低いR値につながる。しかしながら、電子密度は、極めて明確で、この分解能において容易に解釈可能である。2.75Åの低い分解能におけるFab 2G12+Man4構造の精密化は、それぞれ21.9%及び28.2%というわずかに良好なRcrys及びRfree値を与えるが、定性的電子密度図は著しく不十分である。したがって、より高い分解能構造を報告する。
【0294】
可能性のある水素結合及びファンデルワールス接触は、プログラムCONTACSYM(Sheriff et al. (1987) J. Mol. Biol. 197: 273-96)を用いて評価した。埋もれた分子表面積は、プログラムMS(Connolly (1993) J. Mol. Graphics 11: 139-141)を用いて測定した。
【0295】
結果及び考察
Man7、Man8及びMan9の合成。
Man7を製造するための合成工程を以下のスキームVに示す。合成工程は、文献手順(Schmidt et al. (1990) Synletters 694-96)に従って行った。スキームV
【0296】
【化40】

【0297】
スキームVに用いた試薬及び条件:工程a:(i)NBS、アセトン、0℃、30分;(ii)、CClCN、DBU、CHCl、0℃、8時間;(iii)、11、TBDMSOTf、EtO、−40℃、4時間、3工程で75%;工程b:13 NIS/TfOH、MS、CHCl、−45℃、2時間、85%:工程c:(i)TBAF/AcOH、THF、室温、2時間;(ii)NaOMe、MeOH、室温、48時間;(iii)Pd黒、HCOOH/MeOH(20:1v/v)、H2、室温、24時間、3工程で60%。
【0298】
チオグリコシド二糖ビルディングブロック10を、そのトリクロロアセトイミデート誘導体に変換し、ビルディングブロック11によるグリコシル化のためにTBDMSOTfで活性化すると、好収率(3工程で75%)で三糖ビルディングブロック12が得られた。好収率(85%)でのMan7の収束合成は、−25℃における無水CHCl中のNIS/TfOH促進システムを用いる四糖受容体13の三糖供与体12によるグリコシル化により行った。優れたManα1−6Man選択性は、三糖供与体12の2位におけるTBDMS基の存在により制御した。保護されたMan14の全体的な脱保護は、TBAF/AcOH緩衝液(Geng et al. (2004) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 43: 2562-65)による脱シリル化、脱アセチル化、及び水素化分解により円滑に行われ、保護されていないMan7(3工程で60%)が得られた。
【0299】
類似の戦略を用い、スキームVIに示すようにMan8及びMan9の合成を行った。
【0300】
【化41】

【0301】
スキームVIに用いた試薬及び条件:工程a:(i)NBS、アセトン、0℃、30分;(ii)、CClCN、DBU、CHCl、0℃、8時間;(iii)、14又は18、TBDMSOTf、EtO、−60℃、4時間;工程b:(i)NBS、アセトン、0℃、30分;(ii)、CClCN、DBU、CHCl、0℃、8時間;(iii)、13、TBDMSOTf、EtO、−40℃、4時間;c、(i)NaOMe、MeOH、室温、48時間;(ii)Pd黒、HCOOH/MeOH(20:1v/v)、H、24時間。
【0302】
チオグリコシド二糖ビルディングブロック10を、そのトリクロロアセトイミデート誘導体に変換し、−50℃にて無水EtO中でTBDMSOTfにより活性化し、ビルディングブロック15(1.1当量)又は18(0.45当量)を用いてグリコシル化すると、四糖ビルディングブロック16(3工程で75%)及び五糖ビルディングブロック19(3工程で65%)が好収率で得られた。Man8及びMan9の収束合成において、Manα1−6Man選択性の制御は、チオグリコシド四糖供与体16及び五糖供与体19の2位に立体的にかさばる基、又は隣接関与基がないことから問題であった。最終的に、Manα1−6Man選択性は、Seebergerのプロトコル(Ratner et al. (2002) Eur. J. Org. Chem. 5: 826-33)を実施することにより制御した。チオグリコシド四糖16及び五糖19を、対応するトリクロロイミデートに変換し、−40℃にて無水EtO中のTBDMSOTfを用いて四糖13とカップリングさせると、保護されたMan17(3工程で75%)及びMan20(3工程で75%)が好収率で得られた。保護されたMan17及びMan20の全体的な脱保護を、脱アセチル化及び水素化分解により行うと、保護されていないMan8(2工程で60%)及びMan9(2工程で60%)が得られた。
【0303】
2G12結合のオリゴマンノース1〜8阻害の溶液相ELISAアッセイ分析。
ManGlcNAc1及び脱保護されたオリゴマンノース2〜6及び7〜9(図17を参照)を、溶液相酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)における2G12とgp120の間の相互作用を阻害するそれらの能力について評価した。これらの結果(図18)は、末端Manα1−2Manが、結合にとって重要であることを裏付けた。Manα1−2Manα1−2Manモチーフ(図17に示すManGlcNAcのD1腕に対応する)を含むオリゴマンノースはすべて、インタクトなManGlcNAc部分と同様のレベルで2G12結合を阻害することができる。しかしながら、オリゴマンノース3が、低濃度で効率的に阻害しない(0.5mMで15.8%)ことから、2G12は、Manα1−2Manα1−3Manを容易には認識しない。オリゴマンノース3と類似しているがManα1−2Manα1−6Manモチーフを含むオリゴマンノース5は、阻害能力を有する(0.5mMで37.7%)。これらの結果は、2G12が、D1腕(Manα1−2Manα1−2Man)又はD3腕(Manα1−2Manα1−6Man)との関連でManα1−2Manを認識するが、D2腕(Manα1−2Manα1−3Man)は認識しないことを示唆している。
【0304】
全体的に見て、多くのオリゴマンノース誘導体は、ManGlcNAcの結合に競合することができ、したがって、2G12様抗体を誘発するための潜在的免疫原のためのビルディングブロックとして役立つ可能性がある。
【0305】
炭水化物マイクロアレイ分析。2G12との相互作用のための炭水化物エピトープの一団を有する共有結合性マイクロタイタープレートを用いる発明者による以前の研究は、アミン含有オリゴマンノース4、5、7、8及び9を、対応するアジド誘導体21、22、23、24及び25に変換するものであった。次いで、これらの誘導体を、Cu(I)が触媒する1,3−双極子環化付加反応を介し、マイクロプレートに固定化された切断可能なリンカーに共有結合させた(図11B)、2G12のオリゴマンノース4、5、7、8、9との相互作用のK値(表9)は、蛍光性二次抗体を介する検出によるマイクロタイターをベースとしたアッセイを用いて決定した(Bryan et al. (2004) J. Am. Chem. Soc. 126, 8640-41を参照)。
【0306】
【表9】

【0307】
これらの結果は、オリゴマンノース4及びオリゴマンノース5が、最も高い親和性で2G12抗体と結合することを示している。これらのオリゴマンノースグリカンの構造を以下に示す。
【0308】
【化42】

【0309】
マイクロタイタープレートアレイ上の結合分析の結果は、スライドガラスアレイ上の結果と一致している。予想通り、表面上のエピトープの特異的な空間的配向は、2G12抗体との結合にとって重要であった。マイクロアレイ研究におけるこれらの化合物の結合親和性の著しい増強は、gp120の表面上のオリゴマンノースのクラスターを模倣するオリゴマンノースの2G12との多価相互作用により説明されるかもしれない。特に、より小さなオリゴマンノース誘導体は、多価提示から恩恵を受ける。したがって、このシステムは、ウイルスの表面などの表面上に提示される炭水化物が関わる結合事象を研究するための有効なモデルとなる可能性がある。
【0310】
全体的に言うと、2G12の炭水化物特異性は、初期の研究が示したよりも制限的でない。Calarese et al. (2003) Science 300, 2065-71。合わせた生物化学的、生物物理的、及び結晶学的証拠は、2G12が、オリゴマンノース糖のD1腕とD3腕双方の末端においてManα1−2Manと結合することができることを明白に示している。Man、Man、及びMan結晶構造において、2G12は、D1腕と相互作用し、一方、Man及びMan結晶構造において、D3腕も結合部位で結合する。したがって、2G12は、gp120上の2つの異なるN結合型オリゴマンノース由来のD1腕ばかりでなく、gp120上のオリゴマンノース群内の様々な糖由来のD1腕とD3腕の双方と結合することができる。この認識様式は、一群のオリゴマンノース部分との結合を増強し、抗体の多価結合部位に関するオリゴマンノース部分の完全な一致という制約を緩和するであろう。しかしながら、この多価相互作用の能力増加にもかかわらず、「自己」のタンパク質に対する有意な結合が観察されていないことから、2G12は、gp120上のオリゴマンノースクラスター結合に極めて制限される。
【0311】
2G12抗体は、広範囲なHIV−1分離株を中和することができる。ここに示した結果は、この抗体の炭水化物特異性をより正確に示している。免疫化治験のために多価オリゴマンノース提示を設計するのに必要とされるマンノースビルディングブロックの性質が解明されていることから、今や、2G12−オリゴマンノース相互作用に関するこのより深い理解を、炭水化物をベースとした免疫原設計に応用することができる。
【0312】
参考文献:
Calarese, D. A., Scanlan, C. N., Zwick, M.B., Deechongkit, S., Mimura, Y., Kunert, R., Zhu, P., Wormald, M. R., Stanfield, R.L., Roux, K. H., et al. (2003). Antibody domain exchange is an immunological solution to carbohydrate cluster recognition. Science 300, 2065-2071.
Lee, H. K., Scanlan, C. N., Huang, C. Y., Chang, A. Y., Calarese, D. A., Dwek, R. A., Rudd, P. M., Burton, D. R., Wilson, I. A., and Wong, C. H. (2004). Reactivity-Based One-Pot Synthesis of Oligomannoses: Defining Antigens Recognized by 2G12, a Broadly Neutralizing Anti-HIV-1 Antibody. Angew Chem Int Ed Engl 43, 1000-1003.
Sanders, R. W., Venturi, M., Schiffner, L., Kalyanaraman, R., Katinger, H., Lloyd, K. O., Kwong, P. D., and Moore, J. P. (2002). The mannose-dependent epitope for neutralizing antibody 2G12 on human immunodeficiency virus type I glycoprotein gp120. J Virol 76, 7293-7305
Scanlan, C. N., Pantophlet, R., Wormald, M. R., Ollmann Saphire, E., Stanfield, R., Wilson, I. A., Katinger, H., Dwek, R. A., Rudd, P. M., and Burton, D. R. (2002). The broadly neutralizing anti-human immunodeficiency virus type 1 antibody 2G12 recognizes a cluster of alpha1-->2 mannose residues on the outer face of gp120. J Virol 76, 7306-7321.
Tremblay, L. O., and Herscovics, A. (2000). Characterization of a cDNA encoding a novel human Golgi alpha 1,2-mannosidase (IC) involved in N-glycan biosynthesis. J Biol Chem 275, 31655-31660.
Trkola, A., Purtscher, M., Muster, T., Ballaun, C., Buchacher, A., Sullivan, N., Srinivasan, K., Sodroski, J., Moore, J. P., and Katinger, H. (1996). Human monoclonal antibody 2G12 defines a distinctive neutralization epitope on the gp120 glycoprotein of human immunodeficiency virus type 1. J Virol 70, 1100-1108.
Vallee, F., Karaveg, K., Herscovics, A., Moremen, K. W., and Howell, P. L. (2000). Structural basis for catalysis and inhibition of N-glycan processing class I alpha 1,2-mannosidases. J Biol Chem 275, 41287-41298.
【0313】
本明細書で参照又は言及されているすべての特許及び刊行物は、本発明が関係する当業者の技能レベルを示し、各々のそのような参照された特許又は刊行物は、あたかも、個々に全体として参照により援用されているか、或いは全体として本明細書に示されていたかのように、同じ程度に参照により本明細書に援用されるものとする。出願人は、任意のそのような引用された特許又は刊行物からのありとあらゆる材料及び情報を本明細書に物理的に組み込む権利を留保する。
【0314】
本明細書に記載されている具体的な方法及び組成物は、好ましい実施形態を代表するものであり且つ例示的であり、本発明の範囲に対する制限のつもりではない。他の目的、態様、及び実施形態は、本明細書の検討の結果として当業者に思い当たるはずであり、特許請求の範囲により定義される本発明の精神内に包含される。当業者には当然のことながら、本発明の範囲及び精神を逸脱することなく、本明細書に開示されている発明に対して様々な置換及び改変を行うことができる。本明細書に例示的に記載されている本発明は、本明細書で不可欠として具体的に開示されていないいかなる1つ又は複数の要素、或いは1つ又は複数の制限もなしに適当に実施することができる。本明細書に例示的に記載されている方法及びプロセスは、異なる工程順で実施することができ、本明細書又は特許請求の範囲に示した工程順に必ずしも制限されない。本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用する単数形「a」、「an」、及び「the」には、文脈が他に明示していない限り、複数の参照が含まれる。即ち、例えば、「an antibody」への言及には、複数の(例えば、抗体の溶液又は一連の抗体調製物)のそのような抗体などが含まれる。いかなる場合も、本特許は、本明細書に具体的に開示されている具体的な例又は実施例又は方法に限定されると解釈されることはない。いかなる場合も、本特許は、そのような陳述が、出願人による答弁書に具体的且つ無資格又は無条件で明確に採用されていない限り、特許商標局のいかなる審査官又は他の当局者若しくは従業員によって作製されたいかなる陳述によっても制限されると解釈されることはない。
【0315】
用いられている用語及び表現は、説明の用語として使用され、限定されるものではなく、そのような用語及び表現の使用には、示され記載されている特徴のいかなる等価体又はそれらの部分も除外する意図はなく、当然のことながら、様々な改変が、特許請求の範囲に記載されている本発明の範囲内で可能である。したがって、当然のことながら、本発明を好ましい実施形態及び任意選択の特徴により具体的に開示してきたが、本明細書に開示されている概念の改変及び変形を当業者は行使することができ、そのような改変及び変形は、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の範囲内にあると見なされる。
【0316】
本明細書において、本発明を幅広く且つ一般的に説明してきた。一般的開示に含まれるより狭い種及び亜属集団の各々も、本発明の一部を形成する。これには、削除された材料が本明細書で具体的に挙げられているか否かに関係なく、その属由来の対象物を除くという条件又は消極的な限定で本発明の一般的説明が含まれる。
【0317】
他の実施形態は、以下の特許請求の範囲内にある。さらに、本発明の特徴又は態様がマーカッシュグループの用語で記載されている場合、当業者には当然のことながら、本発明は、マーカッシュグループの個々のメンバー又は下位グループのメンバーの用語でも記載される。
【図面の簡単な説明】
【0318】
【図1】ガラスマイクロアレイのN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で誘導体化された表面とのアミノ官能基付きグリカンライブラリーの共有結合を示す図である。
【図2】グリカン濃度及びグリカンプリント時間を変えることによりマイクロアレイ上のグリカンの密度を最適化するための一連の実験の結果をグラフで示す図である。
【図3A−B】植物レクチンConAが、プリントされたグリカンアレイ上の高マンノースグリカンと結合することを示す図である。図3Aは、リガンド(グリカン)1〜104についての結果を提供し、一方、図3Bは、リガンド(グリカン)105〜200についての結果を提供する。この実験は、プリントされたグリカンアレイ上の高マンノースグリカンの濃度又は密度が予想通りであり、選択されたグリカン(例えば、8残基マンノース、即ちMan8、グリカン)との抗体の結合が、Man8グリカンの異常なローディングのためではないことを立証する助けとなる対照として行った。
【図4A−B】グリカンアレイとの、蛍光標識された植物レクチン、エリスリナ・クリスタガリ(Erythrina cristagalli)(ECA)レクチンの結合を示す図である。図4Aは、リガンド(グリカン)1〜104についての結果を提供し、一方、図4Bは、リガンド(グリカン)105〜200についての結果を提供する。
【図5A】蛍光標識された抗IgG二次抗体による検出でグリカンアレイとのE−セレクチン−Fcキメラの結合を示す図である。
【図5B】蛍光標識された抗IgG二次抗体による検出でグリカンアレイとのヒトCD22−Fcキメラの結合を示す図である。
【図6A−B】グリカンアレイとの、蛍光標識されたヒト抗グリカン抗体CD15の結合を示す図である。図6Aは、リガンド(グリカン)1〜104についての結果を提供し、一方、図6Bは、リガンド(グリカン)105〜200についての結果を提供する。
【図7A−B】グリカンアレイとの、インフルエンザウイルスのヘマグルチニンH1(1918)の結合を示す図である。図7Aは、リガンド(グリカン)1〜104についての結果を提供し、一方、図7Bは、リガンド(グリカン)105〜200についての結果を提供する。
【図8】本発明の一部のアミン及びアジド切断可能なリンカーの合成を示す図である。
【図9】本発明の一部のアミン及びアジド切断可能なリンカーの合成を示す図である。
【図10】アルキン官能基付き表面を有するアレイを提供するための、NHSかアミンのどちらかがコーティングされた表面、例えば、マイクロタイタープレートへの切断可能なリンカー1及び2の結合を図式的に示す図である。
【図11A】固定化されたグリカンを形成するための、アルキン官能基付き固体表面(例えば、マイクロタイターウェル)へのグリカン−アジドの結合を図式的に示す図である。アジドとアルキンの反応により形成されるトリアゾールをDTTにより切断し、例えば、質量分析により、グリカン構造の分析を可能にすることができる。
【図11B】固定化されたオリゴマンノースを形成するための、アルキン官能基付き固体表面(例えば、マイクロタイターウェル)へのマンノース含有グリカンの結合を示す図である。オリゴマンノース4、5、6、7、8及び9の構造を図17に示す。アジドとアルキンの反応により形成されるトリアゾールをDTTにより切断し、例えば、質量分析により、グリカン構造の分析を可能にすることができる。 使用した試薬及び条件、ステップa:TfN、CuSO、EtN、HO/CHCl/MeOH(1:1:1、v/v)、室温、48時間;ステップb:CuI、5%DIEA/MeOH、室温、12時間。
【図12】オリゴ糖201〜204bをスライドガラス上に固定化することができる方法を示す図である。
【図13】抗体インキュベーションアッセイ後の蛍光レベルを示すスライドの走査像を示す図である。点は、左から右に上列にプリントされた糖201〜204a及び下列の201〜204bを含む。
【図14】Globo−H類縁体201a、202a、203a及び204a(それぞれ、1a、2a、3a及び4aで識別される)についての炭水化物−抗体結合曲線を示す図である。
【図15A−B】分析的配列解析によるGlobo Hの構造確認を示す図である。図15Aは、蛍光標識されたデキストラン標準品に対するグルコースユニット(GU)値とともに、指示された酵素によるエキソグリコシダーゼ切断によって得られるグリカンを示す表である。図15Bは、配列解析中に得られたグリカンを強調表示する蛍光検出(励起=330nm、発光=420nm)による順相HPLCからのサンプルクロマトグラムである。
【図16】一定量の2G12抗体との、漸増量の標識されたManα1、2Manα1、3Manα1、2Manα1、6Manグリカンの結合をグラフで示す図である。この試験は、抗HIV 2G12中和抗体とのオリゴマンノースの結合についてのK値の決定を可能にした。
【図17】ManGlcNAc1及びオリゴマンノース2〜9についての化学構造を示す図である。ManGlcNAcのマンノース残基は、原文では赤で表示した。構造説明並びに分岐、腕及びマンノース残基への言及を容易にするため、オリゴマンノース2〜9のすべてのマンノース残基を表示し、ManGlcNAc上のそれらの構造等価体と対応させ、腕D1、D2及びD3を、ManGlcNAc1グリカン上で識別する。
【図18】gp120との2G12の結合のオリゴマンノース阻害(%)を示す図である。黒と灰色のバーは、それぞれ0.5及び2.0nMのオリゴマンノース濃度における阻害のレベルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切断可能なリンカーを介してアレイに結合されている分子のライブラリーを含む分子のアレイであって、切断可能なリンカーが、以下の構造を有するアレイ
X−Cv−Z
[式中、
Cvは切断部位であり、
Xは固体表面、固体表面に結合されているスペーサー基、又は固体表面とリンカーを結合するための反応性基を有するスペーサー基であり、
Zは分子を結合するための反応性部分、分子を結合するための反応性部分を有するスペーサー基、分子を有するスペーサー基、又は連結部分を介してリンカーに結合している分子である]。
【請求項2】
切断可能なリンカーが、化学切断、光切断、又は酵素切断可能である請求項1に記載のアレイ。
【請求項3】
リンカーが、式IVa又は式IVbを含む光切断可能なリンカーである請求項1に記載のアレイ。
【化1】

【請求項4】
リンカーが、以下の構造を有するジスルフィドリンカーである請求項1に記載のアレイ。
X−S−S−Z
【請求項5】
リンカーが、以下の構造を有するジスルフィドリンカーである請求項1に記載のアレイ。
【化2】

【請求項6】
固体表面が、ガラス表面又はプラスチック表面である請求項1に記載のアレイ。
【請求項7】
固体表面が、スライドガラス又はマイクロタイタープレートである請求項1に記載のアレイ。
【請求項8】
リンカーが、結合の還元により切断される請求項1に記載のアレイ。
【請求項9】
リンカーが、光により切断される請求項1に記載のアレイ。
【請求項10】
分子が、グリカン、核酸、又はタンパク質である請求項1に記載のアレイ。
【請求項11】
分子が、マンノース含有グリカンである請求項1に記載のアレイ。
【請求項12】
マンノース含有グリカンが、以下のグリカンのうちのいずれか1つ又はそれらの組合せを含む請求項11に記載のアレイ。
【化3】

【請求項13】
分子が、以下の式のグリカンのうちの少なくとも1つ又はそれらの組合せを含む請求項1に記載のアレイ
【化4】

[式中、Rは固体支持体に結合しているリンカーを含む]。
【請求項14】
固体支持体及び固体支持体上の多数の画定されたグリカンプローブ位置を含み、各グリカンプローブ位置によって固体支持体の領域が画定され、その領域には1つのタイプの類似したグリカン分子のコピーが複数結合している、請求項1に記載のアレイ。
【請求項15】
多数の画定されたグリカンプローブ位置が、約5〜200のグリカンプローブ位置である請求項14に記載のアレイ。
【請求項16】
試験サンプル中のある分子が、請求項1から15のいずれか一項に記載の分子のアレイと結合することができるか否かを試験する方法であって、(a)アレイを試験サンプルと接触させること、及び(b)試験サンプル中のある分子が、アレイに結合している分子と結合するか否かを観察することを含む方法。
【請求項17】
どの分子構造が、試験サンプル中の生体分子と結合するかを判定する方法であって、請求項1から15のいずれか一項に記載の分子のアレイを試験サンプルと接触させること、アレイを洗浄すること、及び切断可能なリンカーを切断して、アレイに結合している分子の分子構造の構造解析又は機能解析を可能にすることを含む方法。
【請求項18】
生体分子が、抗体、受容体又はタンパク質複合体である請求項17に記載の方法。
【請求項19】
試験サンプルにおいて乳癌を検出する方法であって、(a)試験サンプルを、グリカン250若しくは251、又はそれらの組合せを含むグリカンと接触させること、
【化5】

(式中Rは、水素、グリカン、リンカー又は固体支持体に結合しているリンカーである)及び
(b)試験サンプル中の抗体が、250又は251を含む分子と結合するか否かを判定することを含む方法。
【請求項20】
被験体のHIV感染を検出する方法であって、(a)被験体からの試験サンプルを、マンノース含有グリカンのアレイと接触させること、及び(b)試験サンプル中の抗体が、グリカンの第一(α1−3)枝上にManα1−2Manを含むグリカン、グリカンの第三(α1−6)枝上にManα1−2Manを含むグリカン、又はそれらの組合せと結合するか否かを判定することを含む方法。
【請求項21】
グリカンが、切断可能なリンカーによってアレイに結合している請求項20に記載の方法。
【請求項22】
マンノース含有グリカンが、以下のグリカンのうちの少なくとも1つ、又はそれらの組合せを含む請求項21に記載の方法。
【化6】

【請求項23】
以下のグリカンのうちのいずれか1つ、又はそれらの組合せを含む単離されたグリカン
【化7】

[式中、Rは水素、グリカン又は固体支持体に結合しうるリンカーである]。
【請求項24】
グリカンの第一(α1−3)腕上にManα1−2Man、又はグリカンの(α1−6)第三腕上にManα1−2Man、又はそれらの組合せを含む単離されたグリカン。
【請求項25】
第二(α1−3)腕を有さない請求項24に記載の単離されたグリカン。
【請求項26】
以下のオリゴマンノースグリカンのうちのいずれか1つ、又はそれらの組合せを含む単離されたグリカン。
【化8】

【請求項27】
薬学的に許容できる担体を含み、且つ、以下のオリゴマンノースグリカンのうちのいずれか1つ、又はそれらの組合せを含むグリカンを有効量含む医薬組成物
【化9】

[式中、Rは水素、グリカン又はリンカーである]。
【請求項28】
薬学的に許容できる担体を含み、且つ、グリカンの第一(α1−3)腕上にManα1−2Man、グリカンの(α1−6)第三腕上にManα1−2Man、又はそれらの組合せを含むグリカンを有効量含む医薬組成物。
【請求項29】
薬学的に許容できる担体を含み、且つ、以下のオリゴマンノースグリカンのうちのいずれか1つ、又はそれらの組合せを含むグリカンを有効量含む医薬組成物。
【化10】

【請求項30】
薬学的に許容できる担体を含み、且つ、以下のオリゴマンノースグリカンのうちのいずれか1つ、又はそれらの組合せを含むグリカンを有効量含む医薬組成物。
【化11】

【請求項31】
グリカンがHIV go120ペプチドに連結している、請求項28から30のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項32】
被験体の乳癌を治療又は予防する方法であって、薬学的に許容できる担体を含み、且つ、以下のオリゴマンノースグリカンのうちのいずれか1つ、又はそれらの組合せを含むグリカンを有効量含む医薬組成物を投与することを含む方法
【化12】

[式中、Rは水素、グリカン又はリンカーである]。
【請求項33】
被験体のHIV感染を治療又は予防するための方法であって、薬学的に許容できる担体を含み、且つ、グリカンの第一(α1−3)腕上にManα1−2Man、グリカンの(α1−6)第三腕上にManα1−2Man、又はそれらの組合せを含む有効量のグリカンを含む医薬組成物を被験体に投与することを含む方法。
【請求項34】
被験体のHIV感染を治療又は予防するための方法であって、薬学的に許容できる担体を含み、且つ、以下のオリゴマンノースグリカンのうちのいずれか1つ、又はそれらの組合せを含む有効量のグリカンを含む医薬組成物を被験体に投与することを含む方法。
【化13】

【請求項35】
組成物がさらに以下のグリカンのうちのいずれか1つを含むグリカンを含む請求項33に記載の方法。
【化14】

【請求項36】
グリカンがHIV gp120ペプチドに連結している、請求項33から35のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A−B】
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【図4A−B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A−B】
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【図7A−B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15A−B】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公表番号】特表2008−504531(P2008−504531A)
【公表日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−518318(P2007−518318)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【国際出願番号】PCT/US2005/022517
【国際公開番号】WO2006/002382
【国際公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【出願人】(593052785)ザ スクリップス リサーチ インスティテュート (91)
【Fターム(参考)】