説明

初期化因子が除去された人工多能性幹細胞の作製方法

【課題】細胞移植医療に応用可能な安全なiPS細胞の提供。
【解決手段】初期化遺伝子が除去された人工多能性幹細胞(iPS細胞)の作製方法であって、初期化遺伝子または初期化遺伝子の複製に必要なベクター要素の5’側および3’側にloxP配列を同方向に配置した発現ベクターを有するiPS細胞を提供する工程、および該iPS細胞をCreリコンビナーゼで処理する工程を含む方法、上記方法により得られる、初期化遺伝子が除去されたiPS細胞、並びに体細胞の製造のためのソースとしての該iPS細胞の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、初期化因子が導入された人工多能性幹(以下、iPSという)細胞から該初期化因子を効率よく除去する方法、当該方法を用いた、初期化因子が除去されたiPS細胞の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
iPS細胞は、体細胞に初期化因子と呼ばれる遺伝子を導入することにより作製される。レトロウイルスやレンチウイルスなどのウイルス性ベクターは、非ウイルス性ベクターに比べて遺伝子導入効率が高く、そのためiPS細胞を容易に作製することができるという点で優れたベクターである。
【0003】
一方で、レトロウイルスやレンチウイルスは染色体中に組み込まれてしまうため、iPS細胞の臨床応用を考慮すると安全面で問題がある。そのため、アデノウイルスベクターやプラスミドなどの非ウイルス性ベクターを用いて染色体への組込みがないiPS細胞が報告されているが(非特許文献1−3)、レトロウイルスやレンチウイルスに比べると樹立効率は低い。また、iPS細胞の選択下では初期化因子の持続的な高発現が要求されるためか、一般的に組込みが起こりにくいとされているプラスミドベクターを用いても、ある頻度で初期化因子が染色体に組み込まれた安定発現株が得られる場合がある(非特許文献2、4)。
【0004】
そこで、まずレトロウイルスやレンチウイルスを用いてiPS細胞を樹立した後で、外来遺伝子を染色体から除去することにより、樹立効率と安全面を両立させようとする試みがなされている。例えば、レンチウイルスとCre-loxPシステムとを組み合わせた手法が報告されている(非特許文献5、6)。しかし、これらの報告では、Creリコンビナーゼ処理後に残るLoxP配列より外側のLTR配列が近傍の癌遺伝子を活性化するリスクを最小限にするため、LTR内部にloxP配列が挿入され、初期化因子の転写のためにCMVやEF1αといった別のプロモーターが挿入された複雑なコンストラクトが使用されており、より構築が容易なベクターの開発が望まれる。
【0005】
一方、染色体外で安定に自律複製可能なエピゾーマルベクターを用いる方法では、薬剤選択の中止によるベクターの自然消失効率は低頻度で、かつ時間を要するため(非特許文献3)、短時間で効率よくベクターを除去する方法が求められる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Stadtfeld, M. et al., Science, 322: 945-949 (2008)
【非特許文献2】Okita, K. et al., Science, 322: 949-953 (2008)
【非特許文献3】Yu, J. et al., Science, 324: 797-801 (2009)
【非特許文献4】Kaji, K. et al., Nature, 458: 771-775 (2009)
【非特許文献5】Chang, C.W. et al., Stem Cells, 27: 1042-1049 (2009)
【非特許文献6】Soldner, F. et al., Cell, 136: 964-977(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、初期化遺伝子が導入されたiPS細胞から該初期化遺伝子を効率よく除去する手段を提供することであり、それを用いて初期化因子の影響や挿入変異のリスクのない、安全なiPS細胞を効率よく作製する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、レトロウイルスベクターのマルチクローニングサイトに、両端にloxP配列を配置した初期化遺伝子を挿入して調製したレトロウイルスを、マウスの肝細胞もしくは皮膚線維芽細胞に感染させ、常法によりマウスiPS細胞を作製した後、該iPS細胞にCreリコンビナーゼを作用させて初期化遺伝子を染色体から切り出した。この場合、染色体上に2つのLTRが残存するため、該iPS細胞から作製されるキメラマウスはある頻度で挿入変異による異常な表現型を示すことが予測されたが、意外にも、調べたすべての系統において、キメラマウスは異常を示すことなく長期生存できることが明らかとなった。即ち、本発明者らは、ウイルスベクターのマルチクローニングサイトにloxP配列で挟まれた初期化遺伝子を挿入するだけのごく簡単な操作で構築されるウイルスベクターによって、安全なiPS細胞を効率よく作製できることを初めて見出した。
【0009】
さらに、本発明者らは、Cre-loxPシステムをエピゾーマルベクターにも適用し、エピソームの自律複製に必要なウイルス蛋白質の遺伝子および/または複製開始点の配列を挟むようにloxP配列を配置すれば、Creリコンビナーゼの作用によりエピソームは複製不可能となり、ベクターは希釈されて消失することを発想した。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1] 初期化遺伝子が除去されたiPS細胞の作製方法であって、初期化遺伝子または初期化遺伝子の複製に必要なベクター要素の5’側および3’側にloxP配列を同方向に配置した発現ベクターを有するiPS細胞を提供する工程、および該iPS細胞をCreリコンビナーゼで処理する工程を含む、方法。
[2] iPS細胞が、初期化遺伝子の5’側および3’側にloxP配列を同方向に配置した発現ベクターを染色体上に有する、上記[1]記載の方法。
[3] ベクターがレトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターである、上記[2]記載の方法。
[4] loxP配列が5’側LTRおよび3’側LTRより内側に配置される、上記[3]記載の方法。
[5] iPS細胞が、初期化遺伝子の複製に必要なベクター要素の5’側および3’側にloxP配列を配置した発現ベクターを染色体外に有する、上記[1]記載の方法。
[6] ベクターがエピゾーマルベクターである、上記[5]記載の方法。
[7] エピゾーマルベクターがEpstein-barr virus由来である、上記[6]記載の方法。
[8] 初期化遺伝子の複製に必要なベクター要素が複製開始点oriPである、上記[7]記載の方法。
[9] 初期化遺伝子の複製に必要なベクター要素がEBNA-1をコードする遺伝子である、上記[7]記載の方法。
[10] エピゾーマルベクターがSV40由来である、上記[6]記載の方法。
[11] 初期化遺伝子の複製に必要なベクター要素が複製開始点Oriである、上記[10]記載の方法。
[12] 初期化遺伝子の複製に必要なベクター要素がSV40 large T antigenをコードする遺伝子である、上記[10]記載の方法。
[13] loxP配列が野生型loxP配列(配列番号:1)である、上記[1]〜[12]のいずれかに記載の方法。
[14] loxP配列が変異型loxP配列である、上記[1]〜[12]のいずれかに記載の方法。
[15] 変異型loxP配列がlox71(配列番号:3)とlox66(配列番号:4)との組み合わせである、上記[14]記載の方法。
[16] 初期化遺伝子がOct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc、Nanog、Lin28およびSV40 large T antigenから選択される少なくとも1つの遺伝子を含む、上記[1]〜[15]のいずれかに記載の方法。
[17] 初期化遺伝子がOct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc、Nanog、Lin28およびSV40 large T antigenから選択される2つ以上の遺伝子がポリシストロニックに連結されたものである、上記[16]記載の方法。
[18] 初期化遺伝子がOct3/4、Sox2およびKlf4の3種の遺伝子、またはOct3/4、Sox2、Klf4およびc-Mycの4種の遺伝子がポリシストロニックに連結されたものである、上記[17]記載の方法。
[19] 口蹄疫ウイルスの2A配列を介してポリシストロニックに連結されている、上記[17]または[18]記載の方法。
[20] Creリコンビナーゼ処理が、Creリコンビナーゼ発現ベクターをiPS細胞に導入して該酵素を細胞内で一過的に産生させることにより行われる、上記[1]〜[19]のいずれかに記載の方法。
[21] Creリコンビナーゼ発現ベクターがプラスミドベクターである、上記[20]記載の方法。
[22] 上記[1]〜[4]および[13]〜[21]のいずれかに記載の方法により得られる、初期化遺伝子が除去されたiPS細胞。
[23] ウイルスベクターが保有する5’側LTRおよび3’側LTRを完全な形で有している、上記[22]記載のiPS細胞。
[24] 体細胞の製造における、上記[22]または[23]記載のiPS細胞の使用。
[25] 体細胞の製造における細胞ソースとしての、上記[22]または[23]記載のiPS細胞。
【発明の効果】
【0011】
初期化遺伝子の導入にレトロウイルスやレンチウイルスを用いることにより、高い遺伝子導入効率が得られ、iPS細胞の樹立効率を高めることができる。さらに、Cre-loxPシステムを用いて初期化因子を染色体から除去することにより、挿入変異などのリスクが低減された安全なiPS細胞を得ることができる。
【0012】
また、初期化遺伝子の導入にエピゾーマルベクターを用いる場合には、Cre-loxPシステムを用いてエピソームの自律複製に必要な配列を除去することにより、短時間に効率よく初期化因子をiPS細胞から除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、pMXs-Oct3/4-loxP, pMXs-Sox2-loxP, pMXs-Klf4-loxP, pMXs-cMyc-loxPの4種の遺伝子導入(floxed 4 factors)、およびpMXs-Oct3/4-loxP, pMXs-Sox2-loxP, pMXs-Klf4-loxPの3種の遺伝子導入(floxed 3 factors(-Myc))により樹立されたiPS細胞コロニーの位相差像とGFP陽性像を示す写真である。
【図2】図2は、pMXs-Oct3/4-loxPの模式図とgenomic PCR解析に用いたプライマーの位置を示す図である。
【図3】図3は、pMXs-Oct3/4-loxP, pMXs-Sox2-loxP, pMXs-Klf4-loxPの3種の遺伝子導入により樹立されたiPS細胞のCre処理後のgenomic PCR解析結果を示した写真である。
【図4】図4は、Creリコンビナーゼによる外来遺伝子切り出し後のiPS細胞クローン(2種)の位相差像とGFP陽性像を示す写真である。
【図5】図5は、pMXs-Oct3/4-mloxP, pMXs-Sox2-mloxP, pMXs-Klf4-mloxPの3種の遺伝子導入により樹立されたiPS細胞のCre処理後のgenmic PCR解析の結果を示した写真である。
【図6】図6は、pMXs-Oct3/4-loxP, pMXs-Sox2-loxP, pMXs-Klf4-loxPの3種の遺伝子導入により樹立されたiPS細胞(iPS-234D)、およびpMXs-Oct3/4-mloxP, pMXs-Sox2-mloxP, pMXs-Klf4-mloxPの3種の遺伝子導入により樹立されたiPS細胞(iPS-283J) のCre処理後のgenmic PCR解析の結果を示した写真である。
【図7】図7は、pMXsプラスミドの模式図とgenomic PCR解析に用いたプライマーの位置を示す図である。
【図8】図8は、pMXs-Oct3/4-mloxP, pMXs-Sox2-mloxP, pMXs-Klf4-mloxPの3種の遺伝子導入により樹立されたiPS細胞コロニーの位相差像とGFP陽性像を示す写真である。
【図9】図9は、図8のコロニーの2継代目の写真である。
【図10】図10は、Cre処理後の各iPSクローンからgenomic DNAを抽出し、BamHI/SphIで切断した後にOct3/4, Sox2またはKlf4をプローブとしてサザンブロット解析を行った結果を示す写真である。
【図11】図11は、Cre処理後の各iPSクローンのgenomic DNAを BamHI/EcoRIで切断した後に、pMXs-5’プローブまたはpMXs-3’プローブを用いてサザンブロット解析を行った結果を示す写真である。
【図12】図12は、ゲノム中に組み込まれたpMXsベクターの模式図とサザンブロット解析に用いたプローブの位置を示す図である。
【図13】図13は、Cre処理後の各iPSクローンからgenomic DNAを抽出し、EcoRI(283J-3)、EcoRI/SphI(283J-4)、EcoRI/SphI(321B-15,-16)で切断した後にpMXs-3’をプローブとしてサザンブロット解析を行った結果を示す写真である。左図はpMXs-Oct3/4-mloxP, pMXs-Sox2-mloxP, pMXs-Klf4-mloxPの3種の遺伝子導入により樹立したiPS細胞、また右図はpMXs-OKS-mloxPの1種の遺伝子導入により樹立したiPS細胞の結果である。
【図14】図14は、ゲノム中に組み込まれたpMXsベクターの模式図とサザンブロット解析に用いたプローブの位置を示す図である。
【図15】図15は、pMXs-OKS-mloxPの遺伝子導入(OKS(mutant loxP))、pMXs-KOS-mloxPの遺伝子導入(KOS(mutant loxP))、pMXs-OK-mloxP, pMXs-Sox2-mloxPの2種の遺伝子導入(OK+S(mutant loxP))、およびpMXs-Oct3/4-mloxP, pMXs-Sox2-mloxP, pMXs-Klf4-mloxPの3種の遺伝子導入(O+K+S(mutant loxP))により樹立されたiPS細胞コロニーの位相差像とGFP陽性像を示す写真である。
【図16】図16は、図15のコロニーの2継代目の写真である。
【図17】図17は、pMXs-OKS-mloxPの模式図と、genomic PCR解析に用いたプライマーの位置を示す図である。
【図18】図18は、pMXs-OKS-mloxP導入により樹立されたiPS細胞のCre処理後のgenomic PCR解析の結果を示した写真である。
【図19】図19は、genomic PCRで外来遺伝子の切り出しが確認された321B-15および321B-16の各iPSクローンからgenomic DNAを抽出し、BamHI/SphIで切断した後にpMXs-5’をプローブに用いてサザンブロット解析を行った結果を示す写真である。
【図20】図20は、321B-15および321B-16の各iPSクローンからgenomic DNAを抽出し、BamHI/SphIで切断した後にKlf4をプローブに用いてサザンブロット解析を行った結果を示す写真である。
【図21】図21は、ゲノム中に組み込まれたpMXsベクターの模式図とサザンブロット解析に用いたプローブの位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の詳細な説明
本発明は、初期化遺伝子が除去されたiPS細胞の作製方法を提供する。ここで「初期化遺伝子」とは、核初期化因子をコードする塩基配列を含む核酸を意味する。また、「初期化遺伝子が除去された」とは、細胞の染色体および染色体外DNAのいずれにも初期化遺伝子が存在しない状態を意味する。
【0015】
(1)第1の作製方法
初期化遺伝子が除去されたiPS細胞の第1の作製方法は、初期化遺伝子の5’側および3’側にloxP配列を同方向に配置した発現ベクターを有するiPS細胞を提供する工程、および該iPS細胞をCreリコンビナーゼで処理する工程を含む。当該方法は、iPS細胞において初期化遺伝子が染色体に組み込まれている場合と、染色体外に存在する場合のいずれにおいても使用できる。
【0016】
(a) 初期化遺伝子
初期化遺伝子としては、好ましくは以下の組み合わせが例示されるが、これらに限定されない。
(1) Oct3/4, Klf4, c-Myc
(2) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2(ここで、Sox2はSox1, Sox3, Sox15, Sox17またはSox18で置換可能である。また、Klf4はKlf1, Klf2またはKlf5で置換可能である。さらに、c-MycはT58A(活性型変異体), N-Myc, L-Mycで置換可能である。)
(3) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, Fbx15, Nanog, Eras, ECAT15-2, TclI, β-catenin (活性型変異体S33Y)
(4) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, SV40 Large T antigen(以下、SV40LT)
(5) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, HPV16 E6
(6) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, HPV16 E7
(7) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, HPV6 E6, HPV16 E7
(8) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, Bmil
(以上、WO 2007/069666を参照(但し、上記(2)の組み合わせにおいて、Sox2からSox18への置換、Klf4からKlf1もしくはKlf5への置換については、Nature Biotechnology, 26, 101-106 (2008)を参照)。「Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2」の組み合わせについては、Cell, 126, 663-676 (2006)、Cell, 131, 861-872 (2007) 等も参照。「Oct3/4, Klf2(またはKlf5), c-Myc, Sox2」の組み合わせについては、Nat. Cell Biol., 11, 197-203 (2009) も参照。「Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, hTERT, SV40LT」の組み合わせについては、Nature, 451, 141-146 (2008)も参照。)
(9) Oct3/4, Klf4, Sox2(Nature Biotechnology, 26, 101-106 (2008)を参照)
(10) Oct3/4, Sox2, Nanog, Lin28(Science, 318, 1917-1920 (2007)を参照)
(11) Oct3/4, Sox2, Nanog, Lin28, hTERT, SV40LT(Stem Cells, 26, 1998-2005 (2008)を参照)
(12) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, Nanog, Lin28(Cell Research (2008) 600-603を参照)
(13) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, SV40LT(Stem Cells, 26, 1998-2005 (2008)も参照)
(14) Oct3/4, Klf4(Nature 454:646-650 (2008)、Cell Stem Cell, 2:525-528(2008))を参照)
(15) Oct3/4, c-Myc(Nature 454:646-650 (2008)を参照)
(16) Oct3/4, Sox2 (Nature, 451, 141-146 (2008), WO2008/118820を参照)
(17) Oct3/4, Sox2, Nanog (WO2008/118820を参照)
(18) Oct3/4, Sox2, Lin28 (WO2008/118820を参照)
(19) Oct3/4, Sox2, c-Myc, Esrrb (ここで、EsrrbはEsrrgで置換可能である。Nat. Cell Biol., 11, 197-203 (2009) を参照)
(20) Oct3/4, Sox2, Esrrb (Nat. Cell Biol., 11, 197-203 (2009) を参照)
(21) Oct3/4, Klf4, L-Myc
(22) Oct3/4, Nanog
(23) Oct3/4
(24) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, Nanog, Lin28, SV40LT(Science, 324: 797-801 (2009)を参照)
【0017】
上記(1)-(24)において、Oct3/4に代えて他のOctファミリーのメンバー、例えばOct1A、Oct6などを用いることもできる。また、Sox2(またはSox1、Sox3、Sox15、Sox17、Sox18)に代えて他のSoxファミリーのメンバー、例えばSox7などを用いることもできる。さらにLin28に代えて他のLinファミリーのメンバー、例えばLin28bなどを用いることもできる。
また、上記(1)-(24)には該当しないが、それらのいずれかにおける構成要素をすべて含み、且つ任意の他の物質をさらに含む組み合わせも、本発明における「初期化遺伝子」の範疇に含まれ得る。また、核初期化の対象となる体細胞が上記(1)-(24)のいずれかにおける構成要素の一部を、核初期化のために十分なレベルで内在的に発現している条件下にあっては、当該構成要素を除いた残りの構成要素のみの組み合わせもまた、本発明における「初期化遺伝子」の範疇に含まれ得る。
【0018】
これらの組み合わせの中で、Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc, Nanog, Lin28およびSV40LTから選択される少なくとも1つ、好ましくは2つ以上、より好ましくは3つ以上が、好ましい初期化遺伝子の例として挙げられる。
【0019】
とりわけ、得られるiPS細胞を治療用途に用いることを念頭においた場合、Oct3/4, Sox2及びKlf4の3因子の組み合わせ(即ち、上記(9))が好ましい。一方、iPS細胞を治療用途に用いることを念頭に置かない場合(例えば、創薬スクリーニング等の研究ツールとして用いる場合など)は、Oct3/4, Sox2, Klf4及びc-Mycの4因子のほか、Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2及びLin28の5因子か、それにNanogを加えた6因子(即ち、上記(12))、さらにSV40 Large T加えた7因子(即ち、上記(24))が好ましい。
【0020】
さらに、上記におけるc-MycをL-Mycに変更した組み合わせも、好ましい初期化遺伝子の例として挙げられる。
【0021】
上記の各初期化遺伝子のマウス及びヒトcDNA配列情報は、WO 2007/069666に記載のNCBI accession numbersを参照することにより取得することができ(Nanogは当該公報中では「ECAT4」との名称で記載されている。尚、Lin28、Lin28b、Esrrb、Esrrgのマウス及びヒトcDNA配列情報は、それぞれ下記NCBI accession numbersを参照することにより取得できる。)、当業者は容易にこれらのcDNAを単離することができる。
遺伝子名 マウス ヒト
Lin28 NM_145833 NM_024674
Lin28b NM_001031772 NM_001004317
Esrrb NM_011934 NM_004452
Esrrg NM_011935 NM_001438
【0022】
初期化遺伝子を2種類以上用いる場合には、1つの発現ベクターに2種類以上、好ましくは2〜4種類の遺伝子を組み込んでもよい。あるいはそれぞれ異なる遺伝子を組み込んだ2以上の発現ベクターを用いてもよい。さらに、2種類以上の遺伝子を組み込んだ発現ベクターと、1遺伝子のみを組み込んだ発現ベクターとを併用することもできる。
【0023】
上記において複数の初期化遺伝子(例えば、Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc、Nanog、Lin28およびSV40LTから選択される2つ以上、好ましくは2〜4遺伝子、より好ましくはOct3/4、Klf4およびSox2の3遺伝子、またはOct3/4、Klf4、Sox2およびc-Mycの4遺伝子)を1つの発現ベクターに組み込む場合、これら複数の遺伝子は、好ましくはポリシストロニック発現を可能にする配列を介して発現ベクターに組み込むことができる。ポリシストロニック発現を可能にする配列を用いることにより、1種類の発現ベクターに組み込まれている複数の遺伝子をより効率的に発現させることが可能になる。ポリシストロニック発現を可能にする配列としては、例えば、口蹄疫ウイルスの2A配列(配列番号:2; PLoS ONE3, e2532, 2008、Stem Cells 25, 1707, 2007)、IRES配列(U.S. Patent No. 4,937,190)など、好ましくは2A配列を用いることができる。複数の初期化遺伝子を1つの発現ベクターにポリシストロニックに連結して挿入する場合、初期化遺伝子の順序は特に制限はないが、例えば、5’から3’方向に(i) Oct3/4、Klf4およびSox2、(ii) Oct3/4、Sox2およびKlf4、(iii) c-Myc、Klf4、Oct3/4およびSox2、(iv) Oct3/4およびKlf4、(v) Klf4およびSox2、(vi) Oct3/4およびSox2、(vii) Sox2およびKlf4、(viii) c-Myc、Lin28およびNanog、(ix) Oct3/4、Sox2、NanogおよびKlf4、(x) Oct3/4、Sox2、SV40 Large TおよびKlf4、または(xi) c-MycおよびLin28をこの順序で連結することができる。
【0024】
尚、複数の初期化遺伝子を用いる場合、少なくとも1つの初期化遺伝子については、該遺伝子の代わりに、該遺伝子がコードするタンパク質を核初期化因子として使用することができる。これらのタンパク質の体細胞への導入は、自体公知の細胞へのタンパク質導入方法を用いて実施することができる。そのような方法としては、例えば、タンパク質導入試薬を用いる方法、タンパク質導入ドメイン(PTD)融合タンパク質を用いる方法、マイクロインジェクション法などが挙げられる。タンパク質導入試薬としては、カチオン性脂質をベースとしたBioPOTER Protein Delivery Reagent(Gene Therapy Systmes)、Pro-JectTM Protein Transfection Reagent(PIERCE)及びProVectin(IMGENEX)、脂質をベースとしたProfect-1(Targeting Systems)、膜透過性ペプチドをベースとしたPenetrain Peptide(Q biogene)及びChariot Kit(Active Motif)、HVJエンベロープ(不活化センダイウイルス)を利用したGenomONE(石原産業)等が市販されている。導入はこれらの試薬に添付のプロトコルに従って行うことができるが、一般的な手順は以下の通りである。核初期化物質を適当な溶媒(例えば、PBS、HEPES等の緩衝液)に希釈し、導入試薬を加えて室温で5-15分程度インキュベートして複合体を形成させ、これを無血清培地に交換した細胞に添加して37℃で1ないし数時間インキュベートする。その後培地を除去して血清含有培地に交換する。
【0025】
PTDとしては、ショウジョウバエ由来のAntP、HIV由来のTAT、HSV由来のVP22等のタンパク質の細胞通過ドメインを用いたものが開発されている。核初期化物質のcDNAとPTD配列とを組み込んだ融合タンパク質発現ベクターを作製して組換え発現させ、融合タンパク質を回収して導入に用いる。導入は、タンパク質導入試薬を添加しない以外は上記と同様にして行うことができる。
【0026】
マイクロインジェクションは、先端径1μm程度のガラス針にタンパク質溶液を入れ、細胞に穿刺導入する方法であり、確実に細胞内にタンパク質を導入することができる。
【0027】
また近年、マウスおよびヒトにおいて、初期化因子(タンパク質)をポリアルギニンやCPPsと共に導入してiPS細胞を樹立する方法が開発されており、これらの手法を用いることもできる(Cell Stem Cell, 4:381-384(2009)、Cell Stem Cell, doi:10.1016/j.stem.2009.05.005(2009))。
【0028】
(b) 発現ベクター
初期化遺伝子は、それらが導入される体細胞で機能し得るプロモーターを含む適当な発現ベクターに挿入される。発現ベクターとしては、例えば、レトロウイルス(例、pMX)、レンチウイルス(例、pKP114)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルスなどのウイルスベクター、EBV、SV40、センダイウイルス等に由来する自律複製可能なエピゾーマルベクター、動物細胞発現用プラスミド(例、pA1-11,pXT1,pRc/CMV,pRc/RSV,pcDNAI/Neo)などが用いられ得る。iPS細胞の樹立効率の高さから、最初から染色体への組込みを意図する場合には、レトロウイルスやレンチウイルスの使用が好ましい。しかし、本発明は、アデノウイルスやプラスミドベクターを用いる際に、狙いに反して初期化遺伝子が染色体に組み込まれたiPS細胞からの該初期化遺伝子の除去や、エピゾーマルベクターから短時間で効率よく初期化遺伝子を除去する目的にも、好ましく使用することができる。
【0029】
発現ベクターにおいて使用されるプロモーターとしては、例えばSRαプロモーター、SV40初期プロモーター、レトロウイルスのLTR、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーター、EF1αプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーターなどが用いられる。ヒトCMVのIE遺伝子のエンハンサーをプロモーターと共に用いてもよい。一例としては、CAGプロモーター(サイトメガロウイルスエンハンサーとニワトリβ-アクチンプロモーターとβ-グロビン遺伝子のポリAシグナル部位を含む)を用いることができる。
【0030】
発現ベクターは、プロモーターの他に、所望によりエンハンサー、ポリA付加シグナル、選択マーカー遺伝子、複製開始点、複製開始点に結合して複製を制御するタンパク質をコードする遺伝子などを含有していてもよい。選択マーカー遺伝子としては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0031】
(c) loxP配列
本発明で使用されるloxP配列としては、バクテリオファージP1由来の野生型loxP配列(配列番号:1)の他、初期化遺伝子(後述の第2の方法においては、初期化遺伝子の複製に必要なベクター要素)を挟む位置に同方向で配置された場合に、Creリコンビナーゼによって組換えを起こしてloxP配列間の配列を欠失させ得る任意の変異loxP配列が挙げられる。変異loxP配列としては、例えば、5’側反復配列に変異のあるlox77(配列番号:3)、3’側反復配列に変異のあるlox66(配列番号:4)、スペーサー部分に変異のあるlox2272やlox511などが挙げられる。初期化因子の5’側および3’側に配置される2つのloxP配列は、同一であっても異なっていてもよいが、スペーサー部分に変異のある変異loxP配列の場合は同一のもの(例、lox2272同士、lox511同士)が用いられる。好ましくは、5’側反復配列に変異のある変異loxP配列(例、lox71)と3’側反復配列に変異のある変異loxP配列(例、lox66)との組合せが挙げられる。この場合、Creリコンビナーゼによる組換えの結果、染色体上に残るloxP配列は5’側および3’側の反復配列に二重変異を有するため、Creリコンビナーゼに認識されにくく、不必要な組換えにより染色体の欠失変異を起こすリスクが低減される。lox71とlox66とを用いる場合、初期化遺伝子の5’側および3’側にいずれの変異loxP配列を配置してもよいが、変異部位がloxP配列の外端に配置されるような向きで変異loxP配列を挿入する必要がある。
【0032】
2つのloxP配列は、初期化遺伝子(もしくは複数の初期化遺伝子が連結されたカセット)を挟み込む位置で、かつ初期化遺伝子が染色体に組み込まれる場合にはloxP配列も組み込まれる位置であれば、発現ベクター中の任意の位置に挿入され得る。レトロウイルスやレンチウイルスの場合は、一方のloxP配列は、初期化遺伝子の5’末端からその外側のLTR内部までの間、他方のloxP配列は、初期化遺伝子の3’末端からその外側のLTR内部までの間の任意の位置に配置することができる。Creリコンビナーゼ処理による組換え後に染色体上に残存するウイルスベクター配列を最小限にするには、LTR内部にloxP配列を配置することが好ましい。LTR内部にloxP配列を配置する場合、5'LTRもしくは3’LTRの一方にloxP配列を配置しておけば、プロウイルス複製の際の遺伝子重複により、染色体に組み込まれたベクターの両端に生じるLTRの両方にloxP配列が配置される。この場合、loxPが挿入されたLTRはプロモーター/エンハンサー活性が低下もしくは消失しているので、LTR内部でかつ初期化遺伝子の転写を制御し得る位置に別のプロモーター(例、SRαプロモーター、CMV IEプロモーター、CAGプロモーター、EF1αプロモーター等)を配置することが望ましい。尚、LTR U3領域のエンハンサー−プロモーター配列は、挿入突然変異によって近傍の宿主遺伝子を上方制御する可能性があるので、当該配列を欠失、もしくはSV40などのポリアデニル化配列で置換した3’-自己不活性化(SIN)LTRを使用して、切り出されずゲノム中に残存するloxP配列より外側のLTRによる内因性遺伝子の発現制御を回避することがより好ましい。SIN LTRを用いる具体的手段は、Stem Cells, 27: 1042-1049 (2009)に記載されている。
【0033】
しかしながら、本発明の別の好ましい実施態様においては、2つのloxP配列はLTRより内側、より好ましくは初期化遺伝子の5’および3’末端に隣接する位置に配置される。本発明は、少なくとも部分的には、Creリコンビナーゼ処理による初期化遺伝子の切り出し後、染色体上にレトロウイルスまたはレンチウイルスの5’および/または3’LTRが完全な形で残存しても、挿入変異による異常の発生リスクは極めて低いことの発見に基づいている。この事実は、LTR内部にloxP配列を挿入し、さらに初期化遺伝子の転写を制御する別のプロモーターを配置するなどの煩雑な遺伝子操作により発現ベクターを構築しなくとも、単に初期化遺伝子の両端にloxP配列を付加して公知のレトロウイルスまたはレンチウイルス発現ベクターのマルチクローニングサイトに挿入したものを用いるだけで、安全なiPS細胞を高頻度で作製できることを示している。
【0034】
(d) 体細胞ソース
本発明においてiPS細胞作製のための出発材料として用いることのできる体細胞は、哺乳動物(例えば、マウスまたはヒト)由来の生殖細胞以外のいかなる細胞であってもよく、例えば、角質化する上皮細胞(例、角質化表皮細胞)、粘膜上皮細胞(例、舌表層の上皮細胞)、外分泌腺上皮細胞(例、乳腺細胞)、ホルモン分泌細胞(例、副腎髄質細胞)、代謝・貯蔵用の細胞(例、肝細胞)、境界面を構成する内腔上皮細胞(例、I型肺胞細胞)、内鎖管の内腔上皮細胞(例、血管内皮細胞)、運搬能をもつ繊毛のある細胞(例、気道上皮細胞)、細胞外マトリックス分泌用細胞(例、線維芽細胞)、収縮性細胞(例、平滑筋細胞)、血液と免疫系の細胞(例、Tリンパ球)、感覚に関する細胞(例、桿細胞)自律神経系ニューロン(例、コリン作動性ニューロン)、感覚器と末梢ニューロンの支持細胞(例、随伴細胞)、中枢神経系の神経細胞とグリア細胞(例、星状グリア細胞)、色素細胞(例、網膜色素上皮細胞)、およびそれらの前駆細胞(組織前駆細胞)等が挙げられる。細胞の分化の程度に特に制限はなく、未分化な前駆細胞(体性幹細胞も含む)であっても、最終分化した成熟細胞であっても、同様に本発明における体細胞の起源として使用することができる。ここで未分化な前駆細胞としては、たとえば神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)が挙げられる。
【0035】
体細胞を採取するソースとなる哺乳動物は特に制限されないが、得られるiPS細胞がヒトの再生医療用途に使用される場合には、拒絶反応が起こらないという観点から、患者本人またはHLAの型が同一である他人から体細胞を採取することが特に好ましい。また、ヒトに投与(移植)しない場合でも、例えば、患者の薬剤感受性や副作用の有無を評価するためのスクリーニング用の細胞のソースとしてiPS細胞を使用する場合には、同様に患者本人または薬剤感受性や副作用と相関する遺伝子多型が同一である他人から体細胞を採取する必要がある。
【0036】
(e) 初期化遺伝子の体細胞への導入方法
初期化遺伝子を含む発現ベクターは、ベクターの種類に応じて、自体公知の手法により細胞に導入することができる。例えば、ウイルスベクターの場合、該核酸を含むプラスミドを適当なパッケージング細胞(例、Plat-E細胞)や相補細胞株(例、293細胞)に導入して、培養上清中に産生されるウイルスベクターを回収し、各ウイルスベクターに応じた適切な方法により、該ベクターを細胞に感染させる。例えば、ベクターとしてレトロウイルスベクターを用いる具体的手段が WO2007/69666、Cell, 126, 663-676 (2006) 及び Cell, 131, 861-872 (2007) に開示されており、ベクターとしてレンチウイルスベクターを用いる場合については、Science, 318, 1917-1920 (2007) に開示がある。また、アデノウイルスベクターを用いる場合については、Science, 322, 945-949 (2008) に記載されている。
【0037】
一方、非ウイルスベクターであるプラスミドベクターやウイルス由来の自律複製機構を有するエピゾーマルベクターの場合には、リポフェクション法、リポソーム法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム共沈殿法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法、遺伝子銃法などを用いて該ベクターを細胞に導入することができる。ベクターとしてプラスミドを用いる具体的手段は、例えばScience, 322, 949-953 (2008) 等に記載されている。また、ベクターとしてエピゾーマルベクターを用いる具体的手段は、例えばScience, 324: 797-801 (2009)等に記載されている。
【0038】
プラスミドベクターやアデノウイルスベクター等を用いる場合、遺伝子導入は1回以上の任意の回数(例えば、1回以上10回以下、又は1回以上5回以下など)行うことができる。2種以上の発現ベクターを体細胞に導入する場合には、これらの全ての種類の発現ベクターを同時に体細胞に導入することが好ましいが、この場合においても、導入操作は1回以上の任意の回数(例えば、1回以上10回以下、又は1回以上5回以下など)行うことができ、好ましくは導入操作を2回以上(たとえば3回又は4回)繰り返して行うことができる。
【0039】
(f) iPS細胞の樹立効率改善物質
従来iPS細胞の樹立効率が低いために、近年、その効率を改善する物質が種々提案されている。よって前記初期化遺伝子に加え、これら樹立効率改善物質を体細胞に接触させることにより、iPS細胞の樹立効率をより高めることが期待できる。
【0040】
iPS細胞の樹立効率改善物質としては、例えば、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、バルプロ酸 (VPA)(Nat. Biotechnol., 26(7): 795-797 (2008))、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC 1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNAおよびshRNA(例、HDAC1 siRNA Smartpool(登録商標)(Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1 (OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など]、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば5’-azacytidine)(Nat. Biotechnol., 26(7): 795-797 (2008))、G9aヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤[例えば、BIX-01294 (Cell Stem Cell, 2: 525-528 (2008))等の低分子阻害剤、G9aに対するsiRNAおよびshRNA(例、G9a siRNA(human) (Santa Cruz Biotechnology)等)等の核酸性発現阻害剤など]、L-channel calcium agonist (例えばBayk8644) (Cell Stem Cell, 3, 568-574 (2008))、p53阻害剤(例えばp53に対するsiRNAおよびshRNA (Cell Stem Cell, 3, 475-479 (2008))、UTF1(Cell Stem Cell, 3, 475-479 (2008))、Wnt Signaling(例えばsoluble Wnt3a)(Cell Stem Cell, 3, 132-135 (2008))、2i/LIF (2iはmitogen-activated protein kinase signallingおよびglycogen synthase kinase-3の阻害剤、PloS Biology, 6(10), 2237-2247 (2008))等が挙げられるが、それらに限定されない。前記で核酸性の発現阻害剤はsiRNAもしくはshRNAをコードするDNAを含む発現ベクターの形態であってもよい。
【0041】
尚、前記初期化遺伝子の構成要素のうち、例えばSV40LT等は、体細胞の核初期化のために必須ではなく補助的な因子であるという点において、iPS細胞の樹立効率改善物質の範疇にも含まれ得る。核初期化の機序が明らかでない現状においては、核初期化に必須の因子以外の補助的な因子について、それらを核初期化因子として位置づけるか、あるいはiPS細胞の樹立効率改善物質として位置づけるかは便宜的であってもよい。即ち、体細胞の核初期化プロセスは、体細胞への核初期化因子およびiPS細胞の樹立効率改善物質の接触によって生じる全体的事象として捉えられるので、当業者にとって両者を必ずしも明確に区別する必要性はないであろう。
【0042】
iPS細胞の樹立効率改善物質の体細胞への接触は、該物質が(a) タンパク性因子である場合、あるいは(b) 該タンパク性因子をコードする核酸である場合、初期化遺伝子とそれに代替する核初期化因子(タンパク質)についてそれぞれ上記したと同様の方法により、実施することができる。また、樹立効率改善物質が(c) 低分子化合物である場合は、該物質を適当な濃度で水性もしくは非水性溶媒に溶解し、ヒトまたはマウスより単離した体細胞の培養に適した培地(例えば、約5〜20%の胎仔ウシ血清を含む最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地、F12培地など)中に、物質濃度がiPS細胞樹立効率を改善するのに十分で且つ細胞毒性がみられない範囲となるように該物質溶液を添加して、細胞を一定期間培養することにより実施することができる。樹立効率改善物質濃度は用いる物質の種類によって異なるが、約0.1nM〜約100nMの範囲で適宜選択される。接触期間は細胞の核初期化が達成されるのに十分な時間であれば特に制限はないが、通常は陽性コロニーが出現するまで培地に共存させておけばよい。
【0043】
iPS細胞の樹立効率改善物質は、該物質の非存在下と比較して体細胞からのiPS細胞樹立効率が有意に改善される限り、初期化遺伝子と同時に体細胞に接触させてもよいし、また、どちらかを先に接触させてもよい。一実施態様において、例えば、iPS細胞の樹立効率改善物質が低分子化合物である場合には、初期化遺伝子は遺伝子導入処理からタンパク性因子を大量発現するまでに一定期間のラグがあるのに対し、樹立効率改善物質は速やかに細胞に作用しうることから、遺伝子導入処理から一定期間細胞を培養した後に、iPS細胞の樹立効率改善物質を培地に添加することができる。別の実施態様において、例えば、初期化遺伝子とiPS細胞の樹立効率改善物質とがいずれもウイルスベクターやプラスミドベクターの形態で用いられる場合には、両者を同時に細胞に導入してもよい。
【0044】
(g) 遺伝子導入前後の体細胞の培養とiPS細胞の選択
マウスまたはヒトから分離した体細胞は、核初期化工程に供するに先立って、細胞の種類に応じてその培養に適した自体公知の培地で前培養することができる。そのような培地としては、例えば、約5〜20%の胎仔ウシ血清を含む最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地、F12培地などが挙げられるが、それらに限定されない。初期化遺伝子及びiPS細胞の樹立効率改善物質との接触に際し、例えば、カチオニックリポソームなど導入試薬を用いる場合には、導入効率の低下を防ぐため、無血清培地に交換しておくことが好ましい場合がある。初期化遺伝子(及びiPS細胞の樹立効率改善物質)を接触させた後、細胞を、例えばES細胞の培養に適した条件下で培養することができる。マウス細胞の場合、通常の培地に分化抑制因子としてLeukemia Inhibitory Factor(LIF)を添加して培養を行う。一方、ヒト細胞の場合には、LIFの代わりに塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)および/または幹細胞因子(SCF)を添加することが望ましい。また通常、細胞は、フィーダー細胞として、放射線や抗生物質で処理して細胞分裂を停止させたマウス胎仔由来の線維芽細胞(MEF)の共存下で培養される。MEFとしては、通常STO細胞等がよく使われるが、iPS細胞の誘導には、SNL細胞(McMahon, A. P. & Bradley, A. Cell 62, 1073-1085 (1990))等がよく使われている。フィーダー細胞との共培養は、核初期化物質の接触より前から開始してもよいし、該接触時から、あるいは該接触より後(例えば1-10日後)から開始してもよい。
【0045】
iPS細胞の候補コロニーの選択は、薬剤耐性とレポーター活性を指標とする方法と目視による形態観察による方法とが挙げられる。前者としては、例えば、分化多能性細胞において特異的に高発現する遺伝子(例えば、Fbx15、Nanog、Oct3/4など、好ましくはNanog又はOct3/4)の遺伝子座に、薬剤耐性遺伝子及び/又はレポーター遺伝子をターゲッティングした組換え体細胞を用い、薬剤耐性及び/又はレポーター活性陽性のコロニーを選択するというものである。そのような組換え体細胞としては、例えばFbx15遺伝子座にβgeo(β-ガラクトシダーゼとネオマイシンホスホトランスフェラーゼとの融合タンパク質をコードする)遺伝子をノックインしたマウス由来のMEF(Takahashi & Yamanaka, Cell, 126, 663-676 (2006))、あるいはNanog遺伝子座に緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子とピューロマイシン耐性遺伝子を組み込んだトランスジェニックマウス由来のMEF(Okita et al., Nature, 448, 313-317 (2007))等が挙げられる。一方、目視による形態観察で候補コロニーを選択する方法としては、例えばTakahashi et al., Cell, 131, 861-872 (2007)に記載の方法が挙げられる。レポーター細胞を用いる方法は簡便で効率的ではあるが、iPS細胞がヒトの治療用途を目的として作製される場合、安全性の観点から目視によるコロニー選択が望ましい。初期化遺伝子としてOct3/4、Klf4およびSox2の3因子を用いた場合、樹立クローン数は減少するものの生じるコロニーのほとんどがES細胞と比較して遜色のない高品質のiPS細胞であることから、レポーター細胞を用いなくとも効率よくiPS細胞を樹立することが可能である。
【0046】
選択されたコロニーの細胞がiPS細胞であることの確認は、上記したNanog(もしくはOct3/4)レポーター陽性(ピューロマイシン耐性、GFP陽性など)および目視によるES細胞様コロニーの形成によっても行い得るが、より正確を期すために、各種ES細胞特異的遺伝子の発現を解析したり、選択された細胞をマウスに移植してテラトーマ形成を確認する等の試験を実施することもできる。これらの試験方法はいずれも周知である。
【0047】
(h) Creリコンビナーゼ処理
上記のようにして得られるiPS細胞をCreリコンビナーゼで処理する方法としては、(a) Creリコンビナーゼ発現ベクターをiPS細胞に導入して、細胞内で該酵素を一過的に産生させる方法、あるいは(b) CreリコンビナーゼをiPS細胞と接触させて(好ましくは、上記タンパク質導入試薬などを用いて)細胞内にCreリコンビナーゼを供給する方法が挙げられるが、好ましくは(a)の方法が用いられる。Creリコンビナーゼを一過的に発現することができるベクターとしては、例えば、プラスミドベクターやアデノウイルスベクター等が挙げられ、プラスミドベクターが特に好ましい。プラスミドベクターとしては、初期化遺伝子の導入に用いられるものが、同様に好ましく例示される。
【0048】
(i) 初期化遺伝子の除去の確認
Creリコンビナーゼ処理により、iPS細胞から初期化遺伝子が除去されたか否かの確認は、初期化遺伝子内部および/またはloxP配列近傍の塩基配列を含む核酸をプローブまたはプライマーとして用い、iPS細胞から単離した染色体DNAおよび/またはエピソーム画分を鋳型としてサザンブロット分析またはPCR分析を行い、バンドの有無または検出バンドの長さを調べることにより実施することができる。具体的な方法の例は、後述の実施例に記載されている。
【0049】
(2)第2の作製方法
初期化遺伝子が除去されたiPS細胞の第2の作製方法は、初期化遺伝子の複製に必要なベクター要素の5’側および3’側にloxP配列を同方向に配置した発現ベクターを有するiPS細胞を提供する工程、および該iPS細胞をCreリコンビナーゼで処理する工程を含む。当該方法は、iPS細胞において初期化遺伝子がエピソームとして存在する場合において使用できる。
【0050】
第2の方法において、iPS細胞の作製のために使用される(a) 初期化遺伝子、(c) loxP配列の種類、(d) 体細胞ソースおよび(f) iPS細胞の樹立効率改善物質、(g) 遺伝子導入前後の体細胞の培養とiPS細胞の選択、並びに(h) Creリコンビナーゼ処理については、前記第1の方法と同様である。iPS細胞の作製のために使用される(b) 発現ベクターとしては、エピゾーマルベクター、例えば、EBV、SV40等に由来する自律複製に必要な配列をベクター要素として含むベクターが挙げられる。自律複製に必要な配列をベクター要素としては、具体的には、複製開始点と、複製開始点に結合して複製を制御するタンパク質をコードする遺伝子配列であり、例えば、EBVにあっては複製開始点oriPとEBNA-1遺伝子、SV40にあっては複製開始点oriとSV40 large T antigen遺伝子が挙げられる。
【0051】
また、エピゾーマル発現ベクターは、初期化遺伝子の転写を制御するプロモーターを含む。該プロモーターとしては、前記第1の方法に用いる発現ベクターについて例示したものが、同様に用いられ得る。また、エピゾーマル発現ベクターは、前記第1の方法に用いる発現ベクターと同様に、所望によりエンハンサー、ポリA付加シグナル、選択マーカー遺伝子、複製開始点、複製開始点に結合して複製を制御するタンパク質をコードする遺伝子などをさらに含有していてもよい。選択マーカー遺伝子としては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0052】
第2の方法においては、2つのloxP配列は、初期化遺伝子の複製に必要なベクター要素(即ち、複製開始点、または複製開始点に結合して複製を制御するタンパク質をコードする遺伝子配列)の5’側および3’側に、同方向に配置される。loxP配列が挟むベクター要素は、複製開始点、または複製開始点に結合して複製を制御するタンパク質をコードする遺伝子配列のいずれか一方だけであってもよいし、両方であってもよい。
【0053】
第2の方法において、初期化遺伝子は、例えばリポフェクション法、リポソーム法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム共沈殿法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法、遺伝子銃法などを用いて該ベクターを細胞に導入することができる。具体的には、例えばScience, 324: 797-801 (2009)等に記載される方法を用いることができる。
【0054】
Creリコンビナーゼ処理により、iPS細胞から初期化遺伝子の複製に必要なベクター要素が除去されたか否かの確認は、該ベクター要素内部および/またはloxP配列近傍の塩基配列を含む核酸をプローブまたはプライマーとして用い、該iPS細胞から単離したエピソーム画分を鋳型としてサザンブロット分析またはPCR分析を行い、バンドの有無または検出バンドの長さを調べることにより実施することができる。エピソーム画分の調製は当該分野で周知の方法と用いて行えばよく、例えば、Science, 324: 797-801 (2009)等に記載される方法を用いることができる。
【0055】
レトロウイルスまたはレンチウイルスを用いることにより、染色体に初期化遺伝子が組み込まれた後、Cre-loxPシステムを利用して、両端のLTRが完全な形で残存した状態で、初期化遺伝子のみが染色体から欠失除去されたゲノム構造を有するiPS細胞は、従来公知のiPS細胞とは異なる新規細胞である。
【0056】
このようにして樹立されたiPS細胞は、種々の目的で使用することができる。例えば、ES細胞で報告されている分化誘導法を利用して、iPS細胞から種々の細胞(例、心筋細胞、血液細胞、神経細胞、血管内皮細胞、インスリン分泌細胞等)への分化を誘導することができる。したがって、患者本人から採取した体細胞を用いてiPS細胞を誘導すれば、そこから所望の細胞(即ち、該患者が罹病している臓器の細胞や疾患に対する治療効果を発揮する細胞など)に分化させて該患者に移植するという、自家移植による幹細胞療法が可能となる。また、患者本人でなくても、HLAの型が同一である他人から採取した体細胞を用いてiPS細胞を誘導し、そこから所望の細胞へ分化させ、これを患者への移植に用いることもできる。さらに、iPS細胞から分化させた機能細胞(例、肝細胞)は、対応する既存の細胞株よりも実際の生体内での該機能細胞の状態をより反映していると考えられるので、医薬候補化合物の薬効や毒性のin vitroスクリーニング等にも好適に用いることができる。
【0057】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0058】
loxP配列を有する初期化遺伝子発現レトロウイルスベクターの作製
初期化に用いるレトロウイルスベクターはpMXs(東京大学 北村俊夫先生より入手、Exp. Hematol. 31; 1007-1014, 2003)を用いて作製した。このベクターのマルチクローニングサイトにマウス由来Oct3/4, Sox2, Klf4およびc-Mycの各翻訳領域の両端をloxP配列(5’- ataacttcgtatagcatacattatacgaagttat-3’、配列番号:1)で挟んだコンストラクトをそれぞれ挿入することにより、各初期化遺伝子を発現するレトロウイルスベクターを作製した(pMXs-Oct3/4-loxP, pMXs-Sox2-loxP, pMXs-Klf4-loxP, pMXs-cMyc-loxP)。また同様にして、マウス由来Oct3/4, Sox2およびKlf4の各翻訳領域の両端を変異型loxP配列で挟んだコンストラクトをそれぞれ挿入することにより、各初期化遺伝子を発現するレトロウイルスベクターを作製した(pMXs-Oct3/4-mloxP, pMXs-Sox2-mloxP, pMXs-Klf4-mloxP)。
【0059】
さらに、前記3遺伝子または2遺伝子の翻訳領域を口蹄疫ウイルスの2A配列(aaaattgtcg ctcctgtcaa acaaactctt aactttgatt tactcaaact ggctggggat gtagaaagca atccaggtcc a、配列番号:2)をはさんで繋げたコンストラクトの両端を変異型loxP配列で挟んだコンストラクトを挿入したベクターも作製した(pMXs-OKS-mloxP、pMXs-KOS-mloxP、pMXs-OK-mloxP)。
【0060】
変異型loxP配列としては、lox71 (5’- taccgttcgtatagcatacattatacgaagttat-3’、配列番号:3)およびlox66 (5’- ataacttcgtatagcatacattatacgaacggta-3’、配列番号:4)を使用した(Plant J. 7; 649-659, 1995)。2A配列で繋げたコンストラクトについては5’側にlox66を、3’側にlox71(いずれも逆向きに挿入)を用い、それ以外のコンストラクト(各遺伝子単独のコンストラクト)については5’側にlox71を、3’側にlox66を用いた。これらの変異型loxP配列はCreリコンビナーゼによる組み換え後に、Creにより認識されにくくなるため、不必要な組み換えを起こしにくいと考えられる。
【実施例2】
【0061】
マウス由来肝細胞からのiPS誘導(Exp.No.234, 296)
実験にはNanogレポーターマウス(Okita K. et al., Nature 448, 313-317(2007))由来の肝細胞を用いた。このマウスはBACPAC Resourcesより購入したBAC(bacterial artificial chromosome)のNanog遺伝子座に緑色蛍光蛋白質(EGFP)とピューロマイシン耐性遺伝子を組み込んで作製したNanogレポーターを有している。マウスNanog遺伝子はES細胞や初期胚といった分化多能性細胞において特異的に発現する遺伝子であり、このレポーターが陽性となったマウスiPS細胞はES細胞とほぼ同等の分化能力を持つことが分かっている。
【0062】
あらかじめフィーダー細胞(ピューロマイシンおよびハイグロマイシン耐性のMSTO細胞、以下単にMSTO細胞という)を蒔いた6 well培養プレートの各well上に、1.25×105個のNanogレポーターマウス由来肝細胞を播種した。培養液はDMEM/10% FCSを使用し、37℃、5%CO2で培養した。2日後に、実施例1で作製した以下のレトロウイルスベクターを導入した。導入(ウイルス感染)はNature 448, 313-317(2007) に従って行った。
(1)pMXs-Oct3/4-loxP, pMXs-Sox2-loxP, pMXs-Klf4-loxP, pMXs-cMyc-loxPの4種の遺伝子
(2)pMXs-Oct3/4-loxP, pMXs-Sox2-loxP, pMXs-Klf4-loxPの3種の遺伝子
(3)pMXs-Oct3/4-mloxP, pMXs-Sox2-mloxP, pMXs-Klf4-mloxPの3種の遺伝子
【0063】
ウイルス感染18日目からピューロマイシン(1.5 μg/mL)による選択を開始し、24日目にコロニーをピックアップした。前記(1)の4遺伝子導入の結果(floxed 4 factors)、および前記(2)の3遺伝子導入の結果(floxed 3 factors)を図1に示す。いずれも典型的なES細胞様の形態を示し、かつGFP陽性であったことから、iPS細胞の樹立が証明された。前記(3)の3遺伝子導入の場合も同様のiPS細胞の樹立が確認された。
【0064】
次に、8継代目のiPS細胞 1x107個に対して30μgのpCAG-Cre-Hyg(CAGプロモーター制御下でCreリコンビナーゼが発現し、PGKプロモーター制御下でハイグロマイシンが発現するベクター)を電気的に導入した(Bio-Rad社:GenePulser Xcell)。1/3の細胞を、あらかじめMSTO細胞を蒔いておいた100mmディッシュ上に蒔いた。導入後2日目から4日目までハイグロマイシン処理を行うことにより、Cre発現細胞を選択した。12日目にiPSコロニーをピックアップし、Creによる外来遺伝子切り出しを確認するためにgenomic PCR解析を行った。
【0065】
pMXs-Oct3/4-loxPを例としたプラスミドの模式図と、genomic PCR解析に用いたプライマーの位置を図2に示す。前記(2)の3遺伝子導入したiPS細胞のCre処理後のPCR解析結果を図3に示す。その結果、Creで処理したiPSクローン8種類のうち5種類について、Cre-loxP反応による外来遺伝子の切り出しが確認された(図中”excision”の位置にのみバンドが検出されたクローン:4, 6, 8, 10, 12)。また外来遺伝子切り出し後のiPSクローンは、その後培養してもiPS細胞としての形態、およびGFP陽性を維持し続けることが分かった(図4)。
【0066】
前記(3)のiPS細胞のCre処理後のgenomic PCR解析の結果を図5に示す。3種類のクローンについてCre-loxP反応による外来遺伝子の切り出しが確認された(図中”excision” の位置にのみバンドが検出されたクローン)。
【0067】
さらに別のプライマーを用いて、外来遺伝子の切り出しをより厳密に確認した結果を図6(左)に示す。またpMXsプラスミドの模式図とgenomic PCR解析に用いたプライマーの位置を図7に示す。
【0068】
前記(2)の実験で得られたiPS-234D-1では、バンドのパターンより、不完全な形でレトロウイルスが組み込まれたことが予測されたものの、調べた2クローンとも、Cre-loxP反応による外来遺伝子の切り出しが確認された。一方、iPS-234D-2では、外来遺伝子の切り出しは完全ではなかった。
【0069】
以上のように、野生型loxP、変異型loxPいずれを用いた場合にも、Cre-loxP反応により外来遺伝子が除去できること、および、除去後もiPS細胞としての形態、機能が保たれることが示された。
【実施例3】
【0070】
マウス由来線維芽細胞からのiPS誘導(Exp.No.283)
Nanogレポーターマウス(Okita K. et al., Nature 448, 313-317(2007))とFbx15レポーターマウス(Tokuzawa et al. Mol Cell Biol, Vol.23, 2699-2708 (2003))とを交配させることによりNanogレポーターおよびFbx15レポーターの両方を持つ変異マウスを作製した。このFb/Ngレポーターマウス由来のMEFを、あらかじめゲラチンコートした6well培養プレートに、1×105個/wellの割合で蒔いた。実施例2と同様にして、pMXs-Oct3/4-mloxP, pMXs-Sox2-mloxP, pMXs-Klf4-mloxPの3種のレトロウイルスベクターを導入した。
【0071】
ウイルス感染25日目からピューロマイシン(1.5 μg/mL)による選択を開始し、33日目にコロニーをピックアップした。樹立時のコロニーの写真を図8に、また2継代目のコロニーの写真を図9に、それぞれ示す。得られたコロニーは典型的なES細胞様の形態を示し、かつGFP陽性であったことから、iPS細胞の樹立が証明された。
【0072】
次に、5継代目のiPS細胞に対して実施例2と同様にしてCreによる処理を行い、外来遺伝子切り出しを確認するためにRT-PCR解析を行った。結果を図6(右)に示す。iPS-283J-3およびiPS-283J-4では、調べたクローン全てにおいて、Cre-loxP反応による外来遺伝子の切り出しが確認された。
【0073】
さらに、サザンブロット解析によって、外来遺伝子切り出しを確認した。Cre処理後の各iPSクローンからgenomic DNAを抽出し、BamHI/SphIで切断した後にサザンブロット解析を行った。結果を図10に示す。Oct3/4, Sox2およびKlf4いずれをプローブとして用いた場合にも、Cre処理前のiPSクローン(J3、J4)において検出された各導入遺伝子(外来遺伝子)由来のバンドがCre処理後の各クローンでは消失していたことから、Cre-loxP反応による外来遺伝子の切り出しが確認された。
【0074】
次に、Cre-loxP反応により同一染色体内での欠失型の組み換え反応が起こっていないことを確認するために、Cre処理後の各iPSクローンのgenomic DNAを BamHI/EcoRIで切断した後にサザンブロット解析を行った。結果を図11に、またゲノムに組み込まれたpMXsベクターの模式図とプローブの位置を図12に示す。Cre処理後のiPSクローンはCre処理前のiPSクローン(J3、J4)と同じバンドのパターンを示したことから、染色体内の組み換え反応は生じていないことが確認された。同じiPSクローンについて異なる制限酵素(J3シリーズはEcoRI、J4シリーズはEcoRI/SphI)で切断した後にpMXs-3’プローブを用いてサザンブロット解析を行った結果を図13(左)に、またゲノムに組み込まれたpMXsベクターの模式図とプローブの位置を図14に示す。同様に染色体内の組み換え反応は生じていないことが確認された。
【実施例4】
【0075】
マウス由来線維芽細胞からのiPS誘導(Exp.No.321)
Fb/Ngレポーターマウス由来のMEFを、あらかじめゲラチンコートした6well培養プレートに、1×105個/wellの割合で蒔いた。実施例2と同様にして、以下のレトロウイルスベクターを導入した。
(1) pMXs-OKS-mloxP
(2) pMXs-KOS-mloxP
(3) pMXs-OK-mloxP, pMXs-Sox2-mloxP
(4) pMXs-Oct3/4-mloxP, pMXs-Sox2-mloxP, pMXs-Klf4-mloxP
【0076】
ウイルス感染21日目からピューロマイシン(1.5 μg/mL)による選択を開始し、28日目にコロニーをピックアップした。樹立時のコロニーの写真を図15に、また2継代目のコロニーの写真を図16に、それぞれ示す。得られたコロニーは典型的なES細胞様の形態を示し、かつGFP陽性であったことから、iPS細胞の樹立が証明された。
【0077】
次に、5継代目のiPS細胞 1x107個に対して30μgのpCAG-Cre-Hygを電気的に導入した(Bio-Rad社:GenePulser Xcell)。1/3の細胞を、あらかじめMSTO細胞を蒔いておいた100mmディッシュ上に蒔いた。導入後2日目から4日目までハイグロマイシン処理を行うことにより、Cre発現細胞を選択した。21日目にiPSコロニーをピックアップし、1継代後、Creによる外来遺伝子切り出しを確認するためにgenomic PCR解析を行った。
【0078】
pMXs-OKS-mloxPの模式図と、genomic PCR解析に用いたプライマーの位置を図17に示す。pMXs-OKS-mloxPを導入したiPS細胞のCre処理後のgenomic PCR解析結果を図18に示す。その結果、Creで処理した321B-15および321B-16において、Cre-loxP反応により外来遺伝子が切り出されたクローンが見出された(図中”excision”の位置にのみバンドが検出されたクローン)。
【0079】
次にgenomic PCRで外来遺伝子の切り出しが確認された321B-15および321B-16の各iPSクローンからGenomic DNAを抽出し、サザンブロット解析を行った。BamHI/SphIで切断し、5'側プローブ(pMXs-5’)を用いてサザンブロット解析を行った結果を図19に、EcoRI/SphIで切断し、3’側プローブ(pMXs-3’)を用いてサザブロット解析を行った結果を図13(右)に示す。Cre処理後のiPSクローンはCre処理前のiPSクローン(parental)と同じバンドのパターンを示したことから、染色体内での欠失型の組み換え反応は生じていないことが確認された。またKlf4をプローブとして用いたサザンブロット解析の結果、Cre処理前のiPSクローン(parental)において検出された外来遺伝子由来のバンドがCre処理後に消失していたことから、Cre-loxP反応による外来遺伝子の切り出しが確認された(図20)。ゲノムに組み込まれたpMXsベクターの模式図と各プローブの位置を図21に示した。
【実施例5】
【0080】
キメラマウスの解析
pMXs-Oct3/4-mloxP, pMXs-Sox2-mloxP, pMXs-Klf4-mloxPの3種のプラスミド、またはpMXs-OKS-mloxPの1種類のプラスミドをMEF細胞に導入することによりiPS細胞を樹立し、その後CreリコンビナーゼによりloxPで挟まれた遺伝子領域を除去して作製されたiPS細胞(実施例3および実施例4)を、野生型マウス由来の初期胚にマイクロインジェクションし、キメラマウスを作出した。71匹のアダルトキメラを長期観察した結果、1年以上にわたり、正常マウスと同様に生存していた。この結果から、Oct3/4, Klf4およびSox2の3遺伝子をCreで切除した後にゲノム上にintactなLTRが残っていても、キメラマウスの予後不良にはつながらないことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、初期化因子の影響や挿入変異のリスクのない、安全なiPS細胞を効率よく作製することができるので、細胞移植療法のためのソースとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
初期化遺伝子が除去されたiPS細胞の作製方法であって、初期化遺伝子または初期化遺伝子の複製に必要なベクター要素の5’側および3’側にloxP配列を同方向に配置した発現ベクターを有するiPS細胞を提供する工程、および該iPS細胞をCreリコンビナーゼで処理する工程を含む、方法。
【請求項2】
iPS細胞が、初期化遺伝子の5’側および3’側にloxP配列を同方向に配置した発現ベクターを染色体上に有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ベクターがレトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
loxP配列が5’側LTRおよび3’側LTRより内側に配置される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
iPS細胞が、初期化遺伝子の複製に必要なベクター要素の5’側および3’側にloxP配列を配置した発現ベクターを染色体外に有する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
ベクターがエピゾーマルベクターである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
エピゾーマルベクターがEpstein-barr virus由来である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
初期化遺伝子の複製に必要なベクター要素が複製開始点oriPである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
初期化遺伝子の複製に必要なベクター要素がEBNA-1をコードする遺伝子である、請求項7記載の方法。
【請求項10】
エピゾーマルベクターがSV40由来である、請求項6記載の方法。
【請求項11】
初期化遺伝子の複製に必要なベクター要素が複製開始点Oriである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
初期化遺伝子の複製に必要なベクター要素がSV40 large T antigenをコードする遺伝子である、請求項10記載の方法。
【請求項13】
loxP配列が野生型loxP配列(配列番号:1)である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
loxP配列が変異型loxP配列である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
変異型loxP配列がlox71(配列番号:3)とlox66(配列番号:4)との組み合わせである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
初期化遺伝子がOct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc、Nanog、Lin28およびSV40 large T antigenから選択される少なくとも1つの遺伝子を含む、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
初期化遺伝子がOct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc、Nanog、Lin28およびSV40 large T antigenから選択される2つ以上の遺伝子がポリシストロニックに連結されたものである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
初期化遺伝子がOct3/4、Sox2およびKlf4の3種の遺伝子、またはOct3/4、Sox2、Klf4およびc-Mycの4種の遺伝子がポリシストロニックに連結されたものである、請求項17記載の方法。
【請求項19】
口蹄疫ウイルスの2A配列を介してポリシストロニックに連結されている、請求項17または18記載の方法。
【請求項20】
Creリコンビナーゼ処理が、Creリコンビナーゼ発現ベクターをiPS細胞に導入して該酵素を細胞内で一過的に産生させることにより行われる、請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
Creリコンビナーゼ発現ベクターがプラスミドベクターである、請求項20記載の方法。
【請求項22】
請求項1〜4および13〜21のいずれか1項に記載の方法により得られる、初期化遺伝子が除去されたiPS細胞。
【請求項23】
ウイルスベクターが保有する5’側LTRおよび3’側LTRを完全な形で有している、請求項22記載のiPS細胞。
【請求項24】
体細胞の製造における、請求項22または23記載のiPS細胞の使用。
【請求項25】
体細胞の製造における細胞ソースとしての、請求項22または23記載のiPS細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2010−273680(P2010−273680A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−122389(P2010−122389)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度文部科学省、「科学技術試験研究委託事業」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】