説明

制御システム及び制御プログラム書換方法

【課題】制御用の情報を送受信するための既存の通信媒体を利用しつつ、通信速度を高速に切り替えることを可能とすることにより、コンピュータプログラムなどの書き換えの効率化、高速化を図ることができる制御システム、制御プログラム書換方法を提供する。
【解決手段】CANに基づき制御用の情報を送受信するGW1と、ECU2a,2b,2cとは通信線3にバス型に接続されており、GW1は外部から特定の情報を取得することが可能な通信装置である。GW1及び特定の情報を必要とする特定の制御装置であるECU2aのCAN通信部14及びCAN通信部24aは、特定の高速な通信速度にて送受信を実現するネットワークコントローラ141、241aを備え、特定の情報を送受信する際にはネットワークコントローラ141、241aを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相互に通信を行ない連携しあう複数の制御装置を含む制御システムに関する。特に、システム内にて大量の情報の送受信を高速に行なうことを可能とし、一部又は全部の制御装置が記憶しているコンピュータプログラム書き換えの効率化、高速化を図ることができる制御システム、及び制御プログラム書換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータプログラムに基づき制御対象に対する処理を実行する制御装置を複数用いて装置の制御を実行する制御システムが各分野で利用されている。この場合、各制御装置に各々役割を振り分け、制御装置が相互にデータを交換して連携して処理を実行することによって多様な機能を実現させる。
【0003】
車両制御の分野では、機械的制御から電気的制御へ移行し、車両内に制御装置として多数のECU(Electronic Control Unit)が配され、各ECUが車載LANを介して情報を相互に交換し、強調・連携して多様な処理を行なう構成が一般的となっている。
【0004】
制御システムにて制御機能が追加される場合、又はプログラムの不具合を解消すべき場合など、制御装置のプロセッサが実行するコンピュータプログラムの書き換えが必要となるときがある。また、システムの物理的接続構成に応じて各制御装置に役割を割り振る場合などは、制御システム構築の過程で各々の制御装置に役割に対応するコンピュータプログラムを記憶させることもある。
【0005】
このような場合、対象となる制御装置のみをシステムから切り離し、コンピュータプログラムを記憶させ直すことにより、確実に書き換えが可能である。しかしながら、書き換え時など、制御装置を接続されているシステムから物理的に切り離すことが困難な場合があると共に、切り離し作業は煩雑である。
【0006】
そこで、制御装置が相互にデータを交換するための既存の通信手段を利用して、特定の装置からコンピュータプログラムを対象の制御装置に受信させ、記憶させるシステムも提案されている(特許文献1参照)。このときコンピュータプログラムの送受信専用の通信手段、通信線などの通信媒体を制御システムに追加する構成では、冗長である。特に車両における制御システムの場合、通信線を追加することは省線化、即ち軽量化に反する。
【0007】
しかしながら、既存の通信手段を利用してコンピュータプログラムを送受信させる場合、既存の通信手段における通信プロトコルが、制御用の情報、例えばオン/オフ、測定値などの数値情報などの数〜数十ビットで表わせる情報量が少ないデータの交換用に規定されているときには、コンピュータプログラムなど、数キロバイトで表わされる比較的情報量が多いデータの送受信には不適である。
【0008】
そこで、特許文献2には、車載制御システム内におけるマスタ制御装置が、外部から無線によりコンピュータプログラムを受信し、必要なもののみ抽出して対象の制御装置へ送信することにより、既存の通信手段における通信負荷を低減させることができる構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−123874号公報
【特許文献2】特開2007−28434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来のシステムでは、制御用のデータのための通信プロトコルに準じた通信方法に工夫をすることなくデータ量を減らすなどして送受信することを前提としている。特許文献1及び2のような技術の開示がありながら現状では、コンピュータプログラムの書き換えには無視できない長さの時間を要するという問題は依然としてある。
【0011】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、制御用の情報を送受信するための既存の通信媒体を利用しつつ、通信速度を高速に切り替えることを可能とすることにより、書き換えの効率化、高速化を図ることができる制御システム、制御プログラム書換方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1発明に係る制御システムは、制御対象を制御するための制御用の情報を送受信する通信手段を備え、通信線にバス型に接続されている複数の制御装置と、前記通信線に接続される通信手段を備えて前記複数の制御装置と通信することが可能な通信装置とを含み、各制御装置及び通信装置は、前記通信線に送信される制御用の情報に基づき制御を行なうようにしてある制御システムにおいて、前記複数の制御装置の内の特定の制御装置、及び前記通信装置の通信手段は、通信プロトコル又は通信速度を、複数の異なるプロトコル又は複数の異なる通信速度の内のいずれかに切り替える手段を備え、前記特定の制御装置及び前記通信装置の間で特定の情報を送信する場合、夫々の前記通信手段における通信プロトコル又は通信速度を特定のプロトコル及び通信速度に切り替えるようにしてあることを特徴とする。
【0013】
第2発明に係る制御システムは、前記制御装置は、制御対象を制御するための処理を実行させるコンピュータプログラムを記憶する手段と、前記コンピュータプログラムを読み出して実行するプロセッサとを備え、前記プロセッサは前記コンピュータプログラムに基づき制御を行なうようにしてあり、前記通信装置は、外部から書換対象のコンピュータプログラムを取得する手段と、取得したコンピュータプログラムを前記特定の情報として前記特定の制御装置へ送信する手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
第3発明に係る制御システムは、前記通信装置は、前記特定の情報を送信する前に、送信先の前記特定の制御装置を示す送信先情報を前記通信線へ送信する手段を備えることを特徴とする。
【0015】
第4発明に係る制御システムは、前記通信装置は、前記特定の情報を送信する前に、前記特定の通信速度の速度情報を前記通信線へ送信する手段を備えることを特徴とする。
【0016】
第5発明に係る制御システムは、前記通信装置は、前記送信先情報又は速度情報に対する応答を受信した場合に、前記特定の情報の送信を実行するようにしてあることを特徴とする。
【0017】
第6発明に係る制御システムは、前記通信装置は、前記特定の情報の送信を完了した場合、完了通知を前記通信線へ送信する手段を備えることを特徴とする。
【0018】
第7発明に係る制御システムは、前記通信装置は、無線により外部から前記特定の情報を取得する手段を備えることを特徴とする。
【0019】
第8発明に係る制御プログラム書換方法は、制御対象を制御するための処理を実行させるコンピュータプログラムを記憶する手段、前記コンピュータプログラムを読み出して実行するプロセッサ、及び、通信手段を備えて、通信線にバス型に接続されている複数の制御装置と、前記通信線に接続され、通信手段を備える通信装置とを含み、前記複数の制御装置の内の特定の制御装置、及び前記通信装置の通信手段は、通信プロトコル又は通信速度を、複数の異なるプロトコル又は複数の異なる通信速度のいずれかに切り替え可能にしてあり、前記複数の制御装置及び通信装置間で制御対象を制御するための制御用の情報を送受信するようにしてある制御システムで、前記通信装置が前記特定の制御装置へ書換対象のコンピュータプログラムを送信し、前記制御装置にてコンピュータプログラムを書き換える方法であって、前記通信装置は、前記特定の制御装置へ前記書換対象のコンピュータプログラムを送信する場合、前記通信手段の通信プロトコル又は通信速度を特定の通信プロトコル又は特定の通信速度へ切り替え、前記特定の制御装置は、前記書換対象のコンピュータプログラムを受信する場合、前記通信手段の通信プロトコル又は通信速度を前記特定の通信プロトコル及び通信速度へ切り替え、前記通信装置及び前記特定の制御装置は、前記書換対象のコンピュータプログラムの送受信を完了した場合、通信プロトコル及び通信速度を制御用の情報を送受信するための通信プロトコル及び通信速度に戻し、前記特定の制御装置は、記憶してあるコンピュータプログラムを、受信したコンピュータプログラムに書き換えることを特徴とする。
【0020】
第1発明では、通信線にバス型に接続して制御用の情報を送受信している複数の制御装置と、通信装置との間で情報を送受信するに際し、特定の制御装置及び通信装置は、通信プロトコル又は通信速度を、複数の異なるプロトコル又は複数の異なる通信速度のいずれかに切り替えられる通信手段を備えており、後述のコンピュータプログラムのみならず特定のテーブル情報、固定情報などの特定の情報を送受信する際には、複数のプロトコル又は複数の通信速度の内の特定のプロトコル又は特定の通信速度へ切り替えられる。特定のプロトコル及び通信速度としては例えば、最大1MbpsとされてきたCAN通信を改良したプロトコル及び通信速度とする(参考文献:社団法人情報処理学会、情報処理学会研究報告、組み込みシステムVol.2007、No.121、pp.21-25、2007-EMB-6-(5)、ISSN:09196072、2007年12月4日)
【0021】
第2発明及び第8発明では、各制御装置はコンピュータプログラムを読み出して実行するプロセッサの動作により制御を行なうようにしてあり、コンピュータプログラム書き換えにより動作内容を変更することが可能である。通信装置は、書換対象のコンピュータプログラムを外部から無線により、有線により、又はメモリを介して取得し、特定の情報として特定のプロトコル及び高速な通信速度にて対象の特定の制御装置へ送信する。これにより、外部から得られるコンピュータプログラムをシステム内で高速に送受信することが可能であり、書換対象の制御装置をシステムから切り離す作業なしにプログラム書き換えが効率的に可能となる。
【0022】
第3発明では、通信装置及び特定の制御装置間で特定の情報を送受信する前に、通信装置から事前に、対象となる特定の制御装置を示す情報が通信線に送信される。これにより、対象とならない他の制御装置は、特定の情報の送受信が実行されることを認識し、送受信がされている期間は通信しないようにするなどして同一の通信線にて異なるプロトコル又は通信速度の信号が通信されないように対応することが可能である。
【0023】
第4発明では、通信装置及び特定の制御装置間で特定の情報を送受信する前に、通信装置にて特定の情報を送信する際の特定の通信速度が指定され、通信装置から事前に指定された特定の通信速度の情報が送信される。当該通知を受信した特定の制御装置は、特定の情報が送信される特定の通信速度を把握して正確に受信処理を行なうことが可能である。
【0024】
第5発明では、第3又は第4発明にて通信装置及び特定の制御装置間で特定の情報を送受信する前に通信装置から送信される特定の制御装置の情報又は指定速度の情報に対する応答が、特定の制御装置以外の他の制御装置をも含む各制御装置から送信され、通信装置で当該応答を受信した場合のみ特定の情報の送受信が実行される。特定の制御装置が指定された通信速度での通信を行なうことができない場合か、又は他の制御装置が高速通信中にCAN通信部を沈黙させられない場合などは応答が通信装置へ送信されない。これにより、高速通信ができない場合は事前に通信装置にて特定の情報の送信の実行を回避することが可能である。
【0025】
第6発明では、通信装置及び特定の制御装置間で特定の情報の送受信を完了した場合、通信装置が完了通知を送信するので、各制御装置はこれを受信して完了を認識し、制御用の情報の送受信を再開することが可能である。
【0026】
第7発明では、通信装置は無線により特定の情報を外部から取得する。遠隔地に存在する中央装置などから情報を得ることが可能である。特に、制御システムが車両に搭載されている場合、通信装置は無線により路側機などから特定の情報を得ることが可能である。更に管理センタなど通信網を介して特定の情報、例えばコンピュータプログラムを取得することが可能である。
【発明の効果】
【0027】
本発明による場合、特定の情報を送受信するために通信プロトコル及び通信速度を、特定のプロトコル及び特定の通信速度に切り替えてから送受信できる。特定の情報としては例えば書換対象のコンピュータプログラムをより早く送信することができ、この場合、制御装置でのコンピュータプログラムの書き換えの効率化、及び高速化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施の形態1における車載制御システムの構成を示す構成図である。
【図2】実施の形態1における車載制御システムに含まれるGW、及びECUの内部構成を示すブロック図である。
【図3】実施の形態1における中央装置、GW、及びECU間での処理を示すシーケンス図である。
【図4】実施の形態1におけるGWから送信される書換要求のフォーマットを示す説明図である。
【図5】実施の形態1におけるECUから送信される応答(ACK)のフォーマットを示す説明図である。
【図6】実施の形態1におけるGWから送信される書換データのフォーマットを示す説明図である。
【図7】実施の形態1におけるGWから送信される書換完了通知のフォーマットを示す説明図である。
【図8】実施の形態2における車載制御システムの構成を示す構成図である。
【図9】実施の形態2における車載制御システムに含まれるGW及びECUの内部構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。なお、以下に示す実施の形態では、車両に搭載されている車載制御システムにおけるコンピュータプログラムの書き換えを例に挙げて説明する。
【0030】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1における車載制御システムの構成を示す構成図である。実施の形態1における車載制御システムは、GW1と、複数のECU2a,2b,2cと、GW1及びECU2a,2b,2cがバス型に接続している通信線3とを含み、車両Vに搭載されている。GW1はアンテナ10を備え、管理センタに備えられて各車両の情報を管理する中央装置4とアンテナ40を介して通信することが可能である。
【0031】
ECU2a,2b,2cはマイクロコンピュータを備え、夫々内蔵するメモリに記憶されるコンピュータプログラムを読み出して実行し、ソフトウェア的な処理により制御を行なうように構成されている。そして、GW1及びECU2a,2b,2cは、通信線3を介してCANプロトコルに基づき制御用の情報を送受信し、送受信された相互に連携して図示しないアクチュエータの動作を制御するなどする。なおGW1は、図示しない他の通信線にも接続されて、異なる通信線に接続されるECU間のデータの送受信を中継する。
【0032】
ECU2a,2b,2cに記憶されて夫々の処理の基盤となるコンピュータプログラムは、書き換えが必要な場合がある。書換対象のコンピュータプログラムは中央装置4に記憶されており、中央装置4から車両Vを含む各車両へ配信される。配信されたコンピュータプログラムは、各車両内の車載制御システム内の特定の通信装置、即ち実施の形態1におけるGW1により受信され、システム内で書換対象のコンピュータプログラムに基づく処理を行なう例えばECU2aへコンピュータプログラムが送信されて書き換えが実行される。
【0033】
このとき、GW1及びECU2a,2b,2c間では、制御用の情報は通信線3を介してCANプロトコルに準じて送受信される。したがって、1回のデータフレームの送受信でデータ用に使用される情報量は最大8バイトであり、通信速度は数十Kbps〜1Mbpsである。制御用の情報、例えば車輪速度などの物理量は大抵、1ビットから8ビット、又は16ビットなどの情報量で表わされるので組み合わせて送受信されることで十分な速度で送受信される。しかしながら、コンピュータプログラムの情報量はキロバイトのオーダーであり、従来のCANプロトコルにより送受信する構成では少なくない時間を要する。
【0034】
そこで、実施の形態1における車載制御システムでは、GW1が対象のECU2aへ書換対象のコンピュータプログラムを送信する場合、通信速度を高速に切り替え、送受信が完了したときには通信速度を通常の制御用の情報の送受信用に戻す。以下、このような高速な通信を実現するためのGW1及びECU2a,2b,2cの構成及び処理を説明する。
【0035】
図2は、実施の形態1における車載制御システムに含まれるGW1、及びECU2a,2b,2cの内部構成を示すブロック図である。
【0036】
GW1は、アンテナ10と、制御部11と、無線通信部12と、記憶部13と、CAN通信部14とを備える。制御部11は、マイクロコンピュータなどを用い、各構成部を制御する。制御部11は、図示しない不揮発性メモリに記憶されている制御プログラムを読み出して実行することにより各構成部を制御してGW機能を実現する。
【0037】
無線通信部12は、アンテナ10により受信されて出力される受信信号からデータを取り出して制御部11へ通知する。実施の形態1では、データは書換対象のコンピュータプログラムであるがこれに限られない。
【0038】
記憶部13には、SRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、又はフラッシュメモリ、EEPROMなどが用いられる。制御部11は、無線通信部12により受信されるデータ、即ち書換対象のコンピュータプログラムを記憶部13に記憶させる。
【0039】
CAN通信部14は、CANプロトコルに準じるネットワークコントローラ及びトランシーバを含む。なお実施の形態1におけるGW1のCAN通信部14は、1Mbpsまでの通信速度で制御用の情報を送受信するネットワークコントローラ(図中はNC(Network Controller)と示す)141と、CANの差動信号により最大10Mbpsの通信速度での通信を可能とするネットワークコントローラ142とを含み、制御部11はいずれかにて通信を行なうことが可能である。他に、LowCAN、即ち125Kbpsなどでの通信を行なうこともできるようにしてあってもよい。
【0040】
実施の形態1におけるネットワークコントローラ141を介した情報の送受信では、通信線3へ送信された情報は通信線3に接続されているGW1自身、及びECU2a,2b,2c全てにて同時的に受信が可能である一方で、ネットワークコントローラ142を介した情報の送受信ではリンギングの問題から、1対1の関係での送受信が可能である。
【0041】
ECU2aは、記憶部21aに記憶されている制御プログラム22aに基づき処理を行なうプロセッサにより、車両に搭載される各種制御対象の動作を制御する制御装置である。ECU2aは、制御部20aと、記憶部21aと、一時記憶部23aと、通信部24aとを備える。
【0042】
制御部20aには、CPU(Central Processing Unit)を利用する。記憶部21aには、フラッシュメモリ、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)などの不揮発性メモリであって書き換えが可能な記憶媒体が用いられ、制御部20aが読み出して実行する制御プログラム22aが記憶されている。
【0043】
一時記憶部23aには、SRAM、DRAMなどが用いられ、制御部20aの動作により発生した情報、記憶部21aから読み出された各種情報、制御プログラム22aなどが一時的に記憶される。
【0044】
通信部24aは、CANプロトコルに準じるネットワークコントローラ及びトランシーバを含み、通信線3を介した通信を実現する。制御部20aは、通信部24aにより通信線3を介してGW1、他のECU2b,2cとの情報の送受信が可能である。なお、実施の形態1におけるECU2aは特定の制御装置として、従来の1Mbpsまでの通信速度で制御用の情報を送受信するネットワークコントローラ241aと、最大10Mbpsの通信速度での通信を可能とするネットワークコントローラ242aとを含み、制御部20aはいずれかにて通信を行なうことが可能である。
【0045】
なお、ECU2aにおける制御部20a、記憶部21a、一時記憶部23a及び通信部24aの一部(ネットワークコントローラ241a,242a)は、マイクロコンピュータとして構成されてもよい。
【0046】
ECU2b,2cの内部構成は、基本的にECU2aと同様であり、夫々、記憶部21b,21cに記憶されている制御プログラム22b,22cに基づき処理を行なうプロセッサにより、車両に搭載される各種制御対象の動作を制御する制御装置である。ただし、ECU2b,2cのCAN通信部24b,24cは、いずれも従来の1Mbpsまでの通信速度で制御用の情報を送受信するネットワークコントローラのみ(図示せず)を含む。ECU2b,2cは、最大10Mbpsの通信速度での通信を行なうことができない。
【0047】
このように構成されるGW1、及びECU2a,2b,2c間で、ECU2aが記憶している制御プログラム22aを書き換えるために行なわれる処理について詳細を説明する。
【0048】
図3は、実施の形態1における中央装置4、GW1、及びECU2a,2b,2c間での処理を示すシーケンス図である。
【0049】
中央装置4が書換対象のコンピュータプログラムを送信すると、車両VのGW1がこれを受信する。
【0050】
書換対象のコンピュータプログラムを受信したGW1は、制御部11により、記憶部13に記憶させる。そして制御部11は、書換対象のコンピュータプログラムの送信先を特定し、特定した送信先を示す情報を含むプログラムの書換要求を、CAN通信部14のネットワークコントローラ141にて通信線3へ送信する。
【0051】
図4は、実施の形態1におけるGW1から送信される書換要求のフォーマットを示す説明図である。書換要求は、CANに基づくデータフレームが用いられる。「CAN ID」に書換要求用に割り振られたID(識別情報)を含み、データフレームのデータフィールドの1バイト目に送信元を示すIDが含まれる。図4に示す例では、送信元はGW1であり、IDとして「0」が含まれている。なお、通信線3に接続されるGW1、ECU2a,2b,2cには夫々「0」、「1」、「2」、「3」がIDとして振られているとする。また、データフィールドの2バイト目には、書換の対象であるECU、即ち送信先であるECU2aのID「1」が含まれる。そしてデータフィールドの3バイト目には、指定通信速度が含まれる。例えば、指定通信速度は100Kbps、1Mbps、10Mbpsである。書換対象のコンピュータプログラムを送受信する場合には、10Mbpsが指定通信速度として含まれるとする。データフィールドの4バイト目以降は不使用でよい。
【0052】
図3に戻り説明を続ける。図4に示したようなフォーマットで送信される書換要求は、制御用の情報の送受信がなされるネットワークコントローラ141にて送信されるから、ECU2a,2b,2cのいずれでも受信可能である。ECU2aの制御部20aは、書換要求を正常に受信し、対象のECUであることから、指定された通信速度での通信を行なうことができるときには、応答をCAN通信部24aの241aにより送信元のGW1へ送信する。対象でない他のECU2b,2cの制御部20b,20cは以後、即ちGW1とECU2aとの間でのコンピュータプログラムの送受信中にエラーまたはACKなどを送信せずに無視して沈黙できるときには、応答(ACK)をCAN通信部24b,24cにより送信元のGW1へ送信する。
【0053】
図5は、実施の形態1におけるECU2a,2b,2cから送信される応答(ACK)のフォーマットを示す説明図である。応答についても書換要求に対応してCANに基づくデータフレームが用いられる。「CAN ID」には対応する書換要求用のIDを含み、データフィールドの1バイト目には送信元のECUを示すIDが含まれる。このときGW1のIDが「0」であるから「0」以外のIDが含まれる。
【0054】
図3に戻り説明を続ける。図5に示したようなフォーマットにて応答を送信したECU2aは、自身へ送信されるコンピュータプログラムを受信するために、CAN通信部24aで使用するネットワークコントローラを10Mbps用のネットワークコントローラ242aへ切り替え、受信可能な状態となる。他のECU2b,2cは以後、CAN通信部24b,24cにて受信される信号を無視し、誤って応答(ACK)又はエラーなどを返さないようにする。
【0055】
ECU2a,2b,2cのいずれからも応答を受信したGW1は、書換データとして、書換対象のコンピュータプログラムを送信することができると認識する。そして、CANのデータフレームを用い、書換対象のコンピュータプログラムを複数回に分けて送信する。CANのデータフレームでは、1回では最大8バイトのデータしか送信できないからである。このとき、GW1の制御部11は、データフレームに分割されたコンピュータプログラムと、送信順を示すシーケンス番号とを含めてCAN通信部14のネットワークコントローラ142にて10Mbpsの通信速度で送信する。
【0056】
図6は、実施の形態1におけるGW1から送信される書換データのフォーマットを示す説明図である。書換データについてもCANに基づくデータフレームが用いられる。「CAN ID」には、書換データが含まれることを示す書換データ用のIDが含まれる。このとき、書換データの内容(例えばコンピュータプログラムなのか、又は所定のテーブルなのかなど)によって異なるIDであってもよい。データフィールドの1バイト目には、シーケンス番号が含められる。10Mbpsの高速通信に対応するCANでは、データフィールドは最大32バイトまで使用可能である。したがって、図6に示すようにシーケンス番号に用いた1バイト以外の31バイトを書換データ用に用いることができ、高速に送受信することが可能である。
【0057】
図3に戻り説明を続ける。図6に示したフォーマットにて分割された書換対象のコンピュータプログラムがGW1から送信された場合、ECU2aは当該コンピュータプログラムをCAN通信部24aのネットワークコントローラ242aにより受信し、一時記憶部23aに順次一時的に記憶する。分割されたコンピュータプログラムを全て送信したGW1は、送信の完了を示す書換完了通知をまず、CAN通信部14のネットワークコントローラ142にてECU2aへ送信する。
【0058】
図7は、実施の形態1におけるGW1から送信される書換完了通知のフォーマットを示す説明図である。書換完了通知についてもCANに基づくデータフレームが用いられる。「CAN ID」には書換完了通知用に割り振られたIDを含み、データフレームのデータフィールドは使用しない。
【0059】
ECU2aは書換完了通知を受信することにより、分割された書換対象のコンピュータプログラムを全て受信したと認識し、一時記憶部23aに記憶されている分割されたコンピュータプログラムをシーケンス番号に基づき元のコンピュータプログラムに再構成し、制御プログラム22aを書き換える。これにより、コンピュータプログラムの書き換えが実行される。
【0060】
コンピュータプログラムを書き換えたECU2aは、制御用の情報の送受信を行なうためにCAN通信部24aで使用するネットワークコントローラをネットワークコントローラ241aへ切り替え、受信可能な状態となる。
【0061】
GW1は、ECU2aへ書換完了通知を送信した後、制御用の情報の送受信を行なうためにCAN通信部14で使用するネットワークコントローラをネットワークコントローラ141へ切り替える。そして、他のECU2b,2cへも図7に示した書換完了通知をCAN通信部14のネットワークコントローラ141にて送信する。
【0062】
GW1からCAN通信部14のネットワークコントローラ141にて送信される書換完了通知は、ECU2b,2cの沈黙していたCAN通信部24b,24cによる通信を再開させる。ECU2b,2cのCAN通信部24b,24cは、書換完了用のIDが含まれるデータフレームが受信された場合は制御部20b,20cへ通知するようにしてある。
【0063】
これにより、以後は、元通りGW1、ECU2a,2b,2c間で制御用の情報の送受信が可能となる。
【0064】
このように、従来より使用されているCANプロトコルにて制御用の情報を送受信する通信線3を介して、高速にコンピュータプログラムを送受信することができ、新たに専用線を配策することもなく、高速にコンピュータプログラムの書き換えを実現することができる。
【0065】
実施の形態1では、配信されたコンピュータプログラムを受信するのはGW1とした。しかしながら、ナビゲーションシステムに関するECUなど、情報系に属するECUであってもよい。その場合当該ECUがGW1へ通信帯域の広い情報系のネットワークを介してコンピュータプログラムを送信し、GW1が受信して更に対象のECU2aへ通信線3を介してコンピュータプログラムを送信する。この場合も、GW1がECU2aへ書換対象のコンピュータプログラムを送信するに際し、通信速度を高速に切り替えて送信することにより、コンピュータプログラムの書き換えが迅速に行なわれる。
【0066】
(実施の形態2)
実施の形態1ではGW1は、アンテナ10及び無線通信部12を備えて中央装置4から書換対象のコンピュータプログラムを受信する構成とした。実施の形態2では、ダイアグ端末又はメモリからのコンピュータプログラムの入力を受け付ける構成とする。
【0067】
図8は、実施の形態2における車載制御システムの構成を示す構成図である。実施の形態2における車載制御システムは、GW5と、複数のECU2a,2b,2cと、通信線3とを含み、車両Vに搭載されている。GW5は信号線6を介してコネクタ50から入力される情報を取得することが可能である。図8中の60は、車両Vの組立工場、ディーラなどで用いられるダイアグ端末でありコンピュータプログラムのデータを記憶しておき、出力させることが可能である。なお勿論、GW5が記憶する故障診断結果、例えば故障コードを読み取り可能である。そして、ダイアグ端末60をコネクタ50に接続し、ダイアグ端末60からコンピュータプログラムのデータ、又は固定のテーブルなどの特定情報をコネクタ50経由にてGW5へ入力することが可能である。また、フラッシュメモリなどの可搬型メモリがコネクタ50に接続可能である構成としてもよい。
【0068】
図9は、実施の形態2における車載制御システムに含まれるGW5、及びECU2a,2b,2cの内部構成を示すブロック図である。実施の形態2では、GW5のコネクタ50との接続構成以外の、ECU2a,2b,2cの内部構成及びGW5によるコンピュータプログラム送信処理については実施の形態1と同様である。したがって、実施の形態1と共通する構成については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0069】
GW5は、制御部51と、入出力部52と、CAN通信部53と、記憶部54とを備える。制御部51は、マイクロコンピュータなどを用い、各構成部を制御する。
【0070】
入出力部52は、ダイアグ端末60がコネクタ50に接続された場合、ダイアグ端末60から出力される特定の情報を入力して制御部51へ通知することができるか、又は可搬型メモリがコネクタ50に接続された場合、可搬型メモリから情報を読み出して制御部51へ通知することができるようにしてある。
【0071】
CAN通信部54、及び記憶部53の構成は、実施の形態1におけるGW1のCAN通信部14及び記憶部13の構成と同様であるので詳細な説明を省略する。
【0072】
実施の形態2では、GW5は、コネクタ50に接続されたダイアグ端末60又は可搬型メモリから書換対象のコンピュータプログラムを取得し、取得したコンピュータプログラムをCAN通信部53の10Mbpsでの通信が可能なネットワークコントローラ532によりECU2aへ送信する。その際に、事前に書換要求を送信すること、ACKを受信すること、書換完了通知を送信することは実施の形態1の図3に示した処理内容と同様である。
【0073】
このように、無線により外部から受信する構成でなくとも、車両Vのディーラなどでプログラムの書き換えが必要な場合に、従来より使用されているCANプロトコルにて制御用の情報を送受信する通信線3を介して、高速にコンピュータプログラムを送受信することができ、新たに専用線を配策することもなく、高速にコンピュータプログラムの書き換えを実現することができる。
【0074】
ECU2a,2b,2cにおける制御プログラム22a,22b,22cの書き換えは、プログラムの不具合が発生した場合、又は改良があった場合などに限らない。例えば、車両の組立工程にて車載制御システムを搭載し、各ECU2a,2b,2cの物理的配置を決めた後に機能を再配置する場合などに、GW1又はGW5から各ECU2a,2b,2cへ各機能を発揮させるためにコンピュータプログラムの書き換えが必要な場合もある。また、このような組立工程にて、テーブル情報、又は固定情報などを車両のグレード、仕向地、車種、オプションなどによって初期化する必要がある場合など、本発明における特定の情報として送信される構成することにより、従前に時間を要していた工程を短時間にて完了させることができるなどの効果を奏する。
【0075】
実施の形態1及び2では、GW1又はGW5が特定の通信装置として、外部から書き換え対象のコンピュータプログラムを受信し、特定のプロトコル及び通信速度にてECU2aの制御プログラム22aを書き換えさせる構成とした。しかしながら、本発明はこれに限らず、ECU2a,2b,2cなどのECUが特定の通信装置として外部からコンピュータプログラムを取得し、制御プログラムの書き換え対象の他のECUへ特定のプロトコル及び通信速度で送信する構成としても良いし、GWの書き換え可能な不揮発性メモリに記憶されている制御プログラムを書き換えさせるため、GWへ特定のプロトコル及び通信側で送信する構成としてもよい。
【0076】
なお、開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0077】
1 GW(通信装置)
12 無線通信部
14 CAN通信部(通信手段)
141 ネットワークコントローラ(通信手段)
142 ネットワークコントローラ(通信手段)
2a ECU(特定の制御装置)
2b,2c ECU(制御装置)
21a,21b,21c 記憶部
22a,22b,22c 制御プログラム
24a,24b,24c CAN通信部(通信手段)
241a ネットワークコントローラ(通信手段)
242a ネットワークコントローラ(通信手段)
5 GW(通信装置)
52 無線通信部
54 CAN通信部(通信手段)
541 ネットワークコントローラ(通信手段)
542 ネットワークコントローラ(通信手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象を制御するための制御用の情報を送受信する通信手段を備え、通信線にバス型に接続されている複数の制御装置と、前記通信線に接続される通信手段を備えて前記複数の制御装置と通信することが可能な通信装置とを含み、各制御装置及び通信装置は、前記通信線に送信される制御用の情報に基づき制御を行なうようにしてある制御システムにおいて、
前記複数の制御装置の内の特定の制御装置、及び前記通信装置の通信手段は、通信プロトコル又は通信速度を、複数の異なるプロトコル又は複数の異なる通信速度の内のいずれかに切り替える手段を備え、
前記特定の制御装置及び前記通信装置の間で特定の情報を送信する場合、夫々の前記通信手段における通信プロトコル又は通信速度を特定のプロトコル及び通信速度に切り替えるようにしてあること
を特徴とする制御システム。
【請求項2】
前記制御装置は、
制御対象を制御するための処理を実行させるコンピュータプログラムを記憶する手段と、
前記コンピュータプログラムを読み出して実行するプロセッサと
を備え、
前記プロセッサは前記コンピュータプログラムに基づき制御を行なうようにしてあり、
前記通信装置は、
外部から書換対象のコンピュータプログラムを取得する手段と、
取得したコンピュータプログラムを前記特定の情報として前記特定の制御装置へ送信する手段と
を備えること
を特徴とする請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
前記通信装置は、前記特定の情報を送信する前に、送信先の前記特定の制御装置を示す送信先情報を前記通信線へ送信する手段を備えること
を特徴とする請求項1又は2に記載の制御システム。
【請求項4】
前記通信装置は、
前記特定の情報を送信する前に、前記特定の通信速度の速度情報を前記通信線へ送信する手段を備えること
を特徴とする請求項3に記載の制御システム。
【請求項5】
前記通信装置は、
前記送信先情報又は速度情報に対する応答を受信した場合に、前記特定の情報の送信を実行するようにしてあること
を特徴とする請求項3又は4に記載の制御システム。
【請求項6】
前記通信装置は、前記特定の情報の送信を完了した場合、完了通知を前記通信線へ送信する手段を備えること
を特徴とする請求項3乃至5のいずれかに記載の制御システム。
【請求項7】
前記通信装置は、無線により外部から前記特定の情報を取得する手段を備えること
を特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の制御システム。
【請求項8】
制御対象を制御するための処理を実行させるコンピュータプログラムを記憶する手段、前記コンピュータプログラムを読み出して実行するプロセッサ、及び、通信手段を備えて、通信線にバス型に接続されている複数の制御装置と、前記通信線に接続され、通信手段を備える通信装置とを含み、前記複数の制御装置の内の特定の制御装置、及び前記通信装置の通信手段は、通信プロトコル又は通信速度を、複数の異なるプロトコル又は複数の異なる通信速度のいずれかに切り替え可能にしてあり、前記複数の制御装置及び通信装置間で制御対象を制御するための制御用の情報を送受信するようにしてある制御システムで、前記通信装置が前記特定の制御装置へ書換対象のコンピュータプログラムを送信し、前記制御装置にてコンピュータプログラムを書き換える方法であって、
前記通信装置は、前記特定の制御装置へ前記書換対象のコンピュータプログラムを送信する場合、前記通信手段の通信プロトコル又は通信速度を特定の通信プロトコル又は特定の通信速度へ切り替え、
前記特定の制御装置は、前記書換対象のコンピュータプログラムを受信する場合、前記通信手段の通信プロトコル又は通信速度を前記特定の通信プロトコル及び通信速度へ切り替え、
前記通信装置及び前記特定の制御装置は、前記書換対象のコンピュータプログラムの送受信を完了した場合、通信プロトコル及び通信速度を制御用の情報を送受信するための通信プロトコル及び通信速度に戻し、
前記特定の制御装置は、記憶してあるコンピュータプログラムを、受信したコンピュータプログラムに書き換える
ことを特徴とする制御プログラム書換方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−272971(P2010−272971A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121152(P2009−121152)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】