説明

制御方法、制御装置および環境試験装置

【課題】設定温度と制御対象空間の温度との温度ずれを自動的に補正できるようにする。
【解決手段】設定部12に設定される設定温度に基づいて、設定温度と試験室内温度との温度ずれを補正する補正値を、補正式に従って算出し、算出した補正値によって、温度センサ10からの検出温度を補正部11で補正し、補正した検出温度と設定部12に設定される設定温度に基づいて、加熱器8を制御して試験室の温度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験室などの制御対象空間の少なくとも温度を制御する制御方法、制御装置およびそれを用いた環境試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製品開発などを行うに際し、一定温度の条件下における製品の性能や耐久性などを試験するために、例えば、恒温試験室を備える環境試験装置を用いた環境試験が行われる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
こうした環境試験装置では、断熱壁で囲まれた制御対象空間である試験室の温度を検出し、この検出温度が設定温度になるように、試験室との間で空気を循環させる空調室のヒータ及び冷却器を制御することによって、試験室の温度を設定温度に維持するようにしている。
【0004】
かかる環境試験装置では、一般に、温度センサは、試験室への空気の吹出口付近に配置されるので、試験室への空気の吹出口付近の温度が設定温度に制御されることになる。このため、設定温度と試験室の中央付近の温度とに温度ずれが生じ易く、特に、作業者が出入りできるような大型の試験室の場合には、周囲から試験室へ熱の侵入、あるいは、試験室から周囲への熱の放出が大きいために、設定温度と試験室の中央付近の温度との間に温度ずれが生じる。
【0005】
近年では、より厳格な環境試験が要求されつつあり、かかる温度ずれを改善することが望まれる。
【0006】
従来では、環境試験装置のユーザが、設定温度と試験室の中央付近の温度との温度ずれを予め計測しておき、その温度ずれ分をオフセットとして設定温度を設定したり、あるいは、温度センサを、試験室内の中央寄りに配置したりしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−17868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、環境試験装置のユーザが、設定温度毎に予め設定温度と試験室中央付近との温度ずれを計測し、その温度ずれ分を見込んで設定温度を設定するのは大変面倒である。
【0009】
また、温度センサを試験室の中央寄りに配置すると、試験室内に配置される発熱性の被試験物からの発熱の影響を受けることになり、正確な温度環境を形成することが困難となる。
【0010】
本発明は、上述のような点に鑑みてなされたものであって、設定温度と制御対象空間の温度との温度ずれを自動的に補正できるようにすることを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明では次のように構成している。
【0012】
(1)本発明は、温度センサからの検出温度が、設定部に設定された設定温度になるように、制御対象空間の少なくとも温度を制御する制御方法であって、
前記設定温度に基づいて、前記設定温度と前記制御対象空間内の温度との温度ずれをなくすための補正値を求め、該補正値によって前記検出温度および前記設定温度の少なくともいずれか一方の温度を補正するものであり、前記補正値が前記設定温度の一次関数となるものである。
【0013】
制御対象空間とは、少なくとも温度制御の対象とされる空間をいい、例えば、恒温室や試験室などである。
【0014】
制御対象空間は、空調室で空調された空気が、該空調室との間で循環されるのが好ましい。
【0015】
温度センサは、空調室からの空気が制御対象空間に吹出される吹出口付近に配置されるのが好ましい。
【0016】
温度ずれは、設定温度と制御対象空間内の中央付近の温度との温度ずれであるのが好ましい。
【0017】
温度の補正は、検出温度または設定温度のいずれかの一方の温度を補正するのが好ましいが、検出温度および設定温度の両温度を補正してもよい。
【0018】
温度制御される制御対象空間は、その周囲からの侵入熱、あるいは、周囲への放出熱の影響によって、制御対象空間内の温度と設定部に設定された設定温度との間に温度ずれが生じる。この温度ずれは、設定温度に対して略直線的に変化するのであるが、本発明の制御方法によると、温度ずれをなくすように設定温度の一次関数となる補正値を求め、この補正値によって、温度センサからの検出温度および設定部に設定された設定温度の少なくともいずれか一方の温度を補正するので、制御対象空間内の温度と設定温度との温度ずれが、自動的に改善または解消されることになる。
【0019】
しかも、従来例のように、設定温度毎に予め設定温度と制御対象空間の温度ずれを計測し、その温度ずれ分を見込んで設定温度を設定する必要がなく、また、制御対象空間内に配置される発熱する物品の影響を受ける中央寄りの位置に温度センサを配置する必要がない。
【0020】
(2)本発明の好ましい実施態様では、前記制御対象空間内の相対湿度が、前記設定部に設定された設定相対湿度になるように、水蒸気圧制御または絶対湿度制御を行うものであって、
前記設定部に設定された設定相対湿度において、前記補正値が前記設定温度の一次関数となるものである。
【0021】
この実施態様によると、制御対象空間内の湿度制御を、相対湿度制御ではなく、水蒸気圧制御または絶対湿度制御、すなわち、絶対水分による制御としているので、温度ずれによる湿度のずれを併せて改善することができる。
【0022】
しかも、設定された相対湿度においては、制御対象空間内の温度と設定温度との温度ずれは、設定温度に対して略直線的に変化するので、設定温度の一次関数となる補正値を用いて前記温度ずれを補正することができる。
【0023】
(3)本発明の別の実施態様では、前記補正値を、前記設定部に設定された設定温度に基づいて、補正式に従って算出し、予め、異なる複数の設定温度で温度制御をそれぞれ行って、前記制御対象空間内の温度をそれぞれ計測して前記補正式に含まれる定数を決定するようにしてもよい。
【0024】
異なる複数の設定温度としては、設定温度の最高温度および最低温度、あるいは、それら近傍の温度とするのが好ましい。
【0025】
この実施態様によると、予め、温度制御を行って設定温度と制御対象空間内の温度との温度ずれを計測して、補正式の定数を決定することによって、決定された補正式に従って算出される補正値を用いて温度ずれを補正することができる。
【0026】
(4)上記(2)の実施態様では、前記補正値を、前記設定部に設定された設定温度および設定相対湿度に基づいて、補正式に従って算出し、予め、異なる複数の設定温度で温湿度制御をそれぞれ行って、前記制御対象空間内の温度をそれぞれ計測して前記補正式に含まれる定数を決定するようにしてもよい。
【0027】
この実施態様によると、予め、温湿度制御を行って、設定温度と制御対象空間内の温度との温度ずれを計測して、補正式の定数を決定することによって、決定された補正式に従って算出される補正値を用いて温度ずれを補正することができる。
【0028】
(5)本発明の制御装置は、温度センサからの検出温度が、設定部に設定された設定温度になるように、制御対象空間の少なくとも温度を制御する制御装置であって、
前記設定温度に基づいて、前記設定温度と前記制御対象空間内の温度との温度ずれをなくすための補正値を求め、該補正値によって前記温度センサからの検出温度および前記設定部に設定された設定温度の少なくともいずれか一方の温度を補正する補正手段を備え、前記補正値が前記設定温度の一次関数である。
【0029】
温度制御される制御対象空間は、その周囲からの侵入熱、あるいは、周囲への放出熱の影響によって、制御対象空間内の温度と設定部に設定された設定温度との間に温度ずれが生じる。この温度ずれは、設定温度に対して略直線的に変化するのであるが、本発明の制御装置によると、その温度ずれをなくすように設定温度の一次関数となる補正値を求め、この補正値によって、温度センサからの検出温度および設定部に設定された設定温度の少なくともいずれか一方の温度を補正するので、制御対象空間内の温度と設定温度との温度ずれが、自動的に改善または解消されることになる。
【0030】
しかも、従来例のように、設定温度毎に予め設定温度と制御対象空間の温度ずれを計測し、その温度ずれ分を見込んで設定温度を設定する必要がなく、また、制御対象空間内に配置される発熱する物品の影響を受ける中央寄りの位置に温度センサを配置する必要がない。
【0031】
(6)本発明の好ましい実施態様では、前記制御対象空間内の相対湿度が、前記設定部に設定された設定相対湿度になるように、水蒸気圧制御または絶対湿度制御を行う湿度制御手段を備え、
前記設定部に設定された設定相対湿度において、前記補正値が前記設定温度の一次関数である。
【0032】
この実施態様によると、制御対象空間内の湿度制御を、相対湿度制御ではなく、水蒸気圧制御または絶対湿度制御としているので、温度ずれによる湿度のずれを併せて改善することができる。
【0033】
しかも、設定された相対湿度においては、制御対象空間内の温度と設定温度との温度ずれは、設定温度に対して略直線的に変化するので、設定温度の一次関数となる補正値を用いて前記温度ずれを補正することができる。
【0034】
(7)本発明の環境試験装置は、本発明に係る制御装置を備え、前記制御対象空間が、被試験物が配置される試験室である。
【0035】
本発明の環境試験装置によれば、温度制御される試験室は、その周囲からの侵入熱、あるいは、周囲への放出熱の影響によって、試験室内の温度と設定部に設定された設定温度との間に温度ずれを生じるが、本発明の環境試験装置によると、その温度ずれをなくすように設定温度の一次関数となる補正値を求め、この補正値によって、温度センサからの検出温度および設定部に設定された設定温度の少なくともいずれか一方の温度を補正するので、制御対象空間内の温度と設定温度との温度ずれが、自動的に改善または解消されることになる。
【0036】
しかも、従来例のように、設定温度毎に予め設定温度と試験室の温度ずれを計測し、その温度ずれ分を見込んで設定温度を設定する必要がなく、また、試験室内に配置される発熱性の被試験物の発熱による影響を受ける中央寄りの位置に温度センサを配置する必要がない。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、設定温度に基づいて、制御対象空間内の温度と設定温度との温度ずれをなくすように、温度センサからの検出温度および設定部に設定された設定温度の少なくともいずれか一方の温度を補正するので、制御対象空間内の温度と設定温度との温度ずれが、自動的に改善または解消されることになる。しかも、従来例のように、設定温度毎に予め設定温度と制御対象空間の温度ずれを計測し、その温度ずれ分を見込んで設定温度を設定する必要がなく、また、制御対象空間内に配置される物品の発熱の影響を受ける中央寄りの位置に温度センサを配置する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は本発明の一実施形態の制御装置を備える環境試験装置の概略構成図である。
【図2】図2は設定温度と試験室の温度との温度ずれ量と、設定温度との関係を示す図である。
【図3】図3は補正式による設定温度と補正値との関係を示す図である。
【図4】図4は図1の制御装置の構成を示すブロック図である。
【図5】図5は本発明の他の実施形態の制御装置を備える環境試験装置の概略構成図である。
【図6】図6は設定相対湿度10%RHと95%RHの場合の補正式による設定温度と補正値との関係を示す図である。
【図7】図5の制御装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0040】
(実施形態1)
図1は、本発明の一実施形態に係る制御装置1を備える環境試験装置2の概略構成図である。
【0041】
この実施形態の環境試験装置2は、断熱壁3で囲まれ、仕切壁14によって仕切られた空調室4と制御対象空間としての試験室5とを備えており、空調室4と試験室5とは、仕切壁14の上方および下方に形成された吹出口14a及び吸込口14bで連通している。
【0042】
空調室4には、冷凍機6の冷媒で冷却される蒸発器7、加熱器8、及び、空調された空気を吹出口14aから吹出し、吸込口14bから吸込むことによって試験室5との間で循環させる送風機9が設けられている。空調室4の上部の吹出口14a付近には、循環空気の温度を検出する温度センサ10が配置されている。
【0043】
この実施形態の環境試験装置2は、温度センサ10の検出温度と、試験室5の目標温度である設定温度とに基づいて、検出温度が設定温度になるように温度制御する制御装置1を備えている。
【0044】
この実施形態の環境試験装置2は、試験室5に作業者が出入りできる程度の大型のものであり、試験室5からの周囲への熱の放出や周囲からの熱の侵入の影響を受け、試験室5の中央付近の温度と空調空気の吹出口4aの付近の温度センサ10によって検出される検出温度とに温度ずれが生じる。検出温度は、設定温度になるように制御されるので、設定温度と試験室5の中央付近の温度とに温度ずれが生じる。
【0045】
この温度ずれ量は、試験室5内への周囲からの侵入熱あるいは試験室5から周囲への放出熱に比例するものであり、この侵入熱あるいは放出熱は、試験室5の表面積に、試験室5の内外温度差及びパネル貫流率を乗じたものと等しくなる。すなわち、
温度ずれ量∝侵入熱あるいは放出熱=表面積×内外温度差×パネル貫流率
表面積及びパネル貫流率は、試験室5に固有のものであり、内外温度差のうち、試験室5外の周囲温度を略一定と見なすと、温度ずれ量は、試験室5内の温度、すなわち、試験室5の設定温度に比例したものとなる。
【0046】
図2は、試験室5内に被試験物を配置していない無負荷状態において、異なる複数の設定温度でそれぞれ温度制御の試運転を行なった場合の試験室5内の中央付近の温度をそれぞれ計測し、その計測結果に基づいて、設定温度と試験室5内の中央付近の温度との温度ずれ量との関係を示したものである。
【0047】
この図2では、横軸は設定温度を、縦軸は設定温度と試験室5内の中央付近の計測温度との温度ずれ量をそれぞれ示している。この図2に示されるように、温度ずれ量は、設定温度に対して直線的に変化する。
【0048】
この実施形態では、この温度ずれ量を補正値ΔTとし、上述の温度センサ10からの検出温度に補正値ΔTを加算し、加算した補正温度が設定温度になるように温度制御することによって、温度ずれ量を補正するものである。
【0049】
ここで、この温度ずれ量である補正値ΔTを算出するための補正式について検討する。
【0050】
試験室5内への周囲からの侵入熱あるいは試験室5から周囲への放出熱を、Q1とすると、
Q1=(T1−T2)×A×K
と表される。
【0051】
ここで、T1は試験室5の温度、T2は周囲温度、Aは試験室5の表面積、Kは試験室5を構成する断熱パネルのパネル貫流率である。
【0052】
このQ1による試験室5内の空気の温度変化、すなわち、試験室5上部の吹出口温度T3と試験室下部の吸込口温度T4との温度差(T3−T4)は、
T3−T4=Q1/(V×λ)
と表される。
【0053】
ここで、Vは循環風量、λは空気の比熱であり、この比熱λは、空気の温度、湿度によって変化する。
【0054】
したがって、温度ずれ量である補正値ΔTは、侵入熱あるいは放出熱による試験室5内の空気の温度変化(T3−T4)であるとすると、
ΔT=T3−T4=(T1−T2)×A×K/(V×λ)
となり、試験室5の表面積A、パネル貫流率K、および、循環風量Vを一定とすると、試験室温度T1と比熱λを考慮すればよい。なお、試験室5の周囲温度T2を考慮してもよいが、一定と見なして実運用上十分である。
【0055】
上記補正式を、実運用上簡単にするために、この実施形態では、補正値ΔTを設定温度Xの一次関数としている。すなわち、
ΔT=aX+b ……(1)
としている。
【0056】
ここで、a,bは、試験室5に固有の定数であり、このa,bは、予め、試験室5内に被試験物を配置していない無負荷状態において、少なくとも二つの異なる各設定温度でそれぞれ温度制御の試運転を行って、試験室5の中央付近の温度を計測することによって決定される。
【0057】
具体的には、設定温度として、例えば、最高温度および最低温度を設定してそれぞれ温度制御の試運転を行って試験室5内の中央付近の温度をそれぞれ計測し、各設定温度における設定温度と試験室5内の中央付近の計測温度との温度ずれ量を算出し、上記補正式の補正値ΔTを温度ずれ量とし、設定温度Xとして最高温度および最低温度をそれぞれ代入してa,bを求めるものである。
【0058】
例えば、設定温度−40℃で温度制御の試運転を行なって、試験室5内の中央付近の計測温度が−38.2℃であり、温度ずれ量が+1.8度であるとすると、上記補正式(1)より、
1.8=a×(−40)+b
となる。
【0059】
また、設定温度+80℃で温度制御の試運転を行なって、試験室5内の中央付近の計測温度が+78.2℃であり、温度ずれ量が−1.8度であるとすると、上記補正式(1)より、
−1.8=a×80+b
となる。
【0060】
上記両式より、
a=−0.03、b=0.6となる。
【0061】
したがって、補正式(1)は、
ΔT=−0.03X+0.6 ……(2)
となる。この補正式(2)によって、図3に示すように、設定温度に対して補正値が求めることができる。
【0062】
この実施形態では、上述のように異なる各設定温度において、それぞれ試運転を行なって試験室5内の中央付近の温度をそれぞれ計測し、それら計測温度を、図1の制御装置1に入力する。これによって、制御装置1では、上記a,bを算出して補正式を決定する。
【0063】
以上の試運転および補正式の決定までは、環境試験装置の製造メーカ側において行われる。
【0064】
図4は、この制御装置1の構成を示すブロック図であり、図1に対応する部分には、同一の参照符号を付す。
【0065】
この実施形態の制御装置1は、温度センサ10からの検出温度を補正する補正部11を備えており、この補正部11には、上述のようにして決定された補正式が格納されている。補正部11は、設定部12によって設定される設定温度(X)に基づいて、例えば上記補正式(2)に従って補正値(ΔT)を算出し、この補正値(ΔT)を、温度センサ10からの検出温度に加算して補正する。
【0066】
制御出力演算部13は、補正値(ΔT)が加算された検出温度と、設定部12で設定された設定温度との偏差に基づいて、PID演算等を行って操作量を出力し、加熱器8を制御する。これによって、補正部11によって補正された検出温度が、設定温度になるように制御され、試験室5内の中央付近の温度が設定温度になるように制御されることになり、温度ずれが改善または解消される。
【0067】
なお、補正部11および制御出力演算部13等は、例えば、マイクロコンピュータによって構成される。
【0068】
また、制御装置1の設定部12は、設定温度の設定や各種の設定を行なうものであって、例えばタッチパネルやキーボードなどによって構成される。
【0069】
この実施形態によると、設定部12に設定される設定温度に基づいて、設定温度と試験室5内の温度との温度ずれをなくすように、温度センサ10からの検出温度を補正部11で補正するので、前記温度ずれが自動的に改善または解消されることになり、環境試験装置2のユーザは、設定部12に所望の設定温度を設定すればよく、従来例のように、設定温度毎に予め設定温度と制御対象空間の温度ずれを計測し、その温度ずれ分を見込んで設定温度を設定する必要がない。また、試験室5内に配置される発熱性の被試験物の発熱の影響を受ける中央付近に温度センサ10を配置する必要もない。
【0070】
(実施形態2)
上述の実施形態では、温度のみを制御したけれども、本発明は、温湿度制御にも適用できるものである。図5は、本発明の他の実施形態に係る温湿度制御を行う環境試験装置2aの概略構成図であり、上述の図1に対応する部分には、同一の参照符号を付す。
【0071】
この実施形態の環境試験装置2aでは、空調室4の吹出口14a付近には、乾球温度センサ10aと湿球温度センサ15とが設けられており、両温度センサ10a,15の各検出温度が制御装置1aに与えられる。空調室4には、制御装置1aによって制御される加湿器16が設けられている。
【0072】
この実施形態の制御装置1aは、上述の実施形態と同様に、設定温度と試験室5内の中央付近との温度ずれを補正するものであるが、補正値ΔTを算出するための補正式は、湿度の影響を考慮して下記の補正式としている。
【0073】
ΔT=(aX+b)(100−cH)/100 ……(3)
ここで、cは試験室5に固有の定数であり、Hは設定相対湿度(%RH)であり、a,b,Xは、上述の温度制御の補正式(1)と同じである。
【0074】
上述の侵入熱あるいは放出熱の影響は、空気の比熱、すなわち、空気中の水分量によって相違するので、この実施形態では、上述の温度制御の補正式(1)の右辺に、湿度の寄与を考慮して、(100−cH)/100を乗じたものであり、この補正式(3)は、温湿度制御の実運用上、温度ずれ及び湿度ずれに十分な改善効果があることが確認された。
【0075】
温湿度制御を行わず、温度制御のみを行う場合には、補正式(3)においてc=0とすれば、上述の温度制御の補正式(1)となる。
【0076】
温湿度制御の場合の定数cの値は、上述のa,bと同様に、予め、温湿度制御の試運転を行なって設定温度と試験室5内の中央付近の温度を計測して決定する。
【0077】
例えば、上述と同様にしてa,bを、a=−0.03、b=0.6と決定し、
下記の補正式が得られたとする。
【0078】
ΔT=(−0.03X+0.6)×(100−cH)/100 ……(4)
この場合、設定温度を80℃、設定相対湿度を95%RHの温湿度制御の試運転を行なったときに、試験室5内の中央付近の計測温度が、+79.4℃であり、温度ずれ量が−0.6度であるとすると、上記補正式(4)は、
−0.6=(−0.03×80+0.6)×(100−c×95)/100
となり、
c=0.70
となる。
【0079】
したがって、この場合の補正式(3)は、
ΔT=(−0.03X+0.6)×(100−0.70H)/100
……(5)
となる。
【0080】
以上の試運転および補正式の決定までは、上述の実施形態と同様に、環境試験装置の製造メーカ側において行われる。
【0081】
図6に、上記補正式(5)において、設定相対湿度Hが95%RHおよび10%Rhのときの設定温度Xに対する補正値ΔTの変化をそれぞれ示す。
【0082】
この図6に示すように、或る設定相対湿度において、補正値(温度ずれ量)は、設定温度に対して直線的に変化する。相対湿度が変化すると空気の比熱が変化するために、設定相対湿度Hが、10%RHの方が、95%RHに比べて、侵入熱あるいは放出熱の影響を受け易く、その補正値(温度ずれ量)の変化も急なものとなる。
【0083】
図7は、この実施形態の制御装置1aの構成を示すブロック図であり、図6に対応する部分には、同一の参照符号を付す。
【0084】
設定部12は、設定温度を設定する温度設定部12aおよび相対湿度を設定する相対湿度設定部12bとしての機能を有しており、上述の実施形態と同様に、例えばタッチパネルやキーボードなどによって構成される。
【0085】
補正部11aには、上述のようにして決定された補正式が格納されており、この補正部11aでは、温度設定部12aからの設定温度(X)と相対湿度設定部12bからの設定相対湿度(H)に基づいて、例えば上記補正式(5)に従って補正値(ΔT)を算出し、乾球温度センサ10aからの検出温度に加算して補正する。
【0086】
制御出力演算部13は、補正値(ΔT)が加算された検出温度と、温度設定部12aで設定された設定温度との偏差に基づいて、PID演算等を行って操作量を出力し、加熱器8を制御する。これによって、補正部11aによって補正された検出温度が、設定温度になるように制御され、試験室5内の中央付近の温度が設定温度になるように制御されることになり、温度ずれが改善または解消される。
【0087】
この実施形態では、温度ずれによる湿度のずれを併せて改善するために、湿度の制御を、相対湿度制御ではなく、絶対水分による制御、この実施形態では、水蒸気圧制御としている。
【0088】
すなわち、乾球温度センサ10aからの乾球温度と湿球温度センサ15からの湿球温度とに基づいて、水蒸気分圧実測値算出部17によって水蒸気分圧の実測値を算出する一方、温度設定部12aからの設定温度と相対湿度設定部12bからの設定相対湿度とに基づいて、水蒸気分圧設定値算出部18によって水蒸気分圧の設定値を算出する。制御出力演算部19では、水蒸気分圧の実測値が、水蒸気分圧の設定値になるようにPID演算等を行って操作量を出力して加湿器16を制御する。この実施形態では、水蒸気分圧実測値算出部17、水蒸気分圧設定値算出部18および制御出力演算部19によって湿度制御手段が構成される。
【0089】
この実施形態によると、上述の実施形態と同様に温度ずれを改善または解消できると共に、湿度制御を、相対湿度制御ではなく、絶対水分による水蒸気圧制御としているので、湿度が正確に制御され、湿度ずれも改善されることになる。
【0090】
なお、本発明の他の実施形態として、水蒸気圧制御に代えて、絶対湿度制御としてもよい。
【0091】
(その他の実施形態)
(1)上述の各実施形態において、上述の補正式の各定数a,b,cを決定した試運転時の周囲温度をT0としたときに、実運用の運転時の周囲温度T0´が、前記試運転時の周囲温度T0と大きく相違するような場合には、下記の式に示すように、上述の補正値ΔTに、(X−T0´)/(X−T0)を乗じて補正値ΔT´とし、この補正値ΔT´を用いて補正してもよい。
【0092】
ΔT´=ΔT×(X−T0´)/(X−T0
また、上述の各実施形態において、上述の補正式の各定数a,b,cを決定した試運転時の風量をV0としたときに、実運用の運転時における風量V0´が、前記試運転時の風量V0と大きく相違するような場合には、下記の式に示すように、上述の補正値ΔTに、V0/V0´を乗じて補正値ΔT´´とし、この補正値ΔT´´を用いて補正してもよい。
【0093】
ΔT´´=ΔT×V0/V0´
(2)上述の実施形態2の補正式(3)における湿度の補正項(100−cH)/100は、次式のように湿り比熱に置き換えて、精度を高めるようにしてもよい。
【0094】
(100−cH)/100⇒CH0/CH´
=(Cg+Cv・m0)/(Cg+Cv・m´)
ここで、CH0:定数a,b,c決定時の湿り比熱
CH´:設定温湿度の湿り比熱
Cg:乾き空気の定圧比熱 1.005[KJ/kg´・K]
Cv:水蒸気の定圧比熱 1.884[KJ/kg´・K]
237〜393Kにおける平均値
0:定数a,b,c決定時の絶対水分[kg/kg´]
m´:設定温湿度の絶対水分[kg/kg´]
(3)上述の各実施形態では、温度センサからの検出温度を、補正値によって補正したけれども、本発明の他の実施形態として、設定部に設定された設定温度を補正してもよく、検出温度および設定温度の両者を補正してもよい。
【0095】
(4)上述の各実施形態では、補正式に従って補正値を算出したけれども、本発明の他の実施形態として、補正値のテーブルを格納しておき、このテーブルの補正値、あるいは、その補正値を用いて補間した補正値を用いて補正してもよい。
【0096】
(5)上述の各実施形態では、環境試験装置に適用して説明したけれども、本発明は、環境試験装置に限らず、恒温装置、恒温恒湿装置など少なくとも対象空間を温度制御する装置に適用できるものである。
【符号の説明】
【0097】
1,1a 制御装置
2,2a 環境試験装置
5 試験室(制御対象空間)
7 蒸発器
8 加熱器
10 温度センサ
10a 乾球温度センサ
11,11a 補正部
15 湿球温度センサ
16 加湿器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度センサからの検出温度が、設定部に設定された設定温度になるように、制御対象空間の少なくとも温度を制御する制御方法であって、
前記設定温度に基づいて、前記設定温度と前記制御対象空間内の温度との温度ずれをなくすための補正値を求め、該補正値によって前記検出温度および前記設定温度の少なくともいずれか一方の温度を補正するものであり、
前記補正値が前記設定温度の一次関数となる、
ことを特徴とする制御方法。
【請求項2】
前記制御対象空間内の相対湿度が、前記設定部に設定された設定相対湿度になるように、水蒸気圧制御または絶対湿度制御を行うものであって、
前記設定部に設定された設定相対湿度において、前記補正値が前記設定温度の一次関数となる、請求項1に記載の制御方法。
【請求項3】
前記補正値は、前記設定部に設定された設定温度に基づいて、補正式に従って算出されるものであり、
予め、異なる複数の設定温度で温度制御をそれぞれ行って、前記制御対象空間内の温度をそれぞれ計測して前記補正式に含まれる定数を決定する、
請求項1に記載の制御方法。
【請求項4】
前記補正値は、前記設定部に設定された設定温度および設定相対湿度に基づいて、補正式に従って算出されるものであり、
予め、異なる複数の設定温度で温湿度制御をそれぞれ行って、前記制御対象空間内の温度をそれぞれ計測して前記補正式に含まれる定数を決定する、
請求項2に記載の制御方法。
【請求項5】
温度センサからの検出温度が、設定部に設定された設定温度になるように、制御対象空間の少なくとも温度を制御する制御装置であって、
前記設定温度に基づいて、前記設定温度と前記制御対象空間内の温度との温度ずれをなくすための補正値を求め、該補正値によって前記温度センサからの検出温度および前記設定部に設定された設定温度の少なくともいずれか一方の温度を補正する補正手段を備え、
前記補正値が前記設定温度の一次関数である
ことを特徴とする制御装置。
【請求項6】
前記制御対象空間内の相対湿度が、前記設定部に設定された設定相対湿度になるように、水蒸気圧制御または絶対湿度制御を行う湿度制御手段を備え、
前記設定部に設定された設定相対湿度において、前記補正値が前記設定温度の一次関数である
請求項5に記載の制御装置。
【請求項7】
前記請求項5または6に記載の制御装置を備え、
前記制御対象空間が、被試験物が配置される試験室である、
ことを特徴とする環境試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−96644(P2013−96644A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240045(P2011−240045)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000108797)エスペック株式会社 (282)
【Fターム(参考)】