説明

制振切削工具及びその製造方法

【課題】高強度で、かつ、材料自体が振動吸収能をもつ切削工具を提供する。
【解決手段】炭素0.20重量%以下、シリコン0.01〜3.0重量%、マンガン18.0%未満、クロム20.0重量%以下、アルミニウム0.1重量%以下、残部鉄を含んでなる鋼であって、積層欠陥エネルギーSFE(mJ/m)を20(mJ/m)以下の条件を満たす化学組成になるように溶製し、所定の熱処理条件、冷却条件及び冷間加工条件を満たす製造方法によってε−Ms相が5〜80体積%となるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度で優れた振動減衰能を有する制振切削工具及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
切削工具を用いた切削加工、例えば、旋盤加工における内径ボーリング加工や、マシニングセンタによる中繰り加工、エンドミルやフライス加工による深穴部の加工は、工具断面寸法に対して突出し量の大きい長尺ホルダを用い、その先端に切削バイトやフライス工具等を取付けて加工を行う。そのため、工具ホルダが長くなるほど、切削バイト先端での剛性は低下し、びびり振動が発生しやすくなり、表面粗さや寸法精度の悪化、工具の破損或いは切削効率の低下等の悪影響を及ぼす。
厚みの薄い円板状回転切削工具は、切削中に刃先が被切削材に食込んだときに円板の厚み方向の横振動が生じ、その結果、切削面を悪化させ、切削効率を低下させ、切削工具の寿命を低下させることになる。
【0003】
その対策として、切削時のびびりを抑制する手段として、例えば、特許文献1は、制振性材料と超硬合金を複合させて制振性と剛性を発揮させる技術を提案している。また、特許文献2は、工具ホルダの内部に制振用錘を粘弾性物質によって保持する技術を提案している。
ここで、特許文献1及び2に例示される方法は、振動吸収機能を持たせる構造が極めて複雑であり、また、耐久信頼性が不十分であるという問題がある。このことから、理想的な技術として、材料自体が高強度でかつ振動吸収能をもつ制振切削工具が求められている。
【0004】
特許文献3によれば、円板状回転切削工具の台金の円周方向にハンマリング等によりむらのある不均一な残留応力を発生させ、回転中の台金の横方向の剛性や臨界回転数を上昇させる技術が開示されている。特許文献4によれば、円板状回転切削工具の台金に設けられているスリットの配設位置及び配設状態を具体的に特定することにより、高い剛性と高い共振臨界回転数を有する耐久性が高く切削振動が生じ難くする技術が開示されている。
しかしながら、上記のような円板状回転切削工具の台金のハンマリングやスリット構造の工夫のみでは、円板状回転切削工具の振動低減には限界があるので、台金用材料として、材料自体に振動吸収能があり、かつ、機械的性質及び価格の面からの要請を満足する材料が求められている。
【0005】
制振性のある材料としては、鋳鉄、Mn−Cu合金、Mg−Zr合金、Mg−Ni合金、Al−Zn合金、Fe−Al−Cr合金、Ni−Ti合金、Cu−Al−Ni合金等が知られている。これらの内、鋳鉄やMg系合金は強度が低いという欠点がある。Mn−Cu系合金は、強度が低い上に100℃以上では減衰能が極端に減少する欠点がある。Fe−Al−Cr合金は、歪によって減衰能が低下するという欠点がある。これらの材料は、振動減衰能は比較的優れているが、高価な元素を多く含んでいるため、合金材料の価格上昇となり、切削工具には強度及び価格の点から不適である。
【0006】
上記の問題を解決するために、例えば、特許文献5によれば、機械的強度が高く、振動減衰能を有する材料として、高強度高減衰能Fe−Cr−Mn合金及びその製造方法が開示されている。この特許には、クロム重量百分率9〜15%、マンガン重量百分率18〜26%、残部鉄からなり、イプシロン・マルテンサイト相が40%以上である高強度高減衰能Fe−Cr−Mn合金及びその製造方法が開示されている。上記Fe−Cr−Mn合金は、組成的にステンレス鋼をベースとしたものであり、その機械的性質はステンレス鋼とほぼ同等であり、かつ、制振性に優れているので上記の問題点を解決する発明である。
【0007】
しかしながら、特許文献5によって開示された技術によれば、マンガン重量百分率18〜26%であると開示されているが、この材料を溶製する場合、マンガン成分が蒸発し易いため添加するマンガン合金の歩留まりが悪く、かつ、マンガンは鋼の溶製時に用いられる耐火物の溶損を著しく増大させるという難点があるので、溶製コストが高くなるために上記の工業的用途が極めて制限されるという問題点がある。そして、マンガン成分が多いと材料自体が極めて硬くなるために熱間加工時の割れ発生や冷間加工時にコストがかかるという問題点がある。
【0008】
一方、本発明者らは、特許文献6に示すように、振動減衰能のある材料として、炭素重量百分率0.05%以下、マンガン重量百分率13〜18%、クロム重量百分率9〜15%、ニッケル重量百分率0.01〜6.0%、アルミニウム重量百分率0.01〜0.05%、窒素重量百分率0.01%以下、残部鉄からなる材料を冷間加工によって、マトリックスであるオーステナイト相(以下、「γ−相」という。)中にイプシロン・マルテンサイト相(以下、「ε−Ms相」という。)を体積百分率10%以上生成させることを特徴とする高強度高減衰能Fe−Mn−Cr−Ni合金を提案している。しかしながら、特許文献6においては、冷間加工による方法によって高強度高減衰能合金を推奨しているが、振動減衰能が安定して得られないので、切削工具としては不適である。
【0009】
特許文献6においては、ニッケル重量百分率0.01〜6.0%添加することによって、マンガン重量百分率13〜18%とマンガン量を少なくすることができるというものである。この技術は、ニッケル添加によってマンガン成分を低くすることで製造コストを低減するための対策技術ではあるが、高価なニッケルを添加して冷間加工性を向上しようとする対応策である。原料コストの観点に立てば、むしろ、コストが嵩むことともなる技術であり、総合的製造コストの原理原則に立ち返って検討し直すことが必要である。
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討した結果、熱処理又は冷間加工によってε−Ms相が生成し易い度合いを示す積層欠陥エネルギーSFE(mJ/m)(非特許文献1参照)(以下、「SFE」という。)に着目し、SFEを20mJ/m以下に保持した上で、マンガンの効果をシリコンの微量添加によって一部置換えることによってマンガン量の低減ができることを見出し、その効果を実証する知見を得て特許文献7を出願している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4512677号公報
【特許文献2】特開平10−180703号公報
【特許文献3】特開2005−119205号公報
【特許文献4】特開2005−186240号公報
【特許文献5】特許第3378565号公報
【特許文献6】特開2007−321243号公報
【特許文献7】特開2010−090472号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Pickering:Proc.Conf.Stainless Steels,Gothenburg,Sept.(1984)
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、高強度で、かつ、材料自体が振動吸収能をもつ制振切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以下に、課題を解決するための手段の要点を示す。
(1)本発明者らが一貫して研究してきた高マンガン・ステンレス鋼を基本として、熱誘起又は加工誘起ε−Ms相を適切に生成させて、高強度で、かつ、材料自体が振動吸収能をもつ制振切削工具を提供する。
(2)切削工具に要求される強度を得るための安価で効果的な手段は、炭素含有量を上げることである。その際、固溶炭素量が多くなると、制振性の発現を阻害するだけでなく、結晶粒界に炭化物が生成し易くなるために靭性を阻害する。これに対して、本発明は、急速冷却と適切な熱処理によってクロム炭化物を結晶粒内に微細に析出させることによって、固溶炭素量を減少させ制振性を改善しかつ高強度と高靭性を得る技術を提供する。
(3)本発明になるε−Ms相が切削時の振動を効果的に吸収するための制振切削工具の形状を最適化する技術を提供する。
【0015】
本出願に係る発明は、[特許請求の範囲]の請求項1乃至7に記載した事項により特定される。
[特許請求の範囲]
[請求項1]
炭素の重量百分率[%C]を0.20[%]以下、
シリコンの重量百分率[%Si]を0.01〜3.0[%]、
マンガンの重量百分率[%Mn]を18.0[%]未満、
クロムの重量百分率[%Cr]を20.0[%]以下、
アルミニウムの重量百分率[%Al]を0.001〜0.10[%]、
残部を鉄の重量百分率[%Fe]、ニッケルの重量百分率[%Ni]、窒素の重量百分率[%N]及び不可避元素を含む鋼であって、
数式1によって計算される積層欠陥エネルギー(SFE)(mJ/m)が、
数式2を満足する鋼を含んで構成されることを特徴とする制振切削工具。
[数式1]
SFE(mJ/m) =25.7+2×[%Ni]+410×[%C]−
0.9×[%Cr]−77×[%N]−13×[%Si]−1.2×[%Mn] ・・・(1)
[数式2]
−20(mJ/m) ≦ SFE ≦ 20(mJ/m) ・・・(2)
[請求項2]
炭素の重量百分率[%C]を0.20[%]以下、
シリコンの重量百分率[%Si]を0.01〜3.0[%]、
マンガンの重量百分率[%Mn]を18.0[%]未満、
クロムの重量百分率[%Cr]を20.0[%]以下、
アルミニウムの重量百分率[%Al]を0.001〜0.10以下[%]、
残部を鉄の重量百分率[%Fe]、ニッケルの重量百分率[%Ni]、窒素の重量百分率[%N]、固溶炭素重量百分率[%]及び不可避元素として含み、500〜800℃で、1〜60分間のクロム炭化物析出のための熱処理を施す鋼であって、
数式3によって計算される積層欠陥エネルギー(SFE)(mJ/m)が、
数式2を満足する鋼を含んで構成されることを特徴とする制振切削工具。
[数式3]
SFE(mJ/m)=25.7+2×[%Ni]+410×[%]−
0.9×[%Cr]−77×[%N]−13×[%Si]−1.2×[%Mn] ・・・(3)
[請求項3]
X線回折法によって測定されたイプシロン・マルテンサイト相の体積パーセント[%ε−Ms相]が、数式4を満足する鋼を含んで構成されることを特徴とする、請求項1又は2に記載した制振切削工具。
[数式4]
5[体積%] ≦ [%ε−Ms相] ≦ 80[体積%] ・・・(4)
[請求項4]
片持ち梁法によって測定した制振性を表す損失係数(η)が、数式5を満足する鋼を含んで構成されることを特徴とする、請求項1乃至3の何れかに記載した制振切削工具。
[数式5]
0.005 ≦ η ≦ 0.10 ・・・(5)
[請求項5]
請求項1又は、請求項2によって規定された鋼であって、
第1工程として、950〜1200℃で、1〜5時間、加熱する工程、
第2工程として、加工仕上がり温度750〜950℃で、熱間加工する工程、
第3工程として、冷間加工する工程、
第4工程として、800〜1100℃で、1〜60分間、溶体化熱処理をした後、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/sec)の冷却速度で急速冷却する工程、
第5工程として、必要に応じて、500〜800℃で、1〜60分間、熱処理した後、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/sec)の冷却速度で急速冷却する工程、
第6工程として、必要に応じて、冷間加工率1〜50%の冷間加工を施す工程、
によって製造されることを特徴とする、請求項3乃至4の何れかに記載した制振切削工具に用いられる鋼の製造方法。
[請求項6]
請求項1又は、請求項2によって規定された鋼であって、
第1工程として、950〜1200℃で、1〜5時間、加熱する工程、
第2工程として、加工仕上がり温度750〜950℃で、熱間加工する工程、
第3工程として、800〜1100℃で、1〜60分間、溶体化熱処理をした後、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/sec)の冷却速度で急速冷却する工程、
第4工程として、必要に応じて、500〜800℃で、1〜60分間、熱処理した後に、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/sec)の冷却速度で急速冷却する工程、
第5工程として、必要に応じて、冷間加工率1〜50%の冷間加工を施す工程、
によって製造されることを特徴とする、請求項3乃至4の何れかに記載した制振切削工具に用いられる鋼の製造方法。
[請求項7]
防振切削工具の断面積をS[mm]、長さをL[mm]としたとき、数式6によって算出される形状ファクタF[−]から、数式7によって計算される一次共振周波数fn[Hz]を、切削時に発生する振動周波数より高い振動周波数に設定した形状ファクタFに設計することを特徴とする、請求項1乃至6の何れかに記載した制振切削工具。
[数式6]
F = S/L [−] (6)
[数式7]
fn = 0.5×10×F [Hz] (7)
[請求項8]
円板状切削工具の厚さをD[mm]、円板直径をR[mm]としたとき、数式8によって算出される形状ファクタF[−]から、数式9によって計算される一次共振周波数fn[Hz]を、切削時に発生する振動周波数より高い振動周波数になる様に円板状切削工具形状を設計することを特徴とする、請求項1乃至6の何れかに記載した制振切削工具。
[数式7]
= D/R [−] (8)
[数式8]
fn = 0.8×10×F [Hz] (9)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係わる制振切削工具及びその製造方法について具体的に説明する。
図1に、本発明における製造プロセスを示す。
【0017】
本発明の請求項1及び2において、シリコンの重量百分率を0.01〜3.0%、マンガンの重量百分率を18.0%未満としている。
これは、良好な制振性発現能を持ちながら、微量のシリコンを添加することによってマンガン量を低く抑えることができることを開示している。即ち、熱処理或いは冷間加工によってε−Ms相が生成し易い度合いを示す積層欠陥エネルギーSFE(mJ/m)の関係式(数式1及び3)において、マンガンの項は−1.2×[%Mn]であり、シリコンの項は−13×[%Si]であることから、シリコンはマンガンの約十倍のSFEの低下効果があることを示している。即ち、SFEを20mJ/m以下に保持する上で、微量の0.01〜3.0%のシリコン添加によってマンガン重量百分率を18.0%未満と少なく抑えられている。これは、高マンガン鋼において、優れた熱間加工性及び冷間加工性を得るために極めて重要な発明である。即ち、マンガン重量百分率が18.0%を超えると熱間加工性及び冷間加工性が悪くなり製造コストが上がるためである。好ましくは、マンガン重量百分率は3.0〜17.0%である。
【0018】
ここで、積層欠陥エネルギーを20mJ/m以下としたのは、急速冷却によるε−Ms相をより生成し易しくするためであり、この値が20mJ/mを超えるとε−Ms相の生成が不十分となるためであり、好ましくは、10mJ/m以下である。更に、シリコンを0.01重量%以上としたのは、0.01重量%以下ではシリコン添加効果が見られないためであり、3.0重量%以上はシリコンによる固溶体硬化によって材料が硬くなり過ぎるためであり、好ましくはシリコン重量百分率0.5〜1.5%である。マンガンの下限については、SFE(mJ/m)が20.0以下であれば必要なε−Ms相の体積分率を得ることができる。
【0019】
本発明の請求項1及び2において、クロム重量百分率20.0%以下としている。これは、本発明の基本となるγ−相の生成に関するものである。
図2に、Fe−Cr−Mn−Ni鋼の状態図を示した。
図2から明らかなように、クロムが20.0重量%を超える領域ではオーステナイト相(γ−相)とフェライト相(α−相)の2相が生成するので、クロムを20.0重量%以下、好ましくは、15.0%以下とする。
クロムの下限については、積層欠陥エネルギーSFE(mJ/m)(数式1又は3)を20(mJ/m)以下とする条件を満たす範囲を設定すればよい。これによって、クロムとマンガンの相乗効果によって効果的にγ−相を生成させる領域を広くとることができる。
ここで、特許文献6との比較では、ニッケルのγ−相生成の役割をシリコン、マンガン及びクロムが効果的に果しているので、制振性発現の観点からは高価なニッケルは必ずしも必要なくなっている。即ち、本発明においては、制振性発現以外の必要がない限り、ニッケルの意図的な添加の必要はない。
【0020】
本発明の請求項2において炭素を0.20重量%以下とするのは、製造コストを上げずに高強度で優れた制振性を付与するためである。この場合、炭素、特に、固溶炭素が多くなると振動吸収能を阻害するので、特定の熱処理を施すことによって、炭素をクロム炭化物の形にして固溶炭素を低減する技術を開示したものである。以下に、この技術を詳述する。
図3は、500、600及び700℃で熱処理した時の、全炭素重量百分率[%C]と固溶炭素重量百分率[%]の関係を示す。即ち、上記の熱処理をすることによって、各処理温度における固溶限を超える炭素量はクロム炭化物として大きな形状の析出物となり制振性発現への阻害を無くすことができる。
図4は、クロム炭化物を析出する領域を示す温度―時間関係図である。
図4に示すように、800〜1100℃の固溶化熱処理の後に急速冷却して、炭素を粒内に微細に残留した後、500〜800℃に熱処理してクロム炭化物を結晶粒内に析出させて、しかる後に急速冷却する。図5は、クロム炭化物析出処理した後の顕微鏡写真である。図5−1及び図5−2の比較において、本発明による熱処理をすることにより、結晶粒界にはクロム炭化物の析出が見られない。
【0021】
炭素と同様の影響を及ぼす窒素は、溶解製造時に大気中より窒素重量百分率0.010〜0.100%程度が不可避的に混入して振動減衰能を低下させるものであるが、アルミニウムを0.001〜0.10重量%以下添加して鋼中の窒素をAlNの大きい介在物の形にすることによって制振性発現への阻害を無くするものである。即ち、アルミニウムが0.001重量%未満であると上記の鋼中窒素と結合するに必要なアルミニウム含有量が不足する場合がり、0.10重量%を越えると過剰のアルミニウムによって鋼材の表面や内部にアルミナ系の欠陥が発生しやすくなる危険があるためである。
【0022】
本発明の請求項3において、X線回折法によって測定されたε−Ms相の体積百分率が5〜80体積%であることを開示している。これは、本発明の基本的な制振発現の必要条件である金属組織、即ち、ε−Ms相の定量的表現であり、5体積%未満では制振性が不十分となるためであり、80体積%を超えるとε−Ms相が相互に絡みあって逆に制振特性を低下させることが分かったものである。好ましくは、ε−Ms相の体積百分率が10〜60体積%である。
【0023】
本発明の請求項4において、片持ち梁方式によって測定された損失係数(η)が0.005〜0.10であることを開示しているが、これは制振性に優れた鋼材としての基本的な条件である。ここで、本発明になる鋼材の振動減衰能は振動歪依存が大きいので、損失係数(η)測定方法は、振動歪みを約10−4以上にする必要があるため、これを可能にする方法として片持ち梁方式を選択した。測定値においては、損失係数(η)が0.005未満であると制振性に優れた鋼としての振動減衰機能が不十分となるためであり、0.10を超えるための製造条件では鋼材の機械的性質が上記記載の用途に適さなくなるためである。
【0024】
本発明の請求項5又は6において、請求項1又は2に規定される化学組成を有する鋼を、
第1工程として、950〜1200℃で、1〜5時間、加熱する工程、
第2工程として、加工仕上がり温度750〜950℃で、熱間加工する工程、
第3工程として、冷間加工する工程、
第4工程として、800〜1100℃で、1〜60分間、溶体化熱処理をした後、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/sec)の冷却速度で急速冷却する工程、
第5工程として、必要に応じて、500〜800℃で、1〜60分間の、クロム炭化物析出処理した後、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/sec)の冷却速度で急速冷却する工程、
第6工程として、必要に応じて、冷間加工率1〜30%の冷間加工を施す工程、
を含んでなる工程によって製造された鋼によって構成されることを提案している。
ここで、特に、本発明における重要な工程は、第4工程、第5工程及び第6工程である。
第4工程は、所謂、固溶体化熱処理であり、熱処理温度を800〜1100℃としたのは、800℃未満の温度では冷間加工歪除去及びオーステナイト化が不十分となるためであるために制振性発現が不十分となるためであり、1100℃を超えるとオーステナイト結晶粒度が粗大化して機械的性質が不良となるためである。
第5工程は、ε−Ms相生成を阻害する固溶炭素を図4に示す温度、時間で熱処理することによってクロム炭化物の形にして、固溶炭素を低減させるためであり、本発明の重要な要素になっている。
第4及び5工程において急速冷却する理由は、γ−相からε−Ms相への相転移に於いて、効果的に熱誘起ε−Ms相を生成させるためであり、これを10〜50℃/secとした。10℃/sec未満の冷却速度ではε−Ms相の生成が不十分となる為である。
第6工程において、この鋼を更に1〜30%以下の冷間加工を施すことによってε−Ms相の体積%を増大させること又は冷間加工によって鋼の強度を上げる製造方法を開示している。
これは、用途によって必要な制振性や機械的性質或いは硬さを得るために必要に応じて選択することができる。
ここで、冷間加工率を1〜30%としたのは、冷間加工率が30%を超えると生成するε−Ms相の体積%が80体積%を超えるために、逆に有効なε−Ms相の振動が阻害されるので制振性が低下するためである。
【0025】
本発明の請求項7において、本発明になる鋼の組織として適量に制御されて生成したε−Ms相が外部からの振動を効果的に吸収するためには、本発明の制振切削工具の形状を最適にすることが必要である。即ち、制振切削工具の断面積をS[mm]、長さをL[mm]としたとき、数式6によって算出される形状ファクタF[−]から、数式7によって計算される共振周波数fn[Hz]を、切削加工時に発生する振動周波数より高い値となるように形状ファクタFを設計することによって、最大の制振性能を引出すことができることを提示している。具体的には、実験例4によって詳述する。
【0026】
本発明の請求項8は、円板状回転切削工具の場合を記載したものである。即ち、円板状切削工具の厚さをD[mm]、半径をR[mm]としたとき、数式8によって算出される形状ファクタF[−]から、数式9によって計算される共振周波数fn[Hz]を、切削加工時に発生する振動周波数より高い値となるように形状ファクタFを設計することによって、最大の制振性能を引出すことができることを提示している。
【0027】
以下、本発明を実験例によって説明する。
【0028】
[実験例1]
実験例1は板材について行ったものであるが、切削工具に用いられる丸鋼、或いは、形鋼についても適用できる。
実験例1として、表1に示す組成の鋼を溶製した。
ここで、表1に記載されていない元素について説明すると、窒素は、溶製時に不可避的に侵入するもので0.008〜0.10%の範囲とした。
リン(P)及び硫黄(S)はいずれも0.01%以下とした。
ニッケル(Ni)は、意図的には添加しなかった。
これを1000℃で2時間加熱し、仕上げ温度850℃で熱間加工して2.0mm厚の熱延鋼板とした。熱間圧延時に生成する熱間割れの有無によって熱間加工性を評価した。図6は、熱間圧延時に発生した熱間割れの表面写真であり、この発生を抑制することが必須である。次に、真空中で1050℃、1時間の熱処理を行った後に急速冷却した。このとき、500℃から常温までの冷却速度は20℃/秒であった。さらに、クロム炭化物の析出処理をする場合は、700℃で30分間の熱処理を行った後、水中に急速冷却した。
この材料の積層欠陥エネルギーSFE(mJ/m)を数式1又は3によって計算した。クロム炭化物析出処理をした場合の固溶炭素重量百分率[%]は、前述の図5の関係から読み取った値を使用した。鋼中のε−Ms相の体積%をX線回折法によって求めた。更に、片持ち梁方式によって損失係数(η)を測定した。損失係数(η)の測定方法は一端をクランプで固定し振動部のサイズは1.0mm厚×50mm幅×100mm長であり固定部を3G(3×980mm/s)の加速度で衝撃を与え自由減衰時間及び振動周波数を測定して損失係数(η)を求めた。このときの振動歪は10−4レベルであった。
冷間加工性は、試験用圧延機によって供試用サンプルを試作する際に次の熱処理が必要となるまでの冷間圧延率によって評価した。
冷間加工性評価の具体的な方法と結果については、実験例3に詳述する。
特に、表1において、本発明例13及び14は、炭素含有量が0.11%及び0.15%と0.10を超えて高い場合であるが、クロム炭化物析出熱処理を施している。比較例8及び9はクロム炭化物析出処理を行わなかったものである。これによって、高強度を目的として採用する、炭素重量百分率が0.10〜0.20%の比較的高い領域でのクロム炭化物析出処理の効果を比較することができる。
総合評価として、優良(◎)、良好(○)及び不可(×)の記号によって表わした。
【0029】
【表1】

【0030】
以下、表1について詳述する。
本発明例1〜14は、シリコンを本発明の推奨範囲内である0.5〜1.5重量%を添加した例である。
ここで、本発明例1〜3は、SFE値は、15mJ/m以下であり、ε−Ms相体積%は、本発明の請求範囲内であるので損失係数(η)、冷間加工性は極めて良好である。特に、本発明例3においては、シリコンを0,8%添加しているので、クロムが6.0重量%でもSFEの条件を満たせば極めて良好な制振性を示すことが確認できた。
次に、本発明例4〜14は、SFE値が20mJ/m以下でありε−Ms相体積%は本発明の請求範囲内であるので、損失係数(η)良好である。特に、クロムについては、SFEの条件を満足する範囲である、7.0重量%(本発明例5,7及び9)或いは5.0重量%(本発明例12)においても良好な制振性発現が確認された。
本発明例11においては、マンガン含有量が3.0重量%であるが、シリコンを1.5重量%にしているので、SFE値は14.7mJ/mと発明の範囲内であるので、ε−Ms相の体積分率、制振性が良好である。
本発明例13及び14は、炭素含有量が0.11%及び0.15%と高い場合であるが、クロム炭化物析出熱処理を施こしているので、損失係数(η)及び冷間加工性は良好である。これは、前述の図5に示されるように、結晶粒界への炭化物の析出がなく、制振性を阻害する固溶炭素はクロム炭化物として無害化されていることによって理解できる。これに対して、比較例8及び9は、炭素含有量は、0.15%及び0.22%と高値であるが、クロム炭化物析出処理をしなかったので、損失係数(η)は不良である。
比較例1及び2については、SFE、ε−Ms相体積%及び損失係数(η)の指標からの判断では、良好(○)であるが、マンガン量が22.0及び19.0重量%と高いために材料が硬く熱間割れが発生すること及び冷間加工性の観点から量産出来ないので総合評価は不可とする。冷間加工性については、実験例3の項において詳述する。
比較例3は、シリコン無添加のために制振性が不良である。
比較例4は、シリコン量が過大なので、材料が硬く加工コスト高いので実生産ができない。
比較例5は、マンガン量が不足しているため制振性が不良である。
比較例6は、クロム量が過大のため、母相がγ−相及びα−相の2相域となっているために、ε−Ms相の生成量が少ないので損失係数(η)も不十分である。
比較例7は、窒素をAlNの形に固定するに必要なAlが不足しているために、ε−Ms相の作用を阻害している。
比較例8及び9は、クロム炭化物析出の熱処理をしなかった例であり、過剰の固溶炭素がε−Ms相の制振性発揮を阻害している。即ち、本発明例との比較によって、クロム炭化物析出処理による高炭素領域での制振性改善効果が顕著である。比較例9は、炭素量が0.20重量%を超えているために、さらに制振性が不良である。
【0031】
更に、表1をグラフ化した図7、8及び9によって詳細に説明する。
図7は、SFEとε−Ms相体積%との関係を示すが、比較例6は、クロム組成比21重量%の場合であり、γ−相及びα−相の2相域となっているために、ε−Ms相の生成量が少ないので損失係数(η)も不十分である。
図8は、ε−Ms相体積%と損失係数(η)との関係を示すが、比較例7は、アルミニウムの添加量が過少のために固溶している窒素が損失係数(η)を低下させている為にε−Ms相体積%と損失係数(η)との関係が外れている。
図9は、マンガン及びシリコン含有量とε−Ms相体積%との関係を示しているが、比較例のシリコン無添加に対して本発明例はシリコンを0.5.〜1.0重量%の微量添加によってマンガン量が3〜17重量%であっても必要なε−Ms相の生成領域を増大することができることを示したものであり本発明の主要な効果を示している。
これらから明らかなように、例えば、本発明例1〜14は、優れた制振性と冷間加工性に優れた鋼を使用することによって振動吸収に優れた防振切削工具を提供できることが実証された。
【0032】
[実験例2]
実験例2は、本発明の請求項5及び6関するものである。即ち、損失係数(η)を発現するε−Ms相を効果的に生成させる製造条件に関するものであり、本発明の主要な要件を実証するものである。実験例2も板材について行ったものであるが、切削工具に用いられる丸鋼又は型鋼についても適用できる。
表1に記載した本発明例1の材料を用いた。これを1000℃で2時間加熱し、加工仕上げ温度850℃で熱間加工して2.0mm厚の熱延鋼板とした。これを、冷間圧延により1.1mm厚の冷延鋼板とした、これを1050℃×1hr、真空中で溶体化熱処理を行った後、表2に示す条件で冷却そして冷間圧延をおこなった。これの機械的性質及び制振性を測定した。
結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
表2について詳細に説明する。
試験No.1−1〜1−5は、1050℃で溶体化熱処理後に水中に急冷した場合である。
試験No.2−1〜2−5は、1050℃で溶体化熱処理後に空冷した場合である。
試験No.1−1及び1−2に示すように、溶体化熱処理後水中急冷のまま又はこれに5%程度の軽い冷間加工を加えたときに、制振性にすぐれた鋼を得ることができる。
試験No.1−3及び1−4は、使用目的によって引張り強度を必要とした場合を想定したものであるが、冷間加工によって当然低下するが制振性は優れている。
このように、熱処理後に急冷することによって、熱誘起ε−Ms相を生成させる製造方法は様々な用途に対応できる。
ただし、35%程度の冷間加工を加えると制振性も劣化する。
一方、試験No.2−1〜2−5の場合は、溶体化熱処理後に徐冷した場合であるが、熱処理のまま、或いは、軽加工を加えた程度では制振性の発現が不十分であり、制振性と機械的性質が共に優れる条件を見出すことが出来ない。
このことは、急速冷却処理をすることによって始めて、制振性及び機械的性質共に優れた鋼を安定して製造できることを示している。
【0035】
[実験例3]
実験例3は、本発明の制振性に優れた鋼の冷間加工性の評価に関するものである。実験例3も板材について行ったものであるが、切削工具に用いられるスエジ加工についても同様に考えることができる。
表3は、表1における、本発明例1(Mn:17%)、本発明例8(Mn:8%)、比較例1(Mn:22%)及びSUS304(Mn:1%)のマンガン含有率(Mn%)の異なる鋼について、試験圧延機(ワークロール径85mmφの4段圧延機)によって、2.0mmから約0.03mm厚までの冷間圧延における中間熱処理回数と次の熱処理が必要となるまでの冷間圧延率を測定したものである。
本発明例1又は8は、2.0mmから約0.03mmまでに中間熱処理回数は3回であり、次の中間熱処理までの平均冷間圧延率は63〜70%である。これはSUS304(比較例10)と同等であることが確認され、実生産可能との総合評価である。
これに対して、比較例1(Mn:22%)は、9回の中間熱処理が必要となり、次の中間熱処理までの平均冷間圧延率は35%である。これは、実生産における冷間加工のコストが過大となるために実用化が阻害されていることが明白に示されている。
【0036】
【表3】

【0037】
[実験例4]
本発明に係る鋼をその制振性能を効果的に発揮させるには、その制振体の1次共振周波数を、適用する振動環境に適するようにした制振体の構造にする必要がある。そこで、本発明者らは、本発明になる鋼について、図10に示す実験方法によって、箔、板及び棒の単純な断面積の様々な寸法と1次共振周波数との関係を求めた。図10は、1次共振周波数を求めるための周波数応答関数の1例である。図11に形状ファクタFと1次共振周波数との関係を示す。これによって、下記の実験式(数式9)の関係が導出された。即ち、fn=C×Fの関係にあることがわかった。
ただし、数式9における係数(C)は、本発明に係る制振性に優れた鋼にのみ適用されるものであり、他の材料では別途測定しなければならない。
また上記の関係は、Fが0.0001〜1.0の広い範囲で適用できることが確認された。
【0038】
[数式8]
F=S/L (8)
[数式9]
fn(Hz)=0.5×10×F (9)
【0039】
[実験例5]
実験例5として、切削加工におけるびびり評価を行った。結果を表4に示す。表4における本発明例Aは、実験例1の表1の本発明例1を、本発明例Bは表1の本発明例13を用いた。この材料を熱間加工によって15mm径として、真空中で900℃の1時間溶体化熱処理を行った後水冷し、700℃のクロム炭化物析出処理をし、その後、断面積減少率20%の冷間スエジ加工を施して、これをボーリングバイトに加工した。ここで、本発明例Aは炭素重量含有量が0.05[%]と低い例であり、硬さはHvで350である。これに対して、本発明例Bは、炭素重量含有量を0.15[%]と高くしたので、硬さはHv450である。比較例Aは、耐びびり性の優れた超硬合金、比較例Bは、一般の切削工具支持体として用いられているクロム・モリブデン鋼(SCM440)である。この時の被削材は、S45C、切削条件としては、Vc=70mm/min、加工代ap=0.2mmである。切削工具は、10mm径(D)であり、突出し長さを3D、4D、5D及び6Dに変化させた時のびびり評価を行った。
結果を表4に示すように、本発明例Aは、突出し長さ4Dの条件において、比較例B(SCM440)に対して顕著なびびり低減効果があることが確認された。本発明例Bは、さらに5Dにおいては比較例A(超硬合金)に匹敵する顕著な耐びびり性を示すことが確認できた。この時の共振周波数を形状ファクタFより推定すると約1kHzであった。
【0040】
【表4】

【0041】
切削加工時に発生する共振によってびびりが発生する。該共振周波数は、切削加工条件、被削物、刃物及び切削工具形状が影響して定まるものであり、共振周波数を一該に特定できない。このように不確定要素が多い中で、本発明は、与えられた、或いは、所望の切削加工条件、被削物、刃物によって定まる共振周波数fn(Hz)より高く設定すべきfnに対して、数式9によって定まる形状ファクタF(−)を採用するという指針を与えることができる。
本発明は、材料自体が振動吸収能を有する防振切削工具を提供すると共に、本発明に係る材料を防振切削工具として有効に活用する設計指針を提供するものである。実験例5は、本発明を防振切削工具として有効に活用する設計指針をその一例として示したものであり、請求項6のひとつの適用例である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、材料自体が振動吸収能を有する防振切削工具を提供することによって、切削効率を改善しかつ切削品質を向上できる技術を提供できるので、産業上の利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】 防振切削工具に用いる鋼の製造工程
【図2】 Fe−Mn−Cr−Ni鋼の状態図
【図3】 クロム炭化物生成熱処理後の固溶炭素重量百分率[%]と全炭素重量百分率[%C]との関係
【図4】 クロム炭化物生成熱処理の方法
【図5】 熱処理条件とクロム炭化物の関係を示す顕微鏡組織
【図6】 熱間割れの表面写真
【図7】 積層欠陥エネルギー(SFE)とε−Ms相体積百分率(%)との関係を示した図
【図8】 ε−Ms相体積百分率(%)と損失係数(η)との関係を示した図
【図9】 マンガン重量(%)とε−Ms相体積百分率(%)との関係を示した図
【図10】 1次共振周波数測定のための実験方法
【図11】 周波数応答関数の例
【図12】 形状ファクタF及びFと1次共振周波数fnとの関係

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素の重量百分率[%C]を0.20[%]以下、
シリコンの重量百分率[%Si]を0.01〜3.0[%]、
マンガンの重量百分率[%Mn]を18.0[%]未満、
クロムの重量百分率[%Cr]を20.0[%]以下、
アルミニウムの重量百分率[%Al]を0.001〜0.10[%]、
残部を鉄の重量百分率[%Fe]、ニッケルの重量百分率[%Ni]、窒素の重量百分率[%N]及び不可避元素を含む鋼であって、
数式1によって計算される積層欠陥エネルギー(SFE)(mJ/m)が、
数式2を満足する鋼を含んで構成されることを特徴とする切削工具。
[数式1]
SFE(mJ/m)=25.7+2×[%Ni]+410×[%C]−
0.9×[%Cr]−77×[%N]−13×[%Si]−1.2×[%Mn] ・・・(1)
[数式2]
−20(mJ/m) ≦ SFE ≦ 20(mJ/m) ・・・(2)
【請求項2】
炭素の重量百分率[%C]を0.20[%]以下、
シリコンの重量百分率[%Si]を0.01〜3.0[%]、
マンガンの重量百分率[%Mn]を18.0[%]未満、
クロムの重量百分率[%Cr]を20.0[%]以下、
アルミニウムの重量百分率[%Al]を0.001〜0.10[%]、
残部を鉄の重量百分率[%Fe]、ニッケルの重量百分率[%Ni]、窒素の重量百分率[%N]、固溶炭素重量百分率[%]及び不可避元素として含み、500〜800℃で、1〜60分間のクロム炭化物析出のための熱処理を施す鋼であって、
数式3によって計算される積層欠陥エネルギー(SFE)(mJ/m)が、
数式2を満足する鋼を含んで構成されることを特徴とする切削工具。
[数式3]
SFE(mJ/m)=25.7+2×[%Ni]+410×[%]−
0.9×[%Cr]−77×[%N]−13×[%Si]−1.2×[%Mn] ・・・(3)
【請求項3】
X線回折法によって測定されたイプシロン・マルテンサイト相の体積パーセント[%ε−Ms相]が、数式4を満足する鋼を含んで構成されることを特徴とする、請求項1又は2に記載した切削工具。
[数式4]
5[体積%] ≦ [%ε−Ms相] ≦ 80[体積%] ・・・(4)
【請求項4】
片持ち梁法によって測定した制振性を表す損失係数(η)が、数式5を満足する鋼を含んで構成されることを特徴とする、請求項1乃至3の何れかに記載した切削工具。
[数式5]
0.005 ≦ η ≦ 0.10 ・・・(5)
【請求項5】
請求項1又は、請求項2によって規定された鋼であって、
第1工程として、950〜1200℃で、1〜5時間、加熱する工程、
第2工程として、加工仕上がり温度750〜950℃で、熱間加工する工程、
第3工程として、冷間加工する工程、
第4工程として、800〜1100℃で、1〜60分間、溶体化熱処理をした後、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/sec)の冷却速度で急速冷却する工程、
第5工程として、必要に応じて、500〜800℃で、1〜60分間、熱処理した後、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/sec)の冷却速度で急速冷却する工程、
第6工程として、必要に応じて、冷間加工率1〜50%の冷間加工を施す工程、
によって製造されることを特徴とする、請求項3乃至4の何れかに記載した切削工具に用いられる鋼の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は、請求項2によって規定された鋼であって、
第1工程として、950〜1200℃で、1〜5時間、加熱する工程、
第2工程として、加工仕上がり温度750〜950℃で、熱間加工する工程、
第3工程として、800〜1100℃で、1〜60分間、溶体化熱処理をした後、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/sec)の冷却速度で急速冷却する工程、
第4工程として、必要に応じて、500〜800℃で、1〜60分間、熱処理した後に、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/sec)の冷却速度で急速冷却する工程、
第5工程として、必要に応じて、冷間加工率1〜50%の冷間加工を施す工程、
によって製造されることを特徴とする、請求項3乃至4の何れかに記載した切削工具に用いられる鋼の製造方法。
【請求項7】
防振切削工具の断面積をS[mm]、長さをL[mm]としたとき、数式6によって算出される形状ファクタF[−]から、数式7によって計算される一次共振周波数fn[Hz]を、切削時に発生する振動周波数より高い振動周波数に設定した形状ファクタFに設計することを特徴とする、請求項1乃至6の何れかに記載した切削工具。
[数式6]
F = S/L [−] (6)
[数式7]
fn = 0.5×10×F [Hz] (7)
【請求項8】
円板状切削工具の厚さをD[mm]、円板直径をR[mm]としたとき、数式8によって算出される形状ファクタF[−]から、数式9によって計算される一次共振周波数fn[Hz]を、切削時に発生する振動周波数より高い振動周波数になる様に円板状切削工具形状を設計することを特徴とする、請求項1乃至6の何れかに記載した切削工具。
[数式7]
= D/R [−] (8)
[数式8]
fn = 0.8×10×F [Hz] (9)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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