説明

制振塗料組成物

【課題】塗膜の制振性能について温度依存性を低減することの容易な制振塗料組成物を提供する。
【解決手段】制振塗料組成物は水系樹脂分散液とマイカとを含有している。水系樹脂分散液に分散している樹脂粒子はメタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルとの共重合体及びメタクリル酸メチルとアクリル酸2−エチルヘキシルとの共重合体から選ばれる少なくとも一種の共重合体から形成されている。マイカは膨潤性マイカを含む。同組成物には下記一般式(1)に示される第四級アンモニウムイオンが含有されている。一般式(1)中のR、R、R及びRは、ベンジル基、炭素数1〜30のアルキル基等を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイカを含有する制振塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗膜を形成する樹脂粒子が水系分散媒に分散した水系樹脂分散液と、塗膜の制振性を高めるためのマイカとを含有した制振塗料組成物が知られている(例えば、特許文献1〜4参照)。また、塗料組成物においては、酢酸ビニル−アクリル系のエマルジョン樹脂に膨潤性マイカを配合した塗料組成物が知られている(特許文献5参照)。特許文献5の膨潤性マイカは、第四級アンモニウムイオンが含有されている。
【特許文献1】国際公開第97/42844号パンフレット
【特許文献2】特開2002−302583号公報
【特許文献3】国際公開第99/28394号パンフレット
【特許文献4】国際公開第01/40391号パンフレット
【特許文献5】特開2006−28305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、水系樹脂分散液を含む制振塗料組成物においては、制振性能の温度依存性が小さければ小さいほど、塗膜の温度が変化したとしても、安定した制振性能が発揮され易くなる。この発明は、本発明者の鋭意研究の結果、塗膜の制振性能について温度依存性を低減することのできる組成を見出すことによりなされたものである。
【0004】
本発明の目的は、塗膜の制振性能について温度依存性を低減することの容易な制振塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の制振塗料組成物は、塗膜を形成する樹脂粒子が水系分散媒に分散した水系樹脂分散液と、前記塗膜の制振性を高めるためのマイカとを含有してなる制振塗料組成物であって、前記樹脂粒子は、メタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルとの共重合体、及びメタクリル酸メチルとアクリル酸2−エチルヘキシルとの共重合体から選ばれる少なくとも一種の共重合体から形成されてなり、前記マイカは膨潤性マイカを含み、さらに下記一般式(1)に示される第四級アンモニウムイオンを含有することを要旨とする。
【0006】
【化1】

(一般式(1)中のR、R、R及びRは、ベンジル基、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基を示す。)
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の制振塗料組成物において、前記膨潤性マイカの含有量が前記樹脂粒子100質量部に対して10〜300質量部の範囲であることを要旨とする。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の制振塗料組成物において、前記第四級アンモニウムイオンの含有量が前記膨潤性マイカ100質量部に対して10質量部以上の範囲であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、塗膜の制振性能について温度依存性を低減することが容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を具体化した実施形態を詳細に説明する。
本実施形態における制振塗料組成物には、塗膜を形成する樹脂粒子が水系分散媒に分散した水系樹脂分散液と、塗膜の制振性を高めるためのマイカとが含有されている。塗膜を形成する樹脂粒子は、メタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルとの共重合体、及びメタクリル酸メチルとアクリル酸2−エチルヘキシルとの共重合体から選ばれる少なくとも一種の共重合体から形成されている。マイカは、膨潤性マイカを含んでいる。
【0010】
制振塗料組成物には、さらに下記一般式(1)に示される第四級アンモニウムイオンが含有されている。
【0011】
【化2】

(一般式(1)中のR、R、R及びRは、ベンジル基、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基を示す。)
樹脂粒子は、制振塗料組成物を乾燥した際に塗膜を形成する。メタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルとの共重合体は、メタクリル酸メチルの質量(A)とアクリル酸ブチルの質量(B)との質量比(A/B)が1/3〜3/1の範囲の共重合体であることが好ましい。また、メタクリル酸メチルとアクリル酸2−エチルヘキシルとの共重合体は、メタクリル酸メチルの質量(C)とアクリル酸2−エチルヘキシルの質量(D)との質量比(C/D)が1/6〜1/1の共重合体であることが好ましい。樹脂粒子を分散する水系分散媒としては、水、及び水と一価アルコールとの混合液が挙げられる。一価アルコールとしては、メタノール、エタノール等が挙げられる。水系樹脂分散液は、例えば乳化剤を含有した水溶液中に単量体及び重合開始剤を滴下する乳化重合等の周知の方法に従って得ることができる。
【0012】
マイカは、塗膜の制振性能を高めるために含有される。マイカは少なくとも膨潤性マイカを含む。膨潤性マイカは、上記第四級アンモニウムイオンとともに含有されることで、塗膜の制振性を高める。膨潤性マイカは、水等の極性溶媒で膨潤する特性を有するマイカである。こうした膨潤性マイカの層間に存在するイオンは、リチウム、ナトリウム又はストロンチウムであり、それらのイオンが極性溶媒中のイオンとイオン交換することで膨潤性マイカは膨潤する。膨潤性マイカとしては、例えばNa型テトラシリシックフッ素マイカ、Li型テトラシリシックフッ素マイカ、Na型フッ素テニオライト、Li型フッ素テニオライト等が挙げられる。膨潤性マイカとしては、膨潤性マイカの層間に存在するイオンと上記第四級アンモニウムイオンとがイオン交換されている有機変性マイカを含有させることもできる。上記水系樹脂分散液に有機変性マイカを配合することで、制振塗料組成物中に膨潤性マイカとともに第四級アンモニウムイオンを同時に含有させることができる。なお、制振塗料組成物には、膨潤性マイカに加えて非膨潤性マイカを含有させることもできる。
【0013】
制振塗料組成物中における膨潤性マイカの含有量は、樹脂粒子100質量部に対して好ましくは10〜300質量部、より好ましくは20〜250質量部である。制振塗料組成物中における膨潤性マイカの含有量が、樹脂粒子100質量部に対して10質量部未満の場合、塗膜の制振性を顕著に高めることが困難となる。一方、制振塗料組成物中における膨潤性マイカの含有量が、樹脂粒子100質量部に対して300質量部を超える場合、塗膜の成形性が悪化するおそれがある。
【0014】
上記第四級アンモニウムイオンは、膨潤性マイカとともに含有されることで、塗膜の制振性を高める。なお、一般式(1)中のR、R、R及びRは、それぞれ同一の置換基であってもよいし、R、R、R及びRは互いに異なる置換基であってもよい。上記第四級アンモニウムイオンとしては、例えばトリオクチルメチルアンモニウムイオン、ベンジルトリブチルアンモニウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、トリブチルメチルアンモニウムイオン、トリラウリルメチルアンモニウムイオン、ベンジルトリメチルアンモニウムイオン、ベンジルトルエチルアンモニウムイオン、フェニルトリメチルアンモニウムイオン等が挙げられる。
【0015】
上記第四級アンモニウムイオンを水系樹脂分散液に配合するに際しては、例えば第四級アンモニウムクロリド等の第四級アンモニウム塩として配合することができる。第四級アンモニウムイオンの含有量は、上記膨潤性マイカ100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上、さらに好ましくは30質量部以上である。第四級アンモニウムイオンの含有量が膨潤性マイカ100質量部に対して10質量部未満の場合、塗膜の制振性を顕著に高めることが困難となる。なお、第四級アンモニウムイオンの含有量は、塗膜の成形性を良好に維持するという観点から、膨潤性マイカ100質量部に対して、好ましくは100質量部以下である。
【0016】
制振塗料組成物には、例えば制振性付与成分、充填剤、難燃剤、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、安定剤、発泡剤、滑剤等を必要に応じて加えることができる。制振性付与成分としては、例えばベンゾチアジル系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ジフェニルアクリレート系化合物、正リン酸エステル系化合物及び芳香族第二級アミン系化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物が挙げられる。充填剤としては、例えば炭酸カルシウム、タルク、クレー、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、ガラス、シリカ、酸化アルミニウム、アルミニウム、水酸化アルミニウム、鉄、酸化チタン、酸化鉄、珪藻土、ゼオライト、フェライト等が挙げられる。
【0017】
制振塗料組成物は、水系樹脂分散液、膨潤性マイカ、第四級アンモニウム塩等を公知の混合手段を用いて混合することによって調製することができる。そして制振塗料組成物が適用物の所定箇所に塗布された後に乾燥されることにより、適用物には塗膜が形成される。こうした制振塗料組成物の制振性能は、塗膜の損失係数又は損失弾性率によって示される。つまり、塗膜の損失係数の値又は損失弾性率の値が高ければ高いほど、制振性能に優れることが示される。さらに、塗膜の温度範囲において、損失係数又は損失弾性率の変動が小さければ小さいほど、制振性能について温度依存性が低減されることになる。塗膜の損失係数は周知の中央加振法損失係数測定装置によって測定することができるとともに損失弾性率は周知の動的粘弾性測定装置により測定することができる。
【0018】
ここで、塗膜は、適用物の温度の変化、環境温度の変化等に伴って温度変化する。本実施形態の制振塗料組成物には、上記樹脂粒子、膨潤性マイカ及び第四級アンモニウムイオンが含有されている。このため、上記共重合体に対する膨潤性マイカの親和性が高まる結果、共重合体と膨潤性マイカとの密着性は塗膜の温度が変化したとしても低下し難くなると推測される。これにより、塗膜の制振性能についての温度依存性は小さくなると推測することができる。すなわち、塗膜が温度変化したとしても、同塗膜の制振性能は低下し難くなる。
【0019】
制振塗料組成物は、振動エネルギーの抑制について要求される各種分野において利用することができる。制振塗料組成物の適用分野としては、例えば自動車、壁材、床材、屋根材、フェンス等の建材、家電機器、産業機械等が挙げられる。
【0020】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)制振塗料組成物には、上記樹脂粒子、膨潤性マイカ及び第四級アンモニウムイオンが含有されている。このため、塗膜が温度変化したとしても、塗膜の制振性能は低下し難くなる。従って、塗膜の制振性能について温度依存性を低減することができるようになる。
【0021】
(2)膨潤性マイカの含有量は樹脂粒子100質量部に対して10〜300質量部の範囲であることが好ましい。これにより、塗膜の成形性を好適に維持し、かつ、制振性を顕著に高めることが容易となる。
【0022】
(3)第四級アンモニウムイオンの含有量は膨潤性マイカ100質量部に対して10質量部以上の範囲であることが好ましい。これにより、塗膜の制振性能について温度依存性を顕著に低減することができるようになる。
【0023】
次に、上記実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
・前記膨潤性マイカ及び第四級アンモニウムイオンイオンは、膨潤性マイカの層間に存在するイオンと第四級アンモニウムイオンイオンとがイオン交換されている有機変性マイカとして配合される制振塗料組成物。
【0024】
・前記樹脂粒子がメタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルとの共重合体から形成され、前記メタクリル酸メチルの質量(A)と前記アクリル酸ブチルの質量(B)との質量比(A/B)が1/3〜3/1の範囲である制振塗料組成物。
【0025】
・前記樹脂粒子がメタクリル酸メチルとアクリル酸2−エチルヘキシルとの共重合体から形成され、前記メタクリル酸メチルの質量(C)と前記アクリル酸2−エチルヘキシルの質量(D)との質量比(C/D)が1/6〜1/1の範囲である制振塗料組成物。
【実施例】
【0026】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
アクリル系エマルション(大日本インキ化学工業株式会社製、BC−280)100質量部に対して、有機変性マイカ(コープケミカル株式会社製、MTE)100質量部を配合し、撹拌機によって混合することにより制振塗料組成物を調製した。アクリル系エマルション100質量部には、樹脂粒子が50質量部含まれている。その樹脂粒子は、メタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルとの共重合体であり、同共重合体におけるメタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルとの質量比は55:45である。また、有機変性マイカは、膨潤性マイカの層間イオンをトリオクチルメチルアンモニウムイオンでイオン交換したものであり、有機変性マイカ中には有機物が約31質量%含有されている。なお、制振塗料組成物には、分散剤等が所定の配合率で配合されている。
【0027】
(比較例1)
比較例1においては、有機変性マイカを膨潤性マイカ(コープケミカル株式会社製、ME−100)に変更した以外は、実施例1と同様にして制振塗料組成物を調製した。
【0028】
(実施例2)
アクリル系エマルション(サイデン化学株式会社製、E1)100質量部に対して、有機変性マイカ(コープケミカル株式会社製、MTE)100質量部を配合し、撹拌機によって混合することにより制振塗料組成物を調製した。アクリル系エマルション100質量部には、樹脂粒子が55質量部含まれている。その樹脂粒子は、メタクリル酸メチルとアクリル酸2−エチルヘキシルとの共重合体であり、同共重合体におけるメタクリル酸メチルとアクリル酸2−エチルヘキシルとの質量比は37:63である。有機変性マイカは、膨潤性マイカの層間イオンをトリオクチルメチルアンモニウムイオンでイオン交換したものであり、有機変性マイカ中には有機物が約31質量%含有されている。なお、制振塗料組成物には、分散剤等が所定の配合率で配合されている。
【0029】
(比較例2)
比較例2においては、有機変性マイカを膨潤性マイカ(コープケミカル株式会社製、ME−100)に変更した以外は、実施例2と同様にして制振塗料組成物を調製した。
【0030】
<動的粘弾性の測定>
各例の制振塗料組成物を鋼板(厚さ1mm)に塗布した後、常温(約25℃)で乾燥することにより形成した塗膜を試験片とした。動的粘弾性測定装置(RSA−II:レオメトリック社製)を用いて各例の試験片を加振しながら連続的に昇温した際の損失弾性率E″を測定した。測定条件は、加振の周波数10Hzとするとともに昇温速度5℃/分とした。
【0031】
図1及び図2は、温度と損失弾性率との関係を示している。図1の結果から明らかなように、約25℃を超えると比較例1では損失弾性率が急激に低下するのに対して、実施例1では損失弾性率の低下が抑制されていることがわかる。すなわち、比較例1の制振塗料組成物に対して実施例1の制振塗料組成物では、塗膜の制振性能についての温度依存性が低減されていることがわかる。図2の結果からも同様に、比較例2の制振塗料組成物に対して実施例2の制振塗料組成物では、約40℃を超える温度において塗膜の制振性能についての温度依存性が低減されていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例1及び比較例1における温度と損失弾性率との関係を示すグラフ。
【図2】実施例2及び比較例2における温度と損失弾性率との関係を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜を形成する樹脂粒子が水系分散媒に分散した水系樹脂分散液と、前記塗膜の制振性を高めるためのマイカとを含有してなる制振塗料組成物であって、
前記樹脂粒子は、メタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルとの共重合体、及びメタクリル酸メチルとアクリル酸2−エチルヘキシルとの共重合体から選ばれる少なくとも一種の共重合体から形成されてなり、前記マイカは膨潤性マイカを含み、さらに下記一般式(1)に示される第四級アンモニウムイオンを含有することを特徴とする制振塗料組成物。
【化1】

(一般式(1)中のR、R、R及びRは、ベンジル基、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基を示す。)
【請求項2】
前記膨潤性マイカの含有量が前記樹脂粒子100質量部に対して10〜300質量部の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の制振塗料組成物。
【請求項3】
前記第四級アンモニウムイオンの含有量が前記膨潤性マイカ100質量部に対して10質量部以上の範囲であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の制振塗料組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−263418(P2009−263418A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−111430(P2008−111430)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)
【Fターム(参考)】