説明

制振装置

【課題】ある幅の振動周期帯に対して有効に制振性能を発揮する機能することができ、且つ、液体収容空間を形成する際のコスト低減及び工期短縮を図ることができ、さらに、液体収容空間内に液体を容易に注入することができるとともに液体の注入量を間違い難い制振装置を提供することを目的としている。
【解決手段】構造物に設置される液槽3が備えられ、液槽3内に貯留された液体Lのスロッシングに伴う流体力により構造物の振動を抑える制振装置において、液槽3には、構造物の振動方向Xの寸法W〜Wが異なる複数の液体収容空間6A〜6Cが備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば高層建築物や塔状構造物等に設置される制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、風や地震等による高層建築物や塔状構造物等の構造物の振動を制御する制振装置として、液槽内の液体のスロッシング現象を利用したものが実用化されている。この制振装置は、液体のスロッシングに伴う流体力を利用して構造物の振動を抑えるものであり、構造物が振動を受けた場合に液槽内の液体が構造物の揺れに対して1/4周期分遅れて揺れるように、液槽内の液体のスロッシング周期が構造物の固有振動周期に対してチューニングされる。上記した液槽は、通常、隔壁やブロック、筒体等により複数の液体収容空間に区分けされた構成からなる。これら複数の液体収容空間は平面視形状が同一形状になっており、各液体収容空間内の液体のスロッシング周期は、単一の周期にチューニングされている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
ところで、構造物の建造後の固有振動周期は、一般的に、重量増加などの影響により経年的に長周期化する。したがって、上記した制振装置のように単一の周期にチューニングされている場合、液体のスロッシング周期を構造物の固有振動周期の変化に合わせて再チューニングしなければならない。液体のスロッシング周期は、液体収容空間内の液体の深さ(液深)を調整することで調整可能である。そこで、近年、液深が異なる複数の液体収容空間を組み合わせ、ある幅の振動周期帯に対して有効に制振性能を発揮する制振装置が提案されている。
【特許文献1】特開2002−38765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した液深が異なる複数の液体収容空間を組み合わせた従来の制振装置では、複数の液体収容空間の液深が異なるため、高さの異なる複数種類の液体収容空間を形成する必要があり、その製作にかかる費用がかさむとともに工期も長くなるという問題が存在する。また、液深が異なる複数の液体収容空間によって異なる液量を注入しなければならず、液体の注入に手間がかかるとともに注入量を間違え易いという問題が存在する。
【0005】
本発明は、上記した従来の問題が考慮されたものであり、ある幅の振動周期帯に対して有効に制振性能を発揮する機能することができ、且つ、液体収容空間を形成する際のコスト低減及び工期短縮を図ることができ、さらに、液体収容空間内に液体を容易に注入することができるとともに液体の注入量を間違い難い制振装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る制振装置は、構造物に設置される液槽が備えられ、該液槽内に貯留された液体のスロッシングに伴う流体力により前記構造物の振動を抑える制振装置において、前記液槽には、前記構造物の振動方向の寸法が異なる複数の液体収容空間が備えられていることを特徴としている。
【0007】
このような特徴により、複数の液体収容空間はその振動方向寸法が異なるため、液深が同一であっても、複数の液体収容空間内の液体がそれぞれ異なるスロッシング周期となる。このとき、振動方向の寸法を調整することで、各液体収容空間におけるスロッシング周期が調整される。
【0008】
また、本発明に係る制振装置は、複数の前記液体収容空間の間を互いに連通させる連通路が備えられていることが好ましい。
【0009】
これにより、複数の液体収容空間内に液体を注入させる際、複数の液体収容空間のうちの一つに液体を注入すると、その液体の一部が連通路を通って残りの液体収容空間内に流入する。また、液体収容空間内の液体を排出する際、複数の液体収容空間のうちの一つから液体を排出すると、その液体収容空間内に、残りの液体収容空間内から連通路を通って液体が流入し、残りの液体収容空間内の液体も排出される。また、連通路を介して接続された複数の液体収容空間の液深は互いに均一となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る制振装置によれば、スロッシング周期の異なる複数種類の液体収容空間が構築されるので、ある幅の振動周期帯に対して有効に制振性能を発揮することができる。これによって、構造物の固有振動周期が経年的に長周期化しても、制振装置は再チューニングせずに構造物を制振することができる。
また、本発明に係る制振装置によれば、振動方向の寸法を調整することで、各液体収容空間におけるスロッシング周期が調整されるので、各液体収容空間におけるスロッシング周期が互いに異なるように設定するとともに、各液体収容空間における液深を均一にすることができる。このため、複数の液体収容空間の高さを同一にすることができ、高さが異なる複数の液体収容空間を組み合わせる場合と比べて、液体収容空間を形成する際のコスト低減及び工期短縮を図ることができ、さらに、複数の液体収容空間内に容易に液体を注入することができるとともに液体の注入量を間違い難くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る制振装置の実施の形態について、図面に基いて説明する。
図1は本実施の形態における制振装置1が設置された建物2(構造物)を表した立面図であり、図2は本実施の形態における制振装置1を表した破断図である。
【0012】
図1に示すように、制振装置1は、液体のスロッシングに伴う流体力を利用して風や地震等による建物2の振動を抑えるスロッシングダンパーであり、水等の液体Lを貯留した液槽3を建物2の屋上部分に複数設置した構成からなる。なお、制振装置1の設置場所は、建物2の屋上部分に限らず、建物2の上層階部分であれば適宜変更可能であり、例えば、建物2の上層階の室内に設置されていてもよく、また、建物2の上層階室内の床下に設置されていてもよい。
【0013】
図2に示すように、液槽3には、鉛直に積層された複数(図2では3段)の容器4…が備えられている。これらの容器4…は、直方体形状の箱体であり、その内部に液体Lを収容する液体収容空間6が形成されている。したがって、液槽3には、複数層(図2では3層)の液体収容空間6が備えられている。なお、積層された複数の容器4…の高さHはそれぞれ同一の高さであり、また、その中に収容された液体Lの液深hも各容器4…でそれぞれ同一となっている。
【0014】
また、容器4内には、複数(2枚)の隔壁板5,5が設置されており、これらの隔壁板5,5により容器4の内部が仕切られて複数(3つ)の液体収容空間6A〜6Cに区画されている。隔壁板5,5は建物2の振動方向Xに直交する方向に延設されており、これら隔壁板5,5により容器4の内部が振動方向Xに複数に分割されている。
【0015】
上記した隔壁板5,5は、容器4の内部を不均等に分割する位置に配設されており、容器4内に形成される複数の液体収容空間6A〜6Cの平面スケールは互いに異なる。つまり、液体収容空間6A〜6Cの振動方向Xの寸法W〜Wが互いに異なる。具体的に説明すると、一方端に形成された第一液体収容空間6Aの振動方向Xの寸法Wは、中央に形成された第二液体収容空間6Bの振動方向Xの寸法Wよりも大きく、この第二液体収容空間6Bの寸法Wは、他方端に形成された第三液体収容空間6Cの振動方向Xの寸法Wよりも大きい。
【0016】
また、隔壁板5には、隣接する液体収容空間6A〜6Cの間を互いに連通させる複数の連通路7…が形成されている。この連通路7により、隣接する液体収容空間6A〜6C間で液体Lが流通可能となるため、複数の液体収容空間6A〜6C内の液体Lは、それぞれ同じ液深hとなる。
【0017】
上記した構成からなる制振装置1では、各容器4におけるスロッシング周期Tが次式で表される。
【0018】
【数1】

【0019】
このようにスロッシング周期Tは振動方向の寸法Wにより決定される。したがって、各液体収容空間6A〜6C内の液深hが同一であっても、振動方向の寸法W〜Wが異なる複数の液体収容空間6A〜6C内の液体Lは、それぞれ異なるスロッシング周期となる。つまり、1つの容器4内に、液体Lのスロッシング周期の異なる複数種類の液体収容空間6A〜6Cが構築される。具体的に説明すると、振動方向の寸法Wが大きいほどスロッシング周期Tは大きくなるので、振動方向Xの寸法Wが最も大きい第一液体収容空間6Aにおけるスロッシング周期が最も大きくなり、振動方向Xの寸法Wが最も小さい第三液体収容空間6Cにおけるスロッシング周期が最も小さくなる。
【0020】
また、複数の液体収容空間6A〜6Cにおけるスロッシング周期Tの間隔を大きくすると、制振効果を発揮する周波数の上限と下限の間隔が広がるが、設定したそれぞれのスロッシング周期Tの間の周波数で制振効果が期待できない場合がある。反対に、スロッシング周期Tの間隔を小さくすると、設定したスロッシング周期Tの間の周波数で制振効果が発揮されるが、制振効果が期待できる周波数帯域が狭くなる。したがって、複数の液体収容空間6A〜6Cにおけるスロッシング周期Tは、広い振動周期に対応するため、数%〜数十%の間隔で設定することが好ましい。
【0021】
また、上記した構成からなる制振装置1では、容器4内に液体Lを注入する際、容器4内に形成された複数の液体収容空間6A〜6Cのうちの少なくとも1つに液体Lを注入する。これにより、1つの液体収容空間6に注入された液体Lが連通路7を通って残りの液体収容空間6内に流入する。例えば、第一液体収容空間6Aに液体Lを注入すると、この液体Lの一部は、第一、第二液体収容空間6A,6B間の隔壁板5に形成された連通路7を通って第二液体収容空間6B内に流入する。そして、この第二液体収容空間6B内に流入した液体Lの一部は、第二、第三液体収容空間6B,6C間の隔壁板5に形成された連通路7を通って第三液体収容空間6C内に流入する。これにより、容器4内の全ての液体収容空間6A〜6C内に液体Lが貯められる。また、第一液体収容空間6Aと第二液体収容空間6B、及び第二液体収容空間6Bと第三液体収容空間6Cとは、それぞれ連通路7を介して連通されているため、これらの液体収容空間6A〜6B内の液体Lの液深hは均一化される。
【0022】
上記した構成からなる制振装置1によれば、1つの容器4内にスロッシング周期の異なる複数種類の液体収容空間6A〜6Bが構築されるので、ある幅の振動周期帯に対して有効に制振性能を発揮することができる。これによって、建物2の固有振動周期が経年的に長周期化しても、制振装置1は、再チューニングせずに建物2を制振することができる。
【0023】
また、上記した構成からなる制振装置1によれば、振動方向Xの寸法W〜Wを調整することで、各液体収容空間6A〜6Bにおけるスロッシング周期が調整されるので、各液体収容空間6A〜6Bにおけるスロッシング周期が互いに異なるように設定するとともに、各液体収容空間6A〜6Bにおける液深hを均一にすることができる。このため、複数の容器4の高さHを同一にすることができ、高さが異なる複数の容器を組み合わせる場合と比べて、液槽3を形成する際のコスト低減及び工期短縮を図ることができる。さらに、各液体収容空間6A〜6Bにおける液深hを均一にすることができるため、複数の容器4内には同量の液体Lを注入すればよい。したがって、複数の容器内に異なる量の液体Lを注入する場合と比べて、液体Lの注入が容易であり、また、液体Lの注入量を間違い難くなる。
【0024】
また、上記した構成からなる制振装置1によれば、複数の液体収容空間6A〜6Cに液体Lを注入させる際、複数の液体収容空間6A〜6Cのうちの一つに液体Lを流入すると、連通路7を通って残りの液体収容空間6にも流入されるため、全ての液体収容空間6A〜6Bに対して液体Lの注入を行う必要がない。また、複数の液体収容空間6A〜6C内の液体Lを排出させる際も同様に、複数の液体収容空間6A〜6Cのうちの一つから液体Lを排出すると、その液体収容空間6内に連通路7を通って残りの液体収容空間6から液体Lが流入し、残りの液体収容空間6内の液体Lも排出されるため、全ての液体収容空間6A〜6Bに対して液体Lの排出を行う必要がない。したがって、液体Lを注入したり排出したりする図示せぬ注入口や排出口は、1つの容器4に対して1つで良く、各液体収容空間6A〜6Bにそれぞれ取り付ける場合と比較して、容器4の製作にかかる費用と期間を削減することができる。
【0025】
さらに、上述したように、図示せぬ注入口や排出口の数量を削減できるため、液体Lの蒸発量が格段に少なくなり、液位(液深h)の維持管理が容易になり、維持管理コストを削減することができる。
また、連通路7を介して接続された複数の液体収容空間6A〜6Bの液深hは、自ずと互いに均一となるため、液体収容空間6A〜6Bの液深hを容易に均一化することができ、液深hの設定や維持管理が容易である。
【0026】
以上、本発明に係る制振装置の実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記した実施の形態では、容器4の内部を隔壁板5で仕切ることで複数の液体収容空間6…が形成されているが、本発明は、容器4の内部を隔壁板5で仕切って複数の液体収容空間6…を形成する構成に限定されず、複数の容器を並設することで複数の液体収容空間を形成することも可能である。例えば、図3に示すように、異なる径の円筒容器104…を並べた構成であってもよい。具体的に説明すると、中央に最も径の大きい第一円筒容器104A…が配設され、その外周に第一円筒容器104Aよりも径の小さい第二円筒容器104B…が配設され、さらにその外周に第二円筒容器104Bよりも径の小さい第三円筒容器104C…が配設されている。これにより、径の異なる複数の円形液体収容空間106…が形成される。なお、上記した構成の場合、隣り合う円筒容器104,104間に、連通路となる図示せぬ連通管を介装させることが好ましい。
【0027】
さらに、本発明は、容器4、104を用いずに液体収容空間を形成することも可能であり、例えば、建物の床面に隔壁を設置することで液体収容空間を形成することも可能である。また、隔壁板5に代えてブロックを用いることも可能である。例えば、平面視して四辺が内側に向かって円弧状に窪んだ略菱形を成すブロックを複数配置することができる。これにより、複数のブロック間の空間に平面視円形の液体収容空間が形成される。
【0028】
また、上記した実施の形態では、3つの容器4…が積層され、その容器4内には2枚の隔壁板5が設置されて3つの液体収容空間6が形成された構成からなるが、容器4…の積層数や隔壁板5や液体収容空間6の数量は適宜変更可能である。例えば、容器4を2段或いは4段以上積層させてもよい。さらに、容器4を積層させずに単層の容器4からなる液槽とすることも可能である。また、隔壁板が1枚で液体収容空間が2つ形成されていてもよく、或いは、隔壁板が3枚以上で液体収容空間が4つ以上形成されていてもよい。さらに、格子状の隔壁板が設置されて液体収容空間が縦横に複数配設された構成にすることも可能である。
【0029】
また、図2に示す例では長方形状の液体収容空間6…が形成されており、図3に示す例では円筒形状の容器104…を並設して円形液体収容空間106…が形成されているが、本発明は、液体収容空間6の形状や大きさは適宜変更可能である。例えば、多角形状の筒体を複数並設して多角形状の液体収容空間を形成することも可能である。
【0030】
また、上記した実施の形態では、同一平面状に、振動方向Xの寸法W〜Wが異なる複数の液体収容空間6A〜6Cが形成されているが、本発明は、振動方向の寸法が異なる複数の液体収容空間を上下方向に配設させることも可能である。例えば、3段に容器を積層させる際、最下段の容器には2枚の隔壁板を均等に配置し、中段の容器には1枚の隔壁板を真ん中に配置し、最上段の容器には隔壁板を設置しない構成にしてもよい。
【0031】
また、上記した実施の形態では、制振装置1を高層の建物2に設置する例について説明したが、本発明は、タワー状の構造物に制振装置1を設置してもよく、或いは、橋梁や高架等の建物以外の構造物に制振装置1を設置してもよい。
【0032】
その他、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態を説明するための構造物の立面図である。
【図2】本発明の実施の形態を説明するための制振装置の破断斜視図である。
【図3】本発明の他の実施の形態を説明するための制振装置の平面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 制振装置
2 建物(構造物)
3 液槽
6,106 液体収容空間
7 連通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に設置される液槽が備えられ、該液槽内に貯留された液体のスロッシングに伴う流体力により前記構造物の振動を抑える制振装置において、
前記液槽には、前記構造物の振動方向の寸法が異なる複数の液体収容空間が備えられていることを特徴とする制振装置。
【請求項2】
請求項1記載の制振装置において、
複数の前記液体収容空間の間を互いに連通させる連通路が備えられていることを特徴とする制振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−261449(P2008−261449A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−105729(P2007−105729)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】