説明

制振装置

【課題】列車通過時の振動状況に応じて列車に発生する振動を抑制し沿線に対する振動および騒音を低減するとともに、軌道構造に伝達される荷重を低減し軌道保守量の抑制及び列車の乗り心地の改善に寄与することができる制振装置を提供する。
【解決手段】列車通過時に発生する振動を振動検出部11A,11Bが検出し、この振動検出部11A,11Bの検出結果に基づいてばね剛性演算部21が弾性支持部10のばね剛性値を演算する。例えば、レール5側の振動と路盤8側の振動がいずれも同程度に低減されるように、弾性支持部10のばね剛性値をばね剛性演算部21が演算し、このばね剛性演算部21の演算結果に基づいてばね剛性可変部22を制御部24が動作制御して、弾性支持部10のばね剛性を可変する。その結果、列車1が軌道4上を走行するときに発生する振動が低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、列車が軌道上を走行するときに発生する振動を低減するための制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート高架橋又は鉄桁橋などの構造物上を列車が走行すると、これらの構造物の振動によって構造物騒音が放射される。列車の走行時にはレールと車輪とが振動することによって転動騒音が放射されるとともに、列車の高速走行時には車両まわりの流れにおいて発生する渦と車両表面との相互作用によって空力騒音が発生する。転動騒音や空力騒音のような構造物上で発生する騒音については、この構造物上に防音壁を設置するなどの対策によって、沿線の受音点に対して騒音レベル値を減じることができる。しかし、構造物騒音については、音源−受音点間の伝搬経路において有効な対策を講じることができず、受音点に対してダイレクトに騒音が伝搬される。音源パワーとしては転動騒音や空力騒音のほうが大きいにも関わらず、沿線受音点における騒音については、転動騒音や空力騒音の寄与が一概に卓越するとは限らず、構造物騒音が軽視できない寄与をしめる場合も多い。近年、防音壁の嵩上げなどによって転動騒音や空力騒音の対策が補強されているが、構造物騒音の対策については決め手を欠き、構造物騒音の問題がクローズアップされつつある。このように、近年、構造物騒音の対策の必要性が高まっており、構造物騒音の発生原因となる軌道の騒音低減対策が提案されている。
【0003】
また、構造物や構造物以外の平地を含め全区間において、軌道の上を走行する車両の荷重は軌道スラブや道床バラストなどレール以下の軌道構造に伝達され、それが日々の繰り返しの中で蓄積され、軌道構造の劣化や破壊を招き、有道床区間におけるバラストのつき固めなど、軌道構造の保守のため、定期的に労働力が投入されている。近年の単純労働力に対する省力化のニーズは強く、軌道構造の劣化および破壊を抑制するために、軌道構造に伝達される荷重を低減する必要がある。
【0004】
さらに、軌道構造の劣化はレールの長さ方向の形状が変化する軌道変位(軌道狂い)などをもたらし、列車の乗り心地の悪化の主要な原因となっている。近年、車内環境の快適性を求める志向性は高まっており、この観点からもレール支持構造に制振装置を導入し軌道構造に伝達される荷重を低減することの必要性は高まっている。
【0005】
例えば、従来の制振装置(従来技術1)は、左右のレールをそれぞれ支持する一対の縦梁を長さ方向に所定の間隔をあけて継材によって連結したラダー型まくらぎと、コンクリート製の板状の軌道スラブと、ラダー型まくらぎを軌道スラブ上に支持する積層ゴム型又は中空状積層ゴム型の防振装置とを備えている(例えば、特許文献1参照)。この従来技術1では、一対の縦梁の長さ方向に所定の間隔をあけて防振装置を配置し、列車通過時にラダー型まくらぎ全体に防振機能を発揮させて、上下、左右及び前後方向の振動を防振装置によって短時間に吸収し収束させている。
【0006】
従来の制振装置(従来技術2)は、レールを支持するまくらぎと、このまくらぎを支持するバラストと、このバラストと鉄道橋の鋼床版との間に挿入される遮音マットとを備えている(例えば、特許文献2参照)。この従来技術2では、遮音マット内に粘性状液体を封入し、列車通過時に鋼床版に伝搬されようとする音エネルギー及び振動エネルギーをこの遮音マットによって減衰させている。
【0007】
従来の制振装置(従来技術3)は、レールを支持するまくらぎとこのまくらぎを支持するバラストとを収容する水槽と、水槽を路盤上に支持する硬質ゴム製の緩衝材とを備えている(例えば、特許文献3参照)。この従来技術3では、水槽内に水を満たし、列車通過時に発生する騒音を水槽内の水と緩衝材とによって低減している。
【0008】
従来の制振装置(従来技術4)は、水又は油などの液体が封入された多数の空洞とこれらの空洞を互いに連結する細管とを有する帯状の緩衝体を備えている。この従来技術4では、レールとまくらぎとの間に緩衝体を配置し、列車通過時に空洞内の液体が細管を通過するときに発生する抵抗によって、列車通過時に発生する振動を低減している。
【0009】
従来の制振装置(従来技術5)は、橋脚上に設置される台座と、レールを支持した状態でこの台座上で浮遊する浮座と、台座と浮座との間に封入される液体と、台座に対して浮座が上下動可能なようにこの台座とこの浮座との間の隙間を塞ぐOリングと、浮座が下降したときの圧力上昇を押さえる重りとを備えている(例えば、特許文献5参照)。この従来技術5は、列車通過時に浮座が下降したときに発生する液体の圧力上昇を重りによって押さえることによって、列車通過時に発生する振動を減衰させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001-254301号公報
【0011】
【特許文献2】特開2008-208530号公報
【0012】
【特許文献3】特開昭51-143204号公報
【0013】
【特許文献4】特開昭52-037675号公報
【0014】
【特許文献5】特開平11-036204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
一般に、レール上を列車が通過するときの振動を低減するときに、制振装置のばね定数を大きくしてレール側の振動を低下させようとすると路盤の振動が上昇し、制振装置のばね定数を小さくして路盤側の振動を低下させようとするとレール側の振動が上昇する傾向がある。このため、列車通過時に発生する振動が大きいときには、制振装置のばね定数を大きくしてレールの振動を低減させ、路盤を通じて沿線に伝搬する振動が大きいときには、制振装置のばね定数を小さくして沿線の振動を低減させる必要がある。
【0016】
従来技術1〜5は、制振装置を構成する積層ゴム型などの弾性材や粘性液状体など流体のばね定数が予め所定値に設定されている。このため、従来技術1では、軌道上を走行する列車の種類や沿線の騒音状況に応じてばね定数を簡単に調整することが困難である。その結果、従来技術1〜5では、制振装置のばね定数を予め大きく設定すると、列車通過時に発生する振動が路盤を通じて沿線に伝搬し沿線の振動が大きくなってしまう問題点がある。一方、従来技術1〜5では、制振装置のばね定数を予め小さく設定すると列車通過時に発生する振動によってレールが振動し沿線に放射される騒音が大きくなってしまう問題点がある。また、従来技術1〜5では、ばね定数を調整可能な制振装置に交換するためには大規模な交換工事が必要になり、制振装置のコストが高くなってしまう問題点がある。さらに、従来技術1〜5では、軌道構造に伝達される荷重の低減の観点からも、コストや性能の面で十分な対策を与えるとはいいがたい。
【0017】
従来技術2は、粘性液状体を遮音マット内に封入する液状体注入栓をこの遮音マットの上面に備えており、従来技術4は液状を空洞内に封入する液孔を緩衝体の上面及び下面に備えている。このため、従来技術2では、遮音マット上にバラストが敷設されると液状体注入栓がバラスト内に埋設されることになり、従来技術4では緩衝体をまくらぎ上に設置しこの緩衝体上にレールを設置すると液孔がまくらぎ及びレールによって覆われることになる。その結果、従来技術2,4では、経年によって粘性液状体などが遮音マットや緩衝体から漏出したようなときに、この遮音マット内や緩衝体内に液状体注入栓や液孔から粘性液状体などを簡単に注入することができない問題点がある。
【0018】
従来技術3は、まくらぎ及びバラストを収容する大型の水槽をレールの長さ方向に沿って配置している。このため、従来技術3では、大型の水槽を広範囲に敷設する必要があり、装置が大規模になってコストが高くなってしまう問題点がある。また、従来技術5は、浮座と台座との間の間隙部をOリングによって塞いでいる。このため、従来技術5では、浮座の上下動によってこの浮座と台座との間のOリングが摩耗し、経年によって浮座と台座との間から液体が漏出してしまう問題点がある。
【0019】
この発明の課題は、列車通過時の振動状況に応じて列車に発生する振動を抑制し沿線に対する振動および騒音を低減するとともに、軌道構造に伝達される荷重を低減し軌道保守量の抑制及び列車の乗り心地の改善に寄与することができる制振装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、図1、図3、図4及び図6に示すように、軌道(4)上を列車(1)が走行するときに発生する振動を低減する制振装置であって、レール(5)を支持する支持体(6)を路盤(8)上に弾性支持する弾性支持部(10)と、前記軌道上を列車が走行するときに発生する振動を低減するように、前記弾性支持部のばね剛性を可変するばね剛性可変部(22)とを備える制振装置(9)である。
【0021】
請求項2の発明は、請求項1に記載の制振装置において、前記ばね剛性可変部は、前記レール側の振動と前記路盤側の振動とが低減するように、前記弾性支持部のばね剛性を可変することを特徴とする制振装置である。
【0022】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の制振装置において、前記ばね剛性可変部は、前記レール側の振動が低減するように、前記弾性支持部のばね剛性を可変することを特徴とする制振装置である。
【0023】
請求項4の発明は、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の制振装置において、前記ばね剛性可変部は、前記路盤側の振動が低減するように、前記弾性支持部のばね剛性を可変することを特徴とする制振装置である。
【0024】
請求項5の発明は、請求項4又は請求項5に記載の制振装置において、前記レール側又は前記路盤側の振動の低減率を設定する振動低減率設定部(19)を備え、前記ばね剛性可変部は、前記振動低減率設定部によって設定される前記振動の低減率に基づいて、前記弾性支持部のばね剛性を可変することを特徴とする制振装置である。
【0025】
請求項6の発明は、請求項1に記載の制振装置において、図6に示すように、前記ばね剛性可変部は、前記軌道上を通過する列車の重量に応じて、前記弾性支持部のばね剛性を可変することを特徴とする制振装置である。
【0026】
請求項7の発明は、請求項6に記載の制振装置において、前記軌道上を通過する各列車の重量を記憶する列車重量情報記憶部(26)を備え、前記ばね剛性可変部は、前記列車重量情報記憶部が記憶する各列車の重量に応じて、前記弾性支持部のばね剛性を可変することを特徴とする制振装置である。
【0027】
請求項8の発明は、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の制振装置において、図4及び図6に示すように、前記弾性支持部は、内部に流体が封入される袋体(10a)を備え、前記ばね剛性可変部は、前記袋体内の流体圧を調整することによって前記弾性支持部のばね剛性を可変することを特徴とする制振装置である。
【0028】
請求項9の発明は、請求項8に記載の制振装置において、図3に示すように、前記弾性支持部は、前記軌道の左右方向における前記袋体の側面に、この袋体の内部と接続する接続口を備えることを特徴とする制振装置である。
【0029】
請求項10の発明は、請求項8又は請求項9に記載の制振装置において、図4及び図6に示すように、前記袋体内に前記流体を供給する流体供給部(14)と、前記袋体内から前記流体を排出する流体排出部(15)とを備え、前記ばね剛性可変部は、前記流体供給部から前記袋体内に前記流体を流入させる供給流路(14d)と、前記袋体内から前記流体排出部に前記流体を流出させる排出流路(15b)とを切り替えることを特徴とする制振装置である。
【0030】
請求項11の発明は、請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の制振装置において、図1及び図3に示すように、前記弾性支持部は、前記軌道の長さ方向に複数配置されていることを特徴とする制振装置である。
【発明の効果】
【0031】
この発明によると、列車通過時の振動状況に応じて列車に発生する振動を抑制し沿線に対する振動および騒音を低減するとともに、軌道構造に伝達される荷重を低減し軌道保守量の抑制及び列車の乗り心地の改善に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明の第1実施形態に係る制振装置の斜視図である。
【図2】この発明の第1実施形態に係る制振装置の側面図である。
【図3】この発明の第1実施形態に係る制振装置の正面図である。
【図4】この発明の第1実施形態に係る制振装置の構成図である。
【図5】この発明の第1実施形態に係る制振装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【図6】この発明の第2実施形態に係る制振装置の構成図である。
【図7】この発明の第2実施形態に係る制振装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(第1実施形態)
図3及び図4に示す列車1は、軌道4上を運転させる目的で組成された移動体であり、旅客を輸送するための旅客列車、貨物を輸送するための貨物列車、又は旅客列車と貨物列車とを併結して運転する混合列車などである。列車1は、1両又は複数両の車両1Aによって編成されている。車両1Aは、軌道4上を走行する鉄道車両であり、電車、気動車、機関車、客車又は貨車などである。車両1Aは、車体2と車輪3などを備えている。
【0034】
図3及び図4に示す車体2は、乗客又は貨物を積載し輸送するための構造物である。車輪3は、図2及び図4に示すように、左右一対のレール5とそれぞれ回転接触する部材である。車輪3は、図2に示すように、レール頭部5aの頭頂面と接触して摩擦抵抗を受ける踏面3aと、脱輪を防止するために車輪3の外周部に連続して形成されたフランジ面3bなどを備えている。
【0035】
図1〜図4に示す軌道4は、列車1が走行する通路(線路)である。軌道4は、図1〜図4に示すレール5と、軌道スラブ6と、図1及び図2に示すレール締結装置7などを備えている。図1〜図4に示すレール5は、列車1の車輪3を支持し案内してこの列車1を走行させる部材である。レール5は、図2に示すように、車両1Aの車輪3と接触するレール頭部5aと、軌道スラブ6に設置されるレール底部5bと、レール頭部5aとレール底部5bとを繋ぐレール腹部5cとを備えている。レール底部5bは、締結ばね7cによって押さえ付けられる底部上面5dと、軌道スラブ6に設置される底部下面5eとが形成されている。
【0036】
図1〜図4に示す軌道スラブ6は、レール5を支持する支持体(支承体)である。軌道スラブ6は、矩形平板状のプレキャストのコンクリート版からなるスラブ版であり、道床バラストとまくらぎとを用いた一般的な有道床軌道の保守作業を軽減するために、道床バラストとまくらぎとを一体化させた省力化軌道の一種であるスラブ軌道区間において、レール5と路盤8との間に設置されている。軌道スラブ6は、レール締結装置7のタイプレート7aが取り付けられるスラブ面6aなどを備えている。
【0037】
図2に示すレール締結装置7は、レール5を軌道スラブ6に締結する装置である。レール締結装置7は、図1に示すように、レール5の長さ方向に沿って所定の間隔をあけてこのレール5を軌道スラブ6に締結する。レール締結装置7は、レール5を上下方向及び左右方向に調整可能な構造であり、列車1が通過する際に発生する振動を吸収する緩衝機能を有する。レール締結装置7は、図2に示すように、タイプレート7aと、軌道パッド7bと、締結ばね7cと、締結ボルト7dと、ボルト7eなどを備えている。
【0038】
図2に示すタイプレート7aは、レール5と軌道スラブ6との間に挿入される板状の締結用部材であり、レール5の水平方向の移動を規制する。軌道パッド7bは、レール5とタイプレート7aとの間に挿入される緩衝用の板状部材であり、列車1が通過する際に発生する衝撃荷重を緩和するとともに、レール5が長手方向に移動するふく進に対する抵抗力を確保するために、レール底部5bの底部下面5eとタイプレート7aの上面との間に挟み込まれる加硫ゴム製又はウレタン製の板状部材である。軌道パッド7bは、軌道スラブ6の表面を保護する機能と電気的に絶縁する機能とを有する。締結ばね7cは、レール5を押さえ付けて締結するばねである。締結ばね7cは、例えば、板状のばね鋼を略U字状に折り曲げて形成した板ばね(主ばね)であり押さえ金(ばねクリップ)として機能する。締結ボルト7dは、締結ばね7cを締め付ける部材であり、タイプレート7aの雌ねじ部と噛み合う六角ボルトなどである。締結ボルト7dは、レール底部5bの底部上面5dに締結ばね7cを押し付けている。ボルト7eは、タイプレート7aを軌道スラブ6に固定する部材である。
【0039】
図1〜図4に示す路盤8は、軌道4を支持する基盤であり、軌道4上を列車1が通過するときの荷重を支持する構造物である。路盤8は、例えば、スラブ軌道区間に設置される路盤コンクリートであり、図1に示すように軌道スラブ6の水平力を支えるために所定の間隔をあけて突起(突起コンクリート)8aが形成されている。
【0040】
図1〜図4に示す制振装置9は、軌道4上を列車1が走行するときに発生する振動を低減する装置である。制振装置9は、図1〜図4に示す弾性支持部10と、図1、図3及び図4に示す振動検出部11A,11Bと、信号処理部12A,12Bと、図1〜図4に示す流路13と、図1、図3及び図4に示す流体供給部14と、流体排出部15と、ばね剛性検出部16と、制振条件設定部17と、制振条件情報記憶部18と、振動低減率設定部19と、振動低減率情報記憶部20と、ばね剛性演算部21と、ばね剛性可変部22と、プログラム記憶部23と、制御部24などを備えている。制振装置9は、軌道4上を列車1が走行するときに発生する振動を振動検出部11A,11Bによって検出して、振動状況に応じて弾性支持部10のばね剛性(ばね定数)をばね剛性可変部22によって可変する。
【0041】
図1〜図4に示す弾性支持部10は、軌道スラブ6を路盤8上に弾性支持する手段である。弾性支持部10は、外観が略円柱状又は略楕円柱状の弾性体であり、弾性率を変更可能な構造体である。弾性支持部10は、図1及び図3に示すように、軌道4の長さ方向に複数配置(例えば4個配置)されており、この弾性支持部10の長さ方向が軌道スラブ6の幅方向と一致し、この弾性支持部10の幅方向が軌道スラブ6の長さ方向と一致するように、レール5と軌道スラブ6との間に挿入されている。弾性支持部10は、図2に示すように、袋体10aと、流体10bと、接続口10cなどを備えている。弾性支持部10は、ばね定数が1MN/mを下回ると路盤8側の振動を低減できず、ばね定数が20MN/mを超えるとレール5側の振動を低減できないため、ばね定数が1〜20MN/mの範囲内に調整されている。
【0042】
図2に示す袋体10aは、内部に流体10bが封入される部材である。袋体10aは、軌道スラブ6と路盤8との間で伸縮する部材であり、内部の流体圧に応じて伸縮するエアクッション状の風船構造を備えている。袋体10aは、外観が筒状(パイプ状)の中空の膜状体の両端部を蓋状の膜状体によって塞ぎ、中空の膜状体と蓋状の膜状体とを一体に隙間なく接合して形成されている。袋体10aは、例えば、シート状又はフィルム状のゴムなどによって形成されており、基材とこの基材の表面を被覆する被覆材とを備えている。
【0043】
基材は、内部に封入された流体10bの圧力に応じて伸縮可能であり、ゴム類、高分子材料類、合成樹脂類又はこれらの任意の複合層からなるラミネート材などによって形成されている。このようなゴム類としては、例えば、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム、フッ素ゴム、シリコンゴム、ウレタンゴム、ポリノルボルネンゴム又はアクリルゴムなどの加硫ゴムからなるゴム材料が好ましい。高分子材料類としては、例えば、高温では可塑化されてプラスチックのように樹脂用の加工機械によって加工が可能であり、常温ではゴム弾性体(エラストマ)としての性質を示すウレタン系、スチレン系、オレフィン系又は塩化ビニル系などの熱可塑性エラストマ(TPE)が好ましい。合成樹脂類としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル又はエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)などの熱可塑性樹脂である。基材は、ゴム材料である場合には、引張弾性率が室温で1〜100MPaであり、損失係数が室温で0.01〜2.00であることが好ましい。基材の膜厚は、2mmを下回ると強度に問題があり、50mmを超えると伸縮が困難であるため、2mm以上であることが好ましく、5〜50mmであることが特に好ましい。基材の長さは、軌道スラブ6の幅と略等しく、基材の外径は100〜2000mmが好ましい。基材は、列車1及び軌道4を支持する必要があるため、少なくとも2MPaの内圧に耐えられることが必要である。
【0044】
被覆材は、基材の表面を被覆する繊維類などであり、基材の表面を保護する機能を有する。被覆材は、基材の全面に接着剤などによって貼り付けられている。被覆材は、例えば、綿などの天然素材、ポリエステル、ナイロン又はアクリル樹脂などの合成繊維からなる帆布などである。被覆材は、基材と一体となって伸縮する必要があるため、引張強さが50N/本以上であり、伸びが20%以下であることが好ましい。
【0045】
図2及び図4に示す流体10bは、袋体10a内に封入される封入物である。流体10bは、袋体10aの内部に流入及び流出可能なように収容される気体又は液体などの内封材であり、袋体10a内に流入することによってこの袋体10a内の圧力を上昇させてこの袋体10aを膨張させ、袋体10a内から流出することによってこの袋体10a内の圧力を下降させてこの袋体10aを収縮させる。このような気体としては、例えば、空気、酸素、窒素などが好ましく、入手が容易で安価な空気が特に好ましい。液体としては、水、油、シリコーンゲル、エチレングリコール、酢酸ビニル系、EVA系又はアクリル樹脂系のエマルジョン、ゴムラテックスなどが好ましく、入手が容易で安価な水又は油が特に好ましい。
【0046】
図2及び図4に示す接続口10cは、袋体10aの内部と接続する部分である。接続口10cは、軌道スラブ6と路盤8との間に袋体10aを設置したときに流路13との接続作業が容易なように、軌道4の左右方向におけるこの袋体10aの側面に配置されている。接続口10cは、袋体10aを貫通してこの袋体10aと一体に形成されており、この接続口10cの内周部に流路13側の雄ねじ部と噛み合う雌ねじ部を備えている。接続口10cには、この接続口10c側の雌ねじ部と流路13側の雄ねじ部との間から流体10bが外部に漏れ出すのを防止するために、これらの間にシリコーンなどの充填材が充填されている。
【0047】
図1、図3及び図4に示す振動検出部11A,11Bは、列車1が軌道4上を走行するときに発生する振動を検出する手段である。振動検出部11Aは、レール5の振動を検出し、振動検出部11Bは路盤8の振動を検出する。振動検出部11A,11Bは、例えば、上下方向の加速度を検出する加速度センサ又は上下方向の変位を検出する変位センサなどである。振動検出部11Aは、例えば、レール5の底部上面5d上に設置されており、振動検出部11Bは路盤8上に設置されている。振動検出部11A,11Bは、振動の大きさに応じた振動検出信号(振動検出情報)を信号処理部12A,12Bに出力する。
【0048】
図1、図3及び図4に示す信号処理部12A,12Bは、振動検出部11A,11Bが出力する振動検出信号を所定の処理をする手段である。信号処理部12A,12Bは、例えば、振動検出部11A,11Bが出力するアナログ信号をディジタル信号に変換するA/D変換回路と、振動検出部11A,11Bが出力する振動検出信号からノイズ成分を除去するフィルタ回路などを備えている。信号処理部12A,12Bは、信号処理後の振動検出信号(振動検出情報)を制御部24に出力する。
【0049】
図1〜図4に示す流路13は、弾性支持部10の袋体10aとばね剛性可変部22との間で流体10bが流れる管路である。流路13は、弾性支持部10とばね剛性可変部22とを接続する給排出用の配管であり、一方の端部が分岐して各弾性支持部10の接続口10cにそれぞれ着脱自在に接続されており、他方の端部がばね剛性可変部22に着脱自在に接続されている。流路13は、弾性支持部10の袋体10a内に流体10bを供給するときには、流体供給部14からばね剛性可変部22を通じてこの袋体10aにこの流体10bを流入させる。一方、流路13は、弾性支持部10の袋体10a内から流体10bを排出するときには、この袋体10aからばね剛性可変部22を通じて流体排出部15にこの流体10bを流出させる。
【0050】
図1、図3及び図4に示す流体供給部14は、弾性支持部10の袋体10aに流体10bを供給する手段である。流体供給部14は、袋体10aから流体10bが漏れ出したようなときに、この袋体10a内に流体10bを充填する流体充填部としても機能する。流体供給部14は、図4に示すように、蓄圧部14aと、流体圧検出部14bと、圧力源14cと、流路14dなどを備えている。蓄圧部14aは、所定の圧力の流体10bを蓄積する部分であり、流体圧を蓄えるアキュムレータ又はエアタンクなどである。流体圧検出部14bは、蓄圧部14a内の流体圧を検出する部分であり、流体圧を検出して圧力検出信号を出力する圧力センサなどであり、蓄圧部14a内の圧力に応じた圧力検出信号(圧力検出情報)を制御部24に出力する。圧力源14cは、蓄圧部14a内に流体10bを供給する部分であり、蓄圧部14a内に流体10bを加圧して送出するポンプ又はコンプレッサなどである。圧力源14cは、蓄圧部14a内の流体圧が所定値を下回ったと流体圧検出部14bが検出したときには、蓄圧部14a内への流体10bの供給を開始し、蓄圧部14a内の流体圧が所定値に達したと流体圧検出部14bが検出したときには、蓄圧部14a内への流体10bの供給を停止する。流路14dは、流体供給部14とばね剛性可変部22との間で流体10bが流れる管路である。流路14dは、弾性支持部10の袋体10aに流体供給部14から流体10bを流出させる供給用の配管であり、蓄圧部14aからばね剛性可変部22に流体10bを流入させる。流路14dは、蓄圧部14a、圧力源14c及びばね剛性可変部22を接続しており、一方の端部がばね剛性可変部22に着脱自在に接続されており他方の端部が蓄圧部14aを通過して圧力源14cに着脱自在に接続されている。
【0051】
図1、図3及び図4に示す流体排出部15は、弾性支持部10の袋体10aから流体10bを排出する手段である。流体排出部15は、図4に示すように、回収部15aと流路15b,15cなどを備えている。回収部15aは、流体10bを回収する部分であり、弾性支持部10の袋体10aからばね剛性可変部22を通じて排出される流体10bを収容するタンクなどである。流路15bは、流体排出部15とばね剛性可変部22との間で流体10bが流れる管路である。流路15bは、弾性支持部10の袋体10aから流体排出部15に流体10bを流出させる排出用の配管であり、ばね剛性可変部22から回収部15aにこの流体10bを流出させる。流路15bは、回収部15aとばね剛性可変部22とを接続しており、一方の端部がばね剛性可変部22に着脱自在に接続されており他方の端部が回収部15aに着脱自在に接続されている。流路15cは、流体10bが流れる管路であり、回収部15aから圧力源14cに流体10bを戻す戻り流路(戻り配管)として機能する。流路15cは、圧力源14cに回収部15aから流体10bが戻るように、圧力源14c及び回収部15aを接続する配管であり、一方の端部が回収部15aに着脱自在に接続されており他方の端部が圧力源14cに着脱自在に接続されている。
【0052】
図1、図3及び図4に示すばね剛性検出部16は、弾性支持部10のばね剛性を検出する手段である。ばね剛性検出部16は、図4に示すように、流体圧検出部16aと流体圧/ばね剛性変換部16bなどを備えている。流体圧検出部16aは、弾性支持部10の袋体10a内の流体圧を検出する部分である。流体圧検出部16aは、例えば、流路13内の流体圧を検出することによって袋体10a内の圧力を検出する圧力センサなどである。流体圧検出部16aは、袋体10a内の流体圧に応じた流体圧検出信号(流体圧検出情報)を流体圧/ばね剛性変換部16bに出力する。流体圧/ばね剛性変換部16bは、流体圧値をばね剛性値に変換する部分である。流体圧/ばね剛性変換部16bは、例えば、流体圧値とばね剛性値との相関関係を示す相関関係情報を予めテーブル化して記憶しており、流体圧検出部16aが出力する流体圧検出信号をばね剛性検出信号(ばね剛性検出情報)に変換して、このばね剛性検出信号を制御部24に出力する。
【0053】
図1、図3及び図4に示す制振条件設定部17は、弾性支持部10によって振動を低減するときの制振条件を設定する手段である。制振条件設定部17は、レール5側の振動と路盤8側の振動とを低減する最適制振モード(第1の制振条件)と、レール5側の振動を低減するレール優先制振モード(第2の制振条件)と、路盤8側の振動を低減する路盤優先制振モード(第3の制振条件)とを設定する。制振条件設定部17は、例えば、最適制振モード、レール優先制振モード又は路盤優先制振モードのいずれか一つの制振条件を設定者などが設定するときに操作される選択スイッチなどである。制振条件設定部17は、設定された制振条件に対応する制振条件設定信号(制振条件情報)を制御部24に出力する。
【0054】
制振条件情報記憶部18は、制振条件設定部17によって設定された制振条件を記憶する手段である。制振条件情報記憶部18は、例えば、最適制振モード、レール優先制振モード又は路盤優先制振モードのいずれか一つの制振条件を制振条件情報として記憶するメモリなどである。
【0055】
振動低減率設定部19は、レール5側又は路盤8側の振動の低減率を設定する手段である。振動低減率設定部19は、列車通過時に発生するレール5側の振動を所定の割合だけ低減する必要があるとき、又は列車通過時に発生する路盤8側の振動を所定の割合だけ低減する必要があるとき、振動低減効果を希望する振動の低減率を設定する。振動低減率設定部19は、例えば、列車通過時の振動が100%である場合にこの振動を30%低減する必要があるときには、振動の低減率を30%として設定する。振動低減率設定部19は、例えば、振動の低減率を設定者などが設定するときに数値を入力する入力装置などである。振動低減率設定部19は、設定された振動の低減率に対応する振動低減率設定信号(振動低減率情報)を制御部24に出力する。
【0056】
振動低減率情報記憶部20は、振動低減率設定部19によって設定された振動の低減率を記憶する手段である。振動低減率情報記憶部20は、例えば、レール5側の振動の低減率又は軌道4側の振動の低減率を振動低減率情報として記憶するメモリなどである。
【0057】
ばね剛性演算部21は、振動検出部11A,11Bの検出結果に基づいて弾性支持部10の最適なばね剛性を演算する手段である。ばね剛性演算部21は、レール5側の振動と路盤8側の振動とを低減するような弾性支持部10の最適なばね剛性を演算する。ばね剛性演算部21は、振動検出部11Aが出力する振動検出信号と振動検出部11Bが出力する振動検出信号とに基づいて、レール5側の振動の抑制と路盤8側の振動の抑制とを可能な限り実現可能な弾性支持部10のばね剛性を演算する。ばね剛性演算部21は、例えば、制振条件設定部17によって最適制振モードが設定されているときには、レール5側の振動の大きさ(振幅)と路盤8側の振動の大きさ(振幅)とが略同一になるように弾性支持部10のばね剛性を演算する。ばね剛性演算部21は、例えば、制振条件設定部17によってレール優先制振モードが設定されているときには、路盤8側の振動が大きくなってもレール5側の振動が低減するように弾性支持部10のばね剛性を演算する。一方、ばね剛性演算部21は、制振条件設定部17によって路盤優先制振モードが設定されているときには、レール5側の振動が大きくなっても路盤8側の振動が低減するように弾性支持部10のばね剛性を演算する。ばね剛性演算部21は、例えば、振動低減率設定部19によってレール5側の振動の低減率が所定の割合に設定されているときには、レール5側の振動が所定の割合だけ低減するように弾性支持部10のばね剛性を演算する。ばね剛性演算部21は、演算後の弾性支持部10のばね剛性をばね剛性演算信号(ばね剛性演算情報)として制御部24に出力する。
【0058】
ばね剛性可変部22は、軌道4上を列車1が走行するときに発生する振動を低減するように、弾性支持部10のばね剛性を可変する手段である。ばね剛性可変部22は、弾性支持部10の袋体10a内の流体圧を調整することによってこの弾性支持部10のばね剛性を可変する。ばね剛性可変部22は、制振条件設定部17によって設定される制振条件に基づいて、弾性支持部10のばね剛性を可変する。ばね剛性可変部22は、制振条件設定部17によって最適制振モードが設定されているときには、レール5側の振動と路盤8側の振動とが低減するように、弾性支持部10のばね剛性を可変する。また、ばね剛性可変部22は、制振条件設定部17によってレール優先制振モードが設定されているときには、レール5側の振動が低減するように、弾性支持部10のばね剛性を可変する。さらに、ばね剛性可変部22は、制振条件設定部17によって路盤優先制振モードが設定されているときには、路盤8側の振動が低減するように、弾性支持部10のばね剛性を可変する。ばね剛性可変部22は、振動低減率設定部19によって設定される振動の低減率に基づいて、弾性支持部10のばね剛性を可変する。ばね剛性可変部22は、例えば、路盤8側の振動の低減率が所定の割合に設定されているときには、レール5側の振動が増加してもこの路盤8側の振動が所定の割合だけ低減するように、弾性支持部10のばね剛性を可変する。
【0059】
ばね剛性可変部22は、流路14dと流路15bとを切り替えており、流路14d又は流路15bのいずれか一方が流路13と接続するように流体10bな流れ方向を可変する。ばね剛性可変部22は、弾性支持部10のばね剛性を高くするときには、弾性支持部10の袋体10a内に流体供給部14から流体10bが供給されるように、流路13と流路14dとを接続し、流路13と流路15bとを遮断する。ばね剛性可変部22は、弾性支持部10のばね剛性を低くするときには、弾性支持部10の袋体10a内から流体排出部15に流体10bが排出されるように、流路13と流路15bとを接続し、流路13と流路14dとを遮断する。ばね剛性可変部22は、弾性支持部10のばね剛性を一定に維持するときには、弾性支持部10の袋体10a内に流体10bが保持されるように、流路13と流路14d,15bとを遮断する。ばね剛性可変部22は、流体供給部14から弾性支持部10への流体10bの流れのみを許容する第1の切替位置と、弾性支持部10から流体排出部15への流体10bの流れのみを許容する第2の切替位置と、弾性支持部10と流体供給部14及び流体排出部15との間の流体10bの流れを禁止する第3の切替位置とに切り替わる。ばね剛性可変部22は、例えば、流体10bの流れる方向を流路13と流路14d,15bとの間で切り替える方向切替弁などの電磁弁であり、制御部24が出力する電気信号によって開閉動作して弾性支持部10のばね剛性を可変する。
【0060】
プログラム記憶部23は、軌道4上を列車1が走行するときに発生する振動を低減するための制振プログラムを記憶する手段である。プログラム記憶部23は、例えば、電気通信回線又は情報記録媒体から読み込んだ制振プログラムを記憶するメモリなどである。
【0061】
制御部24は、制振装置9に関する種々の動作を制御する手段である。制御部24は、例えば、振動検出部11A,11Bが出力する振動検出情報をばね剛性演算部21に出力したり、ばね剛性検出部16にばね剛性の検出動作を指令したり、ばね剛性検出部16が出力するばね剛性検出情報をばね剛性演算部21に出力したり、ばね剛性演算部21にばね剛性の演算動作を指令したり、制振条件設定部17が出力する制振条件情報の記憶を制振条件情報記憶部18に指令したり、制振条件情報記憶部18が記憶する制振条件情報を読み出してばね剛性演算部21に出力したり、振動低減率設定部19が出力する振動低減率情報の記憶を振動低減率情報記憶部20に指令したり、振動低減率情報記憶部20が記憶する制振条件情報を読み出してばね剛性演算部21に出力したり、ばね剛性可変部22に可変動作を指令したり、プログラム記憶部23から制振プログラムを読み出して一連の制振処理を実行したりする。
【0062】
制御部24は、ばね剛性検出部16の検出結果とばね剛性演算部21の演算結果とに基づいて、ばね剛性可変部22を動作制御し弾性支持部10のばね剛性を可変制御する。制御部24は、例えば、ばね剛性演算部21が出力するばね剛性演算信号とばね剛性検出部16が出力するばね剛性検出信号とに基づいてばね剛性可変部22をフィードバック制御する。制御部24は、ばね剛性演算部21が出力するばね剛性演算信号(目標値)とばね剛性検出部16が出力するばね剛性検出信号(測定値)との偏差を演算し、この偏差がゼロになるようにばね剛性可変部22に可変動作を指令する。制御部24は、流体圧検出部14bが出力する流体圧検出信号に基づいて圧力源14cを動作制御する。制御部24は、例えば、蓄圧部14a内の流体圧が設定値に達するまで圧力源14cから蓄圧部14aに流体10bを送出させ、蓄圧部14a内の流体圧が設定値に達するまで圧力源14cに送出動作を指令し、蓄圧部14a内の流体圧が設定値に達したときには圧力源14cに送出動作の停止を指令する。
【0063】
制御部24は、制振条件設定部17によって設定される制振条件に基づいて、弾性支持部10のばね剛性を可変制御する。制御部24は、制振条件設定部17によって最適制振モードが設定されているときには、レール5側の振動と路盤8側の振動とが低減するように、弾性支持部10のばね剛性を可変制御する。また、制御部24は、制振条件設定部17によってレール優先制振モードが設定されているときには、レール5側の振動が低減するように、弾性支持部10のばね剛性を可変制御する。さらに、制御部24は、制振条件設定部17によって路盤優先制振モードが設定されているときには、路盤8側の振動が低減するように、弾性支持部10のばね剛性を可変制御する。制御部24には、信号処理部12A,12Bと、流体圧検出部14bと、圧力源14cと、制振条件設定部17と、制振条件情報記憶部18と、振動低減率設定部19と、振動低減率情報記憶部20と、ばね剛性演算部21と、ばね剛性可変部22などが接続されている。
【0064】
次に、この発明の第1実施形態に係る制振装置の動作を説明する。
以下では、制御部24の動作を中心として説明する。
図5に示すステップ(以下、Sという)100において、プログラム記憶部23から制振プログラムを制御部24が読み込む。図1、図3及び図4に示す制御部24に電力が供給されてこの制御部24が起動を開始すると、プログラム記憶部23から制振プログラムを制御部24が読み込み、一連の制振処理を制御部24が開始する。
【0065】
S110において、制振条件情報を制振条件情報記憶部18から制御部24が読み込む。制振条件設定部17によって制振条件情報が設定されるとこの制振条件情報が制振条件情報記憶部18に記憶されるため、この制振条件情報記憶部18から制振条件情報を制御部24が読み出して、この制振条件情報をばね剛性演算部21に制御部24が出力する。
【0066】
S120において、振動低減率情報を振動低減率情報記憶部20から制御部24が読み込む。振動低減率設定部19によって振動低減率情報が設定されると、この振動低減率情報が振動低減率情報記憶部20に記憶されるため、この振動低減率情報記憶部20から振動低減率情報を制御部24が読み出して、この振動低減率情報をばね剛性演算部21に制御部24が出力する。
【0067】
S130において、振動が発生したか否かを制御部24が判断する。軌道4上を列車1が走行するとレール5、軌道スラブ6及び路盤8が振動し、振動検出部11A,11Bが振動検出信号を信号処理部12A,12Bに出力し、処理後の振動検出信号を信号処理部12A,12Bが制御部24に出力する。振動検出信号が制御部24に入力したときには、列車1が軌道4上を走行して振動が発生したと制御部24が判断してS140に進む。一方、振動検出信号が制御部24に入力しなかったときには、振動検出信号が制御部24に入力するまで制御部24がS130の判断を繰り返す。
【0068】
S140において、ばね剛性検出部16にばね剛性の検出を制御部24が指令する。軌道4上を列車1が走行すると弾性支持部10の袋体10aに荷重が加わる。このとき、図4に示す流路13と流路14d,15bとの間の流体10bの流れをばね剛性可変部22が遮断しているため、弾性支持部10の袋体10aが伸縮するとこの袋体10a内の流体圧と流路13内の流体圧とが変化する。その結果、ばね剛性検出部16の流体圧検出部16aが袋体10a内及び流路13内の流体圧を検出するとともに、この流体圧の圧力値に対応する弾性支持部10のばね剛性を流体圧/ばね剛性変換部16bが演算し、この演算結果をばね剛性検出信号として制御部24に出力する。
【0069】
S150において、ばね剛性演算部21にばね剛性の演算を制御部24が指令する。図1、図3及び図4に示す振動検出信号を信号処理部12A,12Bが制御部24に出力すると、この振動検出信号をばね剛性演算部21に制御部24が出力する。一般に、レール5側の振動を低下させようとすると路盤8側の振動が上昇し、路盤8側の振動を低下させようとするとレール5側の振動が上昇する。制振条件設定部17によって最適制振モードが設定されているときには、レール5側の振動と路盤8側の振動がいずれも同程度に低減されるように、弾性支持部10の最適なばね剛性をばね剛性演算部21が演算し、この演算結果をばね剛性演算信号として制御部24に出力する。制振条件設定部17によってレール優先制振モードが設定されているときには、路盤8側の振動の低減よりもレール5側の振動の低減のほうがより重要度が高くなる。このため、路盤8側の振動が大きくなってもレール5側の振動が小さくなるように、弾性支持部10のばね剛性をばね剛性演算部21が演算し、この演算結果をばね剛性演算信号として制御部24に出力する。一方、制振条件設定部17によって路盤優先制振モードが設定されているときには、レール5側の振動の低減よりも路盤8側の振動の低減のほうがより重要度が高くなる。このため、レール5側の振動が大きくなっても路盤8側の振動が小さくなるように、弾性支持部10のばね剛性をばね剛性演算部21が演算し、この演算結果をばね剛性演算信号として制御部24に出力する。振動低減率設定部19によってレール5側又は路盤8側の振動の低減率が所定の割合に設定されているときには、レール5側又は路盤8側のいずれか一方の振動が大きくなっても他方の振動が所定の割合だけ低減するように、弾性支持部10のばね剛性をばね剛性演算部21が演算し、この演算結果をばね剛性演算信号として制御部24に出力する。
【0070】
S160において、ばね剛性可変部22にばね剛性の可変を制御部24が指令する。ばね剛性演算部21が出力するばね剛性演算値(目標値)とばね剛性検出部16が出力するばね剛性検出値(測定値)との偏差を制御部24が演算し、ばね剛性演算値とばね剛性検出値との偏差がゼロになるように、ばね剛性可変部22に可変動作指令信号を制御部24が出力し、ばね剛性可変部22を制御部24が可変動作させる。このため、図4に示す弾性支持部10のばね剛性を高く調整する必要があるときには、流体供給部14の蓄圧部14aから弾性支持部10の袋体10aに流体10bが流入するように、ばね剛性可変部22が流路13と流路14dとを接続し、袋体10a内の流体圧が上昇して弾性支持部10のばね剛性が高くなる。一方、弾性支持部10のばね剛性を低く調整する必要があるときには、弾性支持部10の袋体10aから流体排出部15の回収部15aに流体10bが流出するようにばね剛性可変部22が流路13と流路15bとを接続し、袋体10a内の流体圧が下降して弾性支持部10のばね剛性が低くなる。弾性支持部10のばね剛性を一定に維持する必要があるときには、弾性支持部10の袋体10aと流体供給部14の蓄圧部14a及び流体排出部15の回収部15aとの間を遮断するようにばね剛性可変部22が流路13と流路14d,15bとを遮断し、袋体10a内の流体圧が一定に維持されて弾性支持部10のばね剛性も一定に維持される。その結果、弾性支持部10のばね剛性が最適値に調整されて、列車1が軌道4上を走行するときに発生する振動が低減する。
【0071】
S170において、振動が継続しているか否かを制御部24が判断する。図1、図3及び図4に示すレール5、軌道スラブ6及び路盤8の振動が継続している間は、振動検出部11A,11Bが振動検出信号を信号処理部12A,12Bに出力し、処理後の振動検出信号を信号処理部12A,12Bが制御部24に出力する。このため、振動検出信号が制御部24に入力したときには、振動が継続していると制御部24が判断してS140に戻りS140以降の制振処理が継続さる。一方、振動検出信号が制御部24に入力しないときには、一連の制振処理を制御部24が終了する。
【0072】
この第1実施形態に係る制振装置には、以下に記載するような効果がある。
(1) この第1実施形態では、軌道スラブ6を路盤8上に弾性支持部10が弾性支持し、軌道4上を列車1が走行するときに発生する振動を低減するように、この弾性支持部10のばね剛性をばね剛性可変部22が可変する。このため、列車1の非通過時には弾性支持部10のばね剛性を適当に調整しておき、列車1の通過時には振動状況に応じて弾性支持部10のばね剛性を可変して、列車通過時に発生する振動を積極的に低減することができる。その結果、列車通過時に発生する振動の低減効果が増大して、この振動に起因する騒音を低減することができる。また、コンクリート高架橋や鋼橋などの下部構造に伝達される加振力が低減するため、下部構造の劣化や破壊を抑制することができるとともに軌道保守量を低減することができる。さらに、レール4の長さ方向の形状が変化する軌道変位(軌道狂い)などが抑制されて、列車の乗り心地を改善することができる。
【0073】
(2) この第1実施形態では、レール5側の振動と路盤8側の振動とが低減するように、弾性支持部10のばね剛性をばね剛性可変部22が可変する。このため、振動低減効果を最もバランスよく実現可能なばね剛性値に弾性支持部10のばね剛性が最適化されて、レール5側の振動のみならず路盤8側の振動も低減することができる。
【0074】
(3) この第1実施形態では、レール5側の振動が低減するように、弾性支持部10のばね剛性をばね剛性可変部22が可変する。このため、列車走行時に発生する路盤8の振動が大きい場合には、弾性支持部10のばね剛性が低くなるようにこの弾性支持部10のばね剛性を低ばね化して、路盤8から沿線に伝わる振動を抑制することができる。例えば、コンクリート高架橋のようなコンクリート路盤に沿って防音壁が設置されている場合であって、このコンクリート路盤の下方に住居が存在することがある。このような場合には、レール5側の振動がある程度大きくなってもこの振動によって発生する騒音を防音壁によって低減することができるが、コンクリート路盤側の振動によってこのコンクリート路盤から下方に放射される騒音を低減することが困難である。この第1実施形態では、レール5側の制振対策よりも路盤8側の制振対策のほうが重要視されている場合に、路盤8側の振動を制振装置9によって効果的に低減することができる。
【0075】
(4) この第1実施形態では、路盤8側の振動が低減するように、弾性支持部10のばね剛性をばね剛性可変部22が可変する。このため、列車走行時に発生する軌道スラブ6の振動が大きい場合には、弾性支持部10のばね剛性が高くなるようにこの弾性支持部10のばね剛性を高剛性化して、軌道スラブ6から路盤8に伝わる振動を抑制することができる。例えば、地盤面よりも高く盛り上げられた盛土のような土路盤の下方に住居が存在しない場合であって、この土路盤に沿って防音壁が設置されていない場合がある。この場合に、土路盤側の振動がある程度大きくなってもこの振動によって発生する騒音を低減する必要性が少ないが、レール5側の振動によって土路盤上の軌道4から放射される騒音を低減する必要性が高くなる。この第1実施形態では、路盤8側の制振対策よりもレール5側の制振対策のほうが重要視されている場合に、レール5側の振動を制振装置9によって効果的に低減することができる。
【0076】
(5) この第1実施形態では、レール5側又は路盤8側の振動の低減率を振動低減率設定部19が設定し、この振動低減率設定部19によって設定される振動の低減率に基づいて、弾性支持部10のばね剛性をばね剛性可変部22が可変する。このため、路盤8側の振動の低減よりもレール5側の振動を優先的に任意の割合だけ低減させたり、レール5側の振動の低減よりも路盤8側の振動を優先的に任意の割合だけ低減させたりすることができる。例えば、路盤8上に制振材を設置した後には、路盤8側の振動が増加してもこの振動に起因する騒音を制振材によって低減することができるため、レール5側の振動を優先的に任意の割合だけ低減させることができる。また、軌道4の側方に防音壁を設置した後には、レール5側の振動の振動が増加してもこの振動に起因する騒音を防音壁によって低減することができるため、路盤8側の振動の大きさを優先的に任意の割合だけ低減させることができる。
【0077】
(6) この第1実施形態では、内部に流体10bが封入される袋体10aを弾性支持部10が備えており、この袋体10a内の流体圧を調整することによってこの弾性支持部10のばね剛性をばね剛性可変部22が可変する。このため、安価で簡単な構造の袋体10aに作動流体を封入し、この作動流体の流体圧を調整することによって袋体10aを容易に伸縮させることができ、弾性支持部10のばね剛性を簡単に可変制御することができる。
【0078】
(7) この第1実施形態では、軌道4の左右方向における袋体10aの側面に、この袋体10aの内部と接続する接続口10cを弾性支持部10が備えている。このため、従来の制振装置のような軌道4の上下方向に接続口を配置する場合に比べて、袋体10aの接続口10cに配管などを簡単に接続することができ弾性支持部10を容易に施工することができる。また、袋体10a内から流体10bが漏出したり、袋体10aが劣化して弾性率が低下したりしたときに、接続口10cから流体10bを簡単に充填して、袋体10aを補強したり袋体10aの高さを調整したりすることができる。
【0079】
(8) この第1実施形態では、流体供給部14から袋体10a内に流体10bを流入させる流路14dと、袋体10a内から流体排出部15に流体10bを流出させる流路15bとをばね剛性可変部22が切り替える。このため、制御部24によってばね剛性可変部22を確実に切替動作させて袋体10aを迅速に伸縮動作させ、弾性支持部10のばね剛性を簡単に変更することができる。
【0080】
(9) この第1実施形態では、軌道4の長さ方向に弾性支持部10が複数配置されている。このため、複数の弾性支持部10のうちある弾性支持部10を交換する必要があるときに、他の弾性支持部10によって軌道スラブ6と路盤8との間に間隙部が確保されるため、この間隙部に新品の弾性支持部10を容易に挿入することができ短時間で交換作業を完了することができる。また、既存の軌道スラブ6と路盤8との間に弾性支持部10を配置するような簡単な構造であるため、既存の軌道構造を大規模に変更せずに利用して、列車通過時に発生する振動を簡単に低減することができる。
【0081】
(第2実施形態)
以下では、図1〜図4に示す部分と同一の部分については、同一の番号を付して詳細な説明を省略する。
図6に示す制振装置9は、軌道4上を列車1が走行するときに発生する振動が低減するように、列車1の重量に応じて弾性支持部10のばね剛性をばね剛性可変部22によって可変する。制振装置9は、例えば、軌道4上を複数の列車1が通過するときには、各列車1の重量に応じて弾性支持部10のばね剛性をばね剛性可変部22によって可変する。制振装置9は、弾性支持部10と、流路13と、流体供給部14と、流体排出部15と、ばね剛性検出部16と、ばね剛性演算部21と、ばね剛性可変部22と、プログラム記憶部23と、制御部24と、列車重量設定部25と、列車重量情報記憶部26などを備えている。図5に示す制振装置9は、図1、図3及び図4に示す制振装置9とは異なり、振動検出部11A,11Bと、信号処理部12A,12Bと、制振条件設定部17と、制振条件情報記憶部18と、振動低減率設定部19と、振動低減率情報記憶部20などを備えていない。
【0082】
ばね剛性演算部21は、列車重量情報記憶部26が記憶する列車1の重量に基づいて、レール5側の振動と路盤8側の振動とを低減するような弾性支持部10の最適なばね剛性を演算する。ばね剛性演算部21は、例えば、レール5側の振動の大きさ(振幅)と路盤8側の振動の大きさ(振幅)とが略同一になるように弾性支持部10のばね剛性を演算する。ばね剛性可変部22は、軌道4上を通過する列車1の重量に応じて、弾性支持部10のばね剛性を可変する。ばね剛性可変部22は、軌道4上を通過する各列車1の重量が異なるときには、列車重量情報記憶部26が記憶する各列車1の重量に応じて、弾性支持部10のばね剛性を可変する。制御部24は、例えば、列車重量設定部25が出力する列車重量情報の記憶を列車重量情報記憶部26に指令したり、列車重量情報記憶部26から列車重量情報を読み出してばね剛性演算部21に出力したりする。
【0083】
列車重量設定部25は、軌道4上を通過する各列車1の重量を設定する手段である。列車重量設定部25は、旅客列車又は貨物列車のような列車1の分類によって各列車1の重量が異なり、電車、気動車、機関車、客車又は貨車のような列車1を組成する車両1Aによっても各列車1の重量が異なるため、軌道4上を通過する各列車1の重量を予め設定する。列車重量設定部25は、例えば、各列車1の重量を設定者などが設定するときに数値を入力する入力装置などである。列車重量設定部25は、設定された各列車1の重量に対応する列車重量設定信号(列車重量情報)を制御部24に出力する。
【0084】
列車重量情報記憶部26は、軌道4上を通過する各列車1の重量を記憶する手段である。列車重量情報記憶部26は、例えば、軌道4上を各列車1が通過する通過時刻順に各列車1の重量を列車重量情報として記憶するメモリなどである。列車重量情報記憶部26は、例えば、軌道4上を通過する列車1の運行を集中して管理する列車運行管理装置などから電気通信回線などを通じて、各列車1の通過時刻などを読み込み、列車重量設定部25によって設定された各列車1の重量と対応させて記憶する。
【0085】
次に、この発明の第2実施形態に係る制振装置の動作を説明する。
以下では、図5に示す処理と対応する処理については詳細な説明を省略する。
図7に示すS200において、プログラム記憶部23から制振プログラムを制御部24が読み込み、S210において列車重量情報を列車重量情報記憶部26から制御部24が読み込む。列車重量設定部25によって列車重量情報が設定されると、この列車重量情報が列車重量情報記憶部26に記憶されるため、この列車重量情報記憶部26から列車重量情報を制御部24が読み出して、この列車重量情報をばね剛性演算部21に制御部24が出力する。
【0086】
S220において、軌道4上を列車1が通過するか否かを制御部24が判断する。軌道4上を通過する各列車1の通過時刻を列車重量情報から参照し、各列車1の通過時刻よりも所定時間前に現在時刻が達したか否かを、制御部24が有する時計機能によって制御部24が判断する。各列車1の通過時刻よりも所定時間前に現在時刻が達したときには、この所定時間経過後に弾性支持部10上を列車1が通過するため、軌道4上を列車1が通過すると制御部24が判断してS230に進む。一方、各列車1の通過時刻よりも所定時間前に現在時刻が達していないときには、弾性支持部10上を列車1が通過しないため、軌道4上を列車1が通過するまで制御部24がS120の判断を繰り返す。
【0087】
S230において、ばね剛性検出部16にばね剛性の検出を制御部24が指令し、S240においてばね剛性演算部21にばね剛性の演算を制御部24が指令する。列車1の通過時刻よりも所定時間前に現在時刻が達したときには、この列車1が弾性支持部10上を通過する前に弾性支持部10のばね剛性を可変する必要がある。列車重量情報記憶部26から制御部24が読み出した列車重量情報をばね剛性演算部21に制御部24が出力すると、レール5側の振動と路盤8側の振動がいずれも同程度に低減されるように、弾性支持部10の最適なばね剛性を列車重量情報に基づいてばね剛性演算部21が演算し、この演算結果をばね剛性演算信号として制御部24に出力する。
【0088】
S250において、ばね剛性可変部22にばね剛性の可変を制御部24が指令する。その結果、軌道4上を通過する列車1の重量に応じて、弾性支持部10のばね剛性が最適値に調整され、列車1が軌道4上を走行するときに発生する振動が低減する。S260において、軌道4上を次の列車1が通過するか否かを制御部24が判断する。軌道4上を通過する各列車1の通過時刻を列車重量情報から参照し、軌道4上を通過する次の列車1が存在するか否かを制御部24が判断する。軌道4上を通過する次の列車1が存在すると制御部24が判断したときには、S220に戻りS220以降の制振処理が継続される。一方、軌道4上を通過する次の列車1が存在しないと制御部24が判断したときには、一連の制振処理を制御部24が終了する。
【0089】
この発明の第2実施形態に係る制振装置には、第1実施形態の効果に加えて、以下に記載するような効果がある。
(1) この第2実施形態では、軌道4上を通過する列車1の重量に応じて、弾性支持部10のばね剛性をばね剛性可変部22が可変する。このため、例えば、比較的重量の重い列車1が通過する場合と、比較的重量の軽い列車1が通過する場合とに応じて、弾性支持部10のばね剛性を最適値に調整して、レール5側の振動や路盤8側の振動を低減することができる。例えば、機関車のような比較的重い車両1Aによって総重量が比較的重い数両の貨車をけん引する貨物列車が軌道4上を通過するときには、弾性支持部10のばね剛性を低く調整して、路盤8側の振動を優先的に低減することができる。一方、電車のような比較的軽い車両1Aによって編成された旅客列車が軌道4上を通過するときには、弾性支持部10のばね剛性を高く調整して、レール5側の振動を優先的に低減することができる。
【0090】
(2) この第2実施形態では、軌道4上を通過する各列車1の重量を列車重量情報記憶部26が記憶し、この列車重量情報記憶部26が記憶する各列車1の重量に応じて、弾性支持部10のばね剛性をばね剛性可変部22が可変する。このため、旅客列車や貨物列車のように列車1の重量が異なる場合や、列車1を組成する電車や機関車のように車両1Aの重量が異なる場合であっても、各列車1の重量に応じて弾性支持部10のばね剛性を最適なばね剛性に迅速に調整することができる。
【0091】
(他の実施形態)
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能でありこれらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、路盤8がコンクリート路盤である場合を例に挙げて説明したが、コンクリート路盤に限定するものではない。例えば、コンクリート高架橋や鋼橋などの構造物又は土路盤だけではなく、平地や盛土などの全ての鉄道路線にこの発明を適用することができる。また、この実施形態では、支持体が軌道スラブ6である場合を例に挙げて説明したが、まくらぎ又は梯子状のラダーまくらぎなどの他の支持体についてもこの発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、レール締結装置7がタイプレート式のレール締結装置7である場合を例に挙げて説明したが、タイプレート7aを使用しない直結方式のレール締結装置についてもこの発明を適用することができる。
【0092】
(2) この実施形態では、弾性支持部10がクッション構造である場合を例に挙げて説明したが、弾性支持部10が伸縮自在のシリンダ構造である場合についてもこの発明を提供することができる。また、この実施形態では、軌道4の長さ方向に弾性支持部10を隣同士接触させて複数個配置する場合を例に挙げて説明したが、軌道スラブ6と平面形状が略同一の板状の弾性支持部を1枚配置したり、軌道4の長さ方向に間隔をあけて複数個配置したりすることもできる。さらに、この実施形態では、複数の弾性支持部10をばね剛性可変部22によって同時に伸縮動作させる場合を例に挙げて説明したが、複数の弾性支持部10のばね剛性をそれぞればね剛性可変部22によって個別に可変することもできる。
【0093】
(3) この実施形態では、レール5側の振動の振幅と路盤8側の振動の振幅とが略一致するように弾性支持部10のばね剛性を可変する場合を例に挙げて説明したが、両者の振動数特性が略一致するように弾性支持部10のばね剛性を可変することもできる。また、この実施形態では、流体排出部15の回収部15aから流体供給部14の圧力源14cに流体10bを流路15cによって戻す場合を例に挙げて説明したが、流体10bが空気の場合には流体排出部15を省略することもできる。さらに、この実施形態では、振動検出部11A,11Bが加速度センサなどである場合を例に挙げて説明したが、カンチレバー又はレーザ変位計などの他の方式の振動検出部によってレール5及び路盤8の振動を検出することもできる。
【符号の説明】
【0094】
1 列車
1A 車両
4 軌道
5 レール
6 軌道スラブ(支持体)
8 路盤
9 制振装置
10 弾性支持部
10a 袋体
10b 流体
10c 接続口
11A,11B 振動検出部
12A,12B 信号処理部
13 流路(給排出流路)
14 流体供給部
14d 流路(供給流路)
15 流体排出部
15b 流路(排出流路)
16 ばね剛性検出部
17 制振条件設定部
18 制振条件情報記憶部
19 振動低減率設定部
20 振動低減率情報記憶部
21 ばね剛性演算部
22 ばね剛性可変部
24 制御部
25 列車重量設定部
26 列車重量情報記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道上を列車が走行するときに発生する振動を低減する制振装置であって、
レールを支持する支持体を路盤上に弾性支持する弾性支持部と、
前記軌道上を列車が走行するときに発生する振動を低減するように、前記弾性支持部のばね剛性を可変するばね剛性可変部と、
を備える制振装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制振装置において、
前記ばね剛性可変部は、前記レール側の振動と前記路盤側の振動とが低減するように、前記弾性支持部のばね剛性を可変すること、
を特徴とする制振装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の制振装置において、
前記ばね剛性可変部は、前記レール側の振動が低減するように、前記弾性支持部のばね剛性を可変すること、
を特徴とする制振装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の制振装置において、
前記ばね剛性可変部は、前記路盤側の振動が低減するように、前記弾性支持部のばね剛性を可変すること、
を特徴とする制振装置。
【請求項5】
請求項4又は請求項5に記載の制振装置において、
前記レール側又は前記路盤側の振動の低減率を設定する振動低減率設定部を備え、
前記ばね剛性可変部は、前記振動低減率設定部によって設定される前記振動の低減率に基づいて、前記弾性支持部のばね剛性を可変すること、
を特徴とする制振装置。
【請求項6】
請求項1に記載の制振装置において、
前記ばね剛性可変部は、前記軌道上を通過する列車の重量に応じて、前記弾性支持部のばね剛性を可変すること、
を特徴とする制振装置。
【請求項7】
請求項6に記載の制振装置において、
前記軌道上を通過する各列車の重量を記憶する列車重量情報記憶部を備え、
前記ばね剛性可変部は、前記列車重量情報記憶部が記憶する各列車の重量に応じて、前記弾性支持部のばね剛性を可変すること、
を特徴とする制振装置。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の制振装置において、
前記弾性支持部は、内部に流体が封入される袋体を備え、
前記ばね剛性可変部は、前記袋体内の流体圧を調整することによって前記弾性支持部のばね剛性を可変すること、
を特徴とする制振装置。
【請求項9】
請求項8に記載の制振装置において、
前記弾性支持部は、前記軌道の左右方向における前記袋体の側面に、この袋体の内部と接続する接続口を備えること、
を特徴とする制振装置。
【請求項10】
請求項8又は請求項9に記載の制振装置において、
前記袋体内に前記流体を供給する流体供給部と、
前記袋体内から前記流体を排出する流体排出部とを備え、
前記ばね剛性可変部は、前記流体供給部から前記袋体内に前記流体を流入させる供給流路と、前記袋体内から前記流体排出部に前記流体を流出させる排出流路とを切り替えること、
を特徴とする制振装置。
【請求項11】
請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の制振装置において、
前記弾性支持部は、前記軌道の長さ方向に複数配置されていること、
を特徴とする制振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−188839(P2012−188839A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52323(P2011−52323)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000145471)株式会社十川ゴム (28)
【Fターム(参考)】