説明

制電性を有する極細延伸糸及びその製造方法

【課題】従来の極細ポリエステル延伸糸が持つ、柔らかな風合、保温性、吸水、吸湿性などの性能も維持し、制電性能にも優れたポリエステル布帛を得ることができるポリエステル極細延伸糸及びそれを安定して製造する方法を提供する。
【解決手段】芯鞘型複合繊維であって、芯部が下記式で表される特定の制電剤を含有する制電性ポリエステルAで形成され、他方、鞘部が艶消し剤を0〜10wt%含むポリエステルBで形成され、特定の要件を満足する制電性芯鞘型ポリエステル極細延伸糸により達成される。
Z−[(CHCHO)n(RO)m−R]k
[式中、Zは1〜6個の活性水素原子を有する有機化合物残基、Rは炭素原子数6以上のアルキレン基又は置換アルキレン基、Rは水素原子、炭素原子数1〜40の一価の炭化水素基、炭素原子数2〜40の一価のヒドロキシ炭化水素又は炭素原子数2〜40の一価のアシル基、kは1〜6の整数、nはn≧70/kを満足する整数、mは1以上の整数]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制電性を有するポリエステル極細延伸糸及びその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、耐久性に優れた制電性を有するポリエステル極細延伸糸を安定して得られる製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
極細ポリエステル延伸糸は、布帛にした時、柔らかな風合が得られ、保温性、吸水、吸湿性などの性能も向上するため、衣料用途をはじめ、幅広く使われている。
しかしながら、近年、織編物の風合い、肌触り、外観等に関する要求がますます高まってきており、従来の極細ポリエステル延伸糸を用いて製編織された布帛では、柔らかな風合が得られ、保温性、吸水、吸湿性などの性能も向上するものの、パチパチする静電気を抑えるといった制電性を有する布帛は皆無に等しいといっていいほどまだ十分なものではなかった。
【0003】
制電性ポリエステル糸については、ポリエステルに親水性を付与して制電性を発現させようとする試みが行われており、これまでに数多くの提案がなされている。例えばポリエステルにポリオキシアルキレン系ポリエーテル化合物を配合せしめる方法(特許文献1)、並びにポリエステルに実質的に非相溶性のポリオキシアルキレン系ポリエーテル化合物と有機・無機のイオン性化合物とを配合せしめる方法(特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8等)が知られている。
【0004】
確かに制電性を付与することは可能であるものの、しかしながら1.5dtex以下の極細糸においては芯/鞘形成のバラツキ、単糸繊度のバラツキにより、製糸工程での断糸、毛羽が多発し、細繊度で制電性を満足するものはないのが実情であった。
【0005】
【特許文献1】特公昭39−5214号公報
【特許文献2】特公昭44−31828号公報
【特許文献3】特公昭60−11944号公報
【特許文献4】特開昭53−80497号公報
【特許文献5】特開昭53−149247号公報
【特許文献6】特開昭60−39413号公報
【特許文献7】特開平3−139556号公報
【特許文献8】特開平4−146215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上述したことから明らかなように、従来の極細ポリエステル延伸糸が持つ、柔らかな風合、保温性、吸水、吸湿性などの性能も維持し、制電性能にも優れたポリエステル布帛を得ることができるポリエステル極細延伸糸及びそれを安定して製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
芯鞘型複合繊維であって、芯部が制電性ポリエステルAで形成され、他方、鞘部が艶消し剤を0〜10wt%含むポリエステルBで形成され、下記(1)〜(5)の条件を満足する制電性芯鞘型ポリエステル極細延伸糸により達成される。
(1)延伸糸の単糸繊度が1.5dtex以下である。
(2)芯部の面積Aと鞘部の面積Bとの比A:Bが5:95〜80:20の範囲である。
(3)延伸糸の強度が3.0cN/dtex以上である。
(4)伸糸の摩擦帯電圧が2000V以下
(5)制電性ポリエステルAが芳香族ポリエステル100重量部に対して、制電剤として、
(a)下記式で表されるポリオキシアルキレン系ポリエーテルを0.2〜30重量部及び(b)該ポリエステルと実質的に非反応性の有機イオン性化合物0.05〜10重量部を含有してなる制電性ポリエステルであること。
Z−[(CHCHO)n(RO)m−R]k
[式中、Zは1〜6個の活性水素原子を有する有機化合物残基、Rは炭素原子数6以上のアルキレン基又は置換アルキレン基、Rは水素原子、炭素原子数1〜40の一価の炭化水素基、炭素原子数2〜40の一価のヒドロキシ炭化水素又は炭素原子数2〜40の一価のアシル基、kは1〜6の整数、nはn≧70/kを満足する整数、mは1以上の整数]
及び、
紡糸速度が2000〜4500m/minであり、且つ紡出時の吐出速度と引き取り速度の比(以降ドラフト比と記す)を100〜800の範囲で引き取ることを特徴とする制電性芯鞘型ポリエステル極細延伸糸の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の制電性極細ポリエステル延伸糸は、ソフトでしなやかで且つ低温または乾燥した環境下でも制電性を発揮でき極めて有用である。また繰り返される洗濯処理によっても制電性が影響されない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明でいうポリエステルは、芳香環を重合体の連鎖単位に有する芳香族ポリエステルであって、二官能性芳香族カルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体との反応により得られる重合体を対象とする。
【0010】
ここでいう二官能性芳香族カルボン酸としてはテレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5―ナフタレンジカルボン酸、2,5―ナフタレンジカルボン酸、2,6―ナフタレンジカルボン酸、4,4′―ビフェニルジカルボン酸、3,3′―ビフェニルジカルボン酸、4,4′―ビフェニルエーテルジカルボン酸、4,4′―ビフェニルメタンジカルボン酸、4,4′―ビフェニルスルホンジカルボン酸、4,4′―ビフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2―ビス(フェノキシ)エタン―4,4′―ジカルボン酸、2,5―アントラセンジカルボン酸、2,6―アントラセンジカルボン酸、4,4′―p―フェニレンジカルボン酸、2,5―ピリジンジカルボン酸、β―ヒドロキシエトキシ安息香酸、p―オキシ安息香酸等をあげることができ、特にテレフタル酸が好ましい。
これらの二官能性芳香族カルボン酸は2種以上併用してもよい。なお、少量であればこれらの二官能性芳香族カルボン酸とともにアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸の如き二官能性脂肪族カルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸の如き二官能性脂環族カルボン酸、5―ナトリウムスルホイソフタル酸等を1種または2種以上併用することができる。
【0011】
また、ジオール化合物としてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、2―メチル―1,3―プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコールの如き脂肪族ジオール、1,4―シクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオール等およびそれらの混合物等を好ましくあげることができる。また、少量であればこれらのジオール化合物と共に両末端または片末端が未封鎖のポリオキシアルキレングリコールを共重合することができる。
【0012】
更に、ポリエステルが実質的に線状である範囲でトリメリット酸、ピロメリット酸の如きポリカルボン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールの如きポリオールを使用することができる。
【0013】
具体的な好ましい芳香族ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキシレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレン―1,2―ビス(フェノキシ)エタン―4,4′―ジカルボキシレート等のほか、ポリエチレンイソフタレート・テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート・イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート・デカンジカルボキシレート等のような共重合ポリエステルをあげることができる。なかでも機械的性質、成形性等のバランスのとれたポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0014】
かかる芳香族ポリエステルは任意の方法によって合成される。例えばポリエチレンテレフタレートついて説明すれば、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルの如きテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるかまたはテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるかして、テレフタル酸のグリコールエステルおよび/またはその低重合体を生成させる第1段反応、次いでその生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させる第2段の反応とによって容易に製造される。
【0015】
本発明の組成物に配合するポリオキシアルキレン系ポリエーテル(a)は、ポリエステルに実質的に不溶性のものであれば、単一のオキシアルキレン単位からなるポリオキシアルキレングリコールであっても、二種以上のオキシアルキレン単位からなる共重合ポリオキシアルキレングリコールであってもよく、また、下記式(1)、
Z−[(CHCHO)n(RO)m−R]k (1)
[式中、Zは1〜6個の活性水素原子を有する有機化合物残基、R1 は炭素原子数6以上のアルキレン基又は置換アルキレン基、R2 は水素原子、炭素原子数1〜40の一価の炭化水素基、炭素原子数2〜40の一価のヒドロキシ炭化水素又は炭素原子数2〜40の一価のアシル基、kは1〜6の整数、nはn≧70/kを満足する整数、mは1以上の整数]で表わされるポオキシエチレン系ポリエーテルが好ましい。
【0016】
かかるポリオキシアルキレン系ポリエーテルの具体例としては、分子量が4000以上のポリオキシエチレングリコール、分子量が1000以上のポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、分子量が2000以上のエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド共重合体、分子量4000以上のトリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物、分子量3000以上のノニルフェノールエチレンオキサイド付加物、並びにこれらの末端OH基に炭素数が6以上の置換エチレンオキサイドが付加した化合物があげられ、なかでも分子量が10000〜100000のポリオキシエチレングコール、及び分子量が5000〜16000の、ポリオキシエチレングリコールの両末端に炭素数が8〜40のアルキル基置換エチレンオキサイドが付加した化合物が好ましい。
かかるポリオキシアルキレン系ポリエーテル化合物の配合量は、前記芳香族ポリエステル100重量部に対して0.2〜30重量部の範囲である。0.2重量部より少ないときは親水性が不足して充分な制電性を呈することができない。一方30重量部より多くしても最早制電性の向上効果は認められず、かえって得られる組成物の機械的性質を損うようになる上、該ポリエーテルがブリードアウトし易くなるため溶融成形時チップのルーダーへのかみこみ性が低下して、成形安定性も悪化するようになる。
【0017】
本発明のポリエステル組成物には、特に制電性を向上させるために有機イオン性化合物を配合する。有機イオン性化合物としては、例えば下記一般式(2)、(3)で示されるスルホン酸金属塩及びスルホン酸第4級ホスホニウム塩を好ましいものとしてあげることができる。
【0018】
RSOM (2)
式中、Rは炭素原子数3〜30のアルキル基又は炭素原子数7〜40のアリール基、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を示す。上記式(2)においてRがアルキル基のときはアルキル基は直鎖状であっても又は分岐した側鎖を有していてもよい。MはNa,K,Li等のアルカリ金属又はMg,Ca等のアルカリ土類金属であり、なかでもLi,Na,Kが好ましい。かかるスルホン酸金属塩は1種のみを単独で用いても2種以上を混合して使用してもよい。好ましい具体例としてはステアリルスルホン酸ナトリウム、オクチルスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム、炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸ナトリウム混合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム混合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸マグネシウム(ハード型、ソフト型)等をあげることができる。
【0019】
RSOPR (3)
式中、Rは上記式(2)におけるRの定義と同じであり、R、R、R及びRはアルキル基又はアリール基でなかでも低級アルキル基、フェニル基又はベンジル基が好ましい。かかるスルホン酸第4級ホスホニウム塩は1種のみを単独で用いても2種以上を混合して使用してもよい。好ましい具体例としては炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸テトラブチルホスホニウム、炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸テトラフェニルホスホニウム、炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸ブチルトリフェニルホスホニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸ベンジルトリフェニルホスホニウム(ハード型、ソフト型)等をあげることができる。
【0020】
かかる有機のイオン性化合物は1種でも、2種以上併用してもよく、その配合量は、芳香族ポリエステル100重量部に対して0.05〜10重量部の範囲が好ましい。0.05重量部未満では制電性向上の効果が小さく、10重量部を越えると組成物の機械的性質を損なうようになる上、該イオン性化合物もブリードアウトし易くなるため、溶融成形時のチップのルーダーかみこみ性が低下して、成形安定性も悪化するようになる。
【0021】
なお、ポリエステルBには、本発明の目的を阻害しない範囲で、公知の艶消し剤を配合している。艶消し剤が10wt%を超えると本発明の親糸となる未延伸糸の紡糸性が悪化するので、その範囲は0〜10wt%とするのが好ましい。
【0022】
更に、ポリエステルAとポリエステルBの面積比は5:95〜80:20の範囲にする必要がある。面積比が5:95より小さい場合にはポリエステルAによる制電性能の発現が不十分になり、80:20よりも大きくなる場合は、10%以上のアルカリ減量を施した場合に、芯部の制電性ポリエステルが溶出し、制電性能が低下するとともに延伸糸の強度が低下し、3.0cN/dtex以下となり、布帛にした場合の強度が不足する為、スポーツ衣料等、強度を必要とする用途には適さず、用途が限られたものとなるので好ましくない。より好ましくは5:95〜50:50、更に好ましくは10:90〜40:60である。
【0023】
また、本発明の制電性ポリエステル繊維の芯部および鞘部の芳香族ポリエステルには、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤等を配合してもよく、またそうすることは好ましいことである。その他、必要に応じて、難燃剤、蛍光増白剤、艶消削1着色剤、不活性微粒子その他の任意の添加剤を配合してもよい。
【0024】
酸化防止剤は、繊維の溶融紡糸工程等における高温度、低吐出速度、および長時間滞留などに起因する前記ポリオキシアルキレン系ポリエーテル重合体の熱分解を抑制し、その水溶性化およびアルカリ耐久性の低下などの発生を防止することができる。本発明において用いられる酸化防止剤としては、それが酸化防止能を有する限り、その種類に制限はない。本発明に用いられる好ましい酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物。
【0025】
チオプロピオネート系化合物、ホスファイト系化合物などが挙げられ、1種のみを単独で用いても2種以上を混合して使用してもよい。また酸化防止剤の配合量は、芳香族ポリエステルに対して0.02〜3重量%の範囲にあることが好ましい。この配合量が0.02重量%より少ないときは、ポリオキシアルキレン系ポリエーテルに対する熱分解抑制効果が不充分であり、また、それを3重量%より多くしても、その熱分解抑制効果は飽和してそれ以上の向上は認められず、かえって得られる繊維の機械的性質や色相等が損なわれるようになる。
【0026】
本発明の制電性ポリエステル繊維を製造するにあたり、芯部の芳香族ポリエステルに、水不溶性ポリオキシアルキレン系ポリエーテル、有機および/または無機のイオン性化合物、および必要に応じて酸化防止剤を配合するには、任意の方法により、上記成分を同時にまたは任意のj1m序で芳香族ポリエステルに配合することができる。即ち、ポリエステル繊維の紡糸が終了するまでの任意の段階、例えば芳香族ポリエステルの重縮合反応開始前1重縮合反応途中5重縮合反応終了時であってまだ溶融状態にある時点、粉粒状態、または紡糸段階等において、芳香族ポリエステルと添加成分のそれぞれを予め溶融混合して1回の操作で添加してもよく、または2回以上に分割添加してもよく、各添加成分を予め別々に芳香族ポリエステルに配合した後、これらを紡糸前等において混合してもよい。さらに、、重縮合反応中期以前に添加成分を添加するときは、グリコール等の溶媒に溶解または分散させて添加してもよい。
【0027】
また、本発明の制電性ポリエステル繊維の外周の断面形状、ならびに芯部分が形成する図形の形状は、織編物の電性、張り、腰、風合、光沢なとの目的に応じて任意の形状をとることができ、例えば、円形断面の他、三角、偏平、四角、三角、星形、六角、ブーメラン形等を例示できる。また芯成分と鞘成分とは同心形状である必要はなく、芯の中心が偏った形状のものでもよく、また、外周の断面形状と芯部分が形成する図形の形状も、同じ形状であってもよいし異なった形状でもよい。
【0028】
本発明の制電性ポリエステル繊維は、従来公知の複合紡糸装置を用い、鞘側に前述した芳香族ポリエステルBを、芯部に水不溶性ポリオキシエチレン系ポリエーテル、有機および/または無機のイオン性化合物、および必要に応じて上記ホスファイト系等の酸化防止剤の少なくとも1種を配合した芳香族ポリエステルAを使用して、2000〜4500m/分の速度で溶融紡糸し、延伸することが重要である。 より好ましくは2000〜3000m/分である。
【0029】
又紡出時の吐出速度と引き取り速度の比(ドラフト比)が100〜800であることが必要である。100未満であれば強度が低下し、800を超える場合であれば断糸、毛羽の発生が多発し歩留まりが低下する。
熱処理する方法、上記の速度で溶融紡糸し、延伸と仮撚加工とを同時にまたは続いて行う方法、任意の製糸条件を採用することができる。
【0030】
また得られた繊維またはこの繊維から製造された織編物を100℃以上の温度で熱処理して、構造の安定化と繊維中に含有されているポリオキシアルキレン系ポリエーテル、および必要に応じて含有されている各種添加剤の移行による適性配列化を助長させることも好ましい。さらに必要に応じて弛絨熱処理なども併用することができる。
【0031】
また必要に応じて、本発明の制電性ポリエステル繊維またはこの繊維から製造された織編物に、適宜の親水化後加工を施してもよく、またそうすることは好ましいことである。この親水化後加工としては、例えばテレフタル酸および/またはイソフタル酸もしくはそれらの低級アルキルエステルと、低級アルキレングリコール、およびポリアルキレングリコールとからなるポリエステルポリエーテルブロック共重合体の水性分散液で処理する方法、または、アクリル酸、メタクリル酸等の親水性モノマーをグラフト重合し、その後これをナトリウム塩化する方法等が好ましく採用できる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例における各項目は次の方法で測定した。
(1)固有粘度
オルソ−クロルフェノールに溶解し、ウベローデ粘度管を用い、35℃で測定した。
(2)紡糸断糸
複合紡糸設備で1週間溶融紡糸を行い断糸した回数を記録し、1日1錘当りの紡糸断糸回数を紡糸断糸とした。ただし、人為的あるいは機械的要因による断糸は断糸回数から除外した。
(3)複屈折率
常法に従い、光学顕微鏡とコンペンセーターを用いて、繊維の表面に観察される偏光のリターデーションから求めた。
(4)延伸糸の強度、伸度
JIS L―1013―75に準じて測定した。
(5)毛羽個数
東レ(株)製DT−104型毛羽カウンター装置を用いて、ポリエステル延伸糸サンプルを500m/minの速度で20分間連続測定して発生毛羽数を計測し、サンプル長1万m当たりの個数で表した。
(6)風合い
(ソフト感)
レベル1:ソフトでしなやかな感触がある
レベル2:ややソフト感が乏しいが反撥性は感じられる
レベル3:カサカサした触感あるいは硬い触感である。
(7)帯電性試験方法
A法(半減期測定法)
本発明の複合延伸糸を、筒編みし、染色し、調湿後、試験片をコロナ放電場で帯電させた後、この帯電圧が1/2に減衰するまでの時間(秒)をスタテイック オネストメータで測定する。時間(秒)が短い方が 制電性能が優れていると判断した。
B法(摩擦帯電圧測定法)
試験片を回転させながら摩擦布で摩擦し、発生した帯電圧を測定する。
L1094帯電性試験方法B法(摩擦帯電圧測定法)に順ずる。
制電効果については、摩擦帯電圧が、約2000V以下(好ましくは1500V以下)であれば、制電効果が奏される。
【0033】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100部、エチレングリコール60部、酢酸カルシウム1水塩0.06部(テレフタル酸ジメチルに対して0.066モル%)および整色剤として酢酸コバルト4水塩0.013部(テレフタル酸ジメチルに対して0.01モル%)をエステル交換反応缶に仕込み、この反応物を窒素ガス雰囲気下で4時間かけて140℃から220℃まで昇温し、反応缶中に生成するメタノールを系外に留去しながらエステル交換反応させた。エステル交換反応終了後、反応混合物に安定剤としてリン酸トリメチル0.058部(テレフタル酸ジメチルに対して0.080モル%)、および消泡剤としてジメチルポリシロキサンを0.024部加えた。次に、10分後に、反応混合物に三酸化アンチモン0.041部(テレフタル酸ジメチルに対して0.027モル%)を添加し、同時に過剰のエチレングリコールを留去しながら240℃まで昇温し、その後、反応混合物を重合反応缶に移した。次いで1時間40分かけて760mmHgから1mmHgまで減圧するとともに240℃から280℃まで昇温して重縮合反応せしめた後、
(ポリエステルAの作成)
制電剤としてポリオキシアルキレン系ポリエーテルとして下記式(1)
【化1】

(ただし、jは18〜28の整数で平均21、Pは平均値として100、mは平均値として5である)
で表される水不溶性ポリオキシエチレン系ポリエーテルを4部及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを2部、真空下で添加し、さらに240分間重縮合反応せしめ、次いで酸化防止剤としてチバカイギー社製イルガノックス1010を0.4部真空下で添加し、その後さらに30分間重縮合反応を行なった。重合反応工程で、制電剤を添加し、得られたポリマーの固有粘度は0.657、軟化点258℃であった。
(ポリエステルBの作成)
制電剤を添加しないものをポリエステルBとし、常法によりチップ化した。
製糸化は以下の通り行った。乾燥ポリマーを紡糸設備にて各々常法で溶融し、ギヤポンプを経て2成分複合紡糸ヘッドに供給した。芯と鞘ポリマーの比率が表1記載の値となるように設定した。同時に供給された芯部と鞘部の溶融ポリマーは、ノズル孔径0.25mmの円形複合紡糸孔をを72個穿設した紡糸口金から、通常のクロスフロー型紡糸筒からの冷却風で冷却・固化し、紡糸油剤を付与しつつ一つの糸条として集束し、3000m/minの速度で引き取り、複屈折率0.035の140dtex/72フィラメントのポリエステル未延伸糸を得た。
公知の延伸方法で1.8倍に延伸した延伸糸を用いて筒編地を製造し、制電性を測定した。溶融紡糸時の工程安定性及び制電性能の結果を表1に示す。
次いで、該織物を液流染色機を用いて沸騰水で20分間リラックス処理し、引き続きプリセット処理を行った後、さらに、染色、ファイナルセット処理を行い、ポリエステル複合延伸糸からなる布帛とした。
得られた布帛の制電性能は15秒であり、官能評価を実施したところ、非常に深みのある、且つ高級感を有し、ソフト感を呈した風合のものであった。
【0034】
[実施例2〜3、比較例1〜5]
表1に示す条件で行った以外は実施例1と同様な方法で行った。
本発明は、特に、後工程における、高圧染色を経て顕著に現れ耐熱性に強く実用的である。更に、用途として、学生服、ユニフォーム、耐光性についても、体質が強いのが特徴である。又、制電性を発揮する部分がつつみこまれているので、制電成分を包み込み変形を少なくすることで、毛羽を出さないようにすることが制電性を維持すること、延伸での毛羽ダウン、生産性UP、更に、織物とした場合における洗濯耐久性に優れる要因と考えられる。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
スポーツ衣料、学生服、ユニフォーム、防塵衣等の静電気を抑える用途、あるいは、肌に直接触れることの多いブラウスやシャツ、インナーなどの用途において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯鞘型複合繊維であって、芯部が制電性ポリエステルAで形成され、他方、鞘部が艶消し剤を0〜10wt%含むポリエステルBで形成され、下記(1)〜(5)の条件を満足する制電性芯鞘型ポリエステル極細延伸糸。
(1)延伸糸の単糸繊度が1.5dtex以下である。
(2)芯部の面積Aと鞘部の面積Bとの比A:Bが5:95〜80:20の範囲である。
(3)延伸糸の強度が3.0cN/dtex以上である。
(4)延伸糸の摩擦帯電圧が2000V以下。
(5)制電性ポリエステルAが芳香族ポリエステル100重量部に対して、制電剤として、
(a)下記式で表されるポリオキシアルキレン系ポリエーテルを0.2〜30重量部及び(b)該ポリエステルと実質的に非反応性の有機イオン性化合物0.05〜10重量部を含有してなる制電性ポリエステルであること。
Z−[(CHCHO)n(RO)m−R]k
[式中、Zは1〜6個の活性水素原子を有する有機化合物残基、Rは炭素原子数6以上のアルキレン基又は置換アルキレン基、Rは水素原子、炭素原子数1〜40の一価の炭化水素基、炭素原子数2〜40の一価のヒドロキシ炭化水素又は炭素原子数2〜40の一価のアシル基、kは1〜6の整数、nはn≧70/kを満足する整数、mは1以上の整数]
【請求項2】
芯部が制電性ポリエステルAで形成され、他方、鞘部が艶消し剤を0〜10wt%含むポリエステルBで形成され、下記(1)〜(5)の条件を満足する制電性芯鞘型ポリエステル極細延伸糸の製造方法であって、紡糸速度が2000〜4500m/minであり、且つ紡出時の吐出速度と引き取り速度の比(以降ドラフト比と記す)を100〜800の範囲で引き取ることを特徴とする制電性芯鞘型ポリエステル極細延伸糸の製造方法。
(1)延伸糸の単糸繊度が1.5dtex以下である。
(2)芯部の面積Aと鞘部の面積Bとの比A:Bが5:95〜80:20の範囲である。
(3)延伸糸の強度が3.0cN/dtex以上である。
(4)延伸糸の摩擦帯電圧が2000V以下。
(5)制電性ポリエステルAが芳香族ポリエステル100重量部に対して、制電剤として、
(a)下記式で表されるポリオキシアルキレン系ポリエーテルを0.2〜30重量部及び(b)該ポリエステルと実質的に非反応性の有機イオン性化合物0.05〜10重量部を含有してなる制電性ポリエステルであること。
Z−[(CHCHO)n(RO)m−R]k
[式中、Zは1〜6個の活性水素原子を有する有機化合物残基、Rは炭素原子数6以上のアルキレン基又は置換アルキレン基、Rは水素原子、炭素原子数1〜40の一価の炭化水素基、炭素原子数2〜40の一価のヒドロキシ炭化水素又は炭素原子数2〜40の一価のアシル基、kは1〜6の整数、nはn≧70/kを満足する整数、mは1以上の整数]

【公開番号】特開2009−209478(P2009−209478A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53306(P2008−53306)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】