説明

制電糸

【課題】優れた風合いを有し、高度な制電性を有する芯鞘型ポリエステル複合制電糸を提供する。
【解決手段】芯鞘ポリエステル複合糸において、芯部が制電剤としてポリオキシアルキレンエーテルとイオン性有機金属塩の混合物を含み、下記要件を満足することを特徴とする芯鞘型ポリエステル複合制電糸。
a)制電剤の両成分を合わせた濃度が繊維全重量に対して10%以上であること。
b)ポリオキシアルキレンエーテルとイオン性有機金属塩の混合物が、糸長方向に連続していること。
c)芯部の割合が繊維全重量に対して0.1〜20%であること。
d)単糸繊度が0.1〜3.0dtexであること。
e)糸の摩擦帯電圧が500V以下であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は制電性を有する芯鞘型ポリエステル複合糸に関するものである。さらに詳しくは制電性に有効なポリアルキレンオキシドと有機金属塩の混合物を高濃度かつ実質的に連続した芯部として有し、従来にない優れた制電性能を外部環境に依存することなく安定して性能発揮し、耐薬品性に優れかつ風合いを損なわない芯鞘型ポリエステル複合糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多くの合成繊維、中でもポリエチレン、ポリアミド、ポリエステル等の熱可塑性樹脂は、繊維製品として多くの用途に利用されているが、低吸湿性ゆえに制電性に乏しく、静電気を帯びやすいという欠点をもっている。
【0003】
その為、繊維状で布帛を形成しない状態では、種々の導電性材料を繊維中に練りこんだり、高濃度に含有させた導電層と繊維断面中に配置したりするなどの方法で、繊維自体に導電性を付与して発生した静電気を効率的に除去する方法が検討されている。しかしながらこれらの方法では作製される導電性繊維は特殊な導電剤、代表的に導電性カーボンを利用する事から、見た目は黒色となり特定の産業用途で利用されるものの、外観が重要視されるファッション用途などでは敬遠されてきた。またこれら導電性繊維は特殊な導電剤を利用することから、作製された糸も高価なものとなり特定の用途でしか採算性があわず、実質的に広い用途で利用するに至っていない。
【0004】
他方、制電性繊維として繊維自体に発生する静電気を抑制する方法が考案され、制電繊維として広く検討されている(特開昭63−282311号公報や特許第2906989号公報など)。こうした制電性繊維を混繊糸の一成分として用いて制電性は得られるものの、しかしながら高い制電性能を得るためには多量の制電剤を使用せざるを得ず、中空割れや紡糸調子が悪化したり、制電剤とポリエステルとの界面剥離による白化現象が生じる等の問題があった。
【0005】
更にポリエステルにポリオキシアルキレン系ポリエーテル化合物を配合せしめる方法(特公昭39−5214号公報)、並びにポリエステルに実質的に非相溶性のポリオキシアルキレン系ポリエーテル化合物と有機・無機のイオン性化合物とを配合せしめる方法(特公昭44−31828号公報、特公昭60−11944号公報、特開昭53−80497号公報、特開昭53−149247号公報、特開昭60−39413号公報、特開平3−139556号公報等)が知られている。通常の延伸(FOY)においては、制電性を有するものの、仮撚加工糸においては、捲縮糸で撚り変形により、毛羽が発生する為、制電性を有するものはないのが、実情であった。
【0006】
又上記の問題を解決するために特開平4−146215号公報にはポリエステルに実質的に非相溶性のポリオキシアルキレン系ポリエーテル化合物と有機・無機のイオン性化合物からなる制電剤を芯部ポリエステルに含む芯鞘型ポリエステル複合繊維が提案されている。確かに芯鞘型複合繊維とすることによりある程度仮撚工程での毛羽発生は抑えられるものの、十分な制電性能とするには制電剤(特にポリオキシアルキレン系ポリエーテル化合物)が繊維軸方向に一定の長さが必要であり、そのためには紡糸延伸仮撚り工程で厳密な制御を必要とし、制電性と断糸、毛羽の発生等の生産の安定性を両立させる点で十分とは言えなかった。
【0007】
しかしながら衣生活が多様化した近年は、上述のような様々な不快感をすべて解消出来る布帛に関する要求がますます高まってきており、特に、スポーツ衣料、あるいは、肌に直接触れることの多いブラウスやシャツなどの用途においては、高度な制電性を有する繊維及び布帛は得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−282311号公報
【特許文献2】特許第2906989号公報
【特許文献3】特公昭39−5214号公報
【特許文献4】特公昭44−31828号公報
【特許文献5】特公昭60−11944号公報
【特許文献6】特開昭53−80497号公報
【特許文献7】特開昭53−149247号公報
【特許文献8】特開昭60−39413号公報
【特許文献9】特開平3−139556号公報
【特許文献10】特開平4−146215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題点を解決し、優れた風合いと制電性・制電耐久性・染色品位を有するとともに、高次加工での工程通過性が良好で、操業安定性と品質安定性に優れた制電性ポリエステル糸を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記問題点を解決するために研究を重ねた結果、芯鞘ポリエステル複合糸において、芯部が制電剤としてポリオキシアルキレンエーテル成分とイオン性有機金属化合物の混合物を含み両成分を合わせた濃度が10重量%以上であるポリエステルからなる芯鞘型ポリエステル複合制電糸によって、繊維に損傷を与えず、耐洗濯性、耐薬品性に優れた制電性繊維が得られることを見出し本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明によれば、
芯鞘型ポリエステル複合糸において、芯部が制電剤としてポリオキシアルキレンエーテルとイオン性有機金属塩の混合物を含み、下記要件を満足することを特徴とする芯鞘型ポリエステル複合制電糸。
a)制電剤の両成分を合わせた濃度が繊維全重量に対して10%以上であること。
b)ポリオキシアルキレンエーテルとイオン性有機金属塩からなる制電剤成分が、糸長方向に連続して存在すること。
c)芯部の割合が繊維全重量に対して0.1〜20%であること。
d)単糸繊度が0.1〜3.0dtexであること。
e)糸の摩擦帯電圧が500V以下、断面抵抗が100×10Ω/cm以下であること。
が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、帯電圧性、直流断面抵抗が従来の水準より大幅に向上し、発生した静電気の除電性能に優れた制電糸を得る事ができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明について詳しく説明する。
まず本発明に用いるポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートに代表されるポリアルキレンテレフタレート,ポリアルキレンフタレート等が挙げられるが、中でも前者のテレフタル酸を主たる酸成分とし、炭素数2〜6のアルキレングリコール成分、即ちエチレングリコール、トリメチレングリコール,テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール及びヘキサメチレングリコールから選ばれた少なくとも一種のグリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルを対象とする。かかるポリエステルは任意の方法で製造されたものでよく、例えばポリエチレンテレフタレートについて説明すれば、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルの如きテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、又はテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるなどして、テレフタル酸のグリコールエステル及び/又はその低重合度を生成させ、次いでこの生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させることによって製造される。
【0014】
尚、上記ポリエステルはそのテレフタル酸成分の一部を他の二官能性カルボン酸成分で置き換えてもよい。かかるカルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、ジブロモテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルカルボン酸、ジフェキシエタンジカルボン酸、β−オキシエトキシ安息香酸の如き二官能性芳香族カルボン酸、セバシン酸、アジピン酸、シュウ酸の如き二官能性脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等を挙げることができる。また上記グリコール成分の一部を他のグリコール成分で置き換えてもよく、かかるグリコール成分としては例えばシクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコール,ビスフェノールA,ビスフェノールS、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−(2−ハイドロキシエトキシ)フェニル)プロパンの如き脂肪族、脂環族、芳香族のジオールが挙げられる。更に、上述のポリエステルに必要に応じて他のポリマーを少量ブレンド溶融したもの、ペンタエリスリオトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸等の鎖分岐剤を少割合使用したものであってもよい。このほか本発明のポリエステルは通常のポリエステルと同様に酸化チタン、カーボンブラック等の顔料他、従来公知の抗酸化剤、着色防止剤が添加されていても勿論良い。
【0015】
次に、本発明で使用する制電剤の一方成分であるポリオキシアルキレンエーテルまたはその誘導体としては、従来熱可塑性合成繊維に混入して制電性を付与することが提案されているすべてのものを使用することができ、例えば特公昭39−5214号公報、特公昭57−4724号公報等に例示されている。具体的にはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等や、オキシエチレン単位を主としてこれに例えばオキシプロピレン単位、オキシシクロヘキシレン基、フェニルエチレンオキシ基、ヘキシルエチレンオキシ基、メチル−ペンチルエチレンオキシ基、ヘプチルエチレンオキシ基、メチル−ヘキシルエチレンオキシ基等のアルキル基置換オキシアルキレン基などを含むブロック共重合体またはランダム共重合体、また、ポリオキシアルキレン系ポリエーテルの片末端または両末端を、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、ヒドロキシアルキル基、ナトリウムスルフォフェノキシ基などの炭化水素基、またはアルカノイル基、アルケノイル基、シクロアルキルカルボニル基、アリールカルボニル基またはアルキルアリールカルボニル基などのアシル基やフォスフェート基で封鎖されたもの、メタノール、プロパノール、ブタノール、フェノール、ビスフェノールA、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリエタノールアミン、ジグリセリン、ペッタエリスリトール、ソルビトール等のヒドロキシル基含有化合物の残基に結合したポリオキシアルキレン化合物などを例示することができるが、これらに限定されるものではない。かかるポリオキシアルキレングリコールまたはその誘導体は、1種のみ単独で使用しても2種以上併用してもよい。
【0016】
かかるポリオキシアルキレンエーテルまたはその誘導体の平均分子量は、あまりに小さすぎるとポリエステル繊維中で充分な長さの筋状分散形態をとり難いために制電性およびその耐久性が不充分となるので、平均分子量は3000以上、より好ましくは5000以上であることが好ましい。一方、平均分子量が25000を越えると、該ポリエチレングリコールまたはその誘導体の芳香族ポリエステル中での溶融混和性が急激に悪化してその分散が不均一となり、紡糸が困難になるばかりでなく、得られる繊維の制電性や物性が不良となるので、平均分子量は、末端に水酸基を有するときには25000以下、より好ましくは22000以下であることが好ましく、両末端が水酸基でないときには16000以下、より好ましくは14000以下であることが好ましい。
【0017】
かかるポリオキシアルキレンエーテルまたはその誘導体の配合量は、芯鞘型複合繊維の芯成分を構成する芳香族ポリエステルに対して4重量%以上の範囲である。4重量%未満の場合には十分な制電性を得ることができない。
【0018】
又、本発明に用いるもう一方の制電剤であるイオン性有機金属化合物としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ノニルベンゼンスルホン酸、ヘキサデシルスルホン酸およびドデシルスルホン酸などのスルホン酸と、ナトリウム、カリウムおよびリチウムなどのアルカリ金属から形成されるスルホン酸のアルカリ金属塩、ジステアリルリン酸ソーダなどのリン酸のアルカリ金属塩などが挙げられ、なかでもアルキルスルホン酸ソーダなどのスルホン酸の金属塩が良好である。有機電解質であればこれらに限定されるものではない。
【0019】
制電剤のポリエステルへの配合の順序は任意の方法により、上記成分を同時にまたは任意の順序で芳香族ポリエステルに配合することができる。即ち、ポリエステル繊維の紡糸が終了するまでの任意の段階、例えば芳香族ポリエステルの重縮合反応開始前1重縮合反応途中5重縮合反応終了時であってまだ溶融状態にある時点、粉粒状態、または紡糸段階等において、芳香族ポリエステルと添加成分のそれぞれを予め溶融混合して1回の操作で添加してもよく、または2回以上に分割添加してもよく、各添加成分を予め別々に芳香族ポリエステルに配合した後、これらを紡糸前等において混合してもよい。更に、重縮合反応中期以前に添加成分を添加するときは、グリコール等の溶媒に溶解または分散させて添加してもよい。
【0020】
ここで制電剤であるポリオキシアルキレンエーテルとイオン性有機金属化合物の含有量の合計が繊維全重量に対して10%以上であることが必要である。好ましくは10〜50%に範囲である。10%未満であれば制電性能が得られず、50%以上であれば繊維強度が低下し好ましくない。
【0021】
更に本発明の芯鞘型複合糸においては、芯部の繊維全重量に対する割合が22%以下であることが必要である。22%を超える場合は繊維強度が低下し、又製糸工程安定性が低下し好ましくない。好ましくは5〜20%、より好ましくは10〜20%である。
【0022】
制電剤は繊維軸方向に連続して存在していることが必要で、連続していない場合は目的の制電性能が得られず好ましくない。ここで連続して存在しているとは、制電成分が繊維軸方向に細長く筋状に存在することを意味している。必ずしも全糸長に一本の筋状で存在する必要はなく、多くの筋状の制電成分が互いに接触して繊維軸方向に分布していればよい。
【0023】
制電剤が繊維軸に連続する構造とするには、下記に説明する方法で達成できる。
また、本発明の芯鞘型ポリエステル複合制電糸の外周の断面形状、ならびに芯部分が形成する図形の形状は、織編物の電性、張り、腰、風合、光沢なとの目的に応じて任意の形状をとることができ、例えば、円形断面の他、三角、偏平、四角、三角、星形、六角、ブーメラン形等を例示できる。また芯成分と鞘成分とは同心形状である必要はなく、芯の中心が偏った形状のものでもよく、また、外周の断面形状と芯部分が形成する図形の形状も、同じ形状であってもよいし異なった形状でもよい。
【0024】
本発明の芯鞘型ポリエステル複合制電糸は、従来公知の複合紡糸装置を用い、鞘側に芳香族ポリエステルを、芯側にポリオキシアルキレンエーテル、有機金属塩、および必要に応じてホスファイト系等の酸化防止剤を配合した芳香族ポリエステルを使用して、500〜3800m/分の速度で溶融紡糸することにより製造することができる。 好ましくは1000〜3300m/分である。ここで紡出時の吐出速度と引き取り速度の比(引き取り速度/吐出速度、以降ドラフト比と記す)を50〜1000とすることが好ましい。ドラフト比が50未満であると良好な制電性が得られなくなり、1000を超える場合は製糸性が悪化するため好ましくない。好ましくは80〜400である。
上記の組成、製糸方法を経るとき制電剤成分は繊維軸方向に連続した形で存在し本発明の高度な制電性能を有する繊維とすることができる。
【実施例】
【0025】
以下実施例で詳細に説明する。繊維物性は以下の方法で測定した。
(ア)断面部電気抵抗(直流断面抵抗測定)
繊維軸方向の長さ2.0cmとなるよう両端を横断面方向にカットした繊維の該両断面にAgドウタイト(銀粒子含有の導電性樹脂塗料、藤倉工業製)を付着させた試料を電気絶縁性ポリエチレンテレフタレートフィルム上で、温湿度20℃×30%RHの条件のもとに0.5KVの直流電圧を該Agドウタイト付着面を使って印加して両断面間に流れる電流を求め、オームの法則により電気抵抗値Ω/cmを算出する。
【0026】
(イ)側面部電気抵抗(直流側面抵抗測定)
繊維軸方向の長さ約2.0cmにカットされた繊維の両端付近の表面(繊維側面)に前記のAgドウタイトを付着させたものを試料として、該試料を電気絶縁性ポリエチレンテレフタレートフィルム上で、温湿度20℃×30%RHの条件の下に、0.5KVの直流電圧を該Agドウタイト間に印加してAgドウタイト間に流れる電流を求め、かつ、Agドウタイト間の距離を測定して、オームの法則により表面電気抵抗値Ω/cmを算出する。
【0027】
(ウ)摩擦帯電圧測定
本発明のポリエステル繊維をJIS L 1094 摩擦帯電圧測定法に準じて測定し、摩擦開始から60秒後の帯電圧(V)を測定する。測定は、温度20±1℃、相対湿度40±2%の状態の試験室中で実施した。タテ糸方向ヨコ糸方法各n=5にて測定し、摩擦布にはJIS L 0803に規定の綿添付白布を用いた。
【0028】
(エ)繊維強度、繊度
JIS L−1013−75に準じて測定した。
【0029】
(オ)布帛品位
実施例、比較例で得られたポリエステル糸に400回/mの撚りを掛け、経緯使いの平織り組織で製織し、80℃で精錬・リラックス処理、160℃・45秒でプレセット乾熱処理を行った。この織物を布帛品位評価用織物とした。5人の検査員により、評価用織物の硬さを含めた風合いについて官能検査を行い、また筋斑と均染性について染品位を目視検査にて、以下の基準にて合格または不合格の判定を行った。
合格:ハリコシがあり風合い良く、また白筋、濃筋がなく均一な染品位。
不合格:ハリコシがない、または白筋、濃筋のいずれかがあり不均一な染品位。
検査員の合否判定結果について以下の格付けを行った。
優:合格と判定した検査員が4人以上
良:合格と判定した検査員が2〜3人
不可:合格と判定した検査員が1人以下
【0030】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100部、エチレングリコール60部、酢酸カルシウム1水塩0.06部(テレフタル酸ジメチルに対して0.066モル%)および整色剤として酢酸コバルト4水塩0.009部(テレフタル酸ジメチルに対して0.007モル%)をエステル交換臼に仕込み、窒素ガス雰囲気14時間かけて140℃から220まで昇温して生成するメタノールを系外へ留去しながらエステル交換反応させた。
エステル交換反応終了後、反応混合物に安定荊としてリン酸トリメチル0.058部および消泡剤としてジメチルポリシロキサン0.024部を加えた。
【0031】
次いで10分後、三酸化アンチモン0,04部(テレフタル酸ジメチルに対して0.027モル%)を添加し、同時に過剰のエチレングリコールを追出しながら240℃まで昇温した後、重合反応缶に移した。次に、この反応混合物に、数平均分子量2万のポリオキシエチレングリコールを9.6部投入し、引き続いて反応缶内の圧力を1時間かけて減圧し、減圧度が30Pa以下に到達した時点から10分後に、イオン性有機金属化合物としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを4.8部減圧下に添加した。さらに10Paまで減圧し、同時に反応混合物の温度を1時間30分かけて240℃から280℃まで昇温した。10Pa以下の減圧下、重合温度280℃でさらに2時間重合した。
【0032】
得られたポリマーの極限粘度は0.645〜0.655の範囲であり、軟化点は260〜263℃の範囲であった。このポリマーを常法によりチップ化した。
こうして得られたポリオキシエチレン化合物とイオン性有機金属化合物を含有した芳香族ポリエステルを芯部用ポリマーとし、常法により乾燥後スクリュー型押出機で溶融し、ギヤポンプを経て2成分複合紡糸ヘッドに供給した。
【0033】
一方、鞘部用ポリマーとして、極限粘度0.64のポリエチレンテレフタレートチップを常法により乾燥後スクリュー型押出機で溶融し、同様に複合紡糸ヘッドに供給した。芯部用ポリマーと鞘部用ポリマーの供給量は、芯部の面積比率が繊維断面の全体の10%となるように設定した。同時に供給された芯部と鞘部の溶融ポリマーは、ノズル口径0.3Φの円形複合紡糸孔を24個穿設した複合紡糸口金を使用して、285℃で押出した後、ゴデツトロールを介して1500m/分の速度で一旦巻き取った。次いで、得られる延伸糸の伸度が35%になるような延伸倍率で、90℃の加熱ローラーと170℃の延伸加熱ヒーターにより延伸熱処理して、50dtex/24フイラメントの延伸糸を得た。糸強伸度、摩擦帯電圧、直流断面抵抗値を表1にしめす。
【0034】
[実施例2]
実施例1において、ポリオキシエチレン化合物を含有した芳香族ポリエステルを重合する段階で、分子量2万のポリオキシエチレングリコールを14.4部、イオン性有機金属化合物としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを7.2部添加した以外は同じ方法で、重合、紡糸、延伸し50dtex/24フイラメントの延伸糸を得た。糸強伸度、摩擦帯電圧、直流断面抵抗値を表1に示す。
【0035】
[実施例3]
実施例1において、ポリオキシエチレン化合物を含有した芳香族ポリエステルを重合する段階で、分子量1万のポリオキシエチレングリコールを9.6部、イオン性有機金属化合物としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを4.8部添加した以外は同じ方法で、重合、紡糸、延伸し50dtex/24フイラメントの延伸糸を得た。糸強伸度、摩擦帯電圧、直流断面抵抗値を表1に示す。
【0036】
[実施例4]
実施例1において、ポリオキシエチレン化合物を含有した芳香族ポリエステルを重合する段階で、分子量2万のポリオキシエチレングリコールを9.6部、イオン性有機金属化合物としてドデシルスルホン酸ナトリウムを4.8部添加した以外は同じ方法で、重合、紡糸、延伸し50dtex/24フイラメントの延伸糸を得た。糸強伸度、摩擦帯電圧、直流断面抵抗値を表1に示す。
【0037】
[実施例5]
実施例4において、ポリオキシエチレン化合物を含有した芳香族ポリエステルを重合する段階で、分子量1万のポリオキシエチレングリコールを9.6部、イオン性有機金属化合物としてドデシルスルホン酸ナトリウムを4.8部添加した以外は同じ方法で、重合、紡糸、延伸し50dtex/24フイラメントの延伸糸を得た。糸強伸度、摩擦帯電圧、直流断面抵抗値を表1に示す。
【0038】
[実施例6]
実施例1において、紡糸する段階で芯部用ポリマーと鞘部用ポリマーの供給量を、芯部の面積比率が繊維断面の全体の20%となるように設定し、延伸し50dtex/24フイラメントの延伸糸を得た。糸強伸度、摩擦帯電圧、直流断面抵抗値を表1に示す。
【0039】
[比較例1〜6]
実施例1〜6において、紡糸する段階で芯部用ポリマーと鞘部用ポリマーの配置を逆になるように押出機上で組合せた以外は同じ全て同じ方法で紡糸、延伸し50dtex/24フイラメントの延伸糸を得た。糸強伸度、摩擦帯電圧、直流断面抵抗値を表1に示す。
【0040】
[比較例7〜8]
表1に示した条件の制電剤、芯部重量とし以外は実施例1と同様の条件で行った。得られた結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0042】
スポーツ衣料、あるいは、肌に直接触れることの多いブラウスやシャツ及び防災服などの用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯鞘型ポリエステル複合糸において、芯部が制電剤としてポリオキシアルキレンエーテルとイオン性有機金属塩の混合物を含み、下記要件を満足することを特徴とする芯鞘型ポリエステル複合制電糸。
a)制電剤の両成分を合わせた濃度が繊維全重量に対して10%以上であること。
b)ポリオキシアルキレンエーテルとイオン性有機金属塩からなる制電剤成分が、糸長方向に連続して存在すること。
c)芯部の割合が繊維全重量に対して0.1〜20%であること。
d)単糸繊度が0.1〜3.0dtexであること。
e)糸の摩擦帯電圧が500V以下、断面抵抗が100×10Ω/cm以下であること。
【請求項2】
請求項1の芯鞘型ポリエステル複合制電糸の製造方法であって、紡糸速度が500〜3600m/minで未延伸糸として引き取った後、又は連続して延伸加工することを特徴とする芯鞘型ポリエステル複合制電糸の製造方法。

【公開番号】特開2010−168694(P2010−168694A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−13062(P2009−13062)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】