説明

制震壁

【課題】柱梁架構に必要な水平剛性を付加でき、柱梁架構の水平変形と連動して架構全体の変形エネルギーを消費させ、架構に水平変形を与えても、ダメージが残らない制震壁を提供する。
【解決手段】制震壁1は、PCaPC壁10の四隅に減衰装置20を備え、上下梁40に一定幅の目地30を介してPC鋼棒50によって取付けられたものである。減衰装置20には高減衰ゴムを挟んだ複数枚のプレートを備え、このプレートは梁40及びPCaPC壁10にそれぞれ取付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱梁から構成される建築架構に設けられる制震壁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築構造で用いられてきた制振ダンパーを大別すると、概ね、履歴型、粘性型及び粘弾性型の3種類に分けることができる(例えば、非特許文献1。)。
【0003】
履歴型ダンパーは、低降伏点鋼等を用いるものであって、ある一定の力が作用すると降伏性状を示しその後も耐力低下を生じず材料の塑性化に伴う履歴エネルギーの消費により、建物の振動エネルギーを低減させようとするものである。履歴型ダンパーでは、一度塑性化した場合は取り替える必要がある。
【0004】
粘性型ダンパーは、オイルダンパーと粘性ダンバーに大別される。オイルダンパーは作動油、粘性ダンパーは高分子化合物を用いるものであって、速度或いは速度の指数乗に比例する抵抗力により建物の振動エネルギーを低減させようとするものである。形状としては、筒型、面型、多層型がある。これらのダンパーは、一般的に建物の初期剛性には寄与しない。
【0005】
粘弾性型ダンパーは、アクリル系化合物、ジエン系化合物、アスファルト系化合物、スチレン系化合物等の粘弾性材料を鋼板の間に挟み込んで、そのせん断抵抗力により建物の振動エネルギーを低減させようとするものである。多少の剛性は有しているが、建物の剛性に較べると極めて小さい。
【0006】
以上の各ダンパーを用いた場合の制振壁(制振ダンパーおよび主架構への取付け部材)は、地震時における建物の変形に伴うエネルギーを効果的に消費するが、建物の剛性を著しく改善し、かつ、建物の変形に伴う損傷が残らないようにすることは難しかった。
【0007】
このため、建物を構成する柱梁架構に対して効果的に付加剛性を与え、かつ、地震時に制震壁自体に損傷がなく、地震エネルギーを有効に消費させるような制震壁が望まれている。
【0008】
また、圧縮変形により減衰を生じる複合材料として、例えば直径1mm程度のガラス繊維強化プラスチックロッドを立方体の対角4方向に配置して等方に組合せ、可撓性エポキシ樹脂で固めた複合材料がある(例えば、非特許文献2参照。)。
【0009】
本発明者らは、さきに、柱梁架構に必要な水平剛性を付加でき、柱梁架構の水平変形と連動して架構全体の変形エネルギーを消費させ、架構に水平変形を与えても、ダメージが残らない制震壁を提供した(特許文献1参照)。
【0010】
この技術は、スパンを結合する上下階の横梁間に設置され、水平方向に一定幅の目地を設け、目地の両端近辺に、変形エネルギーを消費する材料からなる制震材を介在させ、この制震材は一定の圧縮力と圧縮変形を付与して設置され、制震壁を上下階の梁と縦PC緊張材で結合する技術である。この技術は制震材が特殊なものである。
【非特許文献1】日本免震構造協会:パッシブ制振構造設計・施工マニュアル、pp.1〜6、 2003.10
【非特許文献2】土木学会耐震工学委員会:圧縮変形で減衰を生じる複合材料を用いた制震構造、第1回免震・制震コロキウム講演論文集、pp.249〜255、 1996.11
【特許文献1】特開2006−83546号公報(2−3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、建物の柱梁架構における耐震性能を効果的に改善するための制震壁の技術開発をさらに行っている。
【0012】
本発明が解決しようとする制震壁の課題は、柱梁架構に必要な水平剛性を付加でき、柱梁架構の水平変形と連動して架構全体の変形エネルギーを消費させることができ、架構に水平変形を与えても、制震壁にダメージが残らないような制震壁を提供することである。
【0013】
また、上記非特許文献1や特開2006−83546号公報に示されるような特殊な材料を用いる技術とは異なる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、次の技術的手段を講じたことを特徴とする制震壁である。すなわち、本発明は、柱梁から構成される建築架構に設けられる壁であって、該壁はスパンを結合する上下階横梁間に、上下梁と該壁の上下端との間に一定幅の目地を設けて介装され、該目地の両端近辺に減衰装置を介在させると共に、上下階の梁と縦PC緊張材で結合してなることを特徴とする制震壁である。
【0015】
この制震壁は架構の水平剛性および水平変形に伴う耐力が不足しがちな柱梁架構において、上下階の横梁間の中央部付近に介装されるものであって、PC緊張材で結合して架構と一体化し建物全体の水平剛性と水平耐力を向上させる。
【0016】
また、本発明の制震壁の上下端と梁の間には一定幅の目地を設けて、上下梁と制震壁との目地の両端近辺に高減衰ゴムを用いた減衰装置を組込む。架構の水平変形により制震壁に曲げ変形および回転変形が生じ制震壁の目地が離間する。この変形により、制震壁に組込まれた減衰装置が伸縮することにより架構の変形エネルギーを消費するようにした。
【発明の効果】
【0017】
本発明の制震壁は、柱梁架構に必要な水平剛性を付加することできができ、柱梁架構の水平変形と連動して架構全体の変形エネルギーを消費させることができ、架構に水平変形を与えても、制震壁にダメージが残らないというすぐれた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下図面を参照して本発明の形態を説明する。
【0019】
図1は本発明の実施例の制震壁1を示す正面図、図2は図1のA−A矢視図である。
【0020】
図1に示すように、制震壁1はプレキャストプレストコンクリート造壁(PCaPC壁)10と減衰装置20とから成り、PCaPC壁10は目地モルタル30を介して上下の梁40とPC鋼棒(PC緊張材)50によって結合されている。
【0021】
PCaPC壁10の形状は、例えば幅2000mm×高さ2400mm×厚さ300mm程度とし、四隅に減衰装置20を設置するための欠き込み11(幅600mm×高さ730mm)を設けた十字形をなしている。制震壁1は、このPCaPC壁10と幅600mm×せい900mmの梁40とを、25mm厚の目地モルタル30を介して、4本のPC鋼棒50で圧着している。
【0022】
減衰装置20の例を図3に示した。減衰装置20は減衰材料21(高減衰ゴム)2枚を挟み込んだ3枚の取付部材22から成っている。ただし、減衰材料21は何層になってもよい。図4は減衰材料21が4枚の例を示している。取付部材22と減衰材料21との接合面にはショットブラスト処理が施されている。
【0023】
減衰装置20の寸法は、例えば、図3に示す寸法H=200mm,W=200mm,ゴム厚3mm,取付部材22はそれぞれ厚さ9mmである。減衰装置20は図1,図2に示すように、PCaPC壁10の四隅に配設されている。減衰装置20は、PCaPC壁10と梁40中に結合されている。例えば、梁40から突出したプレート23及びPCaPC壁10から突出したプレート24に、取付部材22(図3、4参照)が取付ボルト26によって結合されている。
【0024】
図5はPCaPC壁10の荷重変位関係(復元力特性)(計算値)の曲線61を示すグラフ、図8は減衰装置20の荷重変位関係(水平換算)(復元力特性)の曲線62を示すグラフである。
【0025】
制震壁1は、PCaPC壁10と減衰装置20とで構成されており、制震壁1の荷重変位関係(復元力特性)は、図7と図8とを組合わせた図9に示す曲線63の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の試験体の正面図である。
【図2】図1のA−A矢視図である。
【図3】減衰装置の例を示す斜視図である。
【図4】減衰装置の例を示す斜視図である。
【図5】制震壁の荷重変形を示す模式的グラフである。
【図6】減衰装置の荷重変位関係を示す模式的グラフである。
【図7】制震壁の荷重変位関係を示す模式的グラフである。
【符号の説明】
【0027】
1 制震壁
10 PCaPC壁
11 欠き込み
20 減衰装置
21 減衰材料(積層ゴム)
22 取付部材
26 取付ボルト
30 目地モルタル
40 梁
50 PC鋼棒
61,62,63 曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱梁から構成される建築架構に設けられる壁であって、該壁はスパンを結合する上下階横梁間に、上下梁と該壁の上下端との間に一定幅の目地を設けて介装され、該目地の両端近辺に減衰装置を介在させると共に、上下階の梁と縦PC緊張材で結合してなることを特徴とする制震壁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−38559(P2008−38559A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−218001(P2006−218001)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(000112196)株式会社ピーエス三菱 (181)
【出願人】(390034430)小田急建設株式会社 (13)
【Fターム(参考)】