説明

刺激応答性タンパク質ナノ粒子

【課題】架橋化されたタンパク質構造体を含む、刺激応答性架橋化タンパク質ミセルの提供。
【解決手段】構造体を構成するタンパク質は、好ましくはアスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基、及びリジン残基を有し;かつ架橋化は、好ましくはアスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基の-COOH基とリジン残基又はN末の-NH2基との縮合反応により形成されるものである。用いられるタンパク質の特に好ましい例は、β-カゼインである。本発明の架橋化タンパク質ミセルは、特定の温度を境に低温側では溶解、高温側では不溶化を起こす固有の下限臨界溶液温度(LCST: lower critical solution temperature)を有する。本発明の刺激応答性架橋化タンパク質ミセルは、生物分離、バイオセンシング、固定化酵素、ドラッグデリバリーシステムにおける応用が期待される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋化されたタンパク質構造体を含む、刺激応答性架橋化タンパク質ミセルに関する。本発明の架橋化タンパク質ミセルは、特定の温度を境に低温側では溶解、高温側では不溶化を起こす固有の下限臨界溶液温度(LCST: lower critical solution temperature)を有する。本発明の刺激応答性架橋化タンパク質ミセルは、生物分離、バイオセンシング、固定化酵素、ドラッグデリバリーシステムにおける応用が期待される。
【背景技術】
【0002】
近年、材料の特性をナノスケールで利用する新しいバイオテクノロジー(ナノバイオテクノロジー)分野の研究が活発化している。この分野では、高分子やペプチドの組成や配列を設計することでその配列もしくは組成特有の自己組織化能を付加することで、それらの自己組織化から成るナノスケールの構造体をボトムアップ型で創製する研究が盛んに行われている。
【0003】
中でも、温度や電気、光化学的刺激などの外部刺激に対して何らかの応答を示すナノ構造体はインテリジェント材料として注目を浴びており、カプセル化やドラッグデリバリー、ナノ又はマイクロサイズの反応器などへの応用が期待されている。温度やpH 等の外部刺激に応答する生体適合性材料として、例えばポリ-N-イソプロピルアクリルアミド(PNIPAAm)が知られている(特許文献1)。PNIPAAm は水溶液の温度変化により溶解性が不連続かつ可逆的に変化する(温度応答性高分子)。また、Elastin-Like Protein(ELP)(非特許文献1)という温度応答性タンパク質が注目され、その温度応答性を利用した研究が進められている。例えば、遺伝子組み換え技術を利用して、ELPの温度応答性を示すペプチド配列を遺伝子組み換え操作により異種タンパク質に組み込むことことにより、様々な応用が検討されている。
【0004】
また、ナノサイズの高分子微粒子に三次元網目架橋を施すことで得られる高分子ゲル微粒子(ナノゲル)が生命科学やバイオナノテクノロジー分野で注目されている。ナノゲルは、高分子と比べて分解に対する抵抗性があり、ゲルマトリクス内への物質の取り込みが可能であり、またサイズが薬物運搬体のサイズとして適しているなどの特徴を有しているため、ドラックデリバリーシステムへの応用等が期待されている。例えば、カルボキシル基やアミノ基を有するブロックコポリマーが形成するミセルをジアミンとEDC又はグルタルアルデヒドで架橋化したナノ粒子が報告されている(非特許文献2)。この粒子は膨潤度に対する応答性があると言及されている。また、ブロックコポリマーをCa2+イオンでコアを作ってミセル化し、これをジアミンとEDCで架橋化してナノ粒子を作った報告がされている(非特許文献3)。この粒子は、pHに応答して膨潤挙動が変化するため、DDSへの使用可能性が考察されている。さらに、金ナノ粒子をコアにして、その表面をポリアクリル酸誘導体ポリマーでコーティングしたものを、ジアミンでEDCを使って表面架橋したものが報告されている(非特許文献4)。
【0005】
一方、カゼインは乳タンパク質の主要なリンタンパク質であり、αs1-、αs2-、β-、κ-カゼインと呼ばれる4 種類のカゼイン成分から構成されている。これらのカゼイン成分はそれぞれ単独では特定の高次構造をもたないが、その高い両親媒性、高い界面活性から、水中でその濃度や環境に応じて独自の分子集合体を形成することが知られている(非特許文献a)。すなわち、カゼインは柔軟性の高いミセル様の形態をとっている。カゼインは、天然に豊富に存在する安価なタンパク質でもある。本発明者らは、カゼインにより形成されるミセル構造を化学的手法により共有結合的に架橋化することでナノスケールのタンパク質構造体を調製することを試みた。この手法によれば、合成高分子や合成ペプチドを必要としないことから、既往のナノ材料に比べ、極めて簡便に、短時間に、且つ安価にナノ粒子を調製することができるので、実用的な応用も期待できると思われる。本発明者らは、カゼインミセルをトランスグルタミナーゼで酵素架橋するとナノ粒子が調製できることについて報告した(特許文献2)
【特許文献1】特開平9-169850号公報(特許第3807765号)
【特許文献2】特開2006-115751号公報
【非特許文献1】Arthur S. Tatham and Peter R. Shewry., Trends in Biochemical Sciences, 25, 567-571, 2000
【非特許文献2】Biomacromolecules, 6, 2213-2220, 2005)
【非特許文献3】J. Am. Chem. Soc., 127, 8236-8237, 2005)
【非特許文献4】Angew. Chem. Int. Ed., 44, 409-412, 2005)
【非特許文献a】David S. Horne., Current Opinion in Colloid and Interface Science, 7, 456-461, 2002
【発明の開示】
【0006】
上述したナノ粒子は、いずれも熱応答性を示すものではない。
本発明者らは、今回、β-カゼインにより形成されるミセル構造を、水溶性カルボジイミド(WSC)溶液を用いて化学的に架橋化することにより、ナノスケールのタンパク質構造体得た。そして、その機能評価を行ったところ、架橋化β-カゼインミセルは、温度やpHといった外部因子に対する応答性を示すことを見いだし、本発明を完成した。
【0007】
[架橋化タンパク質ミセル]
本発明は、以下を提供する:
1) 架橋化されたタンパク質構造体を含む、刺激応答性架橋化タンパク質ミセル。
2) 構造体を構成するタンパク質が、アスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基、及びリジン残基又はN末の-NH2基を有し;かつ架橋化が、アスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基の-COOH基とリジン残基又はN末の-NH2基との縮合反応により形成されるものである、上記1)に記載の架橋化タンパク質ミセル。
3) タンパク質が、β-カゼインである、上記2)に記載の架橋化タンパク質ミセル。
4) 上記1)〜3)のいずれか1に記載の架橋化タンパク質ミセルの表面が修飾されている、修飾架橋化タンパク質ミセル。
【0008】
本発明の架橋化タンパク質ミセル(本明細書中では、本発明の「ナノ粒子」ということもある。)は、適当な溶媒中でミセル形成可能な両親媒性のタンパク質を素材とし、ミセルを構成するタンパク質同士が架橋化された構造を有する。素材として用いることができるタンパク質は、ミセル形成可能であり、かつ適切な方法でミセルを構成するタンパク質同士を架橋化することができるものであれば、特に限定されないが、架橋化を容易に行うことができ、また得られる架橋化タンパク質ミセルに後述する刺激応答性を充分にもたせることができるとの観点からは、フリーの-COOH基及び-NH2基を有するタンパク質、例えば、アスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基、及びリジン残基又はN末-NH2基(α-アミノ基)を有するタンパク質を用いることが好ましい。このようなタンパク質を用いる場合、架橋は、-COOH基と-NH2基との縮合反応により形成することができる。
【0009】
本発明に用いることのできるタンパク質の例として、カゼインを挙げることができる。β-カゼインは、形成するミセルが、他のカゼイン成分に比べ最も単分散性が高いことから、特に好ましい例である。β-カゼインは1分子中に4個のアスパラギン酸残基(-COOH基)と19個のグルタミン酸残基(-COOH基)、そして11個のリジン残基(-NH2基)とN末のα-アミノ基を有しており、WSC(水溶性カルボジイミド、化学名:1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)溶液を用いることでβ-カゼインミセルを架橋化することが可能である。
【0010】
本発明により得られる架橋化β-カゼインミセルは、ほぼ球状である。架橋化β-カゼインミセルの粒径は、5〜100nm(例えば10〜30nm)とすることができ、通常のβ-カゼインミセルの粒径(15〜20nm)とほぼ同じとすることができる。
【0011】
本発明の架橋化タンパク質ミセルの粒径の測定には、当業者には良く知られた手法を用いることができ、例えば、動的光散乱光度計(DLS)、原子間力顕微鏡(AMF)観察により、測定することができる。本明細書でミセルの粒径を示す場合は、特別な場合を除き、DLSによる散乱強度から求めた平均値を示す。
【0012】
本発明の架橋化β-カゼインミセルにおいては、通常、アミノ基の30〜98%が架橋化されている。架橋化の程度は、後述する架橋化反応において、用いる架橋化剤の濃度により、調製することができる。例えば、25 mM WSCにより架橋化したβ-カゼインミセルの場合では20〜40%、250 mM WSCで架橋化したβ-カゼインミセルの場合では50〜70%のアミノ基を架橋化することができる。
【0013】
本発明の架橋化タンパク質ミセルは、その表面を修飾することができる。修飾には、標識化(例えば、酵素標識、FITC標識、ビオチン標識、金コロイド標識すること)が含まれる。
【0014】
[架橋化タンパク質ミセルの製造方法]
本発明はまた、以下も提供する:
5)ミセルを構成するタンパク質同士を、架橋化剤を用いて、架橋化させる工程を含む、架橋化タンパク質ミセルの製造方法。
6) タンパク質が、アスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基、及びリジン残基又はN末の-NH2基を有し;かつ架橋化がアスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基の-COOH基とリジン残基又はN末の-NH2基との縮合反応により形成されるものである、請求項5に記載の製造方法。
7)タンパク質が、カゼインであり;かつ架橋化剤が、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドである、上記6)に記載の製造方法。
【0015】
ミセルを構成するタンパク質同士の架橋は、種々の手法により共有結合を形成するように行うことができる。架橋化には、公知の方法を用いることができるが、後述するように、架橋化されたミセルが所望の性質、すなわち刺激応答性を有するか否かを確認する必要がある。本発明者らは、酵素学的手法のあるものを利用した場合には、得られた架橋化タンパク質ミセルに熱応答性が見られなかったことを確認している。本発明においては、架橋化剤を用いて化学的に共有結合を形成するように架橋化を行うことが好ましい。
【0016】
架橋化の際には、用いるタンパク質がミセル形成可能である溶媒、及びミセル形成可能なタンパク質濃度が選択される。架橋化剤としては、公知のものを用いることができる。
タンパク質として、アスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基、及びリジン残基又はN末の-NH2基を有するものを使用する場合は、架橋化は、アスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基の-COOH基とリジン残基又はN末の-NH2基との縮合反応により形成することができ、架橋化剤としては、水溶性カルボジイミド(化学名:1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)を用いることができる。このような架橋化反応は、通常、pH 5.0〜9.0の水系溶媒中で、温度0〜60℃の範囲で、1〜48時間以内に進行する。架橋化剤としては、グルタルアルデヒドも使用可能であるが、得られる架橋化ミセルの性質を確認する必要がある。
【0017】
本発明者らの検討によると、水溶性カルボジイミドを用いる場合、反応は4℃で安定に進行する。15℃以上になると、ミセル間での架橋化を制御するのが難しく、凝集物が多くなり、収率が劣ることがある。一般に、カゼインのミセル構造形成は高温で促進されると思われ、4℃ではモノマー−ミセル間の平衡はほとんどモノマー側に偏っていると報告されている(J. Colloid. Int. Sci., 258, 33-39, 2003)。4℃における反応で、球状のナノ粒子が形成可能なのは、驚くべきことである。また、架橋化反応の際の緩衝液濃度には至適な範囲が存在し、高すぎる場合には、架橋化反応そのものが阻害される可能性があるため架橋化率が低くなり、得られる架橋化ミセルが熱応答性を示さないことがある。一方、低すぎる場合は、架橋化率は高くなるが、理由は定かではないが、得られる架橋化ミセルの熱応答性が悪くなる(後述する相転移温度が、高温側に大きくシフトする)ことがある。結果から考察すると、ナノ粒子はできているけれど、異なる構造のナノ粒子が調製されているのかもしれない。さらに、架橋化反応の際には、架橋化剤の濃度の影響も考慮することができ、水溶性カルボジイミドのストック溶液を1M程度にすることで、安定にナノ粒子が調製可能である。
【0018】
架橋化反応の進行の確認は、反応生成物の分子量を、例えばSDS-変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で確認することにより、行うことができる。
タンパク質として、β-カゼインを用いる場合の架橋化反応の具体的な条件は、本発明の実施例を参考にすることができる。
調製された架橋化タンパク質ミセルは、孔径0.2μm程度の膜フィルターを通過させるか、ゲル濾過等の公知の手法により、精製することができる。
【0019】
[架橋化タンパク質ミセルの機能・用途]
本発明の架橋化タンパク質ミセルは、刺激(例えば、温度、pH、塩濃度)応答性である。例えば、架橋化していないβ-カゼインミセルは、その水溶液を70℃まで昇温しても凝集は観察されないが、架橋化処理を施したものは、熱応答性を示し、高温ではミセルが凝集して不溶化し、濁った溶液となる。
【0020】
また、濁度の中間値をとる温度を転移温度(Tt)とすると、架橋化β-カゼインミセルは、溶液のpH が高くなると、転移温度は大きく高温側にシフトし、pHを7から8に変えるだけでΔTt=40℃にも達しうる(図1-4参照)。これは、pHの上昇に伴い表面電荷が負に大きくシフトし、架橋化β-カゼインミセル同士の静電反発により粒子間の接触が抑制されることで凝集が抑制されるからであると考えられる。
【0021】
さらに架橋化β-カゼインミセル溶液の塩濃度について検討すると、転移温度はNaClの添加に伴い徐々に低下することが分かっている(図1-5参照)。
このように、架橋化β-カゼインミセルに代表される本発明の架橋化タンパク質ミセルは、溶液pHの変化により転移温度の制御が可能であり、また、共存イオン種及び緩衝種(本発明者らの検討によると、リン酸緩衝液とトリス緩衝液では、やや違う挙動を示す。)又はその濃度によっても、転移温度の制御が可能である。
【0022】
したがって、本発明は以下も提供する:
8)請求項1〜3のいずれか1項に記載の架橋化タンパク質ミセルを用いる、標的物の分離、検出、薬剤の送達、安定化、精製又は反応の制御方法。
9)架橋化タンパク質ミセル表面を修飾する工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の架橋化タンパク質ミセルの刺激応答性の制御方法。
【0023】
本発明の刺激応答性架橋化タンパク質ミセルは、生物分離、標的分子の検出、バイオセンシング、固定化酵素、及びドラッグデリバリーシステム(DDS)における応用が期待される。
【0024】
例えば、本発明の刺激応答性架橋化タンパク質ミセルを分離材料として用いる場合、ナノ粒子表面にリガンドを提示させ、標的物を結合させた後、加熱による凝集でもって沈殿させて分離することが可能である。生体試料の中から、あるリガンド(分子量に制限されず、ナノ粒子表面に提示できるものでありさえすればよい。)に特異的な親和性を有する標的を選択的に回収する技術は、種々の解析において極めて重要な技術である。実際、ELPを使った応用例は、抗体結合タンパク質との組み合わせによるアフィニティー分離を介した免疫測定(例えば、Anal. Chem., 77, 2318-2322, 2005)や、プロテオーム解析を志向している(例えば、J. Proteome Res., 4, 2355-2359, 2005)。本発明のナノ粒子の利用に際しても、同様の利用が期待できる。また、本発明のナノ粒子の利用に際しては、磁性ナノ粒子や、温度応答性磁性粒子についての応用例を参考にすることができる。
【0025】
なお、本発明において、素材としてカゼインを用いた場合、得られるナノ粒子は、本来生分解性があることにも着目すべきである。
本発明のナノ粒子の内部に薬剤等を保持させて利用する場合には、架橋化前のミセル内に所望の物質を保持させ、その後、架橋化することもでき、また、ミセルは架橋化後に疎水性が上がる(ANSの蛍光強度が上がる)ことから、架橋化後に、疎水性薬物を系加えることにより、ミセル内に分配することも可能であろう。ミセル内部が疎水性であることを考慮すると、内部に保持させる物質は、ある程度疎水性のものが好ましいと思われる。本発明のナノ粒子の利用により、疎水性物質を過飽和濃度においても透明で安定に可溶化させることも可能である。
【0026】
一方で、カゼインミセルそのものは、それほど疎水性の高いコアを有していないため、ミセル内部に保持させる物質は疎水性物質に限定されないと思われる。内部に保持させる物質に関し、分子量の制限はないと思われ、例えば、ペプチド、siRNA等、比較的小さな生理活性物質のキャリアとしても本発明のナノ粒子は利用可能であろう。
【0027】
本発明のナノ粒子をDDSにおいて利用するのであれば、タンパク質としては、抗原性のないヒト由来の両親媒性タンパク質(例えば、母乳由来カゼイン)を用いることも好ましいであろう。また、本発明の架橋化タンパク質ミセルは、水中で粒径の比較的揃った安定なミセルであり、かつ刺激応答性であることから、特に、長期投与が必要な薬物、分解し易い薬物の運搬体として、注射剤、経口投与剤、経皮又は経粘膜投与のための剤として、好適に用いうる。本発明の架橋化タンパク質ミセルは、外部から刺激(例えば温度)に応答して、患部への薬物の集積性の制御、例えば炎症反応等により温度が上昇した患部での薬物の局所投与等のために用いうる。
【0028】
なお、架橋化β-カゼインミセルの凝集-可溶化の繰り返し実験では、数回目までは可逆性が観察されたが、それ以降では凝集体が再可溶化しにくくなることが分かっている。これは、凝集-可溶化が疎水相互作用を駆動力としており、加熱-冷却サイクルを繰り返しているうちに、架橋化β-カゼインミセルの一部が徐々に不可逆的に変性し、架橋化β-カゼインミセル間で安定な凝集構造体を形成してしまうためと推察される。
【実施例1】
【0029】
1.架橋化β-カゼインミセルの調製:
β-カゼイン(5 mg)を50 mM リン酸緩衝液(pH 7.0)950 μLに溶かし、β-カゼイン水溶液を調製した。その後、あらかじめ用意していた所定濃度の水溶性カルボジイミド(WSC)水溶液を、室温(20 ℃)で撹拌しながらβ-カゼイン水溶液に50 μL 添加した。添加後、室温で12 時間撹拌し、架橋化β-カゼインミセルを調製した。最後に、調製された架橋化β-カゼインミセル溶液をPD10 カラムによりゲル濾過することで精製して用いた。
【0030】
調製サンプルの架橋化は、SDS-変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により確認した。その結果を図1-1に示す。β-カゼインのみ(レーンB)のバンドはおおよそ25 kDa に存在し、β-カゼイン+WSC (レーンC, レーンD)ではレーンB よりも高分子量側にバンドが確認されたことから、β-カゼインはWSC によって架橋化されたことが示された。
【0031】
次に、架橋化したβ-カゼイン中のアミノ基の数を定量した。架橋化反応にβ-カゼイン中のアミノ基が関与するので、アミノ基を定量することで架橋化率を算出ことができる。ここでは、トリニトロベンゼンスルホン酸によるアミノ基のTNP化に基づき、アミノ基定量を行った。その結果、25 mM WSCにより架橋化したβ-カゼインミセルの場合では20〜40 %のアミノ基が、250 mM WSCで架橋化したβ-カゼインミセルの場合では50〜70%のアミノ基が架橋化されていることがわかった。
【0032】
2.架橋化β-カゼインミセルの構造評価:
WSCによりβ-カゼインミセルを架橋化可能なことが分かった。次に、架橋化β-カゼインミセルの構造に関する情報を得るため、DLS測定及びAFM観察を行った。
【0033】
図1-2にDLS測定による架橋化による粒径分布(散乱強度分布)の変化を示す。図より、架橋化β-カゼインミセルの粒径分布は、架橋化処理を施していないβ-カゼインミセルよりも若干小さくなった。しかし、β-カゼインミセル(粒径分布:5〜200 nm)と架橋化β-カゼインミセル(平均粒径:約20 nm)の粒径分布は大きく異なり、より単分散のナノ粒子を定量的に得ることができた。
【0034】
次に、AFM観察を行った結果を図1-3に示す。AFM 観察の結果、架橋化したβ-カゼインミセルは球状形態であることから、やはりミセルを構成するタンパク質分子間架橋が主に起こったものと考えられる。
【0035】
以上の結果から、WSC を使ってβ-カゼインミセルを架橋化することにより、ミセルを構成するβ-カゼインが分子間架橋されることにより、球状のナノ構造体の調製が可能なことが示された。
【0036】
3.架橋化β-カゼインミセルの外部因子応答性:
図1-4に加熱による濁度変化を示す。まず、架橋化操作を施していないカゼイン水溶液を加熱したが、70℃までの昇温では凝集は観察されなかった。また、25mM WSCで架橋化したサンプルについても同様の検討を行ったが、やはり熱凝集は見られなかった。一方、250mM WSCで架橋化処理を施したものは、顕著な熱応答性を示した。そこでまず、溶液のpH 変化に対する温度応答性を検討した。具体的には、調製した架橋化β-カゼインミセルをpH 6(50 mM リン酸緩衝液),pH 7〜9(50 mM Tris-HCl 緩衝液)により溶媒置換したものを使用してpHの影響を調べた。塩濃度の影響は架橋化β-カゼインミセル(Tris-HCl 緩衝液pH 7)について調べた。昇温速度は0.5 ℃/minとした。
【0037】
異なるpHにおける温度と濁度の関係を調べた。濁度の中間値をとる温度を転移温度(Tt)とした。架橋化β-カゼインミセル溶液のpH が高くなると、転移温度は大きく高温側にシフトし、pHを7から8に変えるだけでΔTt=40℃にも達することがわかった。また、転移温度と架橋化β-カゼインミセルの表面電荷の関係検討したところ、pHの上昇に伴い表面電荷が負に大きくシフトすることが分かった。したがって、pHの上昇に伴い転移温度が高くなったのは、架橋化β-カゼインミセル同士の静電反発により粒子間の接触が抑制されることで凝集が抑制され、結果として転移温度が上昇したと考えられる。
【0038】
次に塩(NaCl)濃度と転移温度の関係を調べた。図1-5より、転移温度はNaClの添加に伴い徐々に低下した。塩の添加に伴う転移温度の低下は、ナノ粒子表面の水和構造の破壊により熱凝集が促進されたためと考えられる。
以上より、pH変化に伴うナノ粒子表面電荷の変化により転移温度の制御が可能なこと、また、共存イオン種によっても転移温度が変化することが確認された。
【0039】
4.架橋化β-カゼインミセルの温度による凝集制御:
架橋化β-カゼインミセルの凝集-可溶化の繰り返し実験を行った。具体的には、架橋化β-カゼインミセル溶液を37 ℃で10分間撹拌し、600 nmの吸光度を測定した後、4 ℃で1時間撹拌し、再度600 nmの吸光度を測定するという操作を5回繰り返した。その結果、3回目までは十分な可逆性が観察されたが、3回目以降では凝集体が再可溶化しにくくなった。このことは、凝集-可溶化が疎水相互作用を駆動力としており、加熱-冷却サイクルを繰り返しているうちに、架橋化β-カゼインミセルの一部が徐々に不可逆的に変性し、架橋化β-カゼインミセル間で安定な凝集構造体を形成してしまうためと推察される。
【0040】
なお、加熱による凝集の様子を撮影したものを、図1-6として示した。
[結論]
水溶性架橋剤(WSC)を使ってβ-カゼインミセルが構成するカゼイン分子間を架橋化し、タンパク質性ナノ構造体の調製に成功した。得られた架橋化β-カゼインミセルは温度応答性を有していること、さらに僅かなpH変化により転移温度の制御が可能なことが明らかとなった。
【実施例2】
【0041】
[実験操作]
1.架橋化β-カゼインミセルの調製:
β-カゼイン(40 mg)を50 mM リン酸緩衝液(pH 7.0)6 mLに溶かし、β-カゼイン水溶液を調製した。その後、あらかじめ用意していた1Mの水溶性カルボジイミド(WSC)ストック水溶液を、4 ℃で撹拌しながらβ-カゼイン水溶液に2 mL 添加した。添加後、4 ℃で24 時間撹拌し、架橋化β-カゼインミセルを調製した。最後に、調製された架橋化β-カゼインミセル溶液を、メンブレンフィルター(孔径0.2μm)に通過させ、ろ液をPD10 カラムによりゲル濾過することで精製して用いた。
【0042】
2.架橋化β-カゼインミセル溶液の評価:
2.1 タンパク質濃度の測定
調製した架橋化β-カゼインミセル溶液のタンパク質濃度をBCA法ならびに紫外部の吸光度によって測定した。
【0043】
2.2 熱応答性の評価
調製した架橋化β-カゼインミセル溶液を400 μlマイクロチューブに取り出し、ドライヤーで加熱することによって熱応答性の有無を測定した。
【0044】
2.3 濁度変化の測定
調製した架橋化β-カゼインミセル溶液の濁度変化を、分光光度計を用いて測定した。測定波長はタンパク質の吸収がない600 nmを使用し、温度は15-75 ℃の間を1℃あるいは2 ℃/minの割合で変化させた。
【0045】
2.4 架橋率の測定
調製した架橋化β-カゼインミセル溶液をそれぞれ1 ml取り出し、2 %ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液を1 ml添加した後、4 %炭酸水素ナトリウム溶液(pH 8.0)を1 ml添加した。さらに0.1 %トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)水溶液を1 ml添加し、アルミホイルで遮光した後、40 ℃の恒温槽で攪拌しながら2時間反応させた。反応後の溶液に、1 N塩酸を1 mlを添加して反応を停止し、340 nmの吸光度を測定した。同時に架橋化を行なっていないβ-カゼインミセル溶液で検量線を作成し、反応に関与したアミノ基の数から架橋率を算出した。
【0046】
2.5 疎水性強度の測定
架橋化β-カゼインミセル溶液1 mlに8-アニリノ-1-ナフタレンスルホン酸(ANS)を最終濃度が10 μMになるように添加し、350 nmの波長で励起させ、480 nmにおける蛍光強度を測定することで、カゼインミセルの疎水性の強さを評価した。
【0047】
2.6 粒径及びζ電位の測定
調製した架橋化β-カゼインミセル溶液の粒径分布・ζ電位の測定を、Zetasizer-nano ZS90を用いた 動的光散乱法及び電気泳動法によって行った。
【0048】
3.架橋化β-カゼインミセルのナノ粒子構造の確認:
1 M MgCl2 溶液を10 mM Tris-HCl(pH7.5)を使って希釈し、2 mM MgCl2溶液を調製した。この溶液を用いて架橋化したβ-カゼインミセル溶液を1 μg/mlになるように希釈した。この希釈したβ-カゼインミセル溶液をMica基板に10 ml滴下し、蒸留水でやさしく洗浄した。蒸留水で洗浄した後、AirでMica基板周辺の水滴を除去し、Mica基板を2時間半程度真空乾燥させた。2時間半後、調製したMica基板を原子間力顕微鏡(AFM)を使って観察した。
【0049】
4.架橋化β-カゼインミセルの熱応答性に対するタンパク濃度の影響:
調製した架橋化β-カゼインミセル溶液を希釈し、0.5, 1.0, 1.5, 2.0 mg/mlの架橋化β-カゼインミセル溶液を調製した。調製した架橋化β-カゼインミセル溶液の濁度変化を、分光光度計を用いて測定した。測定波長はタンパク質の吸収がない600 nmを使用し、温度は15-75 ℃の間を2 ℃/minの割合で変化させた。
【0050】
5.架橋化β-カゼインミセルの粒子表面の機能化とその評価:
5.1 FITCラベル化
調製した架橋化β-カゼインミセル溶液をPD 10カラムを用いて100 mM炭酸ナトリウム緩衝液(pH8.5)でバッファー置換を行った後、ジメチルスルホキシドに溶解した1.0 mg/mlのFITC溶液を200μl添加した。4 ℃で24 時間攪拌した後、PD 10カラムを用いて50 mMのリン酸緩衝液(pH 7.0)でゲルろ過することで不純物の除去とバッファー置換を行った。調製したFITCラベル化カゼインミセル溶液を上記2に示した方法で評価し、加熱後に遠心分離をかけることで沈殿物を得た。
【0051】
5.2 Biotinラベル化
調製した架橋化β-カゼインミセル溶液をPD 10カラムを用いて100 mM炭酸ナトリウム緩衝液(pH8.5)でバッファー置換を行った後、ジメチルスルホキシドに溶解した1.0 mg/mlのBiotin-OSu(BI)及びBiotin-(AC5)-Osu(BII)溶液を200μl添加した。4 ℃で24 時間攪拌した後、PD 10カラムを用いて50 mMのリン酸緩衝液(pH 7.0)でゲルろ過することで不純物の除去とバッファー置換を行った。調製したビオチンラベル化カゼインミセル溶液を上記2に示した方法で評価し、ビオチン化試薬のリンカー部位の長さが熱応答性にどのような違いをもたらすかを検討した。
【0052】
6.ビオチンラベル化 架橋化β-カゼインミセルのアビジンターゲティング評価:
調整したビオチンラベル化 架橋化β-カゼインミセル溶液を0.5 mg/mlに希釈し、50 mMのリン酸緩衝液(pH 7.0)に溶解した1.0mg/ml アビジン溶液を10μlずつ150μlまで添加して20℃における濁度変化を測定した。またそれぞれの溶液に関して、白濁が生じないアビジン添加量(25mM WSC架橋化サンプルにおいて150μl, 250mM WSC架橋化サンプルにおいて30μl添加)における熱応答性及び、白濁を生じたアビジン添加量(250 mM WSC架橋化サンプルにおいて150μl添加)における熱応答性をそれぞれ検討した。アビジントラップの実験では、FITCラベル化アビジン(Sigma社)を架橋化β-カゼインミセル溶液あるいはビオチンラベル化架橋化β-カゼインミセル溶液に適当量加え、加熱凝集の後、遠心分離を施し、上清の蛍光強度を測定した。
【0053】
[結果と考察]
1.架橋化β-カゼインミセル溶液の原子間力顕微鏡観察:
結果を図2-1に示した。図より、AFM画像における基板表面での平均粒径半径は25 mM, 250 mM WSCによる架橋化サンプルでそれぞれ20.0 nm, 20.7 nmであった。この結果より架橋化β-カゼインミセルの粒径がそれぞれ20.0 nm, 21.5 nmという結果が計算によって得られ、確かにナノサイズの粒子が調製できていることが確認できた。以前に測定した動的光散乱(DLS)法による粒径では、それぞれZ-Averageの値として24.6 nm,20.9 nmという結果が得られており、今回のAFM測定とDLS粒径測定にある程度の整合性があることが確認できた。
【0054】
2.架橋化β-カゼインミセルの熱応答性に対するタンパク濃度の影響:
結果を図2-2に示した。図より、タンパク濃度が高いほど鋭い熱応答性を示すことが明らかとなった。0.5 mg/mlでは相転移温度が34℃であるのに対し、2.0 mg/mlでは25℃とより素早い応答が見られた。1.5 mg/ml以上では比較的同じような応答性が見られ、鋭い応答性にはある程度のタンパク質濃度が必要であることが明らかとなった。この結果から、タンパク濃度によるミセルの会合状態の変化や、ミセル間での相互作用の強さに違いがあるのではないかと考えられる。
【0055】
3.架橋化β-カゼインミセル粒子表面のFITCラベル化とその影響:
結果、加熱によって白濁したサンプルを遠心にかけたところ、図2-3に示すとおり橙色の沈殿物が得られ、粒子表面への修飾がたしかになされていることが確認できた。
【0056】
4.架橋化β-カゼインミセル粒子表面のビオチンラベル化とその影響:
ビオチン化試薬として、以下に示す2種のリンカー鎖長の異なる試薬を用いた。
【0057】
【化1】

【0058】
【化2】

【0059】
ビオチンラベル化による熱応答性挙動の変化を図2-4に示した。ビオチンラベル化により、熱応答性が若干鈍化することが明らかとなった。熱応答性を示したのはいずれも250 mM WSC架橋化サンプルであったが、リンカー部位の長いBIIの方がリンカー部位の短いBIよりも低温で相転移挙動を示した。図2-5から、ラベル化によって疎水性強度が弱まっていることが分かる。この性質の変化によって、相転移温度が高温へシフトしたのではないかと考えられる。
【0060】
5.ビオチンラベル化 架橋化β-カゼインミセルのアビジンターゲティング評価:
ビオチンラベル化サンプルのアビジン添加に伴う濁度変化測定の結果を図2-6に示した。図に示す通り、250 mM WSC架橋化サンプルでは、ともに40μl程度のアビジン添加によって白濁が生じ始めた。一方、25 mM WSC架橋化サンプルでは、薄い白濁が視覚的に確認できるものの、凝集による強い白濁は見られなかった。このことから、どちらのサンプルにおいてもアビジンの添加によってビオチン-アビジンの特異的な結合が生じているものと考えられ、250 mM WSC架橋化サンプルにおいては加熱なしでもアビジンの添加によって若干の凝集が段階的に起こることが確認された。
【0061】
次にアビジンを含むビオチンラベル化サンプルの熱応答性挙動の結果を図2-7に示した。すでにアビジンの添加によって白濁が見られたサンプルにおいても加熱により徐々に濁度が増していった。その挙動はアビジン非共存下と同等であり、架橋化ミセルが本来有する熱応答性挙動に大きな変化は見られないことが確認された。
【0062】
以上の結果を踏まえ、FITCラベル化アビジン(Sigma社)を用いて、実際にアビジンをトラップできるかどうかを確認した。加熱凝集、遠心操作の後、可溶性画分に残った蛍光強度の測定から、BII-ラベル化架橋化カゼインミセルは、35nMのFITCラベル化アビジンの85%をトラップできることを確認した。BI-ラベル化架橋化カゼインミセルはややトラップ率が低かった(図2-8)。
【0063】
以上より、架橋化カゼインミセル溶液が20nm程度のナノ粒子であることが確認された。またナノ粒子表面の修飾が可能であり、修飾によって表面電荷や熱応答性挙動などの様々な特性の変化が明らかとなった。さらにビオチン修飾によってアビジンターゲティングが可能であることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1−1】図1-1は、SDS-PAGE の結果を示した写真である。
【図1−2】図1-2は、架橋化による粒径分布の変化を示したグラフである。
【図1−3】図1-3は、DLSによる粒径分布の詳細を示したグラフである。
【図1−4】図1-4は、濁度測定の結果を示したグラフである。
【図1−5】図1-5は、相転移挙動における[Na+]の影響を示したグラフである。
【図1−6】図1-6は、加熱による凝集の様子を示した写真である。A:(左)緩衝液;(右)加熱前のカゼインナノ粒子水溶液。B(左)緩衝液;(右)加熱後のカゼインナノ粒子水溶液。タンパク質濃度:1 mg/mL in 50 mM Tris-HCl 緩衝液, pH 7
【図2−1】図2-1は、25 mM(上)及び250 mM(下) WSCでの架橋化β-カゼインミセルのAFM観察結果を示したものである。
【図2−2】図2-2は、タンパク濃度と濁度変化の関係を示したグラフである。50 mM WSでβ-カゼインミセルを架橋化した。温度上昇:2.0℃
【図2−3】図2-3は、FITCラベル化ナノ粒子を含む系をを加熱し、生じた凝集物を遠心により沈殿させた際の写真である。
【図2−4】図2-4は、ビオチンラベル化による熱応答性挙動の変化を示したグラフである。
【図2−5】図2-5は、ビオチンラベル化による疎水性の変化を示したグラフである。
【図2−6】図2-6は、ビオチンラベル化ナノ粒子の、アビジン添加に伴う濁度変化測定の結果を示したグラフである。
【図2−7】図2-7は、ビオチンラベル化ナノ粒子の、アビジン存在下における熱応答性挙動を示したグラフである。
【図2−8】図2-8は、FITCラベル化アビジンを用いて、BII-ラベル化架橋化カゼインミセルがアビジンをトラップできるかどうかを確認した実験の結果を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋化されたタンパク質構造体を含む、刺激応答性架橋化タンパク質ミセル。
【請求項2】
構造体を構成するタンパク質が、アスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基、及びリジン残基又はN末の-NH2基を有し;かつ
架橋化が、アスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基の-COOH基と、リジン残基又はN末の-NH2基との縮合反応により形成されるものである、請求項1に記載の架橋化タンパク質ミセル。
【請求項3】
タンパク質が、カゼインである、請求項2に記載の架橋化タンパク質ミセル。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の架橋化タンパク質ミセルの表面が修飾されている、修飾架橋化タンパク質ミセル。
【請求項5】
ミセルを構成するタンパク質同士を、架橋化剤を用いて、架橋化させる工程を含む、架橋化タンパク質ミセルの製造方法。
【請求項6】
タンパク質が、アスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基、及びリジン残基又はN末の-NH2基を有し;かつ架橋化がアスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基の-COOH基とリジン残基又はN末の-NH2基との縮合反応により形成されるものである、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
タンパク質が、カゼインであり;かつ
架橋化剤が、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドである、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の架橋化タンパク質ミセルを用いる、標的分子の分離若しくは検出、又は薬剤の送達、安定化、精製若しくは反応の制御方法。
【請求項9】
架橋化タンパク質ミセル表面を修飾する工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の架橋化タンパク質ミセルの刺激応答性の制御方法。

【図1−2】
image rotate

【図1−5】
image rotate

【図2−2】
image rotate

【図2−4】
image rotate

【図2−5】
image rotate

【図2−6】
image rotate

【図2−7】
image rotate

【図2−8】
image rotate

【図1−1】
image rotate

【図1−3】
image rotate

【図1−4】
image rotate

【図1−6】
image rotate

【図2−1】
image rotate

【図2−3】
image rotate


【公開番号】特開2008−189784(P2008−189784A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24913(P2007−24913)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】