説明

刺激応答性ヒドロゲル

本発明は、ポリマー、第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーを含むヒドロゲルであって、ポリペプチド結合パートナーが、第二ポリペプチド、核酸または小分子であり、第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーの間の相互作用が、ヒドロゲルを安定化し、そして、調節化合物の添加により調節される、ヒドロゲルに関する。薬物はこのヒドロゲルに物理的に捕捉され、またはヒドロゲル構造を形成するポリマーに結合し、または、第一ポリペプチドもしくはポリペプチド結合パートナーに結合することができ、その後、調節化合物の添加時に放出され得る。薬物を含むこのようなヒドロゲルを患者に注射し、調節化合物を経口投与することにより、薬物の放出を調節することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー、ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーを含み、当該ポリペプチドとその結合パートナーの間の相互作用が第三の化合物により調節され得る、ヒドロゲルに関する。このヒドロゲルは、薬物デリバリーにおいて特に有用である。
【背景技術】
【0002】
温度、光、カルシウム、抗原、DNAおよび特異的酵素に応答する刺激感知性ヒドロゲルは、体内の薬物デリバリーのためのスマート材料として(Kopecek J., Eur J Pharm Sci 20, 1-16, 2003に論評されている)、または組織工学のために(Lutolf M. P. and Hubbell J. A., Nat Biotechnol 23, 47-55, 2005)、または、微小流体への応用における(ナノ)バルブとして(Beebe D. J. et al., Nature 404, 588-90, 000)有望である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような材料は一般にトリガーに応答するが、物理的刺激(例えば、光、温度)または分子ベースの刺激の場合には、生理的バックグラウンドでは殆ど達成不能な刺激濃度であるため(例えば、g/l領域の抗体濃度)、患者のバックグラウンドにおける適用が困難である。対照的に、医薬用物質の作用様式は生理的限界内で起こるように設計されており、故に、薬理学的作用様式に基づくヒドロゲルは、将来の治療応用に対して高いコンプライアンスを示すと予想される。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、ポリマー、第一のポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーを含むヒドロゲルに関し、ここでこのポリペプチド結合パートナーは、第二のポリペプチド、核酸または小分子であり、第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーの間の相互作用は、非共有結合性であり、調節化合物の添加または除去により調節される。
【0005】
特に本発明は、第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーがポリマーに結合し、そして第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーの間の相互作用がヒドロゲルを安定化させるようなヒドロゲルに関するものである。
【0006】
特に本発明は、第一ポリペプチドおよび/またはポリペプチド結合パートナーがポリマーに共有結合している、または、強い特異的な非共有結合によりポリマーに結合しているヒドロゲルに関する。
【0007】
第一ポリペプチドまたはポリペプチド結合パートナーのいずれかがポリマーに結合でき、そして対応するポリペプチド結合パートナーまたは第一ポリペプチドが各々目的化合物、例えば薬物に結合することができる。あるいは、目的化合物がヒドロゲルに物理的に捕捉され、またはポリマーに結合してヒドロゲルを形成することもある。
【0008】
第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーの間の相互作用は、調節化合物の添加または除去により切断される。
【0009】
さらに本発明は、ヒドロゲル[ここで、第一ポリペプチドまたはポリペプチド結合パートナーのいずれかがポリマーに結合し、そして対応するポリペプチド結合パートナーまたは第一ポリペプチドが各々薬物に結合している]を含み、そしてさらに、第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーの間の相互作用を切断する化合物を含む、薬物デリバリー系に関する。
【0010】
さらに、本発明は、ヒドロゲル[ここで、第一ポリペプチドおよび/またはポリペプチド結合パートナーは、ポリマーに結合しており、そして、薬物は、第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーの間の相互作用により安定化されたヒドロゲル構造に物理的に捕捉されている]を含み、そしてさらに、第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーの間の相互作用を切断し、それによりヒドロゲル構造を緩め、前記薬物を放出させる化合物を含む、薬物デリバリー系に関する。この原則のバリエーションでは、薬物はポリマーに結合してヒドロゲルを形成できる。第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーの間の相互作用を切断する化合物を添加すると、ヒドロゲルは崩壊し、薬物−ポリマー複合体が放出される。
【0011】
したがって、本発明はさらに、それを必要とする患者に薬物をデリバリーする方法に関し、ヒドロゲルが患者に投与され[ここで、第一ポリペプチドまたはポリペプチド結合パートナーのいずれかがポリマーに結合し、対応するポリペプチド結合パートナーまたは第一ポリペプチドが各々該薬物に結合している]、そして、ヒドロゲルが目的の作用部位に到達した後に、第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーの間の相互作用を切断する化合物が投与される。
【0012】
さらに、本発明は、それを必要とする患者に薬物をデリバリーする方法に関し、この方法においては、ヒドロゲルが患者に投与され[ここで、第一ポリペプチドおよび/またはポリペプチド結合パートナーがポリマーに結合し、薬物がヒドロゲル構造に物理的に捕捉され、またはポリマーに結合して、第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーの間の相互作用により安定化されたヒドロゲル構造を形成している]、そして、ヒドロゲルが目的の作用部位に到達した後に、第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーの間の相互作用を切断する化合物が投与され、それによりヒドロゲル構造が緩み、該薬物、またはポリマーに結合した薬物がそれぞれ放出される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】薬理学的に誘発されるヒドロゲル:(a)ポリアクリルアミド骨格にカップリングさせた細菌性ジャイレースサブユニットB(GyrB)をクーママイシン(+C)により二量体化して、ヒドロゲルのゲル化を導く。ノボビオシン(+N)の存在下でGyrBが解離し、ヒドロゲルの溶解が導かれる。(b)ポリアクリルアミド骨格への蛋白のカップリング。Ni2+イオンをキレート化するニトリロ三酢酸でポリアクリルアミドを官能化し、これにヘキサヒスチジン配列を介してGyrBが結合できる。
【図2】薬理学的に調節されるヒドロゲルの設計:(a)抗生物質依存性ヒドロゲルの生成。ヘキサヒスチジンで標識されたGyrBを、クーママイシン(+C、GyrB:クーママイシン=2:1、mol/mol)、ノボビオシン(+N、GyrB:ノボビオシン=1:10、mol/mol)の存在下で、または抗生物質不在下で(w/o)インキュベートする。GyrB複合体をNi2+−帯電したポリ(AAM−co−NTA−AAM)と混合し、得られた粘稠な構造をPBS中で12時間インキュベートした後、緩衝液中に放出されたGyrB蛋白を定量する。(b)GyrB二量体化特異的ヒドロゲル。GyrBをクーママイシン(GyrB:クーママイシン=2:1)で二量体化し、GyrB二量体を共有結合的に安定化させるためのアミン特異的二官能性架橋剤スベルイミド酸ジメチルの存在下(+DMS)または不在下(−DMS)で、さらにインキュベートする。GyrB二量体をNi2+−帯電したポリ(AAM−co−NTA−AAM)と混合し、ヒドロゲルの生成を導く。PBS中で一夜膨潤させた後、このヒドロゲルを、ノボビオシン1mMを含有するPBSに入れ、緩衝液中に放出されたGyrB蛋白を定量することによりポリマーの溶解を監視する。
【図3】調節可能な、薬理学的に誘発されるヒドロゲルの崩壊:異なる濃度のノボビオシン(0〜1mM)の存在下でヒドロゲルをPBS中でインキュベートし、ヒドロゲルの崩壊を、緩衝液中に放出されるGyrBの定量によって測定する。
【図4】ヒト血管内皮成長因子121(VEGF121)の放出:VEGF121をヒドロゲルに組み込み、漸増濃度のノボビオシン存在下にインキュベートする。緩衝液中へのVEGF121の放出を経時的に追跡する。
【図5】ノボビオシンの誘発するヒドロゲルの膨潤:ポリマーサイズの変化を監視しながら、部分的に化学的に架橋したGyrB単位を組み込んだヒドロゲルをノボビオシン1mMの存在下または不在下にインキュベートする。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の詳細な説明
本発明は、ポリマー、第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーを含むヒドロゲルに関し、ここで、このポリペプチド結合パートナーは、第二のポリペプチド、核酸または小分子であり、第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーの間の相互作用は、非共有結合性であり、調節化合物の添加または除去により調節される。
【0015】
好適なポリマーは、例えば、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、ポリ−ジメチル−ジアリル−アンモニウムクロリドおよびN−(2−ヒドロキシプロピル)−メタクリルアミドのようなポリビニル型ポリマー、フィブリン、コラーゲンおよびポリ−L−リジンのようなポリペプチド、ならびに、アルギン酸塩、場合により修飾されていてもよいセルロース類、例えばセルロース、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)およびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、デキストランおよびデンプンのようなポリ炭水化物である。好ましいポリマーは、例えばポリエチレングリコール、ポリアクリルアミドおよびフィブリンである。ポリマーとして最も好ましいのはポリエチレングリコールである。好適なポリマーは、例えば溶解性を微調整するために、さらなるポリマー化合物との反応により修飾することができる。
【0016】
本明細書で使用する「調節化合物」とは、生理的条件下で第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーの間の非共有結合性相互作用を壊すまたは惹起する化合物である。ポリペプチドの三次および二次構造を破壊する蛋白変性化合物、例えば、無機塩および酸、有機溶媒、例えばメタノール、エタノールまたはアセトン、有機酸、例えば酢酸、トリクロロ酢酸、ピクリン酸またはスルホサリチル酸、カオトロピック剤、例えば尿素またはグアニジニウム塩、ジスルフィド結合還元剤、例えば2−メルカプトエタノール、ジチオトレイトールまたはトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン、ならびに関連化合物は、本発明の意義における調節化合物とはみなさないと理解される。本発明の意義における「生理的条件」下において、この化合物は、1mg/mlを下回る濃度で第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーの間の非共有結合性相互作用を壊すまたは惹起すると理解される。
【0017】
ポリペプチド結合パートナーが第二のポリペプチドである場合、第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーの対は、例えば、GyrB−GyrB(ジャイレースサブユニットB)、FKBP−FRB(FK結合蛋白−脂質キナーゼ蛋白類似体FRAP(FKBP−ラパマイシン関連蛋白)のドメイン(FRB))、F−F(FK結合蛋白のF36M突然変異)、ToxT−ToxT(V.choleraeのToxT蛋白)、DHFR−DHFR(ジヒドロ葉酸レダクターゼ)、FKBP−FKBP(FK結合蛋白)、FKBP−Cyp(FK結合蛋白−シクロフィリン)およびCyp−Cyp(シクロフィリン)である。第一ポリペプチドおよび/またはポリペプチド結合パートナーは、上記ポリペプチドのホモ多量体または上記ポリペプチドのうち少なくとも2つの間のヘテロ多量体であってもよい。第一ポリペプチドおよび/またはポリペプチド結合パートナーはまた、溶解性に影響を与え、凝集を防止するために、さらなるポリマー、例えばポリエチレングリコールまたはポリアクリルアミドと共有結合していてもよい。添加または除去のいずれかによってポリペプチド間の相互作用に影響を与える、対応する調節化合物は、例えば、クマリン抗生物質(GyrB−GyrBに対して)、ラパマイシンまたはFK506および誘導体(例えばラパログ類、mTORインヒビター)(FKBP−FRBおよびFに対して)、シクロスポリンおよび誘導体(Cypに対して)、FK506(FKBP−FRBおよびFに対して)、ヴィルトスタチン(ToxTに対して)、ならびにメトトレキサートおよびその誘導体(例えば抗葉酸剤)(DHFR−DHFRに対して)である。調節化合物として好ましいのは、小有機化合物、例えば分子量が100〜5000、特に100〜2000の化合物である。
【0018】
特別な例において、第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーは、二量体を形成する傾向がある同一化合物である。このような二量体形成ポリペプチドの具体例は、GyrB、F、ToxT、FKBPおよびDHFRである。こうした二量体形成ポリペプチドを含むヒドロゲルは、二量体形成を誘導する化合物をさらに含むことがある。例えば、そのような二量体化を誘導する化合物は、クマリン抗生物質、ラパマイシンおよび誘導体、ヴィルトスタチン、FK1012、ならびにメトトレキサートおよびその誘導体である。この二量体形成化合物は、上記または下記に開示する調節化合物の定義に該当し得る。あるいは、第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーの間の相互作用に影響を与える調節化合物は、二量体形成化合物の活性を中和する調節化合物であってもよく、この中和によって二量体形成ポリペプチドの相互作用の実質的低下が導かれる。二量体形成効果を中和する化合物は、例えば、実質的に過剰に使用された場合の、二量体形成化合物として上述したものと同じ化合物、または、好ましくは同じクラスの二量体形成化合物のうちでも別の異なる代表化合物、例えば、クマリン抗生物質、ラパマイシンおよび誘導体、ならびにメトトレキサート、抗葉酸剤およびその誘導体のクラス、ならびにFK506である。
【0019】
ポリペプチド結合パートナーが核酸である場合、第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーの対は、例えば、E−ETR(E.coliのMphR(A)蛋白およびそのオペレーターETR)、PIP−PIR(Streptomyces pristinaespiralisのPIP蛋白およびそのオペレーターPIR)、TetR−tetO(Tn10から誘導されるテトラサイクリンリプレッサーTetRおよびそのオペレーターtetO)、ArgR−argO(アルギニン応答性リプレッサーおよびそのオペレーターargO)、ArsR−arsO(砒素応答性リプレッサーおよびそのオペレーターarsO)、およびHucR−hucO(尿酸応答性リプレッサーおよびそのオペレーターhucO)である。その他のこのような対は、Ramos J. L.等(Microbiol Mol Biol Rev 69, 326-56, 2005)、Martinez-Bueno M.等(Bioinformatics 20, 2787-91, 2004)の記載したもの、およびデータベースBacTレギュレーター(http://www.bactregulators,org/)に列挙されたものである。添加または除去のいずれかによってポリペプチド間相互作用に影響を与える、対応する調節化合物は、例えば、マクロライド抗生物質(E−ETRに対して)、ストレプトグラミン抗生物質(PIP−PIRに対して)、テトラサイクリン抗生物質(TetR−tetOに対して)、アルギニン(ArgR−argOに対して)、重金属(ArsR−arsOに対して)、および尿酸(HucR−hucOに対して)である。
【0020】
ポリペプチド結合パートナーが小分子である場合、第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーの対は、例えば、GyrB−クマリン抗生物質、FKBP−mTORインヒビター、FRB−mTORインヒビター、F−mTORインヒビター、Cyp−シクロスポリン、Cyp−アスコマイシン、DHFR−抗葉酸剤、ストレプトアビジン−ビオチンアナログ、アビジン−ビオチンアナログ、ニュートラアビジン−ビオチンアナログ、ステロイドホルモンレセプター−ステロイドホルモンおよびそのアナログ、ならびにToxT−ヴィルスタチンである。
【0021】
ポリペプチド結合パートナーが小分子である場合、そのポリペプチド結合パートナーは好ましくは<5000g/mol、特に100〜5000g/molの分子量を有する。
【0022】
クマリンおよびアミノクマリン抗生物質には、例えばノボビオシン、クロロビオシン、クーママイシンおよびジヒドロノボビオシンがある。
【0023】
シクロスポリンまたはアスコマイシンは、例えば、シクロスポリンA(NEORAL(登録商標))、ISAtx−247、FK506(タクロリムス)、FK778、ABT−281またはASM981であってよい。
【0024】
mTORインヒビターは、例えば、ラパマイシンまたはその誘導体、例えばシロリムス(RAPAMUNE(登録商標))、デフォロリムス、テムシロリムス、ゾタロリムス、エベロリムス(Certican(登録商標))、CC1779、ABT578、バイオリムス−7、バイオリムス−9、ラパログ、例えばAP23573、アザチオプリン、カンプト1H、S1Pレセプターモジュレーター、例えばFTY720、またはその類似体であってよい。
【0025】
ラパログは、特に、ラパマイシンに関する以下の修飾のうち1以上を有するラパマイシンの変異体を包含している:C7、C42および/またはC29位のメトキシ基の脱メチル化、脱離もしくは置換;C13、C43および/またはC28位のヒドロキシ基の脱離、誘導体化もしくは置換;C14、C24および/またはC30位のケトン官能基の還元、脱離もしくは誘導体化;六員ピペコラート環の五員プロリニル環による置換;ならびにシクロヘキシル環上の別の置換基による置換またはシクロヘキシル環の置換シクロペンチル環による置換。考え得るさらなる修飾は、米国特許第5525610;5310903および5362718号ならびに米国特許第5527907号の、背景技術の項に提示されている。さらにC28ヒドロキシ基の選択的エピマー化が考えられている(WO01/14387)。WO03/064383号およびWO05/16252号に記載されるような、種々のリン含有部分を含むラパマイシン類似体の使用がさらに考えられる。考えられるその他のラパログは、米国特許第6984635号、米国特許第6649595号および米国特許第7091213号に記載されている。
【0026】
抗葉酸剤には例えば、メトトレキサート、トリメトプリムのようなDHFRに結合する化合物、ブロジモプリムおよびエピロプリム、またはイクラプリムのようなジアミノピリミジン類がある。考えられるその他のDHFRインヒビターは、Hawser S. et al., Biochemical Pharmacology 71, 941-948, 2006に記載されているインヒビターである。
【0027】
ビオチンアナログには、例えばストレプトアビジン、ニュートラアビジンもしくはアビジンに結合する化合物、例えばビオチン、HABA、デスチオビオチン、イミノビオチンまたはジアミノビオチンがある。
【0028】
上記の小分子ポリペプチド結合パートナーは、ポリマーまたはその他の目的化合物との結合に好適な誘導体化に付すことができる。そのような誘導体化には、アミン、アミド、チオール、ヒドロキシ、アルデヒド、アジド、アルキン、ケトン、エポキシドまたはカルボキシ官能性の導入がある。
【0029】
特に好ましい第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーの対は、対応する調節化合物アミノクマリン抗生物質(例えばGyrB−GyrBに対するクーママイシンおよびノボビオシン)、ラパマイシン、FK506およびその誘導体AP21998およびAP22542(F−FおよびFKBP−FRBに対して)と共に、GyrB−GyrB、F−FおよびFKBP−FRBの組み合わせである。
【0030】
最も好ましいのはGyrB−GyrBおよびF−Fである。
【0031】
特に本発明は、第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーがポリマーに結合しており、そして、第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーの間の相互作用がヒドロゲルを安定化するようなヒドロゲルに関する。例えば、GyrBおよびクーママイシンの組み合わせは、ポリマーの安定化のために特に有用である。
【0032】
特に本発明は、第一ポリペプチドおよび/またはポリペプチド結合パートナーがポリマーに共有結合している、または、強い特異的な非共有結合によりポリマーに結合している、ヒドロゲルに関する。本発明の意義における強い非共有結合とは、生理的条件下で10−5Mを下回る解離定数を有する結合である。ポリペプチドおよびその結合パートナーは、特異的リンカーによって、例えばNTAのようなキレート形成物質および多価金属イオンとのポリヒスチジン結合、ペプチド結合、マレイミドまたはビニルスルホンに結合したチオール、ハロタグ(Los G. V. et al., Methods Mol Biol. 356, 195-208, 2007)、SNAP−タグまたはCLIP−タグ(Gautier A. et al., Chem Biol. 15, 128-36, 2008)によって、または、トランスグルタミナーゼ反応結合(Ehrbar M. et al., Biomaterials 29, 1720-9, 2008)によってポリマーに結合できる。このようなヒドロゲルは通常、第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーをポリマー骨格に結合させ、両方の反応生成物を混合し、そして第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーが互いに相互作用するように調節化合物の濃度を変化させ、それによりヒドロゲルを形成させることによって製造する。調節化合物の濃度を変化させるか、または第一調節化合物の効果を中和する第二調節化合物を添加すると、その剛直な構造が壊れ、ヒドロゲルは実質的により剛直でない構造、例えばヒドロゾルに戻る。
【0033】
ヒドロゲルをさらに安定化するため、ポリマー骨格を化学的に架橋することにより、またはポリペプチド結合パートナーで第一ポリペプチドを架橋することにより、さらなる架橋を導入することができる。好適な架橋剤はBioconjugate Techniques(2nd Edition by Greg T. Hermanson, Academic Press, 2008)に記載のような、別の分子に結合するための少なくとも2個の部位を示す任意のホモまたはヘテロ官能性化合物である。
【0034】
加えて、第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーを含む半相互侵入網目構造ポリマーネットワーク(セミ−IPN。少なくとも1つのポリマーが架橋し、少なくとも1つのポリマーが架橋していない、2以上のポリマーのポリマーネットワークの意。例えばMiyata T. et al., Nature 399, 766-769, 1999に記載されている)もまた同様に本発明の範囲内にある。
【0035】
第一ポリペプチドまたはポリペプチド結合パートナーのいずれがポリマーに結合してもよく、それぞれ対応するポリペプチド結合パートナーまたは第一ポリペプチドが、目的化合物、例えば薬物に結合できる。
【0036】
目的化合物は、ヒドロゲルが埋め込まれた宿主に有益な効果をもたらす任意の物質である。
【0037】
薬物は、細胞増殖抑制性および細胞毒性薬物、抗生物質、抗ウイルス薬、抗炎症薬、生長因子、サイトカイン、ホルモン、抗体、鎮痛薬、siRNAのようなポリ核酸、miRNA、DNAおよびウイルス粒子といったクラスから選択される任意の薬物であってよい。好ましい薬物は、ポリペプチド型薬物のような経口投与できない薬物である。
【0038】
特に該薬物は、その可能性を十分に発揮するために、まず作用部位に運搬されねばならない。例にはモノクローナル抗体、生長因子およびサイトカインがある。
【0039】
該薬物は、ヒドロゲル構造に物理的に捕捉されるか、またはヒドロゲルを形成するポリマーに結合でき、調節化合物の添加または除去によりヒドロゲルの溶解または膨潤が誘発され、ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーの間の相互作用により安定化されたヒドロゲル構造が壊されることにより、薬物がそれぞれ遊離薬物または薬物−ポリマー複合体として放出され得る。あるいは、該薬物がポリペプチド結合パートナーに結合し、一方このポリペプチド結合パートナーはヒドロゲル内で第一ポリペプチドに結合する。調節化合物の添加または除去が第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーの間の相互作用を切断し、それにより、ポリペプチド結合パートナーに結合した薬物を遊離させる。薬物が第一ポリペプチドに結合し、ポリペプチド結合パートナーがヒドロゲルに固定化されている逆の形態もまた本発明の範囲内にある。
【0040】
さらに本発明は、ヒドロゲル[ここで、第一ポリペプチドまたはポリペプチド結合パートナーのいずれかがポリマーに結合し、対応するポリペプチド結合パートナーまたは第一ポリペプチドが各々薬物に結合している]を含み、そしてさらに、第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーの間の相互作用を切断する化合物をも含む、薬物デリバリー系に関する。
【0041】
こうした薬物デリバリー系の好ましい構成要素は、好ましいものとして上に述べたヒドロゲル、例えば、好ましいポリマー、第一ポリペプチドおよびそのポリペプチド結合パートナーの好ましい組み合わせ、そしてさらに、適切に適合させた好ましい調節化合物を含むヒドロゲルである。このようなヒドロゲルが好ましく使用される特別の状況は、例えばその薬物が反復して、または長期間投与されねばならない場合である。例えば、ヒドロゲルを特定の作用部位に注射で適用し、調節化合物を経口適用すると、ヒドロゲルが注射された部位に調節化合物が拡散し、その結果、調節化合物がヒドロゲルの性質(膨潤または溶解)および薬物の遊離を調節する。あるいは、ヒドロゲルを、尿酸のような内因性調節化合物に応答するように設計すると、その結果、一定の生理的濃度の前記内因性化合物がゲルの性質を改変し、内蔵された薬物の遊離を調節するであろう。
【0042】
したがって本発明はさらに、それを必要とする患者に薬物をデリバリーする方法に関し、この場合、ヒドロゲルが患者に投与され、第一ポリペプチドまたはポリペプチド結合パートナーのいずれかがポリマーに結合し、各々対応するポリペプチド結合パートナーまたは第一ポリペプチドが該薬物に結合し、そしてヒドロゲルが目的の作用部位に到達した後に、第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーの間の相互作用を切断する化合物が投与される。
【0043】
さらに、本発明は、それを必要とする患者に薬物をデリバリーする方法に関し、この場合、ヒドロゲルが患者に投与され、第一ポリペプチドまたはポリペプチド結合パートナーがポリマーに結合し、薬物がヒドロゲル構造に物理的に捕捉され、またはポリマーに結合して、ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーの間の相互作用により安定化されるヒドロゲル構造を形成し、そして、ヒドロゲルが目的の作用部位に到達した後に、第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーの間の相互作用を切断する化合物が投与され、それによりヒドロゲル構造が緩み、該薬物または薬物−ポリマー複合体がそれぞれ放出される。
【0044】
患者への通常の薬物の適用と比較して、本方法は遙かに簡便である。何故なら、薬物を含むヒドロゲルは患者に一回注射で投与すればよく、経口投与可能な調節化合物を服用することにより、該薬物を必要に応じて放出させることができるからである。このようにして、反復注射が、一回の注射と、錠剤、カプセル剤、丸剤などの形態を持つ何らかの経口活性化合物に置き換えられる。
【0045】
本発明に係る特別のヒドロゲルは、細菌性ジャイレースサブユニットB(GyrB)をグラフトさせたポリアクリルアミドを基礎とする抗生物質応答性ゲルであって、GyrBがアミノクマリン抗生物質クーママイシンにより二量体化し、それによってヒドロゲルのゲル化および三次元的安定化がもたらされる(図1a)。アミノクマリン ノボビオシン(Albamacin(登録商標))を添加すると、GyrBおよびクーママイシンの間の相互作用が競合阻害され、三次元構造が緩み、ヒドロゲルがゾル状態に変化する(図1a)。特別な例では、ポリマー骨格は、ヘキサヒスチジン標識(His)を付けたGyrBを結合させるためのNi2+イオンをキレート化するため、ニトリロ三酢酸で官能化したポリアクリルアミドである(図1b)。ポリマー骨格を構築するため、2,2’−(5−アクリルアミド−1−カルボキシペンチルアザンジイル)二酢酸(NTT−AAm)を合成し、アクリルアミド(AAm)と共重合させ、NTA基をNi2+で帯電させる。得られたポリマー ポリ(AAm−co−Ni2+−NTA−AAm)は、サイズ排除クロマトグラフィーで判定された分子量42kDaを有し、H NMR分析と合成における化学量論を反映することから推定されるように、4個のアクリルアミドモノマーあたり1個のNTA−AAm基を有する。
【0046】
E.coliジャイレースサブユニットBの遺伝子(gyrB)を、6個のヒスチジン残基のコード配列で標識する。このコード領域を、ファージTから誘導されるプロモーターの調節下に置き、可溶性細胞質蛋白としてE.coliで発現させる。GyrBを、Ni2+型アフィニティークロマトグラフィーを用いてヘキサヒスチジンタグにより精製する。蛋白を、クーママイシン(GyrB:クーママイシン=2:1。mol/mol)の存在下または不在下でインキュベートし、その後アミン特異的二官能性架橋剤スベルイミド酸ジメチル(DMS)を添加し、この複合体を変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析することにより、遺伝子工学により生成されたGyrBのクーママイシンにより誘発される二量体化を評価する。クーママイシン不在下では、GyrBは専ら予想サイズ27kDaの位置に移動し、一方、二量体化抗生物質を添加すると実質的な二量体の形成が起こり、予想サイズ54kDaの位置に移動する。クーママイシン存在下で27kDaに移動する残存バンドは、抗生物質により仲介されるGyrBの非効率的な二量体化に起因するが、むしろ不完全なDMS仲介性共有結合的架橋に起因する、ということを排除するため、限外濾過実験を実施する。GyrBをクーママイシンの存在下または不在下でインキュベートし、50kDa分子量カットオフフィルターを用いる限外濾過に付す。クーママイシン不在下のGyrBは効率的にフィルターを通過する(濾液中の蛋白54%)が、クーママイシンで二量体化されたGyrBがロードされた場合、濾液中にはバックグラウンドレベルのGyrBが検出できるに過ぎず(濾液中の蛋白2.8%)、これは、クーママイシンにより仲介されるGyrB二量体化が定量的であることを示すものである。
【0047】
クーママイシン架橋ヒドロゲルの合成を、クーママイシンの存在下もしくは不在下、または10倍モル過剰のノボビオシンと共に、ヘキサヒスチジンで標識したGyrBをインキュベートすることにより検証する。続いてこの蛋白を、ポリマー骨格においてキレート化した11のNi2+イオンにつき1のGyrBの割合で、ポリ(AAm−co−Ni2+−NTA−AAm)と混合する。全てが粘稠となったこの溶液をPBS中で12時間インキュベートした後、緩衝液中に放出されたGyrB−ポリマー複合体の定量を行う(図2a)。クーママイシンの不在下またはノボビオシンの存在下で、この粘性構造物は完全に溶解し、GyrBが定量的に緩衝液に回収される。しかしながらクーママイシンの存在下では、GyrB−ポリマーの放出は有意に低下してヒドロゲルが観察でき、このことによってこの二量体化抗生物質のゲル化作用が示される(図2a)。ヒドロゲルの生成が事実上クーママイシンにより仲介されるGyrB二量体化に起因することを説明するため、上記のようにクーママイシンにより二量体化されたGyrBを用いたヒドロゲル、またはDMSによりさらに共有結合的に架橋しておいたクーママイシン二量体化Gyrを合成する。PBS中で12時間膨潤させた後、ノボビオシン1mMを含有するPBS中でこのヒドロゲルをインキュベートし、緩衝液中へのGyrB−ポリマー複合体の放出によってヒドロゲルの溶解を監視する(図2b)。クーママイシン架橋ヒドロゲルがノボビオシンの存在下で11時間後に溶解する一方で、DMS架橋GyrB(+DMS)を伴うヒドロゲルは、31時間の観察時間の間安定である(図2b)。この知見は、クーママイシンにより仲介されるGyrBの二量体化によってヒドロゲルが効果的に生成し、それが過剰のノボビオシンにより逆転し得ることを裏付けるものである。他のクラスの抗生物質(例えば、β−ラクタム、マクロライド)の添加により特異性がさらに説明され、その場合、ゲルの溶解に及ぼす影響は観察できない。
【0048】
ヒドロゲルの溶解速度および生物薬剤の放出特性を最適に調節して治療域内にすることができるならば、薬理学的に誘発されるヒドロゲルの生成および溶解は、体内における蛋白性医薬の最適なデリバリーのための新たな展望を開く。調節可能なヒドロゲル特性を研究するため、クーママイシン二量体化ヒドロゲルを、漸増濃度のノボビオシン存在下でインキュベートし、ゲルの溶解を、放出されたGyrB−ポリマー複合体の定量によって追跡する(図3)。ノボビオシン1mMの存在下ではヒドロゲルは速やかに溶解し、一方、より低濃度のノボビオシンは、より緩やかなヒドロゲルの溶解およびより緩やかなGyrB放出と相関し、これは、調節可能な溶解および放出速度を説明している(図3)。ヒドロゲルはノボビオシン不在下で24日間安定である。24日目にノボビオシン1mMを添加すると、26日目までヒドロゲルの溶解がもたらされるが、これはヒドロゲルの長期機能性を説明している。
【0049】
刺激感知性ヒドロゲルからの治療用蛋白の薬理学的に誘発される放出を説明するため、ヒト血管内皮生長因子121(VEGF121)をヒドロゲル内に組み込み(GyrB:VEGF121=1000:1、mol/mol)、漸増濃度のノボビオシン存在下でインキュベートする(図4)。ノボビオシン1mMの存在下ではVEGF121は10時間以内に完全に放出されるが、刺激不在下ではバックグラウンドレベルのVEGF121が観察されるに過ぎない。中程度のノボビオシン濃度(0.25mM)ではVDGF121放出速度はより緩やかであり、これにより、トリガーにより調節可能な生長因子の放出特性が説明される。
【0050】
GyrBに基づく系は、ノボビオシン存在下で膨潤するヒドロゲルの設計に利用することもできる。故に、クーママイシン二量体化GyrB分子を等モル量のスベルイミド酸ジメチルにより化学的に架橋するという改変を施したヒドロゲルが上記のように製造される。このようなゲルをノボビオシン存在下でインキュベートすると、膨潤が観察され得る(図5)。
【実施例】
【0051】
[実施例1]ヘキサヒスチジン標識したGyrBの製造
細菌ジャイレースサブユニットB遺伝子(gyrB)を、オリゴヌクレオチドOWW866(5’−ggtacttgcacatatgtcgaattcttatgactcctccagtatc−3’、配列番号1)およびOWW867(5’−ccagttacaagcttatggtgatggtgatgatggccttcatagtg−3’、配列番号2)を用いてE.coli DH5α染色体DNAから増幅し、pWW301にライゲーションし(Ndel/HindIII)(Weber C. C. et al., Biotechnol Bioeng 89, 9-17, 2005)、それにより、gyrBをファージTプロモーターの調節下に置く。pWW873をE.coli BL21 STAR(登録商標)(DE3)中に形質転換し(Invitrogen, Carlsbad, CA, cat. no. C601003)、1mMのIPTGによりOD600=1において37℃で3時間蛋白産生を誘導する。細胞ペレットをPBSに再懸濁し(始発培養容量1000mlあたり40ml・50mM NaHPO、300mM NaCl、10mMイミダゾール、pH8.0)、フレンチプレス(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)で破砕し、細胞残屑を15000xg20分間の遠心分離により取り除く。清澄化した細胞溶解液をNTA−アガロース スーパーフローカラム(Qiagen, Hilden, Germany, cat. no. 30210)にロードし、続いてこれを10カラム容量のPBS、10カラム容量の洗浄緩衝液(50mMNaHPO、300mM NaCl、20mMイミダゾール、pH8.0)で洗浄し、2カラム容量の溶離緩衝液(50mMNaHPO、300mM NaCl、250mMイミダゾール、pH8.0)で溶出する。溶離緩衝液を限外濾過(10kDa MWカットオフ、Sartorius, Gottingen, Germany, cat. no. VS0202)によってPBSに変換し、GyrBを80mg/mlに濃縮する。
【0052】
[実施例2]VEGF121の製造
ヘキサヒスチジン標識したヒト血管内皮生長因子121(VEGF121)のための発現ベクターpRSET−VEGF121(Ehrbar M. et al., Circ Res 94, 1124-32, 2004) をE.coli BL21 STAR(登録商標)(DE3)に形質転換し、1mMのIPTG添加によりOD600=0.8において37℃で4時間蛋白産生を誘導する。細胞ペレットを50mMTris/HCl、2mMEDTA(pH8.0)中に再懸濁し(始発培養容量1000mlあたり100ml)、フレンチプレスを使用して細胞を破砕し、4℃、15000xgで20分間の遠心分離により、封入体をペレット化する。封入体を、6M尿素、500mMNaCl、5mMイミダゾール、20mMTris/HCl(pH7.9)中に4℃で一夜溶解し、遠心分離(15000xg、30分間、4℃)して細胞残屑から分離する。この上清を、洗浄(15カラム容量の6M尿素、500mMNaCl、20mMイミダゾール、20mMTris/HCl、pH7.9)および溶離(6M尿素、500mMNaCl、250mMイミダゾール、20mMTris/HCl、pH7.9)の後、NTA−アガローススーパーフローカラムにロードする。溶出液を2mMDTTおよび2mMEDTAと共に22℃で30分間インキュベートしてジスルフィド結合を還元し、その後三段階透析を行う((3.5kDaMWカットオフ、Pierce, Rockford, IL, cat. no. 68035):4M尿素、1mMEDTA、20mMTris/HCl(pH7.5)で2x1時間;3M尿素、1mMEDTA、20mMTris/HCl(pH7.5)で2x1時間;2M尿素、150mMNaCl、20mMTris/HCl(pH7.5)で1時間、そして2M尿素、150mMNaCl、20mMTris/HCl(pH7.5)で一夜)。精製されたVEGF121を−80℃で保存する。VEGF121をサンドイッチELISA(Peprotech, Hamburg, Germany, cat. no. 900-K10)で定量する。
【0053】
[実施例3]GyrBの特性決定
BSAを標準として使用するブラッドフォード法(Biorad, Munich, Germany, cat. no. 500-0006)によってGyrBの濃度を分析する。SDS−PAGE分析のために12%還元ゲルを使用し、その後クマシー染色する。GyrBについて10倍モル過剰のスベルイミド酸ジメチルx2HCl(DMS, SigmaAldrich, St. Louis, MO, cat. no. 179523)を添加し室温で60分間、二量体を共有結合的に架橋させた後、クーママイシンA1存在下にGyrBを室温で30分間インキュベートする(GyrB:クーママイシン=2:1、mol/mol;Sigma, St. Louis, MO, cat. no. C9270)ことにより、抗生物質により誘発されるGyrBの二量体化を分析する。この二量体をSDS−PAGEで分析する。クーママイシンにより誘発される二量体化の限外濾過研究のため、1mlPBS中100nmolGyrBを50nmolクーママイシンの存在下または不在下に室温で30分間インキュベートする。PBS 4mlの添加後、この溶液を5000xgで45分間の限外濾過に付す(50kDaMWカットオフ、Filtron, Northborough, MA, cat. no. OD050C36)。不透過物(1ml)を5mlPBSで希釈し、再度限外濾過した後、プールした濾液および不透過物中のGyrB濃度を定量する。
【0054】
[実施例4]2,2’−(5−アクリルアミド−1−カルボキシペンチルアザンジイル)二酢酸(NTA−AAm)の合成
トルエン15mlに溶解した塩化アクリロイル3.3mmol(ABCR, Karlsruhe, Germany, cat. no. AB172729)を、0.44M NaOH 27mlに溶解した3mmolのN,N−ビス(カルボキシメチル)−L−リジン(Fluka, Buchs, Switzerland, cat. no. 14580)の氷冷溶液に4時間かけて滴下する。トルエンを減圧留去し、Dowex(登録商標) 50WX8(Acros, Geel, Belgium, cat. no. 335351000)でナトリウムイオンを除去し、その後凍結乾燥すると、粘稠な油状物が生成する(収率:50%)。
【0055】
[実施例5]ポリ(AAm−co−NTA−AAm)の合成
1.5mmolのNTA−AAmおよび6.4mmolのアクリルアミド(AAm, Pharmacia Biotech, Uppsala, Sweden, cat. no. 17-1300-01)を窒素雰囲気下で50mMTris/HCl 48ml(pH8.5)に溶解し、 ペルオキソ二硫酸アンモニウム(APS、10%、w/v)150μlおよびN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)24μlの添加により室温で20時間の重合を開始する。ポリマーを20mlに減圧濃縮し、その後、2LのHOに対して12時間、2回の透析(3.5kDaMWカットオフ、Pierce, Rockford, IL, cat. no. 68035)を実施して、塩類および残留アクリルアミドのような毒性低分子量化合物を取り除く。得られたAAm対NTA−AAmのモル比は、H NMR(Avance 500 Bruker BioSpin AG Fallanden, Switzerland)で測定したところ4対1である。透析液に3.5mmolNiSOを添加し、0.5xPBS(12時間)で2回、0.1xPBS(12時間)で2回透析する。このNi2+−帯電したポリマーを10倍に減圧濃縮すると6%(w/v)溶液が得られる。Ni2+−帯電したポリ(AAm−co−NTA−AAm)のサイズを、移動相としてPBSを用いるShodex OHpak SB-806 HQ (8.0mm x300mm、昭和電工、川崎、日本国)カラム上のゲル透過クロマトグラフィーにより、流速0.5ml/分で分析する(Waters 2796 Alliance Bio, Waters AG, Baden, Switzerland)。検出は、Waters 2487のUV検出機を用いて280nmおよび390nmで実施する。サイズ標準としてポリ(スチレンスルホン酸ナトリウム塩)(Fluka, Buchs, Switzerland)を使用する。
【0056】
[実施例6]ヒドロゲルの形成および特性決定
PBS中の精製GyrB(80mg/ml)を、GyrB:クーママイシン=2:1のモル比でクーママイシン(DMSO中50mg/ml)と混合し、室温で30分間インキュベートする。続いてGyrB1mgあたり4.5μlのポリ(AAm−co−NTA−AAM)(PBS中6%w/v溶液)に、二量体化したGyrBを加え、穏やかに撹拌して混合する。直ちにヒドロゲルが生成するのでこれを加湿雰囲気下に4℃で20時間インキュベートし、その後このヒドロゲルをPBS中で12時間インキュベートする。トリガーにより誘発され得るヒドロゲルの溶解を調べるため、異なる濃度のノボビオシン(Fluka, cat. no. 74675)存在下にPBS中でゲルをインキュベートし、溶解を、光学的に(GelJet Imager 2004, Intas, Gottingen, Germany)、そしてブラッドフォード法を用いる緩衝液中へのGyrB放出の定量により、監視する。エラーバーは3回の実験から得られた標準偏差を表す。
【0057】
[実施例7]さらなる架橋を伴うヒドロゲルの形成および特性決定
PBS中の精製GyrB(80mg/ml)を、GyrB:クーママイシン=2:1のモル比でクーママイシン(DMSO中50mg/ml)と混合し、室温で30分間インキュベートする。次いで、二量体化したGyrBを等モル量のスベルイミド酸ジメチルと共にインキュベートし、室温で60分間インキュベートする。続いてGyrB1mgあたり4.5μlのポリ(AAm−co−NTA−AAM)(PBS中6%w/v溶液)に、二量体化および架橋したGyrBを加え、穏やかに撹拌して混合する。直ちにヒドロゲルが生成するがこれを加湿雰囲気下に4℃で20時間インキュベートし、その後このヒドロゲルをPBSまたは1mMノボビオシンを添加したPBS中で20時間インキュベートする。ゲルの膨潤を光学的に監視する(図5)。エラーバーは3回の実験から得られた標準偏差を表す。
【0058】
[実施例8]ポリペプチド結合パートナーが小分子である場合の、ポリマー、第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーを含むヒドロゲルの構築
アミノ官能化ノボビオシンの合成。DMFに溶解したノボビオシンをKCOおよび2−(Boc−アミノ)エチルブロミドと還流下に一夜反応させることにより、ノボビオシンをアミノ基で官能化する。反応混合物を減圧濃縮し、残留物を酢酸を伴うジクロロメタンに溶解し、カラムクロマトグラフィーで精製する。アミノ基の脱保護のため、このBoc−保護化合物をジクロロメタン中の50%TFAに溶解する。溶媒および酸を蒸発させる。
【0059】
(アミノ反応性ポリマーの合成)レドックス開始剤としてAIBNを使用し、アクリルオキシスクシンイミドをTHF中のアクリルアミド(モル比1:4)で共重合させる。得られたポリマー(pAAm−スクシンイミド)を沈殿させ減圧乾燥する。
【0060】
(ポリマーへのアミノ官能化ノボビオシンのカップリング)アミノ官能化ノボビオシンをPBS(pH8.0)中のpAAm−スクシンイミド(NH−ノボビオシン:スクシンイミド=1.5:1、mol/mol)と混合し、室温で一夜反応させる。得られたポリマーを水に対して透析し(MWカットオフ:3500Da)、凍結乾燥する。
【0061】
(ヒドロゲルの構築)PBSに溶解したノボビオシン官能化ポリアクリルアミドをヘキサヒスチジン標識したGyrBおよびポリ(AAm−co−Ni2+−NTA−AAm)と混合し、ゲル化を導く。このポリマーをPBS中で一夜膨潤させる。このヒドロゲルに漸増濃度のノボビオシンを添加すると、ゲルの用量依存的溶解がもたらされる。
【0062】
[実施例9]ポリペプチド結合パートナーが核酸である場合の、ポリマー、第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーを含むヒドロゲルの構築
(DNA官能化ポリマーの合成)センスおよびアンチセンスの向きのtetOオペレーターをコードしているオリゴヌクレオチドを合成するが、ここでは、第一オリゴはその5’末端(NH)にアミノ基をさらに含んでいる。両方のオリゴ鎖をアニーリングし、PBS(pH8.0)に溶解し、スクシンイミド官能化ポリアクリルアミドと混合し(実施例8を参照されたい)、一夜インキュベートする。得られたDNA官能化ポリマーを限外濾過に付し(MWカットオフ5000Da)、最後にPBSに溶解する。
【0063】
(ヘキサヒスチジン標識したTetRの生成)テトラサイクリンリプレッサーTetRのコード配列をヘキサヒスチジンタグと融合させ、IPTG誘導によりE.coli BL21(DE3)pLysSで発現させる。この蛋白をNi2+アフィニティクロマトグラフィーで精製する。
【0064】
(ヒドロゲルの構築)tetO官能化ポリマーをヘキサヒスチジン標識したTetRと混合し、その後ポリ(AAm−co−Ni2+−NTA−AAm)を添加する。ヒドロゲルが生成するがこれは、Mg2+の存在下でテトラサイクリン抗生物質の添加により溶解し得る。
【0065】
[実施例10]ポリペプチド結合パートナーが第二ポリペプチドである場合の、ポリマー、第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーを含むヒドロゲルの構築
第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーはF(F36M突然変異を有するFKBP)である。Fをコードしているポリ核酸の3’末端を、6個のヒスチジン残基をコードしているポリ核酸に融合させる。この構築物をTプロモーターの調節下にクローニングし、E.coli BL21で発現させる。細胞を遠心分離によって収穫し、フレンチプレス中で溶解し、細胞残屑を遠心分離で取り除く。清澄化した溶解液を、ヘキサヒスチジン標識したFのアフィニティ精製のため、Ni2+−NTAカラムを通過させる。300mMイミダゾール含有緩衝液を用いてFを溶出させ、緩衝液を限外濾過によりPBSに交換する。Fを限外濾過により50mg/mlに濃縮する。精製および濃縮したFをポリ(AAm−co−NTA−AAM)(PBS中6%w/v溶液。F750μgあたりポリ(AAm−co−NTA−AAM )10μl)と混合する。直ちにヒドロゲルが生成するのでこれを加湿雰囲気下に4℃で20時間インキュベートし、その後このヒドロゲルをPBS中で12時間インキュベートする。トリガーにより誘発され得るヒドロゲルの溶解を調べるため、異なる濃度のFK506またはラパログ存在下にPBS中でゲルをインキュベートし、溶解を、光学的に(GelJet Imager 2004, Intas, Gottingen, Germany)、そしてブラッドフォード法を用いる緩衝液中へのF放出の定量により、監視する。
【0066】
[実施例11]さらなる架橋を含む、Fに基づくヒドロゲルの構築
蛋白を共有結合によりさらに安定化する以外は実施例10の記載に従ってヒドロゲルを構築する。したがって、濃縮したF溶液をF1モルあたりスベルイミド酸ジメチル4モルの存在下に室温で30分間インキュベートし、その後ポリ(AAm−co−NTA−AAM)と混合する。このヒドロゲルは細胞培養基中で増大した安定性を示す。
【0067】
[実施例12]ポリエチレングリコールおよびGyrBに基づくヒドロゲルの構築
このヒドロゲルは、クーママイシンにより二量体化されたGyrBとカップリングさせた8腕(eight-arm)ポリエチレングリコールからなる。場合により、GyrBをスベルイミド酸ジメチルによりさらに架橋することができる。したがって、プライマー5’−ggtacttgcacatatgtcgaattcttatgactcctccagtatc−3’および5’−ccagttacaagcttTCAGCAatggtgatggtgatgatgGCCTTCATAGTGGAAGTGGTCTTC−3’を用いてgyrB遺伝子を増幅し、それをNdel/HindIIIでpWW301中にクローニングすることにより、C末端システインを組み込んだGyrBを構築する。GyrB−Cys蛋白を、実施例1に記載のGyrBの手順に従って産生させる。先の手順に従い、TCEP(トリスカルボキシエチルホスフィン)を用いてGyrB−Cysを還元し、8個の末端ビニルスルホン基を有する8腕(8-arm)PEGにカップリングさせる(Rizzi S.C. and Hubbell J.A., Biomacromolecules 6, 1226-1238, 2005)。PEG−カップリングしたGyrBを、非結合GyrB−Cysを取り除くため100kDa分子量カットオフを用いて還元条件(1mM DTT)下にPBSに対して透析する。PEG−カップリングしたGyrB−Cysを80mg/mlに濃縮し、クーママイシン(DMSO中50mg/ml保存溶液。1molクーママイシン/2mol GyrB)と混合する。生成するヒドロゲルを湿潤雰囲気下で24時間インキュベートする。
【0068】
[実施例13]さらなる架橋を含むPEGに基づくヒドロゲルの構築
PEG−カップリングしたGyrB溶液をスベルイミド酸ジメチル(DMS、GyrB1molあたりDMS3mol)と共に室温で30分間インキュベートし、その後クーママイシンを添加する以外は実施例12の記載と同様にしてヒドロゲルを構築する。得られたヒドロゲルは、緩衝液中で実施例12由来のヒドロゲルよりも高い安定性を示す。ブラッドフォード法を用いて膨潤緩衝液中に放出される蛋白を測定することにより定量すると、ノボビオシンの添加はヒドロゲルの溶解を誘発する。
【0069】
[実施例14]VEGFを組み込んだ、PEGに基づくヒドロゲル
GyrBにVEGF(実施例2に従って生成)を添加した後8腕PEG(モル比VEGF:GyrB=1:24)にカップリングさせる以外は実施例13の記載と同様にしてヒドロゲルを構築する。ELISAで定量したところ、ヒドロゲルへのノボビオシン添加は緩衝液中へのVEGFの用量依存的放出をもたらす。
【0070】
[実施例15]ポリアクリルアミドに共有結合させたFに基づくヒドロゲルの構築
実施例10の記載に従いF蛋白を生成し、50mg/mlに濃縮する。モル比F:PEG=2:1のスクシンミド官能化線状PEG(MW=5000g/mol)を用いて室温で30分間Fをペグ化する。続いてペグ化Fをアクリルオキシスクシンイミド(モル比:アクリルオキシスクシンイミド:F=2:1)にカップリングし、アクリルアミド(モル比:F:アクリルアミド=1:100)と混合し、APS(3.6μg/mg F)およびTEMED(0.02μl/mg F)を添加して室温で一夜重合する。得られたヒドロゲルをPBS中で平衡化する。重量分析および光学的分析により監視したところ、FK506の添加はヒドロゲルの膨潤をもたらす。
【0071】
[実施例16]ポリペプチド結合パートナーが小分子である場合の、ポリマー、第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーを含むヒドロゲルの構築
(FKBP結合分子の合成)(S)−ペンチルオキシ−5−(N’−[4−(2−フェノキシ−エチルアミン)]−ベンズアミジル)−N−[2−オキソ−2−(3,4,5−トリメトキシフェニル)アセチル]]プロリンを、Siegal G., Overhand M. et al., Chem Med Chem 2, 1054-1070, 2007の手順を以下のように適合させて合成する:
【0072】
(4−アセトキシ−N−[4−(ヒドロキシ)フェニル]ベンズアミド(1))p−アセトキシ安息香酸(1当量)の塩化チオニル(5当量)溶液に触媒量(数滴)のN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を加え、溶液を90分間加熱還流する。混合物を室温に冷却し、過剰の塩化チオニルを減圧下に除去して、淡黄色油状物の酸塩化物を得る。この酸塩化物をDMFに溶解し、DMF中のp−アミノフェノール(3当量)および触媒量の4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)の溶液に0℃で徐々に加える。撹拌を1時間継続し、その後溶液を、EtOAcと共に2Lの分液漏斗に移す。混合物を2M HClで3回、0.5M NaHCOで1回、そしてブラインで1回洗浄する。有機層をNaSOで乾燥し、減圧濃縮する。白色固体の化合物1が得られる。
【0073】
(4−アセトキシ−N−[4−(2−フェノキシ−(Boc−エチルアミン)]ベンズアミド(2))DMF中の化合物1およびKCO(2当量)の溶液にBoc−アミノエチルブロミド(1.25当量)を加える。反応混合物を120℃で一夜撹拌する。溶媒を減圧留去し、残留物をEtOAcに溶解し、1M KHSOおよびブラインで洗浄する。有機層をNaSOで乾燥し、減圧濃縮し、残留物をカラムクロマトグラフィーで精製する。
【0074】
(4−ヒドロキシ−N−[4−(2−フェノキシ−(Boc−エチルアミン)]ベンズアミド(3))NaOEt(1当量)を2(1当量)のエタノール溶液に室温で添加し、この溶液を、TLCがアセチル基の完全除去を示すまで(〜1時間)撹拌する。溶液を2M HClを添加して中和し、エタノールを減圧留去する。得られた懸濁液をEtOAcおよび水(4:1v/v)に溶解し、分液漏斗に移す。有機層を分離し、2M HClで1回、1M NaHCOで2回、そしてブラインで1回洗浄する。有機層をNaSOで乾燥し、減圧濃縮し、残留物をカラムクロマトグラフィーで精製すると化合物3が得られる。
【0075】
(4−(5−(ベンジルオキシ)ペンチルオキシ)−N−[4−(2−フェノキシ−(Boc−エチルアミン)]ベンズアミド(4))THF中の化合物3(1当量)、5−(ベンジルオキシ)ペンタン−1−オール(2当量)、およびPPh(2当量)の溶液に、アゾジカルボン酸ジエチル(2当量、トルエン中40%)を0℃で10分間かけて添加する。30分後に冷却浴を取り除き、溶液を室温で16時間攪拌する。溶媒を減圧濃縮し、残留物をカラムクロマトグラフィーで精製する。
【0076】
(4−(5−(ヒドロキシ)ペンチルオキシ)−N−[4−(2−フェノキシ−(Boc−エチルアミン)]ベンズアミド(5))化合物4をEtOAcおよびEtOH(1:1v/v)の混合液に溶解し、アルゴン気流を2分間通気することによりこの溶液を脱気する。次いでPd/C(活性炭上10wt%Pd)を加え、フラスコに二重マントル水素バルーンを取り付け、懸濁液を室温で16時間攪拌する。ハイフロで濾過することにより触媒を除去し、混合物を減圧濃縮すると、脱保護された化合物が高純度で得られる。
【0077】
((S)−tert−ブチル−N−(2−オキソ−2−(3,4,5−トリメトキシフェニル)アセチル)プロリン(6))ジクロロメタン中の、2−オキソ−2−(3,4,5−トリメトキシフェニル)酢酸(1.5当量)、EDC・HCl(1.5当量)、HOBt(2当量)、DIPEA(3mmol)および触媒量のDMAPの溶液に、L−プロリンtert−ブチルエステル(1当量)を0℃で加える。30分後、混合物を室温まで温め、撹拌を16時間継続する。混合物を減圧濃縮し、残留物をカラムクロマトグラフィーで精製して6を得る。
【0078】
(N−(2−オキソ−2−(3,4,5−トリメトキシフェニル)アセチル)プロリン(7))6のジクロロメタン溶液に室温でTFAを加える。この溶液を、TLCがtert−ブチル基の完全除去を示すまで(〜8時間)撹拌する。1M NaHCOを10分間かけて室温で徐々に加える。気体の発生が止んだ後、混合物をEtOAcと共に分液漏斗に移す。有機層を廃棄し、水層を2M HClで注意深く酸性化する。水層をEtOAcで2回抽出し、続いて有機層をNaSOで乾燥し、減圧濃縮する。カラムクロマトグラフィーにより7が得られる。
【0079】
((S)−ペンチルオキシ−5−(N’−[4−(2−フェノキシ−(Boc−エチルアミン)]ベンズアミジル)−N−[2−オキソ−2−(3,4,5−トリメトキシフェニル)アセチル)]プロリン(8))無水ジクロロメタン中の、酸7(1.2当量)、EDC・HCl(1.2当量)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt、1.5当量)、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、1.2当量)および触媒量のDMAPの溶液に、4−(5−(ヒドロキシ)ペンチルオキシ)−N−[4−(2−フェノキシ−(Boc−エチルアミン)]ベンズアミド 5(1当量)を0℃で加える。30分後、混合物を室温まで温め、撹拌を16時間継続する。混合物を減圧濃縮し、カラムクロマトグラフィーで精製すると化合物8が得られる。
【0080】
((S)−ペンチルオキシ−5−(N’−[4−(2−フェノキシ−エチルアミン)]ベンズアミジル)−N−[2−オキソ−2−(3,4,5−トリメトキシフェニル)アセチル)]プロリン(9))脱保護しようとする化合物8のジクロロメタン溶液に、TFA(10mmol)を室温で加え、溶液を2時間攪拌する(TLC調節)。1M NaHCOを10分間かけて室温で徐々に加える。気体の発生が止んだ後、混合物をEtOAcと共に分液漏斗に移す。有機層を1M NaHCOで1回抽出し、NaSOで乾燥する。有機層を減圧濃縮する。所望化合物9をカラムクロマトグラフィーにより精製する。
【0081】
(アミン反応性ポリマーの合成)レドックス開始剤としてAIBNを使用し、アクリルオキシスクシンイミドをTHF中のアクリルアミド(モル比1:4)で共重合させる。得られたポリマー(pAAm−スクシンイミド)を沈殿させ減圧乾燥する。
【0082】
(ポリマーへのアミノ含有FKBP結合分子のカップリング)化合物9をPBS(pH8.0)中のpAAM−スクシンイミド(化合物9:スクシンイミド=1.5:1、mol/mol)と混合し、室温で一夜反応させる。得られたポリマーを水に対して透析し(MWカットオフ:3500Da)、凍結乾燥する。
【0083】
(ヒドロゲルの構築)PBSに溶解したFK506アナログ官能化ポリアクリルアミドをヘキサヒスチジン標識したFKBPおよびポリ(AAm−co−Ni2+−NTA−AAm)と混合し、ゲル化を導く。ポリマーをPBS中で一夜膨潤させる。このヒドロゲルに漸増濃度のFK506を添加すると、ゲルの用量依存的溶解がもたらされる。
【図1(a)】

【図1(b)】

【図2(a)】

【図2(b)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー、第一ポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーを含むヒドロゲルであって、前記ポリペプチド結合パートナーが、第二ポリペプチド、核酸または小分子であり、前記第一ポリペプチドおよび/または前記ポリペプチド結合パートナーが前記ポリマーに共有結合し、または、強い特異的な非共有結合により前記ポリマーに結合し、そして、前記第一ポリペプチドおよび前記ポリペプチド結合パートナーの間の相互作用が、非共有結合性であり、前記ヒドロゲルを安定化し、そして、調節化合物の添加または除去により切断される、ヒドロゲル。
【請求項2】
前記第一ポリペプチドが前記ポリマーに結合し、前記ポリペプチド結合パートナーが目的化合物に結合している、請求項1に記載のヒドロゲル。
【請求項3】
前記第一ポリペプチドが目的化合物に結合し、前記ポリペプチド結合パートナーが前記ポリマーに結合している、請求項1に記載のヒドロゲル。
【請求項4】
前記ヒドロゲルに物理的に捕捉されまたは前記ポリマーに結合している目的化合物をさらに含む、請求項1に記載のヒドロゲル。
【請求項5】
前記目的化合物が薬物である、請求項2、3または4に記載のヒドロゲル。
【請求項6】
前記ポリマーが、ポリビニルに基づくポリマー、ポリペプチドおよびポリ炭水化物から選ばれる、請求項1〜5のいずれか1項に記載のヒドロゲル。
【請求項7】
前記ポリマーが、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、ポリ−ジメチル−ジアリル−アンモニウムクロリド、N−(2−ヒドロキシプロピル)−メタクリルアミド、フィブリン、コラーゲン、ポリ−L−リジン、アルギン酸塩、セルロース類、デキストランおよびデンプンから選ばれる、請求項6に記載のヒドロゲル。
【請求項8】
前記第一ポリペプチドおよび前記ポリペプチド結合パートナーが、GyrB−GyrB、FKBP−FRB、F−F、ToxT−ToxT、DHFR−DHFR、FKBP−FKBP、FKBP−Cyp、Cyp−Cyp、E−ETR、PIP−PIR、TetR−tetO、ArgR−argO、ArsR−arsO、HucR−hucO、GyrB−アミノクマリン抗生物質、FKBP−mTORインヒビター、FRB−mTORインヒビター、F−mTORインヒビター、Cyp−シクロスポリン、Cyp−アスコマイシン、DHFR−抗葉酸剤、ストレプトアビジン−ビオチンアナログ、アビジン−ビオチンアナログ、ニュートラアビジン−ビオチンアナログ、ステロイドホルモンレセプター−ステロイドホルモン、またはToxT−ヴィルスタチンである、請求項1〜8のいずれか1項に記載のヒドロゲル。
【請求項9】
前記第一ポリペプチドおよび前記ポリペプチド結合パートナーが、GyrB−GyrB、FKBP−FRB、F−F、ToxT−ToxT、DHFR−DHFR、FKBP−FKBP、FKBP−Cyp、Cyp−Cyp、E−ETR、PIP−PIR、TetR−tetO、ArgR−argO、ArsR−arsO、またはHucR−hucOである、請求項8に記載のヒドロゲル。
【請求項10】
前記第一ポリペプチドおよび前記ポリペプチド結合パートナーが、前記調節化合物の添加または除去により二量体化する傾向を有する1個のポリペプチドである、請求項8に記載のヒドロゲル。
【請求項11】
二量体化する傾向を有する前記ポリペプチドが、GyrB、F、ToxT、DHFR、FKBP、またはCypである、請求項10に記載のヒドロゲル。
【請求項12】
前記第一ポリペプチドおよび/または前記ポリペプチド結合パートナーが、溶解性に影響を及ぼすさらなるポリマーに共有結合している、請求項8に記載のヒドロゲル。
【請求項13】
前記第一ポリペプチドおよび/または前記ポリペプチド結合パートナーが、ホモ多量体または他のポリペプチドもしくはポリペプチド結合パートナーとのヘテロ二量体である、請求項8に記載のヒドロゲル。
【請求項14】
請求項1に記載のヒドロゲルを含む薬物デリバリー系であって、前記第一ポリペプチドまたは前記ポリペプチド結合パートナーのいずれかが前記ポリマーに結合し、そして前記対応するポリペプチド結合パートナーまたは前記第一ポリペプチドが各々薬物に結合しており、そしてさらに、前記第一ポリペプチドおよび前記ポリペプチド結合パートナーの間の相互作用を切断する化合物を含む薬物デリバリー系。
【請求項15】
請求項1に記載のヒドロゲルを含む薬物デリバリー系であって、前記第一ポリペプチドおよび/または前記ポリペプチド結合パートナーが前記ポリマーに結合し、そして、薬物が、前記ヒドロゲル構造に物理的に捕捉されるか、またはポリペプチドおよびポリペプチド結合パートナーの間の相互作用により安定化された前記ポリマーに結合しており、そしてさらに、前記第一ポリペプチドおよび前記ポリペプチド結合パートナーの間の前記相互作用を切断する化合物を含む、薬物デリバリー系。
【請求項16】
二量体化の傾向を有する前記ポリペプチドが、ポリエチレングリコールまたはポリアクリルアミドに共有結合したFである、請求項10に記載のヒドロゲル。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−521987(P2011−521987A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512030(P2011−512030)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【国際出願番号】PCT/EP2009/004050
【国際公開番号】WO2009/146929
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(508139000)
【氏名又は名称原語表記】ETH Zurich
【Fターム(参考)】