説明

前照灯制御システム

【課題】自車周囲の状況に応じて対向車や歩行者にグレアを与えないように配光パターンの自動切替を行うシステムを防眩柵が存在する道路で利用する場合でも、適切な配光パターンの切り替え制御が可能な前照灯制御システムを提供する。
【解決手段】前照灯制御システムは、自車206前方に照射する配光パターンを自車の周囲の状況に応じて少なくともハイビーム状態とそれ以外の状態に自動切り替えが可能な灯具ユニットと、少なくとも自車側方の画像を取得可能な撮影ユニット102と、取得した自車206の側方の画像から導出される防眩柵200の上端部200cが所定の閾値THを越えない場合、灯具ユニットの少なくともハイビーム状態での照射を回避する車両制御部を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前照灯制御システム、特に自車周囲の状況に応じて照射する配光パターンの自動切替が可能な配光可変型の前照灯制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光源からの光をシェードにより遮光することによりロービームを形成し、シェードにより遮光しない場合にハイビームを形成する配光可変タイプの車両用前照灯装置がある。また、自車の周囲に前走車や対向車、歩行者等が存在するか否かを検出して、前走車や対向車、歩行者等にグレアを与える可能性が低い場合にハイビームの点灯を自動的に行う前照灯制御装置がある。この前照灯制御装置は、前走車や対向車、歩行者等にグレアを与えないように配慮しつつ、ハイビームの利用頻度を高めることができる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−198385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような前照灯制御装置の場合、前走車や対向車、歩行者等の存在の有無を取得した画像等を用いて検出している。そして、それらが検出されない場合にはハイビームに自動的に切り替えることでグレアの抑制を実現しいている。ところで、道路によっては自車線の側方に防眩柵が設けられている場合がある。例えば、バイパス道路や高速道路には対向車線との間を壁や植え込み等で分離して自車線と対向車線でそれぞれ走行する車両同士で互いにグレアを与えにくくしている。この防眩柵の高さは道路によって異なる場合がある。また、植え込みを利用した防眩緑化柵の場合、植物の成長状態によって高さが異なることがある。前述したように配光パターンの自動切替制御を実行している場合、前走車や対向車、歩行者等が存在しないことに基づきハイビームを照射していたとする。この場合、防眩柵の高さが低い所では自車のハイビームの一部が防眩柵を越えて対向車線に照射されてしまうことがある。このとき、対向車線側の対向車や歩行者は防眩柵によって、その形状の一部が遮られている場合があり、スムーズな存在検出ができない場合がある。このような場合で自車において自動切替制御が実行されている場合、前照灯制御装置は前走車が存在しなければ、ハイビームを照射し続けることになり、ハイビームの一部が防眩柵を越えて存在するかもしれない対向車や歩行者にグレアを与えてしまうという可能性がある。同様に座席位置の高いトラック等も防眩柵によって検出がスムーズにできない場合があり、トラック等の運転者にグレアを与えてしまう場合がある。
【0005】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、自車周囲の状況に応じて対向車や歩行者にグレアを与えないように配光パターンの自動切替を行うシステムを防眩柵が存在する道路で利用する場合でも、適切な配光パターンの切り替え制御が可能な前照灯制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の前照灯制御システムは、自車前方に照射する配光パターンを自車の周囲の状況に応じて少なくともハイビーム状態とそれ以外の状態に自動切り替えが可能な灯具ユニットと、少なくとも自車側方の画像を取得可能な撮影ユニットと、取得した自車側方の前記画像から導出される壁面の上端部が所定閾値を越えない場合、前記灯具ユニットの少なくともハイビーム状態での照射を回避する制御部と、を備える。
【0007】
撮影ユニットは、車両に搭載されて他のシステムで利用されている例えばカメラユニットを利用することができる。例えば、前走車や対向車、歩行者等の存在の有無等の車両周囲の状況を撮影するカメラユニットの画角を自車側方の画像を取得可能な程度に広げて、自車側方の壁面画像の取得に利用してもよい。また自車側方の画像を優先的に撮影する専用の撮影ユニットを備えてもよい。撮影した自車側方の画像から自車側方の壁面の上端部の位置に関する情報が得られる。このとき、画像から導出される壁面の上端部と比較する所定閾値は、予め実験等により決定することができる。例えば、自車側方に壁面が存在し、自車からその壁面までの距離は、標準的走行時に自車側方の壁面から離間する距離、例えば2mとする。この状態で、自車がハイビームを照射したときに自車側方の壁面に当たる光の路面からの最高高さを画像から導出される壁面の上端部と比較する閾値とすることができる。なお、画像から検出する壁面高さの誤差や実際の壁面高さのバラツキを考慮して、閾値は路面からの光の最高高さより所定量高い位置で設定するようにしてもよい。この場合、壁面高さと閾値の差が僅かな場合、ハイビームが選択され難い安全側の制御が可能になる。また、撮影ユニットから壁面までの距離に応じて実際の壁面の高さの映り方が変わるので、距離に応じた閾値を複数準備してもよい。
【0008】
この態様によると、画像から導出される壁面の上端部が所定閾値を越えない場合、つまり、壁面の高さが所定閾値を越えていない場合であり、自車の照射する配光パターンの光は、壁面を越えて対向車線側に抜けて対向車や歩行者にグレアを与える可能性がある。この場合、灯具ユニットの少なくともハイビーム状態での照射を回避する。つまり、グレアを与えにくいハイビーム以外の配光パターンに自動的に切り替える。逆に、画像から導出される壁面の上端部が所定閾値を越えている場合、壁面は自車が照射する配光パターンで照らす高さより高いことになる。つまり、現在の配光パターンを照射し続けても対向車や歩行者にグレアを与えない。従って、制御部は自車の運転者の視界範囲拡大のためにハイビーム照射を許可する。その結果、自車の運転手に適切な視界を提供しつつ、グレア回避制御が容易にできる。
【0009】
前記撮影ユニットは、撮影中心領域を自車の斜め前方に向け、前記制御部は、前記撮影ユニットが取得した斜め前方の画像の歪み補正を行い壁面を自車の真横で取得したと見なせる側視画像を取得してもよい。撮影ユニットの撮影中心領域を自車の斜め前方に向けることにより、自車前方の壁面の高さに対応した配光パターンの切替制御ができる。この場合、撮影ユニットは、奥行き方向(前方方向)の画像を平面画像として撮影するので、取得した壁面画像は、前方に向かうほど歪みが大きくなる。つまり、遠方に行くほど壁面の高さが低くなっているように見える。この歪みは撮影ユニットによる画像取得角度と自車からの距離に基づいて補正可能であり、壁面を自車の真横で取得したと見なせる側視画像、つまり壁面高さが歪まずにほぼ現実の高さに対応する高さの画像、つまり壁面上端部がほぼ直線の画像を得ることができる。この場合、所定閾値との比較が容易になり、正確な壁面高さの検出および正確な配光パターンの切替制御ができる。
【0010】
前記撮影ユニットは、撮影中心領域を自車の車幅方向外向きに向けて壁面を自車の真横で撮影した側視画像を取得してもよい。この場合、撮影ユニットが取得する画像の歪みを実質的に排除できる。その結果、所定閾値との比較が容易になり、正確な壁面高さの検出および正確な配光パターンの切替制御ができる。なお、撮影中心領域を自車の車幅方向外向きに向ける場合、撮影中心領域を自車の斜め前方に向ける場合に比べ自車の遠前方の壁面画像を取得しにくくなる。そこで、取得した側視画像に基づいて、自車の遠前方の壁面高さを推定するようにしてもよい。
【0011】
前記灯具ユニットは、前記ハイビーム状態の配光パターンを車幅方向に複数に分割した縦割分割パターンで形成し、前記制御部は、前記灯具ユニットのハイビーム状態での照射を回避する場合、前記壁面を照らしている縦割分割パターンを選択的に消灯してもよい。縦割分割パターンは、例えば、光源からの光を遮蔽するシェードを車幅方向に分割し個別駆動させることで実現できる。また、専用のシェード、例えば自車線側をハイビームとし対向車線側をロービームとする片側ハイビーム用のシェードを用いることによっても実現できる。この態様によれば、自車の運転手に適切な視界を提供しつつ、グレア回避制御が容易にできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の前照灯制御システムによれば、自車周囲の状況に応じて対向車や歩行者にグレアを与えないように配光パターンの自動切替を行うシステムを防眩柵が存在する道路で利用する場合でも、適切な配光パターンの切り替え制御が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態の前照灯制御システムの構成概念図である。
【図2】本実施形態の前照灯制御システムにおける前照灯ユニットの内部構造を説明する概略断面図である。
【図3】防眩柵の高さと灯具ユニットから照射される配光パターンの光の当たり方との関係を説明する説明図である。
【図4】本実施形態の前照灯制御システムにおける撮影ユニットの撮影中心領域を自車の斜め前方に向けた場合の撮影範囲および壁面画像と閾値との関係を説明する説明図である。
【図5】本実施形態の前照灯制御システムの制御部が実行する制御を説明するフローチャートである。
【図6】本実施形態の前照灯制御システムが照射する配光パターンの形状を説明する説明図である。
【図7】本実施形態の前照灯制御システムにおける撮影ユニットの撮影中心領域を自車の車幅方向外向きに向けた場合の撮影範囲および壁面画像と閾値との関係を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を、図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は、本実施形態の前照灯制御システム100の構成概念図である。前照灯制御システム100は、撮影ユニット102と前照灯ユニット210を中心に構成されている。前照灯ユニット210は、車両の車幅方向の端部に左側の前照灯ユニット210Lと右側の前照灯ユニット210Rを1灯ずつ配置している。本実施形態の前照灯ユニット210L,210Rは、例えば1つの光源から照射されるビームの一部を遮ることによりロービーム用配光パターンを形成し、遮らないときにハイビーム用配光パターンを形成する、いわゆる配光可変式前照灯である。
【0016】
各前照灯ユニット210L,210Rに含まれる灯具ユニット10は、車幅方向と直交する車両前方に向く光軸を有する複数の配光パターンを形成する。各前照灯ユニット210L,210Rは、交通法規が左側通行である地域で利用するロービーム用配光パターンと、ハイビーム用配光パターンを含む。また、交通法規が右側通行である地域で利用する、いわゆる「ドーバーロービーム」と称される右通行ロービーム用配光パターン、ハイビーム用配光パターンの一部を遮光した片側ハイビーム用配光パターン等を形成できるものを含んでもよい。
【0017】
撮影ユニット102は、灯具ユニット10の光により照らされる車外状況を含む画像を撮影するCCDカメラで構成できる。撮影ユニット102は、例えばドアミラーの周辺など、車両前方領域および自車の側方領域を見渡せる位置に固定することが望ましい。また、画角をワイドにして車両前方領域および自車の側方領域を撮影範囲に含められる場合は、ルームミラーの裏側ブラケットやフロントガラスの内側、ダッシュボードの上などに配置してもよい。撮影ユニット102の撮影範囲は、自車前方の領域で、少なくとも自車が走行する自車線と対向車線および路側脇の壁面を含み、ハイビーム用配光パターンの照射領域を含む範囲とすることが望ましい。また、片側複数車線の場合は、自車線と少なくとも自車線の左右の車線を含み、ハイビーム用配光パターンの照射領域を含む範囲とすることが望ましい。撮影ユニット102で撮影された画像データは、検出ユニット104に提供される。検出ユニット104は、撮影ユニット102から提供される情報に基づいて画像データの処理を行い前走車や対向車等の前方車の検出、自車前方の歩行者等を取得する。前走車や対向車の検出、歩行者等の検出は、例えばパターンマッチングを用いた画像処理など周知の方法を用いて実行できる。また、前走車や対向車の検出は、テールランプや前照灯の光点を検出することでもできる。例えばテールランプの場合、赤色の2個の光点が同様な動きを示す。このような赤色の光点が確認できる場合、前走車が存在すると見なせる。また、ヘッドライトの場合は、白色または黄色の2個の光点が同様な動きを示す。このような白色または黄色の光点が確認できる場合、対向車が存在すると見なせる。
【0018】
本実施形態において、撮影ユニット102は、自車走行車線の側方に防眩柵等の壁面が存在する場合、この壁面も撮影できる。つまり、上述したような画角設定をすることにより防眩柵の存在を前走車や対向車、歩行者等の存在と同様に取得する。ここで、防眩柵は、対向車線と自車線とを壁で分離することにより、自車と対向車の相互に対するグレアを軽減しようとするもので、例えば、通常のガードレールより高さの高い板状のもの、中央分離壁、植物の植え込みによるものなどを含む。また、本実施形態において、検出ユニット104は、前走車や対向車、歩行者等の検出に加え防眩柵が存在する場合には、防眩柵の高さと所定閾値とを比較して防眩柵の高さ検出も実行する。なお、撮影ユニットは、防眩柵方向を専用に撮影するものでもよい。また、検出ユニット104は、撮影ユニット102に含まれてもよい。
【0019】
検出ユニット104は検出した自車の車外状況に関する情報を車両制御部302に提供し、当該車両制御部302はその情報に基づく指示を前照灯ユニット210L,210Rの照射制御部228L,228Rに提供する。そして、照射制御部228L,228Rでは自車の車外状況の検出状態に適した配光パターンの形成制御を実行する。
【0020】
図2は、本実施形態の前照灯ユニット210の内部構造を説明する概略断面図である。前照灯ユニット210は車両の車幅方向の左右に1灯ずつ配置される配光可変式前照灯であり、その構造は実質的に左右同等なので代表して車両右側に配置される前照灯ユニット210Rの構造を説明する。前照灯ユニット210Rは、ランプボディ212と透明カバー214を含む。ランプボディ212は、車両前方方向に開口部を有し、後方側にはバルブ14の交換時等に取り外す着脱カバー212aを有する。そして、ランプボディ212の前方の開口部には、透明カバー214が接続されて灯室216が形成される。灯室216には、光を車両前方方向に照射する灯具ユニット10が収納されている。灯具ユニット10の一部には、当該灯具ユニット10の揺動中心となるピボット機構218aを有するランプブラケット218が形成されている。ランプブラケット218はランプボディ212の壁面に回転自在に支持されたエイミング調整ネジ220と螺合している。したがって、灯具ユニット10はエイミング調整ネジ220の調整状態で定められた傾動可能な状態で灯室216内の所定位置に支持されることになる。
【0021】
また、灯具ユニット10の下面には、スイブルアクチュエータ222の回転軸222aが固定され灯具ユニット10が水平方向に回動可能とされている。
【0022】
スイブルアクチュエータ222は、ユニットブラケット224に固定されている。ユニットブラケット224には、ランプボディ212の外部に配置されたレベリングアクチュエータ226が接続され灯具ユニット10が鉛直方向に傾動可能とされている。
【0023】
灯室216の内壁面、例えば、灯具ユニット10の下方位置には、灯具ユニット10の点消灯制御や配光パターンの形成制御を実行する照射制御部228が配置されている。この照射制御部228は、スイブルアクチュエータ222、レベリングアクチュエータ226等の制御も実行する。
【0024】
灯具ユニット10は、可動シェードユニット12を含むシェード機構18、光源としてのバルブ14、リフレクタ16を内壁に支持する灯具ハウジング17、投影レンズ20で構成される。バルブ14は、例えば、白熱球やハロゲンランプ、放電球、LEDなどが使用可能である。本実施形態では、バルブ14をハロゲンランプで構成する例を示す。リフレクタ16はバルブ14から放射される光を反射する。そして、バルブ14からの光及びリフレクタ16で反射した光は、その一部がシェード機構18を構成する可動シェードユニット12を経て投影レンズ20へと導かれる。
【0025】
可動シェードユニット12は例えば車幅方向に延設される回転軸12aを中心に回動可能な回転シェードで構成できる。回転シェードは、例えば円筒形状の母材の表面にロービーム用のシェードや左側のみをハイビーム状態にする左片ハイ用のシェードや右側のみをハイビーム状態にする右片ハイ用のシェード、ハイビームを形成するためのハイビーム用の切欠部などを有する。そして、要求される配光パターンに応じたシェードまたは切欠部をバルブ14の光軸上に移動させる。移動したシェードは、バルブ14からの直接光やリフレクタ16からの反射光の一部を遮光してシェード形状に応じた配光パターンを形成する。また、切欠部が光軸上に移動した場合には、バルブ14からの直接光やリフレクタ16からの反射光を基本的には遮光しないハイビーム用の配光パターンを形成する。なお、配光パターンがロービームとハイビームのみの場合、シェードは光軸上に進出して光を遮光してロービームを形成し、光軸上から退避して非遮光としてハイビームを形成する板状シェードでもよい。この場合、板状シェードは、光軸と直交する鉛直方向に移動してもよいし、板状シェードの一端側を支持する回動軸を中心に回動するものでもよい。
【0026】
照射制御部228は、運転者が操作する前照灯スイッチの操作状態に応じて可動シェードユニット12を回動させて複数の配光パターンの中からいずれかを選択する。これを手動選択モードという。また、照射制御部228は、車両制御部302を介して取得される車外状況に応じて可動シェードユニット12を回動させて複数の配光パターンの中からいずれかを自動的に選択する。これを自動選択モードという。例えば、自車線の前方に前走車が存在し、かつ対向車線に対向車や歩行者が存在する場合、ロービームを形成するシェードを光軸上に移動させる。ロービーム用の配光パターンの形成により、自車線側の前走車、対向車線側の対向車や歩行者へのグレア付与を抑制できる。また、自車線の前方に前走車が存在せず、かつ対向車線に対向車や歩行者が存在しない場合、ハイビームを形成する切欠部を光軸上に移動させる。ハイビーム用の配光パターンの形成により、自車の運転者の視界範囲の拡大ができる。また、自車線の前方に前走車が存在し、かつ対向車線に対向車や歩行者が存在しない場合、対向車線側である右側のみがハイビーム状態となる右片ハイビームを形成するシェードを光軸上に移動させる。右片ハイビーム用の配光パターンの形成により、自車線側の前走車に対するグレアを抑制しつつ、自車の運転者の対向車線側の視界範囲の拡大ができる。同様に、自車線の前方に前走車が存在せず、かつ対向車線に対向車や歩行者が存在する場合、自車線側である左側のみがハイビーム状態となる左片ハイビームを形成するシェードを光軸上に移動させる。左片ハイビーム用の配光パターンの形成により、自車線側で自車の運転者の視界範囲の拡大を実現しつつ、対向車線側の対向車や歩行者へのグレアを抑制した前照灯の照射ができる。
【0027】
このような配光パターンの切り替えを手動選択モードで行う場合は、運転者の周囲状況の把握により実行され、自動選択モードの場合は、撮影ユニット102で取得された情報等に基づいて自動的に実行される。自動選択モードの利用により、運転者の判断ではハイビームや左右片ハイが使用されにくい状況でも、その利用が促進されハイビームの有効利用ができる。また、運転者の視界範囲を拡大し運転者の安心感の向上に寄与できる。なお、手動選択モードと自動選択モードの切り替えは、運転者の操作によって行ってもよいし、基本状態を例えば自動選択モードとして、運転者の操作により手動選択モードに移行させるようにしてもよい。また、その逆でもよい。
【0028】
ところで、前述したように防眩柵を備えた道路がある。図3(a)、図3(b)は、板状の防眩柵200(200a、200b)が自車線202と対向車線204と間に設置されている例である。そして、前照灯ユニット210を自動選択モードで使用していて、車外状況にしたがってハイビームが照射されていたとする。すなわち、自車206の前方に前走車が存在せず、また対向車や歩行者等の存在も検出できない場合である。この場合、自車206の運転者の視界拡大を重視してハイビーム配光パターンHiを照射するようになる。この場合、図3(a)に示すように、自車206の照射するハイビーム配光パターンHiの照射領域に対して十分な高さHの防眩柵200aが設けられている場合、自車206の照射するハイビームの光は、防眩柵200aにより遮光され、対向車線204へは照射されない。
【0029】
一方、図3(b)に示すように、自車206の照射するハイビーム配光パターンHiの照射領域に対して十分でない高さHの防眩柵200bが設けられている場合を考える。この場合、自車206の照射するハイビームの光の上部部分(編目部分:領域S)は、防眩柵200bを越えて対向車線204側へ照射されてしまう。この場合、自車206の撮影ユニット102は、仮に防眩柵200bの向こう側の対向車が存在していたとしても防眩柵200bにより対向車の外形の一部やヘッドランプが遮られる可能性があり、パターン認識や光点検出等では、その存在を検出できない場合がある。つまり、車両制御部302は、対向車が存在しないと判定してハイビーム配光パターンを照射し続ける。その結果、対向車の運転者や対向車線の歩行者にグレアを与えてしまう可能性がある。
【0030】
そこで、本実施形態の撮影ユニット102は、防眩柵200を撮影し、防眩柵200が自車206の照射するハイビームを対向車線204側に照射しない十分な高さを有するか否か判別する。そして、もし、防眩柵200の高さが自車206の照射している配光パターンを遮るのに十分な高さを有していない場合は、灯具ユニット10の少なくともハイビーム状態での照射を回避するように制御する。この場合、撮影ユニット102が取得した画像から導出される壁面の上端部と比較する所定の閾値TH、つまり、自車206の照射するハイビームを対向車線204側に照射しない十分の高さの基準値を定める必要がある。この所定の閾値THは、予め実験等により決定することができる。例えば、自車206の側方に防眩柵200と同等の壁面が存在し、自車206からその壁面までの距離は、標準的走行時に自車側方の壁面から離間する距離、例えば2mとする。この状態で、自車206がハイビームを照射したときに自車206の側方の壁面に当たる光の路面からの高さの最高値を撮影ユニット102の取得した画像から導出される壁面の上端部と比較する閾値THとすることができる。なお、画像から検出する壁面高さの誤差や実際の壁面高さのバラツキを考慮して閾値は路面からの光の最高高さより所定量高い位置で設定することが望ましい。この場合、防眩柵200の高さと閾値THの差が僅かな場合、ハイビームが選択され難い安全側の制御が可能になる。また、撮影ユニット102から防眩柵200までの距離に応じて実際の防眩柵200の高さの映り方が変わるので、距離に応じた閾値を複数準備してもよい。
【0031】
図4(a)〜図4(c)は、撮影ユニット102の撮影中心領域を例えば自車206の斜め前方に向けた場合の撮影範囲および壁面画像と閾値との関係を説明する説明図である。なお、図4(a)の場合、撮影ユニット102は、自車206の右ドアミラーの近傍に、斜め前方を向くように固定した例である。この場合、撮影ユニット102の撮影領域Pに含まれる防眩柵200の画像が得られる。
【0032】
図4(a)に示すように、撮影ユニット102により斜め前方の画像を撮影した場合、奥行き方向(前方方向)の画像を平面画像として撮影するので、図4(b)に示すように、防眩柵画像200Aが歪んで遠方位置Fの画像が近傍位置Rに比べて小さく撮影される歪み画像208aが得られる。つまり、取得した2次元の平面画像(歪み画像208a)では遠方に行くほど防眩柵200の高さが低くなっているように見える。そこで、本実施形態の検出ユニット104では、撮影ユニット102が取得した画像(図4(b))に対して歪み補正を行い、図4(c)に示すように、防眩柵200を自車206の真横で取得したと見なせる側視画像208bを取得する。この歪みは撮影ユニット102による画像取得角度と自車206からの距離に基づいて補正可能であり、防眩柵200を自車206の真横で撮影したと見なせる。つまり、側視画像208bでは防眩柵200の高さが歪まずにほぼ現実の高さに対応する高さとなる。つまり、防眩柵画像200Aの上端部がほぼ直線の画像を得ることができる。
【0033】
このように、撮影ユニット102が取得した歪み画像208aを図4(c)示すように補正した側視画像208bとすることで、予め定めた閾値THとの比較が容易になる。図4(c)は、側視画像208bに含まれる防眩柵画像200Aの上端部200cが閾値THを越えている場合を示している。この場合、防眩柵200の高さは、自車206の照射したハイビームが対向車線側に漏れることを防止するのに十分な高さを有することになる。つまり、自車206は、ハイビームのまま走行しても対向車線側の対向車や歩行者にグレアを与えることはない。一方、側視画像208bに含まれる防眩柵画像200Aの上端部200cが閾値THを越えていない場合、防眩柵200は、自車206の照射したハイビームが対向車線側に漏れることを防止するのに十分な高さを有さないことになる。つまり、自車206は、ハイビームのまま走行した場合、対向車線側の対向車や歩行者にグレアを与える可能性が生じる。この場合には、対向車や歩行者の存在が検出できない場合でも対向車線側にグレアを与えにくい配光パターンに切り替える。例えば、車両制御部302は、ハイビーム以外の配光パターンに切り替えるように灯具ユニット10を制御する。つまり、少なくともハイビーム状態での照射を回避するように制御する。
【0034】
図5は、車両制御部302における制御を説明するフローチャートである。なお、以下の説明では、撮影ユニット102は、前走車や対向車、歩行者等の検出のために取得する正面画像と防眩柵200の高さを検出する側方画像を別々に撮影しているものとして説明する。
【0035】
車両制御部302は、自車206のイグニッションがオンされると、このフローの処理を所定間隔で実行されるようにすることができる。この実行間隔は任意であるが、例えば1秒おきとすることができる。また、処理の実行間隔は、車速に応じて変化させてもよい。例えば、防眩柵200の高さが場所ごとに変化しているような道路の場合、低速で走行していれば、同じ高さの防眩柵200の側方を走行している時間が長くなる。逆に、高速で走行している場合、同じ高さの防眩柵200の側方を走行している時間が短くなる。そこで、60km/h以上で走行している場合は、0.2秒間隔で実行し、60km/h未満で走行している場合は、1秒間隔で実行するようにしてもよい。
【0036】
まず、車両制御部302は、前照灯ユニット210が点灯状態か確認する。消灯状態の場合(S100のN)、このフローを終了する。一方、前照灯ユニット210が点灯中の場合(S100のY)、現在の前照灯ユニット210の制御状態が自車206の周囲の状況に応じて配光パターンを自動的に切り替える自動切替制御中か否か確認する。前走車や対向車、歩行者等の存在の有無によって配光パターンを切り替えている自動切替制御中の場合(S102のY)、車両制御部302は、検出ユニット104を介して撮影ユニット102が取得した自車206の正面画像を更新する(S104)。また、側方画像を更新し(S106)、側方画像の歪み補正して側視画像208bを取得する(S108)。そして、車両制御部302は取得された側視画像208bと予め保持していた閾値THとの比較を行う(S110)。
【0037】
比較の結果、防眩柵200の高さが閾値THを越えていない場合(S112のN)、配光パターンとして図6(a)に示すようなハイビームを選択すると対向車線の対向車や歩行者にグレアを与える可能性があるので、車両制御部302は、少なくともハイビーム状態での照射を回避する。つまり、前走車や対向車、歩行者等の有無に拘わらず図6(b)に示すようなロービームなどの回避パターンの選択を実施して、灯具ユニット10の照射制御を実行する(S114)。
【0038】
一方、S112で防眩柵200の高さが閾値THより高い場合(S112のY)、対向車線側に対して自車206がハイビームを含むいずれの配光パターンを照射しても防眩柵200により遮られる。つまり、いずれの配光パターンが選択されても対向車線側の対向車や歩行者にグレアを与える可能性は低い。従って、車両制御部302は、自車206の周囲の状況、すなわち前走車の有無等に基づきハイビームを含む複数の配光パターンの中から最適な配光パターンを選択する通常パターン選択を実施して、灯具ユニット10の照射制御を実行する(S116)。なお、S102において、自動切替制御中でない場合(S102のN)、つまり、自車206の運転者の判断により配光パターンの切り替えを実行している場合は、S104からS116の処理をスキップして、このフローを終了する。
【0039】
図5のフローは前述したように所定間隔で繰り返し実行されるので、防眩柵200の高さの変化を含めた車両周囲の状況を考慮して、自車206の運転者および前走車や対向車、歩行者等にとって最適な配光パターンの選択をスムーズにできる。
【0040】
なお、上述の説明では、防眩柵200の高さが自車206の照射するハイビームの照射高さに対して十分な高さを有さない場合に、配光パターンをロービームに切り替えることにより防眩柵200の光の飛び越えを防止する例を示した。別の例では、車両制御部302は、図6(c)に示すように、ハイビーム状態の配光パターンを車幅方向に複数に分割して部分的に消灯した状態を形成できる縦割分割パターンを用いて防眩柵200の光の飛び越えを防止してもよい。つまり、自車線側をハイビームとし、対向車線側、つまり防眩柵200側をロービームとする片側ハイビームを形成して、防眩柵200を照らしているハイビームのうち、縦割分割パターンの一部を選択的に消灯してもよい。このような片側ハイビームの配光パターンは、例えば、ロービームを形成するときにバルブ14からの光の一部を遮光する板状シェードを車幅方向に複数に分割して、個別に遮蔽/非遮蔽を切り替えられる複数の縦分割シェードで構成することで形成できる。例えば、図6(c)の片側ハイビームを縦分割シェードで形成する場合、分割数は最低2個とすることができる。なお、分割数を増やせば、防眩柵200を越える部分のみを選択的に消灯することも可能であり、自車206の運転者の視界範囲を拡大することができる。また、図2に示すような可動シェードユニット12を用いる用いる場合、回転シェードの表面の一部に、片側ハイビーム用のシェードを形成すればよい。この場合、可動シェードユニット12を回転させるのみで本実施形態の回避制御が可能になり、上述した縦分割シェードを個別のアクチュエータで制御する場合より容易に制御できるメリットがある。また、複数の光源により配光パターンを形成する場合は、個々の光源の点消灯制御により片側ハイビームを形成してもよい。
【0041】
ところで、図4(a)で説明した例では、撮影ユニット102を斜め前方を向くように固定した例を示した。この場合、撮影ユニット102の撮影領域Pに含まれる防眩柵200の画像は、自車206より前方の画像となる。この場合、自車206の遠前方の防眩柵200の高さに対応した灯具ユニット10の配光パターンを迅速に選択できる。他の実施例においては、図7(a)に示すように、撮影ユニット102の撮影中心領域を自車206の車幅方向外向きに向けて防眩柵200を自車206の真横で撮影した側視画像208bを取得してもよい。この場合、図7(b)に示すように撮影ユニット102が取得する画像の歪みを実質的に排除できる。その結果、斜め前方の画像について行った歪み補正処理が不要になり所定の閾値THとの比較を容易かつ迅速に実施し、正確な防眩柵200の高さ検出および正確な配光パターンの切替制御ができる。なお、撮影中心領域を自車206の車幅方向外向きに向ける場合、撮影中心領域を自車の斜め前方に向ける場合に比べ自車206の遠前方の防眩柵200の画像を取得しにくくなる。そこで、取得した側視画像208bに基づいて、自車206の遠前方の防眩柵200の高さを推定するようにしてもよい。例えば、側視画像208bの画像に基づき防眩柵200の高さが低くなる傾向が検出できた場合は、自車206の遠前方においてさらに低くなることが推定できるので、予めハイビーム以外の配光パターンに切り替えるようにしてもよい。
【0042】
本実施形態では、撮影ユニット102が取得した画像を検出ユニット104を介して車両制御部302で解析して、その結果で照射制御部228を制御する例を説明したが、前照灯ユニット210側、車両側いずれで取得情報の解析を行ったり、それに基づく制御を行ってもよい。例えば、撮影ユニット102の取得した画像を直接照射制御部228で解析して灯具ユニット10を制御するようにしてもよく、本実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0043】
本発明は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能であり、同様な効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0044】
10 灯具ユニット、 100 前照灯制御システム、 102 撮影ユニット、 104 検出ユニット、200 防眩柵、200A 防眩柵画像、 202 自車線、 204 対向車線、 206 自車、208a 歪み画像、 208b 側視画像、 210 前照灯ユニット、 228 照射制御部、 302 車両制御部、TH 閾値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車前方に照射する配光パターンを自車の周囲の状況に応じて少なくともハイビーム状態とそれ以外の状態に自動切り替えが可能な灯具ユニットと、
少なくとも自車側方の画像を取得可能な撮影ユニットと、
取得した自車側方の前記画像から導出される壁面の上端部が所定閾値を越えない場合、前記灯具ユニットの少なくともハイビーム状態での照射を回避する制御部と、
を備えることを特徴とする前照灯制御システム。
【請求項2】
前記撮影ユニットは、撮影中心領域を自車の斜め前方に向け、
前記制御部は、前記撮影ユニットが取得した斜め前方の画像の歪み補正を行い自車の真横で壁面を撮影した見なせる側視画像を取得することを特徴とする請求項1記載の前照灯制御システム。
【請求項3】
前記撮影ユニットは、撮影中心領域を自車の車幅方向外向きに向けて自車の真横で壁面を撮影した側視画像を取得することを特徴とする請求項1記載の前照灯制御システム。
【請求項4】
前記灯具ユニットは、前記ハイビーム状態の配光パターンを車幅方向に複数に分割した縦割分割パターンで形成し、
前記制御部は、前記灯具ユニットのハイビーム状態での照射を回避する場合、前記壁面を照らしている縦割分割パターンを選択的に消灯することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の前照灯制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−148372(P2011−148372A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10365(P2010−10365)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】