説明

前田モデルII

【課題】昭和56年以前の旧耐震基準に基づき壁構造又は壁式構造形式で設計された学校・病院・共同住宅等の耐震補強工事に最適な工法を提供する。
【解決手段】建物の窓開口部を残して壁全面を繊維シートで巻きつけて覆い、建物の外観を変えることなく行う後付居ながらの耐震補強を行う。仕上は、耐火、熱反射、断熱などの性能を持つトップコートで皮膜する。本考案が外装塗装工事と同程度の施工内容のうえ、ゴンドラ施工とすることができ、更に、工事中の騒音や振動、更に閉塞感による不快感など、耐震補強工事を行う建築物を利用する生活者の立場に立った問題点を徹底的に排除した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
後付居ながら耐震補強技術
【背景技術】
【0002】
既存壁式鉄筋コンクリート造などの建築物における窓開口部欠損部分を担保する繊維シート巻きつけ耐震補強工法。(従来工法)
炭素繊維シート、ビニロン繊維メッシュシートやポリエステル繊維ベルトシート等の繊維シートによる耐震補強工法。(従来工法)
外壁に耐火断熱材を用いる断熱工法。(従来工法)
巻きつけた繊維シートを固定する工法は、エポキシ系樹脂、ポリウレタン樹脂又はモルタルを使用し、仕上げは、耐火性能を持つ熱反射性塗料又は断熱塗料を塗布し、耐震と同時に断熱工事を施工する工法。(従来工法から推察可能な範囲)
繊維シートまきつけ補強の設計数値は、厚み、量、寸法など耐震補強に充分な係数から算出し、決定する。(従来工法)
耐火断熱材、熱反射性塗料又は断熱塗料の設計数値は、窓開口部熱損失係数及びエコ建築基準値から算出し、決定する。(従来工法)
屋上に太陽電池パネルの設置。(従来工法)
屋上緑化。(従来工法)
中高層外壁清掃工法に採用されているゴンドラ仮設の転用。(従来工法から推察可能な範囲)
【発明の開示】

【発明が解消しようとする課題】
[意匠に係る課題]従来の後付耐震補強工法は、補強のためにブレースを多く採用してきたが、学校・病院・共同住宅等が使用される目的や環境を勘案するとバッテン型のブレース形状は、意匠上課題が残り、採用についての逡巡がある。
[工事中の建物利用に係る課題]従来の後付耐震補強工事は、建物が使用される目的や環境を勘案すると工事中の騒音や振動、更に安全対策上の閉塞感などから工事中の建物利用が難しく、建物の使用を一時止めた後、工事を着工するような対策が採られている。学校など長期の休暇を利用して工事計画の立案が可能な場合を除き、一時的に使用を止めるわけにいかない病院や共同住宅については多義の合意形成など着工までの時間が非常にかかるため、着工できずにおり、安全上の問題をかかえながら継続利用をしているのが現状である。
[公共施設の資産価値に係る今日的な課題]耐震強度に問題をもつ公共施設のうち、財政的な理由ではなく償却年数の設定から、公共の資産確定がなされているために取り壊して建直すことができない場合があり、耐震補強工事を施し、継続的に利用する必要性がある。耐震補強工事の着工が遅れている現状に対して、利用者の生命を守るために、多少の問題も合意、解決し、賛同できる何らかの状況をつくることによる早急な着工が強く望まれている。
【課題を解決するための手段】
[既存建物の外観が変わらない]意匠に係る課題を解決する為、建物の窓開口部を残して壁全面を繊維シートで巻きつけて覆い、本来の建物の外観を変えることなく行う後付居ながら耐震補強工法。炭素繊維シート他耐アルカリ性ビニロン繊維メッシュシートやポリエステル繊維ベルトシート等による耐震補強工法は、既に確定された工法であるが、従来の施工は、柱一本、一壁面を耐震補強する考え方であり、本考案は既存建物一棟全体を覆うことで耐震補強強度を保持し、既存建物の外観が変わらないように考察された工法。
[建物内部には係らない外壁工事]従来の繊維シートを巻きつけて覆う耐震補強工事は、柱一本、一壁面を耐震補強する考え方のため、建屋の内側にも係る場合が発生し、戸別に室内施工の了解を得る必要があった。学校や病院においては、移動などして利用者のいない室内状況を作る必要性があり、共同住宅においては、不賛同者がでれば施工できない可能性も発生し、騒音や振動のない、居ながら施工ながら普及できないできた。本考案は、外壁面のみを施工する外装工事として考案されているため、施工中の利用者や生活者との関係を軽減した工法である。
[CO削減のエコ建築]繊維シートにて補強した後、仕上は、耐火性能及び熱反射、断熱などの性能を持つエコ建築に適切なトップコートで皮膜するする工法。建物全体を繊維シートで覆うため既存躯体のコンクリートの劣化を保全にも寄与する。
なお利用可能な場合、屋上防水施工の耐用年数など勘案して屋上に太陽電池パネルの設置や屋上緑化もメニューに入れてエコ化を図る。
[ゴンドラ施工の外壁工事]本考案は、外壁面全体の外装工事として考案されており、外装塗装工事と同程度の施工内容のうえ、塗装工事で発生するケレン等の粉塵やガン噴き塗料の飛散などの環境汚染の心配がないので、更に工事中の閉塞性を回避するため単管足場を利用せず、ゴンドラ施工とし、居ながら施工の生活者への配慮を高める。
【発明の効果】
[生活者が共感する今日的課題の解決]工事中の騒音や振動、更に閉塞感による不快感など、耐震補強工事を行う建築物を利用する生活者の立場に立った問題点を徹底的に排除し、CO削減の社会的目標達成に寄与できるテーマ性を付与することで、建築物利用者に共感を求め、耐震補強工事の早期着工の可能性を高め、建築物所有者には、既存建物の資産価値を高める効果を有する。
[公共建築物が共通して持つ今日的課題の解決]公共建築物は、計画時期の社会情勢を基に建設されており、社会情勢の変化に対応して改修しながら耐用年数を全うする課題を有している。昭和56年5月以前、旧耐震基準に基づいて設計された壁式鉄筋コンクリート造の学校や共同住宅などの公共建築物における耐震強度は、窓開口部欠損部分が建物全体の南北側で著しくバランスを欠いていながら、学校や共同住宅などの部屋割りの壁が規則的に配置されており、それが補強材となって安全上の余力があったと、阪神淡路地震における建物の被害状況から診断されている。
文部科学省「公立学校施設の耐震改修状況調査結果」によると、平成20年4月1日現在、小中学校の総棟数127,164棟中、旧耐震基準に基づいて建築された78,319棟のうち、耐震性のある建物、又は補強済の棟数は全国に30,370棟あり、残りの47,949棟は、耐震補強もしくは、統廃合、改築などの方策が必要となっている。新築の小中学校は、子供の数から学級数の増減に追従可能な、オープン教室など変化に即したクラス編成や子供にとって最良な環境を自由に構成できる新たな思想を盛り込んだ建築設計となってきた。耐震補強工事が必要な50,000棟弱の小中学校は、耐震補強工事において、部屋割りの壁を補強材と考えなくとも充分な強度をとり、少子化などを勘案した、棟内の部屋割りが変更可能で最良な学習環境を自由に選択できる方針で望み、建物の資産価値を高め、将来にわたって子供たちに等しく教育の機会を与えることを可能とする。そのためにも、居ながら施工の水準を高めることで、夏休みなど季間限定の耐震補強工事から脱し、早急に子供達の安全を守るための耐震強工事を常時着工することが可能となる。
共同住宅に関しては、(独)都市再生機構が平成18年4月25日に開示した情報によると、旧耐震基準に基づいて建築された13,000棟のうち、Is>0.3の優先▲1▼100棟、優先▲2▼50棟、0.3≦Is<0.6の優先▲3▼2,000棟、0.6≦Isの改修不要10,600棟と耐震補強計画が立案されている。また、同耐震診断において開示された情報に壁式構造が約9,900棟あり、これらが改修不要10,600棟に含まれている場合、部屋割りの壁が規則的に配置されており、それが補強材となって安全上の余力があったと、阪神淡路地震における建物の被害状況から診断された結果からと考察する。
旧住宅公団の住宅は、昭和40年代に一番多く建設されており、まだ10年以上耐用年数を有しているため、改修継続利用となっている棟数が多い。建設地の立地条件も悪くないが、利用状況について言えば、新たな若い家族の住居者が増えず、従来からの居住者の高齢化に伴い団地全体の高齢化現象に歯止めがかからない状況となっている。
壁式鉄筋コンクリート造の中層共同住宅は、戸別の占有面積が平均45mであり、今日の平均占有面積70mと比較して狭く、新たな若い家族のニーズに対応するリニューアルが急務となっている。しかし、隣接した壁を貫いて二戸一のリニューアル案を試みる場合、既存建物の耐震強度との関係から着工出来ない場合が想定される。旧公団住宅の賃貸住宅が団地内の緑化面積など生活環境の優良性とは裏腹に住空間のゆとりがないため、資産価値を低めているならば、耐震補強工事を行ない、資産価値を高めるリニューアルに着手すべきと考える。生活者の生命や生活の安全を守る公共事業において、生活者の生命や生活の安全を守るための耐震補強工事が、将来にわたって公共施設の資産価値を高めることになる。他の公共住宅については、市町村の公営住宅、各県の県営住宅、住宅公社とも情報が(独)都市再生機構ほど開示されていないが、同様の問題をかかえていると想像できる。
このように考えると、現在の課題である耐震補強工事は、継続可能な社会を構築しようとする21世紀の日本の課題を具現化するチャンスといえる。
[耐震改修工事の早期推進]本考案の骨子は全て従来工法に立脚した後付居ながら耐震補強技術であり、其々の専門分野でストックされた技術を複合的に選択して課題を解消する新たな工法として「前田モデルII」と称し完成した。尚、耐震設計上の強度は、構造形式を壁構造又は壁式構造のみならずラーメン構造を構成する柱と梁の後付補強量として数値化が可能であり、繊維シートを巻きつけて覆う耐震補強工法の−部として「前田モデルII」を展開することが出来る。
このような新たな工法は、情報の開示と更なる専門分野でストックされた技術を複合的に組み合わす技術革新として、生活者の安全を確保する耐震改修工事の早期化に大きな推進力となる。
【発明を実施するための最良の形態】
[壁構造又は壁式構造の建物の相対する壁量バランスを補正する形態]窓などの開口により建物全体の壁量バランスの歪を、繊維シートを巻きつけて覆うことで補正し、バランスを回復させて耐震性能を向上させる。更にCO削減のエコ建築への改修を同時施工し、断熱性能を高めることが可能。
【実施例】
なし
【産業上の利用可能性】
[耐震補強設計]耐震設計の計算上必要な設計強度の繊維シートを巻きつける壁面を図面化し、耐震補強に必要な繊維シート付着量を確保する設計図書の完成後、現況の仕組みで実行可能な工事発注図となる。構造形式を壁構造又は壁式構造のみならずラーメン構造を構成する柱と梁の後付補強量として数値化が可能であり、後付居ながら耐震補強システムとして前田モデルIIを展開することが出来る。
[繊維シート製品]炭素繊維シート他耐アルカリ性ビニロン繊維メッシュシートやポリエステル繊維ベルトシート等は、繊維会社が普遍的に製作しており、一般的に供給可能な商品である。
[繊維シートの固定]炭素繊維シート他耐アルカリ性ビニロン繊維メッシュシートやポリエステル繊維ベルトシート等の固定材は、繊維会社がシートとの相性を確定したエポキシ系樹脂、ポリウレタン樹脂又はセメントメーカーや化学薬品会社がモルタル系接着剤を普遍的に製作しており、一般的に供給可能な商品である。
[仕上材]仕上は、耐火性能を持つエコ建築に適切なトップコートで、熱反射性塗料又は断熱塗料を塗装メーカーが一般的に供給可能な商品として製造販売している。
[屋上利用]屋上防水施工の耐用年数など勘案して屋上に太陽電池パネルの設置や屋上緑化も既存技術にて施工する。
[耐震補強工事業者]本発明による工事は、既存建物利用者の利用目的を阻害することなく工事中も利用可能な耐震補強工事を安全に短期間に完工する目的が遂行できる管理技術をもつ工事業者であれば普遍的に施工が可能であり、現況の工事発注の仕組みで実行可能な工法である。
【図面の簡単な説明】
【図1】[壁構造又は壁式構造の後付居ながら耐震補強設計概念図 立面 断面]
【符号の説明】
なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存壁式鉄筋コンクリート造などの建築物における棟一体型後付居ながら耐震補強工法
【請求項2】
既存壁式鉄筋コンクリート造などの建築物におけるエコ対策型後付居ながら工法
【請求項3】
外装工事におけるゴンドラ仮設による快適後付居ながら耐震補強工法
【請求項4】
ラーメン構造への展開

【図1】
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【公開番号】特開2010−53676(P2010−53676A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244902(P2008−244902)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(508263523)株式会社エコイーゼル (5)
【Fターム(参考)】