説明

前眼部断面画像解析システム及び前眼部断面画像撮影装置

【課題】複数の種類の幾何学的な情報を容易に取得可能な前眼部断面画像解析システム及び前眼部断面画像撮影装置を提供する。
【解決手段】前眼部断面画像内の特徴的な部位への解析基準点の設定ならびに解析参照点と解析基準点の距離設定を順不同で行なう第1のステップと、前記解析基準点から前記設定された距離に位置する組織の境界に解析参照点を複数設定する第2のステップと、前記複数の解析参照点のそれぞれに前記解析基準点からの距離ならびに該解析参照点が設定された組織の境界の情報を解析参照点識別情報として関連付ける第3のステップと、前記解析参照点識別情報及び前記複数の解析参照点の位置関係に基づいて隅角近傍に存在する組織に係わる複数の幾何学的な情報を算出する第4のステップと、算出された前記幾何学的な情報を前記表示手段に表示する第5のステップ、により構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前眼部の隅角近傍の断面を撮影した画像を解析し、特に虹彩の位置あるいは形状に係わる情報を取得可能な前眼部断面画像解析システム及び前眼部断面画像撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科分野において、被検眼の前眼部を撮影した画像による緑内障の診察が行われている。図1は前眼部に存在している代表的な組織である角膜11、胸膜12、虹彩13、毛様態14、水晶体15の位置関係を示したものである。緑内障の診断では、図中の長方形にて囲まれた領域Aに存在する組織の位置関係に注目して評価を行ない、治療方針の検討に利用している。
【0003】
図2は図1の領域Aを抽出した図で、角膜11と虹彩13に挟まれたBとして示される領域が隅角と呼ばれる領域である。眼球内では、点線fに示す房水循環と呼ばれる新陳代謝が行なわれており、毛様体14から産出された房水は虹彩13の後面を経由して隅角Bに至り、強膜岬(図中SS)とシュワルベ線(図中SL)と呼ばれる特徴的な領域(どちらも断面画像においては点状となる)に挟まれた線維柱帯(図中TM)と呼ばれる領域から排出される。従って、隅角Bの隙間が狭いと房水の線維柱帯からの排出量が少なくなり、毛様体14から産出された房水は眼球内に次第に蓄積され、眼球内の圧力を増大させる。この眼球内の圧力(以後眼圧と記載)と緑内障の発症には因果関係が認められており、特に隅角の隙間が狭いことに起因する緑内障は閉塞隅角緑内障として分類される。
【0004】
閉塞隅角緑内障は、その発生メカニズムにより非特許文献1に示される分類がなされており、治療方法の検討において参考とされる。非特許文献2には、隅角近傍の形状評価を行なうために定義されたパラメータが提唱され、該パラメータの一部の角度あるいは距離を求める解析機能を有する前眼部断面撮影装置も提供されている。
【0005】
近年の閉塞隅角緑内障の診断においては、非特許文献3、非特許文献4、あるいは非特許文献5に示されるように、隅角近傍の角度等の単純な評価ではなく、角膜11の後面と虹彩13等の隅角近傍に存在している組織の位置あるいは形状等を複合させて評価を行なうことが提唱されている。
【0006】
【非特許文献1】日本緑内障学会,「緑内障診断ガイドライン(第2版)」,日眼会誌,2006年,110巻,10号,777-814頁
【非特許文献2】Charls J Pavlin 他,”UltrasoundBiomicroscopy of Anterior Segment Structures in Normal and Glaucomatous Eyes”,AmericanJournal of Ophthalmology,1992年,113:381-389頁
【非特許文献3】平澤裕代 他,「プラトー虹彩」,新しい眼科,2006年,Vol.23,No.8,997-1001頁
【非特許文献4】酒井寛 他,「閉塞隅角緑内障の病態:(1)原発閉塞隅角の解剖学的背景」,新しい眼科,2005年,Vol.22,No.9,1169-1173頁
【非特許文献5】栗本康夫,「原発閉塞隅角緑内障の新しい展開」,臨床眼科,2007年,Vol.61,No.2,128-135頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献2において提唱されているパラメータの多くは別のパラメータの取得後に新たな条件を設定して取得されるものであるため、求めるパラメータが取得されるまでに複雑な手順を要することが多い。また、前述のパラメータに係わる解析機能を有する装置は複数存在しているが、上述の事情から内部処理の複雑化を回避するため、角膜の後面と虹彩の前面の特定領域における距離あるいは角度のみを個別に解析する機能しか有していない。
【0008】
従って、前述の非特許文献3、非特許文献4あるいは非特許文献5に提唱されている複合的な評価を行なう場合、従来技術を利用して取得された情報のみでは行なえないため、診察医が自ら設定した条件下で情報を取得する必要があり、人為的な誤差を含まない定量的な評価を行なうことが困難であった。
【0009】
本発明は上述した事情を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、従来装置において個別にしか実施されていなかった隅角近傍に存在する角膜の後面とその他の組織の位置あるいは形状に関わる幾何学的な情報を、前眼部の隅角領域の特定部位を基準とする予め定められた距離に設定される解析参照点及び解析参照点のそれぞれに関連付けられた識別情報を利用することにより、複数の種類の幾何学的な情報を容易に取得可能な前眼部断面画像解析システム及び前眼部断面画像撮影装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、前述の如き課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0011】
すなわち、本発明の第一の態様は、前眼部断面画像を取得する前眼部断面画像取得手段と、解析を行なうために必要な情報を入力する入力手段と、取得された前記前眼部断面画像に係わる画像情報及び前記入力手段により入力された入力情報を記憶する記憶手段と、前記画像情報及び前記入力情報を表示する表示手段と、前記画像情報及び前記入力情報に基づいて画像解析処理を行なう演算手段を有する前眼部断面画像解析システムにおいて、前記解析処理は、解析において参照される解析参照点の設定の基本情報となる、前記前眼部断面画像内の特徴的な部位への解析基準点の設定ならびに解析参照点と解析基準点の距離設定を順不同で行なう第1のステップと、前記解析基準点から前記設定された距離に位置する組織の境界に解析参照点を複数設定する第2のステップと、前記複数の解析参照点のそれぞれに前記解析基準点からの距離ならびに該解析参照点が設定された組織の境界の情報を解析参照点識別情報として関連付ける第3のステップと、前記解析参照点識別情報及び前記複数の解析参照点の位置関係に基づいて隅角近傍に存在する組織に係わる複数の幾何学的な情報を算出する第4のステップと、算出された前記幾何学的な情報を前記表示手段に表示する第5のステップ、により構成されていることを特徴とする。
【0012】
上述のように構成された本発明に係る前眼部断面画像解析システムによれば、設定された解析参照点のそれぞれに識別情報が付与されるため、該識別情報を利用して取得可能な幾何学的な情報の種類を判別する処理を行なうことにより、取得する幾何学的な情報の種類の指定に先立ち解析参照点の設定が可能となる。また、前述の取得可能な幾何学的な情報の種類を判別する処理において取得可能と判断された幾何学的な情報が複数の種類存在する場合には、連続的に幾何学的な情報を算出するようにすることにより、効率的な解析が可能となる。さらに、幾何学的な情報の種類毎にそれぞれ異なる解析参照点の設定位置の一部を兼用するように解析参照点を設定することにより、異なる種類の幾何学的な情報が関連付けられたものとなる。
【0013】
また、本発明の第二の態様は、前記第一の態様に係る前眼部断面画像解析システムにおいて、前記複数の幾何学的な情報の1つは、前記解析参照点識別情報である前記解析基準点からの距離が同一である複数の組織の境界に設定された前記解析参照点に基づいて求められる前記解析基準点を頂点とする角度であることを特徴とする。
【0014】
上述のように構成された本発明に係る前眼部断面画像解析システムによれば、複数の組織の位置関係を前記解析基準点から同一距離における角度として取得でき、特に従来の解析では実施されていなかった組織の境界の位置関係について評価が可能となる。具体的には、角膜11の後面を基準とする虹彩13の前面の位置関係の評価のために従来から取得されている隅角角度だけではなく、解析基準点の近傍領域における虹彩13の後面あるいは毛様体14の概略的な位置関係を同時に取得可能となる。
【0015】
また、本発明の第三の態様は、前記第一の態様に係る前眼部断面画像解析システムにおいて、前記複数の幾何学的な情報の1つは、前記解析参照点識別情報である組織の境界の情報が同一である前記解析基準点から少なくとも3つ以上の距離に設定された前記解析参照点に基づいて求められる前記組織の境界の近似曲率であることを特徴とする。
【0016】
上述のように構成された本発明に係る前眼部断面画像解析システムによれば、組織の境界の近似的な曲率を取得でき、従来実施されていなかった形状評価が可能となる。具体的には、虹彩13の前面あるいは後面の形状を曲率として取得可能となるため、近年の緑内障研究において注目されている虹彩形状の評価が容易に行なうことが可能となる。
【0017】
また、本発明の第四の態様は、前記第一の態様に係る前眼部断面画像解析システムにおいて、前記複数の幾何学的な情報の1つは、前記解析参照点識別情報である前記解析基準点から少なくとも3つ以上の距離に存在する複数の組織の境界に設定された前記解析参照点に基づいて求められる前記解析基準点からの距離毎の前記解析参照点間の距離であることを特徴とする。
【0018】
上述のように構成された本発明に係る前眼部断面画像解析システムによれば、前記解析基準点からの距離に応じた複数の組織の境界間距離を取得でき、該境界間距離推移に基づいた評価が可能となる。具体的には、角膜11の後面と虹彩13の前面の位置関係、言い換えれば隅角領域の隙間の変移に係わる評価を行なうことが可能である。
【0019】
また、本発明の第五の態様は、前眼部断面画像を撮影する前眼部断面画像撮影手段と、解析を行なうために必要な情報を入力する入力手段と、撮影された前記前眼部断面画像に係わる画像情報及び前記入力手段により入力された入力情報を記憶する記憶手段と、前記画像情報及び前記入力情報を表示する表示手段と、前記画像情報及び前記入力情報に基づいて画像解析処理を行なう演算手段を有する前眼部断面画像撮影装置において、前記解析処理は、解析において参照される解析参照点の設定の基本情報となる、前記前眼部断面画像内の特徴的な部位への解析基準点の設定ならびに解析参照点と解析基準点の距離設定を順不同で行なう第1のステップと、前記解析基準点から前記設定された距離に位置する組織の境界に解析参照点を複数設定する第2のステップと、前記複数の解析参照点のそれぞれに前記解析基準点からの距離ならびに該解析参照点が設定された組織の境界の情報を解析参照点識別情報として関連付ける第3のステップと、前記解析参照点識別情報及び前記複数の解析参照点の位置関係に基づいて隅角近傍に存在する組織に係わる複数の幾何学的な情報を算出する第4のステップと、算出された前記幾何学的な情報を前記表示手段に表示する第5のステップ、により構成されていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の第六の態様は、前記第五の態様に係る前眼部断面画像撮影装置において、前記複数の幾何学的な情報の1つは、前記解析参照点識別情報である前記解析基準点からの距離が同一である複数の組織の境界に設定された前記解析参照点に基づいて求められる前記解析基準点を頂点とする角度であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の第七の態様は、前記第五の態様に係る前眼部断面画像撮影装置において、前記複数の幾何学的な情報の1つは、前記解析参照点識別情報である組織の境界の情報が同一である前記解析基準点から少なくとも3つ以上の距離に設定された前記解析参照点に基づいて求められる前記組織の境界の近似曲率であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の第八の態様は、前記第五の態様に係る前眼部断面画像撮影装置において、前記複数の幾何学的な情報の1つは、前記解析参照点識別情報である前記解析基準点から少なくとも3つ以上の距離に存在する複数の組織の境界に設定された前記解析参照点に基づいて求められる前記解析基準点からの距離毎の前記解析参照点間の距離であることを特徴とする。
【0023】
上述のように構成された本発明に係る前眼部断面画像撮影装置によれば、前述の本発明の第一乃至第四の態様に係わる前眼部断面画像解析システムにおける前眼部断面画像取得が前眼部断面画像撮影手段により直接成されるため、撮影画像に対して即時に解析処理を行なうことが可能であるとともに、撮影時の条件に関する情報も同時に取得されるため、解析に影響する撮影倍率等に係わる補正情報の入力が省略可能となる。
【発明の効果】
【0024】
上述のように構成された本発明に係る前眼部断面画像撮影システム及び前眼部断面画像撮影装置は、従来解析の種類毎に異なる条件にて設定されていた解析参照点を、臨床学的に特徴的な部位に設定される解析基準点に対する距離に基づいて設定することにより、同一の手順で行なうことを可能とするとともに、従来個別に評価されていた解析内容を関連付けられたものとして取扱うことが可能となる。さらに、解析参照点に解析基準点からの距離ならびに設定された組織の境界に関する情報を関連付けることによって、設定されている解析参照点によって可能な解析の種類を特定できるため、解析参照点を変更あるいは追加した場合でも、設定されていなかった新たな種類の情報の取得を速やかに行なうことが可能となり、解析時間の短縮も図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0026】
図3は、本発明における前眼部断面画像解析システムの解析処理のフローチャートを示したものである。それぞれの段階で行なわれる処理内容は以降の実施例の説明と重複するためここでは省略する。
【0027】
図4は本発明の第1の実施形態である前眼部断面画像解析システムを示したものである。前眼部断面画像解析システム100は解析を行なう解析装置101、画像を取得するための画像読込装置105、解析に必要な情報等を入力するキーボード106a及びマウス106b、断面画像や解析結果等を表示するディスプレイ107、プリンタ108等により構成されている。解析装置101は、装置全体の制御を行なう制御回路102、解析処理等を行なう演算回路103、解析用プログラムや画像データ、演算結果等を記憶する記憶装置104を含んでいる。解析装置101は市販のパーソナルコンピュータを利用することができる。また、その他の構成品についても市販のものが利用できる。前眼部断面画像撮影装置120により撮影された画像は、外部記憶媒体等により提供され、画像読取装置102から取得される。また、前眼部断面画像撮影装置120が通信機能を備えている場合、画像読込装置102を使用せず図示しない通信ケーブル等を介して直接解析装置101に読込むことも可能である。
【0028】
次に、解析装置101において実行される処理について、図5のフローチャートに基づいて説明する。
まず、S1011において、キーボード106aあるいはマウス106bを操作して解析プログラムを実行し、合わせて解析を行なう画像データを取得する。取得された画像は記憶装置104に記憶される。
【0029】
次に、S1021において、記憶された画像がディスプレイ107に表示される。ここで、画像の撮影するために使用する前眼部断面画像撮影装置120が複数想定されている場合、装置毎に設定されている撮影倍率等の条件の違いを補正することが必要となる。また、画像の方向が異なっている場合、適切な方向に変更することが望まれる。従って、画像がディスプレイ107に表示された際にキーボード106aあるいはマウス106bを操作して補正情報等を入力するステップを設けておくことが好ましい。さらに、補正情報を画像と関連付けて保存可能にしておくことにより、同じ画像を別の機会に利用する際に同じ情報を再入力することなく補正された画像を自動的に表示させることも可能となる。
【0030】
次に、S1111において、キーボード106aあるいはマウス106bを操作して、ディスプレイ107に表示されている断面画像内に解析の基準となる解析基準点を設定する。図6(a)は、キーボード106aあるいはマウス106bと連動して表示画像内を移動するカーソル106cが、画像と重ね合わせて表示されている状態を示している。操作者は、キーボード106aあるいはマウス106bを操作して解析基準点を設定する位置にカーソル106cを移動させた後、完了信号を入力することにより解析基準点を設定する。図6(b)は、SS(強膜岬)に解析基準を設定した状態を示したものである。
【0031】
次に、S1112において、解析参照点を設定する解析基準点からの距離を設定する。
【0032】
次に、S1121において、解析の対象となる組織の境界に複数の解析参照点を設定する。図6(c)は、解析の対象となる組織の境界として選択された角膜11の後面に解析参照点CR10を設定する状態を示すもので、解析参照点を設定するための案内として、S1112で設定された距離に該当する半径を有する解析基準点SSを中心とする円VC10が画像内に表示されている。また、円VC10の円周に該当する範囲のみにカーソル106cの移動を限定することにより、円VC10を表示させることなく適切な位置に解析参照点を設定可能となる。
【0033】
次に、S1131において、設定された解析参照点のそれぞれを識別する情報として、解析基準点からの距離及び組織の境界を取得する。解析基準点からの距離はS1112で設定されたものを取得すれば良く、組織の境界はS1121で設定する組織の境界をS1112等で事前に指定する、あるいはS1121において設定位置を確定した時点で情報を入力すれば取得される。
【0034】
上述したS1112からS1131を繰り返し行なうことで、必要な数だけの解析参照点が設定される。
【0035】
次に、S1141において、S1131で取得した識別情報に基づいて設定した解析参照点を分類し、取得可能な幾何学情報を判別する。図7は、本発明に係る解析において想定している幾何学情報の取得条件と識別情報の関係を示した表である。なお、それぞれの幾何学情報の詳細な内容ならびに取得条件の関係については、次のS1142で後述するためここでは省略する。抽出情報は、取得条件の評価に使用される識別情報の項目である。例えば、設定された解析参照点を解析基準点からの距離により分類を行なうことで判別可能である。また、複数抽出された際には選択手段を設けることで、不要な解析処理を行なわないようにしても良い。
【0036】
次に、S1142において、S1111及びS1121で設定された解析基準点あるいは複数の解析参照点の位置関係から導かれる組織に係わる幾何学的な情報を取得する。ここで取得される幾何学的な情報は、解析参照点の設定を変えることで異なる形で取得される。以下にそのいくつかの例を示す。
図8(a)は、S1112において、解析基準点からの距離を1000μmに設定して、角膜11の後面と虹彩13の前後面及び毛様体14の前面それぞれの境界に解析参照点CR10、IF10、IR10、CB10を設定した例である。図8(b)は、設定された解析参照点IF10、IR10、CB10と解析参照点CR10の位置関係について解析基準点SSを頂角とする角度として示すものである。角度θ1〜θ3のそれぞれは、解析基準点SSから等しい距離における角膜後面と虹彩前後面及び毛様体前面の位置関係を概略的に提示するものであり、θ1〜θ3の比率から複数の境界の相対的な関係も提示可能である。なお、解析参照点が設定される解析基準点からの距離は1000μmに制限されるものではなく、例えばシュワルベ線(図2のSL)等の臨床上注目される部位までの距離を設定しても良い。
【0037】
図9(a)は、S1112において、解析基準点からの距離を1000μm、2000μm、3000μmの1000μm刻みで3つ設定して、虹彩13の前面の境界に複数の解析参照点IF10、IF20、IF30を設定した例である。図9(b)は、解析参照点IF10、IF20、IF30の近似円CIFを特定して一部を示したものである。近似円CIFは、虹彩前面の形状を概略的に提示するものである。なお、解析の対象とする組織の境界は虹彩13の前面に限定されるものではなく、解析基準点からの距離を対象とする組織の境界に合わせて適宜設定することにより、虹彩13の後面や毛様体14の前面あるいはその他の組織の境界についての近似円が取得される。
【0038】
図10(a)は、S1112において、解析基準点からの距離を500〜3500μmの間を500μm刻みで7つ設定して、角膜11の後面及び虹彩13の前面それぞれの境界に複数の解析参照点CR05〜CR35及びIF05〜IF35を設定した例である。図10(b)は、解析参照点CR05〜CR35及びIF05〜IF35から、解析基準点SSから同一距離に存在する解析参照点毎の相対距離L05〜L35を示したものである。それぞれの相対距離L05〜L35を解析基準点からの距離と対応付けることにより、解析参照点が設定された異なる組織の境界の相対位置変化を解析基準点SSからの距離に対応させて提示するものである。図11は、本解析結果をグラフによって示したものである。なお、解析の対象とする組織の境界は角膜11の後面と虹彩13の前面に限定されるものではない。また、解析基準点からの距離についても7つに限定されるものではなく、最大最小距離及び刻み幅を適宜変更して、局所的な組織の境界の相対距離変化を詳細に取得することも可能である。
【0039】
最後に、S1151において、S1142で算出した結果をディスプレイ107に表示ならびに必要に応じてプリンタ110から出力を行なう。
【0040】
図12は本発明の第2の実施形態である前眼部断面画像撮影装置の構成を示したものである。前眼部断面画像撮影装置200は、装置全体の制御を行う制御回路202、解析等を行なう演算回路203、解析用プログラムや画像データ、解析結果等を記憶する記憶装置204、装置の操作や解析に必要な情報を入力する入力装置206、断面画像や解析結果等を表示・出力する表示装置207及び出力装置210、被検眼断面を撮影する撮影光学系220によって構成されている。撮影光学系220は、従来から利用されているシャインプルークカメラや、近年開発の進歩により利用が増加している光干渉断層撮影装置(OCT)に採用されている断面画像撮影可能な周知の光学系で構成されている。前述の2つの断面撮影原理及び光学系の構成等は多くの文献に記載されているため、具体的な記載は省略する。
【0041】
次に、図13のフローチャートに基づいて説明する。
初めに、S2011において、前眼部画像の撮影が行なわれる。入力装置206から撮影開始信号が入力されると、撮影開始信号が制御回路202に伝達される。撮影開始信号を受けた制御回路202は、撮影光学系220を駆動させて前眼部断面を撮影する。撮影された前眼部断面画像は撮像素子(図示せず)を通して記憶装置204に転送される。
【0042】
次に、S2021において、記憶された画像が表示装置207に表示される。ここで、第1の実施形態と異なる点は、断面画像を撮影する撮影光学系220は前眼部断面画像撮影装置200の構成の一部であり、断面画像と同時に取得可能である撮影情報に基づいて補正された画像を表示可能であり、新たな画像を表示する毎に補正情報の入力が不要であり、画像が表示された時点で次の段階に進むことが可能となる。
【0043】
次に、S2031において、表示された画像から算出する幾何学的な情報を選択する。選択された幾何学的な情報の算出に必要な解析参照点の設定位置は、図7に記載される条件を満足するように組織の境界ならびに解析基準点からの距離の情報を設定することで決定される。
【0044】
次に、S2032において、S2031で選択された幾何学的な情報の算出に必要な解析参照点を設定するための情報の1つである組織の境界に関わる設定を行なう。例えば、図8(a)と同じ解析参照点を設定する場合、対象となる組織の境界として角膜11の後面、虹彩13の前後面、毛様体14の前面の4つを指定する入力を行なう。
【0045】
次に、S2111において、S2031で選択された幾何学的な情報の算出に必要な解析参照点を設定するための情報の1つである解析基準点からの距離の設定を行なう。S2032と同じく、図8(a)の場合には1000μmの1つだけを指定する入力を行なう。
【0046】
上記の説明は、幾何学的な情報として角度のみを選択した場合であるが、複数の幾何学的な情報を選択した場合は、幾何学的な情報の種類毎にS2032及びS2111を繰り返すことで、必要な情報の設定を行なうことが可能である。
【0047】
次に、S2112において、入力装置206を操作して、表示装置207に表示されている断面画像内に解析の基準となる解析基準点を設定する。手順は、第1の実施形態と同様のため省略する。
【0048】
次に、S2121において、解析参照点の設定を行なう。S2031からS2111で既に解析参照点を設定する組織の境界及び解析基準点からの距離が設定され、S2112において画像内の解析基準点が設定されているため、解析参照点の画像内の位置は画像が有する輝度分布情報を利用することで自動的に特定することが可能である。
【0049】
輝度分布情報に基づいて解析参照点を設定する手順を図14及び図15により説明する。図14は、胸膜岬SSに設定された解析基準点から所定距離に位置する角膜11の後面の境界を検知する手順を示すものである。ここでは、所定距離を1000μmとしている。
【0050】
まず、図14(a)にAssとして示される解析基準点が設定された近傍の領域の輝度分布情報を取得する。図14(b)は、領域Assを拡大したものである。Ass1の領域は輝度が高く、Ass2は輝度が低くなっている。図14(c)は水平右方向を0°として反時計回りに領域Assの外周円上の輝度を取得したものである。輝度がBeとなる位置を組織の境界と設定すると、2つの境界PαssとPβssが特定される。解析基準点からPαssとPβssのそれぞれに向かって輝度分布を取得すると、Pαssに向う方が高くなるため、Pαssが角膜11の後面上の点であると特定される。従って、解析基準点から角度αssの方向に角膜11の後面が存在することが推測される。
【0051】
図14(a)のVC10は解析基準点を中心する半径1000μmの仮想円であり、解析基準点から角度αss方向のVC10上の点を角膜11の後面の境界CR10として特定している。A10として示される領域は、CR10の近傍領域を示している。図14(d)は領域A10を拡大したもので、図14(e)は領域A10の外周円上の輝度分布を示している。領域Assと同様に、領域A10に存在する組織の境界はPα10及びPβ10として検出される。このPα10とPβ10により成される線分上にCR10が存在しているか否かを評価することにより、CR10の設定位置が適切か否かを判断可能である。図14(f)および(g)は適切な位置からずれたVCR10が特定された状態を示している。この場合も、Pα10とPβ10により成される線分と仮想円VC10の交点をCR10として補正が可能である。
【0052】
図15は、上記の手順によって特定された角膜11の後面の境界CR10を基準として、虹彩13他の組織の境界を特定する手順を示すものである。図15(a)は、仮想円VC10とそれぞれの組織の境界の関係を示すものである。図15(b)は、CR10から時計回り方向のVC10上の輝度分布である。輝度がBeとなる位置がそれぞれの組織の境界であり、それぞれがどの組織の境界であるかは検出順序で特定できる。ここで注意しなければならないことは、前述のCR10からの輝度検出方向は画像を撮影した位置により適宜選択する必要である点である。ここで示している隅角は図1においては左側の部分になる。しかし、右側の部分に関する画像の場合、時計周り方向に進めると検出される組織の順番が逆になってしまうためである。ただし、どちらの場合もCR10から適切な方向に進むと輝度が低くなるため、開始直後の輝度変化に基づいて適切な方向を決定することが可能である。
【0053】
上記の手順により、角膜11の後面を基準として虹彩13の前後面や毛様体14の前面の境界が特定され、図8と同じ解析参照点が設定される。仮想円半径を変更することで、別の解析基準からの距離についても同様に組織の境界が特定されることは、説明するまでもない。また、仮想円上の輝度分布は全周に渡って取得する必要もなく、所定数の境界を検出した時点で次の処理に進めるようにすることで、効率よく解析参照点の特定が可能となる。さらに、距離毎に検出する組織の境界の数を選択可能にすることにより、図16のような複数の幾何学的な情報を取得するための解析参照点の設定も自動で行なうことが可能となる。
【0054】
次に、S2131において、解析参照点識別情報を取得する。ただし、本実施形態のように、自動的に解析参照点を設定する場合は、対象となる組織の境界を検出した時点で完了している。
【0055】
次に、S2141において、幾何学的な情報を算出する。S2131で取得された解析参照点識別情報を、図7の取得条件に基づいて分類することにより、幾何学的な情報の種類毎に解析参照点が抽出されるため、予め複数の幾何学的な情報を選択しておき、同時に算出させることも可能である。
【0056】
最後に、S2151において、S2141で算出した結果をディスプレイ107に表示ならびに必要に応じてプリンタ110から出力を行なう。
【0057】
なお、本実施形態においては、前眼部断面画像の撮影手段は光学的なものにより構成されているが、必ずしもこれに制限されるものではなく、超音波を利用して断面画像を取得する手段によって構成されているものでも構わない。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】前眼部の概略的な構成を示す図である。
【図2】図1の長方形領域Aに存在する前眼部の隅角領域の構成を示す図である。
【図3】本発明の解析フローチャートの基本的な部分を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施例である前眼部断面画像解析システムを示す図である。
【図5】本発明の解析フローチャートの一例を示す図である。
【図6】解析基準点及び解析参照点の設定方法の一例を示す図である。
【図7】解析参照点識別情報と幾何学情報の取得条件の関係を示す表である。
【図8】解析処理の一例を示す図である。
【図9】解析処理の他の一例を示す図である。
【図10】解析処理の他の一例を示す図である。
【図11】図8に係わる解析処理により得られた結果をグラフ化した図である。
【図12】本発明の第2の実施形態である前眼部断面画像撮影装置の構成を示すブロック図である。
【図13】本発明の解析フローチャートの別の例を示す図である。
【図14】輝度分布を利用した解析参照点の設定の一例を示す図である。
【図15】輝度分布を利用した解析参照点の設定の別の一例を示す図である。
【図16】複数の解析処理において参照される解析参照点を一括設定した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
SS 強膜岬
SL シュワルベ線
TM 線維柱帯
AB 隅角底


【特許請求の範囲】
【請求項1】
前眼部断面画像を取得する前眼部断面画像取得手段と、
解析を行なうために必要な情報を入力する入力手段と、
取得された前記前眼部断面画像に係わる画像情報及び前記入力手段により入力された入力情報を記憶する記憶手段と、
前記画像情報及び前記入力情報を表示する表示手段と、
前記画像情報及び前記入力情報に基づいて画像解析処理を行なう演算手段を有する前眼部断面画像解析システムにおいて、前記解析処理は、
解析において参照される解析参照点の設定の基本情報となる、前記前眼部断面画像内の特徴的な部位への解析基準点の設定ならびに解析参照点と解析基準点の距離設定を順不同で行なう第1のステップと、
前記解析基準点から前記設定された距離に位置する組織の境界に解析参照点を複数設定する第2のステップと、
前記複数の解析参照点のそれぞれに前記解析基準点からの距離ならびに該解析参照点が設定された組織の境界の情報を解析参照点識別情報として関連付ける第3のステップと、
前記解析参照点識別情報及び前記複数の解析参照点の位置関係に基づいて隅角近傍に存在する組織に係わる複数の幾何学的な情報を算出する第4のステップと、
算出された前記幾何学的な情報を前記表示手段に表示する第5のステップ、
により構成されていることを特徴とする前眼部断面画像解析システム。
【請求項2】
前記複数の幾何学的な情報の1つは、前記解析参照点識別情報である前記解析基準点からの距離が同一である複数の組織の境界に設定された前記解析参照点に基づいて求められる前記解析基準点を頂点とする角度である
ことを特徴とする請求項1に記載の前眼部断面画像解析システム。
【請求項3】
前記複数の幾何学的な情報の1つは、前記解析参照点識別情報である組織の境界の情報が同一である前記解析基準点から少なくとも3つ以上の距離に設定された前記解析参照点に基づいて求められる前記組織の境界の近似曲率である
ことを特徴とする請求項1に記載の前眼部断面画像解析システム。
【請求項4】
前記複数の幾何学的な情報の1つは、前記解析参照点識別情報である前記解析基準点から少なくとも3つ以上の距離に存在する複数の組織の境界に設定された前記解析参照点に基づいて求められる前記解析基準点からの距離毎の前記解析参照点間の距離である
ことを特徴とする請求項1に記載の前眼部断面画像解析システム。
【請求項5】
前眼部断面画像を撮影する前眼部断面画像撮影手段と、
解析を行なうために必要な情報を入力する入力手段と、
撮影された前記前眼部断面画像に係わる画像情報及び前記入力手段により入力された入力情報を記憶する記憶手段と、
前記画像情報及び前記入力情報を表示する表示手段と、
前記画像情報及び前記入力情報に基づいて画像解析処理を行なう演算手段を有する前眼部断面画像撮影装置において、前記解析処理は、
解析において参照される解析参照点の設定の基本情報となる、前記前眼部断面画像内の特徴的な部位への解析基準点の設定ならびに解析参照点と解析基準点の距離設定を順不同で行なう第1のステップと、
前記解析基準点から前記設定された距離に位置する組織の境界に解析参照点を複数設定する第2のステップと、
前記複数の解析参照点のそれぞれに前記解析基準点からの距離ならびに該解析参照点が設定された組織の境界の情報を解析参照点識別情報として関連付ける第3のステップと、
前記解析参照点識別情報及び前記複数の解析参照点の位置関係に基づいて隅角近傍に存在する組織に係わる複数の幾何学的な情報を算出する第4のステップと、
算出された前記幾何学的な情報を前記表示手段に表示する第5のステップ、
により構成されていることを特徴とする前眼部断面画像撮影装置。
【請求項6】
前記複数の幾何学的な情報の1つは、前記解析参照点識別情報である前記解析基準点からの距離が同一である複数の組織の境界に設定された前記解析参照点に基づいて求められる前記解析基準点を頂点とする角度である
ことを特徴とする請求項5に記載の前眼部断面画像撮影装置。
【請求項7】
前記複数の幾何学的な情報の1つは、前記解析参照点識別情報である組織の境界の情報が同一である前記解析基準点から少なくとも3つ以上の距離に設定された前記解析参照点に基づいて求められる前記組織の境界の近似曲率である
ことを特徴とする請求項5に記載の前眼部断面画像撮影装置。
【請求項8】
前記複数の幾何学的な情報の1つは、前記解析参照点識別情報である前記解析基準点から少なくとも3つ以上の距離に存在する複数の組織の境界に設定された前記解析参照点に基づいて求められる前記解析基準点からの距離毎の前記解析参照点間の距離である
ことを特徴とする請求項5に記載の前眼部断面画像撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−66325(P2009−66325A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−240277(P2007−240277)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(501299406)株式会社トーメーコーポレーション (48)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(504145308)国立大学法人 琉球大学 (100)
【Fターム(参考)】