説明

前立腺特異的抗原を安定化するための方法および組成物

本発明は、例えば、前立腺特異的抗原(PSA)へ連結された1-アンチキモトリプシンを含む結合体またはトリプシン-アンチトリプシン結合体のような、不可逆的に連結された安定なプロテアーゼ-プロテアーゼ阻害因子の結合体、そのような結合体を作製する方法、および例えば、PSA検出アッセイ法のためのもしくは多検体解析対照のための対照または補正物質として、該結合体を使用する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
前立腺特異的抗原(PSA)は、α1アンチキモトリプシン(ACT)ならびに、α1アンチトリプシン(AT)、プロテアーゼC阻害因子(PC1)、およびα2マクログロブリン(A2M)のような他のセリンプロテアーゼ阻害因子(セルピン)へ結合するトリプシン様のセリンプロテアーゼである。血清中の全PSAの大多数はACTへ結合している。しかしながら、ACTへ複合体化しているPSAは、中性からアルカリ性条件下で加水分解によって切断される。PSAおよびACTが解離し、活性型の遊離PSA分子となり、続いてA2Mを含む他の阻害因子へ結合する。A2Mへ結合したPSAは、ほとんどの市販のアッセイ法によって測定可能ではない。A2MへのPSAの結合は、A2Mの餌領域のTyr 686とGlu 687とのアミノ酸間のペプチド結合の酵素による切断によって生じ、高次構造変化およびA2M内部へのPSAの捕捉がもたらされる。結果として、免疫アッセイ法においてPSAを認識する抗体はもはや、PSAへ結合することができない。従って、この影響は検出可能な遊離PSAおよび全PSAの正味損失である。
【0002】
前立腺がんの診断および病期決定のための生化学的マーカーとしてPSAをモニタリングする試験方法において、遊離PSAおよび全PSAをモニタリングする際に、血清または他のバッファー中でのPSA-ACTの乏しい安定性によって問題がもたらされる。PSA-ACTの加水分解は、わずかに酸性である至適pHを選択することにより制御され得るが、しかしながら、中性から塩基性のpH条件を必要とし、そのためにこの条件がPSAレベルの検出において最適な結果を提供することができない、多数のアッセイ法が存在する。そのようなアッセイ法の多くは、多検体を評価するか、または、該解析の至適pHが、時には様々な形態(遊離PSAおよび全PSA等)へのPSAの不安定化を引き起こし得るように、アッセイ条件は固有のものである。従って、PSAをモニタリングするための改善された試薬、およびアッセイ法に関する必要性が存在する。本発明はその必要性に対処する。
【発明の概要】
【0003】
発明の簡単な概要
本発明は、例えばPSAのようなセリンプロテアーゼ、および例えばアンチキモトリプシン(ACT)またはアンチトリプシン(AT)のようなセルピンが、例えば、対照、補正物質のために、または例えばPSAのようなセリンプロテアーゼの定量のために使用される試薬において、安定な溶液を提供する共有結合によって合成的に連結され得るという発見に基づく。共有結合を介するセリンプロテアーゼのセルピンへの合成的な連結は、PSAが見出されるマトリックス中の他の分析物、酵素、およびタンパク質に対する保護も提供する。
【0004】
本発明において、例えばPSAをACTのようなセルピンへ連結する、セリンプロテアーゼをセルピンへ連結する共有結合は、天然に存在しないが、化学合成によって合成的に導入されるか、または2つの部分を連結する組換えDNA技術を使用して導入される。様々なセルピン/セリンプロテアーゼに関して記載されている、プロテアーゼの活性部位セリンおよびセルピンの反応部位ループ(RSL)間のアシルエステル結合のような天然の結合とは、非天然の結合は全く異なっている。従って本発明は、セルピンへの安定な共有結合を有する、セリンプロテアーゼを含む結合体を提供する。好ましくは、セリンプロテアーゼは、前立腺特異的抗原(PSA)であり、かつセルピンはα1アンチキモトリプシン(ACT)である。本発明の結合体においては、例えばPSAのようなプロテアーゼおよびセルピンが、少なくとも1つの合成的共有結合によって、または組換え結合によって連結される。
【0005】
PSA以外のセリンプロテアーゼも、セルピンへの合成的または組換え結合によって連結され得る。従っていくつかの態様において、ヒトカリクレインまたはトリプシンのようなセリンプロテアーゼが、ACTまたはアンチトリプシンのようなセルピンへ連結され得る。特定の態様において、セリンプロテアーゼトリプシンが、合成的または組換えによりセルピンアンチトリプシンへ連結される。
【0006】
例えばPSAおよびACTのような、セリンプロテアーゼおよびセルピンは、天然のアシルエステル結合でない任意の種類の安定な共有結合によって連結され得る。従って、例えばPSA-ACTのようなセリンプロテアーゼおよびセルピンは、アミド結合、アミン間結合、スルフヒドリル結合または任意の他の安定な共有結合によって連結され得る。結合の種類は、例えば意図される結合体の使用に基づき、望ましい安定性を有するよう選択され得ることを当業者によって理解される。
【0007】
いくつかの態様において、例えばPSA-ACTのようなセリンプロテアーゼ-セルピンは、組換え技術を使用して連結される。従って、二つの部分がアミド結合によって安定に連結された融合タンパク質が生成される。
【0008】
本発明は、架橋剤を使用してプロテアーゼをセルピンへ化学的に連結する段階を含む、セリンプロテアーゼをセルピンへ結合する方法をさらに提供する。典型的な態様において、プロテアーゼはPSAであり、セルピンはACTである。他の態様において、プロテアーゼが、アンチトリプシンまたはACTのようなセルピンへ連結された、ヒトカリクレインまたはトリプシンであってもよい。
【0009】
本発明の方法は、公知の化学結合試薬を用いる。例えば、いくつかの態様において、試薬はマレイミド架橋試薬である。
【0010】
他の態様において、本発明は、プロテアーゼ-セルピン融合タンパク質を生成する組換え発現を使用して、プロテアーゼをセルピンへ結合させる方法を提供する。典型的な態様において、プロテアーゼはPSAであり、かつセルピンはACTである。
【0011】
本発明はまた、例えばPSA-ACTのような、本発明の安定な共有的に連結されたセルピン-セリンプロテアーゼ結合体を含むキットを含む。そのようなキットは、アッセイ試薬等のようなさらなる構成要素を含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】天然の非共有結合型ACT-PSA複合体に対して、共有結合型ACT-PSA複合体を示す概略図を提示する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の詳細な説明
導入
本発明は、例えば多検体解析のための対照試薬として使用され得る、例えばpH安定のような安定な、例えばPSA-セルピン結合体のようなセリンプロテアーゼ-セルピン結合体を提供する。プロテアーゼ阻害因子-セルピン結合体は、セルピンをプロテアーゼへ連結する少なくとも一つの共有結合を、合成的にまたは組換えにより作製することによって生成される。自然発生的に形成し、安定的には共有結合されないが(図1)、酸性または中性pHで安定でないアシルエステル結合を有する場合がある、ACT-PSA複合体とは対照的に、そのような結合体は安定である。
【0014】
本発明の結合体は、化学結合および組換え技術の双方を含む、当技術分野において公知の任意の方法を使用して生成される。多くの場合、該反応において使用される結合反応は、アミド結合を産生する。従っていくつかの態様において、少なくとも一つのアミド結合をもたらす化学結合技術を使用して、または少なくとも一つのアミド結合によって直接的またはリンカーを介して該部分が連結される融合タンパク質を生成する組換えDNA技術を使用して、例えばPSAのようなセリンプロテアーゼが、例えばACTのようなセルピンへ結合され得る。
【0015】
例えばPSAのようなセリンプロテアーゼが、一旦、化学的に(または組換えにより)セルピンへ結合されると、血清中、バッファー中ならびに液体および凍結乾燥された状態の双方のような広範な状態において、セルピンおよび遊離セルピン双方の安定性は有意に向上される。
【0016】
セルピン
セルピンは、メンバー中の多数についてのセリンプロテアーゼ活性のために名付けられた、タンパク質のスーパーファミリーを意味する。ファミリーメンバーは、一本鎖タンパク質で、通常40〜60 kDaのサイズである(総説に関しては、例えばBird, Results Probl Cell Differ 24: 63-89 (1998); Pemberton, Cancer J 10(1): 1-11 (1997); Worrall et al,, Biochem Soc Trans 27(4): 746-50 (1999);およびIrving et al., Genome Res 10: 1854-64 (2000)を参照)。セルピンファミリーメンバーは、一般に約15〜50%のアミノ酸配列同一性を有する。セルピンの三次元コンピューター生成モデルは実質的に重ね合わせることが可能である。セルピンは、脊椎動物および動物ウイルス、植物および昆虫に見出され、かつほぼ300個のこのスーパーファミリーのメンバーが同定される。全てのセルピンがプロテアーゼ活性を阻害するわけではないが、しかしながら本発明の文脈においては、結合体タンパク質において使用されるセルピンは、典型的に阻害活性を有する。例えば、Silverman et al., J. Biol. Chem. 276: 33293-33296, 2001に概説される。阻害活性に必要とされるセルピンの高次構造は、よく記載されている(例えば、Silverman et al. 中に引用される参考文献を参照)。
【0017】
多数のセルピンは、ヒト血漿中に比較的高いレベルで見出される。これらはACT、AT、PCI、プラスミノーゲン活性化抑制因子1および2(PAI-1およびPAI-2)、組織カリクレイン阻害因子、α2抗プラスミン、および神経セルピンを含む。これらのセルピンは、保存された構造を有する。セルピンは、典型的に9個のαへリックスおよび3個のβプリーツシートを有する。反応部位ループ(RSL)領域は、プロテアーゼ認識部位を含む。RSLは、約20〜30アミノ酸長で、かつカルボキシ端から30〜40アミノ酸に位置する。RSLは、タンパク質表面に曝露される。セルピン分子の中心構造は、構造の頂点にRSLが提示される3個のβシートナシ形に折り畳まれる。RSLは、標的プロテアーゼの基質を模倣し、かつプロテアーゼの基質を模倣し、かつRSLで切断される際にプロテーゼへ共有結合することによって、特定のセリンプロテアーゼの活性を調節すると考えられているいわゆる「餌」配列を含む。標的プロテアーゼによって切断される際に、セルピンは、βシートのうち1つへの残りの反応部位ループの挿入に伴う高次構造変化を受ける。この遷移の間に、セルピンは標的プロテアーゼと共に安定な熱耐性複合体を形成する。RSLの配列、ならびにとりわけP1および隣接のアミノ酸残基によって、阻害性セルピンのプロテアーゼに関する特異性が決定される。
【0018】
セルピンは、標的プロテアーゼへの付着に関連する高次構造変化の制御および調節に関与する、いくつかの領域を有する。これらは、ヒンジ領域(RSLのP15〜P9部分);裂け目(breach)(βシート、Aβシートのうちの1つの頂点に位置し、AβシートへのRSLの初期挿入位置);シャッター(Aβシートの頂点で、AβシートへのRSLの初期挿入位置);およびゲート(例えば、Irving et al. (2000)中の概要を参照)である。阻害性セルピンは、上記領域中に位置する多数の重要なアミノ酸において高度の保存性を保有する。
【0019】
本発明の好ましい態様において、例えばACTのようなセルピンが、PSAのようなプロテアーゼへ結合される。ACTは容易に利用可能である。それは市販され(例えば、Scipac Ltd, Kent, United Kingdom)、または例えば血漿もしくは他の起源から精製され得る(例えば、Christensson et al., Eur. J. Biochem. 194: 755-63, 1990を参照)。ACTも、当技術分野において日常的である手法を使用して組換えにより産生され得る。ACTまたは関連セルピンの組換え産生のような目的のために、ポリペプチドおよび核酸配列が当技術分野において容易に利用可能である(例えば、米国特許第5,079,336号を参照)。例示的ヒトACTタンパク質配列(未処理前駆体)は、UniProtアクセッション番号P01011、およびNCBIアクセッション番号NP_001076で提供される。成熟タンパク質は、UniProtアクセッション番号P01011(配列番号:2中に示される)のアミノ酸26〜423由来である。例示的mRNA配列は、アクセッション番号NM_001085で提供される。
【0020】
適切なACT配列は、セルピンの全体構造を保存する変異体を含み得ることが当業者によって理解される。そのような変異体は、当技術分野において利用可能な構造解析に基づいて設計され得る(例えば、前記参照)。例えば、変異体ACTタンパク質が、PSAへの結合を促進するために導入される残基を有してもよい。そのようなタンパク質は、成熟ACTに対して少なくとも65%の同一性、より頻繁には少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を典型的に有し、かつセルピン構造を保存する。
【0021】
セリンプロテアーゼ
セリンプロテアーゼは、キモトリプシン、トリプシン、エラスターゼまたはカリクレインのような哺乳動物酵素を含むキモトリプシンファミリー、およびサブチリシンのような細菌性酵素を含むサブスチリシン(substilisin)ファミリーの2つのクラスに分類される。2つのファミリーは、同一の活性部位配置を共有し、かつ同一の機構を介して触媒反応が生じる。
【0022】
セリンプロテアーゼの活性部位は、ポリペプチド基質が結合する割れ目として形成される。触媒三連構造を形成する三個の残基は、触媒過程において重要である。これらはHis 57、Asp 102、Ser 195である。番号付けはキモトリプシノゲンに関連している。触媒反応の間に、アシル酵素は基質と活性部位セリンとの間を仲介する。第二段階の間に、ペプチドを解離しかつ酵素のSer水酸基を復活させるために、アシル酵素中間体は水分子によって加水分解される。
【0023】
多数のセリンプロテアーゼが、当技術分野において公知である。例えば、Rawlings およびBarrett Rawlings(Meth. Enzymol. 244: 19-61, 1994)は、ファミリーおよび族におけるプロテアーゼの分類を提案している。ファミリーは、それらの触媒ドメインのアラインメントスコアに応じた配列に分類する。この分類に従って、5個の族および30個のファミリーが存在する。プロテアーゼの全体的分類は、MeropsおよびExPASyウェブサイトにおいて利用可能である。
【0024】
典型的な態様において、セリンプロテアーゼは、例えばPSAまたはトリプシンのようなキモトリプシン様プロテアーゼである。しばしば、セリンプロテアーゼはPSAである。PSAは、腺性カリクレイン遺伝子ファミリーのメンバーである。その基質は、セメノジェリン(semenogelin)IおよびII、インスリン様成長因子結合タンパク質3、フィブロネクチンおよびラミニンを含む。他の関連プロテアーゼも、本発明において用いられ得る。例えば、PSA、腺性カリクレイン2(hK2)、および組織カリクレイン(hK1)は、構造的に類似のヒト腺性カリクレインファミリーのメンバーである。前立腺によっても産生される、PSAおよびヒト腺性カリクレイン2(hK2)の成熟型は、79%のアミノ酸配列同一性を有する237アミノ酸のモノマータンパク質である。
【0025】
他の態様において、プロテアーゼはトリプシンまたはトリプシン関連タンパク質である。
【0026】
上に記載されるように、セリンプロテアーゼは当技術分野において周知であり、かつ精製によってまたは発現ベクターを使用してタンパク質を発現することによって、容易に得られ得る。例えばPSAは、例えばヒト精漿のような天然起源から精製され得るか、または組換えにより産生され得る。PSA精製手法は公知である(例えば、Sensabaugh および Blake, J. Urol. 144: 1523-1526, 1990, Christenssen et al. 前記を参照)。PSAはまた市販されている(例えば、BioProcessing, Inc., Portland, ME)。あるいは、PSAは基礎的な発現技術を使用して、組換えにより産生され得る。
【0027】
組換え発現に関して、例示的PSAポリペプチド配列は、UniProtアクセッション番号P07288およびNCBIアクセッション番号A32297より利用可能である。例示的核酸配列は、GenBankアクセッション番号AF335478、NM_001030050、NM_001030049、NM_001030048、NM_001030047、およびNM_001648で提供される。ヒトPSA前駆体タンパク質の配列は、例えばUniProtアクセッション番号P07288で提供される。PSAの成熟型は、残基25〜261に対応する。この例示的タンパク質配列は、配列番号:1で提供される。
【0028】
いくつかの態様において、アミノ酸配列変化を有する、例えば、組換えにより発現されたPSAタンパク質のようなPSAタンパク質が、本発明において用いられ得る。例えば変異体PSAタンパク質は、ACTへの結合を促進するために導入される残基を有してもよい。変異体を用いて作製されるPSA-ACT複合体が、例えば対照となり得るように、そのようなタンパク質は、成熟PSA配列(例えば、配列番号:1)に対して少なくとも65%の同一性、より多くの場合には少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列の同一性を典型的に有し、かつPSAに対する抗体によって典型的に天然のPSAと同程度に認識される。アミノ酸配列中の変化は、例えばPSAの公知の構造に基づいて設計され得る。
【0029】
いくつかの態様において、本発明は、例えばPSA-ACTもしくはPSA-ATのようなPSA-セルピン;またはトリプシン-アンチトリプシン結合体を提供する。
【0030】
二つまたはそれ以上のポリペプチド配列の文脈において、「同一」または「同一性」パーセンテージという語は、以下に記載されるデフォルトパラメーターを用いてBLASTもしくはBLAST 2.0配列比較アルゴリズムを使用して、または手動アラインメントおよび目視検査によって測定される際の、比較窓または指定領域に渡って最大一致に関して比較かつ並列される場合に、同一であるもしくは特定のパーセンテージのアミノ酸残基を有する二つもしくはそれ以上の配列、または部分配列を意味する。該定義はまた、欠失および/または付加を有する配列、並びに置換を有するものも含む。以下に記載されるように、好ましいアルゴリズムはギャップ等を計上し得る。好ましくは、同一性が少なくとも約25個の連続的なアミノ酸長である領域に渡って存在し、またはより好ましくは50〜100の連続的アミノ酸または200、300、もしくは400もしくはそれ以上の連続的アミノ酸である領域に渡って存在する。
【0031】
配列比較に関して、典型的には1つの配列が、試験配列が比較される参照配列としての役割を果たす。配列比較アルゴリズムを使用する際に、試験および参照配列がコンピューターへ入力され、もし必要な場合は部分配列座標が指定され、かつ配列アルゴリズムプログラムパラメーターが指定される。好ましくは、デフォルトプログラムパラメーターが使用され得、または代替パラメーターが指定され得る。続いて、プログラムパラメーターに基づいて、参照配列と比較した試験配列に関する配列同一性パーセンテージが、配列比較アルゴリズムによって算出される。
【0032】
比較のための配列のアラインメント方法は、当技術分野において周知である。比較のための配列の最適アラインメントは、例えばSmith および Waterman, Adv. Appl. Math. 2: 482 (1981)の局所的アラインメントアルゴリズムによって、Needleman および Wunsch, J. Mol. Biol. 48: 443 (1970) のグローバルアラインメントアルゴリズムによって、Pearson および Lipman, Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 85: 2444 (1988)の類似性検索方法によって、これらのアルゴリズムのコンピューター施行(Wisconsin Genetics Software Package中のGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA、Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WI)によって、または手動アラインメントおよび目視検査(例えば、Current Protocols in Molecular Biology (Ausubel et al., eds. 1995 補足)を参照)によって遂行され得る。
【0033】
配列同一性パーセンテージおよび配列類似性を決定するために適切なアルゴリズムの別例は、Altschul et al., Nuc. Acids Res. 25: 3389-3402 (1997)、およびAltschul et al., J. Mol. Biol. 215: 403-410 (1990)にそれぞれ記載される、BLASTおよびBLAST 2.0アルゴリズムである。本発明において使用される核酸および/またはタンパク質に関する配列同一性パーセンテージを決定するために、典型的にBLASTおよびBLAST 2.0がデフォルトパラメーターを用いて使用される。アミノ酸配列に関して、BLASTPプログラムは3の文字長(W)、10の期待値(E)およびBLOUSUM62スコアリングマトリックスをデフォルトとして使用する(Henikoff および Henikoff (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 10915を参照)。本発明の目的のためには、BLAST 2.0アルゴリズムはデフォルトパラメーターを用いて使用される。
【0034】
セリンプロテアーゼのセルピンへの結合
セリンプロテアーゼは、しばしば化学反応を使用してセルピンへ結合される。この議論においては、PSAは代表的なセリンプロテアーゼとして使用され、かつACTは代表的なセルピンとして使用される。これらの技術は、任意のセリンプロテアーゼをセルピンへ共有的に連結するために用いられ得ることが理解される。
【0035】
本発明の文脈において「合成共有結合」とは、天然でないが、産物を得るために化学反応を意図的に遂行する化学合成によって生成される、二つの部分の間の共有結合を意味する。
【0036】
本出願の文脈における「安定な共有結合」という語は、約7.0のpHで加水分解に耐性である特性を有する共有結合を意味する。
【0037】
本発明の文脈における「加水分解に耐性」とは、例えばPSA-ACTのようなセリンプロテアーゼ-セルピン結合体が、測定可能な加水分解を示さないことを意味する。「測定可能な加水分解がない」または「遊離PSAの測定可能な検出がない」は、血清、血漿、タンパク質または約7.0のpHであるバッファー溶液において2〜8℃で少なくとも5日後、典型的には少なくとも10日後または少なくとも20日後、または少なくとも30日後に、PSA-ACT複合体中の約10%未満のPSAが複合体から遊離する場合である。
【0038】
当業者によって理解されるように、例えばPSA-ACTのような、pH 7.0での加水分解に対する耐性を特徴とする本発明の安定なプロテアーゼ-セルピン複合体はまた、より低いpHで加水分解に耐性であり、かつ約pH 7.0以外のpHで使用されることが可能である。例えば合成共有結合を有する、安定に共有的に連結された本発明のPSA-ACT複合体は、約5.5、または約6.0、または約6.5のpHで遂行されるアッセイ法において利用されてもよい。本発明の複合体はまた、例えば約5.0から約6.5のpHのようなより低いpHで、合成共有結合によって連結されていない自発的に生ずるPSA-ACT複合体よりも、典型的により安定である。
【0039】
PSAは、化学結合および組換え結合を含む多数の公知の方法を使用して、例えばACTのようなセルピンへ結合され得る。例えばPSAは、セルピンの適切な官能基との反応のために利用可能な、例えばカルボン酸(COOH)、遊離アミン(-NH2)またはスルフヒドリル(-SH)基のような様々な官能基を含む(および逆もまた同じ)。PSAおよび/またはセルピンも、さらなる反応官能基へ曝露または付着するために誘導され得る。誘導反応は、Pierce Chemical Company, Rockford Illinoisから利用可能であるような、任意の多数のリンカー分子の付着を含んでもよい。
【0040】
セルピンおよびPSAタンパク質を連結する、多数の化学手段が存在する。そのような方法は、例えばBioconjugate Techniques, Hermanson Ed., Academic Press (1996)中に記載される。例えば、ヘテロ二官能性結合試薬が使用され得る。結合基は、例えばスクシンイミジル-(N-マレイミドメチル)-シクロヘキサン-1-カルボン酸(SMCC)を含む化学架橋剤であり得る。結合基はまた、例えばポリアラニン、ポリグリシンまたは類似の結合基を含むさらなるアミノ酸配列であり得る。
【0041】
他の化学リンカーは、炭水化物リンカー、脂質リンカー、脂肪酸リンカー、例えばPEG等のようなポリエーテルリンカーを含む。例えばポリ(エチレングリコール)リンカーは、Shearwater Polymers, Inc. Huntsville, Alabamaから利用可能である。これらのリンカーは、アミド結合、スルフヒドリル結合、またはヘテロ官能性結合を任意で有する。
【0042】
リンカー試薬は、安定な共有結合を形成するために、例えばPSAおよび/またはACTのようなタンパク質に存在する求電子と反応性である、反応求核性官能基を有し得る。タンパク質の有用な求電子基は、アルデヒドおよびケトンカルボニル基を含むがこれらに限定されない。リンカーの有用な求核基は、ヒドラジド、オキシム、アミノ、ヒドラジン、チオセミカルバゾン、ヒドラジンカルボキシレートおよびアリルヒドラジドを含むがこれらに限定されない。
【0043】
アミド結合を形成するためにタンパク質の二次的アミノ基と反応し得るため、カルボン酸官能基およびクロロギ酸官能基も、リンカーに関して有用な反応部位である。これに限定されないがp-ニトロフェニル炭酸のようなリンカーの炭酸官能基も反応部位として有用であり、それはカルバミン酸結合を形成するために、これに限定されないがN-メチルバリンのようなタンパク質のアミノ基と反応し得る。
【0044】
いくつかの態様において、PSAまたは例えばACTのようなセルピンは、スルフヒドリル基を導入するためにリジン残基で修飾され得る。リジンを修飾するために使用され得る試薬は、N-スクシンイミジルS-アセチルチオアセテート(SATA)および2-イミノチオランハイドロクロライド(Traut試薬)を含むがこれらに限定されない。
【0045】
別の態様において、PSAまたはACTは、スルフヒドリル基を導入するために1つまたは複数の炭水化物基で修飾され得る。
【0046】
別の態様において、アルデヒド(--CHO)基を提供するために、PSAまたはACTは酸化され得る1つまたは複数の炭水化物基を有し得る(例えば、Laguzza, et al (1989) J. Med. Chem. 32(3): 548-55を参照)。参照により本明細書に組み入れられる、Coligan et al, “Current Protocols in Protein Science”, vol. 2, John Wiley & Sons (2002)。
【0047】
本発明のPSA-セルピン結合体は、BMPEO、BMPS、EMCS、GMBS、HBVS、LC-SMCC、MBS、MPBH、SBAP、SIA、SIAB、SMCC、SMPB、SMPH、硫酸EMCS、硫酸GMBS、硫酸KMUS、硫酸MBS、硫酸SIAB、硫酸SMCCおよび硫酸SMPB、およびSVSB(サクシミジル-(4-ビニルスルホン)ベンゾエート(succinimidyl-(4-vinylsulfone)benzoate))のような試薬を含むがこれらに限定されず、ならびにビスマレイミド試薬:Pierce Biotechnology, Inc. Rockford, Illinoisから市販されているDTME、BMB、BMDB、BMH、BMOE、BM(PEO)3およびBM(PEO)4を含む、様々な架橋試薬を使用して調製され得る。ビスマレイミド試薬は、順次または同時様式において、チオール含有タンパク質部分またはリンカー中間体へのタンパク質のシステイン残基のチオール基の付着を可能にする。タンパク質のチオール基またはリンカー中間体と反応性のあるマレイミドの他の官能基は、ヨードアセトアミド、ブロモアセトアミド、ビニルピリジン、ジスルフィド、ピリジルジスルフィド、イソシアネート、およびイソチオシアネートを含む。
【0048】
PSA-セルピン結合体はまた、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオール)プロピオン酸(SPDP)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(ジメチルアジプイミド塩酸のような)、活性エステル(スベリン酸ジスクシンイミジルのような)アルデヒド(グルタルアルデヒドのような)、ビスアジド化合物(ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミンのような)、ビスジアゾニウム誘導体(ビス(p-ヂアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミンのような)、ジイソシアネート(トリエン(tolyene)2,6-ジイソシアネートのような)、およびビス活性フッ素化合物(1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼンのような)のような様々な二官能性タンパク質結合物質を使用して作製され得る。
【0049】
一つの態様において、マレイミド結合試薬を使用して、PSAは、例えばACTのようなセルピンへ結合される。そのような反応においては、タンパク質のような水溶性生体高分子のカルボキシル酸は、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDAC)のような水溶性カルボジイミドを使用して、水溶液中でヒドラジン、ヒドロキシルアミンおよびアミンへ結合され得る。反応混合物中にN-ヒドロキシスルホスクシニミドを含有することは、EDAC媒介のタンパク質カルボキシル酸結合体の結合効率が向上されることを示している。一般的な副反応であるリジン残基へのタンパク質内およびタンパク質間の結合を減少させるために、典型的には過剰量の求核試薬を使用して低pHで濃縮されたタンパク質溶液中で、カルボジイミド媒介の結合が遂行される。反応によって、加水分解に対して極めて安定であり、かつ煮沸アルカリ中および極端な酸性条件下において加水分解のみされ得るアミド結合を生じる。この反応から形成される共有結合は、ペプチド結合であり、かつその結果、該タンパク質の残りの部分においての任意の天然のペプチド結合と同等に安定である。
【0050】
例えば検出アッセイ法において使用される抗体によって検出され得るように、PSAが測定に使用可能である限り、セリンプロテアーゼは、例えばACTへ連結されたPSAのように、任意の部位でセルピンへ連結され得る。典型的には、結合は、検出アッセイ法において使用されるプロテアーゼの検出に使用される抗プロテアーゼ抗体(すなわち、抗PSA抗体)によって認識される部位であるプロテアーゼのセリン基を介さない。いくつかの態様において、例えばPSAおよびACTのようなプロテアーゼおよびセルピンは、例えば組換え融合タンパク質において末端同士が連結される。セルピンに対するプロテアーゼの方向性は問題ではなく、すなわちプロテアーゼのN末端がセルピンのC末端へ連結されてもよく、またはプロテアーゼのC末端がセルピンのN末端へ連結されてもよい。
【0051】
一般的組換えDNA方法
本発明は、セルピンポリペプチド、セリンプロテアーゼポリペプチド、および/またはセリンプロテアーゼ-セルピン融合ポリペプチドの調製のために、組換え遺伝学の分野における日常的技術を用いてもよい。本発明における使用の一般的方法を開示する基礎教科書は、Sambrook および Russell, Molecular Cloning, A Laboratory Manual (3rd Ed, 2001); Kriegler, Gene Transfer and Expression: A Laboratory Manual (1990);ならびにCurrent Protocols in Molecular Biology (Ausubel et al., eds., 1994-1999)を含む。
【0052】
PSA、セルピンおよびPSA-セルピン結合体の発現
例えばPSAのようなセリンプロテアーゼ、または例えばACTのようなセルピン、または例えばPSA-ACTを含む融合タンパク質は、当技術分野において周知の技術を使用して発現され得る。動物細胞、昆虫細胞、細菌、カビ、および酵母のような真核および原核の宿主細胞が使用されてもよい。単離された核酸を発現する際の宿主細胞の使用に関する方法は、当業者に周知であり、かつ例えば、前記の一般的参照において見出すことが可能である。従って本発明は、本明細書に記載される核酸を含む宿主細胞および発現ベクターも提供する。
【0053】
セリンプロテアーゼ、セルピン、もしくは融合タンパク質をコードする核酸は、標準的な組換え技術または合成技術を使用して作製され得る。核酸は、RNA、DNA、またはその混成体であってもよい。当業者は、同一ポリペプチドをコードする核酸のような機能的に等価な核酸を含む様々なクローンを構築し得る。これらの目的を達成するクローニング方法、および核酸の配列を検証する配列決定法は、当技術分野において周知である。
【0054】
いくつかの態様において、核酸はインビトロで合成される。デオキシヌクレオチドは、例えばNeedham-VanDevanter et al., Nucleic Acids Res. 12: 6159-6168 (1984)において記載されるように、自動合成機を使用して、Beaucage および Caruthers, Tetrahedron Letts. 22(20): 1859-1862 (1981)によって記載される固相ホスホラミダイトトリエステル法に応じて化学的に合成されてもよい。他の態様において、所望のタンパク質をコードする核酸が、例えばPCRのような増幅反応によって得られてもよい。
【0055】
当業者は、所定のポリペプチド配列の代替物または変種を生成する多数の他の方法を認識すると考えられる。最も一般的には、ポリペプチド配列は、対応する核酸配列を変化させ、かつポリペプチドを発現することによって改変される。
【0056】
当業者は、本明細書で言及される配列、ならびにPSAおよびセルピンの構造および機能に関する、当技術分野において容易に利用可能な知識に基づき、本発明の所望の核酸またはポリペプチドを選択し得る。先述のように、活性部位を含むこれらのタンパク質の物理的特徴および一般的特性は、熟練従事者に公知である。
【0057】
PSA、セルピンまたはPSA-セルピン融合の高いレベルの発現を得るために、転写を方向付けるプロモーター、転写/翻訳終結因子、翻訳開始のためのリボソーム結合部位等といったようなエレメントを含む発現ベクターが構築される。適切な細菌プロモーターは、当技術分野において周知であり、かつ例えば、本明細書の上記で引用される発現クローニング方法およびプロトコールを提供する参照文献中に記載される。リボヌクレアーゼを発現する細菌発現システムは、例えば大腸菌(E. coli), バチルス種(Bacillus sp.)およびサルモネラ(Salmonella)(Palva, et al., Gene 22: 229-235 (1983); Mosbach, et al., Nature 302: 543-545 (1983)も参照)において利用可能である。そのような発現システムのためのキットは、市販されている。哺乳動物細胞、酵母および昆虫細胞のための真核発現システムは、当技術分野において周知であり、かつ市販もされている。
【0058】
プロモーターに加え、発現ベクターは、宿主細胞における核酸の発現に必要とされる全ての更なるエレメントを含む転写ユニットまたは発現カセットを、典型的に含む。従って、典型的な発現カセットは、PSAまたはセルピンまたは融合タンパク質をコードする核酸配列へ機能的に連結されたプロモーター、ならびに効率的な転写物のポリアデニル化、リボソーム結合部位、および翻訳終結に必要とされるシグナルを含む。発現システムに依存して、PSA、セルピン、または融合タンパク質をコードする核酸配列は、形質転換された細胞によってコードされたタンパク質の分泌を促進するために、切断可能なシグナルペプチド配列へ連結されてもよい。
【0059】
上に記述されるように、効率的な終結を提供するために、発現カセットは構造遺伝子の下流に転写終結領域も含むべきである。終結領域は、プロモーター配列と同一遺伝子から得られてもよく、または異なる遺伝子から得られてもよい。
【0060】
細胞中へ遺伝情報を伝達するために使用される特定の発現ベクターは、とりわけ重大ではない。真核または原核の細胞中での発現のために使用される、任意の従来型ベクターが使用されてもよい。標準的細菌発現ベクターは、pBR322に基づくプラスミド、pSKF、pET15b、pET23D、pET-22b(+)のようなプラスミド、ならびにGSTおよびLacZのような融合発現システムを含む。簡便な単離方法を提供するために、例えば6-hisのようなエピトープタグも、組換えタンパク質へ追加され得る。これらのベクターは、コード配列を含む発現カセットに加えて、T7プロモーター、転写開始因子および終結因子、pBR322 ori部位、blaコード配列、ならびにlacIオペレーターを含む。
【0061】
RNAse分子をコードする核酸配列、または融合タンパク質を含むベクターは、大腸菌、他の細菌宿主、酵母、ならびにCOS、CHOおよびHeLa細胞株およびミエローマ細胞株のような、様々な高等な真核細胞を含む様々な宿主細胞において発現されてもよい。細胞に加えて、ベクターは、好ましくは、ヒツジ、ヤギおよびウシのようなトランスジェニック動物によって発現されてもよい。典型的には、本発現システムにおいて、組換えタンパク質はトランスジェニック動物の乳汁中に発現される。
【0062】
本発明の発現ベクターまたはプラスミドは、大腸菌のための塩化カルシウム形質転換、および哺乳動物細胞のためのリン酸カルシウム処理、リポソーム融合またはエレクトロポレーションのような周知の方法によって、選択された宿主細胞中へ伝達され得る。該プラスミドによって形質転換された細胞は、amp、gpt、neoおよびhyg遺伝子のような、プラスミドに含有される遺伝子により供与される抗生物質に対する耐性によって選択され得る。
【0063】
一旦発現されると、発現されたタンパク質は、硫酸アンモニウム沈降、カラムクロマトグラフィー(親和性クロマトグラフィーを含む)、ゲル電気泳動等を含む当技術分野の標準的手法に従って精製され得る(一般にR. Scopes, Protein Purification, Springer-Verlag, N. Y. (1982), Deutscher, Methods in Enzymology Vol. 182: Guide to Protein Purification., Academic Press, Inc. N.Y. (1990); Sambrook and Ausubel, 双方共に前記を参照)。
【0064】
安定性アッセイ法
本発明のPSA-セルピン複合体は、先行技術のPSA-セルピン複合体と比較して、共有結合が以下の条件下においてpH安定であり、かつ不可逆的であるという点において、安定である。例えば自発的に生じるPSA-ACT複合体のような先行技術のPSA-セルピン複合体は、例えば過剰量の精製されたACTのようなセルピンの非存在下において、一定期間保管される際に、7.0またはそれより大きいpHで加水分解に供される。本発明のPSA-ACT複合体(または他のPSA-セルピン複合体)が本発明の文脈内において安定か否かを決定するために、当業者は、例えば約7.0のpHでアルブミン(HSAもしくはBSAまたはそれらの組み合わせのいずれか)バッファーのようなバッファー中において、PSA-セルピンをインキュベートすることができる。例示的バッファーは、EDTA、重炭酸ナトリウム、リン酸および4 g/dLのタンパク質を有する生理食塩水を含む緩衝化タンパク質溶液である。PSA-セルピンは、例えば、少なくとも5日間、またはより頻繁には30日間もしくは36日間のような一定期間、開放バイアルで保たれる(実施例2を参照)。例えば、複合体中の約10%未満のPSAが複合体から遊離する場合のように、複合体から遊離する測定可能なPSAの検出がない場合には、複合体は安定であると考えられる。全PSAおよび遊離PSAは、例えば免疫学的試験(例えば、遊離および全PSAに関するRoche Elecsysキット)を使用して検出され得る。
【0065】
当技術分野において理解されるように、例えば、PSA-ACT複合体のような本発明の安定なセルピン-プロテアーゼ複合体は、7.0以外のpHで使用されてもよい。例えば、合成共有結合によって連結されたPSA-ACT複合体も、約5.5またはそれを上回るpH、例えば約6.0、約6.5、約7.0または約7.5またはそれを上回るpHで安定であり、かつ従って、それらのpHで遂行されるアッセイ法において使用され得る。合成共有結合を有する安定なPSA-ACT複合体も典型的に、自発的に形成するPSA-ACT複合体と比較すると、より低いpHでより安定である。
【0066】
キット
本発明はまた、例えばPSA-ACTのような本発明のセリンプロテアーゼ-セルピン複合体を含むキットを提供する。PSA-ACT複合体は、例えば多検体解析キットを含む、患者中のPSAレベルを測定するキットにおける対照として含まれ得る。さらに本発明は、それ自身とのまたは他の分子との相互作用を介して、自身のまたは他の解析物の安定性もしくは性能を損なうプロテアーゼを含む、任意の免疫アッセイキットまたは対照へ適用され得る。
【0067】
実施例
実施例1. ACT-PSA結合体の調製
当技術分野において周知である二段階のカルボジイミド媒介の結合反応を使用して、ACTをPSAへ化学的に結合した。つまり、0.03 ng/mLの濃度を用いて、pH 6.0の冷却リン酸緩衝食塩水(PBS)溶液中でPSAを調製する。1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピルカルボジイミド)塩酸(EDAC)およびN-ヒドロキシ硫酸コハク酸アミド(NHSS)溶液を調製し、かつ冷却する。続いてこれらの2つの溶液を一緒に反応させ、かつ2時間インキュベートする。次に、ACT溶液を、調製し、PSA/EDAC/NHSS溶液に添加する。PSAのACTとの結合を可能にするため、この混合物を2時間インキュベートできる。インキュベーションに続き、任意の非結合性EDAC/NHSSを除去するため、3500の規格分子量(MW)カットオフの膜を使用して、結合されたPSAの溶液をpH 7.0の冷却リン酸緩衝食塩水に対して透析する。
【0068】
実施例2. ACT-PSA結合体の安定性
結合体が7.0を上回るpHで安定について決定するため、実施例1において生成されたACT-PSA結合体の安定性を試験した。開放バイアル安定性調査および、促進(accelerated)安定性調査において安定性を試験した。例示的な開放バイアル安定性評価において、2〜8℃で割り当てられた時間、バイアルを冷却し、かつ各実験日に冷却装置から除去し、かつ室温に達するまで実験台上に静置する。続いてバイアルを混合し、かつ空気を入れるためにキャップを除去する。キャップを交換し、かつ試料を冷却装置へ戻す。このアッセイ法は、産物の典型的な日常使用を模倣するために設計される。促進安定性調査においては、解析物の分解を促進するため、バイアルを保管温度より高い様々な温度で静置する。
【0069】
PSA-ACT結合体は、血清において、バッファーにおいて、ならびに液体および凍結乾燥された状態の双方において安定である。例えば安定性アッセイ法においては、バイアルを室温にし、バイアルを開放し、バイアルを閉め、かつ続いて2〜8℃で再度保管した17日後に、血清中では全PSAの回復において2%未満の変化、および遊離PSAの回復に関しては3%未満の変化があったことが観察された。これは33 ng/mLのPSA濃度であった。
【0070】
例示的安定性アッセイ法におけるバッファー中では、バイアルを2〜8℃で保管し、続いて室温になるよう取り出し、バイアルを開放し、かつ続いて閉め、かつバイアルを2〜8℃へ戻す同一プロトコールに関しては、36日後での遊離PSAに関して1%未満、および全PSAに関して約1%の軽微な減少があった。この実施例における全PSAの濃度は、40 ng/mLであった。遊離PSAおよび全PSAは、0.1 ng/mL〜35 ng/mLで安定であった。
【0071】
実施例3. ACT-PSA結合体の使用
セルピンの付着を介して安定化されたPSAは、臨床研究対照、補正物質または試薬として使用され得る。安定化されたPSAに関する使用例は、多検体解析対照試料中で実証され得る。ACTへの結合を介するPSAの安定化は、様々なpH設定での向上された安定性を可能にする。関心対象の他の臨床解析物は、他の当該臨床解析物の安定性に関しての至適pHで、多検体解析対照試料中に含まれ得る。非結合PSAは、pH5〜6のような狭く、わずかに酸性のpHの範囲内においてのみ比較的安定である。本発明は、例えば約pH7を上回るようなpH範囲でのPSAの安定性を可能にし、かつ4〜8のpH範囲で典型的に用いられる。他の当該解析物の安定性を提供するために、対照試料のpHを中性からわずかに塩基性にすることによって、本発明は、例えば中性から塩基性pHのようなPSAに関して通常好ましくないpH値で、安定なPSAの対照への含包を可能にする。
【0072】
結合体の効率を実証するために、記載された手法に従って、非結合PSAおよび結合PSA-ACTを用いて比較試料を調製した。続いて、33日間の開放バイアル安定性試験へこれらの試料を供した。関心対象の解析物は、全PSAおよび遊離PSAであり、かつアボットアキシム(Abbott Axsym)機器システムで試験した。非結合PSA試料に関する結果は、全PSAおよび遊離PSAに関して、それぞれ26.4%、43.7%の損失パーセンテージを得た。結合PSA-ACT試料は、全PSAおよび遊離PSAに関して、それぞれ3.2%、3.7%の損失パーセンテージを得た。これは、臨床研究対照、補正物質または試薬中の使用に関するPSA安定性の効率において、有意な向上を表す。
【0073】
本明細書において引用される全ての刊行物、特許、アクセッション番号、および特許出願は、個々の刊行物または特許出願がそれぞれ、具体的かつ別個に参照により組み入れられることが示されるように、参照により本明細書に組み入れられる。
【0074】
先述の発明は、理解を明確にする目的のために、例示および実施例によっていくらか詳細に記載されているが、本発明の教示を踏まえて、添付の特許請求の範囲の趣旨または範囲を逸脱することなく、それらに対する特定の変更および改変がなされ得ることが、当業者にとって容易に明白であると考えられる。
【0075】
配列番号:1 例示的ヒトPSAタンパク質配列(成熟タンパク質)

配列番号:2 例示的ヒトACTタンパク質配列(成熟タンパク質)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
PSAおよびセルピンが少なくとも一つの合成共有結合によって連結される、セルピンへ連結された前立腺特異的抗原(PSA)を含む結合体。
【請求項2】
セルピンがα1アンチキモトリプシン(ACT)である、請求項1記載の結合体。
【請求項3】
セリンプロテアーゼおよびセルピンがアミド結合によって連結される、請求項1記載の結合体。
【請求項4】
セリンプロテアーゼおよびセルピンがアミン-アミン酸結合によって連結される、請求項1記載の結合体。
【請求項5】
セリンプロテアーゼおよびセルピンがスルフヒドリル-アミン結合によって連結される、請求項1記載の結合体。
【請求項6】
セリンプロテアーゼおよびセルピンがスルフヒドリル結合によって連結される、請求項1記載の結合体。
【請求項7】
組換え融合タンパク質を形成するためにPSAおよびセルピンが組換えにより連結される、セルピンへ連結された前立腺特異的抗原(PSA)を含む結合体。
【請求項8】
セルピンがACTである、請求項7記載の結合体。
【請求項9】
架橋剤を使用してPSAをセルピンへ化学的に連結させる段階を含む、前立腺特異的抗原(PSA)をセルピンへ結合する方法。
【請求項10】
セルピンがACTである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
架橋剤がマレイミド架橋試薬である、請求項9記載の方法。
【請求項12】
プロテアーゼ-セルピン融合タンパク質の組換え発現を含む、プロテアーゼをセルピンへ結合する方法。
【請求項13】
プロテアーゼがPSAであり、かつセルピンがACTである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
請求項1記載の結合体を含む、組成物。
【請求項15】
請求項1記載の結合体を含む、キット。
【請求項16】
請求項2記載の結合体を含む、組成物。
【請求項17】
請求項2記載の結合体を含む、キット。

【図1】
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【公表番号】特表2010−506835(P2010−506835A)
【公表日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−532418(P2009−532418)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【国際出願番号】PCT/US2007/021766
【国際公開番号】WO2008/048472
【国際公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(507190880)バイオ−ラッド ラボラトリーズ インコーポレーティッド (25)
【Fターム(参考)】