説明

前立腺癌メチル化分析

前立腺癌の診断又は予後判別のためのある分析は、GSTP、APC、及びRARβ2遺伝子のハイパーメチル化の検出を組み込み、かつ、これをノモグラムに組み込むことができる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本出願は、米国特許仮出願第61/086,218号(2008年8月5日)の利益を主張する。
【0002】
血清前立腺特異抗原(PSA)の測定は現在、前立腺癌スクリーニングの医療標準である。PSA検査の特異性の低さから、多数の患者の不要な生検が結果として生じていることが示されており、通常、4ng/mLを超える患者をスクリーニングできるPSA範囲に限定される。
【0003】
新しい分析では、メチル化特異性PCR(MSP)を使用して、前立腺癌の存在を示唆する3つのマーカー(GSTP1、RARβ2及びAPC)のプロモーター領域内にあるCpG島のメチル化(後成的変化)を検出する。この分析は、これまでに、9ヶ所の医療機関で採取されたDRE後の尿検体337件で評価が行われている(癌及び異型性187件/非癌150件)。患者は40〜75歳の年齢範囲であり、PSAレベルは2〜10ng/mLである。この分析の生検組織の前立腺癌の検出については、組織学検査による判定により、感受性52%及び特異性81%が観察された。ロジスティック回帰アルゴリズムにより、この分析については0.67の曲線下面積(AUC)値が提示された。この分析をノモグラム又はPCPTリスクカルキュレーターと共に使用した場合、ノモグラム又はPCPTリスクカルキュレーターのみの場合に比べて、AUCの増加(0.69及び0.72)、並びに、示された統計的有意性(p=0.008及び0.043)が提示された。陽性であるマーカーが1つ(48%)、2つ(60%)、又は3つ(71%)であった場合、同じ被験者について、この分析の陽性適中率は増大した。最適化された分析手順に従って、180件のDRE後尿検体(癌及び異型性103件/非癌77件)のサブセットが調製された場合、感受性60%及び特異性81%(AUC 0.72)が観察された。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、前立腺癌に関連する遺伝子のハイパーメチル化を検出するための分析に関連し、GSTP1、APC、RARβ2又はこれらの組み合わせの存在を検出するための試薬を含む。
【0005】
本発明の別の態様において、この試薬には、表1に記載されているプライマー、プローブ、及びスコーピオン試薬からなる群から選択されるプライマー、プローブ、又はスコーピオン試薬が含まれる。
【0006】
本発明の別の態様において、この分析は、前立腺癌が疑われる患者の診断又は予後を判定するため、ノモグラムと共に使用される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
GSTP、APC、及びRARβ2マーカーの検出を含むハイパーメチル化分析は、例えば、米国特許公報第20080254455号に記載されており、これは参考として本明細書に組み込まれる。これらの分析は現在改善されており、他の診断及びリスク因子指標と共に使用することができる。
【0008】
一見健康で、前立腺癌の既往のない男性337人からなる母集団での研究において、9ヶ所の異なる泌尿器科医療施設で尿検体が採取された。定義されたDREの後、尿検体(最高40mL)が採取された。このDREには、前立腺表面を0.5〜1.0cm押し、底部から頂部へ、及び側方から正中線方向へと移動し、1葉当たり最低3回押すことが含まれる。採尿容器の内容物を、0.5M EDTAが800μL入った50mL輸送用試験管に移した。この輸送用試験管を採取後最長3日間、2〜8℃で保管し、標準の氷詰めと共に翌日到着便で輸送された。受け取り次第、輸送用試験管をすぐに4℃で10分間、3000gの遠心分離にかけるか、又は二等分量に分けてから、4℃で10分間、3000gの遠心分離にかけた。尿検体を分割したのは、検体調製の最適化と、全体の性能の見積りとに役立てるためである。上清を捨て、結果として得られたペレットを冷PBSで洗った。DNAは、パッケージ同梱書類に従い、Gentra Puregene Kit(Qiagen社(ドイツ))を使用して抽出され、及び、Epitect Kit(Qiagen社(ドイツ))を使用して修飾された。検体はすべて、25μLの容積に抽出された。修飾DNA 5μLを、SmartCycler(Cepheid社(カリフォルニア州サニーベール))で前立腺癌メチル化分析を使用して分析した。
【0009】
2工程の多重MSP分析において使用するため、3つのメチル化マーカー(GSTP1、RARB、及びAPC)用のプライマー及びスコーピオンプローブ(Biosearch Technologies社(カリフォルニア州ノバート))、並びに内部対照のβ−アクチンが選択された。第1工程の増幅では、5μLの増幅混合物、5μLの酵素混合物及び5μLの検体を、SmartCap管(Cepheid社(カリフォルニア州サニーベール))に加えた。酵素混合物は、増幅工程及び検出工程の両方で使用する目的で配合され、8mM Tris−HCl(pH8.0)、5mM KCl、0.005% BSA、0.6U/μL FastStart Taq DNAポリメラーゼ、及び0.016%ProClin(登録商標)300を含む。
【0010】
増幅工程サイクルは次の通りであった:95℃で5分間、次に95℃で20秒間、55℃で30秒間、70℃で30秒間、及び70℃で5分間のサイクルを18サイクル。増幅混合物は、8種のプライマーとして、各20nMのGSTP1、RARB、APC、16nMのβ−アクチン、75mMのD−トレハロース無水物、0.1%のTween(登録商標)20溶液10%、25mMのTris−HCl(pH8.0、1M)、1.75mMのMgCl溶液、1%のDMSO、0.155mMのdNTP混合物、0.016%のProClin(登録商標)300を含む。
【0011】
増幅工程が完了したら、SmartCap管を装置から取り出した。第2工程である検出工程には、5μLの検出混合物及び5μLの酵素混合物をSmartCap管に加えることが含まれた。分析サイクルは次の通りであった:95℃で5分間、次に95℃で20秒間、及び55℃で30秒間のサイクルを40サイクル。検出混合物は、次の点を除き、上記の増幅混合物に記述されているものと全く同様に配合された:8種のプライマーの代わりに、4種のプライマーとして各200nMのGSTP1、RARB、APC及びβ−アクチン、並びに4つのスコーピオンプローブとして各200nMのGSTP1、RARB、APC及びβ−アクチンを使用した。分析の有効性を判定するために、各分析実施において、陰性(β−アクチン)及び陽性(GSTP1、APC、RARβ2)の合成外部対照が利用された。
【0012】
分類分析は、研究母集団における患者の既知の生検結果に基づいて行われた。サイクル閾(Ct)値は、GSPT1、RARβ2及びAPCマーカーに関する独立した分析カットオフを生成するのに使用された。不十分なDNA量によって生じた無試験率(NTR)を判定するには、β−アクチンのCt値カットオフが使用された。検体は、3つのメチル化マーカーのうちの1つのCt値が既定のカットオフ値を下回った場合、メチル化に関して陽性と見なされた。既定のカットオフ値を上回るCt値の検体は、メチル化に関して陰性として記録された。NTRは、β−アクチンのCtカットオフに基づいて算出された。操作受診者曲線下面積(AUC)値は、受診者操作特性(ROC)分析に基づいて算出された。単独マーカー及び複数マーカー分析のAUC値は、MedCalc(MedCalc Software社(ベルギー))を使用して生成された。ロジスティック回帰モデルは、複数マーカー分析について、MedCalcを使用して生成された。
【0013】
この分析は、前立腺癌患者を、生検結果が陰性の患者から区別する性能について評価された。生検結果が陰性及び陽性の男性におけるGSTP1、RARβ2、及びAPCのCt値は、有意に差があり(それぞれp=0.009、0.000及び0.039)、陽性のROC曲線を示した。3つのマーカーを合わせて、この分析は、生検組織に対する組織学的所見による判定により、前立腺癌の検出に関して、52%の感受性及び81%の特異性を示した(84件の癌、及び104件の非癌が正しく検出された)。この分析における偽陽性の多くは、異常なDREを有していた、及び/又は複数のマーカーが陽性であった。偽陽性の説明として可能性があるものとしては、前立腺生検時のサンプリングエラー、又は、メチル化されたが癌ではない前立腺細胞の存在がある。3つのマーカーすべてを用いたロジスティック回帰アルゴリズムの結果、AUC値は0.67であった。合計血清PSAは、誰が前立腺生検を受けるべきかを判定するリスク因子として一般的に利用されている。PSAの性能と、前立腺癌メチル化分析の性能とが比較された。PSAのROC曲線分析は、この研究母集団においてAUCが0.55を示したが、本発明の分析は、PSAのみの場合に比べて、統計的有意性(p=0.01)を示した。より重要なこととして、単一変数及び複数変数の両方のロジスティック回帰モデルによって、この分析は、複数のリスク因子を分析した場合でさえも、前立腺癌についての有意な予測指標であった(p=0.001)。
【0014】
PSA単独よりも、ノモグラム又は予測アルゴリズムにおける複数リスク要因の組み合わせは、より優れた有効性と効率をもたらしていることが、出版されている文献においてますます大きな傾向となっている。前立腺癌メチル化分析、PSA、DRE結果、及び患者の年齢を含む一般的に使用されているノモグラム、並びにPCPTリスクカルキュレーターの比較が示されている。PCPTリスクカルキュレーターパラメーターについての情報は、253人の被験者から入手された。このノモグラムを使用したロジスティック回帰アルゴリズムは、AUC値が0.61の結果を生じた。興味深いことに、PCPTリスクカルキュレーターは、AUCが0.67の結果を生じた。前立腺癌メチル化分析は、ノモグラム又はPCPTリスクカルキュレーターと比較したとき、統計学的に有意ではなかった(それぞれp=0.150及び0.935)。しかしながら、この分析は、ノモグラム又はPCPTリスクカルキュレーターと共に使用した場合、ノモグラム又はPCPTカルキュレーター単独の場合に比べて、AUCを改善し(それぞれ0.69及び0.72)、統計的有意性を示した(それぞれp=0.008及び0.043)。前立腺癌メチル化分析を更に評価するために、個々の医療機関からのデータが評価された。ROC曲線の独立分析が実施された場合、医療機関と試験全体の母集団との間の差は、有意ではなかった。
【0015】
この分析の適中率は、GSTP1、RARβ2及びAPCマーカーの高い特異性により強調される。患者コホートが、マーカー1つが陽性、マーカー2つが陽性、又はマーカー3つが陽性の場合に従って階層化された場合、この分析性能の陽性適中率(PPV)が改善された(48%〜71%)。このことは、この分析で、2つ又はそれ以上のマーカーが存在する場合、癌を有する可能性が高いということを示す。
【0016】
前立腺細胞のメチル化分析の適中率は、この分析の高い特異性によって強調される。これは、発現に基づく分析に比べて、MSP手法を採用していることによるものであり得る。この分析のマーカーは、それぞれ90%、89%及び95%と、高い特異性を示した。PCA3マーカーに対するこの分析の他の利点は、3遺伝子多重分析の独特の性質により、患者が複数のマーカーを呈した場合に、臨床医がより高い信頼度を有することができる点である。25%癌罹患率でこの分析で観察されたPPVは、同じ被験者において、1つ(48%)、2つ(60%)、又は3つ(71%)のマーカーが陽性である場合に向上した。
【0017】
分析スコアを供給するのに使用されたアルゴリズムは、メチル化特異性PCR(MSP)Ct値の線形混合のロジスティック関数に基づいており、生検陽性の確率に関連づけられる。このモデルは、各個人を、高リスク値又は低リスク値に配置するため、判断がより容易になる。具体的には、「高」スコア(60.00より大)は尤度比が3.0より大となり、「低」スコア(29.00より小)は尤度比が0.35より小となる。このスコアにより、患者は、生検陽性を有する確率に関して、より多くの情報を踏まえた議論を医師と行うことが可能になる。
■ スコア=100×1/[1+exp(線形Ct混合)]、
■ 式中、「線形Ct混合」は治験データに基づいて形成される:
■ 1.7887+(−0.0686×GSTP1_Ct)+(−0.03947×RARβ2_Ct)+(−0.01263×APC_Ct)+(0.09862×β−アクチン_Ct)
【0018】
他の既知のリスク因子と組み合わせた分析スコアは、陽性の前立腺生検の予測における、統計学的に有意な因子となる。このリスク因子には、年齢、前立腺癌の家族歴、PSA濃度、人種、及び以前の陰性の前立腺生検が挙げられる。
【0019】
表1の設計は、CpGM及びCpGU DNAについてマーカーが評価された場合の、元の実行可能性設計に比べて、改善された特異性を示す。CpGUに比べてCpGMのCt値の差が大きいほど、マーカー設計の特異性が大きくなる。
【0020】
【表1】

【0021】
元のGSTP1スコーピオン設計の不適切な折り畳みは、taq開裂の基質として作用する可能性があり、これにより、失活分子の分解が生じ、新しいGSTP1設計に比べて、バックグラウンドでの一定のずれが生じる。新しい設計は、全体的な性能を向上させる。
【0022】
〔実施の態様〕
(1) GSTP1、APC、RARβ2又はこれらの組み合わせの存在を検出するための試薬を含む、前立腺癌に関連する遺伝子のハイパーメチル化を検出するキットであって、前記試薬には、表1に示されているプライマー、プローブ、及びスコーピオン試薬からなる群から選択されるプライマー、プローブ、又はスコーピオン試薬が含まれる、キット。
(2) GSTP1、APC、RARβ2遺伝子又はこれらの組み合わせのハイパーメチル化を試薬で検出することを含み、ここにおいて該試薬には、表1に示されているプライマー、プローブ、及びスコーピオン試薬からなる群から選択されるプライマー、プローブ、又はスコーピオン試薬が含まれる、前立腺癌の診断又は予後判定の方法。
(3) ハイパーメチル化の分析が、前立腺癌の診断又は予後判定の他のリスク因子又は指標と共に使用される、実施態様2に記載の方法。
(4) 他のリスク因子が、ノモグラムに含まれる、実施態様3に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GSTP1、APC、RARβ2又はこれらの組み合わせの存在を検出するための試薬を含む、前立腺癌に関連する遺伝子のハイパーメチル化を検出するキットであって、前記試薬には、表1に示されているプライマー、プローブ、及びスコーピオン試薬からなる群から選択されるプライマー、プローブ、又はスコーピオン試薬が含まれる、キット。
【請求項2】
GSTP1、APC、RARβ2遺伝子又はこれらの組み合わせのハイパーメチル化を試薬で検出することを含み、ここにおいて該試薬には、表1に示されているプライマー、プローブ、及びスコーピオン試薬からなる群から選択されるプライマー、プローブ、又はスコーピオン試薬が含まれる、前立腺癌の診断又は予後判定の方法。
【請求項3】
ハイパーメチル化の分析が、前立腺癌の診断又は予後判定の他のリスク因子又は指標と共に使用される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
他のリスク因子が、ノモグラムに含まれる、請求項3に記載の方法。

【公表番号】特表2011−530287(P2011−530287A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522220(P2011−522220)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【国際出願番号】PCT/US2009/052861
【国際公開番号】WO2010/017301
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(505060347)ベリデックス・エルエルシー (43)
【氏名又は名称原語表記】Veridex,LLC
【住所又は居所原語表記】33 Technology Drive,Warren,NJ 07059,U.S.A.
【Fターム(参考)】