説明

前立腺関連抗原由来HLA−A2結合性ペプチド

【課題】 前立腺癌に対する新規治療手段を提供する。
【解決手段】 HLA-A2抗原に結合して細胞傷害性Tリンパ球によって認識され得る能力を有し、かつ液性免疫応答によって認識される、前立腺関連抗原由来癌抗原ペプチド、または機能的に同等の性質を有するその誘導体は、前立腺癌の処置または予防に有用であり得る。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、癌抗原ペプチドに関し、具体的には、HLA-A2前立腺癌患者において前立腺癌反応性CTLを誘導することができる前立腺関連抗原由来の新規ペプチド、該ペプチドを含有する医薬組成物および癌ワクチン、および、該ペプチドまたは該ペプチドを含有する組成物または癌ワクチンを使用する前立腺癌の処置または予防方法に関する。
【0002】
[背景技術]
前立腺癌は老齢男性の間で最も一般的な癌の1つである(1)。腫瘍免疫学における進歩ではメラノーマ抗原の研究が先行しているが、前立腺癌は特異的免疫療法にとってもう一つの標的候補である(2)。アンドロゲン遮断療法が前立腺癌に一時的に効果的であるという事実はあるが、再発性ホルモン不応性および転移性前立腺癌に対する有効な治療は存在しない。それ故、新規治療手段を開発する必要があり、特異的免疫療法は候補の1つであろう。
【0003】
正常前立腺細胞で発現する前立腺組織特異的抗原は、前立腺癌に対する抗癌ワクチンにおいて優れた標的と成り得る(2)。実際、前立腺特異的抗原(PSA)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、または前立腺酸性フォスファターゼ(PAP)などの前立腺関連抗原に由来する幾つかのエピトープペプチドが同定され、それらを標的とした特異的免疫療法が行われている(3-7)。最近我々も、HLA-A24またはHLA-A2分子陽性前立腺癌患者から前立腺癌反応性細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を誘導できる、幾つかの前立腺関連抗原由来エピトープペプチドを同定した(8-11)。
【0004】
幾つかの癌タイプに関する我々の臨床試験において、腫瘍反応性CTL誘導能によって元々同定されていた幾つかのCTLエピトープペプチドが、免疫グロブリンG(IgG)によっても認識された(12, 13)。さらに、臨床試験によって、投与ペプチドに反応するIgGの誘導が、幾つかの癌タイプの患者の全体的生存率と正に相関していることが明らかとなった(14-17)。これらの知見から、我々は、液性および細胞性免疫系の両方に認識され得るペプチドは抗癌ワクチンにおいて有用であろう、と考えた。さらに、ペプチド特異的IgGについてのアッセイは、癌患者の末梢血単核細胞(PBMC)からペプチド特異的CTLを誘導するために必要なin vitro感作実験よりも、より簡便である。
【0005】
[発明の概要]
これまでに、HLA-A2前立腺癌患者において前立腺癌反応性CTLを誘導し得る幾つかの前立腺関連抗原由来ペプチドが同定されているが(4, 24, 25)、我々は本研究において、液性免疫応答によって認識され得る能力に基づいた新規エピトープペプチドの同定を試みた。
【0006】
クラスI結合性腫瘍ペプチドに対する抗体が一部の癌患者および健常ドナーにおいて既に観察されていることから(20, 21)、初めに我々は、2種類の前立腺関連抗原に由来する29個の候補ペプチドに対するIgGが前立腺癌患者の血漿中に検出できるかについて検討した。本研究において、試験した患者の半数以上で、PSMA4-12、PSMA441-450、およびPAP112-120 ペプチドに反応するIgGが検出された。それらの中でPSMA4-12 ペプチドは、前立腺癌反応性CTLを誘導可能なペプチドとして他の研究者によって報告されていた(4)。それ故我々は、PSMA441-450およびPAP112-120ペプチドに焦点を絞り、ワクチン候補としてのそれらの免疫原性を測定した。その結果、これら2つの前立腺関連抗原由来ペプチドは、HLA-A2前立腺癌患者から前立腺癌反応性CTLを効果的に誘導することが明らかとなり、本発明が完成された。
【0007】
[好ましい態様の説明]
本発明は以下のものを提供する:
(1) HLA-A2抗原に結合して細胞傷害性Tリンパ球によって認識され得る能力を有し、かつ液性免疫応答によって認識される前立腺関連抗原由来ペプチド、または機能的に同等の性質を有するその誘導体;好ましくは、前立腺関連抗原が前立腺特異的膜抗原または前立腺酸性フォスファターゼであるペプチドまたは機能的に同等の性質を有するその誘導体;具体的には、配列番号1に示すアミノ酸配列を含む前立腺特異的膜抗原由来ペプチドまたは機能的に同等の性質を有するその誘導体、あるいは配列番号2に示すアミノ酸配列を含む前立腺酸性フォスファターゼ由来ペプチドまたは機能的に同等の性質を有するその誘導体;より具体的には、癌抗原ペプチドである本発明のペプチドおよび8から15アミノ酸残基の長さを有する本発明のペプチド;
(2) 活性成分として上記(1)記載の癌抗原ペプチドまたはその誘導体を含有する医薬組成物、具体的には、活性成分として上記(1)記載の癌抗原ペプチドまたはその誘導体を含有する、前立腺癌を処置または予防するための医薬組成物;および、
(3) HLA-A24抗原と上記(1)記載のペプチドまたはその誘導体との複合体を特異的に認識する細胞傷害性Tリンパ球、および活性成分として該細胞傷害性Tリンパ球を含有する前立腺癌を処置するための医薬組成物。
【0008】
本明細書で用いる「前立腺関連抗原由来ペプチド」なる用語は、前立腺関連抗原の一部を含む部分ペプチドを意味する。前立腺関連抗原には、前立腺特異的抗原(PSA)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)および前立腺酸性フォスファターゼ(PAP)が含まれる。前立腺特異的抗原(PSA)はカリクレイン様セリンプロテアーゼであり、PSAのアミノ酸配列は、Henttu, P. and Vihko, P.: cDNA coding for the entire human prostate specific antigen shows high monologies to the human tissue kallikrein genes. Biochem Biophys Res Commun. 160: 903-910, 1989に開示されている。前立腺特異的膜抗原(PSMA)は膜結合性糖タンパク質であり、PSAのアミノ酸配列は、Israeli RS, Powell CT, Fair WR, et al., :Molecular cloning of a complementary DNA encoding a prostate-specific membrane antigen. Cancer Res., 53; 227-230, 1993に開示されている。前立腺酸性フォスファターゼ(PAP)はポリペプチドであり、PSAのアミノ酸配列は、Yeh LC, Lee AJ, Lee NE. et al., : Molecular cloning of cDNA for human prostatic acid phosphatase. Gene 60: 191-196, 1979に開示されている。
【0009】
詳細には、本発明のペプチドは、HLA-A2抗原に結合して細胞傷害性Tリンパ球によって認識され得る能力を有し、かつまた液性免疫応答によって認識される癌抗原ペプチドである。本発明の癌抗原ペプチドの同定は、前立腺関連抗原の一部を含む候補ペプチドを合成し、それらが免疫グロブリンG(IgG)によって認識され得るか、およびそれらがペプチド特異的細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を誘導し得るかについてスクリーニングすることによって行うことができる。
ペプチド合成は、ペプチド化学において通常用いられる方法に従い行うことができる。既知の方法の例は、「Peptide Synthesis」, Interscience, New York, 1966;「The Proteins」, vol. 2, Academic Press Inc., New York, 1976;「ペプチド合成」, 丸善株式会社, 1975、などの文献に記載されている。好ましくは、ペプチドは、HLA-A2結合モチーフに基づき合成される。HLA-A2結合モチーフの詳細については、参考文献18および19に紹介されている。候補ペプチドがIgGによって認識され得るかについてのスクリーニングは、通常ELISAによって行うことができる。候補ペプチドがペプチド特異的CTLを誘導し得るかについてのスクリーニングは、通常HLA-A2抗原によって提示された該候補ペプチドがCTLにより認識されるか否かを測定するアッセイにより行うことができる。
本発明の癌抗原ペプチドの具体的同定は、以下に示す実施例に従って行うことができる。
【0010】
本明細書で用いる場合、「機能的に同等の性質を有するペプチド誘導体」または「ペプチド誘導体」なる用語は、そのアミノ酸配列が本発明のペプチドのアミノ酸配列の1個から数個のアミノ酸残基の置換、欠失、および/または付加を含み、かつ癌抗原ペプチドとしての性質を有する、即ちHLA-A2抗原に結合してCTLによって認識され得る能力を有し、かつ液性免疫応答によって認識される変異ペプチドを意味する。
本発明の癌抗原ペプチドまたはその誘導体のアミノ酸配列の好ましい長さは、8から15 アミノ酸残基であり、より好ましくは9から11アミノ酸残基である。
【0011】
本発明の癌抗原ペプチドまたはその誘導体は、前立腺癌を処置または予防するのに使用可能な医薬組成物に含まれ得る。
本発明の癌抗原ペプチドまたはその誘導体の少なくとも1つ、または2つまたはそれ以上の組み合わせは、要すれば免疫調整剤および化学療法剤のような他の抗癌剤と組み合わせて、患者に投与される。癌抗原ペプチドまたはその誘導体は、投与されると抗原提示細胞のHLA-A2抗原とともに高密度で提示され、それ故提示されたHLA抗原複合体に特異的なCTLが増殖し、癌細胞を破壊する。その結果、患者の癌が処置されるか、あるいは癌の増殖または転移が予防され得る。
本発明のペプチドまたはその誘導体を活性成分として含有する組成物は、細胞性および液性免疫を効果的に成立させるため、アジュバントと共に投与してもよい。投与は、皮内投与、皮下投与、または静脈内注射で行ってよい。投与する製剤中の本発明の腫瘍抗原ペプチドまたはその誘導体の量は、例えば処置しようとする疾患の状態、特定の患者の年齢および体重に依存して適宜調節し得るが、通常1週間または2週間毎に0.1 mgから10.0 mg、好ましくは0.5 mgから5.0 mg、より好ましくは1.0 mgから3.0 mgを投与する。
【0012】
さらに、本発明は、HLA-A2抗原と本発明の癌抗原ペプチドまたはその誘導体との複合体を特異的に認識するCTLを提供し、また、活性成分として該CTLを含有する前立腺癌を処置するための医薬組成物を提供する。該組成物は、好ましくは生理食塩水またはリン酸緩衝食塩水(PBS)を含有する。それは、例えば静脈内、皮下、または皮内に投与することができる。
【0013】
[実施例]
本発明を以下の実施例によりさらに説明するが、本発明はいかなる意味においてもそれらに限定されない。データの統計学的有意差は、両側Student's t検定により測定した。0.05未満のp値を、統計学的に有意と判断した。
【0014】
(実施例1)
前立腺関連抗原のHLA-A2結合性ペプチドに反応するIgGについてのアッセイ
1.1 患者
本研究における前立腺癌患者10人全員が、試験に入る前にインフォームドコンセントを提出した(以下の表1)。これらの参加者はいずれもHIVに感染していなかった。末梢血液20mlを得て、Ficoll-Conray密度勾配遠心法によりPBMCを調製した。癌患者および健常ドナーのPBMC上のHLA-A2分子の発現はフローサイトメトリーによって測定し、HLA-A2サブタイプは配列特異的オリゴヌクレオチドプローブ法を用いて決定した。
【0015】
1.2 ペプチド
29個の前立腺関連抗原由来ペプチド(以下の表1に記載)は全て、HLA-A0201結合モチーフ(18, 19)に基づいて調製した。ペプチドは全て純度>90%であり、Biologica Co., Nagoya, Japanより購入した。HLA-A2結合モチーフを有する、インフルエンザ(Flu)ウィルス由来ペプチド(GILGFVFTL)、EBV由来ペプチド(GLCTLVAML)およびHIV由来ペプチド(SLYNTYATL)を対照として使用した。ペプチドは全て、ジメチルスルホキシドを用いて10 mg/mlの量に溶解した。
【0016】
1.3 ペプチド特異的IgGの検出
血漿中のペプチド特異的IgGレベルは、既報の方法を用いてELISAにより測定した(20, 21)。簡単に説明すると、ペプチド(20 μg/ウェル)固相化プレートをBlock Ace(Yukijirushi, Tokyo, Japan)でブロッキングし、0.05% Tween20-PBSで洗浄し、その後0.05% Tween20-Block Aceで希釈した血漿試料を100 μl/ウェルでプレートに添加した。37℃で2時間インキュベートした後、プレートを洗浄し、更に1:1000希釈ウサギ抗ヒトIgG抗体(γ鎖特異的)(DAKO, Glostrup, Denmark)と共に2時間インキュベートした。プレートを洗浄し、その後1:100希釈のヤギ抗ウサギIgG抗体結合西洋ワサビペルオキシダーゼ(EnVision; DAKO)100 μlを各ウェルに添加し、プレートを室温で40分間インキュベートした。プレートを一回洗浄した後、テトラメチルベンジジン基質溶液(KPL, Guildford, UK)を100 μl/ウェルで添加し、1 M リン酸を添加して反応を停止させた。値は吸光度(OD) units/mlとして示した。1:100希釈血漿における吸光度(OD)値0.02をELISAにおけるカットオフ値として使用した。示したペプチドに対するIgGの特異性を確認するため、血漿試料を対応ペプチドまたはHIVペプチドのいずれかでコートしたプレートを用いて培養した。その後、得られた上清における対応ペプチド特異的IgGのレベルをELISAにより測定した。結果を表1に示す。
【表1】

【0017】
我々は、表1に示すように、29個の各ペプチドに反応するIgGが前立腺癌患者10人の血漿において検出できるかについて検討した。既報のように(23)、ペプチド特異的IgGはHLAクラスI分子に拘束されないので、これら患者はHLA-A2被験者に限定しなかった。ペプチドの一覧には、4個の既報ペプチド(PSMA711-719、PSMA4-12、PSMA27-35およびPAP299-307 ペプチド)を含めた。PSMA由来ペプチドについては、PSMA663-671、PSMA711-719、PSMA4-12またはPSMA441-450 ペプチドに反応するIgGが、それぞれ患者10人のうち4人以上で検出された。PSMA711-719およびPSMA4-12 ペプチドは、抗癌ワクチンの候補として以前に報告されていた(4、24)。PAP由来ペプチドについては、PAP112-120 ペプチドに反応するIgGが、患者10人のうち5人で検出された。PAP299-307 ペプチドは以前に抗癌ワクチンの候補として報告されていたが(25)、そのPAP ペプチドに反応するIgGはいずれの患者においても検出されなかった。患者4、5、9、および10の代表的結果を図1Aに示す。我々はまた、9個のPSA由来ペプチド(Biologica Co.)を準備し、PSA170-178またはPSA178-187 ペプチドに反応するIgGを、それぞれ患者10人のうち5人において検出した(データ非提示)。興味深いことに、これら2個のPSA ペプチドもまた、HLA-A2前立腺癌患者のためのワクチン候補として以前に報告されていた(26, 27)。既報のペプチドに加えて、PSMA441-450およびPAP112-120 ペプチドの両方が液性免疫系によって効果的に認識されることがわかった。PSMA441-450またはPAP112-120 ペプチドのいずれかに反応するIgGのレベルは、対応ペプチドでコートしたプレートにおいてその血漿を培養すると減少したが、無関係なHIVペプチドでコートしたプレート中では減少しなかった(図1B)。これらの結果は、ELISAシステムがペプチド特異的IgGを抗原特異的に検出したことを示している。
【0018】
(実施例2)
PBMCにおけるペプチド特異的CTLについてのアッセイ
我々は次に、実施例1で決定された上記2個の候補ペプチドが、HLA-A2癌患者のPBMCからペプチド特異的CTLを誘導する能力を有するか否かについて調べた。3個の既報ペプチド、PSMA711-719、PSMA4-12およびPAP299-307 ペプチドを本実験の陽性対照として含めた。さらに、PSMA 26-34およびPAP390-398 ペプチドの両方を、液性免疫系によって認識されないペプチドとして含めた。
PBMCにおけるペプチド特異的CTLを検出するためのアッセイは、既報の方法に従い行った(22)。簡単に説明すると、いくつかのHLA-A2サブタイプの前立腺癌患者10人から得たPBMC(1 X 105細胞/ウェル)を、10 μg/mlの各ペプチドと、U底96穴マイクロカルチャープレート(Nunc, Roskilde, Denmark)において培養培地200 μlでインキュベートした。培養培地は、45% RPMI-1640、45% AIM-V 培地(Gibco BRL)、10% FCS、100 U/ml インターロイキン(IL)-2および0.1 mM MEM非必須アミノ酸溶液 (Gibco, BRL)で構成された。3日毎に、培養培地の半分を取り除き、対応ペプチド(20 μg/ml)を含有する新しい培地に置き換えた。培養15日目に、培養細胞を4ウェルに分け、そのうち2ウェルをペプチドパルスT2細胞(HLA-A0201発現細胞株, ATCC: CRL-1992)を刺激するために使用し、他の2ウェルをHIVペプチドパルスT2細胞のために使用した。18時間インキュベートした後、上清を回収し、IFN-γのレベルをELISAにより測定した。
結果は表2に示す。アッセイは4ウェルで行い、100 pg/ml以上のIFN-γ産生およびP<0.05を示した値を陽性と判断した。4ウェルのうち最良の結果をこの表に示す。
【表2】

【0019】
この結果は、PSMA441-450 ペプチドが、癌患者10人のうち8人においてペプチド特異的CTLを誘導したこと、およびその誘導率は、既報のPSMA711-719およびPSMA4-12 ペプチドと同程度であったことを示す。PAP112-120 ペプチドは、癌患者10人のうち7人においてペプチド特異的CTLを誘導した。一方、液性免疫系によって認識されないPSMA26-34およびPAP390-398 ペプチドの誘導率は比較的低く、それぞれ患者10人のうち2および0人においてのみであった。
【0020】
(実施例3)
HLA-A2癌患者からの前立腺癌反応性CTLの誘導
我々は更に、これらのペプチド刺激PBMCが前立腺癌細胞に対して細胞傷害性を示すか否かについて調べた。HLA-A2拘束性細胞傷害性を検討するため、PC93に対する細胞傷害性のレベルを、そのHLA-A2発現トランスフェクタントであるPC93-A2に対する細胞傷害性のレベルと比較した。
具体的には、PSMA441-450およびPAP112-120 ペプチドでインビトロ刺激後、細胞傷害性アッセイを行うのに十分な数の細胞を得るため、HLA-A2前立腺癌患者4人由来の当該ペプチド刺激PBMCを100 U/ml IL-2と96穴丸底プレートで約10日間さらに培養した。その後、これら細胞を、PC93 (HLA-A2陰性前立腺癌細胞株(HLAOA6802)、大石賢ニ博士(京都大学泌尿器科)により樹立)、PC93-A2 (HLA-A0201遺伝子を安定的にトランスフェクトしたサブライン(10))、COLO320 (HLA-A2結腸癌, ATCC: CCL-220.1)およびCOLO201 (HLA-A2-結腸癌, ATCC: CCL-224)に対する細胞傷害性について、6時間51Cr放出アッセイにより試験した。96穴丸底プレートにおいて、各ウェルにつき51Cr標識細胞2000個をエフェクター細胞とともに、示したエフェクター/標的(E/T)比率で培養した。
結果は図2に示す。これらペプチド刺激PBMCは、HLA-A2PC93-A2細胞に対して他の3種類の標的細胞に対してよりも高いレベルの細胞傷害性を示した。これらの結果は、PSMA441-450およびPAP112-120 ペプチドが、HLA-A2前立腺癌患者からHLA-A2拘束性かつ前立腺癌反応性CTLを誘導する能力を有することを示している。
【0021】
(実施例4)
癌患者由来ペプチド刺激PBMCのペプチド特異的かつCD8T細胞依存性細胞傷害性
我々はさらに、どのエフェクター細胞がこの細胞傷害性に関与するのかを確認しようと試みた。ある実験においてアッセイの開始時に、抗HLAクラスI (W6/32:マウスIgG2a)、抗HLA-DR (L243:マウスIgG2a)、抗CD4 (NU-TH/I:マウスIgG1)、抗CD8 (NU-TS/C:マウスIgG2a)、または抗CD14 (H14:マウスIgG2a)モノクローナル抗体を、10 μg/mlの量でウェルに添加した。結果を図3に示す。インビトロでPSMA441-450またはPAP112-120 ペプチドのいずれかで刺激した前立腺癌患者4人由来のPBMCの、PC93-A2細胞に対する細胞傷害性は、抗クラスIまたは抗CD8モノクローナル抗体の添加により有意に阻害されたが、抗クラスII、抗CD4、または抗CD14モノクローナル抗体の添加によっては阻害されず、このことは、癌患者由来のペプチド刺激PBMCがクラスI拘束性かつCD8T細胞依存性細胞傷害性であることを示している。
【0022】
さらに、患者4人由来のこれらペプチド刺激PBMCのPC93-A2細胞に対する細胞傷害性を、対応ペプチドまたはHIVペプチドのいずれかを提示させた非標識T2細胞の存在下に試験するコールド阻害アッセイを行い、PSMAまたはPAP ペプチド刺激CTLの特異性を確認した。簡単に説明すると、51Cr標識標的細胞(2 X 103 細胞/ウェル)とコールド標的細胞(2 X 104 細胞)とを、該CTL(4 X 104 細胞/ウェル)と96穴丸底プレートにおいて培養した。HIVペプチドまたは示したペプチドのいずれかで事前にパルスしたT2細胞をコールド標的細胞として使用した。結果は図4に示す。これらのペプチド刺激PBMCのPC93-A2細胞に対する細胞傷害性は、対応ペプチドパルス非標識T2細胞の添加によって有意に抑制されたが、HIVペプチドパルス非標識T2細胞の添加によっては抑制されなかった。
まとめると、これら結果は、これらペプチド刺激PBMCのPC93-A2細胞に対する細胞傷害性は、主にCD8かつペプチド特異的T細胞によることを示している。
【0023】
[発明の効果]
我々の臨床試験から、ペプチドワクチン処置によりしばしば投与したペプチドに反応するIgGが誘導されることがわかっている(12, 14)。投与ペプチドに反応するIgGの誘導は、進行肺癌または胃癌患者の生存期間の延長と正に相関していた(15, 16)。さらに、投与したペプチドに反応するIgGの誘導はまた、再発性婦人科癌患者の間で臨床応答と相関していた(13)。それ故、HLA-A2前立腺癌患者へのPSMA441-450およびPAP112-120 ペプチドのワクチン処置は、前立腺癌反応性CTLおよびペプチド特異的IgGの両方を効果的に誘導することができ、その結果良好な臨床応答をもたらすことができる。
【0024】
[産業上の利用可能性]
白人のほとんどはHLA-A2101陽性であるが、表2に示すように、日本人においてはHLA-A2サブタイプはかなり変化に富んでいる。前立腺関連抗原由来ペプチドはHLA-A0201分子に対する結合モチーフに基づいて調製したし、T2細胞およびPC93-A2細胞はいずれもHLA-A0201分子を発現している。ペプチド特異的CTLは、HLA-A0201被験者からだけでなく、HLA-A0206および-A0207を含むHLA-A2サブタイプの被験者からも誘導された(表2)。我々は以前に、HLA-A0201分子に対する結合モチーフに基づいて調製した上皮腫瘍抗原由来ペプチドが、幾つかのHLA-A2サブタイプの患者においても免疫原性があることを報告した(29-31)。それ故、PSMA441-450およびPAP112-120 ペプチドは、幾つかのHLA-A2サブタイプの前立腺癌患者の特異的免疫療法にとって有望な標的分子であり得る。HLA-A2アリルの頻度は世界全体で比較的高い(32)。ここに示された情報は、ペプチド基盤免疫療法を用いてHLA-A2前立腺癌患者を処置できる可能性を増大させるであろう。
【0025】
[文献]
1. Greenlee RT, Murray T, Bolden S, et al: Cancer statistics 2000. CA Cancer J Clin 50:7-33, 2000.
2. Harada M, Noguchi M, and Itoh K: Target molecules in specific immunotherapy against prostate cancer. Int J Clin Oncl 8: 193-199, 2003.
3. Gulley J, Chen AP, Dahut W, et al: Phase I study of a vaccine using recombinant vaccinia virus expressing PSA (rV-PSA) in patients with metastatic androgen-independent prostate cancer. Prostate 53:109-117, 2000.
4. Murphy G., Tjoa B, Ragde H, et al: Phase I clinical trial: T-cell therapy for prostate cancer using autologous dendritic cells pulsed with HLA-A0201-specific peptides from prostate-specific membrane antigen. Prostate 29:371-380, 1996.
5. Tjoa BA, Simmons SJ, Bowes VA, et al: Evaluation of phase I/II clinical trials in prostate cancer with dendritic cells and PSMA peptides. Prostate 36:39-44, 1998.
6. Murphy GP, Tjoa BA, Simmons SJ, et al: Infusion of dendritic cells pulsed with HLA-A2-specific prostate-specific membrane antigen peptides: a phase II prostate cancer vaccine trial involving patients with hormone-refractory metastatic disease. Prostate 38:73-78, 1999.
7. Small EJ, Fratesi P, Reese DM, et al: Immunotherapy of hormone-refractory prostate cancer with antigen-loaded dendritic cells. J Clin Oncol 18:3894-3903, 2000.
8. Harada M, Kobayashi K, Matsueda S, et al: Prostate-specific antigen-derived epitopes capable of inducing cellular and humoral responses in HLA-A24 prostate cancer patients. Prostate 57: 152-159, 2003.
9. Kobayashi K, Noguchi M, Itoh K, et al: Identification of a prostate-specific membrane antigen-derived peptide capable of eliciting both cellular and humoral immune responses in HLA-A24 prostate cancer patients. Cancer Science 94: 622-627, 2003.
10. Matsueda S, Kobayashi K, Nonaka Y, et al: Identification of new prostate stem cell antigen-derived peptides immunogenic in HLA-A2 patients with hormone-refractory prostate cancer. Cancer Immunol Immunother 2004. in press.
11. Inoue Y, Takaue Y, Takei M, et al: Induction of tumor specific cytotoxic T lymphocytes in prostate cancer using prostatic acid phosphatase derived HLA-A2402 binding peptide. J Urol 166:1508-1513, 2001.
12. Tanaka S, Harada M, Mine T, et al: Peptide vaccination for patients with melanoma and other types of cancer based on pre-existing peptide-specific cytotoxic T lymphocyte precursors in the periphery. J Immunother 26: 357-366, 2003.
13. Tsuda N, Mochizuki K, Harada M, et al: Vaccination with pre-designated or evidence-based peptides for patients with recurrent gynecologic cancers. J Immunother 27: 60-72, 2004.
14. Noguchi M, Mine T, Suetsugu N, et al: Induction of cellular and humoral immune responses to tumor cells and peptides in HLA-A24 positive hormone-refractory prostate cancer patients by peptide vaccination. Prostate 57: 80-92, 2003.
15. Mine T, Gouhara R, Hida N, et al: Immunological evaluation of CTL precursor-oriented vaccines for advanced lung cancer patients. Cancer Science 94: 548-556, 2003.
16. Sato Y, Shomura H, Maeda Y, et al: Immunogical evaluation of peptide vaccination for patients with gasctirc cancer based on pre-existing cellular response to peptide. Cancer Science 94: 802-808, 2003.
17. Mine T, Sato Y, Noguchi M, et al: Humoral responses to peptides correlated with overall survival in advanced cancer patients vaccinated with peptides based on pre-existing, peptide-specific cellular responses. Clin Cancer Res 10: 929-937, 2004.
18. Parker KC, Bednarek MA, and Coligan JE: Scheme for ranking potential HLA-A2 binding peptides based on independent binding of individual peptide side-chains. J Immunol 152: 163-175, 1994.
19. Rammensee HG., Friege T, and Stevanovics S: MHC ligands and peptides motifs. Immunogenetics 41: 178-228, 1995.
20. Nakatsura T, Senju S, Ito M, et al: Cellular and humoral immune responses to a human pancreatic cancer antigen, coactosin-like protein, originally defined by the SEREX method. Eur J Immunol 32: 826-836, 2002.
21. Ohkouchi S, Yamada A, Imai N, et al: Nonmutated tumor rejection antigen peptides elicit type-I allergy in the majority of healthy individuals. Tissue Antigens 59: 259-272, 2002.
22. Hida N, Maeda Y, Katagiri K, et al: A new culture protocol to detect peptide-specific cytotixic T lymphocyte precursors in the circulation. Cancer Immunol Immunother 51: 219-228, 2002.
23. Kawamoto N, Yamada A, Ohkouchi S, et al: IgG reactive to CTL-directed epitopes of self-antigens is either lacking or unbalanced in atopic dermatitis patients. Tissue Antigens 61: 352-361, 2003.
24. Tjoa B, Boynton A, Kenny G, et al: Presentation of prostate tumor antigen by dendritic cells stimulates T-cell proliferation and cytotoxicity. Prostate 28: 65-69, 1996.
25. Peshwa MV, Shi JD, Ruegg C, et al: Induction of prostate tumor-specific CT8 cytotoxic T-lymphocytes in vitro using antigen-presenting cells pulsed with prostatic acid phosphatase peptide. Prostate 36: 129-138, 1998.
26. Xue BH, Sosman JA, and Peace DJ: Induction of human cytotoxic T lymphocytes specific for prostate-specific antigen. Prostate 30: 73-78, 1997.
27. Correale P, Walmsley K, Nieroda C, et al: In vitro generation of human cytotoxic T lymphocytes specific for peptides derived from prostate-specific antigen. J Natl Cancer Inst 89: 293-300, 1997.
28. Harada M, Matsueda S, Muto A, et al: In vivo evidence that peptide vaccination can induce HLA-DR-restrictedCD4 T cells reactive to a class I tumor peptide. J Immunol 172: 2659-2667, 2004.
29. Ito M, Shichijo S, Miyagi Y, et al: Identification of SART3-derived peptides capable of inducing HLA-A2-restricted and tumor-specific CTLs in cancer patients with different HLA-A2 subtypes. Int J Cancer 88: 633-639, 2000.
30. Tamura M, Nishizuka S, Maeda Y, et al: Identification of cyclophilin B-derived peptides capable of inducing histocompatibility leukocyte antigen-A2-restricted and tumor-specific cytotoxic T lymphocytes. Jpn J Cancer Res 92: 762-767, 2001.
31. Imai N, Harashima N, Ito M, et al: Identification of lck-derived peptides capable of inducing HLA-A2-restricted and tumor-specific CTLs in cancer patients with distant metastases. Int J Cancer 94: 237-242, 2001.
32. Imanishi T, Akazawa T, and Kimura A: Allele and haplotype frequencies for HLA and complement loci in various ethnic groups. In Tsuji K, Aizawa M, Sasazuki T (Eds.) In: HLA 1991.Oxford Scientific Publications, vol. 1, 1992, pp1065-1220.
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1Aは、ELISAによって調べた、患者4、5、9および10由来の血漿中の、示した候補ペプチドに反応するIgGのレベルを示すグラフである。値はOD (吸光度)を表す。図1Bは、対応ペプチドでコートしたプレートで培養することにより減少した、PSMA441-450またはPAP112-120 ペプチドのそれぞれに反応するIgGのレベルを示すグラフである。
【図2】図2は、6時間51Cr放出アッセイにより測定した、HLA-A2前立腺癌患者4人由来のPSMA441-450 ペプチド刺激またはPAP112-120 ペプチド刺激PBMCのPC93-A2細胞に対する細胞傷害性が、PC93、COLO320およびCOLO201に対するものよりも高いことを示すグラフである。P<0.05で統計学的に有意であることを示す。
【図3】図3は、癌患者由来ペプチド刺激PBMCの細胞傷害性に対する、示したモノクローナル抗体の阻害効果を示すグラフである。P<0.05で統計学的に有意であることを示す。
【図4】図4は、対応ペプチドパルス非標識T2細胞の添加による、ペプチド刺激PBMCの細胞傷害性の阻害を示すグラフである。P<0.05で統計学的に有意であることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLA-A2抗原に結合して細胞傷害性Tリンパ球によって認識され得る能力を有し、かつ液性免疫応答によって認識される前立腺関連抗原由来ペプチド、または機能的に同等の性質を有するその誘導体。
【請求項2】
前立腺関連抗原が前立腺特異的膜抗原または前立腺酸性フォスファターゼである請求項1記載のペプチド、または機能的に同等の性質を有するその誘導体。
【請求項3】
前立腺特異的膜抗原由来ペプチドが配列番号1に示すアミノ酸配列を含む請求項2記載のペプチド、または機能的に同等の性質を有するその誘導体。
【請求項4】
前立腺酸性フォスファターゼ由来ペプチドが配列番号2に示すアミノ酸配列を含む請求項2記載のペプチド、または機能的に同等の性質を有するその誘導体。
【請求項5】
癌抗原ペプチドである、請求項1から4のいずれかに記載のペプチド。
【請求項6】
8から15アミノ酸残基の長さを有する、請求項5記載のペプチド。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の癌抗原ペプチドまたはその誘導体を少なくとも1つ活性成分として含有する医薬組成物。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載のペプチドまたはその誘導体を活性成分として含有する、前立腺癌を処置または予防するための医薬組成物。
【請求項9】
HLA-A2抗原と請求項1から6のいずれかに記載のペプチドまたはその誘導体との複合体を特異的に認識する、細胞傷害性Tリンパ球。
【請求項10】
請求項9記載の細胞傷害性Tリンパ球を活性成分として含有する、前立腺癌を処置するための医薬組成物。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−277092(P2007−277092A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2004−179311(P2004−179311)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(599045903)学校法人 久留米大学 (72)
【Fターム(参考)】