説明

剥離中または分離中の剥離面間または分離面間に生じる静電気放電の抑制方法および抑制装置

【課題】接合状態の二つの物質が剥離時または分離する時、かい面間に生じる静電気放電の抑制方法を提供する。
【解決手段】ガラス基板上に成形加工した機能性高分子膜を剥離する場合、またはロール巻きされた情報機器用フィルムを巻き戻す際、剥離面または分離面に生じる本来の電気二重層に、反対極性の電気二重層8,9を外部からの作用により重畳することによって、合成された二重層の実効値を小さくし、それによって分離または剥離時の静電気放電を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
静電気対策に関する
【従来の方法】
【0002】
種々の静電気対策が開発されているが、実用化されているものは帯電防止材・温湿度管理・工程管理・除電装置の4つで、他の方法は文献上での手段に近い。たとえば、正に帯電しやすい物質と負に帯電しやすい物質の適当量を混合し、静電気発生を減少させたとしても、製品の特性が劣化するようでは実用可能な対策にはなり得ない。
ところで、上記4つの対策にも下記のような弱点がある。
帯電防止材とは、試料に電導性を付与し、生じた静電気をすみやかに逃がすべく、試料に塗布または混合する物質のことで、繊維・合成樹脂等では汎用されている。実際問題として、帯電防止材という異物を混合された繊維や合成樹脂の品質は低下する。それゆえに、関係者は品質低下の少ない帯電防止材の開発に努力しているが、ハイテク関係では一般には使用しにくい。
温湿度管理は技術的に確実である。そのために、紡績工場では汎用されてきた。しかし、発銹等の副作用があるので、工程がハイテク化されるに従い不要技術化している。
現在の工場では、工程管理は品質管理・安全管理の手段として実施されている。そのために、静電気対策のために工程管理を変更する余地がない。結果として静電気対策は除電装置の設置に多くを依存している。
除電装置とは、正の帯電体に対しては負イオンを、負の帯電体には正のイオンを供給し、再結合で電荷を消滅させる装置のことで、高電圧放電を使用するもの、X線やα線を利用するもの、自己放電を利用するもの等がある。関係者は、使用目的に応じて種々の型式のものを供給し、対策の中核技術として自負している。
【従来の静電気対策の問題点】
【0003】
上記したように、帯電防止材は生じた静電気をすみやかに逃がすことを目的とするので、分離中の分離面間に生じる放電または剥離中の剥離面間に生じる放電を防止するものではない。温湿度管理や工程管理も同様に、剥離中の剥離面間の放電または分離中の分離面間の放電を防止するものではない。
除電装置も帯電体に外部から反対極性のイオンを付着させて中和消滅させるもので、帯電状態が成立したものに対する装置で、剥離中または分離中の剥離面間の放電または分離面間の放電を抑制するものではない。なお、除電装置はその原理により、表側が帯電したフィルムには表側から除電用イオンを供給しなければならない。もし、表側が帯電したフィルムを裏側から、またはその反対の場合には、フィルム厚みをはさんだ電気二重層を形成させ、実質的に電荷量を倍増させることになる。
以上のように、従来の静電気対策は、帯電体の電荷を漏洩させる、または再結合させて電荷を消滅させるもので、境界面に生じた電気二重層が分離されるときに生じる分離面間の放電または剥離面間の放電を対象としたものではない。
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
境界面が分離されるときに放電が生じるまでには下記の過程が存在する。物質1と物質2とが接すると、物質1と物質2の特性によって境界面を境にして一方が正、他方が負の電気二重層が成立し、物質1と物質2とは電気的に平衡状態となる。次いで、物質1と物質2とが分離されると、二重層電荷も正と負の帯電として分離される。正と負の電荷の間隔が大きくなると、それにつれて静電容量が減少する。静電容量が減少すると、Q=CVの式に従って電荷間の電位差が大となる。間隔の絶縁体力よりも電位差が大きくなると絶縁破壊すなわち放電が生じる。それゆえに、放電を発生させないためには間隔の絶縁耐力よりも大きな電位差を発生させなければよい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
間隔の絶縁耐力は物体によって決まる。二重層の強さも物体によって決まる。分離時の電位差上昇は分離距離で決まる。それゆえに、分離面間に生じる放電の抑制手段は、二重層の強さを等価的に小さくすることとなる。界面に自然発生する電気二重層に、それとは反対方向の二重層形成力を人為的に重畳すれば、界面が分離されて生じる正負の帯電体の帯電量が小さくなり、結果として電位差上昇が小さくなる。
【発明を実施するための形態】
【0006】
上記した発明を、二重層の成立の模型図、分離された物体が帯電体になる模型図、正負の帯電体間に生じる放電の模型図、および二重層を等価的に弱化する場合の模型図で本発明を説明する。図1のように、物体1と物体2とが接触すると界面3を境にして、物体の特性に応じて、物体1には正電荷qの層4が、物体2には負電荷(−q)の層5が生じ、4と5で二重層を形成し、物体1と2の電位差は0となる。物体1と2の分離直後は、正の電荷層4は物体1内に、負の電荷層5は物体2内に保存され、正の帯電体1と負の帯電体2が図2のように生じる。
帯電体1と2の分離が更にすすむと間隔6が大となり、(+q)と(−q)との間の静電容量は小さく、電位差Vは大となる。電位差Vが間隔6の絶縁耐力よりも大になると、図3のように絶縁破壊すなわち放電7が生じる。
図1、2、3を比較すると、図1の(+q)と(−q)が小さければ図3の放電が生じないことがわかる。図4は、図1の二重層に反対方向の二重層8と9を人為的に重畳して、等価的に実効値を小さくした場合である。
【実施例1】
【0007】
図5はガラス基盤上に成形加工した機能性高分子膜の剥離時の放電防止装置の概略図で、10は機能性高分子膜、11はガラス基盤、11′はガラス基盤支持台、12,13,14は剥離帯電の帯電方向と反対方向の起電力を発生させる回転破壊を発生させるための磁極である。回転磁界がない場合、すなわち従来の装置では、剥離時に正帯電したフィルム面と負帯電したガラス基盤との間に剥離時放電が生じた。本発明で、ガラスとフィルムの境界面に平行な磁界を回転させると境界面の上下方向に起電力が発生する。本発明の場合にはガラス側が正にフィルム側が負になるように磁界を回転させ、図4の状態を成立させた。実施時の磁界の回転数は毎秒5千回を採用した。なお、誘導電動機のような回転磁界では起電力は正負交番状となる。定方向のみの起電力を発生させるために、磁極に接続する励起電流回路は本発明とは別の発明として出願するので省略した。
【発明の効果】
【0008】
本発明を実施することによって、剥離時放電による損傷事故が生じなくなった。なお、現場では、加工対象物の形状に種々のものがある。それで、対象物によっては進行波磁界を使用した。
【実施例2】
【0009】
図6はロール巻きされた情報機器用フィルムの巻き戻し時に生じる剥離時放電を防止する装置の説明図で、15はロールの回転軸、16は巻き取り用ロール、17はロール巻きされたフィルムと保護用ペーパー、18はフィルム保護用ペーパー、19は剥離中のフィルム、20は放電防止用の電極(保護ペーパー用)、21は放電防止用電極(フィルム用)、22は電源(保護ペーパー用)、23は電源(フィルム用)である。Aは保護用ペーパーとフィルムとが剥離する場所、Bはフィルムと保護用ペーパーが分離する場所である。
防止装置がないときには、A点でペーパーが正に、フィルムが負に帯電し、図2・図3と同じ状態となり、剥離放電が生じる。放電防止用電極20に正の電圧を印加すると、ペーパーに負電荷が誘導され図4の状態となり、二重層の実効値が低下する。次いで、フィルムがB点で剥離するときも同様で、二重層の実効値が低下する。実施時の電源22の電極は35V、電源21の電圧は45Vである。
【発明の効果】
【0010】
本発明を実施することにより、剥離時放電が生じなくなり、フィルム損傷がなくなった。
【実施例3】
【0011】
図7は成形加工した光学用高分子薄板を型材から剥離するときの剥離放電を防止する装置の説明図で、24はオス型、25はメス型、26は成形された薄板、27は冷却装置である。冷却装置を動作させないときには、型材(鉄製)が負に、高分子薄板が正に図1のように帯電し、剥離時に放電を生じる。成型後型材をマイナス3度まで低温化させると、高分子材と型材との間の二重層がほとんど消滅する。ただし、マイナス8度よりも低下させると、帯電極性が反転した放電が生じる。
【発明の効果】
【0012】
本発明を実施したところ、剥離放電が消滅し、光学機能の損傷がなくなった。
【実施例4】
【0013】
図8はウェハー純水洗浄工程における水膜剥離飛散時の放電防止装置の説明図で、28は純水ジェット水流、29はジェット水流用ノズル、30は純水にO2またはCO2を溶解させる容器、31は洗浄されるウェハー、32はウェハーを保持するステージ、33は光源、33′は光束である。
ウェハーに純水ジェット流が衝突すると、水流は薄膜化されて強くウェハー表面を洗浄しながら剥離し、次いで飛沫として飛散する。水薄膜がウェハー表面から剥離するときの剥離放電はウェハー表面を損傷する。紫外線または軟X線を図8のように水膜に照射すると、図1のような二重層に図4のように反対方向の二重層が重畳され、剥離時の放電が抑制される。
【発明の効果】
【0014】
本発明を実施したところ。ウェハーの放電損傷がなくなった。
【実施例5】
【0015】
図9は液晶ディスプレイのラビング工程の説明図で、配向膜つき基盤34の膜の配向を一定方向に向けるためのラビングロール35(ラビング布36を含む)とラビング方向37との関係を示す。
配向膜つき基盤34と装置ステージ38との間には図1のような二重層が形成されているので、ステージから基盤を剥離するときに剥離放電が基盤とステージとの間に図3のように生じる。放電が生じると基盤中の素子が破壊される。電源39でラビングロール35に電圧を印加すると、ラビング布と配向膜、配向膜とガラス基盤、ガラス基盤とステージとの間に電圧が印加され、ガラス基盤34とステージ38との間に図4のように反対方向の二重層が形成され、剥離時の放電が防止された。なお、電源39の電圧の大きさは、ステージの材質、ガラス基盤の特性、液晶の特性、ラビング布の特性によって若干変動するが、本発明を適用した装置では1.5Vを使用した。
【発明の効果】
【0016】
本発明を実施したところ、剥離放電による基盤損傷はなくなった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】 接触する界面に生じる電気二重層
【図2】 界面分離により生じた正帯電体と負の帯電体の説明図
【図3】 正帯電体と負帯電体との分離面間の絶縁破壊の説明図
【図4】 本来の電気二重層と反対方向の電気二重層を重畳した場合の実効二重層の説明図
【図5】 ガラス基盤上の機能性高分子膜の剥離時放電の防止方法の説明図
【図6】 ロールまきフィルムの巻き戻し時の剥離放電の防止方法の説明図
【図7】 成型された光学用高分子薄板を型枠から剥離するときの剥離放電の防止方法の説明図
【図8】 ウェハーの純水洗浄工程の水剥離時の放電防止法の説明図
【図9】 液晶ディスプレイの配向膜のラビング工程の剥離放電防止法の説明図
【符号の説明】
【0018】
1. 物体1
2. 物体2
3. 物体1と物体2との界面
4 電気二重層の正電荷層
5. 電気二重層の負電荷層
6. 物体1と物体2との間隔
7. 物体1の正電荷と物体2の負電荷との間の放電
8. 本来の二重層に重畳させる負電荷層
9. 本来の二重層に重畳させる正電荷層
10.機能性高分子膜
11.ガラス基盤
11’.ガラス基盤支持台

15.ロールの回転軸
16.巻き取り用ドラム
17.ロールまきされたフィルム
18.フィルム保護小ペーパー
19.剥離中のフィルム
20.放電防止用電極(保護ペーパー用)
21.放電防止用電極(フィルム用)
22.電源(保護ペーパー用)
23.電源(フィルム用)
24.型枠オス型
25.型枠メス型
26.成型された高分子薄板
27.冷却装置
28.純水ジェット流
29.ジェット水流ノズル
30.O2またはCO2混合機
31.洗浄されるウェハー
32.ステージ
33.光源
33′.光束
34.配向膜つき基盤
35.ラビングロール
36.ラビング布
37.ラビング方向
38.装置ステージ
39.電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
剥離面または分離面に生じる電気二重層と反対方向の電気二重層を重畳することによって二重層の実効値を小さくし、それによって分離または剥離時の静電気放電を抑制する方法および装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−60741(P2011−60741A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228491(P2009−228491)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(591275894)
【Fターム(参考)】