説明

剥離紙又は剥離フィルム用シリコーン組成物

【課題】紙、ラミネート紙、プラスチックフィルムなどの表面に塗布し、各種基材表面に対して離型性に優れた非粘着性皮膜を形成することのできる付加型の剥離紙又は剥離フィルム用シリコーン組成物を提供する。
【解決手段】架橋剤として下記一般式(2)で示されるシロキサン構造単位を含むオルガノハイドロジェンポリシロキサンを用いたシリコーン組成物。


(式中、R3はエチル基、プロピル基又はブチル基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型性及び硬化性に優れた剥離紙又は剥離フィルム用シリコーン組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙、ラミネート紙、プラスチックフィルムなどの各種基材表面に剥離性硬化皮膜を形成させることで、感圧接着剤などの粘着物質に対して剥離性を示す材料を得る方法は古くから知られている。このような剥離性硬化皮膜を形成する材料としてシリコーン組成物が使用されており、例えば、特開昭62−86061号公報(特許文献1)には、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンと白金系化合物からなるシリコーン組成物が提案されている。
この種のシリコーン組成物は、キュアー性に優れ、かつポットライフも良好なことから現在でも主要な材料として利用されている。
【0003】
使用基材の最近の動向として、品質が均一で安定しており、平滑性も高く薄膜化が可能なプラスチックフィルム基材の利用増加が挙げられるが、これらは紙にくらべて耐熱性が劣る欠点がある。そのためシリコーン硬化皮膜形成時の加熱温度に制限があり、あまり高くはできないため、以前からシリコーン組成物の硬化性向上に対する強い要求が存在する。
【0004】
また、紙基材についても、紙だけでは達成できない性能を付与する目的でプラスチック材料と紙を組み合わせた複合基材が各種開発されており、従来のPEラミネート紙だけでなく多種多様な基材が使用されるようになってきている。これら複合基材の多くはフィルム基材と同様に耐熱性に問題がある。更に、近年、寸法安定性、加工精度、透明性、反射特性などに対し、高い性能を求める用途は増えており、加熱により発生し易い変形や外観劣化は特に嫌われる傾向にあることなどから、シリコーン組成物の硬化性向上に対する要求は増大する方向にある。
【0005】
硬化性を向上させるための提案は、シリコーン組成物の面からも以前からなされてきた。例えば、組成物のベースポリマー構造に改良を加える方法としては、RSiO3/2単位を含有した分岐構造を持たせるものが、特開昭63−251465号公報、特公平3−19267号公報、特開平9−78032号公報、特開平11−193366号公報(特許文献2〜5)に提案されている。これらの方法は高速で剥離した時の軽剥離化と硬化性向上の効果を目的としたもので、副次的な効果として硬化性の改善が見られるにとどまっている。
【0006】
また、特開昭60−190458号公報(特許文献6)には、ベースポリマーの官能基の配置、構造を変えることによる提案がなされているが、硬化性の点では更に向上させる必要がある。
【0007】
一方、離型性について、シリコーン硬化皮膜は従来から高い評価を受けてきたが、近年では粘着剤及び接着剤性能の向上や用途の多様化に対応して更なる軽剥離化が求められるようになってきている。特に離型フィルム用途ではシリコーン硬化皮膜の厚さが薄くなる傾向にあり、シリコーンの離型性を十分に引き出せない状況になりつつある。
【0008】
このように、今までの技術ではシリコーン組成物の離型性を向上させつつ硬化性を改良する適切な方法は見当たらない。そこで、より軽い剥離特性とより高い硬化性を両立できるシリコーン組成物が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭62−86061号公報
【特許文献2】特開昭63−251465号公報
【特許文献3】特公平3−19267号公報
【特許文献4】特開平9−78032号公報
【特許文献5】特開平11−193366号公報
【特許文献6】特開昭60−190458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、紙、ラミネート紙、プラスチックフィルムなどの表面に塗布し、各種基材表面に対して離型性に優れた非粘着性皮膜を形成することのできる付加型の剥離紙又は剥離フィルム用シリコーン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、架橋剤として下記一般式(2)で示されるシロキサン構造単位を含むオルガノハイドロジェンポリシロキサンを用いるシリコーン組成物は、硬化性に優れるとともに、離型性の向上した硬化皮膜を形成することを知見した。
【化1】


(式中、R3はエチル基、プロピル基又はブチル基である。)
即ち、従来の架橋剤からの硬化性改良手法では、SiH基量増大による硬化皮膜特性の重剥離化が避けられなかったが、上記架橋剤を用いたシリコーン組成物では、軽薄離化しつつ硬化性を向上させることができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0012】
従って、本発明は、下記に示す剥離紙又は剥離フィルム用シリコーン組成物を提供する。
〔請求項1〕
(A)下記一般式(1)で示され、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
【化2】


(式中、R1は独立にアルケニル基であり、R2は独立に脂肪族不飽和結合を含有しない一価有機基であり、Xは独立に下記式
【化3】


で示される基である。α、β、θ、ι、κはオルガノポリシロキサンの25℃での粘度を0.05Pa・sから30質量%トルエン希釈粘度で70Pa・sの範囲とする正数から選ばれ、β、θ、ι、κは0であってもよい。a1、a2、a3はそれぞれ独立に1〜3の整数である。)
(B)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有し、そのうち少なくとも1個は下記一般式(2)
【化4】


(式中、R3はエチル基、プロピル基又はブチル基である。)
で示されるシロキサン単位として有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:含有されるケイ素原子に結合した水素原子のモル数が、(A)成分に含まれるアルケニル基モル数の1〜5倍に相当する量、
(C)触媒量の白金族金属系触媒、
(D)任意量の有機溶剤
を必須成分とする剥離紙又は剥離フィルム用シリコーン組成物。
〔請求項2〕
(B)成分が、下記平均組成式(3)で示され、かつ一般式(2)で示されるシロキサン単位を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであることを特徴とする請求項1記載の剥離紙又は剥離フィルム用シリコーン組成物。
3ηMeεζSiO(4-η-ε-ζ)/2 (3)
(式中、Meはメチル基であり、R3は上記と同じであり、εは0〜2.5、ζは0.1〜2、ηは0.1〜3で、ε+ζ+ηは1〜3の実数であり、1分子中に3個以上のSiH基を有し、25℃の粘度が0.005〜10Pa・sの範囲に入るように選ばれる。)
〔請求項3〕
(B)成分が、下記一般式(4)及び/又は下記一般式(5)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンであることを特徴とする請求項2記載の剥離紙又は剥離フィルム用シリコーン組成物。
【化5】


(式中、R3は上記と同じであり、R4は独立に水素原子、メチル基又はR3であり、Yは下記式
【化6】


で示される基であり、aは1以上の整数、b、c、d、e、f、gは0以上の整数であって、1分子中に3個以上のSiH基を有し、25℃の粘度が0.005〜10Pa・sの範囲に入るように選ばれる。)
〔請求項4〕
(B)成分のR3がエチル基である請求項1〜3のいずれか1項に記載の剥離紙又は剥離フィルム用シリコーン組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明の剥離紙又は剥離フィルム用シリコーン組成物によれば、塗工した皮膜の硬化性が向上するとともに、離型性に優れた硬化皮膜が得られる。より具体的には各種粘着剤層に対する剥離力が小さくなる硬化皮膜が得られる。
本発明の剥離紙又は剥離フィルム用シリコーン組成物から調製した処理浴は、経時後も良好な硬化性を維持し、剥離特性の変化も小さいことから、離型性能の再現性に優れた硬化皮膜が得られ、作業性も向上する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のシリコーン組成物を構成する(A)成分のオルガノポリシロキサンは、下記一般式(1)で示される構造を有し、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するものである。
【化7】


(式中、R1は独立にアルケニル基であり、R2は独立に脂肪族不飽和結合を含有しない一価有機基であり、Xは独立に下記式
【化8】


で示される基である。α、β、θ、ι、κはオルガノポリシロキサンの25℃での粘度を0.05Pa・sから30質量%トルエン希釈粘度で70Pa・sの範囲とする正数から選ばれ、β、θ、ι、κは0であってもよい。a1、a2、a3はそれぞれ独立に1〜3の整数である。)
【0015】
上記式(1)中、R1は同一又は異種のビニル基、アリル基、プロペニル基などの、好ましくは炭素数2〜10のアルケニル基であり、R2は同一又は異種の、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基、トリル基などのアリール基、あるいはこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をフッ素、塩素、臭素などのハロゲン原子、シアノ基などで置換したクロロメチル基、トリフルオロプロピル基、シアノエチル基などの、好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜15の脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換一価炭化水素基などの有機基である。R1はビニル基であることが工業的に好ましく、R2は80モル%以上がメチル基であることが製造上及び特性上好ましい。
【0016】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの1分子中のアルケニル基は2個以上であり、2個未満では硬化後も未架橋分子が残る可能性が高く、キュアー性が低下するため望ましくない。望ましくはオルガノポリシロキサン100gあたりのアルケニル基含有量として、0.001〜0.5モルであり、より望ましくは0.002〜0.45モルである。この含有量が0.001モル未満ではキュアー性が低下する場合があり、0.5モルを超えるとポットライフが短くなり取り扱いが難しくなる場合がある。
なお、上記式(1)において、α、β、θ、ι、κは、後述する粘度を満たす正数であるが、更に、1分子中のアルケニル基の数[β+{θ×(κ+a3)}+a1+a2]が2〜300、特に3〜280の範囲になるように選ばれることが好ましい。
【0017】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの25℃における粘度は、0.05Pa・sから30質量%トルエン希釈粘度で70Pa・sの範囲であり、望ましくは0.1Pa・s以上30質量%トルエン希釈粘度で60Pa・s以下の範囲である。粘度が0.05Pa・s未満では離型性が十分ではなく、30質量%トルエン希釈粘度で70Pa・sを超えると作業性が低下する。ここで、粘度は回転粘度計により測定することができる(以下、同じ)。
なお、式(1)において、α、β、θ、ι、κとしては、重合度[α+β+{θ×(ι+κ+1)}+2]が50〜20,000、特に55〜19,000の範囲になるように選ばれることが好ましい。
【0018】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの主骨格構造は直鎖であるが、式(1)において、θが0でない場合で示されるように分岐鎖構造を含むものも使用できる。
【0019】
本発明の(B)成分として用いられるオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有し、そのうち少なくとも1個は下記一般式(2)で示されるシロキサン単位として有することを特徴とするオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。
【0020】
【化9】


ここで、上記式(2)中のR3は、エチル基、プロピル基、ブチル基から選ばれるアルキル基である。R3としてはエチル基が特に好ましい。
上記一般式(2)で示されるシロキサン単位としては、H(C25)SiO2/2単位、H(C37)SiO2/2単位、H(C49)SiO2/2単位が例示できる。
【0021】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとして、好ましくは下記平均組成式(3)で示され、上記式(2)のシロキサン単位を含むものである。
3ηMeεζSiO(4-η-ε-ζ)/2 (3)
上記式(3)中、Meはメチル基であり(以下、同じ)、R3は上記と同じであり、εは0〜2.5、好ましくは0〜2、ζは0.1〜2、好ましくは0.2〜1.5、ηは0.1〜3、好ましくは0.2〜2で、ε+ζ+ηは1〜3、好ましくは1.5〜2.8の実数であり、25℃の粘度が0.005〜10Pa・s、好ましくは0.01〜10Pa・sの範囲となるように選択される。この粘度範囲を外れると硬化性が低下してしまう。
【0022】
また、(B)成分の分子構造は直鎖状、分岐鎖状もしくは環状のいずれであってよく、それらが組み合わさった構造でもよい。
(B)成分として、より好ましくは下記一般式(4)及び/又は(5)で示される直鎖状又は環状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、1分子中に直鎖状構造と環状構造が同時に含まれているオルガノハイドロジェンポリシロキサンであってもよい。
【0023】
【化10】

【0024】
ここで、上記式中、R3は上記と同じであり、エチル基、プロピル基、ブチル基から選ばれるアルキル基であるが、この置換基R3としては、エチル基、プロピル基が工業的に好ましく、更に望ましくはエチル基である。また、1分子中に含まれる置換基R3はお互いに異なっていてもよいが、望ましくはエチル基が置換基R3の50モル%以上、更に好ましくは80モル%以上であることが経済的に有利である。置換基R3がメチル基よりも炭素数の大きい置換基になることで本発明の効果が得られる。しかし、炭素数が大きくなり過ぎると硬化性は逆に低下する傾向があるため炭素数4以下から選択されるが、優れた離型性と硬化性を最大限に引き出すには炭素数2のエチル基が最も望ましい選択である。
【0025】
4は独立に水素原子、メチル基又はR3であり、Yは下記式
【化11】


で示される基であり、aは1以上、好ましくは1〜1,000の整数、b、c、d、e、f、gは0以上の整数、好ましくはbは0〜900の整数、cは0〜500の整数、dは0〜900の整数、eは0〜500の整数、fは0〜500の整数、gは0〜500の整数であって、25℃の粘度が0.005〜10Pa・sの範囲に入るように選ばれる。
【0026】
また、一分子中に直鎖状構造と環状構造が同時に含まれているオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、例えば、上記式(4)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンと上記式(5)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンとが、式(4)の分子鎖末端R4と式(5)のR4との位置で該R4に結合しているSi原子同士が二価の有機基(−CH2−CH2−など)や酸素原子(−O−)などにより結合された直鎖状構造と環状構造の二つの構造を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンが例示できる。
【0027】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンにおいて、1分子中のケイ素原子に結合する水素原子は3個以上であり、好ましくは3〜1,000個である。3個未満では硬化性が不足する。望ましくはオルガノハイドロジェンポリシロキサン100gあたりのSiH基含有量として、0.2〜1.7モルであり、より望ましくは0.3〜1.7モルである。この含有量が少なすぎると硬化性が不足する場合があり、多すぎると保存安定性が低下する場合がある。
【0028】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの25℃における粘度は、0.005〜10Pa・sの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.005〜5Pa・sの範囲である。粘度が小さすぎると硬化性が不足する場合があり、高すぎると保存安定性が不足する場合がある。
【0029】
上記(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、含有されるケイ素原子に結合した水素原子(以後、SiH基で示す)のモル数が、(A)成分に含まれるアルケニル基の合計モル数の1〜5倍に相当する量である。(B)成分の配合量に含有されるSiH基のモル数が(A)成分に含まれるアルケニル基の合計モル数の下限未満では硬化性が不十分となる一方、上限を超えて配合しても効果の顕著な増加は見られず、かえって経時変化の原因となるうえ、経済的にも不利となる。一般的なオルガノハイドロジェンポリシロキサンでの配合量としては、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1〜20質量部の範囲である。
【0030】
なお、本発明においては、上記一般式(2)で表されるシロキサン単位を含まない(B)成分以外のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを、本発明の効果を妨げない範囲、例えば10質量%以下程度で併用してもよい。
【0031】
本発明の組成物に使用する(C)成分としての白金族金属系触媒(付加反応用触媒)は、(A)成分と(B)成分との架橋反応を促進し、硬化皮膜を形成するために用いられる。かかる付加反応用触媒としては、例えば、白金黒、塩化白金酸、塩化白金酸−オレフィンコンプレックス、塩化白金酸−アルコール配位化合物、ロジウム、ロジウム−オレフィンコンプレックス等が挙げられる。
【0032】
上記付加反応用触媒は、(A)成分のオルガノポリシロキサン及び(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの合計質量に対し、白金の量又はロジウムの量として5〜1,000ppm(質量比)配合することが十分な硬化皮膜を形成する上で好ましいが、前記成分の反応性又は所望の硬化速度に応じて適宜増減させることができる。
【0033】
本発明の組成物に使用する(D)成分としての有機溶剤は、処理浴安定性及び各種基材に対する塗工性の向上、塗工量及び粘度の調整を目的として必要に応じて配合される。特に剥離フィルム用シリコーン組成物としては望ましい効果を与え有利である。例えば、トルエン、キシレン、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサン等の、組成物を均一に溶解できる有機溶剤が使用できる。
【0034】
(D)成分は任意成分であり、有機溶剤による危険性や安全性の低下が好ましくない場合は配合しないで無溶剤型剥離紙又は剥離フィルム用シリコーン組成物としての使用も可能である。
(D)成分を配合する場合の使用量は、上記(A)成分100質量部に対して10〜100,000質量部、特に10〜10,000質量部の範囲が好ましい。配合量が多すぎると塗工性が低下する場合があり、少なすぎるとポットライフが不足する場合がある。
【0035】
本発明の組成物は、前記(A)、(B)、(C)、(D)の各成分を均一に混合することにより容易に製造することができるが、十分なポットライフを確保するため、(C)成分はコーティングをする直前に添加混合すべきである。また、有機溶剤を使用する場合は、(A)成分を(D)成分に均一に溶解した後、(B)、(C)成分を混合するのが有利である。
【0036】
本発明の組成物には、必要に応じてアセチレン化合物などのバスライフ延長剤、官能基を持たないシリコーンオイルやシリコーンレジン(MQレジンなど)などの剥離力コントロール剤、シランカップリング剤などの密着性向上剤、顔料、レベリング剤等の添加剤を配合することもできる。
【0037】
本発明の組成物を使用して塗工する場合には、本発明の組成物を直接又は適当な有機溶剤で希釈した後、バーコーター、ロールコーター、リバースコーター、グラビアコーター、エアナイフコーター、更に薄膜の塗工には高精度のオフセットコーター、多段ロールコーター等の公知の塗布方法により、紙やプラスチックフィルム等の基材に塗布する。
ここで、基材としては、グラシン紙、ポリエチレンラミネート紙、クラフト紙、クレーコート紙、ミラーコート紙等の紙、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル等のプラスチックフィルムなどが挙げられる。
【0038】
本発明の組成物の基材への塗布量は塗布すべき基材の材質の種類によっても異なるが、固形分の量として0.1〜50g/m2の範囲が好ましい。上記のようにして本発明の組成物を塗布した基材を80〜180℃で5〜60秒間加熱することにより基材表面に硬化皮膜を形成せしめ、所望の用途に適した特性を有する塗工シートを得ることができる。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例及び比較例によって本発明を更に詳述するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
(A)成分として、30質量%トルエン溶液の25℃での粘度が40Pa・sであり、分子鎖の両末端はジメチルビニルシリル基で封鎖され、末端を除く主骨格はメチルビニルシロキサン単位が0.7モル%とジメチルシロキサン単位が99.3モル%で構成されているオルガノポリシロキサンA−1(ビニル基含有量=0.01モル/100g)を100質量部、及び(D)成分として、トルエン2,375質量部をフラスコに取り、20〜40℃で撹拌溶解した。
得られた溶液に、(B)成分として、分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、(C25)HSiO2/2で表されるエチルハイドロジェンシロキサン単位を95モル%含有し、25℃における粘度が0.03Pa・sである直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンB−1(SiH含有量=1.3モル/100g)を2質量部(ケイ素原子に直結した水素原子のモル数が(A)成分の含有するビニル基に対し3倍に相当)、バスライフ延長剤として、3−メチル−1−ブチン−3−オールを1質量部配合し、20〜40℃で1時間撹拌混合した。
基材に塗工する直前に、(C)成分として、白金とビニルシロキサンとの錯塩を白金換算質量で100ppm添加して、組成物を調製した。
調製した組成物を25℃,湿度60%において開放状態で30分放置した後、メイヤーバーを用いて100μmPE(ポリエチレン)ラミネート紙と38μmPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムへ均一に塗工し、所定条件にてキュアーして、塗工量が1.0g/m2と0.2g/m2の評価用試料を作製した。評価は下記の硬化皮膜特性の評価方法の記載に従い、その結果を表1に示した。
【0041】
[実施例2]
実施例1において、(B)成分として、分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、(C25)HSiO2/2で表されるエチルハイドロジェンシロキサン単位を99モル%含有し、25℃における粘度が1Pa・sである直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンB−2(SiH含有量=1.3モル/100g)を1.5質量部、及び(C25)HSiO2/2で表されるエチルハイドロジェンシロキサン単位100モル%からなり、25℃における粘度が0.005Pa・sである環状オルガノハイドロジェンポリシロキサンB−3(SiH含有量=1.6モル/100g)を0.5質量部(ケイ素原子に直結した水素原子の合計モル数が(A)成分の含有するビニル基に対し2.75倍に相当)とした以外は同様に組成物を調製し、評価用試料を作製した。評価は下記の硬化皮膜特性の評価方法の記載に従い、その結果を表1に示した。
【0042】
[実施例3]
実施例1において、(B)成分として、以下の方法で調製されたオルガノハイドロジェンポリシロキサン混合物B−4を3質量部(ケイ素原子に直結した水素原子の合計モル数が(A)成分の含有するビニル基に対し3倍に相当)とした以外は同様に組成物を調製し、評価用試料を作製した。評価は下記の硬化皮膜特性の評価方法の記載に従い、その結果を表1に示した。
加熱装置、冷却装置、撹拌装置が取り付けられた1Lフラスコに水200質量部とトルエン74質量部を取り、50℃に加熱した。別途、0.5L滴下ロートに、(C25)HSiCl2を90.3質量部(0.7モル)、(CH3)SiCl3を2.99質量部(0.02モル)、(CH32SiCl2を30.96質量部(0.24モル)、(CH33SiClを4.34質量部(0.04モル)、及びトルエンを74質量部採り、1Lフラスコ内へ撹拌しながら10分で滴下した。滴下終了後、50℃を維持しながら3時間撹拌を続けた。撹拌終了後、静置して分離してきた塩酸酸性の水相を除去、引き続き水200質量部を加えて10分撹拌後静置し、再度分離してきた水相を除去して水洗した。得られた有機相から減圧蒸留によりトルエン及び低分子量シロキサンを除去し、50質量部のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを得た。
このものは(C25)HSiO2/2が69モル%、(CH3)SiO3/2が3モル%、(CH32SiO2/2が23モル%、(CH33SiO1/2が5モル%の平均組成からなる直鎖状及び分岐状ポリシロキサンが80質量%、(C25)HSiO2/2が79モル%、(CH32SiO2/2が21モル%の平均組成からなる環状ポリシロキサンが15質量%、(C25)HSiO2/2が70モル%、(CH3)SiO3/2が4モル%、(CH32SiO2/2が22モル%、(CH33SiO1/2が4モル%の平均組成からなる直鎖状又は分岐状構造と環状構造を併せ持つポリシロキサンが5質量%の混合物であった。この混合物の25℃における粘度は0.06Pa・s、SiH含有量は1.0モル/100gであった。
【0043】
[実施例4]
(A)成分として、25℃での粘度が0.1Pa・sであり、分子鎖の両末端はジメチルビニルシリル基で封鎖され、主骨格はジメチルシロキサン単位が96モル%で構成されているオルガノポリシロキサンA−2(ビニル基含有量=0.04モル/100g)を100質量部、(B)成分として、分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、(C37)HSiO2/2で表されるプロピルハイドロジェンシロキサン単位を50モル%、(CH3)HSiO2/2で表されるメチルハイドロジェンシロキサン単位を45モル%含有し、25℃における粘度が0.05Pa・sである直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンB−5(SiH含有量=1.2モル/100g)を7質量部(ケイ素原子に直結した水素原子のモル数が(A)成分の含有するビニル基に対し2倍に相当)、バスライフ延長剤として、3−メチル−1−ブチン−3−オールを1質量部で採り、20〜40℃で1時間撹拌混合した。
基材に塗工する直前に、(C)成分として、白金とビニルシロキサンとの錯塩を白金換算質量で100ppm添加して、無溶剤型組成物を調製した。
調製した組成物を25℃,湿度60%において開放状態で30分放置した後、IRテスターを用いて100μmPEラミネート紙と38μmPETフィルムへ均一に塗工し、所定条件にてキュアーして、塗工量が1.0g/m2と0.2g/m2の評価用試料を作製した。評価は下記の硬化皮膜特性の評価方法の記載に従い、その結果を表1に示した。
【0044】
[実施例5]
実施例4において、(A)成分として、25℃での粘度が1Pa・sであり、分子鎖の末端はジメチルビニルシリル基で封鎖され、主骨格はジメチルシロキサン単位が97モル%、メチルシロキサン単位が1モル%で構成されている分岐状オルガノポリシロキサンA−3(ビニル基含有量=0.02モル/100g)を100質量部、(B)成分として、分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、(C49)HSiO2/2で表されるプロピルハイドロジェンシロキサン単位を30モル%、(CH3)HSiO2/2で表されるメチルハイドロジェンシロキサン単位を65モル%含有し、25℃における粘度が0.05Pa・sである直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンB−6(SiH含有量=1.2モル/100g)を4質量部(ケイ素原子に直結した水素原子のモル数が(A)成分の含有するビニル基に対し2.5倍に相当)とした以外は同様に組成物を調製し、評価用試料を作製した。評価は下記の硬化皮膜特性の評価方法の記載に従い、その結果を表1に示した。
【0045】
[実施例6]
実施例1において、(A)成分として、30質量%トルエン溶液の25℃での粘度が5Pa・sであり、分子鎖の両末端はジメチルビニルシリル基で封鎖され、末端を除く主骨格はメチルビニルシロキサン単位が0.7モル%とジメチルシロキサン単位が99.3モル%で構成されているオルガノポリシロキサンA−4(ビニル基含有量=0.01モル/100g)を100質量部、(B)成分として分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、(C25)HSiO2/2で表されるエチルハイドロジェンシロキサン単位を60モル%、(CH3)HSiO2/2で表されるメチルハイドロジェンシロキサン単位を39.5モル%含有し、25℃における粘度が5Pa・sである直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンB−7(SiH含有量=1.4モル/100g)を2質量部(ケイ素原子に直結した水素原子のモル数が(A)成分の含有するビニル基に対し2.8倍に相当)とした以外は同様に組成物を調製し、評価用試料を作製した。評価は下記の硬化皮膜特性の評価方法の記載に従い、その結果を表1に示した。
【0046】
[比較例1]
実施例1において、(B)成分として分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、(CH3)HSiO2/2で表されるメチルハイドロジェンシロキサン単位を95モル%含有し、25℃における粘度が0.05Pa・sであるオルガノハイドロジェンポリシロキサンB−10(SiH含有量=1.5モル/100g)を2質量部(ケイ素原子に直結した水素原子のモル数が(A)成分の含有するビニル基に対し3倍に相当)とした以外は同様に実施して組成物を調製し、評価用試料を作製した。評価は下記の硬化皮膜特性の評価方法の記載に従い、その結果を表1に示した。
【0047】
[実施例7]
実施例1において、(B)成分として分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、末端を除く主骨格は(C25)HSiO2/2で表されるエチルハイドロジェンシロキサン単位を65モル%、(CH32SiO2/2で表されるジメチルシロキサン単位を35モル%含有し、25℃における粘度が12Pa・sである直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンB−8(SiH含有量=0.9モル/100g)を4質量部(ケイ素原子に直結した水素原子のモル数が(A)成分の含有するビニル基に対し3.5倍に相当)とした以外は同様に実施して組成物を調製し、評価用試料を作製した。評価は下記の硬化皮膜特性の評価方法の記載に従い、その結果を表1に示した。
【0048】
[比較例2]
実施例4において、(B)成分として、分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、(CH3)HSiO2/2で表されるメチルハイドロジェンシロキサン単位を65モル%、(CH32SiO2/2で表されるジメチルシロキサン単位を30モル%含有し、25℃における粘度が0.05Pa・sである直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンB−11(SiH含有量=1.0モル/100g)を7.5質量部(ケイ素原子に直結した水素原子のモル数が(A)成分の含有するビニル基に対し2倍に相当)とした以外は同様に組成物を調製し、評価用試料を作製した。評価は下記の硬化皮膜特性の評価方法の記載に従い、その結果を表1に示した。
【0049】
[実施例8]
実施例4において、(B)成分として、分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、(C25)HSiO2/2で表されるエチルハイドロジェンシロキサン単位を70モル%、25℃における粘度が0.004Pa・sである直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンB−9(SiH含有量=0.9モル/100g)を9質量部(ケイ素原子に直結した水素原子のモル数が(A)成分の含有するビニル基に対し2倍に相当)とした以外は同様に組成物を調製し、評価用試料を作製した。評価は下記の硬化皮膜特性の評価方法の記載に従い、その結果を表1に示した。
【0050】
硬化皮膜特性の評価方法
1)硬化性
熱風循環式乾燥機で100℃、規定秒数(2,5,7,10,12,15,17,20,22,25,27,30,35,40秒)加熱処理して作製した評価用試料の硬化皮膜表面を指でこすり、皮膜表面のくもりの度合を観察し、曇りがなくなるまでに要した最短の加熱処理秒数により評価した。
【0051】
2)剥離力
経時初期の組成物を熱風循環式乾燥機で120℃,30秒間加熱処理して評価用試料を作製し、その硬化皮膜表面にアクリル系溶剤型粘着剤〔オリバインBPS−5127(東洋インキ製造(株)製)〕を塗布して100℃で3分間熱処理し、次いで、この処理面に坪量64g/m2の上質紙を貼り合わせて2kgローラーで1往復圧着し、25℃で20時間エージングさせた。この試料を5cm幅に切断し、引張り試験機を用いて180°の角度で剥離速度0.3m/分で貼り合わせ紙を引張り、剥離するのに要する力(N)を測定した。測定はオートグラフDSC−500(島津製作所(株)製)を使用した。
【0052】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で示され、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
【化1】


(式中、R1は独立にアルケニル基であり、R2は独立に脂肪族不飽和結合を含有しない一価有機基であり、Xは独立に下記式
【化2】


で示される基である。α、β、θ、ι、κはオルガノポリシロキサンの25℃での粘度を0.05Pa・sから30質量%トルエン希釈粘度で70Pa・sの範囲とする正数から選ばれ、β、θ、ι、κは0であってもよい。a1、a2、a3はそれぞれ独立に1〜3の整数である。)
(B)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有し、そのうち少なくとも1個は下記一般式(2)
【化3】


(式中、R3はエチル基、プロピル基又はブチル基である。)
で示されるシロキサン単位として有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:含有されるケイ素原子に結合した水素原子のモル数が、(A)成分に含まれるアルケニル基モル数の1〜5倍に相当する量、
(C)触媒量の白金族金属系触媒、
(D)任意量の有機溶剤
を必須成分とする剥離紙又は剥離フィルム用シリコーン組成物。
【請求項2】
(B)成分が、下記平均組成式(3)で示され、かつ一般式(2)で示されるシロキサン単位を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであることを特徴とする請求項1記載の剥離紙又は剥離フィルム用シリコーン組成物。
3ηMeεζSiO(4-η-ε-ζ)/2 (3)
(式中、Meはメチル基であり、R3は上記と同じであり、εは0〜2.5、ζは0.1〜2、ηは0.1〜3で、ε+ζ+ηは1〜3の実数であり、1分子中に3個以上のSiH基を有し、25℃の粘度が0.005〜10Pa・sの範囲に入るように選ばれる。)
【請求項3】
(B)成分が、下記一般式(4)及び/又は下記一般式(5)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンであることを特徴とする請求項2記載の剥離紙又は剥離フィルム用シリコーン組成物。
【化4】


(式中、R3は上記と同じであり、R4は独立に水素原子、メチル基又はR3であり、Yは下記式
【化5】


で示される基であり、aは1以上の整数、b、c、d、e、f、gは0以上の整数であって、1分子中に3個以上のSiH基を有し、25℃の粘度が0.005〜10Pa・sの範囲に入るように選ばれる。)
【請求項4】
(B)成分のR3がエチル基である請求項1〜3のいずれか1項に記載の剥離紙又は剥離フィルム用シリコーン組成物。

【公開番号】特開2012−246359(P2012−246359A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117645(P2011−117645)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】