説明

創傷治癒過程を改善するウシオステオポンチン製剤

創傷治癒用の、ウシオステオポンチンを含む局所製剤。創傷は感染していても、炎症を起こしていてもよく、糖尿病性創傷であってもよい。創傷治癒過程の改善のためのウシオステオポンチン製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症を起こした創傷または感染した創傷、ならびに特に糖尿病患者の創傷などの治癒の難しい創傷を含む各種創傷に関する、創傷治癒過程を改善するための、ウシのオステオポンチンを含む軟膏、液体、硬膏および他の器具の創傷治癒用製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
マクロファージ、多形核白血球、T細胞および開放創に付随するリンパ液に存在する他の細胞が、オステオポンチンを分泌することは公知である。
【0003】
マウスにおいて、オステオポンチンの発現は受傷後6時間ほどで上方制御されることが示されている。機能的オステオポンチン遺伝子が欠損したマウス(ノックアウトマウス)における創傷治癒の分析により、創傷治癒能力の低下が示された。これらの創傷は、機能的オステオポンチン遺伝子を有するマウスの創傷と比較すると、デブリードマンのレベルの有意な減少、マトリックスの崩壊およびコラーゲン線維径の縮小につながるコラーゲン線維形成の変化を示した。
【0004】
キトサンは、獣医学において創傷治癒促進剤として使用されている。作用の明確な機序は知られていない。しかし、キトサンは、創傷治癒に関与する特定の免疫細胞の炎症作用を増強し、それらの細胞によるオステオポンチンの発現を誘導することが示されている。
【0005】
これらの発見により、本発明者らは、牛乳から精製したオステオポンチンを含む局所製剤を、異なる創傷モデルに投与することの効果を調査した。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
驚いたことに、ウシオステオポンチンは創傷が感染していなくても感染していても、または炎症を起こしていても、あるいは糖尿病患者の創傷であっても、種を超えていかなるアレルギー反応もなく、創傷治癒過程の改善に使用できることが発見された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、ウシオステオポンチンおよび補助剤を含む創傷治癒用局所製剤に関する。
【0008】
ウシオステオポンチンは牛乳由来のオステオポンチンであり、Aria Foods Ingredients、Denmarkより購入でき、または酸ホエーを、Amersham社、UKによるQ Sepharoseなどの、クロマトグラフィー用の強塩基性アニオン性樹脂に通すことによって得られる。オステオポンチンは、1MのNaClを使用してカラムから溶出される。溶出液を、その後、限外ろ過し、最終的に例えばフリーズドライ法などを使用して乾燥させる。
【0009】
補助剤は、軟膏用の担体軟膏などの局所製剤用の通常の補助剤である。
【0010】
製剤は、例えば軟膏、液体、散剤または硬膏であってよい。補助剤は、このような局所製剤に通常使用されるものから選択できる。一例としては、軟膏用にカルボキシメチルセルロースが挙げられる。本発明の軟膏は、好ましくは0.01から10%のオステオポンチン濃度を有するであろう。0.01%未満であると殆どの場合所望の効果が得られず、10%を超えると過剰であると思われる。好ましい濃度は、0.1%〜5%、0.1〜2%、0.1%〜1.5%または0.5%〜1%である。量は、治療すべき創傷の型によって決めることができる。
【0011】
本発明はさらに、炎症を起こした創傷および糖尿病患者の創傷の治癒を含む、創傷治癒を改善する局所薬剤の調製のための、ウシオステオポンチンの使用に関する。
【0012】
したがって該製剤は、創傷治癒の改善を必要とする患者に有効量のウシオステオポンチンを投与することを含む、創傷治癒を改善する方法に使用できる。
【0013】
患者は、ヒトであっても、動物であってもよい。
【0014】
マウスの異なる創傷モデル、すなわち創傷治癒能力の低下した糖尿病マウスモデル、感染の危険性のあるモデルおよび健康な野生型モデルにおいて、ウシオステオポンチンの効果を調査した。すべてのモデルにおいて、創傷治癒時間が有意に1〜3日短縮されることが見いだされた。しかし、ウシオステオポンチンの必要用量は使用したモデルによって異なった。必要な用量は、野生型マウスモデルが最も少なく、感染マウスモデルが最も多かった。0.1〜1.5%の範囲の様々な量のウシオステオポンチンを、モデルに応じた最適な効能のために軟膏製剤に添加した。
【0015】
驚いたことに、したがって本発明者らは、ウシオステオポンチンを、種を超えた、アレルギー反応のない創傷治癒の改善治療に使用できることを提示できる。
【0016】
[医薬的結果]
3種の実験研究を、異なる濃度のオステオポンチンを使用して実施した。ウシオステオポンチンを、本質的にカルボキシメチルセルロースからなる標準的ゲルに組み込んだ。以下の試験において、例えば「0,27」(デンマーク語では一般的)と書かれたデータは、正確には例えば「0.27」(英語では一般的)であるべきデータである。
【0017】
[I.創傷治癒機能が低下したモデルにおける創傷治癒の促進]
{イントロダクション}
目的:
本研究の目的は、II型糖尿病で創傷治癒機能の低下したマウスモデルにおける創傷治癒に関する、オステオポンチンの薬理学的有効性を試験することであった。
【0018】
概要:
32匹のdb/dbマウス(BKS.Cg-m+/+Leprdb)を、8匹ずつ4群に分けた。これらのマウスは、2型糖尿病を発症し、結果として創傷治癒機能が低下していた。血糖値は、15〜20mMであった。
【0019】
さらに、C57BLKS/j系統の野生型マウス8匹を、正常な創傷治癒の対照として使用した。
【0020】
0日目に、全マウスに麻酔をかけ、背中を剃毛し、8mmの創傷を、8mmのパンチ生検器具を使用して作製した。
【0021】
0〜15日目に、全動物に担体軟膏あるいは0.1%、1%または10%のオステオポンチン軟膏を創傷範囲に局所塗布し、治療した。
【0022】
1〜15日目に、全動物を創傷の出現に関して評価し、創傷の直径を記録した。
【0023】
1、4、10および15日目にマウスの体重を記録した。
【0024】
全実験を通して動物には、必要に応じてRimaldylを用いて痛みを治療した。
【0025】
結果は、治療をまったくしない場合より、オステオポンチンによる治療が明らかに良好に作用していることを示した。糖尿病のマウスにおいて、オステオポンチンの用量が1.0%であると、他のオステオポンチン用量と比べて創傷治癒の促進が優れていた。
【0026】
オステオポンチンの用量が0.1%の場合もまた、創傷治癒の促進は非常に良好であった。
【0027】
正当性の証明:
II型糖尿病db/dbマウスは創傷治癒機能が低下しており、それ自体が創傷治癒モデルの自明な系統であることは公知である。
【0028】
特性
本研究は、特に明示しない限り、Pipeline Biotech A/Sの標準操作手順(Standard Operating Procedure s(SOP))に従って実施した。
【0029】
研究日程表:
動物の到着 2004年10月21日
治療開始 2004年12月07日
生きた動物実験終了 2004年12月22日
【0030】
{試験システム}
被験物質:
被験物質:オステオポンチン、局所塗布、0.1%、1%および1%
媒体: 担体軟膏
【0031】
種、系統および供給者
本研究は、M&B-Taconicによる、32匹のDBマウス(BKS.Cg-m+/+Leprdb)および8匹のC57BLKS/j(野生型と見なされる)において実施した。マウスは、到着時10〜12週齢であったが、被験物質の発送を長期待っていたため、実験開始前には17〜19週齢に達した。
【0032】
環境
マウスを、標準Macrolon2型ケージに個体別に収容した。巣作り材は、ろ紙であった。
【0033】
巣作り材は、週に一度、層流式空気清浄装置内で交換した。
【0034】
温度は、20℃〜24℃であり、実験室において周囲換気方式を介して調節した。光周期は、12時間消灯および12時間点灯であった(6:00に点灯)。
【0035】
食餌および水
食餌は、Harlan Teklad 2016食であった。
【0036】
水はUV殺菌し、順化および実験の期間中必要に応じて水差しに補給した。
【0037】
食餌および水は、随意に与えた。
【0038】
動物の健康および福利
動物は、FELASA(欧州実験動物学会連合)のSPF評価を有しており、畜舎方式および変更方式は、研究中SPF評価が確実に維持されるように設計した。教育を受けた人材が、獣医学的指示のもと動物を扱った。毎日の記録および判定は、動物の福利を考慮して行った。
【0039】
{予備実験手順}
順化および健康に関する手順
被験物質の発送を待つ時間のため、動物を47日間順化させた。
【0040】
{実験手順}
群分け
【0041】
【表1】

【0042】
鎮痛
全マウスを、創傷手順の1時間前および実験中必要に応じて1日に1回、5mg/kg s.c.のRimaldylを投与することにより、鎮痛させた。
【0043】
創傷の導入
Rimadrylの投与後1時間およびヒプノルム/ドルミカム麻酔薬の投与後およそ15分後に各マウスに1つの創傷を導入した。
【0044】
創傷を、各マウスの背面の皮膚に、以下の手順によって導入した:
1.マウスの背中を、2×3cmの範囲で剃毛した。
2.8mmのパンチ生検器具を使用して、剃毛範囲の中心を円形に切断した。
3.皮膚片をわずかに持ち上げ、慎重にマウスから切り取った。
4.マウスをケージに戻した。
【0045】
治療
全動物に、媒体(担体軟膏)またはオステオポンチン軟膏のどちらかを、0日目(創傷作製の直後)から14日目(終了前日)まで、創傷に塗布した(0.05ml)。
【0046】
塗布は、評価および測定の直後に実施した。
【0047】
観察および測定
創傷が固まることが必要なので、初日は測定を行わなかった。
【0048】
しかし、1〜15日間創傷の評価と測定を行った。
【0049】
創傷の直径を、縦方向に(頭から尾に走る線に沿って)測定し、毎日記録した。
【0050】
創傷の出現を評価し、毎日記録した。
【0051】
体重を、1、4、10および15日に記録した。
【0052】
創傷の評価
創傷を以下の方式に従って評価した:
0.完全に治癒した。
1.小さな創傷がまだ検出される。
2.痂皮はないが、まだ創傷がある。
3.初めの痂皮はないが、新しい痂皮がある(古い痂皮は剥がれたが、新しい痂皮ができた)。
4.初めの痂皮が創傷上にある。
【0053】
終了
終了時にマウスを安楽死させた。
【0054】
創傷は、無菌状態で分析した。
【0055】
創傷および創傷の周辺およそ0.5cmの範囲を、必要に応じたさらなる研究のために、ホルマリン緩衝液(リリー液)に固定した。
【0056】
保証人への試料の送付
創傷試料は、保証人からのさらなる通知まで保持した。
【0057】
研究の概観
【0058】
【表2】

【0059】
{結果}
研究の各群の平均創傷スコアを以下の表に要約する。
【0060】
【表3】

【0061】
これらの結果を以下のグラフに示した。
【0062】
【表4】

【0063】
以下は、創傷スコアについてのMann-Whitneyの対順位和検定(Wilcoxonの2標本検定)の結果を示す。対照および試験群の結果を、群2と比較した。
【0064】
【表5】

【0065】
結論:
群1:WT;媒体 群2との違いは非有意
群3:DB;オステオポンチン0.1% 群2との違いは非有意
群4:DB;オステオポンチン1% 9日目および10日目は群2より有意にスコアが小さい
群5:DB;オステオポンチン10% 群2との違いは非有意
【0066】
{平均創傷測定}
【0067】
【表6】

【0068】
これらの結果を以下のグラフによって例示する。
【0069】
【表7】

【0070】
以下に創傷直径についての、対F検定および対スチューデントt検定の結果を示す。
【0071】
対照および試験群における結果を、群2と比較した。
【0072】
【表8】

【0073】
創傷直径のAUC(曲線下面積(Area Under Curve))統計解析の結果は、以下の通りである(対照および試験群における結果を、群2と比較した。):
群1:<0.01
群3:<0.01
群4:<0.01
群5:<0.01
【0074】
結論:
群1:WT;媒体 全般的に、群2より直径は有意に大きい
群3:DB;オステオポンチン0.1% 全般的に、群2より直径は有意に小さい
群4:DB;オステオポンチン1% 全般的に、群2より直径は有意に小さい
群5:DB;オステオポンチン10% 全般的に、群2より直径は有意に大きい
【0075】
{創傷面積}
以下に創傷面積についての、対F検定および対スチューデントt検定の結果を示す。
【0076】
対照および試験群における結果を、群2と比較した。
【0077】
【表9】

【0078】
創傷面積のAUC(曲線下面積(Area Under Curve))統計解析の結果は、以下の通りである:(対照および試験群における結果を、群2と比較した。)
群1:<0.05
群3:<非有意
群4:<非有意
群5:<非有意
【0079】
結論:
群1:WT;媒体:全般的に、群2より面積は有意に大きい
群3:DB;オステオポンチン0.1%:8、11、12および13日目は群2より面積は有意に小さい
群4:DB;オステオポンチン1%:9、10、11、12および13日目は群2より面積は有意に小さい
群5:DB;オステオポンチン10%:3、4、5、6および7日目は群2より面積は有意に大きい
【0080】
{1日目に対する相対的創傷面積}
以下に、1日目に対する相対的創傷面積についての、対F検定および対スチューデントt検定の結果を示す。
【0081】
対照および試験群における結果を、群2と比較した。
【0082】
【表10】

【0083】
相対的創傷面積のAUC(曲線下面積(Area Under Curve))統計解析の結果は、以下の通りである:(対照および試験群における結果を、群2と比較した。)
群1:<非有意
群3:<非有意
群4:<非有意
群5:<非有意
【0084】
結論:
群1:WT;媒体:8、9、11および12日目は群2(DB、媒体)のより創傷面積は有意に大きい
群3:DB;オステオポンチン0.1%:群2と有意に逸脱しない
群4:DB;オステオポンチン1%:2、9、10、11、および12日目は群2(DB、媒体)より創傷面積は有意に小さい
群5:DB;オステオポンチン10%:7日目は群2より創傷面積は有意に大きい
【0085】
{結論}
オステオポンチン1.0%軟膏が糖尿病のマウスにおいて最も創傷治癒を良好に促進した。創傷スコアおよび創傷面積の両方について、明白な好ましい効果が見られた。好ましい効果はさらに0.1%のオステオポンチンを用いて治療した動物の創傷サイズについても観察された。
【0086】
{アーカイブ}
最終記録ならびにすべての生データおよび結果を、研究終了から五(5)年間、Pipeline Biotech A/Sのアーカイブに保管する。
【0087】
【表11A】

【0088】
【表11B】

【0089】
【表11C】

【0090】
【表11D】

【0091】
【表11E】

【0092】
【表12A】

【0093】
【表12B】

【0094】
【表12C】

【0095】
【表12D】

【0096】
【表12E】

【0097】
【表13A】

【0098】
【表13B】

【0099】
【表13C】

【0100】
【表13D】

【0101】
【表13E】

【0102】
【表14A】

【0103】
【表14B】

【0104】
【表14C】

【0105】
【表14D】

【0106】
【表14E】

【0107】
【表15A】

【0108】
【表15B】

【0109】
[II.創傷感染モデルにおける創傷治癒の促進]
{イントロダクション}
目的:
本研究の目的は、マウスの創傷感染モデルにおける創傷治癒に関する、オステオポンチンの薬理学的有効性を試験することであった。本報告のこの部分は、感染したマウスのみに関するデータおよび結果を提示する。
【0110】
概要:
1日目にC57BL/6Jマウス8匹ずつからなる4群に麻酔をかけ、背中を剃毛し、8mmの創傷を、8mmのパンチ生検器具を使用して作製した。動物に、その後黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)1×105CFUを含むPBS、50μlを用いて、それらの創傷を感染させた。
【0111】
すべての感染創傷を、その後「Compeel」の水膨れ用のギプスで覆った。ギプスは、軟膏による治療のために開封できた。
【0112】
治療は1日目に開始した。各群を以下のように治療した:
群4:感染+;媒体軟膏
群5:感染+;0.5%OPN軟膏
群6:感染+;1.0%OPN軟膏
群7:感染+;1.5%OPN軟膏
【0113】
治療は、15日間毎日繰り返した。同時に、1日目から15日目まで創傷を評価し、測定した。
【0114】
1.5%オステオポンチンを含む軟膏を用いた感染創傷治療には、創傷スコアの減少および創傷治癒の加速に表わされる様に、創傷治癒に関して明確な好ましい効果があった。0.1および1.0%のオステオポンチンを含む軟膏には、効果はまったく観察されなかった。
【0115】
正当性の証明:
感染創傷は、病院では外科手術、火傷の後などによくあることである。免疫不全の患者を扱う場合、効果的な治療の選択肢を有することが、特に適切である。
【0116】
{被験物質}
解説、特定および保存:
被験物質:オステオポンチン、局所塗布、0.5%、1.0%および1.5%
媒体: 担体軟膏
【0117】
調製:
Pipeline社において、オステオポンチン含有軟膏のストック溶液および投与溶液を調製した。
【0118】
ストック溶液は、研究開始時に作製した。投与溶液は、冷蔵庫に保存した。
【0119】
製剤分析:
実施せず
【0120】
濃度ならびに保存、安定性および均一性:
オステオポンチン粉末は、室温で保存した。
【0121】
オステオポンチンのストック溶液は、冷蔵庫で保存した。
【0122】
{試験システム}
種、系統および供給者
本研究は、M&B-Taconicによる、32匹のメスのC57BL/6Jマウス、7〜8週齢において実施した。
【0123】
環境
マウスを、標準Macrolon2型ケージに4体ずつ収容した。
【0124】
巣作り材は、週に一度層流式空気清浄装置内で交換した。
【0125】
温度は、20℃〜24℃であり、実験室において周囲換気方式を介して調節した。光周期は、12時間消灯および12時間点灯であった(6:00に点灯)。
【0126】
食餌および水
食餌は、Altromin 1314食であった。
【0127】
水はUV殺菌し、順化および実験の期間中必要に応じて水差しに補給した。
【0128】
食餌および水は、随意に与えた。
【0129】
動物の健康および福利
動物は、FELASA(欧州実験動物学会連合)のSPF評価を有しており、畜舎方式および変更方式は、研究中SPF評価が確実に維持されるように設計した。教育を受けた人材が、獣医学的指示のもと動物を扱った。毎日の記録および判定は、動物の福利を考慮して行った。
【0130】
{予備実験手順}
順化および健康に関する手順
動物は、およそ7日間順化させた。
【0131】
細菌培養
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(Pipeline野生株)。
細菌濃度:2×106cfu/mL
【0132】
{実験手順}
群分け
1日目、マウスを以下の構成に従って、群分けし、投与した。
【0133】
【表16】

【0134】
細菌濃度:2×106cfu/mL
【0135】
鎮痛
全マウスを、創傷手順の1時間前に5mg/kg s.c.のRimaldylを投与することにより、鎮痛させた。
【0136】
創傷の導入
Rimadrylの投与後1時間および外科麻酔法の導入後およそ15分後に、各マウスに1つの創傷を導入した。
【0137】
1つの創傷を、各マウスの背面の皮膚に、以下の手順によって導入した:
1.マウスの背中を、2×3cmの範囲で剃毛した。
2.8mlのパンチ生検器具を使用して、剃毛範囲の中心を円形に切断した。
3.皮膚片をわずかに持ち上げ、慎重にマウスから切り取った。
【0138】
これに次いで、以下の手順に従い黄色ブドウ球菌を創傷へ接種した:
1.細菌培養液を含むPBS50μlを、ピペットにより創傷範囲へ滴下した。
2.全創傷を、「Compeel」の水膨れ用ギプスを用いて覆った。
3.これでマウスの治療準備が整った。
【0139】
治療
1日目に治療を開始した。
【0140】
マウスの「Compeel」を切断し窓を開けた。
【0141】
その後軟膏を全治療群に、5.1.項に記載のように塗布した。
【0142】
群4は担体軟膏を用いて治療した。群5は0.5%OPN含有軟膏を用いて治療した。群6は1.0%OPN含有軟膏を用いて治療し、群7は1.5%OPN含有軟膏を用いて治療した。軟膏は、創傷に慎重に局所塗布した。
【0143】
治療を、15日間毎日繰り返した。
【0144】
観察および測定
創傷を1〜15日目に評価および測定した。
【0145】
創傷の直径を縦方向に(頭から尾に走る線に沿って)測定し、毎日記録した。
【0146】
創傷の出現を、以下の方式に従って毎日評価および記録した:
0.完全に治癒した。
1.小さな創傷がまだ検出される。
2.痂皮はないが、まだ創傷がある。
3.初めの痂皮はないが、新しい痂皮がある(古い痂皮は剥がれたが、新しい痂皮ができた)。
4.初めの痂皮が創傷上にある。
【0147】
体重を、1、5、8、12および15日目に測定した。
【0148】
終了
終了時にマウスを安楽死させた。
【0149】
研究の概観
【0150】
【表17】

【0151】
{結果}
{創傷スコア}
結果を表1に示す(付表)。
【0152】
データをMann-Whitneyの対順位和検定(Wilcoxonの2標本検定)によって統計的に解析した。試験群の結果を、群4と比較した。統計解析の結果は以下の通りであった:
【0153】
【表18】

【0154】
結論:
群4:感染+;媒体軟膏
群5:感染+;0.5%OPN軟膏。群4との差はなし。
群6:感染+;1.0%OPN軟膏。13日目は群4より有意に小さい
群7:感染+;1.5%OPN軟膏。7、11、12、13および15日目は群4より有意に小さい。
【0155】
{創傷直径}
結果を表2(付表)に示す。
【0156】
データを、対F検定および対スチューデントt検定によって統計的に解析した。試験群の結果を群4と比較した。統計解析の結果は、以下の通りであった:
【0157】
【表19】

【0158】
創傷の直径のAUC(曲線下面積(Area Under Curve))統計解析の結果は以下の通りである:(試験群の結果を、群4と比較した。)
群5:非有意
群6:非有意
群7:非有意
【0159】
結論:
群4:感染+;媒体軟膏
群5:感染+;0.5%OPN軟膏。13日目は群4より有意に小さい。しかし、全般的には群4と比べて直径は有意に小さくはない。
群6:感染+;1.0%OPN軟膏。全般的には群4と比べて直径は有意に小さくはない。
群7:感染+;1.5%OPN軟膏。8、11、12、13および15日目は、群4より直径は有意に小さい。しかし、全般的には群4と比べて直径は有意に小さくはない。
【0160】
{創傷面積}
結果を表3(付表)に示す。
【0161】
データを、対F検定および対スチューデントt検定によって統計的に解析した。試験群の結果を群4と比較した。統計解析の結果は、以下の通りであった:
【0162】
【表20】

【0163】
創傷面積のAUC(曲線下面積(Area Under Curve))統計解析の結果は以下の通りである:(試験群の結果を、群4と比較した。)
群5:非有意
群6:非有意
群7:非有意
【0164】
結論:
群4:感染+;媒体軟膏。
群5:感染+;0.5%OPN軟膏。全般的に、群4と比べて面積が有意に小さくはない。
群6:感染+;1.0%OPN軟膏。全般的に、群4と比べて面積が有意に小さくはない。
群7:感染+;1.5%OPN軟膏。8、11、12および13日目は群4より直径は有意に小さい。しかし、全般的には群4と比べて面積が有意に小さくはない。
【0165】
{1日目に対する相対的創傷面積}
結果を表4(付表)に示す。
【0166】
データを、対F検定および対スチューデントt検定によって統計的に解析した。試験群の結果を群4と比較した。統計解析の結果は、以下の通りであった:
【0167】
【表21】

【0168】
相対的創傷面積のAUC(曲線下面積(Area Under Curve))統計解析の結果は以下の通りである:(試験群の結果を、群4と比較した。)
群5:非有意
群6:非有意
群7:<0.05
【0169】
結論:
群4:感染+;媒体軟膏
群5:感染+;0.5%OPN軟膏。全般的に、群4と比べて面積が有意に小さくはない。
群6:感染+;1.0%OPN軟膏。全般的に、群4と比べて面積が有意に小さくはない。
群7:感染+;1.5%OPN軟膏。全般的に、群4と比べて面積が有意に小さい。
【0170】
{結論}
1.5%オステオポンチン軟膏を用いた治療により、治療の後期の週では感染した創傷のスコアは明らかに小さくなった。したがって、1.5%オステオポンチン軟膏はこれらの創傷の治癒に好ましい効果を有した。1.0%オステオポンチン軟膏を用いて治療した動物では、13日目についてのみ同じ好ましい効果が観察された。0.1%オステオポンチン軟膏では、効果はまったく観察されなかった。
【0171】
1.5%オステオポンチン軟膏はさらに、創傷直径、創傷面積および相対的創傷面積に表わされるように、創傷の大きさについても顕著な好ましい効果を有した。軟膏中のオステオポンチン濃度が低いと、同じ好ましい効果はまったく観察されなかった。
【0172】
{アーカイブ}
最終記録ならびにすべての生データおよび結果を、研究終了から五(5)年間、Pipeline Biotech A/Sのアーカイブに保管する。
【0173】
【表22A】

【0174】
【表22B】

【0175】
【表22C】

【0176】
【表22D】

【0177】
【表23A】

【0178】
【表23B】

【0179】
【表23C】

【0180】
【表23D】

【0181】
【表24A】

【0182】
【表24B】

【0183】
【表24C】

【0184】
【表24D】

【0185】
【表25A】

【0186】
【表25B】

【0187】
【表25C】

【0188】
【表25D】

【0189】
【表26A】

【0190】
【表26B】

【0191】
【表27A】

【0192】
【表27B】

【0193】
[III.野生型マウスにおける創傷治癒の促進]
{イントロダクション}
目的:
本研究の目的は、正常な野生型マウスにおける創傷治癒についてのオステオポンチンの薬理学的有効性を試験することであった。
【0194】
概要:
2日目に、C57BL/6Jマウス8匹ずつからなる3群に麻酔をかけ、背中を剃毛し、8mmの創傷を、8mmのパンチ生検器具を使用して作製した。
【0195】
群を、オステオポンチン(OPN)を含有する軟膏で、以下のように治療した:
群1:媒体軟膏
群2:0.1%OPN軟膏
群3:1.0%OPN軟膏
【0196】
治療は、15日間毎日繰り返した。同時に、1日目から15日目まで創傷を評価し、測定した。
【0197】
0.1%OPN含有軟膏を用いた創傷治療には、治癒過程の後期において創傷治癒に関して有意な好ましい効果があった。
【0198】
{被験物質}
解説、特定および保存:
被験物質:オステオポンチン、局所塗布、1.0%および1.5%
媒体: 担体軟膏
【0199】
調製:
Pipeline社において、オステオポンチン含有軟膏のストック溶液および投与溶液を調製した。
【0200】
ストック溶液は、研究開始時に作製した。投与溶液は、冷蔵庫に保存した。
【0201】
製剤分析:
実施せず
【0202】
濃度ならびに保存、安定性および均一性:
オステオポンチン粉末は、室温で保存した。
【0203】
オステオポンチンのストック溶液は、冷蔵庫で保存した。
【0204】
{試験システム}
種、系統および供給者
本研究は、M&B-Taconicによる、24匹のメスのC57BL/6Jマウス、7〜8週齢において実施した。
【0205】
環境
マウスを、標準Macrolon2型ケージに4体ずつ収容した。
【0206】
巣作り材は、週に一度層流式空気清浄装置内で交換した。
【0207】
温度は、20℃〜24℃であり、実験室において周囲換気方式を介して調節した。光周期は、12時間消灯および12時間点灯であった(6:00に点灯)。
【0208】
食餌および水
食餌は、Altromin 1314食であった。
【0209】
水はUV殺菌し、順化および実験の期間中必要に応じて水差しに補給した。
【0210】
食餌および水は、随意に与えた。
【0211】
動物の健康および福祉
動物は、FELASA(欧州実験動物学会連合)のSPF評価を有しており、畜舎方式および変更方式は、研究中SPF評価が確実に維持されるように設計した。教育を受けた人材が、獣医学的指示のもと動物を扱った。毎日の記録および判定は、動物の福祉を考慮して行った。
【0212】
{予備実験手順}
順化および健康に関する手順
動物をおよそ7日間順化させた。
【0213】
{実験手順}
群分け
2日目にマウスを以下の構成に従って群分けした。
【0214】
【表28】

【0215】
鎮痛
全マウスを、創傷手順の1時間前に5mg/kg s.c.のRimaldylを投与することにより、鎮痛させた。
【0216】
創傷の導入
1日目にマウスに創傷を導入した。
【0217】
Rimadrylの投与1時間後および外科麻酔法の導入のおよそ15分後に各マウスに1つの創傷を導入した。
【0218】
創傷を、各マウスの背面の皮膚に、以下の手順によって導入した:
1.マウスの背中を、3×3cmの範囲で剃毛した。
2.8mlのパンチ生検器具を使用して、剃毛範囲の中心を円形に切断した。
3.皮膚片をわずかに持ち上げ、慎重にマウスから切り取った。
【0219】
治療
1日目に治療を開始した。その後軟膏を全治療群に、5.1.項に記載のように塗布した。
【0220】
群1は担体軟膏を用いて治療した。群2は0.1%OPN含有軟膏を用いて治療した。群3は1.0%OPN含有軟膏を用いて治療した。軟膏は、創傷に慎重に局所塗布した。
【0221】
治療を、15日間毎日繰り返した。
【0222】
観察および測定
創傷を、1〜15日目に評価および測定した。
【0223】
創傷の直径を縦方向に(頭から尾に走る線に沿って)測定し、毎日記録した。
【0224】
創傷の出現を、以下の方式に従って毎日評価し、記録した:
0.完全に治癒した。
1.小さな創傷がまだ検出される。
2.痂皮はないが、まだ創傷がある。
3.初めの痂皮はないが、新しい痂皮がある(古い痂皮は剥がれたが、新しい痂皮ができた)。
4.初めの痂皮が創傷上にある。
【0225】
体重を、1、5、8、12および15日目に記録した。
【0226】
終了
終了時にマウスを安楽死させた。
【0227】
研究の概観
【0228】
【表29】

【0229】
{結果}
{創傷スコア}
結果を表1(付表)に示す。
【0230】
データをMann-Whitneyの対順位和検定(Wilcoxonの2標本検定)によって統計的に解析した。試験群の結果を、群1と比較した。統計解析の結果は以下の通りであった:
【0231】
【表30】

【0232】
結論:
群1:媒体軟膏
群2:0.1%OPN軟膏。群1との差はない
群3:1.0%OPN軟膏。群1との差はない
【0233】
{創傷直径}
結果を表2(付表)に示す。
【0234】
データを、対F検定および対スチューデントt検定によって統計的に解析した。対照および試験群の結果を群1と比較した。統計解析の結果は、以下の通りであった:
【0235】
【表31】

【0236】
創傷直径のAUC(曲線下面積(Area Under Curve))統計解析の結果は、以下の通りである:(対照および試験群における結果を、群1と比較した。)
群2:p<0.05
群3:p<0.05
【0237】
結論:
群1:媒体軟膏
群2:0.1%OPN軟膏、全般的に、群1より有意に直径が小さい
群3:1.0%OPN軟膏、全般的に、群1より有意に直径が小さい
【0238】
{創傷面積}
結果を表3(付表)に示す。
【0239】
データを、対F検定および対スチューデントt検定によって統計的に解析した。対照および試験群の結果を群1と比較した。統計解析の結果は、以下の通りであった:
【0240】
【表32】

【0241】
創傷面積のAUC(曲線下面積(Area Under Curve))統計解析の結果は、以下の通りである:(対照および試験群における結果を、群1と比較した。)
群2:p<0.05
群3:非有意
【0242】
結論:
群1:媒体軟膏。
群2:0.1%OPN軟膏。全般的に群1より有意に面積が小さい。
群3:1.0%OPN軟膏。7および12日目は創傷面積が有意に小さい。
【0243】
{1日目に対する相対的創傷面積}
結果を表4(付表)に示す。
【0244】
データを、対F検定および対スチューデントt検定によって統計的に解析した。対照および試験群の結果を群1と比較した。統計解析の結果は、以下の通りであった:
【0245】
【表33】

【0246】
相対的創傷面積のAUC(曲線下面積(Area Under Curve))統計解析の結果は、以下の通りである:(対照および試験群における結果を、群1と比較した。)
群2:非有意
群3:非有意
【0247】
結論:
群1:媒体軟膏
群2:0.1%OPN軟膏。10、11および12日目は、群1より相対的創傷面積は有意に小さい
群3:1.0%OPN軟膏。群1との差はない。
【0248】
{体重}
動物の体重を表5および表6(付表)に示す。群間に体重の差は見られなかった。
【0249】
{結論}
3つの群の間に創傷スコアの差はまったく観察されなかった。
【0250】
群2(0.1%OPN)および群3(1.0%OPN)の両方が、群1(媒体)より直径が有意に小さかった。
【0251】
創傷面積を比較した場合、群2だけが全般的に有意に創傷面積が減少した。群3の創傷面積は、7および12日目に対してだけ群1より有意に小さかった。
【0252】
創傷面積を1日目と比較した場合、群2の相対的創傷面積は、10、11および12日目は群1より有意に小さかった。群1と群3との間に有意な差はなかった。
【0253】
したがって、0.1%OPN軟膏を用いた野生型マウスにおける創傷の治療は、治癒過程の最終期において、創傷治癒に関する好ましい効果を有すると思われる。
【0254】
{アーカイブ}
最終記録ならびにすべての生データおよび結果を、研究終了から五(5)年間、Pipeline Biotech A/Sのアーカイブに保管する。
【0255】
【表34A】

【0256】
【表34B】

【0257】
【表34C】

【0258】
【表35A】

【0259】
【表35B】

【0260】
【表35C】

【0261】
【表36A】

【0262】
【表36B】

【0263】
【表36C】

【0264】
【表37A】

【0265】
【表37B】

【0266】
【表37C】

【0267】
【表38】

【0268】
【表39】

【0269】
{主な結論}
実験を、健康なマウスおよび糖尿病のマウスさらに感染した健康なマウスについて実施した。
【0270】
正常に還流した組織における急性創傷の治癒に影響を与えるために、検査した試験物質の効果は、かなり強力でなければならない。オステオポンチン試験は、さらにこれらのモデルについての効果、特に創傷治癒過程の最終期おけるこれらのモデルについての効果を実証した。使用するオステオポンチンの濃度に関して、若干の差があるように思えるが、これは多様な創傷モデルの構成によるものと思われる。ウシオステオポンチンは糖尿病の動物に対して効果を有し、そればかりか誘導した細菌にかかわらず、感染した創傷でさえも治癒する効果があることが分かった。このことにより、ウシオステオポンチンの創傷治癒効果が立証された。効果がまったく健康な動物についても見られることにより、この仮説が裏付けられる。したがって、おもな結論は、ウシオステオポンチンが急性創傷の治癒に効果を有するということである。それ故、この効果が慢性の治癒しない創傷にもまた適用されると確信する理由も存在する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウシオステオポンチンおよび補助剤を含む、創傷治癒用局所製剤。
【請求項2】
前記製剤が、軟膏、液体、散剤または硬膏である、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
オステオポンチン濃度が0.01%から10%である、請求項2に記載の軟膏。
【請求項4】
オステオポンチン濃度が0.1%から5%である、請求項3に記載の軟膏。
【請求項5】
オステオポンチン濃度が0.1%から2%である、請求項4に記載の軟膏。
【請求項6】
オステオポンチン濃度が0.1%から1.5%である、請求項5に記載の軟膏。
【請求項7】
オステオポンチン濃度が0.5%から1%である、請求項6に記載の軟膏。
【請求項8】
創傷治癒を改善する局所製剤の調製のための、ウシオステオポンチンの使用。
【請求項9】
感染した創傷または炎症を起こした創傷の治癒を改善する局所製剤の調製のための、ウシオステオポンチンの使用。
【請求項10】
糖尿病性創傷の治癒を改善する局所製剤の調製のための、ウシオステオポンチンの使用。
【請求項11】
創傷治癒の改善を必要とする患者に、ウシオステオポンチンの有効量を投与することを含む、創傷治癒を改善する方法。

【公表番号】特表2009−519254(P2009−519254A)
【公表日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−544760(P2008−544760)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【国際出願番号】PCT/DK2006/000716
【国際公開番号】WO2007/068252
【国際公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(501295969)アルラ・フーズ・エイ・エム・ビィ・エイ (11)
【Fターム(参考)】