説明

力およびトルク検出機構

【課題】構造が簡単かつ精度および感度の高い、力およびトルク検出機構を提供する。
【解決手段】外周部リム5と軸部ボス6との間に中間リング15を設け、前記中間リング15と前記軸部ボス6との間に前記外周部リム5加えられた力を検出する領域を確保する。該領域内に前記中間リング15と前記軸部ボス6とを連結する半径方向に逐次断面変化する台形柱型小ア−ム16〜19を複数設ける。前記中間リング11と、前記小ア−ム16〜19と、前記軸部ボス6と、を一体化した機構にする。係る機構により、前記外周部リム5に加えられた力が中間ア−ム11〜14を介して前記中間リング15に伝達される。前記中間リング15によって、前記外周部リム5に加えられた力を、均等に、前記小ア−ム16〜19に伝達する。さらに、台形柱型の前記小アーム16〜19の力検出領域に、均一な高応力状態を生じさせる。該力検出領域を用いて、前記外周部リム5に加えられた力を、高感度かつ高精度に検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸に作用する力およびトルクの検出機構に関する。
【背景技術】
【0002】
電動車椅子等に用いられるトルク検出装置として、特開平3−15468号広報及び特開平6−304205号広報によれば、使用者がハンドリムを操作するときに発生する操作トルクを、車輪とハンドリムとの相互間にひずみゲージを装着して測定し、この操作力に応じた電流を駆動モータに供給して、補助(アシスト)駆動力を発生させる方式の発明(従来技術1)が開示されている。
【0003】
また、ロードセルを用いてハンドリムに加えられた力を検出するもの(従来技術2)や、ハンドリムと車輪を弾性的に係合し、トルクによって生じる両者の回転角の差を検出して、この差からトルクを検出するもの(従来技術3、特開平7−136218号広報)が提案されている。
【0004】
また、トルク検出装置として、車輪を支持する車輪ハブと、この車輪ハブと同心に位置決めされると共に相対的に回転しうるハンドリムハブと、車輪ハブと回転軸に沿って移動可能な中空円筒状のスライダを備え、スライダの位置を検出する位置センサの装着によりトルク検出を行うもの(従来技術4、特開平9−311085号広報)も提案されている。これらの従来技術には、簡易な構造で力あるいはトルクの高精度の検出を可能とするものはない。
【特許文献1】特開平3−15468号広報
【特許文献2】特開平6−304205号広報
【特許文献3】特開平7−136218号広報
【特許文献4】特開平9−311085号広報
【0005】
【非特許文献1】酒井一昭、安田寿彦、川久保直之、田中勝之著 「片手用車椅子のための操作トルク検出機構に関する研究」 (社)日本機械学会関西支部第83期定時総会講演会講演論文集 No.084−1 12−26頁 2008年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の従来技術1〜4では、ロードセルや角度検出装置や位置センサなどを車輪とハンドリムの相互間に設置する必要があり、トルク検出機構が大型化かつ複雑化する。このようなトルク検出機構は、その設置可能箇所が狭い場合には使用することができない。このような問題に鑑みて、本発明は、複雑な構成要素を必要とせず単純な機構で精度の高い、力およびトルク検出を可能とする手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するために、請求項1では、軸に力を伝達する機構において、力が作用する外周部リムと前記軸と一体化した軸部ボスとの間に設置された中間リングと、前記中間リングと前記軸部ボスを連結する複数の力検出用小ア−ムと、で構成され、該力検出用小ア−ムの表面部の変形量を検出することによって、前記軸に働く力あるいはトルクを検出する機構を備えていることを特徴とする。
【0008】
請求項2では、前記請求項1の前記力検出用小アームの前記中間リングの半径と直交する断面において、該断面の位置が軸部から外周部へ向かって変化するときに、前記力検出用小アームの該断面の面積が逐次減少する矩形断面を有する、略台形柱型とすることによって、前記力検出用小アームの表面部に応力あるいは変形量が一様な力検出領域を生成して、該力検出領域内においては、応力検出位置あるいは変形量検出位置に依存することなく、外周部リムに加えられた力を検出できる構造を有することを特徴とする。
【0009】
請求項3では、前記請求項1の前記中間リングの厚みあるいは幅を該中間リングの変形が極小となるように調整する手法、あるいは前記中間リングの材料を該中間リングの変形が極小となる材料とする手法、前記中間リングの設置位置を前記軸部ボスの外側近傍に設置するなどの手法によって、前記外周部リムに力が加わった場合の前記中間リングの変形を抑制して、前記外周部リムに加える力の作用点に依存することなく、前記力検出用小アーム表面の応力状態、あるいは前記力検出用小アームの変形状態を、すべての前記力検出用小アームにおいて、ほぼ等しくすることによって、前記軸部ボスと一体化している軸に作用する力あるいはトルクを、前記外周部リムに加えられた力の作用点に依存することなく検出できる構造を備えていることを特徴とする。
【0010】
請求項4では、前記請求項1の前記中間リングの設置によって、前記中間リング内部に設置する応力測定領域あるいは変形量測定検出領域における、応力分布あるいは変形量分布を調整する機能を有することを特徴とする。
【0011】
請求項5では、前記力検出用小アームによって検出された力から前記軸部ボスに取り付けられた前記軸に作用するトルクを検出できる構造であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第一発明、第三発明および第四発明によれば、前記外周部リムに力が加えられたときに、力の作用点の位置に依存することなく、軸部近傍に設置されたすべての前記力検出用小アーム表面に、他の前記力検出用小アーム表面と、応力分布あるいは変形量分布が、ほぼ等しい応力測定領域あるいは変形量測定領域が生成される。このことにより、該応力測定領域あるいは該変形量測定領域にひずみゲージなどの力あるいは変形量検出デバイスを設置することによって、外周部リムに加えられた力の作用点の位置に依存せずに、外周部リムに加えられた力を検出できる。
【0013】
第二発明によれば、外周部リムに加えられた力によって、前記力検出用小アームに、応力あるいは変形量が均一な領域を生成することができ、このことによって、応力あるいは変形量を測定するための検出デバイスの設置位置の選択範囲が広くなり、力あるいは変形量の検出デバイスの設置位置の精度が要求されることなく、外周部リムに加えられた力の正確な測定が可能となる。したがって、ゲ―ジ等の貼り付けの人為的作業による貼付け位置にずれが生じても同じひずみ量の検出が可能となる十分な貼り付け領域が確保できる。このため、検出される力のばらつきが小さくなる。また、断面積の大きさは、適宜、変更可能であるので、必要かつ十分な力の検出感度が得られる。
【0014】
第五発明によれば、前記力検出用小アームに設置した応力検出デバイスあるいは変形量検出デバイスによって検出した外周部リムに作用する力から、軸に作用するトルクを導出することが可能となる。
【0015】
第一発明、第二発明、第三発明、第四発明および第五発明によれば、複雑な機構を設けることなく、軸近傍に設置された単純な機構によって、軸に作用する力およびトルクが検出できる。
【0016】
第一発明、第二発明、第三発明および第四発明によれば、前記外周部リムに加えられた力の検出領域を、軸取り付け部である軸部ボス近傍のすぐ外側部分に確保できる。
【0017】
第一発明、第二発明、第三発明、第四発明および第五発明によれば、中空軸など軸径の大きな軸の外側近傍に、軸に作用する力およびトルクを検出する機構を設置することができる。
【0018】
第一発明、第二発明、第三発明、第四発明および第五発明によれば、前記中間リングの設置によって、該中間リングの内側に形成される、力あるいは変形量の検出領域内に新たな応力状態を発生させ、前記力あるいは変形量の検出領域内に設置された前記力検出用小アームの設置位置の違いによる該力検出用小アーム表面の応力状態のばらつきを低減させて、検出応力のばらつきを減少させる役目を果たす効果がある。この効果によって、前記力検出用小アームの設置数、前記力検出用小アームの取付位置、および前記力検出用小アームの寸法が、任意に設定できる。さらに、前記中間リングの内側の力あるいは変形量の検出領域内に設置する前記力検出用小アームの形状断面は任意の寸法設計が可能であるので、力あるいは変形量の検出感度および検出領域を任意に調整できる。また、前記力検出用小アームの表裏両面および側面が平滑な平面を有しているため、ひずみゲージ等の貼り付けが容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1に示すように、力およびトルク検出機構は、力およびトルクの検出部を有する力検出用小アーム16〜19と、力およびトルクの検出部の応力状態を調節する中間リング15と、から構成される。
【0020】
図1に示すように、当該力およびトルク検出機構の前記中間リング15は外周部リム5と軸部ボス6との間に設けられ、また、前記中間リング15と前記軸部ボス6の間に台形柱型の前記力検出用小アーム16〜19が設けられている。
【0021】
図1に示した本発明の力およびトルク検出機構は、図2に示す従来機構から、図3に示す工程により段階的に構築される。
【0022】
図2に示す従来機構においては、外周部リム5に操作力Fが作用した場合、図4に示すようにア―ム1〜4に生じる応力状態は、前記ア―ム1〜4と操作力Fの相対的位置の違いによって、図5に示すように軸部ボス6近傍で大きく異なる。図5中の、ア―ム位置は軸部ボス6から外周部リム5までの間において、アームを均等に要素分割した位置番号で示したものである。図5は、図2の示す位置に操作力Fを作用させた場合のFEM解析結果である。
【0023】
図6に示す、中間リング15を設置することによって、力検出用小アーム7〜10に生じる応力状態は、図7および図8に示すように、力検出用小ア―ム7〜10と操作力Fの相対的位置の違いによらず、図9に示すようにほぼ等しくなる。図9は、中間リング15が設けられたことによって、力検出用小アーム7〜10に生じる応力状態のばらつきが低減する、中間リング15の効果を示すものである。図9は、図6に示す位置に操作力Fを作用させた場合のFEM解析結果である。
【0024】
図10は、図1の力検出用小アーム16〜19の表面に均一な応力分布領域、あるいは均一な変形量分布領域を生成するための、略台形柱型力検出用小アームを示す。
【0025】
図1に、図10の略台形柱型力検出用小アーム16〜19を、中間リング15と軸部ボス6との間に設置した、本発明の力およびトルク検出機構を備えたハンドル機構を示す。図11に示す位置に操作力Fを加えた場合、図11および図12に示すように、力検出用小アームには、均一な応力状態が発生する。図13は、中間リング15を設け、かつ、力検出用小アーム16〜19を略台形柱型力検出用小アームとすることによって、略台形型力検出用小アーム16〜19に均一かつ同様の応力分布が生じることを示している。図13は、図11の示す位置に操作力Fを作用させた場合のFEM解析結果である。
【0026】
図1に示す、外周部リム5、中アーム11〜14、中間リング15、略台形型力検出用小アーム16〜19および軸部ボス6は一体となっている。これにより、力およびトルク検出機構を有するハンドリムとして利用できる。
【0027】
図14に示すように、図1に示す中間リング15、力検出用小ア―ム16〜19および軸部ボス6の3種類の要素を一体化することによって、各種機械装置等の駆動操作軸へ容易に取り付けられるトルク検出用ユニットを形成することができる。該トルク検出用ユニットは、中間ア―ムとトルク検出機構の接続を容易とする、本発明の実施形態の一例である。
【0028】
図15は、図14に示すトルク検出用ユニットとハンドリムの一部分であるリムおよび中ア―ムを連結させてトルク検出機構を有するハンドリムとして利用できるように完成させたものである。
【産業上の利用可能性】
【0029】
上記の実施形態によれば、機械装置等の駆動回転軸付近に容易にトルク検出機構を構築することができ、誤差の少ない信頼性の高い操作力の検出機構として利用できる。
【0030】
図16に示す3本のハンドリムを有する片手用車椅子の、ハンドリム24〜26に、図15に示すような本発明の機構を図16のような形態で設けることによって、操作トルク検出機構を備えた操作機構とすることができる。
【0031】
図17に示すように、バルブのハンドルへ、本発明の機構を設けることによって、バルブ開閉時の弁棒に生じる操作トルクを検出する用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明における力およびトルク検出機構部を備えたハンドル機構の一例を示す図である。
【図2】従来のハンドル機構の一例を示す図である。
【図3】この発明に係る力およびトルク検出機構部を、図2に示すハンドル機構の、軸部に段階的に形成される様子を示す説明図である。
【図4】図2に示す従来のハンドル機構に操作力Fが作用した場合に中間ア―ム1に生じる応力状態を示す模式図である。
【図5】図2に示したハンドル機構のアームに生じる最大主応力とア―ム位置との関係を示す図である。
【図6】この発明における機構形成の第1段階として、図1に示すハンドル機構に中間リングを設けた図である。
【図7】図6に示す第1段階の改良を施したハンドル機構に操作力Fが作用した場合に中間ア―ム1および力検出用小アーム7〜10に生じる応力状態を示す模式図である。
【図8】図6に示すハンドル機構の軸部近傍の力検出用小アーム7〜10に生じる応力状態の拡大図である。
【図9】図6に開示したハンドル機構の中間ア―ム1および力検出用小アーム7〜10に生じる最大主応力とア―ム位置との関係を示す図である。
【図10】中間リング15の半径方向に断面が逐次変化する擬似平等強さの形状断面を有する力検出用小ア―ムの図である。
【図11】図10に示すハンドル機構に操作力Fが作用した場合の中間ア―ム1および力検出用小アーム16〜19に生じる応力状態を示す模式図である。
【図12】図10に示すハンドル機構の軸部近傍の力検出用小アーム16〜19に生じる応力状態の拡大図である。
【図13】図10に示すハンドル機構の中間ア―ム1および力検出用小アーム16〜19に生じる最大主応力とア―ム位置との関係を示す図である。
【図14】この発明の実施例を示すトルク検出ユニットを示す図である。
【図15】図14のトルク検出用ユニットをハンドル機構に用いたトルク検出機構付ハンドル機構を示す図である。
【図16】この発明の実施形態を示す図15のハンドル機構を、ハンドリムとして片手用車椅子に利用した図である。
【図17】この発明の実施形態をバルブの開閉操作を行うハンドル部に構築した図である。
【符号の説明】
【0033】
1 ア―ム1
2 ア―ム2
3 ア―ム3
4 ア―ム4
5 外周部リム
6 軸部ボス
7 力検出用小ア―ム1
8 力検出用小ア―ム2
9 力検出用小ア―ム3
10 力検出用小ア―ム4
11 中間ア―ム1
12 中間ア―ム2
13 中間ア―ム3
14 中間ア―ム4
15 中間リング
16 略台形型力検出用小ア―ム1
17 略台形型力検出用小ア―ム2
18 略台形型力検出用小ア―ム3
19 略台形型力検出用小ア―ム4
20 ひずみゲ―ジ
21 トルク検出機構ユニット用リム
22 トルク検出機構ユニット
23 トルク検出機構ユニット取付用ア―ム
24 左折用ハンドリム
25 直進用ハンドリム
26 右折用ハンドリム
27 ハンドル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸に力を伝達する機構において、力が作用する外周部リムと前記軸と一体化した軸部ボスとの間に設置された中間リングと、前記中間リングと前記軸部ボスを連結する複数の力検出用小ア−ムと、で構成され、該力検出用小ア−ムの表面部の変形量を検出することによって、前記軸に働く力あるいはトルクを検出する機構を備えていることを特徴とする力およびトルク検出機構。
【請求項2】
前記請求項1の前記力検出用小アームの前記中間リングの半径と直交する断面において、該断面の位置が軸部から外周部へ向かって変化するときに、前記力検出用小アームの該断面の面積が逐次減少する矩形断面を有する、略台形柱型とすることによって、前記力検出用小アームの表面部に応力あるいは変形量が一様な力検出領域を生成して、該力検出領域内においては、応力検出位置あるいは変形量検出位置に依存することなく、外周部リムに加えられた力を検出できる構造を有することを特徴とする請求項1記載の力およびトルク検出機構。
【請求項3】
前記請求項1の前記中間リングの厚みあるいは幅を該中間リングの変形が極小となるように調整する手法、あるいは前記中間リングの材料を該中間リングの変形が極小となる材料とする手法、前記中間リングの設置位置を前記軸部ボスの外側近傍に設置するなどの手法によって、前記外周部リムに力が加わった場合の前記中間リングの変形を抑制して、前記外周部リムに加える力の作用点に依存することなく、前記力検出用小アーム表面の応力状態、あるいは前記力検出用小アームの変形状態を、すべての前記力検出用小アームにおいて、ほぼ等しくすることによって、前記軸部ボスと一体化している軸に作用する力あるいはトルクを、前記外周部リムに加えられた力の作用点に依存することなく検出できる構造を備えていることを特徴とする請求項1に記載の力およびトルク検出機構。
【請求項4】
前記請求項1の前記中間リングの設置によって、前記中間リング内部に設置する応力測定領域あるいは変形量測定検出領域における、応力分布あるいは変形量分布を調整する機能を有することを特徴とする請求項1に記載の力およびトルク検出機構。
【請求項5】
前記力検出用小アームによって検出された力から前記軸部ボスに取り付けられた前記軸に作用するトルクを検出できる構造であることを特徴とする請求項1に記載の力およびトルク検出機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−66181(P2010−66181A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−234172(P2008−234172)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (社)日本機械学会関西支部第83期定時総会講演会講演論文集 No.084−1
【出願人】(308007778)
【Fターム(参考)】