力センサを搭載したロボットマニピュレータを用いたロールヘム加工装置
【課題】ロボットマニピュレータとワークとの間の位置誤差を補正し、適切な押し付け力にて良好なプリヘム加工又はヘム加工を行えるロールヘム加工装置を提供する。
【解決手段】ロールヘム加工装置は、ロボットマニピュレータ10の先端部に取り付けられたローラ12又は34の現在の位置を検出する位置検出手段と、ロボットマニピュレータの手首部14と該ローラとの間に設けられた力センサ16と、位置検出手段の出力及び該力センサの出力を用いて、該ローラを型18へ押し付ける力が所定の値になるように該ローラの位置を制御する制御装置26とを備える。
【解決手段】ロールヘム加工装置は、ロボットマニピュレータ10の先端部に取り付けられたローラ12又は34の現在の位置を検出する位置検出手段と、ロボットマニピュレータの手首部14と該ローラとの間に設けられた力センサ16と、位置検出手段の出力及び該力センサの出力を用いて、該ローラを型18へ押し付ける力が所定の値になるように該ローラの位置を制御する制御装置26とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローラが取り付けられたロボットマニピュレータを用いて、プリヘム加工及びヘム加工の一方又は双方を行うロールヘム加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2枚の板金を接合して自動車のドアパネル等を成形するロールヘム加工では、該2枚の板金のうち外板の端縁を全周にわたって予め垂直に折り曲げ、該外板を型に固定し、次に該2枚の板金のうち内板を重ねて、ロボットマニピュレータに取り付けたローラを外板の端縁に圧接することで2枚の板金を接合する。ここで、型に垂直な外板の端縁部を約45°に折り曲げることをプリヘム加工といい、該端縁部を平坦になるまで圧接する(すなわち約90°折り曲げる)ことをヘム加工という。
【0003】
ロールヘム加工において良好な加工品質を得るためには、プリヘム加工又はヘム加工中に十分な押し付け力を上記端縁部に加える必要があるが、従来は、ロボットマニピュレータ手首部のツールに仕込まれているバネ、油圧機器又はサーボモータ等により押し付け力を発生させていた。例えば特許文献1には、ロボットハンドの先端にヘムローラを取り付け、ロボットハンドに設けた駆動モータによりヘムローラを回転前進させるローラ式ヘミング装置が開示されている。
【0004】
ワークに対するプリヘムローラ又はヘムローラの押し付け力は、好適なプリヘム加工又はヘム加工を行う上で重要なファクタである。例えば特許文献2には、ヘムローラを押圧方向に変位可能に構成し、ロボットハンドに撓みが生じても正確な軌跡で適正な押圧力で被ヘミング材を転圧することを企図したローラ式ヘミング装置が開示されている。
【0005】
ローラを動かすのはロボットハンド又はロボットマニピュレータなので、折り曲げ形状や加工品質はロボットマニピュレータの位置精度に依存する。この位置精度を高めるべくマニピュレータの位置誤差を低減又は排除するために、種々の技術が提唱されている。例えば特許文献3には、加工時にロボットマニピュレータにかかる外力によってマニピュレータの関節部位に生じるガタツキによって加工精度が低下し得ることを考慮し、ロボットマニピュレータの手首部に受けローラ及び押圧ローラを設け、両ローラの相対位置をシリンダで変化させることができるようにしたヘミング加工装置が開示されている。
【0006】
また特許文献4には、複数のヘムローラと複数の従動ローラとの間に、基台の周縁フランジとともにワークを挟んでヘム加工を行うロールヘム加工装置が開示されている。
【0007】
さらに特許文献5には、基台の周縁フランジの端部に、ヘムローラ及びガイドローラの少なくとも一方を加工の進行方向に沿って案内するガイドレールを設けたロールヘム加工装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61−262432号公報
【特許文献2】特開平5−305357号公報
【特許文献3】特開平7−60370号公報
【特許文献4】特開2003−103325号公報
【特許文献5】特開2006−88217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の発明では、ワークに対するロボットマニピュレータの位置誤差の影響により、良好なヘム加工が困難な場合がある。また特許文献2に記載の発明では、ヘム加工時にロボットハンドにかかる外力によってロボットの関節部位の軸受部等にガタツキが生じる虞がある。特許文献3、4に記載の発明では、ワークに対するローラの位置精度の向上は図られるものの、ローラの種類が多くなるため、ツールの構造が複雑になりコストアップや信頼性低下の要因となり得る。さらに特許文献5に記載の発明では、ローラ案内用のガイドレールを設ける必要があるが、型は通常ワークの種類毎に用意する必要があると解され、それぞれの型にガイドレールを設けることは手間がかかり、コスト的にも不利である。
【0010】
またワークが曲面部を有する場合等は、ワークの部位によって押し付け力を変化させることによって良好な加工品質を得ることが可能な場合があるが、従来はロールヘム加工中に押し付け力を変更することは困難であった。
【0011】
そこで本発明は、ロボットマニピュレータとワークとの間の位置誤差を補正し、適切な押し付け力にて良好なプリヘム加工又はヘム加工を行えるロールヘム加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、ロボットマニピュレータの先端部に取り付けられたローラを、型の上に載置された外板と該外板に重なった内板とからなるワークの前記外板の端縁部に押し付けつつ移動させながら、前記ローラと前記型に挟まれた前記外板の端縁部を折り曲げることによりプリヘム加工又はヘム加工を行うロールヘム加工装置において、前記ローラの現在の位置を検出する位置検出手段と、前記ロボットマニピュレータの手首部と前記ローラとの間に設けられた力測定手段と、前記位置検出手段の出力及び前記力測定手段の出力を用いて、前記ローラを前記型へ押し付ける力が所定の値になるように前記ローラの位置を制御する制御手段と、を備える、ロールヘム加工装置を提供する。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のロールヘム加工装置において、前記制御手段は、前記位置検出手段の出力及び前記力測定手段の出力を用いて、前記ローラを前記型へ押し付ける力及び前記ローラに作用するモーメントがそれぞれ所定の値になるように前記ローラの位置を制御する、ロールヘム加工装置を提供する。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のロールヘム加工装置において、前記位置検出手段から得られる前記ローラの位置と、前記力測定手段から得られる力及びモーメントと、前記ローラの形状に関する情報とから、前記ロボットマニピュレータと前記外板の端縁部の位置誤差を求める手段と、前記位置誤差に基づいてプリヘム加工又はヘム加工開始点を補正する手段とをさらに有する、ロールヘム加工装置を提供する。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載のロールヘム加工装置において、前記力測定手段の出力を用いてプリヘム加工又はヘム加工中に、前記ローラを型に押し付ける方向及び前記ローラの進行方向の双方に垂直な方向についても前記ローラに所定の力がかかるように前記ローラの移動を制御する手段をさらに有する、ロールヘム加工装置を提供する。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のロールヘム加工装置において、前記力測定手段の出力を用いてプリヘム加工又はヘム加工中に、前記ローラの進行方向にかかる力を求め、プリヘム加工又はヘム加工中に前記力の値が所定の範囲内にあるように前記ローラの移動を制御する手段をさらに有する、ロールヘム加工装置を提供する。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載のロールヘム加工装置において、前記位置検出手段から得られる前記ローラの位置に基づいてプリヘム加工又はヘム加工中の前記ローラの送り速度を求め、該送り速度の変化に応じて、前記ローラによる前記型への押し付け力を変更する手段をさらに有する、ロールヘム加工装置を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ガイドレール等を使用せずにロボットマニピュレータとワークとの間の位置誤差を補正することができ、位置誤差の影響を受けずに良好なプリヘム加工又はヘム加工を行うことが可能となり、良好な加工品質を得ることができる。
【0019】
ローラの押し付け力及びモーメントを利用することにより、ワークとローラとの間の位置誤差を簡易な式で求めることができる。
【0020】
位置検出手段から得られるローラの位置と、力測定手段から得られる力及びモーメントと、ローラの形状に関する情報とから、ロボットマニピュレータとワークとの位置誤差を求め、プリヘム加工又はヘム加工開始点を補正することができる。
【0021】
プリヘム加工又はヘム加工中に、ローラを型に押し付ける方向及びローラの進行方向の双方に垂直な方向についてもローラに所定の力がかかるようにローラの移動を制御することにより、ローラが本来の軌道から外れることを防ぎ、さらに良好な加工品質を得ることができる。
【0022】
ローラの進行方向にかかる力を求め、プリヘム加工又はヘム加工中に前記力の値が所定の範囲内にあるようにローラの移動を制御することにより、ローラにかかる力の変動を抑制して良好な加工品質を得ることができる。
【0023】
ローラの位置に基づいてプリヘム加工又はヘム加工中のローラの送り速度を求め、該送り速度の変化に応じてローラによる型への押し付け力を変更することにより、ワークが曲面を有する場合等でも良好な加工品質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係るロールヘム加工装置の概略構成を示す図である。
【図2】プリヘムローラの形状の一例を示す図である。
【図3】ヘムローラの形状の一例を示す図である。
【図4】本発明に係るロールヘム加工装置による加工の流れを示すフローチャートである。
【図5】プリヘム加工の加工経路を説明する概略図である。
【図6】プリヘム加工におけるプリヘムローラとワークとの位置関係を示す図であって、(a)プリヘムローラがワークの外板端縁部に当接した状態、(b)プリヘムローラがさらに下降して該端縁部が曲げられていく状態、(c)プリヘムローラがさらに下降して該端縁部が所定の角度に曲げられた状態(ローラが型に着座した状態)を示す図である。
【図7】(a)プリヘムローラとワークとの間の位置誤差を求めるための考え方を説明する図であり、(b)該位置誤差を補正すべくプリヘムローラを移動させた状態を示す図である。
【図8】(a)プリヘムローラとワークとの間の位置誤差を求めるための他の考え方を説明する図であり、(b)該位置誤差を補正すべくプリヘムローラを移動させた状態を示す図である。
【図9】加工中にローラに作用する力を説明する概略図である。
【図10】ヘム加工におけるヘムローラとワークとの位置関係を示す図であって、(a)ヘムローラがワークの外板端縁部に当接した状態、(b)ヘムローラがさらに下降して該端縁部が曲げられていく状態、(c)ヘムローラがさらに下降して該端縁部が所定の角度に曲げられた状態(内板に重ねられた状態)を示す図である状態を示す図である。
【図11】ヘムローラとワークとの間の位置誤差を求めるための考え方を説明する図である。
【図12】(a)ヘムローラとワークとの間の位置誤差を求めるための他の考え方を説明する図であり、(b)該位置誤差を補正すべくヘムローラを移動させた状態を示す図である。
【図13】ワークが曲面を有する場合等に、ローラの送り速度に応じて押し付け力を変化させる具体例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明に係るロールヘム加工装置の概略構成を示す図である。ロボットマニピュレータ(以降、ロボットと略称する)10のアーム先端部にはローラが取り付けられており、詳細には、後述するプリヘムローラ12又はヘムローラとロボット10の手首部14との間に力センサ16が設けられ、力センサ16はプリヘムローラ12又はヘムローラにかかる力(押し付け力)を測定し出力できるように構成されている。型18の上に配置された被加工物すなわちワーク20は、型18の上に載置された板金等の外板22と該外板22に重ねられた板金等の内板24とを有する。また後述するプリヘム加工及びヘム加工を含むロボット10の動作の制御は、ロボット10に接続された制御装置26により行うことができる。
【0026】
ロボット10は、そのアーム先端部に取り付けられたプリヘムローラ又はヘムローラの現在の位置を検出し出力する位置検出手段を有する。この位置検出手段は、例えばロボット10の各軸を駆動するサーボモータ等のモータ(図示せず)に設けられたエンコーダ等の位置検出器(図示せず)であってもよいし、アーム先端部に取り付けられたプリヘムローラ又はヘムローラとの位置関係が予め規定されたポジションセンサ17であってもよいし、その他公知の手段を用いてもよい。
【0027】
本発明に係るロールヘム加工装置では、従来のロールヘム作業と同様に、外板22の端縁28は全周にわたって予め垂直に折り曲げられている。これを型18に固定し内板24を重ねて、ロボット10に取り付けたローラを外板22の端縁28に圧接させることで2枚の板金を接合する。プリヘムローラ12を用いたプリヘム加工では端縁部28を全周にわたって約45°に折り曲げるプリヘム加工を行い、次いでヘムローラを用いたヘム加工では、端縁部28が内板24に重ねられて平坦になるまで圧接するヘム加工を行う。
【0028】
図2は、プリヘムローラ12の形状の一例を示す図である。プリヘムローラ12は、フランジ30及びフランジ30に同軸に取り付けられた円錐部又は円錐台部32を有する。また図3は、ヘム加工時に使用するヘムローラ34の形状の一例を示す図である。ヘムローラ34は、フランジ36及びフランジ36に同軸に取り付けられた円筒状部38を有する。これらのような形状のローラを利用することにより、ローラの下方だけでなく横方向の押し付けも確実に行え、加工開始点や加工中におけるワークの位置誤差を補正できる。この詳細は後述する。なお図示例では、プリヘム加工用のプリヘムローラ及びヘム加工用のヘムローラを別のものとして説明しているが、同一のローラを使用し、型に対する押し付け角度を変えることでプリヘム加工及びヘム加工の双方を行うことも可能である。
【0029】
次に、本発明に係るヘムロール加工装置を用いたプリヘム加工及びヘム加工の流れについて説明する。図4は、本発明に係るロールヘム加工装置を用いたロールヘム加工の流れを示すフローチャートであるが、先ずロールヘム加工を行う前に、以下の準備が必要である。
a.プリヘム加工開始点及びヘム加工開始点を教示する。
b.プリヘム加工及びヘム加工のそれぞれにおける、加工開始点から加工終了点までのローラの移動軌道を教示する。
c.プリヘム加工開始点及びヘム加工開始点での、型への押し付け力の設定値(適正値)を実験等により求めておく。
d.ローラとワークとの間の位置誤差を後述の方法1で補正する場合の準備として、ローラとワークとの理想的な(位置誤差がない時の)両者の接触点の、力センサ座標系25における座標を求めておく。該座標は、ローラの形状を考慮した計算か、或いは実験から求めることができる。なお力センサ座標系とは、力センサに固定された直交座標系である(図7(a)参照)。
e.ローラとワークとの間の位置誤差を後述の方法2で補正する場合の準備として、ローラがワークと接触してからローラが着座するまでの理想的な(位置誤差がない時の)ローラの移動距離を求めておく。該移動距離は、ローラの形状を考慮した計算か、実験から求めることができる。
f.プリヘム加工中又はヘム加工中の型への適切な押し付け力、進行方向の反力、又は型への押し付け方向と進行方向の双方に直交する方向の押し付け力の設定値(適正値)を実験等により求めておく。
【0030】
以下、図4のフローチャートの各ステップについて詳細に説明する。なお後述するいずれの演算処理も、上述の制御装置26が行うことができるが、同等の機能を有する他の手段を別途利用することも可能である。
ステップS1
図2、及び型18を斜め上方からみた図5に示すように、プリヘムローラ12をプリヘム加工開始点40の上方に移動させる。図5の例では、加工開始点40から加工中間点42を経て加工終了点44までプリヘム加工及びヘム加工を行うものとする。加工開始点40においては図2に示すように、プリヘムローラ12を外板22の上方に教示しておく。
【0031】
ステップS2
図6(a)−(c)に示すように、プリヘムローラ12の押し付け力が所定の値以下になるまで、プリヘムローラ12を型18に向けて押し付ける。ここでは、押し付け方向を鉛直下向きとするが、これに限られない。先ずプリヘム加工開始点40において(プリヘムローラがワークと接触する前)、ロボット10の手首14に取り付けられた力センサ16を用いて、プリヘムローラ12に作用する力の鉛直方向の分力F1を求める(図2)。図2の例では、F1はプリヘムローラ12の自重に概ね等しい。
【0032】
次に、プリヘムローラ12が下降して外板22の端縁部28に接触した後(図6(a))にプリヘムローラ12が受ける鉛直方向の分力F2を、力センサ16で検出する。なお、該分力F2の検出によりプリヘムローラ12の外板22の端縁部28への接触が検知されるので、後述の方法1を採る場合には、その時点で次のステップS3の処理(プリヘム加工開始点の位置誤差の補正)も行う。F2は端縁部28が受ける押し付け力でもあるので、鉛直方向の力F3(=F2−F1)が、ロボットがプリヘムローラに付与している鉛直下方への力となる。ここで型への押し付け力F2が、図6(c)に示すような外板22を所定の形状(例えば45°に傾斜した形状)に曲げるために必要な設定値F0に等しくなるように、ロボットがプリヘムローラに付与する力F3が制御される。力の制御方法としてはインピーダンス制御、ダンピング制御及びハイブリッド制御等が挙げられるが、いずれも公知の方法なので詳細な説明は省略する。プリヘム加工は、プリヘムローラ12が型18に着座(図6(c))するまで行う必要があるので、押し付け力の設定値F0は十分に大きくすることが好ましい。なお外板22を所定の形状(例えば45°に傾斜した形状)に曲げるための力はワークの材質、厚み等により異なるので、F0の値は予め実験等により求めておくことが好ましい。
【0033】
ステップS3
プリヘム加工開始点40の位置の誤差(以降、位置誤差とも称する)を計算する。該位置誤差が所定の閾値を超えた場合は、プリヘム加工開始点40の位置を補正する。力センサ16から得られる力情報及びモーメント情報と、ロボット10の駆動モータ(図示せず)に設けられた位置検出器等から順運動学計算より得られるロボット10の手首部の現在位置と、プリヘムローラ12の形状に関するデータ又は情報とから、プリヘム加工開始点40の位置誤差を計算することができる。該位置誤差が設定した閾値より大きい場合、プリヘム加工開始点40でのロボット10の位置を補正する。このようにすれば、予め教示した軌道とワーク表面との間に多少の位置誤差があっても、プリヘムローラがワークから離れたり、逆に押し付け過ぎたりするという不具合を回避できる。
【0034】
ここで、ステップS3における位置誤差の具体的計算方法を2通り示す。
方法1
方法1は、プリヘムローラが外板の端縁部に接触する前後の力とモーメントの変化量を利用して、プリヘム加工開始点の位置誤差を補正するものである。
図7(a)に示すように、プリヘムローラ12を下方(型18のある方向)へ動かし、力センサ16を利用してプリヘムローラ12が外板22の端縁部28と接触する前後の力の変化量F(力センサ座標系のX、Y、Z方向のFの成分をそれぞれFx、Fy、Fzとする)とモーメントの変化量M(力センサ座標系のX、Y、Z方向のMの成分をそれぞれMx、My、Mzとする)を検出する。図7(a)が示す(Px0,Py0)は、位置誤差がない(理想的な)場合でのプリヘムローラとワークの接触点の力センサ座標系における座標であり、ここではプリヘムローラのフランジ30と円錐台部32との境界部分に位置するものとする。また(Px,Py)は、実際のローラとワークの接触点の力センサ座標系における座標であり、このX座標は外板22の外周端部23の力センサ座標系におけるX座標に等しい。
【0035】
前記Fx、Fy、Mzとプリヘムローラの形状を利用してワークの位置誤差(Px−Px0)を計算する方法を示す。先ず力とモーメントの物理的な関係より、下記の式(1)が成立する。
Mz=FyPx−FxPy (1)
また幾何学によって、下記の式(2)が成立する。
Py−Py0=k(Px−Px0) (2)
力センサとプリヘムローラは共にロボットに対し固定されており力センサ座標系におけるプリヘムローラの位置は一定なので、kは定数となる。例えば、図7(a)が示すようにプリヘムローラ12の円錐台部32の角度が45°の場合は、k=−1である。
【0036】
上記の式(1)及び(2)から、図7(a)が示すような位置誤差Px−Px0を求める下記の式(3)が導かれる。
Px−Px0=(Mz+FxPy0−FyPx0)/(Fy−kFx) (3)
このようにして求めた位置誤差(Px−Px0)が設定した閾値より大きいときは、図7(b)に示すように、該位置誤差が小さくなるようにプリヘムローラ12を破線の位置(図7(a))から実線の位置に動かすことにより、プリヘム加工開始点の位置誤差を補正する。なお位置誤差がない(理想的な)場合での、プリヘムローラとワークの接触点の力センサ座標系における座標(Px0,Py0)は、プリヘムローラの形状を考慮した計算か、或いは正確な教示をして実験により求めることができる。
【0037】
方法2
方法2は、プリヘムローラがワークと接触してから型に着座するまでのロボットの移動距離を利用して、プリヘム加工開始点の位置誤差を補正するものである。
図7(a)に示すように、プリヘムローラ12を下方(型18のある方向)へ動かし、力センサ16を利用してプリヘムローラ12が外板22の端縁部28と接触したことを検知し、その時のロボット位置P1を記録する。その後、図8(a)に示すように、プリヘムローラ12を所定の押し付け力でワークを型に押し付け、プリヘムローラ12が型18に着座したときのロボットの位置P2を記録する。プリヘムローラが着座したか否かは、押し付け力が設定値になった状態で押し付け方向にそれ以上プリヘムローラが進まなくなったことで判断できる。次に位置P1とP2とを比較して、プリヘムローラの移動距離Hを計算する。移動距離Hが設定値より小さい場合は、有意な位置誤差があると判断して該位置誤差を低減する方向(図示例では左方向)にプリヘムローラを押し付ける(図8(b))。左方向への押し付け力が予め設定した値になるまで押し付けることにより、ロボットとワークとの間の位置誤差を補正することができる。
【0038】
ステップS4
プリヘム加工終了点まで所定の押し付け力を加えながら、図5に示した加工開始点40から加工終了点44に至る加工経路に沿って、プリヘムローラ12を移動させる。プリヘム加工中には、図9に示すように、加工開始点40から加工終了点44まで、力センサによる力情報とモーメント情報を利用して、型18への押し付け力が所定の値になるようにロボットを制御する。型18への押し付け方向46(本実施形態では鉛直下方)と進行方向48(加工経路に沿う方向)の双方に直交する方向50にも押し付けを行い、方向50に沿う力も所定の値になるように制御される。これにより、教示した軌道がワークより少しずれている場合でも、プリヘムローラ12がワーク20より離れたり又はワーク20を押し込みすぎたりすることがなく、プリヘム加工でのワークの折り曲げ量を一定にすることができる。
【0039】
正常なプリヘム加工中は、プリヘムローラを介してその基部に接続されている力センサは進行方向前方からある大きさの反力F及びモーメントMを受ける。この反力とモーメントを常時監視し、反力F及びモーメントMが予め設定した範囲内(Fmin≦F≦Fmax、Mmin≦M≦Mmax)になるように、プリヘムローラの進行速度を制御する。これにより反力又はモーメントが加工中に大きく変動することがなくなり、良好な加工品質を得ることが可能となる。なお前記反力の範囲(Fmin,Fmax)及びモーメントの範囲(Mmin,Mmax)は材質、厚み、送り速度等により異なるので、予め実験等により求めておくことが好ましい。
【0040】
以上説明したステップS1−S4はプリヘム加工に関するものであり、以降に説明するステップS5−S8はヘム加工に関するものである。
【0041】
ステップS5
図3に示したようなヘムローラ34を、ヘム加工開始点40(図5)参照の上方に移動させる。ヘム加工も、加工開始点40から加工中間点42を経て加工終了点44まで行うものとする。ステップS1と同様の方法で、ヘムローラ34を外板22の少し上方に教示しておく。
【0042】
ステップS6
図10(a)−(c)に示すように、ステップS2と同様に、ヘムローラ34の押し付け力が所定の値以下になるまで、ヘムローラ34を型18に押し付ける。ここでは、押し付け方向を鉛直下向きとするが、これに限られない。先ずヘム加工開始点40において(ヘムローラがワークと接触する前)、ロボット10の手首14に取り付けられた力センサ16を用いて、ヘムローラ34に作用する力の鉛直方向の分力F1'を求める(図3)。図3の例では、F1'はヘムローラ34の自重に概ね等しい。
【0043】
次に、ヘムローラ34が下降して外板22の端縁部28に接触した後(図10(a))にヘムローラ34が受ける鉛直方向の分力F2'を、力センサ16で検出する。F2'は端縁部28が受ける押し付け力でもあるので、鉛直方向の力F3'(=F2'−F1')が、ロボットがヘムローラに付与している鉛直下方への力となる。ここで型への押し付け力F2'が、図10(c)に示すような外板22を所定の形状(例えば外板22の端縁部28が内板24に重ねられた状態)に曲げるために必要な設定値F0'に等しくなるように、ロボットがヘムローラに付与する力F3'が制御される。力の制御方法としてはインピーダンス制御、ダンピング制御及びハイブリッド制御等が挙げられるが、いずれも公知の方法なので詳細な説明は省略する。ヘム加工は、ヘムローラ34が型18に着座(図10(c))するまで行う必要があるので、押し付け力の設定値F0'は十分に大きくすることが好ましい。なお外板22を所定の形状(例えば端縁部28が内板24に重ね合わされた形状)に曲げるための力はワークの材質、厚み等により異なるので、F0'の値は予め実験等により求めておくことが好ましい。
【0044】
なお、図10(c)に示すようにヘムローラ34が型18に密着することを意図する場合には、力センサ座標系(図11参照)における点Qに作用するモーメントに着目すればよい。より具体的には、ヘムローラ34が図10(b)の状態にあるときは、ヘムローラ34が受ける力F2’が点Qとは異なる位置に作用するため、外板22から受ける力によって点Qにはゼロでないモーメントが作用していることになる。一方、ヘムローラ34が図10(c)に示す状態になったときは、ヘムローラ34の円筒状部38と外板22とが密着することによりF2’が点Qに作用することになり、外板22から受ける力によって点Qに作用するモーメントはゼロ又は略ゼロに等しい値になる。
【0045】
ステップS7
ステップS3と同様に、ヘム加工開始点40の位置の誤差(以降、位置誤差とも称する)を計算する。該位置誤差が所定の閾値を超えた場合は、ヘム加工開始点40の位置を補正する。該位置誤差が設定した閾値より大きい場合、ヘム加工開始点40でのロボット10の位置を補正する。このようにすれば、予め教示した軌道とワーク表面との間に多少の位置誤差があっても、ヘムローラがワークから離れたり、逆に押し付け過ぎたりするという不具合を回避できる。但し、ヘム加工開始点とプリヘム開始点が同じであり、プリヘム加工開始点でロボットとワークとの間の位置誤差を既に補正している場合は、このステップを省略することもできる。
【0046】
ここで、ステップS7における位置誤差の具体的計算方法3を以下に示す。
方法3
方法3は、ヘムローラがワークと接触してから型に着座するまでのロボットの移動距離を利用して、ヘム加工開始点の位置誤差を補正するものである。
図11に示すように、ヘムローラ34を下方(型18のある方向)へ動かし、力センサ16を利用してヘムローラ34が外板22の端縁部28と接触することを検知し、その時のロボット位置P1'を記録する。その後、図12(a)に示すように、ヘムローラ34を所定の押し付け力でワークを型に押し付け、ヘムローラ34が型18に着座したときのロボットの位置P2'を記録する。ヘムローラが着座したか否かは、押し付け力が設定値になった状態で押し付け方向にそれ以上ヘムローラが進まなくなったことで判断できる。次に位置P1'とP2'とを比較して、ヘムローラの移動距離H'を計算する。移動距離H'が設定値より小さい場合は、有意な位置誤差があると判断して該位置誤差を低減する方向(図示例では左方向)にヘムローラを押し付ける(図12(b))。左方向の押し付け力が予め設定した値になるまで押し付けることにより、ロボットとワークとの間の位置誤差を補正することができる。
【0047】
ステップS8
ヘム加工終了点まで所定の押し付け力をかけながら、図5に示した加工開始点40から加工終了点44に至る加工経路に沿って、ヘムローラ34を移動させる。ヘム加工中には、図9に示すように、加工開始点40から加工終了点44まで、力センサによる力情報とモーメント情報を利用して、型18への押し付け力が所定の値になるようにロボットを制御する。型18への押し付け方向46(本実施形態では鉛直下方)と進行方向48(加工経路に沿う方向)の双方に直交する方向50にも押し付けを行い、方向50に沿う力も所定の値になるように制御される。これにより、教示した軌道がワークより少しずれている場合でも、ヘムローラ34がワーク20より離れたり又はワーク20を押し込みすぎたりすることがなく、ヘム加工でのワークの折り曲げ量を一定にすることができる。
【0048】
正常なヘム加工中は、ヘムローラを介してその基部に接続されている力センサは進行方向前方からある大きさの反力F'及びモーメントM'を受ける。この反力とモーメントを常時監視し、反力及びモーメントが予め設定した範囲内(F'min≦F'≦F'max、M'min≦M'≦M'max)になるように、ヘムローラの進行速度を制御する。これによりこれにより反力又はモーメントが加工中に大きく変動することがなくなり、良好な加工品質を得ることが可能となる。なお前記反力の範囲(F'min,F'max)及びモーメントの範囲(M'min,M'max)は材質、厚み、送り速度等により異なるので、予め実験等により求めておくことが好ましい。
【0049】
上述のステップS4及びS8の一方又は双方において、プリヘム加工又はヘム加工中に型への押し付け力を変化させることが必要な場合は、該押し付け力を変化させることができる。例えば、ワークに曲面部がある場合は、プリヘム加工中又はヘム加工中にローラの送り速度を変更することができる。図13に示す例では、ワーク20が曲面部20a及び平面部20bを有し、ローラ12又は34が曲面部20aを加工しているとき(ロールが位置Q1、Q2にあるとき)はロールは比較的小さい送り速度v1で移動し、ローラ12又は34が平面部20bを加工しているとき(ロールが位置Q3、Q4にあるとき)はロールは比較的大きい送り速度v2で移動するものとする。この場合、ローラの送り速度の変化に応じて、力センサを利用して押し付け力を好適に制御できる。例えば、ローラの送り速度が小さい場合(v1)には押し付け力を小さくし(F4)、ローラの送り速度が大きい場合(v2)には押し付け力を大きくする(F5)ことにより、ワークの折り曲げ量を均一にすることができる。
【符号の説明】
【0050】
10 ロボットマニピュレータ
12 プリヘムローラ
16 力センサ
18 型
20 ワーク
22 外板
24 内板
26 制御装置
28 外板端縁部
34 ヘムローラ
40 加工開始点
42 中間点
44 加工終了点
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローラが取り付けられたロボットマニピュレータを用いて、プリヘム加工及びヘム加工の一方又は双方を行うロールヘム加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2枚の板金を接合して自動車のドアパネル等を成形するロールヘム加工では、該2枚の板金のうち外板の端縁を全周にわたって予め垂直に折り曲げ、該外板を型に固定し、次に該2枚の板金のうち内板を重ねて、ロボットマニピュレータに取り付けたローラを外板の端縁に圧接することで2枚の板金を接合する。ここで、型に垂直な外板の端縁部を約45°に折り曲げることをプリヘム加工といい、該端縁部を平坦になるまで圧接する(すなわち約90°折り曲げる)ことをヘム加工という。
【0003】
ロールヘム加工において良好な加工品質を得るためには、プリヘム加工又はヘム加工中に十分な押し付け力を上記端縁部に加える必要があるが、従来は、ロボットマニピュレータ手首部のツールに仕込まれているバネ、油圧機器又はサーボモータ等により押し付け力を発生させていた。例えば特許文献1には、ロボットハンドの先端にヘムローラを取り付け、ロボットハンドに設けた駆動モータによりヘムローラを回転前進させるローラ式ヘミング装置が開示されている。
【0004】
ワークに対するプリヘムローラ又はヘムローラの押し付け力は、好適なプリヘム加工又はヘム加工を行う上で重要なファクタである。例えば特許文献2には、ヘムローラを押圧方向に変位可能に構成し、ロボットハンドに撓みが生じても正確な軌跡で適正な押圧力で被ヘミング材を転圧することを企図したローラ式ヘミング装置が開示されている。
【0005】
ローラを動かすのはロボットハンド又はロボットマニピュレータなので、折り曲げ形状や加工品質はロボットマニピュレータの位置精度に依存する。この位置精度を高めるべくマニピュレータの位置誤差を低減又は排除するために、種々の技術が提唱されている。例えば特許文献3には、加工時にロボットマニピュレータにかかる外力によってマニピュレータの関節部位に生じるガタツキによって加工精度が低下し得ることを考慮し、ロボットマニピュレータの手首部に受けローラ及び押圧ローラを設け、両ローラの相対位置をシリンダで変化させることができるようにしたヘミング加工装置が開示されている。
【0006】
また特許文献4には、複数のヘムローラと複数の従動ローラとの間に、基台の周縁フランジとともにワークを挟んでヘム加工を行うロールヘム加工装置が開示されている。
【0007】
さらに特許文献5には、基台の周縁フランジの端部に、ヘムローラ及びガイドローラの少なくとも一方を加工の進行方向に沿って案内するガイドレールを設けたロールヘム加工装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61−262432号公報
【特許文献2】特開平5−305357号公報
【特許文献3】特開平7−60370号公報
【特許文献4】特開2003−103325号公報
【特許文献5】特開2006−88217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の発明では、ワークに対するロボットマニピュレータの位置誤差の影響により、良好なヘム加工が困難な場合がある。また特許文献2に記載の発明では、ヘム加工時にロボットハンドにかかる外力によってロボットの関節部位の軸受部等にガタツキが生じる虞がある。特許文献3、4に記載の発明では、ワークに対するローラの位置精度の向上は図られるものの、ローラの種類が多くなるため、ツールの構造が複雑になりコストアップや信頼性低下の要因となり得る。さらに特許文献5に記載の発明では、ローラ案内用のガイドレールを設ける必要があるが、型は通常ワークの種類毎に用意する必要があると解され、それぞれの型にガイドレールを設けることは手間がかかり、コスト的にも不利である。
【0010】
またワークが曲面部を有する場合等は、ワークの部位によって押し付け力を変化させることによって良好な加工品質を得ることが可能な場合があるが、従来はロールヘム加工中に押し付け力を変更することは困難であった。
【0011】
そこで本発明は、ロボットマニピュレータとワークとの間の位置誤差を補正し、適切な押し付け力にて良好なプリヘム加工又はヘム加工を行えるロールヘム加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、ロボットマニピュレータの先端部に取り付けられたローラを、型の上に載置された外板と該外板に重なった内板とからなるワークの前記外板の端縁部に押し付けつつ移動させながら、前記ローラと前記型に挟まれた前記外板の端縁部を折り曲げることによりプリヘム加工又はヘム加工を行うロールヘム加工装置において、前記ローラの現在の位置を検出する位置検出手段と、前記ロボットマニピュレータの手首部と前記ローラとの間に設けられた力測定手段と、前記位置検出手段の出力及び前記力測定手段の出力を用いて、前記ローラを前記型へ押し付ける力が所定の値になるように前記ローラの位置を制御する制御手段と、を備える、ロールヘム加工装置を提供する。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のロールヘム加工装置において、前記制御手段は、前記位置検出手段の出力及び前記力測定手段の出力を用いて、前記ローラを前記型へ押し付ける力及び前記ローラに作用するモーメントがそれぞれ所定の値になるように前記ローラの位置を制御する、ロールヘム加工装置を提供する。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のロールヘム加工装置において、前記位置検出手段から得られる前記ローラの位置と、前記力測定手段から得られる力及びモーメントと、前記ローラの形状に関する情報とから、前記ロボットマニピュレータと前記外板の端縁部の位置誤差を求める手段と、前記位置誤差に基づいてプリヘム加工又はヘム加工開始点を補正する手段とをさらに有する、ロールヘム加工装置を提供する。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載のロールヘム加工装置において、前記力測定手段の出力を用いてプリヘム加工又はヘム加工中に、前記ローラを型に押し付ける方向及び前記ローラの進行方向の双方に垂直な方向についても前記ローラに所定の力がかかるように前記ローラの移動を制御する手段をさらに有する、ロールヘム加工装置を提供する。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のロールヘム加工装置において、前記力測定手段の出力を用いてプリヘム加工又はヘム加工中に、前記ローラの進行方向にかかる力を求め、プリヘム加工又はヘム加工中に前記力の値が所定の範囲内にあるように前記ローラの移動を制御する手段をさらに有する、ロールヘム加工装置を提供する。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載のロールヘム加工装置において、前記位置検出手段から得られる前記ローラの位置に基づいてプリヘム加工又はヘム加工中の前記ローラの送り速度を求め、該送り速度の変化に応じて、前記ローラによる前記型への押し付け力を変更する手段をさらに有する、ロールヘム加工装置を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ガイドレール等を使用せずにロボットマニピュレータとワークとの間の位置誤差を補正することができ、位置誤差の影響を受けずに良好なプリヘム加工又はヘム加工を行うことが可能となり、良好な加工品質を得ることができる。
【0019】
ローラの押し付け力及びモーメントを利用することにより、ワークとローラとの間の位置誤差を簡易な式で求めることができる。
【0020】
位置検出手段から得られるローラの位置と、力測定手段から得られる力及びモーメントと、ローラの形状に関する情報とから、ロボットマニピュレータとワークとの位置誤差を求め、プリヘム加工又はヘム加工開始点を補正することができる。
【0021】
プリヘム加工又はヘム加工中に、ローラを型に押し付ける方向及びローラの進行方向の双方に垂直な方向についてもローラに所定の力がかかるようにローラの移動を制御することにより、ローラが本来の軌道から外れることを防ぎ、さらに良好な加工品質を得ることができる。
【0022】
ローラの進行方向にかかる力を求め、プリヘム加工又はヘム加工中に前記力の値が所定の範囲内にあるようにローラの移動を制御することにより、ローラにかかる力の変動を抑制して良好な加工品質を得ることができる。
【0023】
ローラの位置に基づいてプリヘム加工又はヘム加工中のローラの送り速度を求め、該送り速度の変化に応じてローラによる型への押し付け力を変更することにより、ワークが曲面を有する場合等でも良好な加工品質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係るロールヘム加工装置の概略構成を示す図である。
【図2】プリヘムローラの形状の一例を示す図である。
【図3】ヘムローラの形状の一例を示す図である。
【図4】本発明に係るロールヘム加工装置による加工の流れを示すフローチャートである。
【図5】プリヘム加工の加工経路を説明する概略図である。
【図6】プリヘム加工におけるプリヘムローラとワークとの位置関係を示す図であって、(a)プリヘムローラがワークの外板端縁部に当接した状態、(b)プリヘムローラがさらに下降して該端縁部が曲げられていく状態、(c)プリヘムローラがさらに下降して該端縁部が所定の角度に曲げられた状態(ローラが型に着座した状態)を示す図である。
【図7】(a)プリヘムローラとワークとの間の位置誤差を求めるための考え方を説明する図であり、(b)該位置誤差を補正すべくプリヘムローラを移動させた状態を示す図である。
【図8】(a)プリヘムローラとワークとの間の位置誤差を求めるための他の考え方を説明する図であり、(b)該位置誤差を補正すべくプリヘムローラを移動させた状態を示す図である。
【図9】加工中にローラに作用する力を説明する概略図である。
【図10】ヘム加工におけるヘムローラとワークとの位置関係を示す図であって、(a)ヘムローラがワークの外板端縁部に当接した状態、(b)ヘムローラがさらに下降して該端縁部が曲げられていく状態、(c)ヘムローラがさらに下降して該端縁部が所定の角度に曲げられた状態(内板に重ねられた状態)を示す図である状態を示す図である。
【図11】ヘムローラとワークとの間の位置誤差を求めるための考え方を説明する図である。
【図12】(a)ヘムローラとワークとの間の位置誤差を求めるための他の考え方を説明する図であり、(b)該位置誤差を補正すべくヘムローラを移動させた状態を示す図である。
【図13】ワークが曲面を有する場合等に、ローラの送り速度に応じて押し付け力を変化させる具体例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明に係るロールヘム加工装置の概略構成を示す図である。ロボットマニピュレータ(以降、ロボットと略称する)10のアーム先端部にはローラが取り付けられており、詳細には、後述するプリヘムローラ12又はヘムローラとロボット10の手首部14との間に力センサ16が設けられ、力センサ16はプリヘムローラ12又はヘムローラにかかる力(押し付け力)を測定し出力できるように構成されている。型18の上に配置された被加工物すなわちワーク20は、型18の上に載置された板金等の外板22と該外板22に重ねられた板金等の内板24とを有する。また後述するプリヘム加工及びヘム加工を含むロボット10の動作の制御は、ロボット10に接続された制御装置26により行うことができる。
【0026】
ロボット10は、そのアーム先端部に取り付けられたプリヘムローラ又はヘムローラの現在の位置を検出し出力する位置検出手段を有する。この位置検出手段は、例えばロボット10の各軸を駆動するサーボモータ等のモータ(図示せず)に設けられたエンコーダ等の位置検出器(図示せず)であってもよいし、アーム先端部に取り付けられたプリヘムローラ又はヘムローラとの位置関係が予め規定されたポジションセンサ17であってもよいし、その他公知の手段を用いてもよい。
【0027】
本発明に係るロールヘム加工装置では、従来のロールヘム作業と同様に、外板22の端縁28は全周にわたって予め垂直に折り曲げられている。これを型18に固定し内板24を重ねて、ロボット10に取り付けたローラを外板22の端縁28に圧接させることで2枚の板金を接合する。プリヘムローラ12を用いたプリヘム加工では端縁部28を全周にわたって約45°に折り曲げるプリヘム加工を行い、次いでヘムローラを用いたヘム加工では、端縁部28が内板24に重ねられて平坦になるまで圧接するヘム加工を行う。
【0028】
図2は、プリヘムローラ12の形状の一例を示す図である。プリヘムローラ12は、フランジ30及びフランジ30に同軸に取り付けられた円錐部又は円錐台部32を有する。また図3は、ヘム加工時に使用するヘムローラ34の形状の一例を示す図である。ヘムローラ34は、フランジ36及びフランジ36に同軸に取り付けられた円筒状部38を有する。これらのような形状のローラを利用することにより、ローラの下方だけでなく横方向の押し付けも確実に行え、加工開始点や加工中におけるワークの位置誤差を補正できる。この詳細は後述する。なお図示例では、プリヘム加工用のプリヘムローラ及びヘム加工用のヘムローラを別のものとして説明しているが、同一のローラを使用し、型に対する押し付け角度を変えることでプリヘム加工及びヘム加工の双方を行うことも可能である。
【0029】
次に、本発明に係るヘムロール加工装置を用いたプリヘム加工及びヘム加工の流れについて説明する。図4は、本発明に係るロールヘム加工装置を用いたロールヘム加工の流れを示すフローチャートであるが、先ずロールヘム加工を行う前に、以下の準備が必要である。
a.プリヘム加工開始点及びヘム加工開始点を教示する。
b.プリヘム加工及びヘム加工のそれぞれにおける、加工開始点から加工終了点までのローラの移動軌道を教示する。
c.プリヘム加工開始点及びヘム加工開始点での、型への押し付け力の設定値(適正値)を実験等により求めておく。
d.ローラとワークとの間の位置誤差を後述の方法1で補正する場合の準備として、ローラとワークとの理想的な(位置誤差がない時の)両者の接触点の、力センサ座標系25における座標を求めておく。該座標は、ローラの形状を考慮した計算か、或いは実験から求めることができる。なお力センサ座標系とは、力センサに固定された直交座標系である(図7(a)参照)。
e.ローラとワークとの間の位置誤差を後述の方法2で補正する場合の準備として、ローラがワークと接触してからローラが着座するまでの理想的な(位置誤差がない時の)ローラの移動距離を求めておく。該移動距離は、ローラの形状を考慮した計算か、実験から求めることができる。
f.プリヘム加工中又はヘム加工中の型への適切な押し付け力、進行方向の反力、又は型への押し付け方向と進行方向の双方に直交する方向の押し付け力の設定値(適正値)を実験等により求めておく。
【0030】
以下、図4のフローチャートの各ステップについて詳細に説明する。なお後述するいずれの演算処理も、上述の制御装置26が行うことができるが、同等の機能を有する他の手段を別途利用することも可能である。
ステップS1
図2、及び型18を斜め上方からみた図5に示すように、プリヘムローラ12をプリヘム加工開始点40の上方に移動させる。図5の例では、加工開始点40から加工中間点42を経て加工終了点44までプリヘム加工及びヘム加工を行うものとする。加工開始点40においては図2に示すように、プリヘムローラ12を外板22の上方に教示しておく。
【0031】
ステップS2
図6(a)−(c)に示すように、プリヘムローラ12の押し付け力が所定の値以下になるまで、プリヘムローラ12を型18に向けて押し付ける。ここでは、押し付け方向を鉛直下向きとするが、これに限られない。先ずプリヘム加工開始点40において(プリヘムローラがワークと接触する前)、ロボット10の手首14に取り付けられた力センサ16を用いて、プリヘムローラ12に作用する力の鉛直方向の分力F1を求める(図2)。図2の例では、F1はプリヘムローラ12の自重に概ね等しい。
【0032】
次に、プリヘムローラ12が下降して外板22の端縁部28に接触した後(図6(a))にプリヘムローラ12が受ける鉛直方向の分力F2を、力センサ16で検出する。なお、該分力F2の検出によりプリヘムローラ12の外板22の端縁部28への接触が検知されるので、後述の方法1を採る場合には、その時点で次のステップS3の処理(プリヘム加工開始点の位置誤差の補正)も行う。F2は端縁部28が受ける押し付け力でもあるので、鉛直方向の力F3(=F2−F1)が、ロボットがプリヘムローラに付与している鉛直下方への力となる。ここで型への押し付け力F2が、図6(c)に示すような外板22を所定の形状(例えば45°に傾斜した形状)に曲げるために必要な設定値F0に等しくなるように、ロボットがプリヘムローラに付与する力F3が制御される。力の制御方法としてはインピーダンス制御、ダンピング制御及びハイブリッド制御等が挙げられるが、いずれも公知の方法なので詳細な説明は省略する。プリヘム加工は、プリヘムローラ12が型18に着座(図6(c))するまで行う必要があるので、押し付け力の設定値F0は十分に大きくすることが好ましい。なお外板22を所定の形状(例えば45°に傾斜した形状)に曲げるための力はワークの材質、厚み等により異なるので、F0の値は予め実験等により求めておくことが好ましい。
【0033】
ステップS3
プリヘム加工開始点40の位置の誤差(以降、位置誤差とも称する)を計算する。該位置誤差が所定の閾値を超えた場合は、プリヘム加工開始点40の位置を補正する。力センサ16から得られる力情報及びモーメント情報と、ロボット10の駆動モータ(図示せず)に設けられた位置検出器等から順運動学計算より得られるロボット10の手首部の現在位置と、プリヘムローラ12の形状に関するデータ又は情報とから、プリヘム加工開始点40の位置誤差を計算することができる。該位置誤差が設定した閾値より大きい場合、プリヘム加工開始点40でのロボット10の位置を補正する。このようにすれば、予め教示した軌道とワーク表面との間に多少の位置誤差があっても、プリヘムローラがワークから離れたり、逆に押し付け過ぎたりするという不具合を回避できる。
【0034】
ここで、ステップS3における位置誤差の具体的計算方法を2通り示す。
方法1
方法1は、プリヘムローラが外板の端縁部に接触する前後の力とモーメントの変化量を利用して、プリヘム加工開始点の位置誤差を補正するものである。
図7(a)に示すように、プリヘムローラ12を下方(型18のある方向)へ動かし、力センサ16を利用してプリヘムローラ12が外板22の端縁部28と接触する前後の力の変化量F(力センサ座標系のX、Y、Z方向のFの成分をそれぞれFx、Fy、Fzとする)とモーメントの変化量M(力センサ座標系のX、Y、Z方向のMの成分をそれぞれMx、My、Mzとする)を検出する。図7(a)が示す(Px0,Py0)は、位置誤差がない(理想的な)場合でのプリヘムローラとワークの接触点の力センサ座標系における座標であり、ここではプリヘムローラのフランジ30と円錐台部32との境界部分に位置するものとする。また(Px,Py)は、実際のローラとワークの接触点の力センサ座標系における座標であり、このX座標は外板22の外周端部23の力センサ座標系におけるX座標に等しい。
【0035】
前記Fx、Fy、Mzとプリヘムローラの形状を利用してワークの位置誤差(Px−Px0)を計算する方法を示す。先ず力とモーメントの物理的な関係より、下記の式(1)が成立する。
Mz=FyPx−FxPy (1)
また幾何学によって、下記の式(2)が成立する。
Py−Py0=k(Px−Px0) (2)
力センサとプリヘムローラは共にロボットに対し固定されており力センサ座標系におけるプリヘムローラの位置は一定なので、kは定数となる。例えば、図7(a)が示すようにプリヘムローラ12の円錐台部32の角度が45°の場合は、k=−1である。
【0036】
上記の式(1)及び(2)から、図7(a)が示すような位置誤差Px−Px0を求める下記の式(3)が導かれる。
Px−Px0=(Mz+FxPy0−FyPx0)/(Fy−kFx) (3)
このようにして求めた位置誤差(Px−Px0)が設定した閾値より大きいときは、図7(b)に示すように、該位置誤差が小さくなるようにプリヘムローラ12を破線の位置(図7(a))から実線の位置に動かすことにより、プリヘム加工開始点の位置誤差を補正する。なお位置誤差がない(理想的な)場合での、プリヘムローラとワークの接触点の力センサ座標系における座標(Px0,Py0)は、プリヘムローラの形状を考慮した計算か、或いは正確な教示をして実験により求めることができる。
【0037】
方法2
方法2は、プリヘムローラがワークと接触してから型に着座するまでのロボットの移動距離を利用して、プリヘム加工開始点の位置誤差を補正するものである。
図7(a)に示すように、プリヘムローラ12を下方(型18のある方向)へ動かし、力センサ16を利用してプリヘムローラ12が外板22の端縁部28と接触したことを検知し、その時のロボット位置P1を記録する。その後、図8(a)に示すように、プリヘムローラ12を所定の押し付け力でワークを型に押し付け、プリヘムローラ12が型18に着座したときのロボットの位置P2を記録する。プリヘムローラが着座したか否かは、押し付け力が設定値になった状態で押し付け方向にそれ以上プリヘムローラが進まなくなったことで判断できる。次に位置P1とP2とを比較して、プリヘムローラの移動距離Hを計算する。移動距離Hが設定値より小さい場合は、有意な位置誤差があると判断して該位置誤差を低減する方向(図示例では左方向)にプリヘムローラを押し付ける(図8(b))。左方向への押し付け力が予め設定した値になるまで押し付けることにより、ロボットとワークとの間の位置誤差を補正することができる。
【0038】
ステップS4
プリヘム加工終了点まで所定の押し付け力を加えながら、図5に示した加工開始点40から加工終了点44に至る加工経路に沿って、プリヘムローラ12を移動させる。プリヘム加工中には、図9に示すように、加工開始点40から加工終了点44まで、力センサによる力情報とモーメント情報を利用して、型18への押し付け力が所定の値になるようにロボットを制御する。型18への押し付け方向46(本実施形態では鉛直下方)と進行方向48(加工経路に沿う方向)の双方に直交する方向50にも押し付けを行い、方向50に沿う力も所定の値になるように制御される。これにより、教示した軌道がワークより少しずれている場合でも、プリヘムローラ12がワーク20より離れたり又はワーク20を押し込みすぎたりすることがなく、プリヘム加工でのワークの折り曲げ量を一定にすることができる。
【0039】
正常なプリヘム加工中は、プリヘムローラを介してその基部に接続されている力センサは進行方向前方からある大きさの反力F及びモーメントMを受ける。この反力とモーメントを常時監視し、反力F及びモーメントMが予め設定した範囲内(Fmin≦F≦Fmax、Mmin≦M≦Mmax)になるように、プリヘムローラの進行速度を制御する。これにより反力又はモーメントが加工中に大きく変動することがなくなり、良好な加工品質を得ることが可能となる。なお前記反力の範囲(Fmin,Fmax)及びモーメントの範囲(Mmin,Mmax)は材質、厚み、送り速度等により異なるので、予め実験等により求めておくことが好ましい。
【0040】
以上説明したステップS1−S4はプリヘム加工に関するものであり、以降に説明するステップS5−S8はヘム加工に関するものである。
【0041】
ステップS5
図3に示したようなヘムローラ34を、ヘム加工開始点40(図5)参照の上方に移動させる。ヘム加工も、加工開始点40から加工中間点42を経て加工終了点44まで行うものとする。ステップS1と同様の方法で、ヘムローラ34を外板22の少し上方に教示しておく。
【0042】
ステップS6
図10(a)−(c)に示すように、ステップS2と同様に、ヘムローラ34の押し付け力が所定の値以下になるまで、ヘムローラ34を型18に押し付ける。ここでは、押し付け方向を鉛直下向きとするが、これに限られない。先ずヘム加工開始点40において(ヘムローラがワークと接触する前)、ロボット10の手首14に取り付けられた力センサ16を用いて、ヘムローラ34に作用する力の鉛直方向の分力F1'を求める(図3)。図3の例では、F1'はヘムローラ34の自重に概ね等しい。
【0043】
次に、ヘムローラ34が下降して外板22の端縁部28に接触した後(図10(a))にヘムローラ34が受ける鉛直方向の分力F2'を、力センサ16で検出する。F2'は端縁部28が受ける押し付け力でもあるので、鉛直方向の力F3'(=F2'−F1')が、ロボットがヘムローラに付与している鉛直下方への力となる。ここで型への押し付け力F2'が、図10(c)に示すような外板22を所定の形状(例えば外板22の端縁部28が内板24に重ねられた状態)に曲げるために必要な設定値F0'に等しくなるように、ロボットがヘムローラに付与する力F3'が制御される。力の制御方法としてはインピーダンス制御、ダンピング制御及びハイブリッド制御等が挙げられるが、いずれも公知の方法なので詳細な説明は省略する。ヘム加工は、ヘムローラ34が型18に着座(図10(c))するまで行う必要があるので、押し付け力の設定値F0'は十分に大きくすることが好ましい。なお外板22を所定の形状(例えば端縁部28が内板24に重ね合わされた形状)に曲げるための力はワークの材質、厚み等により異なるので、F0'の値は予め実験等により求めておくことが好ましい。
【0044】
なお、図10(c)に示すようにヘムローラ34が型18に密着することを意図する場合には、力センサ座標系(図11参照)における点Qに作用するモーメントに着目すればよい。より具体的には、ヘムローラ34が図10(b)の状態にあるときは、ヘムローラ34が受ける力F2’が点Qとは異なる位置に作用するため、外板22から受ける力によって点Qにはゼロでないモーメントが作用していることになる。一方、ヘムローラ34が図10(c)に示す状態になったときは、ヘムローラ34の円筒状部38と外板22とが密着することによりF2’が点Qに作用することになり、外板22から受ける力によって点Qに作用するモーメントはゼロ又は略ゼロに等しい値になる。
【0045】
ステップS7
ステップS3と同様に、ヘム加工開始点40の位置の誤差(以降、位置誤差とも称する)を計算する。該位置誤差が所定の閾値を超えた場合は、ヘム加工開始点40の位置を補正する。該位置誤差が設定した閾値より大きい場合、ヘム加工開始点40でのロボット10の位置を補正する。このようにすれば、予め教示した軌道とワーク表面との間に多少の位置誤差があっても、ヘムローラがワークから離れたり、逆に押し付け過ぎたりするという不具合を回避できる。但し、ヘム加工開始点とプリヘム開始点が同じであり、プリヘム加工開始点でロボットとワークとの間の位置誤差を既に補正している場合は、このステップを省略することもできる。
【0046】
ここで、ステップS7における位置誤差の具体的計算方法3を以下に示す。
方法3
方法3は、ヘムローラがワークと接触してから型に着座するまでのロボットの移動距離を利用して、ヘム加工開始点の位置誤差を補正するものである。
図11に示すように、ヘムローラ34を下方(型18のある方向)へ動かし、力センサ16を利用してヘムローラ34が外板22の端縁部28と接触することを検知し、その時のロボット位置P1'を記録する。その後、図12(a)に示すように、ヘムローラ34を所定の押し付け力でワークを型に押し付け、ヘムローラ34が型18に着座したときのロボットの位置P2'を記録する。ヘムローラが着座したか否かは、押し付け力が設定値になった状態で押し付け方向にそれ以上ヘムローラが進まなくなったことで判断できる。次に位置P1'とP2'とを比較して、ヘムローラの移動距離H'を計算する。移動距離H'が設定値より小さい場合は、有意な位置誤差があると判断して該位置誤差を低減する方向(図示例では左方向)にヘムローラを押し付ける(図12(b))。左方向の押し付け力が予め設定した値になるまで押し付けることにより、ロボットとワークとの間の位置誤差を補正することができる。
【0047】
ステップS8
ヘム加工終了点まで所定の押し付け力をかけながら、図5に示した加工開始点40から加工終了点44に至る加工経路に沿って、ヘムローラ34を移動させる。ヘム加工中には、図9に示すように、加工開始点40から加工終了点44まで、力センサによる力情報とモーメント情報を利用して、型18への押し付け力が所定の値になるようにロボットを制御する。型18への押し付け方向46(本実施形態では鉛直下方)と進行方向48(加工経路に沿う方向)の双方に直交する方向50にも押し付けを行い、方向50に沿う力も所定の値になるように制御される。これにより、教示した軌道がワークより少しずれている場合でも、ヘムローラ34がワーク20より離れたり又はワーク20を押し込みすぎたりすることがなく、ヘム加工でのワークの折り曲げ量を一定にすることができる。
【0048】
正常なヘム加工中は、ヘムローラを介してその基部に接続されている力センサは進行方向前方からある大きさの反力F'及びモーメントM'を受ける。この反力とモーメントを常時監視し、反力及びモーメントが予め設定した範囲内(F'min≦F'≦F'max、M'min≦M'≦M'max)になるように、ヘムローラの進行速度を制御する。これによりこれにより反力又はモーメントが加工中に大きく変動することがなくなり、良好な加工品質を得ることが可能となる。なお前記反力の範囲(F'min,F'max)及びモーメントの範囲(M'min,M'max)は材質、厚み、送り速度等により異なるので、予め実験等により求めておくことが好ましい。
【0049】
上述のステップS4及びS8の一方又は双方において、プリヘム加工又はヘム加工中に型への押し付け力を変化させることが必要な場合は、該押し付け力を変化させることができる。例えば、ワークに曲面部がある場合は、プリヘム加工中又はヘム加工中にローラの送り速度を変更することができる。図13に示す例では、ワーク20が曲面部20a及び平面部20bを有し、ローラ12又は34が曲面部20aを加工しているとき(ロールが位置Q1、Q2にあるとき)はロールは比較的小さい送り速度v1で移動し、ローラ12又は34が平面部20bを加工しているとき(ロールが位置Q3、Q4にあるとき)はロールは比較的大きい送り速度v2で移動するものとする。この場合、ローラの送り速度の変化に応じて、力センサを利用して押し付け力を好適に制御できる。例えば、ローラの送り速度が小さい場合(v1)には押し付け力を小さくし(F4)、ローラの送り速度が大きい場合(v2)には押し付け力を大きくする(F5)ことにより、ワークの折り曲げ量を均一にすることができる。
【符号の説明】
【0050】
10 ロボットマニピュレータ
12 プリヘムローラ
16 力センサ
18 型
20 ワーク
22 外板
24 内板
26 制御装置
28 外板端縁部
34 ヘムローラ
40 加工開始点
42 中間点
44 加工終了点
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットマニピュレータの先端部に取り付けられたローラを、型の上に載置された外板と該外板に重なった内板とからなるワークの前記外板の端縁部に押し付けつつ移動させながら、前記ローラと前記型に挟まれた前記外板の端縁部を折り曲げることによりプリヘム加工又はヘム加工を行うロールヘム加工装置において、
前記ローラの現在の位置を検出する位置検出手段と、
前記ロボットマニピュレータの手首部と前記ローラとの間に設けられた力測定手段と、
前記位置検出手段の出力及び前記力測定手段の出力を用いて、前記ローラを前記型へ押し付ける力が所定の値になるように前記ローラの位置を制御する制御手段と、
を備える、ロールヘム加工装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記位置検出手段の出力及び前記力測定手段の出力を用いて、前記ローラを前記型へ押し付ける力及び前記ローラに作用するモーメントがそれぞれ所定の値になるように前記ローラの位置を制御する、請求項1に記載のロールヘム加工装置。
【請求項3】
前記位置検出手段から得られる前記ローラの位置と、前記力測定手段から得られる力及びモーメントと、前記ローラの形状に関する情報とから、前記ロボットマニピュレータと前記外板の端縁部の位置誤差を求める手段と、
前記位置誤差に基づいてプリヘム加工又はヘム加工開始点を補正する手段とをさらに有する、請求項1又は2に記載のロールヘム加工装置。
【請求項4】
前記力測定手段の出力を用いてプリヘム加工又はヘム加工中に、前記ローラを型に押し付ける方向及び前記ローラの進行方向の双方に垂直な方向についても前記ローラに所定の力がかかるように前記ローラの移動を制御する手段をさらに有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のロールヘム加工装置。
【請求項5】
前記力測定手段の出力を用いてプリヘム加工又はヘム加工中に、前記ローラの進行方向にかかる力を求め、プリヘム加工又はヘム加工中に前記力の値が所定の範囲内にあるように前記ローラの移動を制御する手段をさらに有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のロールヘム加工装置。
【請求項6】
前記位置検出手段から得られる前記ローラの位置に基づいてプリヘム加工又はヘム加工中の前記ローラの送り速度を求め、該送り速度の変化に応じて、前記ローラによる前記型への押し付け力を変更する手段をさらに有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のロールヘム加工装置。
【請求項1】
ロボットマニピュレータの先端部に取り付けられたローラを、型の上に載置された外板と該外板に重なった内板とからなるワークの前記外板の端縁部に押し付けつつ移動させながら、前記ローラと前記型に挟まれた前記外板の端縁部を折り曲げることによりプリヘム加工又はヘム加工を行うロールヘム加工装置において、
前記ローラの現在の位置を検出する位置検出手段と、
前記ロボットマニピュレータの手首部と前記ローラとの間に設けられた力測定手段と、
前記位置検出手段の出力及び前記力測定手段の出力を用いて、前記ローラを前記型へ押し付ける力が所定の値になるように前記ローラの位置を制御する制御手段と、
を備える、ロールヘム加工装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記位置検出手段の出力及び前記力測定手段の出力を用いて、前記ローラを前記型へ押し付ける力及び前記ローラに作用するモーメントがそれぞれ所定の値になるように前記ローラの位置を制御する、請求項1に記載のロールヘム加工装置。
【請求項3】
前記位置検出手段から得られる前記ローラの位置と、前記力測定手段から得られる力及びモーメントと、前記ローラの形状に関する情報とから、前記ロボットマニピュレータと前記外板の端縁部の位置誤差を求める手段と、
前記位置誤差に基づいてプリヘム加工又はヘム加工開始点を補正する手段とをさらに有する、請求項1又は2に記載のロールヘム加工装置。
【請求項4】
前記力測定手段の出力を用いてプリヘム加工又はヘム加工中に、前記ローラを型に押し付ける方向及び前記ローラの進行方向の双方に垂直な方向についても前記ローラに所定の力がかかるように前記ローラの移動を制御する手段をさらに有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のロールヘム加工装置。
【請求項5】
前記力測定手段の出力を用いてプリヘム加工又はヘム加工中に、前記ローラの進行方向にかかる力を求め、プリヘム加工又はヘム加工中に前記力の値が所定の範囲内にあるように前記ローラの移動を制御する手段をさらに有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のロールヘム加工装置。
【請求項6】
前記位置検出手段から得られる前記ローラの位置に基づいてプリヘム加工又はヘム加工中の前記ローラの送り速度を求め、該送り速度の変化に応じて、前記ローラによる前記型への押し付け力を変更する手段をさらに有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のロールヘム加工装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−104599(P2011−104599A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259110(P2009−259110)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
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