説明

加圧熱水処理方法および装置

【課題】 原水の必要量を低下させ、あるいは廃水の生成量を低下させて、これらのためのコストを減少させつつ、キノコ栽培廃菌床に残存するキノコ成分を効率良く抽出することができる加圧熱水処理方法を提供する。
【解決手段】 この発明の加圧熱水処理方法は、キノコ栽培廃菌床に加圧熱水を接触させて接触させた状態でキノコ成分を抽出する抽出工程と、抽出工程を終えた抽出液から抽出液中に溶解するキノコ成分を分離する分離工程とを有する。そして、分離工程を終えた抽出液を前記抽出工程における加圧熱水として再使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キノコ栽培廃菌床からキノコ成分を抽出できるキノコ栽培廃菌床の加圧熱水処理方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シイタケ、マイタケ、ブナシメジ等のキノコの栽培には、おが屑等からなるキノコ栽培床(培地)が用いられており、キノコの収穫後にキノコ栽培廃菌床として廃棄される。近年、キノコ栽培の急激な増加に伴って、このキノコ栽培廃菌床が多量に排出されている。このキノコ栽培廃菌床を処分する方法として、焼却処分する方法が考えられるが、通常、キノコ栽培廃菌床中には多量の水分(通常、50〜70%の水分)が含まれているため、焼却処分は大量のエネルギーを必要とし、得策ではない。
【0003】
そこで、排出されたキノコ栽培廃菌床を再利用することが種々検討され、各種の試みがなされできている。たとえば、キノコ栽培廃菌床をキノコの再栽培に利用するために、キノコ栽培廃菌床に残存する糖質や窒素分、ミネラル分等の有効成分を利用する方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、キノコ栽培廃菌床を堆肥として利用することも試みられている。たとえば、キノコ栽培廃菌床にオリゴ糖を添加して、微生物発酵を促進させることで、効率よくキノコ栽培廃菌床を堆肥化させる製造方法が提案されている(特許文献2)。あるいは、微生物によるメタン発酵の原料として、アルコールやメタンガスの生産に利用することも試みられており、さらに、家畜の飼料として利用することも試みられている。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載のキノコ栽培廃菌床に残存する有効成分の利用方法ではキノコ栽培廃菌床中に残存する栽培床の成分を利用するだけのものであって、キノコ栽培廃菌床のおが屑に絡まって残存するキノコの菌糸や子実体の一部が有するグルカン由来の糖成分やキチン成分等の有効なキノコ成分は利用されずに廃棄されてしまう。さらに、キノコ栽培廃菌床に使用されているおが屑の木質成分は、セルロースやヘミセルロース、リグニン等を大量に含んでいて分解され難く、これが微生物発酵の妨げになり、微生物発酵の効率性に悪影響を与えるという問題があった。
【0006】
また、上記特許文献2に記載の堆肥化させる製造方法や、微生物によるメタン発酵の原料、家畜の飼料とすることについても、依然として、キノコ栽培廃菌床中に未分解のセルロースやヘミセルロース、リグニン等の木質成分が大量に残留しているため、微生物発酵を利用して堆肥化させることや各種微生物発酵の原料や家畜の飼料等とすると、弊害が生じることが多い。さらに、キノコ栽培廃菌床にはおが屑の塊にキノコの菌糸や子実体の一部であるキノコ屑が絡み合って残存しており、上記の堆肥化させる過程、微生物発酵の原料や家畜の飼料とする過程において、このキノコ屑が腐敗して悪臭を放ち、環境公害にまで発展することもある。
【0007】
このような背景から、本発明者等は、キノコ栽培廃菌床に残存するキノコ成分に着目し、キノコの菌糸や子実体の一部からも効率よくキノコ成分を抽出することができ、キノコ屑を原因とする悪臭の発生を防止することもできる、新しいキノコ栽培廃菌床の加圧熱水処理方法を発明し、出願した(特願2004−338649号)。これは、廃菌床を水と混合して加圧して温度を120℃になるまで加熱することで、キノコ成分を抽出することを特徴とするキノコ栽培廃菌床の加圧熱水処理方法であり、これによれば、キノコ裁培廃菌床に残存するキノコの菌糸や子実体の一部から効率よくキノコ成分を抽出できるとともに、キノコ屑を原因とする悪臭の発生を防止することができる。
【特許文献1】特許第2638399号公報
【特許文献2】特開平11−171677号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のような廃菌床を水と混合して加圧して温度を120℃になるまで加熱する方法では、原料であるキノコ裁培廃菌床の何倍もの大量の水が必要である。特に、温度を変えて抽出を多段に(例えば、3段階)行えば、必要量も増える。加圧熱水(亜臨界水)となる原水は、十分に精製した水を用いることが好ましいので、原水コストが嵩む。また、析出処理後の廃水もその分増加し、この廃水の処理のためにコストが嵩んでしまう。
【0009】
そこで、この発明は、原水の必要量を低下させ、あるいは廃水の生成量を低下させて、これらのためのコストを減少させつつ、キノコ栽培廃菌床に残存するキノコ成分を効率良く抽出することができる加圧熱水処理方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の加圧熱水処理方法は、キノコ栽培廃菌床に加圧熱水を接触させた状態でキノコ成分を抽出する抽出工程と、抽出工程を終えた抽出液から固形成分を分離する分離工程とを有し、分離工程を終えた抽出液を前記抽出工程における加圧熱水として再使用することを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の加圧熱水処理方法は、請求項1に記載の発明において、キノコ栽培廃菌床に対して加圧熱水の温度を変えて複数の段階で抽出工程を行うとともに、分離工程を終えた抽出液をそれぞれの温度での抽出工程ごとに再使用することを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の加圧熱水処理方法は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記分離工程は、前記抽出液を静置して比重差によりキノコ成分を分離する工程を含むことを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の加圧熱水処理装置は、キノコ栽培廃菌床に加圧熱水を接触させた状態でキノコ成分を抽出する抽出処理装置と、抽出工程を終えた抽出液から固形成分を分離する分離装置と、分離工程を終えた抽出液を前記抽出処理装置において加圧熱水として再使用するための再使用水供給ラインとを有することを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の加圧熱水処理装置は、請求項4に記載の発明において、前記分離装置は、前記抽出液からキノコ栽培廃菌床を分離する第1段分離手段と、前記抽出液を静置して比重差によりキノコ成分を分離する第2段分離手段を含むことを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の加圧熱水処理装置は、請求項5に記載の発明において、前記抽出処理装置は、キノコ栽培廃菌床に対して加圧熱水の温度を変えて複数の段階で抽出工程を行うものであり、前記第2段分離手段は、それぞれの温度での抽出工程ごとに設けられていることを特徴とする。
【0016】
請求項7に記載の加圧熱水処理装置は、請求項4ないし請求項6のいずれかに記載の発明において、前記再使用水供給ラインには、再使用水を貯留する再使用水タンクが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1ないし請求項6に記載の発明によれば、原水の必要量を低下させ、あるいは廃水の生成量を低下させて、これらのためのコストを減少させつつ、キノコ栽培廃菌床に残存するキノコ成分を効率良く抽出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、この発明の加圧熱水処理方法を行う実施の形態の処理装置を示す図である。この装置は、キノコ栽培廃菌床に加圧熱水処理を施して所定成分を抽出する処理容器10と、処理容器10の排出ライン12から排出されたスラリーを固液分離する第1分離器14と、第1分離器14で分離された液体を所定時間静置して所定の有効成分を含む製品液と上澄み液とを分離する3つの第2分離器16a,16b,16cと、第1分離器14で分離された固形成分を処理容器10に戻すための固形成分戻しライン18と、第2分離器16a,16b,16cで分離された上澄み液を抽出処理のための再使用水として処理容器10に戻す再使用水供給ライン20とを有している。排出ライン12および固形成分戻しライン18には、それぞれスラリーポンプ13,19が設けられている。
【0019】
処理容器10は、円筒形状、球形等の圧力容器であり、固形原料を装入するための装入部22と、処理水を供給する処理水供給ライン24と、処理後の原料および処理液(抽出液)を排出するための排出口26が設けられている。内部には、装入された原料と処理液を混合し、均一化するためのプロペラ28が設けられ、これを回転させるモータ30が設けられている。必要に応じて容器内を洗浄するための洗浄ノズル32が設けられている。装入部22には、処理容器10に供給する廃菌床を必要に応じて破砕する破砕機34が設けられている。また、処理容器10には、不活性ガス等を供給するためのガス供給ラインあるいは加圧手段を有する加圧ライン等が設けられているが、図示は省略している。
【0020】
処理容器10には、内部の原料や処理液の温度を制御するために、熱媒体配管36と、これに熱媒や冷媒を供給する媒体供給部38からなる熱交換器40と、図示しない温度計が設けられている。そして、必要に応じて、温度計の指示値に基づいてこれらの熱交換器の動作を制御し、容器内の温度を所定のパターンで制御する制御装置が設けられている。処理容器10には、保温を促進する構造を設けたり、あるいは保温用の断熱材等を用いることが好ましい。状況に応じてこれらを適宜に採用し、エネルギーの節約や加熱・冷却の促進による作業効率の向上を図ることができる。また、スラリーの排出ライン12と処理水供給ライン24との間に熱交換器を設置して、熱の有効利用を図るようにしてもよい。
【0021】
処理容器10の排出口26は、スラリーポンプ13を有する排出ライン12によって第1分離器14に接続されている。この第1分離器14は、例えば、フィルター袋の中にスラリーを収容してこれに圧力を掛け、液体を絞り出すフィルタープレス装置である。もちろん、遠心分離器等の他の構成の分離器を適宜に採用することができる。
【0022】
第1分離器14の下流側には第2分離器16a,16b,16c(16)が設けられている。これは、図2に示すように、第1分離器14で分離された抽出液を室温で所定の時間静置して、その成分を比重で分離する静置槽である。これは、抽出液を室温で所定の時間静置すると、同図に示すように、いくつかの層に分離するという、発明者等の知見に基づいている。例えば、第2段の処理の場合では、最上層は、上澄み液42であり、水溶性の抽出成分等を含む水である。中間層は、キノコ成分を主成分とするキノコ成分液44である。最下層は、第1の分離器を通過した微小な固形成分(残渣)46である。
【0023】
これらは、互いに比重が異なるので、明確に分離し、また、外観(色、透明度、粘度、粒度など)が異なるので、境界を見分けることができる。キノコ成分層は、上層が褐色がかった透明度の有る液層であり、中層は白色の粒状の固形層で、粒度は20μm以下、下層は茶褐色の1mm以下の粒状物である。
【0024】
第2分離器16である静置槽は、ゴミ等の異物の混入を防ぐために上方が覆われている。空気の移動による冷却を促進するために、上部に通気口48が設けられている。その側壁部の所定の高さ位置に、分離した各成分を個別に排出するための分離排出管50,52,54が設けられている。上澄み液排出管50には開閉弁51、ポンプ56が設けられており、再使用水供給ライン20に設けた再使用水タンク58a,58b,58cに貯水される。キノコ成分液44は開閉弁53を有する排出管52から製品液タンク60a,60b,60cに貯留される。残渣は、静置槽の底部の傾斜を利用して排出される。図2(b)に示すように、上澄み液排出管50からもポンプを用いずに重力のみで排出するようにすることができる。これにより、分離した各成分が再混合するような撹拌が生じにくくなる。製品液タンク60a,60b,60cは精製装置62a,62b,62cに接続され、ここで有効成分を含む液は濃縮される。これには、蒸留や凍結乾燥等の手法が用いられる。
【0025】
なお、この処理装置はバッチ方式であり、各バッチごとにキノコ成分層や残渣の量が変動することが有る。そこで、第2分離器16a,16b,16c(静置槽)では、各成分の境界部の高さを視覚的に確認するために、壁の一部にガラス窓を設けるようにしてもよい。また、確認した高さに応じて排出位置を変えることができるように、排出高さを可変とする、あるいは複数の排出管50,52,54を設けて、これらの中から最適な高さのものを選択して開くようにしてもよい。さらに、上部からポンプに接続された吸引管を浸漬させて、吸込位置を調整しながら成分液等を吸引するようにしてもよい。
【0026】
この実施の形態では、第2分離器16a,16b,16cは、1つの処理容器10に対して3つ設けられ、これはそれぞれの温度での処理、すなわち、1次処理、2次処理、3次処理に対応して設けられている。異なる温度での処理では異なる成分が抽出されるため、これらを個別に処理する必要があるからである。同じ理由で、処理水も共通ではないので、再使用水タンクも各温度ごとに設けられている。第1分離器14は共通になっているが、他の温度での抽出成分による汚染を防ぐために、1回の処理ごとに洗浄するのが好ましく、また、各温度ごとに個別に設けてもよい。
【0027】
この処理装置においては、「加圧熱水」として亜臨界水を用いる。通常、亜臨界水とは、水がその臨界点より温度、圧力が低い所定の範囲にある場合を言い、有機物を高速で水に溶ける低分子に分解することができるという特徴を有している。効率よくキノコの有効成分を抽出するために、加圧熱水(亜臨界水)の温度は、110℃から250℃の範囲とすることが好まく、圧力については、0.1MPaから5MPaの範囲とすることが好ましい。また、加圧熱水(亜臨界水)となる原水は、通常の水道水でも使用できるが、イオン交換水や蒸留水、フィルター濾過した濾過水(たとえば、限外濾過水)等のように十分に精製した水を用いることが好ましい。
【0028】
図3は、この発明の処理方法を説明するフロー図である。この図は、処理物と処理水の流れを示すものである。この図に見られるように、同じ原料に対して3つの異なる温度条件下で加圧熱水処理を行う。すなわち、低温側から第1段、第2段、第3段の抽出処理工程を行う。それぞれの工程において、抽出後には固液分離して、固形成分のみが次の工程に送られる。各処理工程は共通な要素と個別の要素とを含むので、共通要素についてはまとめて、個別の要素については個別に説明する。
【0029】
まず、原料であるキノコ栽培廃菌床を、必要に応じて破砕機34によって破砕して、例えば10から100メッシュ程に微細化する(ステップ10)。対象とするキノコ栽培廃菌床については、シイタケ、マイタケ、ハナビラタケ、ブナシメジ、ナメコ、エリンギ等の各種のキノコを栽培した後の塊状である栽培廃菌床を使用することができ、特に制限されるものではない。原料には、通常60%程度の水分が含まれている。
【0030】
抽出に先立って、有機溶媒あるいは熱水等によってキノコ栽培廃菌床をあらかじめ予備処理してもよい。この予備処理の操作によりキノコ成分の抽出の効果を上げることができる。また、予備処理において、適宜にキノコの細胞壁の水素結合を弱め、もしくは破壊する手段を適用してもよい。この際の水素結合を弱める、もしくは、破壊するための手段としては、たとえば、次亜塩素酸塩や過塩素酸塩、スルホン酸塩、パーフルオロスルホン酸塩、苛性ソーダあるいは各種の酸化剤、もしくはDMSO、DMF等の有機溶媒が例として挙げられ、なかでも、次亜塩素酸ナトリウムやDMSOがその好適な例として示される。
【0031】
処理容器10に、原料と、原料の2倍程度の量の処理水とを供給し、攪拌用モータ30を駆動してプロペラ28によって原料と水を撹拌・混合してスラリー化する(ステップ11)。このスラリー化操作は処理容器の外で事前に行っても良い。処理水は、原水(新水)と再使用水を状況に応じて所定の割合で用いる。再使用水が無い場合は原水のみを用いる。次に、処理容器10を密閉した後、熱交換器40を作動させて所定のピッチで内部のスラリーを昇温し、所定の温度で、所定の時間(抽出時間)保持する。抽出時間は、栽培したキノコの種類、処理量その他の条件にもよるが、10〜60分くらいで充分である。混合工程は、第2段、第3段の工程でも行われる(ステップ21、ステップ31)が、既にスラリー化しているので、混合作業は軽度でよい。
【0032】
次に、処理容器10内を加圧しかつ加熱して、それぞれの抽出処理工程を行う。1次処理工程では、例えば、温度を140℃以上160℃以下に設定し、α−グルカンを多く含む成分を抽出する(ステップ12)。2次処理工程では、例えば、温度を170℃以上210℃以下に設定し、β−グルカンを多く含む成分を抽出する(ステップ22)。さらに、3次処理工程では、例えば、温度を220℃以上に設定し、キチンに由来する成分を抽出する(ステップ32)。なお、120℃から140℃の加圧熱水で、濁ったリグニンを主体とした木質成分が抽出されるので、この工程を予備的に行って、この不要成分を予め除去するようにしてもよい。
【0033】
場合によっては、加圧熱水にアルカリを用いるとさらに効率的に抽出作業を行うことができる。このアルカリ水溶液には、抽出時に還元末端からのピーリング反応による多糖類の分解、低分子化を防ぐために、たとえぱ、NaBH等を添加することも有効である。なお、処理に際して、あらかじめキノコ原料をケトンあるいはアルコールによって洗浄してもよい。
【0034】
それぞれの所定の温度で所定時間の抽出処理を行った後、熱交換器を冷却側に作動させて、昇温と同じ程度の速度で温度降下させる。内部のスラリーを排出するに適当な条件になったところで常圧まで減圧し、排出弁を開き、スラリーポンプ13を作動させて、スラリーを第1分離器14に移送する。ここで、例えば、フィルタープレスによって固液を分離する(ステップ13、ステップ23,ステップ33)。1次処理で分離した固形成分であれば2次処理工程を、2次処理で分離した固形成分であれば3次処理工程を行うために処理容器10に装入される。3次処理の分離固形成分は、残留有効成分が多い場合には、原料として再使用するが、通常は廃棄処理を行う(ステップ35)。フィルタープレスの場合、固形成分には、30%程度の水分が含まれている。一方、液体成分は、開閉弁15a,15b,15cを介して第2分離器16a,16b,16cである静置槽に移送される。
【0035】
静置槽は密閉していないので、抽出液の蒸発や外気の流入によって冷却が促進される。それぞれの抽出液を所定の時間静置すると、図示するように、いくつかの層に分離する(ステップ14、ステップ24,ステップ34)。すなわち、第1段固液分離工程においては、抽出後短時間に50〜60度に温度を下げると液層と固層に分かれる。液層はα−グルカンとたんぱく質などを含む。この液層は、上澄み液排出管50よりポンプ56によって再使用水タンク50aに移送し、第1段抽出の補給水として再使用に備える。これを繰り返して、α−グルカンが所定の濃度に達したと判断される時に、製品タンク60aに移送し、精製処理を行う。固層は、第1分離器14からの固形成分といっしょに第2段抽出を行なうために処理容器10に移送する。
【0036】
第2段固液分離工程では、第2分離器16bにおいて60℃前後になるまで静置し、所定時間(例えば、24時間)置くと3層に分かれる。下層が木屑成分、中層が白色のベータグルカン析出成分、上層がベータグルカンを含む液層である。析出成分は製品タンク60bに移送し、精製処理を行う。上層の液層は上澄み液排出管50よりポンプ56によって再使用水タンク50bに移送し、第2段抽出の補給水として再使用に備える。下層の木屑等の固形成分は、第1分離器14からの固形成分といっしょに第3段抽出を行うために処理容器10に移送する。
【0037】
第3段固液分離工程では、第2分離器16cにおいて所定の温度になるまで静置すると固形成分と液層に分かれる。液層にはキチンキトサンが含まれている。液層は、上澄み液排出管50よりポンプ56によって再使用水タンク50cに移送し、第1段抽出の補給水として再使用に備える。これを繰り返して、キチンキトサンが所定の濃度に達したと判断される時に、製品液タンク60cから精製装置62cに移送し、精製濃縮処理を行う。固形分は有機物を含むので、例えば堆肥化処理を行って有効活用する。
【0038】
再使用水タンク58a,58b,58cに貯められた再使用水は、再使用水供給ライン20より処理処理水供給ライン24に戻し、新水と適宜にあるいは状況に応じて混合して同じ温度での処理に用いる。再使用水はそれぞれの温度での特有の成分を含み、分離したそれら成分を混合させるのは不利だからである。それと同じ理由で、再使用水供給ライン20は、図5の場合のように個別に設けるのが好ましい。
【0039】
以上の工程によって、従来処理が困難であったキノコ栽培廃菌床から、有効なキノコ成分を抽出して利用することができる。さらに、キノコ栽培廃菌床に含まれるおが屑のセルロースやヘミセルロースおよびリグニン等の木質成分、その中でも特にリグニン成分を抽出して除去できるので、キノコ成分を抽出した後に残ったキノコ栽培廃菌床(残渣)を発酵処理することが容易になった。従って、この残渣を堆肥物としたり、これからアルコール等を得たり、さらには、燃料電池のエネルギーとして利用する等、キノコ栽培廃菌床を多角的に利用することができる。
【0040】
次に、上記の実施の形態の処理工程における処理水の収支について、図4を参照して説明する。なお、図4に記載した数値は、発明者等が実験等から得たデータを基に、1バッチで50kgの廃菌床を処理する処理容器10について算出した一例である。
【0041】
原料である廃菌床50kgには、固形分22kg、水分28kgが含まれる。第1次処理において、原料に100kgの抽出水を供給して、スラリー化し、加圧熱水処理を行う。150℃で1次処理を終えたスラリーは、第1分離器14において70kgの固形分(濃化スラリー)と80kgの液分に分離される。液分は、第2分離器16a,16b,16cにおいて静置後に1〜2kg程度のキノコ成分液44を分離することができ、これには濃縮、乾燥等の精製処理が施される。再使用水タンクには第2分離器16a,16b,16cにおいて静置後に分離された上澄み液78〜79kgが戻され、これは別のバッチの1次処理において再使用される。従って、1次処理においては、21〜22kg程度の新水が各バッチごとに必要である。1次処理について説明したが、2次処理、3時処理の場合も、図1を参照すれば理解されるように、基本的に同じ程度の節水効率が得られる。
【0042】
このように、この発明によって、従来の場合に比べて、1バッチの処理に必要な新水が5分の1程度に減少する。これにより、新水を得るためのコスト、廃水を処理するためのコストを大幅に低減することができ、加圧熱水処理方法によるキノコ廃菌床の処理方法の実用性を高めることができる。もちろん、抽出処理によって水は劣化するので、その劣化成分を測定する等の方法で管理する必要が有る。なお、1つの処理容器10に対して1つの温度で用いる第2分離器16a,16b,16cの数は、処理のタイミングが一致すれば1つでよい。処理容器10と第2分離器16a,16b,16cの処理サイクルが異なる場合は、それに応じて複数基設ければよい。
【0043】
図5は、この発明の他の実施の形態の加圧熱水処理装置を示すもので、先の実施の形態が、各処理ごとに固形物を処理容器10から排出する完全なバッチ式であるのに対して、こちらは、1つの処理容器10内に固形成分を残したまま、3つの温度での処理を続けて行う、半バッチ式である。すなわち、この方式では、第1分離器14の役割である固液分離を処理容器10内で行う。そのために、処理容器10の排出口26近辺には、濾過手段(フィルター)64が設けられている。処理容器10の排出ライン12には、第1分離器14は設けられておらず、それぞれの温度用の第2分離器(静置槽)16a,16b,16cが設けられている。新水又は再利用水とスラリーとの間で熱交換を行う熱交換器66が設けられている。
【0044】
この処理装置では、混合および抽出の過程は先の場合と同様であるが、固液分離は処理容器10内で行われる。これは、例えば、スラリーをフィルターの反対側から加圧する等の方法で行われる。排出されるのは固液分離された液体分だけであり、開閉弁15a,15b,15cを介してそれぞれの温度の静置槽16a,16b,16cに送られる。静置槽およびそれ以降の工程は、先の場合と同様である。
この実施の形態では、固形分をその都度処理容器10から排出することがないので、作業の手間が省けるとともに、固形分の温度の低下を防止することができ、省エネルギーでもある。
【0045】
なお、処理容器10において、処理水を容器の下から供給し、処理後の液分を上から排出するようにしてもよい。また、第2分離器において静置することにより、成分液と上澄み液を分離したが、他の適宜の方法を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】この発明の第1の実施の形態の加圧熱水処理装置を示す図である。
【図2】(a)および(b)は、それぞれ第2分離器を示す図である。
【図3】第1の実施の形態における処理工程を示すフロー図である。
【図4】第1の実施の形態における処理物および処理水の収支を示す図である。
【図5】この発明の第1の実施の形態の加圧熱水処理装置を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
10 処理容器
14 第1分離器
16a,16b,16c 第2分離器
20 再使用水供給ライン
22 装入部
24 処理水供給ライン
34 破砕機
40 熱交換器
42 上澄み液
44 キノコ成分液
58a,58b,58c 再使用水タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キノコ栽培廃菌床に加圧熱水を接触させた状態でキノコ成分を抽出する抽出工程と、
抽出工程を終えた抽出液から固形成分を分離する分離工程とを有し、
分離工程を終えた抽出液を前記抽出工程における加圧熱水として再使用することを特徴とする加圧熱水処理方法。
【請求項2】
キノコ栽培廃菌床に対して加圧熱水の温度を変えて複数の段階で抽出工程を行うとともに、分離工程を終えた抽出液をそれぞれの温度での抽出工程ごとに再使用することを特徴とする請求項1に記載の加圧熱水処埋方法。
【請求項3】
前記分離工程は、前記抽出液からキノコ栽培廃菌床を分離する第1段分離工程と、前記抽出液を静置して比重差によりキノコ成分を分離する第2段分離工程を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の加圧熱水処埋方法。
【請求項4】
キノコ栽培廃菌床に加圧熱水を接触させた状態でキノコ成分を抽出する抽出処理装置と、
抽出工程を終えた抽出液から固形成分を分離する分離工程を行う分離装置と、
前記分離工程を終えた抽出液を前記抽出処理装置において加圧熱水として再使用するための再使用水供給ラインとを有することを特徴とする加圧熱水処理装置。
【請求項5】
前記分離装置は、前記抽出液からキノコ栽培廃菌床を分離する第1段分離手段と、前記抽出液を静置して比重差によりキノコ成分を分離する第2段分離手段を含むことを特徴とする請求項4に記載の加圧熱水処埋装置。
【請求項6】
前記抽出処理装置は、キノコ栽培廃菌床に対して加圧熱水の温度を変えて複数の段階で抽出工程を行うものであり、前記第2段分離手段は、それぞれの温度での抽出工程ごとに設けられていることを特徴とする請求項5に記載の加圧熱水処埋装置。
【請求項7】
前記再使用水供給ラインには、再使用水を貯留する再使用水タンクが設けられていることを特徴とする請求項4ないし請求項6のいずれかに記載の加圧熱水処埋装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−151424(P2007−151424A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−347506(P2005−347506)
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【出願人】(802000019)株式会社新潟ティーエルオー (27)
【Fターム(参考)】