説明

加工制御装置およびレーザ加工装置

【課題】スロープ用のポイントを把握した上で、所望の長さでの出力スロープアップ、出力スロープダウンを実施するための加工条件を容易に設定可能とする加工制御装置およびレーザ加工装置を得ること。
【解決手段】レーザによる溶接加工を実施するレーザ加工装置である3次元レーザ加工機100を制御するための加工制御装置30であって、溶接加工を開始する際の加工条件および溶接加工を終了する際の加工条件の少なくとも一方を、被加工物の各溶接箇所に対して一括して設定するための加工条件設定手段を有し、加工条件設定手段は、溶接加工を開始する位置から出力スロープアップを終了する位置までの区間長さと、出力スロープダウンを開始する位置から前記溶接加工を終了する位置までの区間長さと、の少なくとも一方を設定するための区間長さ設定手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザによる溶接加工のための加工制御装置およびレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザによる溶接加工では、溶接加工を開始する位置から加工位置の移動に伴ってビーム出力を増加させて(出力スロープアップ)、ある一定の出力で継続して加工を施した後、加工を終了する位置に移動するまでビーム出力を減少させる(出力スロープダウン)制御が一般に行われている。出力スロープアップを終了する位置と出力スロープアップを開始する位置とを逐一教示ポイントとして指定を要する場合、溶接加工を施す箇所ごとに、加工の開始位置および終了位置とスロープ用の2点を合わせて4つの教示ポイントの指定と、スロープ指令の作成とを要することとなる。また、修正を行う場合は溶接箇所の1つずつについて教示ポイントの位置修正を要することになる。このようなティーチングプログラムの作成負担の軽減を目的として、例えば特許文献1には、記憶装置に予め記憶させたスロープ時間(ピアス時間)を読み出すことで、データ入力作業を省略する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−267255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ピアス時間が指定されても、加工開始位置から出力スロープアップを終了する位置までの区間長さ、出力スロープダウンを開始する位置から加工終了位置までの区間長さは、別途設定された加工速度次第で異なってくる。出力スロープアップ、出力スロープダウンを所望の長さで実施するためには、加工速度を用いた換算によって求められたピアス時間を指定することとなる。このため、スロープ用のポイントを把握した上で、所望の長さでの出力スロープアップ、出力スロープダウンを実施するための加工条件の設定が困難である場合が生じる。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、スロープ用のポイントを把握した上で、所望の長さでの出力スロープアップ、出力スロープダウンを実施するための加工条件を容易に設定可能とする加工制御装置およびレーザ加工装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、レーザによる溶接加工を実施するレーザ加工装置を制御するための加工制御装置であって、前記溶接加工を開始する際の加工条件および前記溶接加工を終了する際の加工条件の少なくとも一方を、被加工物の各溶接箇所に対して一括して設定するための加工条件設定手段を有し、前記加工条件設定手段は、前記溶接加工を開始する位置から出力スロープアップを終了する位置までの区間長さと、出力スロープダウンを開始する位置から前記溶接加工を終了する位置までの区間長さと、の少なくとも一方を設定するための区間長さ設定手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、スロープ用のポイントを把握した上で、所望の長さでの出力スロープアップ、出力スロープダウンを実施するための加工条件を容易に設定できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明の実施の形態にかかる3次元レーザ加工機の構成を示す図である。
【図2】図2は、加工ヘッドの構成の一例を示す図である。
【図3】図3は、教示ポイントと出力波形との関係を示す図である。
【図4】図4は、ワークに形成される加工痕の形状の例を示す図である。
【図5】図5は、加工制御装置の加工条件設定手段を示すブロック図である。
【図6】図6は、加工条件設定手段により設定された加工条件の表示例を示す図である。
【図7】図7は、加工制御装置のうち、加工条件設定手段における設定に応じた制御を実施するための構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明にかかる加工制御装置およびレーザ加工装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0010】
実施の形態.
図1は、本発明の実施の形態にかかる3次元レーザ加工機の構成を示す図である。図1では、3次元レーザ加工機100の構成例を斜視図として示している。3次元レーザ加工機100は、各教示ポイントの位置および角度に応じて加工ヘッド9を移動させながらワーク50の3次元レーザ溶接を行うレーザ加工装置である。
【0011】
3次元レーザ加工機100は、ベッド1上にX軸方向に移動可能に設けられたワークテーブル2と、左右のコラム4、5間に水平に掛け渡されたクロスレール6と、クロスレール6にY軸方向に移動可能に設けられたY軸ユニット7と、Y軸ユニット7にZ軸方向に移動可能に設けられたZ軸ユニット8と、Z軸ユニット8に取り付けられた加工ヘッド9と、加工ヘッド9の先端部に取り付けられた加工ノズル(レーザ用ノズル)10と、コンピュータ式の加工制御装置30を有している。
【0012】
加工制御装置30は、マンマシンインタフェースとして、操作盤11Aおよび画面表示部11Bを具備している。画面表示部11Bは、例えばCRT等である。ワークテーブル2、Y軸ユニット7、Z軸ユニット8は、それぞれ、図示省略のX軸サーボモータ、Y軸サーボモータ、Z軸サーボモータによって駆動され、加工制御装置30からの各軸指令によって位置制御される。
【0013】
加工ヘッド9は、従来のものと同様に構成されている。図2は、加工ヘッドの構成の一例を示す図である。加工ヘッド9は、Z軸ユニット8の先端に軸受部材13によってZ軸の中心軸周りに回転可能な回転軸14と、回転軸14の先端に軸受部材15によって取り付けられてZ軸に対して直交した軸を中心に回転可能な姿勢軸16とを有し、姿勢軸16の先端に加工ノズル10が取り付けられている。回転軸14はC軸サーボモータ17によって回転駆動され、姿勢軸16はA軸サーボモータ18によって回転駆動される。
【0014】
X軸サーボモータ、Y軸サーボモータ、Z軸サーボモータ(図示省略)、C軸サーボモータ17、A軸サーボモータ18は、それぞれ加工制御装置30からの駆動信号によって駆動される。また、各軸(X軸、Y軸、Z軸、C軸、A軸)のサーボモータは、ティーチングデータに従ってワークテーブル2上のワーク(被加工物)50に対する加工ノズル10の離間距離を一定に保持しながらレーザ光のスポットが加工線周りを倣うと共に加工ノズル10の方向がワーク50の表面に対してほぼ垂直(法線)となるよう加工制御装置30によって制御される。これにより、回転軸14および姿勢軸16を回転させた際に、加工点を不変とすることが可能となる。
【0015】
図3は、教示ポイントと出力波形との関係を示す図である。図3に示すグラフの縦軸はレーザのビーム出力、横軸はワーク50に対する加工ノズル10の移動長さを表している。溶接加工を開始する位置(1)からの開始制御区間L1は、加工位置の移動に伴って出力を増加させる(出力スロープアップ)。開始制御区間L1の終点となる位置(2)は、出力スロープアップを終了する位置である。位置(2)からは、ある一定の出力で継続して溶接加工を施す。
【0016】
一方、溶接加工を終了する位置(4)までの終了制御区間L2は、加工位置の移動に伴って出力を減少させる(出力スロープダウン)。終了制御区間L2の起点となる位置(3)は、出力スロープダウンを開始する位置である。
【0017】
図4は、ワークに形成される加工痕の形状の例を示す図である。加工方向に対して垂直な方向における加工痕51の幅は、位置(1)から位置(2)までの開始制御区間L1では、加工方向へ移動するに従って広がり、位置(2)から位置(3)までの区間において略一定となる。また、位置(3)から位置(4)までの終了制御区間L2では、加工痕51の幅は、加工方向へ移動するに従って狭められる。出力スロープアップおよび出力スロープダウンの実施によりビーム出力を漸次変化させることで、加工開始位置と加工終了位置におけるダマの発生を抑制することができる。
【0018】
図5は、加工制御装置の加工条件設定手段を示すブロック図である。図6は、加工条件設定手段により設定された加工条件の表示例を示す図である。加工条件設定手段20は、溶接加工を開始する際の加工条件と溶接加工を終了する際の加工条件とを、ワーク50の各溶接箇所に対して一括して設定する。加工条件設定手段20によって設定された加工条件は、例えば、画面表示部11Bに表示される。
【0019】
加工条件設定手段20は、有効/無効切り換え手段21、区間長さ設定手段22、区間条件設定手段23を備える。有効/無効切り換え手段21は、加工条件設定手段20において設定されている加工条件の有効および無効を切り換えるための切り換え手段である。有効/無効切り換え手段21は、溶接加工を開始する際の加工条件および溶接加工を終了する際の加工条件のそれぞれに対して、有効および無効を切り換える。加工条件の表示中、有効/無効設定表示欄31には、開始制御、終了制御のそれぞれについて、加工条件が有効および無効のいずれであるかが表示される。
【0020】
区間長さ設定手段22は、開始制御区間L1の区間長さと、終了制御区間L2の区間長さとを設定する。加工条件の表示中、区間長さ設定表示欄32には、開始制御区間L1について設定された区間長さと、終了制御区間L2について設定された区間長さとが表示される。
【0021】
区間条件設定手段23は、開始制御区間L1における出力条件と、終了制御区間L2における出力条件とを設定する。開始制御区間L1における出力条件としては、例えば、位置(2)における出力値を設定する。終了制御区間L2における出力条件としては、例えば、位置(4)における出力値を設定する。加工条件の表示中、区間条件設定表示欄33には、開始制御区間L1について設定された出力条件と、終了制御区間L2について設定された出力条件とが表示される。
【0022】
図7は、加工制御装置のうち、加工条件設定手段における設定に応じた制御を実施するための構成を示すブロック図である。加工条件有効/無効判定部41は、加工条件設定手段20において設定されている加工条件が有効および無効のいずれであるかを判定する。加工条件有効/無効判定部41が加工条件は有効であると判定した場合に、移動距離計算部42および条件スロープ変更部43は、以下に説明する処理を実行する。
【0023】
移動距離計算部42は、溶接加工を開始してからの、ワーク50に対する加工ノズル10の移動長さを計算する。条件スロープ変更部43は、移動距離計算部42で算出された移動長さに応じて、ビーム出力を調整する。これにより、移動指令に従って加工位置を移動させるのに伴い、図3に示すような出力の自動調整を実施する。
【0024】
区間長さ設定手段22における開始制御区間L1の区間長さと終了制御区間L2の区間長さとの設定により、ティーチングプログラムは、出力スロープアップ終了(位置(2))、出力スロープダウン開始(位置(3))の2つの教示ポイントの指定と、スロープ指令との削除が可能となる。また、出力スロープアップと出力スロープダウンとを実施する長さを修正する場合は、溶接箇所の1つずつの教示ポイントの修正をせずに、区間長さ設定手段22の区間長さ設定の変更による一括修正が可能となる。
【0025】
さらに、加工制御装置30は、区間長さ設定手段22による区間長さの設定を可能とすることで、出力スロープアップ、出力スロープダウンを所望の長さで実施する場合に、加工速度を用いた換算などをせずに、スロープ用のポイントを把握した上で、加工条件を容易に設定することが可能となる。
【0026】
なお、加工条件有効/無効判定部41が加工条件は無効であると判定した場合は、加工制御装置30は、加工条件設定手段20で設定された加工条件以外の条件に従って3次元レーザ加工機100を制御する。この場合、加工制御装置30は、例えば、位置(2)および(3)が既に設定されている従来のティーチングプログラムを実行することとしても良い。
【0027】
加工制御装置30は、加工開始の加工条件が無効である場合、出力スロープアップを行わず、加工開始から出力を一定とする制御を実行することとしても良い。また、加工制御装置30は、加工終了の加工条件が無効である場合、出力スロープダウンを行わず、加工終了まで出力を一定とする制御を実行することとしても良い。加工制御装置30は、有効/無効切り換え手段21によって、加工開始と加工終了とで有効および無効を別々に切り換えることができる。
【0028】
なお、加工条件設定手段20は、開始制御および終了制御の双方について加工条件を設定するものである場合に限られず、開始制御および終了制御の少なくとも一方について加工条件を設定可能であれば良いものとする。区間長さ設定手段22は、開始制御区間L1および終了制御区間L2の双方の区間長さを設定するものである場合に限られず、開始制御区間L1および終了制御区間L2の少なくとも一方について区間長さを設定可能であれば良いものとする。
【0029】
加工条件設定手段20は、開始制御および終了制御におけるピアス時間を設定可能としても良い。例えば、加工条件設定手段20は、区間長さ設定手段22における区間長さの設定がなされていない場合は、設定されたピアス時間に基づいて、加工開始の加工条件と加工終了の加工条件とを設定することとしても良い。区間長さ設定手段22における区間長さの設定とピアス時間の設定との双方がなされている場合は、加工条件設定手段20は、いずれの設定を優先することとしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上のように、本発明にかかる加工制御装置およびレーザ加工装置は、出力スロープアップ、出力スロープダウンを所望の長さとしてレーザ加工を実施する場合に有用である。
【符号の説明】
【0031】
10 加工ノズル
11B 画面表示部
20 加工条件設定手段
21 有効/無効切り換え手段
22 区間長さ設定手段
23 区間条件設定手段
30 加工制御装置
50 ワーク
51 加工痕
100 3次元レーザ加工機
L1 開始制御区間
L2 終了制御区間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザによる溶接加工を実施するレーザ加工装置を制御するための加工制御装置であって、
前記溶接加工を開始する際の加工条件および前記溶接加工を終了する際の加工条件の少なくとも一方を、被加工物の各溶接箇所に対して一括して設定するための加工条件設定手段を有し、
前記加工条件設定手段は、前記溶接加工を開始する位置から出力スロープアップを終了する位置までの区間長さと、出力スロープダウンを開始する位置から前記溶接加工を終了する位置までの区間長さと、の少なくとも一方を設定するための区間長さ設定手段を有することを特徴とする加工制御装置。
【請求項2】
前記加工条件設定手段は、前記加工条件設定手段において設定されている前記加工条件の有効および無効を切り換えるための切り換え手段を有することを特徴とする請求項1に記載の加工制御装置。
【請求項3】
前記切り換え手段は、前記溶接加工を開始する際の前記加工条件および前記溶接加工を終了する際の前記加工条件のそれぞれに対して、有効および無効を切り換え可能であることを特徴とする請求項2に記載の加工制御装置。
【請求項4】
レーザによる溶接加工を実施するレーザ加工装置であって、
前記溶接加工を開始する際の加工条件および前記溶接加工を終了する際の加工条件の少なくとも一方を、被加工物の各溶接箇所に対して一括して設定するための加工条件設定手段を有し、
前記加工条件設定手段は、前記溶接加工を開始する位置から出力スロープアップを終了する位置までの区間長さと、出力スロープダウンを開始する位置から前記溶接加工を終了する位置までの区間長さと、の少なくとも一方を設定するための区間長さ設定手段を有することを特徴とするレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−206821(P2011−206821A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77606(P2010−77606)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】