説明

加工穴検査装置および加工穴検査方法

【課題】誤判定を回避し,安定した検査を行うことができる加工穴検査装置および加工穴検査方法を提供すること。
【解決手段】検査装置は,加工穴12に対して検査ピン3を前進させ,検査ピン3の加工穴12への進入量を基に加工穴12の良否を判断するものである。検査ピン3は,先端部が偏心した円錐台状をなしている。すなわち,検査ピンの先端部は,軸方向に対して傾斜するテーパ面を有している。さらに検査ピン3は,軸方向と直交する方向に移動可能にフローティング支持される。このような検査ピン3を,先端部のテーパ面のうち,頂上面から中心側であって幅広の第1テーパ面32が加工穴12のかしめ部15側を向いた状態で,加工穴12に進入させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,加工穴を有するワークを検査する加工穴検査装置および加工穴検査方法に関する。さらに詳細には,加工穴に対して検査ピンを進退させる加工穴検査装置および加工穴検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車部品の組み付けにおいて,ワークに形成された加工穴にロックピンを挿入し,その後にその加工穴の開口部をかしめ,加工穴の開口部を変形させてロックピンを封入する工程がある。このような工程では,加工穴のかしめ前に,ロックピンが加工穴に挿入されているか否かを確認する検査(以下,「ロックピン確認検査」とする)を行う。また,加工穴のかしめ後に,かしめ不良が生じているか否かを確認する検査(以下,「かしめ確認検査」とする)を行う。
【0003】
前記したロックピン確認検査では,加工穴の開口幅よりもその直径が僅かに小さい検査ピンを加工穴に挿入する。そして,検査ピンの進入量を検知し,その進入量によって加工穴内のロックピンの有無を判断する。一方,かしめ確認検査では,ロックピン確認検査で使用した検査ピンを使用し,同じく検査ピンの進入量によって加工穴の開口部がかしめられているか否かを判断する。
【0004】
ワークの加工穴の状態を検査する装置としては,例えば特許文献1に開示された加工穴検査装置がある。特許文献1では,穴加工面に対して検査棒を垂直にセットする角度調節機構が開示されている。
【特許文献1】実公昭61−13212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,前記した従来の加工穴検査装置には,次のような問題があった。すなわち,ロックピン確認検査においても,かしめ確認検査においても,検査ピンの位置決め精度やワークの寸法精度のばらつきに起因する誤判定が多い。検査の誤判定は,設備停止や品質低下を招き,生産性に悪影響を与える。
【0006】
例えば,ロックピン確認検査では,通常,図12に示すように,加工穴12内に検査ピン30が進入することで,ロックピン11の有無を確認できる。しかし,ワーク1の位置決め精度あるいはワーク1の寸法精度のばらつきによって,検査ピン30と加工穴12との位置にずれが生じることがある。そのため,図13に示すように,検査ピン30が加工穴12のエッジに衝突して加工穴12に入らないことがある。そのような場合に,良品であったとしても不良と判定してしまう。
【0007】
また,例えば,かしめ確認検査では,通常,図14に示すように,かしめ部材によって変形した部分(以下,「かしめ部15」とする)が加工穴12の開口部の一部を塞ぎ,加工穴12内に検査ピン30が入らないことで,加工穴12のかしめ状態を確認できる。しかし,図15に示すように,検査ピン30の推力によって加工穴12のかしめ部15を押し崩し,検査ピン30が強引に進入してしまうことがある。また,かしめ不足の場合には不良と判定しなければならないところ,ワーク1の位置決め精度あるいはワーク1の寸法精度のばらつきによって,図13と同様に,加工穴12のエッジに衝突してそのまま良品と誤判定してしまうことがある。
【0008】
上記のような不具合(加工穴のエッジへの衝突やかしめ後の加工穴の突き崩し)は,特許文献1のように検査ピンを穴加工面に対して垂直にセットする精度を向上させただけでは改善できない。
【0009】
本発明は,前記した従来の加工穴検査装置が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,誤判定を回避し,安定した検査を行うことができる加工穴検査装置および加工穴検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題の解決を目的としてなされた加工穴検査装置は,先端部がテーパ状をなす検査ピンと,検査ピンをその軸方向と直交する方向に移動可能に支持する支持部と,検査ピンを被検体の加工穴の開口部に対して進退させる駆動部と,検査ピンの加工穴への進入量を基に,加工穴の良否を判断する判断手段とを備えることを特徴としている。
【0011】
本発明の加工穴検査装置は,被検体の加工穴に対して検査ピンを前進させ,検査ピンの加工穴への進入量を基に加工穴の良否を判断するものである。例えば,ロックピン確認検査やかしめ確認検査に好適である。また,本発明の加工穴検査装置の検査ピンは,先端部がテーパ状をなしている。すなわち,検査ピンの先端部は,軸方向に対して傾斜するテーパ面を有している。さらに検査ピンは,支持部によって軸方向と直交する方向に移動可能にフローティング支持される。
【0012】
すなわち,本発明の加工穴検査装置では,検査ピンが加工穴のエッジに衝突した場合に,先端部のテーパ面に沿ってガイドされ,軸方向と直交する方向にスライドしつつ加工穴に進入する。そのため,位置決めや加工精度の多少のばらつきは許容され,判定精度の改善が期待できる。
【0013】
また,本発明の加工穴検査装置は,加工穴の開口部の一部がかしめられ,そのかしめによる変形部によって開口部の一部が塞がれたものを被検体としており,検査ピンの先端部は,偏心した円錐形状であり,頂上部から中心側に位置する第1テーパ面と,頂上部から第1テーパ面とは反対側に位置する第2テーパ面とを有し,支持部は,検査ピンを,第1テーパ面が加工穴の開口部の変形部側を向いた状態で支持するとよりよい。
【0014】
すなわち,本発明の加工穴検査装置では,検査ピンの先端部が偏心した円錐形状であり,検査ピンの先端部の中心側の第1テーパ面を加工穴の変形部に向ける。ここでいう中心とは,軸方向に直交する方向の検査ピンの幅の中心のことである。これにより,第1テーパ面と変形部とが接触し易くなり,検査ピンを加工穴にスライドさせつつ進入させることができる。さらに,検査ピンがスライドすることで,加工穴の非変形部と第2テーパ面側の検査ピンの側面とが接触する。そのため,検査ピンは,加工穴への進入の際,加工穴との接触面積が大きく,揺動が少ない。よって,検査が安定する。
【0015】
また,本発明の加工穴検査装置は,検査ピンの加工穴への進入量を基に,加工穴の開口部の開口幅を算出する演算部を備えるとよりよい。すなわち,検査ピンの先端部がテーパ面を有することで,その進入量によって加工穴の開口幅を算出することができる。これにより,加工穴の開口幅の管理が可能になる。
【0016】
また,本発明は,先端部がテーパ状をなし,軸方向と直交する方向に移動可能に支持された検査ピンを,被検体の加工穴の開口部に対して前進させる移動ステップと,検査ピンの加工穴への進入量を検出し,その進入量を基に加工穴の良否を判断する判断ステップとを含むことを特徴とする加工穴検査方法を含んでいる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば,誤判定を回避し,安定した検査を行うことができる加工穴検査装置および加工穴検査方法が実現されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下,本発明にかかる加工穴の検査装置を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,加工穴が形成され,その加工穴にロックピンが挿入されたデフを被検体とし,その被検体の加工穴を検査する加工穴検査装置に本発明を適用したものである。
【0019】
[検査装置の構成]
本形態の加工穴検査装置100(以下,「検査装置100」)は,図1に示すように,被検体である検査ワーク1を載置し,平面上で移動自在に設けられたXYステージ2と,XYステージ2の上方に位置する検査ピン3と,検査ピン3を支持するピンホルダ4と,ピンホルダ4を上下方向(Z方向)に移動自在にさせるZ軸ステージ5と,検査ワーク1の加工穴の開口部をかしめるかしめ部材6と,各部材の制御や演算を行う制御演算装置8と,XYステージ2およびZ軸ステージ5を駆動するステージ制御ドライバ9とを備えている。
【0020】
検査ワーク1は,図2に示すように,ディファレンシャルギアをケース13に収容したものであり,ケース13の表面にロックピン11を収容する直径6.0mmの加工穴12が形成されている。検査ワーク1は,加工穴検査装置100のXYステージ2上に載置され,加工穴12が検査ピン3の下方になるように位置決めされる。
【0021】
検査装置100は,検査ワーク1に加工穴12が正しく形成され,さらにその加工穴12内にロックピン11が挿入されているか否かを検査するロックピン確認検査を行う。また,検査装置100は,加工穴12の開口部をかしめるかしめ機能を有しており,加工穴12の開口部が正しくかしめられているか否かを検査するかしめ確認検査を行う。
【0022】
検査ピン3は,図3に示すように,断面略円形で最大幅が5.8mmの金属ピンであり,先端部が偏心した円錐台状をなしている。詳細には,図4に示すように,略円形の頂上面31の周縁から等角度でテーパ面が形成されている。本形態では,テーパ面のうち,頂上面31から中心側に位置し,幅および高さが大きい部分を「第1テーパ面32」とし,頂上面31を挟んで第1テーパ面32と反対側に位置し,幅および高さが小さい部分を「第2テーパ面33」とする。また,検査ピン3の,頂上面31,第1テーパ面32,第2テーパ面33から構成される円錐台部分を「先端部」とし,先端部に連続する棒体部分を「本体部」とする。第1テーパ面32と第2テーパ面33とは等角度であることから,第1テーパ面32の軸方向の高さd1と第2テーパ面33の軸方向の高さd2とは,d1>d2の関係にある。
【0023】
ピンホルダ4は,図5に示すように,検査ピン3を支持する直径2.5mmの鉄製線材41と,線材41を固定する固定部42と,線材41を収容する内径が7.0mmの管材43とを備えている。ピンホルダ4は,線材41が検査ピン3のテーパ部と反対側の端部を保持し,検査ピン3を吊り下げた状態にしている。そのため,検査ピン3は,軸方向と直交する方向に可動可能に設けられている。なお,検査ピン3の保持機構については,本形態に限定するものではなく,軸方向に直交する方向(以下,「水平方向」とする)に可動可能にするフローティング機構を有していればよい。また,線材41は,鉄製に限るものではなく,弾性材であり,少なくとも検査時の軸方向への荷重で座屈しない程度の剛性を有するものであればよい。
【0024】
かしめ部材6は,棒状の押圧部材であり,検査ワーク1の加工穴12の開口部付近を押圧する。すなわち,検査装置100は,加工穴12の開口部の一部をかしめるかしめ装置を兼ねている。かしめ部材6は,一般的なものであり,検査ワーク1の材質,かしめ後の検査ワーク1の形状に合わせて適宜選択される。
【0025】
図6は,かしめ工程前後の加工穴12を,加工穴12の上方から見た状態を示している。かしめ前の状態では,図6(A)に示すように,加工穴12の開口部は略円形であり,開口幅w1は開口部の直径に等しい。そして,ロックピン11の先端部全体が視認できる。一方,かしめ後の状態では,図6(B)に示すように,加工穴12の開口部の一部が変形し,開口幅w2はかしめ前と比較して狭くなる。具体的には,開口幅w2がロックピン11の直径よりも狭くなる。そのため,加工穴12内のロックピン11が加工穴12内に封入される。
【0026】
制御演算装置8には,Z軸ステージ5から検査ピン3の進入量(ストローク)が入力される。制御演算装置8では,その進入量が許容範囲内であるか否かによって検査ワーク1の良否を判断する。
【0027】
本検査装置100によるロックピン確認検査では,あらかじめ,進入量の許容範囲として,ロックピン11と接触する位置となる進入量の範囲が設定されている。実測された進入量が許容範囲より短い場合は,検査ピン3が加工穴12内に挿入されていない,すなわち加工穴12が正しく形成されていないと判断できる。一方,実測された進入量が許容範囲より長い場合は,検査ピン3が加工穴12内に挿入されたがロックピン11が挿入されていないと判断できる。
【0028】
また,本検査装置100によるかしめ確認検査についても,あらかじめ,進入量の許容範囲として,検査ピン3の加工穴12内への挿入が阻止される位置となる進入量の範囲が設定されている。入力された進入量が許容範囲より長い場合は,検査ピン3が加工穴12内に挿入されたことになり,かしめが不十分であると判断できる。
【0029】
また,かしめ確認検査においては,検査ピン3の進入量を基に,かしめ後の加工穴12の開口幅を検知することができる。言い換えると,検査ピン3の進入量を制御することで,かしめ後の加工穴12の開口幅を管理できる。この開口幅の管理の詳細については後述する。
【0030】
検査ピン3の進入量の測定は,Z軸ステージ5により,検査ピン3を支持するピンホルダ4を鉛直方向(図1中の上下方向)に移動させながら行う。Z軸ステージ5の移動量は,検査装置100に入力された諸条件に応じて制御演算装置8にて算出される。そして,制御演算装置8からステージ制御用ドライバ9に対してZ軸ステージ5への作動指令が出力される。そして,ステージ制御用ドライバ9によってZ軸ステージ5が作動してピンホルダ4,すなわち検査ピン3が鉛直方向に移動する。
【0031】
ステージ制御用ドライバ9は,制御演算装置8からの指令に基づいてXYステージ2を水平方向に移動させる。これにより,検査ワーク1の水平方向の位置を調節することができる。なお,制御演算装置8は,かしめ部材6等の制御も行う。
【0032】
[検査の手順]
続いて,検査装置100によるロックピン確認検査およびかしめ確認検査の手順について,図7のフローチャートを参照しつつ説明する。本形態では,S02からS04までがロックピン確認検査のステップであり,S07からS09までがかしめ確認検査のステップである。
【0033】
まず,検査ワーク位置決めステップとして,検査ワーク1をXYステージ2に載置し,検査ワーク1の移動を開始する(S01)。検査ワーク1は,加工穴12が検査ピン3の直下に位置するように位置決めされる。
【0034】
次に,検査ピン3が加工穴12内に挿入されるように,検査ピン3を下方に前進させる(S02)。このとき,検査ワーク1の位置決め精度ないし検査ワーク1の寸法精度のばらつきによって,検査ピン3と加工穴12との位置にずれが生じることがある。この場合,図8に示すように,加工穴12の開口部のエッジが検査ピン3の第1テーパ面32(あるいは第2テーパ面33)と接する。検査ピン3は,ピンホルダ4のフローティング機構によって水平方向にスライド可能に支持されていることから,第1テーパ面32(あるいは第2テーパ面33)にガイドされて水平方向にスライドしながら加工穴12に挿入される。
【0035】
すなわち,本形態の検査ピン3は,先端部の形状がテーパ状であり,仮に加工穴12の開口部のエッジに接触したとしても,テーパ面にならって加工穴12内に進入する。つまり,検査ピン3のテーパ面の部分が加工穴12のエッジに接触する程度の位置ずれについては,正常検査が可能な領域として許容される。そのため,先端部全体が平面の従来の検査ピン30(図13参照)と比較して位置ずれに関する許容範囲が広く,検査ワーク1の位置決め精度ないし検査ワーク1の寸法精度のばらつきが多少あったとしても,検査ピン3を加工穴12内に挿入することができる。そのため,誤判断が抑制される。
【0036】
次に,検査ピン3の進入量を測定する(S03)。そして,測定した進入量を基に,制御演算装置8がロックピン11の有無を判定する(S04)。すなわち,その進入量が許容範囲内であるか否かを判断する。ロックピン11有りと判断されれば(S04:YES),検査ピン3を加工穴12から一旦後退させ,S05以降のかしめ工程に移行する。ロックピン11無しと判断されれば(S04:NO),すなわち進入量が許容範囲外であれば,検査ワーク1を穴加工不良あるいはロックピン11の入れ忘れとして本処理を終了する。
【0037】
S06の処理では,加工穴12のかしめを行う(S05)。検査装置100では,かしめ部材6が検査ワーク1の斜め上方から検査ワーク1の加工穴12の開口部に向かって前進し,加工穴12の開口部周辺を押圧して変形させる。このかしめ工程により,加工穴12の開口部のエッジが変形してかしめ部15が形成され,開口幅が狭くなる。かしめ後,かしめ部材6は検査ワーク1から後退する。
【0038】
次に,検査ピン3を加工穴12に向かって,再び下方に前進させる(S06)。このとき,検査ピン3は,その先端部の第1テーパ面32が検査ワーク1のかしめ部15と接触するように,第1テーパ面32がかしめ部15側を向いている。
【0039】
検査ピン3が加工穴12内に進入する際,検査ピン3の先端部が偏心形状であり第1テーパ面32がかしめ部15側を向いていることから,その先端部は加工穴12の開口部から進入し,その第1テーパ面32がかしめ部15と接触することになる。第1テーパ面32がかしめ部15と接触すると,図9に示すように,検査ピン3は第1テーパ面32にガイドされて水平方向にスライドしながら加工穴12に挿入される。そして,検査ピン3の第2テーパ面33側の側面と加工穴12の側壁とが接触し,検査ピン3の進入が阻止される。
【0040】
本検査装置100では,検査ピン3の第1テーパ面32がかしめ部15側を向いて進入する。そのため,スライド移動した先の加工穴12の側壁は非かしめ部であり,フラットな面である。一方,その面に接触する検査ピン3の側面は第2テーパ面33側であり,その殆どがフラットな検査ピン3本体部の側面である。そのため,フラットな面同士が接触することになり,検査ピン3の側面と加工穴12の側壁との接触面積が大きくなる。仮に,先端部を非偏心形状とすると,接触面積が小さくなる。さらに,図10に示すように検査ピン3の進入の際に隙間18が生じる。そのため,進入時に検査ピン3が揺動する。本検査装置100では,接触面積が大きく,進入時の隙間が殆どないことから,安定した検査を行うことが期待できる。
【0041】
また,かしめ部材6によるかしめ処理では,かしめ量を精細に調節することが困難であり,実際にはかしめ量にばらつきがある。本検査装置100では,かしめ部15を第1テーパ面32と接触させることで,かしめ量のばらつきを許容できる。
【0042】
次に,検査ピン3の進入量を測定する(S07)。そして,測定した進入量を基に,制御演算装置8がかしめの良否を判定する(S08)。すなわち,その進入量が許容範囲内であるか否かを判断する。ここでの判断は,検査ピン3が加工穴12内に完全に進入してしまっているか否かを判断するものであり,かしめ量を判断するものではない。かしめ良好と判断されれば(S08:YES),S09の開口幅算出処理に移行する。かしめ不良と判断されなければ(S08:NO),すなわち進入量が許容範囲外であれば,検査ワークをかしめ不良として本処理を終了する。
【0043】
S09の処理では,かしめ後の加工穴12の開口幅の算出を行う(S09)。検査装置100では,検査ピン3の進入量を基に,加工穴12の開口幅を算出することができる。すなわち,S09の処理では,かしめ量を取得し,より高精度なかしめ確認を行う。検査ピン3の先端部は,図11に示すように,円錐台状であり,進入量Sとピン径Lとの関係は次の条件(1)〜(4)のように規定される。
h0<S L0 (1)
h1≦S<h0 L1=2×(S+S0)×tan(θ/2)−L4 (2)
L4=S×tan(θ/2)−L3 (3)
h2≦S<h1 L2=2×(S+S0)×tan(θ/2) (4)
L0:検査ピン3の本体部の幅
L1:検査ピン3の先端部(第1テーパ面終了部から第2テーパ面終了部まで)の幅
L2:検査ピン3の先端部(第2テーパ面終了部から先端面まで)の幅
L3:検査ピン3の先端部の第2テーパ面の幅
L4:検査ピン3の先端部の第2テーパ面側の切削部の幅
θ:検査ピン3の仮想先端の角度
【0044】
例えば,本形態の検査ピン3を,L0=5.8mm,θ=60度,L3=0.3mm,S0=2.6mmと設定する。その際,開口部の幅(つまりピン径L)を5.0mmよりも小さいようにする場合には,条件(2),(3)に上記条件を代入し,次のような結果が得られる。
2×(S+S0)×tan(θ/2)−(S×tan(θ/2)−L3)<5.0
2×(S+2.6)×tan30°−(S×tan30°−0.3)<5.0
S<2.94
すなわち,進入量Sの閾値を2.94mmとすることで,かしめ後の加工穴12の開口幅が5.0mmよりも小さいか否かを判断できる。
【0045】
そして,算出した開口幅を基に,制御演算装置8がかしめ量の良否を判定する(S10)。すなわち,その開口幅が許容範囲内であるか否かを判断する。かしめ量良好と判断されれば(S10:YES),検査ワークを良品として本処理を終了する。かしめ量不良と判断されなければ(S10:NO),すなわち開口幅が許容範囲外であれば,検査ワークをかしめ量不良として本処理を終了する。
【0046】
以上詳細に説明したように本形態の検査装置100では,検査ピン3の先端部が偏心した円錐台状であり,その検査ピン3がピンホルダ4によってフローティング支持されている。このことから,検査ピン3が加工穴12のエッジに衝突した場合に,先端部のテーパ面32ないしテーパ面33に沿って検査ピン3がガイドされ,軸方向と直交する方向にスライドしつつ加工穴12に進入する。そのため,位置決めや加工精度の多少のばらつきは許容され,誤判定を回避することが期待できる。
【0047】
また,本形態の検査装置100では,かしめ確認検査にて,加工穴12のかしめ部15と,検査ピン3の先端部の第1テーパ面32とを接触させ,検査ピン3を加工穴12内にスライド進入させる。これにより,加工穴12の非かしめ側の側壁と第2テーパ面33側の検査ピン3の側面とが接触する。そのため,検査ピン3は,加工穴12への進入の際,加工穴12との接触面積が大きく,揺動が少ない。よって,検査が安定する。
【0048】
また,本形態の検査装置100は,検査ピン3の先端部がテーパ面を有することで,その進入量によって加工穴12の開口部の開口幅を算出することができる。これにより,より高精度なかしめ確認検査を行うことができるとともに,加工穴12の穴径の管理が可能になる。
【0049】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,本実施の形態では,被検体をデフケースに形成された加工穴としているが,これに限るものではない。すなわち,被検体は,加工穴に検査ピンを挿入して検査が行われるものであれば適用可能である。
【0050】
また,本実施の形態では,検査ピンの先端部の第1テーパ面と第2テーパ面とが頂上面に対して同じ角度で傾斜しているが,これに限るものではない。すなわち,テーパ面であれば検査ピン3がスライドし,検査ピン3の挿入が安定する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施の形態にかかる加工穴検査装置の構成を示す概略構成図である。
【図2】実施の形態にかかる検査ワークの構成を示す概略構成図である。
【図3】実施の形態にかかる検査ピンの構成を示す概略構成図である。
【図4】実施の形態にかかる検査ピンの先端部の構成を示す概略構成図である。
【図5】実施の形態にかかるピンホルダの構成を示す概略構成図である。
【図6】かしめ部材による加工穴のかしめの概略を示す図である。
【図7】実施の形態にかかる加工穴検査装置の検査手順を示すフローチャートである。
【図8】ロックピン確認検査時における検査ピンが先端部のテーパ形状にならってスライドするイメージを示す図である。
【図9】かしめ確認検査時における検査ピンが先端部のテーパ形状にならってスライドするイメージを示す図である。
【図10】検査ピンの先端部が非偏心形状である場合の,検査ピンが加工穴に進入するイメージを示す図である。
【図11】検査ピンの進入量とピン径との関係を規定する関係式の各パラメータの概要を示す図である。
【図12】従来の検査ピンを使用したロックピン確認検査における良品の正常判定の状態を示す略図である。
【図13】従来の検査ピンを使用したロックピン確認検査における良品の誤判定の状態を示す略図である。
【図14】従来の検査ピンを使用したかしめ確認検査における良品の正常判定の状態を示す略図である。
【図15】従来の検査ピンを使用したかしめ確認検査における良品の誤判定の状態を示す略図である。
【符号の説明】
【0052】
1 検査ワーク
11 ロックピン
12 加工穴
15 かしめ部
3 検査ピン
32 第1テーパ面
33 第2テーパ面
4 ピンホルダ
8 制御演算装置
100 加工穴検査装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部がテーパ状をなす検査ピンと,
前記検査ピンをその軸方向と直交する方向に移動可能に支持する支持部と,
前記検査ピンを被検体の加工穴の開口部に対して進退させる駆動部と,
前記検査ピンの前記加工穴への進入量を基に,前記加工穴の良否を判断する判断手段とを備えることを特徴とする加工穴検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載する加工穴検査装置において,
前記加工穴は,その開口部の一部がかしめられ,そのかしめによる変形部によって開口部の一部が塞がれており,
前記検査ピンの先端部は,偏心した円錐形状であり,頂上部から中心側に位置する第1テーパ面と,頂上部から前記第1テーパ面とは反対側に位置する第2テーパ面とを有し,
前記支持部は,前記検査ピンを,前記第1テーパ面が前記加工穴の開口部の変形部側を向いた状態で支持することを特徴とする加工穴検査装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する加工穴検査装置において,
前記検査ピンの前記加工穴への進入量を基に,加工穴の開口部の開口幅を算出する演算部を備えることを特徴とする加工穴検査装置。
【請求項4】
先端部がテーパ状をなし,軸方向と直交する方向に移動可能に支持された検査ピンを,被検体の加工穴の開口部に対して前進させる移動ステップと,
前記検査ピンの前記加工穴への進入量を検出し,その進入量を基に前記加工穴の良否を判断する判断ステップとを含むことを特徴とする加工穴検査方法。
【請求項5】
請求項4に記載する加工穴検査方法において,
前記加工穴は,その開口部の一部がかしめられ,そのかしめによる変形部によって開口部の一部が塞がれており,
前記検査ピンの先端部は,偏心した円錐形状であり,頂上部から中心側に位置する第1テーパ面と,頂上部から前記第1テーパ面とは反対側に位置する第2テーパ面とを有し,
前記移動ステップでは,前記検査ピンを,前記第1テーパ面が前記加工穴の開口部の変形部側を向いた状態で移動させることを特徴とする加工穴検査方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載する加工穴検査方法において,
前記検査ピンの前記加工穴への進入量を基に,前記加工穴の開口部の開口幅を算出する演算ステップを含むことを特徴とする加工穴検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−262237(P2009−262237A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−110967(P2008−110967)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】