説明

加工製品洗浄装置における回転冶具

【課題】加工製品洗浄装置の回転冶具における加工製品固定手段を改良することにより、回転時における加工手段の脱落等をなくす。
【解決手段】ターンテーブル上に植立させた保持ピンを、ターンテーブルの回転軸線方向に向けてそれぞれ一定の角度傾倒させて取り付ける。これによりターンテーブルが回転した際に加工製品に遠心力を生じても、加工製品の全質量がターンテーブルの回転力に応じて次第に保持ピンの傾倒する基部方向に引き寄せられる結果、保持ピンによって固定された被洗浄材である加工製品が、ターンテーブルの回転による遠心力に伴って保持ピンより外れて離脱し、洗浄装置内での加工製品の暴れを生じ、また他の加工製品等との干渉接触により損傷を生じ、また鉄粉の飛散による作業者の目の損傷や工場内作業環境の悪化をなくすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工製品洗浄装置における回転冶具の改良であって、回転冶具に乗って回転する製品部品の難しい固定を安定的かつ確実に固定させるとともに、部品加工工程により製品部品に付着した切削粉や塵埃、あるいは加工油等の不純物を確実かつ安全に洗浄除去し、しかも洗浄後における洗浄水滴の残存を速やかに除去できるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
従来、部品工作機械からなる生産ラインで加工により製品部品に付着した切削粉等の不純物を除去するためには、生産ラインに装備されたエヤーノズルで高圧空気を加工製品に噴射して切粉等を吹き飛ばすエヤーブロー作業による方法が一般的である。また生産ラインにフロン洗浄装置を装備し、この中に加工製品を収容してフロン溶液を加工製品表面に噴射して洗浄する方法も知られている。
【0003】
さらに、洗浄効率と作業環境改善のために、たとえば図4にあらわしたような、モータ駆動による回転軸Aにより箱状の洗浄室内に回転可能に取り付けられたところの載置版B上に、被洗浄物である加工製品W1・W2を固定保持するために複数本の保持具(保持ピン)C1〜C3が植立され、これらの保持具C1〜C3により加工製品W1・W2を載置版B上に固定した状態で、該洗浄室内において加工製品を正逆回転させながら、該加工製品に対して防錆剤入の60〜80度の温水を噴射して洗浄するようにした加工製品の洗浄装置が本願発明者らによって開発された(特開平7−278861号公報を参照)。
【特許文献1】特開平7−278861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した加工製品の洗浄装置(特許文献1に記載)は、加工部品の洗浄効率が格段に優れ、しかも箱状の洗浄室内での洗浄であるために鉄粉をエアで吹き飛ばしていたこれまでの作業方式に比べれば作業環境も著しく向上させることができる。しかし洗浄室内において加工製品を正逆回転させる場合に、被洗浄材である加工製品の質量如何によっては、遠心力により載置版上の保持具から外れることがあり、他の加工製品に干渉して傷がついたり、あるいは洗浄装置を傷めたりすることがある。
【0005】
また保持具から外れた場合には洗浄装置内での加工製品の暴れにより異音を発し、洗浄装置の稼動を停止して再度調整するなどの作業を必要とするために生産ラインが停止し、生産能力の向上に著しい悪影響を及ぼすことも考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明は、上記した種々の課題を解決し、被洗浄材である加工製品の質量如何に拘わらず載置版の回転による遠心力によても載置版上の保持具から容易に外れることがないように工夫をしたものであって、具体的には洗浄室内において洗浄目的で加工製品を取り付けて回転させるターンテーブルであって、該ターンテーブル上には加工製品を保持させるための少なくとも複数本の保持ピンが、その基部をターンテーブルに固定させて植立されているとともに、しかも各保持ピンはターンテーブルの回転軸線方向に向けてそれぞれ一定の角度傾倒させて取り付けられていることを特徴とする加工製品洗浄装置における回転冶具に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、ターンテーブル上に植立された保持ピンが、ターンテーブルの回転軸線方向に向けてそれぞれ一定の角度傾倒させて取り付けられているために、ターンテーブルが回転した際に加工製品に遠心力を生じても、加工製品の全質量がターンテーブルの回転力に応じて次第に保持ピンの傾倒する基部方向に引き寄せられる。
【0008】
その結果、保持ピンによって固定された被洗浄材である加工製品が、ターンテーブルの回転による遠心力に伴って保持ピンより外れて離脱し、洗浄装置内での加工製品の暴れを生じ、また他の加工製品等との干渉接触により損傷を生じたりすることがなくなり、加工製品を回転する冶具上に確実に固定することの難しかった従来の課題を見事に解決することができる。
【0009】
また被洗浄材である加工製品を固定したターンテーブルが箱状の洗浄室内に収容されるために、ターンテーブルの回転に伴って洗浄剤とともに飛散する鉄粉など金属粉が、作業を行うために注視している作業者の目の中に入って目を傷めたり、あるいは金属粉が工場内に飛散浮遊して作業環境を悪化させるなどの不具合をなくして作業環境を著しく向上することができる。また本装置を部品工作機械からなる生産ライン中に装備することによって、著しい生産性の向上をはかることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下において本発明の具体的な内容を図の実施例をもとに説明をすると、図1には本発明の第1実施例があらわされている。同図において1はターンテーブルをあらわしており、洗浄室内において洗浄目的で加工製品を取り付けて回転させる。具体的には、たとえば既述した特許文献1に開示されている洗浄装置の箱状をした洗浄室内に、モータ駆動により回転する回転軸(図示省略)の上端部に、中心の取り付け用の凹部1aによりネジ1bによるネジ止め等の固定手段を用いて取り付けられる。
【0011】
さらにターンテーブル1上には加工製品(図1に示した例では破線で表されている二輪車用のエンジンのアルミ製フィン付きシリンダー)Wを保持させるための少なくとも複数本の保持ピン2が、中心の取り付け用の凹部1aのまわりに植立されており、各保持ピン2は、ターンテーブル1の回転軸線方向(XーX線方向)に向けてそれぞれ一定の角度(図1の実施例の比較的軽量の加工製品である場合には5度〜15度程度)傾倒させた状態で、その各々のネジ加工2bを施した基部をターンテーブル1に対してナット2cにより締め付け固定して取り付けられている。
【0012】
なお図1において2aは、加工製品との接触による磨耗を防ぎ、また加工製品との滑り止めの目的のための樹脂カバーであって、金属性の保持ピン2の上端部から基部寄りの外周面に被せられている。
【0013】
また図2には本発明の第2実施例があらわされている。図2において21はターンテーブルを示し、凹部21aにより駆動モータの回転軸に取り付けられる。この場合には自動車のエンジン部品として加工された加工製品(鎖線にて表示)Wがターンテーブル21の回転軸心を挟んで対称位置に2つ取り付けられるように周りに樹脂カバー22aを施した金属製の保持ピン22〜24が、ターンテーブル21の回転軸線方向に向けてそれぞれ一定の角度(図2の実施例の加工製品のように幾分質量が高いものである場合には約30度程度)傾倒させた状態で、その各々の基部を前記した第1実施例の場合と同様にターンテーブル1に対してネジ止めにより固定して取り付けられている。
【0014】
なお25は別の加工製品を取り付ける場合に、任意の位置に保持ピンを取り付けるための取り付け穴をあらわしている。さらに図3には本発明の第3実施例があらわされており、この場合には比較的大型の加工製品Wを取り付けて洗浄をおこなう場合について示している。同図において31はターンテーブルを示し、記述した第1実施例の場合と同様に駆動モータの回転軸に取り付けられる。
【0015】
この場合においては加工製品Wが大きいために金属製の保持ピン32は1本だけとし、これをターンテーブル31の回転中心を通る軸線XーXから偏心した位置に、しかも該回転軸線XーX方向に向けて約30度程度傾倒させた状態で、そのネジ加工32bを施した基部をターンテーブル31に対してナット32cにより締め付け固定して取り付けられている。
【0016】
図3において33は補助金具をあらわしており、上記保持ピン32を囲むように保持ピン32のまわりにネジ33aにより取り付けられており、保持ピン32に取り付けられた大型の加工製品Wをバランスよく支承する。さらに図3の34はバランスウエイトをあらわしており、ターンテーブル31が回転した際に、回転軸線XーXを中心に回転する回転中心から偏心した位置に取り付けられている加工製品Wの大きな質量による過大遠心力を軽減して回転バランスを維持するために、加工製品Wの質量に合わせた重量のものが取り付けられる。なお32aは樹脂カバーをあらわしている。
【0017】
上記した各実施例の構成において、ターンテーブル1、21,31上に植立された保持ピン2、22〜24、32の回転軸線方向に向けた傾倒角度については、加工製品Wの質量如何によって調整する必要があるが、加工製品Wが比較的軽量である場合においては5度〜15度の範囲内でよく、また加工製品Wが比較的重量のある場合においても30度〜45度の範囲内であれば十分である。
【0018】
なお加工製品として、比較的軽いものあるいは比較的重いものなど多くの加工製品についての洗浄実験の結果では、いずれの加工製品においても保持ピンの傾斜角度を5度未満とすると殆ど効果がなく、また反対に45度を超えるとターンテーブルに対する加工製品の取り付けが困難となり、かえって実用性を損なうことが判明した。よって保持ピンのターンテーブルの回転軸芯方向に向けた傾斜角度については、5度以上45度未満の範囲内であることが必要であることが明らかとなった。
【0019】
上記各実施例に示したとおり、ターンテーブル1、21,31上に植立された保持ピン2、22〜24、32が、ターンテーブル1、21,31の回転軸線方向に向けてそれぞれ一定の角度傾倒させて取り付けられているために、ターンテーブル1、21,31が回転した際に加工製品Wに遠心力を生じても加工製品Wがターンテーブル1、21,31上の保持ピン2、22〜24、32より離脱することがない。これによって加工製品を回転する冶具上に確実に固定することの難しかった従来の課題を見事に解決することができた。
【0020】
すなわち、ターンテーブル1、21,31が回転して加工製品Wに遠心力を生じても、該遠心力による加工製品Wの全質量が保持ピン2、22〜24、32の上方である自由端方向にではなく、反対に傾倒する基部方向に引き寄せられる結果、保持ピン2、22〜24、32によって固定された被洗浄材である加工製品Wが、ターンテーブル1、21,31の回転による遠心力に伴って保持ピン2、22〜24、32より外れて離脱し、洗浄装置内での加工製品Wの暴れを生じ、また他の加工製品等との干渉接触により損傷を生じたりすることがなくなる。
【0021】
また被洗浄材である加工製品を固定したターンテーブル1、21,31が箱状の洗浄室内に収容されるために、ターンテーブルの回転に伴って洗浄剤とともに飛散する鉄粉など金属粉が、作業を行うために注視している作業者の目の中に入って目を傷めたり、あるいは金属粉が工場内に飛散浮遊して作業環境を悪化させるなどの不具合をなくして作業環境を著しく向上させることができ、しかもラインの操業停止による生産遅滞も解消する。また本装置を部品工作機械からなる生産ライン中に装備することによって、著しい生産性の向上をはかることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施例である加工製品洗浄装置における回転冶具の平面図(A)およびその一部を断面であらわした側面図(B)。
【図2】本発明の第2実施例である加工製品洗浄装置における回転冶具の平面図(A)およびその一部を断面であらわした側面図(B)。
【図3】本発明の第3実施例である加工製品洗浄装置における回転冶具の平面図(A)およびその一部を断面であらわした側面図(B)。
【図4】従来品である被洗浄加工製品を取り付ける載置版をあらわした側面図。
【符号の説明】
【0023】
1 ターンテーブル
1a 凹部
2 保持ピン
2a 樹脂カバー
2b ネジ加工
2c ナット
21 ターンテーブル
21a 凹部
22 保持ピン
22a 樹脂カバー
23 保持ピン
24 保持ピン
25 取り付け穴
31 ターンテーブル
32 保持ピン
32a 樹脂カバー
32b ネジ加工
32c ナット
33 補助金具
33a ネジ
34 バランスウエイト
W 加工製品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄室内において洗浄目的で加工製品を取り付けて回転させるターンテーブルであって、該ターンテーブル上には加工製品を保持させるための少なくとも複数本の保持ピンが、その基部をターンテーブルに固定させて植立されているとともに、しかも各保持ピンはターンテーブルの回転軸線方向に向けてそれぞれ一定の角度傾倒させて取り付けられていることを特徴とする加工製品洗浄装置における回転冶具。
【請求項2】
ターンテーブル上に植立させた少なくとも複数本の保持ピンのそれぞれのターンテーブルの回転軸線方向に向けた傾倒角度が4度〜45度の範囲内であるところの請求項1に記載の加工製品洗浄装置における回転冶具。
【請求項3】
ターンテーブル上に取り付けられる加工製品が複数であるところの請求工1または請求工2に記載の加工製品洗浄装置における回転冶具。
【請求項4】
ターンテーブル上に植立させた保持ピンには樹脂カバー等の保護材が被覆されているところの請求項1〜3の何れか1に記載の加工製品洗浄装置における回転冶具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−212854(P2008−212854A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−55094(P2007−55094)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(594078364)東洋パーツ株式会社 (3)
【Fターム(参考)】