説明

加工食品用水中油型乳化油脂組成物

【課題】 合成乳化剤、蛋白溶解塩、pH調整剤、増粘多糖類等の、食品衛生法により表示義務のある「食品添加物」を使用しなくても、高塩分、低pH域の条件において、レトルト加熱への耐性、加熱後の褐変耐性を保持し、且つ豊かなミルク感を加工食品に付与できる水中油型乳化油脂組成物を提供すること。
【解決手段】 合成乳化剤、蛋白溶解塩、pH調整剤、増粘多糖類を実質的に含まず、乳化性澱粉及び小麦蛋白分解物を含有する水中油型乳化油脂組成物を用いて、ホワイトソースなどの加工食品を作製すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホワイトソースなどの加工食品用の水中油型乳化油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、水中油型乳化油脂組成物の製造には、食品衛生法により表示義務のある「食品添加物」として、合成乳化剤、蛋白溶解塩、pH調整剤、増粘多糖類等が使用される。しかしながら、近年の消費者志向が上記の添加物を敬遠しはじめていることから、これら添加物を使用しない製品の開発が盛んに行われている。
【0003】
たとえば合成乳化剤無添加の水中油型乳化油脂組成物として、その代わりにオクテニルコハク酸エステル化澱粉を添加したもの(特許文献1)、カラギーナンを添加したもの(特許文献2)、カゼイン系蛋白を添加したもの(特許文献3)、糖アルコールを添加したもの(特許文献4)などが挙げられる。しかし、上記のような水中油型乳化油脂組成物を使用する食品は、該乳化物だけを原料として作製されることは少なく、水中油型乳化油脂組成物以外の食品材料が併用され、水中油型乳化油脂組成物の乳化状態に影響を与えることが多い。例えばホワイトソース様食品を作成する場合、食塩、チキンエキス、調味素材等の塩分の高い食材、及びワイン、果汁等の酸性食材との併用により、塩濃度の上昇及びpHの低下が誘引され、この条件ではレトルト加熱等の殺菌処理を与えた後の乳化状態が正常に保たれないのが実情であった。そこで、高塩分、低pH域の過酷な条件においてもレトルト加熱等の殺菌処理が可能である水中油型乳化油脂組成物が熱望されている。
【特許文献1】特開平11−146756号公報
【特許文献2】特開2000−139346号公報
【特許文献3】特開2003−24017号公報
【特許文献4】特開平10−304821号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的課題は、合成乳化剤、蛋白溶解塩、pH調整剤、増粘多糖類等の、食品衛生法により表示義務のある「食品添加物」を使用しなくても、高塩分、低pH域の条件において、レトルト加熱への耐性、加熱後の褐変耐性を保持し、且つ豊かなミルク感を加工食品に付与できる水中油型乳化油脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、合成乳化剤、蛋白溶解塩、pH調整剤、増粘多糖類を含まなくても、特定量の乳化性澱粉及び特定量の小麦蛋白分解物を含有する水中油型乳化油脂組成物は、高塩分、低pH域の条件においてもレトルト加熱への耐性、加熱後の褐変耐性、豊かなミルク感を加工食品に付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明の第一は、合成乳化剤、蛋白溶解塩、pH調整剤、増粘多糖類を実質的に含まず、乳化性澱粉及び小麦蛋白分解物を含有する水中油型乳化油脂組成物に関する。好ましい実施態様は、乳化性澱粉が、オクテニルコハク酸エステル化処理した澱粉であることを特徴とする上記記載の水中油型乳化油脂組成物に関する。より好ましくは、オクテニルコハク酸エステル化処理した澱粉が、更に、酸による部分分解処理した澱粉及び/又は酵素による部分分解処理した澱粉及び/又はアルファ化処理した澱粉であることを特徴とする上記記載の水中油型乳化油脂組成物、更に好ましくは、乳化性澱粉がワキシースターチ由来である上記記載の水中油型乳化油脂組成物、特に好ましくは、小麦蛋白分解物が、酸、酵素、酸化剤、還元剤の何れかによる分解処理物、及びアルカリによる加水分解処理物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記記載の水中油型乳化油脂組成物、極めて好ましくは、水中油型乳化油脂組成物全体中、乳化性澱粉の含有量が0.1〜10.0重量%であり、小麦蛋白分解物の含有量が0.1〜10.0重量%である上記記載の水中油型乳化油脂組成物、最も好ましくは、レトルト加熱機を用いて、121℃で30分間加熱する前後のL値の差が5以下である上記記載の水中油型乳化油脂組成物、に関する。本発明の第二は、上記記載の水中油型乳化油脂組成物を含有してなることを特徴とする加工食品に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明に従えば、合成乳化剤、蛋白溶解塩、pH調整剤、増粘多糖類等の、食品衛生法により表示義務のある「食品添加物」を使用しなくても、高塩分、低pH域の条件において、レトルト加熱への耐性、加熱後の褐変耐性を保持し、且つ豊かなミルク感を加工食品に付与できる水中油型乳化油脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明の水中油型乳化油脂組成物は、食品衛生法により表示義務のある合成乳化剤、蛋白溶解塩、pH調整剤および増粘多糖類等の「食品添加物」を実質的に使用せず、乳化性澱粉及び小麦蛋白分解物を含有する。必要に応じて、本発明の効果を阻害しない限り、乳、乳製品、糖類、呈味剤、調味料などを含有させても良い。
【0009】
本発明の乳化性澱粉とは、食用であり、乳化性を有する澱粉であれば特に限定はないが、好ましくは加工澱粉であり、その中でもオクテニルコハク酸エステル化処理した澱粉がより好ましく、該処理澱粉はさらに酸で部分分解処理したものでもいいし、酵素で部分分解処理したものでもいいし、アルファ化したものでもよい。乳化性澱粉の含有量は、水中油型乳化油脂組成物全体中0.1〜10.0重量%が好ましく0.5〜7.0重量%が更に好ましい。0.1重量%より少ないと、十分な乳化安定性が得られない場合がある。10.0重量%より多いと、粘度が高くなり製造過程に問題が出る場合がある。また澱粉臭で風味を損ねる場合がある。なお前記澱粉は、ワキシースターチ由来が好ましい。
【0010】
本発明の小麦蛋白分解物とは、小麦蛋白質を部分分解処理した分解物のことであり、該分解物1gをpH7に調整した温水100gに溶解し、そこへ大豆油10gを添加してホモミキサーにて6000rpmで30秒間均質化し、静置しても24時間後に油相が分離して浮かない程度に乳化させることができる能力を有する蛋白質のことである。分解方法としては、酸、酵素、酸化剤、還元剤の何れかによる分解処理、アルカリによる加水分解処理が挙げられ、それぞれの分解物を少なくとも1種用い得る。小麦蛋白分解物の含有量は、水中油型乳化油脂組成物全体中0.1〜10.0重量%が好ましく、0.5〜7.0重量%が更に好ましい。0.1重量%より少ないと、十分な乳化安定性が得られない場合がある。10.0重量%より多いと、色調が小麦蛋白特有の淡黄色になることで外観を損ねる場合や穀物臭で風味を損ねる場合がある。なお前記小麦蛋白分解物は、植物性由来の蛋白質であれば特に小麦に限定される物ではなく、エンドウ豆を含む豆類およびトウモロコシを部分分解処理した物を使用することができる。
【0011】
本発明の水中油型乳化油脂組成物に実質的に含まない合成乳化剤としては、例えば大豆レシチンや卵黄レシチン、またはそれらの酵素分解物、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、モノグリセリド、有機酸モノグリセリドなどが例示できる。本発明を阻害しない程度の少量であれば、合成乳化剤を含んでいても本発明の技術範囲である。
【0012】
本発明の水中油型乳化油脂組成物に実質的に含まない蛋白溶解塩としては、例えばリン酸ナトリウム、リン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、ポリリン酸ナトリウム、ポリリン酸カリウム、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウムなどが例示できる。本発明を阻害しない程度の少量であれば、蛋白溶解塩を含んでいても本発明の技術範囲である。
【0013】
本発明の水中油型乳化油脂組成物に実質的に含まないpH調整剤としては、例えば炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸ナトリウム、酒石酸、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウム、リンゴ酸、リンゴ酸ナトリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、フマル酸、フマル酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム、乳酸カルシウムなどが例示できる。本発明を阻害しない程度の少量であれば、pH調整剤を含んでいても本発明の技術範囲である。
【0014】
本発明の水中油型乳化油脂組成物に実質的に含まない増粘多糖類としては、増粘化の目的で使用される増粘剤、安定化の目的で使用される安定剤、ゲル化の目的で使用されるゲル化剤のことであり、例えば大豆多糖類、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、グルコマンナン、アラビアガム、カラヤガム、ガディガム、トラガントガム、ペクチン、寒天、カラギーナン、アルギン酸、アルギン酸塩、キサンタンガム、ジェランガム、セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどが例示できる。本発明を阻害しない程度の少量であれば、増粘多糖類を含んでいても本発明の技術範囲である。
【0015】
本発明の水中油型乳化油脂組成物の製造方法は、特に限定はないが、以下に例示する。まず、油脂及びその他の油溶性添加物を60℃前後で加熱しながら撹拌して溶解して油相部とし、乳蛋白質及び乳糖を含む無脂乳固形分や、小麦蛋白、澱粉、デキストリン、糖類などの水溶性添加物を60℃前後で加熱しながら撹拌して溶解して水相部とし、前記油相部を60℃前後で加熱しながら前記水相部に添加し、攪拌混合して予備乳化させる。次に、従来の公知の方法に準じて殺菌又は滅菌する。該殺菌又は滅菌は、インジェクション式、インフュージョン式等の直接加熱方式やプレート式、チューブラー式、掻きとり式、バッチ式等の間接加熱方式、あるいは食品に直接、交流電流を流すことでその電気抵抗によって食品を内部から加熱殺菌させるジュール加熱殺菌方法を用いた殺菌からなる群より選ばれる少なくとも1種により実施することができる。次に、従来の公知の方法に準じて冷却する。該冷却はプレート式、チューブラー式、掻きとり式、バッチ式等の間接冷却方式、及び蒸発冷却からなる群より選ばれる少なくとも1種により実施することができる。また、加熱前又は冷却後、若しくは両方にてホモジナイザーによる均質化を行っても良い。その後、容器に充填することで本発明の水中油型乳化油脂組成物を得ることができる。
【0016】
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、ホワイトソース様食品などの加工食品として用いることができる。該ホワイトソース様食品は、前記水中油型乳化油脂組成物、小麦粉、バター又はマーガリン、植物性油脂、食塩を主に含有し、必要に応じてコショウ、ナツメグ、チキンブイヨン、砂糖、グルタミン酸ソーダ、粉チーズ、その他調味を含有させても良い。水中油型乳化油脂組成物の含有量は、ホワイトソース様食品全体中3.0〜60重量%が好ましく、より好ましくは10〜35重量%である。3.0重量%未満であると風味が乏しくなる場合があり、60重量%を越えるとレトルト加熱処理した時に褐変する場合がある。
【0017】
本発明の加工食品や水中油型乳化油脂組成物は、色差計で測定される明度の指標であるL値を用いて分析した。L値は0から100までの数値で表され、下限値0は黒、上限値100は白を意味する。加熱後に油分離が生じていない場合、L値の減少は褐変によるものと考えることができる。油分離が生じている場合、乳化破壊は必ず生じており、褐変と油分離との両方が生じている可能性がある。このように、色差計におけるL値は、高温加熱耐性と耐褐変性との両方の指標とすることができる。従って、本発明の水中油型乳化油脂組成物においては、加熱前後のL値の差が小さい程好ましい。即ち、本発明の水中油型乳化油脂組成物において、加熱前のL値は80以上であることが好ましく、加熱前後のL値の差が好ましくは5以下であり、3.5以下がより好ましい。加熱前後のL値の差が好ましくは5以下が好ましい。
【0018】
前記ホワイトソース様食品は常法に従って以下のように製造できる。まず小麦粉をバター又はマーガリンと同時に炒めた後、本発明の水中油型乳化油脂組成物を加えて木ベラで伸ばす。その後、食塩、グルタミン酸ソーダ、粉チーズ、チキンブイヨン、ナツメグ、その他調味料、水を加えて混合後、品温85℃以上まで加熱し、澱粉を糊化させて得られる。上記において、小麦粉をバター又はマーガリンと同時に炒める代わりにルーを使用することもできる。
【実施例】
【0019】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0020】
<水中油型乳化油脂組成物の粒径測定>
実施例及び比較例で得られた水中油型乳化油脂組成物を2日間、5℃で静置した後、粒度分布計(商品名:HORIBA LA−900、堀場製作所)にて測定した。得られた値は水中油型乳化油脂組成物中に浮遊する脂肪球の粒径であり、メジアン径で示される。メジアン径とは粒径を横軸にとったヒストグラムにおいて、その累積の50%に相当する値の粒子径のことである。
【0021】
<水中油型乳化油脂組成物の粘度測定>
実施例及び比較例で得られた水中油型乳化油脂組成物を2日間、5℃で保管した後、B型粘度計(型番:BM型、TOKIMEC INC社)にて測定した。
【0022】
<水中油型乳化油脂組成物の色差測定>
実施例及び比較例で得られた水中油型乳化油脂組成物を2日間、5℃で保管した後、該組成物を121℃で30分間レトルト加熱機(日阪製作所製「高温高圧調理殺菌装置」、型番:RCS−40RTGN)で加熱する前と後の水中油型乳化油脂組成物のL値を、色差計(商品名:シグマ80、日本電色工業株式会社)を用いて測定した。
【0023】
<水中油型乳化油脂組成物のレトルト耐性測定>
実施例及び比較例で得られた水中油型乳化油脂組成物を2日間、5℃で保管した後、各水中油型乳化油脂組成物をイオン交換水にて30%に希釈し、食塩を1.0%添加し、クエン酸にてpHを5.5に調整し、121℃で30分間の条件でレトルト加熱機(日阪製作所製「高温高圧調理殺菌装置」、型番:RCS−40RTGN)で処理した。その後、常温にて1日放置後、状態を測定した。評価基準は、以下の通りとした。○:分離なし、△:若干分離あり、△×:分離が多い、×:半分以上が分離。ここでいう分離とは、乳化破壊により油と水の比重差から油が水に浮いた状態や、脂肪球が合一して大きな油粒子を形成し分離する状態のことである。
【0024】
(実施例1) 水中油型乳化油脂組成物1の作製
表1に示す配合に従って、水中油型乳化油脂組成物1を作製した。水相部は、食塩、乳蛋白質、オクテニルコハク酸処理澱粉(ワキシースターチ由来)、小麦蛋白分解物を溶解後、60℃まで加温した。また、植物性油脂を60℃前後に加熱し、これを水相部に添加し予備乳化を行った。次に、直接加熱方式滅菌機を用いて140〜150℃で4秒程度の滅菌を行った後、過剰の水分を蒸発冷却させた後、ホモジナイザーによる均質化、冷却を行うことにより水中油型乳化油脂組成物1を得た。乳化物の物性を測定したところ粒径1.6335μm、粘度16cpsであり、乳化安定性の高い水中油型乳化油脂組成物であった。また、レトルト前後のL値の差も少なく、褐変耐性も良好であった。上記結果は、表1にまとめた。
【0025】
【表1】

【0026】
(実施例2) 水中油型乳化油脂組成物2の作製
水中油型乳化油脂組成物1の配合に加えて、更に乳蛋白質を加えたこと以外は、実施例1と同様にして水中油型乳化油脂組成物2を得た。乳化物の物性を測定したところ粒径1.1896μm、粘度12cpsであり、乳化安定性の高い水中油型乳化油脂組成物であった。また、レトルト前後のL値の差も少なく、褐変耐性も良好であった。上記結果は、表1にまとめた。
【0027】
(実施例3) 水中油型乳化油脂組成物3の作製
水中油型乳化油脂組成物1の配合のオクテニルコハク酸処理澱粉(ワキシースターチ由来)をオクテニルコハク酸処理α化澱粉(ワキシースターチ由来)に変化させたこと以外は、実施例1と同様にして水中油型乳化油脂組成物4を得た。乳化物の物性を測定したところ粒径1.5961μm、粘度15cpsであり、乳化安定性の高い水中油型乳化油脂組成物であった。
また、レトルト前後のL値の差も少なく、褐変耐性も良好であった。上記結果は、表1にまとめた。
【0028】
(実施例4)水中油型乳化油脂組成物4の作製
水中油型乳化油脂組成物1の配合の小麦蛋白をエンドウ蛋白に変化させたこと以外は、実施例1と同様にして水中油型乳化油脂組成物4を得た。乳化物の物性を測定したところ粒径1.9625μm、粘度19cpsであり、乳化安定性の高い水中油型乳化油脂組成物であった。また、レトルト前後のL値の差も少なく、褐変耐性も良好であった。上記結果は、表1にまとめた。
【0029】
(実施例5)水中油型乳化油脂組成物5の作製
水中油型乳化油脂組成物1の配合で、オクテニルコハク酸処理澱粉の添加量を変化させたこと以外は、実施例1と同様にして水中油型乳化油脂組成物5を得た。乳化物の物性を測定したところ粒径1.4206μm、粘度59cpsであり、乳化安定性の高い水中油型乳化油脂組成物であった。また、レトルト前後のL値の差も少なく、褐変耐性も良好であった。上記結果は、表1にまとめた。
【0030】
(実施例6)水中油型乳化油脂組成物6の作製
水中油型乳化油脂組成物1の配合で、小麦蛋白分解物の添加量を変化させたこと以外は、実施例1と同様にして水中油型乳化油脂組成物6を得た。乳化物の物性を測定したところ粒径0.8043μm、粘度88cpsであり、乳化安定性の高い水中油型乳化油脂組成物であった。また、レトルト前後のL値の差も少なく、褐変耐性も良好であった。上記結果は、表1にまとめた。
【0031】
(比較例1)水中油型乳化油脂組成物7の作製
水中油型乳化油脂組成物1の配合で、小麦蛋白分解物を添加しないこと以外は、実施例1と同様にして水中油型乳化油脂組成物7を得た。乳化物の物性を測定したところ粒径2.4051μm、粘度は測定不能であった。これは、脂肪球の界面を安定にする物質が不足しているために、脂肪球が合一して大きな油粒子を形成し、結果的に可塑化を引き起こしたためである。また、レトルト前後のL値の差異は3.27で大きな値であった。上記結果は、表1にまとめた。
【0032】
(比較例2)水中油型乳化油脂組成物8の作製
水中油型乳化油脂組成物1の配合で、オクテニルコハク酸処理澱粉を添加しないこと以外は、実施例1と同様にして水中油型乳化油脂組成物8を得た。乳化物の物性を測定したところ粒径1.5875μm、粘度7cpsで乳化安定性の高い水中油型乳化油脂組成物であった。また、レトルト前後のL値の差も少なく、褐変耐性も良好であった。しかしレトルト耐性試験の結果、脂肪球が合一して大きな油粒子を形成し、分離を引き起こした。上記結果は、表1にまとめた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成乳化剤、蛋白溶解塩、pH調整剤、増粘多糖類を実質的に含まず、乳化性澱粉及び小麦蛋白分解物を含有する水中油型乳化油脂組成物。
【請求項2】
乳化性澱粉が、オクテニルコハク酸エステル化処理した澱粉であることを特徴とする請求項1に記載の水中油型乳化油脂組成物。
【請求項3】
オクテニルコハク酸エステル化処理した澱粉が、更に、酸による部分分解処理した澱粉及び/又は酵素による部分分解処理した澱粉及び/又はアルファ化処理した澱粉であることを特徴とする請求項2に記載の水中油型乳化油脂組成物。
【請求項4】
乳化性澱粉がワキシースターチ由来である請求項1〜3何れかに記載の水中油型乳化油脂組成物。
【請求項5】
小麦蛋白分解物が、酸、酵素、酸化剤、還元剤の何れかによる分解処理物、及びアルカリによる加水分解処理物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4何れかに記載の水中油型乳化油脂組成物。
【請求項6】
水中油型乳化油脂組成物全体中、乳化性澱粉の含有量が0.1〜10.0重量%であり、小麦蛋白分解物の含有量が0.1〜10.0重量%である請求項1〜5何れかに記載の水中油型乳化油脂組成物。
【請求項7】
レトルト加熱機を用いて、121℃で30分間加熱する前後のL値の差が5以下である請求項1〜6何れかに記載の水中油型乳化油脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の水中油型乳化油脂組成物を含有してなることを特徴とする加工食品。

【公開番号】特開2009−232751(P2009−232751A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83247(P2008−83247)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】